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    元スレ八幡「俺ガイルRPG?」

    SS+覧 / PC版 /
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    251 :



            ×  ×  ×


    めのまえが まっしろになった!

    電撃で視界が埋まる。体の感触も麻痺してきたような気がしてきた。いやぁこのゲーム世界はリアルな痛みがなくて本当に良かった。

    電撃が俺の体を通り過ぎた後、由比ヶ浜の声が耳に届いた。

    結衣「いやっ、ヒッキー! 死んじゃ嫌!!」

    バーロー、この世界はゲームなんだから別に死にゃしねぇだろ……確か最初のダンジョンで小町が『復活の薬』みたいな蘇生アイテムなの取ってただろ。あれでも俺にでも飲ませてくれ。あれっ、でもあれ確か飴のような固形物だったよな? 死んだ俺がどうやってあれ飲み込むんだ? ていうかなんで俺死んだのに由比ヶ浜の声が聞こえてるんだっていうかそもそも──

    八幡「──生きてる?」

    結衣「ヒッキー!?」

    雪乃「比企谷くん!?」

    俺は、生きていた。

    自分のステータスを確認してみると、残HPはギリギリ1で踏みとどまっていた。

    だが、何故だ? 陽乃さんの放った電撃ビームの威力は確かに即死級のはずだ。あれをモロに食らった俺が生きているのはおかしいだろう。

    もしや、実は手加減して撃っていたのかHPをギリギリ1で残すなんて器用な真似をするなぁなどと考えつつ陽乃さんの方を見てみると、その陽乃さん自身も何が起こったのか分からないという疑惑の表情を浮かべていた。

    結衣「ヒッキー、今回復するからね!」

    陽乃「あっれー、おかしいな……今の比企谷くんが食らったら、10回は死ぬレベルの魔法だったと思ったんだけどなー」

    そんなレベルの魔法をぽんぽん撃たないでくれませんかね……。

    252 = 1 :

    何が起こったのか理解出来ないままでいると、ふとウィンドウにテキストが流れていたことに気がついた。

    ハチマンは スキル『こんじょう』を しようした!▼

    ハチマンは HP1だけたえた!▼

    ハチマンは スキル『こんじょう』を うしなった!▼

    これは確か、町で肉まんを食べた時に発動していたスキルというやつだ。

    つまり、俺はこのスキルがあったおかげで今の陽乃さんの攻撃を耐えた──そういうことになるのだろうか?

    効果は判明していなかったが、今の状況から考えるに『HP0になる攻撃を受けたら1度だけHP1で耐える』といった感じだろうか。詳しい効果はテキストで説明されていないので分からんが、ポケモ○のきあいのタスキとか、ロックマ○エグゼのアンダーシャツとか、あれに似たようなものだろう。

    なんにせよ、このスキルで俺は九死に一生を得たというわけである。いやぁ、肉まん食べておいて本当に良かった。これを勧めておいてくれた平塚先生には後で礼を言っておこう。

    陽乃「へぇ、面白いものを持っていたんだね」

    陽乃さんは一瞬こそ俺の生存を目にして驚いていたようだが、すぐにいつもの微笑を顔に浮かべた。

    陽乃「ま、それが発動するのは1回っきりでしょ? だったらもう1度魔法を」

    雪乃「姉さん」

    陽乃さんの楽しそうな声を、雪ノ下の冷たい声が遮った。

    雪乃「今、姉さんは私ではなく由比ヶ浜さんを狙ったでしょう」

    陽乃「やだなぁ、そんなことないよ。たまたまだよ、たまたま」

    けらけらと陽乃さんはそれを笑いながら──嘲りながら、言葉上はそれを否定する。そしてわざとらしく、奥に意味を込めたような口調で言葉を続けた。

    陽乃「それにさ、もしもそうだったとしてどうするの? 雪乃ちゃんは」

    雪乃「──絶対に許さない」

    刹那、空気が凍った気がした。

    253 = 1 :

    雪ノ下が纏う雰囲気が、一気に冷たい何かに変貌する。

    その変貌に驚いていると、ウィンドウにテキストが更新されていたことに気がついた。すぐにそれを確認する。

    ユキノは おうぎをおぼえた!▼

    おうぎ? 扇? 扇要? 忍野扇? あっ、いや違うか。奥義か。

    ここで言う奥義というのは、必殺技みたいなものだろうか? RPGなどではあるあるのものだが、雪ノ下は今ここでそれを習得したというのか。

    ユキノは おうぎをつかった!▼

    雪乃「凍てつきなさい──」

    雪ノ下の体が、水色の光の塵──見ようによっては雪にも見えたが──に包まれた。

    床に雪の結晶のような魔方陣が描かれ、空気が突如氷のように冷たくなる。

    味方であるはずの俺ですら、思わず寒さと恐ろしさで鳥肌を立ててしまうような感覚を覚えた。

    雪ノ下は剣を陽乃さんに向けると、その奥義名を叫んだ。

    雪乃「──エターナルフォースブリザード!!」

    瞬間、陽乃さんの周囲の気圧が氷結した。

    先ほどまで陽乃さんが立っていた場所の辺りが一瞬にして氷のつららを逆にしたようなもので埋まった。

    この部屋の床が、壁が、天井がピシピシと凍る。よく見ると、俺がいる床も薄氷のようなものが張っていた。

    ……っていうかその典型厨二必殺技、お前が使うのかよ。いやイメージ的にはぴったりなんだけどさ。

    だが、さすがの陽乃さんといえども氷の中に埋まってしまえば、ひとたまりもないだろう。

    254 = 1 :

    そんな甘いことを考えていた、わずか数秒後のことである。陽乃さんを包み込んだ氷の塊から光が漏れ出した。

    そして次の瞬間、その光がぱあっと広がったと思うと、その氷の塊が弾け飛び、中から陽乃さんが悠々とした態度で出てきたのであった。

    陽乃「びっくりしたー……いきなり氷の中に閉じ込められちゃうんだもん」

    不覚にも、俺は一瞬とはいえ忘れていたのだ。俺達の目の前にいるのは、ただの敵キャラではないということを。

    この世界のラスボス『魔王』なのだと。

    あの、雪ノ下陽乃なのだということを。

    小町「そんな……雪乃さんの奥義も効かないなんて……」

    いろは「えっ、これまじヤバいんじゃないんですか。今ので倒せないって、はるさん先輩どんだけですか!」

    当然、パーティ内にも動揺が広がる。この広い部屋ですら凍らせてしまう雪ノ下の奥義をまともに食らっても、陽乃さんは全く動じた様子を見せなかった。

    だったら一体何をどうすればいいのか。エクスカリバーでも持ってこないと、この魔王を倒せないのか。

    だが、現状俺達は一切の特別なアイテムを持っているわけではない。そして素のままやっても勝てそうにも思えない。

    万策尽きた。どうやってもここから陽乃さんに勝てるビジョンが見えない。だとすれば、逃げることしか選択肢はないが、果たしてこの人数で陽乃さんから無事逃げ切れるのだろうか……。

    陽乃さんが相変わらず不敵な笑みを浮かべたまま、一歩雪乃下に向かって近づく。

    陽乃「でも、これで分かってくれたかな? 漫画みたいに主人公がいきなり覚醒したって、それで逆転勝利なんてご都合主義はそうそう起こらないんだよ」

    雪乃「姉さん!」

    雪ノ下が剣を構えて再び陽乃さんに向けて突撃する。

    だがその振り下ろされた剣は、陽乃さんの蚊でも追い払うかのようなやる気のない腕の一振りで弾き飛ばされる。

    そしてその腕が雪ノ下の方に向かい、そのまま雪ノ下の首へ向かったかと思うと、陽乃さんの華奢に見える手が雪ノ下の首を掴んでそのまま持ち上げた。

    255 = 1 :

    雪乃「がっ……!」

    平塚「おい、陽乃! やめろ!」

    陽乃「まったくもう……まるで私が弱いものイジメをしてるみたいじゃん」

    陽乃さんは首を掴んだまま、雪ノ下を平塚先生の方に向かって投げつけた。先生はそれに驚きながらも、雪ノ下の体を受け止める。

    陽乃「なんだか白けちゃったなぁ……やっぱり魔王は魔王らしく、魔王城に居座りながら部下を使って勇者サマと戦うべきなのかなぁ」

    雪乃「げほっ、げほっ……ま、待ちなさい、姉さん……!!」

    平塚「やめろ雪ノ下、悔しいが今の私たちでは陽乃には勝てない!」

    平塚先生がまだ動こうとする雪ノ下の体を押さえつけて、陽乃さんに立ち向かうことをやめるように言った。

    陽乃「まだやる気なのかな、雪乃ちゃん。でも今の弱い弱い雪乃ちゃんとやっても、お姉ちゃんとっても退屈なの」

    雪乃「っ……!!」

    陽乃「だから、どーしても私と戦いたいんだったら魔王城で待っててあげるから、そこまで来なさい。まっ、今の雪乃ちゃん達じゃそこまで来ることすら出来ないだろうけどね」

    陽乃さんは嫌味たっぷりにそう言うと、黒いマントを翻して奥の部屋に向かって歩き始めた。その背中に、先生が言葉を投げつけた。

    平塚「陽乃……お前は、そういうことをするような奴じゃなかったはずだ」

    陽乃「何を言ってるのかなぁ、静ちゃんは」

    からかうような声でそう返す。だが、次に陽乃さんがこちらに向けた顔には笑みも何も浮かべられていない。何の感情も読み取れないような顔をしていた。

    陽乃「私は『何も変わってない』よ。この世界でも、あの世界でも」

    256 = 1 :

    陽乃さん陽乃さん書いてて本気でゲシュタルト崩壊してきたんだけど、八幡→めぐり&陽乃って脳内だと「めぐり先輩、陽乃さん」で、台詞だと「城廻先輩、雪ノ下さん」で合ってたよね?
    いろはの「はるさん先輩」呼びといい、絡みが多くないキャラの呼称を調べるのは大変だっ。

    それでは書き溜めしてから、また来ます。

    257 :


    まさかのエターナルフォースブリザード

    258 :

    乙乙

    HPが1しか残らなかったのはヒッキーの特殊スキルかと思ったら
    ただの肉まん効果ですた(´・ω・`)

    259 = 1 :



        ×  ×  ×


    雪乃「……」

    陽乃さんが部屋から去ってから、それなりの時間が経過した。

    今は、帰りの道中である。

    結衣「……」

    パーティ内に会話は一切起こらない。

    勇者・雪ノ下は、魔王・陽乃さんにボッコボコにされてからずっとあんな感じで意気消沈しているし、こういう時に一番空気をどうこうすることに長けている僧侶・由比ヶ浜も自分に非があると思いこんでいるのか、ずっとだんまりのままであった。

    八幡「……」

    結局、何故陽乃さんがあそこにいたのかは不明なままだ。

    結果だけ見るなら、雪ノ下に対して宣戦布告を行なったか、挑発をしにきたかとしか思えない。

    だが、もしもそれが目的なのだとしたら。

    過去に一度、陽乃さんは雪ノ下の敵であり続けるために振舞っているんじゃないかと考えたことがある。

    もしかして陽乃さんはこの世界であっても、『雪ノ下の敵』を演じ続けるつもりなのだろうか……。

    260 = 1 :

    八幡「……」

    答えは考えても出てはこない。元々何を考えて生きているのか全く読めないのだ、雪ノ下陽乃という人物は。

    そんな考えても答えが出てこないものを延々と考えていても仕方があるまい。定期試験も、分からない問題は後回しにするというのがセオリーだ。

    それより、今のこのパーティ内の重たい雰囲気をどうにかする方が先決だ。

    ぼっちであり続けた俺が集団の空気を読んで行動しようと思うなんて、過去の俺が聞いたら腹を抱えて笑うだろう。いや、ふっと一瞬だけ笑って見下したような目を向けるかもしれない。マジかよ最低だな俺。失望しました俺のファンやめます。

    だが、今は事情がある。

    小町「……」

    戸塚「……」

    小町と戸塚まで、その重い雰囲気に当てられて沈んでしまっているのは見るに耐えないのだ。

    今の戦いはどう考えても強制負けイベントのようなものなのだ、それを引きずっていつまでも沈んでしまっていても仕方が無い。俺なんて人生強制負けイベントばっか踏んでるのに。なにあれ本当に理不尽だからやめて欲しい。

    まして小町と戸塚は今回の陽乃さんの一件には一切の関係がない。彼女らが沈む理由は何一つとしてない。

    だが、こういうときどんな言葉を投げかければいいのか分からない。普段のコミュニケーション欠乏がここにきてツケを払う羽目になるとは思わなかった。

    そんなことを考えていた時であった。

    261 = 1 :

    八幡「……ん」

    目の前からクマの魔物が数体やってきた。本当にクマ率たけぇな、他に魔物いないの?

    クマ達「「「クマーッ!!」」」

    クマAが あらわれた!▼

    クマBが あらわれた!▼

    クマCが あらわれた!▼

    3体か、一色も加わった今のパーティで特に恐れることはないだろう。

    この重い雰囲気をどうにかする方法は後で考えるとして、とりあえずあの魔物達をさっさと倒してしまおう。

    小町「あっ、敵だ! よーしっ、小町いっきまーす!」

    珍しく一番槍は槍使い・小町であった。わざとらしいほど明るい声を出しながら熊に向かって突撃しに行く。

    あいつもこの暗い雰囲気にうんざりなのだろう。この戦闘を機に、空気を変えたいと思ったのだろうか。

    雪乃「……行くわ」

    いつも一番槍を飾っていた雪ノ下も、小町より少し遅れながら熊に向かって駆け出す。そして剣を抜き放ち、熊に斬りかかる。

    だが、その剣技はいつもよりキレがなかった。俺は剣については初心者なので細かいことは分からないが、そんな初心者目線から見ても、今の雪ノ下はいつもの雪ノ下らしくない。

    262 = 1 :

    クマB「クマッ!」ガッ

    雪乃「あっ……!」

    そんなことを考えていた時。

    熊の振るった爪が雪ノ下の剣を弾き飛ばした。

    やはり今の雪ノ下は本調子ではない、いつもならば熊に剣を弾かれることなど絶対にありえない。

    状況を掴めていないのが、一瞬呆けた雪ノ下に向かって熊がもう片方の爪を突き立てようとした。

    さすがにここからでは俺の行動は間に合わない。どうしようもないかと思った時、天使の刃が熊と雪ノ下の中に割り込んでいった。

    戸塚「雪ノ下さん、下がって!」

    雪乃「……戸塚くん」

    天使っていうか戸塚だった。戸塚は剣で熊の爪を受け止めると、それを無理矢理押し返した。

    ひるんだ熊に向かって戸塚は連続で剣を振るう。

    サイカは れんぞくぎりをつかった!▼

    戸塚「やっ!」ズバズバズバ

    クマB「クマーッ!!」

    戸塚の刃が、熊のあらゆるところを切り裂く。

    そしてそのまま熊は光の塵となって空に消えていった。

    263 = 1 :

    戸塚「雪ノ下さん、大丈夫?」

    雪乃「ええ……ありがとう、戸塚くん」

    戸塚に助けられた雪ノ下だったが、結果としてさらに雪ノ下の雰囲気は黒く沈んでいった。

    雪乃「……こんなザマでは、姉さんに勝てるわけもないのよね」

    戸塚「雪ノ下さん」

    その雪ノ下に声をかけたのは、戸塚であった。その天使のような顔は、いつもより若干引き締まっているように感じた。

    戸塚の声は落ち着いていて、けれどもどこか諭すような口調だった。

    戸塚「今の雪ノ下さんは、どこか焦っているように見えるよ」

    雪乃「……っ」

    戸塚「あんな強い魔王と戦ったんだから、しょうがないとも思う。でも、」

    戸塚はあくまで冷静に、だがしっかりとした声で続けた。

    戸塚「焦りは禁物、だと思う。それに、僕達もいるから」

    ──戸塚が、俺の知らないところで成長していることは知っていた。前にテニス部の部長をしっかりとやっていたことを見た時に、それは強く俺の脳裏に刻み込まれたはずだ。

    だが、ここに来て再び俺は戸塚への認識を改めることになる。

    もういないのだ、雪ノ下の冷たい目線に射抜かれただけでぴくっと身体を震わせていた時の戸塚は。

    今の戸塚彩加は。

    あの雪ノ下雪乃と対等に、真っ直ぐ目を合わせ、物事を言えるようになっている。

    その戸塚に続いて、小町たちも雪ノ下の周りに集まり始めた。

    264 = 1 :

    小町「そうですよ、雪乃さん! 小町達みんなで倒せばいいんですから、ひとりだけで焦ることないですよ!」

    いろは「まったく、せっかくパーティ組んでるのに、まさかひとりで強くならなくちゃいけないとか思ってたんですか? わたし達もいること、忘れないでくださいよー」

    雪乃「……そうね、少し焦り過ぎたかしら。焦りは何も生まないというのに」

    雪ノ下はそう言って顔を上げると、戸塚の方に目線を向けた。

    雪乃「ありがとう、戸塚くん。……もう、私なんかよりずっと立派になったわ」

    戸塚「そ、そんなことないよっ。僕だってまだまだ未熟で……」

    結衣「さいちゃん……そうだよね、引きずっててもダメだよねっ」

    小町「いやー、戸塚さん助かりましたよー」

    そう言って、パーティ内の雰囲気が再びにぎやかになっていった。なんだ、俺なんかが無駄な気遣う必要なかったな。

    そのやり取りを遠巻きに眺めていると、横にいる平塚先生がタバコをふかしながら俺に話しかけてきた。

    265 = 1 :

    平塚「比企谷。戸塚があのように変わったのは、君達奉仕部の影響も大きいのではないかね?」

    八幡「……さぁ。少なくとも、俺は何もしてませんよ。戸塚が勝手に成長しただけです」

    平塚「そうか、ならそういうことにしておこう」

    先生はくくっと笑うと、からかうようにそう言った。タバコを吸い終えるとそれを地面に投げつけ、足で踏み潰した。……ゲーム内とはいえ、マナー悪くないすか。

    先生は言葉を続ける。

    平塚「君達が変えた戸塚が、今度は君達を変えようとしている。人間関係の妙というやつだな」

    八幡「……」

    人間は変われるのだろうか。

    ふと、そんなことを考える。

    少なくとも、前にいる戸塚は前とは違う。

    俺は戸塚との付き合いはまだ1年にも満たないほどだが、はじめて会ったときに比べて確実に変わったと断言出来るだろう。

    人間は、他人と関わることで変わりあうことが出来るのだろうか。

    ぼっちであったはずの俺や雪ノ下ですら──変わることは出来るのか。

    出来るのかもしれない。戸塚や、周りの人間を見ていてそう思う。

    事実、雪ノ下も最初にあった頃に比べて変わっていっているだろう。

    266 = 1 :

    『変わるなんてのは結局、現状から逃げるために変わるんだろうが』

    それはいつの誰の言葉だったか。

    だが、今の戸塚の変化を逃げなどと言えるわけがない。

    進んでいるのだ。

    前に、進んでいる。

    いつか俺も、戸塚のように前に進むことが出来るのだろうか。

    そんなことを思う自分に少し驚く。俺でも前に進みたいと思えるようになったとでも言うのだろうか。ある意味、それ自体が大した変化っぷりのように思える。

    そう自虐しつつ、ふとあの雪ノ下陽乃のことを思い出した。

    彼女は、完璧な人間である。

    おそらく他人などいなくとも、ひとりでなんでも出来るのだろう。

    なら、陽乃さんはどうやって変わるのだろう。

    陽乃さんは、今までどうやって前に進んでいったのだろう。

    ──私は『何も変わってない』よ。この世界でも、あの世界でも。

    陽乃さんの去り際の台詞が、妙に俺の耳の中に残っていた。

    267 = 1 :

    ここのSSを書いている息抜きでいろはすSSを書いていました。良かったらそっちも読んでみてください。

    いろは「先輩、バレンタインデーって知ってますか?」八幡「は?」
    http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1431921943/

    しかし、まさかのミスで1レス飛ばすという大失態。しかもそのまま、まとめサイトにまとめられるというあれ。泣きたい。

    書き溜めしてから、また来ます。

    268 :

    八幡かっこいい

    269 :

    >>267
    まとめに対する宣戦布告だな
    よくやった

    270 :

    エターナルフォースブリザードは八幡の技だろうjk

    271 :



          ×  ×  ×


    めぐり「みんな、お疲れ様でしたっ! 一色さんも無事に帰ってこれて良かったよ!」

    時計の短い針が夜の8に差し掛かった頃、2の国にまで無事帰ってきた俺達は城に戻ってめぐり先輩のところへ戻った。

    色々あったが、めぐり先輩の癒しの鼓動、ほんわかぱっぱめぐめぐめぐ☆りんめぐりんパワーによって、全ての疲れがめぐりっしゅされていったような気がする。

    いや、もしも仕事帰りにこの笑顔で迎えてもらったりしたら一瞬で仕事の疲れとか飛ぶんだろうな。

    将来、めぐり先輩と結婚する野郎のことが今から憎たらしくなった。

    もしもめぐり先輩が婚約発表とかしたら、パートナーのことを暗殺しにいこう。あの元生徒会の忍者集団も、きっと協力してくれるはずだ。

    272 = 1 :

    めぐり「ご馳走を用意しているから、みんなあっちの広場に移動してね」

    おお、ご馳走だ。この世界だとお腹は減らないが、何故か味はちゃんとするものだから食べられるものなら食べておきたい。

    それにステータス上昇、運が良ければスキル付与もあるというオマケ付きだ。

    今日、陽乃さんの電撃ビームを受けた時のことを思い出す。あの時、俺はスキルのおかげで九死に一生を得たのだった。

    いや、本当にあの時肉まんを食べておいて良かった。あれが無かったら死んでいたと思うと、背筋が凍る。

    まぁ、仮に本当にHPが0になって死んだとしても。アイテム『復活の薬』がある以上死んでもおそらく復活はするのだろうが、ショップにはこのアイテムが売られていなかったため、今のところひとつしか持っていない。だったら出来るだけ温存しておきたいというものだ。

    そういえば、この『復活の薬』って確か飴みたい固形物だよな……? ストレージから『復活の薬』を取り出してみてみると、やはり固形物だ。これ、死んだ状態でも飲み込めるのか?

    まだパーティ内でHPが0になったメンバーはひとりも出ていないため、HPが0になった時のことは分からない。

    もしかしてHP0になっても戦えないだけで意識は残っていて、飴を飲み込むことくらいは出来るのだろうか?

    まぁ、その時になってからでは分からないだろうと軽く考えながら復活の薬をストレージに戻すと、俺も他にパーティの後ろに付いていって広場の中に入った。

    273 = 1 :

    結衣「わぁっ、すごい!」

    小町「豪華ですねー!」

    その広場の中には、1の国のときと同じように大量の豪勢なご馳走がテーブルに並んでいた。えっ、今日は全員ご馳走食っていいのか!! おかわりもいいぞ!

    とはいえ、この世界では食べられる量は決まっている。だからおかわりが仮に無制限だったとしても、食べられる量は一定だ。リアルでもそうかもしれないが。

    めぐり「ふふっ、いっぱい食べてね」

    ぽわぽわとしためぐりん☆スマイルを受けてしまってはたくさん食べざるを得ないだろう。オラ、腹ペコペコだぞ!

    平塚「ふふふ、思い出すな……こういうパーティ会場みたいなところを見ると……そう、それは去年の秋の頃の話だった」

    平塚先生がせっかくめでたい場なのに、愚痴を垂れ流し始めた。よく見ると平塚先生の足元に複数の酒らしきものが入っていたと思われる瓶が転がっていた。この世界、タバコだけじゃなくて酒もあるのかよ。つか、平塚先生飲むペース早過ぎだろ。まだここに入ったばかりじゃ……。

    平塚「ひきがらぁ、ちょっとつきあえ、朝までろむろぉ!!」

    八幡「えっ、ちょっ、先生飲みすぎじゃ」

    平塚先生の腕が俺の首をガシッとホールドする。ちょっ、近い近い良い匂い近い。ゲームなのに匂いまで無駄に再現してんじゃねぇよ!

    274 = 1 :

    しかし、平塚先生ってこんなに早く酔うタイプだったか?

    前に文化祭の打ち上げかなんかでも先生はかなりの量の酒を飲んでいたが、ろれつがまわらなくなるということはなかったはずだ。

    もしかすると、この世界の酒はよほどアルコール度数が高いか、または酔いが回りやすいように出来ているのかもしれない。

    ゲームの中でくらい酔わなくても良いじゃない! あれっ、逆か?

    どちらにせよ、こんな状態の平塚先生を俺一人で相手するのは骨が折れる。助けを求める意味で、他の連中の集まりの方へ目を向けた。

    だが、由比ヶ浜や戸塚、めぐり先輩は苦笑いを顔に浮かべるだけで全く動こうとはしないし、雪ノ下と一色、小町に至ってはこちら側を見てすらいなかった。えっ、助けるつもりないの?

    戸塚「あ、あはは……」

    結衣「ヒ、ヒッキー……がんばー……」

    平塚「おらっ、ひきがらも、ろめ!」

    八幡「は、薄情者共めぇぇぇえええ!!!」

    275 = 1 :



        ×  ×  ×


    八幡「……酷い目にあった」

    結局その後、平塚先生が酔い潰れて寝てしまうまでウザ絡みし続けられた。

    今後、この世界では先生に酒を飲ませるのは控えよう。

    結局ぶっ倒れた平塚先生は無理矢理部屋に運び込んで、ベッドに寝かせた。

    一色を運んだ時の疲労感とは全く別ベクトルの意味で体中が疲労感に包まれる。はぁ、疲れた。

    この世界でスタミナは関係ないといっても、酔っ払いの相手を長時間続けても疲れないという意味ではない。出来ることなら、精神面のスタミナも関係なくして欲しかった。

    八幡「……」

    平塚先生をベッドに置いてきた後、俺は歩いてひとりで城の外に出た。

    やっぱりひとりでいるのは落ち着く。

    このパーティになってから団体行動がほとんどなので、ぼっちにはなかなか苦行なのだ。

    朝起きてから夜寝るときまで他人と過ごすなんていられるか! 俺は自分の部屋に戻るぞ!

    まぁ、今は外にいるのだが。

    空を見上げると、そこには満天の星空が広がっている。

    1の国で見た星空も絶景の一言に尽きたが、ここの水の建造物に囲まれて見る星空もまた乙なものだった。

    276 = 1 :

    八幡「……すげぇな」

    思わず、そんな声が漏れてしまった。これなら本当に戸塚を連れ出して星を見にいっても良かったかもしれない。その場合、戸塚ルート一直線だがな!

    星空を眺めながら、今日会ったことを思い出してみる。

    めぐり先輩に出会い、アジトに潜り、戸塚を助け、一色を助け、デーモンを倒し、そして陽乃さんに出会った。

    なかなか濃い一日を過ごしたと思う。本当に一日だったのか、ちょっと不安に思ってしまうくらい。

    こんな日々が魔王・陽乃さんを倒すまで続くのか……と思うと本気で鬱になる。仕事してる人って毎日似たようなことを考えながら日々を過ごしているのだろうか。やっぱりぼくははたらなかないで、おうちをまもってるがわになりたいとおもいましたまる

    働きたくねぇなぁと考えつつ、身を翻して城に戻ることにした。

    ろくに飯も食えていないし、そろそろ小町辺りがどこにいったのか心配してしまう頃だろう。

    まだ飯は片付けられていないといいなぁと思っていると、城の入り口の辺りに人影が見えた。

    結衣「あっ……ヒッキー」

    その人影の正体は、由比ヶ浜結衣。

    どうやら。

    俺の一日は、まだ終わりを迎えないらしい。

    277 = 1 :

    書いてる自分が言うのもなんだけど、このSS長いよ無駄に長い!

    でも残念ながらここまできて打ち切りするつもりは全くないので、書き溜めしてから、また来ます。

    278 :

    おつ
    また今日も頼むぜ!

    279 :

    八幡「よう、由比ヶ浜」

    結衣「探したよ! 消えちゃったと思ったじゃん!」

    八幡「わりといつも消えてるぞ」

    おかげでステルス性能の努力値はカンストしてる。255とか小学生の時にとっくに振り終えた。最近はきそポイントっていうんだっけ?

    まぁ、このステルス性能のおかげで得することはいっぱいある。集団行動の時に、他人に無駄な気を遣わせなくて済むしな。ここからはステルスヒッキーの独壇場っすよ!

    モモちゃんは長野予選が終わってからも特典とかカラー絵の出番が多くていいなぁと考えていると、ふと由比ヶ浜の言葉に引っ掛かりを覚えた。

    八幡「……探したよってどういう意味だ、まさか俺を探してたのか」

    結衣「あ、うん。ヒッキーに話したいことがあって」

    俺に話したいこと? なんだそれは。離されることは常々あっても、話されることは滅多にないので心当たりが思いつかない。

    280 = 1 :

    結衣「……まだ、お礼言ってなかったからさ。あの、陽乃さんの時の……」

    八幡「ああ……」

    そういえばあの時、俺は由比ヶ浜を無理矢理突き飛ばして電撃ビームを身代わりに食らってたんだった。

    あの後色々あって、由比ヶ浜と話すタイミングが無かったのだ。

    結衣「ありがとう、ヒッキー」

    八幡「礼なら雪ノ下に言え、友達のためにあんなに怒ってくれる奴そうそういないぞ」

    結衣「あ、もちろんゆきのんにはもうお礼言ったんだけどね」

    でっすよねー。ぼくに真っ先にお礼とか言いに来る訳ないよねー。あの雪ノ下さんより先にぼくにお礼しにきたと思うとか、相変わらずの自意識過剰っぷりだなぁぼくちんは☆

    結衣「でも、それでもありがとう……ヒッキーがいなかったら、あたし死んじゃってたかもしれないし……それに嬉しかったから……」

    八幡「……別に礼を言われる筋合いはない。回復役のお前より、俺が死んだ方が効率的だったし」

    結衣「もう、そういう意味じゃないの!!」

    由比ヶ浜が怒った顔でそう詰め寄ってきた。若干顔が赤かったように見えたが、ここは外で夜だ。

    暗くて、よく見えてなかったかもしれない。

    激おこぷんぷん丸と怒ったまま、由比ヶ浜は言葉を続ける。

    281 = 1 :

    結衣「相変わらず捻くれてるんだから……お礼くらい、素直に受け取ってよ」

    八幡「……悪い」

    礼とか普段全然言われないから、受け取り方とかすっかり忘れていた。お礼参りだったらやられたこともあったかもしれないが。

    まぁ、受け取れというなら受け取ろう。

    八幡「じゃあ……どういたしまして……」

    結衣「うん、ありがとう!」

    八幡「いや、そこでまた言ったら終わらないでしょ……」


    お礼の挨拶にお礼で返したら、いつまでたっても終わらない。無限ループ!!

    結衣「うん、お礼はこれで終わり。じゃあ次の話ね」

    八幡「えっ、まだなにかあんの」

    お礼をしにきたというなら、それが終わったら戻ればいいのに、由比ヶ浜はまだ話を続けるつもりらしい。

    待てよ、俺はそんなに長々と話を続けられるほどコミュニケーション能力に自信はないぞ。

    282 = 1 :

    結衣「あるよ! ほら、あたしのことを庇ってくれたのは嬉しいんだけどさ……やっぱりその、自分を犠牲にするそのやり方っていうかさ」

    今度は何についての話をするのかと思えば、なんと俺のやり方についてだった。

    結衣「修学旅行の時とかとは全然違うけど、ああいうのはもうなしだって言ったじゃん!」

    八幡「……いや、あれはなんていうか足が勝手に動いてた」

    結衣「えっ……あっ」

    八幡「……あ」

    言ってしまってから、自分の放った言葉の恥ずかしさに気が付いた。それではまるで……。

    慌てて、誤魔化すように言葉を続けた。

    八幡「あ、いやほらな、だからさっきも言ったけど回復役のお前より俺が盾になった方が効率がいいってなだけで」

    結衣「……だから効率とか、そういうことじゃないって言ってるのに」

    由比ヶ浜は、ぽつりとそう呟いた。

    そして少しの間を開けた後に、顔を上げて俺の目を射止めるように見つめてくる。

    283 = 1 :

    結衣「じゃあ……もしもあたしとヒッキーが逆の立場だったら、ヒッキーはあたしを盾にする?」

    八幡「ぐっ……いや、それはなんつーか違うんじゃねーかな……」

    結衣「なんで? 逆の立場だったら、あたしを盾にした方が効率いいんじゃないの?」

    そう言って、悪戯が成功した子どものようにニヤリと笑う。くっ、この子ったら……こういうどうでもいいところにばっか頭が回るようになって……悪い子と付き合いが増えたんじゃないの?

    八幡「……お前、やっぱずるいわ」

    思わず、そんな言葉が口から漏れた。前にフリーペーパーを作っていた時にも同じようなことを言った気がする。その言い方はずるいだろ、と。

    そして、そんなずるい言い方を続けていたのは過去の自分だということも自覚してしまう。

    結衣「前にも言ったじゃん、あたしはずるいって」

    そう言う由比ヶ浜の声はとても柔らかい。とても柔らかくて──とても優しい。

    結衣「あたしもさ、ちゃんとするから。ヒッキーとかゆきのんに頼りっぱなしにならないように、するから」

    八幡「……別に、お前にはいつも助けられてる。俺も、多分雪ノ下もな」

    結衣「そ、そうかな……じゃあ、もっとがんばるから! 助け合えるように!」

    八幡「……ああ」

    284 = 1 :

    助け合う、か。

    少し前の俺なら、その言葉には嫌悪感しか覚えなかっただろう。

    助け合うなんて言葉は欺瞞だ。その美しい響きに反して、実のところは誰かに面倒を押し付けて狡賢く得をしようという言葉の裏返しでしかない。例えば、文化祭の時の相模がそうだった。

    しかし、今の俺なら。今の『俺達』なら。

    素直に、助け合うという言葉を受け止めてもいいのだろうか。

    八幡「……」

    結衣「……」

    俺達の間に、なんの気もなしに沈黙がやってきた。

    もう話は終わりだろう、そろそろさすがに戻らないと小町達に無用な心配をかけさせてしまう。

    そろそろ戻るかと声をかけようとした時、由比ヶ浜の口が先に開いた。

    285 = 1 :

    結衣「あ、あのさヒッキー」

    まだなにかあんのかよ……もう貸し借りの話は清算し終えただろ。

    そう考えていたが、由比ヶ浜の話は予想とは全く異なるものだった。

    結衣「いろはちゃんのスマホにあったさ、あのツーショットってどういう意味なのかな……」

    八幡「……は?」

    由比ヶ浜の言った言葉を理解するのに、少々時間を要した。今までの話を完全に無視し、流れをぶった切る内容だ。

    それにツーショットってなんのことだ……と思い返したとき、前に一色に連れまわされた時のことを思い出した。

    そういえば、あの時一色に撮られていた写真は由比ヶ浜と雪ノ下には見られていたのだった。あの時はフリーペーパーに使う写真だと一色が説明して難を逃れたはずだったが、まさか覚えていたとは……。

    ていうか、それ今掘り出すことなのかよ。今じゃなくてもいいと思うし、なんならそのままずっと埋めたままにして欲しかったまである。

    結衣「ほら、いろはちゃんとのツーショット写真撮ってたじゃん」

    八幡「ありゃ一色が無理矢理店員に頼んで、勝手に撮ったんだよ……」

    結衣「えー本当? ……そのわりに楽しそうだったよね」

    八幡「あのー由比ヶ浜さん? 落ち着いて?」

    目のハイライトが仕事してないから!

    怖い、怖いよガハマさん!

    忙しい時に女の子と遊んでんじゃねーぞって意味なんだろうけど、あれは本当に一色に騙されて連れ出されただけだから!

    あの日、一色に騙されて千葉駅に行った時のことから写真を撮った時までの経緯を由比ヶ浜に説明したが、今度はマンボウのようにぷくーっと膨れて不機嫌になってしまった。目に光は戻ったが。

    286 = 1 :

    結衣「……へぇ、ヒッキーはいろはちゃんとは遊びに行っちゃうんだね。あたしにはまだ、ハニトーのお返ししてないのに……」

    八幡「ぐっ……」

    それを言われると言葉に詰まる。本当にこいつズル賢くなってきたな……口の回る奴の近くに長い間いたせいなのだろうか。あっ、もちろん口の回る奴というのは雪ノ下のことである。

    だが、未だに文化祭の時のハニトーのお返しをしていないのは事実だ。

    いや、忘れてはいないのよ、でもそのなんだ心の準備とかあのなんかその他諸々の諸事情があって、由比ヶ浜のことを誘えていないだけなのだ。

    あれからもう半年近くは経ってるな……そろそろ何かしら、考えねばならないのかもしれない。

    八幡「まぁ……そのうちな」

    結衣「もう! そのうちそのうちって言って忘れないでよ! あっ、じゃああたしとも写真撮ろうね!」

    八幡「いや、無理して撮るもんでもないと思うが……」

    満天の星空の下、やかましい声とやる気のない声が混じる。

    俺達の周りを、月の淡い光が照らしていた。

    287 = 1 :

    ここのSSを書いている息抜きで(中略)そちらも宜しくお願い致します。

    八幡「雪ノ下雪乃がねこのしたねこのんになった」
    http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1432002727/

    このRPGSS、本当に無駄に長いので全部読んでくださっている方がどれほどいるかは分かりませんが、感想とかくれると幸いです。

    それでは書き溜めしてから、また来ます。

    288 :

    乙です
    ねこのんもオモシロカッタヨー

    289 :

    乙のん
    由比ヶ浜ちゃんがたまに見せる強かな姿いいよね…

    290 :

    ひきのん思い出した

    291 :


    なんか、葉山ははるのんの側近とかやってそう

    292 = 1 :



       ×  ×  ×


    サーガーシーニーイークーンーダー

    ソコヘー

    八幡「……」ムクリ

    ……なんで朝って、律儀に毎日来るんだろうな。

    めぐり女王の城の部屋のベッドで起き上がった俺は、最初に時計を確認した。

    見れば7時ジャスト。

    必ず決まった時間に起きられるこの機能、マジで便利だから今すぐリアルでも実装して欲しい。

    さて、この世界に来て4日目の朝を迎えた。

    これ本当にリアルでも4日とか経ってないだろうな? 割と本気で不安なんだけど。

    まぁ、不安に思っていても今すぐどうこう出来るわけではない。

    出来るとすれば、一番この世界を脱出できる可能性の高そうな行動を取ること──すなわち『魔王』雪ノ下陽乃を倒すために、このRPGをクリアしていくことだ。

    確か、昨日は夕飯を食べた後すぐに解散したから、一度状況整理のために朝は広場に集まるんだったな。

    次のやるべきことを思い出すと、俺はベッドから起き上がって部屋から出た。

    293 = 1 :

    広場にやってくると、すでに先に小町と雪ノ下が席に座っていた。

    なにやら話をしているようだ。

    雪乃「問題、太宰治の著書を3つ挙げなさい」

    小町「えー、えと、だいざおさむ……」

    どうやら雪ノ下が問題を小町に出しているようだ。あいつ、まさかゲーム世界に入ってまで勉強する羽目になるとは思わなかったろうな……。

    いや、今小町は本来遊んでいる状況ではないのだ。受験まであと幾ばくもない。太宰治が試験に出るかどうかはさておいて、少しでも知識を見につけておくに越した事はないはずだ。

    小町「う、うーん……」

    雪乃「太宰治は特に有名なのだから、それくらいは覚えていて欲しいのだけれど……あら、比企谷くん。おはよう」

    小町「あっ、お兄ちゃん。おはよー」

    雪ノ下と小町が俺がやってきたのに気が付いて挨拶をしてきた。俺もそれに対して軽くおうとだけ返すと、近くの席に座った。

    小町「ねぇねぇお兄ちゃん、だざ、だざい、ざいもくざ? おさむ? さんの本って何か知ってる?」

    八幡「あのワナビと歴史的文豪を間違えるんじゃねぇよ……」

    かの有名な文豪も、まさかあの作家モドキと間違えられるとは思わないだろう。失礼極まりない。

    八幡「学校でもやっただろ……じゃあヒントだけくれてやる。邪知暴虐の王を除かなければならぬと決意した」

    小町「わかんないよ! ヒントになってないよ!」

    こいつマジで太宰治忘れたのか……あんの厨二野郎の苗字を覚えてるくらいなら、まずはそっちを先に詰め込め。あれのこととかマジ忘れていいから。

    294 = 1 :

    八幡「太宰治の作品なら、とりあえず『走れメロス』くらいは言えるようになれ」

    小町「ああ、思い出した! あの真っ裸になって走るやつでしょ」

    八幡「アバウトな覚え方してんな……」

    確かに間違ってはないけど、その覚え方はさすがに失礼だと思う。本当に受験まで1ヶ月を切った受験生の言葉なのだろうか。

    八幡「あとは『人間失格』と『斜陽』だな。そのみっつは覚えておきたいところだな」

    雪乃「そうね。それらを押さえておけば平気だと思うわ。もちろん他にも素晴らしい作品はたくさんあるから、それらも読んで欲しいのだけれど……」

    小町「あ、あはは……まぁ受験が終わったら考えておきますね……」

    八幡「無駄だ雪ノ下、ウチの書庫にもたくさんあるけど小町は今まで全く読んでねぇよ」

    ふと、『走れメロス』の邪知暴虐の王と言ったことで陽乃さんのことを思い出した。確か前に邪知暴虐の王と言った時に陽乃さんに文学少年とか突っ込まれたことがあったはずだ。

    何の奇縁か、今の陽乃さんは『魔王』という、一般的なRPGでいう邪知暴虐の王のポジションになっている。

    今、陽乃さんは一体何をしているのだろうか。

    陽乃さんは、たしか戦いたいのなら魔王城で待っているからそこまで来いみたいなことを言っていたはずだ。

    となると、今は魔王城にいるのだろうか?

    しかし、あの人が何のちょっかいもかけてこないとは思いにくい。いつもどこからか雪ノ下にちょっかいをかけてくる、そういう人だあの人は。

    もっとも、俺は本当にそういう人だと言いきれるほど陽乃さんのことを知っているわけではないのだが……。

    295 = 1 :

    小町「あっ結衣さーん、こっちですよーおはようございまーす」

    結衣「小町ちゃん、おはよー」

    思考が途切れ、小町と由比ヶ浜の声が耳に届いた。

    なんか昨日はやっはよーとか言っていた気がするのだが、あれは不評だったのかどうなのか、普通の挨拶に戻っていた。

    由比ヶ浜に続いて、戸塚と平塚先生もやってきた。

    平塚「おはよう、諸君。一色は城廻と一緒に来るらしいから、少し待てということだ」

    ああ、一色がいないと思ったら、そういやあいつこの国の姫だった。じゃあ、俺達とは違う部屋にいたのだろう。っつーか先生、平然としてますけど昨日の酔っ払いのことを忘れていたりしませんよね……?

    とりあえず陽乃さんについて今考えていても仕方が無い。魔王については後回しにするとして、とりあえず戸塚エンジェルに挨拶をしにいくとしよう。

    296 = 1 :



       ×  ×  ×


    めぐり「へぇ……はるさんが魔王だったんだね……」

    一色とめぐり先輩がやってきた後、俺達は広場で朝食を取りつつ昨日の顛末をめぐり先輩に報告していた。

    昨夜は平塚先生がすぐにあんな状態になったのもあって、報告する機会を失っていたのだ。

    いろは「つまり勇者の雪ノ下先輩達は、これから各国を回ってはるさん先輩を倒しにいくって流れですか?」

    八幡「いや、そうだけどよ……『雪ノ下先輩達は』って言い方はおかしいだろ……お前もパーティに入っちまってるだろうが……」

    こいつ、さらっと自分は行きませんよアピールしてなかった?

    いろは「えっ、わたしはこの国の姫なんですよ? 行けるわけないじゃないですか」

    アピールじゃなかった、本当に行く気がなかった。

    297 = 1 :

    めぐり「大丈夫だよ、一色さん。この国は私がなんとかしていくから」

    いろは「あ、あう……」

    どうやら一色もこれで勇者パーティ入りが完全に確定したらしい。

    これで、このパーティは男1女5戸塚1の構成になったわけだが、唯一の男の俺が全く無双出来ないのはおかしくね? これがキリトさんだったら二刀流でバッサバサやって女性陣から褒められまくるんだろうな……。

    いや、やっぱ働きたくないし無双とか出来なくていいから俺をこの城に置いていってくれねぇかな。そしてめぐり先輩のほんわかスマイルに癒されながら日々を過ごしたい。しかも現在女王であるめぐり先輩なら年収1000万どころじゃないだろう。あれっ、もしかして今のめぐり先輩って最高の条件が揃っているのではないだろうか?

    マジで今すぐめぐり先輩にプロポーズして振られてこようかな……おいおいシュミレーションですら振られてるじゃねーか。

    これ以上無駄に失恋経験値を溜めたくはない。非常に惜しいが、めぐり女王への逆玉の輿作戦は実行せずに消えてなくなってしまった。

    めぐり「あっ、そうだ。雪ノ下さんに渡すものがあるんだった」

    突如めぐり先輩はそう言うと、どこからか袋を取り出した。あの謎の4次元ストレージって、勇者パーティ以外でも使えるんすね……。

    ユキノは ガラスのふえを てにいれた!▼

    雪乃「これは……?」

    めぐり「私もよく分からないけど、なんか雪ノ下さんに渡さないといけないような気がして」

    女王が渡してきたアイテムってことは、今後何かで役に立つのだろう。

    しかしめぐり先輩本人がそれについて全く把握してないのもどうなのだろうか。いつものゲーム的ご都合主義というやつか。

    めぐり「きっと何かに役に立つと思うんだ」

    雪乃「とりあえず、ありがたく受け取ります」

    雪ノ下はそう言うと、その笛が入った袋をストレージにしまった。

    298 = 1 :

    そろそろみんなも朝食を食べ終わった頃だろう。俺のHPとMPの上昇もウィンドウにて知らせてくれた。

    残念ながら昨晩に続いて、朝食でも特にスキルは発動しなかったようである。やはりあれはランダムで発動するものらしい。昨日は本当にたまたまラッキーなだけだったんだな。

    そう思っていると、ふと視界の端で光り輝くのが見えた。そちらの方向に目をやると、由比ヶ浜の体が光っている。

    結衣「えっ、なにこれ!?」

    当の本人は何が起こっているか理解していないようだが、由比ヶ浜のウィンドウにはしっかりスキルの発動を知らせるテキストが更新されていた。

    ユイは スキル『バーサーカー』が はつどうした!▼

    結衣「ば、ばーさーかー?」

    なにそれ? 英霊? ──バーサーカーは強いね。

    イメージだと強大な力を得る代償として理性を失うような感じだ。

    だが俺の時と同じく、特にスキルの説明はどこにも書いていなかった。

    小町「これはどんな効果なんですかね?」

    雪乃「バーサーカー……ベルセルクのことかしら、神話で聞いたことはあるのだけれど」

    結衣「うーん、役に立つといいんだけど」

    由比ヶ浜たちがやいのやいの話しているが、結局結論は出なかった。

    ほんと、スキルの効果くらいどっかに書いておいてくれよな。

    平塚「……バーサーカーか、あまり良いイメージはないな。不吉の前兆でなければ良いが」

    八幡「先生、それ死亡フラグっていうんじゃないすか」

    299 = 1 :



        ×  ×  ×


    めぐり「それじゃあ頑張ってね、みんな!」

    雪乃「はい。姉さんは必ず倒します──私が」

    平塚「城廻も頑張ってくれ」

    いろは「うー……城廻先輩だけ女王のままなんてズルいですよー……」

    準備を済ませ、めぐり先輩に見送られながら俺達は城を出た。

    これから2の国を出て、3の国を目指すのだ。

    だがその前に、ショップで消費系アイテムを補充することになった。

    この前みたいに、国から国に移動する間ではどんな激戦が待っているか分からない。もうパンさんの悲劇を二度と繰り返してはいけないのだ。

    ついでにボス戦を終えたことによって、新しい装備が入荷している可能性もある。そろそろ俺もこの総武高校の制服を卒業したい。

    いや、確かに着慣れているといえば着慣れているものだが、この世界観とは相変わらず合わないのだ。

    今も周りの人からチラチラ見られているような気がする。その周りの人たちというのは皆NPCのため、ただ自意識過剰なだけなのだが。

    とにかく、今度こそ新しい装備を買う。勝ってこのファンタジー世界に入り込むんだ!!

    300 = 1 :

    八幡「──と思っていた時期が、俺にもありました」

    いろは「なにを独り言をぶつぶつ言ってるんですか、先輩は」

    八幡「……お前にはわからねぇよ」

    現実は厳しかった。ゲームだけど。いや本当のところはゲームなのか夢なのかも分からないけど。

    今俺が装備している防具は『そうぶこうこうのせいふく+2』だった。店の商品の品揃えを確認した時、フッって笑ったの許さねぇからな雪ノ下。

    いろは「そんなことより先輩、わたしのこれどうですかー?」

    八幡「……」

    昨日と今朝はおよそ戦闘には向かないドレス姿を纏っていた一色であったが、今回店で購入した一式の装備はドレスらしさを残ししつつ、動きやすいように改良されたドレス。

    一言で言ってしまえば鎧ドレスであった。

    いいね、君たちは。ファンタジーらしい装備が出来て。

    妬みを含みながらジーッと一色の鎧ドレスを睨みつけていると、一色は一瞬何かに気付いたように、はっと顔を上げながらスカートを押さえてまくしたて始めた。

    いろは「はっ、先輩なんでわたしのスカートガン見してるんですかもしかして中を覗きたいとか思ってましたか残念ですがさすがに今ここではご期待に沿えませんごめんなさい」

    八幡「えっ、いや違」

    誤解だ、と叫ぼうとしたその矢先、俺の両肩にぽんと手がひとつずつ乗せられた。

    小町「お兄ちゃん? ちょーっとそれは小町的にポイント低いかなって」

    結衣「ねぇねぇヒッキー、こんなところで覗きをしようとするのは犯罪だと思うな」

    あの、お二人さん?

    お願いだから、その手に持ったなんかのアイテムの瓶みたいなのを下ろしてくれません?


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