元スレ八幡「俺ガイルRPG?」
SS+覧 / PC版 /みんなの評価 : ☆
701 = 1 :
扉を見ると、窪みは先ほどと違いひとつしか開いていない。
しかし、今度は最初からその窪みの上には何か文章が書かれている。
『精神的に向上心のないものは馬鹿だ』
ただその一文だけが簡潔に書かれており、他に何かヒントらしきものも見当たらない。
だが、それがなんなのかは俺でも知っている。見れば雪ノ下や平塚先生もほほうと納得した様子である。
結衣「こーじょーしんのないものは馬鹿……?」
一方で由比ヶ浜はそれの意味を分かっていないのか、首を捻ってうーんうーんと唸っている。おいマジかこれくらい聞き覚えあるだろ。
雪乃「……由比ヶ浜さん、夏目漱石という名前を知っているかしら」
結衣「ええっと……お札の人だ!」
雪乃「合っているのだけれど、その答え方は少しどうかと思うわ……」
合ってるんだけどね。前までの千円札の人なんだけどね。
まぁ一般の人からすれば、ある意味当たり前のような答えだろう。
702 = 1 :
平塚「……国語教師としては少々複雑な気分だな」
結衣「あ、あれですよね、ほら走れなんとかっていうのを書いた人!!」
平塚先生の落胆した様子を見て由比ヶ浜が慌てたようにそう答えるが、平塚先生の肩はさらに深く落ち込むばかりだった。
惜しい。それはさっきの太宰治だ。あと走れなんとかじゃなくて走れメロスだ。男子だとほぼ確実に走れエロスとかネタにするので、何故かメロスだけは絶対に覚えていたりする。
雪ノ下もこめかみを押さえながら、呆れたようにため息をつく。
雪乃「……夏目漱石が書いた『こころ』という作品の、有名なフレーズよ」
そして至って簡潔に扉に書かれている文章について説明をした。まぁそれ以上説明したって絶対に通じないし大体合ってる。
いろは「あー思い出しました。これあれですよね、三角関係で修羅場ってるやつ」
八幡「違うな一色、これは人間不信の話だ。どんな人間でもいきなり悪人になりますから人のことを信じちゃいけませんよっていうことを教えてくれる偉大な文学作品だ」
小町「……それ、確かお兄ちゃんの中学生の頃の読書感想文でしょ」
げっ、なんで知ってるんだと思ったが、そういえば小町には前に『こころ』について書いた読書感想文を見せたことがあったんだ。
雪乃「あなた、読書感想文にそんなふざけたことを書いていたの……」
平塚「昔からその捻くれた根性は変わっていなかったのだな……」
その小町の言葉を聞いた二人のため息が重なる。いや、別にふざけて書いたつもりは全くないんだけど……。
703 = 1 :
いろは「はぁ、先輩って昔から先輩なんですね」
そして一色も何故か、しらーっとした目で俺のことを見ていた。いや、昔は知ってる後輩なんて一人もいなかったから先輩だった時期はないんだが。
戸塚「でもこれは窪みが一つしかないし、さっきより楽なんじゃない?」
そんな俺を責めるような雰囲気を変えようとしてくれたのか、戸塚がそう口を挟んできてくれた。やはり俺の見方はお前しかいないよ……。
だが、その考え自体は甘い。チョロ甘である。窪みがひとつしかないから、ひとつだけ持ってくればいいとは限らないのだ。
八幡「いや、もしかしたらハズレの答えが書いてある石もあるかもしれない。となると、答えの書いてある石を捜す為に捜し回る必要があるかもな」
戸塚「あ、確かにそうだね」
いろは「はぁ~結局歩き回るんですか……」
材木座「ぐっ、昔受けた右足の古傷が……八幡、我はこの扉の前を守護する故、石の回収は任せたぞ」
八幡「また置いていくぞお前」
材木座「あ、すんません今行きます」
そうして俺たち勇者パーティは、再び扉のカギを捜す為に歩き始めた。
RPGとしてはお約束でも、リアルタイムで感じると結構面倒くさいなぁこれ……。
704 = 1 :
書き溜めしてから、また来ます。
705 :
乙です
ありがとう
706 = 686 :
乙。待ってる間にもう一回読み直すか
708 :
ガムシロとかもうメニューじゃないな
709 :
歳を取ったせいなのか、最近本当にPRGのダンジョン道中の謎解きとかが面倒に感じることが多くなってきてな…
710 :
>>709
それある
711 :
>>709
ほんとそれ。
まぁそのダンジョンの謎解きしてる途中にある宝箱に
レアアイテムとか結構あるからそれはそれでいいとは思うけどね。
712 :
乙
走れエロスで覚えたのはおれだけじゃなかったのか
713 :
乙
テイルズの掛け合いはやってみたいよな
715 :
地味に入ってるペルソナの技名
716 :
× × ×
戸塚「そういえば、この遺跡って何の遺跡なんだろうね?」
八幡「ん?」
次へ進むための扉を開けるため、それに必要な石を捜す事になった俺たち勇者一行。
その石を捜している道中で、戸塚がそう言い出した。
戸塚「ほら、こんなに立派な遺跡なんだから、何かあるのかなぁって」
八幡「そう言われりゃそうだな」
戸塚にそう言われて改めて周りを見渡してみる。
この遺跡は戸塚の言うとおり立派な作りをしており、今歩いている廊下の壁にも何かよく分からない絵のようなものが細かく彫られている。
今までろくに意識してなかったが、この世界にも何か歴史のようなものがあるのだろうか。
717 = 1 :
雪乃「墓……かしら?」
結衣「ひっ、怖いこと言わないでよ、ゆきのん!」
平塚「中途半端に崩れている石造りの建物というのはわくわくするな、こう所々に木や苔が生えているのが味を出していて良い」
材木座「ふむん、やはり廃墟は男のロマン!」
戸塚「分かるなぁ、なんかドキドキするよね」
いろは「お宝とか落ちてないんですかねー、金とか。お墓なら埋蔵金くらいあってもよくないですかー?」
小町「あー、なんかそういうのありそうな雰囲気ありますよねー」
川崎「るーちゃん、そこ足元危ないよ」
留美「うん、ありがとう」
718 = 1 :
パーティ内の感想はバラバラであった。
墓かどうかで話を進めている雪ノ下と由比ヶ浜。
廃墟のロマンについて語り合っている平塚先生、材木座、戸塚。
金品の話になってしまっている一色と小町。
もはやそんなに興味はないのか、普通に進んでいる川崎と留美。
いやぁ、まとまり感のないパーティだなぁ、こいつら。
まぁ、もっともその話に加わってすらいない俺にどうこう言われたくもないだろうが。
719 = 1 :
戸塚「ねぇ、八幡はなんだと思う?」
八幡「ん、ああ」
すっかり輪からはぐれているものだと思っていたが、大天使戸塚が話に入れてくれた。
材木座「我は城だと思うぞ、きっと名のある大名が住んでいたに違いない!」
八幡「確かに外から見たときは石のような城だったな」
だが大名という言い方はどうなのだ、せめて王様とかそういう言い方にしようぜ。中世のファンタジー世界だし。
八幡「ま、でも雪ノ下の言う通り墓かなんかじゃねぇの。無駄に奥に入りにくい構造になってるし」
戸塚「うーん、でも一番ありえそうだよね」
しかし墓に侵入者防止のための罠を仕掛けるのは分かるのだが、それがクイズ形式というのは如何なものか。
それとも案外王族にしか解けない問題だとかそういう設定なのかもしれない。
720 = 1 :
この遺跡の謎についてああだこうだと話し合っていると、いつの間に通路の端にまで辿り着いていた。
そしてその先には、下の階と同じような小さな扉がある。多分これ同じパーツ流用したな……。
雪乃「開けるわよ」
雪ノ下がその扉を開けると、また小さな部屋に繋がっていた。その奥にポツンと赤い宝箱が置いてあるのも下の階と同じだ。
これやっぱり下の階の部屋の部屋そのままコピペしてるだろ……。
そしてそのまま部屋に入ると、これまた下の階と同様に時空が歪んで、そこから魔物が現れる。
先ほどまで雑談を繰り広げていたパーティメンバーもそれぞれ獲物を構え、目の前に出てきた敵を警戒し始めた。
平塚「来たぞ、気をつけろ!」
721 = 1 :
ケンタウロス「うおおおおお!!」
ケンタウロスが あらわれた!▼
歪んだ時空から現れたのは、人間の上半身と、馬のような下半身を持ち合わせたような魔物であった。
その名はケンタウロス。
神話やゲームなどでもちょくちょく見かける、半人半獣の怪物である。
その手には斧のようなものを持っており、馬の足はカッカッと地面を叩いている。
ケンタウロス「おおうっ!!」
八幡「!!」
その人間と馬の組み合わさった怪物は俺たちの姿を確認するやいなや、勢いよくこちらに駆け出してきた。
さすが馬の下半身を持っているだけあって、その速さは人間離れしている。
722 = 1 :
雪乃「避けて!」
雪ノ下が叫ぶと同時にメンバーが散り散りに分かれた。
今回も下の階のミノタウロスと同じように敵の数は一体のみだ。ならば一つに固まるのではなく、囲むようにした方がいいだろう。
ケンタウロス「おおう!!」
雪乃「!!」
結衣「ゆきのん!!」
しかし、その馬の足を持つケンタウロスの俊敏さは予想をはるかに超えていた。そのスピードで空いた距離を一瞬で詰めると、雪ノ下に向かって斧を振るう。
雪乃「くっ!」
間一髪、雪ノ下は剣でその斧を受け流すが、ミノタウロスはそのまま走り去ると、すぐにUターンをして今度は他のメンバーに向かって高速の突進を仕掛けに行く。
高速でずっと走り回る相手というのは厄介だ。立ち止まらないのでこちらの攻撃は当てづらく、囲むことも出来ないので多対一という数の利を活かしにくいためである。
723 = 1 :
八幡「グラビティ!!」モワーン
結衣「ユイサンダー!!」バリバリ
いろは「いろはスラッシュ!!」シュッ
後衛組がそれぞれ呪文を唱え、魔法攻撃を仕掛けにいく。
だが、あの高速で走り回るミノタウロスに当たることはなかった。それらは全てミノタウロスの後ろの方に飛んで行ってしまう。
ミノタウロス「があっ!!」ブンッ
戸塚「うわっ!」
そのまま勢いをつけて駆けるミノタウロスは戸塚とすれ違いざまに斧を振り下ろす。一閃、その獲物が光ると戸塚のHPがごっそりと減った。
724 = 1 :
八幡「戸塚ぁ!」
小町「今度はこっちに来たよ!」
そしてパカラパカラッと勢いよく斧を振り回しながら小町や平塚先生などの方に突撃しにいく。
前衛組らもその動きを止めんと真正面から突撃しにいくが、そのミノタウロスの勢いの前に吹き飛ばされるばかりであった。あっ、材木座が吹き飛んだ。
雪乃「あの速さが厄介ね……」
いつの間に俺の隣に立っていた雪ノ下がそう呟いた。
あのミノタウロスがやっていることは、要はただ斧を振り回しながら部屋中を駆け回っているだけである。ただ、それだけのこと。
だが、ただそれだけのことがシンプルな脅威となっている。
俺の鈍化魔法を含めた魔法攻撃らはことごとくあの馬の速さについていけておらず、その動きを止めようと前衛組が出張ればその勢いの前に吹き飛ばされてしまう。
なんとかして動きを止め、その間に俺の鈍化魔法を当てられればいいのだが……。
725 = 1 :
川崎「あたしに任せて」
八幡「川崎?」
そこで一歩前に出たのは川崎であった。その手で鎖をぐるぐると、まるでカウボーイのように回している。
川崎「あたしが食い止める」
留美「沙希お姉ちゃん、頑張って!」
そう言うのと同時に川崎がミノタウロスに向かって走り出す。そしてその鎖を構えると、ミノタウロスの真正面に立った。
まさかあいつ、玉砕覚悟であの魔物の動きを止めるつもりか?
その川崎の狙いに気が付いた俺はすぐに呪文を唱え始める。川崎の犠牲を無駄にするわけにもいかない。
川崎「はっ!!」バッ
ミノタウロス「がああっ!!」ドカッ
川崎が突撃してきたミノタウロスに向かって、真正面から突撃していき、その鎖を巻き付けようとする。
726 = 1 :
しかしその勢いのあるミノタウロスの前に川崎の体はすぐに跳ね飛ばされてしまい、その鎖も同時に飛ばされてしまう。
留美「沙希お姉ちゃん!」
八幡「グラビティ!!」モワーン
だが一瞬、確かに川崎とぶつかり合ったミノタウロスの動きが止まった。その瞬間をとらえて、俺の鈍化魔法がミノタウロスに向かって放たれる。
その重力の塊が真っ直ぐに飛んでいくと、それはミノタウロスの体に見事に命中する。と同時にミノタウロスの体の動きが鈍くなり、その自慢の速さも俺たちの足で十分追いつけるほどにまでになった。
八幡「ナイスだ、川崎」
結衣「沙希、大丈夫!?」ヒール!!
川崎「別に、出来ることをやっただけ」
由比ヶ浜の回復呪文を受ける川崎に褒め言葉を送ったのだが、ぷいと顔を背けられてしまった。
うーむ、俺にしては素直な褒め言葉を送ったつもりだったのだが、それは川崎のお気には召さなかったようだ。さすがですお姉さま! とでも言った方がよかったかもしれない。
727 = 1 :
平塚「よし、今が好機だ。全軍突撃! よもや命を惜しいと思うな!」
叫んだのは、先ほどあのミノタウロスに吹き飛ばされていた平塚先生だ。拳をギュッと握ると、そのまま魔物に向かって駆け出す。
それに続いて雪ノ下、小町、材木座、戸塚らの前衛組も獲物を構えてミノタウロスを囲む。
一度鈍化魔法さえ当ててしまえばこういった多対一ではもう勝利確定のようなものだ。あとはそのままフルボッコだドン!
先ほどまで縦横無尽に駆け回っていたミノタウロスがボッコボコにするのを、俺はただぼーっと眺めていた。
バキッドカッと容赦のない打撃音が聞こえてくる。そんなリンチ状態になってから、魔物が光の塵と化するまでにそう時間は要らなかった。
728 = 1 :
雪乃「……Nね」
魔物を倒した後、奥に置いてあった宝箱を開けて一言、雪ノ下が呟いた言葉がそれだった。
見れば、その宝箱に入っていたのはNと彫られた球状の石であった。これも下の階と同じ鍵となる石だろう。
八幡「アルファベット一文字か、じゃああの扉に嵌るのは多分Kだな」
雪乃「そうね」
729 = 1 :
『精神的に向上心のないものは馬鹿だ』
あの扉に書かれていた文を思い出す。
そして、その言葉を放ったのは『こころ』という作品のKという登場人物だ。
その選択肢がアルファベット一文字というのであれば、ほぼ間違いなく答えはKだろう。
結衣「ん、どういうこと?」
由比ヶ浜は俺たちの会話の意味を分かっていなかったようで、首をかしげながらそう尋ねてきた。
八幡「簡単に言うと、この石はハズレだ。別の当たりの石を捜さないとな」
いろは「え~、そんなぁ……さっきのは無駄骨だったんですか……」
はぁーと肩を露骨に落とす一色だったが、お前さっきの戦闘ほとんど何もしてなかったよね? 一発呪文を外してから、それから何もしてなかったよね? 輪から微妙に外れて仕事してましたアピールは俺にはすぐに見破られるぞ。なんせ俺がその道のプロだからな。
730 = 1 :
八幡「多分、あの扉に嵌るのはKって書いてある石だな。それを捜すしかない」
いろは「ええー……めんどくさいですね……」
一色が言葉通りに、心底面倒くさそうにそう呟いた。表情ももううんざりといった感じだ。
一色じゃないが、俺だって面倒くさい。出来ることなら一発で正解の石を引き当てたかったのだが、これはもう運でしかないし、どうこう言っても仕方があるまい。これが牌……じゃなくて石に愛されし子なら一発ツモれた可能性もあったのだが。
まぁどうせ正解の石を見つけるまで前に進むことが出来ないのだから、捜すしかない。
八幡「じゃあ次の部屋行くか……」
731 = 1 :
× × ×
結局、正解のKの石を見つけたのは3つ目の最後の部屋だった。
雪ノ下が空けた宝箱にはKと掘られた石が入っている。ちなみに2つ目の部屋で見つかったのはDという文字だ。3つとも並べるとNDKである。ねぇどんな気持ち? ねぇどんな気持ち?
雪乃「ようやく見つかったわね」
八幡「多分それが正解のカギだろ、早く戻ろうぜ」
答えの石が見つかったというならこれ以上この部屋に用はない。
しかし疲れたな……ゲーム世界なので身体的な疲労は溜まらないが、精神的疲労は普通に溜まる。
それはおそらく先ほどまで3回連続で戦う羽目になった人と馬が合わさった魔物ケンタウロスのせいだろう。単純な力ならば下の階で戦ったミノタウロスの方が強いだろうが、ケンタウロスは速さという点であちらを大きく上回る。
素早い相手というのは、単に力強いだけの相手より戦っていてよほど厄介だと感じる。ほら蚊とか。
人間関係だってそうだ。真正面から向かってくる奴より、あの手この手で絡め手を使ってちょこまか動く奴の方が相手にしていて厄介なものだ。
732 = 1 :
平塚「いや待て、もうひとつ宝箱があるぞ」
そんなことを考えていると、ふと部屋の端から平塚先生の声が聞こえてきた。そちらを見てみれば、端の方にもポツンと宝箱が置いてある。
八幡「この部屋には宝箱がふたつある……?」
平塚「まぁ開けてみるとしよう」
そう言うのと同時に平塚先生がその宝箱を開く。
扉を開ける石ならばKが正解だろうし、もうこれ以上石は要らないと思うんだけどな……。
平塚「む、中に入っているのは石じゃないのか?」
八幡「え、じゃあ何が入ってるんですか?」
平塚「どうやら普通のアイテムらしい」
733 = 1 :
平塚先生が宝箱から取り出したものは、確かに石ではない。だが、似たような丸い形はしている。
その白色のは球体からはうっすらと湯気が立っており、どこかいい匂いもしてきた。
八幡「これは……!?」
平塚「肉まんだ!」
シズカは にくまんを てにいれた!▼
八幡「……は?」
小町「肉まん……?」
戸塚「肉まん……だね?」
なんと、その宝箱に入っていたのは肉まんであった。
いや、確かにRPGで宝箱の中に食べ物アイテムとかそういうのが入っているということ自体は珍しくはあるまい。リンゴとかキノコとかアップルグミとか。
しかし実際に目にしてみると、宝箱の中にポツンと肉まんが置かれている光景は果てしなくシュールだ……。
734 = 1 :
平塚「どうやらひとつしか入っていないようだが……食うか?」
八幡「いや、いいっす……」
いくらゲーム内だと分かってはいても、やはり外に落ちていた食べ物を食べるというのには抵抗がある。
他のメンバーの様子も窺ってみれば大体俺と同じようなことを考えているのか、皆苦笑を浮かべていたり首を振ったりして断っていた。
平塚「そうか、なら私が頂こう」
全員がそのまま断ってしまったので、平塚先生がその肉まんを一口に食べきった。すっげぇ男らしい。
その肉まんを飲むこむのと同時にウィンドウが開かれ、テキストが更新される。
735 = 1 :
シズカのHPが 4じょうじょうした!▼
シズカのMPが 1じょうしょうした!▼
シズカは スキル『スーパーアーマー』が はつどうした!▼
平塚「む、これは……」
八幡「スキルが?」
平塚先生の体が光り、ウィンドウでスキルの発動を知らせるテキストが更新されている。
スーパーアーマー……普通のゲームだと相手の攻撃を受けても仰け反らないだとか、よろめかないだとかで、無理矢理攻撃を通していけるスキルだというイメージがある。
もしもこの世界でもそのイメージどおりの効果を持っているのであれば、突撃タイプの平塚先生にとっては非常に都合が良いスキルだろう。
736 = 1 :
平塚「ほほう、これはいいものを手に入れたな」
結衣「むー、普通に良さそうなので羨ましい……」
前回スキルによって色々あった由比ヶ浜は複雑そうな目で平塚先生を見ている。
しかしまぁあれは確かに大変だったが、あの時由比ヶ浜がバーサーカーになってくれなければ俺たちは全滅だった可能性も十分有り得たわけで、十分助けられているといえば助けられているのだ。
それに初代スキル『こんじょう』には俺自身が助けられている。おそらく今回も平塚先生の『スーパーアーマー』には助けられることになるだろう。
平塚「よし、ならば次の一番槍は私に任せてくれ。おそらくこのスキルは突撃するのに都合が良い」
平塚先生もスーパーアーマーの意味するところを分かっているのか、どんと胸を張った。
でもこういうスキルって仰け反らない代わりに大抵相手のハメ技に弱いんだよなぁ、平気かなぁ……。
737 = 1 :
× × ×
元の扉の前に戻り、雪ノ下がKの字の入った石を扉に嵌め込んだ。
するとギギギと重い音がしながら石の扉が開き、奥の広場が見えるようになる。
その奥には非常に大きな空間が広がっており、やや薄暗いこともあってよく見渡すことは出来なかった。
平塚「気を付けろよ、どこから魔物が出てくるか分からんからな」
雪乃「……」
結衣「うう、なんだか怖いね……」
警戒しつつもその広場に侵入する。
738 = 1 :
それから奥にまで入り込んだが、魔物とエンカウントすることもなく、広場の一番端にまでやってきてしまった。
戸塚「ボスがいそうな広場だけど、誰もいないね?」
留美「……あれ!」
突然留美が大声を出して何か指差したので、俺もそれに釣られて指の先に目をやる。
そこには大きな崖が出来ていた。
そして細くて長い橋が架かっており、その橋の先の向こう岸に何か祠のような物がそびえ立っている。
川崎「多分、あの祠に魔王城への鍵が封印されているんだと思う」
留美「私の力で、多分あの封印を解ける」
雪乃「なら行きましょう」
739 = 1 :
鍵の封印を解くために、向こう岸の祠に行く必要がある。そのためにはこの橋を渡らなければならない。
しかしこの橋は非常に細く、また崖の下には真っ暗な闇が広がっている。もしも落ちれば命はないだろう。
八幡「全員で行くと橋が持つか怪しいな……」
川崎「じゃああたしとるーちゃんだけで行く。るーちゃん、行くよ」
留美「うん」
川崎に手を引かれた留美は、その細い橋を渡っていく。
橋がぐらぐらと揺れる度に留美がぎゅっと川崎の手を握るが、見ているこちらも手に汗を握るほどビビる。俺この橋渡らなくてよかった。
留美「うう……」
川崎「大丈夫だよ、るーちゃん」
そう言って留美の手を握り返している川崎の足も震えているように見えるが、それに関して突っ込むのは野暮と言うものだろう。
740 = 1 :
結衣「み、見てるこっちまで怖いね……」
八幡「橋を揺らそうとするなよ、絶対にだぞ」
結衣「しないし!」
材木座「む、それはやれという前フリか」
平塚「本当にやってみろ、この崖に突き落とすぞ」
材木座「ひっ、じょ、冗談で御座います閣下……」
幸い、この橋が途中で崩れること等はなく、川崎と留美の二人は無事向こう岸へ辿り着くことが出来た。
留美「着いた……」
川崎「ふう……」
雪乃「それでは鍵の回収をお願いするわ。私も向こう岸へ向かった方が良いかしら」
741 = 1 :
その時であった。
ゴゴゴと地響きの音が鳴り響き、グラグラと地面が揺れる。
八幡「地震か?」
結衣「うわっ!」
雪乃「みんな、伏せて!」
その地震は思いの他強く、普通に立っているのすら困難であった。
しゃがんで地震をやり過ごすしかないか……そう思っていたとき、突如バキッと何か木が割れるような音が聞こえてくる。
結衣「あっ、橋が!」
小町「崩れちゃいましたよ!」
地震がまだ収まらないうちに、崖に掛かっていた細い橋が崩れ、そのまま崖の下にまで落ちていくのが見えた。
マズイ。これで川崎と留美の通路がなくなってしまった。もしもこんな時に魔物があちら側に現れたら──
その懸念は、すぐに現実となって襲い掛かってくる。
742 = 1 :
いろは「ようやく地震収まりましたね……」
川崎「るーちゃん、平気……はっ!」
戸塚「あ、見て!」
コウモリ「ゲゲゲ!」
向こう岸に視線をやると、なんと川崎と留美の周りに魔物が複数体現れているようだ。
どれも一体一体は大したこともなく、今までに何度も葬ってきた雑魚魔物だ。
しかし現状川崎は一人であり、しかも留美という守るべき存在がいる状況だ。その状況でも無事にやり過ごせるとは限らない。
川崎「ちっ……るーちゃんは下がってて、あたしがなんとかする」
留美「沙希お姉ちゃん!」
雪乃「マズいわね、早く私たちも向こう岸に渡る方法を捜さないと」
???「フッフッフ、そうはさせんぞ」
雪乃「!?」
743 = 1 :
突然後ろの方から低く不気味な声が聞こえてきて、思わずばっと振り向く。すると先ほどまで誰もいなかったはずの広場の中央にフードを被った何者かが立っている。
そのフードを被った奴は、俺たちの視線が集まったことを見ると、ふははと高笑いを発した。
???「貴様らが勇者だな?」
雪乃「ええ、そうよ。あなたは何者かしら?」
???「ふはは、これは失礼」
雪ノ下に冷たい目線を受けたそいつは、何がおかしいのか高笑いを続けたままフードをバッと外した。
露わになった顔は醜く、まるでゾンビを連想するような顔であった。
744 = 1 :
シャドウ「我が名はシャドウ。ここに封印されし魔王城の鍵の守護者よ」
雪乃「そう。なら申し訳ないのだけれど、その鍵を頂いていくわ」
シャドウ「そういうわけにもいかん、魔王ハルノ様に怒られてしまうのでな」
姉の名前が出た瞬間、ぴくっと雪ノ下の眉が動いたような気がした。
しかしすぐにいつもの不敵な笑みを携えると、剣をシャドウとやらに向ける。
雪乃「なら力ずくで頂くわ。そこをどきなさい。川崎さんが危ないのよ」
シャドウ「もちろんどけん。通りたければ、私を倒してからにしてもらおうか」
しゅごしゃの シャドウが しょうぶをしかけてきた!▼
やはりあのフードのゾンビみたいな奴はこのダンジョンのラスボス的存在らしい。
しかし見た目大して強くなさそうな……体格も俺と同じくらいである。いや、魔法か何かに特化しているのかもしれん。警戒を怠るわけには行かない。
745 = 1 :
川崎「はああああっ!!」
コウモリ「ギャピッ!!」
向こう岸からは孤軍奮闘している川崎の雄たけびが聞こえてくる。
しかしいつまで持つかは分からない。早いところなんとか救助しに行きたいところだが……。
川崎「るーちゃんは、あたしが守る!!」
留美「沙希お姉ちゃん!!」
雪乃「川崎さんと鶴見さんが待っているの、悪いけれどすぐに終わらせるわ」
平塚「兵は神速を尊ぶ、行くぞ!」
ダッと地面を蹴り、雪ノ下、それと並んで平塚が勢いよく駆け出す。
そのままシャドウの方へ向かうが、当のシャドウの顔には何かを隠しているような笑みが浮かんでいた。
746 = 1 :
シャドウ「ふふふっ、お前らの相手をするのは私ではない」
雪乃「!!」
シャドウはそう言うと、地面を蹴って空高く飛び上がる。
そして、そのまま空中で滞空してしまったのであった。
空に留まれてしまっては雪ノ下たち前衛組の近接攻撃は全く届かない。由比ヶ浜たちの魔法に頼るしか……。
どう攻撃するかを考えていると、シャドウの周りに光が漂い始め、魔方陣が現れた。
シャドウ「代わりに影が相手を務めよう」
すると、先ほどまでシャドウが立っていたところから影が伸び、質量を持ってウネウネと人の形になる。
747 = 1 :
小町「うわっ、影が人の形に!」
平塚「見たことあるな、この技……」
その平塚先生の言葉でうろ覚えな記憶を掘り起こしてみると、確かに一つ思い出すものがあった。
かつて1の国から2の国向かう道中で、平塚先生は己の形をした影、シャドウシズカとの戦闘経験があったのであった。
あのシャドウとかいう奴、まさか似たような感じで影を人に変えて戦わせることが出来るのだろうか。
しばらくしてその影が人の姿を持つと、俺たちの顔が驚愕の色で染まる。
雪乃「……!!」
結衣「嘘……!!」
八幡「そうきたか……」
シャドウが呼び出した影は、俺たちのよく知る人そっくりの姿になっていた。
748 = 1 :
めぐり「あはは、よろしくね」
三浦「あーしとやろうっての?」
ほんわか笑顔を浮かべる水の国の女王、城廻めぐり。
苛烈な睨みを利かせる火の国の女王、三浦優美子。
影は彼女らと全く同じ姿になり、そして敵意を持った目線をこちらに向けていたのであった。
シャドウ「さぁ、友人と戦えるか勇者たちよ。私が試してやろう」
749 = 1 :
しばらく更新出来てない間に、某あーしさんSSが完結からの復活を果たしてたり、ムキのんが突然の復活からの完結を遂げていたりで驚きを隠せません。
両名ともお疲れ様です。
それでは書き溜めしてから、また来ます。
750 :
お疲れ様
待ってた~
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