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    元スレ魔王「おれと手を組め」魔法使い「断る」

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    102 :


    続き楽しみにしてる

    103 :

    青年「お前は」

    魔法使い「…まだ続くのか」

    青年「勇者をどう思っていた?」

    魔法使い「は?」

    青年「言葉のままだ。いずれおれと対峙したはずの人間がどういうものかと思ってな」

    魔法使い「勇者は……そうだな」

    青年「ああ」

    魔法使い「馬鹿で己の正義しか見れない、祝福された力がなければちょっと強いだけの人間だった」

    青年「…コテンパンだな」

    魔法使い「私は見たままを言っているだけだが」

    青年「なんだそれは、つまり最悪な男だったのか」

    魔法使い「まあ、色欲にはほとほと手を焼いたがな――」

    104 = 103 :

    魔法使い「――多分、“勇者”らしいと言えばらしい男だったよ」

    青年「ふむ」

    魔法使い「ただもうちょっと周りが見えていれば良かったがな。今更だが」

    青年「今更だな。死者に何を言っても始まらない」

    魔法使い「やれやれ、だ…。道半ばで死亡など可哀想にもなってきたよ」

    青年「生き返らせることはどんな奴ですらも無理だからな」

    魔法使い「ああ。昔、道中で死んだ“勇者”が教会で蘇ったという話があったが」

    青年「ほう」

    魔法使い「なんのことはない、教会にいた“勇者”の素質をもった人間が代わりに出ていっただけだ」

    青年「なるほど、尾ひれがついたのか。愉快な噂話だ」

    105 = 103 :

    魔法使い「……愉快かどうかは分からないがな…。おっと、この周辺みたいだ」

    青年「ここらは民家が並んでいるんだな」

    魔法使い「間違えて破壊するなよ。いいな?」

    青年「お前はおれを何だと思っているんだよ。慈悲深い魔王サマだぜ」

    魔法使い「……うん。あ、ここみたいだな」

    リンリン

    老婆「はぁい……あら、どなた?」

    魔法使い「こんにちは、突然すみません。…昨日の朝のことをお聞きしたく」

    老婆「あら……。つまりあなたは…」

    魔法使い「勇者さまの仲間<パーティー>、魔法使いです」

    青年「同じく勇者さまの仲間<パーティー>、サポート役の青年です」ニコ

    魔法使い「……」

    106 = 103 :

    老婆「ご丁寧にどうも。ここじゃ立ち話もなんだし、中に入って」

    魔法使い「お邪魔します」スッ

    青年「お邪魔します」スッ

    魔法使い(ごくごく普通の家だな)

    老婆「そこに座って少し待って。主人を呼んでくるわ」パタパタ

    魔法使い「はい」

    青年「」ニコニコ

    魔法使い「……」

    青年「」ニコニコ

    魔法使い「なんのつもりだ、サポート役の青年クン?」

    青年「馬鹿正直に魔王ですなんて言えるわけないからな」

    魔法使い「だからと言って自分を仲間にねじ込むな」

    青年「いいじゃねぇか、減るもんじゃないし」

    魔法使い「あなたのせいではないにしろ、事実減ってるけどな」

    107 = 103 :

    青年「ああ、もしかしたら青年って名前は初出しか?」

    魔法使い「そうだな。私の場合はあなたが最初から知っていたし」

    青年「名前ぐらい簡単に調べられるんだよ。今度から宿に泊まるときは偽名使え」

    魔法使い「…耳に痛い忠告だ」

    青年「そんなわけでこれから気軽に青年と呼べ」

    魔法使い「命令系かよ。あと気軽に呼べるか」

    老婆「お待たせしましたー」パタパタ

    108 = 103 :

    魔法使い「ご主人が第一発見者なのですか?」

    老婆「そうなのよ。あの人、あれからずっとガタガタ震えっきりで部屋から出ないの」

    魔法使い「…その気持ちは分かります。国を、世界を救うはずの方が…」

    老婆「そうね…わたしも聞いたとき貧血を起こして倒れてしまったし…」

    青年「大丈夫ですか?」

    老婆「今はね。でも貴方達も大変でしょう……」

    魔法使い「……」コク

    青年「……」

    老婆「今、話をするように主人に言ってきましたが、出て来るかどうか」
    魔法使い「それに、いきなり来てしまいましたからね。また日を改めてきます」

    109 = 103 :

    青年「いつまで滞在するんでしたっけ、魔法使いさん」

    魔法使い「王様と大臣様の指示待ちですから長期間はかかるでしょう」

    老婆「まあ。大変ね…」

    魔法使い「憲兵にも事情を説明しなくてはなりませんし」

    老婆「そうねぇ、憲兵は普段はこの街にいないから来るまで時間がかかりそうね」

    青年「来ないんですか?それは些か危ないのでは?」

    老婆「数十年間事件や事故らしい事故が起こらないかったからね。信頼されてるのよ」

    魔法使い(それが今回仇となったけどな…)

    110 :

    魔法使い「……ん?勇者さまは昨日亡くなられましたが――憲兵、まだ来てないですね」

    老婆「あら。貴方達、聞いていないのかしら?」

    魔法使い「すみません。それどころではなかったので…良かったら教えて下さい」

    老婆「隣の隣の街が魔物に襲われたらしくてね。調査が大変みたいよ?」

    青年「その情報は……」

    老婆「井戸端会議よ。でも多分、合っていると思うけど」

    青年「……」

    老婆「いやぁねぇ、魔物は出るし勇者さまは……どうなってしまうのかしら」

    魔法使い「…なんとかします。みなさんの生活を守るために」

    111 = 110 :

    老婆「頼もしいわ」ニコ

    青年「あれ、なにか階段から落ちているような音が」

    バタン!

    老婆「あなた!」

    老人「お、おぬしら、は……」

    魔法使い「こんにちは。勇者さまの仲間<パーティー>、魔法使いです」

    青年「同じく。青年です」

    魔法使い「突然の訪問―――」

    老人「ああ、ああ!わしには重いのだ!重すぎて潰れてしまう!」ガシッ

    魔法使い「――!?」ビク

    青年「落ち着いて下さい、ご主人。いったい何がありましたか?」

    112 = 110 :

    老婆「あなた…」

    老人「あ、あ、あ……恐ろしいものだよ…真実は…」ガクガク

    魔法使い「…何か、見たのですか?」

    青年「現場になにか落ちていましたか?」

    老人「恐らくすでに拾い上げられてしまった…」ガクガク

    魔法使い「……かなり混乱している」ボソ

    青年「おれは苦手なんだよな。精神を操るのは」ボソ

    魔法使い「…ご主人、今日は安静にしていて下さい。明日また来ます」

    老婆「すみませんねぇ…いったい何をみたのやら…」

    魔法使い「いいえ、こちらこそ」

    老婆「主人は戦争のトラウマがあって、血を見るのが大嫌いなんです」

    青年「なるほど…」

    113 = 110 :

    魔法使い「では、お邪魔しました。お茶ありがとうございます」

    老婆「本当にすみませんねぇ」

    老人「」ガタガタ

    青年「また明日」

    老人「明日、必ず言おう…わしは弱虫だ。そんなことでと思うかもしれん……」

    魔法使い「…?」

    老人「これだけは言う……先入観には騙されるな!…ぐぅ」

    魔法使い「ご主人!」

    老婆「あなた!心臓のお薬飲まなかったんですか!」

    青年「心臓病なのですか?」

    老婆「はぁ、たまに発作がありまして…大丈夫です、直に引きますから」

    魔法使い「…では」ペコ

    青年「」ペコ

    114 = 110 :

    魔法使い「……」スタスタ

    青年「……」スタスタ

    魔法使い「僧侶なら、うまく聞き出せただろうな」

    青年「ふん。あの様子じゃ無理矢理記憶を取り出させたら狂うのがオチだろ」

    魔法使い「…そうだな。口に出すのも酷く恐れていたし…」

    青年「先入観ねぇ。なんなのか解ければいいのだな?」

    魔法使い「そうなるな」

    青年「……勇者は女だった、とかは?」

    魔法使い「私じゃあるまいし。れっきとした男だ」

    青年「証拠は?」

    魔法使い「素っ裸の場面を見たことがある」

    青年「ふむ?人間の女は男の裸体を見ると恥じるというが」

    115 = 110 :

    魔法使い「ん……まあ、全部の女性に当てはまるわけではないぞ」

    青年「なるほど、痴女か」

    魔法使い「ふざけるな」

    青年「ふん。――しかし、こちらも悩み事が増えた」

    魔法使い「悩み事…魔物か」

    青年「そうだ」ピューイ

    バサッ

    「なんでしょう」

    青年「近くで魔物が人間の街ないし村を荒らしているようだ。様子を見てくれ」

    「仰せのままに」チラッ

    魔法使い「……?」

    「では」サッ

    青年「頼む」

    ピューヒョロロ…

    魔法使い「なんだったんだ、今。何かしたか?」

    116 = 110 :

    青年「何かが気になったのだろうな」

    魔法使い「……へぇ。彼…彼?は鳥人族か」

    青年「よく知っているな。優秀な鷹一族の中でもかなりの優れものだ」

    魔法使い「それはそれは。鷹一族ということは、他にもいるのか」

    青年「いるさ。雀に烏に椋に鳩――少し前に鷹族と匹敵するぐらいの一族がいたんだがな」

    魔法使い「ということは、今は?」

    青年「純血は絶滅した。混血も恐らくはいないか、途絶える一歩前だろう」

    魔法使い「…わけを聞いてもいいか?」

    青年「別に構わん。例えお前がおれから全ての情報を引っ張り出してもおれには勝てないからな」

    魔法使い「あー、そーですか」

    117 = 110 :

    青年「単純に言うと、人間どもの戦争に巻き込まれた」

    魔法使い「30年前のか?10年ほど前のか?」

    青年「30年前のだ。酷かったな、あれは」

    青年「襲撃された村周辺に住んでいた純血は人間に卑怯な手段を取られ殺され」

    青年「そこではないが近くの村に住んでいた、人間と結ばれた一族も殺された」

    魔法使い「人間と魔物が?」

    青年「珍しくはない。だが、魔物側からしてみれば異端だからな。追放されるか殺される」

    魔法使い「そこを生き延びたのに戦争で……か。報われないな」

    118 = 110 :

    青年「ふん。こういう話には涙脆いのか」

    魔法使い「泣いてなどいない。同情を示しただけだ」

    青年「魔物にか?おいおい頼むぜ、勇者さまの仲間さんよ」

    魔法使い「それはそうなんだがな。私にも色々事情はある」

    青年「ほう?」

    魔法使い「言わないけどな」

    青年「やれやれ。人間は溜めが好きだな」

    魔法使い「人間に限らずそっちも同じようなもんだろ」

    青年「ふん」

    119 = 110 :

    魔法使い「宿についた」

    青年「にしても、街が嫌に静かだな」

    魔法使い「殺人事件が起きたからな。犯人がいるかもしれないのに不必要に彷徨くか」

    青年「はぁん。そうそう」

    魔法使い「?」

    青年「勇者と盗賊だったか?二つ、死体を見せてくれ」

    魔法使い「何?」

    青年「憲兵が調べるまではどっかに安置してるだろ?」

    魔法使い「してるが……」

    青年「別に何もしない。興味があるのでな」

    120 = 110 :

    ――

    剣士「医者、か」

    青年「はい。小さな医院の駆け出しですけどね」

    魔法使い「…………」

    青年「損傷が進まないうちに、不束ながら僕が調べさせていただきたいのですが」

    剣士「しかし、憲兵の」

    青年「許可は貰ってあります。こちらです」ペラ

    魔法使い(いつの間に)

    剣士「……分かった。ただし、俺と魔法使いの立ち会いの元でだ」

    青年「ありがとうございます」

    121 = 110 :

    剣士「二人は、今は使っていない地下貯蔵庫にいる」ギィ

    魔法使い「火が必要だな」スッ

    剣士「…ランプより明るい。便利だな」

    魔法使い「どうも」

    青年「ふむ…こちらですか…」

    剣士「……」

    魔法使い「……」

    青年「盗賊さんのほうが執拗に斬りつけられていますね。これは…剣による傷ですか?」

    剣士「だな。深さから見る限り剣の使い方には慣れていないようだ」

    魔法使い「そういえば、勇者の所持品の有無を調べてなかったな…」

    剣士「ちくしょう、うっかりしていた。何か分かるか?」

    魔法使い「……」ジッ

    122 = 110 :

    青年「……」

    魔法使い「ペンダントが無くなっていないか?」

    剣士「あ、確かに。あんなに大切にしていたのに」

    青年「部屋には置いてないのですか?」

    剣士「まさか。野宿だと寝る時すらはずさないぐらい大切にしてるんだ」

    青年「お守りですか」

    魔法使い「王女さまから直直のプレゼントだよ。婚約済だ」

    青年「ははぁ…帰ったら結婚云々ですか」

    剣士「だな。まさか盗まれたのか?デザインは美しいものだったから」

    魔法使い「……分からんな。医者、もういいのか」

    青年「はい。ありがとうございました」

    123 = 110 :

    青年「では僕はこれで」スタスタ

    魔法使い「……」

    剣士「そうだ。悪いが魔法使い、僧侶に食べ物運んでやってくれ」

    魔法使い「構わない」

    剣士「昨日からあまり食べてない。あれじゃ餓死するぞ」

    魔法使い「過保護だろ。分かった、無理矢理にでも食べさせておく」

    剣士「頼んだ」

    魔法使い「頼まれた」

    トントントン

    124 = 110 :

    魔法使い「僧侶」コンコン

    「……」

    魔法使い「食べ物と、飲み物だ。なにか口にいれた方がいい」

    「……」

    魔法使い「…入るぞ」ガチャ

    僧侶「……」グス

    魔法使い「目が腫れているじゃないか。顔が台無しだ」

    僧侶「次はわたしだと思うと怖いんです……」

    魔法使い「そのときは、守ってやる」

    僧侶「…魔法使いさん、優しいですね」

    魔法使い「たまには優しくしないとな。バチがあたる」

    僧侶「…あはは」

    125 = 110 :

    ガチャ

    魔法使い「……」パタン

    戦士「よう。僧侶は?」

    魔法使い「寝た。だいぶ無理をしていたようだな」

    魔法使い「ああ。どうだった?」

    戦士「なんにも、だ。そっちはどうだった?」

    魔法使い「第一発見者がだいぶ錯乱していてな。何も――何も聞けなかった」

    戦士「骨折り損だったな」

    魔法使い「ま、落ち着いたら再び行くさ」

    戦士「遅めの昼を食おうぜ。腹減った」

    魔法使い「あ、私は先に食べたからいいや」

    戦士「こ、この裏切り~~!!」バタバタ

    126 = 110 :

    魔法使い「悪い悪い。まだ魔法をかけっぱなしだったか」クルリ

    戦士「ったく…」

    魔法使い「今日は少し疲れた。これから明日まで少し休む」

    戦士「そうしろ。顔が蒼白だぞ」

    魔法使い「そうか。じゃあ、剣士に言っといてくれ」

    戦士「おう」

    127 = 110 :

    ―――
    ――


     勇者が死んだ。
     盗賊が死んだ。

     それでも変わらず夜はやってくる。

     魔法使いが僧侶を寝かしつけ、自分も精神的な疲れのために高ぶっていた神経を
     鎮め、ようやく眠りについた夜遅く。

     魔物が住み着いているために開発していない森の奥の奥で。


     魔王がたった一つの身体で数十体の魔物を蹂躙していた。


    128 :

    側近「流石です、魔王さま」

     ヒトの形をした、しかし唇の代わりにくちばし、腕の代わりに鳥の羽、そしてところどころが羽毛で覆われた表皮。
     昼間は鷹のすがたを取っていた鳥人族である側近は無表情のままに感想を述べた。

    魔王「ふん――これぐらいで苦戦していたら王を名乗れん」

     惨状を産み出した主、魔王は答える。

     端正な顔立ち、真っ暗な髪、側頭部から生える真っ暗な曲がった角、
     そしてそれら容姿に不釣り合いな金色の目。
     その冷たい美しさを持った魔物は側近に肩を竦めて見せた。

    129 = 128 :

    魔王「困ったものだ。反魔王派――反おれ派対策も早めにやらないとな」

    側近「すみません、魔王さま。ただの魔物同士のいさかいとしか思いませんでして」

    魔王「いや。おれも色々頼んでいたしな――全く幸運だったよ」

     紫色の液体を踏みつける。
     ぐちゃ、と嫌な音がした。

    魔王「ほどほどに人間を食えって前にいっただろ。やりすぎだ、馬鹿」

     返事はない。

    魔王「お前らが食い過ぎるとバランスが崩れて大変なことになるんだよ」

    魔王「一気に100人。対するお前らは12。どうみても88人は余分だろうが」

     それから、目を細める。
     文句が言い足りないらしい。

    130 = 128 :

    魔王「というか、そんなにおれが嫌いか」

     側近はそっと主の顔を見たが、そこから表情は読み取れなかった。

    魔王「そこまでして王となりたいか」

     倒れ伏す魔物の間をゆっくりと歩いていく。

    魔王「人間を食らい、力をつけて。そしておれを倒すつもりだったんだよな」

    魔物「……そうだ」

     か細い声があがった。
     魔王の口がつり上がる。

    魔物「前々代魔王さまを……殺したのは、お前だ」

    魔王「ふん。復讐か」

    魔物「何故殺した。何故前代魔王さまを追放した」

    魔王「親父は逃げたんだよ。おれから逃げるためにさ」

    魔王「あと良いこと教えてやる。前々代魔王はまだ死んでいない」

    131 = 128 :

    魔物「は?」

    魔王「弱体化してるがな。お前らみたいな連中にいいように使われたくないからって引退した」

    側近「……」

    魔王「というよりよぉ、魔王になってもいいことないぜ?」

    魔王「どうやらお前ら一族の悲願らしいが。偏った夢だな」

    魔物「黙れ……!人間などいらんのだ!一部の魔物もだ!」

    魔王「大馬鹿者め。自分好みに作られた世界はすぐ滅びる」

     手を軽くふる。
     それだけで、魔王と側近以外の魔物はサイコロサイズに切断された。
     魔王はため息をつく。

    魔王「…参ったな。やっぱおれ、魔王として歓迎されてなくね?」

    側近「これからですよ、魔王さま」

     夜は更けていく。

    132 = 128 :

    続きます

    133 :

    おつおつ

    134 = 128 :

    >>127
    ×数十体
    ○十数体

    136 = 128 :

    ――魔法使いの宿部屋

    「……さん…」

    魔法使い「ん……」

    僧侶「魔法使いさんっ!」

    魔法使い「ッ!?」ハッ

    僧侶「良かった…大丈夫ですか?」

    魔法使い「あ、え、僧侶?」

    僧侶「はい、僧侶ですが」

    魔法使い「何で私の部屋に?」

    僧侶「お手洗いに行こうとしたら魔法使いさんの部屋から唸り声が聞こえて…」

    僧侶「それに、鍵がついていなかったのでつい……すみません」

    魔法使い「謝ることはない。少し無防備だったな」

    137 = 128 :

    僧侶「そうですよ、自分のことも考えて下さい」プクッ

    魔法使い「悪い。――それより、気分はどうだ?」

    僧侶「…少しだけ落ち着きました。ごめんなさい、昨日は色々と」

    魔法使い「困ったときはお互いさま、だろ?構わないさ」

    僧侶「魔法使いさんは、優しいですね」

    魔法使い「そんなことはないさ。放っておけないだけだ」

    僧侶「それを優しいというんですよ」クス

    138 = 128 :

    魔法使い「そう言えば、今の時刻は?」

    僧侶「五時前です。まだ朝は来ませんね」

    魔法使い「そうか。じゃあ二度寝でも洒落込むかな」

    僧侶「あ、あの」

    魔法使い「ん?」

    僧侶「さっき、悪い夢…みていたんですよね?」

    魔法使い「……ああ」

    僧侶「じゃあ、わたしが側についていてあげます。悪い夢を見ないように」

    魔法使い「……んん?」

    僧侶「い、いわゆる添い寝です」

    魔法使い「…神は許してくれるのか?」

    僧侶「さすがにそれぐらいは許して下さるでしょう…多分」

    139 :

    >>138 魔法使い「…神は許してくれるのか?」

    お、俺が許さん…

    140 :

    どちらも女の子だ問題ない

    141 :

    僧侶「」モゾモゾ

    魔法使い(これ逆に寝れないぞ)

    僧侶「あ、そうだ。手首……」

    魔法使い「手首?……ああ、切ったところか」スッ

    僧侶「あれ?治りかけていますね」

    魔法使い「……。ちょっと僧侶の治癒魔法を真似してみたんだ」

    僧侶「わあ、すごいですね」

    魔法使い「いやいや。魔法は複雑だし、治りきらないし、僧侶は凄いと思ったよ」

    僧侶「そ、そんなことないです。じゃあ最後まで治しますね」パァァ…

    魔法使い「ありがとう」

    142 = 141 :

    僧侶「…なんだか、懐かしい感じがします」

    魔法使い「そうなのか?」

    僧侶「わたしは孤児だったから、教会で育てられたんです」

    魔法使い「……」

    僧侶「あ、他の同じ境遇の子と仲が良かったからあまり寂しくはなかったですよ?」

    魔法使い「…へぇ」

    僧侶「でもやっぱり、寂しくなるときはあって…」

    僧侶「そういう時は年上のお姉さんの布団に侵入して寝てたんです」

    魔法使い「何か言われなかったのか?」

    僧侶「うーん…ちょっと迷惑そうでしたけど、何も」

    143 = 141 :

    僧侶「そのお姉さんは戦争が始まる前にどこかに行ってしまいました」

    僧侶「今はもう二十歳を越えているでしょうね。子供、いるのかなぁ」

    魔法使い「どうだろうなぁ」

    僧侶「…なんかすみません、こんな話をして」

    魔法使い「いいよ。誰にだってそういう気分になることがある」

    僧侶「そうですね」

    僧侶「…魔法使いさんはすごく強いですけど、いつぐらいから魔法の修行を?」

    魔法使い「うーん…10歳ぐらいからかな」

    僧侶「ええ!?じゃあまだ修行初めて10年もたってないんですか?」

    魔法使い「んー……うん。師匠は厳しかったから上達せざるを得なかった」

    144 = 141 :

    僧侶「天才なんですね…」

    魔法使い「師匠いわく素質というか力『だけ』はあったから」

    僧侶「師匠はどんな人だったんですか?」

    魔法使い「いやぁ厳しかった厳しかった。何度か殺されかけた」

    僧侶「あはは」

    魔法使い「でも色々お世話にはなったよ」

    『それで終わりか?まだいけるだろう』

    『お前どうやったらスープを毒物に変えられるのだ!?』

    魔法使い「……」

    『――お前の生き方だからな。反対はできんよ』

    『行ってこい』

    魔法使い「…きっとあれが師匠なりの優しさだったんだな」

    魔法使い「僧侶?」

    僧侶「……」スー

    魔法使い「…寝たのか」

    145 = 141 :

    僧侶「……」スースー

    魔法使い「むぅ」

    青年「どうした」

    魔法使い「何故彼女にはあって私にはないのだろうと熟考していた」

    青年「考えようがないものはない。諦めろ」

    魔法使い「……」

    青年「……」

    僧侶「……」スースー

    魔法使い「お前、いつからそこに」

    青年「今だ」

    魔法使い「常識的に考えろ。寝ている人間の部屋に忍び込むな」

    青年「なにを今更。それにその常識は人間の常識だろう?」

    魔法使い「ああ…そっち魔物だもんな」

    青年「しっかりしてくれ。だてに胸ではなく頭脳に栄養を回したわけではあるまいに」

    魔法使い「殴られたいか」

    146 = 141 :

    青年「しかし驚いた。一切性別がバレる様子がないとは」

    魔法使い「…サラシできつく巻いてるからな」

    魔法使い「下半身はともかく、少し触られたぐらいではバレない」

    青年「よかったじゃないか、元から小さくて」

    魔法使い「黙れ。何事も控え目が一番いいんだ」

    青年「必死だな」

    魔法使い「…で?朝っぱらから何のようだ」

    青年「なぁに。微妙に魔力を放出しているから見に来ただけだ」

    魔法使い「…そうか?魔力を抑える魔法が弱まっていたか」

    青年「むしろ逆だ。魔力が強くなっている」

    147 = 141 :

    魔法使い「強くなっている?」

    青年「気づかないのか。まぁ、満月が近いしな」

    魔法使い「?」

    青年「満月の夜は魔力が少しばかし増えると言われている。それのせいかもな」

    魔法使い「…初めて聞いたが。魔物限定じゃないか、それ」

    青年「分からん。人間も同じようなものだと思っていたが」

    魔法使い「ふぅん……なるほどな」

    魔法使い(満月の日に魔王襲ってたらヤバかったな)

    青年「そんなとこだ。そっちの少女が目覚めて騒がれてもこまるし、おれは戻る」

    魔法使い「そうしろ」

    青年「ふん、冷たいな」ヒュンッ

    148 = 141 :

    魔法使い「まったく……」

    僧侶「……」スースー

    魔法使い(…僧侶も実は寝れなかったんじゃないのか?)

    魔法使い(怖いよな、犯人が側にいるかもしれないんだから)

    魔法使い「……」ギュッ

    魔法使い「温かいな、相変わらず」

    149 = 141 :

    ――魔王城

    人魚「上流から水が汚れていると意見が」パチャパチャ

    ゴブリン「ええい跳ねるな跳ねるな。濡れる」

    トロール「上流といったら巨人かもナ。ちょっと聞いてみル」

    魔大臣「ふぁ…もう朝だ」

    ミノタウロス「続きの会議は夜から――」


    青年「ご苦労だな」シュンッ


    人魚「え?あ、……魔王さま!!」バシャッ

    ゴブリン「ギャーー!!」グッショリ

    トロール「魔王さま、人間のお姿ですカ」

    魔王「ああ忘れていた。これでいいか」

    魔大臣「丁度良い時に。人間の街で一部の魔物が暴れていると――」

    魔物「それさっき殲滅してきた」

    魔大臣「わぁお」

    人魚「すごい……」パチャパチャ

    150 = 141 :

    ゴブリン「わざわざ報告にこられたんですか?お疲れさまっす」

    魔王「ついでに会議の様子もな」

    魔王「おれがいなくとも回るとは思うが、ずっと放置というのもあれだし」

    人魚「いいえ!魔王さまがいない会議なんてただのむさい集まりですわ!」バシャン

    ゴブリン「おい」

    魔大臣「即位してからずっと根詰めて働いてきたのですから、たまには休みませんと」

    トロール「でモ、たまに帰ってきてくれないと困ル」

    魔大臣「そういえば、側近は?」

    側近「呼んだか」バサッ

    魔大臣「おおう、いたいた。魔王さまの側にいるのならいいや」

    魔王「おれの一人歩きはそんなに不安か」


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