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    元スレさやか「奇跡も魔法も……」ほむら「私のは技術よ」

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    551 = 531 :




    「あっ」



    ジャイロ「おっと、しつれい。ぶつかっちまったかい?」

    「い、いえ……」

    ジャイロ「そうかい」


    さやか「およっ」

    恭介「この声は……」

    仁美「し、失礼します」

    仁美「こんにちは、上条く……」

    さやか「…………」

    仁美「え……!?」

    仁美「み、美樹さんッ!?」

    恭介「志筑さん……」


    552 = 531 :


    さやか「や、やぁ、仁美……心配かけたね……」

    仁美「い、いつ……! いつ帰ってきたんですか……!?」

    さやか「昨夜……だね」

    仁美「みんな心配してたんですよ!? 何をしてたんですか!?」

    恭介「志筑さん!」

    仁美「!」

    恭介「さやかにも……色々考えることがあったんだ。十分反省しているようだし……攻めないであげて」

    さやか「恭介……」

    仁美「……か、上条くんがそうおっしゃるなら……」

    仁美「あの、上条くん。来て早々申し訳ないのですが、少し美樹さんと二人で話したいことが……」

    さやか「え?」

    恭介「ああ、僕のことは気にしないで。ゆっくり話しておいで」

    仁美「ありがとうございます。そんな時間はかけませんので……」

    さやか「仁美……」

    仁美「美樹さん。ちょっとツラ貸してくださいまし」

    さやか「お、おう……。もしかして怒ってる?」

    553 = 531 :





    廊下


    ジャイロ「――と、いうわけだ」

    ほむら「えぇ。わかったわ。それじゃ、よろしく頼むわね」

    ジャイロ「おまえこそな。じゃ」

    ほむら「えぇ」



    ほむら「…………」

    まどか「ほむらちゃんっ!」

    ほむら「まどか。来てたのね」

    まどか「うん! 仁美ちゃんも来てるよ~」

    まどか「それで……さやかちゃんは?」

    ほむら「今夜の患者とお話してるんじゃないかしら」

    まどか「患者……と、いうことは……」

    ほむら「ええ……。しゅじちゅ決定よ」

    まどか「あ、噛んだ」

    ほむら「///」

    まどか(かわいい)

    554 = 531 :




    まどか「それで、大丈夫なの?」

    ほむら「え、ええ。話をつけたわ。彼も覚悟を……」

    まどか「そうじゃなくて、しゅじゅちゅの準備……わ、わたしも噛んじゃった///」

    ほむら「ふふ。可愛らしいわ」

    ほむら「とにかく、その辺り大丈夫よ。監視カメラや間取りを把握したわ。流石に中までは入れなかったけど」

    ほむら「今夜はしゅぢゅちゅの予定はないし、急患が五、六人一気に搬送されない限り問題ない」

    まどか「そっか。ねぇ……わたしに力になれること、何かないかな?」

    ほむら「そうね……。……成功を祈る。それでいいんじゃない?」

    まどか「……そうだね。わたし、上条くんのしゅずちゅが成功するようお祈りする!」

    ほむら「それがいいわ。……それじゃ、私は帰るわね」

    まどか「えー、もう帰っちゃうの?」

    ほむら「ジャイロ達と打ち合わせするのよ」

    まどか「そっか……。しゅじつ、頑張ってね!」

    ほむら「ええ、もちろん」

    555 = 531 :




    さやか「えーっと……」

    仁美「美樹さん……」

    さやか「いや、ほんと、みんなには迷惑かけて申し訳ないと思ってるよ……」

    さやか「本当に面目ない」

    仁美「ち、違うんです……私が言いたいことは……」

    さやか「うん?」


    (ずっと前から私……上条くんのこと、お慕いしておりました……)

    (それでも、抜け駆けや横取りをするようなことは、したくありません)


    さやか「……? 仁美?」

    仁美「…………」

    仁美「わ、私……」

    仁美「私……!」

    556 = 531 :



    仁美「さ、寂しかった……」

    仁美「……んですから」

    さやか「そ、そっか……ほんっ……とに、ごめんね」

    仁美「…………」

    さやか「し、しかし、寂しかったか……あはは、仁美ったら可愛いねぇ!」

    さやか「仁美もあたしの嫁になるのだぁ~」ナデナデ

    仁美「……っ!」

    仁美「やめてくださいッ!」

    さやか「えっ……」ピタッ

    仁美「あ……そ、その……鹿目さんはともかく、私には……」

    さやか「そ、そっかぁ……ご、ごめんね?」

    さやか「えーっと……話って終わり?」

    557 = 531 :




    さやか「あたし、恭介に挨拶もしたし、今日はもう帰ろうかなって……親も心配してるだろうし」

    仁美「え、えぇ……あの、まぁ……すみません。わざわざ引き留めて」

    さやか「あはは、気にしない気にしないっ」

    さやか「じゃあ、その……また、学校でね」

    仁美「は、はい……さようなら」

    さやか「うん……」



    仁美「…………」

    仁美「…………思わず、大声出しちゃった」

    558 = 531 :



    仁美(……何故)

    仁美(何故、私は言えなかったのでしょうか。上条くんが好きであることを……)

    仁美(もしかして、美樹さんに引け目を感じている?)

    仁美(私は、美樹さんを心配していた上条くんを見ていた。美樹さんがいない間、告白は絶対にしないと誓っていたけど……)

    仁美(本気で心配している上条くんに、美樹さんがいない間に少しでも良く思われたいと考えてしまっていた背徳感?)

    仁美(美樹さんが帰ってきたことがわかって……一瞬だけ、美樹さんがいない状況を惜しんでしまったという罪悪感?)

    仁美(……何故言えなかったのか。冷たくしてしまったのか。そこのところがよくわからない……)

    仁美(親友である美樹さんが戻ってきた。とても嬉しいことなのに、心から喜べていない奇妙な私がここにいる)



    仁美(……必ず)

    仁美(必ずいつか、宣戦布告する)

    559 = 531 :


    仁美(……ただし帰ってきて慌ただしい中、思いを伝える猶予を一日だけ与えましょう。というのも卑怯な話……。美樹さんも動揺するだろう……)

    仁美(予定を変更する)

    仁美(全てが落ち着くまでは……お互い、上条くんに絶対告白してはいけない。抜け駆けはしない。告白は「その全てが落ち着く日」が過ぎてから早い者勝ち)

    仁美(そのルールを持って、宣戦布告をする。私と美樹さんは恋敵という関係だということを宣言する)

    仁美(全てが落ち着く日は……美樹さんに決めさせる)

    仁美(これは失踪した美樹さんを差し置いて上条くんに少しでもよく思われようとした、上条くんに心配されているのに少しでも嫉妬してしまった自分への罰)

    仁美(ルールは絶対。私は絶対破らないし、美樹さんもそういうルールは必ず守るという性格)

    仁美(……たまに美樹さんは私の知らない世界で生きているような気がするけど……そういう性格であることは胸を張って言える。親友だから)




    仁美「……しかし」

    仁美「お見舞いに持ってきた……抹茶クリーム団子16コ詰めセット」

    仁美「まさか美樹さんが同じ物を買ってきていただなんて……しかも味まで」

    560 = 531 :



    ――深夜の病院


    ほむら「マミ」

    マミ「えぇ」

    シュルッ

    カチャ

    マミ「リボンを窓の隙間から通して鍵を開けた」

    ほむら「マミは彼を抱えて。時を止めて待ち合わせ場所に一気に行くわよ」

    マミ「えぇ。わかったわ」

    ほむら「それにしても、いつぞや私を犯罪者呼ばわりしてたあなたが建造物侵入罪と誘拐紛いだなんてね」

    マミ「懐かしいわね。でもこれは人助けだからいいのよ」

    ほむら「……あぁ、そう」

    561 = 531 :




    ――外


    ジャイロ「さやか。来たか。遅いじゃあねーか」

    さやか「ごめんごめん。親に色々言われてさー。お話終わってそく抜け出して来たよ」

    杏子「……よぉ」

    さやか「あ、うん……」

    ジャイロ「おい、さやか。持ってきたか?」

    さやか「う、うん……これでいいかな」

    ジャイロ「ああ。悪くない」

    杏子「……何だそれ?」

    さやか「花」

    杏子「それは見て分かる。……何でだ?」

    ジャイロ「見舞いだ。見舞い」

    杏子「その意図は何となくわかるけど……」

    さやか「あたし、力になりたくて……でも、医療とかさっぱりだから……せめてと思って、ジャイロがじゃあ持ってこいって……」

    杏子「そうかよ。何でもいいけど。ほら、忍び込むぞ」

    562 = 531 :


    さやか「……大丈夫なの?」

    杏子「鍵はほむら達が何とかしてくれている」

    さやか「そうじゃない。監視カメラとか……」

    杏子「あたしは何度もホテルに忍び込んでいし、あんたの学校にも忍び込んだこともある」

    さやか「へぇ……って学校にも来たの!? まぁいいけど……で、どうするの?」

    杏子「あたしの固有魔法は幻影・幻覚だ。魔法の力で監視カメラや警備員は侵入者に気付かない」

    杏子「本当は幻術なんか使いたくないんだけどな……とにかく、そのまま堂々と歩けばいい」

    さやか「……」

    ジャイロ「だ、そうだ。ほれ、いくぞ」

    563 = 531 :



    ――手術室前


    ほむら「揃ったわね」

    マミ「こんばんは。みんな」

    さやか「マミさん……」

    ほむら「……さやか、何よ。その花は」

    杏子「ジャイロが持ってこさせたらしい」

    ほむら「ジャイロは……まぁ何するかわからないからいいわ。美樹さやか。あなたはどうして愚かなの」

    さやか「え、この花ダメなの? でもジャイロが葉っぱが大きければなんでもいいって……」

    ほむら「花のことじゃない。鉢植えよ。お見舞いに鉢って、常識というものが……」

    マミ「まあいいじゃない」

    564 = 531 :



    マミ「胡蝶蘭ね」

    さやか「花言葉は『幸福が飛んでくる』だそうです!」

    マミ「ピンク色だから『あなたを愛します』って意味もあるわよ」

    さやか「!?」

    ほむら「お熱ね」

    さやか「そ、そんなつもりじゃ……///」

    さやか「あぅ……おのれまどかめ……! お見舞いの花を聞いたら『胡蝶蘭のピンクがいいよ』とか言いよって……!」

    マミ「鹿目さん……」


    565 = 531 :



    ガチャ

    ジャイロ「おい、準備できたぜ」

    さやか「え、あの……その格好でやるの? なんか、そういう服あるじゃん。緑色の」

    ジャイロ「大丈夫。普段着でも魔法で無菌状態だ」

    マミ「手術着のロッカーの鍵はリボンじゃこじ開けられないの」

    ほむら「ピッキングもずっとやってないからやり方忘れちゃったわ」

    さやか「…………」

    ほむら「……さて、杏子。引き続き幻影を使って私達の存在を覚らせないようにして」

    杏子「ああ。わかった」

    マミ「グリーフシードはここに置いておくわ」

    566 :

    まどまどやりおる

    567 = 531 :



    さやか「あたしは……何をしてればいい?」

    ジャイロ「特にすることはないな。来たいっていうから来させたに過ぎないし」

    ジャイロ「まあ強いて言えば……魔法を使えば切開した後の縫合の手間が省けて助かる。痕も残らない」

    マミ「美樹さんがわざわざやる必要もないとは言わないわ」

    さやか「…………」

    ほむら「それじゃ、さやかは出番まで待機。その間は……祈ってればいいんじゃないかしら」

    さやか「ほむらとマミさんは?」

    ほむら「私とマミはジャイロの助手につくわ」

    さやか「えぇっ!? ふ、二人が助手ゥ!?」

    568 = 531 :



    ほむら「仕方ないでしょう。ねぇ?」

    マミ「えぇ。私には医術も回転の心得もないけどね」

    さやか「だ、大丈夫なの? 一気に不安なんだけど……」

    マミ「助手と言っても執刀とかしないから大丈夫よ」

    マミ「多分」ボソッ

    さやか「何それ? ……ってちょい待て! 今小さく多分って言いませんでした!?」

    ほむら「大丈夫よ。魔法だってあるんだし、問題ないわ」

    ほむら「きっと」ボソッ

    さやか「きっとォッ!?」

    ジャイロ「おい、うるせーぞ」

    ほむら「杏子の魔法で何とかなってるとは言え……大声でのツッコミは関心しないわ」

    さやか「う、うぅ……誰のせいだと……」

    569 = 531 :



    ほむら「安心しなさい。こんな格好だけど、魔法の力で消毒とかしなくても大丈夫だし」

    マミ「髪の毛一本落とすような真似しないわ」

    マミ「ツェペリさんも魔法パワーで消毒済みよ。と、いうわけで感染症のリスクはゼロ!」

    さやか「へ、へぇ……」

    ジャイロ「おい、さっさとしろ。いつ急患が来るかわからないんだからな」

    ほむら「焦りは禁物よ」

    マミ「それじゃ、待っててね。佐倉さんと二人で……」

    杏子「……」

    さやか「はい……」

    570 = 531 :


    さやか「…………」

    杏子「…………」

    さやか「……手術中のランプは流石につかないか」

    杏子「…………」

    さやか「…………」

    杏子「…………」

    <メス!

    <アセ!

    さやか「あ、手術が始まったみたい……」

    杏子「あぁ」

    さやか「……ね、ねぇ、どんぐらいかかると思う?」

    杏子「知らん」


    571 = 531 :



    さやか「…………」

    杏子「…………」

    さやか(き、気まずい。……和解したとは言え、やっぱり……一度襲った相手だもんなぁ)

    さやか(昨日もマミさんの家で杏子と三人で過ごした)

    さやか(トランプとかして遊んだんだ)

    さやか(マミさん加えた三人だと普通に話せるんだけど……)

    さやか(二人きりだとこんな感じになっちゃうんだよなぁ……)

    さやか(くはー……手術終わるまでじっと黙ってるわけにはいかないしなぁ……)

    杏子「…………」

    572 = 531 :



    ゴソゴソ

    杏子「食うかい?」

    さやか「え、あ、う……」

    さやか「えーっと……」

    さやか「びょ、病院で飲食はマナー違反だよっ」

    杏子「うっせぇ食え」

    さやか「……ん」

    シャクッ

    さやか「何だこれ! ンマイなァー!」

    杏子「うるさい」

    さやか「……ごめん」

    さやか「…………」

    573 :

    気まずいwwww

    574 = 531 :



    さやか「あ、その袋のロゴマーク……」

    さやか「これって、見滝原ふるうつ屋の……そこそこ有名どこのじゃん」

    杏子「そうなのか」

    さやか「……とってもおいしい。ありがとう」

    杏子「ふん……」

    さやか「…………」

    杏子「…………不安か?」

    さやか「そ、そりゃ……ね。失敗したらどうしようとかさ……」

    杏子「そん時はそん時で考えな」

    さやか「……はぁ、あたしの魔法で治せればいいのに」

    杏子「そういやそうだよな。ダメなのか?」

    さやか「……とにかくできなかったの」

    さやか「だから一人で修行したんだから……」

    杏子「……そうか」

    575 = 531 :



    杏子「なあ……さやか」

    さやか「うん?」

    杏子「あたし達がほむらからソウルジェムが魔女になる話を聞いた時だが……」

    さやか「あぁ、大変だったらしいね」

    杏子「あぁ、マミがなかなか泣きやまなかったな」

    杏子「まぁそれはいいや。で、実はあの後、ほむらの話を聞いたんだ」

    杏子「あんたはまだ知らないよな」

    さやか「……ほむらの話?」

    杏子「ほむらが何を願って魔法少女になったのか」

    さやか「あれ以来ほむらとは手術のこと以外ではあまり話してないんだよね……」


    576 = 531 :


    さやか「ほむらの願いってどんなの? 病気だったっていうから退院したいとか……」

    杏子「ほむらが魔法少女になったその理由と覚悟を聞いて……」

    杏子「マミは魔女化の真実を受け入れたんだ。と言っても過言じゃあない」

    さやか「……え」

    杏子「暁美さんがそんな過去があっただなんて……私、こんなことで泣いてて情けないわ(裏声)」

    杏子「ってな」

    さやか「……ほむらの覚悟」

    杏子「ほむらには『使命』があったんだ。肉体的な『命』を超越した大いなる『使命』がな」

    杏子「二度も同じことをほむらに言わせたくないから、あたしがあんたにそれを伝える。あたしはその役を買って出た」

    杏子「手術中に湿っぽい話になるかな。だが、聞いてくれ。どうせ時間を持てあますんだからな」

    杏子「正直突拍子もないことだが、あたし達は疑わない。本当のことだと受け入れた。いいか?」

    さやか「……教えてよ。杏子」

    杏子「ほむらは未来から来た」

    さやか「へ?」

    577 = 531 :



    ――手術室


    パタン…

    ジャイロ「よし。準備はいいかおまえら」

    ほむら「ええ」

    マミ「ところで、上条くんは寝ているの?」

    ジャイロ「ああ。回転でな。まぁどっちかと言えば気絶に近いんだが」

    マミ「き、気絶……」

    ほむら「魔法の麻酔はするけどね」

    マミ「魔法の麻酔って何か怪しい響きね」

    578 = 531 :



    マミ「それにしても、しゅじちゅちちゅの中ってこんな風になっているのねぇ~」

    ほむら「噛んだのをそのまま話を続けて誤魔化すのはやめなさい」

    マミ「///」

    ほむら「それで、しゅじゅちゅ……」

    マミ「あなたも噛んでるじゃない」

    ほむら「……の準備はいいんでしょうね///」

    ジャイロ「ああ、大丈夫だ」

    マミ「ツェペリさん、美樹さんのお花は?」

    ジャイロ「ああ、ここでいい」

    ほむら「……何で持ってきたのよ。無菌でないといけないのに」

    マミ「いいじゃない。魔法で無菌よ」

    ほむら「もう……」

    マミ「…………」

    579 = 531 :



    マミ「……暁美さん」

    ほむら「何?」

    マミ「メス!」

    ほむら「え? あ、はい」サッ

    マミ「えへへ……一度やってみたかったのよねこれ」

    ほむら「そ、そう……」

    ほむら「…………」

    ほむら「汗!」

    マミ「はいっ」スッ


    ほむら「マミ……」

    マミ「暁美さん……」


    ピシガシグッグッ



    ジャイロ「コントはよそでやれ」

    580 = 531 :



    ほむら「堪能したわ」ホムッ

    マミ「それで、しゅ、じゅ、つ……の手順は?」

    ジャイロ「まずは神経の損傷具合を確認しないことには始まらないわな」

    マミ「レントゲン? この機械かしら?」

    ほむら「これが電源ボタン? 何にしても使い方わからないのだけど……」

    ジャイロ「そんな機械は使わない。バットを持ってきてくれ」

    マミ「バット? えっと……これでいいの?」ガチャ

    マミ「何に使うの?」

    ジャイロ「そこに水を注ぐんだ」

    ほむら「ミネラルウォーターとかでもいいのかしら?」

    ジャイロ「清潔なものならなんでもいい」

    581 = 531 :




    マミ「あ、そういえば暁美さん。器具の消毒は?」

    ほむら「ウォッシャーディスインフェクターっていうのを映画で見たことあるわ」

    マミ「映画情報なの……」

    ほむら「まあ器具も魔法で滅菌すればいいでしょう」

    マミ「それもそうね。手ぇ洗う?」

    ほむら「私達には必要ないわ。気持ちはわかるけど」

    マミ「そうよね。消毒不要と言っても洗いたくなるわよねぇ」

    ジャイロ「おい早くしろよ」

    マミ「落ち着いてツェペリさん」

    ほむら「そうよ。最近のしゅづっ……オペはリラックスするためにBGMを流したり雑談しながら執刀するものなのよ」

    ジャイロ「……やれやれだぜ」

    582 = 531 :



    マミ「で、バットに水を張ったけど……それをどうするの?」

    ジャイロ「ここに置いてくれ。そして、俺は鉄球の回転を患者の腕にあてる」

    ドシュゥゥゥゥ

    シルシルシルシルシル

    ほむら「あ……」


    ブワァァァ

    マミ「水面に何か……地図のようなものが浮かび上がった……。これは?」

    ジャイロ「回転で彼の神経の正確な配置を図として浮かびあがらせる」

    ほむら「エコーのようなもの?」

    ジャイロ「まぁ似たようなもんだろ。知らんけど。……見ろ、腕の神経のここの部分。一つだけじゃない。いくつも損傷している」

    マミ「神経が断裂しているのね……」

    ほむら「でも、治るんでしょ?」

    ジャイロ「ああ。確かに難しい傷だ。だが鉄球の回転なら手術できる。この程度なら修復は可能だ」

    583 = 531 :


    マミ「回転をどう使うの?」

    ジャイロ「ああ。損傷箇所が何カ所もあるからとりあえずまず腕を切開して……」

    ジャイロ「損傷した神経に針をあてるだろ。そしてその針に鉄球の回転を伝わらせ……神経を一本一本つなぎ合わせるんだ。それの繰り返しさ」

    マミ「き、緊張するわ……」

    ジャイロ(この「針」による手術法は……失敗したことがある。視神経を繋ぎ止める手術だったが、回転が乱れて……)

    ジャイロ(一度や二度の失敗を引っ張って次の手術に悪影響を与えるなんてことはないが、あの時は……)

    ジャイロ(マミ……俺もだぜ。俺も今、緊張している。だが、必ず成功させてみせる)

    ジャイロ「マミはバットをリボンか何かで固定してくれ。そしてメス」

    マミ「はいっ」シュルッ

    ジャイロ「ほむらは鉄球を回転させて患者をそのまま麻酔させておいてくれ」

    ほむら「わかったわ」シルシルシル


    584 = 531 :




    マミ「……それで、美樹さんが持ってきたお花は何の意味が?」

    ジャイロ「……手術が長引くほど赤色をよく見ることになるからな。補色の緑を見ないと目が疲れる」

    ジャイロ「胡蝶蘭は葉が大きい。緑を見る必要がある」

    ほむら「……緑なら何でもいいじゃない。布とか」

    ジャイロ「……いいだろっ。花でも何でも」

    マミ「お花が好きなの? 案外ロマンチスト?」

    ジャイロ「うるせー。切るぞ。吐くなよ」

    ほむら「そうは言っても……」

    マミ「美樹さんのアレな状態を見たからこれくらい大したことないわ」

    ジャイロ「…………」


    585 = 531 :



    ――
    ――――


    さやか「…………」

    杏子「あんたの恭介って坊やへの思い、よくわからんけど……」

    杏子「ほむらのまどかへの……いや、あたし達への思いは……多分それを上回ってるんじゃないかな」

    杏子「あたしは自分が情けなくなったよ」

    杏子「なんつーか、あたし……結構最近まで、自分の事だけ考えて生きてきたんだなって……」

    杏子「さやかに襲われた時、ほむらから共に戦ってくれと頼まれた時……」

    杏子「神様って言うとおおげさだけど、そんな感じのが救いの手を差し出してくれたような感覚だった」

    杏子「で、ほむらの覚悟を聞いた時……メラメラとわきのぼってくる気持ちがあった」

    杏子「これが『仁』ってやつか……って思ったよ」

    杏子「あたしは、生きるためとかグリーフシードのためとか……そういうの関係なく戦う理由を見つけられた」

    杏子「あたしは……ほむらに感謝している。その報恩のためにあたしは命をかけられる」

    さやか「…………」

    586 = 531 :




    さやか「あたし……」

    さやか「あたしは……恭介の腕を手術をする、っていう交換条件で……共闘を結んだ」

    さやか「だけど……だけどさ……」

    さやか「そんな話聞かされて『それだけ』で済むわけないじゃん……!」

    杏子「…………」

    さやか「ほむらの覚悟が言葉でなく心で理解できた!」

    さやか「あたしはほむらを誤解していた……その浄罪のためにも、あたしもほむらに命を預けるよ!」

    杏子「……へっ、あの坊やに振られて魔女になるような真似すんなよ」

    さやか「何をぉーっ!」

    杏子「さやか……」

    さやか「杏子……」


    ピシガシグッグッ


    587 = 531 :




    ――AM 0:00


    さやか「…………眠い」

    杏子「寝ろよ」

    さやか「やだー」

    杏子「リンゴ食うかい?」

    さやか「夜食は太っちゃう~」

    杏子「早く食わないと傷んじまう。元々売り残りを安くしてもらったやつなんだからな」

    さやか「あぁ……そうだね。勿体ないもんね」

    杏子「ああ。傷むとマズイからな。美味い内に食わないと勿体ない」

    さやか「食べるのかよ……勿体ないってそういう意味で言ったんじゃないんだよ……」

    588 = 531 :



    杏子「ほら食え。まだマミんちの冷蔵庫を1/4は占領してる程あんだからな。怒られたんだかんな」

    さやか「はいはい……」


    コツコツ

    さやか「ん?」

    警備員「…………」

    さやか「ふぇーふぃひんふぁ」

    杏子「飲み込んでから言え」

    さやか「……ん。警備員か……、魔法でバレないとは言えこんな近くを通られると……ねぇ?」

    杏子「ビクビクすんな。堂々としてりゃあいいんだ。そんなんじゃ忍び込んだホテルでゆっくり眠れないぞ」

    さやか「あたしは忍び込むとかしないし……」

    警備員「? ……なんかリンゴの匂いがするな」ボソッ

    さやか「!?」

    589 = 531 :



    さやか「ちょ! きょ、杏子! やばい!」

    杏子「何だよ? うるさいぞ」

    さやか「リンゴの匂いがするって! バレた!」

    杏子「あぁ、そりゃこんだけ食べれば匂いくらいするだろ。この魔法、匂いは誤魔化せない」

    さやか「や、やばいよ! バレたってマミさん達に伝えなきゃ……!」

    杏子「落ち着けっての。その必要はない。座ってろ」

    さやか「へっ? な、何を言ってるの杏子! 流石にバレるって!」

    杏子「匂いが何だってんだよ……よいしょっと」


    590 = 531 :



    杏子「よっ! 名札曲がってるぞオッサン」

    警備員「…………」

    さやか「きょ、杏子!?」

    杏子「西の戸って書いてサイコ……変わった読み方って言われないか? ニシドって呼ばれない?」

    警備員「…………」

    杏子「あたしの名字はサクラっつーんだ。読み間違えはされないけど、下の名前と勘違いされたことがあるぜー。桜な」

    警備員「…………」

    さやか「え……?」

    杏子「お勤めごくろうさ~ん」

    警備員「…………気のせいか?」

    コツコツ…

    杏子「……な? こんだけやっても気付かない。言ったろ? 監視カメラにも警備員にも侵入者に気付かないって」

    さやか「あの警備員……気のせいで済ませた……。マジに気付かれてない……。あんなに近づかれたのに……いくらなんでも」

    杏子「匂いがしたから何だってんだよ。ビビりすぎ」

    さやか「だってぇ……」

    591 = 531 :



    杏子「黒い琥珀の記憶――メモリー・オブ・ジェット」

    さやか「え? 何だって?」

    杏子「今、あたしが使ってるこの技の名前。解説してやるよ。昨日、いや、一昨日名付けた」

    杏子「ジェットってのは宝石の名前……。琥珀ではないが、黒琥珀とも呼ばれている。宝石言葉は『忘却』だ」

    杏子「特定の人間以外から決して『認識』されない魔法。この技が発動している間、あたし達の存在感は『無くな』っている」

    さやか「存在感……? よくわからないけど、早い話が『そーゆー幻術』なんだよね」

    杏子「まあな」

    杏子「とにかく、要するに誰にも気付かれないってことさ。もうちっとあたしを信頼しろということが言いたいんだよあたしは」

    杏子「今のオッサンはせいぜい『何か人の気配がする気がするなぁ、夜の病院って怖ぇなぁ』くらいの認識できてないぜ」

    さやか「……そ、そっか」

    杏子「あたし達は今、誰にも見えないし声も聞かれない。勿論、蹴り飛ばしたり名札を引きちぎったりとかしたらヤバイ」

    さやか「う、うん……」

    さやか「ふ~ん……誰にも気付かない、ねぇ……」

    592 = 531 :



    さやか「……お?」

    さやか「今度はあっちに患者っぽい人と看護師が一緒に歩いてるよ? ちょっと行ってみていい?」

    杏子「盗み聞きか? ほどほどにしろよ」

    さやか「おうよー」


    コソコソ

    さやか「バァ!」 

    さやか「おばけかと思った!? 残念! 美少女でした!」

    患者「まさか君が働いてる病院に入院するだなんて、これは運命だね」

    看護師「んもォ~ショウくんたらァ~ん」

    さやか「すげぇ、ほんとに気付いてない。何か面白い」

    患者「最近お店に来てくれなかっただろう? 俺がいなかったから? ハハッ、じゃあ俺が退院したらすぐ店来てよ?」

    さやか「ホストか何かか? こいつ。ホストってのはどうも気にくわない」

    さやか「こういうタイプのツラは似たようなのがうようよいるからさやかちゃん区別できないぃ~」

    593 = 531 :



    看護師「んねぇ~、ここってぇ~、変な傷跡があるのォ~~恐竜のおばけが出るって噂なのォ~~~」

    患者「怖いのかい?」

    看護師「さっさと改修して欲しいのに院長がァ~、オカルトとかァ、そういうの好きなヤツでぇ~」

    看護師「残すって言うのよォ~~~ちょっとした名物みたいになってるけどォ、ワタシこわぁ~~い!」

    患者「騒ぐなよ……。夜の病院は響くんだ。黙らないとシタ入れてキスするぜ?」

    看護師「きゃ~~~。……でも、いいのォ? だってショウくんは……」

    患者「君が一番さ……。この体は売り物だけど、この心は君だけのものさ……」

    看護師「どうせお客さん全員に同じ言ってるんでしょぉ……? でも、嬉しい……」

    イチャコラ イチャコラ


    さやか「…………」イラッ

    594 = 531 :



    ドゴォッ!


    看護師「!?」

    患者「!?」

    杏子「なっ! 馬鹿ッ!」



    患者「ヒ、ヒィィィ――ッ! お、おばけェェェ――! ゲピィ―――ッ!」

    看護師「ギニャァ――! さ、先行かないでェェェショウくぅぅぅぅぅん!」



    さやか「ちっ……壁殴っちまった……イライラするわ……」

    杏子「バッカてめぇ! 声は聞こえないけどよぉ! こんなことしたら響くに決まってるだろ!」

    さやか「けっ! ざまぁみろ!」

    杏子「どうするんだよ!?」

    さやか「うん?」

    595 = 531 :




    杏子「幽霊が出るって噂になったら営業妨害だぜ! ましてや病院!」

    さやか「大丈夫だよ~。あんなチャラ男とサボリ女の言うことなんかまともに聞かれないさ!」プンスコ

    さやか「すぐ風化するよ!」

    杏子「いやいやいや……」


    ガチャッ

    マミ「ねぇ? 今の何? おばけって聞こえたけど」

    さやか「え?」 

    さやか「あ、あぁ、いや~、えへへ……丁度うとうとしてよく見てなかったからわかんないです~」

    さやか「ね、杏子?」

    杏子「お、おう。な、何かとみ、見間違えたんじゃあねーの?」


    596 = 531 :


    マミ「……? まぁいいけど……。美樹さん。疲れてるようなら仮眠してていいのよ?」

    さやか「いえいえ、みんなが頑張ってるのにあたしだけ寝てなんかいられません!」

    マミ「ふふ、そう? 無理しないでね。佐倉さんは寝ちゃダメよ? はい、グリーフシード」

    杏子「おう。さんきゅ……」

    マミ「あと一時間くらいで終わるそうよ」

    さやか「……! は、はいっ」

    杏子(そういやさっきの患者の顔、どっかで見たことあるような……気のせいだな)




    とある病院の深夜0時17分。患者と看護師イチャついていると大きなラップ音が発生したらしい。

    近くにはリンゴの匂いがし、別の警備員の話ではその場所で人の気配を感じたと語る。

    その病院の第五手術室には壁ドンをするリンゴが好物の霊がいるとされ、リンゴを供えると手術が成功すると噂されている。

    ちなみにその霊はファンタズマ・ロッソ(赤い幽霊)と呼ばれている。


    ――見滝原の七不思議。その⑤

    597 = 531 :




    ――AM 1:22


    ガチャ

    ほむら「…………」

    さやか「先生……恭介の様態は……」

    ほむら「…………」

    さやか「何とか言ってください! 先生!」

    ほむら「…………」

    さやか「先生……!」

    さやか「あ、ああぁぁ……」

    さやか「ああああぁぁぁ……!」ガクリ

    さやか「返して! 恭介を返してよぉ!」


    598 = 531 :



    ほむら「その台詞は決めてたのね?」

    さやか「うん」

    杏子「馬鹿だよな」

    ほむら「愚かね」

    さやか「んなっ!?」

    さやか「……それで、どうなの?」

    ほむら「まだ終わってないわよ」

    杏子「さやかの縫合のターンだぜ」

    ほむら「ほら、いいからさっさと来なさい。縫合するから」

    さやか「はぁい」

    ほむら「マミに消毒してもらいなさい」

    さやか「はぁい」


    599 = 531 :



    マミ「ディシンフェジオネ(消毒)!」

    ズギャンッ!

    さやか「……ど、どうも」

    さやか「あの、それで……手術はどうなの?」

    ジャイロ「ああ……」

    ジャイロ「ま、やるだけのことはやった。切れた神経は全て繋げた。いつかは事故以前と同じようになるだろう」

    ジャイロ「それがいつになるかは後のリハビリ次第だぜ」

    さやか「……!」

    さやか「じゃあ……成功したの!?」

    ジャイロ「そうだな」

    さやか「よ、よかったぁ……」

    ほむら「よくないわよ。まだ終わってないんだからね」

    さやか「あ、う、そうだった」

    さやか「わぁ、エグイなー。あたしの腕もこんなんなったわー」

    マミ「そういうのいいから……」

    さやか「はい。ザ・キュア~」パァ…

    600 = 531 :



    ジャイロ「――さて、これで手術は完全に終わった」


    マミ「お疲れさまでした先生」

    ほむら「結構なお手前で」

    さやか「おあいそ」

    ジャイロ「コントはよそでやれ」

    マミ「それじゃあ、どうする?」

    ほむら「まずは片付けるわ。さやかは杏子と待ってなさい」

    さや「はーい」

    ほむら「それが終わったら患者を病室に戻して、解散ね」


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