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    元スレ魔王「俺も勇者やりたい」 勇者「は?」

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    202 :

    ファンになったわ
    頑張って

    203 :

    >>195 どのクラスの宿に泊まるのかな?

    204 :



     ~魔王城~


    側近「魔王様」

    魔王「ぐががー……zZZ」

    側近「魔王様、起きてください」

    魔王「ふごごー……zZZ」

    側近「…………」







    側近「とっとと起きてください、魔王様」グイー

    魔王「いっ、だだだ! やめて、角引っ張らないで! ひっこ抜ける!」

    205 = 1 :


    側近「なんだか、私が来ると、半分の確率で魔王様が寝てる気がします」

    魔王「しょうがないだろぉ、慣れない事ばかりで、こっちは疲れてるんだよ」

    側近「疲れたら、回復呪文を使えばいいじゃないですか」

    魔王「MPの無駄遣いはあまりしたくないの! 冒険中にMP0になった時の、恐ろしさといったら……」グスグス

    側近「あなた今、魔王なんですから、そんな心配は無意味ですよ。仕方が無い――」



      まおうのそっきんは じゅもんをとなえた!

      まおうの たいりょくが かいふくした! ▼



    魔王「あ、疲れがとれた」

    側近「回復魔法ぐらい、下々の者でも使えます。いつでも頼りにしてください」

    魔王「そっか、……ありがとな」

    側近「側近ですから当然です。ところで、魔王様、夕食の準備が出来たそうですが……」

    魔王「おおおお! 飯ーー! 行く行く! 食べるーーーっ!!」

    側近(……気のせいか、呪文かけた時より、元気が出てるような)

    206 = 1 :



      ~村~


    魔法使い「はーい、到着ー」

    戦士「おー、もう夕焼けが」

    僧侶「迷宮にいた時は気づかなかったですけど、けっこう時間が経ってたんですね」

    勇者「ところで魔法使い。ここは、先ほどの街ではないようだが?」

    魔法使い「ん? 宿に泊まるってだけだから、あたしの独断で移動先決めたんだけど」

    勇者「……普通そういうことは、相談してから決めてほしいんだが」

    魔法使い「まーまー、細かいこと気にしない」

    勇者(適当すぎるというのも、難のある性格だな……)



    魔法使い「ちなみにこの村、温泉が有名で、宿屋にも露天風呂がついてるってさ」

    勇者「素晴らしい働きぶりだぞ、魔法使い」グッ

    僧侶(勇者様が、真顔でサムズアップを……!)

    207 = 1 :


    戦士「にしても、なつかしいなー」

    僧侶「この村に来た時は、冒険の中盤でしたっけね」

    戦士「あ、そういう意味じゃなくてさ。おれ、この辺の生まれなんだよね」

    魔法使い「あらそうなの、初耳ね」

    戦士「ちょうど、この村の隣町に住んでたんだけど、もう町は無くなったんだ」

    僧侶「え、どうしてですか?」



    戦士「魔物の大群に襲われたんだよ」

    208 = 1 :


    戦士「おれが7つの時だから、20年前のことだったかな」

    戦士「近くに住んでた大賢者が助けに来てくれたから、死傷者は少なかったけど、……」

    戦士「町の9割は壊滅、毒を使う魔物が多かったから、戦闘で毒沼がいっぱいできちゃって……」

    戦士「毒沼の埋め立ては、技術的にまだ不可能。だから、町の再建もあきらめて……」

    戦士「生き残った人達は、おれを含め、別の所に引っ越していったよ」



    勇者「…………」

    勇者(20年前の襲撃作戦か。確かに、そんなこともあったな)

    勇者(その時の生き残りが、こうして勇者の仲間になっているとは……)

    勇者(偶然か、はたまた運命か……)



    戦士「っと、辛気臭い話になって悪かったな。さ、宿泊まろうぜ、宿! 温泉ー!」

    209 = 1 :


    僧侶「戦士さん、ご苦労されてたんですね……」

    魔法使い「……あー」

    僧侶「でも、あんなに明るく振舞って……」

    魔法使い「うーん……」

    僧侶「あ、すみません、ちょっと涙が……」グスッ

    魔法使い「……ってことはぁ」



    僧侶「……魔法使いさん? 何をそんなに一生懸命考えてるんですか?」

    魔法使い「――え? ああ、いやいやいや、べっつにー」



    魔法使い(……まさか、ね)

    210 = 1 :



     ~宿屋~


    主人「一晩60Gですが、お泊りになりますか?」

    勇者「はい」

    主人「では、ごゆっくりお休みください」

    魔法使い「あ、御主人さん。露天風呂は何時までやってますかー?」

    主人「夜の間は何時でもどうぞ。うちは、朝食時に大浴場の掃除をしていますので」

    魔法使い「ありがたいねぇ、どうもー」



    主人「では、こちらお部屋の鍵になります」ジャラジャラ

    勇者(……二つ?)

    魔法使い「じゃあ、こっちのもーらい!」ヒョイ

    僧侶「それでは、勇者様、戦士さん、また明日……」



    勇者(……ああ、男女で部屋を分けてるのか)

    211 = 1 :



      ~宿屋・男部屋~


    戦士「っはー、疲れたー」

    勇者(……質素な家具に、木造の床と壁。掃除はいきわたっているらしい)

    戦士「夕日も沈んじまったなぁ。風呂入る頃には、星が見えっかな?」

    勇者(ベッドのスプリングはいまいち。俺の部屋のに比べたら、遥かに硬い)

    戦士「……勇者、なにシーツの匂い嗅いでんの?」

    勇者(洗剤の匂いと、日に干した匂いがする……。洗いたてだが、手触りはそこそこか)



    勇者(これらを踏まえ、この宿屋の総合評価は――)






    勇者「5点だな」

    戦士「え、何点中5点?」

    212 = 1 :


    戦士「しかも、何の点数だよ」

    勇者「この宿の評価だ。10点中5点」

    戦士「100点中じゃなくて良かった……。ていうか、露天風呂に入る前に、評価決めるなよ!」

    勇者「そうか、そういえばまだ風呂に入ってなかった」

    戦士「というわけで、一緒に行こうぜ勇者。いやー、楽しみだなー、温泉」

    勇者「ああ、じゃあ身体洗うの頼む」

    戦士「はぁ? なんで? しかも俺が?」

    勇者「なぜって……」






    勇者「風呂に入る時は、下々の者が身体を洗ってくれるのだろう?」

    戦士「なんなのその王子様発言」

    213 = 1 :


    戦士「16にもなって甘えたことを抜かすな! 自分でやるんだぞ! いいな!」



    勇者(……そうか、人間界ではそういうことになっているのか)

    勇者(となると、こいつが身体を洗うところを見て、覚えるしかないな)

    勇者(まさか、勇者と入れ換わって、こんなことを学ぶはめになるとは思わなかった……)



    勇者(しかし、人間界の温泉は初めてだな)

    勇者(魔界のはいくつか行ったことがあるが、さて、どれほどのものか)

    勇者(…………♪)






    戦士「お、着いたぜー」

    214 = 1 :



      ~露天風呂・男湯~


    戦士「おお、いいねぇ。岩風呂じゃん」

    勇者(湯が、無色透明……)

    戦士「さっさと脱いで、浸かろうぜー。お、ここに効能書いてある。泉質はアルカリ性単純温泉……」

    勇者(硫黄の匂いが、魔界に比べてはるかに薄い。あのむせ返るような匂いが好きだったんだが……)

    戦士「へー、疲労回復や美容、切傷とか擦り傷の外傷にも効くってよー」

    勇者(……温度は、41~2度くらいか。ぬる過ぎる。湯どころか水じゃないか)チャプ

    戦士「お、湯加減見てるのか? 勇者ー」

    勇者(何より、最も納得いかないことが一つ……)






    勇者「なぜ、溶岩風呂じゃないんだ……っ」

    戦士「勇者、ここは地獄じゃねえぞ」

    215 = 1 :



      ~宿屋・女部屋~


    魔法使い「いやっほー! ベッドー!」ボフン

    僧侶「魔法使いさん、乱暴に使ったらベッド壊れちゃいますよ」

    魔法使い「いいじゃないのよー。無礼講ー」



    僧侶「それにしても、一人15Gはけっこうしますね……」

    魔法使い「でも、露天風呂つきと思ったら、けっこう安い方じゃない?」

    僧侶「わざわざ露天風呂つきの宿屋に、泊まる必要はないような……」

    魔法使い「たまには、こういうのもいいでしょ? 心身ともに疲れをほぐすみたいなさ」

    僧侶「しかし……」

    魔法使い「僧侶ちゃん、そんなお堅い頭じゃ、大好きな勇者ちゃんを振り向かせられないよ?」

    僧侶「ぅひゃい!?」ビビクッ

    魔法使い「ふむ、図星からの奇声とみた」

    216 = 1 :


    僧侶「そ、そそそそんなことありません!」

    魔法使い「きゃはは、僧侶ちゃん、分っかりやすーい」

    僧侶「私は神に仕える身です! そ、そのような不埒な色恋沙汰など……!」

    魔法使い「でも、僧侶ちゃんが勇者を見てる時って、ザ・恋する乙女の眼してるよ?」

    僧侶「はうっ!」

    魔法使い「まあ、あたしは、かなり序盤で気づいてたけどね」

    僧侶「そ、そんな昔から……!」

    魔法使い「あははっ、僧侶ちゃん、顔まっかー」

    僧侶「からかわないでください!」

    217 = 1 :


    僧侶「だいたい、なんでこんな時に、そんなことを……」

    魔法使い「だって、もう魔王戦よ?」

    僧侶「それとこれと、何の関係が……」




    魔法使い「――魔王を倒せば、冒険が終わる」




    僧侶「……!」

    魔法使い「冒険が終わったら、このパーティーも解散よね。きっと」

    僧侶「ゆ、勇者様と離れ離れ……!」

    魔法使い「だからさ、離れる前に、自分の気持ちを素直に伝えた方がいいんじゃない?」

    僧侶「…………」

    218 = 1 :


    魔法使い「まあ、確認したいことがあったら、事前に聞いておくのも手よ?」

    僧侶「それは、つまり、例えば……?」

    魔法使い「うーん、そうねぇ……」






    魔法使い「『勇者様は彼女いますか?』とか」

    僧侶「~~~~っ!? き、聞けるわけがありませんっ!」

    魔法使い「えー、告白前の常套句でしょうに」

    219 = 1 :


    僧侶「もう! 私、お風呂入ってきますからね!」

    魔法使い「はーい、いってらっしゃーい」

    僧侶「……? 魔法使いさんは、行かないんですか?」

    魔法使い「あたしはもうちょい、夜が更けてからでいいや。ちょっと済ませたい用事もあるし」

    僧侶「……そうですか」



    魔法使い「あ? 一緒に入りたい? 温泉に浸かりながら、恋の悩み相談でも……」

    僧侶「け、けっこうです! 間にあってます!」


      バタンッ!


    魔法使い「あーあー、行っちゃった。いやー、それにしても面白かったなー」

    魔法使い「…………」





    魔法使い「――さて、私も行かなきゃ」

    220 = 1 :

    もう今週来れないかなと思ったら、運よく来れました。
    本日はここまでです。
    読んで下さった方、コメント&乙くださった方、有難う御座います。
    それでは、また来週。

    223 :

    宿はthree starですね。

    レストランイン?食事楽しみ…

    224 :

    サンスター

    225 :

    おっつん

    226 :



      ~魔王城~


    魔王「っはー、大満足だったー……」

    側近「喜んでいただけたようで何よりです」

    魔王「夕食はさらにボリュームがあったなー。あれなんだっけ? あのメインディッシュ……」

    側近「暗黒牛のシャリアピンステーキ、真紅ワインソースですね」

    魔王「そうそう、それそれ! あれマジ最高だった。肉柔らかすぎて、超感動」

    側近「お気に召されたのなら、また次回作らせますよ」

    魔王「おお! 頼む! あ、それとさ、側近」

    側近「はい、何か?」

    魔王「少し、気になったことがあるんだけど……」

    227 = 1 :



    側近「――なるほど、会議中の殺気ですか」

    魔王「ああ、誰のか分かんなかったから、少し気になってて……」

    側近「…………」

    魔王「むしろ、なんで殺気持たれなきゃいけないのか分かんないし」

    側近「そうですか。分からないのならば、説明をする必要がありますね」

    魔王「うん……、ん?」



    側近「――魔物の中には、魔王様の座を狙っているものが多数います」

    魔王「……え?」

    側近「分かりませんか? 上昇志向、支配欲、出世欲、功名心、野心ってやつですよ」

    魔王「はあ……」

    側近「魔物や魔族といった輩は、そういった願望が、ひときわ強いんです」

    魔王「……」

    側近「だから魔王様は狙われやすいのです。同胞である魔物や、魔族からも……」

    228 = 1 :


    側近「幹部ともなれば、そういう野望を心に抱えながら、仕える者もいるでしょう」

    側近「なので、普段から用心をお願いしますよ、魔王様」

    側近「魔王様の寝首を掻いて、のしあがろうと企む輩は二百といますから」

    魔王「…………」



    魔王(魔王の奴、そんな環境で魔王なんかやってたのか……)

    魔王(どんくらい魔王やってるって言ってたけ、たしか500年?)

    魔王(……なんか、可哀そうだな)

    魔王(あいつの周りに、心から信じられる奴って、どれくらい居たんだろう……)



    魔王「なぁ、側近」

    側近「何でしょうか」

    魔王「魔王はいつから魔王やってたんだ?」

    側近「5歳ですよ」

    魔王「へー、5歳……。……5歳っ!?」

    229 = 1 :


    側近「魔王様が5歳の時に、魔王様のご両親は人間に殺されました」

    魔王「…………」

    側近「なので、幼いとはいえ、止む負えず一人息子を、魔王にする必要があったのです」

    魔王「……そうか」



    側近「ところで、魔王様は、魔王に飽きたから勇者をやりたい、とおっしゃったんですよね?」

    魔王「ん、ああ。そうだけど?」

    側近「昼間に聞いた時は、びっくりしましたが、今なら納得できます」

    魔王「……というと?」

    側近「魔王様はきっと、魔王以外の生活がしたかったんだと思います」

    魔王「……うん。5歳の時から魔王やってたら、そりゃ飽きるし、他の事したくなるよな」

    側近「…………」



    側近(……本当は、すぐにでも城に帰ってきてほしいですが、)

    側近(魔王様の気が済むまで、羽を伸ばしてもらいたいのも、本心ね……)

    側近(……魔王様、今頃どうしてるかしら?)

    230 = 1 :



      ~露天風呂・男湯~


    戦士「よーし、旅の疲れを癒すぞー」ザバッ

    勇者(……なるほど、最初に頭から湯をかぶる、と)ザバッ

    戦士「露天風呂だと、テンションあがるなぁ」

    勇者(シャンプーを適量手にとり、手の平を擦り合わせて泡だてて……)

    戦士「……勇者、さっきから何でこっち見てるんだ?」

    勇者(……しまった、不審に思われたか。なんとか別の話に切り変えないと……)






    勇者「……その、戦士はどうして、戦士になろうと思ったんだ?」

    戦士「え、おれ? いやー、話すと長くなるんだけどさー」

    勇者(……しまった、面倒くさいことを聞いてしまったようだ)

    231 = 1 :


    戦士「おれ、元々は戦士じゃなかったんだよ。城に仕えてた兵士だった」ワシャワシャ

    勇者(指を立てて、泡だてたシャンプーで髪を洗う、と……)ワシャワシャ



    戦士「子供の時から力自慢で、町のガキ大将みたいなこともしてたんだよ、おれ」ワシャワシャ

    勇者(前髪、側頭部、後頭部、耳の裏……)ワシャワシャ



    戦士「だから、こういう仕事合ってるかなーと思ったんだけど……」ワシャワシャ

    勇者(……自分で頭を洗うと、人にやってもらう時ほど、そんなに気持ちよくないな)ワシャワシャ



    戦士「上司と喧嘩しちまって、退職処分になったんだよね」ザバー

    勇者(充分洗えたら、桶の湯をかぶって、泡を洗い落とす)ザバー

    232 = 1 :


    戦士「それからは、傭兵もどきでもやろうかなーって酒場に行ったんだけど」

    勇者(次はリンスを出して……、リンスは泡立たないのか)



    戦士「全然仕事来なくて、酒に溺れる生活になって……」ワシャワシャ

    勇者(シャンプーと同じ要領で洗う……)ワシャワシャ






    戦士「そんな時に、おまえに会ったんだよな」

    勇者(よし、頭の洗い方をマスターしたぞ!)

    233 = 1 :


     ――――――――――
     ―――――…

     ―……



        「なぁ」

    戦士「……ん」

        「おっさん、飲みすぎはよくないぜ」

    戦士「だぁれが、おっさんだー……。おれはまだ、27だ」

        「そっか、ちなみにオレは今日16になったんだ」

    戦士「はっ、酒も飲めねぇ餓鬼が、酒場なんか来るなよ……。とっとと帰れ」

        「そういうわけにはいかないんだ」

    戦士「あぁ?」






    勇者「オレ、仲間を探してるんだよ。魔王を一緒に倒すために」

    234 = 1 :


    戦士「……するってぇと、お前が噂の勇者か」

    勇者「ああ、そういうことだ」

    戦士「世も末だなぁ。こーんな餓鬼に、世界を託すなんてよ」グビッ

    勇者「だーかーらー、もう飲むなって。オレだって、一人じゃ無理だと思うから、仲間探してるんだよ」

    戦士「一人でも百人でも無理なもんは無理だ。あきらめろ、餓鬼ぃ」

    勇者「――まだ始まってもないのに、あきらめられるかよ」

    戦士「…………」



    勇者「オレだって、魔王と闘うなんて、正直怖いよ」

    勇者「でも、誰かが闘わなきゃ、平和は訪れないんだ」

    勇者「オレはこの世界に住むみんなを助けたい。でも、それは、オレの力だけじゃできない」

    勇者「力を貸してくれないか? あんたみたいな強い人の力が、必要なんだ」



    戦士「…………」

    235 = 1 :


    勇者「…………」

    戦士「…………」

    勇者「…………」

    戦士「……」グビーッ

    勇者「だからもう飲むなって!」

    戦士「プハ……、そんな怖い顔すんなよ。こいつは最後の一杯だ」

    勇者「へ?」

    戦士「つまり、この酒場で酒に溺れる生活も、もうおさらばってことだ」

    勇者「……ってことは」



    戦士「行こうぜ、勇者。魔王を倒すんだろ?」

    勇者「……! おうっ!」



     ―……
     ―――――…

     ――――――――――

    236 = 1 :


    戦士「……あれから2カ月かぁ。長かったような、短かったような」

    勇者「…………」

    戦士「なんにせよ、魔王を倒したら、もうこんな生活もおしまいだな」バシャァ

    勇者「…………」

    戦士「けっこう楽しかったんだけど、しゃあないよなー」

    勇者「……おい」

    戦士「ん、なに?」






    勇者「リンスが目に入った時は、どうしたらいいんだ? 痛くて困る」

    戦士「おまっ!? そういう時は我慢しないで、洗い流すんだってば!」バシャバシャ

    237 = 1 :



      ~村はずれの小屋~


     ……コンコンコン



    ???「どうぞ」

    魔法使い「ちわー、お久しでーす」

    ???「こんな夜更けに誰かと思ったら、貴女でしたか。大きくなりましたねぇ」

    魔法使い「ざっと20年ぶりかしら。大賢者様もとい師匠も、元気そうで何よりね」






    大賢者「ええ。すこぶる元気ですよ。それより、今宵はどのような用件ですか?」

    238 = 1 :


    魔法使い「近くまで来たから寄っただけよ」

    大賢者「ああ、故意に近くまで来たんですよね。古代の迷宮から、呪文を使って……」

    魔法使い「……何で知ってんのよ」

    大賢者「各地に使い魔を飛ばしてるので」

    魔法使い「のぞきは最低よ」

    大賢者「老後のささやかな楽しみですよ。ご堪忍」



    魔法使い「それより、まだ魔法で若作りなんかしてんの?」

    大賢者「この姿だとけっこう便利ですから」

    魔法使い「いい加減あきらめて、実年齢で生活したらいいのに」

    大賢者「そう言われましても、わたし永遠の“ナインティーン”ですし」

    魔法使い「“ナインティ”の間違いでしょ?」

    大賢者「これは一本取られましたね」

    239 = 1 :


    大賢者「それにしても、本当に大きくなりましたね。あの頃とは見違えるようです」

    魔法使い「20年も経ったら嫌でもそうなるわよ」



    大賢者「あの頃……、あなたは確か10歳。泉の近くで泣きべそかいてたのを良く覚えてます」

    魔法使い「どうかしてたね、私も。男の子との喧嘩に負けたーって大泣きして」

    大賢者「そこを、わたしに見つかって、『仕返ししたいから魔法おしえて』ってなって……」

    魔法使い「なんでそんなによく覚えてるのよ」

    大賢者「これでも賢者ですから」

    魔法使い「相変わらず、喰えないじじいね」


      シュンシュン……


    大賢者「あ、ぐっどたいみんぐ。お茶が沸きましたよ」

    魔法使い「私が来ると分かってたから、沸かしてたんでしょ。白々しくて腹立つわ」

    240 = 1 :



      ……コポコポコポ


    大賢者「……しかし、その時の男の子どうしてますかね」

    魔法使い「…………」

    大賢者「隣町に住んでた子でしたっけ。この村でも有名なガキ大将だったような」

    魔法使い「…………」

    大賢者「あの魔物達の襲撃以来、みんなバラバラに移動してしまったから、再会の見込みは薄いですね」


    魔法使い「…………」


    魔法使い(……どっこい、かなり近いところにいたんだけどね)

    魔法使い(さっき意識して見るまで、気づかなかったわ。まさか、あんなにでかくなってるとは)






    戦士「べーっきしょん!!」

    勇者「どうした、戦士。風邪か?」

    241 = 1 :


    大賢者「はい、お茶どうぞ」

    魔法使い「ありがと……。……あ、この匂い」

    大賢者「わたしのオリジナルブレンドの薬草茶ですよ」

    魔法使い「懐かしいわ。私が子供のときにも、出してくれたっけ」

    大賢者「ええ。少々苦味が残るので、あの時はよく『不味い』と連呼してくれましたよね」

    魔法使い「師匠って、本当に細かいことばかり覚えてるわよね」

    大賢者「これでも賢者ですから。それで、お味の方は?」



    魔法使い「美味しいわ。もう砂糖無しで飲めるほど、大人になっちゃったんだね、私……」

    242 = 1 :


    大賢者「それで、今宵訪問した本当の用件は何ですか?」

    魔法使い「ああ、それね。どうしても大賢者で博識な師匠に、聞きたいことがあったのよ」

    大賢者「わたしで助けられることなら、なんなりと。短かったにしろ、師弟関係でしたからね」

    魔法使い「助かるわ」

    大賢者「で、何を聞きたいんですか?」









    魔法使い「――勇者が本物か偽物か、確かめる方法を、知りたいんだけど」









    243 = 1 :

    本日はここまでです。
    いつも読んでくださり有難う御座います。
    感想とか乙とかも書きこんで下さって、有難う御座います。
    また今週来ます。

    246 :

    魔法使いちゃんやめてー!

    247 :

    パチモノ勇者に魔(法使い)の手が迫る!

    248 :



      ~露天風呂・女湯~


    僧侶「…………」チャプ

    僧侶「…………」


    僧侶(……魔王戦が終わったら、勇者様と離れ離れ)

    僧侶(……そんなの、さみしすぎる)ポロ…

    僧侶「あ、駄目! 泣いちゃ駄目です、私!」ゴシゴシ

    僧侶「…………」


    僧侶(やっぱり、はっきりと言うべきでしょうか、私の気持ちを……)

    僧侶(……でも、勇者様は私のことどう思ってるかな)

    僧侶(……も、もし嫌いだったとしら……、すごく泣くんだろうな、私)

    僧侶(でも、もし万が一好きって言われたら……!!!)



    僧侶「……キャー…」カァアア

    249 = 1 :



      ~村はずれの小屋~


    大賢者「……それは、とどのつまり、どういうことなんですか?」

    魔法使い「そのままの意味よ。今の勇者は偽物じゃないかと、私は疑っているの」

    大賢者「偽物……? そこに至るまでの経緯を聞きたいのですが」

    魔法使い「そういう、説明がめんどいところこそ、覗き見しといてよ」

    大賢者「まあまあ、そう言わずに」

    魔法使い「はいはい。――昨日の魔王戦以降、勇者の様子がおかしいのよね」

    250 = 1 :


    大賢者「具体的に、どんな風におかしいんですか?」

    魔法使い「うーん、うちの勇者って、基本熱血系なんだけど。今日になって、かなり冷めてるのよ」

    大賢者「ははあ。態度が激変したと」

    魔法使い「うん。生き返って一言二言交わした時に、『変だなー』ってまず思ったわ」

    大賢者「ですね。例えるなら、あなたが一晩で、完璧な淑女らしさをマスターしてるといったところですか……」

    魔法使い「私をなんだと思ってるのよ」

    大賢者「いやあ、そりゃあさすがに変とも思いますよねー」

    魔法使い「なんで質問スルーしてんのよ」


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