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    元スレ勇者「世界救ったら仕事がねぇ……」

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    251 = 1 :

    戦士「……よし、お前ら、全員ならべ!」

    エー ナニー キャッキャ

    戦士「ならべ!」ずん

    子どもたち『は、はいっ!』

    戦士「いい返事だ。いいか、今回の作戦をもう一度確認する」

    戦士「お前たちはここを脱出したら、西へと向かい、そこで新しい町をつくる準備を行うという任務を負っている」

    戦士「……分かるか?」

    子どもたち『はいっ』

    戦士「よし。そのためにはここで消耗してはならない」

    戦士「俺が囮になって、その隙に脱出する必要がある」

    戦士「……分かるな?」

    子どもたち『わ、分かりました!』シター

    252 = 1 :

    戦士「よし。では、合図があるまで、待機!」

    子どもたち『分かりました!』


    武闘家「うまいですねー」

    戦士「あんたものほほんとしてるな」

    武闘家「す、すみません」

    戦士「とりあえず、うちの弟子を何人か護衛につけると言ったろう。ちょっと待ってくれ」

    武闘家「分かりました」

    「お、おじさん」

    戦士「……なんだよ」

    「ごめんなさい、私がしっかりしないといけないのに」

    戦士「気にするな。ぶっちゃけ、勇者と大して変わらん」

    「ホントに?」

    戦士「……あまり真似するなよ」

    253 = 1 :

    ―――道場。

    戦士「おい、お前ら!」

    弟子A「あ、師匠!」

    弟子B「なんか軍隊来てるみたいっすよ」

    戦士「知ってるよそんなこと。それより、ガキどもに武器触らせんなよ!」

    弟子A「す、すみません」

    弟子B「気をつけます……」

    戦士「分かったんなら、その軍隊と『話し合い』に行くぞ。二名ほどはガキどもについていってやれ。後の連中は俺の武器を持って来い!」

    弟子たち『了解しました!』

    バタバタバタ……

    戦士「……」

    戦士「結局、俺は損な役回りだな」

    254 = 1 :

    今夜はここまで。

    書き溜めが消えてしまいました(涙

    次回は僧侶&貴族さんへシーンを移します。

    255 = 231 :

    盛り上がってまいりました!

    256 :

    おつ

    257 :

    戦士の武器は複数で持つようなものか
    ドラゴンころしくるで!ww

    258 :

    北国、戦場。

    すでに数週間が経過しているというのに、貴族と僧侶はまだ城に近づけずにいた。

    その理由の一つは、蜂起の際の出遅れである。
    呼びかけた兵士や領主たちが集まるまでに時間がかかり、今なお態度を決めかねているものたちも多くいた。
    何しろ蜂起のきっかけが、貴族が襲われたことだったので、準備が整っていない。
    まして、それが正当性を持ちえるのか、ということを悩むものいたのでなおさらだった。

    兵を集めるのに時間がかかれば、相手にも時間を与えることになる。

    すばやい作戦が失敗した上に、東の国から軍が派遣されると伝わって、何名かの有力者は離脱を宣言し始めた。
    位置関係から言って、北国の軍と挟撃されるのは分かりきっていた。
    貴族と僧侶の奮闘あって、城に迫りつつはあったが、みるみる内に兵力差がついていく。

    もはや、勝敗は決したと言ってよかった。

    259 = 1 :

    僧侶「貴族様、これ以上は無理です!」

    貴族「くっ、あと少しで次の町だというのに……」

    僧侶「無茶をしてはなりません」

    兵士「南から、新手です!」

    貴族「味方ではありえないな……」

    僧侶「……後退しましょう」

    貴族「しかし、このままでは!」

    僧侶「作戦を練り直しましょう」

    兵士「し、しかし、囲いが出来つつあります」

    僧侶「……私が血路を開きます。貴族様はそれを越えて、先へ」

    260 = 1 :

    貴族「それだけはできない!」

    僧侶「貴族様、あなたはこれから必要な方です」

    貴族「何を言う! それなら、僧侶さんも」

    僧侶「……国を変えるのに、英雄はいりません」

    貴族「!」

    僧侶「私は救世の英雄と持ち上げられてしまいました」

    貴族「そ、そうかもしれんが!」

    僧侶「大丈夫です、みなを逃がしたら、ちゃんと追いつきます」

    貴族「そういう問題ではない!」

    261 = 1 :

    僧侶「……貴族様。私は感謝しています」

    貴族「な、何を言う」

    僧侶「英雄という肩書きは、子どもらを救うのに何の役にも立ちませんでした」

    貴族「そんなことはない!」

    僧侶「孤児院の許可を下さったのは、あなただけでした」

    貴族「そんなバカな……」

    僧侶「ウソではありません。教会では他国へ支援は難しいと言われました」

    僧侶「他国で活動しようとすれば目立ってしまい、嫌がられました」

    僧侶「ある時など、はっきり言われました、『まだ名声が欲しいのか』と」

    貴族「……」

    262 = 1 :

    僧侶「私は神に捧げた身と思って、魔物と戦いました」

    僧侶「けれど、子どもたちはその間にも親を失い……」

    貴族「それは僧侶さんのせいではない!」

    僧侶「……ありがとうございます」

    僧侶「とにかく、私は名誉や名声のために戦うつもりはありません。ここで貴族様を死なせるわけにも」

    貴族「それは……私も」

    兵士「貴族様! 相手の陣形が狭まりつつあります!」

    貴族「囲まれる!」

    僧侶「無駄話をしている場合ではありませんね!」ダッ

    貴族「僧侶さん……!」


    僧侶は飛び出した!

    263 = 1 :

    僧侶「愚か者どもよ!」

    敵兵1「おっ、なんだぁ、女だ!」

    敵兵2「油断するな! そいつは勇者の一行だぞ!」

    敵兵3「かまわねぇ、やっちまえ!」

    敵兵2「相手は魔王を倒した化け物だぞ。特に僧侶は怪力だと聞く」

    敵兵1「へっ、ゴリラじゃあるまいし、びびりすぎだ」

    敵兵3「女だから、メスゴリラだな、がははははっ!」

    ぶはははははっ!


    笑い声が響く。
    突出してきた僧侶を侮りながら、敵兵たちは数に任せて殺到しようとした。

    その目の前に、宝玉のぶら下がった大きな杖を突き立てて、僧侶もまた笑った。

    264 = 1 :

    僧侶「……メスゴリラ?」

    僧侶「あなた方は、猿の魔物も見たことがないのですね」

    敵兵1「何言ってんだぁ?」

    僧侶「一つ、近いものをご覧に入れましょう」

    僧侶「死を恐れないというなら」


    異様な雰囲気に、前面にいた兵士たちが飲まれた。
    後ろの兵士が押し出そうとするが、まるで結界が張られたように、うまく動けない。

    兵士たちの目の前で、僧侶が杖を光らせ始めた。


    僧侶「鋼の肉体……」

    僧侶「強靭な腕力……」

    僧侶「……神の名の下に、私は現れるだろう……」


    僧侶『鋼 鉄 防 御 呪 文!』

    ―――みりぃっ
     

    265 = 1 :

    肉が裂ける音が聞こえた。
    しかし、見てみれば裂けた肉の隙間から、新しい肉が膨れ上がってくる。

    僧侶の身体が、見る間に厚みと大きさを増していく。
    背丈が、シルエットが、三回りほど大きくなったところで、タイツから零れ落ちる筋肉が、
    実際に鋼鉄のような艶と色合いをしていることに兵士たちが気づいた。

    顔だけは、元のまま。
    まるで鉄製の裸身像にお面を被せたような僧侶は、にこり、と相手に笑顔を見せた。

    追いついた貴族が絶句した瞬間、僧侶の姿がかき消えた。
    いや、殺到した敵兵たちの肉の間にもぐりこんだのである。


    ぐぎゃああああああっ

    ひぃいいっ

    うわっ、うわあああああ


    文字通り、黒い塊の敵兵が引きちぎられていく。
    殺到から一転、敵兵の集団は退却の態勢に入れ替わった。

    266 = 1 :

    僧侶「……今のうちです!」

    貴族「あ、はい」


    振り返られて、話しかけられた貴族が、深呼吸する。
    一度、間を入れなければ耐えられなかった。


    貴族「……僧侶さんが道を作った! 全軍、ここを突破しろっ!!」

    兵士たち『うおおおおおおおおおっ!!』

    貴族「西だっ、西の森の方角へ!」


    僧侶の脇をすり抜けて、まず騎兵が突破していく。
    邪魔をしようと前に飛び出すものはいない。
    馬にぶつかろうとするものがいないのと、そして止めようとするものは、筋肉に叩き潰されているからだった。


    僧侶「鉄槌です! 神の鉄槌です!」

    貴族「……神の威力は凄まじいな」

    267 = 1 :

    半刻、いや、もっと短い時間の内に、部隊の一角が散り散りにさせられた。

    後ろから追撃しようとする部隊もいたが、逃げ出した敵兵が邪魔になり、進めない。
    そしてさらに、壁となっている僧侶の肉体は、矢も剣も通さなかったのである。

    何を投げつけても、鋼鉄の肉体に通じるものなし。
    彼女には不釣合いに見えた大きな装飾つきの杖は、いまや別の意味で不釣合いに見える。
    すでに小さな棍棒と化していたそれは、何十本かの人間の骨を打ち砕いていた。

    なおかつ、彼女は次第に速さを増していった。
    そう、「速度上昇呪文」である。

    囲いは破れ、決着に思われた事態は別の方角へ転がりだした。

    268 = 1 :

    貴族「僧侶さん、もう我々が最後に近い!」

    僧侶「ふうっ、はあっ、わかり、ましたっ!」

    貴族「西の森だ! 急いで!」


    貴族は黒光りする筋肉に手を差し伸べた。
    硬い、そして優しい手が、それを握り返す。


    貴族(手をつなぐのは、初めてだな……)

    僧侶「貴族、様、これを、使う、と、ちょっと、疲れます」

    貴族「しゃべってはならん!」


    貴族は僧侶を引っ張りながら、次第にしぼんでいく僧侶の身体を抱き寄せた。
    そのまま、ふらつく彼女を支えて、走り出す。

    だが、二人の視線の先に、影が映った。
    先行する兵士たちをなぎ倒して、こちらに躍り出てくる。
    それは明らかに人のシルエットではなかった。

    269 = 1 :

    貴族「こんな時に、魔物の残党か……!」

    僧侶「貴族、様、私、おいて……」

    貴族「しつこいぞ! 私にはあなたが必要だっ」


    虎魔物「……勇者の仲間はいるかあー!?」


    貴族「!」

    僧侶「……」


    虎魔物「ちっ、手応えがない連中ばかりだ。また外れかね」


    貴族「あいつ、勇者殿の一行を探しているのか」

    僧侶「はぁ、はあっ」

    虎魔物「さっきはこっちの国の兵士をやっちまったしな。人間なんか大体同じ顔に見えるのがいけねぇ」

    貴族「くっ、しかし、戻るわけにはいかない……」

    僧侶「……ここです!」

    270 = 1 :

    虎魔物「おっ?」


    僧侶「私、です! 私が、勇者の仲間っ」

    貴族「僧侶さん!?」

    僧侶「貴族、様、早く、私、おいて、みなさんを、助けてっ!」

    貴族「できるわけがないだろう!」

    虎魔物「……よく分からんがお前が勇者の仲間なんだな」ずん

    貴族「魔物めっ、この私が相手だ!」チャキ

    僧侶「き、貴族様……」

    虎魔物「……」

    貴族「僧侶さん、愛しています!」

    僧侶「うっ、うう」グス

    虎魔物(なんか気まずい……)

    271 = 1 :

    虎魔物「あー、どっちが勇者の仲間だ? 俺はそいつを探しているだけだ」

    僧侶「私、です!」

    貴族「僧侶さんには指一本触れさせん!」

    虎魔物「……」

    兵士1「こらあ、魔物風情が、お二人を邪魔するんじゃねぇ!」

    兵士2「貴族様ー! 僧侶様ー!」

    虎魔物「……うるせーし、とりあえず、両方やっちまうか」

    兵士たち「ああっ!」


    虎の魔物が腕を振り上げる。
    もはや、疲れ切った二人には、それを受け止める力は残っていない。

    振り下ろされた爪が、二人を切り裂く。

    272 = 1 :

    ―――ことはなく。

    がきぃっ!

    という、金属音が戦場に響いた。

    爪の間と間に剣が入り込み、虎の前進を阻む。
    その剣の主は、間違いなく。


    勇者「なんだよ、魔物がいるんじゃん」


    僧侶「ゆ、勇者様」

    貴族「勇者殿!」

    兵士1「勇者様だ」

    兵士2「勇者殿が来たぞー!」


    勇者だった。

    273 = 1 :

    今夜はここまで。

    「鋼鉄防御呪文」ってあれです。スカラ的なやつ。

    274 :

    こ・・・ここまで・・・か・・・!ガクッ

    乙です

    275 :

    >>273
    嘘だよ、動けるアストロンクラスの描写だったじゃんw

    276 = 275 :

    おっと、ともかく乙

    277 :

    スカラとバイキルトもかかってそうだなww

    279 :

    顔だけそのままで、身体は筋骨隆々……


    兵士殴り代行始め(ry
    トゥットゥ(ry

    280 :

    動けるアストロンとかチートすぎるwww

    281 :

    防御力上がりすぎてノーダメージなだけで、ブレスとか魔法は効く感じでお願いします(´・ω・`)
    ピオリム的なの使ってるし

    貴族と僧侶のロマンスっぽいのを書こうとしたのだが……

    282 :

    ロマンスどころか貴族のどさくさ紛れの告白タイムが総スルーされたなwww

    285 :

    貴族は不憫

    286 :

    今夜もちょっとだけでも投下したい。
    あとまだキャラが増えそうです
    こうなったらいけるところまでいったるわー

    287 :

    虎魔物「勇者? お前が勇者なのか?」

    勇者「おう! あと、重いから力をぬけ」

    虎魔物「……」


    がいん!


    勇者「親切なやつだな。ありがとう」

    虎魔物「そうか、お前が勇者か……初めて見たぜ」

    勇者「おう、いま、世界で一番有名な男さ」

    虎魔物「……こういう場合はどうするんだっけな」

    貴族「勇者殿! 今は非常時です! おしゃべりしている場合ではありませんよ」

    勇者「いいじゃん、別に。虎男! 斬られる前に何か言いたいことでもあるのか?」

    虎魔物「まるで自分は死なないような言い草だ。だが、お前に聞きたいことはある」

    勇者「ほほう」

    虎魔物「なぜ、俺のいた氷の洞窟にこなかった」

    288 = 1 :

    勇者「氷の洞窟? そんなもん、あったか?」

    虎魔物「あったぞ! ほら、この国の、もっと北の方に、氷河の近くにな」

    勇者「……あの辺は寒いからスルーしちゃったなぁ」

    虎魔物「なんだと!?」

    勇者「だって、氷河の手前にあった村には立ち寄ったし、それ以上は特に重要な道具が眠ってるとか、そういう情報なかったし」

    虎魔物「……罠をたくさん仕掛けて待っていたんだぜ」

    勇者「そっかー」

    虎魔物「……ちょっと洞窟を出て、狩りをしている人間どもに吠えたりしてアピールしてた」

    勇者「ふーん」

    虎魔物「暇すぎて、洞窟にカーペット敷いたりしたし」

    勇者「経費の無駄遣いだな」

    虎魔物「お前が来ないのが悪いんだろうが!」

    勇者「えっ?」

    289 = 1 :

    勇者「俺はあまり頭良くないけどさぁ、そりゃお前のマーケティングが悪いよ」

    虎魔物「マーケ、なに?」

    勇者「マーケティング。女商人が言ってたんだけど、お前の場合、冒険者が求めてるものを考えてないわけじゃん?」

    虎魔物「魔物がいれば、退治したくなるんじゃねーんか?」

    勇者「そりゃ現実に脅威ならな。でも、氷河の奥地に貴重な武器があるわけでもなし、遠くで吠えているだけなら野犬と同じだ」

    虎魔物「……」

    勇者「ちなみに、実際、俺ら以外の冒険者も来てたのか?」

    虎魔物「そういえば、ほとんど来てない気がするな……」

    勇者「だろ? 普通の冒険者も来ないんじゃダメだよ」

    虎魔物「だって、勇者倒すためだから、他の冒険者に来られても困るしよ」

    290 = 1 :

    勇者「それがダメなんだよ! まずは冒険者を集めないと、村でも話題にすら上らないんだぜ」

    虎魔物「その、近くの村はどーだったんだ」

    勇者「ダメ、全然記憶にねぇ」

    僧侶「魔物が増えたという話はありましたよ……」

    虎魔物「……」

    勇者「なんか大事なものを奪ってきて、アピールするとか」

    勇者「何もなくても、せめて何かありそうなうわさを流すとか」

    虎魔物「……お前、頭いいな」

    勇者「いや、これ受け売りよ? もっと勉強しろよ」

    虎魔物「分かった。お前を仕留めたら、鳥に学ぶことにしよう」

    勇者「……結局、やるんでいいんだな。分かりやすいぜ」

    291 = 1 :

    貴族「勇者殿!」

    勇者「僧侶さん、フォローよろしくっ!」


    叫んで、勇者は虎の魔物に襲い掛かった。

    虎は突きつけられた剣を爪でさばく。
    すばやさに自信のあった虎は、自分が後手に回ったことに驚いていた。
    何の威圧感もなく、さくり、と左腕の毛を裂かれたところで、寒気が走った。

    先ほど会話していたその調子と同じように、目の前の人間は突っ込んでくる。
    何の気負いも緊張もなく、剣を振るってくる!

    剣を横に振られて、大きく体を反らした虎は、横合いにすっ飛んで間合いを取った。


    虎魔物(なるほど、この無謀さ、ためらわない行動力、これが勇者というやつか!)


    にゃあ、と虎の口元が歪んだ。
    勇者のこの、訳の分からない強さに、虎は興奮を覚えた。

    292 = 1 :

    虎は二足で迎え撃つのをやめて、四足で地面をつかんだ。
    ちょうど力士が突進するように、身を縮めて力を溜める。


    僧侶「勇者様、危険です!」

    勇者「フォローを!」

    僧侶「ああ、もう!」


    後ろの方で勇者の仲間がごちゃごちゃと話している。
    だが、虎の体勢を見ても真っ直ぐに突っ込んでくる人間を見て、虎も構わず彼だけを見つめた。

    勇者が間合いに入る。それを見て、虎も跳ねた。

    虎の伸び上がった体が、勇者の頭を目掛けて突っ込んでくる。
    それに対して、勇者も剣を構えて突きを打ち込もうとする。

    剣が突き刺さる直前、虎は右爪で剣を横に弾いた。
    そして、大口を開けて、かぶりつこうと牙を立てた。

    293 = 1 :

    かわせない。

    剣を弾かれた勇者はしかし、武器を持たない素手を、虎の口に伸ばした。
    伸ばした右腕が赤く光る。


    勇者「燃えろボケッ!」


    ずどん、という音があたりに響く。
    何の魔法だったのか、虎の口内に、火の球が弾けたのだ。
    前傾姿勢のために仰け反ることもできず、虎はその場で踏ん張るほかなかった。

    勇者が横にすっ転んでしまうかのように、姿勢を低くする。
    踏ん張る虎の足に、勇者は、叩き落とされた剣を拾って斬りつけた。

    魔法を放った右腕は黒こげていた。
    残った片腕だけの威力だったが、虎はたまらずバランスを崩した。

    294 = 1 :

    勇者「やった!」


    勇者が叫んだ瞬間、頭部を焼かれて飛びかけていた虎の意識が戻った。
    無様に、だが必死になって丸く横っ飛びに転がる。

    捨て身、無鉄砲、命知らず、勇者を戦闘スタイルを表す言葉が虎の頭に浮かぶが、消える。
    力で勝っている、技でも遅れは取らない、はずだった。
    だが、それ以上の何か、訳の分からない強さを、虎は確実に感じ取った。

    ごろごろっとさらに森の方へ転がって、起き上がる。

    勇者が止めを刺し損ねてたと気づき、駆け寄ってくるのを見て、虎は移動の道具を取り出した。
    口が焼かれているので、捨て台詞も吐けやしない。

    だが、駆け寄る勇者を見つめながら、にゃあ、とまた笑った。


    虎魔物(十年はなかったぜ、こんな勝負。魔王様以来だ!)


    虎の姿が掻き消えた。

    295 = 1 :

    勇者「あっ、くっそー逃げられちまった」

    僧侶「勇者様! 無茶しないでください」

    勇者「おう、焦げちまった」

    僧侶「もう……癒しの力よ」


    勇者の火傷が治っていく!


    勇者「ありがとー」

    貴族「……いつもあのような?」

    勇者「久しぶりに強敵だったからなー。勘が鈍って、倒せなかった」

    僧侶「お一人で先行しすぎなのです!」

    貴族「恐ろしい男だな……」

    296 = 1 :

    僧侶「それより、今はみなをまとめて脱出しなければ」

    貴族「そうだ。よし、急ぎますぞ」

    勇者「おう、んじゃ、二人とも俺に負ぶさってくれ」

    僧侶「そ、そんな」

    貴族「何を言っている」

    勇者「力が有り余ってんだよ! そうでもなけりゃ、一部隊つぶしてから戻ってくるけど」

    貴族「……大量破壊兵器だな」

    僧侶「わ、分かりました。お言葉に甘えます」

    貴族「そ、僧侶さん!?」

    勇者「っしゃあ! 積もる話はまた後だ!」


    勇者は両腕に二人を抱えあげて、一目散に駆け出した。

    297 = 1 :

    南の国、勇者の故郷。酒場。

    商人「マスター」

    マスター「あら、女商人さん、もう帰ってきたの?」

    商人「ええ。前置きせずによろしいですか?」

    マスター「え、ええ」

    商人「魔法使いからの手紙、受け取りましたね」

    マスター「読んだけど……」

    商人「では、支度を」

    マスター「できないわ」

    商人「……」

    マスター「このお店は、先代からずっと受け継いできたものだもの。それを捨てるなんてこと……」

    商人「そうですか」

    298 = 1 :

    マスター「魔法使いさんの気持ちも分かるわ、なんだか、この国も物騒になってきたもの」

    商人「実は、ここから出た軍隊が、いま戦士の村を襲っています」

    マスター「え……」

    商人「おそらく、北国で反乱を起こしている僧侶への牽制でしょう」

    マスター「た、大変じゃない!」

    商人「ええ、隙をついて逃げ出してきました」

    マスター「逃げ出してきたって……」

    商人「私なりにやるべきことがあると思いまして」

    マスター「……」

    商人「マスター、私はこの国が許せません。冒険者たちを集めて、その交流で栄えてきたのに、魔王を倒した途端に登録制を廃止して」

    マスター「そうね……盗賊さんなんか、冒険者として認められなくなったら、捕まっちゃって」

    299 = 1 :

    商人「冒険者たちを集めて、探検隊を作るという魔法使いの計画、あれは一つの救済策でした」

    マスター「おかげで、こっちはもっと寂れちゃったけど」

    商人「……実を言うと、国が探検隊を了承したのにも裏があるのではないか、と私は思います」

    マスター「そう……なの?」

    商人「ええ。おそらく、私は普通にしていたら捕まるでしょう。マスターが勇者の町に行かないというのであれば、もう私からは何も言えません」

    マスター「……」

    商人「……私は、場所も建物も大事だと思います。けど、思いの方が大事だと思ってます」

    マスター「それは、簡単に言っていい言葉じゃないわ」

    商人「分かりません。思いを踏みにじられて、悲しんでいる顔を見たくないのも、事実です」

    マスター「……うん」

    商人「もし、賛同してくださるのであれば、馬車のお手配は済んでますので」

    マスター「そ、そうなの?」

    商人「勇者の家族も移住させる計画なんです」

    300 = 1 :

    勇者の実家。

    商人「こんにちは」

    勇者「あら~、しょーにんさんじゃないの~」

    商人「あの、実は、息子さんがピンチでして」

    勇者「そうなの~? でも、あの子のことだから、大丈夫だと思うわ~」

    商人「いや、それでですね、お母さんのことも心配してらしてですね、引越ししてほしいと」

    勇者「大丈夫よ~、ずっと住んできたんだもの~」

    商人「……」

    勇者「しょーにんちゃんは~、うちののお嫁さんになる気はないの~?」

    商人「は?」

    勇者「なんだか、お城のお姫様との縁談は~、ことわっちゃったみたいで~」

    商人「はあ」

    勇者「ちょっと心配っていうか~、私に似て要領が悪いところあるし~」

    商人(なんだかな……)


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