元スレ勇者「世界救ったら仕事がねぇ……」
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651 = 1 :
仮設「勇者の町」。
隊長『ん、んー。あ、あー……これ、聞こえてるんか?』
隊員『大丈夫です』
隊長『よし……反逆者ども! 無駄な抵抗はやめて、投降しろ!』
隊長『ぐはははっ、今なら女は娼婦、男は男娼で許してやるぞ!』
竜魔物「……なんだ、あのバカそうなの」
遊び人「僕らのいた、南国の探検隊の隊長です」
盗賊「っていうか、なんなの? あのバカでっかい声は!」
側近「拡声機能よ。あれ、めっちゃ豪華だから、通信機材も一通りそろってんの」
盗賊「かく、なに?」
遊び人「声を拡大する機能というわけですね、原理的にはこう、手で三角を作って大声を出すやつがあるでしょ……」
盗賊「へぇー、あんた詳しいのね」
武闘家「ど、どうするんですか?」
盗賊「どうって、投降するわけにもいかないでしょ……」
652 = 1 :
隊長『おい、聞いているのか、貴様ら!』
隊員『隊長、もう攻撃しましょうよ』
隊長『ん、んー、しかし、まあ、ほら、捕虜とかさ、聞き出さないといかんだろ』
隊員『そんなこと言って、遊びたいだけでしょ』
隊長『うるせぇ、バカ野郎!』
遊び人「声が漏れてますねぇ」
盗賊「完全にあんた狙いじゃない?」
遊び人「あの夜に、ちょっとやりすぎちゃいましたかね?」
弟子C「……城と戦うやり方は習ってないな」
弟子D「ホントだよ、攻城戦の経験があるやつなんて、いる?」
側近「ふっ、ただの要塞じゃないわ。兵器なのよ、あれは!」
653 = 1 :
隊長『まあ、仕方あるまい……反抗の意志をなくさせてやろう』
隊長『全門開放、発射用意!』
隊員『―――準備、完了しました』
ごんごん、という何かがうなるような音が「要塞」の内部から聞こえてくる。
「要塞」に生えた可動部分が足だとすれば、ちょうど腹にあたる箇所に、無数の穴が開いてきて―――
黒色をした大筒が、「町」に向かってせり出してきた。
盗賊「な、なんなのよ」
側近「聞いて驚け、一門が火炎呪文の十発分、火球を撃ちまくり!」
側近「主砲は勇者に対抗するため、最大では村一つを焼き尽くす威力の雷撃砲!」
側近「ちょっと燃費は悪いけど、自立式で移動もできる大要塞!」
側近「実は私が作成にも関わってます(笑)」ドヤ
竜魔物「ほう」
隊長『発射!!』
ずばばばばばばッ!
側近「うきゃああああああ!」バリィィィッ!
盗賊「に、逃げるわよー!」
654 = 1 :
強烈な雷撃が直線上に走って地面を焼くと、周囲に火球が次々とばら撒かれる。
仕掛けてあった爆弾石が爆発していくが、「要塞」にはなんらのダメージも与えられない。
一方、こちらの簡単な柵程度では、なんらの防御にもならず、「町」に集っていた人たちは一斉に後退した。
激しい攻撃に、またスライムが数匹焼け飛び、それから、側近が焦げた。
遠くで隊長の哄笑が聞こえる。
ひとしきりの攻撃が終わると、続いて、ずずぅん、というあの重々しい足音が響き始める。
少女「ど、どうしよ、どうしよ」
武闘家「全員下がって! 下がってください」
少女「あんなの、倒せるわけないよっ!」
武闘家「町長代理! 落ち着いてください!」
少女「う、うん。でもぉ……」
スラ「ぴ、ぴぃ……」
少女「す、スラちゃん……」ギュ
竜魔物「……何をしている、代理」
655 = 1 :
少女「竜の、おじさん」
竜魔物「力を貸して欲しいと言ったのはお前だ」
少女「え? う、うん」
竜魔物「……俯いていないで、早く力を求めるのだ」
少女「えっと……」
少女は顔を上げる。
大人たちがこちらを見ている。
何が出来るかは分からないけれど、言わなくちゃ。
少女「……うん。みんな、力を、貸してください!」
竜魔物「了解した」
武闘家「は、はい! はい!」
大人たちが頷いてくる。
子どもたちも、こっちを見てくる。
そうだ。力を、合わせるんだ。
656 = 1 :
マスター「私たちは、子どもを連れて、もっと下がるわね!」
勇者母「みんな~、逃げるわよ~」
少女「お願いします! みんな、任務は全力で避難することだよっ」
子どもたち『はーい!』
馬車に子どもをつめると、マスターはムチを振るった。
相手は距離をつめる速度は遅い。逃げる分には間に合うだろう。
少女「……あの、武闘家さん、魔法使いさんの計画書に何かないですかっ」
武闘家「え? あ、そうだ! マシン兵について書いてあったんだし……」
魔法使い『マシン兵が出てくるとしたら、戦ったこともないし、私には分からないわね』
魔法使い『側近が知ってそうだし、彼女に聞いてみること』
少女「……側近さん!?」
遊び人「焦げてます!」
側近「ぷけー」プシュー
武闘家「ああもう! ああ、もう~!」
657 = 1 :
竜魔物「……俺が足止めをしよう」
少女「竜のおじさん!」
竜魔物「……その間に、あのアホを起こしてくるんだ」
少女「だ、大丈夫……?」
竜魔物「……スライムの扱いには慣れたか?」
少女「う、うん」
竜魔物「では、複数の魔物を扱う実践を見ていろ」
少女「分かりました!」
竜魔物は防具のプレートの固定具合を確かめると、散り散りになっているスライムに吠え立てた。
竜魔物「全体、集合ッ!」
スライム隊『ピッキィーッ!!』ずざざざっ
658 = 1 :
竜魔物「これより、敵の進軍を遅らせる作戦を行う!」
スライム隊『ピッ!』
竜魔物「三隊に分かれろ! 急急如律令!」
スライム隊『ピーッ!!』
スライム達が竜を中心に集まっていた状態から一斉に列を為し、すぐさまそれを三つに編隊する。
第一隊には、赤く燃えるようなスライム達が。
第二隊には、緑色に落ち着いたスライム達が。
第三隊には、青色に透き通ったスライム達が並んだ。
前方には、爆発で立ち込めていた土煙を割るようにして「要塞」が迫ってきている。
しかし、竜魔物には、素人が新品の馬に得意げに乗り回しているようにしか見えなかった。
竜魔物「見ての通り、やつらは雷撃こそ射程が長いものの、火球は自らの周囲にしかばら撒けていない!」
竜魔物「恐れず、的確に行動せよ!」
スライム隊『ピ、ピ、ピーッ!!』
659 = 1 :
竜魔物「第一隊、火炎呪文用意!」
赤スライム隊『ぴッ!』(了解ッ!)
魔法使いから、爆弾石を埋めた箇所は知らされている。
竜魔物は、それらのポイントに向かって方向を指示すると、「要塞」が無防備に近づいてくる様子を見た。
案の定、拡声器から聞こえてくる声は、嘲るような笑い声しかない。
というより、拡声器の切り方もよく分かっていないようだった。
竜魔物(もう少し……)
火球の射程のぎりぎり手前、相手の視界を防ぐに足る間合いまで、あと一歩。
重々しいが、無警戒な足音が、彼の間合いに―――入った。
竜魔物「撃てッ!!」
赤スライム隊『ぴ、ぴーッ!』(火炎呪文!)
660 = 1 :
ずどどどどっ、という火球の降り注ぐ音に遅れて、爆弾石が弾ける。
無論、「要塞」にはヒビ一つ入る事はない。
それで構わない。
目的は、視界を奪うことである。
竜魔物「次、第二隊、前方に向かって十の位置に穴を掘れ!」
緑スライム隊『ぴ』(是)
竜魔物「斜め下の方向に、押し広げること!」
緑スライム隊『ぴぴっ』(肯定っ)
文字通りの殺到である。ただし、訓練された殺到である。
緑のスライムたちが、土煙の中に次々と飛び込んでいく。
指示された位置の地面に一匹がぶつかると、その下にもぐりこむようにして次のスライムが土を掘り起こす。
あっという間に大人一人分の大きさの穴をほりあげると、続いてさらに深く潜る部隊と横に押し広げる部隊に分かれて、穴を押し広げていく。
穴が斜め下に掘り広げられる間に、闇雲に相手が火球を放つ、が、当たるわけがない。
661 = 1 :
隊長『……何がどうなっている?』
隊員『はあ、なんていうか、よく見えないですね』
隊長『なんか視界を良くするのがあるだろ。自分の武器で見えなくなるのもおかしいだろ』
隊員『よく分からないですね』
隊長『ちっ……じゃあ主砲でも撃つか?』
隊員『あれはチャージが必要だし、大体、魔力が勿体ないですよ』
隊長『面倒だな……まあ、丈夫だからいいけどよ』
漏れ聞こえる会話を聞きながら、竜は「要塞」が無理に動こうとするのを見た。
悪視界の中で、火球と爆発の煙にさえぎられながらも、「要塞」は巨大な足音を鳴らした。
まっすぐ近づいてくる。
自分が無敵であることを、信じて疑わない。
竜魔物(……俺が「無敵」を諦めたのは、いつだったかな)
662 = 1 :
竜魔物「……」
竜魔物「……赤スライム隊、緑スライム隊、撤退!」
赤スライム隊『ぴっぴぴッ』(出番終わりかッ)
緑スライム隊『ぴ、ぴ、ぴ』(是、是、是)
戻るときも怒涛のように。スライム達が飛び跳ねてくる。
竜魔物「……青スライム隊、十一の位置、地面に氷結呪文!」
青スライム隊『ピッピキー!』(いくですよー!)
青スライム隊の放った呪文は、掘り下げた穴の一歩奥に着弾した!
土煙の中を、氷の粒が飛んでいく。
カキン、という硬い音が次々と鐘のように鳴り響く。地面に氷の床が増床されていくのだ。
出来上がった、それは即席のスケート場のようだ。
そしてその氷のリンクに素足のまま、「要塞」が足を下ろす。
―――ずずぅうううううっ
氷床に足を取られただけではない、掘り下げた落とし穴をまんまと踏み抜く。
不気味な重低音ごと、「要塞」は前のめりに沈み込んだ!
663 = 1 :
今日はここまでということで。
664 :
ピクミンだな
665 = 1 :
>>664
少女「赤スライムは火の呪文~」
少女「緑スライムは穴を掘る~」
少女「青スライムはこおり呪文~」
少女「竜のおじさんは力持ち~」
少女「そしてスラちゃんが、ほのお吐く~♪」
竜魔物「……味もいろいろだ、おいしいぞー」
少女「もう、食べちゃダメ! かわいいんだから!」
竜魔物「そうは言うが、すでにかなりの個体数が焼けたり吹っ飛んだりしているからな。天日干しにしてるのもかなり」
少女「いやーっ!」
おやすみなさい。
666 :
>>650
なるほど
乙です!面白かったです!
おやすみなさいー
668 :
赤スライムと青スライムを合体したらメドローアができるな
669 :
乙スラ
670 :
>僧侶は基本的にいい人です。神に感謝を捧げているだけで。
いい人って一番怖い
神の名の下に何でも思考停止できるからな
僧侶ちゃんはその典型
671 :
>>670
なんかお前が怖いわ
672 :
>>671
まぁまぁ。書いてる内容は間違っちゃないんだし。ウルトラマンは怪獣と戦ってる時、ビル壊しても無罪だよねー、みたいなノリなんだろうから。
まぁ、ここで書くことじゃなく、祖国の雑談スレ辺りで書くべき、ってのは確かだけどさ。
674 :
魔法使い「……って言われてるけど」
僧侶「なるほど、つまり、私が神の名の下に非道を働くのではないかと」
魔法使い「あー、まー、そういうことでもないと思うけど」
僧侶「いいえ! 私とて正義を信じて貫こうとして、子どもたちを見落としていたこともありました!」
魔法使い「ウン、ソーネ」
僧侶「勇者様についても、最初は……い、いえ、今でも多少、信じ切れないところがありますし……」
魔法使い「ハイハイ、ソーヨネ」
僧侶「しかし、失敗に臆していては、目の前の子ども達を救えないとも思い……!」
魔法使い「……僧侶は真面目なのよねー。ま、思考停止しないようにアドバイスしてるから、気長に見守ってあげて頂戴」
理想に燃える宗教家とか、結構好きなんですけどねー。
北大臣VS貴族の舌戦とかも割りと。
ってなわけで、今夜もがんばって投下していく予定ですので、しばらくお待ちください。
675 :
>いい人って一番怖い
>神の名の下に何でも思考停止できるからな
だからこそ信ずるべきは全能の神なり仏なんだろうな
676 = 1 :
ボソッ>まあ、一番人の話を聞かないのは勇者なんですけどね。
それじゃあ、おそらく本編中で一番空気のおかしいシーンを投下していくよー。
677 = 1 :
隊長『うおおおおおおっ!?』
隊員『うわああああっ!』
隊長『なんだ、なんだ、どーなった!?』
隊員『どうも、重みで穴にはまってみたいで……』
隊長『そんなわけがあるかっ、早く立ち上がらんか』
隊員『そう言われましても……手が生えているわけじゃないですから』
竜魔物「全体、集合!」
スライム隊『ピッピキピー!』
竜魔物「……敵の足止めは成功した! これから、間合いを取りながら、相手が起き上がらないように、氷結呪文をかけていく!」
青スライム隊『ぴっぴ~♪』(僕らにお任せ~)
竜魔物「他の隊は、これから要塞から出てくる人間を足止めるか、大砲の破壊に取り掛かるッ!」
赤・緑スライム隊『ピキーッ』
竜魔物「速やかに部隊を整えよ! 急急如律令!」
スライム隊『ぴききーッ!』
678 = 1 :
―――後方。
少女「ちょっと、お姉ちゃん、早く、目を覚まして!」
側近「ふにゃあ、痺れりれりるぅ」
武闘家「ちょっと喝を入れましょう。ふん!」
どごぉ!
側近「うげあはっ!」
盗賊「……なんか、変な声を出したけど」
武闘家「間違っちゃいましたかね……」
側近「うげぇーっほ、えっほ!」
遊び人「よく考えると、あんな強力な雷撃を受けて痺れただけというのも恐ろしいですねー」
盗賊「確かにそうよね。アホっぽいけど、魔物ってすごいのね」
少女「み、みんな! 一応、お姉ちゃんが頼りなんだから、いじめないで!」
679 = 1 :
側近「なんなの……?」
少女「お姉ちゃん、敵だよ。大きいの!」
側近「……うん。大きいわね。マシン兵よね」
盗賊「まだ寝ぼけているの? しゃきっとしなさいよ」
側近「何よ、人を痺れさせておいて―――」
遊び人「まあまあ。それより、単刀直入にお聞きしましょう。側近さん、あれの弱点は何かないんですか」
側近「……」
武闘家「いま、竜の魔物さんが止めているところです! 早く対策を立てないと」
側近「え、壊すの?」
少女「こ、壊さないと、こっちがやられちゃうよ?」
側近「そっかぁ、そうよねぇ」
少女「どうすれば、いいの?」
680 = 1 :
側近「勿体ないんだけどなぁ……高価だし」
武闘家「しかし、今は悠長なことを言ってる場合ではありませんよ!」
側近「わ、分かったわよ」
遊び人「……ついでに、性能も教えていただければ」
側近「なになに!? それが知りたいの!?」ガバッ
遊び人(……しゃべりたい病なんですかね、彼女も)
側近「まあ、そうと決まれば教えてあげるわ!」
遊び人「兵装とか、動力とか、その辺だけでいいです」
盗賊「……あんた、なんでそんな言葉を良く知ってるのよ」
遊び人「はぁ」
側近「うっふっふ。あれはね、旧魔王城に魔法で作ったエンジンをくっつけて、自立式にしたものなのよ!」
側近「もちろん、一部意見には、城に魔力を与えて、巨大な魔物にすればいいじゃないって意見もあったわ」
側近「でも、そうなると雇用が失われてしまうじゃない。旧魔王城で働いている連中とかが」
側近「だから、スキルアップもできるっていう、要塞、兼、職業訓練施設にしたわけよ!」
側近「これは百年前に私の発案で―――」
遊び人「そういうのはいいです」
側近「あ、そっすか……」
681 = 1 :
側近「さっきも言ったように、主砲は対勇者用の雷撃砲よ」
側近「後は周囲に近寄ってきた人間共を封じ込める火炎球の砲門」
側近「他にも、地面に落ちると勝手に攻撃してくれる機械兵の砲弾とか」
側近「巨大な竜巻を起こすのとか、いろいろあるわよー」
遊び人「……相当危険ですね。全部使われたら、終わりです」
盗賊「対勇者用って、あんなものを食らって平気な人間はいないでしょ……?」
少女「お兄ちゃんは耐えそうな気がするなぁ」
側近「そんで、動力は魔力電池ね。魔力を貯めて、動力に利用できる装置を『電池』っていうのよ」
遊び人「それは、モノですか?」
側近「そうよ。でも、錆びるまで放っておかれちゃったって言うし……」
側近「こっちに持ってきたはいいけど、電池が足りなくなっちゃったんじゃないかしら」
武闘家「だったら、どうして今動いているんですか」
側近「……さあ?」
遊び人「探検隊の計画書には、目的の一つに書かれていましたから、かなり詳しい人物がいたのでしょうね」
682 = 1 :
少女「と、とにかく、危険なんだよね? じゃあ、弱点、とかは?」
側近「ええとね……」
側近「……?」
側近「うーん……」
側近「ないわね!」
盗賊「いや、ないって言われても」
側近「だって、勇者に負けないように、物理面はかなり強力な鉱物を使っているしー」
側近「並みの魔法じゃ壊れない素材でもあるから、魔法も効きにくいわよ」
側近「ほら、なんか竜がやってるけど、全然ダメージうけてないし」
少女「チッ、使えねー」
側近「おいクソガキ」
遊び人「……普通に考えたら、『エンジン』か、動力が弱点でしょう」
683 = 1 :
遊び人「何しろ、魔王のいた時代ですでに錆びていた代物と聞きます」
遊び人「何かで『エンジン』を動かしているとしても、動力となる『電池』を、それほどたくさん用意できるとは思えません」
遊び人「おそらく、内部に侵入して、一つでも二つでも奪えば、止まってしまうのではないでしょうか」
武闘家「そ、それです!」
少女「そ、それですって、そんなの危険だよ? 火も雷も撃ってきて……」
側近「そうよぉ。それなら、私が……」
弟子C「……危険は分かりきっている」
弟子D「けど、勇者もいないんじゃ、全員で死力を尽くすしかないでしょー?」
武闘家「そうですよね!」
少女「で、でも」
盗賊「……まあ、動きを止まっている今なら、私が盗んでこれるかなって思うけど」
684 = 1 :
少女「……大丈夫? 無理しちゃダメだよ?」
武闘家「大丈夫ですよ。一人で飛び込むわけじゃないんですし」
少女「……うん、分かった」
竜魔物「……決まったか?」
武闘家「え、ええ。突入して、動力を奪うと」
竜魔物「……突入するのか。ならば、俺が囮になる。砲門を破壊しようとは思っていたからな」
少女「危ないよ!」
竜魔物「魔物は頑丈だからな」
遊び人「危険なのは誰も同じです。長距離砲もあるんですから」
少女「わ、わかってるけど、気をつけて」
竜魔物「うむ……それで、突入隊は?」
685 = 1 :
盗賊「あ、私」
弟子C「……おう」
弟子D「俺も」
武闘家「ぼ、僕も行きます」
遊び人「僕も行きますねー」
盗賊「あんた大丈夫なの?」
遊び人「やだなあ、人手は多い方がいいでしょ?」
竜魔物「スイーツ殿は?」
スイーツ「おい」
少女「え、お姉ちゃんスイーツって名前だったの?」
スイーツ「違うから」
686 = 1 :
隊長『おい、やつらはどうしてる?」
隊員『いやあ、ちくちく攻撃してるみたいですが……』
隊長『ん、おい! 砲門がやられとるぞ!』
隊員『うわわっ、マジだ!』
隊長『主砲でぶっ飛ばせんのか』
隊員『下を向いてる状態で撃ったらこっちが吹き飛びますよ』
隊長『じゃあ、なんか他にないのか!』
―――「要塞」後方部。
盗賊「かなり混乱してるわね」
武闘家「チャンスです、側近さんの言うとおり、後方部に飛び込みましょう!」
687 = 1 :
盗賊たちは、ぐるりと「要塞」の後方部に回り込んでいた。
側近の話では後方部の入り口にも迎撃装置があるはずだったが、それらしいものは動いていない。
間違いなく、相手は「要塞」の全容を把握していない!
盗賊が、ぐらぐらと揺れる「要塞」の出入り口を発見する。
扉に罠のないことを確かめると、周りに合図を送って、一気に突入した。
全員が入った途端、衝撃で「要塞」が揺れた。
竜魔物が仕掛けたか、相手が業を煮やして何かをぶっ放したのか。
傾いていく通路に、それぞれが振り落とされないようしがみつく。
突入隊は無言で全員を確認すると、あるはずの動力室へと、滑るように駆け出した。
688 = 1 :
動力室は、あっさりと見つかってしまった。
盗賊「……妙よね」
遊び人「……確かに」
武闘家「な、何がです?」
盗賊「誰もいないじゃない。探検隊の連中とかさ」
弟子C「……振り落とされたんだろ」
弟子D「それか、構造が分からないから、一ヶ所に集まってるとか」
遊び人「どうですかね」
盗賊「……さすがに室内には人がいるわ」
盗賊たちが、動力室の中をそうっとうかがう。
その光景に、思わず全員が息を呑んだ。
動力室の中央に、ガラス状の円柱が立ち並んでいるのだ。
―――人間の詰め込まれたガラス管が。
689 = 1 :
そのとき、「要塞」がぐらぐらとまた揺れた。
思わずつんのめって、武闘家が積荷を崩してしまう。
警備A「だ、誰だ?」
警備B「おい、そこに誰かいるのか」
盗賊(ばかーっ)
武闘家(ご、ごめんなさい)
弟子C「……出るぞ」
弟子D「いち、に、さん!」
盗賊たちは一斉に襲い掛かった。
戦士の弟子たちが警備兵にいきなり殴りかかり、そのまま昏倒させる。
武闘家は、整備をしていた連中をけり倒して羽交い絞めにする。
盗賊「ふんじばるわよ!」
遊び人「きゅっきゅっきゅーっと」
武闘家「不意をつけてよかった……」
690 = 1 :
盗賊「……で、なんなのこれ」
武闘家「人が、詰まっていますね」
弟子C「……これが『電池』、か?」
弟子D「これがぁ?」
遊び人「―――探検隊の連中です」
盗賊「!」
武闘家「探検隊って、あの、その」
遊び人「ええ。僕らが一緒にチームを組んでいた連中ばかりです」
盗賊「冗談でしょ?」
遊び人「間違いありませんよ。正規の部隊以外は、みんな『電池』に詰め込んだんですね……」
武闘家「ど、どうしてそんな」
遊び人「確か側近さんは、『魔力の』電池と言っていました。どんな人間でも多少のマジックポイントは持っています」
弟子C「……俺にはないが」
弟子D「俺もないなぁ」
遊び人「……絞ればあります。おそらく、この装置に、人間を詰め込んで、『電池』にしたんです」
691 = 1 :
盗賊「気持ち悪っ! 頭おかしいんじゃないの!?」
遊び人「……ここの連中は、元々南国にいた冒険者。そして、犯罪者としてつかまってしまった連中ばかりです」
遊び人「おそらく、身寄りや探し人の出ない人物と見て、最初からこうするつもりで、連れてきたんでしょう」
武闘家「なんてバカなことを!」
弟子C「……助からんのか」
弟子D「なんか液に浸かってるけどよ」
遊び人「装置を壊して、息があるかどうか確認してみましょう」
盗賊「……あんた、冷静よね」
遊び人「想定すべきでしたから。一緒にあの時、何人か連れてくればよかった」
盗賊「そんなの、分かるわけないでしょ!」
武闘家「ケンカしてる場合じゃないですよ!」
弟子C「……壊すぞ」
弟子D「息のありそうなやつだけでも、抱えていこう!」
ガッシャァアアン!
692 = 1 :
―――「要塞」の外。
少女「あ、動きが鈍ってきた!」
側近「おおー、『電池』を奪い取ったのかしら」
少女「だ、大丈夫かな、みんな……」ハラハラ
側近「まあでも、勝算があるから突入したんでしょ」
竜魔物「……ずいぶん、のん気っす、ね」ハッハッ
少女「竜のおじさん!」
竜魔物「後方部で動きがあった、尻が下がる、頭が持ち上がるぞ!」
側近「だから何よ」
竜魔物「あの雷撃砲を撃たれる可能性があるってことっすよ!」
少女「わ、わ、分かった! スラちゃん! 逃げるよっ」
スラ「ぴ、ぴーっ!」
側近「はいはいっと……」
693 = 1 :
竜魔物「……本当に緊張感ないな、あんたは」
側近「なにが言いたいの?」
竜魔物「勇者と対峙した時は、あれだけびびっていたくせに」
側近「は、はぁ!? だって、勇者は魔王様を倒したのよ! どれくらい強いか分からないんだから、恐ろしいに決まってるじゃない!」
竜魔物「……あれも、十分恐ろしいでしょうが!」
側近「い、いや。私も設計に関わってるから、大体分かるもん」
少女「もう、ケンカはだめ!」
スラ「ぴっぴっぴーっ!」
側近「大体、あれくらいだったら、私の魔法で壊せるもん」
少女「……え?」
スラ「ぴ?」
竜魔物「……そういう冗談はホントいいんで」
側近「なんで疑うのよっ!」
694 = 1 :
側近「あれよ? 私は魔王様の側近よ? 闇の力が失われたから、多少時間はかかるけど、司令塔を破壊するくらいは訳ないわよ?」
少女「……口だけだよね、多分」ヒソヒソ
竜魔物「……実際、一年間この人の護衛して、いいところは何一つなかったっす」ヒソヒソ
スラ「ぴ、ぴ……」ヒソヒソ
側近「ヒソヒソ話でdisんのはやめてよ!」
そのとき、「要塞」の主砲が、青く光を集めていくのが見えた。
充填に時間がかかっているせいで、少女たちはそれが自分達に向けられていると知った。
少女「あ、危ない!」
竜魔物「……全隊、左右に退避ーッ!」
スライム隊『ピピピーッ!』
しかし、命令が、間に合わない。
あまりにも太く貫く閃光の線上に、少女は完全に入り込んでいることを悟った。
必死に走る。けれど―――
ずばばばばばっ!
695 = 1 :
雷撃が通り抜けた、そう思った瞬間、少女は目を強くつむった。
強烈な熱と光が通り過ぎていく、自分には、当たっていない。
それから、わずかな時間の後で、少女は自分が誰かに抱えられていることに気づいた。
側近にぎゅっと抱えられていた。
少女「お、お姉ちゃん」
側近「……何よ。ちゃんといいところはあったでしょ?」
少女「で、でも、お姉ちゃんの足……」
一度目に受けた時よりも、どういうわけか側近の傷は深かった。
黒く、煙の上がっている足。熱線に焼かれてしまったのか―――
側近「防御魔法が間に合わなかっただけだし」
スラ「ぴ、ぴーっ」
竜魔物「おい、代理! 無事かっ!?」
少女「でもぉ……」
側近「はいはい。泣いて責任を感じてるなら、ちょっと支えになってねー」
696 = 1 :
側近は少女につかまりながら立ち上がった。
後方部、動力室には煙が上がっている。ということは、『電池』の破壊には成功したということだ。
現に、遠くの方に、脱出していく一団が見えていた。
それにも関わらず、雷撃砲が撃ち込まれた、ということは。
側近(別の系統から、動力を融通できるようにしてたってことかしら)
それをやり遂げたのだとしたら、驚くべきことだ。
そもそも、この世界の住人の技術力は、きわめて低い。
高層のタワーも、最大でも五、六階建て。
彼女の好きなスイーツバイキングの店は、魔界タワーの30階にあるというのに。
そんな人間が、魔界の兵器を不完全ながら、利用するに至る。
側近「……ねえ、ドラゴン」
竜魔物「……なんすか?」
側近「人間って面白いわね」
竜魔物「はぁ?」
697 = 1 :
側近「少女! 支えときなさい!」
少女「え、え、うん!」
竜魔物「何をする気ですか?」
側近「もちろん、あいつをぶっ壊してやるのよ!」
側近は少女を支えにしながら、ぶつぶつと呪文を唱え始めた。
彼女の青い肌に、黒い闇が絡み付いてくる。
最初は霧のようにまとわりついていたそれが、じわりと周囲に広がってくる。
側近は竜魔物に視線を送り、時間がかかるから、と言って行動を促した。
その間にも膨れ上がる、闇。
竜魔物「全隊、時間を稼ぐぞっ!」
スライム隊『ビッピーッ!』(合点!)
698 = 1 :
竜魔物が大声を上げて、スライム隊を右方向へ走らせる。
相手の視線をそちらにひきつけるため、呪文を唱え、地面を派手に吹き飛ばしながら。
それを見送りつつ、少女は自分の腕にまとわりつく闇に耐えていた。
ぎゅうっと側近の体を抱きしめ、足の支えにならんとする。
次第に、足元に零れ落ちた闇が円を描き、生ぬるい風を二人に向かって吹き付けてきた。
髪の毛が逆巻く。
羽が押される。
側近「闇が来る、夜が来る、箱に閉じ込めた悪意がやってくる」
側近「開け放て、食い荒らせ、打ち砕いて元に戻らぬようにせよ」
側近「たった一度きりの投石で、すべての結束を打ち砕け」
少女「すごい……根暗な呪文……!」
側近「集中切れるから! それ集中切れるから!」
膨れ上がった闇が形を取る。
……黒々とした巨大な弓矢が、二人の前に姿を現した。
699 = 1 :
側近「ああ、これ、これ、重いわ、やっぱり」ハァハァ
少女「だ、大丈夫? お姉ちゃん!」
側近「……あとは、力いっぱい、引く、だけよ!」
少女「こ、これを引けばいいの?」
―――「要塞」が、竜魔物とスライム隊に狙いをつけて、再び雷撃砲を光らせ始めた。
そういえば、いつの間にか拡声機能が消えてしまっていた。
―――竜魔物たちは全力で直線から外れようと走り続ける。
しかし、速さが落ちてきている。
―――少女たちの方に、脱出した一団が駆け寄ってくる。
背中に数名を抱きかかえながら、大声で何かを叫んでいるが、激しい爆音で聞き取れない。
それらすべてを尻目に、二人、とスライムは、必死に黒い弓矢を引いた。
いや、矢というより、それは巨大なボール。
つまり弓矢というより、それは投石器という言葉が近かったのだ。
少女「うにににに」
側近「ふぬぬぬぬ」
スラ「ぴょよよよ」
……三匹で抱え込んだ黒いボールが、振動音を鳴らす。
まるで、早く全てを壊してやりたい、と叫んでいるかのように。
ぎりぎりまで引き絞り、もはや抱えきれないまでに魔法の弦が引き絞られたとき、にやっと、側近は笑った。
実に悪魔らしい笑顔だった。
700 = 1 :
手を離す。
勢いあまって、三匹はそのまま地面にぶっ倒れてしまった。
ひゅばっ! という音は聞こえた。
しかし、続けて直線的に「要塞」に向かっていく黒いボールは、何の音も立てずにすっ飛んでいった。
着弾すれども、音はなし。
少女が首を持ち上げて、一体自分のしたことはなんだったのか、を確認しようとした瞬間。
ぞぼおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
不快な、きわめて気持ちの悪い音が響き渡った!
それも、一度弾けて終わる類のものではない、不協和音のコンサートに迷い込んだように長々と続いていく。
少女「ひいいい、気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!」
少女はあまりの気持ちの悪さに体中をかきむしるが、まるで効き目がない。
体の奥底に不快感が染み付いてしまったかのように、後から後からあふれ出てくるのだ。
血が出るほど皮膚に爪を立てながら、見上げると、黒いボールが巨大化して、「要塞」にめり込んでいる。
ぐりぐりと、「要塞」の司令部に黒球が絡み付いている。
そして、ぴゅう、という呼吸のような音を最後に、黒球が消えうせると―――
ぽっかりと球形に凹んだ「要塞」が、静かに立っていた。
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