元スレ勇者「世界救ったら仕事がねぇ……」
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501 = 1 :
貴族「そういえば……ゆ、勇者殿は、魔物と手を結ばれたのですか」
勇者「ああ、その話? 魔王がいないなら、戦う理由もないって相手が言うからさ」
貴族「し、しかし、あの虎はこちらに戦いを挑んできましたぞ!」
勇者「それもそうだ。なんで、あの虎は戦いを挑んできたんだろうな?」
貴族「それは……魔物は人を襲う性質だからでしょう」
勇者「それなら、俺が魔物と不可侵条約を結べたわけがないだろ」
商人「なんすか、それ」
勇者「あー、お互いに手を出し合うのはやめようって約束だ」
商人「へぇ。魔物にも知恵が回るやつがいるんすね」
勇者「知恵が回る、ねぇ?」
貴族「……大体、魔物は生来凶暴な性質を持つとよく知られています」
勇者「そうでもないんじゃねぇか」
502 = 1 :
勇者「そのー、俺が会ったのは竜の魔物だったな」
商人「はあ」
勇者「そいつが言うことには、魔物は人を一人襲うごとに、給料が入ると」
商人「歩合制っすか」
勇者「うん、確かにそう言ってた。だから人を襲っていたと」
商人「……仕事だから人を襲うってのも、嫌な話っすね」
貴族「そんなばかな話があるか!」
勇者「だって、魔物自身が言ってたんだもの」
商人「他に何か言ってました?」
勇者「後は、そうだな、魔界に戻れなかったら、いくらここで成績を上げてもなーとか、顔より年収とか言ってたぜ」
商人「ダメな勤め人かよ……」
503 = 1 :
貴族「ならば、あの虎の魔物はなんだというのです」
商人「虎の魔物ってのは?」
勇者「なんか北の軍から逃げる途中で、僧侶さんを襲っててよ。そこそこ強かったぜ。ま、俺が追い払ったんだけど」
貴族「つまり、襲ってきたわけでしょう!」
勇者「あいつ、なんか言ってたっけ?」
貴族「……確か、勇者殿の仲間を探していました」
勇者「ふーん」
商人「それって、あれっすね。なんか、北国を手助けしているみたいな」
貴族「……もしや」
勇者「なるほど」
商人「え、え?」
504 = 1 :
勇者「つまり、北国は魔物を雇ったわけだな」
貴族「ど、どうしてそうなるのです! 魔物に支配されていると考えるのが筋でしょう!」
商人「……いや、どっちでもよくないっすか?」
勇者「そうだな。どちらにしても、魔物と北国が何かつながってることはありうるわけだ」
商人「仕事でやってるってことっすか」
貴族「くそっ! 王軍に魔物も加わっては、もう勝ち目がないぞ!」
僧侶「……勇者様、貴族様」
勇者「おお、僧侶さん。何か分かった?」
僧侶「ええ。まず、魔法使いさんの方ですが……」
勇者「なんて書いてあった?」
僧侶「それがですね……」
505 = 1 :
魔法使い『僧侶へ。おそらく、このままではあんたたちは負ける』
魔法使い『孤児院の襲撃を大々的に報道してもらって、北国を不利に追いやるはずだったのに、効いていない』
魔法使い『それどころか東国まで介入してきた。あそこには教会があり、そこから孤児院に支援も出ていたはず』
魔法使い『それを振り切ったということは、相当な力関係が働いているということ』
魔法使い『私の推測だけど、これは北国の方で何か裏があるとしか思えない』
魔法使い『私はこれから、魔物の残党の線で当たるけれど、新聞などの情報発信の部分が握られている可能性がある』
魔法使い『マイナスイメージが流されては、下手を打てば日に日に悪くなるばかり』
魔法使い『だから、この際、北国の国王を暗殺するくらいしかない』
魔法使い『あなたは嫌でしょうけど、正々堂々はもう無理に近い』
魔法使い『一応、使えそうな人間に当たってみるけど、考えておくこと』
506 = 1 :
一同『……』
勇者「要するに、正面からじゃなくて、暗殺しろってことだよな」
商人「ドン引きだよ!」
貴族「承服しかねる!」
僧侶「でも、確かに私たちは追い詰められています」
勇者「ま、まあな~、いくら俺でも、東国も含めれば数千人の兵隊だしな~」
貴族「完全にテロを推奨しているではないか!」
勇者「まあまあ。でも、俺らが魔王城を攻めたやり口も、言っちまえばテロだったしな」
僧侶「神の裁きですよ!」
商人「そ、そうっすか」
勇者「で、で、女商人からも、来てるんだろ?」
僧侶「はい。こちらが、女商人さんからの、手紙です」
507 = 1 :
女商人『手短に。南国も動き出しました。勇者一行を相手に、このような動きは異常です』
女商人『おそらく、魔王を倒した数ヶ月の間に、勇者を排除する動きが作られたのでは』
女商人『戦後処理のための三国会談の参加者は、北国の国王、東国の王子、南国の大臣』
女商人『現在、積極的に動いている連中と一致します』
女商人『それでも勇者を排除することを可能にするためには、武力が必要』
女商人『つまり、それが魔物ではないかと思います』
貴族「魔王を倒した勇者殿を、魔物の力で追い払うなどと……!」
勇者「やっぱりな」
商人「やっぱりって、あんた」
勇者「でも、これってさ、魔物と手を組んだから、遠慮なく滅ぼしてくれってことじゃね?」
僧侶「そうなりますね」
貴族「そ、僧侶さん?」
508 = 1 :
女商人『北国のお城へ行く、裏のルートを記します。これは敵方にもあまり知られていないでしょう』
女商人『私も、魔法使いと同じように、北の城を直接攻撃することをオススメします』
商人「あー、この人もテロ推奨だよ」
貴族「ど、どいつもこいつも……!」
勇者「まあ待てよ、貴族」
商人「何か秘策でもあるんすか?」
勇者「元からお城に近づくつもりだったんだろ、それは間違ってないじゃねーか」
貴族「それは、確かに……」
勇者「その後、どうするつもりだったんだ?」
貴族「そ、それは、国王に不正義を認めさせ、退位していただくと」
商人「ふわっとしてんなー」
貴族「黙れ! では、他にどんな策があるというのだ」
509 = 1 :
勇者「……」
僧侶「魔法使いさんなら、なんて考えるでしょうか……」
勇者「……これはチャンスだって言うだろうな」
貴族「ど、どこがチャンスだと言うのだ」
勇者「要するに、頭を使えってことだよ。北国と魔物は手を組んでいる」
僧侶「そうですわね」
勇者「だったら、お城に行く裏ルートで全速力で近づけば、どこかで魔物に出くわすわけだ」
僧侶「はい」
勇者「じゃあ、魔物に会ったらそいつを倒して……」
勇者「その魔物と北国がつながっていたことを大宣伝する、ってのはどうだ」
貴族「!」
商人「なるほど、自分が魔物と組んでたなら、正当性もないっすからね」
貴族「し、しかし、国王が認めるかどうか……」
勇者「それこそ、そのくらい認めさせなければ、退位なんか無理だろ?」
貴族「……」
510 = 1 :
商人「でも、倒すっていうけど、もし魔物に会えなかったらどうするんすか」
勇者「そんときゃ、王殺しでも何でもやればいいさ」
商人「バイオレンスだなぁ」
貴族「……」
僧侶「貴族様、ご決断ください」
貴族「む、うむ」
勇者「国を変えるのに、英雄はいらんって言ったよな、お前」
貴族「そうだ……」
勇者「英雄として言わせてもらうが、英雄なんか利用すればいいんだよ」
貴族「……」
勇者「どうせ、その後の『長い政治の戦い』をやるのはお前だ」
貴族「……分かった」
511 = 1 :
商人「よっしゃ! そうと決まれば、後は武器を売って、俺は帰りますよ」
勇者「は? 帰る?」
商人「な、なんで不思議そうに聞くんだよ」
勇者「いや、ここから無事に帰れるわけがないだろ」
貴族「その通りだ。アジトの場所は知られているんだぞ?」
勇者「出て行ったら、途中でとっ捕まるな」
商人「で、でも、俺はなんか分かったら、情報を持ってこいって女商人に言われてるんすよ」
勇者「完全に使いっ走りじゃねぇか……」
商人「か、帰るまでが修行の一環ってなわけでさ」
僧侶「……商人様、今は一人でも力がほしいのです」
僧侶「ぜひとも、力をお貸しいただけないでしょうか」
商人「そ、それは……」
勇者「まあ、どの道このクーデターが成功しなけりゃ、殺されるんだ」
貴族「あきらめるがよい」
商人「うおおお!? いつの間に道を誤ったー!」
勇者(どう考えても最初から女商人の生贄ルートだったろ……)
512 = 1 :
―――海上。
男子1「海だー!」
女子1「うーみ、うーみっ」
男子2「うええっっぷ」
女子2「大丈夫?」
少女「水着、持ってくれば良かったかな」
武闘家「やれやれ、そんな暇はありませんよ」
弟子C「……大丈夫だ。順調に、進んでいる」
弟子D「船を操るのは初めてだが、まあ、なんとかなるんでは?」
スラ「ぴきーっ!」 ぴょいん
少女「うんうん、スラちゃんもいるしね」
武闘家「はあ……まったく、あの人が頼む仕事は面倒ばかりなんだから」
513 = 1 :
少女「あの人って、あのおばさんのこと?」
武闘家「お、おばさん? いやほら、魔法使いさんですよ」
少女「ふーん、私、あのおばさん、嫌い」
武闘家「ま、まあまあ。魔法使いさんは僕より年下ですし」
少女「じゃあ、あんたはおじさん?」
武闘家「あ、あのですね……」
弟子C「……生意気盛りの年頃だ」
弟子D「容赦なく大人をけなすのは子どもの特権みたいなもんでしょ」
少女「むー、生意気とかじゃないもん!」
スラ「ぴっぴーっ」
武闘家「あははは……」
514 = 1 :
弟子C「……おい、武闘家」
弟子D「ちょっと気になるんですがね」
武闘家「な、なんでしょうか」
弟子C「……この辺は、船の行き来はあるのか」
弟子D「要するに、航路になってるかどうかってことっす」
武闘家「いえ、西の方角は魔王の居城があった方角ですから、まだまだ開拓されてないはずです」
弟子C「……なるほど」
弟子D「そりゃまずいっすね」
武闘家「な、なんですか?」
弟子C「……右方、船影が」
弟子D「しかもこっちに向かってきてるし」
武闘家「う、うわわ」
515 = 1 :
武闘家「と、とにかくまずは子どもたちに伝えないと……!」
少女「敵なの?」
武闘家「う、うわあ! お嬢さん、びっくりさせないでくださいよ」
少女「敵なのね?」
武闘家「まあ、おそらく。安全のため、隠れてもらわないと」
少女「分かったわ、みんなに伝えてくる」
スラ「ピキーッ!」
武闘家「つ、伝えてくるって」
少女「みんなー! 全員隠れて行動する準備よ!」
子どもたち『おおーっ!』
武闘家「良かった、ちゃんと隠れてくれる気らしい……」
少女「後の事は、私とおっさんどもに任せなさい!」
子どもたち『了解しました!』
武闘家「!?」
516 = 1 :
武闘家「お、お嬢さん? 一緒に隠れてもらわないと」
少女「大丈夫よ! 私にはスラちゃんもいるし」
スラ「ぴーっ、ぴーっ」
武闘家「いやいやいや! それとこれとは別ですよ!」
少女「私ががんばるんだもん! 私がリーダーだし!」
武闘家「あ、あのね」
弟子C「……来るぞ」
弟子D「右舷に骸骨だ、やはり魔物の船だな!」
武闘家「ええいっ」ダッ
武闘家は、船の縁に駆け寄って、先にかかった白骨の手を叩き落した。
武闘家「もう、魔物は滅びたんじゃないんですかっ」
517 = 1 :
弟子C「……俺が舵を取る」
弟子D「後方を守る! そっちは頼んだぜ」ダッ
武闘家「分かりました!」
武闘家は息を吐いた。
これでも元は冒険者の端くれだ。
幸いにして、魔物は弱い。
船上ながら、顎を突き出してきた骸骨に蹴りを放てば、会心の当たりだった。
だが、近づいてくる船影をにらむと、その甲板には、出番を待つ青白い光が満載されていた。
後に控えた骨の海賊たちもいる。
武闘家「ひ、人魂も!? 私の拳で、通じるのかな」
どぉおおんっ!
叫んだ途端、何かがぶつかる音と、激しい衝撃。
思わず武闘家はバランスを崩した。
弟子C「……砲撃だ!」
弟子D「だ、大丈夫かあーっ」
武闘家「くそっ」
518 = 1 :
武闘家が悪態をつく。
嫌な記憶がよぎる、仲間を失ったときの。
揺れる船の船室から、子どもたちが叫ぶ声がする。
武闘家は、船にしがみつきながら、なんとか立ち上がろうとした。
その瞬間、武闘家の横に、影が追いついた。
少女「スラちゃん!」
スラ「ぴいっ!」
武闘家「お、お嬢さん……!」
少女「あいつらを追っ払って!」
脇に抱えたスライムが、大きく息を吸い込む。
ぼうっという音がする。
その透き通った身体に火がともったように見えたのは、見間違いではなかった。
―――激しい炎がスライムから吐き出された!
519 = 1 :
熱で、武闘家は思わず顔を背けた。
こちらの船に乗り出していた白骨は、炎をもろに食らって海に投げ出された。
近づいてきた船に、炎が移る。
待機していた人魂が、炎の勢いを食らって吹き飛ぶ。
骸骨たちは大慌てで、焼ける船の帆から、火の粉を払い出した。
弟子C「……チャンスだ!」
弟子D「全力で振り切れ、舵を切れ! みんな船につかまれーっ!」
武闘家「お嬢さん!」
少女「ひゃああ!」
スラ「ぴ、ぴーっ!?」
武闘家は、身を乗り出していた少女を引きずり倒した。
激しい揺れとともに、左方へと大きく船が曲がる。
勢いのついた船が、そのまま波に乗って、魔物の船を引き離していく。
520 = 1 :
武闘家「はあっ、はあっ」
弟子C「……よし!」
弟子D「なんとか、なったかぁー?」
弟子C「……追っ手は離れてきている」
弟子D「ふう、はあ、助かったか……」
少女「……へへへ」
スラ「ぴぃ、ぴきーっ」
武闘家「……」
少女「私とスラちゃんのおかげだよね、これは」
スラ「ぴいっ!」
武闘家「お嬢さん」
少女「なに?」
ぱちん。
521 = 1 :
少女「え、え……」
武闘家「どうして前に出てきたんですか」
少女「だって、私」
武闘家「あなたはね、船室で隠れてる子たちのまとめ役でしょう」
少女「で、でも」
武闘家「あなたが死んだら、あの子たちをどうするつもりだったんですか!?」
少女「だって、私、役に立たなくちゃって……」
スラ「ぴいっ、ぴいーっ!」
武闘家「……船が大きく揺れて、ケガした子がいるかもしれません」
少女「!」
武闘家「早く、見に行ってあげなさい」
少女「はい……」
522 = 1 :
少女「あ、あの」
武闘家「……」
少女「ごめん、なさい」
武闘家「……最初に、みんなを隠したのは、正しい判断です。それに、あの炎を指示したことも間違ってませんでした」
少女「……」
武闘家「でも、ああいうことができるなら、ちゃんと教えてください」
少女「……分かりました」タタッ
スラ「ぴきーっ!」
武闘家「はいはい、君は殊勲賞でしたよ」
弟子C「……キツすぎんか」
弟子D「かわいそうになー」
武闘家「知ってますよ」
523 = 1 :
知ってても言わずにはいられなかった。
手柄がたてたくて、前のめりに飛び込んで、仲間を死に追いやった自分に重なって見えたからだ。
勇者『誰かの役に立ちたかった? 認められたかった、の間違いだろ。お前は』
頭の中に、はっきりと勇者の顔が思い浮かぶ。
後にも先にも、勇者の軽蔑した顔を見れたのは自分くらいだろう、と武闘家は思った。
武闘家「でも、勇者さんじゃないんだから、あんなに前に出過ぎなくていいんです。僕らは」
弟子C「……それは納得」
弟子D「ま、確かにな」
武闘家「それはそれとして、やっぱりすごかったですよねぇ。あの度胸は」
弟子C「……ただの女の子にしておくには勿体ない」
弟子D「立派な魔物使いになれそうだよな」
武闘家「あ、村が見えてますよ!」
弟子C「……よし、近づくぞ」
弟子D「おう、準備するぞ!」
524 = 1 :
今夜はここまで。
525 :
乙でした
531 :
おまけ。本日更新不可。
勇者人物評。
魔法使い「あいつ見てると何か思い出すのよね。バーサーカーとか首狩り族とか」
戦士「……まあ。いいやつ、じゃないか?」
僧侶「悪知恵、悪巧みさえなければ理想の御方なのですけど」
女商人「私は嫌いですけど、良い人なんじゃないですか? 私は嫌いですけど」
少女「かっこいいよ? 少しは…」
竜魔物「底の見えない人間だ」
側近「割りと魔王様に似てるわよねー」
遊び人「むかーし、一緒に飲んだんです。懐かしいなあ」
武闘家「 僕に似てませんか?」
盗賊「話の通じないやつよね。仲間がいなかったらどうなってたか」
姫「かっこいいです……」
勇者「全世界のあこがれだよな!」
532 :
最後おいww
534 :
全世界のあこがれだよ!wwwwww
535 :
仮設「勇者の村」。
竜魔物「……誰か来たぞ」
盗賊「ホントね。馬車が一台、こっちに向かってくるわ」
遊び人「敵でしょうか?」
魔法使い「あれは女商人の馬車ね」
盗賊「女商人ねぇ」
魔法使い「含みがあるわね」
盗賊「私、ああいう頭が固そうな子って苦手なの」
遊び人「あはは、盗賊さんも固そうですからね」
盗賊「あんた、ところどころで私にきつくない?」
マスター「……到着しましたよ~」
勇者母「あらまあ、ずいぶん早く着いちゃったわ」
魔法使い「酒場のマスター、それに勇者のお母さんも! よく来てくれました」
マスター「ええ。結局、来ることにしたわ」
536 = 1 :
魔法使い「でも、女商人が見当たらないですね」
マスター「え、ええ。彼女、南国に残って情報収集を続ける、と」
魔法使い「情報収集ね……」
マスター「はい、代わりにお手紙」
魔法使い「ありがとうございます」
盗賊「……マスター、お久しぶり」
マスター「やだ、盗賊ちゃんじゃない!」
盗賊「ちゃんづけやめて!」
遊び人「お久しぶりです、マスター」
マスター「やだぁ、いかがわしい遊び人君じゃない!」
遊び人「それ、そのまくら言葉、いい加減はずしてくれませんか?」
マスター「でも……相変わらずやってるんでしょ?」
遊び人は、ぐっと親指を立てた。
537 = 1 :
マスター「それで、魔法使いさん」
魔法使い「なんですか? できれば手紙を読んでおきたいんですが」
マスター「まあ、その前に。ここで酒場を作ってもいいって話を聞いてたんだけど」
魔法使い「ええ。『勇者の町』になる予定ですから」
マスター「それはいいのだけれど、ほっとんど何もないわよね、ここ」
魔法使い「……」
マスター「ただの野っ原よね、ここ」
魔法使い「こんな広い土地を無料で使い放題なんてすごいと思いませんか?」
マスター「誰が酒場を建ててくれるのよぅ!」
魔法使い「男勢がちょっと足りないんですよねー」
マスター「もう、女商人さんに言いくるめられちゃったわ」
魔法使い「あと、孤児院の子どもたちが十数名来て、一生懸命働くと」
マスター「児童労働させる気満々じゃない……」
538 = 1 :
魔法使い「そういえば、男勢いますよ」
マスター「いかがわしい遊び人君? ちょっと大工仕事は頼りないのよねぇ」
遊び人「あはは、こう見えても、現場で肉体労働していたことはあるんですがね」
盗賊「……肉体で接待する労働の間違いじゃないの?」
遊び人「溜まってるお客さんが結構いるんですよね~」
盗賊「否定しなさいよ、あんたは」
魔法使い「そうじゃなくて、ほら、挨拶しなさい、あんた」
竜魔物「……」ペコリ
マスター「ま、魔物!?」
竜魔物「……魔王軍に所属していた、元兵士の竜です。故あってこちらで働かせていただくことになりました。よろしくお願いいたします」
マスター「ご、ご丁寧にどうも……」
竜魔物「その他、スライム隊も、土木工事に参加させていただいております」
スライム隊『ぴっぴきぴーっ!』
マスター「あ、かわいい」
539 = 1 :
マスター「……いやいやいや、どういうことなのよ」
魔法使い「なかなか人手が足りませんので、基礎工事をお願いしています」
マスター「だ、だから、どういう経緯でこうなったの!?」
魔法使い「……あ、もう一匹、あそこにいる露出の高い悪魔も、働き手で」
側近「ん? ちはー」
マスター「あ、こんにちは……」
魔法使い「ちょっと顔色が悪いけど、魔王がいた頃はそれなりの地位にいたらしいから、大目に見てください」
マスター「何を大目に見たらいいのか分からないのだけれど」
魔法使い「……側近、あんたちゃんと挨拶しなさい。この町でお酒を売ってくれる人なのよ?」
側近「何よ、もう! 私はお酒よりもお菓子の方が好きだもん!」
マスター「クッキーならあるけど」
側近「かつては魔王様に仕えた身、しかしながら、これよりはあなたの従順なる僕となりましょう」
マスター「安い子ねぇ」
540 = 1 :
マスター「よく分からないんだけど、やっぱりよく分からないわ」
側近「うまうま」
魔法使い「魔王が死んで、魔界にも帰れなくなった。だから、もうここで生計を立てようということらしいです」
側近「らしいって何よ! あんたの提案に私は乗ってあげただけなんだからね!」
魔法使い「こいつは何の役に立つか分かりませんが、竜の方は力仕事で早速発揮してくれてまして」
側近「こいつって、おい!」
マスター「はぁ……魔物とも仲良くしようってことかしら?」
魔法使い「協力できるなら、種族は問わないということです」
側近「敵対するなら、同族でも容赦しないってことよね、それ」
マスター「……なんとなく、分かったわ」
魔法使い「酒場はすぐに用意できなくても、調理場はすぐにでも作って使っていただければいいなと」
マスター「うん、分かったわ」
541 = 1 :
側近「ね、ねぇ。そこの酒の人間」
マスター「私? 私はマスターでいいわよ」
側近「ま、マスター。クッキーって、もうないのかしら」
マスター「なに、お菓子がほしいの?」
側近「ええ。素朴な味だけど、とってもおいしかったわ」
マスター「……素朴な味」
側近「魔界では魔界タワーの30階にスイーツバイキングがあるのよ! でも、もうこっちの世界に来たら、スイーツなんて二度と口に出来ないと思ってたわ」
マスター「ふふっ、まあ、調理場が出来れば、いろいろ作ってあげるわ」
側近「やったわ! ほら、竜! とっとと調理場を作るのよ!」
竜魔物「……まだ基礎工事だって言ってんでしょ?」
側近「マスター! 酒で作ったゼリーとかいいわよね!?」
マスター「はいはい」
542 = 1 :
側近「そういえば、魔法使いの人間」
魔法使い「普通に、魔法使いでいいわよ」
側近「どうでもいいけど、海の方からも船が来てるわ」
魔法使い「何の旗を立ててるか分かる?」
側近「太陽のマークだったわ」
魔法使い「じゃあ、私の船だわ。きっと武闘家とかだ」
側近「どうするー? 沈めるー?」
魔法使い「私の船だっつってんでしょうが。準備に手間取るから、来るまで待ちましょう」
側近「はーい」スタスタ
魔法使い「さて、じゃあ、手紙を……」
勇者母「うふふ~、魔法使いちゃん」
魔法使い「あ、勇者のお母様」
543 = 1 :
勇者母「もう、こんな大事なこと、どうして黙っていたのよ~」
魔法使い「はあ、すみません……どう転ぶか、分かりませんでしたので」
勇者母「まあ、そうよねぇ」
魔法使い「……?」
勇者母「それで、勇者はどうしているのかしら?」
魔法使い「ちょっと、仲間のところに飛んでしまって……」
勇者母「まあ、そうよねぇ。みんなに知らせないと行けないわよねぇ~」
魔法使い「はぁ」
勇者母「でも、勇者のお母様だなんて、そんな他人行儀に言わなくていいのよ~」
魔法使い「はぁ?」
勇者母「息子をよろしくね」
魔法使い「……は?」
勇者母「式の日取りはいつになるのかしら~」
魔法使い「……」
勇者母「女商人さんから聞いたのよ~」
544 = 1 :
……魔法使いは手紙を読み始めた。
女商人『魔法使いへ。おひさ』
女商人『魔法使いが頭を下げるなんて、初めてだよねv』
女商人『ぶっちゃけ~引き受けたくなかったんだけどぉ、しょーがないからやったげるよ』
魔法使い(イラッ……)
女商人『それでぇ、分かったことなんだけどぉ』
女商人『北、調査中。勇者との合流を確認。東の危険度は薄い。南、姫の侍女と接触』
女商人『南大臣が魔物に? 詳細をさらに確認すべく城内に潜入』
女商人『探検隊の計画、魔法の儀式、研究者を集めている。詳細不明』
魔法使い(やっぱり、私は行くべきかしら……)
女商人『それとぉ、マスターと勇者のお母様がそっちに行くから、よ・ろ・し・く♪』
女商人『それでねぇ、お母様がちょっと動きそうになかったから、魔法使いと勇者が結婚したからお祝いに来てって言っちゃった(汗 ごめりんこ』
女商人『でも、あんたたち、どの道するからいいわよね☆』
女商人『むしろ素直になれないあんたたちを後押ししてあげた私ってキューピッド?』
女商人『そんじゃあね。女商人より?』
魔法使い「……」びりぃっ ぼっ
545 = 1 :
勇者母「それでね~、もし良かったらと思って~」
勇者母「私のドレスも持ってきちゃった~」
勇者母「魔法使いちゃんも、若い頃の私の体型に似ているっていうか~」
魔法使い「しばらく待っていただけますか」
勇者母「え?」
魔法使い「私も、呼ばないと行けない人がいますので」
勇者母「そうなの~? まあ、しょうがないわね~」
魔法使い「では……」ダッ
魔法使い「ふざけんじゃねーよ、あの女ァ!」
側近「な、なによ」ビクッ
遊び人「ど、どうかしましたか」ビクッ
魔法使い「お前ら、後は任せたからな! これ、計画書!」バサッ
盗賊「うわっぷ」
魔法使いは移動呪文を唱えた!
546 = 1 :
今夜はここまで。
549 :
いいなほんと
550 :
盗賊「任せたってどーすんのよ……」
遊び人「計画書ってこの束ですか?」
側近「大体、私らがすることって、もう土木工事くらいじゃない?」
竜魔物「……分かってるんなら、ちょっとは手伝ってくださいっすよ」
側近「え? 何?」
竜魔物「……」
タッタッタ……
少女「おーい……!」
武闘家「みなさーん! 魔法使いさーん!」
側近「あ、おー、ちびっ子ー!」
少女「悪魔のお姉ちゃん!」
側近「何よ、ちょっとの間に背とか伸びちゃった?」
スラ「ぴきーっ!」
側近「やん、スライムもいる~」
竜魔物「……」
少女「竜のおじさんも」
竜魔物「久しぶりだな、人間の少女よ」
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