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元スレモバP「新しくアイドルプロダクションを作った」
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☆
黒川千秋という女の子は、両親を説得なんてできるはずがないと言った。
彼女は、出会って十分すら経ってもいない男の俺に、自らが置かれている環境を打ち明けた。
ずっと自由にできず束縛されて生きてきたこと。今までの人生に、自分の意志なんてなかったこと。結婚すら勝手に決められたこと。全てを千秋は話した。
今までも、これからもこの生活はずっと続く。千秋は暗い表情でそう言った。
「私には、勇気がないの」
千秋を見て驚く。彼女の頬には涙が流れていた。
見ず知らずの人間な上、大人で、しかも男である俺に、ここまですべてを打ち明け、涙を見せるのは、明らかに異常だ。
一人の理解者すら得られないまま、今まで過ごしてきたのか?
「何とかする」
「え?」
無意識の内に漏れていた言葉。千秋は顔を上げ、涙を流しながらも、驚いた表情をしていた。
「もう一度聞くけど……アイドルに興味はある?」
涙を拭いながら、千秋は頷く。
「変わりたい……自分を、変えたい」
相変わらず悲しみに暮れた表情だったが、瞳には強い意志が灯っていた。
もしかしたら、彼女はきっかけが欲しかったのかもしれない。
だから、彼女に契機を与えよう。
「分かった。何とか、してみる」
ここまで来たら、引き返す事なんて不可能だ。
今彼女に告げたように、何とかしてみよう。
千秋の笑顔が見たい。
そして、今度は彼女と共にトップを目指そう。
☆
後日、俺は千秋と待ち合わせをし、二人で黒川の家に訪れた。
今日は、両親が二人とも休みで家にいると、千秋に教えてもらった。
そして、千秋がその日に大事な話があるということを両親に伝えたらしい。俺の存在は伝えていないようだが。
俺は、これからお邪魔するであろう黒川家を眺める。千秋の家は話に聞いていた通り、大きな家だった。流石、資産家と言ったところか。
インターホンを鳴らし、召使いが応じた。黒川千秋さんのことで話があると両親に伝えて欲しいと言い、千秋の姿をインターホンで確認させる。
十数秒後、門が開き、一人のメイド服に身を包んだ召使いが、こちらへと向かってくるのが見えた。
「こちらへどうぞ」
俺と千秋は、大きな部屋へと通された。この部屋は、千秋もあまり来たことがないという。
広い部屋に、高そうな素材でできた赤い絨毯。その上に、黒いテーブルと、大きなソファがあった。
千秋の両親がソファに座り、俺と千秋も向かいのソファへと腰を下ろす。
千秋の両親は、どちらも恐らく四十歳を超えているはずだが、どこか若々しく見える。千秋から聞いていたほど厳しそうな人たちには見えないが、まだまだ緊張は解けない。
父親の方は、娘と共にいきなり訪問してきた俺の存在に少し動揺しているようだった。
「それで、話とは何だね?」
千秋の父親が問い掛ける。その表情は少々厳しく、眼光が鋭い。
緊張しながらも、名刺を渡して自己紹介をした。そして、娘である千秋をアイドルプロダクションに迎え入れたいという旨を、俺は告げた。
母親の方は反応が薄く、涼しい顔をしているが、父親の方は眉間に皺を寄せ、難しそうな表情をしている。
千秋は両親の顔を直視できないようで、俯いて唇を噛みしめていた。
「アイドルの件、どうでしょうか?」
「ダメだ」
父親は、きっぱりと無慈悲に告げる。
「千秋、お前はもうすぐ結婚するのだと伝えただろう。アイドルなんかやっている場合ではない」
冷たい目で、無感情に、彼は続けた。その話の内容は、部外者である俺が今すぐ反論したいほど、残酷なものだった。
「お願いします! 千秋さんを、我がアイドルプロダクションに所属することを認めてください」
こんな胸糞悪い身内話を聞かされながらも、結局、俺は頭を低くしてお願いするしかないのか……!
「君も、こちらの都合を考えずに無理矢理意見を通そうとするのはやめたまえ、見苦しい」
この、分からず屋が!
土下座すればいいって問題ではないが、こうなったら、土下座してやる。
俺は立ち上がると、ソファの横、赤い絨毯の上に膝をつけ、土下座した。
「お願いします。どうか、千秋さんのアイドル活動を認めてください」
「君もしつこいな、もう出て行きたまえ」
殆ど相手にされていない。ただ、引き下がるわけにはいかない。
「嫌です、認めてくれるまで――」
「――お願いします」
唐突に言葉を遮られる。驚き、思わず後の続く言葉を飲み込んだ。
その声は、か細くて、弱々しくて、震えていたけれど、確かに、千秋のものだった。
「……アイドル、やらせてください……お願いします」
彼女の視線は、真っ直ぐに父親へと向けられていた。
強い意志の籠った視線を受け、少なからず彼女の父親は狼狽えた。そして、怒りの表情を浮かべた。
「千秋……? 君の仕業だな?」
ぎろりと、元凶である俺を睨み付ける父親。
「私は、アイドルになります。だから、結婚はお断りします」
相変わらず怯えが混じってはいるが、彼女は確かに自分の意志を、両親に告げたのだ。
気高く、凛とした雰囲気の片鱗が、彼女からは滲み出ていた。
「そんな勝手が許されるか!」
父親が憤慨し、怒鳴った。あの弱々しい態度はどこへ行ったのか、父親の剣幕に物怖じせず、彼女は言い返す。
「勝手なのはどっちですか! いつだって、私の意志を蔑ろにして!」
「お前には私達の跡を継ぐ義務があるのだと言っただろう! 故に私達はお前を、後継者として相応しい優秀な者へと育てなくてはならない、黒川家はいつもそうしてきた!」
「だからと言って、それを私に押し付けないでください」
いつの間にか、千秋は涙を零していた。それを拭おうともせず、必死に、勇気を出して、彼女は抗った。
「お前だな、余計な事をしてくれたのは! 今すぐ出て行け!」
今までずっと耐えて、溜めこんできたものを吐き出すかのように、千秋は強い口調で親を責めた。
父親は千秋を相手にするのをやめ、今度は標的をこちらへと変えてきた。
今にも掴みかかってきそうなほどの剣幕で捲し立てているが、怖気づくわけにはいかない。千秋がここまで頑張ったんだ。俺も頑張らないと。
「では、認めてください。千秋がアイドルになることを」
「認められるか! お前――」
突如、テーブルに強い衝撃が走り、大きな音が鳴った。辺りが一瞬にして、静まり返る。
「少し、落ち着きましょう」
どうやら、千秋の母親がテーブルを殴ったらしかった。正直、こっちの方が怖い気がする。
「あなた、千秋の我が侭、認めてあげましょう」
「え?」
千秋も、俺も驚く。父親だって驚いていた。
「お、お前、何を……」
明らかに狼狽える父親。彼の態度は気にも留めず、母親は続けた。
「今までずっと我が侭を言わずに、耐えて頑張って来たんだもの。初めての我が侭ぐらい許すべきだと思うの」
「…………だが」
初めての、我が侭?
本当に、今までずっと……
そこから十数分後、母親に説得された父親は千秋をアイドルプロダクションに預ける事を認めた。
泣きじゃくる千秋を傍目に、何とかなってよかったと俺は一人安堵する。
精神的には疲れたが、終わってよかった。
時間がかかるだろうなと、長期戦だって覚悟していた。
とりあえず、一件落着か……
事態は収束し、黒川家の玄関にて、今日は別れることとなった。
「これからよろしくな、千秋」
「えぇ……よろしく、プロデューサー」
千秋は、ようやく笑顔を見せてくれた。
あまりにも綺麗で、美して、魅力的な笑みだった。
――頑張ろうな、千秋。
更新終わりです。
陳腐な展開でごめんなさい。
とりあえず、千秋の話が終わってようやく物語動かせそうです。
陳腐な展開でごめんなさい。
とりあえず、千秋の話が終わってようやく物語動かせそうです。
なぜこんないい子が病むのか
そしてちえりんはこれからどうなるのか
そしてちえりんはこれからどうなるのか
☆
一連の出来事を経て、千秋は見事アイドルになった。
昔から色々と習い事をしていた千秋にとって、ボーカルやダンスと言った基本的なレッスンは簡単らしい。自信満々に余裕だと言ってのけ、実際に余裕そうだった。
また、親から学業の方もしっかりとやることを条件として言われていたが、心配する必要はないと彼女は言い切る。
黒川千秋は、次第に変わっていった。本来の姿に戻ったと言うべきか。
両親を説得する時から見えていた凛としたオーラが、普段からも滲み出るようになった。高嶺で力強く咲き誇る花のような存在感を彼女は持っている。
初めて会った時は今にも崩れてしまいそうなぐらい儚く、弱気な彼女だったが、今では真逆の我の強い性格へと変貌した。お陰で、お嬢様らしく、我が侭をよく言う困った子になってしまった。
本来の姿へと戻った彼女は、常に強気で自信満々だ。その上、大きな仕事に対するプレッシャーなんか殆ど感じない、鋼のようなメンタルを備えている。
こんな強い子が何故今まで大人しく縛られて生きてきたのか、生き生きとした彼女を見る度にいつも疑問に思う。
もはや苦笑を禁じ得ないほどの変わりようだったが、前よりも魅力的になっているのは確かだった。
「プロデューサー、飲み物が欲しいわ」
「何買ってくる? コーヒー?」
「それでいいわ。お願いね」
収録から戻ってきて早々、プロデューサーをパシリに使う困ったちゃんである。
俺は近くの自動販売機まで向かい、コーヒーを買った。ついでに自分の分も購入し、二つの缶コーヒーを両手に持って、千秋の元へと向かう。
戻って来てみれば、千秋は椅子に座りながら、共演した俳優と仲睦まじく話をしているようだった。
柔らかい笑みを浮かべて楽しそうに話す彼女はやはり魅力的だ。
二人の会話が終わるまで待っていようと、少し遠巻きに佇む。
千秋が俳優と話しながらも、挙動不審にきょろきょろと辺りを見渡し始めるのが見えた。
もしかして、俺を探しているのか?
暫くして、柱の陰で缶コーヒーを飲んでいた俺に気づいたらしい。千秋が俳優と一言二言交わした後に別れ、こちらへと歩み寄ってくるのが見えた。
「何をやっているのかしら……私を放って」
お嬢様は大変不機嫌な様子だった。
「話しているのを邪魔するのも悪いかと思って……」
「愛想笑い浮かべるのも楽ではないの。今度からはさっさと戻ってきてくれるかしら」
何とも俳優さんに対して酷い言い草である。
「聞いてるの?」
「聞いてる聞いてる。今度から気を付けるよ」
まったく、困ったお嬢様だなぁ……
とりあえず、今日の仕事は終わりだ。千秋も疲れているだろうし、さっさと撤収しよう。
千秋に帰り支度をさせ、その間に俺は関係者の方々に挨拶して回り、時間を潰す。
支度を終えた千秋と合流し、駐車場に止めてある車に乗り込んで帰路についた。
車を運転中にふと思い出す。
「そういえば、千秋が内のプロダクションに来て一カ月ぐらいか」
「時が経つのは早いわね……でも、とっても充実しているわ」
不敵にほほ笑む彼女が、車内のミラーに映っている。本当、彼女はよく笑うようになった。
彼女は着実に実績を上げ、知名度と人気を上げて行っている。勿論、活動を始めてまだ一カ月程度だからたかが知れているが、何というか……伸びが凄まじい。
俺の目に狂いはなかった。彼女をスカウトできて、本当に良かったと思う。
――ただ、一つだけどうしても心苦しいことがあった。
「なぁ、千秋」
「何かしら」
きょとんと首を傾げる千秋。
「……俺は、本当にこれでよかったのかが分からないんだ」
このまま行けば間違いなく千秋は人気になるだろう。何もなければ、いずれはトップアイドルに君臨できるほどの才能と実力を彼女は持っている。
だが、そうなってしまった場合……
「千秋は、家柄に縛られて自由が無いと言っていたよな」
千秋は、自由を取り戻した。アイドルになることで。
彼女がアイドルになりたいと言ったから、両親は千秋がアイドルになることを認めた。
だけど、このまま行ってしまえば……彼女はまた自由を失う。
「アイドル活動を続けているうちは恋愛できない。それに、このまま行けば多忙になる。つまり、今度はアイドルに縛られる事になる」
「あぁ、そんなこと」
千秋は涼しい顔で俺の言葉を一蹴した。そんなことって。
「自由はあまりないでしょうね、大学にも行かなければならないし、アイドル活動もしなければいけない。恋愛も無理ね」
でも、と彼女は続ける。
「知識はなかったけれど、アイドルはとても楽しいわ」
「そう……か」
それが彼女の本意なのかどうかは分からない。別に強がりのようには見えないが。
「私ね、アイドルになれて本当に良かったって思っているの。今の私には意志があって、目標がある……それに、友達だって、できた」
最後の方は少しだけ気恥ずかしそうだったが、嬉しそうな笑みを浮かべる千秋を見て、少しだけ心が救われた。
意志も、目標も、仲間さえもいなかった人生は、どれだけ辛いものだったのだろうか。平凡な人生を送ってきた俺には想像すらできない。
「それに、プロデューサーには話したわよね? 私は昔から習い事をたくさんしてきたの。だから、忙しいのは平気よ」
「はは……それは、頼もしいな」
黒川千秋はとってもいい子だ。
「でも、プロデューサー? ちゃんと私に見合った仕事を頼むわよ」
少々我が侭だけど。
更新はここまでです。
もうちょい早く更新できるように努力します。
もうちょい早く更新できるように努力します。
レポート提出をぎりぎりまで粘って少しでもクオリティをあげる
なお先生は長いのは読みたくないもよう
なお先生は長いのは読みたくないもよう
誤爆失礼しました
みんなの評価 : ★★★
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