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元スレモバP「新しくアイドルプロダクションを作った」
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それから、智絵里を少しでも動けるようにするため、色々なスポーツを彼女に教えた。
スポーツと言っても、二人で少し練習する程度だが。
「えいっ!」
彼女が爪先でサッカーボールを蹴る。
威力は弱いが、ボールは真っ直ぐに飛び、俺の足元へと転がってきた。
「上手いな」
転がってきたボールを、蹴って転がし、智絵里へと返す。
「えへへ……偶然です」
智絵里はくすぐったそうにしながら、楽しそうに微笑む。太陽のように温かくて、優しい笑みだった。
彼女はコツを掴んだのか、その後は大体正確なパスが出せるようになった。
それからというものの、テニスやバトミントン、キャッチボール、バスケットボールでフリースローの練習など、アイドル活動からは程遠い事をやっていた。
だが、驚くべき事に効果はあった。
少なくとも以前よりは数倍、智絵里は動けるようになっていた。ダンスも、注意される事が少なくなり、まだ完璧とは言えないが、人並み以上にこなせるようになった。
ダンスも以前とは比べものにならないほど上手くなっていた。
智絵里は、プロデューサーさんのお陰ですと言いながらも、とても嬉しそうにしていた。
智絵里は前よりも格段に自信がついてきて、少しずつアイドルとしての片鱗を見せるようになってきた。
「プロデューサーさん……えっと……今度は歌を頑張りたいので、一緒にカラオケに来てくれませんか?」
相変わらず内気な性格は変わらないが、それでも智絵里は少しずつ変わってきていた。
はっきりと喋れているし、視線だって外さない。
今日だってほんの少し緊張しているようだが、俺にカラオケに着いて来てほしいと頼みに来た。
前の智絵里なら年上の男に何かを頼むなんてとてもじゃないが無理だろう。
「一人は心細いもんな、分かった。仕事が終わったら行こう」
彼女からの頼みでは断れない。というより、智絵里からの頼み事は断れない。断った瞬間どんな表情をするのかと想像してしまうと、断れなくなる。
智絵里は、トレーナーに言われた事を思い出しながらカラオケで、場違いにもほどがあるほど真剣に練習した。
俺はソファーに座って、智絵里の歌をずっと聴いていた。常日頃思っているが、やはり智絵里の声は綺麗だ。
時折音を外したり、音程が分からなくなったりして焦る智絵里はとても可愛かった。
カラオケでの練習は一時間と控えめだが、智絵里と俺は毎日のようにカラオケに行った。
元々音痴というわけではなかったので、毎日のレッスンと自主トレーニングで、すぐに智絵里は上達していった。歌の方の才能は凄いらしい。
智絵里は、月日が経つにつれて明るい女の子になった。
オドオドしたような表情は消え失せ、常に優しい微笑みを携えている。
元からとても可愛かったが、最近の智絵里は更に可愛さに磨きがかかっていた。
小さなライブを行っては大量のファンを獲得し、モデル雑誌に乗れば、会社から次もお願いしたいと依頼が来る。
こうして、智絵里は人目に触れる機会が多くなっていき、確実に知名度と人気を伸ばしていった。
数カ月が経ち、智絵里にもとうとう大規模なライブの話が来た。
智絵里に伝えると、とても喜んでいたが、どこか不安そうでもあった。
無理もない。今まで彼女が行ってきたのは、小さなライブばかりであり、大規模なライブはこの仕事が初めてだ。
当日、智絵里は緊張していた。
楽屋で衣装に着替えた智絵里は、遠目からでも分かるくらい震えていた。
「プロデューサーさん……私、怖いです……」
まるで出会った頃のような様子の智絵里に、思わず苦笑する。
やっぱり、根本的には変われないのかな、などと思いつつも、震える彼女を見てどこか微笑ましい気持ちになった。
「なぁ、智絵里……よく聞いてくれ」
智絵里の肩を掴み、智絵里と目を合わせる。
「昔から、お前はできるっていう言葉がどうにも苦手だった。何を根拠にそんな事言えるんだ……根拠もないのに無責任な発言だなって、そう思った」
智絵里の震えが少しだけ収まっていくのが分かった。直に触れているから。
「でもな、今ならお前ならできるって言う人の気持ちも分かる。何故だか知らないけど、智絵里なら出来るって思う。気休めにもならないかもしれないけど」
「大丈夫です……プロデューサーさんが傍にいてくれるから」
智絵里が、ぎゅっと、俺の腰に手を回した。抱き合っているような状態なので、見られたらまずいが、少しの間なら大丈夫だろう。
「智絵里……お前なら出来るよ。だから、頑張って」
右手を彼女の背に回し、ぽんぽんと軽く背中を叩いて励ます。
数分間、軽く抱き合うような形で、智絵里が落ち着くまでずっと身を寄せ合っていた。
智絵里からいい匂いがするし、体は柔らかいし、色々大変だったが、何とか持ちこたえる。
「……プロデューサーさん、もう、大丈夫です……ありがとうございました」
「そうか」
抱きしめる腕に少しだけ力を込めた後、智絵里は離れた。
不安はどこかへ吹き飛んだのか、智絵里はいつもの優しい微笑みを浮かべていた。
「行ってきますね、プロデューサーさん……私の事、ずっと見守っていてください」
「あぁ……見守ってるよ。いつまでも」
智絵里はひまわりのように温かく明るい笑みを浮かべながら、楽屋を出て行った。
その後ろ姿は、数分前の智絵里の状態からは想像もできないくらい堂々としていた。
そして、彼女はステージに立つ。
大衆の歓声を浴びながら、今まで培ってきた全てを、観客に魅せる。
妖精のような儚さと、太陽のような明るさを持つ智絵里に、会場の人間の大半が心を奪われた。
音楽が止まり、観客へ向けて智絵里が深々と礼をした時、会場を震わせるほどの歓声が、会場全体に響き渡った。
「好きです……プロデューサーさん」
マイクの電源は既に切られ、小さく放たれたその言葉は誰の耳にも届かない。
「プロデューサーさん……一緒にいたいです……これからも……ずっと……」
更新はここまでです。
忙しくて中々更新できません。ごめんなさい。
忙しくて中々更新できません。ごめんなさい。
いい子なのに、一生懸命な子なのに、意思が強すぎるとこうなっちゃうんだね
智絵里はあのライブ以降、知名度と人気が劇的に上昇し、一躍有名人となった。
智絵里は見事にチャンスをモノにしたのだ。
喜んでいる智絵里を見て、心の底からこの仕事に就けてよかったと思う。
これからも見守っていこう、アイドル達を。
☆
「今までよくがんばったな、智絵里」
車の運転中、助手席に座る智絵里に労いの言葉をかける。
「あ、ありがとうございます……」
恥ずかしそうに眼を伏せる智絵里。相変わらず仕草が可愛らしかった。
その姿を見て、男性は保護欲を掻き立てられるのだろう。
「あ、あの、プロデューサーさん……その……これ…四葉のクローバーを押し花にして綴じ込んだ栞です、どうぞ。いつも……ありがとう…」
赤信号で車を停車させている時に、感謝の言葉と共に、智絵里が唐突に四葉のクローバーの栞を差し出してきた。
「嬉しいよ……ありがとな、智絵里」
本当に嬉しかった。態々プレゼントを用意してくれたくらいだから、それなりの信頼関係を築けてこれたのだろう。
よかった。
「これからも……これからもずっと……私の事、見守っていてくださいね?」
「言われなくても」
ずっと見守ってるよ。
☆
「智絵里を別のプロデューサーに任せる? それじゃ、俺は首ですか?!」
携帯に、社長からのメールが届いていた。内容は、話があるから社長室に来いとの事。
社長から告げられたのは、智絵里を別のプロデューサーに任せるというものだった。
いくらなんでも、急すぎる。
「待て待て、そう急ぐな。話は最後まで聞け」
「あ……す、すみません、取り乱して」
驚いたからとはいえ、立場も年齢も上の相手に声を荒げてしまった。冷静にならなくては。
「智絵里君はもうアイドルとして完成してきている。後はスケジュール管理だけ出来る人間を当てればいい」
それよりも、と社長は続ける。
「私は君の能力を買っている」
「智絵里を別のプロデューサーに任せる? それじゃ、俺は首ですか?!」
携帯に、社長からのメールが届いていた。内容は、話があるから社長室に来いとの事。
社長から告げられたのは、智絵里を別のプロデューサーに任せるというものだった。
いくらなんでも、急すぎる。
「待て待て、そう急ぐな。話は最後まで聞け」
「あ……す、すみません、取り乱して」
驚いたからとはいえ、立場も年齢も上の相手に声を荒げてしまった。冷静にならなくては。
「智絵里君はもうアイドルとして完成してきている。後はスケジュール管理だけ出来る人間を当てればいい」
それよりも、と社長は続ける。
「私は君の能力を買っている」
「能力、ですか? 私は、何も持っていませんよ」
社長は突然なにを言い出すのだろうか。能力だなんて心当たりがない。
「正直、これから話す事は、智絵里君に対して非常に失礼な内容ではあるが、どうか許してほしい」
そう前置きしてから、社長は語り出した。
「智絵里君は我がプロダクションの面接を受けに来て、無事受かった。だが我々は、彼女の見てくれが非常にいいから採用しただけであって、それ以外は最低評価だった」
「見てくれがいいから、それ以外を一切吟味せずに合格させたという事ですか?」
「あぁ、何度も言うが、彼女は容姿だけなら抜群だ。面接の時からアイドル向きの性格ではない事は把握していたが、採用した」
有名なプロダクションの割には随分と適当な面接ですね。心の中でそう思ったが、口には出さない。
「私はそれなりに忙しいが、仕事の報告は全て目を通している。智絵里君が最初の頃はモデルすらも満足に出来ていないことも知っている」
昔の智絵里は、笑顔を作るのが下手だった。その上、カメラマンに写真を取られるのを恥ずかしがって、すぐ終わる筈の仕事が結構長引いたりもした。
「トレーナーの方に話を聞くと、智絵里君は歌の方は優秀だが、ダンスの方は致命的と聞いた。二回ほど、レッスン現場を覗かせて貰ったが、確かに致命的だった」
確かに、智絵里の運動能力は平均よりも下かもしれない。でも、努力で克服できた。過程はそれなりに辛いものだったが、智絵里は努力でそれを克服した。
「私はね、彼女のプロデューサーが君じゃなかったら、今の智絵里君はないと思っている」
その言葉を聞いて、思わずいきり立つ。
「そんな事ありません! 智絵里は確かに気弱な性格ですが、意志だけは強かった! 現場でどんなに怒られても、トレーナーにどんなにダメ出しされても、智絵里は諦めなかった!」
智絵里の強い意志を感じて、俺も真剣に彼女と向き合って、彼女をプロデュースしていくと決めた。
「智絵里は、自分には才能がないと落ち込んでいたこともありました。才能がないかもしれないと自覚していながら、それでも智絵里は必死にアイドルを目指して努力を続けたんです!」
好きなのに、才能がない。それがどれほどの恐怖なのか、俺には分からない。
ただ、想像以上に辛い筈だ。
それでも、彼女は努力をやめなかったし、挫折もしなかった。泣き言は多かったが、アイドルを諦めるような発言はしなかった。
「首になる事を覚悟して言いますが、俺の能力云々よりも、まずは智絵里の努力を褒めてやってくださいよ! 俺がいなくたって、いずれ智絵里はトップアイドルになれましたよ!」
言いたい事を好き勝手に、状況も相手も考えずに吐き出す。俺はもう、終わりかもしれない。
荒い息を整えながら、恐る恐る社長を見る。
「はっはっはっ。なるほど、そうか……すまなかったな」
社長は苦笑いを浮かべながらも、頬を指先で掻きながら、言葉通り、すまなそうにしていた。
顔に出ていないだけで、本当は物凄く怒っているかもしれない。急いで謝罪しよう。
「あ、あの、社長――」
「どっちにせよ、智絵里君は別のプロデューサーに任せるよ」
俺の言葉は社長に遮られてしまう。そして、どっちにしろ智絵里の担当は外されるらしい。
「智絵里君の意志の強さと、努力は認めるよ。だけど、やはり、君も関係しているとは思うんだがな」
「いえ、その……」
何て返したらいいか分からず、口籠ってしまう。
小さく笑みを浮かべながら、社長が本題に入ろうと、話を切り出した。
「――君に少しの間、休暇を与えよう。その間に新しくアイドルをスカウトし、その子をプロデュースしたまえ」
「は?」
なんて無茶な話なのだろうか。
でも、社長は本気のようだった。
「出来るかね? 少々難題を吹っかけているという自覚はあるが、君にやってもらいたいんだ。君ならきっと素質のあるアイドルを見つけられると思うし、トップアイドルにも出来ると思う」
なんて無責任な発言なのだろうか。漫画やドラマじゃないんだぞ。
にやにやと笑みを浮かべながら、俺の返答を待つ社長。
平凡な社員が、社長の持ちかける話を断れるわけがなかった。
「分かりました。新しくアイドルをスカウトして、プロデュースします」
上手くいくかどうかは知りませんけどね、と心の中で付け加える。
「おぉ、そうか。君ならきっと、我がプロダクションに多大な利益をもたらすアイドルを見つけてくれるだろう。期待してるぞ」
結局は金か。馬鹿野郎が。
受けてしまったものは仕方がない。
なるべく、社長が満足できるような結果を残せるように、頑張ろう。
寝ます
話の展開遅くてごめんなさい
気長に付き合っていただければと思います
話の展開遅くてごめんなさい
気長に付き合っていただければと思います
距離を置く意味で、他の子のプロデュースは渡りに船だったんだろうな
ただ、みんな泥船に乗って来ただけで
ただ、みんな泥船に乗って来ただけで
☆
まずは女の子をスカウトする所から始めなくてはならないのか……
猛暑の中、汗水垂らしながら人の多い場所、特に若者が集まるような所に足を運ぶ。
人見知りというわけではないが、複数人で行動している女性達にスカウトしに行くのは、ナンパをする勇気も経験もない俺には少しハードルが高い。かと言って、一人の女性に近寄れば警戒される。
何なのだ、これは。どうすればいいのだ。
悩んでいても仕方がない、とりあえず動こう。突っ立ってるだけでは可能性すら得ることができない。
とはいえ、ただ闇雲に練り歩いても中々機会に巡り会えない。
普通に面接を受けに来た子から選ぶのはダメなのだろうか。スカウトなんて難しい事をいきなり吹っかけてくるなんて。
長い間、恐ろしく暑い中を歩き回っていたせいか疲れてしまい、近くにあったひと気のない公園のベンチで休むことにした。
曇り一つない青空を、恨めしく見つめる。いくらなんでも暑すぎる。
飲み物でも買おうかとベンチを立った時、ふと、遠くのベンチに座っている女性が目に入った。
眼鏡のお陰で、女性の姿はよく見える。
どこか思いつめたような暗い表情をしているが、とても美しい顔立ちなのが見て取れる。綺麗で艶のある黒髪、陶器のように白い肌、華奢な体躯、儚げな雰囲気。本当に綺麗な女性だった。
あの人なら、アイドルになれそうだな。そんな事を反射的に思い浮かべる。
アイドルになれそう、じゃない。アイドルになれるぞ、あの人なら。そんな空気が漂ってる。雰囲気が若干暗い気もするが……
俺はスカウトしに来てるんだ。相手はちょうど一人だし、強気で行こう。
遠い所から一直線に女性の下へと向かうのはかなり精神的に来るものがあるが、構わず歩き続ける。
彼女が俺を捉え、歩み寄る俺を見据えた。思わず足を止めそうになってしまう。恐ろしい緊張感だ。警察呼ばれたらどうすればいいのだろうか。
色々な事が頭を駆け巡っている間に、いつの間にか彼女の目の前に辿り着いてしまった。緊張で背筋が強張る。
目の前の女性が、何も言わずにただ視線を送ってくるだけなのも緊張に拍車をかけていた。
やはり、彼女はとても美しかった。近くで見ると、よく分かる。キメ細かい滑らかそうな肌に、まさに高嶺の花と言った感じの、高貴な顔の作り。
ただ、瞳は虚ろで光を灯しておらず、ぼんやりと濁っていた。表情もどこか無機質で、全てに無関心と言わんばかりの空気を纏っている。
彼女のくぐもった瞳には、何が映っているのだろうか。俺を見つめてはいるが、俺の姿が映っていないように見える。
人形のように、生気の感じられない。
彼女をアイドルに誘ったら、何か変わるだろうか。
もし、彼女がアイドルになったら、何が変わるのだろうか。
無気力にベンチにもたれかかる彼女に向けて、内ポケットから取り出した名刺を差し出す。
「アイドル、やってみないか?」
真っ直ぐに彼女の瞳を見つめ、告げる。
いつの間にか、緊張は解けていた。
「アイ、ドル?」
彼女は初めて反応を示した。
「そう、歌ったり踊ったりしてるアイドルだ。君はとても綺麗だから、アイドルになるための素養は十分だと思う」
「綺麗でも、何でも……アイドルなんて、親が許しはしないわ」
親が許さない。という事は、彼女自身はまだ心の底からアイドルになるのを嫌がっているわけではないのだろうか。それとも、断るための嘘か。
「アイドルになるのが嫌だったら、はっきり断って欲しい。でも、もし少しでもアイドルになりたいっていう気持ちがあるんだったら俺が君の親を説得する」
俺がそう言うと、無理だ、と言いたげに彼女は首を横に振る。
「あの両親を説得だなんて、無理よ」
「もし、仮にもし、両親を説得出来たら、君はアイドルになるかい?」
「えぇ、なってもいいわよ。出来たらの話だけれど」
表情や、雰囲気で読み取れる。
彼女は……俺にも、両親にも、何も期待していない。
何にも期待されていないのは少々切ないが、とりあえず彼女の両親を説得してみよう。
アイドルになって欲しいというのもあるが、何よりも、彼女の笑顔が見たかった。
「君の名前は?」
受け取った名刺をポケットにしまうのを見届けながら、彼女に名前を聞く。
彼女が顔を上げ、俺を見据えながら、名前を告げた。
「黒川千秋」
アイドルのスカウトは空中戦でいきなり音ゲーやらされるくらいの無茶振りか
女の人に「レディ・ガガ知ってる?」ってひたすら言い続けてる男をふと思い出した。
あれもスカウトだったのだろうか
あれもスカウトだったのだろうか
深夜テンションでさりげなく置いておいたネタが拾われた……
DODは有名ですね
更新はもう少し待ってください。
試験期間中なので
DODは有名ですね
更新はもう少し待ってください。
試験期間中なので
昔から、私に自由なんてなかった。
親が……家系が優秀だから、娘である私も優秀である事を求められた。
勉強は勿論、運動も、習い事もたくさんした。
親に甘やかされた事など一回もない。常に何かを教えられながら今まで育てられてきた。
自由に外を楽しそうにはしゃぎ回る子供たちが、別の世界の人間に見えた。
唯一人とまともに触れ合う事ができる小学校も、上手く馴染むことができなかった。
当たり前だ、満足に遊ぶ時間さえ取る事も出来ない上、流行りの話題についていく事すらできない私に、友人なんてできるはずもないのだ。
小学校卒業後、私は中高一貫校へと入学した。
中学生になったというのに、何故か環境は変わらない。いつも通りの、勉強と習い事の毎日。
クラスメイトは、勉強にしか興味がないのではないのかと思うぐらい、勉強熱心な人達ばかりだった。
授業中静かなのは当たり前で、先生が授業と関係ない話をすれば容赦なく続きを催促するような、真面目な人達。放課後、彼らがどこかへ遊びに行くなんて話をするのは稀だ。
私は友人が欲しかったが、何故か友人関係を築こうとする人間は少なく、また、機会も得られず、結局、私は中学高校共にずっと独りだった。
親の望みに応え、私は優秀であるように努めた。
小学校の時から既に勉強三昧だったのだから、流石に成績はよかった。
運動能力には恵まれ、常に上位をキープした。
たくさんある習い事だって全て器用にこなした。
大体の事は、何でも出来た。
でも……私は、自分がどれだけ優秀であっても、何も嬉しくない。
テストの点が良くても、運動ができても、ピアノやヴァイオリンが弾けても、ダンスが踊れても、何も嬉しくない。
何ができようとも、私が自分からやろうと思ってやったことではないのだ。
中学を卒業した私は、高校へと進級した。
高校では、三年分の内容を一年で終わらせ、残りの二年は受験勉強だった。
苦痛だった。何も考えず……何も考えることができずに、ただ勉強と課せられた習い事をこなす日々が。
成長しても、反抗期なんてもの迎えることはない。もう、体に染みついてしまっているのだ。親に何かを課せられ、それに従う事が。
仮に反抗なんてしたって、どうせ無駄だ。そういう親なのだから。
親に思いっきり逆らう妄想をしたことがある。一種のストレス発散なのだろう。勿論、実行なんてできない。妄想は妄想だ。
私はこのまま、何一つ自分の意志で生きる事が出来ないまま、老いて死んでいくのだろうか。
高校二年辺りから、毎日のように自身の暗い未来を思うようになった。
変わらない世界と変われない自分。つまりは永遠に変わらない。
想いを伝える事すらできない。だから、一つも変わらない。
鳥籠……いや、牢獄だ。
――仄暗い、牢獄。
私は、ここでこのまま朽ちて屍になるのだろう。
恨みながら――自分にとって無意味な人生を、逆らう事の出来ない情けない自分を、牢獄に閉じ込めた親を、何もかもを恨みながら。
「あなたの結婚相手が決まったわ……会うのは――」
「…………」
私が二十歳になった時、結婚を決められた。相手は私との結婚を望んでいるらしい。
一度、会わされて話をさせられたが、印象は良かった。
顔がよくて、学歴だって凄い。それに、とても優しそうな人だった。非の打ちどころのない、まさに完璧な男の人だ。
結婚すれば、何か変わるだろうか。
答えは、すぐに出た。
――きっと、何も変わらない。
だって、私は結婚の話を拒否することができないのだから。
私に、結婚の話を断るという選択肢が無い時点で、何かが変わるわけがないのだ。
結局、私は――
――永遠に、牢獄の中だ。
変えられないのなら、変わることが出来ないのなら、どうすればいいのだろう。
私は、どうして何もできないのだろう。
ぼんやりとした視界を、空へと向ける。
暗い気分とは裏腹に、空は晴れ晴れとして、強い日差しを大地に送り込んでいた。
ふと、視界の端に男の人が映ったのが見える。何となく、視線を男に寄越した。
男の人は神妙な顔つきをしながら真っ直ぐにこちらへと向かって来ている。何か用だろうか。
身なりは普通のサラリーマンのようで、あまり特徴のない顔の男だった。強いて言うなら、眼鏡をしていて真面目そうな印象を受けるぐらい。
その男は、私の目の前まで来ると、足を止めた。
男はポケットに手を突っ込むと、一枚の名刺を取り出し、私へと差し出す。
私が名刺を受け取ると、彼は口を開いた。
「アイドル、やってみないか?」
今まで変わらなかった世界が、少しだけ、変わったような気がした。
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