私的良スレ書庫
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元スレモバP「新しくアイドルプロダクションを作った」
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無事成功したことに胸を撫で下ろし、私は控室に戻りました。
控室の前にはプロデューサーがいて、私の方へと駆け寄ってきます。
「よく頑張ったな、文香。最高のライブだったぞ」
満面の笑みを浮かべたプロデューサーが、私を迎えてくれました。
プロデューサーが笑顔を浮かべたことに驚き、その笑顔が私の脳に焼き付きました。
――プロデューサーが、初めて笑顔を見せてくれた。
その事実が、ライブを成功させたことよりも、何よりも嬉しくて、思わず私も笑顔になったことを覚えています。
結局、笑顔を見せてくれたのはその一回きりで、その後は元通りになってしまいました。
前まではそんなことなかったのに、プロデューサーが私との間に壁を作っているのが、寂しく感じるようになりました。
私は何度もプロデューサーに話しかけますが、プロデューサーは応えはするものの相手をしてくれません。
本を読んでいる時に、ふとプロデューサーの笑顔が浮かび上がります。そして、視線が本からプロデューサーに移ってしまうことがよくありました。
プロデューサーのことばかり考えてしまって、読んでいる本が一ページも進まない時すらありました。
優しい表情を、もっと私に向けて欲しい。もっと、親しくなりたい。いつの間にか、日常的にそう思うようになりました。
既に自覚はしています。その手の本を私はたくさん見てきました。
これはきっと、恋なのでしょう。
私はプロデューサーを、好きになっていました。
自分に自信が持てるまでちえりの隣にいて一緒にいてあげて、自分を諦めていた千秋の手を引いて自由にしてあげて、文香は一番距離を距離を保ちつつそれゆえに文香が積極的になる…
最善策を取ってるハズなのに…!
最善策を取ってるハズなのに…!
そら(自分の夢にぶっきらぼうながら誠実に向き合ってくれれば)そう(その人のこと好きに)なるよ
>>558
ホモフラグ立ちそう
ホモフラグ立ちそう
途中でプロットを変更したために整合性が取れなくなりました。
なので修正します。申し訳ありません。
なので修正します。申し訳ありません。
――鷺沢文香。
それが、少女の名前だ。
アイドルの中でもトップクラスの顔立ちだが、アイドルには向かない大人しめの性格で、喋るのがあまり得意ではない。儚げな雰囲気を纏い、護ってあげたくなるような気持ちにさせる少女だ。
テレビで見かけることは少ないが、ライブにはよく出ているのを俺は知っている。
「久しぶり、です……プロデューサーさん」
「久しぶりだな、文香……」
小さく足音を鳴らして、俺の方へと近づいてくる文香。
手を伸ばせば触れる距離まで近づいた瞬間、倒れこむようにして、抱きついてきた。
「……どうして、私を置いていったんですか」
俺の背中に両手をしっかりと回し、上着に顔を埋めて、くぐもった声で悲しそうに文香は言う。
「…………ごめん」
色々言いたいことが浮かんでは、言葉にできずに消えていく。結局、謝ることしかできなかった。
絶対に離さないといわんばかりに、彼女が抱きしめる手に力を込める。
「文香……大丈夫か……?」
呼び掛けると、彼女が僅か数センチだけ、離れた。
「……プロデューサーさんのいない世界が、どれほど寂しくて、切なくて、悲しいものだか分かりますか? …………私はもう――」
文香が顔を上げる。その澄んだ青い瞳は、暗い光が灯っていた。
「――貴方がいないと、ダメです……」
そして、また頬を胸板に擦りつけたかと思うと、俺の上着をぎゅっと強く握り、震え始めた。
「貴方のいない世界が、こんなにも価値の無いものだとは思いませんでした……プロデューサーさんの事を考えてしまって……本を読むことさえ、満足に集中できませんでした……」
胸元が、水を吸収して湿り気を帯びる。文香は、肩を震わせて泣いていた。
「……プロデューサーさんに出会う前は……いえ、プロデューサーさんと出会ってからも、私は本が好きで……ずっと本を読んでいました……」
確かに、文香は本を読むのが好きだった。事務所でも控室でも、どこでだって彼女は本を読んでいた。
本を読んでいる文香の姿は美しく、たまに仕事を忘れて魅入っていたことを思い出す。
「……それぐらい本が好きな、私ですが……プロデューサーさん……最近の私を、知っていますか?」
文香がポケットから三枚の写真を取り出す。文香と俺のツーショットの写真と、俺が写っている写真が二枚だった。
俺が写っている写真二枚には、背後に他のアイドルも写っているのだが、背後に写っているアイドルの顔は、黒く塗りつぶされていた。それを見て、背筋に冷たいものが走る。
「……私……本よりも、プロデューサーさんの写真を見ている方が、長いです」
涙をたくさん零しながら、文香が笑みを浮かべた。
「……大変です、プロデューサーさん……どうすればいいでしょうか……?」
「文香……」
俺は、どうすればいいのだろうか。
傷つけたのは、千秋だけでは無い。そんな事、分かりきっていた筈なのに……。
何を考えるべきで、どんな言葉をかけるべきなのか何も思い浮かばない。
「プロデューサーさん……キス、してくれませんか?」
「それはダメだ」
大体、今俺達が話しているここは、普通の通路だ。いつ人が来てもおかしくないのだ。
しかも、文香は俺に抱きついている。それすらも十分に危うい。
文香には申し訳ないが、彼女の肩を掴んで強引に引き離す。顔を顰めて離すまいと文香も力を込めるが、非力な彼女が成人男性の力に敵う筈も無く、あっさりと文香を引き剥がす事に成功する。
「……………」
「文香の気持ちは嬉しい……だけど、ごめん……」
文香が俯く。ぽたりぽたりと、彼女の頬を涙が伝い、滴り落ちた。
「――ごめんなさい……プロデューサーさん……私、アイドル、やめます」
「お、おい……文香……」
文香が顔を上げる。その表情は涙に濡れていたが、満面の笑みを浮かべていた。とっても綺麗な笑顔だった。
「そうすれば……プロデューサーさんは恋人になってくれるんですよね?」
文香の言葉を聞いて、千秋の姿が脳裏に浮かんだ。仮に俺がどちらかを選んでも、まず間違いなくどちらか一方が傷つくだろう。
自惚れでは無い。恐らく、選ばれなかった方は傷つく。流石にないとは思うが、もう一度惨劇が起きるかもしれない。
そんな事なら俺はどちらも選ばずに二人とも傷つける。どんなに恨まれようとも、責められようとも、片方を選ぶわけには行かない。
「無理だ。文香がアイドルでなくても、俺は文香の恋人にはなれない」
「……そうですか」
文香が、また俯いた。彼女がどんな顔をしているのかは、前髪に隠れていて、見えない。
「……プロデューサーさんは、優しい人ですから、答えは知っていました……だから――」
彼女が唐突にポケットに手を突っ込み、さっきの三枚とは別の、もう一枚の写真を取り出した。
その写真を、俺に突き出す。
「――その優しさにつけこんでも、いいですか?」
文香が俺に突き出した写真には、俺と千秋が写っていた。
正確には、下着姿の千秋の体にキスをしている俺と、頬を赤らめて恥ずかしそうに瞳を閉じている千秋の姿が写っていた。
いつの間にか、盗られていたらしい。千秋と二人で会っていた所を。
「プロデューサーさん……今度は、キスしてくれますよね?」
文香が頬を紅潮させて、一歩踏み出す。その表情は期待に満ちていた。
「断ったら、ばら撒くのか?」
そう問うと、彼女は動きを止める。そして、くすくすと笑みを零した。
「……ごめんなさい、プロデューサーさん。脅迫は……本気じゃないと機能しないんです……」
表情から見て取れる。
鈍く、それでいて、怪しく、力強く煌めく青い瞳は、彼女が本気だと言う事を示していた。
「……この写真、一枚じゃないです……ですから、強引に奪っても、無駄、です……」
俺の目から、涙が零れた。何に対する涙なのかは、分からない。
「プロデューサーさん……キス、してください」
――千秋をこれ以上傷つけるわけには行かない。ここは、文香のいう事を聞くしかないのか……。
祈るように目を閉じて、静かに俺を待つ文香。彼女の肩に手を掛け、少しだけこちらに寄せながら、辺りを見回して人がいない事を確認する。
覚悟は決めた。
彼女の小さな吐息を肌で感じられる所まで、一気に顔を近づける。文香のふんわりとした甘い匂いが、鼻腔をくすぐった。
軽く唇同士が触れ合う。文香が流した涙の味がした。
唇を離しても、文香が追いかけてきてまた触れ合う。それを抵抗せずに受け入れる。
それが何回か繰り返された後、ようやく解放された。
文香は頬を紅潮させて荒い息をつきながら、満足そうな表情を浮かべる。
そして、おもむろに彼女は携帯を取り出した。
「……連絡先……教えてください……プロデューサーさん」
ぼんやりとした頭で、文香と連絡先を交換する。
彼女は、終始幸せそうな笑みを浮かべていた。
「……それでは……失礼します。メールは……ちゃんと返してくださいね……」
ちゅっ、と俺の首筋に小さくキスの跡をつけて、文香は去って行った。
何も変わらない。
何も変わっていない。
時間が経てば解決すると思っていた俺が、浅はかだった。
プロデューサーはどうやったら私の恋人になってくれるのでしょうか。
自分がアイドルだということも忘れ、今まで読んできた恋愛小説の内容を思い出しては自分とプロデューサーを登場人物に当てはめて考えます。
本を開いているのに、いつの間にかプロデューサーと恋人になった時の妄想ばかり浮かんできてしまい、やはり本を読み進められません。
やはり、告白が鉄則でしょうか……それとも、既成事実……。
プロデューサーと行為に及んでいる自分を想像して思わず顔が熱くなります。恥ずかしい。
当のプロデューサーは、机の前で何やら難しそうな表情をして切手?のようなものを眺めていました。悲しそうな表情を浮かべたり、辛そうな表情を浮かべたり、傍から見ると酷い有様です。
ただの切手ではないのでしょうか……?
プロデューサーは切手を机にしまうと立ち上がり、事務所を出て行きました。
私は好奇心に負け、プロデューサーが机に入れた切手を手に取ってしまいました。
プロデューサーが見ていたのは切手ではなく、プリクラと呼ばれる小さな写真でした。
プリクラには、プロデューサーと黒髪の女性が親しげに腕を組みながら笑顔で写っています。
私はそれを見た瞬間、胸が締め付けられるような感覚に陥ったかと思うと、黒髪の女性に強い嫌悪感と嫉妬心を抱きました。
こんな気分は初めてで、私はプリクラを手に取ったまま暫く固まっていました。
そして、プリクラに写っている黒髪の女性が同じ事務所に所属する黒川千秋さんだということに、私は気付きます。
だから黒川さんは時折プロデューサーに視線を送っていたのですね。
驚いたことに二人は付き合っていたようです。いえ……付き合っているのでしょうか? 千秋さんは笑顔でプロデューサーを見ていたことはありません。プロデューサーも、千秋さんとのツーショットの写真を複雑な表情で眺めていました。
もしかして二人は、別れたのでしょうか?
仮に付き合っていたとしても、これを使って脅せば二人を別れさせることは容易です。
ここまで来て、ようやく自分の中のどす黒い感情に気づきました。
気が付けば、プリクラを持つ手が震えています。
――この人は、プロデューサーの笑顔を独り占めにしていた。
この事実がどうしようもなく私の嫉妬心を煽り、大きくしていきました。
他のプロダクションに売られるぐらいの欠陥品である私に、プロデューサーは熱心に付き合ってくれた。
ため息の一つもつかずについてくれて、たくさんの時間を割いてくれた。
愛想笑いの一つですら浮かべることの出来ない私を連れて、必死に売り込んでくれた。
私の声を、歌を、褒めてくれた。
わざと壁を作っているのに、私が緊張している時は自分で壁を壊して、優しく励ましてくれた。
ライブが成功した時は、私を笑顔で褒めてくれた。
プロデューサーは本と同じぐらい、いえ……それ以上に、大切な人……。
私は暫くの間回想に浸り、プリクラを持ったまま佇んでいました。
気が付けば私の腕は誰かによって掴まれていました。
振り向けば、そこには黒川さんが立っていました。怒りに染まった表情と、殺気の籠った視線がとても印象的でした。
女性とは思えないほどの握力で私の腕を握り絞め、その痛みに思わずプリクラを手から放してしまいます。
黒川さんはそれを慌てて拾ったかと思うと愛おしげに胸に抱き、そして私を睨み付けました。
「これはあなたが勝手に触ってはいいものではないの」
黒川さんはそう言って立ち去りました。私は彼女の威圧感に圧倒され、何も言い返すことはできませんでした。
――負けたくない。
彼女なんかに、プロデューサーを盗られたくない。
プロデューサーを想う気持ちはより一層、強くなっていきました。
まずは私も、写真を撮らなければなりません。
★
ライブが終わってからというものの、文香は変わった。大きな仕事を成功させ、ある程度の自信がついたのだろう。
よく笑うようになったし、ほんの少しだけお洒落になった。相変わらず本ばかり読んでいるが。
そして、長い前髪を少しだけ切ってくれるよう何度もお願いして来る。
俺は当然断った。女性の髪に触るのは抵抗があるからだ。例によって二人を思い出すからである。
だが、文香にしては珍しく、中々譲らない。最善を尽くすが変になっても知らないぞと脅しのような忠告を何回もした後、文香の前髪を切った。勿論、ヘアカットハサミを用いて。
慎重に時間をかけて切ったこともあり、違和感のない仕上がりになった。
切っている間ずっと真正面から視線を受けており、かなり精神が削れた。青く澄んだ綺麗な瞳と視線が絡まる度に息が詰まるのだ。気を抜けば魅入ってしまう。
文香も切られている間、頬を薄らと桜色に染め、恥ずかしそうな表情を浮かべたりしていて心が休まらなかった。
智絵里とも、千秋とも全く違う魅力を持っているのだ、彼女は。全然慣れない。
文香もライブを終えて知名度と人気がある程度上がった。他のアイドルが歌っていた賑やかなものとは違い、文香の歌ったものは場違いなほど大人しめの曲だ。それ故に目立ち、話題になり、印象に残る。効果は抜群だった。
文香のCDはまだ発売していないが、発売すればそれなりに売れるだろう。少なくともあのライブに来ていた人達は文香の姿と歌を記憶に焼き付けてくれた筈だ。
それにしても――。
隣を歩いている文香に視線を移す。
前髪が少しだけ短くなった文香は、前と違って目が隠れていない。当然、写真に写る時も前とイメージがかなり変わる。
更に、微笑みを浮かべられるようになった。無理矢理作ったようなものではなく、ごく自然な感じの微笑みだ。
当然、人気が出た。文香はまさに、男性から見た理想の女性像を体現したかのような存在だからだ。
俺は、その唐突な変化に疑問を抱いた。
彼女が明るくなるのはいいことだが、ライブが成功しただけでそこまで変わるようなものなのだろうか。
「文香ちゃん、最近は凄く明るいね。もしかして好きな人でもできたんじゃないか? 恋をすると女は変わるって言うしな」
最近の文香を見た関係者はそうコメントした。好きな人の部分に内心過剰反応してしまったが、まさかな。あの文香に限ってそんなこと……。
いや、でも最近かっこいい俳優とかに話しかけられていたような。黙りこくって俳優に一方的に話しかけられているだけだったし、あの時はいつもの無表情だったから多分違う、はず。
思い返せば文香が男と接触する機会は結構あった。確認のしようがない。
隣を歩いている文香に視線を移す。
前髪が少しだけ短くなった文香は、前と違って目が隠れていない。当然、写真に写る時も前とイメージがかなり変わる。
更に、微笑みを浮かべられるようになった。無理矢理作ったようなものではなく、ごく自然な感じの微笑みだ。
当然、人気が出た。文香はまさに、男性から見た理想の女性像を体現したかのような存在だからだ。
俺は、その唐突な変化に疑問を抱いた。
彼女が明るくなるのはいいことだが、ライブが成功しただけでそこまで変わるようなものなのだろうか。
「文香ちゃん、最近は凄く明るいね。もしかして好きな人でもできたんじゃないか? 恋をすると女は変わるって言うしな」
最近の文香を見た関係者はそうコメントした。好きな人の部分に内心過剰反応してしまったが、まさかな。あの文香に限ってそんなこと……。
いや、でも最近かっこいい俳優とかに話しかけられていたような。黙りこくって俳優に一方的に話しかけられているだけだったし、あの時はいつもの無表情だったから多分違う、はず。
思い返せば文香が男と接触する機会は結構あった。確認のしようがない。
考え事をしていると、不意に袖を引っ張られる。
「プロデューサー……あの……栞作ったので、よければ使ってください」
文香がバックから厳重に保管された栞を取り出した。丁寧な作りの栞だった。四葉のクローバーを押し花にして閉じたものだ。
――受け取った瞬間、文香の姿が過去の智絵里と被った。
背筋に冷たいものが走る。
その日から、文香を見る度に智絵里の姿が浮かび上がり、付き纏う。
☆
智絵里から、明確に好きだと好意を伝えられたことはない。ずっと妹のような存在だと思っていたから、恋愛感情云々については全く考えていなかった。
千秋に智絵里の好意を伝えられてから、俺は智絵里との思い出を見直した。
今思えば、不自然だった。いくら妹のような存在だと思っていたとしても、やたらくっついていた。
あんなにずっとくっつかれて妹のような存在は無理がある。というか全く意識しなかった俺はホモなんだろうか。
智絵里がよく抱き付いてきたことも、頭を撫でることを要求されたことも、手を繋いできたことも、全て好意からなるものではないかと思い始める。
千秋と時折不穏な空気を出していたのも、俺に好意を持っていたから……?
もしかして、千秋に嫉妬していたのだろうか。
俺は頭を抱える。
だとしたら、智絵里は本当に千秋を刺したのだろうか。千秋が死ぬかもしれないのに。
智絵里は臆病で、気が弱い。そんな子が、人を刺すなんてこと果たして出来るのだろうか。
過去に何度か見た、智絵里の不気味な暗い笑みを思い出すと、もしかしたらという考えが生まれたりもした。
智絵里は、俺のことを大切な人だと言っていた。
やはり智絵里は、俺のことが好きだったのだろうか。
それが本当なら嬉しいことなのだろう。あんなに可愛くて優しい子に好意を寄せられているのだから。
……だけど、どうしてこんなに胸が苦しいのか。
「…………疲れた」
智絵里と千秋、そして文香のことばかり考えてしまい、仕事が手につかなくなった。
精神的に疲弊したせいか強い眠気に襲われ、そのまま睡魔に身を任せる。
俺の意識は途絶えた。
★
目が覚めた時、視界いっぱいに文香の顔が映り込んだ。
青い瞳が俺の瞳を捉えて離さない。
何も考えられず、驚くことも出来ず、俺は固まった。
そして、気が付けば俺は文香とキスを交わしていた。
真っ赤な表情の文香がそれを隠すべく顔を伏せ、離れた。
「…………迷惑、でしたか……?」
小さい声を震わせながら文香はそう言った。
もはや何の言葉も出ない。
「……ご、ごめんなさい!」
文香は珍しく大きな声を出したと思うと、駆け足で逃げるように事務所を出て行った。
窓から入る夕暮れの日差しが事務所を真っ赤に照らす。事務所には事務員すら居らず、静かだった。
力が抜けたように、背もたれに寄りかかる。
「そうか……」
こうなったか。
★
後日、俺は社長室へと足を運んでいた。
社長に前日の夜に書き上げた辞表を差し出す。
「仕事の引継ぎ等はやります。それが終わったら、ここを出て行きます」
社長は何も言わなかった。辞表を受け取って頷いただけだ。
後日、俺は社長室へと足を運んでいた。
社長に前日の夜に書き上げた辞表を差し出す。
「仕事の引継ぎ等はやります。それが終わったら、ここを出て行きます」
社長は何も言わなかった。辞表を受け取って頷いただけだ。
☆
プロダクションを出る数日前に、智絵里と話す機会を設けられた。
俺は単刀直入に聞いた。智絵里が千秋を襲った犯人なのかどうかを。
「私……Pさんの力になりたくて……ごめんなさい……」
智絵里は俯き、小さな声でそう弁解した。その発言も、刺したことを申し訳ないと思っているのではなく、【勝手に解決してごめんなさい】というような言い方だった。
何もかもが狂っていた。
思わず泣きそうになり、慌てて智絵里の下を離れた。
結局、何もかも俺のせいだった。智絵里も、千秋も、全て。
その後、文香にも、智絵里にも、千秋にも、一言の挨拶もせずに、俺はプロダクションを退いた。
退職金は桁を間違えてるんじゃないかと思うほど貰い、驚いた記憶がある。
結局、俺はプロデュースをしたくて、新しくアイドルプロダクションを作ったわけだが。
また同じことが繰り返されるのは、流石に酷いと言わざるをえない。
ようやく>>181に戻ってきたか…
★
長い回想を終え、片手で傘を差しながら先導する智絵里の背中を見る。
智絵里は俺の手を引きながら、どこかへと向かっている。
強い雨のおかげで今の俺達を写真に収めるのは至難の技だが、気は抜けない。いつどこに記者が潜んでいるか分からないのだ。
雨に加え、大きな傘で智絵里も俺も顔が隠れているから恐らく大丈夫だとは思うが。
遂に、過去に担当したアイドル達全員と再開してしまった。
逃げるなってことなんだろう……きっと。
どんな結果になろうとも構わない。今は、皆の想いに向き合おう。
逃げずに、受け止める。
おつー
コレほどまでに心にクるのは久しぶりだ・・・続きが待ち遠しいな
コレほどまでに心にクるのは久しぶりだ・・・続きが待ち遠しいな
乙。
ゾクゾクするねえ
「ちひろ」が「ちひ ろ」になってるのも意味があるのだろうか
ゾクゾクするねえ
「ちひろ」が「ちひ ろ」になってるのも意味があるのだろうか
再開と書かれていても(悪夢の)再開ととれば問題ないという。
胸が熱くなるな。
胸が熱くなるな。
ヒロインが理性を保ちながら狂っていくヤンデレモノ大好きです
応援してます
応援してます
智絵里に連れてこられたのは、大きなマンションだった。今はここで一人暮らしをしているらしい。
七階までエレベーターで上がり、そのまま智絵里の部屋へと通される。
居間は綺麗だった。というよりも、殺風景と言った方が正しいだろうか。テーブルや椅子、タンス、ソファ、大体の家庭にあるであろう家具は揃っているが、それ以外の、いわゆる趣味に関するものが一切ない。
智絵里の趣味には詳しくないが、最低限の家具しかここにはないのだ。もしかしたら他の部屋にあるのかもしれないが。
「……Pさんはソファに座っていてください……今、タオルを持ってきます……」
ソファに座れって……上も下も濡れているのだから座れるわけがない。
結局佇んだ状態で智絵里を待つ。タオルを持って戻ってきた智絵里から大きめの白いタオルを受け取り、取りあえず体を拭く。
「あ……えと……コーヒー淹れてきますね」
貰ったタオルで体を拭いている俺を眺めていた彼女は、はっと思い出したようにキッチンへと向かって行った。
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