私的良スレ書庫
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元スレモバP「新しくアイドルプロダクションを作った」
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更新はもうちょい掛かりそうですごめんなさい
申し訳ないのですが、このSSは胸糞が悪い展開があるので、そういうのが苦手な方は読まないようにしてください
一種のネタバレですが、不快にさせるのも申し訳ないので
よろしくお願いします
申し訳ないのですが、このSSは胸糞が悪い展開があるので、そういうのが苦手な方は読まないようにしてください
一種のネタバレですが、不快にさせるのも申し訳ないので
よろしくお願いします
>>105
君望のようなドロドロ愛憎劇とか
君望のようなドロドロ愛憎劇とか
スタジオ付近の楽屋にて、俺とアーニャは抱き合っていた。傍から見たら恋人に見えるかもしれないが、誤解だ。
彼女の緊張を解くためにやっている。
前にあった大規模なライブにアーニャが参加した時、初めてのライブで緊張し、彼女は思わず俺に抱きついてしまったのだが、何故か緊張が解けて、落ち着いたらしい。
それ以降、酷く緊張する仕事の時はこうして抱きしめて落ち着かせるようになった。
「アーニャ、何だか甘えん坊になってないか?」
俺の胸に顔を埋めるアーニャは、笑みを浮かべながら頬を胸板に擦りつけている。甘えてくる小動物みたいだ。
「……ごめんなさい」
「別に怒ってはいないが……」
落ち込む彼女を見て、慌ててフォローする。ただ、年頃の女の子、しかもアイドルにそういう事を許してしまうと、万が一がある。アーニャが落ち着くと言っているなら是非思う存分胸を貸したいが、状況によりけりだ。
「最近、悩んでいませんか? プロデューサー」
「そんな事はないよ」
悩んでいる事を察知された事に動揺し、間髪入れずに言葉を返してしまった。いくらなんでも不自然すぎる。
「私でよければ、いつでも相談に乗りますよ?」
「別に大丈夫だ。ありがとうな、アーニャ」
ふわふわの銀髪を撫でる。アーニャの髪は手触りが凄くいい。やはり女の子の髪は触り心地が最高だ。男が無闇に触っていいものではないが。
アーニャが頬を桜色に染めて、恥ずかしそうに身じろぎした。
本当は誰かに相談したい気分だ。ただ、他人に相談できるような内容でもない。誰が信じるんだ、人気があって有名なアイドルに想いを寄せられているなんて事。信じられるとそれはそれで厄介だし。やはり他人には言いづらい。
アーニャは撫でられて、くすぐったそうにしながら、口を開く。
「やっぱりプロデューサーといると、心が安らぎます。家にいるよりも、他の誰かといるよりも」
アーニャの言葉を聞いて、はっとする。似たような事が、前にも会った。
一年半ぐらい前の出来事だが、よく覚えている。
もしかして、アーニャは――
「プロデューサー? どうかしましたか?」
「何でもないよ……」
浮かび上がった想像を、慌てて振り払う。
思い込みが激しくなってる。よく考えたら、あるわけない。アーニャが俺に好意を寄せているなんて、ある筈もないだろう。
過去にそういう事があったから、変に意識しているだけだ。
彼女は俺を男とし見ているのではなく、父親のように慕っているだけだ。
長い間一緒にいたから、信頼してくれているだけなんだ。
きっと、そうだ。
「プロデューサー? 大丈夫ですか?」
「へっ? あぁ……大丈夫」
放心していたらしい、注意しなければ。
「アーニャ、もうすぐ撮影始まるぞ。俺は関係者の人達に挨拶してから行くから」
「分かりました……いってきますね、プロデューサー」
名残惜しそうな表情を浮かべ、アーニャは離れた。軽く身支度を整えて、彼女は撮影場所へと向って行く。
「ごめんな、アーニャ」
仕事をするアーニャをいつものように傍で見守ってやりたかった。
携帯で、ある女性にメールを送る。
彼女が楽屋を出て行って数分後、一人の女性がこの部屋へと足を踏み入れた。
――黒川千秋
「会いたかったわ、プロデューサー」
「俺はもう、プロデューサーじゃないだろ」
今更ながら、指摘する。正直どうでもいい事だ。
「私のプロデューサーは貴方だけよ。こんな事、言わなくても分かるでしょう?」
「……そうか」
千秋が俺との距離を縮め、手を伸ばした。するりと、俺の左腕に両手を腕を絡ませ、腕を抱くようにして密着した。そして、街中を歩く恋人のように、彼女は寄り添う。千秋の豊満な胸の感触が腕を通して伝わってきた。
「……少しは恥らったりしないのかしら、貴方は」
「顔に出ないだけだ、恥ずかしいに決まってる」
俺の言葉を聞いて、彼女は頬を染めながら魅惑的な笑みを浮かべた。
「ふふっ。嬉しい」
ぎゅっと、千秋が俺の腕を強く抱いた。
腕を抱きながら、千秋が頭を俺の肩に乗せる。千秋は、心の底から幸せそうな表情を浮かべていた。
その表情は、ずるい。
千秋は綺麗でお淑やかで、清楚だ。そんな人に求愛されて、喜ばないわけが無い。
正直、千秋の事はかなり好いている、今も昔も。
だから傷を負わせた事に負い目を感じるし、彼女が求める逢い引きも拒否しない。
だけど、このままでは――
「プロデューサー。いつものように、傷跡にキス、して?」
上目遣いに、彼女が告げる。猫のようにじゃれ付きながら。
俺が頷くと、彼女は上着を脱ぎだし、真っ白な肌を晒す。高級そうな黒いレースの下着は、とてもよく彼女に似合っていた。
じっと胸に視線を注がれている事に千秋は気付き、恥ずかしそうにしている。それに気付いた俺は慌てて目を逸らす。
「……別に、気が済むまで見るといいわ」
千秋が顔を真っ赤にしながらそんな事を言う。何でそんなに俺の理性を飛ばそうとしてくるんだこいつは。
「……早く、キスして……恥ずかしいの」
そう懇願されて、俺は慌てて彼女の体に触れる。
痛々しく、それでいて深く残っている傷跡に顔を近づけ、触れるだけの軽いキスをした。残りの二箇所にも同じようにキスをする。
「うぅ……」
その間、千秋はずっと顔を真っ赤にして身動ぎ一つせずに固まっていた。
「そんなに恥ずかしいなら頼まなければいいのに」
「嫌よ……こうでもしないと貴方は私に触れてくれないもの」
確かにそうだが。
「私の出番、もうすぐだから、今日はこれで失礼するわ」
そう言って彼女は、身支度を整え始めた。脱ぎ去った上着を拾い、身につけ、鏡を見ながら軽く髪を梳いて整えている。
一通り身支度を終えた彼女は、くるりとこちらを振り向く。
振り返った千秋は、誰もが魅了される、魅惑的な笑みを浮かべていた。
「では、また会いましょう、プロデューサー」
「またな」
千秋が小さく手を振った。俺も小さく返す。
くすくすと笑みを滲ませ、千秋は楽屋を出て行った。
暫くの間、千秋が出て行った扉を、ぼーっと眺めて佇んでいた。
不意にアーニャを思い出す。
「アーニャの様子を見に行くか……」
呆けている場合じゃない、アーニャの所に行って仕事を応援しよう。
俺は楽屋を後にして、アーニャのいる撮影場所へと向った。
質素で綺麗な長い廊下を、一人歩く。迷路のように入り組んでいて、迷いそうだが、アーニャの撮影場所は分かる。
十字路を真っ直ぐに突き進んだ時、ふと、視界の端に黒髪の女の子が映った。前髪が目を隠すぐらい長い、どこか仄暗い雰囲気の女の子。
何故か、思わず足を止めそうになる。
気のせい、だよな?
「プロデューサーさん」
廊下に響く、少女の声。
透き通った綺麗な声は、間違いなく俺に向けられたものだ。周囲には俺一人しかいないのだから。
声には聞き覚えがある。
気のせいではなかった。
振り返り、廊下に佇む少女を見つめる。俺をプロデューサーと呼んだ少女は、黒を基調とした衣装を着こなしている。仕事場に向う途中だったのだろうか。
長い前髪に隠れてしまっているが、隙間から彼女の澄んだ青い瞳が見えた。
目の前の少女は間違いなく、俺が過去にプロデュースしていたアイドルだ。
千秋の話が本当なら、彼女は新しいプロデューサーを好きになっているらしいが――
――俺をじっと見つめる少女は、何故だか千秋同様、何も変わっていない様な気がした。
乙
二人の片方がクローバーの子でもう片方が期待の新人の彼女か・・・
二人の片方がクローバーの子でもう片方が期待の新人の彼女か・・・
乙
それにしても、黒川さんのヤンデレぶりも悪くないし
先の展開が面白そうだから個人的には応援させて貰う。
乙
黒川さん…てことは黒川さんの言ってる事はほとんど嘘ってことか
黒川さん…てことは黒川さんの言ってる事はほとんど嘘ってことか
――鷺沢文香。
それが、少女の名前だ。
アイドルの中でもトップクラスの顔立ちだが、アイドルには向かない大人しめの性格で、喋るのがあまり得意ではない。儚げな雰囲気を纏い、護ってあげたくなるような気持ちにさせる少女である。
最近は、昔と比べて人前に出るのも慣れたらしく、少しずつ笑顔も見せるようになってきている。やや暗めの雰囲気は変わっていないが。
「久しぶり、です……プロデューサーさん」
「久しぶりだな、文香……」
小さく足音を鳴らして、俺の方へと近づいてくる文香。
手を伸ばせば触れる距離まで近づいた瞬間、倒れこむようにして、抱きついてきた。
「……どうして、私を置いていったんですか」
俺の背中に両手をしっかりと回し、上着に顔を埋めて、くぐもった声で悲しそうに文香は言う。
「俺は、必死にアイドルをがんばってる文香達を、不幸にしたくなかったんだ……分かってくれ……」
それに、俺は彼女達を置いていったのではなく、あのプロダクションから強制的に追い出されたのだ。問題を起こした原因なのだから当たり前だが。
文香だって、それぐらいきっと分かるだろう。分かっていて、あえてそう言ったのかもしれない。
絶対に離さないといわんばかりに、彼女が抱きしめる手に力を込める。
「文香……大丈夫か……?」
呼び掛けると、彼女が僅か数センチだけ、離れた。
「……プロデューサーさんがいないのが、私にとっての、一番の不幸です……私はもう――」
文香が顔を上げる。その澄んだ青い瞳は、暗い光が灯っていた。
「――貴方がいないと、ダメです……」
そして、また頬を胸板に擦りつけたかと思うと、俺の上着をぎゅっと強く握り、震え始めた。
「貴方のいない世界が、こんなにも価値の無いものだとは思いませんでした……プロデューサーさんの事を考えてしまって……本を読むことさえ、満足に集中できませんでした……」
胸元が、水を吸収して湿り気を帯びる。文香は、肩を震わせて泣いていた。
「……プロデューサーさんに出会う前は……いえ、プロデューサーさんと出会ってからも、私は本が好きで……ずっと本を読んでいました……」
文香は本がとても好きだ。栞を作るのも好きだと言っていた。
俺は、本に夢中になってる文香や、事務所でせっせと栞を作っている文香を見るのが、好きだった。
最初は戸惑ったけど、最近はアイドル活動が楽しいと言ってくれて、嬉しかった。
思い返してみると、他のプロダクションのプロデューサーとアイドルと比べると、俺はアイドルに近づきすぎたのかもしれない。
そのせいで、文香は……
「……それぐらい本が好きな、私ですが……プロデューサーさん……最近の私を、知っていますか?」
文香がポケットから三枚の写真を取り出す。文香と俺のツーショットの写真と、俺が写っている写真が二枚だった。
俺が写っている写真二枚には、背後に他のアイドルも写っているのだが、背後に写っているアイドルの顔は、黒く塗りつぶされていた。それを見て、背筋に冷たいものが走る。
「……私……本よりも、プロデューサーさんの写真を見ている方が、長いです」
涙をたくさん零しながら、文香が笑みを浮かべた。
「……大変です、プロデューサーさん……どうすればいいでしょうか……?」
「文香……」
俺は、どうすればいいんだ?
傷つけたのは、千秋だけでは無い。そんな事、分かりきっていた筈なのに……
「プロデューサーさん……キス、してくれませんか?」
「それは……ダメだ……」
大体、今俺達が話しているここは、普通の通路だ。いつ人が来てもおかしくないのだ。
しかも、文香は俺に抱きついている。それすらも十分に危うい。
文香には申し訳ないが、彼女の肩を掴んで強引に引き離す。顔を顰めて離すまいと文香も力を込めるが、非力な彼女が成人男性の力に敵う筈も無く、あっさりと文香を引き剥がす事に成功する。
「……また、ですか……」
「文香は、アイドルだ……だからな……ごめん……」
文香が俯く。ぽたりぽたりと、彼女の頬を涙が伝い、滴り落ちた。
「――ごめんなさい……プロデューサーさん……私、アイドル、やめます」
「お、おい……文香……」
文香が顔を上げる。その表情は涙に濡れていたが、満面の笑みを浮かべていた。とっても綺麗な笑顔だった。
「そうすれば……プロデューサーさんは恋人になってくれるんですよね?」
文香の言葉を聞いて、千秋の事が脳裏に浮かんだ。仮に俺がどちらかを選んでも、どちらか一方が傷ついてしまう。
自惚れでは無い……恐らく、選ばれなかった方は傷つく。そして、繰り返されてしまうかもしれない、惨劇が。
そんな事なら俺は、どちらも選ばない……二人とも傷つける。どんなに恨まれようとも、片方を選ぶわけには行かない。
「無理だ……文香がアイドルでなくても、俺は文香の恋人にはなれない……」
「……そうですか」
文香が、また俯いた。彼女がどんな顔をしているのかは、前髪に隠れていて、見えない。
「……プロデューサーさんは、優しい人ですから、答えは知っていました……だから――」
彼女が唐突にポケットに手を突っ込み、さっきの三枚とは別の、もう一枚の写真を取り出した。
その写真を、俺に突き出す。
「――その優しさにつけこんでも、いいですか?」
文香が俺に突き出した写真には、俺と千秋が写っていた。
正確には、下着姿の千秋の体にキスをしている俺と、頬を赤らめて、恥ずかしそうに瞳を閉じている千秋の姿が、写っていた。
いつの間にか、盗られていたらしい。千秋と二人で会っていた所を。
「……」
「プロデューサーさん……今度は、キスしてくれますよね?」
文香が頬を紅潮させて、一歩踏み出す。その表情は期待に満ちていた。
「断ったら、ばら撒くのか?」
そう問うと、彼女は動きを止める。そして、くすくすと笑みを零した。
「……ごめんなさい、プロデューサーさん。脅迫は……本気じゃないと機能しないんです……」
表情から見て取れる。
鈍く、それでいて、怪しく、力強く煌めく青い瞳は、彼女が本気だと言う事を示していた。
「……この写真、一枚じゃないです……ですから、強引に奪っても、無駄、です……」
俺の目から、涙が零れた。何に対する涙なのかは、分からない。
「プロデューサーさん……キス、してください」
――千秋をこれ以上傷つけるわけには行かない。ここは、文香のいう事を聞くしかないのか……
祈るように目を閉じて、静かに俺を待つ文香。彼女の肩に手を掛け、少しだけこちらに寄せながら、辺りを見回して人がいない事を確認する。
覚悟は決めた。
彼女の小さな吐息を肌で感じられる所まで、一気に顔を近づける。文香のふんわりとした甘い匂いが、鼻腔をくすぐった。
そして、軽く、唇同士が触れ合う。文香が流した涙の味がした。
唇を離しても、文香が追いかけてきてまた触れ合う。抵抗せずに、受け入れる。
それが、何回か繰り返された後、ようやく、解放される。
文香は頬を紅潮させて荒い息をつきながら、満足そうな表情を浮かべた。
そして、おもむろに彼女は携帯を取り出す。
「それでは、連絡先……教えてください……プロデューサーさん」
ぼんやりとした頭で、文香と連絡先を交換する。
彼女は、終始幸せそうな笑みを浮かべていた。
「……それでは……失礼します。メールは……ちゃんと返してくださいね……」
ちゅっ、と俺の首筋に小さくキスの跡をつけて、文香は去って行った。
何も変わらない。
何も変わっていない。
このままでは……また……
乙
こいつら見捨てろよ、Pww人の弱みにつけこんでくるのはどんな美人でもクズだろ
こいつら見捨てろよ、Pww人の弱みにつけこんでくるのはどんな美人でもクズだろ
>>135
弱味があるからつけこまれて、見捨てないんだろう?
弱味があるからつけこまれて、見捨てないんだろう?
写真の顔を塗りつぶす下りでドキドキしました(小並感)
多分登場するだろうちえりんも楽しみ
多分登場するだろうちえりんも楽しみ
>>140
下品な話になるが……俺も勃起してしまいましてね
下品な話になるが……俺も勃起してしまいましてね
祈るように目を閉じて、静かに俺を待つ文香。彼女の肩に手を掛け、少しだけこちらに寄せながら、辺りを見回して人がいない事を確認する。
覚悟は決めた。
彼女の小さな吐息を肌で感じられる所まで、一気に顔を近づける。文香のふんわりとした甘い匂いが、鼻腔をくすぐった。
そして、軽く、唇同士が触れ合う。文香が流した涙の味がした。
唇を離しても、文香が追いかけてきてまた触れ合う。抵抗せずに、全て受け入れる。
それが、何回か繰り返された後、ようやく、解放される。
文香は頬を紅潮させて荒い息をつきながら、満足そうな表情を浮かべた。
そして、おもむろに彼女は携帯を取り出す。
「あの……連絡先、教えてください……プロデューサーさん」
写真がある以上、俺に拒否権は無い。携帯を取り出し、ぼんやりとした頭のまま文香と連絡先を交換する。
彼女は、終始幸せそうな笑みを浮かべていた。
「……それでは……失礼します。メール、ちゃんと返してくださいね……」
ちゅっ、と俺の首筋に小さくキスの跡をつけて、文香は去って行った。
何も変わらない。
何も変わっていない。
このままでは……また……
文香と別れた後、アーニャの所へ行って、仕事が終わるまで彼女の仕事風景を見守りながら待った。
何もする事がないと、思い出す。
文香や、千秋と過ごした日々を。
ファンよりも近い所からアイドルを応援したいという夢を叶えるため、俺はプロデューサーという職に就いた。一般的にプロデューサーと言うのは製作総指揮者を指すらしいが、俺の入ったプロダクションでは何故かマネージャーのような扱いだった事を思い出し、苦笑する。
あの頃は、楽しかった。アイドルと一緒にひたすら上を目指して、努力していた時代。
彼女達の努力は無事に実った。ファンから愛され、老若男女問わず、たくさんの人達に応援されるアイドル達の姿が、目の前にあった。
アイドル達の努力が報われて、安堵した。
彼女達の幸せそうな笑顔を見て、この職に就いて良かったと、心の底から思った。
アイドル達を応援する観客達に、満面の笑顔を浮かべて歌と踊りを楽しそうに披露する彼女達が、好きだった。
俺はただ、アイドルの傍で、アイドルを応援できれば、それでよかった。
――なのに、どうして、あんな事になってしまったのか。
「プロデューサー? 大丈夫ですか?」
気がつくと、アーニャが目の前に立って心配そうに俺を見上げていた。
「大丈夫だよ。仕事、お疲れ様……それじゃ、帰ろうか」
「ダー。では、着替えてきますね」
何もないように振舞ったが、誤魔化せていないかもしれない。
楽屋に向うアーニャの後ろ姿を見送る。堂々と背を伸ばして歩く彼女は、大人びて見え、それに、とても美しかった。
――今の俺にはアーニャがいる。もう、誰も傷つけたくない。千秋も、文香も……アーニャも。
だから……千秋と文香から、過去から、逃げるわけにはいかない。
『千秋さんとはもう会わないでください』
これが、文香から来た最初のメールだった。
メールには書かれていないが、きっと会ったら写真がばら撒かられるのだろう。
さっそく俺は、千秋にメールを送った。
『千秋、ごめん。俺はもう千秋と会えない』
内容は簡素なものにした。
着信拒否をするべきかどうか迷っていると、メールを送ってから十秒も経たずに、千秋から電話が掛かってきた。
『どういう事なのかしら、説明しなさい』
携帯から聞こえる彼女の声は、明らかに怒りに満ちていた。
「千秋、このままだとお前をまた傷つけてしまう。だから、もう、会えない……すまない」
『貴方に会うのを拒絶された事の方が、何よりも傷つくに決まっているじゃないッ!!』
耳を劈くような悲痛な叫び声が、心を締め付ける。
『好きよ……貴方の事……好きなの……貴方が……愛してるわ。だから……貴方が、アイドルと付き合えないと言うのなら――』
千秋は泣いているようだった。
彼女は涙声で、とんでもない事を言い出す。
『――私は、アイドルをやめるわ……』
「それだけは、ダメだ!」
思わず声を荒げてしまう。ただ、それぐらい聞き捨てなら無い事だった。
「自分を変えるために、お前はアイドルになったんだろ……アイドルをやめたら、また、戻ってしまう」
濁った瞳の千秋を思い出す。最初に千秋と出会った時、彼女からは生気を感じられず、まるで人形のように見えた。
そんな彼女を見ていられなくて、俺はアイドルにならないかと、千秋を誘った。
千秋は知り合って間もない俺に、家庭環境を話してくれた。
良家の一人娘で、それ故に束縛されている事を話してくれた。
押し付けがましく、それがエゴだという事も自覚しているが、何とか千秋を救ってあげたかった。
両親を説得できたら、アイドルをやってくれるかと彼女に聞いた。千秋は頷いた。
俺は、千秋の両親を必死で説得した。土下座だってした。とにかく、千秋の目の前で、みっともなく懇願した。
説得している内に、千秋が自分の胸の内を吐露した。泣き叫び、想いを必死に両親に伝えていた。
それも効いたのか、何とか彼女の両親から許しを得る事ができた。それによって、千秋はある程度の自由を得た。
アイドル活動に励む内に、徐々に笑顔を取り戻していく千秋を見て、嬉しかった。
千秋の浮かべる笑顔が、大好きだった。
だが、いつの間にか、彼女は――
『今の私は、過去の私と同じ様なものよ……貴方がいないから』
「……千秋は、とても楽しそうにアイドルやってるじゃないか……あれは嘘なのか?」
テレビに映る千秋、雑誌に載っている千秋、ポスターに載っている千秋、どれも作り物の笑顔には見えなかった。
長い間、千秋を近くで見てきたのだ、例え写真でも作り物の笑顔かどうかは分かる。
『貴方が、テレビや雑誌できっと私の事を見てくれていると思いながら仕事をしていたの……貴方には、笑顔を見てもらいたいから』
彼女の声は、震えている。普段の強気な彼女からは想像もできない、弱々しい声色だった。
『……プロデューサーが、私の笑顔が好きだと言ってくれたから……貴方に笑顔を見せたくて、ライブも、CMも、バラエティも、絶対に笑顔を絶やさなかったの……貴方がいなくなって一年間、私は貴方を四六時中想いながら、アイドルをやっていたのよ……』
だって、と千秋は続ける。
『私の笑顔を近くで見たくなって、貴方が戻ってくるかもしれないから……だから、私……ずっと……ずっと……』
千秋がとうとう声を上げて泣き出した。彼女がこんなにも子供のように泣き喚くのは、両親を説得した時以来だった。
「千秋……ごめん……でも、会えない……せめて、時間をくれ……」
今すぐ傍に行って抱きしめてあげたかった。でも、それは叶わない。
『……何もいらない……私はプロデューサーさえ傍にいてくれれば、何もいらないのに』
「千秋……」
電話の向こうから聞こえてくる、彼女の嗚咽。
千秋が、消え入りそうな声で、プロデューサー、プロデューサーと、俺を呼び続ける。
それがあまりにも悲痛で、思わず目頭が熱くなった。抑えきれず、目尻から涙が零れる。
自分があまりにも無力で、何も出来なくて、情けなくて……その事実に苛まれて、泣いた。
暫く、会話は無かった。
『……電話はいいのよね?』
千秋が、唐突に問いかけてくる。
『会うのはやめるわ……でも、電話はいいわよね?』
文香からのメールには、千秋と会うなとだけ書かれていた。屁理屈かもしれないが、電話やメールは今の所問題ない。
――時間の問題かもしれないが。
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