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    元スレ上条「いくぞ、親友!」一方「おォ!!」

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    みんなの評価 : ★★
    タグ : - 一方 + - 上条 + - 木原 + - 農業 + 追加: タグについて ※前スレ・次スレは、スレ番号だけ登録。駄スレにはタグつけず、スレ評価を。荒らしタグにはタグで対抗せず、タグ減点を。
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    251 = 250 :

    八月のとある日の午後――――

    日本の学園都市の第七学区にある、とある病院の玄関に一人の少年が立っていた。

    その少年は変わったツンツン頭をしていて、
    どこか不安そうな表情で誰かを待っていた。

    傍らには着替え等が入っているスポーツバッグがあり、
    少年が病院から退院したてである事を証明している。

    しばらくして、

    「とうまーー!!」

    という、まだ幼げな少女の声が少年の耳に届いてくる。

    名を呼ばれた少年――上条当麻はゆっくりと声のした方向を見る。

    そこには、白い修道服を着た銀髪碧眼の、どうみても日本人じゃない女の子がいた。

    「……インデックス!!」

    上条は安堵したように、その少女――インデックスの名を呼ぶ。

    インデックスは、嬉しそうに上条に走り寄って抱き着いた。

    「退院おめでとうなんだよ、とうま!」


    252 :

    上条はインデックスの思わぬ行動にちょっとドキドキした。

    「え、えーと……。
    ……ありがとう。んで、ただいま、インデックス」

    そのまま上条は抱き返し、二人は抱き合う。

    と、その時。

    「……あーなンですかァ、こりゃァ?
    二人の世界に浸りやがって。いちゃつくンなら、室内でしやがれ」

    上条達から少し距離を置いて、一人の少年が立っていた。

    その少年は、真っ白な髪に真っ赤な眼をしており、
    インデックスと同様に日本人にはあまり見えない。

    「な!?ち、ちがうもん!!
    あくせられーたったら何言ってるの!」

    少年――一方通行(アクセラレータ)は、インデックスをスルーして上条の方を見る。

    「退院オメデトウ、ってとこなンだがな。
    積もる話は寮に戻ってからだ。
    ……タクシーを待たしてある。付いて来い」

    「あぁ、わかった。
    ……ほら行くぞ、インデックス」

    むくれたインデックスを促して、二人は歩き出す。


    253 :

    「お客さん、着きましたよー」

    タクシーに乗ること、二十数分。

    目的の学生寮に、上条達はたどり着く。

    「ン。オイ、オマエら。とっとと出ろ」

    一方通行は先に二人を外に出して、
    運転手に礼を言いながら代金を払って、タクシーを降りた。

    「……相変わらず、ボロいな」

    上条は、さも『記憶があるように』寮を見て、一言呟いた。

    現在、上条当麻は『記憶喪失』である。

    とある事件により、脳細胞が物理的に『破壊』されてしまったのだ。

    『記憶喪失』と言っても、失ったのは『思い出』だけで、
    ケータイの使い方などの『知識』は残っているが。

    まぁ、とにかく彼には『記憶』がない。

    なので寮を見ても、普通ならリアクションの取りようがない。

    しかし、彼には『記憶喪失』を隠す理由があった。

    それは、彼の隣の少女――インデックスにある。


    254 :

    上条は、先ほども言ったとある事件で、インデックスを助けて『記憶』を失ってしまった。

    そして彼は、病院で一方通行から事情を聞いて、
    には『真実』を知らせたくない――と言った。

    何故かなんて、彼には分からない。

    ただ、彼女が悲しむと自分も悲しい――そう、感じたからだ。

    そしてそれを聞いた一方通行は、上条の『優しい嘘』に付き合うと決めた。

    「……ハッ、そりゃそォだろ。
    オラ、とっとと行くぞ、オマエら」

    一方通行は、さりげなく上条より先に進み、彼を案内する。





    三人はボロボロのエレベーターで、上条の部屋のある七階までたどり着く。

    「……さてと。久しぶりの我が家は、と」

    上条は初めての『自分の家』に、若干ドキドキした様子で入った。


    255 :

    上条は、ゆっくりと部屋に入っていく。

    途中に、明かりを点けるスイッチがあったので点けてみる。

    「……あれ?」

    そこは、彼が想像したよりも片付いていた。

    上条は指をテーブルに引っ付けて、擦ってみた。

    「……綺麗だな」

    上条の指が、だ。

    と、そこにインデックスと一方通行が後から入ってくる。

    「ふっふーん。とうまがいない間は、私が掃除とかしておいたんだよ」

    「ま、そォは言っても、最初は俺が手伝ったがなァ」

    そう、上条が入院している間、インデックスは彼の部屋に住んでいた。

    そんな彼女にどうせだからと、
    一方通行が、掃除機や電子レンジの使い方から、
    電車の乗り方や、料理の仕方など、
    この街で生きていくための知識を仕込んでおいたのだ。

    「へぇー……。そっか。
    ありがとな、インデックス。すっごい助かったよ」

    そう言って、上条はインデックスの頭を撫でてやる。

    彼女は嬉しそうに、へへー、と笑っている。

    何も知らない人が見たら、きっと二人を『仲の良い兄妹』と思うだろう。

    そんな事を、少なくとも一方通行は思った。


    256 :

    「……さァてと。それじゃァ、そろそろ行くか」

    上条が荷物を片付け終えて、一方通行はそう言った。

    「……?いくってどこにいくの?」

    インデックスは、訳が分からないと、首を可愛らしく傾げる。

    「ん?あれ?お前聞いてないのか?」

    上条がそれを聞いて、彼女の方を見た。

    「うん。何の話なの?」

    彼女の質問に、一方通行が答える。

    「今から、オマエに街を案内しよォと思ってな。
    ……そォいや、言ってなかったなァ。悪かったな、クソガキ」

    「……だからいい加減、名前で呼んで欲しいかも」

    インデックスは少し、むっとした様子で言う。

    「でもでも、それはありがたいかも。
    とうまのお見舞いで、この街の事、よくわかんないから」

    そう、彼女はこの街に来て一週間以上経つが、
    事件や上条のお見舞いで、街の事を知る余裕がなかったのだ。

    そんな彼女に、せっかくだからこの街を案内しよう――そう二人は決めていた。

    実際の理由は、『記憶』がない上条のために、
    今の内に必要な情報を叩き込むためなのだが。

    「よし、じゃあ行くか」

    そうして三人は、外へと出た。


    257 = 254 :






    「ふぅ……。大体こんなもんか?」

    「ン……。まァ、そォだな」

    「……ちょっと、暑いかも」

    二、三時間ほど経って、上条達はとりあえず第七学区を回りきっていた。

    公園や上条達が通っている高校など、
    様々な場所を一方通行はインデックスと上条に案内した。

    途中、インデックスはクレープやらアイスの屋台を見つけては、ねだってきた。

    上条『記憶喪失』がバレないように
    細心の注意を払いながら、一方通行に生活に必要な場所を教えてもらった。

    「ま、今日はこンなもンでいいだろ。特に、回るところも……「ねぇ、あれは何?」……あン?」

    一方通行の言葉を遮って、インデックスは何かを指差した。

    その先にあったのは、ゲーセンだった。


    258 = 250 :

    「あァ、あれはゲーセンだ」

    「ゲーセン?なぁに、それ?」

    「……えーと。簡単に言うと、ゲームが出来るとこだよ」

    全く伝わらないらしく、インデックスは首を傾げる。

    「まァ、行ってみりゃわかンだろ。
    ……愉快な観光案内は終わりにして今からは、遊ぶとするかァ」

    「んー。そうするか」

    「よくわかんないけど、そうしよう!」

    そうして三人は、中に入る。




    「わぁーー!!」

    中に入ると、インデックスは目を輝かせた。

    「とうま、あくせられーた!あれは何!?」

    そう言って、インデックスはダッシュでシューティングゲームに近寄る。

    「おい!インデックスー!!
    はしゃぐのはいいけど、走るなよー!!」

    そういう上条も走っているが、一方通行はツッコまないでおく。


    259 :

    「ねぇ、これどうやるの!教えてほしいかも!!」

    そう言ったインデックスは、落ち着きがなかった。

    「あのなァ、ちったァ落ち着けよ。
    オラ、今小銭を…………って、あン?」

    一方通行は小銭を出そうとして、ちょうどなかった事に気付いた。

    「上条、ちょっとコイツと待ってろ。両替してくる」

    「あぁ、分かった。ここで待ってるからなー」

    上条に、インデックスを少し任せて、一方通行は両替しに行く。





    「……全く、なァに期待してンだろォな、俺は」

    両替しながら、一方通行は呟いた。

    彼は、このゲーセンに『とある少年達』と来たことがあった。

    それは、『記憶』を失う前の『上条当麻』とその友達である。


    260 :

    本当の事を言うと、このゲーセンに来たのは偶然ではなかった。

    わざとここに来れるように、案内をしたのだ。

    (ここに来りゃ何か思い出すとでも思ったのかよ、クソっタレ)

    自分はもうとっくに整理がついている――そう、一方通行は思っていた。

    しかし、そう簡単には整理はつかないものらしい。

    (全く、バカバカしい)

    そう、彼は思う。

    別に『記憶』が無くなろうと、彼は彼なのだ。

    彼が入院した日に、それは理解できていた。

    だからこそ、一方通行はインデックスの事を彼に任せようと考えたのだ。

    そして彼らのために、自分に出来る事をすると決めたではないか。

    自分がこんな調子では、彼らの支えになんてなれないだろう。

    ……『アイツ』との『約束』のためにも、しっかりしなければ。

    そう、一方通行は改めて自分のすべき事を確認した。


    261 :

    しばらく、三人は適当に様々なゲームで遊び回っていた。

    ある時はレースゲーム、ある時は格闘ゲーム、またある時は音楽ゲームと、
    とにかくゲーセンにあるゲーム全てを制覇するくらいの勢いで、上条達は過ごした。

    「ねぇとうま、あくせられーた!あれは何?」

    インデックスは、先程UFOキャッチャーで手に入れたゲコ助だかピョン吉だか分からない、
    カエルのぬいぐるみを抱えた状態で二人に聞いてきた。

    その視線の先にあったのは。

    「あァ、あれは……プリクラってヤツだ」

    プリント倶楽部、略してプリクラがあった。

    「プリクラって何?」

    その質問に、

    「まァ、簡単に言えば友達の間とかで写真撮ったりする機械だ」

    と、彼なりの『知識』で答えた。

    「ふーん……」

    インデックスは、何となくわかったらしい。

    少し考えてから、彼女は口を開いた。


    262 = 261 :








    「なら、三人で撮ろうよ!!」







    彼女は、とびっきりの笑顔で提案した。


    263 :

    「むー。ちょっとせまいかも」

    「オイ、上条。押すンじゃねェよ」

    「しょうがないだろ、窮屈なんだから」

    あの後、一方通行は上条とインデックスに二人でやれと言ったが、
    三人でやると言って聞かないインデックスに押し切られて、一緒に撮る事になった。

    ただどうやらこれは恋人達向けらしく、三人で撮ろうとすると少し狭い。

    とりあえず、一方通行が適当にフレームやら何やらを設定する。

    「オラ、オマエら笑えよォ!!」

    「うん!!」

    「お前もな!!」

    そして、フラッシュが光った。





    「いやー。なんか、疲れたなー」

    「あァ……そォだな」

    「でもすっごく楽しかったんだよ!!」

    あれからしばらくして、もう夕暮れ時になっていた。

    そろそろ、夕日が見える頃だろう。

    「なぁ、結局どこに行くんだ?」

    「着いてからのお楽しみだァ」

    「ちょっとぐらい、教えてくれてもいいかも」

    今、三人は寮へと向かっていなかった。

    一方通行が、最後に連れていきたいところがあると言ったからだ。


    264 = 252 :






    「ン……。ここだァ」

    三人は、とある雑居ビルに着いた。

    そのビルはずいぶんさびれた様子で、あまり使われていないようだった。

    「なぁ……こんなとこに何があるんだ?」

    「まァ、ついてこいよ」

    そう言って、一方通行は中に入る。

    二人も慌てて、それに続く。





    階段を登り、三人はビルの屋上のドアにたどり着く。

    「ぜぇ……はぁ……。い、一体ここに何があるんだ?」

    「こ、これでたいしたことなかったら、い、いくら私でも……怒るんだよ」

    二人は息を切らしながら、そう言った。

    「よし、オマエら。こっち来てみろ」

    そう言って、一方通行はドアを開けて少し先に進む。

    上条とインデックスは、それについていく。

    「わぁーーー!!」

    二人の目の前には。


    265 :








    夕日に彩られた、第七学区の全景があった。







    266 :

    「……どォだよ、たいしたことなかったか?」

    一方通行の質問にインデックスは、

    「全然そんなことないんだよ!!とっても、綺麗かも!!」

    「……うん。すげぇな、これ」

    上条は、言葉もないらしい。

    「ま、気に入ったンならいいンだがなァ」

    そう言って一方通行は二人と並んで、その景色をよく眺めた。



    『オイ、こンなとこに何があるってンだよ』

    『ええから、ええから』

    『そうだぜい。とにかく、ついてくるんだにゃー』

    『そろそろ、着くかな……お、よーし』

    『?』

    『『じゃ、じゃーん!!』』』

    『!!』

    『どうだよ、俺達のとっておきの場所は!!』

    『さすがにこういう場所は知らんかったやろー!!』

    『……って黙って見惚れちまってんのかにゃー』

    『……っ!?ば、馬鹿言ってンじゃねェよ、三下共!!』

    『わー。一方がキレたー』

    『こういう時は……カミやん、任せたんだにゃー!!』

    『ち、ちょっと待てお前ら!?
    …………ぎゃー!!不幸だーーー!!』



    「?どうかしたのか、一方通行?」

    「……いや、なンでもねェよ」

    一方通行は、まさに何でもなさそうに返した。


    267 = 254 :

    「ン……。そろそろ、帰るとするかァ」

    しばらくして、一方通行は立ち上がって告げた。

    もうそろそろ、完全下校時刻だった。

    「あぁ、そうするか。
    ……インデックス!帰るぞー!!」

    上条は、夕日に見惚れているインデックスに声を掛ける。

    「うん。……ありがとう、とうま、あくせられーた!!今日は、すっごく楽しかったかも!!」

    そう言って、インデックスは満面の笑みを浮かべる。

    「……そォかい。そいつは何よりだなァ」

    三人は、ゆっくりと階段へと歩き出す。

    しかし階段まで後一歩というところで、一方通行は歩みを止めた。

    二人は、不思議そうに一緒に止まる。

    「どうかしたのか?」

    上条がそう聞くと、彼は、

    「オマエら、今日は焼肉パーティーだ。
    ……今から一番降りるのが遅かったヤツは、買い出しの荷物持ちと肉焼き係だァ!」

    と、叫ぶと同時に走り出す。


    268 = 252 :

    二人は一瞬ポカンとして、

    「そ、そんなのずるいかも!!」

    インデックスは、叫ぶと同時に慌てて走り出す。

    「ふざけんなー!!と、とにかく急いで……っ!?」

    上条は、走り出そうとした瞬間にこけてしまった。

    「うおっ!?ちょ、ちょっと待て、インデックス……」

    上条はインデックスを呼び止めたが、彼女は振り返らずにこう言った。

    「とうま……。この犠牲は忘れないかも!!」

    そして、一気に駆け出す。

    「こ、この裏切り者ー!!」

    叫ぶと同時に、上条も遅れて駆け出す。

    三人は、楽しそうに笑いながらビルを降りていった。


    269 :

    この一方さんすごく人間味があってカワイイなww
    でも親友が記憶喪失って辛いだろうな・・・

    270 :

    という訳で、今回はこれにて終了です。
    ……タイトル考えてたのに付け忘れてた事に今気付きました。
    次回からは、二巻に入ります。
    それと、どれくらいやるの?という質問にお答えしますと、
    とりあえず、二十二巻まではやります。
    新約については、どうでしょう……。
    まぁ、やれたらやります。
    それでは、皆様。
    また、三日後に。

    後、この話のだっせぇタイトル……『とある少年の観光案内――search for lost memory』
    ……もっと、いいタイトル付けられるようになろう。

    271 :

    22巻まで・・・だと・・・?
    どこまでが原作通りでどこからズレるのか非常に気になるな・・・

    272 :

    良いタイトルじゃねェか、俺は好きだぜェ

    273 = 269 :

    乙です
    こういうほのぼのした日常話もアリだと思うぜ

    >>二十二巻まではやります
    そこまでプロットできてることに驚いた・・・

    274 :

     一方さん……
    インデックスの記憶を消去した後の神裂みたいな心境なんだろうな
    3人とも、それぞれ重いものを背負っちまったな

     てか22巻までって凄くないすか!?

    275 :

    原作の上条の横に一方がいるみたいな感じなのか
    やっぱり恋愛フラグは上条が全部持っていっちゃうのかしら

    276 :

    すげー楽しみ!応援してます。

    277 :

    22巻までってかなり大変そうですが気長に無理せずやってくださいね

    278 :

    一通さんが良い人すぎて切なすぎる

    281 :

    なにこの>>1すごい

    ■■「分かってる。それでも2巻は飛ばされるってこと」

    282 :

    三日後という単語にあのスレを意識してる感じがした

    283 :

    あっちは三日以内、だけどな。
    つか22巻までやんのかww長旅になるな。完結まで応援してる。
    まぁ22巻まで書き終えたとき原作は何巻まで進んでるかな

    284 :

    筆だけは速いからなぁ鎌池

    285 = 282 :

    おら三日たったぞ

    286 :

    魔法の呪文腹パン

    287 :

    どうも皆様、1です。
    また超夜中に更新しますね。
    どうぞ、お待ちを。

    288 :

    腹パンすげえwwwwwwww

    289 :

    超待ってます

    290 = 286 :

    もはや腹パンは召喚魔術といってもいいな
    ついでに今まで腹パンで>>1を召喚してたのは実は儂じゃ

    291 :

    >>282
    あのスレって何のこっちゃいと思ったら>>283を見て把握しました。
    別に意識はしてませんよ。
    というか、あれ程の名スレを意識したら、メンタルの弱い1は書けなくなっちゃいます。
    さて、皆様どうも1です。
    予定よりかなり早いですが、今から投下します。
    今回から二巻の始まりです。
    それでは、どうぞ。

    292 :

    八月八日――――

    第七学区にある、『窓のないビル』で一人の魔術師が立っていた。

    魔術師――ステイル=マグヌスは、緊張感に包まれていた。

    現在、彼は生と死の瀬戸際に立っているからだ。

    彼の目の前には、巨大なビーカーがある。

    その中には、緑色の手術着を着た人間が逆さに浮いていた。

    それは銀色の髪をしていて、
    男にも女にも、大人にも子供にも、聖人にも囚人にも見えた。

    なのでステイルには、『人間』としか表現できない。

    「ここに呼び出した理由はすでに分かっていると思うが……」

    学園都市統括理事長――アレイスターは逆さに浮かんだまま、語り出す。

    「……まずい事になった」

    「……吸血殺し(ディープブラッド)、ですね」

    普段は敬語を使わないが、ここでは違う。

    何故ならば、もしアレイスターに誤解だろうと『敵意』を感じられたら、
    その瞬間にステイルは八つ裂きにされてしまうであろうからだ。


    293 :

    「ふむ。能力者だけなら問題はない。
    ただ、今回は違う。
    ――この事件に本来立ち入るはずがない魔術師(きみたち)が関わってしまっている」

    ステイルはあくまで、その一点のみを考える。

    吸血殺し。

    出典は学園都市ではなく英国図書館の記録からだ。

    いるかどうかも分からない『とある生き物』を殺すための能力らしい。

    とにもかくにも、その能力を所持する少女が、魔術師に監禁されている。

    今回の事件を簡単に言えば、そんな感じになる。

    「そうなると、そちらの増援を迎えるのも難しいでしょうね」

    ステイルは、そう呟く。

    学園都市の『科学サイド』と、
    ステイルのような魔術師による『魔術サイド』には、
    それぞれが束ねる『世界』がある。

    そして、お互いに干渉しないようにする協定のようなモノがあって、
    『科学サイド』が『魔術サイド』の人間を倒してしまうと、大問題となる。

    また、それぞれの統合部隊を作ろうとしても
    その協定に反してしまい、不可能となる。

    「なるほど。それで例外たる私を呼んだという訳ですか」


    294 :

    そう、『科学サイド』が『魔術師』を倒すのが問題ならば、
    『魔術サイド』の人間に任せればいいのだ。

    そのために、ステイルは呼ばれた。

    「まぁ、そうなる。
    ……安心したまえ。だからと言って、君一人に任せるつもりもない。
    ――幻想殺し(イマジンブレイカー)と一方通行(アクセラレータ)を貸そう」

    ステイルは少し、硬直した。

    それらは、確か二週間程前に、自分の大切な人を助け出してくれた少年達の名前だった。

    「しかし、魔術師を倒すのに超能力者を使うのはまずいのでは?」

    「それは問題ない。
    そもそも、君とアレらは会った事があるだろう。
    その時、そちらには特に価値ある情報は流れなかった。
    逆もまた、しかりだ。なので、今回も魔術師(きみ)と行動しても問題ないだろう」

    タヌキめ……とステイルは敵意に似た感情を、初めて抱いた。

    価値ある情報は流れなかったとアレイスターは言ったが、
    それならあの十万三千冊を保持する少女はどうなんだ、と言いたくなった。

    そんな疑念を彼は、なんとか顔に出さなかった。

    あの少女にだけは少しの波風も立てたくなかったからだ。

    「納得したのならば、細かな『戦場』の状況を説明しよう」

    そう言って、アレイスターは説明を始めた――。


    295 :

    さて、同じく八月八日――――

    この日、上条当麻は相変わらずの不幸ライフを送っていた。

    現在、彼は居候と親友の三人で駅前の本屋さんに来ている。

    何故そんな所にいるのかと言えば、
    部屋を見回すとマンガしかなく、
    ちょっとした見栄を張るために参考書を買いに来たからだ。

    ……まぁ来たのだが。

    「一冊三千六百円って……お高いな……」

    上条は、がっくりと肩を落としながらぼやく。

    おまけに店員さんいわく、昨日までは夏の受験勉強フェアとかで全品半額だったらしい。

    「はぁ……。不幸だ……」

    とにかくがっくりしている上条に、背後から声を掛ける影が一つ。

    「だから言っただろォが。
    参考書なンざ、買ったところでそォ変わンねェよ」

    声を掛けられた上条は、振り返る。

    そこにいたのは、彼の親友(らしい)少年――一方通行(アクセラレータ)だった。


    296 :

    「……うぅ。そうだな。
    お前の言うこと、聞いときゃよかった」

    彼は少し反省したそぶりを見せる。

    店に行く前に

    「そンなことしなくてもいいだろ」

    と、いった感じの事を言われたのだが、上条はどうにも引き下がれなかった。

    何としてでも、本棚(こころ)の中はマンガのみ(ゆめみがち)、
    なんて最悪のレッテルだけは剥がしたかったのだ。

    ちょっと異常だ。

    だが彼には、そんな事を気にしなければならない、大きな事情がある。

    ……上条当麻は『記憶喪失』なのだ。

    まぁだからって、常識がない訳ではない。

    ただ、この十数年間の『思い出』がないのだ。

    とある事件の末にこうなったらしいが、そんな事はもういい。

    とにかく、彼は『記憶』を失う前の『上条当麻』がどんな人物なのか知りたい。

    一方通行のおかげで少しは理解したが、
    それでも、本棚を見れば人の性格が分かる、なんて与太話に縋るくらいには、だ。


    297 = 295 :

    と言っても、彼の顔には死に物狂いの表情はない。

    世界の中心に一人捨てられた訳ではないし、
    衣食住も保証されており、
    『親友』と『居候』という『味方』もいるからだ。

    「オラ、とっとと出るぞ。
    あのガキがしびれを切らしてる」

    一方通行は上条に外に出るように促す。

    上条は、それに応じて外へと歩き出す。





    「とうま」

    と、そんな帰り道。

    思わぬ出費に
    (基本、上条は千円以上の衝動買いを『特攻』と称する。
    この点は、記憶を失っても変わらないと一方通行は思っている)
    ぐったり死にかけな様子の上条の横から、不機嫌そうな少女の声がする。

    見てみれば、不機嫌そうに唇を尖らせている少女が一人。

    歳は十三か十四で、腰まである銀髪と綺麗な緑の両目は、
    白髪で真っ赤な目の一方通行とはまた別で目立っている。

    そして何よりも、彼女の着ている修道服が、
    彼女の職業と、彼女が外国人である事を示している。

    その名は禁書目録(インデックス)。

    無論、本名ではない。

    しかしながら、世界中の『とある職業』の人々は彼女をそう読んでいるらしい。


    298 :

    少女と少年達は、二週間程前に出会った。

    もっとも、少女は知らないが、片方の少年はその事を忘れている。

    今は、覚えている『演技』をしているだけだ。

    おそらく、彼は複雑な気分だろう――一方通行には何となく分かった。

    自分の知らない『上条当麻』を演じ続けなければ、少女の笑顔と胸の内の温かさを守れない。

    しかし、その笑顔はあくまでも『記憶を失う前の上条当麻』に向けられたモノだ。

    それは、とても辛い事だ。

    それでも、上条は少女を悲しませたくなかった。

    だから、何も言わずにただ『演技』をしている。

    さて、そんな上条の事情も知らず(知られても困るが)、
    インデックスは頭一個低い位置から、むすっとした様子で上条の顔を見上げている。


    299 :

    「……とうま、三千六百円もあったら何ができた?」

    「……言わないでくれ。虚しくなってくる」

    「何 が で き た ?」

    えぇーい、言うなーっ!!と、上条が両目を閉じて耳を塞ぐ。

    (何してンだか……)

    と、思いながら一方通行がインデックスを見てみると、
    彼女はもう上条を見ずに、全然違う方向をじっと見ていた。

    不思議に思って、その視線を追ってみれば、
    その先でアイスクリームショップの看板がくるくる回っている。

    (……そりゃあ八月の真っ只中だし、
    午後の炎天下の中で地面からは蜃気楼が揺らめいてやがるし、
    何よりもその修道服は長袖で、暑苦しくて辛いンだろォがなァ……)

    思いながら、一方通行は口を開く。

    「……いくら何でもよォ、三千六百円分もアイスなンざ食えねェよ、普通は」


    300 :

    「む」

    カチンと来ました、といった表情でインデックスは一方通行を見る。

    「あくせられーた。
    別に私は一言だって暑い辛いバテたなんて言ってないよ?
    まして他人のお金を使いたいと考えた覚えもないし、
    結論としてアイスを食べたいなんて微塵も思ってないかも」

    「ほォ……。
    ンな事言って、ちょっと前に
    ファミレスで人に飯おごらせたのはどこのドイツだ、このクソガキ」

    バチバチと、火花を散らす二人の間に上条が割って入る。

    「……あーはいはい。
    シスターさんがウソつけねーのは分かったから、
    全身汗だくで捨てられた子犬みてーな目をすんな。
    ていうか、素直にエアコン効いた室内で冷えたアイスが食いたいって言えよ。
    このバカみたいな暑さの中で季節感無視したステキ修道服なんか着てたらぶっ倒れちまうぞ」



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