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    元スレ上条「いくぞ、親友!」一方「おォ!!」

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    タグ : - 一方 + - 上条 + - 木原 + - 農業 + 追加: タグについて ※前スレ・次スレは、スレ番号だけ登録。駄スレにはタグつけず、スレ評価を。荒らしタグにはタグで対抗せず、タグ減点を。
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    501 = 500 :

    しかし――――

    「…………っ!?」

    アウレオルスの表情は凍り付く事になった。

    何故ならば、その矢は一本も一方通行に当たらなかったからだ。

    一方通行が手で何もない空間を扇いだ瞬間、それは勝手に壁に激突した。

    鏃が当たった箇所は、溶けた黄金にはならなかった。

    建物自体は『コインの表』なので、『コインの裏』の鏃は刺さらないのだ。

    「……なンだ、なンだよ、なンですかァ?
    防御も逃避もダメじゃないのかなァ、イィィィザァァァドくゥゥゥン?」

    一方通行はそう言うと、引き裂いたような笑みを浮かべた。

    まるで伝承などで聞く、悪魔のような笑みを。

    「……くっ!?リメン「おっせェよ!!」

    鏃を引き寄せ、もう一度『瞬間錬金』を放とうとしたが、
    アウレオルスはその前に暴風の槍に吹き飛ばされる。

    そのまま、通路の奥まで叩きつけられた。


    502 :

    「――――がっ、かふっ!?」

    肺の中の空気が一気に吐き出されていく。

    「あーあァ。
    ダメだよなァ、そンなンじゃまったく面白くねェ」

    熱が冷めました、と言わんばかりに一方通行が退屈そうに言った。

    「ま、イイか。
    ……オイ、せっかくだから質問だ。
    何だって吸血鬼なンざ求めたのか聞かせろよ」

    一方通行が近寄りながら興味本位で聞くと、
    アウレオルスはよろよろと立ち上がり、

    「……私は…………」

    そう口を開いたが、全くの答えがなかった。

    そのままアウレオルスは沈黙した。

    まるで自分でも答えが分からないかのように。

    「……オイ、オマエ、ホントにアウレオルス=イザードか?」

    一方通行の頭を一つの疑念がよぎる。

    錬金術師というのは確か、モノ作りが得意だとかステイルが言っていた。

    もしや、目の前のこの男もその一つなのではないか?

    普段は己の影武者、非常時は敵を排除する防衛システム。

    ……ありえなくはなさそうだ。


    503 :

    「と、当然。
    我が名はアウレオルス、アウレオルス=イザードだ。
    この錬金法――瞬間錬金は私が開発したモノである。
    必然、そうでなければこの力の源は一体何だと言うのだ、少年?」

    「さァな?
    本物のアウレオルス=イザードじゃねェのか、『偽物(ダミー)』?」

    否定しようと思えば、いくらでも出来ただろう。

    しかし、目の前の男は否定しない。

    ただ、呆然としていた。

    「はァ……。
    ったく、無駄足踏まされちまったな、こりゃ」

    一方通行は頭を掻いた。

    もう用はない、とアウレオルス=ダミーに背を向ける。

    「…………ぐっ!!
    おぉぉぉぁぁあああ!!」

    その隙だらけの背に、アウレオルス=ダミーは右袖を向ける。

    瞬間、黄金の矢が射出される。

    だが、それでも矢は当たらない。

    「チッ……。
    そンなに遊ンで欲しいなら、たっぷり遊ンでやるよ」

    一方通行はゆっくりと振り向く。

    しかし――――

    「あン?」

    そこにはもう、アウレオルス=ダミーはいなかった。

    どうやら、通路を曲がった先にある渡り廊下に行ってしまったようだ。

    「……逃げ足は速いンだな」

    一人、一方通行は呟く。

    追う気にもならなかった。


    504 :

    「はぁっ……はぁっ……」

    アウレオルス=ダミーは南棟にある六階の通路を走っていた。

    敗走、の二文字が彼の頭をよぎる。

    (クソッ!
    依然、私は何をしている!
    これではまるで、醜悪な臆病者ではないか!!)

    アウレオルス=イザードは絶対であり、無敵であり、必勝であり、
    敗走は知らず、逃走の意味など分からないほどの、圧倒的な完全聖人のはずなのに、だ。

    「クソ、クソッ!!
    おのれ、あの小僧!
    見ていろ、我が錬金術にて必ず、必ず溶かし尽くしてくれる……っ!!」

    アウレオルスは、名も知らぬ少年への復讐を誓う。

    とにかく、材料だ。

    純金に出来ないのならば、それをかけてやる――――っ!!

    そう、考えていた。

    そこに、

    「ふむ。
    何を怒っているか知らないが、どこに行くんだい?」

    背後から、声がした。

    アウレオルスが振り向いた先にいたのは、
    見覚えのある真っ赤な髪をした魔術師だった。


    505 = 503 :

    「はァ……。
    ホント、どこのどいつだよ。
    こンなバカみてェな設計しやがって。
    見つけたら、ぶっ飛ばしてやろォかね……」

    しばらくして、一方通行は西棟の六階にいた。

    一度、上条達と合流すべく、しらみ潰しに建物を回っているのだ。

    それはいいのだが、やはり体力的に辛いものがある。

    「……ま、次で最後だし、どっちかには会えンだろ」

    そう呟きながら、
    誰もいない(生徒達は皆教室の中らしく、いまだ誰一人見掛けていない)
    渡り廊下を進もうとした。

    と、その時。

    「一方通行!!」

    彼を呼ぶ声がした。

    振り返ると、そこには――。

    「……上条!」

    親友の姿が、あった。



    「……なるほどなァ。
    ふざけた真似しやがって」

    とりあえず二人は、お互いに今までどんな事があったかを報告しあっていた。


    506 = 504 :

    『グレゴリオの聖歌隊』とかいう罠に引っ掛かった事。

    それの発動を無理矢理させられた『超能力者』である生徒達が、全員死んでしまった事。

    アウレオルス=イザード(おそらくダミーだと一方通行は思う)と戦い、勝利した事。

    そして、それだけの犠牲を払った末にようやく姫神秋沙に会えた事。

    全てを、聞いた。

    (クソ、アイツを放っとくンじゃなかったな……)

    一方通行は、激しく後悔した。

    上条が言うには、アウレオルス=ダミーが生徒達の一部を溶けた純金にしてしまったらしい。

    あの場で倒すべきだった。

    それをしなかった自分が憎らしい。

    「……とにかくさ、もう帰るべきだと俺は思う」

    上条は話し終えてからまず、そう言った。

    その声は、心底疲れ切っていた。

    「あァ……そォだな」

    一方通行も同感だった。

    一秒だってこんな場所にいたくなかった。

    歩いている南棟の通路には、
    血まみれの生徒達と純金の水溜まりが、たくさんある。

    (……すまねェ、俺のせいで……)

    一方通行は、心の中で純金にされた生徒達に謝罪した。

    もちろん、そんな事で許されはしないとは思うが。


    507 = 504 :






    その頃、ある少女が『三沢塾』の前に立っていた。

    その名は、インデックス。

    世界中に存在する、十万三千冊の『魔導書』を全て記憶している『魔導書図書館』である。

    彼女がここにいる理由を語るには、少し時間を巻き戻さねばならない。

    上条がアウレオルス=ダミーと戦っている頃、
    インデックスは学生寮の一室で、ある事を考えていた。

    それは今日一日の上条のおかしな行動について、である。

    上条は基本的には自分が嫌だと思う事は絶対にしない。

    なのに彼は今日、自分に猫を飼う事を許してくれた。

    これは、怪しい。

    そう思ったインデックスは、一旦外に出た。

    が、よくよく考えてみたら自分には上条の居場所が分からない。

    彼女は、しぶしぶ諦めて部屋に戻ろうとした。

    そこで、彼女は気付く。

    壁に何かカードのような物が貼り付けてある。

    それは、ステイル=マグヌスが使用するルーンの刻印だった。


    508 :

    それを見て、インデックスは確信した。

    自分の知らない所で何かが起きている、と。

    そう思ったら、後は勝手に体が動いていた。

    ほんの数日前、自分を助けるために傷を負った優しい少年達。

    また、彼らに危険が迫っている。

    それだけでインデックスの足は軽やかに動く。

    幸いな事に、ルーンの刻印という物は、
    常に魔術師から魔力を送り続けなければ作用しない。

    インデックスには、魔力を精製する事は出来ないが、感知は出来る。

    後を追えない訳ではなかった。



    といった経緯の末に、インデックスは『三沢塾』の前に立っていた。

    その建物は何の変哲もないが、それがおかしい。

    彼女はルーンに流れる魔力の糸を辿って、ここに来た。

    しかし、その糸は建物の壁でぷっつりと切れている。

    異常な事態だと思えた。

    だからと言って立ち止まるつもりはないが。

    そうして、インデックスは中に入る。

    ……自分が、全ての原因である事も知らずに。


    509 :

    さて、話は上条達へと戻る。

    上条達はようやく、南棟の四階の非常階段の出入り口へと着いた。

    そして、出入り口を出た先には――――。

    真っ赤に染まった巫女服を着た少女、姫神秋沙がいた。

    「君は。確か」

    姫神はこちらに気付くと、一方通行を見る。

    「……よォ」

    一方通行は適当に答える。

    「……待たせたな、姫神。
    あのさ、もう、帰ろうぜ。
    アウレオルスってヤツは倒したし、さ」

    上条がそう提案すると、

    「アウレオルス=イザード。あれ。きっと偽物」

    姫神が何の事もないような声で、そう言った。

    上条は驚きの表情を浮かべていた。

    一方通行は何となく分かっていたが、教えなかった。

    これ以上混乱させる必要はない、と判断したからだ。

    「で、でも、俺は確かに……!」

    「本物は。いつも鍼を常用している。
    それがない時点で偽物。それに。本物はあんな安っぽくない。」

    上条は認めたくないと、拳を震わせていた。

    それは、そうだ。

    もう彼は『戦場』にいたくない、と言っているのだ。

    『敵』の情報を増やされても、困るだろう。


    510 :

    「けど。あれは自分の目的以外に興味はない。帰るなら止めない」

    姫神の冷静すぎる一言に、一方通行は眉をひそめる。

    今の一言はおかしかった。

    「ちょっと待て。
    オマエも一緒に帰ンだろ?
    だったら『本物』が俺達を見逃す訳ねェだろォが」

    「何で?」

    「何で、って」

    「今のは。『見逃すはずがない』ではなく。
    『お前も一緒に帰る』という所に対する疑問」

    「あン!?」

    思わず、絶句した。

    姫神はこの期に及んで、まだ逃げ出すつもりがないらしい。

    「勘違いしないで欲しい。
    私とアウレオルスは。協力関係にある」

    そう言って、姫神は語り出す。

    吸血鬼という生き物について。

    彼らは、自分達と何も変わらない普通の人である事。

    そして、姫神の吸血殺しはそんな彼らを例外なく殺してしまう事。

    姫神は、そんな残酷な能力を消すために学園都市にやってきた事。

    そこで出会った、アウレオルスと協力関係を結んだ事。


    511 :

    「……何だよ。
    てっきり俺は命からがら『三沢塾』から逃げ出したんだと思ってた」

    姫神が語り終え、上条はそう言った。

    「……まったくだなァ」

    一方通行も賛同すると、

    「……疑問。私が逃げていると。どうして君達はここに?」

    ふて腐れた表情で上条が答えた。

    「助けるために決まってんだろ。
    そんなもんに理由なんてあるかよ」

    姫神は目を丸くした。

    とても不思議そうにしている。

    「大丈夫。私は閉じ込められてる訳じゃない。
    だから安心して帰っていいよ。
    アウレオルスは言った。助けたい人がいるって。
    だから私は協力している。このチカラを初めて人助けに使えるから」

    姫神は小さく、笑った。

    (……本当、なのか……?)

    一方通行には、どうにもその話が信じられなかった。

    姫神がウソをついていないとしても、
    アウレオルスがウソをついている可能性は充分ある。

    何せ、アウレオルスはこの戦場を作り上げた張本人だ。

    姫神の言葉と現実では、あまりにも噛み合わない点が多い。


    512 :

    しかし、もしもアウレオルス=イザードが、姫神秋沙の語る通りの人物だったら。

    「……そんなの、ダメだ」

    上条がゆっくりと口を開いた。

    「?」

    「もし、アウレオルスがお前の言う通りの人間だったら。
    まだかろうじて、人間でいられてるなら。
    もうこれ以上間違えさせらんねーよ。
    たった一度でも失敗した人間は、もう絶対に救われないなんて言わない。
    でもこれ以上進んじまったら、本当に取り返しのつかない事になっちまう」

    「本当はオマエ、気付いてンだろ?
    ヤツの抱いてる、理想と現実がズレ始めてる事によ」

    二人の言う事に、姫神は何も言わない。

    そこへ――――

    「間然。
    一体いかなる思考にて私の思想に異を唱えるか」

    突如、誰もいないはずの姫神の後ろから男の声が聞こえた。

    一方通行が一度瞬きするとそこに人間が立っていた。

    その人物には、見覚えがあった。

    いや、なくてはならなかった。

    何故なら、その人物は――――



    アウレオルス=イザードだったからだ。


    513 :

    と、言った所で今回は終了です。
    次回もお楽しみに!
    次も今回と同じぐらいの時間に来ます。
    とりあえず、後三回で二巻は終わる。
    それでは、皆様。
    また、明日。

    514 :

    まさか俺が始めた腹パンがこんなことになっていたとはな

    515 :

    腹パンの人wwwwwwww

    516 :



    しかし数々のコテハンを見てきたがこれほど憐れなコテハンがあったろうか。いや、ない

    517 :

    おつおつ
    次回はへた錬さんに自転腹パンですね

    518 :

     乙乙!!一方さん頭の回転速すぎだww
    でも暗部の堕ちてないから少し詰めが甘いのかな?
     さて、ヘタ錬は二人の最強を前にどれくらい持ちこたえられるかな?

    519 = 515 :

    これはもう腹パン百裂拳確定だな

    521 :

    依然、面白かった。乙
    ところでまったく関係ないんだが、何でIDがコロコロ変わってるんだ?
    教えてエロい人

    523 = 521 :

    >>522
    んなこたぁ解ってんだよこの蛇野郎がぁ!
    投下中の>>1の事だよ
    深夜0:00になるたび変わるってんなら、>>1はどんだけ世界を縮めりゃ気が済むんだ

    525 = 521 :

    >>524
    ご丁寧にどうも

    527 :

    腹パンされたらID変わる

    多分

    528 :

    こなかったなぁ、>>1はそんなに腹パンをご所望ならしいな
    >>521
    どうでもいいけど、違うとこで聞くか、自分で調べろよ

    530 :

    佐天「腹パンで時空を歪められる能力、かぁ」

    531 :

    佐天「腹パンで>>1に投下させる能力、かぁ」

    のほうがあってね?ww

    532 :

    上条「いいぜ、てめえが思い通りに投下するってんなら
       まずはそのふざけた幻想に腹パンするッ!!!」

    533 :

    唖然、つづけたまへ

    534 :

    腹パンマン「更新しない悪い子はだ~れ~だ~」

    535 :

    >534
    俺ー!!
    ……はい、皆様。
    昨日は失礼しました。
    とりあえず、今から投下してきます。

    536 :

    「…………オマエは……誰だ?」

    一方通行の口からようやく出て来たのは、そんな言葉だった。

    「ふむ。
    当然、アウレオルス=イザードだが?」

    そう言った男からは、
    三十メートルも離れているというのに、
    すさまじいほどの鋭い威圧を感じた。

    間違いない、本物のアウレオルス=イザードだ。

    そう確信したと同時に、一方通行は危機感も得た。

    この結界(世界)の中では、絶対的な力を誇る支配者。

    とっさに上条と一方通行は姫神を庇うために、前へ出ようとした。

    二人には、姫神を囮にして逃げるなどという考えはない。

    しかし――――

    「寛然。仔細ない、すぐにそちらへ向かおう」

    たった一歩を踏み出す前に、
    アウレオルスは二人と姫神の間を裂くように、三十メートルの距離を詰めていた。

    「な…………っ!?」

    目の前に突如現れたアウレオルスに、二人は絶句した。

    足が速いとか、そういう話ではない。

    空間移動(テレポート)でもしたかのように、その男は立っていた。


    537 :

    「当然、疑問は出てくるかもしれんが答える義務はあるまい?」

    錬金術師は平然と語る。

    「姫神の血は私にとって重要なモノだ。
    むざむざ貴様らに渡すつもりもないので回収しにきた次第」

    回収、の一言に上条達はどうにか再び動き出す。

    「……くそっ!テメェ!!」

    上条が、先手必勝と言わんばかりに駆け出す。

    一方通行も少し遅れて駆け出そうとした。

    だが――――

    「これ以上――貴様らは、こちらへ来るな」

    その一言で、全てが変化した。

    二人とアウレオルスの距離は、たったのニメートルだ。

    なのにどれだけ走っても、二人はアウレオルスに届かない。

    まるで二人だけが、別の空間にいるような感覚。

    二人は焦った。

    どちらも魔術に縛られなくする術はある。

    ある、のだが――――

    (クソッ!
    どこにベクトルが働いてンだよ!!)

    どこに能力を使えばいいのか、分からない。


    538 :

    「……必然、私のどこが取り返しのつかないと語るか?」

    アウレオルスは感情のない声で、尋ねてきた。

    二人は足を止める。

    近付けない以上、これ以上はどうにもならない。

    そんな二人の表情を、アウレオルスはじっと無機質な瞳で見つめている。

    標本か何かを眺めるような瞳だった。

    ふと、アウレオルスは白いスーツの懐から細い鍼を一本取り出す。

    消毒薬の匂いがかすかにするそれを、
    アウレオルスは自分の首に当て、突き刺す。

    その動作には、いつもの習慣のようなスムーズさがあった。

    その一連の仕草全てが死刑宣告のように見え、
    二人は思わず後ろへと飛び上がろうとした。

    それを見ていたアウレオルスは鍼を横合いに捨てて、

    「憮然。つまらんな、少年達よ」

    と言った。

    そして、二人は気付く。

    どれだけ後ろに下がろうとしても、アウレオルスとの距離が変わらない事に。


    539 :

    だからこそ、敵の前で何も出来ない二人は大きな緊張に襲われた。

    アウレオルスは無言で右手を突き出す。

    二人には届かない位置だというのに、
    その右手は二人の心臓をえぐり出すかの如く、掴まれる。

    「吹き――――」

    アウレオルスが厳然と告げようとした、その時。

    「…………待って」

    突然、姫神が二人とアウレオルスの間に割り込む。

    二人は慌てた。

    これだけの力を誇る錬金術師相手に、
    彼女は何の用意もなしに、まるで盾になるように立ち塞がっている。

    (馬鹿……!
    ふざけた事してンじゃねェよ!!)

    必死に姫神を押しのけようとした。

    だがそれでも、距離は縮まろうとしない。

    凶暴なトラに素人が無警戒でエサをやりに行くような、
    無謀とも言える行動に一方通行は戦慄した。

    しかし、そこで唐突に思い出す。


    540 :

    吸血殺し(ディープブラッド)。

    『本物の魔術師』であるステイルでさえ、震え出す吸血鬼をあっさりと撃破するその能力。

    この場において、彼女の存在は限りなくジョーカーだ。

    (まさか、勝算があンのか……?)

    でなければこんな真似はしないとは思う。

    しかし、アウレオルスは立ち塞がる姫神を見ずに、上条達をつまらなそうに見た。

    「当然。そこに一縷の望みを抱くだろうが、吸血殺しは我が敵ではない。
    自然、姫神秋沙に何故吸血殺しなどという名がついたのか。
    吸血鬼を殺すほどの力――確かにそうだが、
    それほどの力というのならば吸血殺しと言わず、皆殺しでも構わんだろう?」

    アウレオルスは退屈そうに言った。

    (……チッ、そりゃそォだよなァ)

    「必然。吸血殺しというのは、
    あくまでも吸血鬼のみに作用する能力なのだ。
    もっと言えば怪力の類などではなく、ただ単なる血液だ。
    一滴でも吸ったモノを例外なく灰に還す、『吸血鬼』のみに効く特別である、な」


    541 :

    アウレオルスは、懐から再び鍼を取り出した。

    そしてそれをもう一度首に刺す。

    どんな効果があるのか、無感情な瞳がわずかに高揚する。

    「ふん、私を糾弾するための突撃だったようだが、結局は変わらんな。
    最後の最後で、貴様らは姫神秋沙ではなく吸血殺しに縋り、頼り、願った」

    その言葉は、二人の胸に深く突き刺さる。

    無駄でも無理でも、最後まで諦めようとしない、その心を殺す一言。

    「……そんな事ない。
    この人達は吸血殺しの意味も知らなかった。
    吸血鬼の事だって分かってなかった。
    それでもこの人達がここまで来たのは。
    単に今日初めて会った他人を助けるため。
    互いに自己紹介だってしてないのに。放っておけなかっただけ」

    そう弁解したのは姫神だった。

    両手を広げ、上条達を守ろうとするかのように立ち塞がって。


    542 :

    「アウレオルス=イザード。あなたの目的は何?」

    その言葉に、錬金術師はほんの少しだけ眉を動かす。

    「魔術師でもなければ錬金術師でもない。
    そんな一般人を巻き込んで。殺すのがあなたの目的?
    ……そんなつまらない事があなたの目的なら。
    私はもう降りる。私にだって舌を噛み自殺する事は出来る」

    「……」

    「私の目的には。あなたが必要。
    そのあなたの助力が得られないなら。
    私には生きる理由がない。
    あなたの方はどうなの?私の助力がなくても。生きていける?」

    姫神はアウレオルスに対して、真っ直ぐで対等な視線を向ける。

    アウレオルスは、またも懐から鍼を取り出す。

    「必然。こんな所へ時間を割く余裕もなし」

    己の首に鍼を突き刺しながら、彼はつまらなそうに答える。

    「後がつかえている。
    懸念すべきは侵入者よりも禁書目録の扱い、か。
    ただ叩き潰すならまだしも、正直、あれの扱いには困るものだ」


    543 :

    そんな呟きに、一方通行は息が止まりそうになった。

    (……ま、てよ。
    禁書目録?アイツ、まさかここに……!!)

    上条を見れば、慌てた様子でアウレオルスに掴みかかろうとしていた。

    しかし、髪の毛一本も掴めない。

    そうしている間に、一度は下ろされていた錬金術師の手が、再び二人へと向く。

    姫神は警告するかのように、アウレオルスに一歩歩み寄る。

    しかし彼は特に気にせず、

    「案ずるな、殺しはしない」

    そう言って、首の鍼を抜く。

    「少年達よ、ここで起きた事は――」

    (クソッ!冗談じゃねェぞ!!
    こンな時に、こンな状況で、リタイヤなンざしてたまるかってンだ!!)

    今の一方通行では、アウレオルスの魔術が支配できない。

    彼はとにかく、せめて暴風の槍でも叩きつけてやろうと、演算を始める。

    だが、錬金術師はそんな思惑を読んでいるかのように小さく笑い、こう言った。

    「――――全て忘れろ」


    544 = 538 :






    辺りは夜の闇に包まれていた。

    「あン?」

    一方通行は座席から立ち上がり、辺りを見回す。

    隣には上条がいて、同じように立っていた。

    (何で座席に……?)

    そう思ってから、気付く。

    ここは学バスの中だ。

    一方通行は路線図を見てみたが、自分の住む寮のある場所に近い停留所はない。

    とりあえず一つ前の停留所の名前を見てみると、『第七学区・三沢塾前』と書いてある。

    学園都市の終電バスは基本的には、夜になる前に合わせてある。

    となると、進学塾が用意した私バスなのかもしれない。

    「みさわじゅくって……何だ?」

    上条が一方通行に聞いてきた。

    「さァな……。
    別に俺達は塾になンざ通ってねェし……」

    そう言いつつ、一方通行は考える。

    そもそも何故、こんな所で眠っていたのか?

    ……考えても、考えても、答えが出ない。


    545 :

    「なぁ、とりあえず降りないか?」

    考え込んでいる一方通行に、上条が提案してきた。

    「……そォだな、そうするか」

    一方通行も賛成して、二人はバスから降りた。

    一番近い停留所で降りたが、やはり景色にあまり見覚えがない。

    特に体調は悪くないが、ここ数時間の記憶がない。

    ……もしかしたら、結構深刻な状況かもしれない。

    「……なァ、一旦帰って病院行かねェか?」

    「……あー、そうだな。そうするか」

    二人はやる事を決めると、学生寮に向かって歩き出す。

    この停留所を通るバスの路線は学生寮の近くを通らないのだ。

    少し歩いて、一方通行は違和感を感じる。

    何か大事な事を忘れている気がする。

    泥棒がよく出る住宅街で鍵もかけずに家を出るような、取り返しがつかない危機感。

    そんなモノを感じて、一方通行は不思議に思う。

    (いや……思い出せねェンなら、そうでもない……のかァ?)

    そう、考えていたその時。

    突如パキリ、という小枝を踏み潰したような音が一方通行の耳に届く。


    546 = 545 :

    「……っ!?」

    びっくりして、一方通行は音のした方――上条を見る。

    そこには、一方通行に向かって『右手』を差し出す親友がいた。



    「……チッ。あの野郎、訳の分かンねェ事しやがって」

    一方通行は上条のおかげで、全て思い出した。

    あれから何時間経ったのか。

    近くにはステイルも、姫神も、アウレオルスもいない。

    そして――――インデックスもいない。

    アウレオルスの言葉『全て忘れろ』。

    その一言で、全てを完全に忘れていた。

    戦場と化した三沢塾に、
    アウレオルスに奪還された姫神。

    …………錬金術師の口から出た、禁書目録を手に入れた、らしき言葉。

    「とにかく急ごう!」

    「あァ!」

    二人はもう一度、『三沢塾』へと走り出す。

    この数時間で何が起きたか分からない。

    一人『三沢塾』に残るステイルは無事なのか?

    色々考えながら、一方通行は走る。


    547 :

    しばらく走って、一方通行は大きな異常に気付いた。

    通行の邪魔になる人々が全くいない。

    夜とはいえ、ここは繁華街だ。

    それなりに人が出歩いているはずである。

    (……どォなってやがる)

    誰かが、夕方にステイルが見せたような『人払い』を実行したのだろうか。

    そんな疑問を振り払いながら、一方通行は上条と共に走る。



    『三沢塾』のビルが見えてきた所で、さらなる異常が出てきた。

    「……何だよ、あれ」

    上条が呆然と呟く。

    その視線の先には、『三沢塾』を取り囲むように何人もの人間が立っている。

    さらに、それらの誰もが銀の鎧に身を包んでいる。

    辺りに通行人がいない事で、その異常は際立っている。

    (アレか?例の教会の連中なのか?)

    気になった二人は、誰か一人に話し掛ける事にした。

    記憶を飛ばされている間に、状況が一変したのかもしれない。


    548 = 538 :

    「オイ、オマエらは『教会』とかいう連中の仲間なのか?」

    一方通行はそう言いながら、
    エレベーターの前で看取られた、一人の騎士の事を思い出す。

    鎧の一体は、『教会』という言葉にピクリと反応した。

    「――私はローマ正教十三騎士団の一人、
    『ランスロット』のビットリオ=カゼラである」

    億劫そうに、それは答えた。

    「ふん。戦場から偶然に帰還した民間人か。
    貴様らがかの砦から出てくる所は確認している。
    ……まったく本当に運が良い。死にたくなければ即刻退避せよ」

    そりゃどォいう事だ、と一方通行が聞こうとすると、

    「我々とて無為な殺戮は望まないと言った。
    グレゴリオの聖歌隊にて聖呪爆撃を行うにしても、
    無駄な被害を拡大させる必要もないと判断したのである」

    その言葉に、上条と一方通行は驚く。

    グレゴリオの聖歌隊――ローマ正教の最終兵器であり、
    『三沢塾』ではその偽典(レプリカ)が使われた。

    その威力については、上条から聞いている。

    偽典でも強力なのに、原典(オリジン)は一体どれほどの威力だというのか?

    そんな事は言うまでもないだろう。


    549 :

    「爆撃って……ふざけんな!
    中に入っただけで巻き込まれるだなんて、
    まさかビルごと吹っ飛ばすつもりじゃねーだろうな!」

    上条が食らいつくと、当然と言わんばかりに騎士が返す。

    「それこそまさかだ。
    最高峰の技術を用いた我らの神技は、
    世界中のあらゆる地域を焼き尽くす。
    それで背信者の塔を残しては我らの沽券に関わるだろう」

    「ふざけてンじゃねェぞ!
    あの中にはまだステイルや姫神、アウレオルスだって残ってンだぞ!」

    アウレオルスは、誰かを助けたいから吸血鬼を呼びたいだけらしい。

    「それにあんなデカいビル、
    このまま吹っ飛ばせば瓦礫がどこまで飛び散ると思ってんだ!
    確実に半径六百メートルは砲弾みてーな塊が撒き散らされちまうだろ!」

    「正しき目的のために手段は正当化されるのだ。
    流される血は明日の礎になると思えばよいだろう」


    550 :

    その一言に、二人は怒りを抱いた。

    十秒前とその後で言っている事が全く違う。

    一般人は巻き込めないから逃げろと二人に言ったくせに、
    『三沢塾』の中にいる人は気にしないなんて支離滅裂にもほどがある。

    「ふざけんな!
    だいたいあの中には、お前の仲間だって残ってるだろ!」

    「……『パルツィバル』は異国にて殉教した。
    己の流す血で、明日の礎を築きあげるために、だ」

    目の前の鎧人間の言葉は揺れ、狂気に満ちている。

    これでは、あの『騎士』が何のために死んだか分からなくなる。

    「待ちやがれ!
    だとしても時間をよこせ!
    一時間、いや三十分でも構わねェ!!」

    「貴様らの言葉は聞かない!
    これより、攻撃を開始する!!」

    ランスロットと名乗った鎧人間は、腰に下げた大剣を一度天に掲げた。

    大剣が淡い赤色に輝く。

    「ヨハネ黙示録第八章第七節より抜粋――」

    鎧人間に二人が飛び掛かろうとする前に、大剣が振り下ろされる。

    ……まるで、何かの合図のように。

    「――第一の御使、その手に持つ滅びの管楽器の音をここに再現せよ!」

    淡く輝く大剣は、ラッパのような音を夜空に響かせる。



    瞬間、あらゆる音が消えた。



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