元スレ上条「いくぞ、親友!」一方「おォ!!」
SS+覧 / PC版 /みんなの評価 : ★★
601 = 590 :
といったところで今回は終了です。
次回、上条達はアウレオルスに勝てるのか!?
次で二巻も終了。
それでは皆様、また明日。
602 :
おつ!
今日ははやかったね!
原作二巻、だいたいの内容しか覚えてなかったから姫神がマジで死んだのかとひやひやしたぜ!
603 = 591 :
おつ!
二巻ってあらゆる面で他の話と違うよなあ
なかったことにされてしまうのもしかたないのか
604 :
>>603
あらゆる面でってのが分からんが
コミック版だと無かった事んなってるな
605 :
乙!
>>603
まあ色々とその後と比べて異色ではある
色々とな
606 :
ぶっちゃけ禁書シリーズじゃなくてもいいもんな
あー、でもインデックスへの思いは綺麗だよな
読んでた当時はインデックスの生い立ちに関わるストーリーが5巻くらいで出るんだろうとか思ってたもの
607 :
2巻は記憶を失くした上条さんの「これから」と、救われる前のインデックスの「それまで」に関わった者を描いたという点で私的には欠かせない。
608 :
くどくて既視感が否めない
609 :
乙! 2巻って、前の上条さんと今の上条さんが一つになる物語として必要だと思う。
610 :
>>608
まあこれからじゃね
22巻までやるのも大変だろうし
一方禁書の一方さんは魔術解析して超無敵化したけど
ここの一方さんはそううまくはいかないか
どちらも面白いよもちろん
611 :
どうも、皆様。
今日の投下なんですが、ちょっと無理になりそう。
もし来れたら、早朝になるかも。
ごめんなさい。
612 :
書くまで腹パンはお預けだよ
613 :
期待してる
614 :
早くしないと自転腹パンの威力がとんでもないことになるぞ!
615 :
どうも、皆様。
大変遅れましたね。
誰もいないかも知らんけど、今から投下する。
616 :
広大で、どこか空虚な空間には三人の人間が立っている。
上条と一方通行は、足元の姫神を見ない。
そんな暇などなかった。
彼女が全力で、死を覚悟してまで引き止めたい人がいた。
そんな彼女の事を思うなら、すぐさま止めるべき人間が目の前にいる。
直線距離にしておよそ十メートル。
一方通行にとって、二秒もあれば充分に届く距離。
一方通行は脚力のベクトルを操って、アウレオルスへと駆け出す。
もう一方通行には、アウレオルスの魔術が恐ろしくない。
アウレオルスは一方通行の突進に驚きもせず、ただ細い鍼を首に突き刺す。
「――――奈落の底に落ちよ」
アウレオルスが言った途端、
一方通行を中心に直径一メートルほどの穴が、床に空く。
「…………っ!?」
一方通行はそのまま重力に従って落下する。
下には教室があるはずなのに、落ちた先は真っ暗な空間だった。
「お、おおおォォおお!!」
手で空を切り、風を操る。
四本の竜巻を背中に接続して、彼は文字通り飛んだ。
617 :
そうして戻ってきた一方通行の目の前では、
上条がアウレオルスの攻撃を右手で打ち消していた。
実のところ、この戦いは上条にとっては楽勝と言ってもいい。
確かに、アウレオルスは『言葉』一つでどんな攻撃も出来る。
しかし逆に言うと、その言葉をよく聞いておけば、攻撃の先読みも可能なのだ。
アウレオルスはわずかに眉をひそめる。
「なるほど。真説その右手、
触れてしまえば私の黄金錬成(アルス=マグナ)ですらも打ち消せるらしい」
それでも余裕の表情をしている錬金術師に、
一方通行はわずかな疑念を抱く。
「ならばこそ、右手で触れられぬ攻撃は打ち消せぬのだな?」
瞬間、疑念は悪寒に変わる。
「銃をこの手に。用途は射出。数は一つで十二分」
楽しげに錬金術師は口走る。
アウレオルスが右手を横へ振った瞬間、
その手には一振りの剣が握られていた。
一見すれば西洋剣(レイピア)に見えるそれは、
フリントロック銃が仕込まれた暗器銃だった。
だからどォした、と一方通行は思う。
上条が触れられない攻撃をするなら、自分が『反射』すればいい。
しかし錬金術師はそんな思惑を見透かしたように、こちらを見てニヤリと笑った。
618 :
「私とはまた別の魔術師の魔力より構成された魔弾を装填。
――――人間の動体視力を超える速度にて、射出を開始せよ」
619 :
瞬間、火薬の破裂する爆発音が部屋に響く。
次いで背後の壁に青白く輝く魔弾が着弾し、火花を散らす轟音が炸裂する。
「…………!?」
動体視力を超える速度で射出された魔弾を捉えるなど、一方通行には出来ない。
この攻撃は回避も防御も出来ない、まさに『必殺』というやつだろう。
二人は凍りついて動けなくなってしまった。
「我が偽者(ダミー)との戦いと先程の様子を見る限り、
貴様の方は一度魔術を食らわねば、
同じ人間が放つ魔術は無効化できぬようだ。
つまり、こうして別の魔術師の魔術を使えば攻撃は通るのだな?」
アウレオルスは満足げな顔で鍼を投げ捨てた。
「先の手順を量産せよ。
十の暗器銃にて連続射出の用意」
アウレオルスの両手に、十丁の銃が握られた。
アレが放たれれば、二人は戦闘不能に陥るだろう。
620 = 619 :
(逃げ、ねェと……っ!)
一方通行は避けようとして、気付いた。
このまま避ければ、後ろにいるステイルと姫神に魔弾が当たるという事に。
「馬鹿が!何を立ち止まって――――っ!」
動けなくなった二人に、ギョッとしたステイルの叫び声が届く。
同時に、
「準備は万端。十の暗器銃。同時射出を開始せよ」
アウレオルスの声がする。
一方通行は思わず駆け出した。
目の前の上条を、横に突き飛ばすために。
「…………っ!?」
上条が横に倒れ込むと同時に、
一方通行はとてつもない衝撃に体を貫かれる。
「――――がっ!?あァァあああ!!」
一方通行は後方へと吹き飛び、そのまま入口の扉に衝突した。
その衝撃自体は『反射』したおかげで、二次的な被害は避けられた。
魔弾のダメージも、中途半端な『反射』によって死に至るほどではなかった。
……もっとも、激痛で体は動きそうにないが。
621 :
一方通行は地面に伏せながら、前を見る。
上条とアウレオルスの距離は、一方通行の行動で元に戻っていた。
二度攻撃を防げば、上条の踏み込める距離だ。
「……チッ。何だそれは?
先の攻撃といい、記憶操作といい、
まるで本当に言葉一つで全てを思い通りにしているようじゃないか」
アウレオルスが何か言う前に、ステイルが言葉を被せる。
上条が策を練る時間を稼ぐつもりのようだ。
注意を逸らされた錬金術師は、ステイルを見た。
「黄金錬成など到達点に過ぎん。
確かに困難を極めるが、到達点なのだから辿り着けない訳ではないだろう」
「馬鹿な。呪文は完成していても、
百や二百の年月で詠唱できる長さではないはずだ……!」
「ふむ。確かに一人では不可能ではあるな。
しかし、何も一人だけでする必要はあるまい?」
「……何?」
ステイルが眉をひそめると、インデックスが忌々しそうに言った。
「『グレゴリオの聖歌隊』だよ。
二千人の人間で呪文を唱えれば、作業の速度は単純に二千倍になるもん」
頭の中の十万三千冊の知識を利用して答えを導き出したのだろう。
インデックスの声は確信に満ちていた。
622 :
「実際は、呪文と呪文をぶつけてさらなる効果を狙ったがな。
わずか百二十倍程度の追加速度では成功とは言いがたいところだ」
「百二十倍……わずか半日で済ませたのか!?」
アウレオルスの言葉に、ステイルは演技ではなく本当に驚いたらしい。
「だが、ここは異能者達の集まりだ。
そんな事をすれば回路の違うヤツらは体が爆発するはずだ!」
「だから、何故気付かんのだ」
アウレオルスは、どうでもよさそうに言った。
「壊れたのなら、直せば良いだけだ。
……ああ、伝えていなかったか。
あの生徒達、何も死んだのは今日が初めてではない」
「て、めぇ――――」
その言葉を聞いた途端、上条は怒りに満ちた声を、搾り出すように発した。
アウレオルスは視線を上条に戻しながら、首に鍼を突き立てる。
「そうだ、私とて自らの罪悪に気付かんほど愚かではない。
それでも救いたい人間が確かに存在すると信じていた。
その結末が、よもやこのようなものとは想像もつかなんだがな!」
623 = 618 :
「――テメェ!!」
上条は、アウレオルスが『言葉』を紡ぐ前に行動を起こす。
彼はポケットに手を突っ込むと、
そこから携帯電話を引っ張り出してアウレオルスに投げつけた。
「……な?」
アウレオルスが戸惑っている内に、上条は走り出す。
「……投擲を停止。
意味なき投石は地に落ちよ」
アウレオルスはすぐさま言葉を紡ぎ、携帯電話を止めた。
しかしそのわずかな時間の間に、上条が距離を半分に縮める。
あと少し、たった一撃防げば――――
「この手には再び暗器銃。
用途は射出。合図と共に準備を完遂せよ」
しかし、その一撃がどうしても間に合わない。
アウレオルスは、新しい銃を構える。
このままではまずい。
そう思った一方通行が何かしようとしたその時、
「魔女狩りの王(イノケンティウス)!」
ステイルが叫び、アウレオルスは動きを止めた。
624 = 615 :
もちろん、ステイルには魔女狩りの王は現在使えない。
上条達の学生寮に待機中だからだ。
これはハッタリだ。
一瞬でも上条の時間を稼ぐためのハッタリだ。
アウレオルスは、鋭い刃のような目でステイルを睨みつける。
「宙を舞え、ロンドンの神父」
アウレオルスが言った直後、ステイルの体が天井近くまで浮かぶ。
上条は立ち止まってしまった。
ステイルを助けに行くか、迷っているらしい。
「馬鹿者!
今の君ならばアウレオルスを潰す事など訳もないだろうに!
ヤツの弱点はあの鍼だ、医学の事なら君だって分か――――」
ステイルは、立ち止まった上条を動かそうと思い切り叫ぼうとした。
したのだが。
「内から弾けよ、ルーンの魔術師」
アウレオルスが、そんなステイルを見てこう言った瞬間。
ステイルの体は爆発し、血や肉を天井にバラ撒く。
まるでプラネタリウムのように、広大な部屋をそれらは覆った。
625 = 616 :
「……っ!」
さらに恐るべき事に、血管は繋がり、内臓は壊れていなかった。
剥き出しの心臓に、血管を通して血液が循環していく。
まだ、ステイル=マグヌスは生きていたのだ。
魔術師の持ち物だろうか、ルーンのカードが桜吹雪のように舞い散る。
一方通行の視線の先にいるインデックスは、
あまりの現実に気を失って、ゴトリという音と共に机に倒れてしまった。
(なンてこった……)
一方通行は呆然としてしまった。
いくら何でも、こんな光景は見た事がなかった。
(……いや、考えるのをやめるな)
一方通行は必死に持ち直す。
ステイルは最後まで助けを求めなかった。
こうなる事が分かっているのに、伝えようとした事。
それを考えない訳にはいかない。
『馬鹿者!
今の君ならばアウレオルスを潰す事など訳もないだろうに!
ヤツの弱点はあの鍼だ、医学の事なら君だって分か――――』
ステイルの言葉をゆっくりと頭の中で反芻する。
(鍼……医学?)
アウレオルスが先程から何度も何度も首に刺している鍼。
その事を言っている……のだろうか?
626 = 622 :
一方通行は学園都市最高の頭脳から、『鍼の知識』を引っ張り出す。
医学としての鍼治療とは、確か神経を直接刺激する事で、
興奮作用を引き起こして痛みを軽くしたりするモノだったはずだ。
麻酔などない時代には痛み止めとして、よく使われたらしい。
(……だから、何だってンだ?)
一方通行はさらに考えてみる。
実際の鍼治療など、人の体にそこまで劇的な効果は生まない。
せいぜい出来る事といったら、
神経の直接刺激によって興奮状態にして不安を取り除く程度しか――――
そこまで考えた一方通行は、はたと気付く。
――――――不安?
「内容を変更。
暗器銃による射撃を中止。
刀身をもって外敵の排除の用意」
アウレオルスの方を見れば、
仕込み銃が手の中でくるくると回っているのが見えた。
一方通行はさらに思考を深める。
627 :
考えてみれば、最初からおかしかった。
姫神もステイルも、『死ね』や『弾けよ』の一言で済まされた。
何でも思い通りになるなら、
何故上条に『右手の力がなくなる』のような簡単な命令をしなかったのか?
(そォだ、おかしいじゃねェか)
何でも思い通りにできるならば、
一体どうしてインデックスはアウレオルスの方を振り返らないのか?
黄金錬成が、アウレオルス=イザードの言葉通りに現実を歪める魔術ではなく、
アウレオルスの思った通りに、現実が歪んでしまう魔術だとしたら?
ステイルが言った、
『君ならばアウレオルスを倒すのも難しくない』
という事にも納得がいく。
アウレオルスは、上条と一方通行以外の人間には面識がある。
だから、彼らの実力では自分に太刀打ち不可である事を知っていた。
しかし、二人は違う。
この二人だけは、今日初めて出会った、実力不明の得体の知れない人間なのだ。
もっとも、一方通行は今倒れてしまっているから、
太刀打ち不可と判断されただろうが。
628 :
だが、上条は『姫神の死』を簡単に打ち消してみせた。
アウレオルスがその事を『不安』に感じない訳がない。
そして、何もかもが思い通りにできる人間にとって、自分の中の『不安』とは。
(そォいう事、か――――)
一方通行は呆然と頭の中で呟く。
分かれば簡単な話だった。
「ふむ。貴様の過ぎた自信の源は、
その得体の知れない右手、だったな」
上条を見ながら、アウレオルスは懐から取り出した鍼を首に突き刺す。
「ならば、まずはその右腕を切断。
暗器銃よ、その刀身を旋回射出せよ」
音はなかった。
アウレオルスが右手を振った瞬間、
上条の右腕は切り落とされて壁に当たっていた。
一方通行はその光景を呆然と眺める。
(――わざわざ、切り落とした?)
上条の右肩からは、鮮血が噴き出していた。
(――何でも思い通りにできるはずなのに、か?)
一方通行の抱いた推論は、確信へと切り替わる。
ならば、自分に出来る事は――――
629 = 617 :
「あはははははははははははははははは
はははははははははははははははははははは
はははははははははははははははははははははははは――――ッ!!」
あまりの予想外の出来事にアウレオルスは思わず後ろへ一歩下がる。
右腕を切り飛ばされたはずの少年が笑っていた。
あまりの激痛や恐怖に狂ったか、とも思うが、違う。
それはただ勝利を確信しているだけの、正常な笑いに過ぎない。
(何だ、あれは……?)
見れば、地に伏している白髪の少年も楽しげに笑っていた。
アウレオルスは『恐怖』よりも『不快』を感じ取った。
あの少年達が何を考えているかは知らないが、勝負はとうに決している。
ならばこれ以上の『不快』は余分だ。
首筋の鍼を苛立ち紛れに抜き捨てた。
「暗器銃をこの手に。
弾丸は魔弾。数は一つで十二分」
右手を振るうと、言葉通りに暗器銃が生まれる。
アウレオルスは己の完璧な術式に一度自己満足した。
630 :
「用途は破砕。単発銃本来の目的に従い、
獲物の頭蓋を砕くために合図と共に射出を開始せよ」
アウレオルスは引き金を引く。
狙いは笑い続ける少年の眼球。
当たればそのまま脳を貫かれるはずだ。
それは人間には回避も防御も不可能なモノだった。
少年は何も出来ず、ただ頭の中身をぶちまける――
はずだった。
「な……?」
アウレオルスは己の目を疑った。
少年が何かをした訳ではない。
正確に射出された青い魔弾は、
何故か少年の顔の横を通り過ぎて背後の壁に激突した。
(目測を誤った?いや……)
アウレオルスはもう一度命令する。
「先の手順を複製せよ。
用途は乱射。十の暗器銃を一斉射撃せよ」
銃を虚空から取り出し、アウレオルスは弾丸を放った。
しかし、精密な狙撃をしたはずなのに、魔弾は全て外れた。
631 = 618 :
(不発!?馬鹿な……っ!)
アウレオルスは、愕然と二度も必殺を逃れた少年を見る。
切断された肩口から信じられない量の血を噴き出す少年。
だというのに、少年は何もせずに、ただただ笑っていた。
アウレオルスは三度に亘って目の前の敵を排除するため、命令しようとして、
(けれど、何の策もなく、ただ偶然で二度も避けられるのか?)
湧いた疑問に、錬金術師はギクリと動きを止めた。
己の術式の威力は自分が一番理解している。
偶然などで避けられるはずがない。
(まさか、何かしているのか?
私がただ勘付いていないだけで!)
少年は心底楽しそうに笑っている。
それは、アウレオルスの胸の内に不安を作り上げる。
さらに少年は笑いながら、何かを呟いた。
錬金術師を見ながら、だ。
「く、ぁ。
おのれ……我が黄金錬成に逃げ道はなし!
断頭の刃を無数に配置。速やかにその体を解体せよ!」
632 = 616 :
言葉と共に、水面を引き裂くように少年の頭上、
天井からいくつもの巨大なギロチンの刃が生み出される。
そして一気に振り下ろされた巨大な刃に、
上条は笑ったまま避けようとも防ごうともしない。
(大丈夫だ、あれは避けられん。
あれは必ず直撃する。
直撃すれば必殺は必然。
そう命じた、命じた命じた命じたのだ!!)
アウレオルスは心の中で何度も繰り返す。
しかし思えば思うほどに『疑念』はどんどん膨らんでいく。
まるで祈るような言葉の全てが、
心の底に眠る巨大な『不安』を隠すためにあるとでも言うように。
そして、アウレオルスの思い通りに刃は上条の頭へ直撃した。
今度こそ、確実に捕らえた。
なのにギロチンの刃は瞬間、粉々に砕け散ってしまった。
錬金術師を馬鹿にするように、少年は笑う。
すでにその攻撃は効かない、と言いたげに。
633 = 617 :
(く、そ。何たる……ッ!?)
もはや遠慮など無用。
アウレオルスは上条を鋭い眼光で睨み付けると、
「直接死ね、しょうね――――ッ!?」
言いかけて、アウレオルスは硬直した。
原因は、目の前の少年にあった。
突如、切断された少年の肩口に変化があった。
肩口から噴出している血が、
どこからか起きた竜巻に巻き込まれて『右腕』の形を作り上げたのだ。
まるで、右腕が失くなっても力が生きているように。
錬金術師は、ゾッとした。
(……まさか、あれだけでは駄目だと言うのか?)
アウレオルスは不安を消そうとして、
震える手で鍼を取り出そうとしたが、
懐にあった無数のそれはバラバラと床に落ちた。
だが、錬金術師は気にしていられない。
アウレオルスは上条をじっと見た。
鋭利だった眼光はいつの間にか錆びて刃こぼれしていた。
足が、勝手に一歩後ろに下がる。
靴底が、床に散らばった無数の鍼を踏み潰し、折ってしまった。
634 :
何でも思い通りに現実を歪める黄金錬成。
しかし、それは逆に言えば、
アウレオルス自身が『これは不可能だ』と思えば、
それまでも現実のモノにしてしまう諸刃の剣でもある。
だからアウレオルスは『言葉』を使って、
自らのイメージを固定する事で自滅を防ぐようにしていた。
彼の黄金錬成は本来、『言葉通り』ではなく『思い通り』に現実を歪める魔術なのだ。
しかしアウレオルスは今、言葉の制御が出来なくなってしまっていた。
『言葉』でイメージを固定する前の、
漠然とした『想像』が勝手に具現している。
そうなった時のために、彼は一つの非常手段を用意していたのだが、
(くそっ、鍼は……あの治療鍼は!?
何故、床に取り落とした?
こうならないために、
『不安』を殺すために常用していたのに!
まずい、あれがなくては私は――――――)
635 = 634 :
そこまで考えて、アウレオルスは息を呑んだ。
(あれがなくては、何だ?
停止、やめろ、それ以上は考えるな。
それは取り返しがつかん、それを思考しては――――ッ!)
避けようとするほどに思考は深みにはまっていく。
分かっているのに、アウレオルスは思考を止められない。
止めれば認めた事になる。
一度坂を転がり始めた石のように、
アウレオルスの『疑念』は止まる事を知らない。
そして気付けば、少年が目の前にいた。
インデックスの倒れた机を挟んで、二人は対峙する。
錬金術師は、いまだ身動きが取れない。
「おい」
突然の少年の声に、アウレオルスはビクリと肩を震わせた。
少年は言う。
「テメェ。まさか右腕をぶち切った程度で、
俺の幻想殺しを潰せるとか思ってたんじゃねえだろうなァ?」
636 = 619 :
少年は犬歯を剥き出しにし、
赤光すら放つかと錯覚するほどの眼光を見せて。
心底楽しそうに言った。
(な 待て 思うな 不安 まず ――――ッ)
アウレオルスには祈る事は出来ても、思う事を止められない。
瞬間。
上条の『血の右腕』が、透明な何かに包まれた。
それは、顎だった。
大きさにしてニメートルを超す、
獰猛にして凶暴な、竜王の顎(ドラゴンストライク)。
透明な顎が広がり、ノコギリのような牙がズラリと並ぶ。
まるで、それが右腕の中にあるモノ(力)の正体だと言わんばかりに。
牙の一本が空気に触れた瞬間、
部屋に満たされていた錬金術師の気配が消える。
全ての主導権が強引に変更されたかのように。
(な……)
アウレオルスは思わず頭上を見上げた。
そこにはステイル=マグヌスの、バラバラになった血肉がある。
しかし、それらは一点に集まっていく。
『弾けよ』という命令が打ち消されたように。
637 = 617 :
(ま、さか。蘇るのか?
姫神の時と同じく、すでに破壊した人間を――――ッ!)
そう思ってしまった瞬間、ステイルは元の姿で床へと落ちた。
今のは、間違いなくアウレオルス自身の『不安』がステイルを蘇らせてしまった。
(待て これ 私の 不安 過ぎん 落ち着け 不安
消せば こんな 馬鹿げたモノ 消せる はず ――――ッ!!)
恐怖を必死に押し殺して、アウレオルスは最後の抵抗を試みる。
これはアウレオルスの『不安』が作り出した代物に過ぎないはずだ。
ならば自分が落ち着いて、
『不安』をなくしてしまえば、
これも消し去る事が出来るはず――そう彼は考えた。
だが、透明な竜王の眼光が静かにアウレオルスを睨み付けた。
たったそれだけで、アウレオルスは恐怖で視界が狭まっていく錯覚すら覚えた。
(無 理 敵う はず な)
そう思った瞬間、最大限に開かれた竜王の顎が錬金術師を頭から呑み込んだ。
638 = 630 :
翌日――――――
一方通行はインデックスと共に、
第七学区にある病院の売店にいた。
「ねえねえ、あくせられーた」
「何だよ、クソガキ」
「だから、その呼び方をやめてってば!!」
インデックスがむくれた様子で言ってくるが、
一方通行は簡単にこれを無視する。
「で、どォした?」
「むー。……まぁいいや。
それよりも、このマスクメロン味のポテチかも」
そう言ったインデックスは、何とも怪しげなパッケージの袋を見せてきた。
「あー、何だ。
オマエ、要するに俺にこれを買えって言いたいのか?」
「うんっ!」
インデックスはあっさりと笑顔で肯定した。
「……はァ。コーヒーのついでだぞ、ついで」
一方通行はなんだかんだ言ってちょっぴり甘かった。
そんな訳で、売店でいろいろ(主成分はコーヒー)を買った二人は、
ある少年の病室の前に立っていた。
インデックスはノックもせずに、ドアを開けた。
「とうまーっ!あくせられーたがポテチ買ってくれたから、一緒に食べよー!……って」
インデックスの動きがピタリと止まる。
それもそのはずだった。
一方通行とインデックスの目の前には、
暴れるステイル=マグヌスと、
何か感動しながら無理矢理彼の頭を撫でている上条当麻がいた。
639 :
「……とうま。ごめん、間が悪かったね」
「そォだな。行くぞ、ガキ」
「ちょ……待て。
おかしいだろ、何で目を逸らす?
ていうか無言で出ていこうとすんな!!」
そんな風にドタバタとしている上条達の様子を、
ステイルは満足そうに眺めていた。
インデックスが、ただ無邪気に笑っている。
それだけを確認出来て嬉しいといった風に。
「……さて、と。
僕は次の仕事があるし、
そろそろ帰らせてもらおうかな」
ステイルはそう言って、病室から出ようとした。
そんな彼にインデックスは、
「……じゃあね、ステイル!
今度は仕事とか無しで、
かおりと遊びに来るといいかも!!」
そう言って、手を振った。
ステイルはポカンとして、
「……ああ。その時は、何か美味しいモノを持って来るよ」
笑って、病室を出た。
「さて、と」
一方通行は上条の方を向く。
インデックスは、今いない。
ある少女を呼びに行っているからだ。
「報告は……もォ聞いてるか?」
「ん。まぁ一応」
その答えに一方通行はそォか、と頷く。
640 :
一方通行は昨日の事を思い出す。
昨日上条は右腕を切断された後、アウレオルスを相手に大芝居を打った。
上条達では、正面からアウレオルスを倒せない。
しかし、アウレオルスは『自分の思い通り』に現実を歪める。
ならば、
『アウレオルス=イザードは上条当麻には絶対に勝てない』
と思ってもらえばいいだけだ。
「まったく、苦労したぜ。内心ヒヤヒヤしちまった」
上条はそう言って笑った。
「そォだな。俺も演出に苦労した」
上条はそれを聞いて、
「あれ?お前も何かしたのか?」
一方通行はニヤリと笑った。
「ま、ステイルみてェな事はしてねェがな。
……オマエの血を竜巻に混ぜて右腕が生えたみたいにした」
そう、上条だけではこの大芝居は成り立たなかった。
ステイルは人肉プラネタリウム状態で魔術を使い、
蜃気楼を起こしてアウレオルスの銃撃を回避させた。
一方通行はエアコンから流れ出ていた冷風を操り、『血の右腕』を作った。
この二つの要素と上条の演技があってこその大芝居だった。
「ふーん。何だよ、俺一人で活躍したと思ったのになー」
上条は少し残念そうにしていた。
641 = 627 :
「……それはそうと、右手はどォだよ?」
一方通行は、上条の右腕を見る。
右腕の部分がギプスに包まれていた。
「ああ、大丈夫だ。
一日もすりゃくっつくんだとよ」
彼の主治医である冥土帰し(ヘブンキャンセラー)いわく、
アウレオルスによって綺麗さっぱり切断された右腕は、
あまりにも綺麗に切断されたために断面の細胞に傷が付かず、簡単に治るらしい。
「……なら、いいけどな」
そう言って、一方通行は窓の外を見遣る。
アウレオルス=イザード。
彼は最後に竜王の顎に食われて、記憶を失ったらしい。
そうなってしまった彼は、もはやアウレオルス=イザードとは呼べないだろう。
しかし、世間はそれを認めないらしい。
アウレオルスは依然、指名手配されたままになっているとの事だ。
そして、ステイルは彼を『殺した』。
文字通り、ではない。
顔の作りを変えてやり、アウレオルス=イザードではない『誰か』にしてやった、との事だ。
(アイツも、なンだかンだ言って甘いな……)
一方通行はそう思う。
まぁ、悪くないが。
「にしても、インデックスのやつ遅いな」
上条はちょっと心配そうに言った。
彼女は今、同じく入院している姫神秋沙を呼びに行っている。
姫神はこれからどうするのだろうか?
一方通行は少し心配になったが、それは杞憂だと思った。
インデックスは姫神の能力を封印出来るようにする、と言っていた。
彼女は、もう自由に生きていけるのだ。
そう考えれば、何も心配などしなくていいだろう。
そう思っていると不意に、ノックの音がする。
「どうぞー」
上条が笑って言うと、ドアはゆっくりと開く。
一方通行はその先にいるであろう人物を思い、
少しだけ自然な笑みを浮かべた――――
642 :
そんな訳で、ニ巻もこれにて終了です。
いやはや、結構長引いちゃったなー。
とりあえず、このスレで三巻と小ネタ編まで行けるといいかな。
次回は、2.5巻編の予定。
一方通行インデックス姫神スフィンクスによるほのぼの話?みたいなのをやる。
それじゃ、皆様また明日。
644 :
乙!!
いいなーこういう連係?プレー
しかし黒髪も白髪も赤髪もかっこいいな相変わらず……
ここの上条さんは頭の働きが結構いいようでよかった
645 :
乙!
寝る前に見に来てよかった
646 :
やはりヘタレはヘタレか…
647 :
この一方通行、原作よりずっと無敵への
願望が強そうだな
648 :
3巻どう料理するんだろう?
わくわく
649 :
3巻がwktkすぎてやばい
650 :
悪いけど、今日来れそうにないや。
朝の7:00ぐらいに投下する。
……どうでもいいけど、三巻って書くの大変だね。
口調とか口調とか口調とか。
ホント、五巻とかどーしよ。
みんなの評価 : ★★
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