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    元スレ武内P「起きたらひどい事になっていました」

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    251 :

    サイキックパワー(物理)

    252 :

    薄々気付いてはいたけどプロデューサーが笑顔とプロデュースさえ言えば何でも出来る存在になっとる…

    253 :

    そのうち変身でもしそうだ

    254 = 249 :

    変身、書きます

    255 = 249 :


    「渋谷さん、お疲れ様でした」


     LIVEが終わってステージ裏に戻ると、真っ先にプロデューサーが声をかけてきた。
     まだ会場は興奮冷めやらぬようで、ざわめきがこちらまで届いてくる。


    「どうだった?」


     こうやってプロデューサーに感想を聞くのは、いつものこと。
     だけど、この人はいつも決まってこう言う。


    「はい。とても素晴らしい、良いLIVEでした」
    「……ん」


     今回のLIVEは、私だけのソロLIVE。
     少し緊張したけど、プロデューサーが見ていてくれたから、不安は無かった。
     だって、私が見ていてって言ったのに、かっこ悪い所は見せられないし、ね。



    「きゃあああああっ!?」
    「うわあああああっ!? なんだ、このバケモノは!?」



     そんな私達の耳に、明らかに、普通とは思えない叫び声が飛び込んできた。
     何か、あったのかな?
     それに、バケモノって……一体、何のこと?


    「――渋谷さん。すぐに、避難を」


     プロデューサーは、真っすぐにステージに向かいながら、背中越しに言った。
     その歩みには一切の淀みが無く、まるで、何かを察しているかのよう。


    「避難って……アンタ、どこへ行く気!?」


     避難するなら、そっちじゃないでしょ!?


    「私は……プロデューサーですから」


     何それ……全然答えになってない!

    256 = 249 :


    「意味がわからない! プロデューサーだから、何なの!?」


     必死でプロデューサーに追いすがり、スーツの上着を掴んだ。
     すると、プロデューサーはこちらを見ることなく、首筋に手をやり、言った。


    「今回のLIVEは、とても素晴らしいものでした」


     そんなの、関係無い。
     だって、わからないけど……会場では、絶対に変なことが起きてる。
     それなのに、アンタがそこに向かう理由は何なの?


    「ちゃんと説明して!」
    「その、素晴らしいLIVEを最後まで見届けるのが、私の役目です」


     プロデューサーは、ゆるんだ私の手を振りほどき、また歩みを進めた。



    「助けて! 誰か、誰かあああああ!」
    「うわあああああ! 来るなっ、来るなあああああっ!」



     待って。
     待って、待って、待って、待って!


    「……渋谷さんは、避難を早く」


     低い、いつもの声がより一層低くなった。


    「……逃げないでよ!」


     逃げようよ、一緒に!
     アンタ、私のプロデューサーでしょ!?


    「逃げるのでは、ありません」


     プロデューサーは、上着のボタンをプチリプチリと外し、上着を翻した。


    「戦うのが、プロデューサーの務めです」


     その腰元では、大きな銀色のベルトが、輝きを放っていた。

    257 = 249 :

      ・  ・  ・

    「助けて……! 誰か……誰か……」
    「うああ……力が……力が入らない……」


     LIVE会場は、ひどい有様だった。
     会場の一角を中心に張り巡らされた、白い巨大な糸。
     それに捕らえられた人達は身動きすら出来ず、助けを求め続けている。


    「――アナタが、これを?」


     プロデューサーが、白い巨大な糸の中心に立つ影に問いかけた。
     その影は人の形をしているが、シルエットが似ているというだけで、明らかに違う。


    「SYAAAAAAAAAA!!」


     影――クモの異形の怪人は、此処は自分の巣だと言うように、咆哮した。
     耳をつんざくようなその咆哮は、ビリビリと会場を震わせる。
     それを聞いた、捕まった人達の上げた悲鳴が、絶望をより加速させていく。


    「申し訳、ありません。今すぐに、お引き取り願います」


     しかし、プロデューサーはそれを何一つ意に介さず、平坦な口調で言い放った。
     クモの怪人は、ひるまなかったその様子が気に食わなかったのか、
    シュルシュル、獲物を前に舌なめずりするかの様な音を上げた。


    「聞き入れては、貰えませんか?」


     プロデューサーの、再度の問いかけ。


    「SYAAAAAAAAAA!!」


     クモの怪人は、それに咆哮で応えた。


    「……」


     プロデューサーは、右手を首筋にやると、少し困ったような顔をした。


    「――それでは、少し強引な手段をとらせていただきます」

    258 = 249 :


     強引な手段?
     こんな、異形のバケモノを相手に、一体何が出来るというのか。
     悪夢の宴を終わらせられるような何かが、彼に出来るというのか。


    「……」


     プロデューサーは、右のポケットからスマートフォンを取り出した。
     そして、ホームボタンを素早く三回押し、画面を起動。
     流れるように、暗証番号を画面を見ずに打ち込んでいく。


     ――3――4――6!



    『LIVE――』



     スマートフォンから、どこかで聞いたことのある女性の声が聞こえた。
     プロデューサーは、スマートフォンを銀色のベルトにかざし、



    「変身ッ!」



     言った。



    『――START!』



     彼の体を光が包み込んでいく。
     光の粒子はやがて形を成していき、プロデューサーに鎧を纏わせた。


     鎧は黒を基調としたもので、所々白い箇所もあり、まるでスーツのよう。
     すっぽりと全身を覆うその鎧の胸元では、
    ピンクと、ブルーと、イエローの宝石のような物が輝きを放っている。
     プロデューサーが今、どんな顔をしているのかは、
    目付きの悪いぴにゃこら太のようなフルフェイスに覆われ、見ることは出来ない。


    「……」


     だけど、きっと、いつもの無表情に違いない。

    259 :

    ぴにゃぴっぴ

    260 = 249 :


    「SYAAAAAAAAAA!!」


     明らかに、クモの怪人の空気が変わった。
     圧倒的捕食者の立場だと思っていたが、目の前の男は違う。
     この男は、ただ逃げ惑い、食われるだけのウサミン星人では、無い。


    「SYAAAA!!」


     クモの怪人は、人間では……いや、生物ではあり得ない跳躍を見せた。
     数メートル程高く跳び上がったクモの怪人は、
    放物線の軌道を描き、プロデューサーへ向けて異形の右腕を振り下ろそうとした。
     が、


    「善処します!」


     プロデューサーは腰を落とし、真正面からそれを拳で迎撃。
     ぶつかり合う右腕と右腕。
     しかし、両者にもたらされたのは、あまりにも違いすぎる結果。


    「GYAAAAAAA!?」


     クモの怪人の右腕は有り得ない方向に折れ曲がり、


    「……」


     一方、プロデューサーの纏う鎧には傷一つなく、拳を放った体勢から微動だにしていない。


    「GURYUUUUU……!」


     クモの怪人は、折れた自分の右腕に糸を巻きつけ、固定。
     しかし、先程までの勢いは完全に削がれていて、ジリジリとその足を後退させている。

    261 = 249 :


    「……勝てる」


     プロデューサーなら、あのクモの怪人に勝てる。
     そう思った瞬間、私の口から思わず言葉が漏れた。


    「!?」
    「!」


     私の声に、反応が二つ。
     一方は、鎧を纏ったプロデューサー。
     そしてもう一方は、


    「SYAAAAAAAAAAA!!」


     クモの怪人だった。


    「っ!?」


     クモの怪人の8つの目全てが、私を捉える。
     本能的な恐怖から足がすくみ、逃げようと思っても足に力が入らない。
     それでも逃げなければと思い足を動かそうとしてみたものの、その場で尻もちをついてしまう。


    「SYAAAAAAAAAAA!!」


     クモの怪人は、咆哮と共に口から液体を私に飛ばしてきた。
     あれは、消化液だ。
     吐き出した時に散った飛沫が落ちた床が、ジュウジュウと音を立てて溶け出している。
     それをスローモーションの様に確認出来るのは、私に消化液が――死が迫っているからか。


    「――っ!」


     理由が何にせよ、私は、あれを体に浴びて、終わる。
     万に一つ命が助かったとしても、アイドルを続けるのは絶望的だろう。
     ……ごめんね、皆。
     私、アイドル続けられなくなっちゃうよ。


    「――ぐおおおおおっ!?」


     だけど、そんな私を守る、一つの影があった。

    262 = 249 :


    「――渋谷さん、お怪我はありませんか?」


     なんで。


    「アンタ……私をかばって……?」


     なんで。


    「見たところ、異常は無いようです。ですが、この後、医務室に――」
    「私じゃなくて! 今、大変なのはアンタでしょ!?」
    「……」


     プロデューサーの背中から、ジュウジュウと何かが溶ける音が聞こえてくる。
     この人は、私をあの消化液からかばって、こうなった。
     それなのに、いつもみたいに右手を首筋にやって、私を見て困っている。


    「……渋谷さん」


     そして、


    「笑顔です」


     いつもの台詞を口にする。


    「笑顔って……そんなの、出来っこない!」


     自分を庇って傷ついた人に向けて笑顔なんて、出来ない!
     この状況で笑ってられるのが、アイドルだって言うの!?


    「……私は、貴女の笑顔を見続けて行こうと思っています」


     プロデューサーは、立ち上がり、私に背を向けた。


    「今までも――」


     振り返らず、


    「――そして、これからも」


     前を向いて。

    263 = 249 :


    「ふっ――!」


     プロデューサーが、クモの怪人に向かって駆け出す。
     背中からあがる煙を置き去りにするかの様な速度に、クモの怪人は反応出来ない。


    「――企画!」
    「GYAAAAAA!?」


    『Cute!!』


     ピンク色の光を纏ったプロデューサーの拳が、クモの怪人の腹部に突き刺さった。
     よろめくクモの怪人の頭部に、


    「――検討中です!」
    「GYUUUUUU!?」


    『Passion!!』


     今度は、イエローの光を纏った拳が突き刺さる。


    「GUUU……OOOOOOOOOO!!!」


     クモの怪人はひるみながらも、両手を振り上げ、プロデューサーに襲いかかった。
     その攻撃は、正に命を賭したもの。


    「……」


    『CoooooooooooL!!!』


     ブルーの光を纏った、プロデューサーの右足。
     その右足が高く振り上げられ、クモの怪人に叩き込まれた。


    「せめて!」


     断末魔の叫びを上げながら、クモの怪人は光の粒子となって消えていく。


    「……名刺だけでも」


    『LIVE SUCCESS!!』

    264 = 249 :

    休憩

    265 = 249 :

      ・  ・  ・

    「……なんかさ、最近しぶりん」
    「?」


     プロジェクトルームでゆっくりしていたら、未央にしては珍しく歯切れ悪く切り出してきた。
     視線を向けてみるものの、続く言葉が来ない。
     もう、一体何? 途中でやめられると、気になるんだけど。


    「凛ちゃん……その、ですね」
    「卯月までどうしたの」


     二人共、なんでそんなに言いにくそうにしてるの。
     もしかして、気付かない内に何か二人にしてた?


    「ぷっ、プロデューサーと……!」
    「……みょ、妙に仲が良くないですか!?」


     二人の予想外の言葉に、驚く。
     冗談やお巫山戯でない、二人の真剣な様子がおかしくて、クスリと笑いが溢れる。


    「そう?」
    「そうだよ! 何か、この前のソロLIVEの後から何か違うもん!」
    「はい! 明らかに、こう、距離が近くなったように見えます!」
    「そうかな。自分では、よくわからないけど」


     距離が近くなった、とは少し違うかもしれない。
     私は、二人の知らない、プロデューサーの秘密を知っているだけだ。
     もしかしたら、この二人もいつかはそれを知る事になるのかもしれない。
     だけど、口止めされてるし、変に怖がらせる必要は無いよね。


    「白状しなさい、しぶりんや! ソロLIVEの時、何があったのか!」
    「教えてください、凛ちゃん! まっま、ま、まさか……!?」


     ごめんね、未央、卯月。
     今は、まだ――


    「内緒」



    おわり

    266 = 249 :

    ゴハンいてきます

    267 :


    やっぱりしぶりんがヒロインだってはっきりわかんだね

    268 = 249 :

    これ書いてて楽しいので続けます

    269 = 249 :


    「「「私達、ピンクチェックスクールを――」」」


     大勢の記者さんに向けて、三人でせーのと掛け声を合わせ、


    「「「よろしくお願いしますっ♪」」」


     精一杯の笑顔で、挨拶しました。
     練習通り、いえ、練習以上にうまくいったので、とっても嬉しいです。
     降り注ぐフラッシュとシャッター音の中、私は美穂ちゃん、響子ちゃんに笑いかけました。


    「「「……エヘヘ」」」


     二人共同じ様に感じていたのか、自然と三人で笑い合う形に。
     私は今、階段を駆け上がっている最中です。
     皆と……そして、この二人とも一緒に。


    「……」


     そして、私をアイドルにしてくれた、プロデューサーさんと一緒に。
     そう思うと、会場の隅で控えているプロデューサーさんに自然と目が行きます。
     いつも通りの黒いスーツに、無表情。
     背が高いから、探さなくてもすぐにわかりました。
     プロデューサーさん、私、今、とっても楽しいで――



    「うわあああああっ!?」
    「なんだ!? コウモリが急に……あっ、あああああっ!?」



     ――会場に響く、大きな悲鳴。
     明らかに普通ではないその様子に、私達は顔を強張らせました。

    270 = 249 :


     記者さん達の居る所から、キーキーという鳴き声が聞こえてきます。
     その鳴き声はどんどん増え、一瞬の静寂の後……ブワリと、コウモリが飛び立ちました。
     会場中を埋め尽くす程の大量のコウモリの群れに、沢山の悲鳴。
     全員、パニックに陥っていました。


    「なっ、ななな、何あれ……!?」


     当然、私達も平気ではいられませんでした。
     何か、とんでもない事が起こっているのはわかります。
     だけど、どうしたら良いか、わかりません。
     美穂ちゃんも響子ちゃんも、ガタガタと体を震わせています。


    「――皆さん、すぐに避難を」


     だけど、私は怖くありませんでした。


    「プロデューサーさんっ!」


     だって、こちらに向かってくる、プロデューサーさんが見えていたから。
     私はプロデューサーさんの元に駆け寄り、聞きました。


    「あ、あのっ! 何か、出来ることはありませんか!?」


     私の口を突いて出たのは、そんな言葉でした。
     こんな状況で、私達に出来る事なんて無いのはわかってます。
     だけど、記者さん達は、私達のために集まってくれたんです。
     だから、せめて、何か……!


    「……」


     プロデューサーさんは、困ったように笑いながら、右手を首筋にやりました。
     呆れてます、よね。
     でも、だけど、私は……プロデューサーさんが選んでくれた、アイドルだから――!


    「笑顔です」


     プロデューサーさんは、上着のボタンをプチリプチリと外し、上着を翻し言いました。
     その腰元では、大きな銀色のベルトが、輝きを放っています。

    271 = 249 :

      ・  ・  ・

    「あ……うあ……!」
    「……誰か……助け……」


     コウモリに襲われた記者さん達が倒れています。
     よく見ると、その体にはコウモリに噛まれた痕があり、とても痛そうです。
     その中心に、一つだけ立つ、大きな影。


    「――申し訳ありません。今は、会見の最中です」


     プロデューサーさんの靴音が、カツリカツリと聞こえます。
     他にも音がするのに、何故か、プロデューサーさんの声がハッキリと聞こえるんです。


    「KYUUUUUUUAAAA!!」


     大きな影――コウモリのような姿をした怪人が、その両手を大きく広げました。
     そうしただけなのに、腕と体を繋ぐような形の翼が、その怪人の姿をとても大きく見せます。
     プロデューサーさんも大柄だけど、それよりももっと大きく。
     実際、コウモリの怪人はプロデューサーさんよりも大きいから、余計に大きく感じます。


    「今すぐに、お引き取りを」


     表情を変えず、プロデューサーさんが言い放ちました。
     私は、その背中をただ遠くから見ているだけ。
     ただそれだけなのに、その背中が、とても頼もしく見えました。


    「KYUUUUUOOOO!!」


     コウモリの怪人が、そんなプロデューサーさんを威嚇するように吠えました。


    「……」


     話の通じる相手ではないと、プロデューサーさんもわかっていたようです。
     それでも声をかけたのは、何か理由があったのかもしれません。
     プロデューサーさんは、右手を首筋にやり、少し困った顔をしていました。


    「――それでは、少し強引な手段をとらせていただきます」

    272 = 249 :


    「……」


     プロデューサーさんは、右のポケットからスマートフォンを取り出しました。
     そして、ホームボタンを素早く三回押し、画面を起動。
     流れるように、暗証番号を画面を見ずに打ち込んでいきます。


     ――3――4――6!


    『LIVE――』


     スマートフォンから、どこかで聞いたことのある女性の声が聞こえました。
     こういうの、ええと、複合音声って言うんでしたっけ。
     プロデューサーさんは、スマートフォンを銀色のベルトにかざし、



    「変身ッ!」



     言いました。



    『――START!』



     その体を光が包み込んでいきます。
     光の粒子はやがて形を成していき、プロデューサーさんに鎧を纏わせました。


     鎧は黒を基調としたもので、所々白い箇所もあって、まるでいつものスーツ姿のようです。
     すっぽりと全身を覆うその鎧の胸元では、
    ピンクと、ブルーと、イエローの宝石のような物が輝きを放っています。
     プロデューサーさんが今、どんな顔をしているのかは、
    目付きの悪いぴにゃこら太のようなフルフェイスに覆われ、見ることは出来ません。


    「……」


     だけど、きっと、いつもの無表情に違いありません。

    273 = 249 :


    「KYUUUUUUOOOOOO!!」


     コウモリの怪人が、変身したプロデューサーさんを威嚇しています。
     だけど、プロデューサーさんはそれを気にせず、カツカツと歩みを進めます。


    「KYUUUU!!」


     コウモリの怪人の叫び声に命令されたかのように、
    大量のコウモリが一斉にプロデューサーさんに襲いかかりました。
     危ない! と、そう思った次の瞬間、


    「善処します!」


     プロデューサーさんは体を翻し、
    襲い来るコウモリ達をチョップで全て叩き落としました。
     叩き落とされたコウモリ達は、
    地面に落ちると同時に、光の粒子となって消えてしまいました。


    「KYUUUOOOO……!」


     コウモリの怪人がそれに驚いたのが、私にもわかりました。


    「……」


     プロデューサーさんは、また、カツカツとコウモリ怪人へ向かって歩みを進めます。


    「KYUAAAAAAA……!」


     まるで、来るなと言うようなコウモリ怪人の鳴き声。
     けれど、それを聞いてもプロデューサーさんの歩みは止まりません。


     

    274 = 249 :


    「……凄い……あれ、あれ、あのまま倒せちゃいそう!」
    「シンデレラプロジェクトの、プロデューサーさん……凄いです!」


     美穂ちゃんも響子ちゃんも、目を輝かせています。
     勿論、私もプロデューサーさんから目が離せません。


    「KYUUUUUUOOOOOO!!」


     だけど、そんな私達にコウモリ怪人が目を付けたようです。
     今までよりもひときわ大きな声で鳴くと、
    コウモリの大群が、一斉にこちらに向かってきます。


    「「ひっ!?」」


     それを見て、二人共悲鳴を上げました。
     だけど、私は表情を変えません。
     だって、プロデューサーさんは私に言ったんです。


     ――私に出来るのは笑顔だ、って。



    「――皆さん、お怪我はありませんか?」



     いつの間にか私達の前に立ちふさがった、大きな背中。
     その背中越しに聞こえるのは、いつもより優しい口調の声。


    「はいっ♪」


     島村卯月、笑顔で頑張りました!
     この笑顔……背中越しでも、届いてますか?

    275 = 249 :


    「プロデューサーさんが、守ってくれるって信じてました」


     プロデューサーさんの足元から、キラキラと光の粒子が舞い上がっています。
     こんな状況でちょっと不謹慎かも知れません。
     だけど、それがとっても綺麗で、私はドキドキしちゃいました。


    「……」


     右手を首筋にやると、プロデューサーさんはコウモリ怪人に向かって駆け出しました。
     それがなんだか照れて逃げ出す子供みたいに見えたのは、気のせいでしょうか。


    「KYUUUOOOOOO!!」


     コウモリの怪人が叫びながら、その手をプロデューサーさんに叩きつけます。
     だけど、鎧には傷一つつく事なく、二つの影の距離はゼロになり、重なりました。


    「アイドルには手を触れないでください!」


     プロデューサーさんが叫びました。
     その声は、今まで聞いたことのない、怒った声です。


    「――企画!」
    「KYUUUUOOO!?」


    『Cute!!』


     ピンク色の光を纏ったプロデューサーさんのパンチが、コウモリ怪人のお腹に突き刺さります。


    「――検討中です!」
    「KYUUUAAAA!?」


    『Cute!!』


     そして、続けざまに、またピンク色の光が軌跡を描き、同じ箇所に叩き込まれます。

    276 :

    漫画で読みたい

    277 = 249 :


    「KYUUUOOOOO……!」


     コウモリの怪人は、その体を大きくよろけさせました。
     そして、プロデューサーさんからは見えないように、でしょうか。
     背中から、小さなコウモリが飛び立ちました。


    「……」


    『Cuuuuuuuuuute!!!』


     今までよりも、一際大きなピンクの光を纏った、プロデューサーさんの右手。


    『Groove!!!』


     その右手が真っ直ぐに突き出され、コウモリ怪人のお腹にパンチ。


    「せめて!」


     コウモリ怪人は何一つ言葉を発する事無く、光の粒子になって消えていきます。


    「……名刺だけでも」


    『LIVE SUCCESS!!』

    278 = 249 :

      ・  ・  ・

    「おかしい!」


     未央ちゃんが、テーブルをダンッと叩き叫びました。
     それにビックリして変な声が出ちゃいました……うぅ、恥ずかしいです。


    「どうしたの未央、急に大声出して」
    「ごっ、ごめん」
    「気をつけてよね」
    「うん、気をつける……じゃなくって!」


     凛ちゃんが注意してくれましたけど、未央ちゃんの興奮は収まりません。
     一体、何が原因なんでしょう?


    「しぶりんがプロデューサーに最近お熱だったじゃん?」
    「何言ってるの。そんなんじゃないから」
    「それに続いて、しまむーまで!」
    「わ、わわっ、そんなんじゃないですよー!?」


     私がプロデューサーさんにお熱だなんて……はうぅ、顔が熱くなっちゃいました。
     確かに、あの事があってからプロデューサーさんとはよく話しますけど、
    お、お熱とかそういうんじゃなくて……その、あ、あははは。


    「そこまではまだ良いよ!? でも、なんで、みほちーやきょーちゃんまで!?」


     あの一件以来、美穂ちゃんと響子ちゃんもプロジェクトルームに顔を出すようになりました。
     私は二人とお話する機会が増えて嬉しいし、良い事だと思うんです。
     ……なんだか、ちょっとモヤモヤしますけど。


    「ねえ、二人共、私に何か隠してない!?」
    「あー……あははは」


     ごめん、未央ちゃん!
     あの時の事は誰にも言っちゃいけないって、口止めされてるんです!
     だから――


    「この前も言ったでしょ、未央」
    「――内緒です♪」



    おわり

    279 = 249 :

    休憩

    280 :

    >>278の最初のセリフだけ読んで一瞬未央が黒幕なのかと思ってしまったww
    おつ

    281 = 249 :


    「ねえ、私に隠し事してるでしょ!?」


     喫茶店の奥、私はプロデューサーに詰め寄った。
     思いの外大声が出てしまい、慌てて回りのお客さん達に頭を下げる。


    「……」


     目の前に座るプロデューサーは、右手を首筋にやって困り果てている。
     だけど、この困り方は説明に困っている訳ではない。
     どうやって誤魔化せば良いのかと思案する困り方だ。


    「……しまむーも、しぶりんも何か知ってるみたいだし」


     私だけ、仲間はずれにされている。
     あの二人の事だし、このプロデューサーだ。
     話せない事情があるのはなんとなくわかるし、それが悪意の無いものだともわかる。
     ……でも、やっぱり寂しいじゃん。


    「本田さん……申し訳、ありません」


     プロデューサーの答えは、私の望むものではなかった。
     思わず俯いてしまったが、顔を上げた時、どんな表情をすればいいのだろう。
     わかんない……全然、わかんないよ。



    「きゃああああああっ!?」
    「なんだこのバケモノは!? やめ、くっ、くるなあああ!!」



     外から聞こえる、大きな悲鳴。
     それにハッとなって顔を上げた時、プロデューサーはいつになく険しい表情をしていた。

    282 :


     悲鳴は、どんどんこの喫茶店に近づいてくる。
     何かが、ここへ向かってきている?
     私達以外の人もそれに気づいたのか、一目散に喫茶店から逃げ出していった。
     そして、中に居るのは私と、プロデューサーだけ。


    「ねえ……何が、起こってるの……!?」


     プロデューサーに聞いても、わからないかもしれない。
     だけど、私には妙な確信があった。
     プロデューサーだったら、私の疑問に答えてくれるんじゃないか、って。
     自分でも変だと思うけどさ、そう、思ったんだよね。


    「――本田さん。少し、隠れていてください」


     険しい表情から一転、穏やかな表情。


    「プロデューサー……?」


     隠れてろって、プロデューサーはどうするの?
     ねえ、ちょっ、ちょっと待って、どこに行く気!?


    「隠し事……というつもりは、ありませんでした」


     プロデューサーは、上着のボタンをプチリプチリと外し、上着を翻した。


    「申し訳ありません。貴女に、寂しい思いをさせてしまっていたと、気付かず」


     その腰元では、大きな銀色のベルトが、輝きを放っていた。

    283 = 282 :

    「……しかし、可能な限り、知られたくはありませんでした」


     プロデューサーは、右のポケットからスマートフォンを取り出した。
     そして、ホームボタンを素早く三回押し、画面を起動。
     流れるように、暗証番号を画面を見ずに打ち込んでいく。


     ――3――4――6!



    『LIVE――』



     スマートフォンから、どこかで聞いたことのある女性の声が聞こえた。
     あの二人分の声、なんだか、どこかで聞いたことある気が……。
     プロデューサーは、スマートフォンを銀色のベルトにかざし、



    「変身ッ!」



     言った。



    『――START!』



     プロデューサーの体を光が包み込んでいく。
     光の粒子はやがて形を成していき、プロデューサーに鎧を纏わせた。


     鎧は黒を基調としたもので、所々白い箇所もあり、まるでスーツのよう。
     すっぽりと全身を覆うその鎧の胸元では、
    ピンクと、ブルーと、イエローの宝石のような物が輝きを放っている。
     プロデューサーが今、どんな顔をしているのかは、
    目付きの悪いぴにゃこら太のようなフルフェイスに覆われ、見ることは出来ない。


    「……」


     だけど、私には、フルフェイスの向こうでプロデューサーが悲しげに微笑んでいる気がした。

    284 = 282 :

      ・  ・  ・

    「助けて……痛い……痛いよぉ……!」
    「母さん……母さん……!」


     喫茶店の外は、惨憺たる光景が広がっていた。
     背中や腕から血を流す人たちが地面に倒れ伏し、苦痛に喘いでいる。
     倒れ伏す母親に泣き縋る、小さな子供も居る。


    「――これは、アナタがやった事ですね」


     プロデューサーが、その光景を作り出した張本人と思わしき人影に言い放った。
     確信を持って言えるのは、その人影の頭部と手から、赤い血が滴っていたから。


    「GRRRRRRRRR!!」


     その人影の頭部は肉食獣――ヒョウのような怪人で、獰猛な唸り声を上げている。
     それに対するプロデューサーに一切の動揺は無く、あるのはただ、


    「……」


     黒い鎧越しにもビリビリと伝わってくる、怒りのみ。
     直接顔を見ている訳ではないのに、
    初めて触れるプロデューサーの怒りに、私は、ほんの少し恐怖した。


    「私は、誰かを憎いと思った事はありません」


     プロデューサーの声が、低く、低くなった。


    「――ですが、アナタと共に歩む事は、不可能なようです」


     それは、問答無用の、敵対宣言。
     プロデューサーが、ヒョウの怪人に向けて、駆け出した。

    285 = 282 :


    「ふっ――!」


     鎧を纏っているとは思えない程の、高速の踏み込み。
     けれど、ヒョウの怪人はそれに反応し、大きく後ろに跳躍した。


    「GURRRRRRRR……!」


     ヒョウの怪人は警戒してか、プロデューサーの周囲を回るように足を動かしている。
     それはまるで、本物の猛獣が獲物に飛びかかる前の動作。
     いまのやりとりを見た限りでは、ヒョウの怪人の方が動きが速い。


     ――プロデューサー、逃げて!


     そう、心の中で思う。
     だけど、肝心の言葉が口から出てこない。
     私は怖い。
     ヒョウの怪人だけじゃなく、それに立ち向かっている、プロデューサーも。


    「GURRRRRRR……!」


     ヒョウの怪人の唸り声が、どんどん大きくなる。
     その声でもって、相手を威嚇し、萎縮させようとしているのだろう。
     現に、その声を向けられたわけではないのに、私の足は震えが止まらない。
     だけど、プロデューサーは違った。


    「歌は、得意のようですが――」


     ポツリと、ヒョウ怪人に向けて、


    「――ダンスの方は、苦手なのでしょうか?」


     かかって来ないのかと、そう言わんばかりの挑発をした。


    「GRUUUUUUUOOOOOOOO!!」


     それを聞いたヒョウ怪人は、大きく咆哮した。

    286 = 282 :


    「GRRRRRROOOO!!」


     ヒョウの怪人が、高速でプロデューサーの周囲を円を描くように高速で移動する。
     そして、プロデューサーの視線が外れた一瞬を狙い、


    「GRRRRRRR!!」


     飛び出し、その両手の大きな爪でプロデューサーに斬りかかる。


    「ぐおっ!?」


     爪で切りつけられた場所からは火花が飛び散り、苦痛の声があがる。
     幾度となく繰り返されるその攻撃に、段々とプロデューサーの鎧にヒビが入っていく。


     このままじゃ、プロデューサーが殺されちゃう!
     なんで逃げないの!?
     そんなの投げ出して、早くそこから逃げてよ、プロデューサー!


    「GUUUURRRRRROOOOOOO!!」


     ヒョウの怪人が、トドメと言わんばかりに、
    大きく腕を振り上げプロデューサーに斬りかかった。
     あんなのを受けたら、ひとたまりもない。


    「プロデューサー!!」


     私は、思わず声を上げた。



    「――本田さん」



     ……しかし、ヒョウ怪人のツメはプロデューサーの体を捉える事は無く、
    ガシリと、イエローに輝くプロデューサーの左腕によって拘束されていた。


    「笑顔です」


     いつもの、プロデューサーの台詞。
     それを聞いて、私は頬を伝う涙に初めて気づいた。

    287 = 282 :


    「――おおおっ!」


     プロデューサーが、ヒョウ怪人を左腕で捕らえたまま叫び声を上げた。
     いかに素早く動けるとは言え、こうなってしまっては、為す術がない。


    「――企画!」
    「GYAAAAAA!?」


    『Cute!!』


     ピンクの光を纏ったプロデューサーの右拳が、ヒョウ怪人の腹部に突き刺さった。
     くの字に折れ曲がるヒョウ怪人の体が、


    「――検討中です!」
    「GYAAAAAAAAA――!?」


    『CooL!!』


     ブルーの光を纏った右足によって、天高く蹴り上げられた。


    「AAAAAAAAOOOOOOOO!!?」


     暴れるものの、ヒョウ怪人の手足は空を切るだけ。
     その上昇が頂点に達しようとした時、


    「……」


    『Passioooooooon!!』


     イエローの光を纏った、プロデューサーの左手。
     その手は親指と人差し指を立て、銃を模したような形をしていた。


    「せめて!」


     プロデューサーの左手から、流星の様にイエローの光が放たれた。
     それに撃ち抜かれたヒョウ怪人の体は光の粒子となり、地上に降り注いだ。


    「……名刺だけでも」


    『LIVE SUCCESS!!』

    288 = 282 :

      ・  ・  ・

    「ちょっと未央」
    「未央ちゃん、説明してください」


     しぶりんとしまむーが、二人して詰め寄ってくる。
     いやー、この前は逆の立場だったのに、不思議なもんだねー!


    「説明って、何の?」
    「とぼけないで」
    「プロデューサーさんに、お弁当作ってきたんですよね!?」
    「うんうん。我ながら、だし巻き卵が絶品だったと思うんだよね!」


     あの後、プロデューサーからこれまでの事を全部聞いた。
     そしたらさ、何ていうか、頑張ってるプロデューサーに何かしてあげたいな、って。
     最初は断られたんだけど、そこは未央ちゃんって事ですよ!


    「「……!」」


     私の答えを聞いて、二人は言葉を失ったようだ。
     はっはっは、キミ達! 行動に移したもん勝ちだよー?


    「明日は、私が作ってくるから」
    「凛ちゃん、ずるいです! じゃ、じゃあ私は明後日!」
    「それじゃあ、私はまた卯月の次の日ね」
    「ちょいちょーい!? そこは私じゃないの!?」


     私は、今でもプロデューサーがちょっと怖い。
     あんな怪物に立ち向かうのなんて、誰にでも出来る事じゃない。
     理由を聞いてみたんだけど、プロデューサーだから、とした答えてくれなかったんだよね。


    「もー! 二人共、順番決めるよ!」


     だから、これからプロデューサーの事をもっと知っていこうと思う。
     それが、私の出した結論だ。
     そして、もし怖くなくなった時、その時は……あれ?
     そしたら、そうなったら……


    「未央ちゃん、なんだか顔が赤いですよ?」


     何でもない! と、思わず大きな声が出た。



    おわり

    289 = 282 :

    趣味全開、最高ですね!
    おやすみなさい

    290 :

    かっこいい
    ファイズ思い出した懐かしい

    291 :

    数字入力して変身するのはファイズっぽいよね

    292 = 282 :

    555良いすな、書きます

    293 = 282 :


    「私を置いて……早く逃げてください……!」


     私達は、森の中を逃げている。
     道は無く、ガサリガサリと生い茂る葉が肌に刺さる。
     だけど、止まる訳にはいかない。


    「いいえ……! それは出来ません……!」


     こんな風になるとは思って無かったけど、スニーカーを履いてて良かったわ。
     それに、スカートじゃなくてパンツスタイルなのも。
     ふふっ、不幸中の幸いっていうのは、こう言う事よね。


    「高垣さんだけでも、早く……!」


     苦痛に喘ぐ声が、すぐ側から聞こえる。
     それは当たり前よね、だって、私がこの人を支えながら歩いてるんですもの。
     だけど、まだ歩ける程の怪我で良かった。
     そうでなかったら、私の細い手足じゃこの人を引きずるなんて出来ないし。


    「しつこいですよ……! 見つからないよう、しーっ、ついてこい……!」


     本当、弱音を吐くだなんてらしくないじゃないですか。
     おかげで、私の駄洒落もちょっとイマイチな出来になっちゃいますよ。
     ……って、そんな状況じゃないのは、わかってるんです。



    「SYAAAAAAAAAAA!!」
    「GRRRRROOOOOOO!!」
    「KYUUUUOOOOOOO!!」



     遠くから、とっても大きな鳴き声が、3つ。
     さっきよりも、どんどん近づいてきてるのが、わかる。
     だから、急いで逃げなくちゃ。
     そうしないと、私だけでなく、この人まで殺されてしまう。

    294 = 282 :


    「……あっ!?」


     急ぐ気持ちが足元を疎かにしていたのか、木の根に足を取られてしまった。
     披露で棒のようになってしまった足では、こらえきれない。


    「っ……!」


     傾く私の体を支えたのは、支えられていたはずの彼。
     しかし、急に無理な動きをしたためか、その顔は盛大にしかめられた。
     だけど、倒れそうになった私の体の前に差し出された腕は、
    私の体重がかかっているにも関わらず、微動だにする事は無い。


    「……お怪我は、ありませんか?」


     そういう自分の方は、どうなんですか?
     私を逃がすために、怪人たち三体と戦って、ボロボロじゃないですか。
     スーツの袖は片方取れかかってるし、あちこち、傷だらけ。
     私を心配そうに見る顔の頬からは、未だに血が滴り落ちている。


    「はい、おかげ様で」


     だけど、この人はそれを指摘しても無駄なのだ。
     この人は、プロデューサーとして、アイドルを一番に考える。
     アイドルのためならば、自分はどうなっても良いと……そう、本気で考えているのだ。


    「……――私が、奴らを食い止めます」


     彼は、そっと体を離すと、来た道を戻るべく、私に背を向けた。


    「私だけ逃げろと……本気で仰ってるんですか?」


     そんな彼の背中に、問いかける。


    「貴方を犠牲にして、私だけ生き残れと……そう、言うつもりですか?」


     再度、彼の背中に、問いかける。


    「……高垣さん?」


     彼が振り向いた時、私は、今まで誰にも見せたことのない表情をしていたと思う。

    295 = 282 :

    誤)>披露で棒のようになってしまった足では、こらえきれない。

    正)>疲労で棒のようになってしまった足では、こらえきれない。

    296 = 282 :


    「残念ですが……そのお話、お受け出来ません」


     私は、彼の提案を完全に突っぱねた。
     驚いたわ、この人は私がその提案を受けると思ってるのかしら。


    「ですが……!?」


     だとしたら、


    「貴方は――」


     それは、アイドル、高垣楓の事をわかっていなさすぎる。


    「――プロデューサー、でしょう?」
    「……」


     この人は、私が誰かを犠牲にして生き残っても、笑っていられると思うのかしら。
     そうだとしたら、飲み屋でお酒を飲みながらお説教をしないといけないわ。
     お猪口でちょこっとだなんて、とんでもない。
     ビールを浴びーる程飲みながら、叱ってやらなくっちゃ。


    「アイドルから笑顔を奪うのは、プロデューサーの仕事ですか?」
    「しかし……!」


     ペチリ。
     ……人のほっぺたを叩いたのなんて初めてだから、手加減しすぎちゃった。


    「……」


     だけど、彼は叩かれた頬に手を当てて、呆然とこちらを見ている。
     うふふっ! どうやら、思った以上に効果があったみたい!


    「しゃんとしてください」


     貴方がプロデューサーとしての使命を全うしようと言うのなら、


    「貴方の前に居るのは、アイドル、高垣楓ですよ」


     私も、笑顔のために命を賭けようじゃありませんか。
     案外、ビギナーズラックでなんとかなると思うんです。

    297 = 282 :


    「……申し訳、ありませんでした」


     彼の顔に、生気が漲った。
     傷だらけで、疲れ果てているはずなのに、とても綺麗なお辞儀。
     もう、今はそんな事してる場合じゃないでしょう?


    「いいえ。こちらこそ、叩いてしまってすみませんでした」


     だけど、私も彼のほっぺたを叩いてしまった。
     だから、その事はちゃんと謝っておかないと、ね。
     後で飲んでいる時に、グチグチ言われたら嫌だもの。


    「……」


     彼は、上着を翻し、大きな銀色のベルトを露出させた。



    「……私は、笑顔が得意ではありません」


     右のポケットからスマートフォンを。
     そして、ホームボタンを素早く三回押し、画面を起動。
     流れるように、暗証番号を画面を見ずに打ち込んでいく。


     ――3――4――6!



    『LIVE――』



    「――しかし、笑顔を守る事は出来る。そう、考えます」



     そう宣言すると、スマートフォンを銀色のベルトにかざし、



    「変身ッ!」



     言った。



    『――START!』

    298 = 282 :

      ・  ・  ・

    「SYAAAAAAAAAAA!!」
    「GRRRRROOOOOOO!!」
    「KYUUUUOOOOOOO!!」


     クモの怪人と、ヒョウの怪人が、コウモリの怪人を守るような位置取り。
     見れば、先の二人の怪人の体はボロボロで、まるでゾンビのよう。
     けれど、その動きはまるで生きている時そのまま。


    「……先程は、お世話になりました」


     ズシャリと、彼が一歩前に踏み出す。
     此処は、工事が途中で中止になった採石場だろうか。
     彼は――いえ、私達は、追い詰められてここまで逃げてきたのではない。


    「うふふっ♪ コテンパンに、やられちゃってましたものね」


     戦うために、此処に来たのだ。


    「……」


     ……あっ、すみません。
     せっかく挨拶をしていたのに、余計な事を言ってしまいましたか?
     もう、首筋に手をやって困らないでください!
     顔が見えて無くても、その仕草をしたら困ってるって丸わかりなんですからね。


    「高垣さん、避難を――」
    「最前列で見るのが、最善です」
    「……」


     さっき、あれだけ話したじゃないですか。


    「うふふっ、頑張ってくださいね」


     ペチリ、と彼の背中を叩く。
     鎧に覆われた背中なのに、何故かあたたかく……そして、頼もしい背中を。


    「はい……頑張ります」

    299 = 282 :


    「SYAAAAAAAAAAA!!」
    「GRRRRROOOOOOO!!」
    「KYUUUUOOOOOOO!!」


     大きく咆哮する、三人の怪人。
     一度、手ひどくやられた相手だと言うのに、彼のどこにも不安は感じられない。
     ズシャリ、ズシャリと地を踏みしめるその足には、一切の淀みがない。


    「このスーツには……私が、今まで起動出来なかった機能があります」


     ズシャリ、ズシャリ。


    「何が欠けていたのか……それは、今でもわかりません」


     ズシャリ、ズシャリ。


    「しかし、今の私ならば起動出来ると……そう、思います」


     ズシャリッ!



    「笑顔を守るため――」



    『……――Please!』



    「――そのためならばッ!」



    『Cinderella!!!』

    300 :

    映画の撮影かよ


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