私的良スレ書庫
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元スレ許嫁「……聞いていない?」
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ファミレス
店長「……」
男「タイガー! ファイヤー! サイバー! ……!」
後輩「素直になれないこの気持ち~」
男「Fu↑ Fu↑」
後輩「言葉にできないけど~あなたのこと~」
男「KI・MI・NO・KO・TO!」
後輩「大好き、な・の」
男「僕もだよ~!」
店長「……」
後輩「みんなー今日は来てくれてありがとー」
男「YEEEEEEEEEAH!」
店長「……」
店長「いやいや」
店長「ないわー」
店長「君たちね、いくらアイドルタイムだからってそんなんはないわ」
後輩「……私も正直このネタはどうかなって思っていました」
男「でも店長。このありさまじゃあ他にやることもないっスよ。ほら、耳をすませば」
後輩「カッコウ。カッコウ」
男「あ! やせいの閑古鳥だ!」
店長「……。やっぱり近所に新しい店ができたのは痛いね」
男「この店もそろそろ危ないかもしれませんね」
店長「僕の前でそういうことはっきりと言わないでくれる? 最近の若い人はオブラートに包むってことをしないよね」
後輩「ここが潰れても代わりはありますからねえ」
店長「……」
男「とはいえ、給料分だけは働かないとな」
後輩「了解です、先輩。行きましょう!」
店長「……」
店長「ぐすん」
男「そう言えば、キミも夏休みはここで働くんだって?」
後輩「ハイ! シフト一緒になっていることが多いと思いますけど、ヨロシクなのですよ!」
男「いいの? 俺が言えたことじゃないが、折角の夏休みをこんな掃き溜めみたいなところで」
店長「掃き溜めって……僕に聞こえてるよ?」
後輩「ええ。掃き溜めみたいな場所ですけど、大切なのは自分がどう思うかってことです」
店長「あのねえ、君たち掃き溜め掃き溜めって。いくら僕でも怒ることが――」
後輩「私。この店で働くこと、好きですから」
店長「……何も言えねぇ」
後輩「楽しいです。一緒に働くことができて」
男「そうなんだ」
後輩「はい」
後輩「……」
後輩「……って」
後輩「ちょ、ちょっと何でか恥ずかしくなってきたのでシルバー拭いてきますですぜ」タタタッ
男「ん? うん」
店長「良い子だね~」ニョキ
男「突然生えてこないでくださいよ」
店長「お客さんに人気があるのも分かるよ」
男「店長もそれ聞いたことあったんですね」
店長「うん。でも、あれだね。あの子もいつかお嫁に行くんだって思うと寂しい気持ちになっちゃうよね」
男「店長はアルバイトの子をどんな目で見てるんですか」
店長「でも、君はどうなんだい?」
男「何がです?」
店長「あの子が、できれば誰と一緒にいたいのかくらい分かっているんじゃないの?」
男「兄みたいなものでしょう」
店長「そうかな?」
男「僕は妹と接してるみたいで楽しいですけどね。でも、店長そういう話好きですねえ?」
店長「ウチには若い人も結構多いから。そういう話には敏感になるんだ」
男「そういうイザコザで辞める人決して少なくはないんですよね」
店長「う」
店長「ま、こんな話は君にしかしないよ」
男「僕で遊ぶのは止めて下さいよ」
ピヨピヨピヨピヨ(入店音)
店長「っとお客さん来たか。ククク、こんな掃き溜めみたいな場所にわざわざ来るとはな」
男「店長も大概ですよ?」
後輩「シルバー終わりましたーって、あれ? 店長? 慌ててどうしたんです?」
男「お客さんは?」
店長「いや、それがここで働かせてくれないかって子が来たのよ」
男「へーそれは渡りに船ですね、ちょうど人手が足りてませんでしたし」
店長「それがちょっとビックリした」
男「何がです?」
後輩「常に帯刀しているとかですか?」
男「戦力になりそうだなあ」
店長「……」マジマジ
男「ん、どうしたんです? 僕の顔見て」
後輩「えっまさか愛のこくは
店長「違う」
店長「君は知らなかったのかい?」
男「何のことです? ……まさか!? いや、そんな」
店長「まあ見てもらえれば分かるか」
男(嫌な……嫌な予感がする)
店長「今、窓際の席に座ってもらっているけどホラ、あの子」
男「……」ゴクリ
許嫁『……』
男「やっぱりだよ!!!」
後輩「セ、センパイ? お知り合いの方ですか!」
店長「実はあの子ね前に――」
男「クラスメイト」
店長「あ、そうだったの?」
男「ええ、少し前にこっちに越してきた転校生なんですけどね。けど、まさか――」
店長「君と一緒に働きたいってことなのかな」
後輩「ふえっ? ま、マジすか!」
男「いやいや、そんなんじゃないでしょう。どっちかと言えば対抗心のようなもんですよ、きっと」
後輩「タイコウシン?」
店長「? よく分からないけど。ちょうど暇だしね、今から面接でもいいらしいから、ちゃちゃっとやってくるよ」タタ
男「しかし、この仕事には向いていないような気がするなあ」
後輩「そうなんですか? でも、とても綺麗だし可愛らしい方ですよね?」
男「それとこの仕事ができるかどうかは関係ないよ。キミは仕事もできるし可愛らしいけど」
後輩「え!? え、……え、え!? えへへへへへへへへへ」
男「ま、それはさておき」
後輩「重要なことなのにさておかないでくださいよっ」
男「なんていうか、人付き合いの仕方が独特なんだよ彼女」
後輩「可愛らしいですか、私? 先輩から見て?」
男「それに今人手が足りていないのはフロアのほうだし、なおさら不安だ」
後輩「ホント可愛らしいです? もう一回言ってくださいよう~」
男「でも店長のことだから採用するんだろうなあ」
後輩「もー。すぐそんなこと言っちゃうんですからー。先輩ってばー。世界で一番可愛らしいだなんてー」
男「キミも大分独特だよね」
……
店長「うーん、なるほどね、大体聞くべきことは聞けたかな。あ、最後に一つ聞いていいかな?」
許嫁「ええ、どうぞ」
店長「彼とはクラスメイトって聞いたけど?」
許嫁「……あ、はい。クラスメイトです」
店長「それでさ、何か彼のさ、弱みとか弱点とかあったらさ――」
男「ぜひ俺も聞きたいですね」
許嫁「あ」
店長「さーてと。僕は色々と作業しなきゃいけないから、ね。あ、ゆっくりしていってくれていいから。ドリンクバー飲んでいいよ」
許嫁「あ、ありがとうございます」
店長「食べたいものあったら好きなの頼んでいいよ~彼の給料から天引きしとくから~」ササッ
許嫁「ありがとうございます」
男「おい待て」
男「まったく……」スタッ
許嫁「……」
男「……マジで?」
許嫁「何がかしら?」
男「本当にここで働く気なのか」
許嫁「ええ。何か文句でもあるの?」
男「そりゃお前の勝手ではあるけど……でも、どうしたんだ急に。金に困ってるわけじゃないだろ?」
許嫁「……ちょっとやってみようかなって思っただけよ」
許嫁「とりあえずは夏休みの間。暇だし」
男「そう、か」
男(大方こいつのことだから)
男(俺は働いているのに、自分は生活費全額出してもらっているってのが気に食わなかったんじゃないだろうか)
男(一応立場としては同じ状況にあるから)
男(負けず嫌いだからな、こいつ……)ジー
許嫁「なに?」
男「何か頼むか?」
許嫁「いらないわ。あるでしょ、晩ご飯」
男(俺は自立したいとか、そういう立派なものじゃないんだけどな)
男(……)
男「でも、どうしてここなんだ?」
許嫁「人手足りてないって言ってたじゃない」
男「それはそうなんだが」
許嫁「なに、さっきから。あなたは私がここで働くことが不満なのかしら?」
男「なかなか接客業も大変だぞ。お前には難しいんじゃないか」
許嫁「それはあなたが決めることではないわ。私が決めるのよ」
男「すごいなお前」
男(まさに孤高……!)
許嫁「じゃ、私はもう帰るわ。ごちそうさま」スック
男「うい」
許嫁「……不本意ではあるけれど」
男「ん?」
許嫁「あなたが勤めて長いのは事実なんだし。来週から、きちんと教えなさいよね」
男「え、来週!? もう採用決定されてたの?」
許嫁「店長さんからそう聞いたわ。それじゃ私は帰るわよ」スタスタ
男「決めるのはえーですよ。彼女あんまりこの仕事に向いていないような気がしますけどね」
店長「色んなことはおいおい教えていけばいいさ。大切なのはやる気! そうだろう?」
男「それはそうですけど」
店長「それに美少女だし」
後輩「うわっ……店長さんってバイトの私たちをそんな目で見てたんですね」
男「キャーこわーい狙われてるー」
後輩「キャー」
店長「やめてくれ給え! 私には妻も娘もいるんだ!」
男「脳内だけど」
後輩「キャー」
今日は以上です。
次回は少し空くかもしれません(できるだけ頑張ります)。
次回は少し空くかもしれません(できるだけ頑張ります)。
……
翌週
許嫁「……」
男「なかなか似合ってるな、制服」
許嫁「……それは喜んでいいのかしら?」
後輩「これから、よろしくお願いします! 私年下なので、そのように接し
て下さい!」
許嫁「え、あ、よ……よろしく」
後輩「はいっ! よろしくお願いします!」
店長「じゃあ、仕事について教えてあげてもらっていいかな」
男「はい。じゃ、俺じゃ不服かもしれんが、いろいろ教えていくぞ」
許嫁「うん」コクリ
男「今から教えていくわけだが、まず最初に言っておくことがある」
許嫁「……」メモ
男「初めのうちは速度は二の次。覚えること、ミスをしないことに集中する」
男「と言ってもなかなか難しいだろうが。失敗しても気にするな」
許嫁「うん」
男「何の為にその作業をするのか、しなければならないのか、してはいけないのかを意識する」
男「作業が重なったときに優先順位をつけやすくもなる」
男「あと、これはまあ多少余裕ができてからでいいんだが。周りの人が、どういう風に仕事こなしているかって参考にしてみるといいぞ」
許嫁「……」メモメモ
男「あと。分からないことがあったらすぐに何でも聞け、どんなことでもいい」
男「躊躇しなくていい。一度聞いたハズのことでもな。分からないまま、不確かなままやって間違うよりかは聞いてくれた方がよっぽどいいからな」
男(ま、コイツに限って俺に躊躇するなんてことはないだろうが)
男「もちろん俺もまだまだ失敗はするし、お互いにフォローできるようになろう」
男「と、こんな感じだが……」
許嫁「……」マジマジ
男「どうした?」
許嫁「いいえ、別に。言いたいことは分かったわ。早速教えてもらえるかしら?」
男(何か珍しく素直だな)
男「よし。じゃあ一度に複数の料理皿を持つコツから行くか」
許嫁「あなたそれ好きなの?」
許嫁「いらっしゃいませ。何名様のご利用でしょうか?」
許嫁「2名様、ご案内します」
許嫁「ご注文がお決まりになりましたら、お呼びください」
許嫁「ご注文は以上でよろしいでしょうか? ……ごゆっくりどうぞ」
許嫁「ありがとうございました。またご利用くださいませ」
男「……」
許嫁「どうかしら?」
男「驚いているところだ。様になっている、いや堂に入っている」
許嫁「そんなに難しいことじゃないわ」
男「いや、すまん」
許嫁「何のこと?」
男「こういう誰かをおもてなしするようなコト、お前には向いていないと思ってた」
許嫁「あら、失礼ね」
許嫁「むしろ必須よ。いろんな付きあいをしなくてはいけないのだから」
男「付きあい? そっか。金持ちは金持ちなりに大変って訳か」
許嫁「……」
許嫁「まあ、あなた様ったら」
男「え?」
許嫁「まるで他人事のようにおっしゃるんですから。私、困ってしまいますわ」
男「え……?」
許嫁「あなた様もいずれは一緒でしょう? そのような言いざま、悲しく思います……」
男「ま、待った! お、俺にはその喋り方はやめてくれ……」
許嫁「? 何をおっしゃるんですか。あなた様は、そこまで私をお嫌いですの?」
許嫁「私は、これほどまでにあなた様を慕っておりますのに……」
許嫁「……」
許嫁「初めて。初めて、あなたを見たときから、本当はずっと、心惹かれていましたのに……」
男「待て、待って! 頼むから、いつも通りにしてくれっ」
許嫁「……。そんなに嫌がる? それも何だか、面白くないわね」
男「普段のお前のほうがいいよ、俺にとっては」
許嫁「え」
男「そっちに慣れてるんだから、妙な喋り方されても。困るっつーの」
許嫁「……」
男「どした?」
許嫁「……別に。あなたのために、こんな話し方しているわけじゃないんだから」スタスタ
男「……ツンデレ?」
店長「や、どうかね? 彼女は」
男「予想していたよりずっといいです。覚えも早い」
男「彼女を侮っていたことを本当に反省しなきゃいけない。自分の考えが浅はかでした」
店長「そうか、大丈夫そうなら良かったよ。で、君はどうするんだい?」
男「? 失礼ですが、何の話です?」
店長「どっち選ぶの?」
男「……どっち?」
店長「……自分を慕ってくれる、ノリがよく可愛い妹キャラの後輩」
後輩『いらっしゃいませ! お客様、何名様でしょうか?』
店長「お互い憎まれ口叩きあいながらも、決して仲は悪くない美少女クラスメイト」
許嫁『ありがとうございました、またお越し下さいませ』
男「店長、あのっすねえ……」
店長「!? ま、まさか他にも攻略対象が!?」
男「店長、『バックレ』って言葉ご存知です?」
店長「……え?」
店長「な。何を……急に……」
男「その人はね、それまで真面目に来てたんですよ。休みや遅刻もない」
男「まさかあんなことになるなんて、そのときは誰も思ってなかったんです」
店長「……」
男「いつも通りの営業日……ただ、その日は雨が降っていたんです。しとしと、しとしと。予報にない雨でしてね、な~んかイヤな予感がしたわけですよ」
男「その人はね、その日も来るはずだった……シフトは入っているんです」
男「でも時間になっても現れない……あれ、おかしいな~なんでだろうなぁ~って思うんですよ」
店長「……」ゴクリ
男「今までそんなことあったかな~? 連絡もないなんてなあ」
男「でも、やっぱり、心配だし、電話かけないと。やだなぁ、こわいなぁって」
男「だけど、誰も出ない。その日は急用でもできたのかなあって思って。だけど、次の日も、その次の日も電話にでない」
男「どころか、呼び出し音の最中にプチっと切られる始末……」
男「そこで、私……気がついちゃったんですよ。あれ、これもしかして……」
店長「う……うぅ……」ガクガク
男「もう店に来ることがない、『バックレ』なんじゃないかって」
店長「いやああああああああ」
男「来ないんですよ。お金かけて人募集して。いろんな仕事覚えてさせて」
店長「あ……あ……」
男「さあ、これからってときですよ。これから一緒に頑張っていこうって思ってたんですよ」
店長「あ、あ、あ、あ……」ガクガク
男「……本当にその人はいたのかなって。人手不足に悩む、自分の妄想だったんじゃないかって」
店長「ひ、ひぃぃぃいいいいい」
男「バックレ……バックレ……」ボソ
店長「ひいいいいいい。やめてっやめてっ」ビクンビクン
後輩「バックレ……バックレ……」
店長「やめてっ突然連絡つかなくなるのやめて。いやあああああああああああぁぁぁぁ
家
男(今日はバイトも休み……しかし)
男「あっついー」ヒョコヒョコ
ガチャ
許嫁「……何しているの、あなた」
男「俺はフローリングの冷えている場所を探し求めては移動する遊牧民となったのだ」
許嫁「エアコン入れなさいよ」
男「これはエアコンを使わないことによって精神を鍛えようという修行の一環であって」
許嫁「……」ピッ
男「あ~」
男「あー、後輩? 可愛いよね、仕事もできるし」
許嫁「少し話をしたんだけど面白い子ね。……ずいぶんと仲、良さそうだけど?」
男「シフト一緒になること多いからな、学校は違うけど」
許嫁「近くの女子校に通ってるんだったかしら?」
男「そーそー。なんでも、そこに進学する前からあのファミレス利用してたみたいで。それで働きたいって思ったんだってさ」
許嫁「ふうん。そのときにはもう、あなたはそこで働いてたのかしら?」
男「? ああ、そうらしいけど。ま、でも俺のほうは覚えていないんだよね、あそこ結構客多いから」
許嫁「……ふうん。そ」
男「で、どうだ。仕事はやっていけそうか?」
許嫁「そうね、まだ慣れていないこともあるけれど。やっていけそうよ」
男「そうか、良かったよ」
許嫁「私の仕事で、何か気にかかることがあったら遠慮なく指摘してくれていいわ」
許嫁「……まあ、あなたに限って私に遠慮なんてしないでしょうけど」
男「お前、仕事に関しちゃ偉くマジメだな」
許嫁「給料を貰っている以上責任は果たすわ」
男「お嬢様からしてみれば、はした額だと思うんだが」
許嫁「私はこれでもお金の価値を知ってるつもりよ」
男「……そうか」マジマジ
男(厄介で強情でよく分からんところもあるが)
男(割かし見習いたい点もあるな)
許嫁「どうしたの、間抜け面さらしてこっち見て」
男(前言撤回)
ファミレス
男「いらっしゃ……先輩?」
先輩「いやっほうううううう! 来たぜ! キミに! 会いに! 来たぜ!」
男「て、テンション高いっすね……」
先輩「いつか行くよって言ってたのに、ずっと来れてなくてゴメンねえ」
男「あ、いえ。律儀に来てくださって、ありがとうございます」
先輩「ふふ。ねね、どう? 夏、満喫してる?」
男「今年の夏はアルバイトばっかりですね」
先輩「あ、そうなんだ~。誰かとどこか行ったりしないのん?」
男「そんな予定は全然。先輩は?」
先輩「私ね、今年はちょっとした用事でオメガ忙しいのよ……勝負の年だもんよ」
男「そうなんですか。あ、席案内しますね」
先輩「にしても偉いなあ。働いているなんて」
男「そうですか? 言ってもアルバイトですし、そんなに珍しいことじゃないですよ」
先輩「なかなかできることじゃないよ」
男「この店にも学生バイト少なくないですけど」
先輩「キミは特別さ☆」
男「えらく持ち上げますね。……割引とか狙ってます?」
先輩「ぎくり」
先輩「ずっとバイトって言ってもお休みはあるのよね?」
男「ええ、それはまあ」
先輩「お休みの日はおウチで何してるの?」
男「特には何も。家事してたら、気がついたら一日終わってるんですよね」
先輩「分かるよ、ソレ! 大変だよねえ、家事って。イロイロ面倒だし。一人だと全部自分でしなきゃいけないからにゃあ」
男「あれ? 先輩一人暮らしなんです?」
先輩「あ、う、うん。そうよ。まあ、ね。キミと同じ」
男(……あれ、俺一人暮らしって言ってたっけ)
男(まあ、今は二人だけど)
先輩「でも、ずっと家だとつまらなくない? どっか行きたくならない?」
男「うーん、俺は家に居るのも好きですから」
先輩「ね、ね。それなんだけど、今度一緒に――」
許嫁『きゃっ』
ガシャガシャン
男「あ! やらかしやがった」
先輩「え!? あ、あの子って……」
男「すいません。それじゃ先輩。ごゆっくり……、あ、伝票に割り引き券付けときますね!」タタッ
先輩「あ……」ポツン
許嫁「……」ムゥ
男「大丈夫か、怪我はないか?」
許嫁「私は大丈夫だけど、料理が……」
料理「」グチャア
男「まあ仕方ないさ。ここは俺が片付けておくから、とりあえずお客さんに料理が遅くなること説明してきてくれ」
許嫁「う、うん」
男「そのあとキッチンに最優先で同じの作るよう伝えておく」
許嫁「分かったわ」
後輩「はい、モップです」
男「お、サンキュー」
許嫁「……私としたことが失敗したわ」
男「ま、気にするなよ。あれくらい誰でもやらかすから」
許嫁「……」ムゥ
後輩「お客様も全然気になさらなかったみたいですし」
男「むしろ優秀すぎるくらいだ。よくやってるよ」
店長「そうそう。僕もそう思う」
店長「来店した美人さんと、仕事そっちのけで話し込んじゃう店員よりずっといいよね」
男「……」ピクリ
店長「驚いたなあ~三人目か~。あと何人かいそうだよね~」
後輩「さんにんめ?」
男「あれは学校の先輩で、知り合いだったから。ちょっと話しただけですよ」
店長「でも随分と親しそうだったじゃない。『お休みの日はおウチで』なんて言われちゃってさ」
後輩「え、え! ええ!?」
男「異議有り! その発言の拾い方は悪意があるっ!」
店長「異議を却下します」
後輩「せ、先輩? それって……」
男「違うからな?」
許嫁「……」
後輩「あ、あの人と特別に親しくはないんですよね!?」
店長「ふんだ。仕事と彼女とワイシャツと私、どれが大事なの!?」
男「店長は何なんだよ、さっきから?!」
許嫁「……ふふふっ」
……
男「夏祭り? そうか、もうその時期ですね」
店長「うん。僕はまだ知らないからね。一応前任からは引き継ぎはあったけど、君からも話を聞いておこうと思ってね」
許嫁「夏祭りがあるの?」
後輩「近所の神社であるんですよ、毎年夏のこの時期に。三日間もありますし出店もいっぱい出ますよ。人もいっぱい来ますし」
後輩「……でもそっか、ウチの店にもお客さんいっぱい来ますよね」
店長「そうなんだよ、それが心配でね。凄まじく忙しいんだろう?」
男「そうですね、去年は息つく暇もないくらいでしたよ」
店長「そっかー。スクランブルのシフト組んで何とか乗り越えるしかないかな」
男「僕も出られるだけ出ますよ」
店長「ホントかい? それは助かる……でも三日間ともフルで出てもらうのも悪いし」
店長「どう、夏祭りにでも行ったら?」
男「幼い頃からずっと行ってましたからねえ夏祭り。もう特別行く気にならないというか」
店長「まあまあそう言わず。誰か誘ってみたらどう?」
男「誰か、ねえ」
店長「大丈夫大丈夫、ちゃんと休み合わせるように手配するからさ」ボソボソ
店長「あ! 誰か、じゃなくてどっちか、だったねえ。いや、この前の先輩も入れたら三択!?」ニヤニヤ
男「あのさ、店長」
店長「なんと この私が 好きと申すか!? そ それはいかん! もう1度 考えてみなさい」
おとこのこうげき!
てんちょうの きゅうしょを とれいが ちょくげき!
店長「ぬわーーっっ!!」バタリ
後輩「へんじがない。 ただの てんちょうのようだ。」
友『あー悪い、その日は用事があってな』
友『俺も話に聞くだけだから、行きたかったんだけど』
友『夏休みだっていうのに色々としなきゃいけないことがあって……お?』
友『あ、ごめん。電話来たわ。またな』
男「おう、じゃあな」ピッ
男(夏休みに入ってから、ずっとこの調子だ)
男(……よく分からないが忙しそうだな)
男(うーん)
男(夏祭りか……俺はあえて行く気もおきないが)
男(あいつはそういう場所、行ったことあるのかな)
許嫁「小さい頃に少しだけ。でも、ほとんど記憶にないわね」
男「へえ、そうなのか」
許嫁「……分かったわ。夏祭りに付き合えって言うんでしょう?」
男「はい?」
許嫁「仕方ないわね。そこまで言うんだったら夏祭り、あなたに付き合ってあげるわよ」
男「え? あ、あのー。そ、そんなことは一言も申し上げてはないのですが」
許嫁「ふふっ、冗談よ」
男(こいつの場合冗談に聞こえない)
許嫁「ただ、そうね。私も興味がない訳じゃないわね」
許嫁「行っても良いかなって思ってる。せっかくだから」
男「……そうか」
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