私的良スレ書庫
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元スレ許嫁「……聞いていない?」
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男「体調悪いんだろう? 風邪でも引いたか? 季節はずれの風邪が流行ってるって聞いたが」
許嫁「何言ってるか分からないわね」
男「見りゃ分かるよ。明らかにいつものオメーよりも覇気がないじゃねーか」
男「帰り道もフラフラ歩きやがって」
許嫁「見てたの? 気持ちが悪い男ね」
男(ぐっ、こいつ……いや、我慢だ我慢)
男「つっても体調が悪いのは本当なんだろう? 今、立ってるのも辛そうだ」
許嫁「……だとしたら何なの?」
男「え?」
許嫁「仮に私の体調が悪いとするわ。でも、それとあなたに何の関係があって? 自分のことは自分でする、そうでしょう?」
男「できるだけ、って言ったはずだ。今のお前には助けが必要だろ」
許嫁「必要ないわ」
男「お前ね、今の様子でよくそんなことを――」
許嫁「少なくとも、あなたに助けてもらう必要がないわ」
許嫁「分かってるはずでしょう? お互い仕方なく一緒に暮らしているだけ」
許嫁「ただそれだけのこと。協力する義務も必要もないわ」
男(強情なヤツめ。……ったく)
男「分かった、お前の言い分は分かった」
許嫁「だったら」
男「まあ待て。俺にも言い分がある」
許嫁「何?」
男「確かに不本意な許婚の話だし、不本意な同居かもしれない。だが状況を考えてみろ」
男「降ってわいたような話で、見ず知らずの相手と、しかもいつまでなのか期限も分からないまま同居しなければならない」
男「それに関しては俺の立場もお前の立場も一緒なんだ。仲間とまでは言わないが、敵じゃない。だったら協力しても悪くはないだろ? 義務とか必要とか、そういう話じゃなくてな」
許嫁「……」
男「それに、だ」
男「この家の中でそんな顔されてると俺の気分もよくない」
男「お前にとって単なる宿かもしれないが、ここは俺の家なんだ」
男「お前のためじゃない、俺の気分の問題でもある」
許嫁「……」
許嫁「……しつこい人ね、まったく」
許嫁「分かったわ」
許嫁「あなたがそこまでそうしたいって言うのなら――それで、いいわ……」
男(はは、看病するのにも説得が必要とは)
男「で、今どんな気分なんだ? 熱はどのくらいあるんだ?」
許嫁「少しは、ある」
男「少しって感じには見えないけどな。……どれどれ」ピタッ
許嫁「あ……」
男「!? かなり熱出てんじゃねえか!」
男(この馬鹿っ。相当無理してやがったな)
男「ったく。辛い時に誰にも頼らないのは、立派なことじゃねーぞ」
許嫁「……知ったような口を聞かないでよ」
男「……そうだな。ほれ、ベッドに行くぞ。鞄持ってやるから」
許嫁の部屋
許嫁『着替えたわ』
男「うい、では失礼してっと……お?」ガラガラ
男(この部屋)
男(ウチに来てからそれほど経ったわけじゃないのに、もうすっかりコイツの部屋だな)
男(……)
許嫁「何?」
男「や、俺は今から薬やら何やら買ってくるけど、おとなしくしてろよ」
許嫁「……ええ」
男「すぐ戻るから」
許嫁「……わかった」コク
男(ずいぶんとしおらしくなったな)
男(自分が弱っているところを決して見せないように気を張ってた)
男(その緊張の糸が切れたのか)
男(見上げたもんだ、この意地の張り方)
男(……)
男(急ぐか)
男「お待たせ」
許嫁「……早かったわね」ボソボソ
男「カバディと連呼しつつ全力疾走したからな」
許嫁「そう……」
男「いろいろ買ってきたが、食欲は――」
許嫁「……」
男「無さそうだな」
男「それから薬だが。飲み薬と座薬を買ってきたんだけど、どっちがいい?」
許嫁「……どっちでも好きに……」ボソボソ
男(かなり弱ってるな)
許嫁「すうすう」ZZZ
男(薬が効いてきて少しは落ち着いたかな)
男(あとはまあ、できるだけ様子を確かめるようにするか)
男(ただの風邪のようだし休み明けには良くなるだろう)
男「……」
男「え、座薬?」
男「いや、そんなことはしねーよ病人相手にはさすがに」
男「まあ座薬は病人に使うものではあるが」
男(……俺は誰に言ってるんだ?)
男(しかし……)
許嫁「すうすう」ZZZ
男(こうやって外見だけ見てると、やんごとないお嬢様ってのもそれなりに納得できるような気がする)
男(艶やかな髪、整った顔立ち、華奢な身体)
男(中身は何考えてるのか良く分からん高慢で意地っ張りなヤツだが……ん?)
男(枕元のところに本がある、そういや読書が趣味って言ってたな)
男(……こいつ何読むんだろ)ペラッ
男「!?」
男(意外! それは恋愛小説ッ!)
男(ちょっと前に出たラブコメじゃねーか!)
男(俺は読んだことないが……そういやウチの書斎にあったな)
男(前に好きなジャンル聞いたときに、一瞬間があったような気がしたが)
男(コイツも俺に知られるのは恥ずかしいと思っているのか)
男(クククッ、これでコイツの弱みを握ったぜ)
許嫁「う……ん……」
男(……)
男(ま、フェアじゃないしそっとしておくか)
……
許嫁「……ん」
男「すまん起こしちゃったか。様子見に来たんだが」
許嫁「そう」
男「気分はどうだ?」
許嫁「悪いわ。起きがけにあなたの顔見たから」
男「憎まれ口叩けるくらいにはなったか。ほら、水飲んどけ」
許嫁「ん」
男「熱は――だいぶ下がったみたいだな。まだ微熱あるけど」
許嫁「うん」
男「食欲は?」
許嫁「……少し」
男「なら作ってきてやるよ。それまでに寝てたきゃ寝てても良いが」
許嫁「ん」
男「好き嫌いや苦手なものはなかったよな?」
許嫁「別に特には……嫌いなものはあなたの作った料理くらいね」
男(唐辛子大量投入したろかこのアマ)
男「お待たせしました―。こちら気まぐれシェフの特製梅粥になります」
男「熱いので、充分お気を付けになってお召し上がりください」
男「それでは、ごゆっくりどうぞ」ペコリ
許嫁「なにそれ」
男「ファミレスの店員だからな、慣れたものよ」
許嫁「そういえばそんなこと言ってたわね」
許嫁「……」
男「どうした、食べないのか? やっぱり食欲がでないか?」
許嫁「そういう訳じゃないわ。ただ、そうやってマジマジと見られると食べづらいのだけれど」
男「まあそう言うなよ。今まで何度か一緒に食事は取ったんだし、別に初めてじゃないだろ?」
男「それに快方に向かってるとは言え、病気のお前の口に合うのかが気になるしな」
許嫁「そ」
許嫁「……いただきます……」
許嫁「……」モグモグ
許嫁「……」
許嫁「まあ、食べられないこともないわ」
男「そうか、なら良かった」
許嫁「……」モグモグ
男「そうだ、何だったらフウフウしてやろうか」
許嫁「やめて」
男「はい」
許嫁「……」モグモグ
男「そうだ、何だったらアーンしてやろうか」
許嫁「やめて」
男「はい」
許嫁「……ふぅ」
男「ちょ、ちょっと無理して食べてないか? 体調悪いときにそんなに食えないだろうし、残してくれていいんだぞ?」
許嫁「残してあなたに借りを作りたくないのよ」
男「いや、借りになるのはそこじゃないだろう」
許嫁「……」モグモグ
男(変なところで負けず嫌い)
許嫁「……っ」
男「……? どうした?」
許嫁「う……?」
男「う?」
許嫁「う……うぅぅぅぅっっっっ!!!!」
男「え、ちょっ、待っ
男「とほほ」
男(ったくよ……布団の上でなかっただけまだマシか……)
男(あれから、落ち着くまで待って、口濯いで、さ湯飲ませて、歯磨いて、それからそれから……)
男「はあ、まったく手のかかる……」
許嫁「すぅ……すぅ……」ZZZ
男「……」
許嫁「すぅ……すぅ……」ZZZ
男「なんてお嬢様だ」
チュンチュンチュン
男「ん、もうこんな時間か……」
男「さすがに眠いぜ」フアー
男「……さて、と」
男「調子戻ってると良いけど」イソイソ
許嫁の部屋
男「おーい、調子はどうだー?」コンコン
「……」
男「朝だぞーまだ辛いかー?」コンコン
「……」
男(返事がないな)
男「悪いけど、入るぜ」ガラガラ
男「……!」
男「こ、これは……!?」
男「いない」
男「ベッドはもぬけの殻だ!」
男「ちなみにもぬけとは蝉や蛇のぬけがららしいぞ」
許嫁「何を、私の部屋に勝手に入ってぶつくさ言ってるのよ?」
男「何だ、もう起きてたのか……、だいぶ顔色は良さそうだな」
許嫁「ええ。いつも通りよ」
男「それなら良かったよ。俺も看病の甲斐があったってもんだ」
許嫁「……感謝はしないわよ」
男「え?」
許嫁「勘違いしてるなら、お生憎様。あなたへの感謝の気持ちなんてこれっぽっちもないから」
男「おいおい、いくらなんでもその言い草はないだろう。恩を着せるわけじゃないけど、俺は――」
許嫁「私は頼んでいないわ。あなたが勝手にやったんでしょう?」
男(うっわコイツマジかよ)
男(別にお礼を聞くために看病したわけじゃないが)
男(いくらなんでも礼儀ってものがあるだろう?)
許嫁「……ふん」
男「……そうか」
男(もういい、もうこんなヤツなんか放っておいたって――ん?)
男(なんだろう、何かとても良い匂いがする)
許嫁「どうしたのかしら?」
男「何て言うか、良い匂いが……、いや、とても食欲をそそるような匂いがしないか?」
許嫁「さあ」
男「リビングの方から……」
リビング
男(ちょっと焦げたバタートーストに、そこそこ焦げた目玉焼きとカリカリベーコン)
男(これでもかというほどチーズとクルトンがのせられたシーザーサラダ)
男(それらが食卓の俺のいつもの席に用意されてある)
男「えっと、これは……」
許嫁「……」
男「もしかして俺の朝食?」
許嫁「作りすぎたの」
男「つ、作りすぎたって……」
許嫁「まだ調子が戻ってないのね。私としたことが失態だわ」
許嫁「でも捨てるのも勿体ないし、あなたの好きにしたら? ……じゃ、私は買い物に行くから」
男「お、おう。……いってらっしゃい。気をつけてな」
許嫁「……、ええ」
男(コーヒーまである、どろどろの濃過ぎるインスタントだが)
男「……」
男(まさか)
男(これってあいつなりのお礼のつもりか……?)
男「……ひ」
男(捻くれすぎだろ……素直にありがとうも言えんのか)
男「まったく信じられんヤツだな」
男「……」モグモグ
男「あ、意外と好きな味だなコレ」
……
教室
友「最近できた許嫁と打ち解けられない。顔を合わせても言葉の応酬ばっかり。そんなことでお悩みの方に」
男「随分限定的だな」
友「テレッテレッテッテ~」ジャン
男「……映画チケット?」
友「ペア招待券だ。一緒に好きな映画を見れるぜ」
男「これで誘えと?」
友「二人で映画鑑賞して、仲を改善しようってこった! いやあ、良い友人を持ったな、旦那!」バシバシ
男「いやいや。冷静に考えろよ。誘って二人で映画に行けるような距離感だったら、不仲で苦労してないだろ」
友「そ、そこは旦那の口八丁手八丁でね」
男「何々、現在上映中のお好みの1作品、ペアで見ることができます、か」
男「うーん」
男(あいつ何か気晴らしできることってあるのかな?)
男(必要なもの買いに行く以外に、どこか出かけるってこともどうやら少ないみたいだし)
男(体調崩したのも、息抜きがないってことに関係あるだろうな)
男(そういう意味合いでは、映画なんて都合がいいかもしれない)
男「とは言ってもなあ……」
男(ペアか……俺と行っても楽しくないだろう)
男(嫌っている奴と一緒に映画観るなんて苦痛以外の何物でもないし)
男(そもそもあいつ誘えるような相手がいるんだろうか)
男(一人でこのチケットは使いづらいし……)
男(うーん)
男(……)
男(ま、ぐだぐだ考えても仕方ないな。せっかく用意してくれたんだ。直接言ってみるか)
男(断られたら断られたで当たり前さ)
男「今ちょっといいか?」
許嫁「? 何か用?」
男「ああ、実はその――まあ、大した用事ではないんだが」
許嫁「……」
男「その、無理にそうしてくれってわけでもない、気が向いたらって話であって――」
許嫁「……? はっきりしないわね。あなたらしくもない」
男(あれれ、俺何か緊張してないか? ……いやいや、これは単に休日の過ごし方の『提案』をするだけだ。緊張する要素なんてないな、うんうん)
男「や、映画って見るか?」
許嫁「映画? 特別好きってわけじゃないけれど人並みには見るわよ。それがどうしたのかしら?」
男「これな、友だちから貰ったんだ。ペアの映画チケット」ピラッ
許嫁「え?」
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