元スレ祥鳳「ここは、はずれの鎮守府ですから・・・」
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901 = 1 :
初春が目を細めて見つめる先、遅れ気味の艦載機たちが一瞬の光を放った。
機を操る祥鳳の視線の先、遅れていた艦載機たちは速力を上げて先頭に回り、ほかの新型たちがそれに追従する形で編隊を組み始める。
目を凝らせば、零式艦戦21型の機体には水色の二本線が描かれている。同様に九七式艦攻や九九式艦爆にも似たようなマーキングが見える。あんなものはなかったはずだ。姿を変えた旧型たちは新型を率いて敵へと向かっていった。
祥鳳「あれは、いったい……」
提督『聞イタコトガアル』
主たる祥鳳すら困惑する中、無線越しに提督がつぶやく。
提督『旧型ノ艦載機ノ中ニハ、一定ノ練度ヲ越エタ隊長機トモ言エル存在ガ、ママ現レルトイウ……オソラク、祥鳳ガ使イ続ケタ結果トイウコトダロウ』
祥鳳「私が…?」
提督『ソウダ、祥鳳ノ腕ト想イニ艦載機達ガ答エタノカモシレナイナ』
祥鳳「そんな…」
装備に宿る妖精という存在は謎に包まれており、艦娘すらコミュニケーションの術を明確に説明することはできない。感情の有無すらわかっていないが、もしも艦載機に宿る妖精が主たる空母の願いに答えたとしたら。
祥鳳「そんなことって…」
目頭が熱くなるのを感じて、祥鳳は飛び行く艦載機達を見送った。
―――
―
902 = 1 :
前衛艦隊との通信が途絶えた。二隻の空母は迷った。
最初は押していたはずだ…どうしたというのか……
艦載機の反応が途絶えていったあたりでおかしいとは感じていた、だが優勢なのは変わらないと思っていた……それが、どうしたというのか。
二隻の空母ヲ級は敵機の接近を感じて空を見上げた。急いで残存の艦載機を上げていく。しかし、艦戦でもなければ直掩はこなせない。もはやその艦戦も残り少ない……
背筋がじれるような感覚。それが恐怖であると彼ら――それとも、彼女ら――は知っているのだろうか。
敵の艦戦が、自分たちの航空隊に猛禽のごとく襲い掛かる。数と性能で押していた状況が一変、性能も数も圧倒的に押されていた。艦戦を率いる、淡青の燐光に包まれた機体が完全に部隊を統率しきっている……
火の玉になって落ちていく航空隊を見上げるしかなかった。
そして、完全に自分たちの敗北を悟ったその直上、重い爆弾を抱えた艦爆が真っ逆さまに落ちてくる。追いつめるように艦攻が水面すれすれを飛んでくる。それはもう、抵抗するのもバカらしくなるほどの状況。
二隻のヲ級は、死を悟ったのか何もせず水柱の中に消えていった。
――
―
903 = 1 :
祥鳳「航空隊より入電……二隻の空母の撃破を確認、全機帰投する…です」
祥鳳の報告に、若葉たちが沸く。
初霜「やった、やりましたよ!」
初春「あぁ! 勝ちを拾ったようじゃのう!」
若葉「ふふ…この感覚、悪くない」
歓声を上げる中、通信が入る。
加古『こちら前衛艦隊の加古だよぉ! 敵前衛艦隊の全滅を確認!』
長良『全員無傷……じゃないけど、無事だよ!』
鬼怒「やった、やったよ!」
名取「うん、うん! 私たちやったんだよ!」
物静かな名取も鬼怒と抱き合って喜びをあらわにしている。それもそうだろう、初の実戦で完勝とは言えないが格上であろう相手に大金星を上げたのだ。祥鳳だって、胸に来るものがある。
もうすぐ航空隊も帰ってくる…犠牲もなく、勝利できた。
満足感と高揚感が湧き出る、その時、
古鷹『あれ、提督…?』
由良『古鷹、どうしたの……え、提督?』
加古『おい…どうしちゃったんだよ提督…返事しなよ…提督、提督ッ!?』
無線機の向こうから、悲痛な叫び声が飛んできた。
―――――
―――
―
904 = 1 :
本日は以上とさせていただきたく。
これを持ちまして鎮守府防衛戦は終了となります。次回以降がどうなるのか、できればまた追いかけていただけると幸いです。
はい、今回かなり時間が開いてしまいましたね、三か月近くでしょうか? 保守していただいた方々には感謝の念に堪えません…はい、すごく忙しかったのです。サンマなんか捕獲する暇もないくらいでした。一匹つれましたっけ…そんな感じです。
そして、かなり難産したというのも一つですね。難しいですね、面白く戦闘を書くというのは…まだまだ修行の足りない>>1であります。
さて、次回ですけども……保守していただかなくても大丈夫なくらいには投下しに来たいと思います。もう900もこえましたしね。どうかお付き合いいただきたく……
では、本日はこの辺で……
906 :
おお…久しぶりの更新…
乙です
908 :
乙です
提督どうなっちゃうんだろう
909 :
乙です
翌日、執務室の提督の席に、提督の帽子を被ったまな板が座っていた……なんてこともありえるのか?
910 :
RJさんが母親とか?
あ、授乳できないか…
911 :
乙です
ギリッギリを攻めますね…
楽しみに待ってます
912 :
乙!
ようやく提督の正体の一端を垣間見たと思ったのにっ…!
…次のスレに続いてもいいのよ?
914 :
んああ気になる
915 :
イベント進捗どうですか? >>1です
12月に入りましたね、皆さま堀の方は順調ですか? >>1はまぁ…あはは
そんなことより本編です、少ないですが少し投下していきましょう。さぁ提督はどうなってしまったのか
916 = 1 :
その後の処理は、あの激戦が嘘のようにあっさりとしたものになった。
まず間宮は、食堂で倒れているのを戦闘中整備妖精が発見、子日修復の傍らで艤装との接続をカットすることで難を逃れた。しばらくは足のしびれが残るそうだが、その後の業務に問題は残らないとのことだった。
間宮の船体は損傷が激しく、しかも間宮からのコントロールをカットしてしまったために一部の機能が停止、それらを一時的に外へ移動させることとなった。今後は、間宮の指導のもと艦娘たちの手によって運営されていくことになるらしい。
そして、その艤装の修理については、提督が裏で手を回していたらしい。戦闘終了後間もなくやってきた遠征艦隊が、呉の友提督に連絡をつけてくれた。
五十鈴「まったく、びっくりしたわよ。遠征航路を走っていたら、急に水偵が向かってくるんだもの」
戦闘前に放った水偵は、偵察用ではなく連絡用だったらしい。よその鎮守府の遠征航路まで把握してるというのはどういうことなのか……
ともかく、修復用の資材の都合をつけてくれるとのことだ。余談だが、主任妖精は久々の大仕事にずいぶんと気合を入れていた。
大破した子日は入渠ドックへ移送後、翌日には何事もなかったかのように回復した。主任妖精の手腕によるところか艦娘の治癒力によるものかはわからないが、とにかく大破による重傷を感じさせない元気さを発揮している。
幸い鎮守府の方には大きな被害はなく、特別の修復や掃除は必要なかった。が、こうして敵が攻めてきた以上、絶対の安全があるというわけではなくなった。よって遠征隊がしばらくのあいだ警護についてくれるということである。
そして、提督は。
917 = 1 :
提督「…………」
祥鳳「提督…」
自室の布団に横たわったまま、提督は動かない。呼吸はしている、死んではいないのだろう。祥鳳は、その傍らでじっと手を握る。
あの後、提督は加古と古鷹に担がれて帰ってきた。すでに意識はなくぐったりとして、口や耳から血を流した血みどろの状態だ。後から聞いた話だが、あの時の提督は青い炎を体から発していたということだ。彼のことだからなにか相当な無茶をしたに違いない。
思えば、通信機から聞こえてきた彼の声はどこかおかしかった。きっとその無茶をしたせいに違いない……
祥鳳「だというのに、私は……っ」
気づく方が難しい状況だったと、頭ではわかっているのだろうが心がそれを納得しない。自己嫌悪にオ一色かというときに、寝室のドアが控えめにノックされた。
祥鳳「……どうぞ?」
加古「ん、失礼するね」
静かにドアを開けて入ってきたのは加古だった。提督を支えて戻ってきてからというものの覇気がなく、昼寝もしていないという話だ。
祥鳳「あぁ、加古さん…」
加古「うん…提督、起きないな」
918 = 1 :
毎日足を運んでは、こうして一緒に枕もとで見守る日々である。
祥鳳「えぇ…悪化したりしてるわけではないので、悪くなってるわけではないのでしょうけど…」
加古「うん……まったくさ、寝坊助は私の十八番なのにな」
くす、と笑うも元気はない。あっけらかんとした彼女の性格からは考えられない様子だ。
祥鳳「ふふ…そうですね、起きてきたらしっかり怒らないといけませんね?」
加古「あ、でも、提督あんまり私の寝坊助怒らないし、ほどほどだよ?」
他愛ない話を振るが、弱弱しい笑みだ。
祥鳳「……加古さん、ちゃんと寝てますか?」
加古「ん……うん、寝てる」
祥鳳「……加古さんは、悪くないですよ?」
加古「……うん、そだけどさ」
それでも、と言う。
加古「提督に、あの力を使わせたのは……私らが弱いからじゃない…?」
祥鳳「……そうね」
答えて祥鳳も手を握る。
919 = 1 :
いや、わかってはいた。相手には正規空母がいた、二隻もだ。かつての戦争でそうであったように、今でも航空戦力は強力だ。数がそのまま戦力になると言っても過言ではない。
正規空母二隻に対して、こちらは軽空母が一隻。分が悪いのは誰の目にも明らかだろう…
それでも。
祥鳳「何か、やりようがあったのではないかって…思うと」
加古「……悔しい、よなぁ」
重苦しい沈黙が二人の間を流れる。後悔、自責…そんな感情がにじみ出て方が落ちる。
そんな空気を断ち切る者が、一つ。
??「ふーん、偉い慕われてるんやな」
加古祥鳳「「!?!?!?」」
うなだれる二人の頭上、不意に声が降りてきた。
びくりと肩を跳ね上げて、慌てて立ち上がり身構える。
加古「だ、誰ッ!?」
祥鳳「いったいどこから…?」
??「あー、そんなに警戒せんといて? 敵ではないから」
提督の眠るその上、半透明に透き通った少女がいた。重力を感じさせぬ動きで二人を見回して手を広げている。
加古「…幽霊?」
??「うん、まぁ…そうなるんかな」
祥鳳「……一体、何者なんですか」
未だに警戒を解こうともしない祥鳳に、少女は困ったと言う風に肩をすくめて、
920 = 1 :
??「そこの重巡の子が言うように、私は幽霊や。それも、艦娘の幽霊やから…敵やない、むしろ仲間かな」
祥鳳「……艦娘の、幽霊…?」
呆気に取られる二人を前に、彼女はふわりと提督の枕元に座って
龍驤「うちは軽空母龍驤や、元やけど…な」
座りぃや、と促されるままに再び腰を下ろす加古と祥鳳に龍驤は笑いかける。
龍驤「この若造によく付いてきてくれてるみたいやな、ありがとう」
加古「えぇと、若造って……龍驤、さん…? は、どうしてここにいるの?」
おずおずと尋ねる加古に、彼女は頷き答えた。
龍驤「そうやなぁ…簡単に言うとうちはこの提督に『取り憑いている』ってところかな」
祥鳳「とり…っ!?」
龍驤「もう、10年近くなるんじゃないんかなぁ」
加古「そんなにっ!?」
龍驤「うん、あれは大変な事件やった…」
遠い目をして、苦みを帯びた表情で提督を見つめている。
921 = 1 :
祥鳳「事件…? それは一体、」
祥鳳が訪ねようとしたその時、
提督「…そこからは、私が説明しよう」
加古「提督ッ!?」
ゆっくり目を開けて、提督が三人を見回していた。
提督「加古、祥鳳……こうして寝ていると言うことは、きっと苦労を掛けたのだろうな」
加古「て、てーとくぅ…」
祥鳳「全くですよ、もうっ…いきなり倒れるなんて、どうせまた無茶したんでしょう」
提督「耳が痛いな…龍驤も、久しぶりだな」
龍驤「うちはずっと見とったからそんな気分じゃないんやけど、久しぶりや。おっきくなったなぁ」
涙ぐむ加古と、ツンと澄ました祥鳳、優しく笑う龍驤。提督は上体を起こした。
提督「さて、まずは二人とも、よく頑張ってくれた。」
その言葉に、澄ました風の祥鳳もつい表情が緩む。加古もまんざらではなさそうな顔をしていた。
提督「とりあえず状況を確認したい。あれからどうなった…?」
祥鳳「まず、二日間ずっと寝込んでいました……」
加古と祥鳳がかいつまんで状況を説明した。そして聞き終わると微笑み一言。
提督「ん、つまり大事には至らなかったということだな、良かった」
祥鳳加古「「一大事ですよ!!」だよ!!」
922 = 1 :
即座に怒られてしまった。
提督「う…そ、そんな大声出さなくても」
祥鳳「鎮守府の長が昏倒しておいてよくそんなことが言えるわね、もうっ」
びく、と肩を竦めて縮こまる提督に、敬語も忘れて祥鳳が叱り、
加古「こっちはどんだけ心配したと思ってんだよぉ…」
ひっく、としゃくりあげながらぽろぽろと加古は涙をこぼした。
提督「う……す、すまん…」
言い返す余地もなく、申し訳なさそうに肩を落とした提督を見て龍驤はからからと笑った。
龍驤「はははっ、やっぱりまだまだ青いなぁボン?」
提督「……ボンっていうな、龍ねぇ」
恥ずかしそうに顔を背ける彼に、ふと怒りをひそめて祥鳳が問う。
祥鳳「……龍驤さんと提督って、いったいどういうご関係で…?」
加古「お、おう…わたしも、ズビッ…きになる」
洟をすすりながら加古もうなずいた。
それに龍驤は少し困ったように苦笑した。
龍驤「そうやなぁ…言うていいのかな、これ?」
提督の方を伺うと、彼はゆっくり頷き言った。
提督「龍ねぇを前にここまで落ち着いているんだ、まぁいいんじゃないかな」
加古「いや、驚いてるけどなんか一周回って落ち着いてるだけだし…」
加古のつぶやきに苦笑しつつも提督は改めて三人を見回して言った。
提督「簡単にいうと俺の体は、艦娘に近い構造をしているんだ」
夜更けの鎮守府提督寝室、彼はゆっくりと語り始めた……
―――――
―――
―
923 = 1 :
本日は以上とさせていただきたく。幽霊まで出てきて大丈夫でしょうかこの話()お付き合いいただければ幸いです
さて、イベントはE5は行かずグラーフ掘りに専念することが決定した我が鎮守府ですが、まぁ一日2回が限度の出撃じゃあ出るものも出ず…やっぱりE-5行けばよかったかなぁと優柔不断な>>1提督であります。祥鳳さん叱ってください
イベントが終わればクリスマス仕様にアップデートだそうで、祥鳳さんにボイスはあるのでしょうか…ちょっぴりワクワクの>>1であります。それよりも、まずは育成にかかる予定ですが…はてさて
では次回です。今夜は歴史ヒストリアで間宮さんが出演したそうですね、そんな間宮さんにももう少しスポットを当てたいところですが、提督の昔話になります。さぁ、艦娘のに近い体とは……? 年内の更新を目指しつつ、今夜はこの辺で……
924 :
乙!
ついにリアルタイム更新に立ち会えたー!!
何はともあれ、どんな展開になるとしても期待してますよ~
926 :
乙です
艦娘自体船霊みたいなもんじゃないの?
928 :
提督は憑依合体ができるシャーマンだったのか
929 :
乙です
そして>>928
奇遇だな、俺も同じこと思ったよ
931 :
乙!
続き待ってるぜ
932 :
続きはよ
933 :
あけおめ
待ってるぜ
934 :
舞ってる
935 :
心待ちにしております
936 :
うおおおおおおぎりぎりじゃあああああ!! どうも、>>1でございます。
皆様あけましておめでとうございます、本年も祥鳳たち端野の愉快仲間たちをよろしくお願いいたします。年末年始の繁忙期ですっかり更新滞ってましたね、申し訳ない。とりあえず投下にたる量が書けたので更新していこうと思います
937 = 1 :
それは、今から10年以上は前の話だ。
今の提督がまだ幼く、深海との戦いが確立しておらず、今以上に苦しい戦況だったころの話である。
その頃は艦娘が軍に浸透し始めたばかりで、艦娘の数も指揮官も少なく、また理解もあまりなされていなかった。そんな中、提督として艦娘の指揮を執っていた一人が今の提督の父である。
父提督「…ふむ」
??「提督、どうかしました?」
父提督「あぁ…夕張か。いや、もうすぐ観艦式だな、と」
執務室で物憂げに窓の外を眺める父提督に、横から声をかけたのは当時秘書艦を務めていた軽巡洋艦夕張だった。父提督は少し笑うと一瞥するとまた外へ視線を戻す。
夕張「観艦式…あんまり見せびらかしたりっていうのはちょっと…」
父提督「まぁそういわないでくれ、こういうイベントで君ら艦娘への理解を深めなくちゃいけないんだ」
夕張「……提督、また無茶しましたね?」
父提督「無茶でもしないと、私らはずっと無理な戦いを強いられる……命を懸ける君らに比べれば、私の無茶など安いものさ」
そういって肩を竦めて見せる父提督に、夕張は呆れたようなため息とともに、しかし苦笑気味に
夕張「本当にもう、何を言っても聞かないんですから」
938 = 1 :
苦笑気味に言いながら、父提督の隣に立つ夕張。彼女の頭に、父提督はぽん、と頭を置いた。
父提督「苦労を掛けるな、夕張」
夕張「うんん…提督を助けるのが秘書艦の役目で…お父さんを助けるのが娘の役目よ?」
心地よさげに目を細めながら微笑み夕張は提督を見上げた。
そう、父提督と夕張は実の親子であった。艦娘適性のあった夕張とともに艦娘指揮に選抜されて、こうして辺境ながらも基地を任されるまでになった……が、しかし。
父提督「艦娘の立場はいまだに不確かだ…息子にもまだまだ胸が張れないんじゃあ親父の名が泣くってもんだろう?」
夕張「もう、男の意地ってやつですか?」
父提督「ははは、まぁな!」
わしわしと頭を撫でて大きな声で笑う父提督。呆れた顔の夕張も思わず笑いだす。
夕張「ふふっ…元気かなぁ、提督」
父提督「嫌われてないと良いなぁ」
―――――
―――
―
939 = 1 :
ていとく「おーい、とーうーさーんーっ!」
数日後、観艦式当日。
運営スタッフ席には来賓の名札を下げた幼い提督が訪れていた。駆逐艦たちよりも幾分か幼い少年の登場に、周囲の雰囲気が少し丸くなる。
父提督「おぉ、よーしよしよく来たなぁ」
正式な式典のためか用意してもらったのであろうきちんとした礼装を着ていて、それを見た父提督も普段の眉間の皺もすっかり目じりへと移動していた。
ていとく「えへへぇ、とうさんとうさん、にあう!?」
屈んで視線を合わせる父提督に見よう見まねの敬礼をする提督。ほぅ・・・と艦娘たちのそこここからため息がもれて、父提督もうんうんと頷く。
夕張「いらっしゃい、提督。疲れたでしょ?」
ていとく「あ、ねーちゃん!」
横からやってきた夕張に飛びついてはぎゅっと抱きついた。今度はきゃーきゃー黄色い歓声が上がる。辺鄙な立地の鎮守府ではこういうイベントには疎い。さらに女性ばかりの組織とあってはこんな風景もうれしくて仕方ないのだろう。
夕張も相好を崩してぐりぐり頭を押し付けてくる彼の頭をなでていた。
龍驤「おうおう、よく来たなぁボン」
遠巻きに家族団らんを眺めていた艦娘たちの中から出てきたのは背の低い赤い服に身を包んだ艦娘。銀色のサンバイザーをつけたツインテールの少女の声に、提督の肩がびくりとはねる。
940 = 1 :
ていとく「でたなリュウねぇ!」
ばっと夕張から離れ身構えながらキッとにらみ付けた。
龍驤「なんやウチは悪役怪人じゃないで?」
ていとく「うるせー! 毎度毎度ガキ扱いしやがって!」
龍驤「にししっ、お父ちゃんに甘えてるようじゃあまだまだお子様やでぇ?」
にやにやと目を細めて笑う龍驤に、提督は顔を真っ赤にして叫ぶ。
ていとく「くっそぉ、このチビ!」
龍驤「ふっふーん、がきんちょに言われても気にしないもんなー」
ていとく「洗濯板! まな板! フルフラット!!」
龍驤「おうちょっと待ちぃやその言葉誰に聞いたん?」
余裕の笑みを浮かべていた龍驤の額に青筋が走る。気づいているのかいないのか提督は反応が変わったことにご満悦のようだ。
ていとく「ふっふーん、チビに教えるギリはないね!」
にやにやと笑う提督に、龍驤からはぷっつーんという擬音が聞こえた。
龍驤「おうおうおう大口叩くやないかえぇ?」
ていとく「んだよやんのか!?」
941 = 1 :
ずんずん詰め寄る龍驤を正面から迎え撃つ。額を押し合う勢いでにらみ合いを始めるのを、夕張と父提督は微笑ましそうに眺めていた。
夕張「おとうs……父提督、気づいてます?」
父提督「あぁ……背、抜いたな」
ついにつかみ合いをはじめた二人を見ながら、彼は感慨深そうに頷く。
幼くして母親をなくし、父も姉も軍の仕事で家に帰らず祖父母の家で過ごすしかない提督だ、こうしてたまの触れ合いが息子の成長を知る数少ない機会なのだ。
エスカレートしていく二人の取っ組み合いに駆逐艦たちが止めに入るに至って父提督も軍帽をかぶり直して表情を改める。
父提督「さぁ、そろそろ時間だ諸君」
特に大きな声を出したわけでもないのに周囲に響く声、ヒートアップしていた龍驤と提督もついぴたりと止まって視線を向けた。
父提督「こんな辺鄙な場所での観艦式だ、観客は少なく来賓くらいしかいない詰まらん式典だ。だがこの式典は大きな意味を持っている、納得いかないがな」
自然と艦娘たちが集まって彼の言葉に耳を傾けている。龍驤ですら服を調え静かに聴いている。
――格好いいなぁ…
言っている言葉の意味はさっぱりであったが、そうやって自然と部下が耳を傾け信頼しているのは子供心に肌で感じられた。それが、提督にはたまらなく格好良くて、めったに会えないにしても心の底から尊敬する父の姿であったのだ。
だが
彼の姿を見た最後の時になるとは、彼は知る由もなかった……
942 = 1 :
そこから先は混乱していてよくわかっていない。作戦記録も戦闘詳報も残っていないため検証することもできない。わかっているのは深海棲艦の艦隊が、観艦式用に武装をほとんど非戦闘用にしていた父提督の艦隊を強襲、混乱の最中に指揮所に砲弾が命中……父提督含め、秘書艦などが死傷することになった…ということだけだ。
結果として艦隊は壊滅、多くの艦娘が犠牲となった。
そして…
ていとく「…ぅ、うう……っ」
提督が目を覚ましたのはかなり経ってからである。轟音とともに吹き飛ばされたのは何となく覚えていたが状況はさっぱりだ。
ていとく「い、いったいなにが…」
もぞもぞと動こうとすると、自分を何かが包み込んでいるのがわかった。おかげで目を開けても周りが見えない。どうにかソレから逃れて、視界が開けた。
ていとく「…え?」
外は黄昏時、血のように赤い夕日に照らされた指揮所はまさに地獄絵図だった。
機材や壁は破壊され、何かが燃えていたのか煤がそこら中についている。床にはがれきに交じって赤い液体をにじませた『なにか』が転がっていて、動くものは自分一人だった。
ていとく「なに、これ…と、とうさん…?」
気が飛ぶその前まですぐそばにいた父の姿を探した。震える声でか細くその名を呼ぶが、答えるものはなく…そして思い出す、あの一瞬に父が自分を抱きかかえたことを。
943 = 1 :
ていとく「…………」
おそるおそる、じぶんをつつんでいた『それ』をみた。
うつぶせになっているが、まちがいない…ちち『だったもの』だった。
ていとく「ひっ…」
つめたくうごかなくなったそれからおもわずはなれた。いやだ、いやだ…さといかれには、それがもううごかないことはすぐにわかってしまった……へたりこんであとずさりするそのてに、またなにかがあたった。
ていとく「ッ……」
おそるおそるめをむければ。
おおきながれきにかはんしんをうめられたあね『だったもの』だった。
ていとく「あ…ぁ…っ」
くちからちをながし、うつろなめでこくうをみていた。からだじゅうが、がくがくとふるえだした。
ひがゆっくりしずむ、あかいひかりがどんどんやみへとかわっていった。ひざをかかえてただなみだがとまらないていとくを、くらやみがつつんでいった。
―――
―
944 = 1 :
どれくらいそうしていただろうか、提督は気配を感じてふと顔を上げた。
月の青い光とはちがう、何か別の光源が近くにあるらしい…うすぼんやりと明るいくなっている。のろのろとした動きで周囲を見渡すと、そこにあったのは…
ていとく「……なに?」
蒼い光の玉だった。ゆらゆらと炎のように揺れるそれは、ふわふわと提督へと近づいてくる。深い海の底のような蒼をたたえたそれに、提督は見入ってしまう。そして思わず手を伸ばして、気づいた。
仄暗い何かがその中にあった。見通せない何か、しかしそれが何なのか提督は本能で理解した。
それは、無念。
それは、怨嗟。
何も出来ぬままに沈んで命を落とした艦娘の、その艦の魂たちの残滓。
行き場のない怒りをたたえたそれは、気づけば無数に彼の周りに集まっていた。通常、人の身には見えぬそれらが、提督には見えていたのだ。
無数の錨と憎しみの光に包まれ、提督は、ただただ震えるしかできなかった。
そして、
ていとく「う、うわあああっ!!」
一斉に、光が提督へと飛び込んだ。
生まれつき霊媒体質の提督を、それらが宿主に選んだのだ。彼らの怒りが、憎しみが、無念が……一気に彼の体へと流れていった。
ていとく「あぁっ、ア"ア"ぁぁア"アァァァ"ア"ア"ッ!!??!?」
そのマイナスの感情たちが身を焼くように、提督の体は青い炎に包まれた。両目を見開き涙をだらだらと垂れ流しながら、喉の奥からおよそ人間のものではないような苦悶の叫びを上げてのたうち回る。
提督という人間の魂が、それらに食い荒らされるような感覚にさいなまれ、半ば意識を手放しかけていた。
そんな声に、答えるかのように何かが動いた。
945 = 1 :
龍驤「……ぅ、ぁ…っ」
指揮所の片隅、がれきに半分埋もれる形で横たわっていた龍驤である。もうろうとする意識を手繰り寄せ、がれきを振り落として彼女は身を起こす。
龍驤「…はっ、ボン…ッ」
龍驤にもはっきりと見えた、その炎。それはまるで、深海に住まう連中のまとうそれによく似ていて。
龍驤「ッ…ぼ、ぼん…っ!」
いうことを聞かぬ体に鞭を打ち、必死に提督へ這いよりそして、
龍驤「ぅあああ! あぁああっ!!」
包み込むように抱きしめた。ガクガクと暴れまわる提督の体を必死に抑え込む彼女に、邪魔をするなとばかりに炎が燃え移る。しかし、龍驤はあきらめない。
ていとく「ア"ア"ア"ッ!! ああああぁああっ!!!??」
龍驤「しっかりしぃ、ボン!! うちがついとる! ボンっ!!」
身を焼く感覚に必死に耐えては頭を胸に抱くようにして抑え込もうとする。しかし、彼の叫びは、炎は弱まる気配もない。
龍驤(しっかりしぃウチ! なんか、なんかあるはずなんや…!)
龍驤「ぅぁ…くっ……? あ、あれは…」
946 = 1 :
指揮所を見回す彼女の眼に映りこんだのは、彼の姉の姿であった。
息絶えた虚ろな目が、確かにこちらを見ていた。動かぬ体に見えない叫びを上げながら、必死に手を伸ばそうともがくのが、確かにわかった。
龍驤「ゆ、ゆうばりはん…っ、わかったで…」
提督を抱えて、最後の力を振り絞った。半ば引きずる形で夕張の手が届く範囲まで彼を引っ張り上げる。龍驤は夕張の手を掴み、抱きかかえる提督へと触れさせた。
炎はすぐに夕張にも燃え移る。三人で炎に焼かれながら、龍驤は全身全霊で祈った。
龍驤「お願いや…お願いや! ボンを…この子だけでも連れて行かん取ってくれ…! この子はなんもしてへんやろうッ!!」
意識が刈り取られていく。薄れる意識の中、提督と夕張の手の感覚だけが最後まで残っていた……
―――――
―――
―
そこからはしばらく伝聞になる。
この後、提督は龍驤と夕張の亡骸に包まれて発見された。この事件において、確認されている限り唯一の生存者であったという。
発見当初は打ち身や打撲といった軽症でやけどなどはしていなかった。いわゆる幻肢痛のようなものだと後から知ることになる。
当然、蒼い光の事も話したが、誰一人信じる者はなかった。むしろ精神を病んだと判断され田舎の方で養生することになった。
そして、落ち着いてきたころ、提督は再びその事件と向き合うこととなる。
―――――
―――
―
947 = 1 :
提督「そこから先は、長くなるから少し割愛するが……まぁ、りゅうね、龍驤が見えるようになり、水に浮くことができることがわかりと……いろいろあった」
龍驤『ホンマに人のおらん田舎で良かったよねぇ、神様の神隠しくらいあっても驚かんような場所だったし』
長い話を終えて頷き合う二人(?)を前に、加古と祥鳳はただ黙って聞いているだけであった。
いやむしろ、
祥鳳「と、突拍子もないと言いますか…」
加古「なんかこう、とてつもないなぁ…」
話が突飛でついていけていない、というべきであろう。
自分たちが充分メルヘンチックなのは重々承知であるが、それ以上のメルヘンがそこにあった。
祥鳳「と、とりあえず提督が規格外と言いますかいろいろとおかしいのはよくわかりました」
提督「お、おかっ……いやいい…それで?」
加古「結局、提督には何ができて何ができないの?」
提督「そうだなぁ、口で説明するのは面倒なんだが……」
そういって提督が語ったことを簡単にまとめれば――
1.軽巡夕張の血縁であり、身を焼かれるその時までともにあったためか、軽巡が装備できる装備なら普通に使いこなせる。夕張につかえない水偵を扱えるのは1のため
2.龍驤の力を借りての艦載機の運用が可能
3.ただし、提督の魂に取り憑いた艦の怨嗟の影響を強く受けるので大きな負担となる
4.理論上なら、すべての艦の艤装が扱えるが体に負担がかかり肉体が耐えられない
提督「とまぁ、こんな感じか」
948 = 1 :
加古「一言で頼む」
提督「軽巡艦娘とほぼ同じ能力を持っている」
祥鳳「……訳が分かりません」
提督「現にそうなんだ…そう理解してくれ」
苦笑する提督も、それ以外言いようがないとばかりに首を振っている。
主任妖精「そういうわけで、ちょっと失礼するさね」
加古「うわぁ、主任妖精…いたんだ…」
主任妖精「誰が出番少ない影うすだって?」
加古「そんなこと言ってないよな? な!?」
いつの間にか戸口のところに立っていたらしい主任妖精がやってきて、
主任妖精「ふんっ」
提督「あらぁっ!?」
提督の肩をその短い腕で叩き、布団へ寝かせた。荒い。
主任妖精「絶対安静だよ、長話しよってからにまったくもう」
祥鳳「しゅ、主任妖精さんそんな乱暴に…」
主任妖精「じゃーっかしぃ! 文句言う愚図は海に叩き込むかんね!?」
祥鳳「ひゃいッ!?」
949 = 1 :
一喝して祥鳳を震え上がらせると提督を見、
主任妖精「軽巡なみの力がある男が軽く押しただけでこれなんだ、そこに長話じゃあやすまらんだろう、察しな」
加古「あ……」
提督「はは、あなたはごまかせないな」
主任妖精「あたしを誰だと思ってるさね」
龍驤「あぁ、私が出てるのも原因やな…」
主任妖精「やっぱ体力使ってるさね…」
呆れたようなため息を吐く主任妖精に、龍驤も苦笑した。
龍驤「ほな、ボン。わたしはまた眠るよ…しっかりな」
提督「あぁ、またな」
すぅ、っと。空気に溶け込むうように龍驤が消える。それを見届けた提督は横になったまま周りを見回した。
提督「改めて、皆お疲れだった。私を含め、皆ここにいられるのは他でもない皆の力だ。良く成長したものだ」
微笑む提督に、加古や祥鳳も表情が緩む。
950 = 1 :
提督「私のことは、回復したら皆に話そうと思う。だがその前に、一眠りしておきたい……祥鳳、すまないが後を任せる」
祥鳳「は、はいっ」
提督「加古、初撃の三式は見事だった。今後も頑張ってくれ」
加古「え? お、おぉっ! あたしだってやる時ゃやるからね!!」
提督「ふふ……それ、じゃあ…すまないが…」
ふぅ、と瞼が落ちてくる。やはり体力が戻り切っていないようだ。
祥鳳「それでは、あとのことはお任せください」
加古「あたしもやるよ! うん!」
提督「ん…たのむ、な…」
少し笑って、提督は目を閉じた。
すぐに規則正しい寝息が聞こえてくる。加古と祥鳳もほっと安堵の息を吐いた。
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