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    元スレ上条「そこのおねーさん! お茶しない?」 麦野「あん?」

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    102 :

    佐天さんどうなるんだろう
    普通にほのぼのがいいなぁ…

    103 :

    ぶっちゃけ無理だろ。ブラックユーモア、ダーティ、エロのまさに暗部のスレでほのぼの系になったらむしろ冷める

    104 :

    >>103
    対局的な日常として描けば、暗部がより際立つとも考えられる。作者次第やな

    105 :

    きたらーだろ

    107 :

    >>98
    良い勘してらっしゃる。

    もひとつ安価。

    1.まえ
    2.うしろ
    3.うえ

    ↓1
    複数選択可能

    108 :

    まえうしろ

    109 :

    サンドイッチファックだね

    110 :

    ビームで上/条にわけるのかなるほど

    111 :

    嫌な予感しかしなーい

    113 :

    今更だけど上条さんの初体験は誰だったんだろう
    雲川先輩かな…

    114 :

    それよりむぎのんの初体験を知りたい

    115 :

    土御門の伏線も気になるな
    次を楽しみにしてる

    116 :

    乙乙
    楽しみに待ってる


    そう言えば随分前、ここが禁書SSばかりだった頃に、似たようなスレタイの上麦SSが合ったな・・・

    117 :

    あれは完成度高かったから次に上麦書く人がなかなか出てこなかったんだよね
    上麦好きだから頑張ってくれ

    118 :

    あんまりプレッシャーかけんなww

    119 :

    >>116
    スレタイが上条さんとむぎのんで、ちょうど逆に成るけどな

    120 :

    キリよく書けたので約1時間後の0時に続きを投下。

    今回、恐らくは皆様の予想通りにとあるキャラがとんでもない目にありますので、
    超電磁砲アニメスレで「おはよう○子」とかレスしている方は該当シーンを読み飛ばすことをお勧めします。

    該当シーンの名前欄に「惨奴逸痴」と入れときますので、NGワードにしといてください。

    それでは、約1時間後に…

    121 :

    ああ、やっぱサンドイッチなんだ……期待大だ。

    122 :

    それじゃ、投下を開始します。
    今回は… えーと、45kBぐらいです。

    123 = 1 :





    「体晶を強奪~~~~~?」

    麦野沈利が、眉根を歪めて素っ頓狂な声を上げる。
    フレンダ・セイヴェルンと名乗る金髪碧眼の少女が語った仕事の内容が、麦野にとっては意外だったようだ。

    「なーんで、うちらがそんなこすい真似しなきゃならないの?」
    「結局、裏ルートで出回った体晶は、極力回収しなきゃならない訳」

    やれやれ、と言った風にフレンダが言う。

    「ウチらにお鉢が回った理由は、まぁ、滝壺が居るからよね。回収したら、そのまま使えってことじゃん?」
    「しょーもねぇ……」

    完全にやる気を無くした麦野が机に突っ伏す。

    「…体晶って、なんなの?」

    完全に話に置いてけぼりになっている上条が、対面に座るフレンダに聞く。

    「まぁ、一種の能力強化薬? 相性とかあるし、誰が使っても効果があるものじゃないけど」

    フレンダが親切に説明をする。
    なぜかは分からないが、上条に対しては好印象のようだ。

    「へぇ、そんな便利な薬があるんだ」
    「結局、能力を暴走させているだけだし、副作用もあるし、カラダぼろぼろになるし、そんな便利なものじゃないって訳」

    フレンダがドリンクバーのメロンソーダを、ズズッ、と啜る。

    「…はぁ、もうちょっと詳しい内容」

    ようやく、のろのろと頭を上げた麦野が、面倒そうに言う。
    やる気は相当に無いようだ。

    「はいはい、第11学区にシリンダー・コスモっていう燃料系の研究機関があるんだけど、そこが使ってた柄の悪い連中が居てね」

    学園都市の研究機関のほとんどは、その内部に黒い非合法な部分を有する。
    元々の技術の根管が『人体実験』の成果だからなのかもしれない。
    よって、様々な荒事が発生する場合に備えて、それぞれが独自に私設部隊を持つ場合がある。

    「ま、本人たちは『私設部隊』のように思っていたようだけど、結局はただの『スキルアウト』な訳」

    私設部隊の質は様々だ。
    警備員(アンチスキル)や風紀委員(ジャッジメント)と互角に戦える場合もあれば、街の不良集団に毛が生えただけの存在もある。

    「結局、そいつらが、『シリンダー・コスモ』側から得た『体晶』を横流ししようとしたから、あっさり粛清が決まった訳」
    「それじゃ、その内ゲバのドサクサに紛れて、『体晶』を回収しろってこと?」
    「そーいうことだね」

    フレンダがメロンソーダを飲み干すと、物足りなさそうに再びドリンクバーに向かう。

    「あー、強奪かぁ……」

    内容を聞いた麦野が、上条を見つめて面倒そうに考え込む。
    本心では、「上条さんは何をすればいいんでせう」と聞きたくてたまらない上条だが、ここはぐっと堪えて麦野の言葉を待つ。




    .

    124 = 1 :

    「…デビュー戦に気合が入っているところ悪いけど、上条クンは待機ね」
    「あ、やっぱりそういう流れですか…」

    多少、予想はしていたが、肩透かしを食らって上条が力を抜く。

    「んー、相手は武装しているし、『体晶』の現物を見たこと無い上条クンは足手まといになる可能性があるわ。
     逃走用の車で待機していてちょうだい。朝にもらった免許証を忘れないようにね」
    「あ、あのー、上条さんは自動車を運転したことないんですが…?」
    「はぁ? 学園都市の車はほとんどオート制御でしょ? 技能なんて必要ないわよ」
    「そ、そうですけど…」

    麦野の言うとおり、学園都市の車は、そのほとんどが衛星とリンクした自動制御となっている。
    運転手の役割は旧来のものから大きく変わり、『とりあえず無人でないことの証明』ぐらいでしかない。
    だが、確かに柔軟な走行を得るためにはハンドルを握らなければならない。

    「麦野ー、流石にトーシロが座ってるクルマに乗りたくないんだけどー」

    ドリンクバーから戻ってきたフレンダがフォローを入れる。
    麦野は再び考え込む表情を見せる。

    「…ちっ、じゃ浜面も呼ぶか。アイツら暇だろうし、上条クンの良いお手本になるかもね」
    「だね。結局、『滝壺いるかもー』って匂わせれば、馬車馬の様に働くって訳」

    2人は上条の知らない名前で盛り上がる。
    よく分からないが、浜面という人と一緒に仕事をすればいいらしい。

    「おし、それじゃ、浜面を呼ぶから、到着次第、移動・潜伏。
    アタシがフォワードでフレンダがバックアップ。
    フレンダぁ、先行して下調べと仕込みを済ませときな」
    「了解、結局、事前準備が一番重要って訳…」

    2杯目のメロンソーダを飲み干してフレンダが立ち上がる。
    去り際に上条だけ分かるようにウインクをすると、口の動きだけで「がんばってね」と言う。

    「………ッ」

    反応すると麦野が怖いので、目線を合わせず頷く。
    どうも、朝に会った絹旗という少女と違って、フレンダは上条に対して好意的なようだ。

    (多分、麦野さん関係なんだろーなー……)

    まだ『アイテム』に関してほとんど何もしらない上条だが、リーダーの麦野に対しては、メンバーの間で様々な感情があるのだと思った。




    .

    125 = 1 :

    ――――『コスモ・シリンダー』が所有するとある廃工場跡。
    過去に廃棄されたその施設は、所有者を変えることなくその役割だけを変えていた。
    即ち、非合法な人員・装備の拠点としての役割である。

    「や、約束通り… 一人で来ました……」

    既に日は落ちて当たりは闇色。
    そんな薄暗い廃工場には、全く似つかわしくない少女が、一人、居た。
    年恰好はローティーンの、ロングの髪に花柄の髪留めが印象的な少女だ。

    「おぉ… 入ってくるところ、誰にも見られていないだろうな…?」
    「は、はい… 十分に注意しました」

    応対をしているのは、リーダーらしき鋲の入った革ジャンを着た青年だ。
    2人の周囲には10数人ほどの柄の悪い男たちがたむろしている。
    会話する2人を見ている者も居れば、周囲を油断無く警戒している者も居る。

    「カネ、用意できた?」
    「はい… 10万、ですよね……」

    少女がハンドバックを探って、かわいらしいレターセットを取り出す。
    本来は、友達に向けて他愛の無い手紙が入るそれには、今は少女が持つ全財産が入っている。

    「あぁ、今から保管場所に連れて行くから、ソレは大事に持っときな。『体晶』と交換だ」

    そういって歩き出す青年に、少女が慌てて付いて行く。
    少女の名前は佐天涙子。
    どこにでも居る女子中学生で、そして、どこにでもいる無能力者だ。

    「初めに言っとくが、コレを使ったからって、能力が得られるとは限らないからな。全くのムダになることもある。それでも良いんだな?」
    「…はい。アタシ、何やっても能力が発現しなくて… もう、コレに頼るしか……」

    少女――佐天の悩みは、学園都市の無能力学生にとって共通のものだ。
    自分にどんな超能力が眠っているのか―――。
    己と、家族の期待を背負ってはるばる学園都市にやって来て、そして、無能力者の烙印を押される。
    学生の大多数がそうであるとは言え、多感な少年少女にとっては、容易に受け入れがたい現実だ。

    「少しでもチャンスがあれば、それに賭けてみたいんです…」

    悲壮な表情で佐天が呟く。
    それを、革ジャンの青年は憐れみの混じった目で見つめる。

    (『体晶』で発現した能力が、まともな訳ないだろうに…)

    青年――儀房秀隆という――が心の中で吐き捨てる。
    今では、コスモ・シリンダーの使いっ走りとして活動しているが、青年はある程度将来を期待された強能力(レベル3)の能力者だった。
    しかし、能力開発に行き詰まり、怪しげな非合法実験に参加したことを契機に、研究機関の闇に身を置く羽目になってしまった。

    (『体晶』を売りさばいた金と、『コスモ・シリンダー』の社外秘データを使って、もっと良い企業に潜り込めれば…)

    それがこの青年の目的だ。
    今のままでは企業の使いっ走りとして切り捨てられる。
    そう切実に感じたからこその行動だったが、それが見事に裏目に出たことを、彼は知らない。




    .

    126 = 1 :

    『ターゲットは企業側が用意した囮と一緒に奥に引っ込んだわ。突入班の無線を傍受したけど、目標の移動が終了したと同時に突入するみたい』

    四輪駆動の大型バンのスピーカーから、フレンダの声が響く。
    携帯端末で廃工場のマップを確認していた麦野が、フムフム、と頷く。

    「了解、フレンダは引き続き馬鹿どもを監視。戦闘が始まったら、上手くやつらを足止め・誘導してね」
    『りょーかい。結局、楽勝な訳よ』

    ブツッ、という音と共に通信が終了する。

    「さて、と…」と呟いた麦野が車内を見回すと、上条が助手席に、そして運転手席に金髪に鼻ピアスが特徴的な青年が座っていた。

    「浜面ぁ、アタシは騒ぎに紛れて進入するから、上条クンとしっかり留守番してんのよ」
    「あいよ、暖気して待っとくわ。あとさ… 今日は滝壺いねぇの?」
    「いねぇよ、ばーか」
    「ちくしょー、騙された……」

    それなりに気心が知れているのか、浜面と呼ばれた青年が軽く応答する。

    「上条クン、ま、分からないことがあったら、そこの馬鹿に聞いてね」
    「あ、ああ…」

    遠慮がちに浜面を、チラリ、と見ると、いつものことなのか、浜面は軽く肩をすくめて苦笑する。

    「それじゃ、行って来るわ」

    そう言うと、麦野は片耳に小さなインカムをつけて、バンから降りた。

    「あ、麦野さんッ!」
    「なに?」

    麦野が足を止める。

    「あの… 気をつけて…」
    「…ふふ、心配は自分にしときなさい」

    麦野は手を、ひらひら、と振ると、何気ない足取りで夜の闇に消えて行った…




    .

    127 = 1 :

    「儀房ッ!! 侵入者だッ!!」

    廃工場の奥深く。
    『体晶』や儀房が密かに集めていた『本社』のデータが保管されている、通称『金庫室』
    『体晶』が納められている金庫を解錠しようとしたとき、儀房はその報告を受けた。

    「何だって、どこの誰が…?」

    近くのコンソールを操作して、スクラップに偽装してある監視カメラを起動する。
    壁に無造作に置かれたモニタに灯が入ると、そこには十数人の完全武装の集団が廃工場の門扉に張り付いているのが見えた。

    「この廃工場の場所は『本社』の連中も知らねぇんだぞ…? ……ッ!?」

    弾かれたように佐天を見る。
    何かを察した彼女は、慌てて、千切れんばかりに首を振る。

    「わ、私じゃない!! い、言われた通りのルートを通ったし、誰にも言ってません!! ほ、ホントですッ!」
    「…何も言ってねぇよ、勘違いすんな」

    取り繕うように儀房が言う。
    一瞬、この少女がスパイか、とも思ったが、だとしたら少女が取り残されているのがおかしい。

    (いや… コイツはただ何も知らなくて、『虫』を付けられた使い捨てって事も考えられるか…)

    その考えに思い至り、儀房は「クソッ」と吐き捨てた。

    「…迎撃するぞ」
    「逃げねぇのかよ!!」

    チームの一人が叫ぶ。

    「逃げるにしたって、『体晶』やデータを持ち出す時間が居るだろッ! お前とお前、ここで『本社』のデータを持ち出せるようにしとけ」

    矢継ぎ早やに指示を出して、コンソールを操作する。
    この部屋に至るまでの通路が電子ロックされ、廃工場が迷宮と化す。

    「これで少しは時間が稼げる… データのアウトプットが終わったら、6番通路で待機しておいてくれ」
    「あ、あのッ、私はッ!?」

    状況の急変についていけない佐天が叫ぶ。
    詳しいことは分からないが、ここにいたら危険だとは分かる。
    不安で不安で胸が潰れそうだ。

    「お前は… ここに居ろ。下手に動いたら戦闘に巻き込まれる。いいか、『体晶』のこととか全部忘れて、浚われた一般人を装え、分かったな!」

    とうとう涙を浮かべ始めた佐天が、コクコク、と何度も首を縦に振る。

    「よし… データのアウトプット、早めにな。いくぞッ!」

    儀房が残りのメンバーを促して部屋を出る。
    残された佐天は、恐怖と後悔で、腰を抜かして床にへたり込んだ……





    .

    128 = 1 :

    「ナンパぁ!? あの麦野を!? なんて命知らずなヤツ……」
    「いや、まさか暗部のエージェントとか思う分けないでしょ!?」

    麦野を待つバンの中では、上条と浜面が砕けた口調で話をしていた。
    意外と相性は良いようである。

    「そりゃ、アイツは黙ってたら美人だけど、それ以上に近寄りがたいオーラがあるじゃん?」
    「そこらへんが、上条さんの好みのどストライクというか… 
    「お前の好みって、何よ?」
    「……寮の管理人のお姉さん?」
    「ありえねーッ!! 麦野が管理人とかありえねーッ!!」

    思わず絶叫する浜面。

    「そんな寮があったら、住人全員がストレスで10円はげ作るわ。断言するね」
    「え、麦野さん、優しいじゃないスか…?」

    浜面が信じられないモノを見たような目つきをする。

    「優しいって、え、なに… あのモンスターが…? …お前、精神系の能力使われて無いか?」
    「んなわけねー!!」

    今度は上条が絶叫する。

    「…まぁ、いいさ。よくよく考えれば、これから、麦野の暴走は止めるのはお前の役割なんだからな… 頼むぜぇ、彼氏さんよぉ…」

    浜面が拝むように手を合わせる。

    「暴走って… 電車やバスじゃあるまいし…」
    「そっちの暴走の方がまだかわいーよ!
     …あー、多分、そろそろかなぁ…」

    浜面がバンのラジオ(に偽装した通信機器)を操作する。

    「おーい、フレンダ、そろそろ突入?」
    『ザザッ あ、あー…  今、麦野に通信送ったところよ。突入側は門扉の解除に成功、これから突入ね。防御側は果敢にも迎撃に出るみたい』
    「オーケー、撤収気をつけてな」

    それだけ通信してスイッチを切る。

    「見てな、そろそろ派手な花火が上がるぜ」

    浜面が麦野の消えた方角を指差す。
    上条がつられて目をこらした、
    その瞬間、
    ―――極太の白色光が煌めいた。

    ズガァァァァァッ!!!!

    「え、なに…!?」

    一瞬遅れて、何か大きな破壊音が聞こえる。
    そして、さらにそれは連続した。

    ズガァァァァァッ!! ドゴォォォォォッ!!

    白色が煌めくたびに大音声の破壊音が聞こえる。

    「もしかして… 麦野さんがコレを…?」
    「ああ、これが学園都市の超能力者(レベル5)、麦野沈利の『原子崩し(メルトダウナー)』だ。
     これで、数割の出力っていうから恐ろしいぜ」

    既に遠目からでも、廃工場の一角が残骸と化しているのが分かる。
    上条は、釣り上げた魚の大きさに、改めて戦慄した。




    .

    129 = 1 :

    佐天涙子は後悔の真っ只中に居た。
    新学年になり、次々と能力を発現させる同級生。
    担任教師の同情と諦めに満ちた表情。
    その何もかもが嫌になって、普段なら軽くスルーするダイレクトメールに目を止めてしまった。

    『能力の暴走過程で生まれた、能力強制発現薬』

    その煽り文句を真に受けた佐天は、恐ろしく厳重なメールの遣り取りにさらに信頼を強めてしまい、結果として、この部屋で震える破目になってしまった。

    (早く家に帰りたい…ッ!! 怖い、怖いよ…ッ!!)

    チラリと顔を上げると、いかにも柄の悪い男2人が、怒鳴りあいながらコンソールを操作している。
    声の調子からして、どうにも上手くいってないらしい。

    「おいッ! データはどこまでアウトプットするんだよッ!?」
    「ンなもん、全部に決まってんだろうが!!」
    「アホか! データが重すぎて、ここにあるメディアだけじゃ足りねぇぞ!!」

    部屋の中に響く怒鳴り声に、思わず耳を塞ぐ。

    (早く誰か助けに来て…)

    佐天はヒーローの登場を心から願った……




    .

    130 = 1 :

    「あ、ボクシングするんだ」

    「ほとんど我流ッスけどね。『ホーリーランド』が上条さんおバイブルです」

    「あー、わかるわー、それ。俺もそれ読んでアマレス囓ったもん」

    「アマレス、強いですよね~」

    「いや、ボクシングもつえーよ。俺、喧嘩の時、タックルにショートフック合わせられたことあるし」

    「え、マジッスか? どうなんったんです?」

    「一発で気絶。いやぁ、ボクサーのカウンタースキル、やばすぎるわ…」

    「俺からしてみたら、アマレスの低タックルとか、本気で嫌ですけどね…」

    「そうかぁ…? …今度、マスでもしてみる?」

    「あ、いいスね。どっかの公園の砂場でやりましょうか……」

    ……男2人は、ほのぼのとした雰囲気の中、格闘技談義で盛り上がっていた。



    .

    131 = 1 :

    「クソッ!!」

    ガンッ!!

    『金庫室』に残った2人のうち、メッシュ髪の男がコンソールに拳を打ち付ける。

    「何やってンだよ!!」

    残る1人、スカジャンを来た男があわてて詰め寄る。

    「やっぱりデータがデカすぎンだよ!! HDDぶっこ抜いても足りねぇ!! つーか、そんな時間もねぇ!!」
    「…前に儀房が言ってた。セキュリティを突破して『金庫室』まで行くには、最低20分はかかるって…」

    部屋の隅でがたがた震えていた佐天が思い出す。
    確かに、この部屋まで来るのには恐ろしく時間が掛かったし、なにより、どこをどう歩いたか分からないほど、通路が入り組んでいた。

    「儀房たちが足止めもしてくれてる… 少なく見積もっても、30分ぐらいは猶予があるんじゃねぇか…?」

    スカジャンが楽観的な予想を立てる。
    その予想に少し落ち着いたのか、メッシュが大きくため息を吐いて椅子に身を沈める。

    「…クソッ、何でこんなことに…」
    「『体晶』のウリがやっぱマズかったんだよ… ありゃ、マジの厄ネタだったんだ」

    後悔を口から吐くようにスカジャンが声を絞りだす。

    「…厄ネタっつーなら、ソコにも居るぜ?」

    メッシュがギラリとした眼光を部屋の隅に向ける。
    蹲っていた佐天の肩が、ビクリ、と震える。

    「なぁ、おい、嬢ちゃんよォ!! とんでもねぇことしてくれたなぁ!!」
    「ヒッ… わ、私、何も知らないです… 本当です… ごめんなさい、ごめんなさい…」

    小さく小さく、「ごめんなさい、ごめんなさい……」と繰り返す。
    その謝罪が、男の神経を逆撫でする。

    「知らないで済むかよッ!! あぁ!!」

    ゴンッ!!
    再び、コンソールに拳が打ち付けられる。

    「いやぁ… ごめんなさい、ごめんなさい……」

    佐天に出来ることは、ただ小さく震えることだけだ。

    「…おい、データ移行の指示は済んでるのか?」

    突然、スカジャンがメッシュに言う。

    「ん…? あぁ、つっこめるだけのメディアはつっこんだし、HDDもあとはぶっこ抜くだけだ」
    「じゃ、時間あるな……」

    スカジャンがギラつく瞳を佐天に向け、にぃ、と笑う。

    「なぁ、嬢ちゃん名前は何?」
    「え… さ、佐天涙子です…」

    名前を言うのも恐ろしいが、言わないのはもっと恐ろしい。

    「佐天ちゃんかー。じゃ、さ…、佐天ちゃんに、代償を支払ってもらおうぜ……」

    明確に、『金庫室』の雰囲気が変わる。

    「おっ! やっべ、気がつかんかったわ、それ」

    メッシュが「へへへ…」と野卑な笑いを浮かべる。

    「あああああ…………」

    佐天の恐怖が最高潮に達した。



    .

    132 = 1 :

    「駒場さんって… あの、独特なしゃべり方をする人?」

    「なんだよ、ウチのリーダー知ってるのかよ? お前、どこのチーム?」

    「いや、俺はどこのスキルアウトにも入ってないけど、青ピって知らね? 声がすんげぇ野太い」

    「ああ、あの馬鹿?」

    「そそ、その馬鹿。そいつの関係で、ちょいと出入りに参加したことあって」

    「青ピって、アイツなんなの? 不死身系能力者? 殺しても死なないって、どーゆー理屈なんだよ…?」

    「本人曰く、『ボクはボクが認める属性の娘の攻撃しか効かないんや~』って言ってたけど……」

    「はぁ? それ、軽くレベル4以上あるんじゃねーの?」

    「いや、それが、本人は能力発現未満のれっきとしたレベル0なんだ……」

    「マジでナニモノなんだよ……?」

    ……バンの中では、すっかり仲のよくなった2人の、馬鹿なダベリ話が続いていた。



    .

    133 = 1 :

    「嫌ぁぁぁぁぁぁッ!!」

    声のあらん限り叫ぶ佐天を、メッシュが背後から羽交い絞めにする。
    ニヤニヤと下品な笑いを浮かべたスカジャンが佐天の前に立つと、佐天の上着の襟元に手をかけた。

    「ここ、完全防音だから、いくら叫んでも無駄だぜ…!」

    ビリィィィィ!!

    声と共に、上着を力任せに引き千切る。
    可愛らしいデザインのブラジャーが露わになり、佐天の顔が羞恥に染まる。

    「やめてぇぇぇぇぇ!!」
    「うっはー、たまんねー!!」

    声に興奮したのか、メッシュが手を伸ばして佐天の胸を荒々しく掴む。

    「ヒッ!!」
    「お、けっこー胸あるじゃん。コイツはアタリかも…!?」
    「マジ? 佐天ちゃん隠れ巨乳?」

    スカジャンも空いた片乳を乱暴に掴む。
    すると、下品な笑みがさらに歪んだ。

    「へへ… 楽しめそーじゃん…!」

    スカジャンが強引にブラジャーを剥ぎ取ると、歳の割りに大きいおっぱいが、ぶるん、と飛び出る。
    メッシュが「いいじゃん、いいじゃん!」と語気を強める。

    「触らないでッ!!」

    あまりの羞恥に恐怖が振り切ったのか、佐天が正面のスカジャンを右足で蹴り上げる。
    が、か弱い女性の筋力では、ぺし、という音を発するだけだ。

    「お、足上げてくれるなんて、協力的だね~」

    自分勝手な解釈をすると、スカジャンは一気に、下着もろとも佐天の下衣を剥ぎ取った。
    まだ無毛の、幼い割れ目が外気に触れる。

    「なんだ、ここはまだガキンチョかよ…」
    「馬ッ鹿! 巨乳で無毛とか、そっちの方がソソルじゃん!」

    ガチガチガチ…

    既に、佐天の歯の根は合わず、顔面は蒼白で今にも意識を失いそうだった。




    .

    134 = 1 :

    「ネコミミむぎのん…」

    「ナシナシナシ! カワイイ系はないですよ!!」

    「んじゃ、ナースむぎのん…」

    「う~ん、ギリナシ?」

    「えー、注射とか似合いそうじゃん?」

    「似合いすぎて怖いデスヨ…」

    「それもそうか… ほんじゃ、そっち」

    「婦警むぎのん、とか?」

    「メスポリとか呼ばれてそーだな、アリだ」

    「女教師むぎのん」

    「かなりアリ! タイトスカートの癖に、足の太さを気にして色の濃いタイツとか履くんだぜ、きっと!」

    「ボンテージむぎのんは……?」

    「あー、そりゃナシ。似合いすぎてつまらん」

    「それじゃ… あ、バニーむぎのん…?」

    「……………………………」

    「……………………………」

    「「アリアリアリアリアリアリアリッ!!」」

    ……バンの中はやっぱり平和だった。





    .

    135 = 1 :

    「ほんじゃ、ご開帳~」

    既に抵抗をやめた佐天の太ももを、スカジャンが強引に開く。
    大陰唇すら閉じた秘裂が、わずかに口を開く。

    「あ、あ……」

    それを見る佐天の瞳は空ろだ。
    まるで、他人事のように光が無い。

    「パイパンのタテスジ、たまんねぇな…」
    「なんだよ、お前ロリコンかぁ?」
    「締まりがすげぇってことだよッ!!」

    スカジャンが、わずかに盛り上がった秘裂の端を両の親指で押さえると、軽く力を入れて「くぱぁ」と左右に開く。
    見事なサーモンピンクの肉壁が顔を覗かせた。

    「…ゴクッ」

    二次性徴直後の青い肉体を蹂躙する暗い喜びに、スカジャンの興奮が否応無しに上がる。
    どう考えても処女だ。生理用品すら挿入れたことがないだろう。

    「わりぃな… 濡らしてる暇がないんでよ……」

    やや緊張に震えた声でスカジャンが言う。
    それを聞いたメッシュが、引きつった笑みを浮かべた。

    「お前、鬼畜だなぁ、おい…」
    「…そっちも穴が空いてるぜ?」

    欲情とストレスが、理性の枷をあっさり外す。
    スカジャンがさらりととんでもない『提案』をすると、メッシュも、ゴクリ、と唾を飲み込む…

    「コイツ、発狂死するかもな…」
    「構うこたねぇよ、自業自得だ…」

    2人の男が佐天を拘束したままズボンを下ろす。
    佐天の耳には2人の会話が入ってきているが、心がその理解を拒絶する。

    (これは夢…、悪い夢……ッ!!)

    現実を逃避し、心の中で何度も念じる。
    防衛機制としたは、当然の逃避であるが、しかし、その為に、
    佐天は決定的な抵抗のチャンスを逃してしまった。



    .

    136 = 1 :

    ピト……

    薄汚く、凶悪に勃起したスカジャンのペニスが、佐天の秘裂に接触する。
    そのおぞましい感触に、ようやく佐天の意識が現実に戻る。
    だが、それは最悪のタイミングだった。

    「お、お願いします… グスッ、やめて… やめてェ……」

    嗚咽交じりの懇願を、正面のスカジャンに行う。
    万人の心を動かしそうなその行為は、しかし、この場面においては完全に逆効果だ。

    「やだね……!」

    皮肉なことに、佐天の懇願がスカジャンの行動のスイッチを押した。
    ペニスを強引に佐天の秘裂に食い込ませる。
    亀頭が秘裂に半分まで喰い込むと、ようやく佐天の身体が動き始めた。

    「イヤッ!イヤッ!! 嫌ぁぁぁぁッ!!!!」

    思い切り叫び、身体を捻る。
    しかし、前後から男たちに挟み込まれていては、満足な抵抗などできない。

    「けけっ、暴れるのがちっと遅いぜ… さぁ、ぶち抜いてやる…ッ!!」

    スカジャンが佐天の腰をガッチリ掴み、強引に腰を突き上げ、そして…

    ぶちぶちぶちぶちッ……!!!!

    少女の身体には完全に規格外のペニスが、秘裂を入り口に佐天の身体を貫通する。

    「ひぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃッッッ!!!!」

    激痛。あまりにもの激痛に佐天があらんかぎりの絶叫を上げる。

    (痛いッ!! 痛いッ!! 痛いッ!!!!)

    佐天の意識が激痛に染まる。
    生まれてこのかた、経験したことのない『内臓を裂かれる』痛み。
    それまで、経血しか流れたことの無い細い膣道を、大質量のペニスが強引に逆流する。





    .

    137 = 1 :

    「……………ぁ、……………ぁッ!!」

    酸素を求める金魚のように、佐天の口が、パクパク、と開閉を繰り返す。
    激痛により腹筋が痙攣し、上手く空気を吸うことが出来ない。

    「うぉ… 締まる……ッ 最高だぜ、このガキ……ッ!!」

    佐天の苦悶などお構いなしに、スカジャンが腰を揺する。
    それまで膣道で堰きとめられていた破瓜血が零れ落ちて、鉄さびの匂いが佐天の鼻に届く。

    (血の匂い… あたし、死んじゃうの……ッ!?)

    死への恐怖からか、激痛に固くなった佐天の身体に、少しだけ力が戻る。
    正面のスカジャンから逃れようと、必死に地面を、スカジャンの身体を、手と足で押そうとする。

    「おいおい、もうぶち込んでんだから、暴れるんじゃねーよ」

    しかし、スカジャンは逆に佐天を抱きしめるように拘束すると、両手を佐天のお尻にまわし、強引に割り開いた。
    セピア色の、可愛らしい菊座が外気に触れ、驚いたように、ひくひく、と痙攣する。

    「おら、とっととぶち込めよ」
    「別にソッチの趣味は無いんだけどなー」

    台詞と口調とは裏腹に、顔全体で醜悪な笑みを浮かべたメッシュが、佐天のアナルを指で弄る。

    「……………え?」

    驚愕、疑問、悲哀、、不安、逃避……
    様々な感情を顔に浮かべ、佐天がゆっくりと背後のメッシュを振り返って見る。

    「なに、するんですか……」

    聞きたくない、知りたくないのに、口が勝手に開く。
    佐天の性知識は、年齢・性別相応のものしかない。
    アナルセックスや二穴挿入など、想像すらしたこともない。

    「…ケツ、緩めとけよ」

    佐天の質問には答えず、メッシュはお情け程度にだ液をアナルと亀頭に塗りこむと、ペニスを手でしっかりと固定して佐天のアナルに押し当てた。

    「あ、あは… あはは……」

    ようやく、背後の悪魔が何をしようとしているのかに気付いた佐天が、乾いた笑い声を上げる。
    股間の激痛はすでに鈍痛に変わっていて感覚はほとんど無いのに、お尻の穴に触れた汚らわしいペニスの体温が、やけにはっきりと感じられた。

    「あんたたち、人じゃない… ひとでなし… ひとでなしぃ……」

    それまで出番を忘れていたかのように、佐天の瞳から涙が次々と零れ落ちる。

    「ちっ、うっせーな……!」

    少女の批判に、メッシュが静かに逆上する。

    「こんな所にほいほい来たテメェの責任なんだよ…ッ!!」

    声をと共に、ペニスを強引にアナルへ突き刺す。

    メリメリメリメリッ……!!

    「……………ぁぁぁぁああああああ!!!!!!」

    指さえ入るのが怪しい小さな菊座に、赤黒い勃起したペニスが突き刺さる。
    佐天は瞳と口とを限界まで拡げ、必死に伸ばした手でと何も無い空を掴む。

    ………ピシッ。

    強引な挿入でどこかが裂けたのか、佐天の肛門から、たらたら、と鮮血がしたたり落ちる。
    その量は破瓜血の比ではない。

    「へへっ、滑りが良くなってちょーど良いや……」

    メッシュの言葉は、既に佐天には届かない。
    佐天は気絶一歩手前の状態で、ただひたすら股間の鈍痛と異物感に耐えている…




    .

    138 = 1 :

    「お、入ってきたのがわかるな…」
    「うぇ、チンポの先がぶつかっちまった。気持ち悪ぃ…」

    いったい、どこにそんなスペースがあるのだろうか?
    少女の細い腰の中に、長大なペニスが2本も埋め込まれている様は、ひどく現実感のない光景だった。

    「時間もねぇし、早めに済ませようぜ」
    「おぉ、勝手にイカせてもらうわ」

    ズリッ、ズリッ、ズリュッ!!

    男2人は視線を交わすと、てんでばらばらに腰を動かし始めた。
    リズムもタイミングもバラバラなその動きは、かえって佐天の激痛を増悪し、不規則な衝撃に佐天の身体が下手糞な操り人形のように跳ねる。

    不意に、

    ズンッ!!

    「がッ…… はッ!!!」

    偶然に2人が腰を突き出すタイミングが合い、佐天の身体が下から上に突き上げられる。
    その衝撃で、それまで必死に身体を支えていた両足が地面から離れ……

    佐天の身体が完全に宙に浮いた。

    「ぐぁ…… あぁ…… し、ぬ……!!」

    それは、まさしく串刺し刑だ。
    全体重を股間で支える羽目になり、佐天の激痛が最高潮に達する。
    それは、少女の我慢の限界をとうとう越え、
    一度、「はぁぁぁ……」と肺に残った空気を吐き出すと、佐天の眼球が、クルリ、と上に回転し…

    佐天涙子は意識を喪失した。




    .

    139 = 1 :

    『もしもーし、馬鹿言ってないで、周辺の哨戒ぐらいしておきなさいよ~』

    バンの中でほのぼのと会話をしていた上条と浜面に、フレンダから通信が入った。

    「ん、何か動きあった?」
    『突入側が迎撃側の戦力の大半を無力化したわねー。
     迎撃側はリーダーがけっこう頑張ってたけど、今は散り散りになって逃げてるわ』
    「麦野は?」

    通信先で、何かしらの機器を操作する音が聞こえる。

    『工場内は電波の通りが悪いけど、そろそろお宝に到着するみたい。
     ま、結局、麦野に心配は不要って訳よ』
    「おーし、そんじゃ、そろそろクルマを暖めておくか…」

    浜面が運転席の電子ロックを外して、クルマのエンジンを掛ける。
    エンジンが駆動し、バンが小さく揺れる。

    『んじゃ、アタシもそろそろ離脱して… あっ!!」
    「うん? どうしたん?」

    通信先で変な声を上げたフレンダに、浜面からつっこみが入る。

    『このアホが… あー、浜面、聞いてる?』
    「おお、何かトラブルか?」
    『いますぐバンを移動して! 迎撃側のリーダーが麦野の『原子崩し』で空けた穴から逃亡しようとしてるわ!』
    「げぇ、マジか…」

    迎撃側のリーダー、儀房は高位の能力者だ。
    無能力者である浜面にとっては、接触は避けたい相手だ。

    「それじゃ、第2ポイントに移動するか…」
    「待てよ、麦野さんに連絡はつくのか?」

    バンを移動させようとした浜面に、上条が疑問をぶつける。

    「あー、どうなん、フレンダ?」
    『……だめね、電波が通じてない。まぁ、麦野なら何とかすると思うけど…』

    フレンダの声が尻すぼみになる。

    (麦野は心配じゃないけど、勝手にバンの位置を変えたら、後でオシオキされるかも……)

    フレンダの背筋を冷や汗がタラリと流れる。

    『…あー、浜面、さっきの取り消しね。その場で麦野を待っててちょうだい』
    「はぁ!? 能力者とやりあうのはごめんだぜ!!」
    『うっさいなー、私が急いでソッチに戻るから、それまでやり過ごしててよ!!』
    「あ、ゆっくりで良いぜ。敵が現れたら、俺が対処するよ」

    上条が拳の感触を確かめるように、ゴンゴン、と両拳を打ち付ける。

    「…できンのか? この業界、油断と慢心はすぐに命取りになるぜ」
    「リーダーの資料はさっき読んだし、向こうがコッチを無視するなら突っかからねぇよ」

    上条が冷静に答える。
    浜面「ふむ…」と納得するように頷くと、無線機に語りかけた。

    「つーことだ、フレンダ」
    『りょーかい。…麦野に良いトコ見せたいとか、そーゆーこと、考えるんじゃないわよ』
    「出来ることをやるだけですよ」

    上条が、リラックスした笑顔で応えた。




    .

    140 = 1 :

    パンッ、パンッ、パンッ……

    『金庫室』の陵辱劇はまだ続いていた。
    スカジャンは満足したのか、煙草を喫いながらデータの移行を監視している。

    「…チッ、反応無くてツマンネーな…」 
                                            ・ ・ ・
    既に、2人に何度か射精されたのか、佐天の股間は出血と精液でまだらピンクに染まっている。
    今は後背位でメッシュに犯されているが、身体全体が脱力していて、呼吸もひどく浅い。

    「………うっ!」

    程なく、短く呻いたメッシュが何度目かの射精をする。
    佐天は声1つ上げない。

    「おーい、満足したなら、そろそろ引き揚げの準備しようや」
    「ふぅ… そうだな、『体晶』を金庫から出しとくか……」

    そう言って、メッシュが何気なく視線を金庫に向ける。
    すると、その横顔が眩い光に照らされた。

    「…………あ?」

    光の方へ向くと、壁の一箇所が同心円状に発行し、白熱があっという間に進んだと思ったら…

    ドガァァ!!

    メッシュの見つめる壁が一瞬で崩壊し、その先から一条の光線が光速で飛来し、

    ズァ…!

    メッシュの頭部が、一瞬で蒸発して消えた。




    .

    141 = 1 :

    「な、な、何だッ!?」

    相棒が一瞬にして物言わぬ肉槐に姿を変え、スカジャンは狼狽して光線の大本を凝視した。

    「…ん、ようやく目的地に到着したかな?」

    綺麗に丸く穴の空いた壁から、ひどく場違いにのんびりした声が聞こえ、果たして、麦野沈利がその端正な顔を見せる。

    「あー、誰かに当たってたか… 『体晶』も消し飛んでないでしょうねー」

    麦野はメッシュやスカジャン、それに佐天の姿を視界に入れてはいるが、
    『金庫室』の惨劇などお構い無しにキョロキョロと周囲を観察した。

    「お、あの金庫か、情報通りね。さて、頂いていきましょう……」

    その、完全にスカジャンを無視した言動が、怒りの導火線に火をつける。

    「舐めやがってッ!!」

    部屋に隠していたサバイバルナイフを手に取ると、スカジャンはいまだ自分を無視する麦野に突っかかった。

    「死ねぇぇ!!」

    ナイフの切っ先を麦野の顔面に突き出す。
    万人が身構えそうなその突撃に、しかし、麦野は全く慌てるそぶりを見せずに、ただ、うるさそうに掌をナイフに向けた。

    ポワ…ッ

    麦野の掌が淡く発光する。

    「……………ッ!!」

    最早勢いを殺せないスカジャンは、そのまま麦野の掌目掛けてナイフを突き出し…
    ナイフもろとも、片手が前腕まで消失した。




    .

    142 = 1 :

    「………へ?」

    スカジャンが、己の消えた四肢を不思議そうに見つめる。
    そこにあったはずの片手は消え去り、白い前腕骨と、沸騰して湯気を立ててる太い血管が見える。

    「ぎゃぁぁぁぁ!!」

    痛みが一拍遅れでやって来て、スカジャンが悲痛な叫び声を上げる。
    麦野が『原子崩し』を掌に展開し、スカジャンの攻撃を受けたのだ。
    例えるなら、数千度の溶鉱炉に素手をつっこんだようなものだ。

    「ああ、うるさい」

    ズァ…ッ!

    麦野が軽く手を振ると、『原子崩し』がスカジャンの頭部から胸部までを貫き、スカジャンは絶命した。

    「やれやら… これだからやっすい仕事は… ん? この娘は何かしら?」

    その時点で初めて気付いたのか、麦野が虫の息の佐天を発見する。

    「あーらら、輪姦されちゃったのか… ん~……」

    突入前に読んだ資料を思い返す。

    (確か、企業側が用意した囮が居たわね… それがこの娘か…)

    金庫の扉を『原子崩し』で焼き切り、中にあった『体晶』を確保すると、麦野はしばらく思案に暮れた。

    「ほっといてもいーんだけど……」

    なんとなく、なんとなくだが、そうすると上条に嫌われるような気がする。
    そういう思考に至ったことを不快に思いながらも、麦野は佐天を強引に担ぎ上げた……



    .

    143 = 1 :

    「クソッ、クソッ、クソッ!!」

    廃工場の中を1人で走りながら、儀房秀隆が何度も毒づく。
    迎撃に出て、侵入者が『本社』である『コスモ・シリンダー』の私兵だと気付いた。
    自分達が切り捨てられたことを知った儀房は、逃走ルートに指定した6番通路に向かうこともできず、絶対絶命の窮地にあった。

    「データや『体晶』は諦めるしかないのか…ッ」

    今から『金庫室』に戻るのは自殺行為だ。
    部屋に残した2人が上手く逃走していてくれるのを強く願うが、合流するための手段が残されていない。

    「ちくしょう… なんなんだよ、この大穴は…ッ!?」

    儀房が、麦野が侵入するときに空けた『原子崩し』の照射後を忌々しげに見つめる。
    記憶が確かなら、この大穴の先は『金庫室』に繋がっているはずだ…

    「…誰かが強引に『金庫室』に侵入した。しかも、こんな大穴をいくつも空けるヤバイ奴だ… 接敵はできねぇ…」

    素早く思考し、決断を下す。

    「…外部から侵入したのなら、この大穴は外に繋がっているはずだ。そこには、侵入者の足があるかもしれん」

    儀房は賭けに出ることにした。
    この穴の先に脱出手段があることを信じて、大穴を潜る。

    「…あの娘は無事だろうか」

    『金庫室』に残してきた佐天を、この工場内でただ1人、儀房は心配した。



    .

    144 = 1 :

    果たして、儀房は敷地の外で、あからさまに改造されたバンを発見する。

    「…十分だな」

    周囲の環境を確認し、バンにゆっくりと近づく。
    バンの運転席には人の姿は無い。
    すると、後部座席のドアが空いて、ツンツン頭の男子学生が降りてきた。

    相手の姿が分かるまで近づくと、ツンツン頭が声を掛けた。

    「何か用スか?」

    きさくな口調だが、儀房はそんな芝居に付き合うつもりはなかった。

    「誰かは知らんが、そのクルマは頂くぜ」

    会話に乗ってきてくれず、ツンツン頭――上条は密かに全身を脱力させる。

    「…だいぶ能力使ってるみたいだじゃねーか。こっちは無視して、とっとと逃げたら?」
    「ああ、そのクルマを頂いてからなッ!!」

    瞬間。儀房が己の「自分だけの現実」を展開する。
    目標は、懐に隠し持ったペットボトル。
    彼がソレを地面に滑り落とすと、地面に当たる瞬間、
    中の水が弾けた――ッ!!


    .

    145 = 1 :

    「おっとッ!!」

    はじけた水の一部は高速で上条に飛来し、上条が慌てて避ける。

    「水系は、マジで便利だよな……」

    資料に書いてあった儀房の能力名は『純変粘水(スターチシロップ)』。
    その効果は、範囲内の水塊を固体・液体・気体のいずれにも属さない粘体へと変え、自由に操るものだ。

    水操作系としては比較的ポピュラーな能力だが、儀房の能力の真髄はその粘水の汎用性だ。
    固くして殴ればちょっとしたハンマーとなり、あるいは、相手の顔に貼りつかせれば容易に剥がれず、相手は窒息する。

    張り付きは左手の『幻想殺し』で解除できるが、水のハンマーで殴られるのはまずい。
    さらにこちらは徒手空拳だ。近づかないことには話にならない。

    だから、上条は儀房に向かって猛然とダッシュした。

    「……ッ?」

    不審に思いながらも、儀房が水槐のハンマーを上条に叩きつける。

    ドコォ!!

    水槐を左側に受けた上条が、横に吹っ飛んで倒れる。

    「………驚かせやがって」

    あまりにあっけなく決着がついたことを怪訝に思いながら、儀房はバンに近づこうとする。
    倒れた上条との距離が最小となった瞬間、

    「………!!」

    上条が跳ねるように立ち上がって儀房に右手で殴りかかった。

    「……アホかッ!!」

    しかし、それを完全に予想していた儀房が、水をまとわりつかせた腕でパンチをガードする。

    「あら…?」
    「そんなバレバレな『死んだフリ』に騙されるわけねーだろ!!」

    儀房が腕を振る。
    手から伸びた水がフレイルのように変則的な動きを見せ、上条の身体に激突する。

    「ぐぅ…」
    「大人しく気絶しとけ!」

    窒息目当てに上条の顔に水槐を貼り付かせる。

    「ごぼぉッ!!」

    呼吸を止められ、上条が再び地面に転がる。
    暫く観察して、上条が向かってこないことを確認してから、儀房が改めてバンに目を向けた。

    その瞬間――、

    ピカッ!!

    「うぉ!!」

    バンのハイビームが突然煌き、儀房の網膜を光に染めた。
    運転席に隠れていた浜面の操作だ。
    視界を急に奪われて、思わず身体をくの字に折った儀房に…

    「おおッ!!」

    左手で張り付いた水を解除した上条が、高速のワン・ツーを叩き込む。
    左手のジャブが側頭部を、右手のストレートが正確に顎の先を捉えて、儀房の脳が激しく揺らされる。

    「あ、が……」

    脳幹からの信号が一時的に遮断され、儀房が失神する。
    多少、鼻から水が入ったのか、激しく咳き込んだあと、上条は「ふぅ…」と大きくため息をついた。



    .

    146 = 1 :

    「おぉ、なかなかやるじゃ~ん!」

    浜面と2人で儀房を縛り上げていると(当然、隠し持っていたペットボトルは全部回収している)、離脱に成功したフレンダが小走りに走り寄ってきた。

    「ソイツ、『上』に引き渡せばボーナス貰えるかもよ」
    「お、マジ? いやぁ、上条サマサマだな!」

    浜面が嬉しそうに言う。

    「いやぁ… 浜面さんが上手く協力してくれたからですよ」

    実際、上条としてはかなりの綱渡りだった。
    ハイビームのタイミングが早くても遅くても、儀房の隙はつけなかっただろう。

    「あとは麦野さんだけか…」

    上条が、麦野が消えた方角を見る。

    「向こうから連絡は?」
    「結局、無し。表の戦闘も終わったッぽいし、そろそろ引き揚げたい所だけど…」

    その時、縛られている儀房がわずかに身じろぎし、目を醒ました。

    「……うぅ」
    「あ、起きた? 能力使わないでよ。使った瞬間、コイツを爆発させるから」

    フレンダが儀房の耳の穴に粘土状の物体をねじ込む。
    小さな起爆発信機がついたそれは、フレンダお手製のプラスチック爆弾だ。

    「結局、アンタは負けた訳よ。大人しくしててね」

    ニヤリとフレンダが笑う。
    儀房は何も言わない。
    何も言わず、とある行動に集中した。



    .

    147 = 1 :

    (…使うか)

    訓練によって調節された内外尿道括約筋を弛緩させ、少量の尿を気付かれず排泄する。
    排泄された尿をコントロールし、自分のヘソの穴に仕込んだとある粉末を吸収させる。
    慎重に尿を口元まで移動させ、粉末が混じった尿を、儀房は躊躇わず飲み込んだ。

    「………ッ!! なに飲んだテメェ!!」

    儀房の嚥下に気付いた浜面が慌てて儀房の喉を押さえようとする。
    しかし、それよりも早く、儀房が能力を解放する。

    ドゴォォォォォン!!

    まるで爆発の衝撃波を食らったように、上条、浜面、フレンダの三人が吹っ飛ばされる。

    「…な、なんだッ!?」

    苦痛に顔を歪めて上条が立ち上がると、いかなる手段か、拘束していた縄を切断した儀房も、ゆらり、と立ち上がっていた。

    「おおおおオオオオッッッッ!!」

    ヒトのものとは思えない咆哮が、儀房の口から漏れる。
    野生的な戦慄を得た上条が、仲間の無事を確認するために声を上げる。

    「浜面さん、フレンダさんッ!!」
    「つ~~、俺は大丈夫だ!」
    「アタシも!! くっそ~、多分、『体晶』を飲みやがったんだ!!」

    フレンダの発言に一応得心する。
    とすれば、今の衝撃波は能力の応用なのだろう。

    「周囲の水分を操って、放射線状に弾けさせた…?」

    頭を捻るだけ捻って、一応の結論を得る。
    だとしたら、不用意に近づくのは危険だ。

    「うわ~、結局、これってピンチな訳!?」

    フレンダが毒づく。爆発させないことを見ると、プラスチック爆弾も解除されたのだろう。

    「ああああああアアアアアッ!!!!」

    再び儀房が叫び、大気中の水分が一瞬で集まり、散弾のように弾ける!!

    「……ぐぉ!」

    上条とフレンダは、距離もあり何とか避けたが、浜面がダメージを食らう。

    「浜面ぁ!!」
    「クソッ!! おい、上条!! 当たると痛ぇぞ!!」
    「そんなの分かってますよ!!」

    上条が歯軋りする。
    左手で散弾をキャンセルしようにも、範囲が広すぎる。

    (どうするッ! どうするッ!?)

    必死に頭を働かせていると、

    「…結局、新人にばっかり頼ってちゃいけない訳よ!」

    フレンダが動いた。




    .

    148 = 1 :

    フレンダ・セイヴェルンは『アイテム』内唯一のレベル3(強能力者)だ。
    その能力名は『取り寄せ(アポーツ)』。
    範囲限定・重量限定・大きさ限定・よく知っているモノ限定、と様々な制約があるが、効果範囲の物品を掌に瞬間的に『取り寄せ』ることが出来る。

    (相手は『体晶』で強化したといっても、結局は『水使い』ッ! だったら、いくらでも打つ手は有るって訳よッ!!)

    フレンダが意識を集中し、『自分だけの現実』を現出させる。
    掌に取り寄せたものは、上条が台所でよく見るものだった。

    「は… 小麦粉…?」
    「どりゃ!!」

    フレンダが取り寄せた小麦粉の袋を投擲する。
    それは空中で飛散し、儀房の周囲を白く染める。

    「まだまだァ!!」

    恐らく、儀房の対策にと、バンに大量に溜め込んでいたのだろう。
    次々と小麦粉の袋を取り寄せて儀房に投げつける。

    「ぐぐぐぐグググッ!! この、アマッ!!」

    暴走した意識の中で、儀房が歯軋りする。
    今の彼の演算力では、液体であれば何でも操る自信がある。
    それが大気中に微細にしか存在しない水分でもだ。
    しかし、これだけの小麦粉が大気中に飛散すると、それがすべてチャフとなり、演算力が追いつかない。

    「ぃぃぃぃよっしゃぁ!!!」

    フレンダがガッツポーズを取る横で、上条が身を低くして走る。

    「フレンダさんナイスッ!!」
    「おおオオッ!!」

    小麦粉粉まみれになった儀房が、それでも大気中の水分を操ろうと集中する。
    しかし、それよりも速く、上条が高速のステップインで距離を詰める。

    「今度は痛ぇぞ!!」

    ダッキングからの体幹の戻しを利用して、左ショートフックを儀房の肝臓に叩き込む。
    とんでもない激痛が走ると同時に、次は右のショートアッパーが鳩尾に突き刺さる。

    「か… はっ!!」

    悶絶し、儀房がさらに身体を折ると、

    「おおおおおぉぉぉぉぉ!!!」

    地面スレスレを上条の拳がかすり、そのまま天頂方向に軌道を変えたアッパーが儀房の顎を打ち貫いた…ッ!!
    儀房の身体が宙を舞い、背中からバタリと倒れる。

    「…終わった、よね?」

    緊張が解けたのか、ガッツポーズのまま固まっていたフレンダが、脱力して、へなへな、とその場に崩れ落ちた。


    .

    149 = 1 :

    「ん~、頑張ったみたいね。うむうむ、大儀であった」

    麦野がバンに帰還すると、どっと疲れた表情の3人が出迎えた。
    儀房は協力な睡眠薬で眠らせてある。

    「あ、一番の殊勲はアタシだかんね。麦野ぉ、ギャラの増額ヨロシク♪」
    「アンタは… まぁ、ボーナスは申請しといてあげる」
    「やったー!! …で、麦野の『お土産』はなんなの?」

    フレンダが、いまだ意識の戻らない半裸の佐天を指差して言う。
    男2人が、どう扱っていいか分からずにあたふたしている。

    「アタシのマンションに滝壺と絹旗を呼んでちょうだい。
     とりあえずは、2人に治療させてから考えるわ。
     アンタはソコの男を『上』引き渡してちょうだい」
    「うぃ、了解。なーに買おっかなー♪」

    嬉しそうにフレンダが小躍りする。
    それを見て苦笑した麦野が、不意に真面目な顔をして佐天を見る。

    (ホント、どうしたもんかしら……?)

    自分が起こした気まぐれを扱いかねて、麦野はこっそりとため息を吐く。
    そして、「とりあえず、毛布を…!!」「膣洗浄とかした方がよくねッ!?」と騒いでる男の片割れを見る。

    ……自分が佐天を担いで現れたとき、上条は何か救われたようなホッとした表情をした。
    それを、なぜだかその表情を大事にしたい、と、麦野は脈絡も無くそう思った……




    .

    150 = 1 :

    ――ぼんやりとした意識の中で、佐天が会話を聞く。

    自分は助かったのだろうか、それとも、いまだ闇の中なのだろうか?

    夏休み初日が、終わろうとしていた……



    .


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