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    元スレ上条「そこのおねーさん! お茶しない?」 麦野「あん?」

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    501 = 1 :

    とあるホテルの最上階ペントハウス。

    「だせぇ撹乱情報だな… 初春、どう見る?」

    『アイテム』と同じ学園暗部組織である『スクール』も、ターゲットの目撃情報を精査している最中だった。

    「……撹乱、で正解だと思います。問題は、どこの端末から… くぅ… アクセスしているかですが…… はぁ…」

    所々に色っぽい吐息を漏らしながら初春が答える。

    今の初春は、身体にぴったりとフィットしたスクール水着を着ている。
    悪趣味なことに、股間と乳部は布が切り取られ、挿入されたアナルバイブや、乳首に着けられた電極ピアスが妖しく震えている。

    「逆探は?」

    そんな初春の惨状などどうでも良いのか、垣根帝督が無造作に聞く。

    「やってます… 少し時間が掛かりますが、大本の発信源は特定できます…… あん……」

    桃色の吐息を吐いて、初春がうらめしそうに背後に立つ塔下をチラリと見る。
    塔下はにやにや笑いながら、「ん、どうしたの?」とすっとぼけた声を出した。

    「……この悪趣味な道具を外してくれたら、もっと速く検索できるんですが…」
    「あっれー、快楽のパルスは良い感じに出てるんだけどねー。
     初春ちゃん、さっきこっそりイッたでしょ? イク時はイクって言わないとー」

    飄々とした塔下の物言いに、初春がぐっと口唇を噛んで悔しがる。
    この半日で、絶頂すら知らなかった初春の肉体は過激に開発されてしまっていた。

    「…ただ発信源ですが、ターゲットが能力を使用して端末から上げている場合と、そうでない場合も考えられます… ふぅ…」
    「どういうことだ?」
    「い、一日の準備期間があったなら、直接他者に頼むことも可能ということです。
     バイトを雇って、複数の端末から同時に情報を上げることもできます…」

    赤い顔の初春の言葉に、垣根が「ふむ…」と考えるそぶりをする。

    「能力に拠るものと、他者に拠るものと、選別しろ」
    「…もうやってます。 
     花が咲くようにしか咲かないのと同じで、情報も流れる方向にしか流れません。あとはそれを丁寧に辿るだけです」

    ぎこちない動きで初春がタッチタイピングを開始した。

    「…こちらかも質問をしていいですか?」
    「ああ、なんだ?」
    「垣根さんの説明では、反学園組織を釣り上げるために1日ターゲットを泳がした、ということですが、それにしてはそういった情報が上がってきていません。
     そちらの精査は誰か別の人が行っているんですか?」

    ターゲット、天井亜雄とミサカ00000号が1日自由に動き回れたのは、学園都市側の『彼らを餌にして敵性組織を釣り上げる』という方針があったからだ。
    しかし、現在、初春の手元には、そうした学園都市外の組織の情報は集まっていない。

    「……それについては、お前は何も気にしなくて良い。 いや、むしろ俺たちも気にすることじゃねぇ。ちーとばっかり癪だがな」

    答えになっているようで、全くなっていない垣根の言葉に、初春は曖昧に「はぁ…」と相槌を打った。



    .

    502 = 1 :

    「で、どう考えていらっしゃいます、お姉さま?」

    第11学区の貸し倉庫。
    倉庫の奥に作られた居住スペースで、半裸の少女2人が妖しく絡み合っていた。

    「どうって、何が?」
    「今回の件ですわ。哀れな科学者の逃避行、とは理解できましたが、それならお姉さまが彼らを学園都市外にテレポートすれば済む話では?」

    絡み合っているのは結標淡希と婚后光子だ。
    2人は、クィーンサイズのベッドに向かい合わせに横になり、お互いの秘所を、くちゅくちゅと弄りながら会話をしていた。

    「依頼方法も正規のルートとは違っていましたし… きな臭い匂いがしますわ…… あん、お姉さま、手つきがいやらしいですわ…」
    「ふふ… みっちゃんだってやらしーじゃん。私はみっちゃんの手の動きを真似してるだけだし…」

    結標が婚后に顔を寄せ、婚后もそれに答えるように口唇を重ねる。
    2人のかなり大きなおっぱいが、むにゅ、お餅が重なるように、相互に潰れあう。

    「…ぷはっ、…まぁ、確かに変な依頼よね。跳ばすポイントを覚えるだけでも一苦労よ」
    「ふぅ… 昨日は徒歩で学園都市を行脚… 今日からはお姉さまの能力をフルに使っての学園都市内の移動… 腑に落ちませんわ……」

    考え込もうとする婚后に再びキスをすると、結標は手の動きを加速させた。
    じゅぷ、じゅぷ、と淫水音が大きくなる。

    「あぁ… お姉さまぁ… そんなに激しくされますと……」
    「そろそろ時間だし、イッちゃいな…!」

    結標の指が婚后の秘所をかき回しながら、同時に大きく勃起した婚后のクリトリスを、クリクリ、と潰す。

    「………ぁあッ!!」

    婚后の会陰部から脳髄に向かって快感のパルスが迸り、婚后の呼吸が一瞬だけ止まる。
    絶頂の快感を思う存分堪能し、小さく口蓋から舌を出して「あ、あぁ…」と吐息を漏らす。

    「気持ちいいですわ… とても、とても……」

    せがむように婚后が口唇を求める。
    結標がそれに応えて舌を絡め合い、絶頂にひくつく秘所を優しく愛撫していると…

    コンコン、

    ドアから遠慮がちなノックの音が響いた。

    「……すまない、時間だが」

    声は天井のものだ。
    少しだけ焦りを感じる声だ。

    「はぁい、すぐに行くから準備しておいて」

    名残惜しそうに婚后から身体を離して、結標はベッドから降りた。

    「時間厳守って、いかにも理系男子って感じねぇ…」
    「わたくしの父も時間には厳しかったですわ。さて、それではお姉さま……」

    傍らに準備していた濡れタオルで、丁寧に秘所を拭って婚后も立ち上がる。

    「ええ、きっちりしっかりに最後まで。完璧に依頼を遂行するわよ…!」

    静かな、しかし、力強い宣言と共に、結標は軍用懐中電灯のスイッチを入れた。

    503 = 1 :

    「…あの2人は信用できるのだろうか?」

    苦悩と不安とを混ぜ合わせて濃縮したような表情で天井が呟く。

    今日の一日は、恐らく彼にとって人生で最大のヤマ場になる筈なのだ。
    拭っても拭っても、不安が彼の心に侵入し、精神を磨耗させる。
    もし… 自分の計画が完遂できなかったら…

    「クソッ…」

    両手を組んで額に、ゴツゴツッ、と打ち付ける。

    臆病な自分が嫌になる。気弱な自分が嫌になる。
    研究ばかりに没頭し、無駄に歳を重ねた自分が嫌になる。

    「どうして… 私は……」

    不安が、心の底に厳重に封をしていたはずの後悔心を引き出そうとした時、

    「マスター、マスター……」

    ミサカ00000号が、打ち付ける天井の拳をそっと手で包んだ。

    「頭部への過度な刺激は、脳細胞を破壊します。と、ミサカ00000号はマスターに奉ります」
    「……ああ、そうだな」

    組んだ両手をゆっくりと解き、天井はぎこちない笑みを00000号に見せる。

    「少し… 自分を奮い立たせていただけだ… 今日が山場だからな…」
    「なるほど、武者震いというやつですか? と、ミサカ00000号はマスターの頼もしさに胸キュンします」
    「……私がもう少しソフト面に強かったらなぁ」

    天井亜雄は肉体(ハード)面の専門家であり、脳(ソフト)面の専門家ではない。
    クローンであるミサカ00000号の知的成長には、とある天才脳科学者の遺産が使われていた。

    「マスター、マスター。ミサカの情緒はマスターの調教で完璧に仕上がっていますよ? と、ミサカ00000号はこっそりマスターを褒め称えます」
    「ちっとも、こっそりじゃないじゃないか…」

    やれやれ、といった風に天井が苦笑を漏らす。
    そして、自分の中の不安が少し薄らいだのを感じた。

    「……ありがとう、ミサカ」
    「………………?」

    不思議そうに首を傾げるミサカ00000号の頬を撫ぜる。

    (やるしかないんだ… それが私の人生だ……)

    密かに決意を新たにすると、天井は結標と婚后が居る部屋のドアを見やった。

    「……しかし、まだなのか? あまり時間をオーバーすると計画に支障が」
    「もう準備できてるわよ」

    突然、天井の背後から結標の声が響いた。
    ぎょっとして天井が振り返ると、ミニスカート、サラシ、ブレザーの結標と、どこかの学校のジャージを着た婚后が立っていた。

    「い、いつの間に……!?」
    「私の能力は知っているでしょ? 『座標移動(ムーブポイント)』 私にとって距離と空間はすべて紙一重の存在よ」

    結標の台詞に、天井は軽い戦慄を覚えた。

    結標の能力『座標移動(ムーブポイント)』は、彼女が指定する物体を、任意にテレポートする能力だ。
    その効果範囲は極めて広く、かつ、数センチのズレも許さない正確なものだ。

    学園都市全体でも希少なテレポーターの、その頂点に立つのが彼女だ。

    「…少し安心した。単なる痴女かと思っていたところだったからな」
    「あらあら、依頼人にそう言われちゃ、仕事人として失格ねぇ…」

    天井の軽口を軽く受け流して、結標は不意に真面目な顔になった。

    「それじゃ始めましょう。貴方たちは、ひたすらポイントに向かって下さい。何回もテレポートをすることになるから、酔い止めはしっかり飲んでおいてね」
    「分かっている、私たちの命を貴女たちに預けよう。よろしく頼む」

    天井と結標はしっかりと握手をし、それを真似してか、ミサカ00000号も婚后の手を強引に掴んだ。

    「よろしくお願いします。と、ミサカ00000号は黒髪の素敵なお嬢様に申し上げます」
    「おほほほ… どーんと、大船に乗ったつもりでいてくださいな」

    00000の言葉に気を良くしたのか、婚后が豊かな胸を張って応えた。
    その仕草がなんとも可笑しかったのか、結標と天井は同時に、クスリ、と微笑を漏らした。

    504 = 1 :

    「………お?」

    沈黙が支配していた麦野のマンションで、絹旗が短い声を上げた。

    「動いたか?」

    麦野が短く問うと、絹旗がこっくりと頷いた。
    情報の精査に入ってから、1時間ほどが経過していた。

    「はい。情報を『アイテム』の権限を使って『書庫(バンク)』のフィルターに掛けていましたが、この2箇所が超怪しいです」

    絹旗が示したのは、14学区と20学区のとある地点だ。

    「この2箇所は、一般に出回っている地図では空き地ですが、『書庫(バンク)』の情報だと「建造物あり」になっています。
     さらに、滝壺さんの座標とも一致しています」
    「うん…… 少しずつだけど、移動もしているよ……」

    体晶の連続使用で疲弊しているのか、脂汗を流しながら滝壺が言う。
    その隣では、滝壺を心配して浜面がおろおろと百面相をしている。

    「…滝壺、そろそろ限界みたいね」
    「お、おう」

    麦野が言うと、本人よりも速く浜面が頷いた。

    「これ以上粘って、もっといい結果が出ると思う?」
    「超ノーですね。絞り込むだけは絞り込みました。あとは足を使うべきです」

    絹旗が、スッと立ち上がる。
    麦野も小さく頷くと、椅子から立ち上がった。

    「よし、二手に別れるわよ。滝壺はここで待機、アタシと当麻は20学区、絹旗と浜面は14学区よ。
     ターゲットが反学園都市組織と接触する可能性もある。引き際だけは見誤らないように」

    麦野の指示に、それぞれが動き始めた。



    .

    505 = 1 :

    「よし、動くぞ」

    ほぼ同時刻。
    『スクール』もまた、行動を開始していた。

    「確認するが、14学区と16学区だな?」

    垣根帝督が、ずっと桃色吐息の初春に念を押す。

    「は、はい…… その他の情報は、明らかな齟齬や介入が確認できました。確度が高いのがその2つです……」

    良い感じに刺激と快楽に慣れてきたのか、わずかに身をくねらせながら初春が答える。
    その表情は、何かを堪えるというよりも、快感を許容したような茫洋としたものだ。

    「俺は単独で16学区に行く。塔下は14学区だ」
    「了解、エセキャバ嬢は?」

    塔下が、野卑た目で心理掌握を見ると、彼女は不愉快そうに塔下を一度睨みつけてから、垣根の方を向いた。

    「テメエは初春と一緒に居ろ。『スクール』権限を使ってさらに情報に検索をかけろ」
    「……貴方がたの持っていた符丁(パス)なら、すでに使わせていただいていますよ」

    なんでもないような初春の言葉に、『スクール』3人がやや緊張した顔つきになる。
    ここに居る誰も、彼女に暗部の権限や『符丁(パス)』の存在を教えてはいなかった。

    「……いつの間に」

    呆然とした塔下の言葉に、初春が大いに溜飲を下げた表情で答えた。

    「おや、気付いていませんでしたか。他人のカラダを弄ることに集中しすぎですね… あッ!」

    言葉の最後に、塔下が腹いせにバイブの振動を上げたせいで、初春は軽く絶頂したが、その目は生気を宿したままだ。

    「……心理掌握(メジャーハート)、俺が戻るまで能力を使用して初春を拘束しておけ。余計な事をさせるな」
    「了解…… 初春さん、貴女には脱帽よ。心から」

    その言葉に、初春は悪戯を終えた子供のような気持ちで脱力し、肢体を弄ぶ快楽に身を委ねていった。




    .

    506 = 1 :

    第20学区。
    スポーツ工学系の学校が集まるこの学区では、競技場や体育館といった施設が所々に点在し、また、それらの用具や備品が納められれた倉庫が隣接している。
                                           ・ ・ ・ ・ ..・ ・ .・ .・ ・ .・
    深夜、人の気配が消えたその場所に、一台のタンデムバイクがエンジン音を立てずに停車した。

    「……さて、座標はここで間違いないわね。『下肢靭帯機能研究所』建設予定地って… もう施設が出来てるじゃない」

    バイクの前席から降り立ったのは、黒いライダースーツを着た麦野だ。
    ぴったりと身体にフィットしたそのツナギは、暗闇の中でもその見事なボディラインを際立たせている。

    「でも、人の気配がまるでしないな…… やっぱ偽情報…? つーか…」

    後部座席から上条が降り立つ。
    彼は黒ジーパンにロングTシャツというラフな格好だ。

    「なに?」
    「なんかこう、ザ・女スパイ!な感じで、すげぇカッコいいな…」

    遠慮なしに麦野の身体をジロジロ見ると、「ふん」と鼻を鳴らした麦野が上条にデコピンを食らわせた。

    「いてッ」
    「ばーか、褒めるならもう少し上手く褒めなさいよ」
    「ああ…… うん、そのままハリウッド映画に出てもいいぐらいにキマッてる。正直、押し倒してぇ」

    上条が素直に言うと、少しは満足したのか、麦野は「まぁ良し」と呟いた。

    「それじゃ、ここからは真面目に行くわよ。まずは…… んッ!」

    不意に、麦野は上条の手を強く引くと、そのまま身を低くして走り出した。
    突然手を引かれた上条は、すっ転びそうになりながらも、麦野に従って走る。

    200mほど無言・無音で走り抜けて、適当な遮蔽物に身を隠すと、麦野は鋭い眼で件の施設を凝視した。

    「…何スか?」

    小さな声で麦野に問うと、麦野が短く「先客が居る」と答えた。

    「ターゲットではなく?」
    「チラっと見たが、若い男が2人。しかも、ドアの解錠に集中していた。侵入者だ」
    「侵入者?」

    麦野の言葉に、上条が疑問の声を上げる。

    「……接触する反学園都市勢力だったら、侵入なんかしねぇよな?」
    「そうね… とすれば、考えられるのは他の『暗部』組織、か……」

    数瞬だけ麦野は考え込み、そしてすぐに決断した。

    「横撃する。話を聞きたいから、本命はアンタ。上手く気絶させてね」

    麦野の言葉に、上条は静かに頷いて拳のメリケンシールを改めた。

    507 = 1 :

    「ハズレっぽいな、ここ」

    施設の通用門。
    侵入者2人の内、しゃがみ込んで電子キーを解錠していた背の高い男が不満げに呟いた。

    「だな。人の気配は無し。だけんども、何か手がかりはあるかもよ」

    解錠を相棒に任せて周囲を警戒していた小太りの男がそれに同意する。

    「……で、いつ仕掛けてきそう?」

    背の高い男が、何でもない風に尋ねる。

    「えーとだな… おぉ、決断早えな。俺らをノシて情報を聞き出すんだとさ」
    「なんだそりゃ? つーことは、アイツらも『暗部』か… あー、やだやだ、俺は荒事嫌いなんだよなぁ…」

    背の高い男が、解錠作業を諦めて立ち上がる。

    「『コウモリ』。相手が50m内に進入したら合図な。『逆落とし』を発動させる」
    「あいよぅ。タイミング任された」

    スキルアウトや企業の私兵とは全く違う、危険な『暗部』の雰囲気を漂わせ、『コウモリ』と『逆落とし』はギラリと眼を光らせた。

    508 = 1 :

    「…行くぞ」

    麦野が短く言い、音も無く駆ける。
    派手な能力ばかりに目が行きがちだが、麦野の体捌きは相当なものだ。
    身体能力に自信がある上条ですら、本気で走らないと着いていくことが出来ない。

    「相手が気付いたら、牽制に『原子崩し』をぶち込むから、アンタはダッシュ」
    「了解…ッ!!」

    相手との距離がぐんぐん詰まる。
    おぼろげだった人影が、次第にはっきりと視認できる距離になった時、

    「……ん?」

    上条は、それまでドアの前で作業をしていた男が、急に両手を地面に押し付けたのを見た。

    虫の囁き。
    背筋に、ぞわり、とした言い知れない悪寒が走る。

    「……危ないッ!!」

    上条は、咄嗟に併走する麦野を突き飛ばした。

    不意に突き飛ばされた麦野は、「きゃっ!」と凄まじく意外に可愛らしい声を上げて地面に転がった。
    その瞬間、

    バリイイィィィッッ!!!

    地面から青白い稲光が、それまで麦野が居た空間に立ち上った。

    「…………ッ!! こっちッ!!」

    瞬時に状況を判断した麦野が素早く身を翻して駆け、上条もそれに続く。

    相手から見えない適当なビルの影に身を潜め、2人して軽く息を吐く。

    「…今の、なんだろ?」
    「しくったわね… 相手が『暗部』なら、高位能力者であってしかるべきなのに……」

    冷たい汗を流して麦野が後悔の声を出す。

    (最近、企業の私兵ばっかり相手にしてたから、勘が狂ってたわ……)

    反省と後悔は一瞬。
    麦野はすぐに己を取り戻すと、相手の能力について思考を開始した。

    「地面から電光っつーことは、発電能力者(エレクトロマスター)か?」
    「いや、一般的な発電能力者(エレクトロマスター)なら、電光は放射・投射型になるはずだ。
     今のは、どっちかっていうと、設置型、もしくは局所型な感じだった」
    「そうね… ということは…… ん?」

    何かに気付いたように麦野が声を上げる。

    「当麻ッ!! 避けてッ!!」
    「え…?」

    今度は麦野が上条を突き飛ばそうと手を伸ばすが、今度は間に合わなかった。

    バリイイィィッッ!!

    「ぐぅぅぅぁぁぁぁ!!! ちっくしょうッッ!!」

    上条の足元から鈍い稲光が立ち上り、足底から上条が感電する。

    反射的に左手を下肢にぶつけ、それ以上の感電をキャンセルしたが、微かに肉や体毛の焦げる匂いが漂った。

    「……チッ!! 最初の位置まで後退するわよ!!」

    大きな舌打ちを1回打って、麦野は上条の手を引いて走り出した。

    509 = 1 :

    「……駄目だな、当たったが仕留めてねぇ」

    『コウモリ』が軽く首を振って言う。
    その言葉に、『逆落とし』が残念そうに「クソ…」と呟いた。

    「妙に勘の良いヤローだ。初撃といい、俺の『逆落とし』はそんなチャチいもんじゃねぇぞ…!」

    地面から手を離した『逆落とし』が毒づく。

    「…完全に『逆落とし』の効果範囲から出たな。なぁ、めんどくせーから逃げようぜ?」
    「ああ… いや、これで相手が諦めるとも思えねぇし、俺たちの能力は迎撃には向いても、遊撃には向かねぇ。
     ここは、相手が沈黙するか完全に逃走するまで粘るのが良いと思うぜ」

    『逆落とし』の言葉に、『コウモリ』が頷く。

    「だな。それじゃ、相手の出方を… おっ、移動を始めるみたいだ」

    『コウモリ』が耳に手を当てて呟く。

    『コウモリ』の能力は局所的な集音能力だ。
    極めて広範囲の、任意の空間の音を、高い精度で集音することが出来る。
    麦野たちの接近も、わずかに鳴ったモーターの音を聞き分けて感知したのだ。

    「それじゃ、今度も50m以内に入ったら合図よろ。近づいたら能力を使う簡単なお仕事です、と…」

    『逆落とし』の能力は、地面に帯電している微弱な電気をかき集め、一気に放出する能力だ。
    地面限定だが、効果範囲も広く、何より通常では狙い辛い放電を局所に集めることが出来る。

    『コウモリ』と『逆落とし』は互いに視線を交わし、慎重にタイミングを推し量った。

    510 = 1 :

    「どう?」
    「なんとか、走れそうだ…」

    『逆落とし』の効果範囲から出て、麦野は上条の傷の具合を確認した。
    途中で帯電をキャンセルしたのが効いたのか、火傷はそれほどひどくはないようだ。

    (さて、どうする… 瞬殺するだけなら簡単なんだけど……)

    殺しても良いのなら、この位置から『原子崩し』を連射して相手を消し炭に変えれば良い。
    しかし、今回は情報も聞き出したいし、なにより、上条が横に居るときは、あまり破天荒な能力使用はしたくなかった。

    「……俺がオトリになるよ。左手があるから、そこまでやばいことにはならねぇし、あと1発や2発ぐらいは……」
    「駄目よ。さっきはたまたま手が動いたけど、基本的に感電したら四肢は麻痺するのよ。動けなくなってさらに喰らうのがオチよ」

    やんわりきっぱりと上条の提案を蹴って、麦野は全身のライダースーツをあらためた。

    「…オトリは私がやるわ。このスーツは一応の防電機能は備えているから、ある程度は防げるわ。奥の手もあるしね」

    じっと上条を見つめる。

    「アタシが走り出した2秒後に、同じルートを走りなさい。攻撃が来ても足を止めないこと、良いわね?」
    「よくねぇよ! それだと沈利がッ!」
    「うっさい、議論してる暇はねぇんだよ!」

    反論した上条を、声を荒げて遮る。
    麦野は軽く上条と口唇を合わせると、チロッ、と上条の前歯を舐めて言った。

    「暗部組織『アイテム』のリーダーを舐めんじゃねぇよ。これぐらの修羅場はいくつも潜ってきてんだ。つべこべ言わないで…」

    額を、コン、と合わせる。

    「あいつらぶん殴ってノシてこいッ!!」

    511 = 1 :

    「なんだぁ、万歳突撃か? 女の方が真っ直ぐコッチに来るぞ?」
    「自棄になった…? ンなわきゃねぇか、だが、やるこた1つだ」

    『逆落とし』が地面に両手をつけ、『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』を展開する。
    走る女の位置を予測して、AIMを集中させる。

    「……喰らえッ!」

    女の足元から、青白い電撃が鋭く立ち上る。

    「……なにッ!?」

    そのまま女が倒れ付すと思っていた『逆落とし』は、多少フラつたものの、女がそのまま走り続けるのを見て軽く動揺した。

    「あのスーツ絶縁体かッ!?」
    「いやッ、足音のリズムが乱れたッ。効いてる、もう一撃だッ!」

    『コウモリ』の言葉に『逆落とし』が再び意識を集中させる。

    「粘るじゃねぇか、だが、コイツで終わりだ……ッ!」

    512 = 1 :

    (予想以上にきっついわね…!)

    多少の電撃はスーツが無効化してくれたが、それでも無視できないダメージが残った。
    もう一度、アレをまともに喰らうとマズイ。

    (あと30m、ここなら届く… 当麻、ビビるんじゃないわよ……ッ!!)

    心の中で気合を入れて、麦野は走りながらスーツのポケットから1枚のカードを取り出した。

    「上手く散らばれよッ!!」

    妙に厚みと重みのあるそのカードを空中に放り投げて精神を集中させる。

    「喰らえッ!!」

    麦野がカード目掛けて『原子崩し』を照射する。
    光速で直進した破壊光線が、カードにぶつかった瞬間、

    光が拡散した。

    513 = 1 :

    「なんじゃそりゃ!?」

    光速で飛来した幾筋もの光の矢に、『逆落とし』と『コウモリ』が咄嗟に地面に伏せる。

    ドガガガガッ、と自分たちの周りを光の矢が貫いて行き、アスファルトやビルの壁を鋭く刺し抉った。

    「え、えげつねぇ…」
    「当たらんで良かった…」

    抉れたアスファルトを見て、『逆落とし』と『コウモリ』が呆然と呟いた。

    2人が自失していた時間はほんの数秒だった。
    彼らも『暗部』らしく、素早く状況に適応しようとした、

    だが、その数秒で上条が接敵した。

    「おおぉぉぉッ!!」

    右足で地面を強く蹴る。
    慌てて身構えようとする『逆落とし』向かって跳躍すると、上条は勢いのまま左拳をオーバースィングで叩き付けた。

    ドガッ!

    「ぐぉ…!」

    こめかみを強打された『逆落とし』が悶絶する。
    さらに体を密着させ、相手の下腹部目掛けて右拳を打ち下ろす。

    ゴッ、とひどく鈍い音がして、正確に鳩尾を強打された『逆落とし』が、そのままずるずると地面に崩れ落ちた。

    「次ッ!!」
    「待ったッ、待ったッ!! 降参ッ!!」

    上条が次の相手に向いた瞬間、『コウモリ』は両手を挙げて降伏の意思を示した。

    「……テメッ!」
    「降参だよ、降参!! お前らだって仕事でやってんだろ? 俺らだってそうだ、痛い思いなんざしたくねぇよ!!」

    そのあまりにも現金な物言いに、上条がムッとなる。

    「ざけんな! 人に問答無用で能力使っておきながら…ッ!」
    「そりゃ、そっちだって一緒じゃねぇか… とにかく降参だ、情報が聞きたいんだろ? 何でも話すぜ?」

    諦めたように『コウモリ』がどっかと地面に腰を降ろすと、ゆっくりと麦野が近づいて来て言った。

    514 = 1 :

    「…じゃあ質問するぞ。お前らなんでここに居た?」
    「おっかねぇ美人だなぁ… ああ、例のクローン狩りだよ」

    あっさりと言う。

    「ここの場所は?」
    「取得した情報からの1点読み。当たれば儲けモン、ってところだ」
    「成果は?」
    「なし。俺の能力で施設内を調べたが、人っ子一人いねぇ」

    『コウモリ』の言葉に、麦野は盛大な溜め息を吐いた。

    「つまりハズレか… ったく、痛い思いしたっていうのに…」

    あまり期待はしていなかったが、脱力感は相当だった。

    「……当麻、こいつら拘束したら帰るわよ」
    「え、ああ…… 放置して良いのかよ?」
    「別に良いわよ… あんたらはこのレースから降りるんでしょ?」

    上条に拘束されながら、『コウモリ』は頷いた。

    「ああ、元々乗り気じゃなかったからな。陽が昇ったら通常業務だ」

    『コウモリ』がニヤっと笑うのを見て、思わず麦野も苦笑を浮かべた。

    「…あ、そうだ。あんたらの情報の出所はどこ? ネット?」
    「いや、おたくらもそうかもしれんが、『上』から流れてきた情報だ」
    「上から…?」

    麦野の頭に、あのお調子者の声が再生される。

    「……その情報って、オペレーターから?」
    「ああ、そうだぜ?」
    「そのオペレーターってさぁ… なんか妙な口癖…」

    麦野がそう言った瞬間だった。

    ひゅ… と何かが飛来する音が聞こえたと感じた瞬間、『コウモリ』の額に黒く太い鉄釘が突き刺さった。

    「………………?」

    何も言えず、何も感じず、『コウモリ』はそのまま地面に倒れ、死んだ。

    「……なっ、バッ!!??」

    麦野が慌てて上条を押し倒すと、再び飛来音が聞こえ、今度は倒れて気絶していた『逆落とし』の背中に鉄釘が突き刺さった。
    背中から心臓まで穴を開けられて、『逆落とし』も音も発せず絶命した。

    「隠れるぞッ!!」

    麦野が問答無用にビルの壁に『原子崩し』で穴を空け、上条と共に身を隠す。
    寄り添うようにして身を縮めると、麦野は携帯を取り出して滝壺にコールをした。

    軽快な呼び出し音が鳴り、ほどなくして滝壺の声が聞こえた。

    『……もしもし?」
    「滝壺ッ、疲れてるとこ悪いけど、体晶を使って……」

    早口で指示をだそうとする麦野の声を、滝壺の暗い声が遮った。

    『麦野ぉ… 絹旗が……』
    「あぁ!? 絹旗がどうした!?」

    嫌な予感が頭をよぎる。

    『絹旗が… やられちゃった……』

    麦野の顔面から血の気が一気に引いた。

    515 = 1 :


    ――――時は少し溯る。

    14学区の指定されたポイントへやってきた絹旗と浜面は、そこで1人の能力者と相対した。

    「あぁ、キミらもクローン狩りにきたんだ… 残念だけどここには何も無かったよ」
    ・...・ ・ ・ ・ ・
    瓦礫と化した14学区の建物跡に、頭に特徴的なゴーグルを着けた少年が立っていた。

    「でも、手ぶらで帰るのもなんだし、いっちょ、ここは同じ『暗部』を拉致ってみますかね… と!」

    いやらしい目つきで、絹旗の体を舐め回すように観察して、『スクール』の構成員、塔下が言った。




                                                                 続く




    .

    516 = 1 :

    はい、以上です。

    エロいシーンもっと書きたかった…
    次回もまたキリの良いところまで書けたら投下します。でわ。

    517 :

    だから塔下って誰だよ質問に答えろクズ

    518 :

    ゴーグルくんだろ

    乙。こーいう暗部暗部してるのを他に見ないから凄まじく楽しみだっぜ!

    519 :

    オリキャラ出すなよ気持ち悪い
    ただでさえ気持ち悪いのに

    520 :

    乙!
    おもしろいしこのまま頑張って下さい


    文句つけてる奴等、嫌なら見るな

    521 :

    死角にしかテレポ出来ない出来損ない君だろ


    原作読み直してこい糞餓鬼

    522 :

    嫌で~すwwwwww

    糞餓鬼に糞餓鬼って言われたくありませーんwwwwww

    文句?つけるよ。このSS気持ち悪いもん

    523 :

    埋めてないだけありがたいと思えよクズ共とクズ>>1さっさと死んでくれwwwwww

    524 :

    >>522>>523

    たしかに気持ち悪いね。でも、貶しちゃいかんよ。貶しちゃ……

    525 :

    何様だ、こいつらは

    526 :

    こいつらじゃない。
    全部単発ID、キチガイ一人の自演。

    527 = 524 :

    いや>>524は俺だけど、SSの内容は嫌ってないよ。


    「思ってても非難するレスはしちゃダメだよ」
    って言いたいだけ…
    誤解したなら、ごめんなさい

    528 :

    そのクソコテ他でも荒らしてる
    無視が一番

    529 :

    毎回おもしろいよー
    みてるからねー

    530 :

    餓鬼とバカは黙ってNG安定だろ

    531 :

    心理定規と心理掌握間違ってるよ

    532 :

    揃いも揃って頭のネジがぶっ飛んでる

    533 = 532 :

    揃いも揃って頭のネジがぶっ飛んでる

    534 :

    基地外どもは放っておいて書き続けてくれ>>1
    こんなに好みど真ん中直球なSSは他にそうないから
    期待してる

    535 :

    そうだ
    批判しか出来ない奴はほっといて
    書いてくれ

    536 :

    昨日見つけて一気に読んでしまった
    もうね、どストライクですよ
    股間と心臓に悪いわホント

    537 :

    なぜ黙ってNGが出来ないのか

    538 :

    いい[田島「チ○コ破裂するっ!」]のオカズだわ

    539 :

    >>538
    そういうレスがかなり嬉しかったり。
    使って頂けて幸いです。もっとエロくなるように頑張ります。

    >>531
    「食蜂さまの最適化は完璧ですので!」(眼の中にしいたけ)

    ちょっと体調崩していますので、次回投下は少しお待ちください。
    3ヶ日でいっぱいかけて投下できることをめざします。

    ではでは、来年も良いお年を……

    540 :

    そのまま死んでくれ

    541 :

    初春のスク水着陵辱みたいです

    542 :

    絹旗wktk

    543 :

    あけおめ
    お大事に

    544 :

    早く治して
    更新してくれ

    545 :

    インフルだったわ、マジ辛い…

    書けたので20:30より投下します。

    547 = 1 :

    それじゃ投下します。
    今回はちょっと短め、20kb弱。

    548 = 1 :



    「浜面ッ! 超離れていて下さい!!」

    目の前の男から異常な雰囲気を感じる。
    相手が『暗部』の能力者であるなら、無能力者である浜面が危険だ。

    絹旗は浜面を庇うように前に出ると、手ごろな子供ほどの大きさの瓦礫を持ち上げ、一気に塔下目掛けて投げつけた。

    「おぉ! スレンダーロリの怪力娘!? なにそれ萌える~!」

    ごぉ! と音を立てて飛来した瓦礫を軽い身のこなしで避けると、塔下は足元のバックからサブマシンガンを取り出し、腰だめに構えた。

    「げ、マジかアイツ…!」

    超能力よりも、さらにリアルな暴力の象徴を見て、浜面が慌てて瓦礫の影に身を隠す。

    「……超余裕!」

    しかし、絹旗は恐れるどころか、逆に勝機とばかりに塔下に向かってダッシュした。
    銃器を前にしたその行為に、若干の違和感を感じながらも、塔下は躊躇いもなく引き金を引いた。

    「玉砕覚悟? つまんねー……」

    バリバリバリ……!!

    安っぽい爆竹が連続して爆ぜるような音が3回して、銃弾が絹旗に降り注ぐ。
    一応、無力化を狙ってか、絹旗の脚目掛けて放たれた銃弾は、正確に絹旗の両足に集弾され、

    ぐちゃ、

    そのまま、見えない壁に押し潰されるように変形し、絹旗に傷1つ着けることなく地面に転がった。

    「……へ?」
    「私の『窒素装甲(オフェンスアーマー)』は、拳銃弾ごときでは貫けませんので…ッ!!」

    絹旗の能力『窒素装甲(オフェンスアーマー)』は、大気中の窒素を操る能力だ。
    効果範囲は体表から数センチと狭いものだが、圧縮された窒素の強度は凄まじく、自動車を持ち上げたり、弾丸を受け止めたりすることも可能なのだ。

    「超頂きました!!」

    能力を使用した絹旗のボディブローが、塔下の鳩尾に食い込む。

    「ぐほっ!!」

    激痛と衝撃に体が九の字に折れ曲がり、塔下はずるずると地面に崩れ落ちた。

    「ふぅ… さて、超色々と話を聞かせてもらいますよ…!」

    意識がトバないぐらいには手加減をした。
    絹旗は塔下の腕を捻り上げると、そのまま馬乗りになり行動を制限した。

    「……いってぇ、俺にはMッ気無いのになぁ… 上に乗るならもっとこー、腰を振るカンジで乗ってもらいたいなぁ…」
    「減らず口ばっかり言っていると、テメェの金玉、超握り潰しますよ?」
    「うわぁ、おっかねぇ……」

    絹旗に見えない位置で、塔下は口の端をぐにゃりと歪めて笑った
                ・ ・ ・ ・ ・ .・ ・
    「おっかねぇから、俺が握り潰すわ」

    549 = 1 :

    その瞬間、絹旗を凄まじい激痛が襲った。
                                  .・ ・ ・
    気絶すら許さないその激痛は腹部から、いや、腹の中からだ。

    「がッ… ぐぁ… なに、を……!?」
    「癪に障るってさー、言葉があるじゃん? あの癪って、諸説色々あるけど、一説には胆嚢のことらしいんだよね」

    激痛により拘束が解かれ、塔下が逆に絹旗を押し倒す。

    「まぁ、つまり、胆嚢っていう臓器が痙攣したりするとすんげー痛いわけ。まぁ、どこの臓器でもそうなんだろうけどさ」
    「まさ、か……!?」

    脂汗を大量に流しながら、絹旗が1つの可能性に思い至る。

    「念動……!?」
    「大正解! 俺の能力『第三透手(インビジブルサード)』は3本目の俺の腕だ。
     強度はあんまり大したことないけど、巧緻性はちょっとしたモンなんだぜ? 感覚もあるから、君の内臓の形がよく分かるよ」

    内臓痛は人間の感じる『痛み』の中でも、特に異質なものだ。
    そして、その一番の恐ろしい点は、『慣れることが出来ない』ということだ。

    激痛が腹部から下腹部に移動する。塔下が圧迫する部位を胆嚢から腸に変更したのだ。

    「ぎゃああ!!」
    「あはは! 痛ったいだろー? 腸は特に過敏な臓器だからねぇ… ん? あれ、君、便秘してた? 詰まってるよ?」

    あまりの激痛と羞恥から、眼から一筋の涙を流し、絹旗はとうとう気絶した。

    「…あれ、イッちゃった? ほんじゃまぁ、後始末しますか…ッ!」

    塔下はそう呟くと、不意に能力を使って落ちていたサブマシンガンを拾い、横薙ぎに弾幕を張った。

    「…チッ! もう少し油断してろよテメェ!!」

    足音を殺し近づこうとしていた浜面が、慌てて遮蔽物に隠れる。

    「いやー、美女・美少女はともかく、男はお呼びじゃないんだよね? 鴨撃ちするから出てきてよ」

    『第三透手』でサブマシンガンを引き寄せ、瓦礫に向かって連射する。

    ガガガガッ、と盾にしている瓦礫が銃弾に削れる。
    跳ね上がる心音を耳で感じて、浜面はジッとチャンスを待つ。

    550 = 1 :

    そして数秒後、カチリ、という音と共にサブマシンガンが動きを止めた。弾切れだ。

    「よっしゃぁぁ!!」

    雄叫びと共に浜面が瓦礫から躍り出る。
    相手が新たな武器を手にするより早く接敵するため、猛然とダッシュする。
    だが、

    「お前、馬鹿だろ?」
    「あ゛!! うお!!」

    塔下の直前2m、足元を見えない何かに阻まれて、浜面は盛大にすっころんだ。

    「はい、悶絶、終了~」

    そのまま浜面の背中に足を乗せ、『第三透手』で浜面の胃を探り当てる。
    これまで感じたことの無い激痛が浜面を襲う。

    しかし、この状況が浜面の待ち望んでいたチャンスだった。

    「……馬鹿はテメェだッ!!」

    常人ならば悶絶して動けない激痛の中、浜面が強引に身体を動かし塔下のバックを取る。

    「バッ! とっとと死ねよッ!!」

    塔下が浜面の胃を握り潰そうと力を加える。
    激痛がさらに増し、気を抜けば失神しそうになるが、浜面は根性でそれに耐え切り、叫んだ。

    「ふじなみぃぃぃぃ!!!!」

    塔下の両手をフルネルソンでがっちりホールドして、そのまま海老反りに体幹を伸展させる。
    浜面と塔下の天地が急速に逆転し、塔下が暗い夜空を知覚した次の瞬間。

    どがぁ!!

    見事なドラゴンスープレックスが炸裂し、塔下の後頭と頸椎とが地面に激突、意識を完全に断ち切った。

    「はぁはぁ…… 早く絹旗を連れて帰らねぇと……」

    自身も少なくないダメージを負っているが、それでも気力を振り絞って絹旗を背負う。

    「なんかヤベー感じがするぜ、このヤマ……」

    足取り重く、浜面はこの場から立ち去った。

    そして、その直後、

    ヒュン…!

    1人取り残された塔下の頭部に、飛来した鉄釘が打ち込まれた。
    塔下は2度と意識を取り戻す事なく、絶命して果てた。


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