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    元スレ鳴上「月光館学園か」有里「八十稲羽?」

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    651 = 644 :

    完二「ったく、ガキは騒がしくて……ん、なんスか先輩」

    有里「いや、完二は優しいんだね」

    完二「は、はァ!?いきなり何言いやがんだよ!」

    有里「いいじゃない。褒めてるんだから」

    完二「まぁ、そりゃかまやしねぇけど……びっくりしちまうじゃないスか」

    有里「懐かれてたね、あの子に」

    完二「ああ、ちょっと変わったヤツなんスよ」

    有里「他の子達も、本当に僕に教わりたいんじゃなくて、そうした方が完二が面白い反応をするから選んだって感じだったしね」

    完二「なっ!そうなんスか!?くっそ、あいつら……」

    有里「しかし、流石にあの歳はどうなのかなぁ」

    完二「は?何がっスか」

    有里「直斗がショック受けるだろうなぁ……完二があんな小さい女の子と……」

    完二「いや、別にそういうんじゃ無かっただろが!ていうか、何で今直斗が出てくンだよ!」

    有里「あれ?てっきり完二は直斗が……」

    完二「うわ、うわー!やめろってマジで!それ他で言ったらいくら先輩でもぶっ飛ばすからな!」

    >完二は気付かれていないつもりらしい……。
    >多分、気付いてないのは当人同士くらいのものだろうから、黙っておいてやろう。

    完二「はぁ、はぁ……すんません、アツくなっちまって。とにかく、今日はマジでありがとざっした!」

    有里「いやいや、楽しかったよ。よければまた呼んでほしい」

    完二「へへ、そっスか。じゃあ、またお願いしやす」

    有里「ん。じゃあ、また明日。今日は帰るよ」

    完二「うス、お疲れ様っス。また明日!」

    >完二は子供達に好かれているようだ。
    >ああ見えて、人は良いんだよな……。


    【夜 堂島宅】


    菜々子「今日もお父さん遅いって……」

    有里「そっか……忙しいんだ、仕方ないね」

    菜々子「湊お兄ちゃん……」

    有里「ん?……じゃあ、本でも読んであげようか。読み終わったら寝るんだよ」

    菜々子「うん!えへへ……」

    >……。

    652 = 644 :



    【2012/5/23(水) 晴れ 巌戸台駅】


    >買い物に行こうと駅へ向かうと、駅前で順平さんを見かけた。

    鳴上「……へぇ」

    >物静かな女性と歩いている。
    >女性のほうはともかく、順平さんは楽しそうだ。

    順平「……じゃ、今日はこの辺で。またな!」

    「……」

    順平「おいおい、どしたよ?」

    「何でもない。次は……」

    順平「あ、もしかして寂しいか?まぁ俺がいなくちゃ寂しいってのもよーくわかるけどよ!聞き分けは良くしなきゃいけねーよ?」

    「……帰る」

    順平「あっ、悪い!謝るって!ジョーダンだから!な!」

    「別に怒ってないわ。私も、ちょっとからかってみただけ」

    順平「え?……ったく、焦らせんなよな。そんじゃ、また!」

    「……また、ね」

    >女性と別れた。
    >……どうやら、こっちに気付いたようだ。

    順平「よっ、鳴上じゃねーか。どした、出掛けんのか?」

    鳴上「ええ、少し買い物に。……順平さん、中々やりますね」

    順平「やるって、何を?」

    鳴上「今の人、彼女じゃないんですか?」

    順平「あ!?ああ……見てたんだな。まぁ、恋人!では、無い、よな……うん」

    >自分で言いながらどんどん落ち込んでいく。

    鳴上「仲良さそうに見えましたけど、違うんですか」

    順平「あー、そうなれたらいいなっつーか。あいつは……特別な相手ではあるけど、恋人っつーとちっと違うんだな」

    鳴上「何か、難しい関係みたいですね」

    順平「難しくもねーけどな。……ほれ、前に言ったろ。俺の進路の話」

    鳴上「ああ、やりたい事がある、とかなんとか」

    順平「そうそう。それ、アイツの事なんだよな。アイツさ……なんつーんだろ、病気っつーか。体がちょっと普通じゃなくてよ」

    鳴上「今医療系に進んでるのって、もしかして」

    653 = 644 :

    順平「そういうこと。アイツの体なんとかできねーかなって。ほんとは薬学じゃなくて医学部行きたかったんだけど、俺の頭が追いついてくれなかったんだよ」

    鳴上「なるほど、それで」

    順平「だから、大切なヤツではあるけど。今のトコそれ以上にゃなってねーな。……そういや、お前は進路決まったんかよ」

    鳴上「それが、まだ決まってないんですよ」

    順平「ダメだぜ、早いうちに決めないと。トコロによっちゃ一年の後半じゃ受けてくれねーとこだってあんだからよ」

    鳴上「そうですね……といっても、見えないんですよ、本当に。俺って何がしたいんだろう」

    >順平さんは大袈裟なため息をついた。

    順平「んなもん俺が知るかっつーの。なぁんだよお前全然だな。人の世話ばっかしてねーでちったぁ自分の事も考えたらどうだよ?」

    鳴上「です、ね……」

    >昔、誰だかに言われたような気もする。
    >人に構うのは大いに結構だが、自分の足元もおぼつかないようで何が出来るのか。
    >俺は……。

    順平「いや、悪かったよ。言い方が悪かった。そんなにヘコまなくていいだろ。な?」

    鳴上「あ、いえ……別に……」

    順平「あー……なんだ。人の為に働くのが好きなら、例えば警察官とか、なんかあるだろ、それっぽいの。そういうのじゃダメなのかよ?」

    鳴上「警察官ですか……何か、そういうんじゃないんですよね」

    順平「じゃあそうだな……お前が今まで見た中で、あ、これいいなって仕事とかは?無いの?」

    鳴上「あんまり……」

    順平「……じゃあもうあれだ!何か、お前が感謝してるヤツとかさ!命の恩人でもなんでも、そういうヤツの仕事とか!?」

    鳴上「感謝してる、人……」

    >それならたくさんいる。
    >だが、たくさんいすぎて逆に困ってしまう。
    >感謝……か。

    鳴上「……あ」

    順平「お、キタか!?思いついたか!?」

    鳴上「ちょっとだけ、ですけど。見えたかも……?」

    順平「そーだよその意気だ!で、どう進むんだ?」

    鳴上「まだ、内緒です」

    順平「なんだよ、進路決定の大恩人だぜ?なあちょっとだけ教えろって」

    鳴上「そう言われても……」

    >どん。
    >擦れ違った人と肩がぶつかってしまった。

    鳴上「あっ、すみませ……?」

    >その人はまるで俺の事など見えていないかのようにふらふらと歩いていった。

    順平「ちっ……なんだアイツ、感じ悪ぃな」

    >気になって、結局買い物にはいけなかった。

    654 = 644 :



    【2012/5/23(水) 晴れ 夕方 八十神高校】


    陽介「終わった!帰る!帰るぞ!」

    千枝「私も帰るー。有里君、良かったら一緒に……」

    陽介「お、攻めるね里中!」

    千枝「な、何よ、ダメなわけ?」

    陽介「別に?スキニシタライーンジャナイデショーカー」

    千枝「うわ、うざ……あ、有里君。校門とこで待っとくから」

    有里「うん。すぐ行くよ」

    陽介「俺も俺も!一緒に帰ろうぜ!」

    千枝「……まぁ、いいけど」

    >二人はさっさと荷物をまとめると教室から出て行った。

    有里「天城さんは帰らないの?」

    >天城さんは席に座ったままぼんやりとしている。

    雪子「へっ?あ、ああ。帰る、帰るよ。うん」

    有里「どうかしたの?」

    雪子「どうかしたっていうか……うん。ちょっと、羨ましいなって」

    >そう言うと、困ったように笑った。

    有里「羨ましいって、誰が?」

    雪子「千枝がね。……あんな風に、好きな人とか好きな物に向かうのって、凄く羨ましいっていうか、素敵だなって」

    有里「……何でそこまで気に入られてるのか、僕としては良くわからないんだけどね」

    雪子「何でだろうね?それは本人に聞いたらいいんじゃないかな、なんて。私は……そんなに好きな人、いないから」

    有里「天城さん、美人なのに。もったいないね」

    雪子「ふふ、ありがと。ほんと言うとね、鳴上君の事好きだったんだと思う。けど、りせちゃんとか、直斗くんとか。応援してる内に、諦めついちゃった」

    有里「悠も罪作りだね……」

    655 = 644 :

    雪子「あ、でもそれ有里君が言うとちょっと違うかも」

    有里「ん?何で?」

    雪子「お前が言うな?みたいな」

    有里「……あ、そう」

    雪子「鳴上君の事は好きだったけど、友達を押し退けてまで欲しいかっていうと、それも違う気がして……ね」

    有里「遠慮?」

    雪子「まぁ、そんな感じ。友達より上に来なかったんだから、そんなに好きでもなかったのかな?なんて思ったりして」

    >ペンを手で弄びながら言う。
    >斜光に映える顔をしているな、と思った。

    有里「天城さんがそれでいいなら、僕は何も言わないけど。それでいいなら、ね。後悔があるなら、きっと引くべきじゃなかったんだ」

    雪子「後悔は無いよ。うん。だけど、羨ましいと思う事はある。私もあんな風に、まっすぐ生きていけたらなあって、思う」

    有里「千枝は熱量高いからね。その点で言えばりせとかもそうかな。天城さんはそうなりたいの?」

    雪子「なりたい。納得したフリして、言い訳して逃げたりしないから。私はまだ、そんな風にはなれてないから……」

    有里「……熱量は燃料によって決まるんだよ。ほら、文字通り燃えるような恋でもしてみたらどうかな。陽介とか、待ってると思うよ」

    雪子「花村君?花村君はお友達だよ」

    >陽介には黙っておこう。

    有里「そう?じゃあ僕とか。どうかな?」

    雪子「……んー」

    有里「微妙か……」

    雪子「あはは、ごめんごめん。有里君は、うーん。鳴上君がいなかったらわかんなかったかも」

    有里「あれ、意外と高評価」

    雪子「ふふふ。千枝には内緒ね。って、そうだ二人とも待ってるよ。早く行かないと」

    有里「ああ、そうだったね。急ごう」

    >天城さんと話をした。
    >彼女は彼女で色々複雑そうだ。

    陽介「お、来た来た。おやぁ?天城女史と二人で歩いてきますねぇ。里中女史、これはどうしたことでしょうか!?」

    千枝「……いやいや、普通に教室から一緒に来ただけじゃん。不思議な事ないでしょ」

    有里「お待たせ。帰ろうか」

    656 = 644 :

    雪子「あっ……まただ」

    >天城さんが見ている先には男が立っている。

    陽介「知り合いかよ?」

    雪子「ううん、違うんだけど……今朝学校に来る途中でも会ったの。何か、フラフラしてて……」

    有里「影人間」

    >無気力症。
    >影を食われる。
    >影人間。

    千枝「ただの変な人なんじゃないの?」

    陽介「何にせよ、ちょっと気味悪ぃな……」

    >シャドウらしき影。
    >堂島さんが追っている「事件」。
    >無気力症。
    >影時間の消失。
    >テレビの中の世界の消失。

    有里「……そうだね」

    >繋がりつつある。
    >それも、嫌な方向に。
    >手遅れになる前に、手が見つかるといいが。



    【2012/5/24(木) 晴れ 夜 堂島宅】


    堂島「ただい……なんだ、今日は起きてたのか」

    有里「ええ。少し質問がありまして」

    >堂島さんは疲れきった様子でソファーに身を沈ませた。

    堂島「手短に頼む。少し……いや、かなり疲れてるんだ」

    有里「ええ、そう見えますね……ですが、簡単に済むかどうかはわかりません」

    堂島「重要な話か」

    有里「とても、重要な話です」

    >件のライターで煙草に火をつける。

    堂島「……聞け。なんだって答えてやる」

    有里「ありがとうございます。まず、今堂島さんが追っている事件について。職業上、明かせないのはわかりますが、僕のような何の力も無い高校生に、ぽろっと話すくらいはしてくれても良いと思います」

    堂島「今追っている事件か。事件なのか、また別の話なのかはわからん。が、とにかく異常だって事で俺達が捜査にあたってる」

    有里「それは、例えば家を出た家族が帰ってこない、だとか。そういう案件が多数報告されているとかでしょうか」

    堂島「その通りだ。学校に行った子供が帰ってこない、仕事に行った夫が帰ってこない。そういう話が多数あがってる」

    有里「昔、そういった事件が話題になったのを覚えていますか」

    堂島「ああ。三年ほど前だったか。あれは病気のせいだったはずだ。無気力症と言ったか」

    有里「今、また同じ事が起こっている。そう考えて良いんですね」

    堂島「……その線が濃いだろうな」

    有里「……わかりました」

    堂島「終わりか?」

    >……一際、煙を長く吐いた。

    657 = 644 :

    有里「ええ、一応は。あまり喋らせても、警察としてまずいでしょうし」

    堂島「ありがたいね。……この事件、お前が追ってたヤツと同じか?」

    有里「ええ、恐らくは」

    堂島「解決策はあるのか」

    有里「……恐らく、は」

    堂島「お前、覚えてるか。俺がこの前言ったこと」

    有里「俺と菜々子の事も考えろ、でしたよね」

    堂島「忘れてないなら良いんだ。……なんていうんだろうな。何かに殉じるっていうか、そういう目をしていたから」

    有里「……菜々子は、泣きますかね」

    堂島「さぁな。悠が出て行った時はどうだったかな……」

    有里「まさか、菜々子を泣かせるわけにはいきませんよねぇ」

    堂島「そう思うなら、わかってるだろうな」

    有里「ええ。危ない事はしません……とは言いませんが。ちゃんと帰ってくるつもりです」

    堂島「そうか。安心した。……俺はもう寝るぞ」

    有里「はい。僕も寝ようと思います。……おやすみなさい」

    >やはり、影人間だ。
    >テレビの中にも入れず、影時間も無く。
    >それでも影人間が生まれるということは、恐らくは……。

    有里「帰ってくるつもりです、か。……はぁ」

    >今日はもう寝よう。
    >明日、悠に連絡をとってみよう……。


    【2012/5/24(木) 晴れ 夕方 ポロニアンモール】


    美奈子「ねぇ、気付いてる?」

    鳴上「何にだ?」

    >今日は、昨日買えなかった物を揃えに出掛けたのだが。
    >寮を出るとき、美奈子に捕まってしまい、そのまま何故か一緒に買い物する事になった。

    美奈子「人。変な人多くない?」

    鳴上「ああ……確かに」

    >ぼんやり立ったままの人、ふらふらするだけの人、俯いてじっとしゃがみこんでいる人。
    >全体から見れば割合は多くないが、今まで見なかった分かなり多く思える。

    美奈子「どう思う?」

    鳴上「……事件と、無関係じゃなさそうだな」

    >次の段階。
    >中と外の入れ替わり。
    >……影人間。

    美奈子「でも、今テレビには入れない。どうしようか」

    鳴上「どうしようも無いな……くそっ、どうなってるんだ」

    >掲示板を調査していた山岸さんはまだ復帰できていない。
    >今夜辺り覗いてみるか……。

    美奈子「……とりあえず、今日は買い物して帰ろう。ね?」

    鳴上「ああ……」

    >必要な物だけを買って帰る事にした。

    658 = 644 :



    【巌戸台分寮】


    アイギス「お帰りなさい」

    美奈子「ただいまー」

    鳴上「ただいま……」

    >ラウンジにはアイギスさんがいた。

    アイギス「鳴上さん、どうかしましたか?」

    美奈子「ああ、ちょっとね。悠、私部屋戻るね」

    鳴上「ああ。……ふぅ」

    >アイギスさんが心配そうにこっちを見ている。
    >なんだか、この人には心配かけっぱなしだな……。

    鳴上「大丈夫です、疲れたとかじゃなくて……無力感っていうんですかね。ちょっと凹んでるだけで」

    アイギス「……それも、心配です」

    鳴上「そうですか。平気ですよ、別に。やる気だけはありますんで」

    アイギス「……Mement mori」

    >ぽつり、と耳慣れない言葉が聞こえた。

    鳴上「えっと……なんですか?」

    アイギス「Memento mori。哲学用語だったと思います。直訳すると、死を想え」

    鳴上「死を、想え」

    アイギス「人は……いつか必ず死んでしまいます。それは避けられない事です」

    >アイギスさんはココアの入ったカップを差し出しながら言う。

    アイギス「それを忘れるなと、そういう意味です。毎日を悔いの無いように生きる事、それが死を想うこと」

    鳴上「なるほど……」

    アイギス「私が見るに、鳴上さんはそうやって生きる事が出来ているように思います。何があってもただまっすぐぶつかって乗り越える……その姿勢はすばらしいです」

    鳴上「……」

    アイギス「無力なんかじゃないと思います。あなたは、あなたにしか出来ない事をしている。何も進んでいないように見えても、どこかで誰かに影響を与えている」

    鳴上「俺が、ですか」

    アイギス「ええ。私にも、他の誰かにも。だから、落ち込まないで。あなたが落ち込んでいると、周りの皆も少し……」

    鳴上「……わかりました。だからそんな顔しないでくださいよ。ちょっと、これから事件の事調べてきます!」

    アイギス「ココアを飲んでから、ですね」

    鳴上「ん、そうですね」

    >ココアを飲み干して、部屋に向かった。
    >……。

    659 = 644 :


    鳴上「例のスレッドは……あった。うわっ、何だこれ……」

    >以前見た時より遥かに勢いが増している。
    >パートも、知らない間に随分と伸びているようだ。

    鳴上「書き込みは……やっぱり、新しい噂が流れてる。次の段階か」

    >内と外の入れ替わり。
    >現実に徘徊するシャドウ。
    >近付く滅び。
    >……降臨の時。

    鳴上「降臨の時……いつだ?」

    >Nyx降臨に関する話題を辿る。

    鳴上「影人間が増えて……それから。シャドウが目に見え始めて……それから。……次、か」

    >入れ替わりとは、名の通り起こる現象の入れ替わりである。
    >本来ならテレビの内側にしか存在しないシャドウが現実に現れ始める。
    >最初はシャドウを見る事は出来ない。
    >影人間が増え、シャドウの力が増すと、シャドウの姿が見えるようになる。
    >そして、シャドウが姿を現すようになってから。

    鳴上「最初の雨の夜、再びマヨナカテレビが映る。世界の滅びは、そこから発信される……」

    >天気予報サイトを見てみる。

    鳴上「次の雨は……27日。日曜日」

    >決戦の時が、決まった。

    660 = 644 :

    仲間と過ごす毎日。
    侵食される毎日。
    月が落ちてくる。

    というわけで本日分はここまで。
    では、また後日。

    662 :

    乙!
    しかしゆかりっちがジョジョを読んでいたとはな

    663 :

    >>230
    読んでるよレスも付けてるよ…
    俺は向こうの手広過ぎた奴より、>>230のしっかりとP3P4のネタの方が好きだぜ?

    664 = 663 :

    ごばった!(しくしく)

    665 :

    ゴバクヤメテクダサーイ
    ハズカシイデース

    というわけで本日分。

    666 = 665 :



    【2012/5/25(金) 晴れ 巌戸台分寮】


    >Pipipi……
    >電話だ。

    鳴上「もしもし」

    有里『もしもし、おはよう。少し時間をくれないか』

    鳴上「そっちでも何かあったんだな」

    有里『流石に理解が早いね、助かるよ。……ってことは、やっぱりそっちでも何かあったんだね』

    鳴上「ああ。影人間……無気力症になる人間が増えてきている」

    有里『こっちも同じ。何かわかった事は?』

    鳴上「噂が本当になるんだそうだ」

    有里『噂が?』

    鳴上「火の無い所に煙が立ちまくってる。影時間も、マヨナカテレビも、ある掲示板で語られ始めた噂が最初だ」

    有里『……冗談だろう』

    鳴上「冗談でもなんでもない。そこに新しい噂が流れ始めて、今に至る」

    有里『なんというか、力の抜ける話だね……』

    鳴上「仕方ないだろう、事実だ」

    有里『で、新しい噂って?』

    鳴上「シャドウが現実に徘徊するようになるんだそうだ」

    有里『あ、やっぱり』

    鳴上「ああ。そして影人間が増え、シャドウは力をつけ続ける」

    有里『……』

    鳴上「今は目に見えないシャドウが、目に見えるようにまでなるんだと」

    有里『それ、誰が言い出したんだろうね』

    鳴上「さぁな、俺達からしたら荒唐無稽でも、何も知らない奴らにはそれなりに信憑性があるみたいだ。というか、面白がっているとしか思えない」

    有里『それはある意味仕方ないよ。それで、その先は?』

    鳴上「滅び、だそうだ。シャドウが目に見えるようになるまで、それほどの時間はかからない。そして、そこまで力をつけた後、初めに雨が降った日の夜」

    有里『Nyxがやってくる?』

    鳴上「みたいだな。マヨナカテレビがもう一度映って、そこから全世界に滅びが発信されるそうだ」

    有里『予報だと……次の雨は』

    鳴上「明後日、日曜だな」

    有里『多分、その日だろうね』

    鳴上「……ああ」

    有里『……ありがとう。よくわかった』

    667 = 665 :

    鳴上「湊。お前、何考えてる?」

    有里『別に、何も。ただこの事態を解決する事だけ考えてる』

    鳴上「……お前、信じろって言ったよな」

    有里『言ったね』

    鳴上「信じてるぞ」

    有里『……ああ。それじゃ』

    鳴上「またな」

    >……電話が切れた。

    鳴上「……信じてるぞ」


    【ラウンジ】


    美鶴「未だ出掛けた者がいなかったのは幸いだったな。今日は遅刻だ、皆仲良く」

    鳴上「すみません。けど、どうしても伝えておかなければならないので」

    順平「どうしたっつんだよ、朝から」

    >桐条さんに言って、寮内全員を集めてもらった。
    >山岸さんだけは、まだ寝てもらっている。

    鳴上「事件が動きました。皆さん、街を歩いていて妙な人を見ませんでしたか?」

    順平「あ、ひょっとしてあん時の……」

    鳴上「そうです。順平さんと歩いていた時にもいました」

    岳羽「もしかして、最近よく見かけるやたらダルそうな人達って」

    天田「無気力症……」

    鳴上「そのようです」

    アイギス「しかし、影時間もマヨナカテレビも存在しない今、どうして無気力症が起こるのですか?」

    鳴上「シャドウが現実世界に現れるようになっているみたいです」

    「なんだと?」

    鳴上「今は、俺達のようなペルソナ使いにも見えないようですが……その内、誰にでも見えるようになると」

    美鶴「感知型……山岸のペルソナなら何かわかったかもしれないが、それを調べさせる前にな……」

    順平「あれっ、桐条先輩のペルソナで調べられないんすか?」

    美鶴「私のペルソナはもうペンテシレアではない。元々実験で得た能力だったし、アルテミシアには同様の力は無い」

    鳴上「山岸さんが全快し次第、調査してもらおうと思いますが……とにかく、現時点でそういう状態にあるらしいです」

    668 = 665 :

    「……現状報告の為に俺達を集めたのか?」

    鳴上「いえ……もう一つ、重大な報告が。次の雨……予報通りなら日曜。またマヨナカテレビが映るみたいです」

    天田「やっぱり終わってなかったんですね」

    鳴上「そして、タルタロスの頂点に……」

    岳羽「アレ、が?」

    鳴上「Nyxが、やってくるそうです」

    >沈黙。
    >きっと俺以上に、他の皆はその意味をわかっている。
    >だからこその沈黙。
    >……今回は、命を捧げる男がいない。

    順平「どうすんだよ……どうすんだよ!時間ねえってマジで!やばいだろコレ!」

    岳羽「ちょっと、落ち着きなよ……」

    順平「落ち着いていられるかっつーんだよ!またアレと戦うんだぜ!?しかも有里抜きで!……そうだ、有里だ!アイツなら……」

    天田「有里さんには連絡したんですか?」

    鳴上「ああ。あいつがどうするかはわからないけど、一応伝えてある」

    「倒せるのか、俺達に……」

    アイギス「アレは、倒すとか倒せるとか、そういう物じゃありません。ご存知だとは思いますが」

    順平「じゃあどうすんだよ!このままほっときゃまたあん時みたいになっちまうんだろ?皆ぐちゃぐちゃに……」

    美鶴「全員落ち着け。……時間は無い。それは確かだ。正直、ここまでの急展開は予想すらしていなかった。だから、私は彼に判断を預けようと思う」

    >桐条さんは俺を見た。

    鳴上「……美奈子。お前は何かないのか?」

    >さっきからずっと黙っている美奈子に、意見を聞いてみる。
    >美奈子は手をひらひらと振っただけで、何も言わなかった。

    鳴上「俺は、前回の事件を知りません。ただ、その顛末だけは知っています。俺は……」

    >絆が力になる。
    >絆を集め、力にする事が出来る。
    >ワイルドの……能力者。

    669 = 665 :

    鳴上「俺は、命を諦めません。俺達人間は、いつか死にます。けど、最後の瞬間まで足掻くのも人間だと思います。決戦は、明後日の日付が変わる頃」

    >すぅ。
    >はぁー……。
    >覚悟を決めるのに、一呼吸。

    鳴上「タルタロスを完全攻略し、ニュクスと……戦います。どうしても、倒せない、退けられなかった時は……」

    美鶴「待て、鳴上。それ以上言うな」

    >俺が、自分を……そう続けようとしたが、桐条さんに遮られた。

    岳羽「それは、本当に最後の手段。今考えるべきは、倒し方でしょ?」

    「確かに、戦う前から負けを覚悟するってのはナシだな」

    天田「勝つ気で挑んで勝てるかどうかわからない相手ですし、ね」

    順平「年下にそんだけ落ち着かれてちゃ、俺の立つ瀬無いっての。……しゃーねー、やるだけやってみっか」

    アイギス「簡単には負けません。私達だって、今まで戦ってきたのだから」

    >全員が、俺を犠牲にする選択肢を否定した。

    美鶴「頼もしいだろう、自慢の仲間だ。……それでは、これ以降、特別課外活動部は一時解散とする。各々立場を忘れ、好きに行動するといい」

    鳴上「再集合は、決戦の時。またここで」

    美鶴「来たくない者は来なくても良い。だが……信じているぞ」

    順平「あー、どうすっかなー。アイツ、今日暇じゃねーだろなー……」

    岳羽「あ!あそこの新メニュー、まだ試してない!どうしよ、行っちゃおっかな……」

    アイギス「あの、ゆかりさん。私もご一緒しても……」

    天田「コロマル、散歩行こっか!」

    コロマル「ワン!」

    「俺は何時も通りトレーニングとしよう」

    >皆、思い思いに動き出した。
    >……美奈子だけが終始無言で、そのまま部屋に戻っていった。

    鳴上「みな……」

    美鶴「鳴上、少し良いか?」

    鳴上「あ、はい。どうかしましたか?」

    美鶴「いや、君と少し話をしておきたい。構わないか?」

    鳴上「それは、はい。構いませんが……」

    美鶴「そうか。では、私の部屋に来てくれないか」

    >……。

    670 = 665 :

    鳴上「これは……うわぁ」

    >過剰だ。
    >これは過剰だ。

    美鶴「そうか、見るのは初めてだったか……まぁ、彼以外に男性が踏み入れた事も無かったし、な」

    >桐条さんは照れているようだ。
    >どうやら本人の意思でこんな部屋になっているのではないらしい。

    鳴上「ええと、それで、話というのは」

    美鶴「ああ……君は、私を恨んではいないか」

    >唐突にそう切り出され、一瞬理解が出来なくなる。

    鳴上「は、ええ?何故です?」

    美鶴「私が君を勧誘しなければこうはならなかったのではないかと思ってな。こうも絶望的な戦いに身を投じる事は無かったのに、と」

    鳴上「いや、違いますよ、それ。桐条さんが勧誘してくれたから、戦う事が出来るんです。何も知らずに滅びを迎える、そういう選択肢を回避できたんです」

    美鶴「強いんだな、本当に。……人は必ず死ぬ、だったか。深い事を言うものだな」

    鳴上「受け売りですけどね。Memento mori、だそうです」

    美鶴「死を想え、か。なによりこの状況に相応しい言葉だな。君は、どう思う?」

    鳴上「どう、とは?」

    美鶴「直訳すれば死を想え。いつか死ぬ事を忘れるなという意味だ。だが、私は思う。この言葉の意味は、受け取る側によって意味が違うと」

    鳴上「受け取り方ですか」

    美鶴「私にとって、死は恐怖だ。立ち向かうべき物だ。しかし、それを内包し受け入れ、飲み込んでしまうような者もいる。君にとって死とは何だ?人生をどう過ごせばいい?」

    鳴上「……難しいですね。俺には何とも」

    >桐条さんは笑った。

    美鶴「そうだな。こたえなど、それこそ死ぬまで出ないのかも知れない。それを探すのも、人生なのかもな」

    鳴上「命のこたえ、ですよ」

    美鶴「そうだな……呼び止めて悪かった。君も好きなように過ごすといい」

    鳴上「はい……それじゃ、失礼します」

    >桐条さんの部屋を出た。
    >……好きなように、か。
    >……。

    671 = 665 :

    >コンコン。
    >扉をノックする。

    美奈子「ん、誰?」

    鳴上「俺。今、いいか?」

    美奈子「どーぞ、入って」

    >扉を開けると、想像より遥かに殺風景な部屋が広がっていた。

    美奈子「どしたの、驚いちゃって」

    鳴上「いや、俺の想像する女の子の部屋と随分違ったから……」

    美奈子「ぷっ、何それ。もっとファンシーなの想像してた?」

    >美奈子は愉快そうに笑う。
    >……さっき、様子がおかしく思えたのは気のせいだったのだろうか。

    鳴上「それにしたって物無さ過ぎやしないか?学校の道具と……ぬいぐるみ?」

    美奈子「それ以外いらないからね」

    >何故だろう。
    >美奈子の様子がいつもと違うのはわかる。
    >ただ、どうにも核心が見えない。

    鳴上「なぁ、もしかして何か知ってるんじゃないのか」

    美奈子「知ってるって、何が?」

    鳴上「事件について。それで、何か悩んでるとか」

    美奈子「知らないよ、何も。元々私の領分の外だし。終わらせるのは、悠たちだよ」

    鳴上「でも、お前はわざわざ俺達を助ける為に現れたんだろ?」

    美奈子「んー、じれったかったからね。本当は皆、事件を終わらせるだけの力はあるんだよ。なのに、悩んだり、立ち止まったり、いろんな人困らせたり。見てらんなくて」

    鳴上「そりゃ、悪かった……。心配になってさ。様子がおかしかったから」

    美奈子「まぁ、最終決戦前だし?ちょっとナーバスにはなるよね」

    >嘘だ。

    鳴上「……いつ、話してくれる?」

    美奈子「だから、別に何も……」

    鳴上「いつだったか、私に嘘は通じないって言ったろ。同じだよ、お前は俺だった時もあるんだから」

    美奈子「……そうだね。んー、でも、今は無理。その時が来るまでには話す。信じて」

    鳴上「本当だな?」

    美奈子「嘘だと思う?」

    鳴上「……信じよう。じゃあ、俺山岸さんのとこ行ってくるから」

    美奈子「ん、うん。あ、悠」

    鳴上「どうした?」

    美奈子「ありがとね」

    鳴上「ああ。お前も、やりたいことやっとけよ」

    美奈子「はーい」

    >美奈子の部屋を後にした。
    >……。

    672 = 665 :



    【風花の部屋】


    >ノックをしたが、返事は無い。
    >まだ眠っているのだろうか。

    鳴上「失礼します……」

    >少しだけ扉を開けて、中をうかがってみる。
    >やはり眠っているようだ。小さく寝息が聞こえる。

    鳴上「……」

    >起こさないようにそっと近付いて、寝顔を眺める。
    >随分血色は良くなった。
    >熱ももうほとんどない。

    鳴上「……よかった」

    >起こさないように、寝顔でも眺めていよう。


    【2012/5/25(金) 晴れ 堂島宅】


    >悠に電話をかけた……。

    有里「もしもし、おはよう。少し時間をくれないか」

    >……。
    >電話を切った。

    有里「時間が無いな。……とりあえず、こっちの皆には内緒にしておこう。止められそうだし」

    >Nyxは倒せるものではない。
    >あれを遠ざける方法は一つ、大いなる封印。
    >だが、その代償は……。

    有里「学校、行かないとな……」

    673 = 665 :



    【八十神高校】


    陽介「うっす、有里。……なぁ、例の変なヤツら、増えてねえか?」

    有里「ああ、少し増えたみたいだね……」

    陽介「なんかよ……ムズムズするよな、こういうのさ。何か起こってるのに、手が出せねーっつーの。すげえ嫌だぜ」

    >まだ、千枝や天城さんは登校してきていないようだ。
    >……よし。

    有里「陽介、今日はサボろう」

    陽介「サボ……何いきなり言い出してんの、お前」

    有里「気分気分。付き合ってよ」

    陽介「あのね……俺ら受験生なワケよ?そんなサボったりなんかしてたら大変よ?わかる?」

    有里「愛家で肉丼おごるからさ」

    陽介「……ちょっとだけですよ?」

    有里「決まり。先生来る前に逃げちゃおう」

    陽介「ちょ、おまっ!……ったく、このマイペース大王が!待てって!」


    【愛家】


    陽介「サボり、ダメゼッタイ」

    有里「肉丼食べながら言う事じゃないね」

    陽介「うるせっ!食費でも何でも浮かせるとこで浮かすんだよっ!」

    有里「ははは……」

    >学校をサボって陽介と愛家に来た。
    >陽介は肉丼を食べながらこっちを見ている。

    陽介「……で?何かあったんかよ」

    有里「ん?別に。気分だよ、気分」

    陽介「嘘だろ、それって。お前、里中も天城もいないの確認してから言ったもんな。何か話あんだろ?」

    >驚いた。
    >そこまでしっかり見抜かれているとは……。
    >侮れないな。

    有里「……別に、話は無いよ。ただ、陽介と少し二人で過ごしたかっただけ」

    674 = 665 :

    陽介「うぇ、なんだよそれ。お前まさかそっちの……」

    有里「だったらどうする?」

    陽介「……ま、冗談はいいよ。つか、何で俺よ。それこそ里中とかのがいいんじゃねえの?」

    有里「千枝は明日家に来る予定だからね。今日は陽介」

    陽介「あー、はいはいよござんすね。しかしまた何で俺と二人でなんて言い出したわけ?」

    有里「内緒。まぁ、たまにはいいじゃない」

    陽介「そりゃいいけど。何か事件絡みじゃねえかなって気になってよ。どうなんだよ」

    有里「ああ、無関係。ただ、陽介のことが気になってね」

    陽介「……お前って、たまにびっくりするくらい色気あるよな」

    有里「ん?何が?」

    陽介「な、なんでもねぇって!気にすんな!な!」

    有里「……陽介なら、いいよ?」

    陽介「うわぁ、よせ、やめろって!俺そんなんじゃねーから!ちげーからな!」

    有里「わかってるよ。言ってみただけ。僕だって女の子が好きだ」

    陽介「そういうネタは完二だけにしろっつの。ていうか、お前もそういう事言うんだな」

    有里「そういうことって?」

    陽介「いや、女好きとかそういうのよ。お前ってもっとこう、紳士的っつーか、そんな感じだと思ってた」

    有里「ああ、女子の前ではね」

    陽介「あ、計算?」

    有里「うん。がっついても良い事無いよ」

    陽介「っかー、きたねーな!そういう事は教えろよ俺にも!」

    有里「陽介は手遅れじゃない?」

    陽介「そうだね……もうバレバレだもんね……」

    有里「あはは……」

    >陽介と一日遊びまわった……。
    >……。

    675 = 665 :



    【夜 堂島宅】


    有里「菜々子」

    菜々子「なぁに、湊お兄ちゃん」

    有里「菜々子、一人で寝るの平気だよね?」

    菜々子「うん、平気だよ。どうしたの?」

    有里「一人で学校も行けるし、お父さんのお世話も出来るよね?」

    菜々子「ちゃんとやるよ。お兄ちゃん、どこか行っちゃうの?」

    有里「そういうわけじゃないよ。……菜々子、今日は一緒に寝ようか」

    菜々子「えっ!ほんとに?」

    有里「今日だけだったら、堂島さんも許してくれるだろうし。嫌?」

    菜々子「えへぇ、嬉しい……」

    >菜々子に本を読んでやって、そのまま一緒に寝た。
    >……。


    【2012/5/26(土) 晴れ】


    >髪を誰かが撫でている……。
    >優しい手つきだ。
    >気持ちいい……。
    >手が、頬にも触れる。

    鳴上「ん……ぁ……?」

    >目を開けると、いつもの自分の部屋ではなかった。
    >あれ、ここは……。

    風花「あ、起こしちゃった?」

    鳴上「あ……山岸さん。あれ、俺……」

    >……思い出した。

    鳴上「っうわ!すみません、寝ちゃってたみたいで……」

    >昨日、山岸さんの寝顔を眺めていたら、そのまま眠気に襲われて……。
    >見た所、もう昼のようだ。
    >随分と眠っていたらしい、座ったまま寝たからか膝が痛い。

    風花「ふふ、おはよう。よく寝てたね」

    鳴上「お、はようございます……」

    >ということは、さっき髪を撫でていたのは山岸さんか。
    >撫でられた辺りに手をもっていく。

    676 = 665 :

    風花「ごめんね、起きたら鳴上君がそこで寝てて……つい、手が」

    鳴上「あ、や、全然大丈夫です。むしろ良かったです」

    >山岸さんはくすくすと笑った。

    鳴上「体調は大丈夫ですか?」

    風花「うん、もうほとんど……病み上がりだから、ゆっくり戻していきたいけどね」

    鳴上「……少し、お話しなければならない事があります」

    >Nyx降臨の話、それに伴う決戦の話をした。

    風花「……思ってたより、随分早いんだね」

    鳴上「そうですか……そうですね」

    風花「私ももう参加出来るし、いつでも言ってね」

    鳴上「そんな、まだ……」

    風花「大丈夫。私だけ寝てるわけにはいかないもの。それに、私がいないと皆帰ってこれないでしょ?」

    鳴上「それは、そうですけど……」

    風花「心配しないで。もう決めたの。逃げないから。辛くても、逃げない。逃げなくてもいいって、言ってくれたでしょ?」

    >それを言われたら、反論出来ない……。

    鳴上「あ、そういえば。聞きたかった事あるんですけど」

    風花「ん?何?」

    >これを聞くのはかなり気恥ずかしいのだが……。

    鳴上「ええと、その。何で、俺なんですか?」

    風花「何でって、何が?」

    鳴上「……好き、だって」

    >ぼんっ、と音がした。
    >ような気がするほど、一瞬で山岸さんが沸騰した。
    >顔は真っ赤だし目は白黒している。
    >部屋には俺と山岸さんしかいないのに、きょろきょろと辺りを見回している。

    風花「えっと、ごめ、熱が!熱があってね!い、勢いで!勢いで言っちゃったんだけど!その、嫌だよね、私みたいな子じゃ……八十稲羽にも可愛い子一杯いたし!」

    鳴上「ちょっと、落ち着いてください。俺だって聞くの恥ずかしいんですから……勢いだったっていうのも、ちょっと悲しいですし」

    >コップに水を入れて、山岸さんに勧める。
    >コップ一杯の水を、喉を鳴らして一気飲みしてしまった。

    677 = 665 :

    風花「……ふぅ。びっくりしちゃった」

    鳴上「俺もびっくりしましたよ」

    風花「ごめん……うーん、答えないとダメ?」

    鳴上「まぁ、聞かずに決戦となると集中できないかもしれませんし。戦ってる最中に聞いてもいいならいいですけど」

    風花「それはヤメテ……わかった、じゃあ答えるね」

    「答えるね」、と言って、しばらく黙っている。
    >黙ったまま、俺の目を見ている。
    >……じっと見返した。

    風花「……っ、うぅぅぅ……あーぅー……」

    >また沸騰した。

    風花「ごめんっ、恥ずかしい!ほんとに恥ずかしいの!だからこっち見ないで!向こう向いてて~お願い~」

    >真っ赤になっている山岸さんを見れないのは非常に惜しい……が、仕方ない。
    >黙って後ろを向くことにする。

    風花「はぁ、ふぅ、うぅ……GWに、鮫川に行った時、ちょっと言った事覚えてる?」

    鳴上「あれ、アレって冗談だったんじゃ……」

    風花「うん、嘘ついた。ごめんね。……最初は、有里君に似てるなって思って、それから。何かある度に目で追っちゃって、駄目だなって思いながらもちょっとずつ重ねちゃって」

    鳴上「……あの時期は、それなりに気にしましたよ」

    風花「あはは、ごめん。で、それから……お料理の話した時くらいかな。気が付いたら、有里君じゃなくて鳴上君を見てたんだよね。彼と君は似てるけど、やっぱりすごく違って……」

    >背後で一つため息が聞こえた。

    風花「彼には、助けてもらった。色んな物をもらった。でも、こうして考えると……彼と私が一緒に持ってた物って、無いのかもしれないって思った」

    風花「彼は私の一歩前を歩いて、道にある石とか、危ない物を取り去ってくれる。それから、無言で手を出して、私の手を引いて。そんな姿に、私は憧れて」

    風花「でも、鳴上君は違う。隣に立って、一緒に躓いて。笑いながら先に立ち上がって、手を差し伸べてくれて」

    風花「そういう人なんだなってわかったら、一緒にいてすごく居心地が良くって。気付いたら、好きに……」

    >多分、今、山岸さんは泣いている。
    >時折聞こえる嗚咽がそう証明している。

    風花「私、ずるい子だから。まだ有里君の事も好きなんだ。だけど、それよりちょっとだけ、鳴上君の方が好きで」

    風花「八十稲羽に行った時、里中さんや天城さん、りせちゃんに会った時、この子達には勝てないって思って。だから、先に、とか考えちゃって」

    風花「里中さんが有里君の事好きだって聞いた時も、嫉妬しちゃって。私は……」

    鳴上「もう、いいです」

    >これ以上聞いていたら、山岸さんが壊れてしまいかねない。

    鳴上「もうわかりました。……そっち、向いていいですか」

    >ぐす、と鼻をすする音が聞こえた。
    >ごそごそと、居住まいを正しているようだ。

    678 = 665 :

    風花「……はい、どうぞ」

    >振り向くと、やっぱり泣いていた。
    >涙は拭いたようだが、後から後から湧いてくるようで、ぽろぽろとこぼれている。

    鳴上「……まぁ、きっかけが湊っていうのが悔しい所ですが。俺は、ずるいとか思いませんよ」

    風花「……」

    鳴上「そんなにまで思われるって、すごく嬉しいです。だから、そんなに卑下しないでください」

    風花「ん……」

    鳴上「あーっと、ですね。充分、その……俺の事を、好きだっていうのはわかりました。ありがとうございます」

    >山岸さんは目を擦りながら笑った。

    風花「どういたしまして。あの、それで……返事」

    鳴上「それなんですが。明日、戦いに行くんですよ。生きて帰って来れるかわかりません。なので……」

    鳴上「帰ってくるまで、内緒にしておきます」

    風花「……約束。約束破って帰ってこなかったりしたら、怒るからね」

    鳴上「はい。怒られたくないんで頑張ります」

    >小指を差し出す。
    >山岸さんの小指が絡んだ。

    風花「指きり。……この後、どうするの?」

    鳴上「特に予定は……」

    風花「……」

    >つないだ指を離してくれない……。
    >山岸さんと長い時間を過ごした……。

    679 = 665 :



    【2012/5/26(土) 晴れ 堂島宅】


    >今日は千枝が来る日だ……。

    有里「そろそろ来るはずなんだけどな……」

    >窓から様子を見てみる。

    有里「……!?」

    >気のせいだろうか。
    >今、何か見えた気がする。

    有里「……千枝に似てる、けど、別人かな?」

    >……これで、このまま家に来たら確定だけど。

    千枝「こんにちわー」

    有里「来ちゃったよ」

    >やはりアレは千枝だったようだ。

    有里「や」

    千枝「ども」

    有里「……」

    千枝「……何?」

    有里「いや、その。どうしたの、それ」

    >今日の千枝はいつもと違う。
    >ていうか、服装が違う。
    >いつものジャージはどうした。

    千枝「ああ、これさ……今度、また有里君のお部屋にあげてもらうって話をしたのよ、りせちゃんに。そしたら……うん」

    >りせコーディネートのようだ。
    >なんというか、ふわふわしている……。
    >襟と肩にレースがついた白い袖無しのトップス。
    >その上から淡い緑のカーディガンを羽織って、下は紺のキュロットスカート。
    >……多分、そこまで指定されなかったのだろう。
    >足元はいつものローファーなのが千枝らしい。

    千枝「変、かな?」

    有里「良い」

    千枝「へっ!?」

    有里「あ、なんでもない。じゃあ、あがって?」

    千枝「お邪魔しまーす……」

    680 = 665 :

    >参った。
    >これは……妙に意識してしまう。

    有里「どうぞ、適当に座ってて」

    千枝「うん……ふぅ。慣れない服だと肩凝りますなぁ」

    >あはは、と笑う千枝。
    >膝頭に絆創膏が貼ってある。

    有里「足、どうしたの?」

    千枝「ん?ああ、ちょっとすっころんじゃって。まぁ鍛錬中には良くある事だから」

    >何故かもじもじしている。

    有里「……?」

    千枝「あ、いや。その、さ。下にスパッツ履いて無いんだよね、今日。りせちゃんに言ったら『ナイ!』って言われちゃって」

    >……りせに感謝しなければならない。

    有里「……で、今日はどうしたんだっけ?」

    千枝「ん、どうしたってわけではないんだけど。ちょっと、一日一緒に居たかったんだよね」

    >照れ笑い。
    >あれ、そういえば……。

    有里「化粧、やめたんだね」

    千枝「あ、うん。こっちは雪子に言われてさ。普通で十分だって」

    有里「流石に天城さんだね。千枝は普通にしてても十分可愛い。化粧じゃ出せない部分があるから」

    千枝「うん、そんな風な事言われた。そんな事無いと思うけどね、私は……」

    有里「可愛いよ」

    千枝「……ありがと」

    >やはり、話しておこう。

    有里「僕は、千枝が好きだ」

    千枝「っ!」

    有里「……どうやら、そうみたいなんだ。色々考えてみて気付いた」

    千枝「うん……」

    有里「でも、千枝が僕の事を好きな理由がわからない。よければ、教えてくれないか」

    千枝「私が有里君の事を好きな理由?それは……」

    >千枝はそこまで言って固まった。
    >と、思ったら今度は考え込んでいる。

    681 = 665 :

    有里「あの……里中さん?」

    千枝「あっ、ごめん。いや、私って何で有里君こんなに好きになったのかなーって思って」

    有里「……割と、辛いんだけど」

    千枝「ご、ごめんね?好きだから!ちゃんと好きだよ!」

    >録音したい。

    有里「でも理由はわかんない?」

    千枝「うーん……言ったかな。私、鳴上君が好きだったんだけど」

    有里「名前は言ってなかった気がするけど、そんな事は言ってたね」

    千枝「うん。鳴上君はね……実は、まだ大好きなんだけどさ。あの人は、私がいなくても笑ってられる人だから」

    千枝「でも、有里君は違うと思って。なんでも出来るんだけど、私……っていうか、他の誰かがいないと何も出来ない人。失礼だけどね」

    有里「いや、良く見抜いてると思う」

    千枝「それでさ、なんか、ちょっと寂しそうなとことか見てると……私が笑わせてあげたいなって思うんだよね」

    >本当に、良く見ている。
    >僕は今までずっとそうだった。
    >多分、これからもそうなんだと思う。

    有里「芸人みたいなものかな」

    千枝「ん?芸人?お笑いなら私じゃなくて雪子に……」

    有里「そうじゃなくて。まぁお笑いも含めてだけど、舞台に立つような人。僕は、そういうタイプなのかもしれない」

    >観客がいる時は何にだって勝てる。
    >だけど、誰も見ていない所では何も出来ない。
    >そういう人間。

    千枝「それはよくわかんないけど……多分、それが最初。有里君の笑顔が見たいの。そう思ってずっと君の事考えてる内に……ね」

    有里「そっか。ありがとう」

    千枝「別に、お礼なんか……どうしたの?」

    >観客がいなければ何もできないのに。
    >僕はその観客達と別れようとしている。

    有里「千枝にだけ、話しておきたい事がある。……明日、僕はまたタルタロスに登る。そして……」

    有里「恐らくは復活するニュクスを封じる為に、死ぬ」

    >……一瞬の間があった。

    千枝「……え?」

    682 = 665 :

    諦める、諦めない。
    捨てる、捨てない。
    止める?止めない?

    というわけで本日分は終わり。
    では、また後日。

    683 :

    うぉぉぉぉぉぉ!
    続きが気になる!!!
    乙!

    684 :

    乙!!

    風花が可愛すぎる

    685 :

    アニメ版はスパッツなし、ゲーム版はスパッツ有

    スパッツの魅力が解らない
    ここのキタローとは美味しいお酒が飲めない


    後日楽しみだなー P4でもうちょっとP3組出してほしかったなぁー
    トリニティーでもどうでもいい人しか出なかったし…

    そんなわけで1乙

    686 :

    スパッツがいらないとかじゃなくて、普段スパッツだからって気にせず動き回ってる千枝ちゃんがモジモジしてるのが可愛いんです。

    今日は二段階にわけて投下。

    687 = 686 :



    【2012/5/27(日) 雨】


    日中であるにも関わらず、まるで影時間に落ちてしまったような錯覚に囚われる。
    太陽の光は分厚い雲に遮られ、街は沈黙に包まれている。
    ただ雨の降る音だけが嫌に耳障りで、精神の集中を妨げた。

    「太陽は僕達にその恵みを与えず、人は影に呑まれるのみ……か」

    窓の外を歩いているのは人ではない。
    黒い影がその体を揺らしながら闊歩している。
    予想通り、今日までにシャドウの実体化は成されたようだ。
    シャドウに影を食われた人間は影人間となり、全てに対して無気力になる。
    しかし、シャドウを倒して影を取り戻す事が出来れば、また元に戻る。

    「小物をいくら叩いても意味は無し。やっぱり、大元を断たないとね」

    あれらを掃討したとして、人がある限りシャドウもまた増える。
    ならば、それを誘引する元を断たねば意味は無い。
    雨音が思考の邪魔をする。

    「雨が降らないと決戦は出来ない。けど、今日でお別れなんだ。もう少し綺麗な街を眺めさせてくれても良いだろうに」

    覚悟はした。
    三年前のあの日に。
    この世界を救う為だったら、なんだってやってやる。

    「……千枝は、どうしてるかな」

    昨日は酷いものだった。
    半ば以上わかっていた事だが。
    泣いて、怒って、泣いて。
    一言、帰るとだけ言って帰ってしまった。
    千枝にだけ言う、と言っておいたものの、恐らくは一人では抱えられないだろう。

    「相談するとしたら誰かな……」

    もし、相談するとすれば。
    ……携帯が鳴った。

    「まぁ、そうだろうね」

    液晶には、鳴上悠と表示されている。

    688 = 686 :



    【2012/5/27(日) 雨】


    窓から外を眺めても、煙った灰色が広がるだけだった。

    「シャドウ……しっかり見えてるな」

    決戦は近い。
    心臓の鼓動がいつもより早い気がする。
    と、その時携帯に着信があった。
    二回ほどコールして、すぐ切れる。

    「悪戯電話か?」

    液晶には里中千枝の文字が表示されている。
    どうやら、悪戯では無いようだ。
    こちらから掛け直す。
    ……数回コールが鳴って、声が聞こえた。

    『……もしもし』

    いつもと様子が違う。

    「里中か。どうした?」

    無言。
    電話口からは泣き声だけが聞こえる。

    「おい、どうし……」

    『有里君が、死ぬ、って』

    ただそれだけで、十分理解できた。
    あいつは、三年前と同じ事をやろうとしている。
    ……俺達に、何も言わずに。

    『どうしよう、私……止められなかった。どうしたら、どうしたらいいのかな』

    「落ち着け。……アイツは口で言って止まるような奴じゃない。とにかく、そっちの皆を集めてくれ。勿論有里も」

    『でも、呼んで素直に来てくれるかな……』

    「来るさ。俺が言う。アイツがどういう決断をするかはわからないが、とにかく皆で集まって欲しい。こっちも皆に伝えるから」

    『うん、うん……ごめんね、こんな時に……でも、私……』

    里中は泣いている。
    知っていた筈だ。
    誰かが犠牲になって、事件が終わったとしても、誰かが泣く事になる。
    湊はそれを知っていたはずなのに。

    「大丈夫だ。良く話してくれた。あいつは止める。何としても、だ」

    『……ありがとう。じゃあ、私皆に連絡するね』

    「ああ。有里には俺が連絡する。後は任せろ」

    『うん、ごめんね……じゃあ』

    電話が切れた。

    「信じろって言ったのはお前じゃなかったのか、湊」

    携帯に登録してある番号にかける。
    出るだろうか。
    いや、出る。
    あいつはそういう男だ。

    689 = 686 :

    『もしもし』

    「何で電話したか、わかってるな」

    『……勿論。千枝だね?』

    「ああ。話してくれたよ」

    『で、君はどうするの?』

    どうする?決まっている。

    「お前を止める。口で言っても無理なんだろ?」

    『それは当然。軽い気持ちで言える事じゃない』

    「だったら、力尽くだ。お前も、戦う為にはテレビに入らなきゃならない。そこで、止める」

    『……それなら、そうしてみればいい。僕は簡単には止まらないよ』

    「もうこれ以上お前と話す事は無い。里中が今皆を集めてる。お前はそこに行け」

    『わかった。じゃあまた夜に』

    「ああ。……夜にな」

    電話を切る。
    知らない間に右手を握り締めていた。
    爪が食い込んで血が出ている。

    「……くそっ!」

    そのまま、拳を壁に叩きつけた。
    鈍い音がした。

    「おいおい、どうしたんだよ……うわ、お前それ血でてんぞ?」

    順平さんが音を聞いて様子を見に来てくれた。
    丁度良かった。

    「順平さん、今すぐ寮内の皆を集めてください」

    「は?そりゃ、いいけどよ。何かあったんかよ」

    「後で話します。早く」

    順平さんも何かを悟ったらしい。
    目つきを変えると、黙って扉を閉めた。


    【ラウンジ】


    「すみません、皆さん。集まってもらって」

    ……美奈子がいない。

    「順平さん、美奈子は」

    「彼女は今日寮にいない。恐らくは、どこかで悔いの残らないように過ごしているのだろう。それで、どうした?」

    桐条さんが急かす。
    恐らくはろくな話では無い事が、空気でわかるらしい。

    「湊……有里が、またNyxを封印するようです」

    全員の空気が変わった。

    「つまり、あいつはまた自分の命を捧げようとしています。俺は、それを止めたい」

    誰も何も言わない。
    驚いているのか、悲しんでいるのか……。

    「しかし、解決のためにはそれが確実なのも確か、だな」

    真田さんが苦々しい顔で言った。
    それもその通りだ。

    690 = 686 :

    「ですから、これは俺の我侭です。リーダーとしてでなく、湊の友人として言っています。だから、皆さんに協力してくれとは言いません」

    それでも、信じている。
    この中には……少なくとも、湊の死なんて結末を望んでいる人はいないと。

    「それでも、俺と一緒に戦ってくれる人がいるなら、今夜マヨナカテレビで。……もし、有里に協力したいなら、テレビ内で合流する事も出来るでしょう。そうしてください」

    返事は無い。

    「すぐに返事が出来る事とも思いません。ですから、行動で示す。ということで。今夜12時、俺の部屋に来てください。そのメンバーで、有里を止めに行きます」

    何も答えない。

    「……では、少し体を休めたいので。俺は部屋に戻ります。また、夜に」

    皆に背を向けて、二階へ。
    ああは言っても、複雑なのは自分も同じだ。
    胃の辺りをはっきりしないもやもやが渦巻いて、色んな物と一緒に吐き出されそうだ。
    ……今は、皆を信じる事だけしかできない。
    信じよう。


    【ジュネス内フードコート】


    傘をさして歩く。
    シャドウはまだ僕達には無害だ。
    襲われるのは、ペルソナ能力を持たない者が先……それは、今も変わっていないらしい。

    「もう、お揃いか」

    皆は黙って座っている。
    来なければ良かった。

    「有里……聞いたぜ、全部」

    陽介はいつもと違う、真剣な表情をしている。

    「なぁ、何でだよ。俺達と協力して事件終わらせるんじゃなかったのかよ」

    ああ、胸が痛い。

    「……最初から、こうするつもりだった。君たちは知らないかもしれないけど、今日の敵は……まず、本当は敵じゃないんだけど。戦って倒すとか、そういう物じゃないんだ」

    「じゃあ、どうにもならないの?本当に、どうにも……」

    天城さんの綺麗な顔が辛そうに歪んでいる。
    原因が僕なのが本当に申し訳ない。

    「ならない。僕達に出来る事は最早無い。アレをここから遠ざけるには、僕の命を捧げる必要があるんだ」

    「やだ、私やだよ。有里先輩死んじゃうなんて……」

    りせはもう泣いている。
    感情を抑えない、僕には出来なかった生き方だ。

    「どうせ、一度死んだ身だし。そんなに悲しむ事は無いよ」

    「でも、今は生きている。それに、僕達は知り合ってしまった。……無視するなんて、出来ませんよ」

    直斗も辛そうだ。
    結局、女性らしい服装を拝めなかったのが心残りか。

    「無視はしなくていい。たまに思い出して……いや、やっぱり忘れてくれた方が楽だな。最も、Nyxを封印してしまえばシャドウに関する記憶は消えるんだけど……僕の事も」

    「んだよそれ……ホントに跡形も無く消えちまうってのかよ」

    完二は悲しいというより、怒っているようだ。
    完二らしいな……。

    「ま、出会って一ヶ月かそこらの僕達だ。傷は浅い……だろ?」

    「そんなワケないじゃん!」

    千枝。
    ごめん。

    691 = 686 :

    「有里君だって、そんな風に思ってないくせに!ほんとは辛いくせに、黙って、誤魔化して……バカだよ」

    言いながら、また泣き出した。
    たかだか一ヶ月……大凡二ヶ月か。
    随分と、見透かされたものだ。

    「……僕の考えに不服なら、僕を止めればいい。悠が言ったんだ、お前を止めるって。彼は今日、マヨナカテレビの中で、力尽くで僕を止めると言った」

    全員が顔を上げる。
    悠の名前は効果が違うな。

    「だから、それに協力すればいい。ただ、そうなったら僕はきっと止められるだろう。悠は勿論、君達は強いし。だから、もう一つ言っておく」

    これは言いたくなかった。
    悪手の中でも最悪だ。
    ただ、手段を選ぶ時では無い。

    「もし、僕に……僕の想いを、遂げさせてくれるなら。この世界の為に身を捧げる、その願いを叶えさせてくれるなら。僕に協力してくれ。今夜、マヨナカテレビで待つ。それじゃ」

    傘を広げ、背中を向ける。
    誰も何も喋らない。
    これで、僕に協力するなんて人がいるだろうか?
    僕が、どんな気持ちでこの選択をしたか。
    少しでも理解してくれたなら、もしかしたら……。
    期待するのは、よそう。
    あと、高々12時間だ。


    【マヨナカテレビ】


    五人の男女と一匹の犬がタルタロスに侵入する。
    手には各々の武器、それと召喚機を持って。

    「ちっともたついちまったから、多分有里達上にいんだろうな」

    「しかし、シャドウがいないのは好都合でしたね。全てテレビの外へ出てしまったのでしょうか」

    ヘッドホンを首にかけた少年。
    間接部から機関部が露出している少女。

    「とりあえず、追いかけないとね。どうする?」

    「……反応、あります。各階層に一人ずつ。多分、五層にいるのが彼だと思います」

    長い黒髪を揺らす、赤い服の少女。
    自らのペルソナの内側に入り、タルタロス内部を探査する女性。

    「人数は、どうやら同じみたいですね。……全員で一層一層進んで行ったんじゃ時間がかかりすぎるか」

    そして、鳴上悠。

    「厳しい作戦ですが、各層一人が相手する事になりますか……大丈夫か?」

    陽介は笑う。

    「何が出たって負けやしねーよ。あいつを止める為にわざわざこっち側まで回って来たんだ。やってやんよ」

    雪子も笑う。

    「多分強いよね、相手。だって有里君の仲間だし。でも負けてらんないし、ね」

    アイギスは頷いた。

    「それが最善でしょう。……恐らくは、色々な意味で辛い戦いになると思いますが、大丈夫。私達だって一人じゃないもの」

    コロマルも吼える。

    「ワン、ワンッ!」

    そして、風花が微笑みかける。

    「だ、そうです。それじゃ号令をお願いします、リーダー」

    692 = 686 :

    鳴上は一度黙った。
    目を閉じて、一度深呼吸をする。
    顔をあげ、目を開けて。
    全員の顔を見回した後、口を開いた。

    「これよりNyx討伐作戦の第一段階を開始します。まずは、先走った湊に一発お見舞いして、それから皆で最上階を目指す。異議のある者は?」

    全員が答える。

    「異議なし!」

    鳴上は、微笑んだ。

    「それじゃ、仲間を止めに行こう。登るぞ」


    【第五層:焦炎の庭ハラバ】


    『鳴上先輩達も登り始めたみたい。……ねぇ、本当に戦わないといけないのかな?』

    「僕だって、出来る事ならやりたくないさ。けど、ぶつかり合わないとわからない事もある……そうだろ、りせ」

    有里は一人立つ。
    采配は済んだ。
    後は、鳴上の刃が己に届くかどうか、それだけだ。

    「しばらく集中したい。また後でね」

    『わかりました……』

    ヘッドホンを着ける。
    手元のリモコンを操作して、曲を変更する。
    「Heartful Cry」……。

    「ごめん、皆」

    693 = 686 :



    【第一層:世俗の庭テベル】


    第一層と第二層の境目。
    丁度、番人のシャドウが居た階。
    一人の女が立っている。

    「来たな。待っていたぞ」

    紅い髪を揺らし、剣を構える。

    「桐条さん……退いては、もらえませんか」

    鳴上も、無駄だとはわかっている。
    美鶴には美鶴の決意があってそこに立っている。
    彼女と有里の関係を考えれば、それがただならぬ苦悩であった事は明らかだ。

    「無理な相談だ……本当なら、すぐにでも追わせたい所だがな。私は、彼の力になりたいんだ。どんな結末であろうと……彼が決めた事を、手助けしたい。それだけだ」

    鳴上が剣を構えると、その前にコロマルが立ちはだかった。

    「ガウ!グルルル……」

    「コロマルさんは、貴方が戦うべきではないと。貴方は先を急ぎ、彼を止めるべきだと言っています。ここは……」

    アイギスが通訳する。
    鳴上は剣を降ろした。

    「俺が戦う、と」

    「行かせると思うのか?」

    「アオーン!!」

    「走れ、と言っています!鳴上さん!」

    コロマルの遠吠えに答えるように駆け出す。
    階段は見えている。
    美鶴の横を走り抜けたが、妨害らしい妨害は無かった。

    「……桐条さん、もしかして」

    「今は、上に行くことだけを」

    「そう、ですね」

    鳴上達は上階へ向かって登って行った。
    美鶴は剣を降ろす。

    「行ったか。……すまない、湊。私は、やはり君に……」

    「クゥーン……」

    コロマルが美鶴に擦り寄る。
    美鶴はそっとその頭を撫でた。

    694 = 686 :



    【第二層:奇顔の庭アルカ】


    「よーう、お前ら。来たな」

    二層には順平がいた。

    「ま、来たばっかで悪いんだけどよ。ちっと相手していってくれや。あいつのやりたい事、手伝うって言っちまったからよ。お前ら、先に進ませるわけにゃいかねーんだわ」

    順平は召喚機をこめかみに押し付ける。

    「トリスメギストス!」

    どうやら、美鶴と違い本当に鳴上達を止めるつもりのようだ。

    「マハラギダイン!」

    辺りを炎が包み込む。

    「くそっ、これじゃ階段に……」

    「ガルダイン!」

    突風一陣。
    階段までの道が開く。

    「陽介!」

    「順平さんの相手は俺に任せとけ。だから行くぜ、相棒!じゃなくって、行け、相棒!」

    突風は、ジライヤのガルダインだった。
    鳴上は黙って頷くと走る。

    「行かせるかっての!」

    「っとぉ、そうはさせねー!」

    襲い掛かるトリスメギストスを、ジライヤと陽介が体を張って止める。

    「陽介……負けるなよ!」

    「あいよ!」

    陽介と順平は対峙する。

    「いいねぇ、お前は。かっこいい役回りでよ。俺なんか憎まれ役だぜ」

    「ま、役得っすよ。嫌なら退いてもらっても俺ぁ全然構わねっすよ?」

    順平は笑う。

    「そういうわけにはいかねーの。こうなったら、すぐにでもお前倒してあいつら追っかけねーとよ。さ、こっからマジだぜ」

    「……そーすか。畜生」

    順平の表情が変わる。
    ジライヤとトリスメギストスが、衝突した。

    695 = 686 :



    【第三層:無骨の庭ヤバザ】


    スカンッ。
    三層の番人がいた部屋に踏み入れると、足元に矢が刺さった。

    「そこで止まって。それ以上先は進ませない」

    アイギスが前に出る。

    「ゆかりさん。通してください。私達は、彼を止めなければいけない」

    「駄目よ。私だってあの人がいなくなるのはいや。でも、でもね。やっと力になれる。やっと彼の為に戦えるの。だから、お願い。邪魔をしないであげて」

    ゆかりは淡々と言う。
    淡々と、心の内側を叫ぶ。

    「鳴上さん、天城さん。ここは私が。貴方達は早く上に」

    アイギスが構える。

    「行かせないから」

    走る鳴上と雪子にその弓が向けられる。
    風を切って、矢が走る。

    「天城!」

    鳴上は天城を庇うべく立ち止まった。

    「止まらないで!」

    その前に、アイギスが走りこむ。
    飛来した矢を叩き落とした。

    「貴方はあの人を止める事だけ考えて。私は、彼だけじゃなく……ゆかりさんも、止めますから」

    「アイギスさん……」

    「行こう、鳴上君!」

    雪子に手を引かれ、鳴上は再び走り出す。

    「アイギス……こうやって戦うのはあの時以来だね」

    「そうですね。ゆかりさんは、あの時から成長されましたか?」

    「さぁね。またこうやって同じような事でケンカしちゃってる辺り、お互い様って感じじゃない?」

    ゆかりが笑うと、アイギスも笑った。

    「……でも、変わったモノもたくさんあります。私は、それを守りたくてここにいる」

    アイギスの体、間接部から蒸気があがる。

    「あの時とは違う。もう迷いは無い。本気で闘いましょう。私は、彼を助けなければならない」

    「……上等。私だって同じだから」

    696 = 686 :



    【第四層:豪奢の庭ツイア】


    ……黙っている。
    鳴上も何も言わない。
    雪子も何も言わない。
    そして、千枝もまた何も言わなかった。

    「……わからないよ。何で、千枝がそっちにいるの?」

    最初に口を開いたのは雪子だった。
    思ったままを、単純に口にする。

    「千枝は、有里君の事好きなんじゃないの?どうして、彼がいなくなる手助けをしてるの?答えて」

    雪子は怒っていた。
    親友の行動が理解出来ずにいたからだ。

    「何で黙ってるの?ちゃんと言ってよ。それとも答えるような理由が」

    「雪子にはわからないよ」

    千枝も、怒っていた。
    自分の中の気持ちに決着が付けられず、それを親友に指摘されたからだ。

    「わからないから聞いてるの。私には千枝のやりたい事が全然わからない」

    「私は……有里君の為に、有里君の邪魔になりたくなくて。それで、ここに……」

    「そうやって自分を誤魔化して、それで満足なの?私の好きな千枝はそんなじゃ無い。こんな格好悪い事絶対にしない」

    「……っ黙ってよ!とにかく、二人ともここから先には……彼の所には絶対行かせない!邪魔させない!」

    千枝は叫ぶ。
    自分の中のもやもやした感情を振り払うように。

    「鳴上君、先に行って」

    「天城、大丈夫なのか?」

    「大丈夫。いつもの千枝ならともかく、今のあんな千枝に負けるはず無いよ。さ、行って」

    雪子は笑う。
    鳴上は頷くと、階段に向かって走った。

    「行かせない!」

    トモエの薙刀が鳴上に向かう。
    しかし、炎が走り、鳴上とトモエの間に壁を作った。

    「千枝の相手は私」

    「邪魔しないでよ!私は……私は!」

    「うるさい!」

    雪子が怒鳴った。

    「……どうしたらいいかわからなくて、ただオタオタしてるだけ。そんな人に何が出来るっていうの?情けない」

    千枝はうろたえている。
    滅多に見ない、親友の「本気」の怒り。
    雪子の中に、本人すら何者かわからない感情が渦を巻く。
    それは、コノハナサクヤの操る炎に似ていた。
    圧倒的熱量を持って、雪子を突き動かす感情。
    親友を、救いたいという思い。

    「いいわ、だったら……。私は、私の全力を賭けて、千枝に……私の憧れた千枝を、わからせてあげる」

    そして、二人の間に本物の炎が舞った。

    697 = 686 :



    【第五層:焦炎の庭ハラバ】


    『この先に、多分、彼が……』

    もう何階登ったかわからない。
    疲れは無い。
    それよりも大きな感情に背中を押されて登って行く。

    『鳴上君、大丈夫?』

    風花が声をかける。

    「……大丈夫ですよ。俺がやる事ははっきりわかってます」

    階段を登る。
    駆け登る。
    一刻も早く、あいつの所へ。

    『次の階。準備はいいですか?』

    一度、呼吸を整える。
    刀を握り、振るう。

    「……行きます」

    階段を登りきる。

    「やぁ、来たね」

    「……湊!」

    有里は今にも突進してきそうな鳴上を手で制した。

    「少し、話をしよう。実力行使は望む所じゃない。お互いに、そうだろう?」

    「……言ってみろ」

    一定の距離を保ったまま、二人は対峙する。

    「悠。そのまま帰ってくれないか。僕が仕事を終えるまで」

    「却下だ。でなきゃわざわざここまで来てない」

    「……だろうね。一つ聞いておきたい。君、アレを本当に倒すつもりでいるの?」

    「そうだ。何かおかしいことでもあるか」

    有里は笑う。

    「あはははは……いや、まさか本気で言ってるとはね。聞いてないのかな?皆から。アレは倒すとか倒さないとか、そういう物じゃない。存在を消す事なんて、誰にも出来やしないんだ」

    「聞いてるさ。それでも、やってみるまでわからない。だから俺は……」

    「それは理想論だ」

    「そうかもしれない。だが、理想を追う事の何が悪いんだ」

    鳴上は刀を強く握る。

    「違うね。君は理想を追っているんじゃない。ただ現実に目を向けたくないだけなんだ。どうしようも無い事なんて無い……そう思いたいだけだろ?」

    有里はにやにやと、厭らしい笑いを顔に貼り付けたまま言う。

    「君と違って僕はリアリストだ……現実主義なんだよ。勝てない物には勝てない。僕はそれを知っている。だから、こんなにも辛い思いをして、自分を……捨てることを選んだ」

    698 = 686 :

    「湊。……最初に会った時、俺はお前を俺のシャドウじゃないかと思った」

    「……奇遇だね、僕もだ」

    「やっとわかった。お前はやっぱり俺のシャドウだよ。俺の見たくない部分をしっかり突いてくる」

    「それは悪かった。それで、踵を返す決心はついた?」

    「帰らないさ。お前は俺のシャドウだ。だけど、俺だってお前のシャドウだ」

    有里の笑いが消える。

    「お前、俺が羨ましいんだろう」

    「……何が」

    「現実主義だとか言って誤魔化してるが、お前こそ勇気が無いんだ。理想を追い続ける事が出来なかった、お前は……」

    「黙れ」

    「お前は俺達が羨ましいんだ。最後まで諦めない、俺達が。だから否定する。違うか?」

    有里も剣を握る。

    「……認めるよ。僕は、理想を追えなかった。だけど、そうする事で世界を守ったんだ。それは、事実だ」

    「譲れないんだ、俺も、お前も。だったら、どっちが正しいか」

    「決着を」

    「付けよう」

    有里はヘッドホンを付け直した。


    【エントランス】


    「さてと、手遅れにならない内にちゃちゃっといきましょー」

    「全く、こんな役回りとはな」

    「クマも頑張るクマ!手伝うクマ!」

    「つーか、あいつらもあいつらだぜ。好き勝手やりやがって」

    「仕方ないですよ。あの人達、みんな頑固ですから」

    「そうですね。それじゃ、行きましょうか。仲間割れを止めに」

    ……。

    699 = 686 :



    【第五層:焦炎の庭ハラバ】


    剣が交差する。

    「何だ、ひょろっとしてるからこっちは駄目なのかと思ってたぞ」

    「これでも歴戦越えてきてるからね。まぁ、得意では無いんだけど、ねっ」

    有里は鳴上の腹を蹴って、一度間合いを開ける。

    「ぐっ……イザナギ!」

    「オルフェウス!」

    両者はペルソナを召喚し、ペルソナ同士が激突する。

    「イザナギ、知らない間に強くなってるね」

    「ああ、おかげさんでな。そっちこそ、ちょっと変わったか?」

    「うん、色々あってね。強くなったんだ」

    イザナギの一撃を受け止め、はじき返す。

    「強いて言うなら、オルフェウス・改ってとこかな。多分、君のイザナギより随分と強いよ」

    「ああ、よくわかる。……じゃあ、やり方を変えるか」

    右の手を、眼前に。
    心の中の、何かを握りつぶし、発露させる。

    「チェンジ」

    その力は、死の力。
    ある男との絆が生んだペルソナ。

    「タナトス!」

    「る……ぐる……ルオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」

    雄叫びがフロア中に響きわたる。

    「……そう、来たか」

    「お前にもらった力だ……お前と戦うのにはピッタリだろ」

    「確かにね」

    タナトスの剣が有里を襲う。
    オルフェウスが受けるが、どう見ても力負けしている。

    「くっ……駄目か」

    同時に鳴上も攻撃をしかけていた。
    押さえ込むつもりで、体ごと覆いかぶさるようにまっすぐに。
    有里も剣で受けるが、体格の差は埋め難い。

    「湊ォ!」

    「悠!」

    キチキチと、刃が擦れ音を出す。

    700 = 686 :

    「このまま押さえ込んで、俺の……勝ち、だ」

    「……そう、みたいだね。僕の負けだ」

    力が抜けて、二人とも倒れこんだ。

    「……さぁ、その刀で僕を動けなくすればいい」

    「そこまではしない。お前が負けを認めて、俺達に協力してくれればそれでいいんだ」

    「僕はきっと裏切るよ。君を動けなくしてしまえば、僕の邪魔をする人はいなくなる」

    「そうだな。だけど、お前は言っただろ。『信じろ』って。俺はまだ、お前を信じてる」

    有里は笑った。

    「この期に及んでまだそんな事を言えるなんて、君は本当にすごいな」

    「それしか出来る事が無いんでな。……さて、皆を迎えに行くか」

    鳴上が立ち上がり、有里に背を向ける。
    階段に向かって歩き始めた時。

    『鳴上君、後ろ!!』

    風花が叫んだ。

    「え?」

    「チェンジ」

    有里がこめかみに指を突きつけている。
    いつか見た、有里の召喚シークエンス。

    「メサイア」

    タナトスは既に戻している。
    今、鳴上の身を守る物は何もない。

    「湊……お前」

    「すまない、悠。それでも、僕は死ななくちゃならない。世界の為に、君達の為に、僕自身の為に。さよなら」

    一撃で、鳴上の意識は途切れた。


    【頂上:王居エレス】


    『やぁ、久しぶりだね』

    タルタロスの頂上では、巨大な人型が佇んでいた。

    「少し前まで一緒だったから、ちょっと離れても久々に感じるね」

    ニュクス・アバター。死の現し身であり、かつて有里の内にあった物。

    『さて、君はやっぱり僕を倒すんだろうね』

    「すまないが、そうさせてもらうよ。その後、また一緒になろう」

    ニュクス・アバターが手を広げる。

    『それじゃやろうか。手加減はいらないね』

    有里は震えていた。
    久しぶりに味わう死の恐怖。
    体が竦んでいるのがわかる。

    「……何を、今更。やるしかないんだろう」

    MP3プレイヤーのリモコンを操作する。
    この恐怖を焼き払ってくれ。
    「Burn my Dread」。

    『そのアルカナは示した……』


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