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    元スレ垣根「女…だと…」一方通行「…もォ開き直る」

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    701 = 1 :


    小学生から大学生までたくさんの学生達が友達同士で、あるいはカップルでそれぞれがそれぞれにお気に入りのゲームに向かい一喜一憂する弾んだ声があちこちであがる中、
    一人画面の前で自身の敗因を分析しながらブツブツ呟いている白い髪の友人をぼんやり眺め、これまでの二人の間にあったことを思い浮かべる。

    一方通行が吃りながら顔を歪めながら「ともだち」という言葉を尻切れトンボに自分に対して口にした時、同年代の遊び相手なんていなかったと言った時、
    それは確かに今まで彼女にそういった相手がいなかったことが事実であることを明白に表している。

    けれど本当にそうなのか。

    いや。

    違う、今この瞬間抱いている疑問の本懐はそこじゃない。そうじゃない。それまでがどうだったかではなくこれからのこと。

    この先、自分以外にもこんな風に臆面なく子供っぽさを滲ませた表情を向ける相手が一方通行に出来るだろうか。

    そんなことを想像すると、これまで他人に興味のなかった―――あるいは興味のない素振りで逃げていたこの自分に妙に嬉しい気持ちが沸いた。

    人格が破綻していると言われる超能力者の周囲とのあらゆる齟齬を身に染みて理解している垣根にとって
    このムカつく程傲慢で強く、それでいて異常にいろいろな面において弱い彼女にそういった対象が増えることを素直に喜んでいることに苦笑いが漏れる。

    すると当の本人には「なにヘラヘラしてンだ」と横目で訝しげな目を向けられたがそこはサクッと無視することにした。

    ついさっきファミレスで自身が口にした言葉を思い出す。


    「自分は以前の一方通行のことをよく知らない。資料でしか見たことがない」


    今でこそ黄泉川愛穂の教職員用ファミリーサイドに住み込んでいる一方通行だが、その前には大多数の生徒達同様学生寮に住んでいた。

    そしてその場所はわざわざ書庫(バンク)を調べるまでもなくあっさり特定することが出来た。
    一方通行自身が辺り憚ることなく堂々と出入りしていたからだ。

    702 = 1 :


    故に第一位の座を狙うスキルアウト達に襲撃され、家具から何から壊され荒らされた経験は数知れない。

    それについては垣根もまったく同じだ。
    住むところにまったく頓着しない一方通行と違ってある程度セキュリティ機能の高いところにずっと暮らしてはきたが、街中では至極平然と闊歩していたし、それは今でも変わらない。

    自身の力に対して絶対的な自信がある為にこそこそ隠れる必要性など存在しないのだ。

    だが、そうやって普通に生活してきたにも関わらずこの街のどこかでそれまで二人が対峙することはなかった。あの闘いの時まで。

    確かにどちらも幼い頃は特力研、虚数研、叡知研、霧ヶ丘付属、そういった名称の付けられた研究所に放り込まれほぼ幽閉された状態だった。

    それでもどんどんどんどん化け物染みた力を手に入れるに従ってそれらの深部でさえ手に追えないところまで来ると、仮初めの自由が保証されるようになった。

    要するに逆らえる者がいないから野放しにしておくしかないということ。

    なのに、それでもなお、自分達が交差することはなかったのだ。


    一方通行がまた襲ってきた十数人ものスキルアウトを一網打尽にしただとか、一方通行が提供した演算パターンを組み込む実験で被験者が暴走しただとか。

    そういった話は耳の奥にこびりつくぐらい何度も何度も嫌でも聞いてきたというのに。

    その度『一方通行』という巨大な影が背中合わせに張り付いてきた。
    この自分を踏んづけて頭一つ分下の第二位に押し込めてくる存在をひしひしと感じてきた。

    あの時一方通行を絶対に殺すと決めたのは自身の目的の為であり、個人的な私怨や執着ではない。

    けれどやはり肥大した白い怪物のイメージと共に心底憎いと思い、
    単純なコンプレックスよりも複雑な何かが絡まった糸のようにぐちゃぐちゃと自分の内で渦巻き、そして滅茶苦茶に壊してやりたいと思った。

    でもそれは完全に自分を中心に置いた考えなのだということを今となっては知っている。

    マラソンで一番手を走るのはキツいものだ。押し潰されそうな程重いプレッシャーがのし掛かるものだ。
    最強であるということは同時に最強でしかないことをも如実に指し示す。

    703 = 1 :


    この枯れ木のように頼りない身体をした人物が頂点に立っていてくれるからこそ。

    一番上のその一つ下で、いつでもすぐ目の前に立っている背中を見ていられるということに今では酷く安堵している自分がいる。


    それでも。それでももしももっと早く出会っていたら?

    もっと幼い時から知り合っていたら?

    こんなにオモシロイ奴だともっと早く気が付いていたら。

    今よりさらに現実は楽しかっただろうか。


    くしゃりと自身の茶色い髪を掻き上げ、ふ、と小さく息を溢す。

    過ぎ去った過去を振り返るのは詮ないことだ。そんなことよりも、そんなくだらないことよりも。


    今だってこんなに楽しい。


    まったく自分はいつの間にこんなにヌルい人間になってしまったのだろう。

    波のない浅瀬の海のように穏やかに緩やかに、けれどどうしようもなく騒がしく。

    むしろ繰り越されて知る楽しみが増えたと言えるかもしれない。

    知ってゆこう。これから少しずつ。

    この実にひねくれて天の邪鬼で皮肉屋でそれでいて変なところでバカ正直だったりする一人の一方通行という人間について。



    はてさて、再戦する度負けが込んでいるその一方通行は実に不機嫌そうにぶすっとした顔でハンドルに頭を乗せこちらを軽く睨んでいる。

    その二つの真っ赤な目は拗ねていつも以上にぎらりとつり上がっていた。

    その表情に再び苦笑する。

    見た目も性格も食べ物や服の嗜好もこんなに違うのに、本当に自分達はよく似ている。

    ゲーム機の横に杖を立て掛け、ぶらぶらと棒のように細い足をぶらつかせて一方通行は顔の前で駄々っ子よろしく指を立てる。

    百合子「もォ一回」

    垣根「はいはい。お前の気が済むまで付き合ってやるよ。勝ちまでは譲ってやらねえが」

    百合子「うっぜェ」

    垣根「前世は豆腐屋だったから俺」

    百合子「いや、意味分かンねェ」

    軽口を交わしつつチャリンチャリンと硬貨を投入する。

    704 = 1 :


    ここで手心を加えるという発想はない。それこそ底無しに負けず嫌いな一方通行のもっとも嫌うところであり、自分自身もまたやっぱり極度の負けず嫌いなのだ。

    実際の乗り物を運転しているのと変わらないスピーカーもモニターに映る3Dの映像もクリアでリアルな機体の前に座り、
    暇人二人は飽きもせずまたハンドルを握り強くアクセルを踏み込む。



    ――――ああ、でも。



    既にとっぷり画面の中に入り込んで集中している一方通行の余分な部分を全てナイフで削ぎ落としたかのように皮膚の薄い白く鋭い横顔をそっと覗いて、


    その内こいつに自分以外にも他に“そういう”相手が出来たなら。


    少し、ほんの少しだけ……嬉しさの中に微かに、そこには指先に出来たささくれのようにヒリヒリと小さく痛む何かが潜んでいる。











    705 = 1 :

    ここまで。多分次回も近い内に来られると思います、ではまた!

    708 :

    乙ですっ

    709 :


    ていとくんはマジメだなあ
    別世界では彼女のために隠れて命張ってるし、実はカッコいいんだよね。

    710 :

    昔の人はいい事言った
    (頭)空っぽの方が、(夢)詰め込める、と
    現状、シチュが特殊な一巻分の働きしかしてないからこそ色々付加する猶予があるというか

    どこかで見た、禁書界の渚カヲルって表現は絶妙だなぁ
    アイツはウホッ要素に集中しちゃったけど

    711 = 1 :

    >>710
    この次もサービス、サービスゥ!ということでデート回はまだ続く訳ですが
    よかったら参考にしたいのでこの後二人にさせたいこととかあったら教えてもらえると嬉しいです

    雑貨屋入るとか○○買うとかそういうの

    あと最近言い忘れてた!いつもレスありがとうございます!

    712 :

    デートなら定番の服屋は絶対欲しいな
    ここの百合子ちゃんなら特に

    713 :

    お揃いのアクセサリー買うとかどうだろう。
    それはまだ早いかな?

    714 :

    試着で百合子ちゃんを着せ替えして垣根が無自覚な彼氏面でああだこうだ言ってほしいな
    百合子が女の子らしい格好してたらすぐナンパされそうだ

    でも>>1が書いてくれるならなんでもいい
    楽しみにしてる

    715 :

    投下に来ました。意見くれた人ありがとうございました、という訳で服屋行かせます

    716 = 1 :






    ドライビングシミュレーターゲームにて十回近く対戦し最後はギリギリいいところまで競ったものの結局負け越した一方通行は、
    けれど勝利への手応えを掴んだのか先程とは打って変わってすこぶる上機嫌だった。

    百合子「そォか、カーブ曲がる時ついブレーキ踏ンじまってたがあそこは加速すりゃイイのか」

    垣根「……それってかなり基礎中の基礎なんだが」

    どうにも抜けているその台詞に「本当にこいつ第一位か?」と今までも何度となく抱いてきた懐疑心がまた芽生えるが、
    確かに能力さえ使えば乗用車どころか戦闘機を追えてしまう一方通行にとっては一般的な乗り物に対する関心は薄いのだろう。
    むしろそんなことすら知らずによくあれだけ操作出来たものだ。

    百合子「オマエはなンであンな無駄に上手いンだよ」

    垣根「一時期結構ハマってたからな。つっても今までは基本コンピュータ相手だったし全国レベルならもっと上の奴わんさかいるぜ」

    百合子「……要は一緒にやってくれる奴がいなかったンだな?」

    垣根「……うん」

    百合子「……」ポン

    垣根「だから慰められると余計惨めになんだよ……」

    同情半分、嫌味半分でそっと背中を叩いてくる一方通行に一転して垣根は弱々しい声になる。

    垣根「ああ、それに俺は一応普通車とバイクの免許なら持ってるからな」

    百合子「……前から聞こうと思ってたがオマエ何歳だよ?」

    垣根「必要なのはカードじゃない。技術だ」キリッ

    百合子「オイ」

    要するに偽造免許かコノヤロウ、と一方通行が不審な目で睨め付けるが垣根の方はどこ吹く風である。
    もっとも暗部にいた人間ならば本来それくらいは最低限のスキルだと言えるかもしれないが。

    百合子「でもバイクか……確かにありゃカッケェな」

    垣根「なんなら後ろ乗せてやってもいいぜ?」

    百合子「謹ンで辞退する」


    <きゃー!きゃー!

    垣根「ん?」

    耳がおかしくなりそうに煩い店内で輪をかけて甲高く響く複数の声に垣根が立ち止まる。

    717 = 1 :


    発信源に視線を向けると、そのコーナーにはカップルもいるが主に数人のグループで固まった女子中高生達を中心とした人だかりが出来ていた。

    きゃいきゃいとはしゃいで盛り上がっているそれらの少女達の姿はとても可愛らしいのだが、
    彼女達が身体を寄せ合って入っている厚いカーテンの表面には引き伸ばした異様に目の大きいモデルの写真がでかでかとプリントされており、
    キラキラしたその空間は何とも言い難いオーラを放っている。

    垣根「プリクラか。ああいうのは苦手なんだよな俺」

    百合子「スゲェ分かる」

    垣根「デカ目補正っつーの? あれ滅茶苦茶怖いよな」

    百合子「スゲェ分かる」

    垣根「いやでもお前は一応カテゴリーとしては女子高生なんだからああいうのこそやるべきじゃねえ? つーかお前がJK(笑)」

    百合子「ぶっ飛ばすぞクソボケ。糞食らえだ。ウチのクソガキ共がやっぱあァいうの好きだからよォ、いつも二人で延々撮りまくっててうぜェンだよ」

    垣根「あーそうか」

    実年齢は0歳でも肉体年齢はお年頃な二人だ。
    日常的には大抵一枚も二枚も上手な番外個体にやり込められて打ち止めが憤慨する図が繰り広げられていることが多いが、そういう時の意気投合っぷりはいつ見ても微笑ましい。
    なんだかんだで仲良し姉妹である。

    一方通行は一方通行でウザいだのなんだの言いつつ、あの二人に携帯のカメラで無理矢理一緒に撮らされた写真をこっそりずっと保存していることは垣根にとって既知の事実だ。

    面倒臭い奴め、と思う。本当に回りくどくて頑固で面倒臭い。でもその面倒臭さも別に嫌いじゃないのだ。

    垣根「にしてもあの二人はそうやってちゃんと女の子らしいっつうのに、それに比べてお前は……」

    百合子「うるせェよ。大体あれって実際より肌白く見せる機能付いてンだろ?
    俺が撮ったらぜってェ幽霊っつーかガイコツみてェになる。多分」

    垣根「ぶふぉっ! い、いいなそれ。やっぱり撮ってみるか?www」ククッ

    百合子「却下」

    一方通行の冷めた一言でその案はあっさり流れる方向となった。




    718 = 1 :



    ――クレーンゲームコーナー


    何種類ものキャッチャーゲームが置いてある区画に差しかかる。

    そこには兎や猫といった定番の動物ものやキャラもののぬいぐるみ、超機動少女カナミンシリーズ等のフィギュア、ゲーム機などが丸くて透明なカプセルの中にぎゅっと押し込まれ山積みになっていた。

    垣根「あ」

    百合子「うン?」

    唐突に立ち止まった垣根の目線の先には、打ち止め達のお気に入りキャラクターであるヒゲを生やした剽軽な顔のカエルのぬいぐるみがある。

    垣根「なんつったっけコレ。ケロ助?」

    百合子「ゲコ太」

    垣根「それそれ」

    言うが早いか垣根は筐体の前に近付くと使い込んで多少擦り切れている長財布をポケットから取り出し僅かに屈む。

    垣根「この前取ったやつはお嬢ちゃんにあげたから今度はワーストちゃんの分な」

    百合子「取れンのか?」

    垣根「多分。今日は客多いから既に並び崩れてるし」チャリン

    五百円玉を投入口に落とし、慣れた手付きでレバーを操作する。

    ガラス越しにゆっくりと動くアームは不安定にゆらゆら揺れて、
    店側の戦略たっぷりのそのネジの弛さに堪え性のない一方通行はイライラするが、垣根の方は別段気にすることもなく着実にぬいぐるみを傾け寄せていく。

    百合子「そォいやオマエも一度も撮ったことねェのか?」

    垣根「プリクラ?」

    百合子「ン」

    垣根「あー、そう言えば撮ったことねえつったら心理定規に無理矢理連れられて一緒に撮らされたことならあるな」ウィーン

    百合子「……」

    垣根「? どうした」

    急に黙った一方通行に垣根はアームの先に目を向けたまま声をかける。

    百合子「……オマエ昨日心理定規のこともっと知っときゃよかったとか言ってただろ」

    垣根「ん? ああ、まあ」カチャカチャ

    百合子「悪かったな」

    垣根「は?」

    百合子「オマエらの関係ぶっ潰しちまって」

    垣根「はあ?」

    いきなりの的外れな見解に眉を寄せるが一方通行もやはりガラスケースの中を見つめたままで、一瞬首を傾げた垣根はしかしすぐに納得して頷く。

    719 = 1 :


    垣根「ああ、なるほど。つまりまたお前お得意のウザいネガティブ思考か」

    百合子「あーもォうるっせェな…」チッ

    図星を突かれて一方通行が舌打ちする。

    垣根「だからこれも昨日言っただろ。お前に一回ぶちのめされといてよかったって。
    あそこでやられてなかったら俺はもっと壊してたし、もっと殺してた。ありゃ全部俺が悪かったんだ、自業自得だよ。
    それにどっちにしろもう暗部も解体しちまってんだし今更だ今更」カチャカチャ

    百合子「だが……いや、つーか…」

    垣根「なに、それともただ単に心理定規の奴に妬いてんの?」

    百合子「だからなンですぐそォいう方向に解釈すンだよオマエは」

    垣根「だって俺はさっき思ったから」

    百合子「……、あ?」

    垣根「もしお前がその内他の奴にかまけて俺の相手してくんなくなったりしたら……それはちょっと寂しいな、ってよ」ウィーン

    百合子「……ばーか」

    垣根「お前はどうよ?」

    百合子「そォいうのってエゴじゃねェ?」

    垣根「ああ、そうか。素直に欲しいもんを欲しいって言えない奴なんだなお前は」

    百合子「あァ?」

    垣根「お前は根が傲慢なんだから無理して手放そうとすることねえよ。お嬢ちゃん達のことだって諦めたくねえから戦ってきたんだろ。
    俺みてえな奴に踏みにじられたくないから力づくで奪い返してきたんだろ。それ自体が既にお前のエゴじゃねえの?」ガチャガチャ

    百合子「………当たりだ」

    垣根「ならこれ以上エゴイストになることくらい何でもねえさ。それに――」ゴトン


    垣根「ほい、取れた」つぬいぐるみ

    百合子「ン」

    垣根「それに俺はやっぱもう隣にお前がいないとつまんねえんだ。
    一回手に入れちまったらもう理屈抜きに……それぐらい今じゃお前のことが気に入っちまってるから」

    百合子「……」

    垣根「お前にとってのお嬢ちゃん達みたいにはなれねえし、なるつもりもねえが。
    だから違う形で……これからもまだまだいっぱいお前とやりたいことあるんだよ。そんな単純な理由じゃ駄目か?」

    百合子「……ふ」

    垣根「嬉しい?」ニヤニヤ

    百合子「オマエ本当よくそこまでサムい台詞連発出来ンなァ。スゲェわ」

    720 = 1 :


    垣根「心配するな。これでもこっちもかなり大分恥ずかしい。でも言わなきゃすーーぐ疑心暗鬼に走るからなお前の場合」

    百合子「オマエが俺のこと余すとこなく理解してくれてて嬉しい限りだ」ハァ

    垣根「よしよし」ポン

    百合子「ごめンな」ボソッ

    垣根「何が?」

    百合子「自分でもウジウジして煮え切らねェ奴なのは分かってンだ。でもオマエが俺のそォいうとこに根気よく付き合ってくれンのが――……」

    垣根「いいよ」

    百合子「………うン」


    言葉尻まで言い終わる前に静かではっきりとした肯定と手の平が頭に降りてきて、一方通行はこくんと小さく頷く。

    わしゃわしゃと適当に髪を掻き回してくる袖口の辺りからこの少年独特の匂いがする。

    本人の趣味であるところの万人受けしないクセの強い匂い。
    まだぴりりと少し辛いこの匂いも夕方にもなれば落ち着いた甘いバニラの香りに変わることを知っている。

    既に慣れきってしまって今ではどうとも思わなくなっているが初めの内は随分と鼻についたものだ。
    匂い自体の話ではなく垣根自身の過剰な自意識に対して。

    どうにもこうにもナルシスティックな面のあるこの男は、変に気取らなければ本来人好きのするタイプだろうに妙に奇抜な方向に突き抜ける節がある。

    ただでさえ全体的に派手な雰囲気を持ち合わせているのに加えてこれだから、合わない人間はとことん合わないだろう。

    けれどもう少し深いところまで真正面から関わってみれば、反面かなり子供っぽいところがあることに気が付く。
    例えば大人びた人間なら見向きもしないような取るに足りない子供の遊びに夢中になって幼い打ち止めと一緒に本気で遊び転げたり。

    もしかしたらそれは本当に幼い頃に出来なかったことだからなのかもしれない。
    自分達のような人間が周りの目にどう映ってきたか。知っているから共感する。

    怒りというよりも諦観混じりの言い様のないあの寂しさを無意識の内に共有している。

    だからそのぽっかりと空いた穴を埋めるように、指の隙間から溢してしまった時間を取り戻すように、大袈裟なくらい稚拙な行動をしてしまうのかもしれない。

    ファミレスでは麦野に傷の舐め合いじゃないと言ったけれど。
    自分自身の口で垣根にそんなことをするつもりはさらさらないと、だから全力で馬鹿にしてろと豪語したけれど。

    721 :


    第一位であり第二位であるという肩書きがなかったら果たしてここまで意気投合出来ただろうか。

    どんなに綺麗事を吐いて上っ面を取り繕っても、230万人の内のただのまっさらな一人と一人として出会っていたら。

    ここまで素を晒け出せる関係になっていなかったんじゃないか。いや、それ以前に出会うことすらなかったのじゃないだろうか。

    本当はどこかで捻れて依存しているんじゃないだろうか。


    ああ、本当に自分はすぐこんなことばかり考える。そんなどうでもいいことで躓いて、ほんのちょっとしたことですぐ転ぶ。


    打たれ弱くて脆くて吹っ切れたと思ったらまたすぐに挫折して、我ながらイライラする程ぐずぐずと煮え切らない。

    それでもこんな自分に自惚れじゃなく事実として一緒にいて楽しいと言ってもらえることが単純に嬉しいと思う。


    隣にいよう。いつも通りに、ぴったり寄り添うのじゃなく少しだけ間を空けて。それが自分達のスタイルなのだから。

    どちらかが体重をかけたら崩れてしまうようなギリギリの均衡じゃなく、一人と一人でそれぞれ互いに立っていられるように。

    例えば酒好きなくせに基本的に甘いものもよく好むことだとか、目玉焼きには醤油、コーヒーは飲むけれどもブラックでは飲まないということだとか。

    繰り返し繰り返しその饒舌な口から飛び出す実にくだらない言葉や些細な仕草や、
    余裕ぶって見えて実は非常に沸点が低くて感情的なことや、なのに時たまぎくりとする程鋭い指摘をしてくることだとか。

    そういった多面性は一度や二度顔を合わせただけなら絶対に分からなかったことだ。

    既にこの少年の存在が自分の日常の一部にかっちりとパーツを嵌め込んでいることもよくよく知っている。

    知らないことを知ってゆくのは楽しい。まだまだ真っ当に向き合い始めてからの日々はごく浅いのだ。そして知られることも。

    この垣根帝督という一人の少年について山程。自分自身について山程。何が好きで何が嫌いで何に怒って何に笑うのか。

    そういったことを少しずつ。









    722 = 1 :


    ―――





    垣根「あ、なあなあ一方通行。締めにあれやってこうぜ」クイクイ

    百合子「ン?」

    散々遊び倒した後にさてそろそろこの店も出ようかという段になって最後に垣根の指差した先。
    そこには一台のスタンダードなエアホッケーの機体があった。

    垣根「で、普通にやってもつまんねえし負けた方が罰ゲームってことでどうだ?」

    挑発的な垣根のその提案に元来勝ち気な一方通行の瞳がぎらりと光る。

    百合子「は、上等だね。受けて立ってやンよ」スタスタ

    垣根「よし、言質は取った。二言はねえな?」スタスタ

    百合子「あン?」

    わざわざ確認するような言葉に一方通行が問い返すよりも早く垣根はさっさとコインを入れ始める。

    垣根「そうそう。ちなみにこの台能力使用禁止なやつだから」チャリンチャリン

    百合子「え」

    <ピロリン♪




    垣根「――――つまり単純に技術と腕力の勝負になる訳だが行くぞオラァァァァあああああああああ!!!」ガコーーン!!

    百合子「あ、ああああああああああ!!!!」



    ―間―










    百合子「…………」ブスッ

    垣根「ほら、そんなむくれんなって。勝負は勝負だろうが」

    百合子「……杖ついた障害者に勝ってそンな嬉しいか」ギロ

    垣根「都合いい時だけ障害者ぶんなよ。最初から能力使う気満々だった奴が何言ってやがる」

    百合子「アンフェアだ。他のヤツでやり直させろ」

    垣根「却下。さーて、んじゃ何してもらうかな。セーラー服でも着てみるか?」

    百合子「ふざけンな! ぜってェ着ねェよ!!」

    垣根「まあそれも面白そうでいいんだが……流石に俺もそこまで鬼畜じゃねえ。もうちょいライトなやつにしてやるよ」

    百合子「クソが……」

    垣根「っつかそういやお前本当いつもその服だな。他にレパートリーはねえのかよ」

    百合子「……これ一応ブランドもンなンだが」

    723 = 1 :


    垣根「高けりゃいいってもんじゃねえだろ。
    スカート穿けとまでは言わねえがもうちょいまともな恰好してみろって。そもそもその服男物だろ」

    百合子「カッコくらい好きにさせろよ。
    女物の服なンざ死ンでも着たくねェし、それこそもし着たらバカな奴らにバカにされンだよ」

    垣根「俺はしねえぞ? 多分爆笑はするけど」

    百合子「それがバカにしてるってことなンだよ!!
    ……そもそもオマエだけじゃねェ、それ以上にンなことしたら笑いまくる奴らがいンだよ。
    あのクソカエルとか妹達とか、あと土御門とか土御門とか海原とか海原とか」

    垣根「ああ、グループの奴だっけ?」

    百合子「あのシスコンメイドキチガイとエセ紳士野郎だけは何がなンでも許さねェ…」ギギギ

    垣根「……お前も大概苦労人だよな」

    百合子「その苦労の大半はオマエが原因なンだがな?」ジロ

    垣根「ん? ところでグループって確かもう一人いたよな。案内人やってた女で……『座標移動』だったか」

    百合子「」ピタッ

    垣根「?」

    垣根「なんだ?」

    百合子「……いや」

    垣根「そういやその子って可愛い?」

    百合子「別に……普通の女だ」

    垣根「ふぅん?」

    百合子「……そンなことよりもォここ出るぞ。そろそろ耳痛ェ」キーン

    垣根「おう。じゃあ次は服屋な」ガシッ

    百合子「……は?」

    垣根「だから罰ゲームだよ罰ゲーム。お前に女物の服着せるから」ズルズルズル

    百合子「はああああああああああ!!?」











    724 = 1 :


    ――洋服店 『acqua』


    <カランカラン♪

    店員A「む。お客様であるか。いらっしゃいませなのである」クルッ

    垣根(……なんかいきなりゴリラみてえなオッサン出てきたぞ)

    百合子「おい、垣根!」グイッ

    垣根「先に言っとくがお前に拒否権はない」キッパリ

    百合子「ぐぬ、」

    店員B「アラ、いらっしゃい」スタスタスタ

    垣根(……おいおい、今度は顔面ピアスまみれの女かよ。大丈夫かこの店。俺達の他に客いねえし)キョロキョロ

    百合子「……」

    店員B「言っとくケドウチの自慢の服は化学繊維一切使ってない完全なお手製だから」フフン

    垣根「オートクチュールか」

    店員B「値段は出来る限り抑えてあるからどんどん試着していっていいわよ」

    垣根「ども。よし、じゃあ一方通行。何でも好きなもん選べ。ただし言った通り女物限定な」

    百合子「フザケンな! なンで俺がそンなことしなくちゃなンねェンだよ!」

    垣根「罰ゲームだからだろ」アッサリ

    百合子「ああうン、それ言っちまったら身も蓋もねェけど」

    垣根「俺のチョイスじゃねえだけ良心的だと思え。ほらほら、十分以内に選ばねえとこっちで勝手に決めちまうぜ?
    なんならこのフリル付いたミニスカワンピ着るか?」ヒラヒラ

    百合子「ぐっ…!」

    垣根「じゃあ俺はあっち見てるから決まったら声かけろよ」スタスタスタ

    百合子「……」ポツーン







    ――レディースコーナー


    百合子「クソが……」ブツブツ


    ほぼ強制的に決定された罰ゲームに一方通行は再び歯軋りしながらも素直に服を選ぶ。
    なんだかんだで約束事は守らなければならないと考えている辺り根が律義な質である。

    百合子(……女物の服か。俺にとっちゃ女装みてェなもンだが)

    百合子(つーか会う奴会う奴に言われるがこの服の何が悪ィンだ? カッケェだろコレ。
    そ、それに夏着てた奴とかはちょっと木原くンとお揃いっぽいし…)カァー

    百合子(……木原くン)グスッ

    ※要するに木原くんに服のセンスを伝染されました

    百合子「と、とにかく俺が着てもあンま違和感ねェっぽいのを…」ガサゴソ

    制限時間内にさっさと決めないと本気で垣根チョイスの衣装を着させられる可能性がある為、一方通行は手早くそれらしいものを探していく。

    百合子「ええと……これぐらいなら……」



    725 = 1 :


    ――試着室


    一方通行は狭い個室の中で等身大の鏡に自身の身体を映す。

    百合子(……自分で言うのもなンだがやっぱペラいな)

    それは飽きる程長年見続けてきたもので、相変わらず血管が透けて見えるくらい病的に白く背と腹がくっついてしまいそうに細く頼りない。

    百合子(上だけ見りゃ前と殆ど変わってねェよォな気がするが……)マジマジ

    どこもかしこも薄っぺらいこの身体が黄泉川や麦野のような肉感的な肉体になることは確実に一生ないだろう。

    垣根には棘が抜けて雰囲気が変わったと言われたが自分の姿を毎日見慣れている身にはよく分からない。
    でも少なくともそれは悪い変化ではないはずだ。

    小さく息を吐いてこつん、と鏡に小さく額を当てる。


    百合子(……そォだ、これでイイ)


    往々にして変わってゆくということはいつだって少し怖い。

    自分の身体と心と、アンバランスで相反するものが一緒くたになってぐちゃぐちゃと胸の内を掻き乱す。

    けれど大丈夫だ。

    底無しにお人好しで暖かい家族と、それからお前がお前でさえいてくれればそれでいいとそう言ってくれる能天気な友人がいるから。

    鏡に引っ付けた額を勢いをつけて剥がし、少しだけ笑って一方通行は選んだ服をごそごそと頭から被る。




    726 = 1 :


    ―――


    垣根「よう、着替えたか?」コンコン

    百合子「……おォ」

    垣根「じゃあ開けるぞー」ガチャ

    百合子「……おォ」

    一方通行からの相槌と同時に垣根が試着室の扉をがちゃりと開ける。



    ――――小さな四角い試着室のその中に彼女はいた。

    一方通行が現在着ているのはいつもの意味不明な、突き抜け過ぎていて逆にダサいとすら思わなくなってくる例のしましまシャツではなくざっくりとした編み目の入った薄茶のニットセーター。
    太もものあたりまで裾がある長めの丈のものだ。

    デザイン自体はごくシンプルで仮に男が着ていてもこれといった違和感はない。だからこそ一方通行もそれを選んだのであろう。

    しかしその少しくすんだカーキ色のセーターは凹凸のない、よく言えば細身、悪く言えば貧相な一方通行が着ると多少袖やら襟口がだぼつくという仕様になる。

    従って現在の一方通行は白過ぎる首元の肌から浮き出た鎖骨をちらりと覗かせ、
    加えて覆われた袖先から指先がちょこんと出ているというあざといまでに少女少女した姿となっている。

    ついでに言えば全体的にゆったりとしている為にその薄い胸板をも微妙に誤魔化す効果まで兼ね備えていた。

    例えるならば女子が男物のYシャツや学ランを羽織った時のあの身の丈に余ってる感。あの破壊力。

    つまり、










    垣根「すげぇwwwお前完全に女の子じゃんwwww」ゲラゲラゲラ

    百合子「………………あァそうだった。そォいう奴だよオマエは」ビキ


    ついさっき感じたオマエに対するちょっと優しい気持ちを返せ。

    思わずそう口をついて出そうになる程の見事な爆笑である。

    垣根「ほうほうほうなるほど、服装ひとつで変わるもんだな」

    百合子「……」

    垣根「うん、可愛い可愛い。似合ってる似合っ………ぶはっ! 似合い過ぎだろ!!?」バンバン!!

    百合子「………」プルプルプル

    垣根「お、お前いつもその恰好してりゃいいのに。化粧要らずだし、あとは胸にパット詰めりゃ完璧だぜ?www」ククク

    百合子「こンな屈辱生まれて始めてだよバカ……」ズーン

    この垣根の反応は罰ゲームとしては正しいと言えるかもしれないがなんだか複雑な気持ちになる一方通行であった。

    727 = 1 :


    垣根「っつかそれ上だけだろ。下はいつものパンツじゃねえか」

    百合子「これ以上は勘弁しろマジで…」

    垣根「まあお前のその枯れ枝みてえな足じゃ見せたら余計みすぼらしいよな」ウン

    百合子「……オマエ俺のこと毒舌っつーけどそっちも大概だって分かってるか?」ピキ

    垣根「悪い悪い。でも本当に似合ってるぜ?」

    百合子「嬉しくねェがありがとよ」チッ

    垣根「あー、にしてもそういう恰好だとマジで……」ジロジロ

    百合子「……だからジロジロ見ンなバカ」シュン

    垣根「あ、もっかい“バカ”って言って。もうちょい拗ねた感じで。あと上目遣いで」

    百合子「死ねよバカ!!!」

    垣根「そうじゃねーよ! もっとこう、恥じらった感じで言えよ!
    もしくは『あんたバカぁ?』的な少し小馬鹿にした感じで! 出来ればオプションで頬赤らめて!!」カッ!

    百合子「何言ってンだオマエ!?」

    垣根「百合子ちゃん可愛い」サラッ

    百合子「え、あ……」テレッ

    垣根「それだ!!!」ビシッ

    百合子「俺で遊ぶンじゃねェェェェェェ!!!!」

    垣根(本当なんでこいつこんな面白いんだよ)


    ある意味予想通りとはいえ垣根にいいように遊ばれて一方通行は臍をかむ。

    百合子「クソッタレが……」ギリギリ

    垣根「で? どうよ、自分で着てみた感想は」

    百合子「……いつもの服の方が万倍イイ」

    垣根「俺はこっちの方が万倍いいと思うけどな」

    百合子「本当に変じゃねェか?」

    垣根「変じゃない変じゃない」

    百合子「……」

    垣根「うん、そうしてると確かに麦野が言ってたことも分かるかもしれねえ」

    百合子「? 第四位が何だって?」

    垣根「麦野曰くなんでも俺達並んでると“そういう”関係にしか見えねえんだと」

    百合子「は、はァ!?」

    垣根「ついでに第三者からすりゃお前は胸ねえだけの女にしか見えねえんだそうだ」

    百合子「な、」

    垣根「うし。じゃあお前今から今日一日その服な」

    百合子「は?」

    垣根「すんませーん! 店員さーん!」

    店員B「ハイハーイ。……あらん? なかなかカワイイじゃない彼女」スタスタ

    店員A「ふむ。お客様によくお似合いである」スタスタ

    垣根「この服着たまま行きたいんですけどいいっすか?」

    百合子「オイ」

    728 = 1 :


    垣根「まあまあ、俺が買うから気にすんなって」

    百合子「そォいうこと言ってンじゃねェよ!」

    店員B「もちろんいいわよ。じゃあタグ切るわね」パチン

    百合子「オイ」

    店員B「んー、でもちょっと物足りないわねぇ。あとは顔にピアス付けまくればカンペキってトコかしら?」

    垣・百合「「いや、それはない」」スッパリ

    店員B「……………」ビキッ

    店員A「そう気を落とすな。貴様のファッションが理解される日もきっと三百年以内には来るのである」ポン

    店員B「るっせぇんダヨこのゴリラがぁぁあああああああああ!!!」ズギャッ!!

    店員A「ひでぶッッ!!?」ズシャアァァァ!!

    垣根「……」

    百合子「……」


    垣根「本当に大丈夫かこの店」

    百合子「駄目じゃねェ?」

    垣根「おし、それじゃ次のやつ選べ」

    百合子「……ン?」

    垣根「まさかこれで終わりだと思ったか? だが断るッ!!」

    百合子「なンでだよ!? もォイイだろ!!」

    垣根「折角の機会じゃねえか。それともこのまま一生ウルトラマンでいるつもりか? 三分間限定ヒーロー(笑)でいるつもりか?」

    百合子「……」

    垣根「そう、『覚悟』とは! 暗闇の荒野に! 進むべき道を切り開く事だッ!」

    垣根「……という訳で覚悟決めて腹くくれ百合子ちゃん」ポン

    百合子「オマエ今それ言いたかっただけだろ」

    垣根「うん」

    百合子「……」

    垣根「とりあえずこのジーンズ穿け。あとこっちのコートも」ゴソゴソ

    百合子「結局オマエが決めてンじゃねェか!!」




    729 = 1 :


    ――――――
    ――――
    ――



    百合子「…………」

    垣根「完璧だな」


    完成した一方通行の姿を長め垣根は一人ふむ、と満足げに顎に手を当て頷く。

    先のカーキのセーターの上に羽織った大きなフードとボタンの付いているもこもこした黒いダッフルコート。
    完全にお手製というだけあってどこも型の崩れたところがなく実際に着てみると綺麗なシルエットがくっきりとよく分かる。

    下はぴったりとした明るい水色のスキニージーンズでダメージ加工がしてあるものだ。

    垣根「そうか、お前はクソ細ぇが言い換えばモデル体型と言えなくもねえのか。つーか足長ぇなお前。その足首よく折れねえな」

    百合子「……」

    垣根「男としちゃまあ平均だが女として考えりゃ背も高い方だしな。
    だがその丈長いセーターだと結局太もも隠れて分かり辛いか。やっぱこっちのTシャツに……」

    百合子「待て」

    垣根「あん?」

    百合子「……イイ加減疲れた」

    垣根「はあ? おいおい体力なさ過ぎだろ最強さんよ」

    百合子「黙れ。だから杖ついてンだよこっちは。ずっと立ってて足痛ェし」

    垣根「ああそっか、ごめんごめん。そういや喉も渇いたな。どっかでなんか飲むか」

    百合子「……いや。その前にオマエの服も買う」

    垣根「は? いやいいよ、俺今特に欲しいもんねえし。つーかそもそもこれお前の罰ゲームだし」

    百合子「それでもオマエにだけ買わせンのは気分悪ィンだよ。等価交換だ」

    垣根「よく分かんねえがまあそれなら遠慮なく」

    百合子「ン。じゃあこっち来い」グイグイ



    730 = 1 :


    ――メンズコーナー


    百合子「そォいえば」

    垣根「うん?」

    百合子「オマエ人のことああだこうだ言う割にそっちも大抵いつも同じ感じの服じゃねェか。
    Yシャツにセーターにジャケットに。今日は上はYシャツだけだが」

    垣根「麦野にも言われたが似合わねえのはホント似合わねえんだよ俺。パーカーとか」

    百合子「オマエなら『俺は何でも着こなせる(キリッ』とか言いそうなもンだが」

    垣根「だからテメェは俺をどんなキャラだと思ってんだ」

    百合子「でもオマエ上背あるしツラもスタイルもいいし基本何でもイケンじゃねェか?」

    垣根「あ、一方通行が俺に対して好意的な評価をした……だと……?」ガクガク

    百合子「ぶっ殺すぞ。大体なァオマエはいろいろだらしねェンだよ、シャツのボタン開け過ぎだ馬鹿。そンなンだからホストって言われンだよ」

    垣根「かっちりした恰好ってのはどうも苦手でな」

    百合子「ったく…。これはどォだ? ショート丈のデニムジャケット」スチャ

    垣根「ふんふん」


    <カランカラン♪
    <いらっしゃいませなのである

    <いらっしゃーい

    垣根「あ、やっと他の客来たな」ヒョイ

    百合子「どォでもイイから動くな。合わせらンねェだろォが」グイ

    垣根「あ、悪い」

    百合子「これならインナーは……」

    客A「あ。ねえねえ見てあの二人」ヒソヒソ

    客B「やだ、彼氏超かっこいい!」ヒソヒソ

    垣根「……」

    百合子「……」

    客A「彼女の方ってあれアルビノ? 初めて見た!」

    客B「目立つねえ。お似合いだけど」

    客A「美男美女カップルって本当にいるんだー。あーもーリア充爆発しろ」

    客B「ちょww聞こえてるってww」

    731 = 1 :


    百合子「……」

    垣根「……」



    百合子「インナーはこっちの……」

    垣根「カップルだって」ボソッ

    百合子「くっ…」

    垣根「美男美女だって」

    百合子「あぐっ!」

    垣根「お似合いだって」

    百合子「っだー! いちいち確認すンのやめろボケ!!」ダン!

    垣根「やっぱ俺って超かっこいいんだって」フフン

    百合子「やかましい!!!」

    垣根(あーホントこいつからかうの超楽しい)ゾクゾク


    期待をまったく裏切らないその反応に、ふと垣根は改めて一方通行の姿を見下ろす。
    本当によく似合っているその服装は一気に雰囲気を柔らかくし、彼女をまるで普通の女の子のように目に映した。

    今の一方通行を見て実際にはあんなに強大な力を持っているなどと思う人間がいるだろうか。
    元々一際目立つ容姿に加えて人が避けて通るような異様なオーラを持ち合わせてはいるが、やはり同時に年相応の少女なのだと再確認する。

    当の本人は目が合うとあからさまに眉をしかめて僅かに視線を逸らし顔を伏せた。

    自身より十数センチ低い位置にあるその顔には目元にうっすらと睫毛の影が出来ているのが分かる。その睫毛すら白い。

    普段が普段なだけに時折こういう表情をすると余計ギャップを感じさせるのだ。
    また、距離が近いせいで微かにシャンプーか何かの甘い匂いが鼻先を掠める。

    不覚にもさっきは爆笑したその恰好に何故か垣根は本気でどぎまぎとし、そのことに何とも言えない敗北感を感じた。

    垣根(んー……)

    試しに今一度じっと華奢な身体を眺め回し、脳内の自分の好みと照らし合わせてみる。

    732 = 1 :


    垣根(……口が悪い。いやでも麦野みたいな気の強い女ってそそるよな。こいつの場合ただのツンデレだし)

    垣根(……凶悪面。いやでもマジで顔自体は悪くないんだよな、目付きの悪さといつもぶすっとしてんのさえなければ十分……)

    垣根(……ド貧乳。いやでもただでさえモヤシなこいつに胸あってもアンバランスなだけ、むしろこれは黄金比と言ってもいい)

    垣根(……どう見ても家庭的に尽くすタイプじゃない。いやでもこいつなんだかんだ面倒見いいし差し入れとかよく持ってきてくれんだよな)

    垣根(……)

    垣根(……)



    垣根(………あれ? こいつ俺の理想に相当近くね?)ジーッ

    百合子「……だからさっきから一体何なンだよ?」

    垣根「いや、でもなあ…」チラ

    百合子「おい、今どこ見た。どこ見やがった」

    垣根「胸」

    百合子「オイ」

    垣根「ハァ……」ガッカリ

    百合子「あ゛?」ピキ



    733 = 1 :


    ――試着室


    百合子「着替えたか?」コンコン

    垣根「おう」

    百合子「ンじゃ開けるぞ」ガチャ

    先程と逆転し今度は一方通行が試着室の扉を開けた。
    そこには彼女の選んだ服を身に付けた垣根が立っている。

    垣根「どうよ。カッコイーだろ」バーン

    百合子「ン。悪くねェンじゃねェの」

    垣根「………」


    垣根「えっ?」

    予想外な台詞に垣根の口から思わず間の抜けた声が漏れた。

    垣根「あれ? そこは『似合わねェなメルヘン野郎(キリッ』の流れじゃねえの?」

    百合子「正直に似合ってると思うが」

    垣根「え、そ、そうか…」

    百合子「なーに照れてンですかァ?」ニヤニヤ

    垣根「あ、テメ、今までの仕返しかコラ!」

    百合子「垣根くンカッコイイ」

    垣根「あーはいはい、お前と違ってその手には乗りませーん」

    百合子「垣根垣根」

    垣根「あん?」

    百合子「好き」

    垣根「ぶふっっ!!?」

    百合子「コーヒーが」シレッ

    垣根「テメェ……」ピキッ

    百合子「自分がやったことはやり返される。ちゃンと言ってあンだろ?」フフン

    垣根「こいつは……」

    ついさっきまであれだけ動揺しまくっていたのにいきなり不敵に鼻で笑う一方通行にため息が溢れる。

    ……まったく、本当に飽きさせない奴だ。

    垣根「あーあー大したムカつきっぷりだよ。上等だクソアマ」ハァ

    百合子「ンじゃ次はコレ着ろコレ」ポスッ

    垣根「……お前人の選ぶ前に自分で自分の選べばいいのに。ほんとに母ちゃんみてえだな。あ、そうだ。お嬢ちゃん達にもなんか買ってくか?」

    百合子「クソガキにはこの前ワンピース買った。番外個体にはブーツ買った。黄泉川と芳川にはペアのネックレス買った」

    垣根「お前どんだけ家族サービス精神旺盛なの……」










    734 = 1 :

    ここまでです
    アクセサリーの意見下さった方ごめんなさい、お揃いまでは出来ませんでした

    ではまた!

    735 :

    乙!
    次も楽しみに待ってる!

    736 :


    いいねぇ盛大に2828してしまったww
    じれったいのが堪らんな。乙!!

    737 :


    なんだこれラブラブじゃねぇか甘甘じゃねぇかちくしょう爆発
    こいつらの行動をカメラに撮って客観的に見せたい

    738 :

    乙。やっぱ服屋ネタはいいなぁ
    会話から見るに百合子ちゃんウルトラマン私服以外のセンスは悪くないのね

    739 :


    百合子ちゃん木原くんのこと好きすぎだろw

    740 :

    なぜ誰もacquaにつっこまないんだ・・・?

    742 :

    アッーーーー!!

    743 :



    後は帰り際に何か製品のカップルアンケートにでも捕まれば完璧だな!ww

    744 :

    >>743
    こういう先の展開書く馬鹿っていなくならないよな

    745 :

    >>726
    公式ハワイ一通さんを改造してみました(百合子なので目を少し大き目に修正しました)

    つ .html

    イメージ違っていたらすいません

    746 :

    >>745
    そういうの気持ち悪いからやめろよ
    公式絵をもとにしたとしても、そこに手を加えた時点で公式絵じゃないだろ
    空気も読めずにお前の気持ち悪い手を加えた絵を貼るんじゃねーよ、気持ち悪い
    気持ち悪いからもうやめろよ

    747 = 745 :

    >>745
    浅はかな考えで不快な思いをさせてしまい大変申し訳ありませんでした。
    今削除いたします。

    748 = 745 :

    >>746
    何度も関係のないレスをすいません。
    すぐにアップローダー削除欄から削除し、ローダーのトップページのファイル欄からも消えてはいるのですが、何故か、元は消去したはずなのに、この板からリンクが出来てしまいます。
    今調べておりますので、もう少しだけお持ちください。
    お騒がせして本当に申し訳ありません。

    749 :

    >>748
    気にすんな
    オレはここで参考画像欲しいとこだ

    750 = 746 :

    >>749
    pixivとかいったらいくらでも百合子の画像なんてあるんじゃねーの


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