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    元スレ垣根「女…だと…」一方通行「…もォ開き直る」

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    601 = 1 :


    垣根「いやでも実際、自分のスタンド考えたり必殺技の練習すんのは子供時代に誰でも一度は通る道だろ。
    傘使ってアバンストラッシュとか竹箒使って牙突とか」

    麦野「やらねえよ」

    百合子「…………」←やってた

    麦野「なにアンタら、もしかしてあれなの? 厨二病ってやつ?」

    垣根「それはこいつ。まあぶっちゃけ俺自身もあんま否定は出来ねえが」

    麦野「あー、見た目からしてイタイもんね第一位って。破滅型パンクロックバンドのベーシストみたいな」

    垣根「シドかよ。確かにカラオケでも洋楽ばっか歌うんだよなーこの白いの」

    麦野「うわっ、きっつー…」

    垣根「『クク…今宵も血に餓えた俺の紅き瞳が生け贄を求めさ迷っているぜェ…』」

    麦野「wwwwwwww」

    百合子「……オマエら結託して俺のこと苛めてそンなに楽しいか」ビキ

    垣根「うん」アッサリ

    麦野「うん」アッサリ

    百合子「」イラッ



    垣根「……あ。なあなあ一方通行、見ろこれ」モグモグ

    百合子「あァ?」モグモグ

    垣根「俺の目玉焼きちょうど二つ並んでてお前の胸みてえ」

    百合子「…………本当に頭ン中小学生男子レベルだなオマエ」

    垣根「決してプリンとかオムライスのような盛り上がりはなく、ほぼまっ平らに近いところがまさしくお前を表している。これはもはやアートだ」

    百合子「あァそォ、そりゃよかったな」

    垣根「なんだ反応薄いな、つまんねえ。あ、それ取ってくれ」
    百合子「ン」

    垣根「サンキュ」

    麦野「……」

    602 = 1 :


    百合子「……それ美味いか?」ジッ

    垣根「一口だけなら恵んでやらねえこともねえぞ?」モグモグ

    百合子「何も言ってねェよ」

    垣根「じゃあやらねーよ」

    百合子「………食う」

    垣根「よく言えました。ほら一口」スッ

    百合子「ン、」パクッ

    麦野「………」

    垣根「それは一口じゃねえ、三口だ。まあいい、美味いか?」

    百合子「まァまァ」モグモグ

    垣根「貰っといてそれかよ」

    百合子「ちょーウマイ」

    垣根「あ、やっぱそっちの方がムカつくわ。お前のも寄越せ」ズイ

    百合子「勝手に食え」

    垣根「“あーん”は?」

    百合子「張り倒すぞ」

    垣根「んだよノリ悪ぃな、ちょっとお茶目なていとくんを演じてみただけだろうが」

    百合子「オマエは年中無休でそンなノリだろボケ。口開けろ」スッ

    垣根「あー…」

    百合子「ン」ポイ

    麦野「…………」

    垣根「……あ、美味ぇ。意外と美味ぇ」モグモグ

    百合子「意外とってなンだ、殺すぞ」

    垣根「テメェ自分の発言棚に上げてそれか」

    麦野「……………」

    百合子「あー、コーヒー取ってくる」ガタッ

    垣根「俺が取ってきてやろうか?」

    百合子「オマエどォせ砂糖山盛り仕込ンでくる気だろ」

    垣根「………チッ」

    百合子「オマエのそォいう抜け目の無さは既によォーーーく知ってンだよ」

    垣根「お前が俺のこと余すとこなく理解してくれてて嬉しい限りだ」

    百合子「ほざいてろ」

    垣根「飲み過ぎんなよ。胃に穴開くぞ」

    百合子「コーヒーで死ぬなら本望だ」

    垣根「言っとくがお前死んだら俺泣くからな?」

    百合子「たった今全力で長生きしなきゃならねェ理由が出来ちまったわ」

    垣根「いやマジで」

    百合子「ハイハイ、そりゃどォもォ」カツカツカツ

    麦野「………………」

    603 = 1 :


    垣根「ん、どうした麦野。黙りこくって」モグモグ

    麦野「いや、死ねよテメェら」

    垣根「は?」

    麦野「は? じゃねーよ! なぁぁああああーーにが『今は友達だ(キリッ』よ!?
    新婚夫婦みたいな会話しやがって、完全にデキてんじゃねーか!! なに、嫌味? 嫌味だったわけ!!?」

    垣根「? 何が?」

    麦野「だぁぁあああからナチュラルに一口交換(ハァト)とかやってんじゃねーよ!! なにが“あーん”だコラァ!!」バン!

    垣根「……え、なんでそこでマジギレ?」

    麦野「あぁ!? ナメてんのか! 大体それだけじゃねーよ、なんで“それ取って”だけで醤油だって分かんだよ!?
    他にもソースとか塩胡椒とかあるだろうが!!」

    垣根「ああ、俺目玉焼きには醤油派だから」

    麦野「んだそりゃ!! いちいち言わなくても既にお互いの味の好みは把握してますってか!?
    ツーと言えばカーか? 阿吽の呼吸かバカップルが!!!!」

    垣根「……いや、ホントなに言ってんだ? お前」

    麦野「イチャイチャすんなつってんのよ!!」バンバン!!

    垣根「ああ? いつ俺があいつとイチャイチャしたっつーんだよ」

    麦野「いい加減にしろよテメェ!? あーもーこれだから無自覚な奴らはムカつくのよ!!」

    垣根「……??」

    麦野「ねえ、本当は付き合ってんでしょ!? 実はヤりまくってんだろテメェら!!」

    垣根「なんであいつとヤらなきゃならねえんだよ…萎えること言うなよ…」

    麦野「…………」


    麦野「ちょっと待って。一回整理しましょう。アンタたちって“友達”なのよね?」

    垣根「おう」

    麦野「ならなんであんなベタベタしてんだよ!!」

    垣根「だからしてねえって」

    麦野「ふざけてんじゃねーぞ、死ね! テメェマジで死ね!!」

    垣根「……いや。だってあいつ胸ねえし目付き悪ぃし恰好もいつも訳分かんねえウルトラマンだし。周りからすりゃ普通に男友達とかに見えてんじゃねーの?」

    604 = 1 :


    麦野「そりゃただ普通に並んでご飯食べてるだけならそういう風にも思えるかもしれないわよ?
    でも第一位なんてそれこそ第三者からすりゃ胸ねえだけの女にしか見えねえし
    何よりテメェら二人してそうやっていつでもイチャコラベタベタしてたら普通そういう関係にしか見えねーよ!!!」

    垣根「えっ。じゃあまさか今まで俺が逆ナンされたことなかったのって一方通行のせいかよ……なんだよちくしょう」

    麦野「………、アンタ本当に第一位のことなんとも思ってないわけ?」

    垣根「なにそれ。女としてってこと?」

    麦野「そうよ」

    垣根「体型が麦野だったら考えないこともない」キッパリ

    麦野「だから性的な目で私のこと見んじゃねーよ気持ち悪ぃ!!」ゾワッ

    垣根「あぁ!? そんなデカいもんぶら下げて見るなっつー方が間違ってんだろうが!
     むしろ見なきゃお前の胸に失礼だろ!!」ガン!

    麦野「意味分かんねーよなんでそこで力説すんだ!?こいつホントキモいわね!!
    ていうか私じゃなくて第一位の話よ、体型云々抜きにしてどう思ってんのかって聞いてんの!!」バンバンバン!

    垣根「ええ?」


    垣根「いやだから本当にダチなんだって」

    麦野「綺麗事言ってんじゃないわよ、所詮男女の友情なんて成り立たないのよ」

    垣根「……いや、あいつの場合普通の女ではねえしなあ…」

    麦野「え?」

    垣根「あー何でもねえ。大体だ、男と女が一緒にいたからって必ずしもそういう方向に発展しなきゃいけないなんて決まりも何一つねーだろ」

    麦野「そりゃまあそうだけど……テメェだけは言っちゃいけねえ台詞だわ」

    垣根「まあ一方通行の奴もああ見えて結構可愛いとこはあるんだけどな」

    麦野「だからノロケんじゃないわよ!!」

    垣根「え?」

    麦野「……もういい。これ以上アンタらに関わってたら胸焼けし過ぎて死ぬっつーの」

    垣根「いやマジで誤解すんなよ? あいつとは何もねえから」

    麦野「……向こうは?」

    垣根「あん?」

    605 = 1 :


    麦野「第一位の方はアンタのことどう思ってんの?」

    垣根「どうも何も。友達は友達だ」フフン

    麦野「はああ? 意味分かんない。ていうかなにそのドヤ顔うざい」

    垣根「分かれよ。つーかやっぱ女ってその手の話好きなんだな。恋愛脳ってヤツか?」

    麦野「……あーあーこれだから男は。女の子はみんな恋バナが好きなのよ」

    垣根「お前が女の子(笑)」

    麦野「コロスわよ?」

    垣根「すいませんでした」

    麦野「ていうか猿並みに盛りまくってるテメェにだけは恋愛脳云々言われたくないのよ!!」

    垣根「そりゃ女の子自体は大好きだけど、他人にそこら辺あれこれ詮索したりされたりすんのはあんま好きじゃねえ…かな。下ネタは別だけど」

    麦野「……ふーん? 男って変な生き物ね」

    垣根「こっちからしたら女の方が未知の生物だけどな。
    まあでもだからこそ惹かれるっていうかつまり麦野今夜どうだ。俺の家に来ないか?」

    麦野「なんの脈絡もなく口説きにきてんじゃないわよ。
    テメェに抱かれるくらいなら一人で野菜でも突っ込んでた方がまだマシだわ」

    垣根「是非その場面を鑑賞させて下さい」

    麦野「キモ!! ただの冗談に決まってんだろうが、実際にやるわけないでしょ!!」

    垣根「えっ……エロい事しないの?」

    麦野「…………、なんで第一位はこんな奴と普通につるんでられるんだか心底理解出来ねえわ」

    垣根「ああ、あいつむっつりだから」

    麦野「あ、やっぱそうなんだ? 確かに前々からそれっぽいとは思ってたのよね」

    麦野「って、そうじゃなくて。本当アンタらの関係がさっぱり理解出来ないんだけど」

    606 = 1 :


    垣根「……あー、まあそう思われても仕方ねえか。なんだ、つまり、まとめると………我ながら俺はクソ外道のくだらねえ人間だと思うけどよ。
    でも別にくだらなくてもどうしようもなくても、それはそれでそれなりに、つーか」

    麦野「……はあ?」

    垣根「今まで気に入らねえもんはぶっ壊してきたし、気に食わねえ奴はぶっ殺してきた。その基準で言っちまえばあいつもそうだ、
    本気でぶっ殺してやろうかってくらいムカつく時は何度もある。だが……」


    垣根「楽しいんだよなあ。それ以上にどうしようもなく楽しいんだわ、あいつといると。困ったことにな。本当にただそれだけなんだ」

    麦野「……」

    麦野「ねえ、真面目に答えてよ。それってさ、実はもう既に第一位に“ハマっちゃって”るんじゃないのかにゃーん?」




    それは麦野としては何の気なしのからかいの台詞だった。

    けれどもその時、垣根は確かに酷く子供っぽい顔で、頷くでもなく首を振るでもなくただ小さく笑った。

    麦野(………へえ?)


    彼女の知るところの第二位は、いつも余裕綽々といった感じの嫌味たらしい薄笑いを顔に張り付けている男だ。

    その実、本当は何もかもが退屈で仕方がないというような……そう、それはかつての自分の姿そのままに。

    けれども今の垣根のそれは、現在の自分が『アイテム』に対して向ける表情になんだか似ている気がした。


    麦野「……ふふん、なんだ。なーーーーんだ」

    垣根「うん?」

    麦野「んーん、なんでも。そうね、ちょっとは前よりマシなツラ出来るようになったじゃない。そういうの嫌いじゃないわよ?」

    垣根「……え? マジで? じゃあ一発ヤらせ…」

    麦野「好きとは一言も言ってねーよむしろ死ね」ペッ

    垣根「………………」

    607 = 1 :


    麦野「ったく、ちょろっと甘いこと言えばこれだからテメェは」

    垣根「というかその一方通行は一体何してんだ? コーヒー一杯に時間かかり過ぎだろ」

    麦野「なんかトラブってるのかにゃーん? ちょっと見てくれば?」

    垣根「そうするか」ガタッ

    麦野「ついでに私もお化粧直しに行こうかな」ガタッ

    垣根「化粧で隠さなきゃシワが…」

    麦野「あ゛ぁん!?」

    垣根「ごめんなさい」






    inトイレ

    麦野「……ふぅ」ジャー バシャバシャ

    麦野(たまーにいるのよねえ、ああいう異常に仲良過ぎて逆に進展しない奴らって)

    麦野(まあでもそんな関係も……本人同士からしたら結構いいものなのかしらね。見てる側はイラつくけど)

    麦野(……私とアイテムの連中も、周りからすりゃあんな風に見えてたりするのかな)

    麦野(あーあ、この私があんな奴らにちょっとほだされちまうなんてね。ヤキが回ったか? あほらし)





    ~~~

    麦野「」スタスタスタ

    垣根「おう、おかえり」

    麦野「ん。どうだったのよ」

    百合子「ちょうどコーヒー切れててなァ、入れ替えてもらってたンだわ」

    麦野「あっそ。まあ私はもう食べるもんも食べたしこれで帰るわよ。これ以上アンタらといたら砂吐いて倒れちまうわ」

    垣根「あ、そうそう麦野。お前ケータイテーブル置きっぱなしだったからトイレ行ってる間に俺とお前のアドレス交換しといたからな」

    麦野「はあ!?」

    垣根「いつでもメールなり電話なりしてきてくれていいぞ? 俺もするから」グッb

    麦野「……」パカッ カチカチカチ ピッ

    垣根「オイ」

    百合子「なンの躊躇いもなく一瞬で消去したな」

    麦野「後でアドレス変えるし、もしテメェが電話かけてきたりしたら速攻で着拒するから」ギロ

    垣根「……うん、分かってた。こうなるって分かってたよ俺」

    百合子「うぜェからいちいちヘコむなよ。ぼっちだった頃に比べたら相当知り合い増えただろオマエ」ポン

    垣根「それは慰めなのかディスりなのかどっちだ?」

    百合子「ディスり」キッパリ

    垣根「私、そこまで即答しなくてもいいと思うの」

    百合子「高望みすンな。現状で満足しとけ」

    608 = 1 :


    垣根「なに、他の女と仲良くすんなってこと?
     独占欲強過ぎる女はモテねえぞ、悪いけどお前にそんな愛されても嬉しくないから」

    百合子「ホント曲解すンの得意だなオマエ。ツッコミ待ちなら放置すンぞ」

    垣根「チッ、これだからカマトトむっつりは…」

    百合子「あ゛?」

    麦野「だからいちいち私の前で夫婦漫才やんじゃないわよ! あーもーシラケた。ホントに帰るわよ、じゃあね」ヒラヒラ

    垣根「おー」ヒラヒラ

    百合子「またな」






    ――――気の抜けた声で適当に手を振る二人を、麦野は帰りしな一度だけ振り返る。

    それなりに上背のある派手な男の方は、窮屈なのが嫌いなのか着ているYシャツのボタンを上から三つほどだらしなく開け放し、
    毛先の跳ねた金髪に近い茶髪は間違いなくチャラついているし
    無造作に尻ポケットに突っ込まれた使い潰された長財布やゴツいデザインのベルトからジャラジャラ繋がったチェーンなど、
    どうにも生真面目なタイプの人間をイラッとさせる雰囲気を醸し出している。

    対してもう片方はといえば、素っ気なさ過ぎる白と灰色の縞々シャツに同じくシンプルなジーンズ、華奢を通り越して不健康な程に線の細い体躯。
    妙に目立つのはひとえにそのあまりに真っ白な髪と肌のせいだろう。

    能力の仕様上、それこそシミ一つ毛穴一つ見当たらない蝋で固めたような肌、さらさらとした色素の抜けた髪。

    毎日丁寧に化粧水やら乳液やらトリートメントやらエステやら試行錯誤している自分がいっそ馬鹿らしくなってくる。

    けれども鋭くつり上がった煌々と赤い瞳は、それだけで周りの人間が避けて通るような異様なオーラを放っている。

    なんともまあ絵に描いたようなデコボココンビっぷりだ、と麦野は思う。

    609 = 1 :


    でも。

    なんだか。


    麦野「ちょっとだけ……羨ましいかにゃーん?」



    なんてね、と嘯いて彼女は相変わらず高いピンヒールの靴音を響かせ姿勢よく歩く。

    まあたまにはまたあの二人に付き合ってお茶くらいならしてあげてもいいかな、などと随分彼女らしくないことを考えながら。






    610 = 1 :

    ここまでです

    むぎのんも加わってのさらなるぐだぐだっぷりと、デコボココンビの友情が深まってきてる感が伝われば。

    あとまたメタネタ入れちゃってすいません、ジョジョオタなんだごめんね……

    ではまた!

    611 :


    この超能力者たち可愛い
    ジョジョは2部がすきです

    612 :

    乙乙
    更新ボタン連打してた
    仲良くケンカしたりイチャついたりしてて超かわいい
    あと麦野との親バカ対決もすげーかわいかった!

    615 :


    モヤシの表示一方から百合子に変えたのね

    616 :

    やっぱり2部だよなぁ

    617 :


    一口交換ぐらいはともかく、それをあーんでやると第三者からは男同士でもちょっと怪しい雰囲気に見えるよね

    618 :

    まじかよ。
    酔ってるときに相手が男だろうと女だろうとあーんってやってたんだが

    619 :

    あーんとかフツーじゃね?
    友達同士でふざけてやったりするし。

    乙です!

    620 :

    なんか唐突にしょーもない話が浮かんだのでちょっと番外編的な小ネタとして投下します

    621 = 1 :




    垣根「……」シャクシャク

    百合子「……」シャリシャリ

    垣根「」←ガリガリ君食べてる

    百合子「」←スイカバー食べてる

    垣根「……なあ」シャクシャク

    百合子「……ンー?」シャリシャリ

    垣根「ガリガリ君ってなんでこんな美味いんだろうな」

    百合子「ン」

    垣根「60円そこそこの値段でこの味が出せるってすげえと思うんだよ」シャリシャリ

    百合子「うン」シャクシャク

    垣根「そりゃ確かにハーゲンダッツは素晴らしいぜ? でもよ、あれはなんか違ぇんだよ。大人の物っていうか」

    百合子「ン」

    垣根「あれかな、やっぱ子供ん時に慣れ親しんでるから舌がガリガリ君の味に順応してんのかな」パクパク

    百合子「さあ」パクパク

    垣根「飽きない美味さだよな」

    百合子「ン」

    垣根「スイカバーもいいがメロンバーもいいよな」シャリシャリ

    百合子「あァ」シャクシャク

    垣根「……そういやさあ。子供ってので思い浮かんだんだが、お前ってどんな子供だったんだ?」

    百合子「あン?」

    垣根「ぶっちゃけお前のガキ時代とかまったく想像つかねえんだよ。
    まあクソ生意気だったであろうことだけは確信してるが」

    百合子「………なァ、鼻からコーヒー啜りてェなら素直にそォ言えよ。今すぐ肺がパンクするまで送り込んでやっから」

    垣根「いや、そういうんじゃなくて。リアルに。やっぱコミュ障だし根暗いガキだったのか?」

    百合子「イイ加減舌捻じ切られてェンだな。オーケー分かった、後でやってやる。
    ……そォいうオマエこそどうだったンだよ」

    垣根「え? 俺?」

    百合子「オマエの子供時代の方がよっぽど想像つかねェよ。
    まァどォせ鼻垂らしたクソムカつくガキだったであろうことだけは確信してるが」

    垣根「いい加減全身の骨ブチ折られてえんだなオーケー分かった。
    ……俺の子供時代ねえ。ああ、そりゃもうナルキッソスも裸足で逃げ出す美少年で…」

    百合子「あ、俺のアイス当たりだった」つ当たり

    垣根「おい聞け。あとそれもしいらねえならよかったら俺にくれ。
    つーかお前“甘いもんなんざガキの食い物(キリッ”とか言っといてふっつーに食ってんのな」

    百合子「大して好きでもねェが食えねェ訳でもねェよ」

    622 = 1 :


    垣根「あーそー。って、んなこたどーでもいいんだよ。とにかく俺はな? それはそれは愛らしい少年だった。
    自分で言うのも何だがなんか深窓の令嬢ならぬお坊っちゃんぽかった」

    百合子「へー、そォなンだァー(棒」

    垣根「だから真面目に聞け。……だがしかし! そんな純粋無垢な垣根少年にも悲劇は起こる―――ッッ!」

    百合子「オマエはまず純粋無垢って言葉に謝れ」

    垣根「俺さ………羽、生えるじゃん?」

    百合子「とびきり似合わねェメルヘンなヤツがな」

    垣根「それがさ、正直それは今の俺に生えてるからであって、小学生くらいの時にはむしろ似合ってたんだよ。割とマジで」

    百合子「……まァ、確かにガキってのはそれだけでなンかいろいろ許される面あるからな」

    垣根「見た目も中身も幼かった俺の背中にはためく三対の翼は本気で天使と言っても過言じゃない似合いっぷりだった。
    俺自身も『ウイングガ○ダムだ!かっけぇぇぇええ!』とか思ってた」

    百合子「……」

    垣根「でもな、時の流れってのは残酷なんだよ。……中学くらいになって背も伸びてきて声変わりもして
    思春期、反抗期の頃にもなると俺は嫌でも気が付かざるを得なくなった」


    垣根「『―――あれ?やっぱこの羽ダサいんじゃね?』ってな…」

    百合子「……あァ…」

    垣根「元々周りの研究者共は俺のこと化け物扱いして腫れ物に触る感じではあったけどよ」

    百合子「……」

    垣根「それまでは『背中に翼があるとかすごいねー』『永遠の子供の夢だもんね、空飛ぶのって』みたいな社交辞令は言ってきてたのがだ、
    その頃になるとガチで『うわ……』みたいな反応されるようになった」

    百合子「……」

    垣根「なんだかんだこの羽は便利だよ? 高速移動もガードも出来るし。
    でも、な。一番多感な時期を周りからずっとそういう目で見られ続けると…なんていうか…」

    百合子「……」

    623 = 1 :


    垣根「こう……世界をぶっ壊したくなってくるっていうか……」

    百合子「……」

    垣根「研究者達が陰で俺のこと『翼の折れたエンジェル(笑)』ってあだ名で呼んでたり…とかさ」

    百合子「……」

    垣根「すれ違いざまこれ見よがしに翼をください口ずさんできたり、さ」

    百合子「……」

    垣根「仕事ん時の仲介の電話の女にも『お子様にウケるビジュアルwwww』とか草生やして笑われた上に、
    スクールの連中までその後しばらく俺と顔合わせる度必死で笑い堪えてたりさ」

    百合子「……」

    垣根「俺、リーダーなのに……」

    百合子「……」

    垣根「……」


    百合子「……この当たったアイス棒オマエにやるよ」スッ

    垣根「……ありがとよ」

    百合子「オマエも辛かったンだな。安心しろ、周りのクソッタレ共の好奇の目に晒されてきたのは俺も同じだ。……元気出せ?」ポンポン

    垣根「へへ、よせよ……泣いちゃいねえさ」ハハッ




    垣根「――――でよ。結局お前の方はどうだったんだ?」

    百合子「ン?」

    垣根「だってあの木原数多に飼われてたんだろ? どんな感じだった訳?」

    百合子「!!!」ガタッ

    百合子「き、聞きてェか? 聞きてェか…?」ソワソワ

    垣根(……あれー? これもしかして盛大な地雷踏んじまったんじゃね?)

    百合子「話せば長くなるが…」

    垣根「ちょっと待て、その話はやっぱりまた今度に…」

    百合子「木原くンと俺はなァ…」ワクワク

    垣根「そしてやっぱまた勝手に語り出すのなお前」



    624 = 1 :


    ――――――
    ――――
    ――




    パタパタパタ…

    <ガチャ

    一方「おい、クソ木原」ヒョコ

    木原「あー?……なんだテメェかよ」カタカタカタ

    一方「……今ヒマか」

    木原「ハァ~?? このキーボード打ってる手ぇ見て分かんねーのかカス、どう見ても仕事中だろーが」カタカタカタ ッターン!

    一方「………」

    木原「オイ、オイオイオイオイ。っつか大体なあ、今ぁ何時だと思ってんだ? ガキはさっさとクソしておねむの時間でちゅよ~?
    アレか、ママの子守唄がなきゃ寝られませーんってか? それともまさか漏らしたとか抜かすんじゃねーだろなバカガキ」

    一方「ンなワケねェだろ死ねよクソ木原」ペッ

    木原「ア?」ピクッ

    木原「……ナニ? お前さぁ、誰にクチ聞いてっか分かってんの?
     まだ毛も生えてねぇチビガキがなぁぁぁああああにナマ言っちゃってんのかなあ~? あー今すぐブチ殺してぇわーこのアホガキ」

    一方「毛ぐらい生えてるっつーの、見て分かンだろボケ。ハゲは黙ってろよ木ィィィ原くゥゥゥゥン?」

    木原「ぎゃははははははは!! ナニナニ、髪の毛のことだと思っちゃったぁ?
    青いねー、ああそういやぁまだケツも青かったっけなあ蒙古斑チャン? あと俺はハゲじゃねえよ殺すぞクズガキ」ペッ

    一方「……」

    木原「こっちゃテメェと違って忙しいんだから、これ以上邪魔すんならケツの穴にビール瓶突っ込んで割るからなー? おーけー?
     分かったらさっさと自分の部屋戻って寝ろや」クルッ

    一方「……」

    一方「………………、……か」

    木原「あん?」

    一方「ばーかばーか、キハラのばーか! ならそォやって一生画面の前でカタカタやって腱鞘炎にでもなってろバァァァーーーカ!!!」

    木原「よぉーし、ブチ殺す」ガタッ

    一方「ふン!!」クルッ

    ガチャッ バタン!! バタバタバタ…


    木原「……ったく」


    625 = 1 :


    ―30分後―

    カチャカチャカチャ…

    <ガチャ

    木原「あー?」

    一方「」ヒョコ

    木原「……まーたテメェかよ」ハァ

    木原「今度は何だ? もしかして本当に漏らしたかよションベンチビガキ」

    一方「……」

    木原「……?」

    一方「……………、これ」つコーヒー

    木原「うっわ」

    木原「うわ、出たーーー。なあなあなあなあクソガキ、ありがた迷惑って知ってるぅ? 親切の押し売りって知ってるぅぅぅ~~?
    テメェの淹れるコーヒーなんざクソ薄いわヌルいわで飲めたもんじゃねーんだよ、そこんとこよーく分かっての行動ですかぁー?」

    一方「……」

    木原「しょーもねえ嫌がらせしてる暇あったらさっさと寝ろアホ」チッ

    一方「……」

    木原「……」

    一方「……、……」

    木原「……、……」

    木原「………ちっ、とりあえずそれそこ置いとけ」

    一方「!!」

    一方「………何がー? 俺はそもそもオマエの為に淹れてやった訳じゃねェし。自分で飲む為だし?
    あははギャハハハ! ナニ愉快に勘違いしちゃってンの木原くンだっせェ!!」ゲラゲラ

    木原「あーそうかよコーヒー牛乳しか飲めねえクソチビ。
    悪いが俺ぁちょうど無駄にタイミングよく喉渇いてんだ、
    とにかくそのコーヒーの所有権は既に俺に移った。だから勝手に飲みやがったら殺すぞ」

    一方「……………」

    一方「うン」

    木原「……」

    一方「……」

    木原「ったく…」カタッ

    木原「あー、にしてもパソコンの前ずっと座ってっと肩凝るわー、昨日も実質二時間しか寝てねーし辛ぇわーマジ辛ぇわー。
    眼精疲労も酷ぇしよー、お気楽なガキはイイなぁオイ」ズズッ

    一方「木原くンまた痔になっ…」

    木原「それ以上言ったら本気で殺すぞタコ」ズズズ

    一方「……」

    木原「……」

    一方「つーかよォ。ブラックコーヒーとかンなクソ不味ィもンよく飲めンな」

    木原「あぁー?」

    百合子「苦いだけじゃねェの」

    木原「はー。あのなぁ、ブラックってのは人生と一緒なんだよ」ズズズ

    一方「……はァ?」

    626 = 1 :


    木原「人生なんざひたすら苦いモンだ、森の妖精(笑)も猫バスも迎えに来ねー図体ばっかデカい大人になっちまったら嫌でも思い知るんだよ。
    だから苦い飲みもんぐらいヘーキなツラして飲めるようになる。
    うんこみてーなガキにゃまだまだ分かんねえだろうけどなあ?」ズズッ

    一方「……」

    木原「……」



    一方「木原くンオヤジ臭ェ。あと説教臭ェ。ついでに加齢臭もする。つまりキモい。死ねよ」

    木原「ハイ、テメェ今死んだよー? 一回死んだよー? ケツ穴にビール瓶ブチ込み決定~~~」

    一方「………。俺もこれからちょっとずつブラック飲めるようになる」ボソッ

    木原「あーそー。そりゃどーぞご勝手に」

    一方「あと、」

    木原「あん?」

    一方「木原くン昨日カイ○ューくれるって言った」ボソボソ

    木原「………はー?」

    一方「だから通信でレベル100のカ○リューくれるっつっただろ、忘れてンじゃねェよタコ!!」

    木原「あーーー、ハイハイハイそれね。分ぁーった分ぁーったハイハイ、今日はもう遅ぇし明日ね」ヒラヒラ

    一方「……おゥ」

    木原「っつかよ。テメェ今日の夕飯のピーマン俺の皿に移しやがったろ」

    一方「」ギクッ

    木原「お見通しなんだよクソガキ、次やったら服剥いて逆さ吊りの刑だ。
    そんなんだからいつまで経ってもモヤシなんだよテメェは」

    一方「うるせェよ、ほっとけバーカ!!」

    木原「まったくよー。おんn……………男のくせにホントなよっちい身体しやがって」

    一方「………俺も鍛えたら木原くンみてェにムキムキになれンの?」

    627 = 1 :


    木原「……………………」

    一方「?」

    木原「マッチョなテメェとかきめぇだけなんだよ馬鹿。お前は一生モヤシボディでいいんだよカス」

    一方「チッ、クソ木原」

    木原「お? 今舌打ちしたかーこのクソチビちゃんは?
     オシベとメシベも知らねえガキの分際でこの俺に舌打ちしやがりましたかー? 上等だコラ」

    一方「雄しべと雌しべぐらいとっくに習ったっつーの。
    受粉も受精も二年前にやったわ、実質二年前にやってるわァー」

    木原「そういうことじゃねえよバーカ。あー、そうだな。いい機会だし俺が直々にテメェにせーきょーいくやってやるよ」

    一方「あァ?」

    木原「いーかー? チ○ポ咥えてアヘ顔しながら男の下で腰振んのが女、
    その上に乗っかってマ○コ舐めて馬鹿面晒しながら猿みてえに腰振んのが男だ。
    人間サマなんざ所詮そんだけだ、御大層なもんじゃねえんだよ。分かったかなー? うんこちゃ……






    垣根「ちょっと待てコラ!!!」ガタッ

    百合子「あァ? なンだよまだ途中だぞ、話の腰折ンな」

    垣根「ざけんな、今明らかに子供に言っていい範疇すっ飛ばしてただろうが! 完全に犯罪だよ、ア○ネス飛んでくるわ!!
     しかもなんかちょいちょい深い話混ぜ込んでるっぽく聞こえんのがまたなんというかこう……イラッとする」

    百合子「ハァ? 何言ってンだオマエ」

    垣根「だからお前のその木原関連限定でいきなり天然化するのは何なんだよ!?
    マジでお前にナニ教えてやがったんだよ木原数多は!!!」バンバンバン!!

    百合子「あ゛ァァ!? オマエ木原くンディスってn」ガタッ

    垣根「本気でそれもういいから。つーか地味に回想長ぇんだよ!」

    628 = 1 :


    百合子「え。これでもまだ全体の10分の1も話してないンだが」

    垣根「…………突っ込みてえ。めちゃくちゃ突っ込みてえ、がもう突っ込まない。
    垣根帝督は突っ込まない。というか突っ込みどころが多過ぎて逆に突っ込めない」

    百合子「突っ込む突っ込むうるせェよ。生まれてこの方一度も女に突っ込ンだことねェくせに」

    垣根「やかましいわ! ………ああ、うん。でも分かった。理解した。
    そりゃそんな風に育てられりゃお前もそういう性格と言葉遣いになるわ」ハァ

    百合子「ちなみにその次の日、木原くンは約束通り俺にカイリ○ーをくれた。ふしぎなあめも持たせてくれた」

    垣根「………うん。そっか。良かったな」

    百合子「ン」

    垣根「良かった……のか?」

    百合子「うン?」



    終わり!!



    629 = 1 :

    これだけ! じゃあまた!

    630 :

    可愛いすぎる乙

    632 :

    乙。木原君マジお父さん

    633 :

    乙。よかったね!

    634 :

    今回の更新で確信した
    間違いなく名作だわコレ

    635 :

    カイリ〇ーじゃなくてカイ〇キーを貰ったのかと思った

    636 :

    もういっちょ番外編の投下に来ました

    >>212のファミレスでの和解から>>221のメールネタまでの間、つまりていとくんが初めて黄泉川家を訪問した時の話です

    ちょっとシリアス

    637 = 1 :






    ツンツンと尖らせた黒髪の少年は、ファミレスで自身の食したもの(チキンドリア+ドリンクバー)の代金を一方通行が迷惑代だと言って払うと
    「ありがとうございます!本当にありがとうございます!!」と店を出た先でペコペコ頭を下げまくってしつこいくらいに何度も礼を言っていた。

    百合子「……オマエが礼言うことじゃねェよ。ただし今度しっかり話は聞かせてもらうからな」ジロ

    上条「あ…ははー。お手柔らかに…」

    引きつった笑顔で目を泳がせる少年は、当の一方通行がネットワークを介して先程から何やら他の個体と騒々しく話しているらしい打ち止めと番外個体の方へと近寄っていくのを目で見送ると
    つつ、とこちらに身体を寄せ耳打ちしてきた。

    上条「あのさ」

    垣根「ん?」

    さっきの話だけど、と前置きして切り出す。

    上条「なんか一方通行と闘ったとかミンチにされたとかすっげー不吉な単語が並んでたけど」

    垣根「……あー」

    面倒臭ぇな、と思いつつ適当にかわす言葉を選ぶがそれをこっちが口にする前に少年は顔の前で両手を振った。

    上条「いや、いいんだ。言わなくて。俺ってすーぐ他人のことに首突っ込むとか偽善的だとかしょっちゅう周りからダメ出しされるからさ」

    そう言って照れたように頬を掻く少年に、そういう台詞吐くからだろ、と若干イラッとするが口には出さない。

    上条「んー。それに俺はやっぱお前はいい奴だと思うよ」

    垣根「……そういう善人丸出しな発言すんのは控えた方がいいぜ。お前みたいなのは生き辛いだろ」

    上条「はは、そうかもな。でも結局こういう生き方しか出来ないんだ俺」

    垣根「……」


    やっぱうぜえな、と思ったがやはり言葉にはしないでおいた。

    638 = 1 :


    上条「ああ、そうそう」

    それから唐突に今思いついたように、相変わらず笑いながら少年はあっけらかんと言った。


    上条「上条さんこれでも人を見る目はあるんですよ」


    その台詞に思いもかけず虚を突かれて押し黙ると
    そんなこっちの様子には露とも気が付かない表情で、少年はポケットから取り出した携帯で時刻を確認すると
    「やべっ、もうこんな時間かよ!」といきなりあたふたし始めた。

    上条「じゃ、俺はそろそろ帰るなー!」

    一方通行たちに向かって少年がそう叫ぶと、振り向いた打ち止めが「うん!ヒーローさんまたねー!」とばたばた手を振る。
    そんな彼女たちに大きく手を振り返し「早く帰らなきゃ腹を空かせた悪魔がーっ!」と絶叫しつつ少年は慌ただしく走り去っていった。

    垣根(……“ヒーローさん”、ね)

    ああ、要するにあの男は根っからのお人好しなんだろう。自分が一番苦手なタイプの人間なのだろう。

    使い込まれてテカテカと光る埃っぽい学ランの裾をはためかせ、その全身に光を詰め込んだ少年はだんだんと遠ざかっていく。







    ~~~


    頭頂部に長く伸びるアホ毛をぴょこぴょこ揺らしながら、打ち止めは一方通行の左手を強く掴んでぐいぐいと引っ張って歩く。
    もう片方の杖をついた右腕にはこれまた番外個体が絡みついている。

    二人の同じ顔をした少女たちにしがみつかれ、一方通行は鬱陶しそうにぶつぶつ文句を言いながら振りほどくこともしない。

    その一歩後ろをついて行きながら、ついさっき打ち止めに言われた台詞を脳内で繰り返し復唱する。

    『―――でも年を重ねるって大変なことだね。大きくなるって悲しいことだね。
    あなたもこの人も殆どの人が多かれ少なかれ自分の気持ちに蓋をして生きてる。誤魔化さなきゃ自分を保てないから……』


    いくらあらかじめ様々な知識が植え付けられているからといって、本当にあれがこんな見るからに幼い子供の吐ける台詞だろうか。
    何とも末恐ろしい少女だ。

    底無しに人懐こい笑みを浮かべ頻りに一方通行や番外個体に脈絡のない話をし続ける横顔に
    一方通行が一も二もなく全てを投げ出してこの少女に寄りかかる気持ちが分かり過ぎるくらい分かった。

    639 = 1 :


    その時、少し離れた後ろにいる自分に打ち止めが気が付き、彼女はにぱっと歯を見せて笑うとこちらに手招きした。
    ゆっくり近付くと、少女はにこにこしながら空いた左手を差し出す。

    ほんの少しだけ躊躇って、それからそっとその手を握る。すぐに固く握り返された。
    それは本当に小さくて、小さくて、そして熱いくらいに暖かい手だった。

    番外個体「なーんかそうやってると連行される宇宙人みたいだよ、最終信号」

    打ち止め「ぶらんこー。ねえぶらんこしていい? ってミサカはミサカはカキネに聞いてみたり」

    百合子「やめろバカ。こっちは杖ついてンだぞ、転けンだろォが」

    番外個体「非力だからねー百合子ちゃんは」

    打ち止め「むー」


    道行く人々の目には今の自分たちがどういう風に写っているだろう。

    大の高校生くらいの奴らが二人に、それぞれの間に挟んだ姉妹な少女たち。
    ぶらぶらと繋いだ手を振り回しながらのたくた歩く、等身も何もバラバラな四人。

    なんとも不恰好でどういう関係だかさっぱり分からないアンバランスに並んだ影。

    けれど、周りの連中からの奇妙なものを見るような視線は、むしろ何だか心地よかった。




    ―――嫉妬というものは、明らかに適わないと認識した相手に対しては抱かないものらしい。

    例えば世界トップレベルのモデルと比べて自分の体型を憎々しく思ったり、
    それこそケタの違う億万長者との懐の厚さの違いに歯噛みしたりすることは確かにあまりない。
    現実感が持てない程自身と違う人間には何のしがらみの感情も働かないからだ。

    そこには何かしらの諦めがある。諦観。世界が違う相手には妬ましさよりもまず羨望が先立つ。
    それはいっそ清々しい。神経を逆立てなくて済む。

    反対に、手を伸ばせば届く可能性がある人間に対して人はもっとも強く醜い感情を抱く。

    今、小さな少女を挟んで隣に並ぶ白い髪の人物に対して自分が確かに抱いている羨ましさと妬ましさのない交ぜになった思いに
    自身の矮小さをまざまざと見せつけられた気がして、なんだか息が苦しくなった。







    640 = 1 :


    ―――





    一方通行が取り出したカードをオートロックに通すと、いの一番に開いたガラスの自動ドアから打ち止めが駆けていく。

    打ち止め「えっとねえっとねー、ミサカたちのお家は13階なのって
    ミサカはミサカはつまり我が家はなかなか夜景の綺麗な場所にあることをさりげなくカキネに自慢してみたり」

    番外個体「全然さりげなくないし我が家っていうか黄泉川の家だし、
    そもそも学園都市って八割方学生の街だから夜は大して明かりないよね。摩天楼(笑)」

    打ち止め「もーっ! いちいち揚げ足取るの禁止!ってミサカはミサカは現実派な妹を叱ってみたり!」メッ!

    エレベーターに乗り込み、時間もかからずすぐにピンポンと軽い音を立てて着いたすぐ先がもう目的の場所だった。

    ガチャリと差し込んだ鍵を回してドアが開くと、また打ち止めが一番乗りで靴を飛ばすように脱ぎ散らして玄関に飛び込む。

    打ち止め「ただいマンボー!ってミサカはミサカはテンション高く帰還してみたりー!!」

    黄泉川「おかえリンボーダンス~」

    芳川「おかえりなさい」

    即座に気の抜けた返事が返ってきて、それからその声の主が部屋の奥から顔を出す。
    二十代も後半の自分にとっては確実に大人と言える飛び抜けて見目の整った二人と目が合った瞬間、その場から逃げ出したくなった。

    けれど射抜くような、眼力の強い、かつて確かに顔を見た覚えのあるジャージの女の方が真っ直ぐにこちらから目を離してはくれなかったからそうすることは叶わなかった。

    品定めするようにじろじろこっちを眺め回した後、にやりと不敵な笑みを浮かべるとその女は静かに目を細めた。

    黄泉川「いらっしゃい。黄泉川へようこそ、じゃんよ」

    垣根「あ……」

    続く言葉を発することが出来なくて酷く居心地が悪かった。

    641 = 1 :


    打ち止め「おおー! なんだか台所の方からいい匂いがするよー!
    ってミサカはミサカは目敏く指摘してみたり!……あれ? 鼻敏く?」

    黄泉川「ふっふっふ、聞いて驚け見て笑え、今日はなんと奮発してすき焼きじゃーん!!」

    打ち止め「やったー!!」ピョンピョン

    百合子「いちいち跳びはねンな、ノミの親類かなンかかオマエは。ケーキ崩れンぞ」

    打ち止め「はっ! そうだった!ってミサカはミサカは形が崩れてないか確認してみたり」ガサゴソ

    芳川「何を買ってきたの?」ヒョコ

    番外個体「ミサカたちはチョコ、芳川と黄泉川にはモンブランとチーズケーキね。
    当然の如く嫌がらせ仕様だよん、カロリー的な意味で」

    芳川「たった今あなたに殺意が沸いたわ」

    女三人揃えば姦しいと言うが、五人揃ったこの状況ではそれはもう止まらない。
    会話というよりそれぞれがそれぞれ勝手にまくし立てながら、やはり打ち止めに無理矢理手を引かれ流されるまま騒々しく中に通される。



    広いリビングはきちんと整理整頓されており、丁寧にワックスの塗られたフローリングはピカピカで、
    酒瓶やグラスの並べられた棚もテレビやコンポやソファーもクッションも何一つだらしなく置かれたものはなかった。

    けれど生活感のない殺風景な部屋という訳じゃなく、そこからは日々を暮らしている人間の匂いがした。
    パタパタと忙しく歩き回る足音や呼吸の音、衣擦れと食卓から上る湯気とそれを囲む絶えない笑い声とが聞こえてくる。

    端的に言えばそれは家族の匂いだった。自分が持ち得ない最大のものだった。

    圧倒的な敗北の虚脱感が襲ってきて、咄嗟に声が出ない。

    打ち止め「うー、でもミサカさっきファミレスでハンバーグ食べちゃった……」

    番外個体「ミサカは家でちゃんと用意してあるって分かってたからちゃっかりセーブしてたもんねー」

    打ち止め「ずるい! なんで教えてくれなかったのってミサカはミサカは怒髪天を衝いてるんだけど!!」

    番外個体「うひゃひゃ、そんなのミサカが最終信号の分までケーキ独占するために決まってるじゃん」

    打ち止め「この性悪め……ってミサカはミサカはでもすき焼きもケーキも頑張って食べるもん!!」

    642 = 1 :


    黄泉川「ハイハイ、じゃれてないでさっさとテーブルに皿とコップ並べろじゃんよー」

    異常なほど抜群なスタイルを持ちながら何故か緑色のジャージがよく似合っている美人な長い髪の女は、
    かつてあったことなど綺麗さっぱり忘れているかのようにちゃきちゃきとリビングとキッチンを往復しながら打ち止め達に指図を飛ばす。

    そう、「あの時は刺してすいませんでした」そんな間抜けな言葉さえ言わせてはくれなかった。
    そしてそれは羞恥や懺悔することよりなお辛い仕打ちだった。


    黄泉川「ヘイ垣根少年、この箸と小皿そっち運んでー」

    垣根「え、あ」

    黄泉川「ほらトロトロしない、ちゃっちゃと運ぶ!!」

    バシッと背中を叩かれ押し付けられた六人分の箸と小さな皿に、熱血教師みたいな女だなと思った(事実、後から聞いたら本当に教師だった)。

    けれどそれより何より、自分の目の前にいるのがあのレベル5の第二位だなどと露程も分かっていないんじゃないかと疑わざるを得ない程何のてらいもなく叱り飛ばしてくるその姿はなんだか……母親みたいだ、と思った。


    困惑している内にあっという間にテーブルの上にグツグツと煮たったプレートが置かれ、ほかほかとした炊きたての白飯が並べられ、コップにお茶が注がれた。

    黄泉川「よーし、んじゃいただきますじゃーん!!」パン!

    打ち止め「いただきまーす!!」パン!

    芳川「いただきます」

    番外個体「わお、炊飯器から出てこない食事なんて何ヶ月ぶりかねー」カチャカチャ

    百合子「初めてじゃねェか」

    黄泉川「んなことないじゃんよー。前にほらアレ作ったじゃんアレ、えーっと」

    打ち止め「つまり覚えてないくらい遠い化石の記憶に成り果ててるのねってミサカはミサカはほろりと涙を拭ってみたり」

    黄泉川「いつも美味い美味い言って食べてる奴が何を抜かすじゃんかよー」ムニムニ

    打ち止め「い、いひゃいいひゃい、ほっぺつままないでってミサカはミサカは、ああああーーーっ!
     番外個体、それミサカが取ろうとしてたやつー!」

    番外個体「所詮この世は弱肉強食、強ければ生き、弱ければ死ぬのさ!!」パクッ

    打ち止め「もーっ!!」

    百合子「うるせェよ、もっと落ち着いて食えねェのかオマエらは」

    643 = 1 :


    黄泉川「ほーら垣根少年、さっさと食べないとこっちのちびっこたちに全部持ってかれるじゃんか。
    っつかもし遠慮したらぶん殴るじゃんよ」

    百合子「コイツはマジでやるからな、覚悟してかかれよ」パクパク

    芳川「ねえ愛穂、すき焼きもいいけど今度は焼き肉もいいと思わない?
     こう、苦くてボコボコ泡の立った大人の飲み物をぐいっといきながら一緒に頂きたいわ」パクパク

    黄泉川「お前が買い出し行って下準備まで全部してくれるんなら明日にでもやってやるじゃんよ」モグモグ

    芳川「あら、やっぱり二日連続でお肉はよくないわね。また後日にしましょうそうしましょう」

    打ち止め「ヨシカワって絶対前世ナマケモノだよねってミサカはミサカは確信してみたり」ハァ

    百合子「ナマケモノに失礼過ぎンだろ、ヤツらは淘汰の過程であの最小限のエネルギーで生きられる身体構造を獲得したンだぞ」

    番外個体「芳川の場合退化だから真逆行ってるよね」

    芳川「……あなたたち、喧嘩売ってるならはっきりそう言ってくれていいのよ?」


    基本的に誰に対しても臆せず饒舌なはずの自分の口数が少なくなっていることが恥ずかしかった、
    はっきりと緊張していることが情けなかった、何気ない会話にいちいち鼻の奥がツンと痛むのが耐え難かった。

    付けっぱなしのテレビから流れてくるくだらないバラエティ番組の出演者たちの笑い声も、全てがちぐはぐでズレていて場違いだった。

    その時、向かい側にだらだらと座っている、これまた美人なのに自身の容姿に頓着しない質なのかよれたシャツとジーンズを着た芳川と呼ばれた女がじっとこちらを見ていることに気が付いた。

    その見透かしたような視線に胸がざわついて思わず目を逸らすと、
    次に顔を向けた時にはその意味ありげな目線は既に目の前の料理の方に注がれていてほっとした。

    644 = 1 :


    それから打ち止めが今日の出来事やさっきの上条という少年に会ったことなどを
    合間合間に頻りに食後のケーキを気にしている様子を滲ませながら機関銃の如く早口に喋り続け、
    その度ごとに大きく開けた口からほうばった夕食が溢れるのを一方通行が咎めた。

    そう言うあなたこそお肉ばっかりじゃなくて野菜も食べなさいってミサカはミサカは……、ぎゃは、幼女に注意される第一位だせぇ!
    愛穂大変卵が足りないわ、自分で取ってこい、そォやって動かねェから太るンだよオマエは、ちょっと、わたしの体重は変わってないわよ! アハハハ……


    止まないさざ波のような笑い声の中で、その時ふっと今自分のいる空間だけがぽっかりと世界から切り取られ遠ざかっていく錯覚がして微かに目眩がした。

    小さな明るい少女に親のように口うるさく小言を言ってはその汚れた口元を拭ってやっていた一方通行が、不意に顔を上げる。


    垣根(…………あ)


    ――――血を溢したような真っ赤な三白眼。その鋭い瞳が自身の瞳を捉えた時、その瞬間、
    脳裏にハッと遠い昔の記憶がフィルムを巻き戻すように突然に強くフラッシュバックした。









    645 = 1 :


    ――――





    あれは冬。

    薄く氷の張った窓の外で小止みなく降り続ける雪は辺り一帯を重く覆い尽くし
    建物や地面やその他諸々との境界線をすっかり曖昧にしてしまっていた。

    細やかな雪片の群れに当たって乱反射する光がちくちくと眩しく眼球を刺す。
    冷たく白い粒子は深々と辺りの音を吸い尽くしては五感を鈍らせてゆき
    まるでそのまま世界中を飲み込んでしまうかのような錯覚を起こさせた――――




    646 = 1 :





    研究所の広く長い廊下の突き当たりにある一室から明かりが漏れている。
    その明かりの元に、にじり寄るようにゆっくり近付いてゆく少年がいた。

    まだ幼さの残る柔らかな輪郭、育ちきっていない肢体は凹凸も少なくほっそりとして
    けれども目尻のつり上がった暗く鋭利な双眸が、少年の印象を一転して子供らしくないガラの悪いものに見せていた。

    よろめくように這い寄り彼がそろそろと耳をそばだてると、内から断片的にさざめくような会話が流れ込む。


    「――――或いは、木原に抱えられている“怪物”を超える可能性を持つのはあれ一人だけだ」

    「とにかくデータは出ているんだ。一体いくら積んでこっちに引っ張り込んできたと思ってる。金の卵を生んで貰わなければ」

    「向こうは既に一歩進んだ研究に踏み込んでいる。
    “例の怪物”の精神性を他の被験者に植え付けて自分だけの現実の最適化を図るとかいう……」

    「もっとも、そちらについてはまだ立案段階ですから実行するのは先になるでしょうが――」

    「悠長なことを言うな、有用性で言えばこちらも負けてはいないんだ」

    「『プロデュース』の方も近いうち実施に踏み込むという話ですが」

    「はてさて、また置き去り(チャイルドエラー)が何人使い潰されるかな」

    「賭けますか」

    「つまらない賭けはしない。これでも私はギャンブラーでね」

    「はいはい、どうせ自分は子供たちのおこぼれで身を立ててるしがない凡夫ですよ」

    「ふふん。それにしても昨日の実験はまた見ものだったな」

    「……ふ。dark matter。『未元物質』、か。何ともまた皮肉なまでに的確な名を付けたものだ」

    「正直末恐ろしいですよ自分は。“あの化け物”もそうですが……子供の皮を被った何かなんじゃないですかあれは」

    「物理用語で言うところの暗黒物質とはすなわち宇宙にある星間物質のうち、電磁相互作用をしない為に光学的に観測出来ないものを指す」

    「だがしかしあれの能力は“本当に存在しない”素粒子を生み出す。
    どこから引きずり出してきているものか、当の本人にすら分かっていないと言うんだからな」

    「無からの創造、か。科学者としてはなんとも胸踊る能力じゃあないか。上手く流用出来ればどれだけの価値になるか」

    「神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くもの――――……」






    647 = 1 :




    カチカチと噛み合わない歯の根も小刻みに震える肩も、全てはこの冷たさのせいだと少年は自分自身に言い聞かせるように胸の内で呟く。
    大丈夫、大丈夫だと言い含めながら不規則に乱れた息を吐く。

    冬の午前の薄暗い廊下を長い時間をかけて歩き、億劫に足を引きずりながら階段を上ってゆく。
    その先にある、使用する者の少ない、どこかカビ臭く廃れた低振動の斜行エレベーターに乗ると一番上のボタンを押した。

    ゆっくりと上り、僅かな上下動と共に止まった先にある厚いシャッターが鈍い音を立てて持ち上がると、唐突に開けた室外の明るさに数秒視界がブレた。


    広い屋上に一歩踏み出す。
    ずず、と体重に比例して沈む雪を気に止めることもなくそのまま行き止まりの柵まで進むと暫く立ち竦んだまま肩で息をする。
    自身の吐き出した息が紫煙のように空気の中に溶けてゆくのを眺め、それから少年は眼前の古ぼけた鉄骨の建物を睨み付けた。

    やや斜交いに構えた焼却炉となっているその建物からは立ち上る細い煙すらなく
    それはただ静かに、ともすれば何も起きてなどいないかのように雪を降り被ってずっしりと建っていた。



    悲劇とは唐突に起きるのじゃない。
    それは実は初めから用意されていて、少しずつ、ゆっくりと忍び足で背後に近付き、そうして風船が割れるように起きる。
    自分の手でそれを膨らませたことにすら気が付かないまま。だからあたかも唐突であるかのように感じるだけだ――……



    雪の中に立つ少年の手に握りしめられた分厚い資料。

    プロデュース、暗闇の五月計画、暴走能力の法則解析用誘爆実験。

    どれ一つ取っても極めて非人道的とされる歪みきった内容のプラン名。
    それら全てを無視して彼はたった一つの言葉だけを見つめる。


    「………素養格付(パラメータリスト)」


    プリントアウトされた無機質な文字に浮かび上がる真実。
    長く難解な用語の並ぶ中、要約するとそこにはただ素っ気なくこう書かれていた。

    学園都市の学生として時間割り(カリキュラム)に参加する前に。その人間が生まれた瞬間に。いや、生まれるよりも先に――――全ては素養で決定される。

    「ふっ」

    「は、はは……」

    「ははは、はははははは!!!」

    腸が捻転するかという程狂ったように少年は声をあげて笑った。

    648 = 1 :


    それじゃあなにか。
    いつかは高レベルの能力者になることを夢見て、毎日毎日飽きもせず血を滲ませてきたレベル1や2そこらの奴らの努力は全部無駄だったのか。

    この自分があっさり踏み越えた壁の前でいくらあがいても手が届かなかったあいつらは。


    才能がなかった。それだけか。


    突き付けられた地獄よりも恐ろしい答えに、しかしその瞬間、少年の背筋にゾクゾクとした快感が這い上がってきた。

    科学の犠牲にされた子供たちに対して彼は同情などという感情を持たない。むしろ沸き上がったのは侮蔑。

    そう、あいつらはただ人に喰われる為だけに囲われた家畜だった。餌を貪り安穏ともがくだけの豚。豚ども。


    ――――いつだったか、自尊心の高い、負けず嫌いな奴が「お前の百倍努力して次の身体測定では抜いてやる」と少年に言い放ったことがあった。

    次の身体測定で奴は少年を抜かせなかった。その次も、そのまた次も抜かせなかった。

    今度の実験でより強固な自分だけの現実を確立させてお前よりもっと高位の能力を手に入れてやると目の前で豪語した奴もいた。

    そいつはその実験が失敗してそのまま死んだ。

    そして昨日。昨日の実験で。
    意図的に一時能力を暴走させるテストで限界値を超えても研究者たちは冷静に冷酷にデータを取り続けた。

    ある子供は脳に多大な損傷を負って廃人となり。
    ある子供は痙攣しながら胃の中にあるもの全てをぶちまけるように吐き出して発狂し、またある子供は破裂した頭部から血液と脳髄を滴らせ絶命した。

    肩に頭に降り積むこの雪のように白い壁に囲まれた冷たい実験室の中で、少年一人が平気な顔をして生き残った。

    壮絶な死へ落ちてゆく子供たちの、自分の命が終わることを悟った者に特有の、濁ったような透き通ったようなあの目で。
    ガラス玉のようなあの瞳で。

    最後の刹那、皆一斉に少年を睨み付けていた。ただ一人のうのうと生にすがりついている少年を。憎悪と軽蔑と憤懣と悲哀の入り交じった眼で。


    「くっ、くくく……」

    小気味良い笑いはいつまでも収まらず、尾を引いて広い屋上に響いていた。

    あれらの子供たちの死は自分とは無関係なはずで、そして少年は無関係なものに興味など持たなかった。
    自分の力に見合わないもの、釣り合わないもの、そんなものはがらくた同然だった。

    649 = 1 :


    事実はこうだ。あいつらは間接的に自分が殺していたのだ。この街の答え、レベル5のさらにその先にあるものへとのし上げるための一山いくらのモルモットとして。
    いや、間接的なんかじゃない。本当に自分自身がこの手にかけた。

    不安定に凭れかかった柵の手すりで、少年はただネジの外れたように肩を揺らして卑屈に笑いながら慟哭する。

    ひどく気まぐれで飽きっぽく、ひねくれて好き嫌いの激しい、軽薄で自分本位で、周りを見下し見下し返されながら
    そういう風に生きてきた少年はこんな時の泣き方を知らなかった。
    知らなかったのだ。


    未だ片手が固く掴んでいる何百枚ものコピー用紙にも粉雪は降りかかり、インクの文字を滲ませた。

    今、眼前の巨大な廃棄用の電子炉の中で着火ボタン一つで、昨日死んだ者たちが人間を証明するDNA情報すら残さず灰になっていく。
    四千度近い熱に焼かれて。

    親に捨てられた子供が今度はダストシュートへと捨てられる。

    最初からその為だけに生まれてきた人間。あの白衣を来て薬品の匂いを漂わせた連中の食い扶持と、賭け事にもならないつまらないお遊びの好奇心の為に。
    ほんの少し上書きされるデータの為だけに。

    選ばれた人間の犠牲として食い潰される為に。

    違う。俺は違う。俺は違う。俺は―――


    素養があると認められ、格段に質の高い開発を受け、この都市の頂点に立つ可能性をも
    “約束された”ずば抜けた才能に恵まれた少年は、それにも関わらずひたすらに怯えていた。

    今にも崩折れそうに震えている身体は、もう雪のせいと言い訳することの出来ない程青ざめていた。
    自分もまたもっとずっと大きな存在の手の上で踊らされているだけの人形に過ぎないことを、もはや気が付かない訳にいかなかった。


    薄暗く低い空を見上げ、自身の心を支える支柱を失くした少年の胸の内に、何か、思い出せそうで思い出せないものが去来した。

    感傷的になり過ぎだ、と思った。何を被害者ぶっているのか。
    全ては自分の手で行い、それを良しとしたのも自分だというのに。こんな気持ちは違う。似合わない。ガラじゃない。

    冷静にそう考えることも出来るのに止められない。

    ふと、喉元をつかえていたものを思い出した。



    ――――ヒーローになりたい。



    そうだ、確かにそんな夢を見たこともあったのだ。

    650 = 1 :


    痛々しい程の真っ直ぐさ、いっそ偽善的なまでの正義感、それでいてそれらの資質を持ち合わせていることに対する優越感など欠片たりとも持たない紛れもない無垢さ。
    単純化された物語に出てくる勧善懲悪の英雄のような。

    そういった理想像を目指す気力は今ではとうに削がれていた。既に嫌悪してさえいた。

    世の中というものがあまりに一筋縄ではいかないこと、時に苦いものを飲み込まなければならないこと、愉悦に浸る者の陰で絶望する者の存在が必ずあること。
    全ての人間に平等なのは死だけであるということ。

    予感めいたものは誰でも皆ごく幼い時から持っているかもしれない。
    けれどもまだはっきりとは気付かなくていいそれらのことを、まだ明るく希望に満ち溢れた夢に浸っていてもいい年で、なかんずく少年は早く知り過ぎた。

    それでも、それでも今よりもさらにちっぽけだった頃は持っていたのだ。本当に。しかし、それはとうに記憶の彼方に霧散している感情だった。
    無理にそのありかを抉じ開けようとするとどうしようもなく胸が痛むのだった。

    いつもほんの少しだけ夢を見て、そして諦める。

    誰かに認められたい、笑いかけてもらいたい、頷いて欲しい、手を取って欲しい、楽しいことで笑いたい、
    悲しいことを悲しいというただそれだけの理由で手放しで泣いてみたい、
    くだらないことで誰かと言い争いそして許したい、馬鹿馬鹿しいことで怒らせて、そしてまた許されたい。

    一つ掛け違えたシャツのボタンは、最初から掛け直さない限り直らない。
    そしてそのボタンが時間であり、自分自身である時、それはもう取り戻すことなど出来はしない。
    過去を「もし」で考え直すことの虚しさと無意味さを、この愚鈍で賢い少年は正しく理解していた。


    悲劇とは唐突に起きるのじゃない。
    それは本当に初めから用意されていて、少しずつ、ゆっくりと忍び足で背後に近付き、そうして風船が割れるように起きる。
    自分の手でそれを膨らませたことにすら気が付かないまま―――……



    自分が悪にしかなり得ないことを、少年は悟ってしまった。


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