私的良スレ書庫
不明な単語は2ch用語を / 要望・削除依頼は掲示板へ。不適切な画像報告もこちらへどうぞ。 / 管理情報はtwitterでログインするとレス評価できます。 登録ユーザには一部の画像が表示されますので、問題のある画像や記述を含むレスに「禁」ボタンを押してください。
元スレ久「あんたが三年生で良かった」京太郎「……お別れだな」
SS+ スレッド一覧へ / SS+ とは? / 携帯版 / dat(gz)で取得 / トップメニューみんなの評価 : ○
レスフィルター : (試験中)
『お名前と連絡先、教えていただけませんかっ』
京太郎「うっ……」
『愛しています、京太郎様』
京太郎「こ、まき……」
『好き、好きなの……あなたが好きなの』
京太郎「うぁ……」
『お願い、今だけだから……明日からはいつもの私に戻るから……』
京太郎「お、れは……」
京太郎「――っ」ガバッ
京太郎「……はぁ、なんつー夢見てんだ」
霞「おはよう、今日は遅いのね」
京太郎「なんだよ、また勝手に入ってたのか」
霞「だってあなた、私が作らないとちゃんと朝ご飯食べないじゃない」
京太郎「ちょっとぐらいなら食べなくっても大丈夫だって」
霞「いいから食べて。もうできてるわ」
京太郎「ああ、いい匂いすんな……」グゥ
霞「お腹は正直なのね」クスクス
京太郎「別に食べたくないわけじゃないから」
霞「じゃあ用意しちゃうわね」
京太郎「ごちそうさま」
霞「おそまつさま」
霞「ねえ、今日は?」
京太郎「珍しいことに暇。たまにはごろごろしてようかな」
霞「そうね、ゆっくり休んで。家事は私がやっておくから」
京太郎「お前だって仕事あるだろ。いいよ、別に」
霞「今日はお休みなの」
京太郎「……あー、そうだったか」
霞「だから気にしなくてもいいの」
京太郎「じゃあちょっと出かけるわ」
霞「なら掃除しておくわ」
京太郎「だから、お前がそこまでする必要ないって」
霞「いいえ、だって私は――」
京太郎「ただのお隣さん、そうだろ?」
京太郎「だからさ、俺のことなんて気にしなくてもいいんだよ」
霞「……どうして、そんなことを言うの?」
京太郎「もう十分だってことだよ。いつまでも引きずってないで前を向かないとな」
霞「――いやっ!」
霞「あなたの口からそんな言葉聞きたくない!」
霞「あんなことになっても私を引き留めたのにっ、傍に置いたくせに……!」
霞「突き放すなら最初から突き放してよ!」
霞「それなら、私もあなたを……」フラッ
京太郎「おい、霞っ」ガシッ
霞「あなたを……諦められたのに」
京太郎「……もういいから。寝てろよ、顔色悪いぞ」
霞「……部屋に戻るわ」ヨロヨロ
京太郎「どうせ隣に戻るだけだったらここで休んでろ。俺はなんか買ってくる」
霞「あ、待って――」
京太郎「んじゃ、おとなしくしてろよー」バタン
霞「……ただのお隣さんだったら放っておけばいいじゃない」
小蒔「葉桜……」
『――っと、ギリセーフ……大丈夫か? お転婆姫さんよ』
小蒔「もう、随分前のことみたいです」
小蒔「そのころの私はまだなにも知らなくて」
小蒔「大好きな人たちと会えなくなるなんて思いもしないで……」
春「姫様、そろそろ」
小蒔「わかりました、今行きます」
春「……大丈夫?」
小蒔「春が心配するようなことはありませんよ」
春「そう……」
『関節キスは好きな人と、本当のキスは契りを結んだ殿方と』
小蒔「今なら、お母様の言葉の意味が分かる気がします」
小蒔「……本当に好きな人とは結ばれないから、なんですね」
小蒔「京太郎様、霞ちゃん……」
小蒔(小蒔は今日、夫婦となる殿方と顔を合わせます)
小蒔(……京太郎様以外の男性と)
巴「姫様の様子、どうだった?」
春「いつも通りに見えた」
巴「そう……」
春「でも、平気なはずない」
巴「……どうしてこうなっちゃったんだろうね」
春「そんな決まってる。……全部、あの人のせい」
巴「はるる、それは――」
春「私は絶対許さない……許せない」
巴「……」
巴(はるるがこんなに怒るなんて……)
巴(そっか、好きだったんだもんね)
巴(私も……)
初美「はいはいはーい、暇ならこっちを手伝うのですよー」
初美「ほら、はるるは向こう。明星たちがテンパってるのですよ」
春「ん、わかった」タタタ
巴「ごめんね、ちょっと姫様が心配で」
初美「それは無理もないのですよ」
巴「でも、はっちゃんは変わらないね」
初美「私まで沈んでたら、暗くてどうしようもないですからねー」
巴「……うん、そうだね」
初美「ささ、巴ちゃんは表のお掃除を手伝うのですよ」
巴「えっと、ちょっと難しいかな」
初美「まぁまぁ、サボりたい気持ちはわかりますがねー」
巴「そうじゃなくて、はるるが向こう行っちゃったから私が姫様についてないと」
初美「うげっ、じゃあ広い境内をひとりきりで掃除ですかー!?」
京太郎「引きずってないで前を向け、ね」
京太郎「……まぁ、自分のこと棚に上げないと何も言えなくなるよな」
「あら? たしかあなた石戸さんの……」
京太郎「えーっと、どちらさまでしたっけ?」
「やだもう、忘れちゃったの!?」
京太郎「んー……」
京太郎(いや、本当にだれだっけ?)
京太郎(というかこのおばさん、なんとなくうちの母親と同じにおいがする……)
京太郎(……母さん、元気かな)
京太郎「……そうだ、たしか霞の職場の先輩でしたっけ」
「そうそう、やっと思い出してくれた?」
京太郎「すいません、ど忘れしちゃってたみたいで」
京太郎(てか、一度ちらっと顔合わせただけだよな、たしか)
「霞ちゃん、無理しないようにちゃんと見ててあげてね。昨日だって大変だったんだから」
京太郎「昨日? なにかあったんですか?」
「フラフラしてたし、吐き気で食欲もなかったみたいなの」
京太郎「そんなに具合悪かったのか……」
「だからカレシのあなたがしっかり看病してあげること。いい?」
京太郎「彼氏じゃないです」
「そうなの? 時々一緒に帰ってるみたいだし、てっきり同棲してるものだと思ってた」
京太郎「昔からの知り合いで、今はただのお隣りさんですよ。親切にしてもらってますけど」
「えー? 霞ちゃんはあなたにラブだと思うんだけど」
京太郎「ははは、そんなまさか」
「さてはあなた……朴念仁で唐変木ね!」
京太郎「そんなわけ……」
京太郎(……ないわけないよなぁ)
「とにかく、霞ちゃんの気持ちにしっかり応えてあげること! それとも、カノジョさんいたりするの?」
京太郎「いない、ですね」
「じゃあなんも問題ないわね!」
京太郎(あるよ、ありありだよ)
京太郎(そもそも俺は……)
『……俺は小蒔と一緒に生きていくことにした』
京太郎(一回断ったようなもんだろ)
京太郎(そんな都合よくいってたまるか)
京太郎「すいません、買い物あるんでそろそろ」
「あ、もしかして霞ちゃんのお見舞い?」
京太郎「今朝も具合悪そうにしてましたから」
「やっぱり? じゃあお大事にって伝えておいてくれる?」
京太郎「もちろん」
「それと、風邪だったら誰かに移せばって言うし……ね?」
京太郎「……」
京太郎(ね? じゃねーよ)
京太郎(ホントこういう手合いは……)
「じゃあ、うちの本屋のアイドルをよろしくね」
京太郎「アイドル?」
「知らない? 霞ちゃん目当てのお客さん、結構いるんだけど」
京太郎「初耳ですね」
「うかうかしてたら取られちゃうかも……じゃあね~」
京太郎「……ま、その方が全然いいよな、今よりは」
京太郎「あいつにとっても、俺にとっても」
京太郎「だけど……もう半年か」
京太郎「潮時ってやつなのかもな」
『……俺は小蒔と一緒に生きていくことにした』
霞(わかってる。彼は小蒔ちゃんを選んだ)
『お前にだけは言っとかなきゃいけないと思ったから』
霞(やめて……そんなこと聞きたくもない)
『……さぁ、ここでサービスタイムだ。恨み言でも罵倒でも、なんだったら包丁まではギリオーケーだ』
霞(だけど、私は我慢して……)
霞(我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して――)
『お願い、今だけだから……明日からはいつもの私に戻るから……』
霞(――取り返しのつかない間違いを一つ、犯してしまった)
霞「んっ……」
霞(……寝ちゃってたのね)
霞(それにしても……)
霞「なんて、ひどい夢なの……」
霞「すごい寝汗……着替えたいわ」
京太郎「ほら、サイズ合わないだろうけど」
霞「どうしてここに……」
京太郎「自分の部屋にいるのは当然だろ」
霞「そう、だったわね」
京太郎「具合は?」
霞「平気よ」
京太郎「本当か? お前の先輩に昨日も具合悪かったって聞いたけど」
霞「……だから今日はお休みになったの」
京太郎「なるほど、休まされたのか。お前の平気、大丈夫は信用できないからな」
霞「あなたも人のことは言えないじゃない」
京太郎「自分のことは棚上げしなきゃ、なんにも言えないからな」
霞「呆れた開き直り……」
京太郎「それよりも飯とシャワー、どっちにする?」
霞「ごちそうさまでした」
京太郎「おそまつさまでした」
京太郎「はは、今朝とは逆だな」
霞「ごめんなさい、あなたの手をわずらわせてしまって」
京太郎「いいって。普段世話になってるし、それに料理も久しぶりで楽しかったし」
霞「でも私は……」
京太郎「はい、ここでデザートの登場だ」
霞「あなたに対してもとても償いきれない――むぐっ」
京太郎「いいからオレンジ食え」
霞「……しゃべらせてくれてもいいじゃない」
京太郎「今日のお前は辛気臭いことばっかだしな。……それに、そもそも悪いのは俺だから」
霞「それは――むぐっ」
京太郎「はいもう一個ぉ」
初美「うへぇ……やっと終わったのですよ」
初美「まったく……こーんな広いところを一人で掃除しろとか、罰ゲーム以外の何物でもないですねー」
久「やっほー、元気してた?」
初美「あれれ、お久しぶりなのですよ」
久「久しぶり。他の人たちは?」
初美「中ですね」
久「じゃあちょっと上がらせて……って、いきなりアポなしで来ちゃったけど大丈夫?」
初美「思いっきり来客予定があるのですよ」
久「あらら、我ながらバッドタイミングね……それじゃ、手短に挨拶だけにしようかな」
初美「えーっと、それは、なんといいますか……」
久「京太郎たち、いるんじゃないの?」
初美「……もういないのですよ」
久「もしかして出かけちゃった? あちゃー、本当にタイミング悪いわねぇ」
初美「……」
初美「もう帰っては来ない、という意味なのですよ」
久「えーっと、浮気でもして追い出されたとか?」
初美「……」
久「え、やだ、黙らないでよ。本当にそうなの?」
初美「それは……」
久「はぁ……まぁいいや。じゃあ神代さんに聞いてくる」
初美「ダメなのですよ」
久「しょうがない……じゃあ大人しく帰って――」
久「――やるわけないでしょっ」ダッ
初美「あっ、待つのですよ!」
久「そう言われて待つ奴なんているわけないでしょ!」
初美「たしかに!」
『ごめん、俺にはもうここにいる資格がないんだよ』
『それでもっ、私は京太郎様と……!』
『……ホントごめんな、小蒔』
小蒔(あの時、無理にでもついていけたら)
小蒔(お母様の言いつけを破ってでも、外に出ていっていれば)
小蒔(私は、今も京太郎様と……)
『霞ちゃん……』
『みんなのこと、お願いね』
『……はい』
小蒔(一人で背負いこんでいることには気づいていたはずなのに)
小蒔(聞きたいことがあったはずなのに)
小蒔(それとずっと向き合わないまま、私は……)
『こらー! 観念するのですよっ』
『あーもう、しつっこいわねぇ!』
巴「あれ? はっちゃんと……だれ?」
小蒔「だれか、来客でしょうか?」
巴「なんだか聞き覚えのある声のような」
久「お邪魔します!」
巴「た、竹井さん!?」
久「京太郎、どこ行った――うわっ」
初美「やーっと捕まえたのですよ!」
久「ちょっと、放してよ……!」
初美「放せと言われて放す奴はいないのですよ!」
久「さっきの意趣返しかっ」
初美「その通り!」
巴「えっと、何事なのかな?」
初美「不法侵入なのですよ!」
久「そっちがはっきりしたこと教えないからでしょ!」
久「一体京太郎に何があったっていうのよ!」
巴「えっと、それは……」
久「ほら、口つぐむ」
初美「とにかく、今日はお客さんが来るからもう帰るのですよっ」
小蒔「二人とも、下がってください」
巴「……わかりました」
初美「むぅ、姫様がそういうなら」
久「それで、なにがあったの?」
小蒔「あの二人……京太郎様と霞ちゃんは、問題を起こして追放された……それだけです」
久「問題って?」
小蒔「お答えできません」
久「あのバカが石戸さんと浮気したとか?」
小蒔「お答えできません」
久「……しばらく会わないうちにすっかり他人行儀ね」
小蒔「……今までがおかしかったんだと思います」
小蒔「あの夏の日に、あなたたちを迎え入れなければ」
小蒔「私は恋も嫉妬も……なにも知らないままでいられた」
小蒔「……お引き取りください。もう話すことはありません」
久「そうね……だけど一個だけ言わせて」
久「悲劇のヒロイン気取り?」
久「自分からはなにもしようとしないで被害者面?」
久「要するに諦めたんでしょ。あいつのことも石戸さんのことも」
久「アホらしい……こんな女に取られたなんてね」
久「それじゃ、さようなら。なんにもできないかわいそうなお姫様」
小蒔「帰って! 帰ってください!」
久「言われなくても!」
久「あーもう、むしゃくしゃする……!」
久「信じて送り出した幼馴染が行方不明って? しかも破局してるし!」
久「こんなことならもっと……」
初美「ちょっと待つのですよー」
久「なに、お礼参り?」
初美「どこの不良ですか」
久「違うの?」
初美「ちょっと姫様のフォローをと」
久「……まあ、こっちも多少八つ当たりは混じってたけどね」
初美「やっぱり。フラれた女の未練は――いひゃいいひゃい!」
久「喧嘩なら買うわよ?」ギリギリ
霞「……」ムスッ
京太郎「まだ怒ってるのかよ……悪かったよ。たしかにあのオレンジはちょっと酸っぱかった」
霞「……オレンジはおいしかったわ」
京太郎「じゃあなに、問答無用で口に突っ込んだことか?」
霞「……」
京太郎「やっぱそれかぁ。無理やりはよくないよな、うん」
霞(違う、そうじゃない)
霞(私が何よりも許せないのは、自分)
『自分のしたことの意味、わかっていますね?』
『……はい。どのような罰も甘んじて受け入れます』
『ならば、ここを去りなさい。それがあなたに与える罰です』
『わかり、ました』
霞(現状に、幸せを感じてしまっている自分が許せない)
霞(私のせいでなにもかも壊れてしまったのに)
霞(それなのに、どうしてこの人は……)
霞「どうして、あの時私を引き留めたの? 私なんてほうっておけばよかったのに」
京太郎「あのなぁ、あんな糸の切れた凧みたいなやつ、放っておけるわけないだろ」
霞「……そうね、あなたはそんな理由で無茶をする人だったわね」
京太郎「……あとはさ、居場所がほしかったんだよ」
京太郎「あそこにいられなくなって、今更帰るわけにもいかなくてさ」
京太郎「じゃあ俺はどこに行ったらいいんだろうって」
京太郎「そしたらお前が隣にいて……よし、こいつのために頑張ってみようって」
京太郎「……いや、結局は自分のためだな」
霞「自分のため……」
京太郎「ああ、思えば強引につき合わせちゃってたよな」
霞「それで、あんな倒れるまで無理して働いて……」
京太郎「……二部屋分の家賃はさすがに失敗したと思ってるよ」
霞「同じ部屋でも構わなかったわ」
京太郎「それでも線引きはいるだろ、やっぱり」
霞「今は、必要?」
京太郎「……霞」
『それでもっ、私は京太郎様と……!』
京太郎「悪い、まだ……」
霞「……でも、あなたは私を傍に置いた」
京太郎「ああ」
霞「私を、必要としてくれたのよね?」
京太郎「そうだよ」
霞「そう……」
霞「今日は帰るわ……また明日」
『あなたは、あの子の傍にいる資格を失った』
『……』
『その意味はわかりますね?』
『……はい』
『それならば、早いうちに去ることです。……これ以上辛くなる前に』
『お世話に、なりました……』
『……結局、こうなってしまうのですね』
京太郎「……俺は、もうあそこには戻れない」
京太郎「小蒔と一緒にいる資格も、ない」
京太郎「ここが俺の今の居場所」
京太郎「そしてここにはあいつが、霞がいる」
京太郎「それなら、このままあいつと……」
『私も……愛しています、京太郎様』
京太郎「――っ」ダンッ
京太郎「どんだけ未練ったらしいんだ、俺はっ……!」
『そしたらお前が隣にいて……よし、こいつのために頑張ってみようって』
霞(……もし、許されるならこのまま)
霞(過去を全部捨てて、彼と一緒にいられるなら……)
――ピンポーン
霞(来客? こんな朝早くに)
霞(彼は仕事に行ったし……)
『あれ、こっちも留守?』
霞(この、声は……)
久「えーっと、ここかな?」
久「……うん、住所も建物の名前もあってる」
久「201は……あった」ピンポーン
久「……出ない」
久「まぁ、働いてるならしょうがないか」
久「じゃあ次は隣ね」ピンポーン
久「あれ、こっちも留守?」
久「まいったわねぇ……」
久「んー、場所はわかったし、また夕方にでも――」
霞「やっぱり、竹井さん」
久「あら、いたんだ」
霞「どうしてここが……」
久「まぁ、色々伝手があって、調べてもらったの」
霞「……何の用?」
久「元気にしてるかの確認。神境では色々とあったみたいだし」
霞「そう……小蒔ちゃんたちに会ったのね」
久「色々とわけわからなくてさ、みんな口つぐんじゃうし」
霞「無理もないわ。……いい思い出とはとても言えないもの」
久「それで、当事者のあなたならどうかなって」
霞「悪趣味ね」
久「だってそれであいつが苦しんでるんだったら、なんとかしたいし」
霞「……そう、彼のために」
久「あ、本人には言わないでよ。恥ずかしいから」
霞「わかっているわ」
久「それで、話す気ある?」
霞「……」
久「……大体わかったわ。それでここに来たわけ」
霞「ええ……神境を出た後は、彼がこの部屋を見つけてくれて……私の分の家賃まで賄って」
久「はぁ? そんな無茶してたの?」
霞「一度、倒れたわ」
久「あのバカ……」
霞「……彼は悪くないわ。私が精神的にまいっていたせいよ」
久「それなら意地張らないで、一部屋だけにしちゃえばよかったじゃない」
霞「線引き、なんだって」
久「はぁ……そういう関係じゃないからってことでしょ」
霞「……ええ」
久「ありがと……それとごめんなさい」
霞「悪かったのは私よ。あなたが気にすることはないわ」
久「それでも、辛くなかったわけじゃないでしょ?」
霞「……どうかしら」
久「思うに、それが一番悪いのよ。我慢しすぎ」
霞「初美ちゃんにも、同じことを言われたわ」
久「じゃあ2対1ね」
久「それじゃ、そろそろお暇するわ」
霞「これからどうするの?」
久「あいつの顔見てから決める」
京太郎「デネブ、アルタイル、ベガ……夏の大三角か」
京太郎「今頃インハイか……なつかしいな」
京太郎「ん?」ガチャ
京太郎(鍵、開いてる?)
京太郎(また霞が上がってるのか)
久「あ、おっかえりー」
京太郎「……久ちゃん? なんで?」
久「鍵だったら石戸さんにちょっと貸してもらったから」
京太郎「いやいや、そこじゃなくて」
久「大学なら休みだから。ほら、夏休み」
京太郎「そこでもないから……どうしてここにいるってわかったんだよ」
久「龍門渕さんとか智葉とか、あと獅子原さんのカムイ? とか色々協力してもらったのよ」
京太郎「なにそれこわい」
久「とりあえず、体は大丈夫そうで安心した」
京太郎「ま、丈夫なのが取り柄だしな」
久「でも一回倒れたんだって?」
京太郎「うぐっ」
久「それも変な意地張って」
京太郎「ま、まあ……もうそれは過去の話だから」
久「そうね……じゃあ本題」
久「神代さんと別れたんだって?」
京太郎「……」
久「……はぁ、やっぱりそうなるか」
京太郎「もう終わったことだって」
久「って口で言ってるだけでしょ」
京太郎「そんなこと――」
久「全部聞いたから」
京太郎「……霞からか?」
久「ちょっと気の毒なことしたけど」
京太郎「できるならそっとしておいてほしいんだけど」
久「あんたがさ、もう振り切って幸せそうにしてるなら、それでもいいと思った」
京太郎「幸せだよ、十分にさ」
久「そうそう、薄墨さんから聞いたんだけどね」
久「神代さん、新しい婿を取るんだって」
京太郎「……そりゃそうなるだろ」
久「それで、感想は?」
京太郎「別に」
久「その割には辛そうな顔してるじゃない」
京太郎「俺にはもう関係ない」
久「なんでそう思うのよ」
京太郎「だから、もう終わったことだって――」
久「ウソつくな」
久「私があんたのウソを見抜けないわけないでしょ」
久「終わったなんて思えてない」
京太郎「……やめろ」
久「関係ないなんて思えてない」
京太郎「やめろ」
久「あんたはまだ、神代さんのことが――」
京太郎「――やめろって言ってるんだよ!!」
京太郎「未練なんてあるに決まってんだろ!」
京太郎「今でも夢に見る! 起きたら隣にいないことがたまらなく辛い!」
京太郎「だけど俺になにができる!?」
京太郎「俺はもうあそこにいる資格がないんだよ!」
京太郎「はぁ、はぁ……」
久「……」
京太郎「だから、もう……ほっといてくれ」
久「資格ってなに?」
京太郎「それは――」
久「あんた、要するに逃げたんでしょ」
久「俺には幸せにする自信がないからって」
久「それでこんなところで腐って……」
久「いい加減にしろ、この種無し野郎っ!!」
京太郎「このっ、ピンポイントでデリケートゾーン抉りやがって!」
久「相手のことを考えて? そうしたほうが幸せだから?」
京太郎「ああ、そうだよ!」
久「大人になったつもりかこの朴念仁!」
久「ストーカーまでして私を麻雀に引き戻したあんたはどこ行った!」
久「好きなら、愛してるなら、自分の手で幸せにしてみせなさいよ!」
久「それであんたも幸せになってさ……私を、安心させてよ」
久「この女と一緒になって、良かったんだって」
京太郎「……結局、自分のためかよ」
久「そうよ、悪い?」
京太郎「いや、わかりやすくていい」
久「それで、どうするのよ」
京太郎「あの日、伝えられなかったことを伝えに行く」
久「向こうの都合は?」
京太郎「知るかよ、そんなの」
久「……それでいいのよ」
『未練なんてあるに決まってんだろ!』
『今でも夢に見る! 起きたら隣にいないことがたまらなく辛い!』
『だけど俺になにができる!?』
『俺はもうあそこにいる資格がないんだよ!』
霞「……」
霞(わかってる……いえ、わかってた)
霞(だって、朝起こそうとしたら寝言で呟いてるし)
霞(彼は今でも小蒔ちゃんを愛しているんだって)
霞(まだ半年しか経ってないのに……忘れられるわけないじゃない)
霞(私なんて、一年経っても無理だったんだから……)
霞「だれかのため、自分のため……」
霞(私は……)
久「せいぜいフラれないようにね」
京太郎「そうしたらまた日本一周でもして、それからまたアタックするよ」
久「なにそれ、すっごい迷惑」
京太郎「焚き付けたのは久ちゃんだからな」
京太郎「じゃ、ちょっと行ってくる」
久「……やっぱり人間、そうそう変わらないわよね」
霞「あなたの気持ちも?」
久「さぁ、どうかな」
霞「……私も行くわ」
久「我慢はやめるの?」
霞「さぁ、どうかしら」
久「……なんにしても、後悔だけはしないようにね」
霞「大丈夫よ、もうそれには慣れっこだから」
霞「それに……もう一人じゃないから」
小蒔「……」
巴「姫様、もうお休みになったほうが――」
小蒔「もう少し、星を見ていたいんです」
巴「……わかりました。それじゃあ、お茶とお茶請け、持ってきますね」
小蒔「はい、お願いします」
小蒔(……ダメですね。まだみんなを心配させちゃってます)
小蒔(霞ちゃんもこんな気持ちだったんでしょうか?)
小蒔「今日会った殿方……私は、あの方と」グッ
小蒔「ふぅ……いけませんね、ちょっと気晴らし……また木に登ってみましょうか」
小蒔「その方が、星もよく見えますよね」
小蒔「んしょ、よいしょ……登れました!」
『あーもう、気ぃつけろよー』
小蒔「……心配しなくても、もう慣れちゃいました」
小蒔「あなたがいない、日常にも……」
小蒔「だから、私は……」ポロッ
小蒔「あれ、おかしいです……悲しくなんて、ないのに」
小蒔「……ウソです」
小蒔「全部全部ウソです」
小蒔「好きです、傍にいてほしいです、愛しています」
小蒔「京太郎様……!」
京太郎「呼んだかー?」
小蒔「え……きゃっ――」ガサッ
京太郎「――っと、ギリセーフ……大丈夫か? 小蒔」
小蒔「どう、して……」
京太郎「あの日さ、やり残したこと思い出して」
小蒔「……お引き取りください、あなたはもう」
京太郎「知らねーよ。しきたりとか立場とかお役目とか、そういうのはもううんざりだ」
京太郎「資格がないって、お前はダメだって言われて諦めてた」
京太郎「そんで、その方がお前のためになるって決めつけて逃げてた」
京太郎「でも、それでいいわけないんだよ」
京太郎「だって俺は、あの時全部伝えてなかったんだから」
京太郎「俺がどうしたいか、俺がなにをしたくないか」
京太郎「そんな当たり前なことを、伝えられなかったんだ」
『それでもっ、私は京太郎様と……!』
京太郎「お前は、ちゃんと言おうとしてくれたのにな」
小蒔「……」
京太郎「だから言うよ」
京太郎「小蒔、お前と一緒にいたい。離れたくない」
京太郎「資格なんて知らないし、いらない」
京太郎「お前に人並みの幸せをやることはできないかもしれないけど、俺なりに幸せにする」
京太郎「だから、ずっと俺の傍にいてくれないか」
小蒔「どうして……どうして今更そんなこと言うんですか」
小蒔「二人がいなくても頑張ろうって、みんなを支えていこうって思ってたのに……」
小蒔「全部、全部ダメになっちゃいました……!」ポロポロ
京太郎「じゃあ俺の目論見通りだ」
小蒔「ひどいですっ、最低ですっ、人非人ですっ」
京太郎「それぐらいで一緒にいられるなら安いもんだよな」
小蒔「京太郎様なんて、京太郎様なんて……」
巴「……姫様」
小蒔「と、巴ちゃん」
巴「正直になってください」
小蒔「そんな、私はっ」
巴「寝言で自分がなんて言っているか、わかってます?」
小蒔「うっ……」
巴「そんな夢に見るぐらいなのに、大丈夫なわけないじゃないですか」
小蒔「でも、私は霞ちゃんからみんなのことを……!」
春「よろしくされる側の姫様がよく言う」
小蒔「春まで!」
春「姫様が頑張ったらむしろ空回るし」
小蒔「ひどいです!」
春「大丈夫大丈夫って言って余計心配させてるし」
小蒔「そんなことないですっ」
春「知らぬは当人ばかりとはこのこと」
小蒔「あうっ」
初美「まぁ、努力だけは花丸ですけどねー」
小蒔「初美ちゃん!」
初美「中身が伴ってないので結局ダメダメなのですよ」
小蒔「ダメダメじゃないです!」
初美「それはそうとですね」
小蒔「わきに置かないでください!」
初美「特別ゲスト、つれてきたのですよ」
霞「……久しぶりね」
小蒔「え……」
巴「霞、さん」
春「……」
京太郎「……お前もついてきてたのか」
初美「入り口でうろうろしてたのを確保したのですよ」
霞「……ちょっと、入りづらくて」
京太郎「まぁ、気持ちはわかるよ」
初美「何を言うのですか。ずけずけと入ってきたくせに」
京太郎「それで遠慮するかどうかは別問題だろ」
小蒔「ちょっと待ってください!」
小蒔「正直に言います……私は、また二人に会えて嬉しいです。でも……」
霞「……ええ、もう元には戻れない」
小蒔「――っ」
霞「みんな、少し小蒔ちゃんと二人きりにしてもらってもいいかしら?」
初美「好きにするのですよ」
巴「……姫様がいいなら」
春「……知らない」
霞「ありがとう、みんな」
京太郎「じゃあ、待ってる間お茶でももらうか」
初美「どんだけ図々しいのですかっ」
京太郎「まぁまぁ、来客だと思ってひとつ」
春「黒糖、用意する」
巴「お茶、冷めちゃったから淹れなおしてきますね」
初美「それでなんで歓迎ムードですか!」
小蒔「……霞ちゃん」
霞「半年ね、あれから」
小蒔「はい、半年ぶりです」
霞「……実は、ここに来る途中、小蒔ちゃんのお母様と連絡を取ってきたの」
小蒔「お母様と、ですか?」
霞「ええ……」
『それが、どういう意味か分かっているのですか?』
霞「はい、重々承知しています」
『あなたの役目はたしかにあの子の身代わり……しかし、それが神代に成り代わるなど』
霞「私は神代にはなれません……でも、この子なら」
『まさか……』
霞「ええ、彼の子供です」
『ありえません……だからこそ彼は居場所を失ったというのに』
霞「可能性はゼロではなかったはずです」
『それでも、限りなく低い。なぜなら――』
霞「はい、それは他ならぬ私が一番よくわかっています」
霞(もう大丈夫だと思ってた)
霞(でも、抑えきれなかった)
霞(私はあの日――)
『好き、好きなの……あなたが好きなの』
『お願い、今だけだから……明日からはいつもの私に戻るから……』
霞(彼は、私をやさしく引き離して、首を横に振った)
霞(そして我に返った私は、その場を逃れようと走り出して……)
『霞っ』
霞(私をかばった彼は、交通事故で生殖機能をほぼ失った)
霞(神代の婿の役目は、子をなすこと)
霞(それを果たせないのであれば、その資格を失う)
霞「彼はきっと小蒔ちゃんを連れ出します。そうなったら、代わりが必要かと思われます」
『……』
霞「それとも、ウソだと疑いますか?」
『……いいえ、あなたはそんなつまらないことはしないはず』
霞「……」
霞(彼は何も知らない)
霞(この子のことも、私を抱いたことも)
霞(いいえ、あれは私が彼を術で眠らせて……)
『いいでしょう……あなたの覚悟をくみ取ります』
霞「ありがとうございます」
『……これで小蒔は幸せになれると思いますか?』
霞「ええ、彼とならきっと」
『私は、あなたにも幸せになってほしかった』
霞「私に、ですか?」
『あなたは、昔の私に似ていたから……』
霞「……」
『なんだよ、また勝手に入ってたのか』
『だってあなた、私が作らないとちゃんと朝ご飯食べないじゃない』
『ちょっとぐらいなら食べなくっても大丈夫だって』
『いいから食べて。もうできてるわ』
『ああ、いい匂いすんな……』グゥ
『お腹は正直なのね』クスクス
『別に食べたくないわけじゃないから』
『じゃあ用意しちゃうわね』
霞「私は幸せでした……だから、きっと大丈夫です」
小蒔「霞ちゃんたちが戻ってこられるようになった……そうですよね?」
霞「……戻るのは私だけよ」
小蒔「え、じゃあ京太郎様は……」
霞「それはもう、どうしようもないの」
小蒔「そんな……」
霞「だから、あなたが一緒に行ってあげて」
小蒔「……え?」
霞「私があなたの代わりになる……だから」
小蒔「そ、そんなのダメですっ」
霞「どうして?」
小蒔「……ずっと、怖くて聞けませんでした」
小蒔「霞ちゃんはずっとお役目のために我慢してて……」
小蒔「それはとても辛いことだったんじゃないかって」
小蒔「私の、身代わりという立場が」
類似してるかもしれないスレッド
- 久「何か食べたいわねぇ」 京太郎「また買出しッスか」 (223) - [45%] - 2015/10/4 20:15 ★★
- 咲「ぎ、義理だからね。京ちゃん」京太郎「おう、ありがとな」 (149) - [45%] - 2015/6/5 21:30 ★★★×4
- 久「私は団体戦に出たいのよ!!」京太郎「俺には関係ない」 (476) - [44%] - 2013/3/1 12:15 ☆
- 凛「あんたが私のサーヴァント?」 ぐだお「……イシュタル?」 (252) - [43%] - 2018/8/23 13:30 ☆
- 久「ロッカーの中で」京太郎「襲わないから」 (617) - [40%] - 2013/6/14 15:00 ★
- 八幡「お前の21歳の誕生日、祝ってやるよ」雪乃「……ありがとう」 (1001) - [38%] - 2015/4/23 18:30 ★
トップメニューへ / →のくす牧場書庫について