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元スレ久「あんたが三年生で良かった」京太郎「……お別れだな」
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京太郎「……怜」
怜「どしたん――うわっ」
怜「……ついに我慢の限界?」
京太郎「いいから黙って抱きしめられてろ」
怜「まぁ、うちは無理っぽいから竜華にでも――」
京太郎「言うなっ!」
京太郎「頼むから、何も言うな……」
怜「……そか、聞いてもうたんやな」
京太郎「お前……知ってたのかよ」
怜「もうダメなのわかっとったし、それなら早めに知らせてやーって」
京太郎「なんで、そんなに落ち着いてるんだよ」
怜「もう未来も視えへんから……素敵な未来でも視えたらよかったんやけどなぁ」
京太郎「素敵な、未来……」
『名前、もう考えとる?』
『ああ……男だったら望で、女だったら希とかいいんじゃないか?』
『そらまた希望に溢れとるなぁ』
『まだ全然膨らんでないのに気が早いかな?』
『今から未来でパンパンになるんやな、うちのお腹』
『まぁ、そうだな』
『目一杯パンパンされた結果やな』
『怜……もうちょっと言い方ないのか?』
『じゃあ、まぐわったとか?』
『また直球だな』
『ええやん。ともかくヤってデキちゃったんやから認知してな、ダーリン』
『結婚してるのに認知もなにもないだろうが……』
『ふふ、せやな』
京太郎(ああ、俺は……こいつをあの未来に連れて行けなかったんだな)
京太郎「く、そ……」
京太郎(もうダメだった)
京太郎(今まで出なかった涙は、あっさりと堰を切って)
京太郎(嗚咽をかみ殺すのに精一杯で、ただただ抱きしめる)
怜「……あかんなぁ」
京太郎「うっ、くっ……」
怜「せめて笑って見送って欲しいんやけど」
京太郎「無茶言うな、バカ野郎……!」
怜「だって、そうやないと……うぅ」
怜「うちも、我慢できへんやんかぁ……」
京太郎「怜、お前泣いて……」
怜「うっさいあほぉ!」
怜「生きたい、まだ生きてたい、死にたくなんかない……!」
怜「まだしたいことたくさんある。行きたいとこもたくさんある!」
怜「せやけど泣かんようにって、みんな笑ってられるようにって我慢した!」
怜「あほっ、あほあほっ、この浮気者ぉ! なんで竜華に手ぇ出した!」
怜「みんなご破産! 台無し! 怜ちゃんの笑って旅立とう計画全部パー!」
怜「京太郎なんて、京太郎なんて――けほっ、けほっ」
京太郎「わかった、わかったから……もう無理すんな」
怜「はぁ、はぁ……じゃあ、最後に一個だけ約束して」
京太郎「ああ」
怜「最後まで、傍にいてほしい」
京太郎「お安い御用だな」
京太郎(怜の叫びは、ずっと俺が聞きたかったものだった)
京太郎(何もかも取り払った、素の感情)
京太郎(だから俺は一つ決意した)
京太郎「最後まで、一緒だ」
京太郎(必ず、こいつを救ってみせると)
京太郎(……どんな手を使ってでも)
京太郎「清水谷、一応聞くけど……俺の心臓は使えないよな?」
竜華「無理。体格も合わんし、血液型も違うから」
京太郎「そうか……」
竜華「それに、須賀くんの心臓をもらっても、怜は喜ばへんよ」
京太郎「だよな……移植に必要な条件って?」
竜華「さっき言った体格や血液型、それにその心臓が健康かどうか」
京太郎「病気の心臓もらっても確かに困るよな」
竜華「……須賀くん、まさか変なこと考えてる?」
京太郎「知っておきたかっただけだ。いつドナーが現れるかわからないしな」
竜華「怜を悲しませんようにして……お願いだから」
京太郎「心配すんな。俺がまた笑い合えるようにしてやるよ」
京太郎「体格、血液型、健康かどうか……」
京太郎(正規の手段で手に入らないのなら、非正規の手段に頼るしかない)
京太郎(即ち――臓器売買)
智葉『……久しぶりの電話がそれか』
京太郎「悪いな。でももう後がないんだ」
智葉『自分が何を言っているか、わかっているのか?』
京太郎「ああ……もしなにか知ってるなら、教えて欲しい」
智葉『残念ながら、うちの組はそういったことに手を出していない』
京太郎「そうか……なら他をあたってみる」
智葉『須賀、考え直すなら今だぞ』
京太郎「……ありがとな。でも、もう決めちまったからさ」
智葉『……バカだな、お前は』
京太郎「そんなの、自分が一番知ってるよ」
京太郎「ガイトがダメとなると……やばい、他に伝手がない」
京太郎「……いや、あるにはあるけど」
京太郎「これ下手したら縁切られるな」
京太郎「だけど……やるしかない」
透華『却下ですわ』
京太郎「情報だけでいいんだ。龍門渕グループなら世界中で糸を張れるだろ?」
透華『それでその情報を渡して……あなたはどうするつもりですの?』
京太郎「俺はあいつを救う。それだけだ」
透華『……売買される臓器が、どのように用意されるかは知っていて?』
京太郎「大体、予想はつく」
透華『それでも……だれかの犠牲の上に成り立っているかもしれない臓器を、手に入れると?』
京太郎「そうだよ……それぐらいしか方法がないからな」
透華『……こんな時に、自分の無力を痛感するとは……』
京太郎「頼むよ。俺には後がないんだ」
透華『……考え直す気は?』
京太郎「それができたら、こんなこと頼んでない」
透華『私は……あなたのことを兄のように思ってましたわ』
京太郎「意外だな。嫌われてるとは思ってなかったけど」
透華『ですが、それも今日まで――』
京太郎「……二度と連絡するな、か」
京太郎「当たり前だ。これからやらかそうって人間と関わりたくなんかないよな」
京太郎「……それよりも、どうする?」
京太郎「こうなったらもう、それっぽい建物に乗り込んで直談判しか……」
京太郎「――いや、待て……もしかしてあいつなら」プルルル
『もしもし』
京太郎「リュージか?」
リュージ『その声は……須賀か』
京太郎「話がある。今から会えないか?」
リュージ「……追い詰められているとは思ってたけどよ」
京太郎「……どうにかならないか?」
リュージ「そもそもなんで俺に頼んだ」
京太郎「そういう連中と関係があるって小耳に挟んだ」
リュージ「チッ……まぁ、事実だがよ」
京太郎「いきなりこんなこと頼むのはどうかと思う……けど、やり方を選んでられないんだ」
リュージ「関わり合いにならないならそれが一番だと思わねぇのか?」
京太郎「やり方を選んでられないって言ってるだろ」
リュージ「……そんなに大事か?」
京太郎「やれるなら俺の心臓でもいいぐらいだ」
リュージ「羨ましいな……俺も久しぶりにあいつに会いたくなってきたよ」
京太郎「会いに行かないのか?」
リュージ「しがらみがあるんだよ。カタギのお前にはわからないかもしれないけどな」
リュージ「俺がしてやれるのは話を取り次ぐところまでだ」
京太郎「十分だ」
リュージ「金に関しては一切面倒見ない」
京太郎「なんとかする。なんだったら俺の臓器をいくらかくれてやってもいい」
リュージ「ところで、移植をするにしても医者のアテはあるのか?」
京太郎「あ……普通の病院じゃダメ、だよな?」
リュージ「当たり前だろバカ野郎……チッ、しょうがねえから知り合いを紹介してやる。腕はいい」
京太郎「すまないな……お前にメリットがあるわけでもないのに」
リュージ「そうでもないさ。お前に恩を売れる」
京太郎「金が欲しいならもうちょっと待て。心臓にいくらかかるかもわからないんだ」
リュージ「そういうのはいらねぇよ。いざとなった時の替え玉とかだ」
京太郎「……ラーメンじゃないよな?」
リュージ「身代わりって言えばいいか? 似たような体格してるしな」
京太郎「やばい、命の危険を感じるぜ……」
リュージ「いざとなったらの話だよ。ま、仲良くしようや」
怜「今日は京太郎、来ぉへんな」
竜華「どないしたんやろな」
怜「ついに愛想尽かしたんかなぁ」
竜華「それだけは絶対ない」
怜「……傍にいてって言うたのに」
竜華「大丈夫、須賀くんが怜をほったらかしにするなんてありえへんから」
怜「せやろか?」
竜華「せやせや」
京太郎「――怜っ」ガラッ
竜華「ほら、来た」
京太郎「悪い悪い、ちょっと遅くなっちまった」
竜華「もうちょい静かにしてな?」
京太郎「おっと、ちょっと興奮してたから」
怜「えらいご機嫌やん。キャバクラ帰り?」
京太郎「ちげーよ」
怜「じゃあおっパブ?」
京太郎「さらに酷くなってんじゃねーか」
怜「じゃあ現地妻?」
京太郎「いねーよ!」
竜華「ふふ……須賀くんが遅かったから、不安で不安でしかたなかったやんな?」
怜「まぁ、小指の先程度には」
京太郎「全然平気じゃねーかよ」
竜華「照れ隠し照れ隠し」
京太郎「わかってるよ……遅れて悪かった」
怜「誠意、プリーズ」
京太郎「なんだ、山吹色のお菓子か?」
怜「お主も悪よのぉ……やなくて、ちょい寝るから手ぇ握っててな」
京太郎「はいはい、おやすみ」
怜「うん」
怜「――」スゥスゥ
京太郎「がっちりホールドされた」
竜華「これやと動けへんね」
京太郎「俺も帰ってちょっと寝たいんだけどな」
竜華「このまま寝る? せやったら、かけるもん持ってくるけど」
京太郎「そうだな。勝手にいなくなったら、次は本当に山吹色のお菓子を要求されそうだし」
竜華「夜勤多いから、体は大事にせなあかんよ?」
京太郎「慣れればどうってことないよ」
竜華「……怜のため、なんやな。昼間に時間ができるようにって」
京太郎「俺がしたいようにしてるだけだ」
竜華「須賀くん、変なこと考えとらんよね?」
京太郎「大丈夫だ。きっと全部良くなる」
竜華「それって……」
京太郎「悪い、眠くなってきた」
竜華「あ、うん……ちょっと待っててな」
竜華「きっと全部よくなる……一体須賀くんはなにを」
『清水谷、一応聞くけど……俺の心臓は使えないよな?』
竜華(ううん……いくら心臓が必要とはいえ、使えへんのを用意しても意味なんてない)
竜華(須賀くんもそれはわかっとるはず)
竜華(じゃあ、全部良うなるって?)
竜華(それがもし、心臓をどうにかして手に入れるという事なら……)
竜華「――まさかっ」
怜「ぶー、詐欺やん。詐欺詐欺」
京太郎「仕方ないだろ。働かざる者食うべからずだ」
怜「世知辛い世の中やなぁ」
京太郎「なにかあったら呼んでくれ。すぐ駆けつける」
怜「ホンマに?」
京太郎「ああ」
怜「トイレ行きたいから来てって言うたら?」
京太郎「それはさすがに怒る」
怜「やっぱ詐欺やん」
京太郎「けどちゃんと行くよ」
怜「や、さすがにトイレの介護はまだいらんし」
京太郎「ったく……じゃあ行ってくる」
怜「おでかけのちゅーは?」
京太郎「顔上げて」
怜「んっ――」
京太郎「あんまり清水谷に心配させるなよ」
怜「膝枕ぐらいやで」
京太郎「むしろ俺がされたいぜ」
怜「浮気者ー」
京太郎「ははっ、じゃあまた明日な」
怜「ふぅ……やっぱ体力落ちとんなぁ」
竜華「――怜っ、須賀くんは!?」
怜「仕事行くって」
竜華「そう……」
怜「イタズラでもされたん?」
竜華「う、ううん、なんでもあらへんから」
竜華(須賀くん……)
京太郎「明日だ……明日になれば全部良くなる」
京太郎「あいつの病気も、なにもかも」
リュージ『用意できるってよ』
京太郎『本当か!?』
リュージ『運が良かったな。品薄で、今回を逃せば当分……半年は手に入りそうにないとよ』
京太郎『そうか……』
リュージ『あと、お前の健康状態が知りたいそうだ』
京太郎『この前受けた健康診断の結果でいいなら』
リュージ『十分だ』
京太郎『それは、俺から持ってくってことだよな?』
リュージ『金を用意できないならそうなる。大丈夫か?』
京太郎『大丈夫に決まってるだろ』
京太郎「そのためなら、俺の体を切ることだって……」プルルル
『リュージ』
京太郎「もしもし、リュージか?」
リュージ『須賀か? くっ――事情が変わった』
京太郎「なにか、あったのか?」
リュージ『……とりあえず今すぐ合流したい』
京太郎「わかった」
リュージ「……よう」
京太郎「お前、その怪我」
リュージ「単刀直入に言う。心臓は手に入らない」
京太郎「どういう、意味だよ」
リュージ「横取りされた。どこぞの組のお偉いさんの娘が入用だそうだ」
京太郎「……こっちが先に話をつけた。そうだよな?」
リュージ「お前は客としての信用がない。だからより確実に金を出す方に靡いた。そういうことだ」
京太郎「――ざけんなっ」ガンッ
京太郎「ここに来てっ、どうしてっ、そんな邪魔が入るっ!」ガンッガンッ
京太郎「くそっ――」
リュージ「やめろ。そんなことをしてもなんにもならない」ガシッ
京太郎「お前はどうにもできなかったのかよ!?」グイッ
リュージ「悪い……直談判しに行ってこのザマだ」
京太郎「その怪我……」
リュージ「かすり傷だ……くっ」
京太郎「放置しておくわけにはいかないだろ……それに、一度落ち着いて相談したい」
竜華「傷口が開きますので、しばらくはむやみに動かさないでください」
リュージ「ああ、すまないな、先生」
竜華「……あなたは、須賀くんとどういう関係なんですか?」
リュージ「なんだ、先生はあいつの知り合いか」
竜華「答えてください」
リュージ「ただの同僚だよ」
竜華「本当ですか?」
リュージ「ウソは言ってない」
竜華「でも、本当のことも言ってない」
リュージ「先生……あんた鋭いな」
竜華「呼吸とか目の動き、表情筋の強張りでそれぐらいは」
リュージ「とんでもねぇ知り合いがいたもんだ」
竜華「話していただけますか?」
リュージ「……いいぜ。ただし、一つだけ頼みを聞いてもらいたい」
京太郎「傷は?」
リュージ「この通りだ。無理するなって言われたがよ」
京太郎「そうか……それで、どうする」
リュージ「どうもこうもない……詰みだ」
京太郎「渡す臓器を増やしてもか?」
リュージ「渡すって保証がないからな」
京太郎「……くそっ」
リュージ「……もし、向こう以上の金を直接叩きつけられるなら、話は別だがな」
京太郎「結局、金か……」
竜華「須賀くん……!」
リュージ「おっと、お前の浮気相手が来たようだな」
京太郎「お前、なんでそれを」
リュージ「引っかかったな。カマ掛けだ」
京太郎「……やられた」
リュージ「俺は退散するぜ」
竜華「どうして、相談してくれなかったん?」
京太郎「何の話だよ……悪いけど、今は時間が――」
竜華「全部聞いた、あの人から」
京太郎「リュージの野郎……」
竜華「須賀くん、ダメ……いくらなんでも、そない」
京太郎「じゃあ他にどうすればいい!」
竜華「怜の望み通りにしてあげて!」
京太郎「それじゃああいつは……!」
竜華「それでも!」
竜華「それでも……怜は喜ばへんよ」
京太郎「……生きていれば、希望はあるだろ」
竜華「須賀くんが犠牲になっても?」
京太郎「犠牲になるつもりなんてない……それに、俺はあいつを失うなんて耐えられないんだよ」
竜華「ずるいわぁ、そんなん」
京太郎「ああ、結局は自分のためだ」
竜華「……なら、うちのためにって言うたら、思いとどまってくれる?」
京太郎「……悪い」
竜華「あはは……また振られてもうた」
ハギヨシ「お取り込み中のところ、失礼」
京太郎「ハギヨシさん、どうしてここに」
ハギヨシ「お嬢様が、最後に渡すものがあると……こちらを」
京太郎「このケースは?」
ハギヨシ「中に一億円、現金で入っています」
竜華「い、一億!?」
ハギヨシ「手切れ金だと仰せつかりました」
京太郎「はは……また律儀な」
ハギヨシ「それでは、私はこれで失礼いたします」
ハギヨシ「……君の友人としてなにもできなかった私を許してください」
京太郎(そうか……これで)
京太郎(これで、お別れなんだな)
京太郎(この金を受け取るなら……)
京太郎「……でも、これで希望ができた」
リュージ「はぁ……ったくよ。ままならねぇなぁ」
リュージ「あいつはうまくいくと思ったんだけどな」
リュージ「……チッ、ここらが潮時か」
京太郎「リュージ!」
リュージ「なんだ、妙案でも浮かんだか?」
京太郎「これだけあればイケルよなっ」
リュージ「お前これ……銀行強盗か?」
京太郎「ちげーよ、もらいもんだ」
リュージ「金の出処はともかく……これだけあればお釣りが来るな」
京太郎「じゃあ!」
リュージ「ああ、早速――待て」
京太郎「どうした」
リュージ「マズい、嗅ぎつけられた」
京太郎「どういうことだよ」
リュージ「――伏せろっ」グイッ
――パンッパンッ
京太郎「なんだこれっ、撃たれてるのか!?」
リュージ「走るぞ!」
京太郎「くそっ」
京太郎「どうなってんだよ……!」
リュージ「俺たちの妨害をするなら、考えられるのは一つだ」
京太郎「心臓を横取りした連中が手を回したってのか」
リュージ「……悪い、おそらくマークされてたのは俺だ」
京太郎「なんでだよ、どうしてこうなった!」
リュージ「文句を言いに行って揉めてな……そのせいだろうな」
京太郎「なんでそんなことしたんだよ。そうしなけりゃ怪我だってしなかったろ」
リュージ「さぁな……許せなかったんだろうさ」
京太郎「許せなかった?」
リュージ「筋を通さねぇやつは嫌いでね」
京太郎「……ありがとう」
リュージ「なんだよ気持ち悪い」
京太郎「少しでも俺のことを気にしてくれたんだろ?」
リュージ「……勝手に言ってろよ」
リュージ「これからの話だが……まず第一にこいつを守り通す必要がある」
京太郎「これを直接見せないといけないんだよな」
リュージ「百聞は一見に如かずってやつだ」
京太郎「それで心臓を買い取って」
リュージ「俺の知り合いに移植手術を頼む」
京太郎「問題は、道中安心できないってことか」
リュージ「よっぽど娘の命が大事なんだろうな」
京太郎「……俺と同じか」
リュージ「同情なんてするな。キリがないぞ」
京太郎「わかってる」
リュージ「それじゃあ、まずはここを切り抜けるところからだ」
京太郎「……囲まれてるのか?」
リュージ「完全に囲まれる前に逃げるぞ!」
京太郎「はぁ、はぁ……まだ来るのか?」
リュージ「わか、らねぇ……けど、これで終わるはずがない」
京太郎「マジかよ……」
リュージ「ほら早速――おらぁっ」バキッ
「がっ――」
京太郎「しつこすぎるだろうが――よっ!」ドカッ
「ぐぅっ」
リュージ「意外に動けるな。なにかやってたのか?」
京太郎「ハンドボールと、執事殺法を少々」
リュージ「執事殺法?」
京太郎「次来るぞ!」
リュージ「チッ、キリがねぇな!」
京太郎「今、どこだ……」
リュージ「もう、そろそろ、着くはずだ……」
京太郎「そうか……さすがにキツいな」
リュージ「あと、ちょっとだ……気張れ」
京太郎「言われなくてもっ」
「残念だがここでおしまいだ」
「ここで張っていれば、その内来るだろうと思っていた」
リュージ「先回りされてたってのかよ」
「目的を読めばわかるということだ」
京太郎「……おい、囲まれてるぞ」
「長々と喋るつもりはない――やれ」
京太郎「く、そ……」
リュージ「チクショウが……」
「ふんっ、あれだけ暴れまわった割にはあっけない」
京太郎「ど、けよ……俺には、やらなきゃいけないことが……」
「それで、これが起死回生の一手というわけか――ほう、中々の額だ」
京太郎「返せ、返してくれ……!」
「燃やせ」
京太郎「やめろぉ――がっ」
「動くな。こいつが完全に燃えるまで見てろ」
京太郎「くそっ、くそっ……!」
「……燃え尽きたか」
京太郎「あぁ、あぁ……」
リュージ「須賀、しっかりしろ」
「放っておけ。それよりリュージ、戻ってくる気にならないか?」
リュージ「俺のことこそ放っておいてくれ……こういうのがイヤで抜けたんだよ」
「そうか……」
リュージ「俺たちをこのままにしていいのか?」
「そいつはもう抜け殻だ。そしてお前はそいつに付き合ってただけだろう?」
「じゃあな」
京太郎「……怜」
リュージ「……ゲームオーバーか」
京太郎(もう、ダメだ……全部終わった)
京太郎(もう心臓は手に入らない)
京太郎(あいつがいないなら、もう生きてる意味なんて……)
『生きたい、まだ生きてたい、死にたくなんかない……!』
京太郎(……なんて言ったら、ぶっ飛ばされるな)
京太郎(まだ生きられる俺が、それを諦めるのは失礼だ)
京太郎(なら、あいつの命も諦めるわけにはいかないな)
京太郎「……リュージ」
リュージ「なんだ、生きてたか」
京太郎「最後に一つ、協力してくれ」
リュージ「供養か?」
京太郎「……心臓を、奪う」
リュージ「冗談でも、狂っているわけでもなさそうだな」
京太郎「ああ」
リュージ「よし、なら付き合うぜ」
京太郎「……いいのか?」
リュージ「乗りかかった船ってやつだ」
リュージ「ただし、これはもう誤魔化しようのない犯罪になる」
京太郎「わかってる」
リュージ「正体がバレるのも、もたついて捕まるのもダメだ」
京太郎「だろうな」
リュージ「それでもやるのか?」
京太郎「あいつのためなら……って何度目だよこれ」
リュージ「ブレないな、お前……羨ましいぜ」
リュージ「さて……じゃあ俺は下準備に回る。お前は?」
京太郎「手伝えることはあるか?」
リュージ「いや、俺だけで十分だな」
京太郎「なら、あいつの顔を見てくる」
怜「ん……京太郎?」
京太郎「ああ、おそよう」
怜「仕事はええの?」
京太郎「急に休みになった」
怜「……なんかボロボロに見える」
京太郎「ちょっと採石場でバトってきただけだ」
怜「特撮やん。変身するん?」
京太郎「できたらいいよなぁ」
京太郎「……キスしてもいいか?」
怜「キムチでもいい?」
京太郎「どんな難聴だ」
怜「言われた当の本人は居眠りこいとるしなぁ」
京太郎「いいからするぞ」
怜「やん、強引――んっ」
京太郎「じゃあ、おやすみ」
怜「えー?」
京太郎「もう面会時間ギリギリなんだよ」
怜「しゃあないなぁ。ほな、おやすみー」
京太郎「ああ」
竜華「須賀くん……?」
京太郎「よう、まだ仕事か?」
竜華「宿直やから……って、ボロボロやんっ」
京太郎「転んだだけだ」
竜華「ええからこっち来ぃや!」グイッ
京太郎「……悪いな、手当してもらって」
竜華「危ないことに首、突っ込んどらんよね?」
京太郎「もちろんだ」
竜華「……それ絶対ウソやん」
京太郎「やっぱごまかせないよなぁ」
竜華「須賀くん、お願い……もうええやん」
京太郎「ありがとう……でも、ごめんな」
竜華「……わかった。じゃあ見逃す代わりにひとつ約束して」
京太郎「なんだ?」
竜華「怜のためならどうなってもかまへんのやろ? なら――」
竜華「見逃す代わりに、うちのものになって」
京太郎「お前、それは」
竜華「どない? できる?」
京太郎「……ああ、その後は俺の人生、全部お前にやっても構わない」
竜華「……そか」
竜華(嘘つき……)
竜華「じゃあ、約束の印に……んっ」
京太郎「――んっ」
竜華「……これでバッチリやんな」
京太郎「ああ……」
竜華「あと、これ」
京太郎「ペンダント」
竜華「もいっこ約束……うちの大切なペンダント、無事に返してな」
京太郎「わかった。ちょうどお守りがほしいって思ってたんだ」
京太郎「おはよう。サボりか?」
リュージ「そういうてめぇも昨日サボっただろうが」
京太郎「まぁな……で、準備の方は?」
リュージ「大体終わってる。心臓がいつ運ばれるのかも調べがついた」
京太郎「それで?」
リュージ「今日の夕方、モノが病院へ運び込まれる」
京太郎「その病院は?」
リュージ「いや、病院はダメだ。多分護衛がわんさといるからな」
京太郎「じゃあ、輸送中に奪うんだな?」
リュージ「そうなる」
リュージ「……臓器は、鮮度が大事だ」
京太郎「ああ、そうだろうな」
リュージ「心臓を摘出するのは、病院についてから」
京太郎「まさか……」
リュージ「脳死したやつの体ごと、救急車で運ぶってことだ」
京太郎「……心臓は、動いているんだな?」
リュージ「考え方によっては、俺たちが引導を渡すことになる」
京太郎「……今更だ」
リュージ「そうか……」
リュージ「作戦は単純。救急車をジャック、適当なとこで車を乗り換えてから、お前の恋人を乗っけて医者のところへ向かう」
京太郎「乗り換える車ってのは?」
リュージ「それも手配してる」
京太郎「お前、本当に何者だよ」
リュージ「しがない元ヤクザだ。まぁ、まだ足を洗いきれてないけどよ」
リュージ「須賀っ、早く乗れ!」
京太郎「ああ!」
京太郎「……ジャックするって聞いたときはどうなるかと思ったけど、案外うまくいったな」
リュージ「安心には早すぎる。まずはサツが来るだろうし、ことに気づいた組の奴らも追ってくる」
京太郎「ここからが正念場か」
リュージ「そういうことだ」
京太郎「……悪いな、巻き込んで」
リュージ「いい機会だ。俺もここにおさらばしてあいつに会いにいくさ」
京太郎「そのためにはしくらないようにしないとな」
リュージ「もちろんだ。……ここらへんだな。乗り換えるぞ」
リュージ「慎重に運べよ?」
京太郎「わかってる」
リュージ「よし……須賀、お前は後ろでそいつの面倒見てくれ」
京太郎「行き先はわかってるよな」
リュージ「ああ、お前の恋人を迎えに行くぞ」
――パンッパンッ
「そこまでだ。車はパンクさせた……逃げられんぞ」
京太郎「あんたは……!」
「あれだけ打ちのめしても這い上がってくるとはな」
京太郎「邪魔すんなよ!」
「こいつを外に出せ」
京太郎「くそ、離せ……!」
「さて、リュージ……よくもやってくれたな」
リュージ「脇が甘いからこんなことになるんだよ」
「だまれ!」バキッ
リュージ「ぐっ」
「ここで始末する」
リュージ「はっ、だからあの時殺しときゃよかったんだよ」
「今度こそそうしてやる」
京太郎「リュージ!」
「お前はそこで見てろ。ほんの少し先のお前の姿だ」
京太郎「くそっ……やめろ!」
――ファンファンファンファン
「兄貴! サツが来ます!」
「わかってる! さっさと済ますさ」
京太郎「離せ、この野郎……!」ドンッ
「うわっ」
――カランカラン
京太郎(突き飛ばしたやつの懐から落ちた拳銃)
京太郎(それを拾い、俺は――)
京太郎「やめろっつってんだろ、このクソ野郎が!」
――パンッ
京太郎(乾いた音が一回)
京太郎(そして、何かが地面に倒れる音)
「兄貴!」
リュージ「須賀、お前……」
京太郎「俺、俺は……」
京太郎(俺はその日、初めて人を殺した)
「出ろ。お前に面会だ」
京太郎「……はい」
京太郎「怜……」
怜「……」
京太郎「俺……」
怜「……嘘つき」
怜「ずっと傍にいるって言うたやん」
怜「それがなんで……なんでこないなとこにおんねん」
怜「なんで約束、破るん?」
京太郎「ごめんな……」
怜「……もうええよ。あんたのことなんて知らんし、もう会わん」
京太郎「俺は、お前を治そうと……!」
怜「だれが頼んだ!」
京太郎「――っ」
怜「うちは、最後まで一緒にいられれば、それで十分やったのに……」
怜「……さよなら」
京太郎「……」
竜華「ちゃんと、食べとる?」
京太郎「あまり、食欲ないんだ……俺は、人を……」
竜華「……今は体を大事にして」
京太郎「もう、俺には……」
竜華「それでも食べること……ええ?」
京太郎「……そうだ、これ」
竜華「いらん。それは須賀くんが自分から返しに来て」
京太郎「……何年かかるかもわからないぞ?」
竜華「いつまでも待っとるから」
京太郎「でも、あいつは……」
竜華「……須賀くん、あの人に気をつけて」
京太郎「あの人……まさかリュージか?」
竜華「うん……絶対なにか企んでどる」
リュージ「よう、生きてるか?」
京太郎「……檻の中なのになんでそんな元気なんだよ」
リュージ「まぁ、初めてじゃないからな」
京太郎「そうかよ」
リュージ「お前は目に見えて元気ないじゃねぇか」
京太郎「……わかってるだろ」
リュージ「俺もお前も懲役刑くらって、お前は十年だったか?」
京太郎「執行猶予とかってなかったか」
リュージ「今回に関してはダメだ。組の奴らが手を回した」
京太郎「……ヤクザ怒らせると怖いな」
リュージ「ああ、そして……お前は間に合わない」
リュージ「そこで提案だ」
京太郎「脱獄か?」
リュージ「ご名答だ。刑務所に送られたら面倒になる」
京太郎「だからその前にってか……」
リュージ「どうだ、乗るか?」
京太郎「……」
『……須賀くん、あの人に気をつけて』
京太郎(こいつは、何を考えてる?)
京太郎(俺は……)
京太郎「……乗ってやるよ」
リュージ「それでこそだ」
京太郎「人殺しの手だけど、最後まであいつの手を握っててやりたい」
リュージ「……」
京太郎「どうした?」
リュージ「ここまで女の子としか考えてない奴は初めて見た」
京太郎「お前は違うのか?」
リュージ「さぁな」
リュージ「走れ、走れ走れっ!」
京太郎「お前っ、あんな抜け道っ、なんで知ってたんだよっ?」
リュージ「前入ったときっ、色々調べたんだっ」
京太郎「この悪党がっ」
リュージ「うるせぇよ人殺しっ」
リュージ「この先に小屋があるっ」
京太郎「小屋っ?」
リュージ「そこで一回死ぬぞっ!」
京太郎「はぁ!?」
京太郎「おい、リュージ、ここでいいんだよな? ここでなにすりゃいいんだ!?」
リュージ「ああ……俺は死体を持ってくるから、お前はここに火をつけてくれ」
京太郎「火? 放火かよ……遺体の偽装のためか?」
リュージ「そうだ。似たような体型だったら燃やせば簡単には判別がつかなくなる」
京太郎「……俺の持ち物も残しておけば完璧か?」
リュージ「確実とは言えないがな」
京太郎「そう、か」
リュージ「怖気づいたか?」
京太郎「だったらこんなとこまできてないだろ……火、貸してくれ」
リュージ「ほらよ」
京太郎(そうだよ、俺はもう普通には外を歩けない)
京太郎(だったら俺は俺を殺す)
京太郎(俺が死んだことになれば、またあいつと……!)
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