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    元スレ久「あんたが三年生で良かった」京太郎「……お別れだな」

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    651 : ◆zSdeXZ - 2018/04/22(日) 00:21:54.65 ID:a8S7wHTo0 (+17,+27,+0)
    んじゃ、始めます
    652 : ◆zSdeXZ - 2018/04/22(日) 00:23:33.17 ID:a8S7wHTo0 (+95,+30,-131)



    京太郎「……怜」

    「どしたん――うわっ」


    「……ついに我慢の限界?」

    京太郎「いいから黙って抱きしめられてろ」

    「まぁ、うちは無理っぽいから竜華にでも――」

    京太郎「言うなっ!」


    京太郎「頼むから、何も言うな……」

    「……そか、聞いてもうたんやな」

    京太郎「お前……知ってたのかよ」

    「もうダメなのわかっとったし、それなら早めに知らせてやーって」

    京太郎「なんで、そんなに落ち着いてるんだよ」

    「もう未来も視えへんから……素敵な未来でも視えたらよかったんやけどなぁ」

    京太郎「素敵な、未来……」

    653 : ◆zSdeXZ - 2018/04/22(日) 00:31:06.86 ID:a8S7wHTo0 (+95,+30,-122)


    『名前、もう考えとる?』

    『ああ……男だったら望で、女だったら希とかいいんじゃないか?』

    『そらまた希望に溢れとるなぁ』

    『まだ全然膨らんでないのに気が早いかな?』

    『今から未来でパンパンになるんやな、うちのお腹』

    『まぁ、そうだな』

    『目一杯パンパンされた結果やな』

    『怜……もうちょっと言い方ないのか?』

    『じゃあ、まぐわったとか?』

    『また直球だな』

    『ええやん。ともかくヤってデキちゃったんやから認知してな、ダーリン』

    『結婚してるのに認知もなにもないだろうが……』

    『ふふ、せやな』

    654 : ◆zSdeXZ - 2018/04/22(日) 00:36:30.52 ID:a8S7wHTo0 (+93,+30,-139)


    京太郎(ああ、俺は……こいつをあの未来に連れて行けなかったんだな)


    京太郎「く、そ……」


    京太郎(もうダメだった)

    京太郎(今まで出なかった涙は、あっさりと堰を切って)

    京太郎(嗚咽をかみ殺すのに精一杯で、ただただ抱きしめる)


    「……あかんなぁ」

    京太郎「うっ、くっ……」

    「せめて笑って見送って欲しいんやけど」

    京太郎「無茶言うな、バカ野郎……!」

    「だって、そうやないと……うぅ」


    「うちも、我慢できへんやんかぁ……」

    655 : ◆zSdeXZ - 2018/04/22(日) 00:45:56.23 ID:a8S7wHTo0 (+95,+30,-172)


    京太郎「怜、お前泣いて……」

    「うっさいあほぉ!」


    「生きたい、まだ生きてたい、死にたくなんかない……!」

    「まだしたいことたくさんある。行きたいとこもたくさんある!」

    「せやけど泣かんようにって、みんな笑ってられるようにって我慢した!」

    「あほっ、あほあほっ、この浮気者ぉ! なんで竜華に手ぇ出した!」

    「みんなご破産! 台無し! 怜ちゃんの笑って旅立とう計画全部パー!」

    「京太郎なんて、京太郎なんて――けほっ、けほっ」


    京太郎「わかった、わかったから……もう無理すんな」

    「はぁ、はぁ……じゃあ、最後に一個だけ約束して」

    京太郎「ああ」

    「最後まで、傍にいてほしい」

    京太郎「お安い御用だな」

    656 : ◆zSdeXZ - 2018/04/22(日) 00:51:37.42 ID:a8S7wHTo0 (+95,+30,-74)


    京太郎(怜の叫びは、ずっと俺が聞きたかったものだった)

    京太郎(何もかも取り払った、素の感情)

    京太郎(だから俺は一つ決意した)


    京太郎「最後まで、一緒だ」


    京太郎(必ず、こいつを救ってみせると)

    京太郎(……どんな手を使ってでも)


    657 : ◆zSdeXZ - 2018/04/22(日) 00:57:16.82 ID:a8S7wHTo0 (+93,+30,-197)



    京太郎「清水谷、一応聞くけど……俺の心臓は使えないよな?」

    竜華「無理。体格も合わんし、血液型も違うから」

    京太郎「そうか……」

    竜華「それに、須賀くんの心臓をもらっても、怜は喜ばへんよ」

    京太郎「だよな……移植に必要な条件って?」

    竜華「さっき言った体格や血液型、それにその心臓が健康かどうか」

    京太郎「病気の心臓もらっても確かに困るよな」

    竜華「……須賀くん、まさか変なこと考えてる?」

    京太郎「知っておきたかっただけだ。いつドナーが現れるかわからないしな」

    竜華「怜を悲しませんようにして……お願いだから」

    京太郎「心配すんな。俺がまた笑い合えるようにしてやるよ」



    京太郎「体格、血液型、健康かどうか……」


    京太郎(正規の手段で手に入らないのなら、非正規の手段に頼るしかない)

    京太郎(即ち――臓器売買)


    658 : ◆zSdeXZ - 2018/04/22(日) 01:04:25.87 ID:a8S7wHTo0 (+93,+30,-142)



    智葉『……久しぶりの電話がそれか』

    京太郎「悪いな。でももう後がないんだ」

    智葉『自分が何を言っているか、わかっているのか?』

    京太郎「ああ……もしなにか知ってるなら、教えて欲しい」

    智葉『残念ながら、うちの組はそういったことに手を出していない』

    京太郎「そうか……なら他をあたってみる」

    智葉『須賀、考え直すなら今だぞ』

    京太郎「……ありがとな。でも、もう決めちまったからさ」

    智葉『……バカだな、お前は』

    京太郎「そんなの、自分が一番知ってるよ」



    京太郎「ガイトがダメとなると……やばい、他に伝手がない」

    京太郎「……いや、あるにはあるけど」

    京太郎「これ下手したら縁切られるな」

    京太郎「だけど……やるしかない」


    659 : ◆zSdeXZ - 2018/04/22(日) 01:11:49.28 ID:a8S7wHTo0 (+95,+30,-199)



    透華『却下ですわ』

    京太郎「情報だけでいいんだ。龍門渕グループなら世界中で糸を張れるだろ?」

    透華『それでその情報を渡して……あなたはどうするつもりですの?』

    京太郎「俺はあいつを救う。それだけだ」

    透華『……売買される臓器が、どのように用意されるかは知っていて?』

    京太郎「大体、予想はつく」

    透華『それでも……だれかの犠牲の上に成り立っているかもしれない臓器を、手に入れると?』

    京太郎「そうだよ……それぐらいしか方法がないからな」

    透華『……こんな時に、自分の無力を痛感するとは……』

    京太郎「頼むよ。俺には後がないんだ」

    透華『……考え直す気は?』

    京太郎「それができたら、こんなこと頼んでない」

    透華『私は……あなたのことを兄のように思ってましたわ』

    京太郎「意外だな。嫌われてるとは思ってなかったけど」

    透華『ですが、それも今日まで――』


    660 : ◆zSdeXZ - 2018/04/22(日) 01:17:24.62 ID:a8S7wHTo0 (+95,+30,-109)



    京太郎「……二度と連絡するな、か」

    京太郎「当たり前だ。これからやらかそうって人間と関わりたくなんかないよな」

    京太郎「……それよりも、どうする?」

    京太郎「こうなったらもう、それっぽい建物に乗り込んで直談判しか……」

    京太郎「――いや、待て……もしかしてあいつなら」プルルル


    『もしもし』


    京太郎「リュージか?」

    リュージ『その声は……須賀か』

    京太郎「話がある。今から会えないか?」


    661 : ◆zSdeXZ - 2018/04/22(日) 01:25:02.82 ID:a8S7wHTo0 (+95,+30,-169)



    リュージ「……追い詰められているとは思ってたけどよ」

    京太郎「……どうにかならないか?」

    リュージ「そもそもなんで俺に頼んだ」

    京太郎「そういう連中と関係があるって小耳に挟んだ」

    リュージ「チッ……まぁ、事実だがよ」

    京太郎「いきなりこんなこと頼むのはどうかと思う……けど、やり方を選んでられないんだ」

    リュージ「関わり合いにならないならそれが一番だと思わねぇのか?」

    京太郎「やり方を選んでられないって言ってるだろ」

    リュージ「……そんなに大事か?」

    京太郎「やれるなら俺の心臓でもいいぐらいだ」

    リュージ「羨ましいな……俺も久しぶりにあいつに会いたくなってきたよ」

    京太郎「会いに行かないのか?」

    リュージ「しがらみがあるんだよ。カタギのお前にはわからないかもしれないけどな」

    662 : ◆zSdeXZ - 2018/04/22(日) 01:29:39.21 ID:a8S7wHTo0 (+93,+30,-227)


    リュージ「俺がしてやれるのは話を取り次ぐところまでだ」

    京太郎「十分だ」

    リュージ「金に関しては一切面倒見ない」

    京太郎「なんとかする。なんだったら俺の臓器をいくらかくれてやってもいい」

    リュージ「ところで、移植をするにしても医者のアテはあるのか?」

    京太郎「あ……普通の病院じゃダメ、だよな?」

    リュージ「当たり前だろバカ野郎……チッ、しょうがねえから知り合いを紹介してやる。腕はいい」

    京太郎「すまないな……お前にメリットがあるわけでもないのに」

    リュージ「そうでもないさ。お前に恩を売れる」

    京太郎「金が欲しいならもうちょっと待て。心臓にいくらかかるかもわからないんだ」

    リュージ「そういうのはいらねぇよ。いざとなった時の替え玉とかだ」

    京太郎「……ラーメンじゃないよな?」

    リュージ「身代わりって言えばいいか? 似たような体格してるしな」

    京太郎「やばい、命の危険を感じるぜ……」

    リュージ「いざとなったらの話だよ。ま、仲良くしようや」


    663 : ◆zSdeXZ - 2018/04/22(日) 01:32:13.71 ID:a8S7wHTo0 (+95,+30,-79)



    「今日は京太郎、来ぉへんな」

    竜華「どないしたんやろな」

    「ついに愛想尽かしたんかなぁ」

    竜華「それだけは絶対ない」

    「……傍にいてって言うたのに」

    竜華「大丈夫、須賀くんが怜をほったらかしにするなんてありえへんから」

    「せやろか?」

    竜華「せやせや」


    京太郎「――怜っ」ガラッ

    664 : ◆zSdeXZ - 2018/04/22(日) 01:40:19.33 ID:a8S7wHTo0 (+95,+30,-206)


    竜華「ほら、来た」

    京太郎「悪い悪い、ちょっと遅くなっちまった」

    竜華「もうちょい静かにしてな?」

    京太郎「おっと、ちょっと興奮してたから」

    「えらいご機嫌やん。キャバクラ帰り?」

    京太郎「ちげーよ」

    「じゃあおっパブ?」

    京太郎「さらに酷くなってんじゃねーか」

    「じゃあ現地妻?」

    京太郎「いねーよ!」

    竜華「ふふ……須賀くんが遅かったから、不安で不安でしかたなかったやんな?」

    「まぁ、小指の先程度には」

    京太郎「全然平気じゃねーかよ」

    竜華「照れ隠し照れ隠し」

    京太郎「わかってるよ……遅れて悪かった」

    「誠意、プリーズ」

    京太郎「なんだ、山吹色のお菓子か?」

    「お主も悪よのぉ……やなくて、ちょい寝るから手ぇ握っててな」

    京太郎「はいはい、おやすみ」

    「うん」


    665 : ◆zSdeXZ - 2018/04/22(日) 01:44:43.55 ID:a8S7wHTo0 (+95,+30,-149)



    「――」スゥスゥ


    京太郎「がっちりホールドされた」

    竜華「これやと動けへんね」

    京太郎「俺も帰ってちょっと寝たいんだけどな」

    竜華「このまま寝る? せやったら、かけるもん持ってくるけど」

    京太郎「そうだな。勝手にいなくなったら、次は本当に山吹色のお菓子を要求されそうだし」

    竜華「夜勤多いから、体は大事にせなあかんよ?」

    京太郎「慣れればどうってことないよ」

    竜華「……怜のため、なんやな。昼間に時間ができるようにって」

    京太郎「俺がしたいようにしてるだけだ」

    竜華「須賀くん、変なこと考えとらんよね?」

    京太郎「大丈夫だ。きっと全部良くなる」

    竜華「それって……」

    京太郎「悪い、眠くなってきた」

    竜華「あ、うん……ちょっと待っててな」


    666 : ◆zSdeXZ - 2018/04/22(日) 01:48:03.93 ID:a8S7wHTo0 (+95,+30,-106)



    竜華「きっと全部よくなる……一体須賀くんはなにを」


    『清水谷、一応聞くけど……俺の心臓は使えないよな?』


    竜華(ううん……いくら心臓が必要とはいえ、使えへんのを用意しても意味なんてない)

    竜華(須賀くんもそれはわかっとるはず)

    竜華(じゃあ、全部良うなるって?)

    竜華(それがもし、心臓をどうにかして手に入れるという事なら……)


    竜華「――まさかっ」


    667 : ◆zSdeXZ - 2018/04/22(日) 01:55:04.84 ID:a8S7wHTo0 (+95,+30,-173)



    「ぶー、詐欺やん。詐欺詐欺」

    京太郎「仕方ないだろ。働かざる者食うべからずだ」

    「世知辛い世の中やなぁ」

    京太郎「なにかあったら呼んでくれ。すぐ駆けつける」

    「ホンマに?」

    京太郎「ああ」

    「トイレ行きたいから来てって言うたら?」

    京太郎「それはさすがに怒る」

    「やっぱ詐欺やん」

    京太郎「けどちゃんと行くよ」

    「や、さすがにトイレの介護はまだいらんし」

    京太郎「ったく……じゃあ行ってくる」

    「おでかけのちゅーは?」

    京太郎「顔上げて」

    「んっ――」


    京太郎「あんまり清水谷に心配させるなよ」

    「膝枕ぐらいやで」

    京太郎「むしろ俺がされたいぜ」

    「浮気者ー」

    京太郎「ははっ、じゃあまた明日な」


    668 : ◆zSdeXZ - 2018/04/22(日) 01:59:33.89 ID:a8S7wHTo0 (+90,+30,-59)



    「ふぅ……やっぱ体力落ちとんなぁ」


    竜華「――怜っ、須賀くんは!?」


    「仕事行くって」

    竜華「そう……」

    「イタズラでもされたん?」

    竜華「う、ううん、なんでもあらへんから」


    竜華(須賀くん……)


    669 : ◆zSdeXZ - 2018/04/22(日) 02:02:34.40 ID:a8S7wHTo0 (+93,+30,-157)



    京太郎「明日だ……明日になれば全部良くなる」

    京太郎「あいつの病気も、なにもかも」


    リュージ『用意できるってよ』

    京太郎『本当か!?』

    リュージ『運が良かったな。品薄で、今回を逃せば当分……半年は手に入りそうにないとよ』

    京太郎『そうか……』

    リュージ『あと、お前の健康状態が知りたいそうだ』

    京太郎『この前受けた健康診断の結果でいいなら』

    リュージ『十分だ』

    京太郎『それは、俺から持ってくってことだよな?』

    リュージ『金を用意できないならそうなる。大丈夫か?』

    京太郎『大丈夫に決まってるだろ』


    京太郎「そのためなら、俺の体を切ることだって……」プルルル


    『リュージ』


    京太郎「もしもし、リュージか?」

    リュージ『須賀か? くっ――事情が変わった』

    京太郎「なにか、あったのか?」

    リュージ『……とりあえず今すぐ合流したい』

    京太郎「わかった」


    670 : ◆zSdeXZ - 2018/04/22(日) 02:07:56.25 ID:a8S7wHTo0 (+95,+30,-221)



    リュージ「……よう」

    京太郎「お前、その怪我」

    リュージ「単刀直入に言う。心臓は手に入らない」

    京太郎「どういう、意味だよ」

    リュージ「横取りされた。どこぞの組のお偉いさんの娘が入用だそうだ」

    京太郎「……こっちが先に話をつけた。そうだよな?」

    リュージ「お前は客としての信用がない。だからより確実に金を出す方に靡いた。そういうことだ」

    京太郎「――ざけんなっ」ガンッ


    京太郎「ここに来てっ、どうしてっ、そんな邪魔が入るっ!」ガンッガンッ


    京太郎「くそっ――」

    リュージ「やめろ。そんなことをしてもなんにもならない」ガシッ

    京太郎「お前はどうにもできなかったのかよ!?」グイッ

    リュージ「悪い……直談判しに行ってこのザマだ」

    京太郎「その怪我……」

    リュージ「かすり傷だ……くっ」

    京太郎「放置しておくわけにはいかないだろ……それに、一度落ち着いて相談したい」


    671 : ◆zSdeXZ - 2018/04/22(日) 02:14:59.57 ID:a8S7wHTo0 (+95,+30,-131)



    竜華「傷口が開きますので、しばらくはむやみに動かさないでください」

    リュージ「ああ、すまないな、先生」

    竜華「……あなたは、須賀くんとどういう関係なんですか?」

    リュージ「なんだ、先生はあいつの知り合いか」

    竜華「答えてください」

    リュージ「ただの同僚だよ」

    竜華「本当ですか?」

    リュージ「ウソは言ってない」

    竜華「でも、本当のことも言ってない」

    リュージ「先生……あんた鋭いな」

    竜華「呼吸とか目の動き、表情筋の強張りでそれぐらいは」

    リュージ「とんでもねぇ知り合いがいたもんだ」

    竜華「話していただけますか?」

    リュージ「……いいぜ。ただし、一つだけ頼みを聞いてもらいたい」


    672 : ◆zSdeXZ - 2018/04/22(日) 02:19:44.39 ID:a8S7wHTo0 (+95,+30,-122)



    京太郎「傷は?」

    リュージ「この通りだ。無理するなって言われたがよ」

    京太郎「そうか……それで、どうする」

    リュージ「どうもこうもない……詰みだ」

    京太郎「渡す臓器を増やしてもか?」

    リュージ「渡すって保証がないからな」

    京太郎「……くそっ」

    リュージ「……もし、向こう以上の金を直接叩きつけられるなら、話は別だがな」

    京太郎「結局、金か……」


    竜華「須賀くん……!」


    リュージ「おっと、お前の浮気相手が来たようだな」

    京太郎「お前、なんでそれを」

    リュージ「引っかかったな。カマ掛けだ」

    京太郎「……やられた」

    リュージ「俺は退散するぜ」


    673 : ◆zSdeXZ - 2018/04/22(日) 02:25:02.98 ID:a8S7wHTo0 (+95,+30,-162)



    竜華「どうして、相談してくれなかったん?」

    京太郎「何の話だよ……悪いけど、今は時間が――」

    竜華「全部聞いた、あの人から」

    京太郎「リュージの野郎……」

    竜華「須賀くん、ダメ……いくらなんでも、そない」

    京太郎「じゃあ他にどうすればいい!」

    竜華「怜の望み通りにしてあげて!」

    京太郎「それじゃああいつは……!」

    竜華「それでも!」


    竜華「それでも……怜は喜ばへんよ」


    京太郎「……生きていれば、希望はあるだろ」

    竜華「須賀くんが犠牲になっても?」

    京太郎「犠牲になるつもりなんてない……それに、俺はあいつを失うなんて耐えられないんだよ」

    竜華「ずるいわぁ、そんなん」

    京太郎「ああ、結局は自分のためだ」

    竜華「……なら、うちのためにって言うたら、思いとどまってくれる?」

    京太郎「……悪い」

    竜華「あはは……また振られてもうた」

    674 : ◆zSdeXZ - 2018/04/22(日) 02:31:41.81 ID:a8S7wHTo0 (+95,+30,-156)


    ハギヨシ「お取り込み中のところ、失礼」


    京太郎「ハギヨシさん、どうしてここに」

    ハギヨシ「お嬢様が、最後に渡すものがあると……こちらを」

    京太郎「このケースは?」

    ハギヨシ「中に一億円、現金で入っています」

    竜華「い、一億!?」

    ハギヨシ「手切れ金だと仰せつかりました」

    京太郎「はは……また律儀な」

    ハギヨシ「それでは、私はこれで失礼いたします」


    ハギヨシ「……君の友人としてなにもできなかった私を許してください」


    京太郎(そうか……これで)

    京太郎(これで、お別れなんだな)

    京太郎(この金を受け取るなら……)


    京太郎「……でも、これで希望ができた」


    675 : ◆zSdeXZ - 2018/04/22(日) 02:40:32.76 ID:a8S7wHTo0 (+95,+30,-180)



    リュージ「はぁ……ったくよ。ままならねぇなぁ」

    リュージ「あいつはうまくいくと思ったんだけどな」

    リュージ「……チッ、ここらが潮時か」


    京太郎「リュージ!」


    リュージ「なんだ、妙案でも浮かんだか?」

    京太郎「これだけあればイケルよなっ」

    リュージ「お前これ……銀行強盗か?」

    京太郎「ちげーよ、もらいもんだ」

    リュージ「金の出処はともかく……これだけあればお釣りが来るな」

    京太郎「じゃあ!」

    リュージ「ああ、早速――待て」

    京太郎「どうした」

    リュージ「マズい、嗅ぎつけられた」

    京太郎「どういうことだよ」

    リュージ「――伏せろっ」グイッ


    ――パンッパンッ


    京太郎「なんだこれっ、撃たれてるのか!?」

    リュージ「走るぞ!」

    京太郎「くそっ」


    676 : ◆zSdeXZ - 2018/04/22(日) 02:48:41.54 ID:a8S7wHTo0 (+95,+30,-134)



    京太郎「どうなってんだよ……!」

    リュージ「俺たちの妨害をするなら、考えられるのは一つだ」

    京太郎「心臓を横取りした連中が手を回したってのか」

    リュージ「……悪い、おそらくマークされてたのは俺だ」

    京太郎「なんでだよ、どうしてこうなった!」

    リュージ「文句を言いに行って揉めてな……そのせいだろうな」

    京太郎「なんでそんなことしたんだよ。そうしなけりゃ怪我だってしなかったろ」

    リュージ「さぁな……許せなかったんだろうさ」

    京太郎「許せなかった?」

    リュージ「筋を通さねぇやつは嫌いでね」

    京太郎「……ありがとう」

    リュージ「なんだよ気持ち悪い」

    京太郎「少しでも俺のことを気にしてくれたんだろ?」

    リュージ「……勝手に言ってろよ」

    677 : ◆zSdeXZ - 2018/04/22(日) 02:54:31.54 ID:a8S7wHTo0 (+95,+30,-125)


    リュージ「これからの話だが……まず第一にこいつを守り通す必要がある」

    京太郎「これを直接見せないといけないんだよな」

    リュージ「百聞は一見に如かずってやつだ」

    京太郎「それで心臓を買い取って」

    リュージ「俺の知り合いに移植手術を頼む」

    京太郎「問題は、道中安心できないってことか」

    リュージ「よっぽど娘の命が大事なんだろうな」

    京太郎「……俺と同じか」

    リュージ「同情なんてするな。キリがないぞ」

    京太郎「わかってる」

    リュージ「それじゃあ、まずはここを切り抜けるところからだ」

    京太郎「……囲まれてるのか?」

    リュージ「完全に囲まれる前に逃げるぞ!」


    678 : ◆zSdeXZ - 2018/04/22(日) 02:58:13.16 ID:a8S7wHTo0 (+95,+30,-117)



    京太郎「はぁ、はぁ……まだ来るのか?」

    リュージ「わか、らねぇ……けど、これで終わるはずがない」

    京太郎「マジかよ……」

    リュージ「ほら早速――おらぁっ」バキッ

    「がっ――」

    京太郎「しつこすぎるだろうが――よっ!」ドカッ

    「ぐぅっ」


    リュージ「意外に動けるな。なにかやってたのか?」

    京太郎「ハンドボールと、執事殺法を少々」

    リュージ「執事殺法?」

    京太郎「次来るぞ!」

    リュージ「チッ、キリがねぇな!」


    679 : ◆zSdeXZ - 2018/04/22(日) 03:04:40.33 ID:a8S7wHTo0 (+95,+30,-111)



    京太郎「今、どこだ……」

    リュージ「もう、そろそろ、着くはずだ……」

    京太郎「そうか……さすがにキツいな」

    リュージ「あと、ちょっとだ……気張れ」

    京太郎「言われなくてもっ」


    「残念だがここでおしまいだ」


    「ここで張っていれば、その内来るだろうと思っていた」

    リュージ「先回りされてたってのかよ」

    「目的を読めばわかるということだ」

    京太郎「……おい、囲まれてるぞ」

    「長々と喋るつもりはない――やれ」


    680 : ◆zSdeXZ - 2018/04/22(日) 03:12:31.10 ID:a8S7wHTo0 (+95,+30,-89)



    京太郎「く、そ……」

    リュージ「チクショウが……」

    「ふんっ、あれだけ暴れまわった割にはあっけない」

    京太郎「ど、けよ……俺には、やらなきゃいけないことが……」

    「それで、これが起死回生の一手というわけか――ほう、中々の額だ」

    京太郎「返せ、返してくれ……!」

    「燃やせ」

    京太郎「やめろぉ――がっ」

    「動くな。こいつが完全に燃えるまで見てろ」

    京太郎「くそっ、くそっ……!」


    681 : ◆zSdeXZ - 2018/04/22(日) 03:18:48.06 ID:a8S7wHTo0 (+95,+30,-111)



    「……燃え尽きたか」

    京太郎「あぁ、あぁ……」

    リュージ「須賀、しっかりしろ」

    「放っておけ。それよりリュージ、戻ってくる気にならないか?」

    リュージ「俺のことこそ放っておいてくれ……こういうのがイヤで抜けたんだよ」

    「そうか……」

    リュージ「俺たちをこのままにしていいのか?」

    「そいつはもう抜け殻だ。そしてお前はそいつに付き合ってただけだろう?」


    「じゃあな」


    京太郎「……怜」

    リュージ「……ゲームオーバーか」


    682 : ◆zSdeXZ - 2018/04/22(日) 03:24:28.31 ID:a8S7wHTo0 (+95,+30,-95)



    京太郎(もう、ダメだ……全部終わった)

    京太郎(もう心臓は手に入らない)

    京太郎(あいつがいないなら、もう生きてる意味なんて……)


    『生きたい、まだ生きてたい、死にたくなんかない……!』


    京太郎(……なんて言ったら、ぶっ飛ばされるな)

    京太郎(まだ生きられる俺が、それを諦めるのは失礼だ)

    京太郎(なら、あいつの命も諦めるわけにはいかないな)

    683 : ◆zSdeXZ - 2018/04/22(日) 03:31:36.33 ID:a8S7wHTo0 (+95,+30,-69)


    京太郎「……リュージ」

    リュージ「なんだ、生きてたか」

    京太郎「最後に一つ、協力してくれ」

    リュージ「供養か?」

    京太郎「……心臓を、奪う」

    リュージ「冗談でも、狂っているわけでもなさそうだな」

    京太郎「ああ」

    リュージ「よし、なら付き合うぜ」

    京太郎「……いいのか?」

    リュージ「乗りかかった船ってやつだ」

    684 : ◆zSdeXZ - 2018/04/22(日) 03:38:53.14 ID:a8S7wHTo0 (+95,+30,-104)


    リュージ「ただし、これはもう誤魔化しようのない犯罪になる」

    京太郎「わかってる」

    リュージ「正体がバレるのも、もたついて捕まるのもダメだ」

    京太郎「だろうな」

    リュージ「それでもやるのか?」

    京太郎「あいつのためなら……って何度目だよこれ」

    リュージ「ブレないな、お前……羨ましいぜ」


    リュージ「さて……じゃあ俺は下準備に回る。お前は?」

    京太郎「手伝えることはあるか?」

    リュージ「いや、俺だけで十分だな」

    京太郎「なら、あいつの顔を見てくる」


    685 : ◆zSdeXZ - 2018/04/22(日) 03:44:41.90 ID:a8S7wHTo0 (+95,+30,-146)



    「ん……京太郎?」

    京太郎「ああ、おそよう」

    「仕事はええの?」

    京太郎「急に休みになった」

    「……なんかボロボロに見える」

    京太郎「ちょっと採石場でバトってきただけだ」

    「特撮やん。変身するん?」

    京太郎「できたらいいよなぁ」


    京太郎「……キスしてもいいか?」

    「キムチでもいい?」

    京太郎「どんな難聴だ」

    「言われた当の本人は居眠りこいとるしなぁ」

    京太郎「いいからするぞ」

    「やん、強引――んっ」


    京太郎「じゃあ、おやすみ」

    「えー?」

    京太郎「もう面会時間ギリギリなんだよ」

    「しゃあないなぁ。ほな、おやすみー」

    京太郎「ああ」


    686 : ◆zSdeXZ - 2018/04/22(日) 03:49:49.22 ID:a8S7wHTo0 (+90,+30,-36)



    竜華「須賀くん……?」

    京太郎「よう、まだ仕事か?」

    竜華「宿直やから……って、ボロボロやんっ」

    京太郎「転んだだけだ」

    竜華「ええからこっち来ぃや!」グイッ


    687 : ◆zSdeXZ - 2018/04/22(日) 03:56:32.32 ID:a8S7wHTo0 (+95,+30,-108)



    京太郎「……悪いな、手当してもらって」

    竜華「危ないことに首、突っ込んどらんよね?」

    京太郎「もちろんだ」

    竜華「……それ絶対ウソやん」

    京太郎「やっぱごまかせないよなぁ」

    竜華「須賀くん、お願い……もうええやん」

    京太郎「ありがとう……でも、ごめんな」

    竜華「……わかった。じゃあ見逃す代わりにひとつ約束して」

    京太郎「なんだ?」

    竜華「怜のためならどうなってもかまへんのやろ? なら――」


    竜華「見逃す代わりに、うちのものになって」

    688 : ◆zSdeXZ - 2018/04/22(日) 04:02:51.70 ID:a8S7wHTo0 (+95,+30,-135)


    京太郎「お前、それは」

    竜華「どない? できる?」

    京太郎「……ああ、その後は俺の人生、全部お前にやっても構わない」

    竜華「……そか」


    竜華(嘘つき……)


    竜華「じゃあ、約束の印に……んっ」

    京太郎「――んっ」

    竜華「……これでバッチリやんな」

    京太郎「ああ……」

    竜華「あと、これ」

    京太郎「ペンダント」

    竜華「もいっこ約束……うちの大切なペンダント、無事に返してな」

    京太郎「わかった。ちょうどお守りがほしいって思ってたんだ」


    689 : ◆zSdeXZ - 2018/04/22(日) 04:08:44.15 ID:a8S7wHTo0 (+95,+30,-99)



    京太郎「おはよう。サボりか?」

    リュージ「そういうてめぇも昨日サボっただろうが」

    京太郎「まぁな……で、準備の方は?」

    リュージ「大体終わってる。心臓がいつ運ばれるのかも調べがついた」

    京太郎「それで?」

    リュージ「今日の夕方、モノが病院へ運び込まれる」

    京太郎「その病院は?」

    リュージ「いや、病院はダメだ。多分護衛がわんさといるからな」

    京太郎「じゃあ、輸送中に奪うんだな?」

    リュージ「そうなる」

    690 : ◆zSdeXZ - 2018/04/22(日) 04:13:57.62 ID:a8S7wHTo0 (+95,+30,-215)


    リュージ「……臓器は、鮮度が大事だ」

    京太郎「ああ、そうだろうな」

    リュージ「心臓を摘出するのは、病院についてから」

    京太郎「まさか……」

    リュージ「脳死したやつの体ごと、救急車で運ぶってことだ」

    京太郎「……心臓は、動いているんだな?」

    リュージ「考え方によっては、俺たちが引導を渡すことになる」

    京太郎「……今更だ」

    リュージ「そうか……」


    リュージ「作戦は単純。救急車をジャック、適当なとこで車を乗り換えてから、お前の恋人を乗っけて医者のところへ向かう」


    京太郎「乗り換える車ってのは?」

    リュージ「それも手配してる」

    京太郎「お前、本当に何者だよ」

    リュージ「しがない元ヤクザだ。まぁ、まだ足を洗いきれてないけどよ」


    691 : ◆zSdeXZ - 2018/04/22(日) 04:17:24.36 ID:a8S7wHTo0 (+95,+30,-153)



    リュージ「須賀っ、早く乗れ!」

    京太郎「ああ!」


    京太郎「……ジャックするって聞いたときはどうなるかと思ったけど、案外うまくいったな」

    リュージ「安心には早すぎる。まずはサツが来るだろうし、ことに気づいた組の奴らも追ってくる」

    京太郎「ここからが正念場か」

    リュージ「そういうことだ」

    京太郎「……悪いな、巻き込んで」

    リュージ「いい機会だ。俺もここにおさらばしてあいつに会いにいくさ」

    京太郎「そのためにはしくらないようにしないとな」

    リュージ「もちろんだ。……ここらへんだな。乗り換えるぞ」


    692 : ◆zSdeXZ - 2018/04/22(日) 04:22:09.78 ID:a8S7wHTo0 (+95,+30,-125)



    リュージ「慎重に運べよ?」

    京太郎「わかってる」


    リュージ「よし……須賀、お前は後ろでそいつの面倒見てくれ」

    京太郎「行き先はわかってるよな」

    リュージ「ああ、お前の恋人を迎えに行くぞ」


    ――パンッパンッ


    「そこまでだ。車はパンクさせた……逃げられんぞ」


    京太郎「あんたは……!」

    「あれだけ打ちのめしても這い上がってくるとはな」

    京太郎「邪魔すんなよ!」

    「こいつを外に出せ」

    京太郎「くそ、離せ……!」

    693 : ◆zSdeXZ - 2018/04/22(日) 04:25:58.59 ID:a8S7wHTo0 (+95,+30,-163)


    「さて、リュージ……よくもやってくれたな」

    リュージ「脇が甘いからこんなことになるんだよ」

    「だまれ!」バキッ

    リュージ「ぐっ」

    「ここで始末する」

    リュージ「はっ、だからあの時殺しときゃよかったんだよ」

    「今度こそそうしてやる」


    京太郎「リュージ!」

    「お前はそこで見てろ。ほんの少し先のお前の姿だ」

    京太郎「くそっ……やめろ!」


    ――ファンファンファンファン


    「兄貴! サツが来ます!」

    「わかってる! さっさと済ますさ」


    京太郎「離せ、この野郎……!」ドンッ

    「うわっ」

    694 : ◆zSdeXZ - 2018/04/22(日) 04:30:15.86 ID:a8S7wHTo0 (+95,+30,-77)


    ――カランカラン


    京太郎(突き飛ばしたやつの懐から落ちた拳銃)

    京太郎(それを拾い、俺は――)


    京太郎「やめろっつってんだろ、このクソ野郎が!」


    ――パンッ


    京太郎(乾いた音が一回)

    京太郎(そして、何かが地面に倒れる音)


    「兄貴!」

    リュージ「須賀、お前……」

    京太郎「俺、俺は……」


    京太郎(俺はその日、初めて人を殺した)


    695 : ◆zSdeXZ - 2018/04/22(日) 04:33:14.50 ID:a8S7wHTo0 (+95,+30,-109)



    「出ろ。お前に面会だ」

    京太郎「……はい」



    京太郎「怜……」

    「……」

    京太郎「俺……」

    「……嘘つき」


    「ずっと傍にいるって言うたやん」

    「それがなんで……なんでこないなとこにおんねん」

    「なんで約束、破るん?」


    京太郎「ごめんな……」

    「……もうええよ。あんたのことなんて知らんし、もう会わん」

    京太郎「俺は、お前を治そうと……!」

    「だれが頼んだ!」

    京太郎「――っ」

    「うちは、最後まで一緒にいられれば、それで十分やったのに……」


    「……さよなら」


    696 : ◆zSdeXZ - 2018/04/22(日) 04:40:32.38 ID:a8S7wHTo0 (+95,+30,-117)



    京太郎「……」

    竜華「ちゃんと、食べとる?」

    京太郎「あまり、食欲ないんだ……俺は、人を……」

    竜華「……今は体を大事にして」

    京太郎「もう、俺には……」

    竜華「それでも食べること……ええ?」

    京太郎「……そうだ、これ」

    竜華「いらん。それは須賀くんが自分から返しに来て」

    京太郎「……何年かかるかもわからないぞ?」

    竜華「いつまでも待っとるから」

    京太郎「でも、あいつは……」

    竜華「……須賀くん、あの人に気をつけて」

    京太郎「あの人……まさかリュージか?」

    竜華「うん……絶対なにか企んでどる」


    697 : ◆zSdeXZ - 2018/04/22(日) 04:45:09.92 ID:a8S7wHTo0 (+95,+30,-207)



    リュージ「よう、生きてるか?」

    京太郎「……檻の中なのになんでそんな元気なんだよ」

    リュージ「まぁ、初めてじゃないからな」

    京太郎「そうかよ」

    リュージ「お前は目に見えて元気ないじゃねぇか」

    京太郎「……わかってるだろ」

    リュージ「俺もお前も懲役刑くらって、お前は十年だったか?」

    京太郎「執行猶予とかってなかったか」

    リュージ「今回に関してはダメだ。組の奴らが手を回した」

    京太郎「……ヤクザ怒らせると怖いな」

    リュージ「ああ、そして……お前は間に合わない」


    リュージ「そこで提案だ」

    京太郎「脱獄か?」

    リュージ「ご名答だ。刑務所に送られたら面倒になる」

    京太郎「だからその前にってか……」

    リュージ「どうだ、乗るか?」

    京太郎「……」

    698 : ◆zSdeXZ - 2018/04/22(日) 04:48:54.28 ID:a8S7wHTo0 (+95,+30,-78)


    『……須賀くん、あの人に気をつけて』


    京太郎(こいつは、何を考えてる?)

    京太郎(俺は……)


    京太郎「……乗ってやるよ」

    リュージ「それでこそだ」

    京太郎「人殺しの手だけど、最後まであいつの手を握っててやりたい」

    リュージ「……」

    京太郎「どうした?」

    リュージ「ここまで女の子としか考えてない奴は初めて見た」

    京太郎「お前は違うのか?」

    リュージ「さぁな」


    699 : ◆zSdeXZ - 2018/04/22(日) 04:54:07.41 ID:a8S7wHTo0 (+95,+30,-95)



    リュージ「走れ、走れ走れっ!」

    京太郎「お前っ、あんな抜け道っ、なんで知ってたんだよっ?」

    リュージ「前入ったときっ、色々調べたんだっ」

    京太郎「この悪党がっ」

    リュージ「うるせぇよ人殺しっ」


    リュージ「この先に小屋があるっ」

    京太郎「小屋っ?」

    リュージ「そこで一回死ぬぞっ!」

    京太郎「はぁ!?」


    700 : ◆zSdeXZ - 2018/04/22(日) 04:57:50.73 ID:a8S7wHTo0 (+95,+30,-164)



    京太郎「おい、リュージ、ここでいいんだよな? ここでなにすりゃいいんだ!?」

    リュージ「ああ……俺は死体を持ってくるから、お前はここに火をつけてくれ」

    京太郎「火? 放火かよ……遺体の偽装のためか?」

    リュージ「そうだ。似たような体型だったら燃やせば簡単には判別がつかなくなる」

    京太郎「……俺の持ち物も残しておけば完璧か?」

    リュージ「確実とは言えないがな」

    京太郎「そう、か」

    リュージ「怖気づいたか?」

    京太郎「だったらこんなとこまできてないだろ……火、貸してくれ」

    リュージ「ほらよ」


    京太郎(そうだよ、俺はもう普通には外を歩けない)

    京太郎(だったら俺は俺を殺す)

    京太郎(俺が死んだことになれば、またあいつと……!)

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