私的良スレ書庫
不明な単語は2ch用語を / 要望・削除依頼は掲示板へ。不適切な画像報告もこちらへどうぞ。 / 管理情報はtwitterでログインするとレス評価できます。 登録ユーザには一部の画像が表示されますので、問題のある画像や記述を含むレスに「禁」ボタンを押してください。
元スレ久「あんたが三年生で良かった」京太郎「……お別れだな」
SS+ スレッド一覧へ / SS+ とは? / 携帯版 / dat(gz)で取得 / トップメニューみんなの評価 : ○
レスフィルター : (試験中)
智葉「そういえば、向こうで妙な噂を耳にしたな」
久「向こうってどこの国よ。色んなとこ渡り歩いていたんでしょ?」
菫「たしか、最近はアメリカにいたんだったな」
智葉「ああ、メグにあった時に聞いた話なんだがな」
久「アメリカでおいしいラーメン屋を発見したとか?」
智葉「いや、日本に帰りたいと嘆いていた」
菫「留学先に帰りたいときたか」
智葉「カップ麺の詰め合わせをよこせと泣きつかれたよ」
久「まさかそれで帰ってきたんじゃないでしょうね?」
智葉「……それで、妙な噂についてだが」
久「あ、誤魔化そうとしてる」
咲「淡ちゃんと当たった先鋒の人なんだけど、なんていうか……」
淡「うん、すっごいツキがないって感じだったよね」
咲「傍目から見てて、すごい技術の持ち主なのはわかるんだ」
淡「そーそー。よくそれで流局まで持ち込めたよねって時もあったし」
咲「酷い時なんか、手牌全部がだれかの和了牌ってことも……」
淡「欲しいのは来ないのに、まずいのばかり来るってやつかな?」
咲「あれはまるで……」
『あー、くっそ! 全然こねぇ!』
『どれ切っても直撃とか無理ゲーじゃんか!』
咲「……」
照「……」
淡「どしたの?」
智葉「ラックイーター……そいつはそう呼ばれてるらしい」
菫「和訳すると『運喰らい』といったところか」
久「読んで字のごとくってことでいいのかしら?」
智葉「ああ、それでいい」
菫「運を喰らうか……私たちにとってはまさしく天敵だな」
久「ツキを操作するプレイヤーだったらいるじゃない。ねぇ?」
智葉「ネリーは自分の波を調整するだけだ。他の奴のツキを見ることはできるが、干渉はできない」
久「この前の世界大会では、そんなのはいなかったと思うけど」
菫「そのまさに逆のならいたな。たしか、淡と打った相手だったな」
久「あ、そういえば。なんかあれ見てると、懐かしい気分になっちゃったのよね」
智葉「過去のデータを洗ったが、公式戦であそこまで酷い戦績はあれだけだった」
菫「つまり、そのプレイヤーがラックイーターの被害にあったと?」
智葉「その可能性はある」
久「喰われたなら、喰ったやつもいるってことよね?」
智葉「そうだろうが……少なくともあの卓にはいないな」
菫「それは、他のプレイヤーのデータも見た上でか?」
智葉「もちろんだ」
久「……わからないんだけど、それってそこまで気にすること?」
智葉「メグが悔しがっていたからというのもあるが……あいつを思い出した」
菫「あいつ……? ああ、あのツキのなさはたしかに」
久「……」
淡「でもさ、なーんか幸せそうだったよね、あの人」
照「幸せそう?」
淡「ぽわぽわってしてるというか……うん、あれは恋だね!」
咲「さすがに試合の後は落ち込んでたけど」
淡「すぐ誰かに電話してたよね。恋人かな?」
照「恋人……」
照「咲はどう思う?」
咲「えっ? お、お相手はいないよ?」
照「そうじゃなくて、そのアメリカの代表について」
淡「テルの鏡では見えなかったの?」
照「さすがにテレビ越しじゃ何も見えないかな」
咲「……何もなかったと思う」
照「特におかしなことはなかった?」
咲「そうじゃなくて……本当に何もなかった」
淡「うーん、なんというかさ、オーラみたいなのも見えなかったかな? 強い人だとびかびかーって見えるんだけど」
咲「それがツキがないって状態なのかもね」
淡「あとはあれだね。変な糸みたいなの」
咲「そんなのあった?」
淡「近くでよーく見てみないとわからないけど……なんか、なつかしかったかも」
久「ラックイーター、運喰らい……どこかで聞いたような話ね」
智葉『ラックイーターの被害者とされているのは、全て女性だ』
智葉『……そしてラックイーター本人は、男の可能性が高い』
久「……智葉ったらどれだけ勘がいいのよ」
久「女の運を喰らう男……」
久「そこまで並び立てられたら、もう――」
――プルルル
久「……だれよ」
『宮永照』
久「随分タイムリーね……もしもし」
照『話したいことがある』
久「ちょうどいいじゃない。今そっち向かってる途中だから」
照『何の用?』
久「わかってるでしょ?」
照『……わかった。待ってるから』
照「運喰らい……」
久「アメリカの代表がそれにやられたんじゃないかって」
照「咲たちもその話をしてた」
久「運喰らいの?」
照「そこまでは。ただ、その選手だけ異様にツキがなかったって」
久「ちょっと待って、まさかそれだけで?」
照「なによりも、咲が似てるって言ってたから」
久「なるほどね……」
照「それで、どうするの?」
久「どうするもなにも……もう終わった話じゃない」
照「私はそうは思わない」
久「あいつは全員振ってどこぞに消えた。そうでしょ?」
照「なら、どうしてここに来たの?」
久「ただの答え合わせ」
照「でも、運を喰われたってことは……」
久「……もう五年も経ってるんだし、そういうこともあるでしょ」
照「あなたはそれでいいの?」
久「良いも悪いもない。終わったんだってば」
照「……糸が見える」
久「はぁ?」
照「私の指とあなたの指から、すごく細い糸みたいなのが伸びている」
久「……なにもないけど?」
照「普通は目に見えないし、触れもしない。でも、これはまだ繋がってる」
久「まさか、あいつがまだ私たちを……?」
照「あなたの分は余計だと思うけど」
久「……なら、どうしてあいつは帰ってこないのよ」
照「それは……」
久「どんな理由があるにせよ、あいつは帰ってこようとしない……それが事実で、答えでしょ」
久「帰る。お邪魔したわね」
照「私はまだ諦めない」
久「勝手にして……あ、待った。やっぱり明日の収録は気にして」
照「そんなこと……!」
久「そんなことでも大事なことでしょ。社会人なんだから」
照「もういい、あなたを説得しようとしたのが間違いだった」
久「説得しようとしてたんだ。なら人前みたいに愛想よくすればいいのに」
久「それに私たち、そんな関係でもないでしょ」
照「……」
久「それじゃ、お願いだから馬鹿なことはしないでね」
『ホントよね……でも、待ってることにする』
『悪い状況で待ち続けるのは、今に始まったことじゃないしね』
『そんなこと、しないよ。京ちゃんには幸せになってほしいから』
『私はいつでも待ってるから』
京太郎「……」
京太郎(あれからどれぐらい経ったっけ?)
京太郎(もう遠い昔のように思えるな)
京太郎(……あの二人は今も俺を待ってるのかな)
京太郎(それとも――)
「もう、ちゃんと気ぃ入れてよ」
京太郎「ん? 悪い悪い」
「なに考えてたの? 昔の女?」
京太郎「君のこと」
「じゃあワタシのこと、どう思ってる?」
京太郎「女神、とか?」
「ぷっ、あははっ……な、なにそれ?」
京太郎「ほら、女の人の方が幸運だって言われてるだろ?」
「だから幸運の女神?」
京太郎「ああ、御利益ありますようにって」
「それ、今まで何人に言ってきたの?」
京太郎「今は君だけだよ」
「んっ……もう、上手いんだから」
京太郎(この前は代表選手に手を出しちゃったからな……)
京太郎(今度からは気を付けないと)
「あ、悪い顔してる」
京太郎「どうやって虐めてやろうかって考えてる」
「ひどーい」
京太郎「はは、正解。酷い奴なんだ、俺って」
京太郎(金のために女を誑し込んで利用して)
京太郎(挙げ句の果てに人殺しまでやらかして……)
京太郎(……これじゃ帰れなくて当然だ)
『私はまだ諦めない』
久「どれだけ往生際が悪いんだか……」
久「……でも、そういうのって私の領分だったはずよね」
久「あ~あ……ホントにもう」
咲「あ、部長……!」
久「咲? どうしたの、こんなところで」
咲「よかった……実は、部長の家に行こうとしたらちょっと道がわからなくて」
久「駅から歩いてきたの?」
咲「はい」
久「残念、うちは駅を挟んで反対側よ」
咲「えぇ……」
久「でも、降りる駅を間違えないなんて進歩したじゃない」
咲「……それ、褒めてます?」
久「褒めてる褒めてる。さ、うちまで歩きましょうか」
『説得しようとしてたんだ。なら人前みたいに愛想よくすればいいのに』
照「それこそ余計なお世話」
照「……でも、私はどうしてあの女を」
照「ふぅ……まだちょっと体が重いな」
――ピンポーン
照「今日は多いな……はーい」ガチャ
菫「久しぶり」
照「菫?」
菫「メール、見てないのか?」
照「ごめん、ちょっと忙しくて」
菫「忙しい? 淡から具合が悪いとは聞いていたが」
照「それはただの二日酔い……それよりも重要なことがあるから」
菫「とりあえずお見舞いのケーキを買ってきた」
照「――! お茶用意するから中に入って」イソイソ
久「はい、粗茶ですが」
咲「ありがとうございます」
久「それで、急にどうしたの?」
咲「別に用事があったわけじゃないんですけど」
久「それなら遊びに来たって言えばいいの。他人じゃないんだし」
咲「あ、そっか」
久「そっか、じゃないわよもう。その分だと、人付き合いはまだまだ苦手ってとこね」
咲「ま、麻雀する相手とは結構仲良く話してますっ」
久「それってあれでしょ。川原で殴り合って友情が芽生えるみたいな」
咲「どうしてそうなるんですかっ」
久「まぁ、咲みたいなのはそれでいいのかもね」
久「で、私の家に来る前は宮永照のとこにいたんでしょ?」
咲「あれ、どうしてそのことを」
久「あーあ、私あっちより優先順位低いんだぁ」
咲「あ、いや、それは……」
久「なーんて、冗談よ」
咲「……もう、意地悪ですよ」
咲「なんでお姉ちゃんのとこにいたってわかったんですか?」
久「私もさっきまでお邪魔してたから」
咲「じゃあ、入れ替わりだったのかな?」
久「そういうこと」
咲「それにしても、なんだかんだで仲良くなったんですね」
久「バカ言わないで。用事がなければ行くわけ無いでしょ」
咲「でも、よく一緒にテレビに出てるし」
久「上の都合よ。当人たちの意思は関係なし」
咲「そうなんですか?」
久「大体、打ち合わせをニコニコ愛想笑いのまま平気で無視してくるしね」
咲「え、えぇと……」
久「だから時々昔話を掘り返して仕返ししてるのよ」
咲「……」
咲(うわぁ、大人気ない……)
照「ごちそうさまでした」
菫「満足してくれたようでなによりだ」
照「この前のことは水に流しておくから」
菫「そもそも、なんで怒っていたかもわからないよ」
照「私はパンケーキ目当てで白糸台に行ったわけじゃない」
照「パンケーキ目当てで白糸台に行ったわけじゃない」
菫「なんで繰り返す」
照「重要なことだから」
菫「そうか?」
照「菫、なんで私が怒ってたかわかってるの?」
菫「いや、いまいちまだピンと来ない」
照「……はぁ」
菫「待て、なんでため息をつく」
照「菫は親切だけど、抜けてるところもあるよね」
菫「お前にそういうことを言われるのはいまいち納得がいかないな……」
菫「それよりも、実は竹井と辻垣内と一緒に昼を食べていたんだが」
照「知ってる」
菫「もしかして竹井から聞いたのか?」
照「さっきまでうちにいたから」
菫「そうか……そうかそうか」ウンウン
照「……勝手に納得しないで」
菫「口ではなんだかんだ言っていても、やっぱり仲が良いんだな」
照「そんなことない。皮肉や嫌味なんて日常茶飯事だし、どこからかネタを拾ってきてぶちまけるし」
菫「どこからか、の部分に妙に力がこもってないか?」
照「だから、私も打ち合わせを無視した進行で仕返ししてるんだけど」
菫「そ、そうか……喧嘩するほど、というやつだな」
照「……菫は親切だけどちょっと抜けてて、おまけに空気読めないとこもあるよね」
菫「なんで私が残念な人みたいになってるんだ!」
咲「お姉ちゃんとはなにを話してたんですか?」
久「ちょっと世間話」
咲「さ、さすがにそれは苦しいというか……」
久「……たしかにね」
咲「私と淡ちゃんはアメリカ代表の話をしたんですけど」
久「それがどこかの誰かの対局を見てるようだった、とか?」
咲「やっぱり……お姉ちゃんとはその話をしてたんだ」
久「私も別のとこからその代表について情報をもらってさ。ちょっとお互いに確認したかったの」
咲「それでなにかわかったんですか?」
久「……はっきりしたことはなにも」
咲「そうですか……」
久「でも、向こうはすぐにでもアメリカに行くって息巻いてるから、咲からも釘刺しておいて」
咲「……部長は気にならないんですか?」
久「アメリカにいるって確証もないし……それに、もういいのよ」
咲「え、もういいって……」
久「なんかさ、疲れちゃったのよ」
咲「……なんで、諦めちゃうんですか」
咲「もう五年……五年以上も行方不明なのに」
咲「みんなみんな、口には出さないだけで心配してるのに……」
咲「なんで部長がそんなことを言っちゃうんですか……!」
久「咲……」
咲「ごめんなさい……もう帰ります」
久「……」
菫「しかし、前に来た時より散らかったか?」
照「荷造り中だから」
菫「旅行か? 珍しいじゃないか」
照「京ちゃんが、アメリカにいるかもしれない」
菫「……運喰らいにあいつが関与していると言いたいのか?」
照「うん」
菫「そうか……」
照「止めないの?」
菫「私の知る限り、お前が一番執着しているのがそれだからな」
菫「もちろん竹井も行くんだろう? お前一人なら心配だが、あいつも一緒なら安心だよ」
照「……あの女は来ない」
菫「ちょっと待て、それは本当か?」
照「もう終わったことだからって」
菫「……そういうこともあるんだろうな」
照「私だったら絶対に諦めたりしないのに……」ギリッ
菫「竹井が諦めたことが許せないのか?」
照「違う、私は……」
菫「それとも、一人で須賀の前に立つのが怖いのか?」
照「――っ」
菫「照、やっぱりもう少し考えてみないか? 今の生活だってあるじゃないか」
照「ごめん、菫……帰って」
菫「そうか……邪魔したな」
照「ケーキ、ありがとう」
久「うぅ……ちょっと飲みすぎた」
久「明日は……あ~、もうダメ。だるすぎ」
久「はぁ……そもそも相方が来るかどうかもわかんないっての」
久「咲だって好き放題言ってくれちゃってさぁ」
『なんで部長がそんなことを言っちゃうんですか……!』
久「……そんなの、そうでも言わないとやってられないからに決まってるでしょ」
久「それでも……」
美穂子『本当によかったの?』
ゆみ『色んなチームから誘われていたじゃないか』
久『いいのよ。もうプレイヤーとしては散々やった気分だし』
ゆみ『そうか……しかしアナウンサーとは考えもしなかったな』
美穂子『そうかしら? 様になると思うわ』
久『美穂子に言われるとちょっと敗北感ね……』
ゆみ『そういった方面に興味があるとは思っていなかったよ』
久『まぁ、ちょっと別の視点から麻雀に触れたかったのかもね』
久「別の視点……打たなくてもいい立場」
久「そっか……だからプロにならなかったんだ、私」
照「……別に一人だって大丈夫」
照「だれかの助けがなくたって……」
『それとも、一人で須賀の前に立つのが怖いのか?』
照「……」
『――京ちゃん京ちゃんってうるっせぇんだよっ!!』
照「そんなの……」
『なんで、俺を一人にしたんだよ……!』
照「そん、なの……」
『ごめん、俺は照ちゃんと一緒にいられない』
照「そんなの、怖いに決まってる……!」
照「だって私は三回も拒絶されてる!」
照「もし会いに行ったら、また拒絶されたら、この細いつながりさえも切れてしまうんじゃないかって……」
照「怖い、怖いよ……」
照「京ちゃん京ちゃん京ちゃん……!」
照「会いたいよ……京ちゃん」
照「……用意、しなきゃ」
京太郎「ロン……これで終局だ」
「チッ……またテメェの一人勝ちかよ」
京太郎「悪いな、俺みたいなジャップが稼いじまって」
「聞いたぜ、また女を乗り換えたんだってな」
京太郎「あんたには関係ないだろ」
「この女喰い野郎が」
京太郎「悔しいなら、あんたもいい女を引っ掛けたらどうだ」
「ヘッ、せいぜい刺されねぇように気をつけな」
京太郎「どうだろうな……俺みたいのは別れるのが上手くなきゃやっていけないからな」
「それよりもう一回だ! 今日こそはテメェから毟り取ってやるよ……!」
京太郎「今日は本音を隠さないんだな」
「もうこりごりだ。前から気に食わなかったが、一度ぶちのめさなきゃ気がすまねぇ」
京太郎「いいぜ、来いよ。遊んでやる」
『――ロサンゼルス行5157便はただいま、ご搭乗の最終案内をしております』
照「行か、ないと……」
照(でも、踏み出せない)
照(私、こんなに弱かったんだ……)ギュッ
久「なにボーッとしてるのよ」
照「竹井久……どうしてここに」
久「なんでこの道に進んだのか、その理由を思い出しちゃってさ」
照「……プロなら私にかなわないと思ったから?」
久「張っ倒すわよ」
久「ほら、アナウンサーになってプロと組むようになれば、打たなくても麻雀にかかわれるし」
久「あいつがなにか困ったときに、いつでも力を貸してあげられるようにって思ってたんだけどね」
久「だけど、すっかり忘れてた」
久「忙しかったのもあるけど……忘れて諦めて、もうどうしようもないんだって思ってた」
照「私だったら絶対忘れない」
久「でも、足は竦んでるみたいね」
照「……」
照「京ちゃんへの気持ちはずっと変わらない」
照「だけど……会うのがどうしようもなく怖い」
照「中学二年の三月と最後のインハイ、そして高校の終わり……私は三回も拒絶されたから」
照「会いに行ってまた拒絶されたら、今度こそつながりが切れてしまうんじゃないかって」
久「大魔王とは思えない弱腰じゃない」
照「その呼ばれ方、認めてるわけじゃないから」
久「弱腰といえば、インハイの時もそう。進歩がないんじゃない?」
照「ほっといて」
久「だからあの時と同じように手助けしてあげる……ほら」グイッ
照「あっ……」
久「いい加減搭乗しないと間に合わないでしょ」
照「待って、あなたも来るの?」
久「もちろん。同じ便の席は……離れてるとは思うけど」
照「放して」
久「ちゃんと歩けるの?」
照「バカにしないで」
久「そう……じゃあ、行きましょうか」
『――Good afternoon Ladies and Gentlemen』
久「……」
照「……」
『Please secure all your baggage in the overhead compartments or under your seat』
久「まさか隣同士とはね……」
照「まったくもって不本意」
久「ところで、目的地は決めてる?」
照「件のアメリカ代表の先鋒」
久「ま、今のとこそれしか手がかりないしね」
久「ところでさ、黙って来たの?」
照「電話で、今までお世話になりました、とだけ」
久「……絶対大騒ぎになってるやつじゃない」
照「そっちは?」
久「退職届だけ出して来た」
照「なにも言われなかったの?」
久「言われる前にさっさと退散したから」
照「……全然人のこと言えないと思う」
久「携帯は?」
照「着信がうるさいから捨てた」
久「あー……私も」
照「バカなの?」
久「あんたに言われたくない」
久「もう一つ。大事なことなんだけど……英語、喋れるの?」
照「人並みには。海外の大会にも結構出てたし」
久「なんだ、もし喋れなかったら大きな貸しを作るチャンスだったのに」
照「……やっぱりあなたなんて嫌い」
「どうしたの、このお金?」
京太郎「厄介になってるしさ。家賃ってとこ」
「多すぎ。これ私の給料よりあるよ?」
京太郎「今日は君のおかげで調子が良かったから」
「キョウってすごいプレイヤーなのね」
京太郎「ははっ、今は幸運の女神がいるからな」
「あ、それって私?」
京太郎「君以外いないよ」
「ホント上手いよね」
京太郎「それより、今日なにかあったのか?」
「どうしてそう思うの?」
京太郎「慰めてほしそうな顔してる」
「……お見通しなんだ」
京太郎「なんでも話してくれよ。君のことならなんでも知りたい」
「うん、実はね……」
久「ついた、ここね」
照「本当にあってる?」
久「あってるわよ」
照「思ったより時間がかかった」
久「私一人ならもっと早くついたんだけどね」
照「……どういう意味」
久「あんたら姉妹はフラフラせずにはいられないのかって話よ!」
「あなたたち、私の家になにか用?」
照「こんにちは」
「……あなた、もしかしてミヤナガテル?」
照「この前は後輩たちがお世話になりました」
「やめて、あの大会のことはできれば思い出したくないの」
「それで、あのミヤナガテルが私に何の用?」
久「あなたに聞きたいことがあるの」
「……あなたは?」
久「竹井久。この女の……」
照「他人です」
久「……まぁ、こういう関係ね」
「悪いけれど、さっぱりわからないわ」
「でも……二人とも、きっとキョウの故郷から来たのね」
照「――っ」
久「その、キョウというのは?」
「あなたたちと同じ日本の人で、フルネームは……スガキョウタロウ」
久「……詳しく聞かせてもらえますか?」
「そう、キョウの知り合いだったのね」
久「行方不明になった彼を探してるの」
照「どこっ、京ちゃんはどこにいるの……!」
久「落ち着きなさい。ここで慌てたってどうにもならないでしょ」
照「……たしかに、あなたの言うとおり」
「……きっと、彼はあなたたちの大切な人なのね」
久「ええ、だから居場所を知っているなら教えて欲しいの」
「残念ながら、私にはわからないわ」
照「本当に?」
「彼とはもう終わってしまったの」
久「……それは、そういう関係にあったということでいいの?」
「ええ」
照「でも、今は……」
「そうね……悲しいことだけど」
『悲しいけれど、恨んではいないの』
『キョウは最後まで優しかったから』
『……皮肉ね。彼がいなくなってから、また成績が持ち直すなんて』
久「あれじゃちょっと言えないわよね……自分の運が取られてたなんて」
照「でも、それは京ちゃんとあの人が……」
久「本気で好き合ってたってことよね……」
照「……どこにいるのかな」
久「さぁね……大きな手がかりが空振っちゃったし、情報収集するしかないんじゃない?」
照「あの人はたしか、京ちゃんは麻雀で稼いでたって」
久「それね。とりあえず近くの雀荘らしき場所をあたってみましょうか」
「……おい、あの野郎は来てねぇのかよ」
「今日は来てないよ。今頃女といちゃついてるんだろうさ」
「チッ……」
「あいつに拘りすぎだな。いいカモにされてるって気づけよ」
「それがなおさら気に食わねぇんだよ!」ダンッ
『もうこれで何軒目よ……明日にしない?』
『ダメ。少しでも手がかりを掴むまでは休めない』
『あーもう、来る前はあんなに怯えてたくせに』
「……日本語か?」
「さぁな。キョウが似たような言葉を話してるのは聞いたことあるがね」
「ちょうどいいじゃねぇか」
「おい、店の迷惑になるようなことはするなよ」
「ちょっとあのジャップたちと遊ぶだけだ」
久「もうこれで何軒目よ……明日にしない?」
照「ダメ。少しでも手がかりを掴むまでは休めない」
久「あーもう、来る前はあんなに怯えてたくせに」
「ヘイ、アンタたちここは初めてかい?」
「とりあえず座れよ。一局打とうぜ」
久「ごめんなさい、ここには人を探しに来ただけなの」
「麻雀の気分じゃねぇってんなら他のゲームもあるぜ。おすすめはダーツだ」
久「……悪いけど帰らせてもらうわ」
「おっと」ガシッ
久「なんのつもり?」
「冷やかしは勘弁だって話だよ」
久「はぁ……言わないとわからない? あなたと遊ぶことには興味がないって言ってるの」
「なっ……!」
照「いいですよ、打ちましょうか」
久「あんた、目的忘れたわけ?」
照「そうじゃないけど、たしかに雀荘で打たないのも失礼」
久「それはそうだけど……はぁ、まあいいや」
照「手加減はする」
久「当然の配慮ね」
久「ごめんなさい、やっぱり打たせてもらってもいいかしら?」
「どういう心境の変化だい? オレと遊ぶ気はないんじゃなかったって言ってたような気がするがよ」
久「遊び相手には不足だけど、小遣い稼ぎにはちょうどいいかなって」
「ぐっ、このアマ……!」
久「やるの? やらないの?」
「ああ、やってやるよ!」
久「そこそこ稼げたわね」
照「あそこまでムキになってる相手なら当然」
久「これであんたが本気出してたら大惨事ね」
照「あなたは煽り過ぎ」
久「あれは……ちょっとイライラしてたせいかもね」
照「さっきの人に絡まれて?」
久「そうね」
久「それより、聞いた?」
照「おすすめのデザート?」
久「全然違う。あの男の捨て台詞」
照「……興味なかったから」
久「かなり気になること言ってたわよ」
『クソッ、ジャップってのはどいつもこいつも……!』
久「って」
照「ジャップ?」
久「日本人のこと。明らかに見下した言い方だけど」
照「ジャップ、日本人……それがどいつもこいつもってことは」
久「そ、他にもあそこに通ってる日本人がいるってことね」
照「……明日もあそこに行ってみる?」
久「当然」
京太郎「よう、今日はいつにも増して景気悪いツラしてんな」
「チッ、テメェか……」
「ほっといてやれ。そいつ、昨日日本人の二人組にこっぴどく毟られたんだよ」
京太郎「日本人の二人組?」
「もしかすると、キョウの知り合いかもな」
京太郎「まさか。それより打たないか?」
「ダメだ。コイツがこの調子じゃあんたの相手をしようってやつはいないよ」
京太郎「そう、か」
京太郎(いい加減、稼ぎ場所を変えるべきか)
京太郎「邪魔したな……それじゃあ――」
「眠い……」
「朝も一回覗きに行こうっていったのはあんたでしょうが」
京太郎「――っ」
京太郎(ウソだろ、この声は……)
京太郎(なんだって、どうしてあの二人がここに!)
京太郎「悪い、トイレ借りるぜ」
「ん、ああ」
京太郎(とりあえず、二人がいなくなるまでやり過ごすしかない)
久「とりあえずはいない、と」
照「……」クン
久「どうかしたの?」
照「ううん、でも外に出てた方がいいと思う」
久「そうね。また時間をあらためて来るとしますか」
照「多分、その必要はない」
久「どういうこと?」
照「外で説明する」
久「……わかった。出ましょうか」
京太郎「……」ソロー
京太郎(二人は……帰ったか)
「……おい」
京太郎「なんだ、俺はもう帰るぞ」
「あの二人組、テメェの知り合いなのか?」
京太郎「知らねぇよ。無関係の他人だ」
「そうかよ」
京太郎「じゃあな」
「……無関係、ねぇ」
京太郎「さて……どこ行くか」
京太郎「……いっそ別の国に移るか?」
京太郎「となると、また別れ話か……」
「行き先なら日本がおすすめよ」
京太郎「――っ!」
久「全然帰ってこないと思ったら、こんなとこでなにしてるのよ」
京太郎「くそっ」ダッ
「京ちゃん!」ガシッ
京太郎「はなせっ……!」
照「イヤ、絶対離さない……!」ギュウウ
久「いいからおとなしくお縄につきなさいっての!」
京太郎「俺は犯罪者か!」
京太郎「……で、二人して何しに来たんだよ」
照「京ちゃんに会いに」
久「いい加減、待ってるのにも飽きちゃったから」
京太郎「待ってるもなにも、俺ははっきりと答えを出した。違うか?」
久「そうね……でも、良くない噂を耳にしたから」
京太郎「噂?」
久「ラックイーターだってさ。アメリカ代表もその被害にあったんじゃないかって」
京太郎「……やっぱり代表選手に手を出したのは間違いだったな」
久「あんたやっぱり……」
京太郎「ああ、そうだよ。俺は自分が勝つために女を食い物にしてるクズだよ」
照「そんなの関係ない……だから帰ろ? 京ちゃん」
京太郎「……帰れねぇよ」ボソッ
京太郎「ここまで来た二人には悪いけど、俺は帰らない」
久「……それはどうして?」
京太郎「言わなきゃわかんねぇか? 女がいるからだよ」
久「食い物にしてる女でしょ? そんなのやめて帰ればいいじゃない」
京太郎「俺の能力が効くってことはどういうことか、わからないわけじゃないよな?」
照「……京ちゃんは、その人のことが本気で好きなの?」
京太郎「この気持ちに嘘はない」
照「……そう、なんだ」
久「……わかった。今日のところはホテルに帰る」
京太郎「できればそのまま日本に帰ってくれ」
久「京太郎、あんた――」
『――本当に変わっちゃったのね……』
京太郎「……ああ、そうだ。変わったよ」
京太郎「あれだけあって変わらないわけないだろ……」
京太郎「そうだ、俺はクズだ。本気で好きになった女さえ食い物にするクズだ」
京太郎「……もう潮時だ。ここにはいられない」
京太郎「少し急すぎるけどしかたない、か……」
「あ、おかえり」
「もう、朝からどこ行ってたの? せっかくのお休みなのに」
京太郎「ちょっと散歩」
「私も一緒に行きたかったなぁ」
京太郎「……話があるんだけど、いいかな」
照「……」
久「どうする?」
照「……」
久「あいつの言ってた通り帰る?」
照「あなたは、どうするつもりなの?」
久「私は……まだ帰らない」
照「どうして?」
久「いなくなってる間になにがあったのか、まったく聞いてない」
照「私は……まだ帰りたくない」
久「どうして?」
照「京ちゃんが私をどう思ってるのか、はっきりと聞きたい」
久「……あんなに怖がってたくせに」
照「誰かみたいにすぐ諦めたりしないから」
久「言ってくれるじゃない……なら、とにもかくにも行動ね」
照「京ちゃんを探すの?」
久「逃げられる前にね」
京太郎「くそっ、痛ぇな……!」
京太郎「まさかあそこでナイフを出してくるとは……」
『なんでそんなこと言うの……?』
『私は……あなたといられるだけでいいのに!』
京太郎「だから急すぎるとダメなんだよ……」
京太郎「あぁもう……女なんて懲り懲りだ!」
京太郎「……なんて言っても、その女の力がなきゃなんにもできないんだけどな」
京太郎「とりあえず、この切り傷をなんとかしないとな」
京太郎「シャツも切れちまったし、移動費と宿代も考えると……」
京太郎「……マズイな、手持ちじゃ全然足りねぇ」
久「私たちの部屋ならタダで泊まれるわよ」
京太郎「……まだ来るのかよ」
照「京ちゃん、その怪我……」
京太郎「たいしたことない。血が出てるから酷く見えるだけだ」
久「そんな格好でうろつくのはどうかと思うんだけど、どうする?」
京太郎「……帰れ」
照「イヤ」
久「少なくとも、納得がいくまでは帰れないわよ」
京太郎「俺が何言っても納得なんてしないだろ」
久「でも、話をしなきゃ納得のしようがない」
京太郎「……」
照「私は、京ちゃんの本当の気持ちが聞きたい」
京太郎「……わかった。今日だけ場所を貸してくれ」
久「はい、おしまい。まだ血が滲む?」
京太郎「……無理に動かさなきゃ大丈夫そうだ」
久「腕で良かったじゃない」
京太郎「腹刺されてたら、さすがにどうしようもなかったかもな」
久「それよりあんた」
照「なに?」
久「いい加減離れなさいよ。手当するときも徹頭徹尾邪魔だったし」
照「イヤ」
久「駄々っ子か!」グイグイ
照「イヤ!」
京太郎「傷に響くからやめてくれ、マジで」
京太郎「……それで、なにが聞きたい?」
久「聞けるだけ」
照「そもそも私の聞きたいことは一つだけ」
京太郎「……二人は、どこまで俺を許せる?」
久「聞いてみなきゃわからないわよ」
照「私なら全部許してあげるから」
京太郎「それは、俺が人を殺したって言ってもか?」
照「――っ」
久「……聞かせて」
京太郎「高校の三年間、色々あって、色々やらかして、結果いつの間にやら色んなやつから好意を向けられて」
京太郎「でも、俺にはそれが途方もなく重く感じた……感じてしまった」
京太郎「答えを出さなきゃと焦って自分を追い詰め……それでなにもかもがいやになった」
京太郎「だから全部断った。そうやってしがらみを断てば、楽になれるんじゃないかって」
京太郎「物理的にも離れたくて……だから日本を出た」
京太郎「だれも自分のことを知らない中で自由に歩き回るのは結構楽しかった」
京太郎「そして身勝手にも誰かを好きになったりして……そしてその子は死んだ」
京太郎「不運にも、交通事故に巻き込まれて、だ」
京太郎「わかるよな? ……俺が、殺したんだ」
京太郎「そうじゃないって思うか? だけど違うんだよ」
京太郎「だって、彼女の不幸の原因は俺だ」
京太郎「俺が、なにも考えずに好きになって、運を奪って……死なせた」
京太郎「……そんなのは俺が殺したも同然だ」
京太郎「要するにさ、今の生き方は罰なんだよ」
京太郎「一番楽じゃない生き方を選ばないと、俺は自分を許せそうになかった」
京太郎「自分が生きてることをさ」
京太郎「死ぬのは簡単だ。すぐ楽になれるしな。でもそんなのはダメだ」
京太郎「そんな逃げが許されるはずがない」
京太郎「だから、俺はこの身勝手な生き方を続けてるんだよ」
京太郎「……以上だ」
久「……」
照「……」
京太郎「他に聞きたいことはあるか? ないなら俺はもう行く」
久「……なんで、話さないの?」
京太郎「今全部話したよ」
久「そうじゃない。なんで自分の生き方に巻き込む人に、何の説明もないのかって話よ」
久「だってそれ、全然フェアじゃない。何も知らないで巻き込まれた人はたまったものじゃない」
久「あんたがこれからもそうやって色んな人に迷惑をかけ続けていく気なら、私はあんたを止める」
京太郎「止める? どうやってだよ」
久「無理やり連れ帰るか、そうじゃなきゃ――」
照「待って、勝手に盛り上がらないで」
久「……そういう横槍、やめてもらえる?」
照「だって、私は聞きたいこと聞けてないし」
京太郎「俺のことは大体話したはずだけどな」
照「ううん、京ちゃんは大事なことを言ってない」
照「京ちゃんは、私のことをどう思ってるの?」
京太郎「……今更どうとも思ってなんか――」
照「ウソだよね? 京ちゃんはその気になれば私と……その女からも奪っていけた」
京太郎「自意識過剰かよ」
照「とても細いけど、まだ切れてない。このつながりが京ちゃんの気持ちを表してる」
京太郎「……」
照「どうして? なんで私たちからは奪っていかないの?」
照「一番辛い生き方を選んでいるなら、どうして私たちに手を出さないの?」
類似してるかもしれないスレッド
- 久「何か食べたいわねぇ」 京太郎「また買出しッスか」 (223) - [45%] - 2015/10/4 20:15 ★★
- 咲「ぎ、義理だからね。京ちゃん」京太郎「おう、ありがとな」 (149) - [45%] - 2015/6/5 21:30 ★★★×4
- 久「私は団体戦に出たいのよ!!」京太郎「俺には関係ない」 (476) - [44%] - 2013/3/1 12:15 ☆
- 凛「あんたが私のサーヴァント?」 ぐだお「……イシュタル?」 (252) - [43%] - 2018/8/23 13:30 ☆
- 久「ロッカーの中で」京太郎「襲わないから」 (617) - [40%] - 2013/6/14 15:00 ★
- 八幡「お前の21歳の誕生日、祝ってやるよ」雪乃「……ありがとう」 (1001) - [38%] - 2015/4/23 18:30 ★
トップメニューへ / →のくす牧場書庫について