元スレ小鳥「今日は皆さんに」 ちひろ「殺し合いをしてもらいます」
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301 = 297 :
倒れた直後に、自分に飛びかかってきた敵は起き上がろうとした。
駄目だ、ここで起き上がらせたら駄目だ。
敵が何かする前に、早くしないと、美波を守れなくなる。
直感的にそう感じた。
だからアナスタシアは、敵が行動を起こす前に、
倒れたままの体勢で武器を振り上げ、そして……
美波「待ってアーニャちゃん!!」
美波の声でアナスタシアはそのままの姿勢でぴたりと止まる。
それと同時に、千早は急いでアナスタシアから離れた。
しかしアナスタシアは動けない。
呼吸は浅く早く、目には涙が浮かび、なお武器を握り続けたままで固まっている。
そんな彼女に美波は駆け寄り、そして武器を握る手を優しく包んだ。
美波「大丈夫……。アーニャちゃん、大丈夫だよ」
手の温もりと優しい声に、アナスタシアの硬直はようやく解けた。
数秒美波を見つめた後、ようやく武器を手放す。
そして美波に抱き着き、声を押し殺して泣いた。
302 = 297 :
美波「えっと……天海春香ちゃんと、如月千早ちゃんだよね?
説明をお願いできるかしら……。二人共、私たちに危害を加えるつもりじゃなかったのよね?」
アナスタシアが落ち着くのを待ち、美波は春香と千早に目を向けて言った。
しばらく傍で黙って立っていた千早達だが、この問いに春香が慌てて反応した。
春香「こ、ここに置いてあった飲み物と食べ物は、食べちゃ駄目なんです!
毒が入ってて、私が置きっぱなしで、だから……!」
千早「春香、落ち着いて。順を追って説明しないと」
春香「う……ご、ごめんなさい」
千早「その……。ここに入った時、テーブルの上に水と食料が置いてあったはずです。
実はそれは春香に支給された武器で――」
303 = 297 :
春香の代わりに千早は事情を説明した。
美波もアナスタシアもそれを黙って真剣に聞く。
そして全ての説明を終えたあと、アナスタシアは震える唇を開いた。
アーニャ「ごめん、なさい……。私、勘違い……でしたね。
ハルカ、チハヤ……。とても優しい人でした。私たちのこと、助けるためでした……。
なのに、私……私っ……」
そう言ってボロボロと涙を流すアナスタシア。
それを見て春香は再び慌て出す。
春香「ああっ、いいの大丈夫だから!
私が紛らわしいことしちゃったのが悪いんだよ!
アナスタシアちゃんは悪くないよ! だよね、千早ちゃん!」
千早「えっ? え、えぇ、そうね……。結果的には誰も何ともなかったのだし……」
正直、飛びついたあと顔を上げると
武器を振り上げた彼女が目に映った時は心臓が止まるかと思ったけれど。
と言うと更に泣いてしまいそうだったので千早はその言葉は飲み込んだ。
304 = 297 :
ただ、もし自分が殴られていたらどうなっていただろうか。
春香はどうしていただろうか……。
そんな風に意味の無い想像をしてしまいそうになるのを千早は懸命にこらえた。
そしてアナスタシアに薄く笑いかけ、
千早「私は気にしてないわ。これからはお互い、冷静に行動するよう気を付けましょう」
春香「そうそう、これから気を付ければいいんだよ!
だからアナスタシアちゃんもそんなに気にしないで、ね?」
アーニャ「……ハルカ、チハヤ……。ありがとう。やっぱり、とても優しいですね……」
春香「そんなこと……。それに、優しいのはアナスタシアちゃんだと思う。
さっきは美波さんを守りたい一心で……だったけど、
本当は人を傷付けたくないんだって、すごく伝わってきたから」
305 = 297 :
そう言って春香にほほ笑みかけられ、アナスタシアにもようやく笑顔が戻った。
美波もその様子を優しい笑顔で見ている。
と、今度はそんな美波に春香は顔を向けて言った。
春香「でも、本当に間に合って良かったです! もう少し遅かったらって思うと私……」
美波「あ……え、えぇ、そうね。ありがとう、春香ちゃん」
少し言い淀み、少しぎこちない笑顔を浮かべる美波。
それを見て千早は察した。
そしてきょとんとする春香の横顔に向けて、
千早「春香……。もしかして新田さんが飲もうとしていたのは、自分の水だったんじゃ」
春香「え!?」
306 = 297 :
思わず声を上げ、春香は美波に顔を向ける。
すると美波は少し表情を強ばらせた後、やはりぎこちない笑顔で微笑みかけた。
その笑顔はつまり千早の考えを肯定するものであると、春香にも分かった。
春香「じゃ、じゃあ私、早とちりで……。ご、ごめんなさい!」
美波「い、いいの気にしないで! 私も紛らわしいことをしちゃったんだし……」
千早の言葉によってつい先ほどと似たようなやり取りが繰り返されようとしたが、
それを止めたのも千早だった。
千早「それより、二人に確認したいことがあるんです」
真剣なその声を聞き、途端に場の空気がぴりっと引き締まるのを春香たちは感じた。
そして千早は少し間を置いて問いかけた。
千早「少し前にこの灯台の東側から大きな爆発音のようなものが聞こえました。
そのことについて何か知っていることがあれば聞かせてくれませんか?」
307 = 297 :
美波は千早の問いに正直に答えるべきか少し悩んだ。
しかし状況が状況だ。
下手に嘘をつくとそれが後になってどう影響するか分からない。
だから美波は、自分の身に起きた出来事を全て話した。
そしてあの爆発音の正体を聞き、
春香の手は動揺に震え、千早は目線を落として眉根を潜めた。
春香「……伊織が、そんな……」
千早「……」
春香「ま……まさか伊織、本当に、こ、殺したりなんかしないよね?
み、346プロの人のこと、怖がってるだけだよね……?」
千早「……ええ。ただ武器を奪って逃げたということは、そういうことなんだと思う」
308 :
まさかの出会いw
309 = 297 :
春香「そ、そうだよね! じゃ、じゃあもし伊織に会ったら、
みんなで協力するように言ってみようよ!
美波さんとアナスタシアちゃんのことをきちんと知ってもらえれば、
伊織だってもう怖がったりしないで済むはずだよ!」
千早「ええ……そうね」
殺意があったのなら、美波に危害を加えていたはず。
そういう理屈で千早は春香の焦りや不安を落ち着かせた。
だが千早は、実際がどうかは分からないと、口には出さなかったがそう思っていた。
伊織は相手との体格差を考えて撤退しただけかも知れないし、
強力な武器が手に入れば殺傷も厭わない覚悟を既に終えているかも知れない。
春香とアナスタシアは少なくとも表情には出ていないが、
美波も千早と同じ考えに至っているようで、その顔には僅かに影がさしていた。
だが美波も千早も、今は周りを不安にさせることよりも安心させることを優先した。
310 = 297 :
それから四人は話し合い、
今後は闇雲に動き回るのではなくこの灯台を拠点とすることとした。
誰かがここを目指して来てくれるかも知れないし、
上にのぼって外に出れば何かあった時に発見もしやすくなる。
野宿することもなく、体力も温存できる。
必要に迫られれば当然ここを離れるが、
それまでは腰を落ち着けてじっくりと話し合い、考えた方が良い。
灯台内部でもまだ調べられるところはあるだろう。
そのようにして四人は今後の方針を結論づけた。
ただ恐らく無意識ではあったが、四人には共通の認識があった。
今ここに居る者に関しては信頼できるだろう。
しかしやはりこの場に居ない他事務所のアイドルには全くの無警戒では居られない。
外を動き回って、もし襲われたら。
その可能性に対する無意識下での警戒心や恐怖心が、四人をこの場にとどめていた。
311 = 297 :
16:30 神崎蘭子
蘭子「あ、あの……誰か……」
地図を頼りに、蘭子はようやく集落にたどり着いた。
しかし着いたは良いものの、それはそれで蘭子にとっては不安だった。
ここに346プロの人が居れば良い。
だがもし、765プロの人だったら。
前に聞こえた大きな音のことが頭から離れない。
ひょっとすると、ここに来たのは間違いじゃなかったのか。
人を探すのをやめてすぐにでも森の中へ引き返すべきじゃないのか。
蘭子がそう思い始め、目にじわりと涙が浮かんだのとほぼ同時。
すぐ横の民家の扉が勢いよく開かれた。
312 = 297 :
蘭子「ひっ!?」
突然の出来事に蘭子はほとんどかすれ声のような悲鳴を上げ、頭を抱えてうずくまる。
しかし次に聞こえた声が目線を上げさせた。
李衣菜「やっぱり、蘭子ちゃんだった!」
蘭子「あ……り、李衣菜さん……?」
李衣菜「あ、あぁごめん、びっくりさせちゃったね」
しゃがんだまま涙目で李衣菜を見上げる蘭子。
それを見て李衣菜は自分が蘭子を驚かせてしまったことに気付く。
しかし謝罪もそこそこに、すぐに話題を次に移した。
李衣菜「えっと……蘭子ちゃん今、一人だよね?」
蘭子「えっ? は、はい……」
李衣菜「それじゃ取り敢えず中入って! 早く!」
313 = 297 :
李衣菜に急かされて蘭子は慌てて立ち上がる。
そして手を引かれるがままに、扉をくぐった。
蘭子「お、お邪魔します……」
混乱しているのか礼儀として習慣付いているのか、
蘭子はこんな時にも関わらず挨拶を口にする。
次いで靴を脱いで上がろうとしたが、それは李衣菜に止められた。
李衣菜「脱がなくて良いよ。どうせ空き家なんだし、
それに、何かあった時にすぐ動けるようにしてなきゃ……」
蘭子「え……何か、って……」
と、蘭子は歩きながら疑問を口にしたが、その答えが返って来る前に、
もう一人の声によって李衣菜との会話は中断された。
みく「あ……ほんとに蘭子ちゃんだったんだね」
314 = 297 :
みく「良かった……。大丈夫、蘭子ちゃん? 怪我とかしてない?」
李衣菜「ちょっ、駄目だって! 起きるのは一時間に一回って言ったじゃん!
出来るだけ安静にしてなきゃ!」
蘭子「あ、あの、えっ……? み、みくちゃん、どうして……?」
何故か横になっていたみくと、起き上がろうとするのを止める李衣菜。
その二人のやり取りを見て、
友達に出会ったことで多少は和らいでいた蘭子の不安が再び色を濃くする。
李衣菜はそんな蘭子の不安を感じ取り、
一度目を伏せてからゆっくりと顔を上げて言った。
李衣菜「何があったか説明するよ……。適当に座って」
その李衣菜の表情は蘭子の不安を更に掻き立てた。
ごくりと喉を鳴らし、蘭子は恐る恐る李衣菜に向かい合うように、みくの横に腰を下ろした。
315 = 297 :
それから李衣菜は自分たちの身に、主にみくの身に起きたことを話した。
そして李衣菜の話を聞いて、蘭子は手が震えるのを止められなかった。
765プロの人達が、自分も少なからず憧れていたあの人達が、
自分達を殺そうとしている。
頭が真っ白になっていく。
視界が滲み始め、喉が閉まり、唇が震える。
みく「蘭子ちゃん……」
蘭子「っひ、ぇぐっ……」
みくは手を伸ばし、蘭子の手を優しく握る。
そして李衣菜は弱々しく嗚咽を漏らす蘭子を見て、拳に力が入るのを感じた。
守らなければいけない。
自分が絶対にこの子たちを守るんだ。
例え何があろうと、何をしようと、絶対に……。
316 = 297 :
今日はこのくらいにしておきます
続きは多分明日投下します
318 = 284 :
乙
もしぷちます伊織だったらサバイバル術心得てそうだからさらにヤバそうだよね
319 :
乙
方針の違いで同事務所内で対立する展開とかあるんだろうか…
320 = 284 :
ここの蘭子は熊本弁もう言わないだろうな・・・・
321 = 291 :
もし卯月が小鳥さんによって死亡してるのを知ったら両チームどう思うのか
322 = 286 :
うわぁよりにもよって灯台に篭っちゃうかぁ
嫌な予感しかしねーわ
協調で動こうとしてる組と敵と見なしてる組に別れそうだなこれ 既に卯月が死んだ以上協調はないだろうが
乙乙
323 :
19時までは同じエリアに1時間留まれないんだよな確か
それまで4人でウロウロするのか
乙
324 :
乙
協調路線
灯台組…春香 千早 美波 アナスタシア
律子組…律子 莉嘉
双海組…亜美 真美
脱出優先
杏組…杏 きらり かな子 (サブマシンガン所有)
李衣菜組…李衣菜 みく 蘭子
小鳥(ショットガン及び日本刀所有)
伊織(探知機所有)
美希
中立
貴音組…貴音 響 やよい
凛組…凛 智絵里(拳銃所有)
雪歩(探知機所有)
あずさ
不明
みりあ
未央
真
死亡
卯月
長文すまん 強力な武器持ちと行動指針軽くまとめてみた みりあちゃん1人…
325 :
あずささん禁止エリアに引っかかりそう
326 :
乙です
灯台+毒って組み合わせは…
>>324まとめ乙です
327 :
夜は相互確認もままならないので移動しない方が良いって思ってるだろうけどもしかしたら亜美真美と未央は不用心に歩き回ってしまうかもしれないな
みりあは行動が全く読めん…莉嘉のように怯えきってしまっているのかそれとも…
328 :
乙乙
結局春香の毒入りの水と食料はどこにいったんだ?
普通に置きっぱなしのままだったってことでいいのかな?
>>326
灯台は榊がいなければ安全だったから(震え声
329 :
卯月の死体って殺害状況から考えれば顔面崩壊しててもおかしくないな
誰が見つけてしまうのか…
>>326
毒物に対する共通認識があるから一応大丈夫
>>328
榊と雪歩が被る
330 :
亜美真美は346側の人物でも相手によっては安心できるが、杏組だったらヤバそう
もしみりあならすぐに仲良くなって一緒に行動しそう
問題は小鳥さんだよなぁ…
卯月をヤったの杏組により他の346組に話されたら騙して武器奪うのも無理だし
杏組より先に他の346組に合流して武器を奪わなきゃ
332 :
みりあやんないよ
333 :
16:30 四条貴音
海岸沿いを貴音、響、やよいの三人は慎重に進んでいた。
移動を始めた直後よりも更に慎重に。
理由は、少し前から二度ほど聞こえた大きな音だ。
距離は分からないが少なくとも気のせいではない程度にははっきり聞こえた。
周囲を警戒しつつ、また海岸に何か有用なものが無いか探しつつ、
貴音たちは少しずつ海沿いを北上していった。
また響は動物が居ないか森の中をずっと注視していたが、
それはどうも期待できそうにない。
鳥の一羽すら見ないというのはやはり、人為的な要因があるのだろう。
響も薄々そのことに気付き、
もう動物を探すのは諦めたほうが良いかも知れないと思い始めた……その時だった。
334 = 333 :
進行方向へ何気なく向けられた響の目に、何かが映った。
海岸に何か、大きめの物が落ちている。
色合いからして明らかに人工物だ。
しばらくじっと見つめていた響だが数秒後、息が詰まった。
響「た、貴音、やよい!! あれ!!」
突然名を呼ばれ、貴音とやよいは驚いて響に顔を向ける。
次いで、響が指差す方向へ視線を移す。
その先にあった「何か」。
やよいはそれを見て、思わず声を上げた。
やよい「ひ、人……。人が倒れてます!!」
335 = 333 :
それを聞き、ようやく貴音にも見えた。
確かに人だ。
砂浜に人が一人、倒れている。
響「た、大変だ……!」
そう言ってまず先陣切って走り出したのは響。
次いで、やよいと貴音がその後を追う。
遠目から見るとまったく動いているようには見えない。
きっと大怪我をしているんだ。
あるいは気絶しているのかも知れない。
色々と考えるうちに響の足は徐々に加速していく。
そして段々と、人影の姿もはっきりしてきた。
336 = 333 :
もう間違いない、どう考えても人だ。
と確信したその直後。
響の足は地面に固定されたようにぴたりと止まった。
その理由を、やよいも貴音も聞かなかった。
聞くまでもなく分かった。
二人にも、はっきりと見えていた。
いつの間にかやよいは響の腕にしがみついている。
その呼吸が乱れているのは走ったせいではない。
響もやよいも、一点を見つめたまま微動だに出来なかった。
しかしそんな二人の横を貴音はゆっくりと通り過ぎ、
一人その人影のもとへ歩いて行った。
貴音、と響は呼び止めようとしたが、声が出ない。
やよいもまた同様で、涙を浮かべた目で貴音の背中を追う。
337 = 333 :
数秒経ち、とうとう貴音はたどり着く。
そして響達に背を向けたまま、静かに言った。
貴音「……ご安心を。765プロの者ではないようです」
それを聞き、響は訳の分からない感情が一気に沸き上がってくるのを感じた。
これが一体何なのか自分でも分からない。
またやよいも、今この状況で冷静にそんなことを言える貴音に驚きを隠せなかった。
それがいい意味でなのか悪い意味でなのかは分からない。
とにかく今の二人には、貴音のことが本当に分からなかった。
謎が多いだとかそういう問題ではなく、
本当に貴音のことが理解できないと、そう思ってしまった。
だが次の貴音の行動を見て、二人のその思いは急激に引いていった。
貴音はそのまま黙って、遺体の横に膝をつき、
そして……素手で、砂を掘り始めた。
338 = 333 :
これを見て、響とやよいの二人の硬直はようやく解けた。
震えながらも一歩一歩足を踏み出し、
そしてとうとう、はっきりと目で見える位置まで来た。
同時に二人は目を強く瞑って俯き、再び足を止めてしまう。
貴音「……無理を、しないでください」
貴音は背を向けて砂を掻き出しながら、二人に向けてそう言った。
しかし数秒後、やよいは覚悟を決めたように走り出し、一気に貴音の隣にまで近寄る。
そして隣に跪き、貴音と同じように黙って穴を掘り始めた。
響もそれに倣い、やよいのように勢いよくとは行かなかったが、
徐々に距離を縮め、そして二人に並んで膝をつく。
互いに表情は見ず、言葉も発さなかった。
それからしばらく辺りには、波の音と砂を掻く音と押し殺された嗚咽だけが聞こえ続けた。
339 = 333 :
あれからどのくらいの時間が経ったか。
貴音たちはようやく埋葬を終えた。
とは言っても、ただ窪みに遺体を入れて砂をかけただけ。
満潮時に波が来るであろう位置からは離れているとは言え、
時間が経てば砂も吹き飛んでしまうかも知れない。
墓というにはあまりに粗末なものだった。
だが今の彼女たちにできることはこれが精一杯だった。
響とやよいが海水で軽く手を洗い終えたのを見、貴音は静かに声をかけた。
貴音「……進みましょう」
短いその一言を聞き、二人は返事をすることもなく荷物を持って歩き始めた。
表情は暗く俯き、誰一人会話しようとしない。
この雰囲気がずっと続くと思われたがしかし、
少し歩いた後、今度は唯一顔を上げていた貴音が足を止めた。
340 = 333 :
それに気付いた二人が貴音を見上げると、彼女は遠方をじっと見つめていた。
二人がその視線を追うと、少し離れた岩場に座る一つの影が見えた。
そしてすぐに分かった。
その人影に向かって、やよいが真っ先に声を上げて飛び出した。
やよい「こ、小鳥さん!」
響「っ……ピヨ子ぉ……!」
やよいに続いて響も駆け出す。
また小鳥も、やよいの声でこちらに気付いたようだった。
しかし立ち上がることはなく、顔を背けて俯いてしまう。
貴音はそんな小鳥の様子を疑問に思いながらも、二人のあとに続いて駆け出した。
341 = 333 :
やよい「小鳥さん、小鳥さぁん……! 私ぃ……!」
小鳥「……やよいちゃん……」
やよいはとにかく知り合いに会えたことが嬉しく、
言葉にならない感情を小鳥の名を呼んで表現する。
そんなやよいに小鳥が目を向けた直後、今度は響が叫んだ。
響「ピヨ子、違うんだよね!? ピヨ子は自分達のこと好きだよね!?」
小鳥に二の句を継がせない勢いで話しかける響。
響が言っているのは、あの白い部屋でのことだ。
狂ったゲームについて淡々と説明していた小鳥の心情。
美希の言葉で察しはついたものの、響は本人の口から直接聞きたくて仕方なかった。
響「ピヨ子だって、本当はこんなことしたくないんでしょ!?
人殺しなんて絶対……」
しかしここでその勢いは止まる。
響は、小鳥の脇に置かれた凶器に気付いた。
342 = 333 :
やよい「そ、それ、ピストルですか……? 本物の……」
貴音「……」
響に続いてやよいと貴音も気付く。
やよいは「ピストル」と言ったが、それならまだ可愛らしい。
小鳥が持っているそれは拳銃などではない。
そして、三人は気付いた。
小鳥の服が、赤黒い染みで汚れていることに。
響「え……? ま、待って、違うよね? そんなことないよね……?」
小鳥「……」
響「あ……そ、そうだピヨ子! さっき、向こうで、し、死体、見つけて……!
あ、危ないんだ! 多分346プロの子だと思うんだけど、
もしかしたらあの子を殺した犯人が、ち、近くに、居るかも知れなくて……!」
343 = 333 :
響は頭に浮かんだ可能性をかき消すように小鳥に叫ぶ。
しかし小鳥は何も答えない。
ただ黙って響を見、響の言葉を聞き続ける。
響「ね、ねぇ、なんで黙ってるの? 何か言ってよ、ねぇ!!」
反応を返さない小鳥に対し、響の感情は加速する。
黙ったままの小鳥の肩を掴み、そして揺さぶるようにして響は叫び続けた。
響「そ、その銃、使ったのか? ねぇ、それ使ったのか!?」
貴音「響……少し落ち着いてください」
響「答えてよ!! ピヨ子、黙ってないで答えてよ!!
ピヨ子が殺したの!? あの子、本当にピヨ子が殺したのか!?」
344 = 333 :
貴音はなだめようとするが、その言葉が聞こえないのかあるいは無視しているのか、
響はまったく落ち着こうとする様子はない。
そしていつの間にか響の困惑は、確信を経て、怒りへと変わりつつあった。
だが感情に任せて言葉を発しているというよりは
自分の言葉に引っ張られて感情が高ぶっているような、今の響はそんな状態だった。
響「なんで!? なんで殺したの!? なんでそんなことしたんだよ!?」
貴音「冷静になるのです、響。今の貴女は……」
響「その銃で撃ったんだよね!? なんで!? 酷い、酷すぎるぞ!!」
貴音「っ……響、ですから……!」
響「最低だぞ!! 本当はやっぱり、なんとも思ってないんじゃないのか!? この、人ごろ……」
貴音「響!! 落ち着きなさいッ!!」
345 = 333 :
その瞬間、響の怒声をかき消すほどの大声が辺りに響き渡った。
今まで聞いたことのない貴音のその声に、やよいは既に涙で滲んでいた目を向け、
響も目を見開いて顔を向ける。
続いて貴音は、落ち着いてはいるものの強い語調で、響に向かって言った。
貴音「響。今の貴女は、瞳が曇ってしまっています。
私たちの知る小鳥嬢の姿を、顔を、よく思い出しなさい。
そしてもう一度落ち着いて彼女を見なさい。
それでもなお小鳥嬢を責めようと言うのであれば、
私は貴女の頬を張ってでもそれを止めましょう」
貴音の言葉を聞き、響は今度はゆっくりと、小鳥に目を向ける。
そして、ようやく気付いた。
小鳥の目が真っ赤に腫れていること、悲哀に表情が歪んでいること、
衣服が血以外のもので汚れ、ツンと鼻をつく胃液のにおいが漂っていること、
自分の質問に答えなかったのではなく、答えることができなかったのだということに。
346 = 333 :
今まで見えていなかったものが見え、
響はようやく自分が小鳥にしていたことに気付いた。
小鳥の行いは、自分たちを思ってのことだった。
人殺しが悪いことなんて、そんなこと小鳥だって分かってるに決まってる。
でも小鳥はその上で、自分たちのために自らの手を汚したんだ。
だからと言って人を殺すのを簡単に受け入れられるかと言われれば、できないと思う。
でも、それでも少なくとも、自分は小鳥を責めてはいけなかった。
それなのに自分は、貴音が止めてくれなければ
取り返しのつかないことを言ってしまうところだった。
いや、もう言ってしまったようなものだ。
響は小鳥に謝ろうとしたが、どう謝れば自分のしたことを許してもらえるか分からず、
考えるうちに謝罪より先に涙が出てきてしまった。
347 :
ええぞ!ええぞ!
348 = 333 :
地面に座り込み嗚咽を漏らす響。
貴音はそんな響の肩を抱き、優しく囁きかけた。
貴音「実直さは、貴女の魅力の一つです。人を傷付けることを許さない優しさも……。
しかし、大切なものを見失ってはいけません。
見失ってしまえば、貴女自身が誰かを傷付けてしまうことになります。
……優しい貴女が、これ以上人を傷付けてしまう前に止められて良かった」
と、ここで貴音は響から視線を外してやよいに向けた。
そして薄く笑い、
貴音「やよい。少しの間、響をお願いできますか?
私はその間、小鳥嬢と話したいことがあるのです」
やよい「は、はい!」
やよいの返事を受け、貴音は静かに立ち上がる。
そして小鳥を連れ、声がギリギリ届かない程度まで響たちから距離を取った。
349 = 333 :
・
・
・
響「……自分、どうしたらいいのかな」
やよい「え……?」
貴音と小鳥が離れた後、響は独り言のように呟いた。
そして俯いたままでぽつりぽつりと続ける。
響「さっきまで自分、人殺しなんて絶対嫌だって、思ってたんだ。
自分が殺すのも、誰かが誰かを殺すのも、絶対嫌だって……。
だから、ピヨ子が人を殺したって知って、
すごくびっくりして、悲しくなって、訳わかんなくなって……。
でもそれは、自分達のためで……」
やよい「……」
響「もう、仕方ないのかな……。自分も、765プロのみんなのために、
346プロの人達……殺さなきゃ、駄目なのかな……」
350 = 333 :
こんなことをやよいに聞いたところで、やよいを困らせてしまうだけ。
分かってはいたが、響は半ば自問自答のような、
あるいは自分の気持ちを吐き出すような気持ちでその疑問を口にした。
しかしやよいはしばらく響の横顔を潤んだ瞳で見つめたあと、
目を伏せ、そして言った。
やよい「……私は、できないと思います……。
それに、小鳥さんは、もう、殺しちゃったけど、でも……。
私は、これ以上小鳥さんに、誰も殺して欲しくないです……」
響「……やよい」
やよい「で、でも、誰かを殺さなきゃ、みんな死んじゃうから……。
それから、小鳥さんを一人ぼっちにしちゃ駄目だと思うし、
あ、でも、もし小鳥さんがこれから誰かを殺そうとしたら……。
と、止めた方が良いのか、止めちゃダメなのか……わ、わからないけど、でも……!」
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