元スレ八幡「やはり俺の世にも奇妙な物語は間違っている」
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――だが、それではダメだ。
脳裏に相模の目が思い浮かぶ。あの目は、自分の現状を呪っている人間にしかできない。ソースは俺。
きっとこのまま放って置いては、相模南はずっと救われないままだろう。時が解決する問題かもしれないが、数ヶ月後には相模も受験生になる。
総武高に通うくらいだから、進学志望だろう。そんな人生を左右するような時期を、このままで迎えてはいけない。迎えさせては、いけない。
もしも、全ての出来事に意味があるのなら――
――俺が『俺ガイル』を経験したのは、総武高で起こってしまった事件を解決するためなのかもしれない。
俺がすべきなのは、きっと『比企谷八幡』が行ったような問題の解消ではない。俺、比企谷八幡がすべきなのは、問題の解決だ。
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八幡「もしもし、比企谷です」
平塚『なんだ? 相模は見つかったのか?』
八幡「いえ、まだです。ただ、心当たりがありまして」
平塚『……なるほど、私の協力がまた必要だと』
八幡「先生察し早すぎじゃないすか?」
何なのこの人、実はエスパーなの?
平塚『まあとりあえず校門に来い。他の職員には私から言っておく』
八幡「わかりました」
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平塚先生と合流した――のはいいが。
八幡「何でお前たちまでいるんだ?」
結衣「やっぱりいても立ってもいられなくて、一人じゃ危ないから、ゆきのんと平塚先生も一緒なら大丈夫かなって」
まあ平塚先生がいるなら心配いらないな。多分痴漢とかに襲われても、相手が病院送りになるレベル。
雪乃「それにあなた一人に任せられるわけないでしょう?」
八幡「どんだけ信用ねぇんだよ俺……」
まあ出会ってまだ一週間も経ってないから当たり前か。
平塚「で、心当たりというのは?」
八幡「あ、ええっとですね……」
ヤバいどうする? 平塚先生しかいないと思ってたから、何も考えてなかった。
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平塚「あ、雪ノ下に由比ヶ浜。私職員室に携帯置いてきてしまったから、それを取りに行ってきてくれないか?」
雪乃「どうして、私たちが……? 自分に取りに行けばいいのでは?」
平塚「まあそう言うな、歳上の人間に貸しを作っておくのも悪くないぞ?」
雪乃「先生の場合、その貸しの事を忘れてしまいそうですが」
平塚「いいから、行って来い、二人とも。教師命令だ」
雪乃「理不尽ですね……」テクテク
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平塚「……すまなかったな。君のここの知識がゲームに基づいている事をすっかり忘れていた」
八幡「いえ、平塚先生の機転のおかげで助かりました」
平塚「まあ礼はあとでいい。それで、どこなんだ?」
八幡「屋上です」
平塚「えっ?」
八幡「あそこの鍵は壊れていて出入りが自由なんです。確か女子の間では有名な話だったような……」
平塚「……比企谷」
八幡「はい?」
平塚「確かに、屋上の鍵は壊れていた。それは事実だ。だがな――」
平塚「――去年の十一月に修理して、今は入れなくなっている」
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八幡「……えっ?」
『俺ガイル』と、ズレている。あの世界では屋上の鍵が修理されたなんて話を聞かなかった。きっとされてもいなかっただろう。
相模たちの運命が変わったのは、俺がいなかったからだろうが、屋上の鍵の話はそれに結びつかない。
俺がいなかった事と、屋上の鍵の事は何の関係もないはずだ。
ここまでほぼ一致していたのに、なぜ?
八幡「……あっ」
八幡「バタフライ……エフェクト……?」
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バタフライエフェクト。
バタフライ効果とも言う。
小さな差が大きな差となる事を表す言葉で、有名な例えに蝶の羽ばたきが遠く離れた場所の天候に大きな影響を及ぼす、というのがある。
ちなみに風が吹けば桶屋が儲かるとは違うみたいだから気をつけろよ。
つまり、俺がいなかったという小さな差が、この学校の屋上の鍵が直されるかどうかの違いになったというわけか。俺の存在で変わるのそれだけかよ。
てかそんなのとうでもいいな。正直ちょっと某中二病の何とか院さんに憧れただけだし。エル・プサイ・コングルゥ。
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八幡「マジかよ……」
平塚「君の見てきた世界では屋上の鍵は直されていなかったのか?」
八幡「……はい。まさかこっちでは直されているなんて。俺が関わってないところでは、変化はないと思ってたんで、正直驚きました」
平塚「まさに風が吹けば桶屋が儲かる、というやつだな」
八幡「……先生」
平塚「ん、なんだ?」
八幡「それ、使い方間違ってます」
平塚「えっ?」
この人、本当に国語教師なのかよ。
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雪乃「で、結局心当たりは間違ってたと」
八幡「……そういう事になりますね」
結衣「その心当たりって何だったのー?」
八幡「……っ! えっとそれは……」
平塚「それよりもだ。まだ相模は見つかってない。明日から学校も始まるというのに、こんな問題を抱えたままではあまりよくない」
平塚「三人とも、他に心当たりはないのか?」
先生GJ。こんなに心配りできるのになんで結婚できないんだ?
結衣「うーん……最近はあんまりさがみんと話さないしなー」
雪乃「私も文化祭以来、接点はないわね」
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八幡「…………」
もう一度最初から考え直そう。
まず、現状の確認。
相模南は大晦日の夜から今日の今まで行方不明。短いな。
八幡「……誘拐、とかは?」
平塚「一応その線で今、警察は捜索している。ただこの歳で行方不明だと、家出の場合が多いからな。家に電話したところ、行き先は告げずに出て行ったらしいから、私は家出だと思っている」
八幡「そうすか」
誘拐ではないとして考えよう。誘拐だったらそれこそ、俺たちにはお手上げだ。
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書き溜めが切れましたので、投下が遅くなります。ごめんなさい。
八幡「……やっぱあれなのか?」ボソッ
雪乃「何か言ったかしら?」
八幡「いや、ただの独り言だ」
それはほとんど確率はゼロと言ってもいいような可能性。
そして何より、俺が認めたくない可能性の話だ。
これを真実と認めたら、他の俺の中での仮説が一気に確実性の高いものになる。
本当はその可能性の確認になど行きたくない。
しかしもしそれが真実であるのならば、俺は今、その確認をしなくてはいけない。
それは相模南のためではなく、俺のために。
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八幡「すまん、今日はもう帰るわ」
雪乃「どうしたの? 急に」
八幡「ちょっとな。あんまり人には話したくない。じゃあな」クルッ
俺は逃げるようにその場を離れた。
雪乃「……そうやって」ボソッ
雪ノ下が何かを呟いたが、俺は振り返らずに歩を進めた。
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チャリを走らせ数十分。
予想通り、相模南はそこにいた。
ああ、やっぱりここにいたか。
なんでいるんだよ。
ここにだけはいないで欲しかった。
八幡「……よう」
俺は話しかけた。もう、後戻りはできない。
そこは、あの博士のいた店の前だった。
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相模「あんた……ゆいちゃんと一緒にいた……」
八幡「もう知らんふりしなくてもいいんだぜ? お前なんだろ? あの時そこで、俺を見ていたのは」
あの時の曲がり角を指差す。店がなくなって呆然としていた時の事だ。
相模「…………」
八幡「そして、お前なんだよな? この店に通っていたもう一人の客は」
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相模「……何の事よ」
あくまでも相模は何も知らないふりを続けるつもりだ。
八幡「……仮想現実体験装置」
相模「!?」ビクッ
八幡「もう言い逃れはできないな」
相模「…………」
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多分、最初に廊下で相模に会った時に、心のどこかで俺は気づいていた。
こいつは、俺と同じだと。
俺と同じように、あの装置に手を出してしまったのだと。
ただ自分の人生を絶望するとは言っても、そこには限度がある。
――自分の人生しか知らないのであればの話だ。
しかし俺たちは仮想現実体験装置というものによって、他人の人生を体験、いや最早経験してしまった。
そしてその人生はあまりにも輝かしすぎて、だからこそ自分の人生があまりにも退屈で平凡で、腐っているように思ってしまった。
それは俺も同じだ。いや、今は『だった』と言う方が正しいだろう。
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八幡「この数日間、ずっとこの店を探してたのか?」
相模「……っ! そ、そうよ! いろんなところ回ったわ……!」
八幡「家にも帰らずにか。ずいぶんとご立派な事で」
相模「バカにしないで! あんたと違ってウチにはあの世界しかないの! あの世界でしか、ウチの存在価値はないのよ! だから邪魔しないでよ!」
この状況は、あの文化祭の時に似ているな、と思った。しかしあの時とは違う。葉山はこの場には現れないし、もし現れたとしても本当に何もできないだろう。今この世界で、彼女を説得できるのは、同じ経験をした俺しかいない。
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八幡「俺も、あの装置を使った」
相模「……わかるわよ。あんたの口ぶり聞いてれば」
八幡「……俺もお前と同じだったんだ」
相模「……?」
八幡「俺も、お前と同じようにこの世界に絶望した。お前と違って俺はうまれてからずっとボッチだったからな。あの世界にいる自分に死ぬほど嫉妬した」
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バカには見えないレス
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相模「…………」
八幡「考えてもみろよ。ずっとボッチだった奴があの装置の中で初めて人と接する事ができたんだ。それは依存するし、その中の自分に嫉妬するだろう?」
相模「それは……そうかもしれないけど……」
八幡「お前はどうなのかわからんが、俺はそんな自分が嫌いになったよ」
相模「…………」
八幡「だから俺は変えようとした。この世界をだ」
それは奇しくも『俺ガイル』の最初で雪ノ下が言った事と一致していた。
八幡「確かにこの現実で何かするなんてすごい勇気いるよな? それでも俺は振り絞った」
あの時、雪ノ下に話しかけなくたってよかったのだ。その方がずっと楽だったし。
八幡「……そして雪ノ下たちと知り合えた」
相手が雪ノ下であるという時点で少しズルをしている気がするが、今は相模を説得するためにスルーしよう。
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544 :
いいね
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八幡「……もしも、雪ノ下たちに会えていなかったら、俺もお前と同じようになってたかもしれない」
八幡「だから……お前の事が放っておけないんだ。まるで自分を見ているみたいだからな……」
相模「…………」
さっきから相模は何も言えずにただうつむくばかりだ。
八幡「一つ聞くが、お前は今の自分が好きか?」
相模「っ……」
八幡「今の、機械に頼って依存して、挙げ句の果てに周りの人にまで迷惑をかけてしまう自分を好きになれるのか?」
今の質問は少しズルいな。こんなのにイエスと答えられるなんて、去年の十一月の俺くらいじゃねぇの? やだ、俺、ひねくれすぎ。
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相模「そんなの……ズルいよ……っ」
相模の目に涙が溜まり始めた。それを見て心が痛むが、まだ優しくするような時間じゃない。まだあわわわわわわのコラを見て吹いたのは俺だけか?
八幡「質問に答えろよ」
相模「好きに……なれるわけ……っ! ないでしょ……!!」
ようやく相模は涙を流した。それは文化祭の時に流したような軽い涙ではない。真剣に悩みに悩んで、泥の中を這いずり回るような思いをしてようやく流せた、涙だ。
八幡「なら、変われよ。変えようとしろよ」ガッ
感情が高ぶりすぎたせいか、つい相模の両肩を掴んでしまった。相模の目が大きく見開く。
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