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    元スレ雪乃「LINE?」結衣「そう!みんなでやろうよ!」

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    851 :

    やっはろー!1です

    投下してくよー

    852 = 177 :

    晩御飯。今日も今日とて仕事な両親に感謝しながらただ飯を食らう。いやー働かずに食べるご飯は最高だー。

    諸事情あって若干怒り気味な小町と仲良くテーブルにつく。……ちゃんと仲いいよ?小町と俺だもの。ほんと若干少しだけ小町キレてるけど。

    八幡「あー、そういや今日風で飛んだ看板が目の前を通りすぎてな」

    小町「ふーん」

    八幡「あれは死ぬかと思ったわ。っていうか雪ノ下が呼び止めてくれてなかったら冗談抜きで当たってたかもしれない」

    小町「ふーん」

    八幡「ほんと今日は雪ノ下に助けられっぱなしだったよ。傘借りたし風呂も借りたし、その上あいつの姉の魔の手から俺のこと救ってくれたし。魔の手つっても抱きつかれただけだけど」

    小町「待って」

    小町の機嫌を治そうと久々に饒舌に喋ってみたが、よく分からないところで話を切られた。

    割りとテンポよく話を進めてたつもりなんだが……何がご不満なんだろうか?あ、オチまでが長い?

    小町「お風呂借りたってなに?お兄ちゃん今日なにしてきたの?」

    八幡「え、部活して生徒会長の仕事の手伝いして陽乃さんに家まで送ってもらったくらいだな」

    小町「それも充分凄いけど、さっきの雪乃さんの風呂借りたってなに!?」

    八幡「はっはっは、失言失言。忘れてくれ」

    小町「無理だよ!」

    しまった、俺としたことが小町の気を引きたいがために今日のことをぽろっと話してしまった。俺どんだけ小町のこと好きなんだよ。大好きだよ!!

    八幡「ちょっとな、雨が酷かったのと強風に一生もんのトラウマができたから雨宿りさせてもらったんだよ」

    小町「一生もののトラウマを軽い感じで流したのにびっくりだけど、もっと凄いことしでかしてるお兄ちゃんに不安が隠せないよ」

    八幡「しでかしてるって言うなよ。なんもしてないぞ」

    全裸見られたけど。陽乃さんに。

    小町「うんまあお兄ちゃんヘタレだし特になにもしないとは思ってるけどさ…………雪乃さんは…………」

    何かをぼそぼそと言い始めた小町。とりあえず機嫌は治ったようだ。これで安心して飯が食える。

    小町「ま、一から全部説明してもらえばいっか」

    八幡「よくないぞ」

    小町の笑みはまさに獲物を見つけたときのそれで、ほんとこの子陽乃さんに似てきてる気がする。

    晩御飯を食べながら今日あったことを話す。なんとか帰り道のことは省略しようとするも小町の前ではそんな小細工はきかない。根掘り葉掘り聞き出されてしまった。

    これ小町がすごいんじゃなくて俺がちょろいだけなんじゃないか……?

    小町「ふむふむ、つまり結衣さんほっぽりだして雪乃さんとイチャラブしてから陽乃さんと帰ってきたと」

    八幡「その言い方やめろ」

    853 = 177 :

    小町「いやいや、要約しちゃえばこういうことでしょ?さすがごみいちゃん、小町的に超ポイント低い」

    八幡「そうなんのか……」

    額に手を当てながら考える。確かにいくらか言い訳はしたいが、それでも行き着くところは同じだろう。

    八幡「俺クズみたいだ……」

    小町「みたいじゃなくてそのものだよ」

    容赦ない小町の言葉がグサグサ刺さる。まあ自業自得だよな……。

    小町「……結局さ、お兄ちゃんが決めてるのか決めてないのか。そこが大切なんだよ」

    八幡「陽乃さんみたいなこと言うなよ」

    小町「言うよ。見てらんないもん」

    真剣に言われてしまい、返す言葉がなくなる。

    だが、そもそも小町も陽乃さんも勘違いしているのだ。

    俺はすでに選んでいる。あの日、由比ヶ浜を選ばないということを選んでいるのだ。

    なら、それが答えだろう。

    八幡「……少なくとも、お前が考えてるようにはならねえよ」

    小町「ほんと?」

    八幡「ああ、俺が働かない確率と同じくらいに絶対だ」

    小町「それだいぶ低いと思うんだけど……」

    なにを言う。俺は専業主夫になると心に決めているのだ。あくまで目標だが。

    小町「一応お兄ちゃんのこと信じてるから、いつもは若干甘い採点してるけどさ。これだけは辛口だからね」

    八幡「あいよ、赤点にはならないよう気を付ける」

    小町「せめて平均点くらいは目指しなさい」

    八幡「……はい」

    可愛い妹に怒られると強く反論できない。千葉のお兄ちゃんの悪い癖だ。

    854 = 177 :

    なんとなくこの場に居づらくなったので、そそくさとご飯を食べる。温かい目で見てくる小町から逃げるように自分の部屋に引きこもる。もちろんMAXコーヒーを持っていくのは忘れていない。

    MAXコーヒーをちびちび飲む。冬に飲む冷たいMAXコーヒーも乙なものだな。温め忘れただけだが。

    いつものくせでスマホを取り出す。画面を見ると由比ヶ浜からLINEの通知が来ていた。

    to:由比ヶ浜結衣

    結衣【ヒッキーあのあと大丈夫だった?(´・ω・`)?】

    八幡【ああ】

    八幡【ギリギリな】

    結衣【ギリギリ!?】

    八幡【いや忘れてくれ】

    八幡【お前は?】

    結衣【帰れたよー(^-^)/】

    結衣【傘さしたのに全身びしょ濡れになっちゃったよ】

    ほう……ずぶ濡れ……っ。

    っていやいや駄目だろ俺。なに新年早々煩悩にまみれてんだ。

    除夜の鐘全然煩悩消し去ってくれてないんですけど。鐘もっと仕事してくれ。

    結衣【ゆきのん大丈夫かな】

    八幡【大丈夫だろ、多分】

    結衣【でもLINEの返信ないんだよね……】

    八幡【寝てんじゃねえの】

    結衣【かなー】

    八幡【何かあったらあの恐いお姉さんが黙ってないだろ】

    八幡【何もないってことは平和ってことだ】

    八幡【一応、俺も連絡してみるから】

    結衣【うん】

    結衣【ありがと!(。・ω・。)ゞ】

    八幡【礼言われるほどのことじゃねえよ】

    八幡【それじゃ】

    855 = 177 :

    由比ヶ浜とのLINEを終わらせて一息つく。雪ノ下が家に着くのをこの目で確認しているのだから大丈夫なのは知っているが、それを言わずに安心させるのは苦労する。あのまま続けてたらボロを出してたかもしれない。

    俺と同じようにケータイも疲れているのか動きが遅い。最近使いすぎて疲れたのだろうか。まあ今まで目覚まし機能付き暇つぶし道具としか使っていなかったのだから無理もないか。

    酷使して申し訳ないが、由比ヶ浜にああ言った手前雪ノ下にLINEしないわけにはいかない。

    to:雪ノ下雪乃

    八幡【今日は助かった、ありがとう】

    八幡【由比ヶ浜が返信が来ないって心配してたぞ】

    八幡【あとで返信しといた方がいいと思う】

    簡単にLINEを送って終わりにする。由比ヶ浜に返信しなかったということは実際に寝てる可能性も高いし、こっちに返信がくることはないだろう。

    よし、スクフェスやろう。

    個人的な意見だが、初見でハードが出来るのが普通。一発でエキスパートができるのはプロフェッショナルだと思う。あれ一発で出来るとかおかしいだろ。

    戸部風に言えばまじっべーわーだ。自分の語彙力の少なさにびっくり。

    おっ、新曲が追加されている。よし、今日は……エキスパートでいこう。

    シャンシャン……シャシャシャン。

    エキスパートの中では簡単な方だったその曲をなんとか進める。通常のミスやケータイのラグのせいでコンボは繋がらないが、これならギリギリ……。

    シャンシャンシャピコン!

    八幡「っだぁぁ!!雪ノ下ぁ!」

    唐突に画面に割り込んできたLINEの送り主に届かない声を叫ぶ。体力0になった!ライブ失敗した!

    ふう……落ち着け俺……。あの譜面なら再チャレンジすればクリアできる。

    メンタルリセットをしてケータイに向き直る。

    856 = 177 :

    to:雪ノ下雪乃

    八幡【なんですか】

    雪乃【あなたからLINEが来ていたから返しただけなのだけれど】

    雪乃【なぜ敬語なのかしら?】

    八幡【気にしないでくれ】

    八幡【由比ヶ浜には返信したのか?】

    雪乃【ええ】

    雪乃【さすがにあなたや姉さんが来たことは伝えなかったけれど】

    八幡【ま、それが妥当だろ】

    八幡【余計なこと言っても意味ないしな】

    雪乃【ところで】

    雪乃【あのあと、姉さんと何かあったのかしら?】

    八幡【別に】

    八幡【普通に家まで送ってもらっただけだ】

    雪乃【そう】

    雪乃【ならいいわ】

    雪ノ下はこれで納得してくれたようだ。

    俺としてはまだあの人が俺の家の住所を知っていた理由について納得のいく仮説が思い浮かんでいないのだが、この恐怖はどうすればいいんだろうか。

    八幡【お前は大丈夫なのか?】

    八幡【なんか様子おかしかったけど】

    雪乃【大丈夫よ】

    雪乃【なんでもないわ】

    雪乃【気にしないで】

    こうも強調されてしまうと逆に気になってしまう。が、俺なんかが気にするようなことでもないのだろう。

    八幡【まあ大丈夫なら良かった】

    八幡【今日はほんと助かった】

    雪乃【気にしないでいいわ】

    雪乃【好きだもの】

    八幡【え】

    雪乃【今のは打ち間違えただけよ好きでやったことだからという胸を伝えようしたら言葉足らずになってしまっただけだから決して他の意味はないわだから勘違いしないでちょうだい別にあなたのことなんて好きでもなんでもないのだから】

    八幡【おう】

    あまりの長さに簡単な返事しか思いつかない。っていうか最後の文章まんまツンデレなんだけど。

    『勘違いしないでよね!あんたのことなんて好きじゃないんだから!』ってこと?なにそれ可愛い。

    857 = 177 :

    八幡【分かった分かった】

    八幡【ただの入力ミスだろ】

    雪乃【ええ】

    八幡【そんな焦んなくても分かる】

    八幡【あと胸も間違えてるぞ】

    雪乃【LINEだからと堂々とセクハラをしてくるとはさすがねセク谷君】

    八幡【セク谷君ってなんだよ】

    八幡【あと今のは誤字の話だ、セクハラじゃない】

    雪乃【確かに間違えていたわ】

    雪乃【ごめんなさい、いつものあなたの生活態度から勝手に思い込んでしまったわ】

    雪乃【いくら比企谷君とはいえいつでもセクハラをしているわけではないわよね。早計だったわ】

    八幡【謝る気ないだろ】

    雪乃【そんなことないわよ?】

    いつものように軽口を叩きあえることに少し安心する。俺と陽乃さんが雪ノ下の家から帰るときの様子はやはりおかしかった。が、今の様子を見ると何も問題はなさそうだ。

    いつもの調子でまた終わりの見えないLINEを続ける。だが、今回は意外と早く会話が終わる。

    というのも俺のケータイの調子がやはりよろしくないからだ。電源をきって一晩寝かせれば治るだろう。確証何もないけど。

    八幡【悪い雪ノ下】2:14

    八幡【ケータイの調子が悪いからちょっと休ませるわ】2:14

    会話の途中にさりげなくなんて真似ができるほど器用でもないので、会話をぶった切る。

    早く会話が終わるって言ったがもう2時だったのか……時間の感覚おかしくなってきてるな。

    雪乃【そう】

    八幡【ほんとにやばいからそろそろ切る】

    八幡【おやすみ】

    雪乃【おやすみなさい】

    雪乃【また明日】

    雪ノ下からの返信を確認して電源ごと落とす。その際も画面がラグっていたが……朝には治ってるだろう。相変わらず確証は何もないが。

    858 = 177 :

    今日はここまでです
    明日か明後日に修正加えた続きを投下予定なんでしばしお待ちを

    おやすみなさい

    861 :

    待ってた。1乙。

    862 :


    もう速報で読んでるのこのスレだけになったなあ

    863 :

    >>862
    わかる

    864 :

    やっはろー!1です

    >>862 >>863ありがとう超嬉しい頑張る

    というわけで若干投下していくよ!

    865 = 177 :

    小町「おはようお兄ちゃん。今日もこのまま奉仕部?」

    八幡「ああ、明日で冬休み中は最後だと」

    小町「そっか、残念だね」

    八幡「そんなことないだろ。家で一日中ごろごろも出来るし本だって読み放題だ。引きこもりになるつもりはないが、こんな時期くらいコタツムリくらいにはならせてくれ」

    小町「うわーほんと残念……」

    小町の呆れた視線を受けながらさっそくこたつにこもる。あ、やばいもう出れないかもしれない。

    小町「ほらお兄ちゃん、部活あるんでしょ。起きた起きた!」

    八幡「部活午後からだから大丈夫だろ……それに遅刻したって大丈夫大丈夫」

    小町「あんまりダラダラしてるとお兄ちゃんのケータイから平塚先生と陽乃さんに『愛してます』ってLINEしちゃうよ」

    八幡「おいばかやめろ冗談じゃなくなる特に平塚先生はやばいお前明日からあの人お義姉ちゃんって呼ぶことになるぞ」

    小町「し、深刻に考えすぎじゃ……あ、いや、でも……」

    自分の言ったことの恐ろしさに気づいたのか小町は顔をひきつらせている。ほんとにやばいんだからな。ダメ、絶対。

    八幡「一応寝てたら起こしてくれ……」

    小町「うん。でもほんとにダラダラしすぎてたら陽乃さんに送るからね」

    八幡「やめろ」

    866 = 177 :

    雪乃「こんにちは。今日はずいぶんと早いのね」

    部室に来ると、まだ由比ヶ浜の姿はなく雪ノ下一人だった。

    軽く挨拶をしてから定位置に座る。冷えきった椅子の冷たさが少しつらい。

    八幡「小町に恐ろしい脅迫をされてな。遅くならないようにいつもより早めに家を出たんだよ」

    雪乃「いい心がけね。ぜひその脅迫方法を教えてもらいたいわ」

    八幡「やめろ、まじでやめてくれ。恐ろしすぎて脅迫した小町でさえ引いてたからな」

    雪乃「余計気になるのだけれど……」

    そう言いながら雪ノ下はティーポットに手を伸ばす。俺の湯呑みに紅茶を注ぎ、一瞬動きを止めてから由比ヶ浜のマグカップにも紅茶を注ぐ。

    数秒して、外から足音。

    結衣「やっはろー!」

    雪乃「こんにちは、由比ヶ浜さん」

    マジでエスパーなんじゃねえのお前。

    結衣「ヒッキーもやっはろー」

    八幡「こんにちは、由比ヶ浜さん」

    結衣「なんでゆきのんと同じ挨拶!?」

    驚く由比ヶ浜をよそに、雪ノ下はマグカップと湯呑みを置き最後に俺のことを睨み付けて席に戻った。

    え、めちゃくちゃ怖かったんですけど今の。

    結衣「今日は晴れたね!昨日のどしゃ降りが嘘みたい!」

    雪乃「そうね。昨日は雨風がひどくて帰るだけでも一苦労だったわ」

    結衣「ヒッキーは自転車大丈夫だった?」

    八幡「自転車?……あ、なんとか大丈夫だったぞ」

    一瞬何を言われたのか分からなかったが、由比ヶ浜には自転車で帰ると言ったのを忘れていた。

    つか偶然とはいえ今日由比ヶ浜より先に来て正解だったな。こいつがわざわざ自転車置き場まで行くとは思えないが、万が一にも見られてたら少し厄介なことになってたかもしれん。

    由比ヶ浜は俺の返事に相づちをうち、そのまま雪ノ下との話に移った。深追いされなくて助かった……。

    っていうか、明日で冬休み中の部活終わりなのに何もやることなさそうなんだけど……大丈夫なのそれ?そろそろ学校の偉い人たちに怒られるんじゃない?

    俺の心配をよそに、結局何が起きるわけでもなく今日も部活は平和に終わった。怒られるのも時間の問題かもしれない。

    途中、千葉県横断お悩み相談メールに『ワンカラー』とかいうやつから先輩に弄ばれたとかいう相談が来たりしたが……なにはともあれ平和に終わったのだ。終わったんです終わったと言ってください。

    雪乃「鍵を返してくるから……由比ヶ浜さん」

    結衣「うん、いつものとこで待ってるね……ヒッキーも」

    八幡「え、いや俺は」

    結衣「昨日三人一緒に帰るって約束したでしょ?」

    八幡「ぐ……でも雪ノ下がいいって言わないだろ」

    雪乃「私は構わないけれど」

    な、なぜこんな時に限って罵倒の一つもなしに許可するんだよ。さっきのお悩み相談メールのときはあんなに俺を……いや思い出さないでおこう。

    867 = 177 :

    八幡「……まあ二人がいいんなら」

    結衣「うん!」

    楽しそうに笑う由比ヶ浜を先頭に三人で廊下を歩く。昇降口に行く途中途中で雪ノ下は職員室へ行くために一旦分かれる。

    昨日と同じように由比ヶ浜と二人きりだ。

    由比ヶ浜は俺の様子を伺うようにチラチラとこちらを見ながら話を切り出した。

    結衣「ゆきのんにはもう言ったんだけど、明日優美子たちと遊ぶから来れないかも……」

    八幡「そうか、分かった」

    業務連絡を速やかに終わらせる。こういうのは無駄に時間かけるもんでもないしな。

    由比ヶ浜の方を見ると、さっと目を逸らされた。そのまま由比ヶ浜が俺に質問をしてくる。その声はなんとなく寂しげに聞こえた。

    結衣「ヒッキーはさ、例えばゆきのんが奉仕部以外の人たちと遊ぶようになったら……どう思う?」

    八幡「……とりあえずまず驚く。あいつが俺たち以外……ってよりは由比ヶ浜以外と遊ぶ姿が想像できないからな」

    結衣「だよね。驚くし……あたしは寂しい、かな」

    八幡「…………」

    俺は何も言わない。その間を埋めるように由比ヶ浜が言葉を続ける。

    結衣「最近気づいたんだけどね、あたしってすごい欲張りなんだ。奉仕部での時間も優美子たちと遊ぶ時間も全部欲しい。……何も捨てたくないし、何も諦めたくないの」

    昇降口に着き、俺たちの足は止まる。けれど由比ヶ浜の言葉は止まらない。

    結衣「でも届かないって分かっちゃったら、諦めなきゃいけないものってあるからさ……」

    彼女は視線を俺へ向ける。俺は目を逸らすことができなかった。

    諦めなければならないもの。それが『物』なのか『者』なのか。何について言っているのか。

    ……確証はないし確定もしていないが、おそらく俺はそれを知っている。

    あの日から、知っている。

    結衣「ゆきのんのこと、お願いね」

    八幡「……っ」

    手に入らないのなら、せめて諦められるくらいに遠くへ。

    そういうことなのだろうか。だが、ここで聞いたところできっと彼女は答えを教えてはくれない。

    だから、自分に問うしかない。

    遠くから足音が聞こえてくる。まもなく、雪ノ下の姿が見えた。

    雪乃「待たせたわね」

    結衣「そんな待ってないよー。よし、じゃあレッツゴー!」

    さっきまでの空気を吹き飛ばすように、由比ヶ浜は元気に歩き出す。思えば三人で帰るのはかなり珍しいかもしれない。

    校門まで来たあたりでなんとなく振り返って校舎を見る。夕陽に染まる校舎は哀愁を漂わせていて、いつか来る終わりを連想させる。

    俺たちがここの生徒でいられるのだって、そう長くはない。そのあと、俺たちは今のままではいられないだろう。

    雪乃「比企谷君?」

    結衣「ヒッキー?」

    八幡「……ああ、悪い。今行く」

    先を行っていた二人に早足で追いつく。

    三人でいるこの風景を、俺はあと何回見ることができるのだろうか。

    868 = 177 :

    ケータイが壊れた。

    帰宅後、部屋でケータイを使いだした瞬間『ブチッ』という音がして電源が入らなくなったのだ。

    充電しても叩いても直らない。温めてみても冷やしてみても、少し放置してもうんともすんともいわない。

    完全に壊れた……。

    あのどしゃ降りの雨で水が入ったのだろうか?それともおやさめ事件のとき叩きつけたから?あるいは使いすぎ?

    理由はいろいろ思い付くが、それを特定したところで意味はない。問題はLINEが使えないことと……あれ、それくらいだな。

    最近LINEとネットと目覚まし以外の機能を使った記憶がない。ネットだって暇つぶしに使ってただけだし目覚ましなんてどうとでもなる。LINEだって使えなくても……。

    いや待て。

    もしも、このタイミングで戸塚からLINEが来たら……?

    返信どころか気づくことすら出来ない!戸塚を無視したと思われる!そ、それはなんとかしなくては……。

    まあそれに、雪ノ下や由比ヶ浜も……アレだし。

    小町経由でケータイのこと伝えてもらうか。あいつ戸塚のLINEは知ってるかなー。

    八幡「こまちー」

    リビングに行くと、タイミングよく小町が休憩をとりに来ていた。

    小町「どったのお兄ちゃん?」

    八幡「ケータイが壊れた」

    小町「えっ、それやばくない?」

    八幡「まあそんな焦ることでもねえよ。どうせ連絡なんてこないし。それより戸塚と雪ノ下と由比ヶ浜に壊れたって伝えてくれるか?」

    小町「いいよー。しかしお兄ちゃんもそんな気遣いが出来るようになったんだね……小町嬉しいよ」

    八幡「お前は俺の母ちゃんか」

    小町「お母さんはもっと雑な反応だよ」

    八幡「確かに」

    悲しいかなこれが現実。ちなみに親父はもっと雑だ。

    小町「その三人だけで大丈夫?平塚先生とかも連絡しとく?」

    八幡「あー……頼むわ」

    一色や材木座にも連絡した方がいいかとも思ったが、あの二人のLINEを小町が知ってるとも思えない。

    というより知ってたら許さない。材木座を。

    869 :


    横須賀鎮守府家

    俺タワーンゴ【メンテナンスンゴ】

    ひつじ×クロニクル【腐外道女子改変】穢されたシスターンゴ

    ようこそ画面黒い【全アイテムカンスト】要求ンゴ

    ロード永遠ダークネスンゴ終了

    ロード遅いヤル気と課金要素邪魔

    ダンジョン×プリンセス終了~他衰退 併 婦女子シネ

    ハーレムカンパニー【何】空気

    ラビリンスPLAYンゴ【婦女子シネ】ツイート荒し

    パンツクラッシュンゴ

    僅か半年の出来事【悲壮】

    ようこそ画面黒い【全アイテムカンスト】要求ンゴ

    これらに限らず須玖PLAY出来ない&ロード永遠ダークネスンゴ終了作者と声優終わったな

    870 = 177 :

    なので、まあ今の四人だけでいいだろ。急ぎの用件があれば小町に連絡してくるはずだ。

    小町「壊れたのはどうするの?修理?」

    八幡「どうせだし買い替えるわ」

    小町「変えちゃっていいの?確かそれやるとLINEのトーク履歴消えちゃうんじゃなかったっけ」

    八幡「……なんとかしたいけど無理だろ。修理したってバックアップ取らずに初期化しちまえば意味ないんだから」

    小町「ほほーう?あのお兄ちゃんにも消したくないようなトークがあるということですな?」

    八幡「う、うぜえ……」

    だが反論できないのが悔しい。そうだよ残したいもんだってあるよ。

    だがケータイが壊れてしまえば逆に決心もつく。いつかの由比ヶ浜の下着写真だって消してしまえばそんなに後悔はしなかっ……しなかった!後悔なんてしてないんだ!

    小町「……そんなに消したくないならショップで聞いてみれば?」

    八幡「別にそこまで残しておきたいわけじゃ……」

    小町「嘘、顔に書いてあるよ」

    両手で顔を隠すが『気持ち悪い』と一蹴されてしまう。もうちょっと優しい反応が欲しかった。

    しかしそうか……ショップか……。

    小町「ショップ、付き合ってあげよっか?」

    八幡「いい、一人で……あっ」

    小町「へー、やっぱり行くんだー」

    八幡「お前な……」

    小町「わーお兄ちゃんが怒ったー」

    あいつ今日テンション高いな……おおかた受験勉強のせいでハイになってるだけだろうが。

    八幡「……明日行くか」

    どうせやることもないのだ。なら部活帰りにでも行ってしまおう。

    近くにアップルのショップがあるか確認するためにケータイで検索をしようとする。あれ、電源が……あっ。

    小町「お、お兄ちゃん……?」

    八幡「やめろそんな目で見るな自分だってびっくりだよ」

    癖であんなことをしてしまうあたり意外とケータイを使っていたのかもしれない。兄としての威厳を保つためにも早く直しに行こう。

    871 = 177 :

    小町「まあ最悪、データ消えちゃったとしても雪乃さんも結衣さんもデータ持ってるんだし大丈夫じゃない?」

    八幡「……残したいのはお前と戸塚のデータだよ」

    小町「ちっ、かからなかったか……」

    舌打ちしたよこの子。お兄ちゃんお前の将来が少し心配。

    受験ハイになっている小町を残し部屋に戻る。ケータイをベッドに放り投げる。

    ケータイがなくとも本やゲームのあるこの部屋ならいくらだって時間を潰せる。暇と穀を潰させたら俺の右に出るやつはいないだろう。

    ちらっと、無意識にケータイを見てしまう。使えないケータイに俺は何を期待しているのだろう。

    ……これはだめなやつだ。経験で分かる。

    こういうときは寝るに限る。いつもならまだまだ寝る時間ではないが、たまには健康的な生活も悪くない。

    寝る準備を始めるが、その途中で何度もケータイを見てしまう。

    どれだけ見たところで、もうそのケータイではLINEはできない。深夜遅くまで無駄な話をし続けることはもうできない。

    悩むくらいなら寝よう。明日になれば会えるのだから。……いやいや、なんだよ恋する乙女かよ俺は。

    空回りし始めた脳内を落ち着かせるために心の中で誰にというわけでもなく呟く。

    おやすみ、と。

    872 :

    素直に尊敬する作者を……このSSを読むたびに自分がどれだけクズなのか自覚させられるよ

    873 = 177 :

    9しかし彼らの絆は繋がっている 終

    >>872お、おう、ありがとう

    というわけで今日はここまで。
    次回かその次くらいで終わると思います。

    おやすみなさい!

    875 :

    まだこのクソスレ生きてたのか

    876 :


    しかしこのスレも長寿になってきたな

    877 :

    おやさめ

    878 :

    最近更新多くてマジ嬉しい

    880 :

    ハミルトン見習うわ
    あげ

    882 :

    883 :

    やっはろー!1です

    ごめん、間あけすぎたわ。
    終わりまで書けてないけど今週末あたりに一回投下しますー。

    884 :

    まってるよー

    888 :

    保守間隔ぐらいしらべろ

    889 :

    やっはろー

    早速行くよー

    890 = 177 :

    雪乃「ペットは飼い主に似るというけれど、まさかケータイまで持ち主に似るとは思わなかったわ」

    八幡「似てないから。あんな壊れやすくねえよ」

    翌日の部活。つまり冬休み最後の部活。

    今日は由比ヶ浜がいないし何も話さず終わるかとすら思っていたが、意外にも部室内には話し声が響いている。

    というのも。

    雪乃「壊れやすいというより、貴方の場合すでにところどころ壊れているじゃない」

    八幡「また否定しづらいこと言ってくるなお前は」

    雪ノ下がいつもよりも話しかけてくるのだ。

    まさか、由比ヶ浜がいないから気を遣って話してるとか……? いやないな。あいつなら気を遣っても遣わなくても話しかけてこない。

    ならケータイが壊れた俺をバカにしてるとか?あり得ない話じゃないが、しっくりこないな。

    LINEが使えないから話せなくて寂しいなんてのは一番ないよな。こんなのを思い付いてしまうあたりまだまだ中学の頃から変われてない。

    雪乃「比企谷君?やましいことを考えている顔をしているけれど、何を考えているのかしら」

    八幡「聞く前から決めてかかるなよ。やましいこととか考えてないから」

    雪乃「それで、ケータイはどうするの?」

    八幡「部活が終わったらそのままショップに行くつもりだ。……そういや、LINEのトーク履歴とか全部消えるかもって小町が言ってたんだが、実際はどうなんだろうな」

    雪乃「……比企谷君は履歴が消えても問題ないのかしら」

    八幡「いや……できるなら消えてほしくないな」

    そう答えると、雪ノ下はなぜか安心したように少し微笑んだ。

    見間違いかと思って雪ノ下の顔をよく見てみるが、彼女はなぜか俺から顔を逸らしてしまう。

    雪乃「意外ね。あなたのことだから黒歴……トーク履歴は全て消えても構わないと考えているものだとばかり」

    八幡「人のLINE勝手に黒歴史扱いするのやめてね?つかお前もたいがいだろ」

    雪乃「私? 特に変なことを言った記憶は無いけれど」

    八幡「……にゃんにゃん」

    顔を真っ赤にした雪ノ下がものすごい勢いでこちらを見る。鬼気迫るその様子に思わず肩がビクッとなってしまった。

    雪乃「比企谷君」

    八幡「はい」

    雪乃「分かるわね?」

    八幡「……はい」

    命が惜しくば黙れ。言外の意味をくみとり、脅迫文句通りに黙る。

    あのときはお前もノリノリだっただろ……。深夜テンションってすごい。改めてそう思いました。

    八幡「お前のそれはともかく、俺だってそんなに黒歴史があるわけじゃないぞ。少なくともLINEでは」

    雪乃「……おやさめ」

    思わず体がガタッと揺れた。こいつ、人がようやく忘れてきたことを……!

    抗議するために雪ノ下を見る。だが……抗議も文句もなにも言えなかった。なにせ……。

    八幡「お前も真っ赤になるくらいなら言うなよ……」

    雪乃「そ、そうね……ごめんなさい……」

    自分の言葉でその時の事を思い出したのか、雪ノ下は俺と同じか俺以上に顔を赤くしてしまっていた。

    由比ヶ浜といいお前といい、自爆技流行ってるの? 俺ばっかり巻き込まれてる気がするんですけど。そろそろ俺も恥ずかしさで爆発するぞ。

    891 = 177 :

    八幡「ま、まあそういうわけで、黒歴史は……ないとは言わないがそんなに多いわけじゃない。だから残せるなら残しときたいんだよ」

    雪乃「黒歴史はおいておくとしても、それでも意外だわ」

    八幡「なんとなく言いたいことは分かるがな」

    言っている俺自身がもしかしたら一番意外に思っているかもしれない。小町や戸塚との履歴を消したくないとは言っても、それでも前までの俺なら消えてもいいとは思っていただろう。

    だが、今は違う。できれば消したくないし、消さないためなら多少の苦労も厭わない。

    人間って変わるもんだな……。

    雪乃「なんにせよ、できるだけ早く直してもらえるかしら。業務連絡ができないと困るのだけれど」

    八幡「俺もできれば学校始まるまでには直って欲しいが……さすがに難しいだろうな」

    雪乃「そうね。直らないと学校が始まるまで話せないもの」

    八幡「……業務連絡で、話せないな」

    雪乃「……ええ」

    誤解のないよう言葉を補足する。勘違いしないように言葉にして戒める。こうしなければ、きっとまた間違えるから。

    それからも雪ノ下は俺のケータイについて文句を言ってきた。あいつの罵倒語ディクショナリーは豊富だしさらに話が脱線しまくった結果、信じられないことに俺たちは部活が終わるまでずっと話していた。それどころか途中まで二人で帰った。

    さすがに家まで送ることはせず途中で別れて俺も家に帰ったが、ぶっ通しで話続けるなんて奉仕部に入ってから考えてもこれが初めてだ。

    しかし、よく考えればここ最近LINEで話し込むことが多かった。今LINEが使えない分をここで話したと考えれば……いやいや。

    それじゃまるで、俺と雪ノ下がもっと会話をしたがっているみたいじゃないか。

    LINEで雪ノ下と話すようになってから、また昔のように勘違いをし始めている。ついさっき戒めたことをものの数分で忘れしまうのだから手のつけようもない。

    なら。

    手のつけようもないのなら、いっそ手をつけなければいいのだろうか。

    勘違いして傷付いて、周りを巻き込んで壊してしまえばいいのだろうか。

    ……ふう。こういうのは考えてもきりがない。もっと時間があるときに考えるようにしよう。

    とりあえず今やるべきことは。

    小町「お兄ちゃん。大志くんからお兄ちゃん宛にLINE来てるよ」

    八幡「……ほう」

    あのマセガキが小町とLINEをしている件についての対応を考えなければ。

    892 = 177 :

    to:川崎大志

    大志【お久しぶりっすお兄さん!】

    大志【川崎大志っす!】

    小町のケータイにやつの名前でLINEが来ている。今回の宛先は俺だが、画面の上に見えるトーク履歴には小町と仲良く話しているのが見えた。

    小町「お兄ちゃん、顔すごいことになってるよ」

    八幡「大丈夫だ。その原因は明日には消えてるから」

    小町「何も大丈夫じゃないんだけど……」

    心配する小町をよそに、とりあえず画面をスクロールしようと指を伸ばす。

    その瞬間、背後から殺気が!

    小町「お兄ちゃん、なに勝手に人のLINE見ようとしてるのかな?」

    八幡「い、いやこれはですね」

    小町「2度目はないから」

    八幡「はい」

    そういって小町はコーヒーを入れに俺から離れた。だというのに圧迫感が消えることはない。お前何者だよ。

    小町の闇の部分を刺激しないように細心の注意を払ってケータイを操作する。今までこんなに恐怖に怯えながらLINEをしたことがあっただろうか。いや、ない。

    八幡【なに小町と仲良くLINEしてるんだよ、ってかお前誰?】

    大志【仲良くとかそんなそんな、ありがとうございます!川崎大志っす!】

    八幡【仲いいって褒めたわけじゃねえよ】

    八幡【わざわざ小町のケータイ使ってまで俺に何の用だ?】

    大志【急で申し訳ないんですが、明日勉強見てもらうことってできますか?】

    八幡【暇だしいいけど】

    八幡【ずいぶん急だな】

    大志【冬休みの最後の詰め込みってことで姉ちゃんと一緒に勉強してるんですけど】

    大志【思ってたより成果が……】

    八幡【やばいのか】

    大志【そうっす!なんでできれば冬休み中に見てもらいたくて!】

    八幡【分かった分かった】

    八幡【じゃあ明日の10時にお前の姉ちゃんとスカラシップの話したとこで】

    大志【了解っす!】

    大志【明日は宜しくお願いします!】

    八幡【おう】

    俺たちの会話はそこで終わる。さて、小町と仲良くしたことをどう後悔させてやるか……。

    小町「お兄ちゃんまたすごい顔になってるよ」

    八幡「くっくっく。小町、やつをどう処理してほしい」

    小町「どっちかっていうとお兄ちゃんを処理してほしいんだけど……」

    893 = 177 :

    コーヒーを入れ終わった小町にケータイを返す。小町は画面をサーッとスクロールして会話の内容を把握したらしい。

    小町「なんだかんだ言ってちゃんと勉強見てあげるんだね。小町的にポイント高いよ」

    八幡「……違うから。ケータイ修理に出してるから暇なんだよ。それにそいつの姉とも勉強見てやるって約束してたし」

    小町「はいはい分かってるよー」

    絶対分かってないだろ。暖かい微笑みやめろ溶ける。

    八幡「……じゃあ俺もう寝るから。寝坊してたら起こしてくれ」

    小町「自分で起きなよ……何時までに起こせばいいの?」

    文句を言いつつもしっかり起こす時間を確認してくる小町。

    こういうところがほんと好き。引かれるから言わないけど。

    八幡「9時までに起きてなかったら起こしてくれ。おやすみ」

    小町「おやすみなさーい」

    小町の声を背に受けながら部屋に戻る。

    なんとなく見た机には教科書が散乱していた。

    ……まあ、昔習ったことを繰り返し学習するのも大切だしな。高校入試のことを復習するのも悪くないかもしれない。

    それに、教えるなんて言っておいて分かりませんじゃかっこわるいしな。

    まるで言い訳のようにあーだこーだと色々なことを頭の中で繰り返し呟きながら、俺は懐かしい教科書を開いた。

    眠るのは少し先になりそうだ。

    894 = 177 :

    大志「お兄さんって教えるのすごい上手いっすね」

    八幡「褒めてもなにも出ないぞ、そしてお兄さんって呼ぶな」

    以前、川崎姉弟と話をしたマックでドリンクを飲みながらちんまりと勉強会を開いていた。マックはハンバーガーやシェイクばかりが有名だがソフトクリームがうまいこともぜひ広めてほしい。

    結果が出ないと嘆いていたが、思ったほど酷いものではない。だがあと一手、なにかが欲しいといったところだ。

    確か、以前勉強会をしたときにモチベーションを上げるとかなんとかで志望理由の話をしたような記憶がある。

    具体的な理由は聞かないままだったし……残りの一手をそれに託してみてもいいかもしれない。

    八幡「……前に勉強会したときは結局聞けなかったんだが、お前の志望理由ってなに?」

    大志「き、貴校の……」

    八幡「そういうやつじゃなくて、本音の方だ」

    そう聞くと、大志は気まずそうに視線を逸らす。なんかやましい理由なのだろうか。

    八幡「話したくなきゃ別にいいが」

    大志「そ、そうっすか」

    八幡「小町がいるからとかじゃなけりゃな」

    大志「……ばれてるっすね」

    頬をポリポリとかきながら、大志は苦笑する。なんとなく言っただけだがどうやら大当りだったようだ。

    八幡「なるほど、小町がいるから総武を目指すと……いい度胸じゃないかねキミ」

    指を組み、どこぞのゲンドウさんのように渋い顔でにらみつける。声もできるだけ低くして迫力満点。相手が女子だったら通報されてるレベル。

    大志「さ、最初は姉ちゃんがいるからだったんすよ!でも小町さんも行くって聞いてそれで!」

    八幡「お前が総武目指そうが他のところ目指そうが邪魔する気はないが、小町に手を出すなら……分かってるな?」

    大志「ほ、ほんとにシスコンっすね……」

    脅迫のつもりがどん引かれている。こ、こんなはずじゃなかったのに……。

    大志は外を見ながら少し悩んでいたが、覚悟を決めたように俺に向き直った。

    大志「それでも諦めないっす」

    まっすぐに、逃げ出す余地もないほどまっすぐに言われてしまい言葉に詰まる。ドリンクで喉を潤すが、何を言えばいいのか言葉が見つからない

    895 = 177 :

    大志「ど、どうしたんすか?」

    八幡「……いやなんでもない。お前すげえな、俺にそんな宣戦布告するなんて」

    大志「せ、宣戦布告じゃないっす!マニュフェストっす!」

    八幡「守られねえじゃねえか」

    わざわざ難しい言葉を使ったのに意味が伝わらないとかそんなのあいつだけで充分だ。頼むからろくろを回し始めるなよ。

    大志「マニュフェストってのは言葉間違えたかもしれないっすけど……まあ相当難しいことっすけどね……」

    さっきの気迫は消え、下を向く大志の表情は暗い。

    当然だ。こいつが小町と付き合える確率なんて低すぎる。俺が認めないという前に小町が認めなさそうだし、万が一……億が一に俺と小町が認めたとしても次は俺の両親が待ち構えているのだ。なにこの三重トラップ。挑む前から諦めたい。

    それを大志も分かっているだろう。なのになぜ手を伸ばそうと思えるのだろうか。

    八幡「……よく諦めないなお前」

    大志「え?なんで諦めるんすか?」

    俺の問いに大志が純粋な目をして問い返してくる。やめろその目気持ち悪い。

    八幡「なんでもなにも、小町がお前に振り向くか分からんし、振り向いても俺と親が認めないだろ」

    大志「……小町さんって、お兄さんにだけじゃなく家族全員に愛されてるんすね」

    八幡「愛されてるっていうか溺愛してる感じだな」

    大志「え、えー……」

    再度どん引く大志。きっと今こいつの中で小町以外の比企谷家の株がどんどん下がってるだろう。

    大志「ま、まあそれは確かにかなり大変そうっすけど……別に諦める理由にはならないっすよ」

    さも当然のように言ってのけられる。こいつとはどこか根本的なところが違うのか……?

    大志「それにこういうのは多分諦めるか諦めないかじゃなくて……諦められない、っていうもんだと思うっす」

    八幡「……なるほどな。納得いった」

    違ってなんかいなかった。

    同じだ。ビックリするくらい同じなのだ。

    諦めようと思って諦めるもんじゃない。この気持ちはそんな綺麗にまとめられるもんじゃなく、もがき苦しみあがいて悩み……それでもどうしようもないものなのだ。

    諦めないではなく諦められない。だから……手を伸ばすしかない。

    大志「えっと、今の質問も勉強になんか関係あるんすかね?」

    八幡「モチベーションを上げるための志望理由の確認的なことだ。……別に後付けの理由とかじゃないぞ?」

    大志「えー……」

    大志の不満げな声を聞きながら、ドリンクを飲む。容器はだいぶ軽くなり、ストローはズズッという音をたてている。

    ちびちびと飲んできたがなくなってしまったようだ。ちょうどいい、ちょっと真面目に勉強会の再開としよう。

    八幡「ほら、次のページだ」

    まあ可愛い……かどうかはおいといて、未来の後輩のためだ。

    たまには先輩らしく、かっこいいところを見せてやろう。

    896 = 177 :

    八幡「はああああ…………」

    肺の空気をすべて出しきる勢いでため息をつく。朝の清々しい空気を大きく吸って体内に取り込むが、それもまたため息に変換されてしまった。

    小町「もう、そんなにため息つかないの。幸せ逃げてるよ」

    八幡「現在進行形なのか……」

    朝食を一緒に食べていた小町から冷たい言葉が飛んでくる。

    だが小町の言葉もあながち間違いではないかもしれない。なにせ今日は始業式。

    残り少なかった冬休みも何事もなく平和に終わってしまい、今日から学校だ。

    八幡「はあああああ…………」

    小町「うわあ、鬱陶しい……」

    さらに遠慮のない言葉がぶつけられる。少しは優しくしようとか思わないのかよ。

    小町「でも毎日遅刻ギリギリのお兄ちゃんがこんな早い時間に起きてるなんて珍しいね。風邪?」

    八幡「風邪ならどれだけ良かったことか……。ケータイ修理に出してから時間が余るようになってな。その分いつもより早く寝るようにしたら起きるのも早くなってよ……」

    小町「すごい健康的なはずなのに不健康に聞こえる……。言ってる人が悪いのかな」

    小町ちゃんそれ本人の前で言うことじゃないよ。

    なんて文句を言ったところでおそらく聞き入れてはもらえないだろう。もっとコミュニケーションとっていこうよ我が妹。

    小町「早く学校行っちゃえば?友達とおしゃべりするの楽し……あっごめん」

    八幡「よく途中で気付けたな。そのこと自体言わないでもらえるともっと嬉しかったが」

    小町「まあ知ってて言ったからね」

    八幡「だろうな」

    小町のブラックジョークを身に受けながら、今の提案を再考してみる。

    確かに普段の俺は遅刻ギリギリの時間に登校している。だがそれは朝起きるのが辛いからというわけでは……いや、あるのだが。それ以外にも朝の時間に俺が教室にいることで場を悪くしてしまわないよう気をふんだんに使っているからでもあるのだ。

    だから今日も家でゆっくりしてから学校にはいつもの時間に行こうと思っていたが……。

    最近戸塚に会ってないんだよなぁ。

    我ながらこんな理由で学校に行くのはどうかと思うが、それでも会いたくて会いたくて家の中で震えるよりはマシだろう。

    八幡「早く行くかな……戸塚のために」

    小町「……はあ」

    あんだけため息のことを言っておきながら、自分がするとはどういうことだ。

    まあ元凶が目の前にいるからなんですけどね。てへっ。

    897 = 177 :

    防寒具の上から肌を攻撃してくる寒さを乗りきりなんとか登校できた。

    終業式ぶりの再会ということで周りのやつらからはまるで威嚇のような歓声が聞こえてくる。

    なぜ早く来てしまったんだ俺は。こういう日こそギリギリに来るべきだろ。

    これで戸塚がいなかったら踏んだり蹴ったりだ。そのときは先生が来るまで寝たフリでもしておこう。

    奇声をあげる生徒を無視し下駄箱へ進む。ええい人が多い邪魔だ。

    自分のクラスの下駄箱まであと少し、というところで誰かが俺の前で足を止めた。そこから進むでも戻るでもなく動かないせいで俺が進めなくなってしまう。

    不満を隠すことなく表情に出しながらそいつの顔を確認する。

    そこには……幽霊でも見ているかのような目をした、雪ノ下の姿があった。

    898 = 177 :

    雪乃「ゾンビというのは総じて朝が苦手なものだと思っていたけれど、特異体質もいるようね」

    八幡「朝っぱらから人をゾンビ扱いするな。目以外はちゃんと人間だ」

    雪乃「目がゾンビなのは否定しないのね……」

    八幡「俺の目は明るいものには弱いからな。明るいやつとか明るい未来とか」

    雪乃「現実は明るくないのによく目を逸らしているわね」

    八幡「そこに触れるなよ」

    朝でも昼でも関係ない鋭さを持つ雪ノ下の言葉はガリガリ俺のHPを削っていく。というかそこにいられると靴取れないんですけど……。

    八幡「とりあえずそこどいてくれ。靴が取れん」

    雪乃「……そうね」

    なぜか声のトーンを落とす雪ノ下。そのリアクションを不思議に思いはしたがわざわざ掘り下げるほどのことではないだろう。

    靴を履き替えクラスへ向けて歩き出す。雪ノ下が横にいるせいか周りから視線を感じる。

    八幡「お前ってほんと有名人なのな。さっきから妬み嫉みみたいなのがバシバシ来るんだけど」

    雪乃「あなたもそういう事を気にするのね。他人の視線なんて関係ないものだとばかり」

    八幡「まあ基本はな。だがこういうのは後々めんどくさそうだろ。お前との関係とか聞かれて『たただの部長と部員です』なんて答えたところで信じるやつなんていなさそうだし」

    信じてもらえないどころか部活入ってることに驚かれそうだ。実際平塚先生に無理矢理入部させられてなきゃ卒業まで帰宅部のエースだったからな。

    雪乃「……確かに、聞かれても答えには困るわね」

    雪ノ下は少し頬を染めながら答えた。そんな答え方をされるとなんて返したのか気になっちゃうんですけど……。

    八幡「……そういや、小町だか大志だかに聞かれたとき『遺憾だけれど知り合い』みたいなこと言ってた気がすんだけど、今もあんな感じの回答なのか?」

    雪乃「あの時は回答は、その、まだあなたのことをそこまで……い、いえ、今も意識しているなんてことはないのだけれど」

    八幡「そ、そうか……」

    何かを言ったわけでもないのに、そうも慌てて訂正されるとどうにもむず痒い。上目遣いでチラチラこっち見んな気にしちゃうだろうが。

    話している内にクラスのある階に到着した。あとはここで俺のクラスと雪ノ下のクラスへ別れるだけだ。

    確か、文化祭前に会ったときは俺の方から別れたはずだ。だからというわけでもないが今回も俺がきっかけを作るか?

    別に今日も部活はおそらくあるのだから、とまるで自分に言い聞かせるように繰り返しながら雪ノ下の方を向く。

    『じゃあまたな』と言葉を発するはずだった。実際に『じ』くらいは口に出していた。

    けれど、下を向きながら俺の言葉を待っている雪ノ下の姿を見た俺は。

    八幡「じ……自販機行かないか?」

    全く違うことを口にしていた。

    899 = 177 :

    学校の自販機で買ったMAXコーヒーを雪ノ下と飲む日が来るなんて一体誰が想像できただろうか。

    想像できないどころか俺はいまだに信じることができていない。夢じゃねえのこれ……。

    雪乃「少し意外だったわ。あなたから何かに誘うなんて滅多にないもの」

    八幡「自分でも意外に思ってる」

    誘わないというより正確に言えば誘えないだけだ。その点リア充の人を誘う能力については尊敬している。きっとリア充と非リア充の大きな違いはそこにあるのだろう。

    誘うというのは実に勇気がいる。相手に迷惑がられないかとか断られないかとか不安要素なんていくらでも出てくる。

    だからこそ、こんな朝にあの雪ノ下を誘った自分が信じられない。

    八幡「何が起こるかなんて分からないもんだな……」

    雪乃「それは私のセリフなのだけれど」

    八幡「それもそうだな……。ま、あれだ。ケータイ壊れてLINEできないし、これくらいはいいんじゃねえの?」

    言ってから気づく。これじゃあ俺が雪ノ下とのLINEを楽しみにしてるみたいじゃねえか……。いやまあ違うとは言わないが。

    察するな!と願ってみたものの、さすがに俺より国語の点数が高い雪ノ下がそこに気づかないわけもない。

    雪乃「……本当に意外ね」

    マッカンを手のひらに当てながら楽しそうに彼女は呟いた。恥ずかしさを紛らわすためにMAXコーヒーを口に含む。

    雪乃「……私も同じ事を考えていたわ」

    八幡「え……?」

    雪乃「だから、その……あなたとLINEができなくなってしまったから……」

    八幡「そ、それならまあ……同じだな」

    雪乃「ええ……同じね」

    お互いにもう何を言っているんだか分からなくなってきている。雪ノ下の顔は赤くなっているしなにこれMAXコーヒーに酔ったの?

    900 = 177 :

    雪乃「ケータイはどれくらいで直るのかしら?」

    八幡「あと一週間くらいはかかりそうな感じだったな。延びるかもしれないけど」

    雪乃「そう……」

    八幡「ああ」

    それきり、二人とも黙ってしまった。言いたいことはまだあったが、どうやら今日の勇気は先程使いきってしまったらしい。

    MAXコーヒーを飲み終わる頃にはいい時間になっていた。早く来たおかげでだいぶゆっくり出来たがそれで遅刻してしまっては意味がない。

    八幡「そろそろ行くか」

    雪乃「ええ」

    空き缶をゴミ箱に入れて再度クラスへと向かう。始業間近のため人は少なく、さっき感じたような視線はもう感じない。

    雪乃「……いつもこのくらいの時間なの?」

    八幡「いや、今日は戸塚に会おうと思ってな」

    雪乃「そう……悪いことをしてしまったわね」

    八幡「別に悪くはないだろ。誘ったのは俺なんだし……むしろお前は大丈夫だったのか」

    雪乃「いつも本を読んでいるだけだから問題はないわ」

    八幡「ならよかった」

    話をしているうちにあっという間に別れ道についてしまった。この階まで来てしまえばさすがに周りは騒がしい。

    八幡「今日部活あんのか」

    前にも同じようなことを聞いた気がする。けれど、そのときとは含んだ意味が全く違う。

    雪乃「……ええ、今日からいつも通りよ」

    八幡「そうか。じゃあ、またあとでな」

    雪乃「……比企谷君」

    クラスへ足を向けていた俺を雪ノ下が呼び止める。なにか伝え忘れたのだろうかと振り返るが、彼女はなかなか続きを言わない。

    何秒か経ち、なぜか俺の方が焦り始めたタイミングでようやく口を開いた。

    雪乃「また……明日も」

    雪ノ下は胸の前で小さく手を振りながら俺にギリギリ届くような声で呟いた。

    俺の返事も待たず彼女は去ってしまう。残された俺は身動きが取れずに立ち尽くしていた。

    具体的な主語を何も残していかなかったのに言いたいことは伝わった。ただ……なんというか、俺にはいささか破壊力が強すぎる。

    その後、俺が遅刻をしたことは言うまでもない。


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