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    元スレ雪乃「LINE?」結衣「そう!みんなでやろうよ!」

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    651 = 177 :

    気持ちは乗らないが家を出る。自転車でぱーっと行きたかったが、元日で人の賑わう道を小町を乗せて進める気もしないで渋々徒歩になった。

    人、人、人!

    小町「お、お兄ちゃん?なんか顔色悪いよ?」

    八幡「……人に酔ってるだけだ。気にすんな」

    小町「人に……?」

    俺の言ってることが分からず小町は首を傾げていた。その仕草が可愛くてちょっとだけ元気になる。

    小町のおかげで俺はなんとか毎日を生きていけてるようなものだ。二年生になってから戸塚にも元気を分けてもらってはいるが、やはり家で長時間をともにするというアドバンテージは大きい。

    小町ちゃんマジ天使。小町に近づくやつは俺と親父が許さない。むしろ親父が俺を許してないまである。

    八幡「なあ小町、どこ行くんだ?確か逆方面に勉学に御利益があるとかクラスのやつが言ってた神社があったはずだが」

    小町「ああ、だってそっち知り合いに会いそうなんだもん。みんな受験だからそっち行ってるだろうし」

    八幡「……俺が一緒にいるとこ見られるのが嫌なら、一旦分かれて後で合流でいいんじゃないか?」

    小町「元日にまでクラスメイトと一緒なんて嫌なだけだから気にしないでいいよ。まあ確かにお兄ちゃんと一緒のとこ見られるのも嫌だけど」

    八幡「さいですか」

    最後の一文省いても良かったと思うよ。むしろ省くべき。

    それにしても、似てない似てないと言われるがこうしてみるとやはり俺の妹だと感じる。一人でいるのが好きというのはよく分かる。

    それでも人と上手くやっていけるのだから流石は次世代型ハイブリッドぼっち。お兄ちゃんの代わりに人の輪の中でたくましく生きて下さい。

    652 = 177 :

    ようやく目的の神社だか寺だかに到着したが、やはりここもここで人が多かった。

    八幡「こっちに来ても誰かしらに会いそうだな」

    小町「そだね、意外とこっちも人気だったんだ」

    ステルスヒッキーを全開にしながら人混みを歩く。小町は普通に俺に着いてきていた。比企谷家の人間は全員ステルスヒッキー使えんのかな……。

    それはさておき、どうやらこの大勢の人の大半は賽銭ではなく屋台巡りが目的のようで、俺たちの賽銭は割と早く終わった。

    賽銭の列から抜けさえすれば人混みは一気に減る。

    人がだいぶ減った解放感から少し浮かれ気味に歩く。小町も人ごみにはげんなりしていたようで俺と一緒に少し楽しそうに歩いている。

    賽銭箱から離れる度に人は減っていく。そうなれば当然周りの人間一人一人の判別もしやすくなる。

    ……まあこんな風には言っても、例えさっき以上の人ごみだったとしても俺はあいつを見つけていたかもしれない。

    流れるような黒髪と無駄のないスリムな体型が、シンプルなデザインの和服によってより美しく彩られる。

    見た者に視線を外させることすら許さない鮮烈な美は、俺の歩みを止めるには充分すぎた。

    本来なら見つけた瞬間に逃げるべきだった。だがそんな思考さえ完全に停止している。

    だからこそ、向こうも俺に気付いてしまった。

    雪乃「……比企谷君?」

    そこにいたのは。

    つい先日俺が爆弾を投下してしまって以来、画面越しですら会話をしていなかった……和服姿の雪ノ下雪乃だった。

    653 = 177 :

    ザ・ワールド!

    と、叫んだところで周りの時は止まらない。突然の事態に動きの止まった俺たちを置いて、世界の時は進む。

    例えば、俺の後ろにいるラブリーシスターのように。

    小町「あ!明けましておめでとうございます雪乃さん!やー、和服姿も超似合ってますね、ね?お兄ちゃん!……お兄ちゃん?」

    小町のフリに何も返事をせず口をパクパクさせるだけの俺を不思議に思ったのか、小町が俺の顔を覗き込む。

    小町の顔を見たおかげか、俺の脳がようやっと活動を再開し始めた。

    八幡「あ、ああ。そうだな。お前の和服姿、俺は好きだぞ」

    あ、やばい。あのトラウマのことばかり考えていたせいで、また似たようなことを口走ってしまった。

    再び俺と雪ノ下の時間が止まる。なんなら今回は小町も止まっていた。

    ここで止まってはダメだ、なにか言わねば……と思っていても上手く酸素を脳へ供給できずにいる。

    くそっ、重加速がこんなところで……頑張れ俺!スタート・ユア・エンジン!

    雪乃「あ、ありがとう……」

    いち早く復活したのは雪ノ下だった。さすが雪ノ下さん!そこに痺れる憧れる! 

    俺もこんな冗談を言えるくらいには落ち着きを取り戻せていた。

    八幡「き、奇遇だな。こんなところで……一人か?」

    顔を真っ赤に染めた雪ノ下を視界に入れてしまわぬよう、明後日の方向を見ながら聞く。わー、鳥居も真っ赤。

    雪乃「ええ。由比ヶ浜さんも来たがっていたけれど、初詣は毎年家族と来ているそうだから」

    小町「確かに結衣さんらしいですね!」

    三度目の思考停止を陥りかけた俺を気遣ってなのか、小町はやけにハイテンションで雪ノ下に応えた。今の俺にとって、由比ヶ浜の名前は聞くだけでも辛いものがある。

    当然、由比ヶ浜本人にとっては辛いなんてものではないはずだが。

    八幡「あー、そうだ」

    この前のLINE、さっきの失言、そして由比ヶ浜とのことを全て胸中に押しとどめながらなんとか声を出す。

    雪乃「なにかしら?」

    八幡「あ、明後日空いてるか?」

    一月一日の明後日はもちろん一月三日だ。つまり雪ノ下の誕生日。

    雪ノ下自身もその日に俺たちが何をしようとしているか予想はできるだろう。サプライズ精神がなくてごめんね!

    雪乃「そうね……午後は家の予定が入っているけれど、午前中だけなら大丈夫よ」

    八幡「そうか、じゃあその、なんだ……ゆ、由比ヶ浜やら戸塚やら……戸塚も呼んで、やるか」

    雪乃「戸塚君のこと、好きすぎでしょう……けれど、そうね。ありがとう」

    主語を含まずの会話だったが、伝えたいことは伝えられたようだ。

    当日、由比ヶ浜と会って普通を演じきれるかは分からない。だがそれでも、あれは俺と由比ヶ浜の問題であってこいつには関係のないことだ。

    なら、雪ノ下にはしっかりと楽しんでもらわねばならない。

    八幡「場所とか時間とかはまた後で連絡する」

    雪乃「……ええ、分かったわ」

    八幡「それじゃ、また明後日な」

    返事を聞き、俺は手を軽く振りながらその場を離れた。いつもなら一緒に行動させようとする小町も、さすがに気を使ってくれたのか大人しくついてきた。

    654 = 177 :

    八幡「……はあ」

    小町「雪乃さんとも何かあったでしょ?」

    八幡「まあな……。けど今の感じじゃ気にする必要はなさそうだ」

    あとは俺がふとした瞬間にくる恥ずかしさやもどかしさに慣れてしまえば雪ノ下とのことは流せるだろう。

    多分後五回くらい布団の中で叫べば余裕。いやこれ全然余裕じゃねえな。

    八幡「……疲れたしまっすぐ帰ろうぜ」

    小町「仕方ないなー、まあ今日だけはお兄ちゃんのために特別だよ。あ、今の小町的にポイント高い」

    八幡「はいはい」

    ほんとそれさえなきゃポイント高いんだがな……。

    こんな感じに小町といつもの会話をしながら、足早に家を目指す。

    進む速度が早いのは、もちろん家に早く着くようにだ。

    けれどなぜだろう。

    まるで、少しでも早く雪ノ下から逃げるために思えてしまうのは。

    655 = 177 :

    今日はここまでです!

    先が思いつかないよ!ダレカタスケテー!

    おやすみなさい

    656 :

    イミワカンナイ

    ……おつ

    657 :

    おつ
    ハヤクシロヨ

    658 :

    おつ

    659 :

    >>655
    ハヤクシナサイヨ

    664 :

    乙だで

    667 :

    ゆきのん可愛い過ぎて色々ヤバイ

    668 = 667 :

    先が思い付かないなら、小町とのイチャイチャ短編でもええんやで

    671 :

    最初から読み直してしまったわ
    小ネタが原作っぽくて良いな

    672 :

    やっはろー!1です

    前の投下までが

    6だから繋がりは誰にも掴めない

    になります。
    それじゃー久々に投下いくよー!眠いから多分変なとこで終わるよー!

    673 = 177 :

    時は巡り一月三日。

    結衣「ハッピーバースデーゆきのん!」

    八幡「おめっとさん」

    平塚先生に許可をもらって俺たちは奉仕部の部室に来ていた。

    それにしても「時は巡り」と「めぐめぐめぐりん」の語感の似てる感じは異常。暇なときはずっとめぐめぐめぐりんって脳内リピートしてるせいで、めぐり先輩がよくゲシュタルト崩壊してる。

    俺意外とめぐり先輩好きすぎだろ。小町と戸塚に追いつくレベルだぞ。

    雪乃「あ、ありがとう……」

    今日のことを予想できていたであろうに、それでもこうして祝われると嬉しいのか頬を少し赤く染めながら雪ノ下は俺たちに礼を言ってきた。

    結衣「はいこれ!」

    由比ヶ浜は可愛らしくラッピングされた大きめの袋を雪ノ下に差し出した。雪ノ下はそれがなんなのか分からず少し首を捻っていたが、自分へのプレゼントだと理解すると少し緊張しながらそれを受け取った。

    俺はといえば、由比ヶ浜のように明るく渡すことなどできるはずもないのでちょっとぶっきらぼうに渡してしまった。

    かっこつけてるとか思われてたらどうしよう……。

    674 = 177 :

    八幡「さて、プレゼント交換も終わったし……帰るか」

    結衣「帰らないし!」

    いつものように由比ヶ浜が俺にツッコミを入れる。その時に由比ヶ浜と目が合うが、視線が交錯するのは一瞬だけ。どちらともなく違うところに視線を移動させていた。

    八幡「まあ帰るのは冗談として……なにすんの?午前だけだからつってもまだ結構時間残ってるぞ」

    雪乃「そうね……自分の誕生日パーティーだなんて社交的なものしかしたことがないから……。由比ヶ浜さん、こういうときは何をするのかしら」

    さらっと社交的とか出てきたんだけど……そういやこの子の家金持ちでしたね、忘れてました。

    結衣「え、何って言われても……食べて飲んで騒ぐ感じ?」

    八幡「全然分からねえ……」

    今度は由比ヶ浜の方を向かないよう、視線は下に固定したままで声を出す。

    下を向いているせいか、声はいつもより少し低い。

    結衣「まあとにかく、こう……ぱんぱかぱーん!って感じで楽しく話すの!いい!?」

    八幡「お、おう……いや聞くべき相手は俺じゃなくて今日の主役だろ」

    結衣「あ、うん……ゆきのんはそんな感じでも大丈夫?それか……あっカラオ──」

    雪乃「いえここにいましょうそれがいいわ比企谷君もそう思うわよね」

    八幡「だから俺に聞くなって」

    雪ノ下にとっちゃ体力を使わされるカラオケよりこっちのがいいだろう。今ノータイムで拒否してたからな。

    676 :

    平塚「君が鍵を返しに来るとは……随分と気が利くじゃないか」

    八幡「そういうのじゃないですよ」

    職員室で天丼を食べている平塚先生に鍵を渡しに来たところ、第一声がこれだった。

    油がつかないようになのか髪をポニーテールにしており、印象が全然違っていたせいで声をかける時に少し躊躇ってしまったのはここだけの秘密だ。この人たまにギャップでドキッとさせてくるから怖いんだよ……。

    平塚「私はてっきり今日の主役を気遣っての行動だと思ったが」

    八幡「違いますって。アレですよアレ……ひさしぶりに先生に会いたくなって」

    すぐにバレるとは思いつつ、なんとなく適当な嘘をついてしまう。一体どんな風に呆れられるのだろうか。

    平塚「そ、そうか……ありがとう」

    八幡「え、いや……どういたしまして……」

    え、なにこの雰囲気。なんで顔赤らめてるんですか先生。近くの先生が居づらそうにしてるじゃないですか、っていうか俺が一番居づらいんですけど!

    嘘でしたと言うタイミングを完全に逃してしまい、どうしようかと視線を巡らす。このまま帰ってもいいが、それだと平塚先生ルートの可能性が高まる気がして怖い。

    平塚「ま、まあそれはともかくだ。どうだ最近は。クリスマスパーティーをしたあとから随分と雰囲気は良くなったように思うが」

    八幡「……まあ、そうっすね」

    平塚「……ふむ、君はあれだな。適当な嘘は上手いのに、本当に大事な嘘は全然つけないタイプだな」

    たったこれだけの会話で嘘を見抜かれただと……!俺はその動揺からかつい視線を逸らしてしまう。

    八幡「そんなことないと思いますけど」

    平塚「そうだな、適当な嘘も上手くない」

    八幡「いやさっき先生に会いたかったっていう嘘に思いっきり騙されてたじゃないですか」

    平塚「う、嘘だったのか……」

    売り言葉に買い言葉、という感じでついネタばらしをしてしまった。そんな本気で落ち込まなくても……早く誰かもらってあげて!じゃないと本当に俺がもらっちゃうよ!

    677 = 177 :

    八幡「とりあえず先生が心配するようなことは何もないですよ」

    平塚「……そうか。まあ私も話す気のない者から無理矢理悩みを聞き出そうとは思わんよ」

    八幡「……どうも」

    軽く頭を下げて、バッグを背負い直す。

    ちょうどよく会話も途切れたしこのまま帰るか。

    平塚「比企谷」

    180度くらいターンしてしまってところで声を掛けられる。失礼だとは思いながらもまた体の向きを変える気になれず、肩越しに平塚先生を見た。

    平塚「私でなくてもいい。ただ、君の悩みを誰かに話してみたまえ。きっと相談されたものは喜ぶだろう」

    八幡「家族ならともかく、それ以外の誰かをすぐ頼りにするのは嫌なんですよ」

    平塚「だが、一人ではいずれ進めなくなるさ」

    半身だけ先生に体を向ける。目はいつもよりも腐っている気がした。

    平塚「君が今まで誰を頼るでもなくいられたのは、君が一人だったからだ。だが、今の君はもう一人ではないだろう?」

    その言葉が俺の心に重い鉛を打ち込んだ。

    確かに最近の俺はぼっちとは言い難い生活を送っていたように思う。

    学校で話す相手がいる。部活に参加してそこそこ楽しい時間を過ごしている。そしてなにより戸塚がいる。

    八幡「……そうですね。戸塚がいますし」

    平塚「あ、ああ……まあその解釈で構わない」

    構わないって言ってる割に笑顔が引きつってるのはなんでですかね。俺にどん引きしてるからですか。

    678 = 177 :

    平塚「戸塚や雪ノ下や由比ヶ浜。君の周りには君と繋がりを持った人間がたくさん……とは言えないが少なからず増えた。君のことだ、またその慣れない人間関係で悩んでいるだろう」

    八幡「戸塚と繋がってるとか照れるんでやめてもらっていいですか」

    平塚「真面目に聞く気ないだろう」

    深く深くため息をつかれてしまった。そんなため息ついたら幸せ逃げますよ。婚期も遠のきますよ。

    だがまあ真面目に聞いていなかったのも事実だ。だから俺は真面目に返すことにする。

    八幡「一人じゃなくなったせいで一人で解決できない悩みが出来たっていうなら、俺みたいな人間はずっと一人でいるべきじゃないですかね」

    平塚「それもまた一つの選択肢だろうな。君が一人でいても構わないなら」

    八幡「俺が実は寂しがりやみたいな設定つけようとしないでください」

    平塚「確かに、それを決めるのは君だからな。……まあだが」

    一呼吸の間。俺が続きを待っていると、先生はにやりと笑って言った。

    平塚「君の周りにいる人間は、そう簡単に君を離さないぞ?」

    679 = 177 :

    眠気がやばいんで今日はここまで。
    もうちょっと投下するのあるんでちゃんと明日もします。

    おやさめー

    681 :

    やだこの先生かっこいい

    682 :

    婚期、今季限りで平塚選手との契約解除を発表

    683 :

    契約してたのか。。。

    684 :

    >平塚「君の周りにいる人間は、そう簡単に君を離さないぞ?」

    静ちゃんが、八幡が卒業して教え子でなくなり
    寝技に持ち込んでも違法じゃなくなる瞬間を
    虎視眈々と待っているから逃がさんぞ(哀願)
    という意味ですねわかりま(ry

    685 :

    やっはろー!1です

    ガハマさんのフィギュアが高くてつらいです

    それじゃ昨日の残り投下していきます。

    686 = 177 :

    八幡「はあ……」

    平塚先生に鍵も返し終わり、俺は自転車に乗りながらいつもよりのんびりと家に向かっていた。

    体を動かしても平塚先生の最後の言葉が頭の中で何度も再生されてしまう。このせいで何度ため息をついたことか。

    ずっと胸の中で渦巻いてる疑心。誰へ向けたものでもない俺への問いかけ。

    平塚先生との会話で、俺が一人になれば……ぼっちへ戻れば周りが傷つくことはないと分かった。

    だが先生は言っていた。周りはそう簡単に俺を離さないと。

    昔の俺なら……具体的に言えば奉仕部に入る前の俺ならそれすら振り切って一人に戻っただろう。あるいは奉仕部に入ってから少し経った俺ならば、多生の迷いはあっても問題はないはず。

    一人ぼっちも孤独も嬉々として受け入れ、俺は孤高を選んだだろう。

    だが、今の俺にはそれができない。一人の時間は今も好きだし人間関係は築かないようにしているが、それでも……誰かと生きることを楽しいと素直に認められるようになってしまった。

    だから平塚先生にあの言葉を言われた時……正直かなり嬉しかった。

    周りのやつらはこれを成長と呼ぶんだろう。誰かと生きることは楽しいことだと、ようやく気づけたと喜ぶやつだっているかもしれない。

    ふざけるな。

    一人が楽しいと思うことは悪いことなんかじゃない。孤独でいることは欠点なんかじゃない。

    それは俺にとっての強さだ。俺が俺を貫くために必要な強さなんだ。

    けれど。

    その強さは俺の中にはもうない。

    八幡「……どうしよ」

    頭で処理しきれずつい口から気持ちが漏れてしまう。

    平塚先生に言われたとおり一人でどうにかできる気もしない。かといって誰かに相談するのも……あ、いる。

    そうだ、家族なら……小町なら。

    受験に響かないよう、少しだけ相談して少しだけアドバイスか何か貰おう。それだけなら勉強にも差し支えないはずだし、少しとはいえアドバイスが貰えればきっと何かを変えられる。

    俺は小町へ相談する内容をまとめながら、自転車を漕ぐ速度を上げた。

    687 = 177 :

    小町「え、そんなこと?」

    家に着き、かなり勇気を振り絞って悩みを打ち明けたところ……ラブマイシスターからはこんな無情とも言える返事が返ってきた。

    あ、あれー。お兄ちゃんめちゃくちゃ悩んでたんだけどなー。

    八幡「小町さん?だいぶ軽く言ってくれるけど……俺だいぶ終わってたよ?正直チェックメイトだよ?」

    小町「はぁぁぁぁ……」

    かなり深くため息をつかれる。辛い、辛すぎる。

    小町「いやー、なんていうのかな。お兄ちゃんがこうして素直に相談してくれるようになったのは嬉しいよ?けどねえ……」

    ついに小町が頬杖をつき始めた。食事中なのに……そんな行儀悪い子に育てた覚えはありません!

    小町「はあ……」

    八幡「小町、さすがに目の前で二回もそんなため息つかれたら泣くぞ」

    小町「そりゃため息くらいつきたくなるよ。まったくお兄ちゃんは……全然成長してない……ってわけでもないんだけど、変な成長しちゃってむしろ退化した感じ」

    八幡「まじか、退化しちゃってるのか俺」

    小町「うん。レベル上げたのにリザードンじゃなくてヒトカゲに戻っちゃった感じ」

    八幡「確かに成長しながら退化してるな……」

    俺そんな複雑なことになってんのか……。何、バグなの?俺はこの世界のバグか何かなの?

    688 = 177 :

    小町「ま、それでも早い段階で素直に相談してくれたし、今回はそのお悩み解決のお手伝いしてあげる」

    八幡「お、おう……なんか奉仕部の部員みたいだな」

    小町「数ヶ月後にはそうだよ?」

    八幡「……んじゃ、奉仕部活動の予行演習ってとこだな」

    俺がそう言うと、小町はゆっくり首を振った。

    小町「んーん、お手伝いはするけど奉仕部の活動とはちょっと違うよ。奉仕部は飢えた人に魚の釣り方を教える部活だけど、今回小町がするのはその一歩手前まで。例えるなら飢えた人に釣り竿をプレゼントするとこまでなのです」

    八幡「だいぶ心許ないんですが小町さんや」

    小町「大丈夫大丈夫……大丈夫大丈夫」

    八幡「根拠のない大丈夫やめろ」

    小町「……こう言ってないと小町も受験に負けそうで……」

    八幡「だ、大丈夫大丈夫」

    お互いになんの根拠もないまま励ましあう。これ精神的に負担大きいと思うんだけど大丈夫なんですかね……いや大丈夫大丈夫。

    八幡「そんで具体的には何をしてくれるんだ?あと俺は何すればいい?」

    小町「それは明日までの秘密でーす。あ、別にどこどこに行ってきてとかじゃないから安心して。お兄ちゃんは家でだらーとしてていいから」

    八幡「小町がそんな許可出すとか珍しいな。まあ言われなくてもあと数十年はこの家を出る気ないけど」

    小町「そういう意味じゃ今すぐにでも出て行ってほしいんだけどね……」

    小町がどこか遠い目をしながら呟いた。無意識での言葉みたいで普通に言われるよりもダメージがでかいんですが。

    小町「ま、そんなわけだから家でどんと構えてて。小町は友達とお勉強会してくるから」

    八幡「じゃあ明日は家にいるの俺一人か」

    我らが両親は明日からもう出勤だ。本当に頭が上がらない。なので俺は出来るだけ頭の位置を上げないようにずっと寝てようと思います。

    小町「それじゃ、小町の『獅子は我が子を崖から叩き落とす大作戦!』に期待して待っててね!」

    八幡「何も期待できねえ……」

    小町の目に宿る怪しい光に恐怖を感じながら、俺は夜ご飯を食べ終えた。

    689 = 177 :

    自室に移動するとタイミング良くスマホからLINEの通知音がした。

    戸塚か?戸塚だよな?と思いながら画面を見る。いやだって今年に入ってから戸塚と平塚先生くらいからしかLINE来なかったし。

    剣豪将軍?知らない人ですね……。

    【雪ノ下雪乃】

    俺へLINEを送ってきたのは天使でも教師でもましてや剣豪将軍などではなく、本日の主役様だった。

    to:雪ノ下

    雪乃【比企谷君】

    八幡【なんだ?】

    数日ぶりの雪ノ下とのLINEに少し緊張してしまう。

    っていうかトーク画面の上の方だけ消せねえかな。黒歴史がリアルタイムでチラチラ目に入るんだけど。恥ずかしい。死にたい。

    雪乃【由比ヶ浜さんと何かあったのかしら】

    遠回りせずストレートに聞かれたくないことを聞かれた。だが、裏を返せばそれだけ今日の俺たちは違和感があったということか。

    八幡【まあな】

    八幡【悪いが聞かれても何があったかまでは言えないぞ】

    雪乃【構わないわ】

    雪乃【むしろ何かあったとここまで素直に打ち明けてくれた事に驚きと疑惑を隠せないわ】

    八幡【疑惑は隠せよ】

    そこで一旦会話は途切れる。これで終わりか……あるいはものすごい長文で俺を罵倒しに来るんじゃないかと身構えたものの、次に来たのは意外とあっさりとした文だった。

    雪乃【大丈夫なの?】

    690 = 177 :

    とても心配されてしまっていた。まあ当然か。問題を抱えてんのに、その内容は話せませんだなんて不安にならない訳がない。

    とはいえこれは俺と由比ヶ浜の問題だ。さすがに雪ノ下まで巻き込むわけにはいかないだろう。

    八幡【大丈夫だろ、多分】

    八幡【小町が大丈夫って言ってたし】

    雪乃【そう、小町さんが言っているのなら安心ね】

    名前を出しただけで雪ノ下を安心させるとか俺の妹の影響力が強すぎる。まあ小町も雪ノ下に影響を受けてるところあるから似たようなもんか。

    雪乃【ところで】

    雪乃【小町さんに聞いたのだけれど】

    雪乃【明日は比企谷君のご両親は外出されるのよね?】

    八幡【ああ、まあな】

    雪乃【カマクラさんはいるのかしら?】

    八幡【そりゃいるけど……】

    八幡【え、なに?うち来るの?】

    雪乃【だめかしら?】

    こいつ、とんでもないこと言い出しおったぞ……。

    八幡【カマクラと遊ぶってんなら俺は部屋で寝てるし構わないけど】

    雪乃【そう】

    雪乃【なら明日のお昼過ぎに行かせてもらうわ】

    雪乃【問題ないかしら】

    八幡【特にない】

    八幡【多分寝てるからインターホン連打しておいてくれ】

    雪乃【起きて待つ選択肢はないのね……】

    文面からもひしひしと伝わる呆れ具合。そのあとに何も送られてこないのがさらにそれを強調させていた。

    八幡【いや待て呆れるのはまだ早い】

    八幡【これにはちゃんと理由がある】

    雪乃【聞くだけ聞いてあげるわ】

    八幡【数ヶ月もすればもうすぐ春だ】

    八幡【脳内が年中春のやつもいるが、気候的な春は『春眠暁を覚えず』って言うとおりかなり眠い】

    八幡【だからこそ今から寝る時間を増やすことで春への耐性を高めていくんだ】

    完璧な俺の理論武装。結局春も寝てしまうことを抜けば穴は何一つ無い。ほんと完璧な武装すぎてそろそろ武装錬金しちゃうレベル。

    一体雪ノ下はこの理論をいかにして打ち破りに来るのか。心して待つ俺に対して、全く予想していなかった系統の返事が送られてくる。

    雪乃【そう、凄いわね】

    雪乃【偉い偉い】

    八幡【お前やめろよ……そういうのかなり傷つくんだからやめろよ……】

    雪乃【知った上でだけれど】

    八幡【なおさら悪質じゃねえか】

    雪乃【こういうのは構ってほしがる人にしか効果がないと思っていたけれど】

    雪乃【あなたにも意外と効くのね】

    雪乃【それともあなたも構ってもらいたがっているのかしら】

    八幡【俺がかまってちゃんとか有り得ないにも程があるだろ】

    八幡【むしろ構ってほしくないまである】

    ほんと俺はあんまり構われるの嫌いだし別に雪ノ下に言ったことを流されたって落ち込んでないし雪ノ下に構ってもらえなくたって寂しくないっていうかあれ俺かまってちゃんじゃね。

    691 = 177 :

    割とインパクトの強い新事実に俺が打ちひしがれている中、雪ノ下は特にどうでもいいという風に全く違う話題を切り出してきた。

    それは例えば学校の話であったり。

    他にも小町の勉強についてや三が日の過ごし方、はたまた俺の目のことにまで会話は広がった。

    つーか雪ノ下相当眠いんだろうな今。眠すぎてテンションが振り切れてるのか小一時間くらい猫語りされたんだけど。もうお前猫物語でも書いてろよ。

    雪乃【明日が楽しみね】

    雪乃【猫カフェに行っても人の目がおるし、人が誰もいない家でカマクラさんとにゃんにゃん出来ると思うと胸が弾むわ】

    八幡【その場にいないってだけで俺も家にはいるんだけど】

    雪乃【あら、ごめんなさい。うっかり人としてカウントし忘れていたわ】

    八幡【謝られてる気が全然しねえ……】

    っていうかにゃんにゃんって……いくらLINEとはいえそんなこと言うなんて、どんだけ眠いんだよ。

    まあ多分明日雪ノ下が目を覚ましたら自らの黒歴史に悶えることだろう。くはは、まさかあの雪ノ下がこちら側の人間になるとは!

    八幡【にゃんにゃんは置いといて】

    八幡【なんか用意するもんあれば今のうちに言っといてくれ】

    雪乃【そこまでしてもらわなくても大丈夫よ】

    雪乃【にゃんにゃんを堪能するだけで充分だもの】

    雪乃【それ以上望むのは申し訳ないわ】

    八幡【堪能って……カマクラに何する気だよ……】

    明日はカマクラにとってさぞ災難な日になることだろう。だが俺がカマクラできるのは精々祈ることくらいだ。

    アーメン。

    カマクラへの軽い祈りも終わったところで俺は今の時間に目を向けた。

    三時……時間が経つの早すぎだろ……。

    さてそろそろ寝るかと画面に目を向けるとまた雪ノ下からまたメッセージが送られてきていた。

    ……………………。

    ……ハッ!今無意識で返信してた!この前それで痛い目見たのに!イタい目で見られたのに!

    当然それにまた返信は来るわけで、俺もまたそれに返していく。

    ま、まあ今冬休みだし、多少遅くまで知り合いとLINEしたって問題ないよね……ないよね?

    とりあえずあと一時間くらいしたら寝よう。そう目安を決めて俺はまたLINEをし始める

    ……結局俺が寝たのは空がだいぶ明るくなってきた頃だった。

    692 = 177 :

    今日はここまでー

    ゆきのんのフィギュアも出るそうなので頑張ってお金稼がなきゃ……(白目)

    それじゃまた数ヶ月後!

    696 :

    やっはろー!1どす

    更新頻度が低すぎて申し訳ないので短編一個だけ投下しますー

    697 = 177 :

    「つむつむ」

    八幡(ツムツムなんとなく始めたけど意外と楽しいなこれ)

    八幡(ランキングがあるってのも面白いし)

    八幡(まあランキングにいるのは友だち申請したやつだけだから何人もいるわけじゃないけど)

    八幡(それにしてもこの一位すげえな。これは──)

    ピコン

    to:雪ノ下

    雪乃【さっきはハート助かったわ】

    雪乃【ところであなたのランキングで一位は誰かしら】

    八幡【どういたしまして】

    八幡【お前どうせ、聞いて自分が負けてたら勝つつもりだろ?】

    雪乃【当然よ】

    雪乃【勝負とあっては負けるわけにはいかないわ】

    八幡【聞かない方がいいと思うぞ】

    雪乃【?】

    雪乃【自分が一位だから譲りたくないのかしら】

    八幡【一位、平塚先生なんだよ……】

    雪乃【……そう】

    八幡【たまに先生から「ツムツムで遊んでいると自分もまだまだ若いと実感できますね(笑)」みたいなLINEが来るんだよ……】

    雪乃【その情報とてもいらないのだけれど】

    八幡【平塚先生からツムツムまで奪わないでやってくれ……】

    八幡【そんなことになったら可哀想すぎて俺が貰うまであるから】

    雪乃【そこまで言うのならやめておくわ】

    雪乃【仕方ないからあなたの一位は平塚先生に譲るわ】

    八幡【その言い方やめてくれない?】

    八幡【それだとちょっと譲られても困るんだけど】

    雪乃【なら私が一位を奪った方がいいかしら?】

    八幡【いやまあ構わんが】

    雪乃【え?】

    八幡【え?】


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