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    元スレ日向「強くてニューゲーム」

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    901 = 879 :

    男子15番/細野隆弘(ほその・たかひろ)
    部活動 無所属
    身長/血液型 170cm/O型
    愛称/杜若 [ピザ]野、太野/お[ピザ]ちゃん
    支給武器 チェーンソー
    被害者 北内冬子
    加害者 ?
    出身小学校 千代田区立九段北小学校
    交友関係 田所圭太
    間口信彦
    (田所グループ)
    備考
    かなりの肥満体で動きが鈍い。肥満体質のせいか暑がりで、秋でも半そでを着ている。

    性格は穏やかだが、日頃のいじめがストレスとして溜まっているのか、いじめられっ子故に“友達”に妙にこだわっている粘着質な面も。
    アニメやゲームが好きないわゆるオタク。

    山崎大河や正岡丈に虐められていて、暴力を受けることも多い

    行動記録
    本校舎。
    3階物理室。早稲田貞治に呼びかけられ、香月栞、新藤誠、風間英二、工藤次郎、他1名の生徒と「殺人クラブ」として結託。
    物理準備室に潜んでいた折上志鶴、相葉瑞姫、大塚伊吹、北内冬子を獲物とし、早い者勝ちのゲームを開始。
    5階廊下。獲物の志鶴と冬子を発見。冬子を捕まえ、首を絞め[ピーーー]。
    3階物理室。次の獲物を探しに、殺人クラブメンバーと共に行動開始。
    4階職員室。次の獲物である日生悠香と此花香南を発見。ゲームを開始する。

    902 = 879 :

    男子1番 / 総合6番 沖田良 おきた・りょう
    支給武器白旗
    被害者数1(此花直哉)
    加害者壬生優人
    現在状況森(E-3)にで笹川比奈子を守ろうと戦うが、壬生優人に射殺される
    女の子のような顔立ちで、いつも明るくにこにこしている。
    誰にでも優しくやや八方美人の気があるが、彼の周りにはいつも笑い声が絶えない。基本的には誰にでも好かれる好青年。モテるが女の子は苦手。
    平和主義者で、出来ることならみんなと仲良くしたいと思っている。繊細で、少しのことでも傷つきやすい。
    普段、嫌なことがあっても我慢しているので、キレると怖いタイプ。
    親友の近藤達也、山南健太に多大な信頼を寄せている。
    部活動/委員会テニス部/福祉委員
    身長175cm
    誕生日2月14日
    星言葉デネブ・アルゲティ(情の深い自己犠牲)
    友人此花直哉・近藤達也・山南健太


    女子1番 / 総合1番 青井鈴美 あおい・すずみ
    支給武器シグ・ザウエルP230
    被害者数--
    加害者壬生優人
    現在状況エリアB-3でクラスメイトに説得を試みるが、壬生優人に射殺される。
    やや神経質な面がある以外は、明るく元気なごくごく普通な女の子。
    同じく女子運動部グループの明石珠緒とは3?C名コンビで、出席番号前後なこともあってか大の仲良し。
    すらりと縦に長いモデル体型。女子では2番目に高い身長。

    神宮寺麗央那に片思いしているが、彼より高い身長がコンプレックス。
    部活動バレーボール部
    身長170cm
    誕生日5月28日
    花言葉鈴蘭(清らかな愛)
    友人明石珠緒・藤堂杏奈・永倉美空・原田観月


    女子2番 / 総合2番 明石珠緒 あかし・たまお
    支給武器メガホン
    被害者数--
    加害者壬生優人
    現在状況エリアB-3でクラスメイトに説得を試みるが、壬生優人に射殺される
    熱血で前向き。とにかく元気な女の子。
    素直で率直で快活。打てば響くように返事が返ってくる。
    同じ女子運動部グループの青井鈴美とは3?C名コンビで、10センチの身長差に負けない存在感と大きな声。
    野球部の山本光一に思いを寄せている。
    部活動/委員会ソフトボール部/体育祭実行委員
    所属委員会美化委員
    身長160cm
    誕生日4月13日
    花言葉ハルシャギク(陽気)
    友人青井鈴美・藤堂杏奈・永倉美空・原田観月

    903 = 879 :

    男子2番 / 総合10番 神崎卓也 かんざき・たくや
    支給武器イングラムM10サブマシンガン
    被害者数--
    加害者馬見塚鉄男
    現在状況分校体育館(F-4)で馬見塚鉄男に射殺される
    流行モノに敏感で、話題のものには何でもとびつく。
    クラス内や部活では盛り上げ役に徹するので友達は多い。だが軽薄な面があるので、親友はいないタイプ。
    明るいというよりは軽い印象を受ける。
    基本的には「みんながやるなら俺もやる」というスタイル。

    此花直哉や中屋敷仁と一緒になって島村光をいじめている。
    部活動サッカー部
    身長176cm
    誕生日9月12日
    星言葉デルタ・クラーテーリス(仲間意識の強さ)
    友人 馬見塚鉄男・向井正太・黒川渚・東儀奈緒子


    男子3番 / 総合11番 木村秀成 きむら・しゅうせい
    支給武器まきびし
    被害者数--
    加害者壬生優人
    現在状況分校(G-4)で銃声を聞きつけ保健室に駆けつけるが、壬生優人に射殺される
    基本的には理性的で冷静なインテリ少年。だが実はカッとしやすい一面もある。結構頑固。
    悩み始めるとどんどんドツボにはまるタイプ。やや頭が固い。
    恋愛感情が薄く今まで特にこれといった恋をしたことがないせいか、恋愛というものがいまいち理解出来ない。
    今は女の子と遊んでいるよりもパソコンをいじっている方が楽しい様子。なのでウブな面がある。

    母親は政府の役人でプログラム担当教官の仕事を勤めており、蔭山暗夫とも知り合いだった様子。

    同じくコンピュータ部の永谷多樹は3年目のつき合いで、親友でもありライバルでもある。
    部活動コンピュータ部
    身長175cm
    誕生日3月6日
    星言葉マルカブ・ペガースィ(直感と計画性とサクセス)
    友人 永谷多樹


    女子3番 / 総合3番 伊東緋芽 いとう・ひめ
    支給武器チェーンソー
    被害者数--
    加害者姫井祥代
    現在状況森(A-2)で放送によって自棄になり姫井祥代を襲うが、逆にチェーンソーで頭を割られ死亡
    成金の伊東財閥のご令嬢で他人に大して常に上から目線。
    一人娘で甘やかされて育ったためか、わがまま。この世は何でも自分の思うようになると本気で信じている。
    目鼻立ちは整っていて美人と言えば美人だが、ツリ目のせいかどこか意地悪そうな印象を与える。
    何事にも強気で積極的。基本的にお高くとまって上から目線な態度をとる。
    姫井祥代の父が働く会社の上役の娘という立場を利用して、祥代をメイド扱いしている。
    沖田良に思いを寄せていたが、メアド交換を拒否されてからは逆恨み中。執着心にも似た思いを寄せている。
    部活動テニス部
    身長158cm
    誕生日11月23日
    花言葉極楽鳥花(全てを手に入れる)
    友人 姫井祥代

    904 = 879 :

    女子4番 / 総合4番 氏家菜子 うじいえ・なこ
    支給武器ワルサーPPK
    被害者数--
    加害者壬生優人
    現在状況中央公園(B-4)で壬生優人に襲われた傷により失血死する
    大人しくて引っ込み思案。男子は親しい人物以外は殆ど話さない。
    性格的に幼く、幼馴染みグループでは末っ子の妹ポジションで可愛がられている。

    瀬名馨、九条利人、椿さおりの3人とはとても仲が良く、そこでははしゃいだり甘えん坊な一面を見せることもある。
    山本光一のことが好き(九条利人談)
    部活動/委員会美術部/保健委員
    身長153cm
    誕生日5月19日
    花言葉芍薬(恥じらい)
    友人九条利人・瀬名馨・椿さおり

    905 = 879 :

    男子4番 / 総合12番 九条利人 くじょう・りひと 
    支給武器フランキ・スパス12
    被害者数--
    加害者壬生優人
    現在状況道路(E-6)にて壬生優人に襲われ、斎賀七瀬と山本光一を逃がし、射殺される
    生真面目な優等生。 成績はクラスでも上位に入る。
    論理的でやや神経質。饒舌なタイプではないが、話そうと思えば話すことが出来る。
    頭の中でいろいろと考えてはいるが、それを口に出すことがあまりない。話してみれば、優しくて気の利く感じのいい男の子。

    無口であまり人と関わりを持たないが、瀬名馨、氏家菜子、椿さおりの幼馴染みたちには心を開いている。

    女の子とはあまり話さないだけで、幼馴染がいるため女性が苦手なわけではない。話そうと思えば女の子とも話せるし気配りもできる。
    斎賀七瀬に一途な思いを抱いている。
    部活動/委員会美術部/保健委員会
    身長170cm
    誕生日10月6日
    星言葉ベータ・クルキス(高い理想と秘めた情熱)
    友人瀬名馨・氏家菜子・椿さおり


    男子5番 / 総合15番 此花直哉 このはな・なおや 
    支給武器スタンガン
    獲得武器特殊警棒
    被害者数2(島村光・山南健太)
    加害者沖田良
    現在状況川縁(G-4)で山南健太を殺害、沖田良も殺そうとするが返り討ちに遭い死亡
    神崎卓也や中屋敷仁を引き連れて島村光をいじめている。
    下品な振る舞いが友人にも受けず、男子運動部グループ居内では浮いた存在。
    短気で喧嘩っ早く、思考も下品。あまり深いことは考えない。そのうえ執念深く、嫉妬深い。

    何かと行動に文句をつけてくる御三家は目障りな存在。
    過去に神宮寺麗央那と喧嘩をしてボコボコにされ、それを斎賀七瀬に馬鹿にされた経験を持つ。
    そのためこの二人にはかなり深い怨みを持つ。
    部活動野球部
    身長162cm
    誕生日10月21日
    星言葉プシー・ケンタウリ(期待と過度の思いこみ)
    友人 沖田良・近藤達也・山南健太


    女子5番 / 総合5番 大財瑞生 おおたから・みずき
    支給武器Cz75
    被害者数--
    加害者片桐絢香
    現在状況キャンプ場(E-2)にて金子ひとみに襲われ致命傷を負ったところを、片桐絢香に止めを刺される。
    ギャルグループの一員で、元気玉のような存在感。
    うるさすぎるのがたまにキズだが、クラスのムードメーカーでもある。
    同じグループの片桐絢香とは幼馴染み。
    部活動無所属
    身長154cm
    誕生日8月12日
    花言葉キバナコスモス(野生美)
    友人 片桐絢香・金子ひとみ

    906 = 879 :

    女子5番 / 総合5番 大財瑞生 おおたから・みずき
    支給武器Cz75
    被害者数--
    加害者片桐絢香
    現在状況キャンプ場(E-2)にて金子ひとみに襲われ致命傷を負ったところを、片桐絢香に止めを刺される。
    ギャルグループの一員で、元気玉のような存在感。
    うるさすぎるのがたまにキズだが、クラスのムードメーカーでもある。
    同じグループの片桐絢香とは幼馴染み。
    部活動無所属
    身長154cm
    誕生日8月12日
    花言葉キバナコスモス(野生美)
    友人 片桐絢香・金子ひとみ


    女子6番 / 総合7番 片桐絢香 かたぎり・あやか
    支給武器ダイバーズナイフ
    被害者数3(金子ひとみ・大財瑞生・国分友香)
    加害者福森唯
    現在状況林(F-4)で福森唯を怒らせ、格闘の末に頭を撃ち抜かれ死亡
    大人っぽい色気のある雰囲気をまとう、ギャルグループのリーダー格。
    校則を破ってアルバイトをしており、年上の男に言い寄られることも多いためか、同い年のクラスメイトたちを見下している。やや傲慢な面も。
    狡猾で頭の回転が速いが、自身の異性関係の豊富さを鼻にかけている中学生らしい面もある。
    見た目は色っぽいが口を開くとちょっと残念。下品で口が悪い。

    同じグループの大財絢香とは幼馴染み。
    自分と似た雰囲気の福森唯を気にかけている。
    部活動無所属
    身長163cm
    誕生日9月10日
    花言葉ダリア(華麗)
    友人 大財瑞生・金子ひとみ


    男子6番 / 総合16番 近藤達也 こんどう・たつや 
    支給武器メリケンサック
    被害者数--
    加害者壬生優人
    現在状況森(E-3)で沖田良と笹川比奈子を逃がすが、壬生優人に銃殺される
    柔道部の主将を務め、クラス一の体躯を誇る。
    嘘をつくのが苦手で、強面にも関わらずそれを豪快に破顔させて笑うので、怖いという印象はない。

    明るく陽気で人当たりも良く、義理人情に熱くて涙もろい。
    情熱的で懐も広く、癖の強い柔道部を上手いことまとめ上げていて、クラスでも中心的な人物。
    正義感が強く、憎めない好青年。
    沖田良、山南健太とは親友。
    氏家菜子に淡い思いを抱いている。
    部活動/委員会柔道部/学級委員
    身長185cm
    誕生日8月9日
    星言葉アスピディケ(明朗快活な行動力)
    友人 沖田良・此花直哉・山南健太

    907 = 879 :

    男子7番 / 総合18番 早乙女辰巳 さおとめ・たつみ
    支給武器ワイヤー(極細)+軍手
    被害者数--
    加害者花園ライアン
    現在状況教会(C-6)で花園ライアンにナイフで喉を刺され、死亡
    場を盛り上げるのが好きで、3年C組ムードメーカーの一人。
    実は会話が止まると焦る、かなりの気遣い人間。
    普段はおちゃらけているが、根は真面目で優しい。そんな面を知っている吹奏楽部員からの信頼は厚い。
    部活動吹奏楽部
    身長169cm
    誕生日9月4日
    星言葉46・レオ・ミノリス(面倒見の良いお節介)
    友人 中屋敷仁・花園ライアン・壬生優人・加藤彩希・藤島詩歩


    女子7番 / 総合8番 加藤彩希 かとう・さき
    支給武器探知機
    被害者数--
    加害者花園ライアン
    現在状況教会(C-6)で花園ライアンにボウガンで額を打ち抜かれて死亡
    仲間内では元気で明るくノリもいい、わりと騒ぐタイプだが、それ以外では大人しい。少しヒステリックな面もある。

    藤島詩歩とは同じ部活なせいもあってつき合いも長く、親友同士。
    嫌味な物言いが気にくわないのか、部員仲間でも中屋敷仁とは始終揉めている。
    部活動吹奏楽部
    身長155cm
    誕生日4月7日
    花言葉ディモルフォセカ(元気)
    友人早乙女辰巳・中屋敷仁・花園ライアン・壬生優人・藤島詩歩

    908 = 879 :

    女子一番・朝比奈紗羅
    「雅哉みたいに女の子なら誰彼構わずそんなこと言う軽いヤツはお断りっ!
     悠希はすっごい良いヤツだと思うよ、頭良いし運動できるしイケメンだしね!
     まあ、麗には負けるけど♪」


    男子三番・雨宮悠希
    「え、俺麗には負けないけどなぁ。まあ朝比奈さんは麗一筋だから仕方ないか!
     麗一筋と言えば、池ノ坊もずっと麗と一緒にいるボディーガードみたいだね。
     あまり喋ったことないけど、律義な良いヤツってのはわかるよ!」


    男子四番・池ノ坊奨
    「ありがとう雨宮。自分は麗さんの傍にいるのが当然なんだ。
     咲良さんも自分と似た家の生まれ。昔から可愛らしくてとても優しい人。
     口下手な自分のことをわかってくれる人」


    女子二番・上野原咲良
    「奨くんにそういう風に思ってもらってたんだ、嬉しいな、ありがとう。
     千世ちゃんはとってもおっとりしてて、すごく癒されるの。
     ほんわかした関西弁も、とっても可愛いよ」


    女子三番・荻野千世
    「いややわぁ、上野原さんの方が万倍可愛いのに。
     川原くんはどこにいても聞こえるくらいおっきい声しとる。
     体育会とか球技大会とかって、川原くんのための行事やんなぁ」


    男子五番・川原龍輝
    「おっ、千世ってば言ってくれるなぁ、確かに俺のための行事だけどな!
     如月はなんかすっげー頭良いよな!!
     インテリ眼鏡美人!!…こんな風に書いて大丈夫なのか、俺」

    909 = 879 :

    心の中に渦巻き始めていた黒い靄を優しく包み消していくような柔らかく温かい声が永佳の名前を呼び、永佳は顔を上げた。
    きっちりと着こなした制服、胸元まで伸びた艶やかな黒髪、小さな口とすっと通った鼻筋、大きく優しい瞳――クラスメイトでもあり部活仲間でもある上野原咲良(同・女子二番)がにっこりと笑みを浮かべて永佳を見下ろしていた。
    初等部の頃から類い稀なる愛らしい容姿をしていた咲良は、今や中等部どころか高等部にまでファンクラブができている程異性からの人気が高く、帝東学院のマドンナと称されているのだが、当人は自分の人気の高さを自覚していない。

    「ねえ永佳ちゃん、テニスコート行かない?
     さっき家庭科部にちょっとお邪魔して、マドレーヌ作ったの。
     帰りがてら、差し入れに行こうと思うんだけど」

    「…行かない。
     咲良が1人で行ったらいいじゃない」

    「そんなこと言わないで、お願い、ね?
     みんなで外で食べようよ。
     さっき華那ちゃんも食べてくれて、美味しいって言ってくれたから味は大丈夫!」

    “華那ちゃん”――クラスメイトの佐伯華那(女子七番)は確か家庭科部に所属していたと記憶しているので、華那に頼んでお邪魔させてもらったのだろう。
    のんびり屋でぼーっとしている印象しかない華那のことだ、何も深く考えることなしに咲良のお願いを受け入れたのだろう。

    「…わかった、片付けるから待ってて」

    永佳は諦めて画材を片付け始めた。
    クラス内で一緒にいることはあまりないのだが、部活で付き合いを始めてから丸2年を超えたので、咲良のお願い事はやんわりとしているようで有無を言わせないところがあるためにどうせ断ることはできないことがわかっている。
    それなら、早々に折れた方が時間を浪費せずに済むという話だ。
    それに、咲良が永佳を誘う理由はわかっている。
    ストレートに言えば永佳が意地になって拒否することを咲良もこれまでの付き合いで知っているから、わざわざお菓子を焼いて自分の用事を作りそれに永佳を連れて行く、という状況を作ったのだ。
    そういう気遣いの出来る子なのだ、咲良は。

    片付けを終えると、永佳と咲良は美術室を出た。
    美術室のある校舎からテニスコートまでは少し離れているし、様々な部活動が終わる時間帯なので、歩いていると多くの人と出会う。
    男子生徒の半分以上は、すれ違い様に咲良に声をかける。
    さすがは男子生徒憧れの的。
    愛らしい容姿に穏やかな性格で気配り上手、更に頭も良ければ運動もできるという、欠点らしい欠点のない神様に愛された子。
    そんな咲良の隣を歩くのは、少し辛い。
    襟足を長く伸ばしたツンツンとした漆黒の硬めの髪も、決して大きくないやや鋭い目も、中性的と言われる顔立ちも、全てを隠してしまいたくなるし、両耳に開けた沢山のピアスは馬鹿にしか見えないのではないかと思う。
    強い光に当たれば当たる程濃い影ができるのと同様で、咲良の隣にいると自分の悪い面がより一層強調されてしまいそうで、自分のことが嫌になる。

    910 = 879 :

    どうやら川原龍輝(男子五番)が相葉優人(男子一番)の弁当のから揚げを無断で食べたらしく、優人が怒りの声を上げていた。
    その様子を見て、雨宮悠希(男子三番)と内藤恒祐(男子十二番)と望月卓也(男子十七番)が机や手を叩きながら大笑いし、控えめな性格の田中顕昌(男子十一番)はおろおろとして止めようとしているがどうにもできず、集団のリーダー格である春川英隆(男子十四番)は苦笑いを浮かべて優人を慰め、日比野迅(男子十五番)は呆れ顔で龍輝を窘めていた。
    クラスの中心で盛り上がるお気楽な集団。
    たかがから揚げ一つでそこまで騒げるなんて、なんてお気楽でなんて幸せなの。

    「うわぁ、麗さまのお弁当相変わらず豪華ぁ!」
    「おせちみたいじゃねぇか、そんなん広げて嫌味かテメェ」
    「は? 普通だろこんなの別に」
    「普通じゃないでしょ、少なくともあたしらのみたいに冷凍食品とか入ってないよ! いいないいな、なんかちょうだいよ、麗!」

    前方で騒いでいるのは、医療方面に特に大きな力を持つ城ヶ崎グループの跡取だという超が付くお坊ちゃんの城ヶ崎麗(男子十番)を取り巻く一団だ。
    豪華な弁当を前に騒いでいるのは、麗の取り巻きたちの中の庶民幼馴染トリオの鳴神もみじ(女子十二番)・木戸健太(男子六番)・朝比奈紗羅(女子一番)だ。

    「ちょっと、食事中に騒がしいですよ、埃が立つでしょう! これだから庶民は…っ!」
    「君の声も大概騒がしいよ、高須」
    「もー瑠衣斗くん、撫子に喧嘩売るのやめて。 ご飯は楽しく食べないと」
    「咲良さんの言う通りです…」

    騒ぐ3人を咎めたのは黙っていれば大和撫子という言葉が相応しい出で立ちなのだが非常に気の強い高須撫子(女子十番)。
    その撫子に静かに意見した真壁瑠衣斗(男子十六番)は中等部からの入学以来ずっと学年首席の座を守り続けている天才だ。
    2人を宥める上野原咲良(女子二番)と池ノ坊奨(男子四番)は幼い頃からずっと麗に付き従ってきており、まるで麗の家来のように見える。

    恐らく何不自由ない裕福な家で生まれ育った麗、奨、咲良、撫子と、類い稀なる頭脳を持って生まれた瑠衣斗、部活ではそれぞれエース級の活躍をしているという健太、紗羅、もみじ――誰も彼も、幸せに満ちた顔をしている。
    きっと彼らにとっては極道の抗争なんてドラマの世界でしか起こり得ない出来事だと思っているのだろう。

    911 = 879 :

    どうやら川原龍輝(男子五番)が相葉優人(男子一番)の弁当のから揚げを無断で食べたらしく、優人が怒りの声を上げていた。
    その様子を見て、雨宮悠希(男子三番)と内藤恒祐(男子十二番)と望月卓也(男子十七番)が机や手を叩きながら大笑いし、控えめな性格の田中顕昌(男子十一番)はおろおろとして止めようとしているがどうにもできず、集団のリーダー格である春川英隆(男子十四番)は苦笑いを浮かべて優人を慰め、日比野迅(男子十五番)は呆れ顔で龍輝を窘めていた。
    クラスの中心で盛り上がるお気楽な集団。
    たかがから揚げ一つでそこまで騒げるなんて、なんてお気楽でなんて幸せなの。

    「うわぁ、麗さまのお弁当相変わらず豪華ぁ!」

    「おせちみたいじゃねぇか、そんなん広げて嫌味かテメェ」

    「は? 普通だろこんなの別に」

    「普通じゃないでしょ、少なくともあたしらのみたいに冷凍食品とか入ってないよ!
     いいないいな、なんかちょうだいよ、麗!」

    前方で騒いでいるのは、医療方面に特に大きな力を持つ城ヶ崎グループの跡取だという超が付くお坊ちゃんの城ヶ崎麗(男子十番)を取り巻く一団だ。
    豪華な弁当を前に騒いでいるのは、麗の取り巻きたちの中の庶民幼馴染トリオの鳴神もみじ(女子十二番)・木戸健太(男子六番)・朝比奈紗羅(女子一番)だ。

    「ちょっと、食事中に騒がしいですよ、埃が立つでしょう!
     これだから庶民は…っ!」

    「君の声も大概騒がしいよ、高須」

    「もー瑠衣斗くん、撫子に喧嘩売るのやめて。
     ご飯は楽しく食べないと」

    「咲良さんの言う通りです…」

    騒ぐ3人を咎めたのは黙っていれば大和撫子という言葉が相応しい出で立ちなのだが非常に気の強い高須撫子(女子十番)。
    その撫子に静かに意見した真壁瑠衣斗(男子十六番)は中等部からの入学以来ずっと学年首席の座を守り続けている天才だ。
    2人を宥める上野原咲良(女子二番)と池ノ坊奨(男子四番)は幼い頃からずっと麗に付き従ってきており、まるで麗の家来のように見える。

    恐らく何不自由ない裕福な家で生まれ育った麗、奨、咲良、撫子と、類い稀なる頭脳を持って生まれた瑠衣斗、部活ではそれぞれエース級の活躍をしているという健太、紗羅、もみじ――誰も彼も、幸せに満ちた顔をしている。
    きっと彼らにとっては極道の抗争なんてドラマの世界でしか起こり得ない出来事だと思っているのだろう。

    912 = 879 :

    零した。
    余談だが、早稀は校内にいる様々なカップルたちを日々観察しているが、健太と上野原咲良(女子二番)のカップルは早稀内ベストカップル賞に輝いている。
    一般庶民と超お嬢様、身分の違いを超えた2人の仲睦まじい姿は見ていて心が温まるし、口が悪いところもある健太が咲良の前ではとても優しくなるのは、それ程までに健太が咲良を想っているということがわかり好感が持てる。

    とりあえず、葉瑠の言う“イケメン”の基準は、どうやらギャップのある意外に可愛らしい男子であるかどうかが重要視されているらしい。
    だが、この基準が満たされるかどうかを知るには、相手をよく知らなければならない。
    葉瑠は人を深く知ろうとする意欲がある。
    相手のことを表だけではなく全て見ようとする姿勢は誰にでもあるようなものではないので、それを当然のようにできる葉瑠は素敵な才能を持っているのかもしれない。
    個性的で恋人もいないという葉瑠だが、いつか葉瑠をわかってくれる人はできるだろうし、その人は葉瑠のこういう面を大切にしてくれるのだろう。

    まあ、その候補といえば――

    「ところで葉瑠。
     その“イケメン”に優人は入らないの?」

    「優人ぉ?
     ないない、アイツは絶対ないってー!」

    葉瑠はけらけらと笑った。


    「そんな全否定しないでよ葉瑠ーっ!!」


    葉瑠の背後に現れた影に、早稀と葉瑠はぎょっとした。
    早稀が見上げ、葉瑠が振り返った先には、早稀が先程名前を挙げた相葉優人(男子一番)が今にも泣き出しそうな表情を浮かべて立っていたのだ。
    バスケットボール部に所属している優人は、プレイ中の真剣な表情は非常にかっこいいと評判なのだが、部活中以外では常に身に付けている青縁の伊達眼鏡が彼の日頃のお茶らけた性格を助長しているように見える。
    この優人は女子に対しては非常に照れ屋なのだが、何故か葉瑠に対しては積極的で、いつも「葉瑠大好きー!!」と叫んでスキンシップを求めているのだ。
    全て葉瑠にかわされてしまっているが。

    「げっ、優人、何でこんな所にいるのさ!」

    「そりゃあ俺の葉瑠レーダーがビビッと反応したっつーか!
     ねーねー、これも運命だって、一緒に帰ろーっ!!」

    「どうせ偶然見つけたんでしょうが、運命じゃないっての!
     じゃあ校門まで一緒に帰ってバイバイしよ、どうせ逆方向じゃん。
     じゃ、これうるさいから連れて行くわ、また明日ね、早稀」

    「ああっ、葉瑠酷い…でもそこがまた良いよねっ!!」

    「うーるーさーいっ、くっつくな鬱陶しい!!」

    早稀が口を挟む隙間もない程に言葉の応酬を繰り広げながら、葉瑠と優人は校門の方に向かって行った。
    2人がいなくなった後は、まるで嵐が過ぎ去ったあとのようだ。

    「何か一気に静かになったな」

    早稀はぴくっと肩を震わし顔を上げ、満面の笑みを浮かべた。
    優人があまりに騒がしくて全く発言をしなかったが、優人には連れがいたのだ。
    早稀は立ち上がると眼前にいる日比野迅(男子十五番)にぎゅうっと抱きついた

    913 = 879 :

    それぞれ手に地域限定のお菓子を持った上野原咲良(女子二番)と真壁瑠衣斗(男子十六番)が、バス酔い対策を話し合ってくれていた。
    咲良は類い稀なる愛らしい容姿と誰にでも優しい性格で異性人気が非常に高い帝東学院のマドンナ的存在だ。
    ここに入る前にちらっと姿が見えた時には、同じサービスエリアに居合わせた他の学校の修学旅行生に声を掛けられていたが、咲良の隣にいた強面で大柄の池ノ坊奨(男子四番)にじろっと一瞥されて彼らはそそくさと逃げて行ってしまっていた。
    まるで奨は咲良のボディーガードのようだった(実際は幼馴染らしいのだが)。
    本当なら恋人の健太が護ってやるべきだと思うのだが、小さな健太が睨みをきかせてもあまり効果はなかったようだ、お気の毒に。
    瑠衣斗は学年一の天才児で、あらゆる試験で常に学年トップの座をキープしている。
    表情を表に出さないことが多いのだが、何故か卓也を見る目つきは他の者を見る時とは違い嫌悪感が滲み出ている。
    その理由は卓也には見当もつかないので、対処のしようがない。

    「あれ、咲良ちゃん…お宅のキングは?」

    卓也の問いに、隣にいた英隆がぷっと噴き出した。
    咲良も一瞬きょとんとしたが、すぐに可笑しそうにしかし上品に微笑むと、店の奥の方の他校の女子の集団を指差した。

    「相変わらずの人気だね、会長は」

    「お前が言うな、ヒデ、お前も似たようなモンだろ。
     てか麗サマ女子に埋もれてんじゃん」

    女子の集団の中から覗いている茶髪は明らかに城ヶ崎麗(男子十番)のものなのだが、麗は常に満ち溢れる自信とエベレスト級のプライドの持ち主ながら身長は決して高くないので、その顔は卓也たちからは確認できない。
    帝東学院中等部の生徒会長でもあり卓也や健太が所属するテニス部の部長でもある麗は、生まれつきの茶髪と白皙の肌と赤みがかった目が特徴的で、口許のほくろが非常に端正な顔立ちに更に色気をプラスさせていることもあり、女子人気は非常に高く今もその容姿に魅かれた他校生に捕まっているのだ。

    麗には、カリスマ性が備わっていると卓也は思っている。
    卓也は部活での付き合いがあるのだが、彼以上に部長らしい部長はいないと思うし、いつでもつい姿を追ってしまう。
    咲良と奨は幼い頃から常に麗の傍から離れないし、紗羅は『麗に憧れて入学した』と豪語しているし、もみじは異様なまでに麗に心酔しているし、健太は麗をライバル視しながらも常に行動を共にしているし、深い人付き合いをしなさそうな瑠衣斗ですら常に麗に付き従っている。
    それぞれが、麗に対し何かを感じているのだろう。

    「城ヶ崎さん、何をされているんです?
     そんな庶民たちの相手をされるなんて、やはりお優しいですね」

    麗に群がる女子たちの間に割って入り麗の腕を引っ張ってその中から救い出したのは、麗を取り巻くグループの最後の1人、高須撫子(女子十番)だ。
    麗に群がっていた女子たちが非難の声を上げるが、撫子に勝ち誇った笑顔を向けられると萎縮し、そのままどこかに行ってしまった。
    撫子は華道の家元を祖母に持つお嬢様で、艶やかな長い黒髪に上品な言葉遣いと物腰、狐のように吊り上がった目元にキツさを感じるが“大和撫子”と呼ぶに相応しい咲良とは違うタイプの容姿に恵まれた女の子なのだが、恐らくこのクラスで最も家柄に対する偏見が酷い。

    914 = 879 :

    麗は季莉から情報を受けるとすぐに上野原咲良(女子二番)を呼んだ。
    咲良は麗とは幼馴染であり、家柄の話をすると昔は主君と家臣の関係だったという話を聞いたことがある。
    麗の左隣の席であることもあり、咲良を起こしに掛かったのだろう。
    間もなく寝ぼけたほわほわとした声で「麗くん…?」と呼ぶ咲良の声が聞こえた。

    「咲良、ここは教室で席の並びは普段と同じらしい、周りの奴を起こせ。
     電気のスイッチはどこだろうな…紗羅、芳野!!」

    麗は今度は廊下側の最前列の席である朝比奈紗羅(女子一番)と芳野利央(男子十九番)を呼んだ。
    紗羅も麗の取り巻きの1人であり、季莉とは波長が合うので仲が良い。
    利央は学級委員長で、寡黙ではあるが文武両道である点を麗は認めているらしく、自身のライバルだと公言している。

    「ん…麗…?
     あれ、あれあれ、あっれ、何これ、どういう状況!?」

    目が覚めららしい紗羅が騒ぎ出した。

    「紗羅、ここは俺らの知らない場所だけど多分教室だ。
     前の方に電気のスイッチがないか確認してくれないか?
     足元に気を付けろよ?」

    「オッケー!
     瑠衣斗、ねえ瑠衣斗アンタ起きてる!?
     電気のスイッチ探すから手伝ってよ!!」

    紗羅は自分の後ろの席にいる真壁瑠衣斗(男子十六番)に声を掛けた。
    瑠衣斗は紗羅と同じく中等部から帝東学院に入ってきたのだが、入学以来学年首席の座を一度たりとも手離していない優等生だ。
    固い表情を崩すことがほとんどないので、季莉はあまり好きではない。
    瑠衣斗も麗の取り巻きの1人であり、紗羅とは数ヶ月付き合った後別れたそうだが今では無二の親友のようで、瑠衣斗は紗羅を相手にしている時だけは表情が緩み笑顔を見せることもある。

    どたんっと何かが倒れる音がし、「え、瑠衣斗アンタ転んだ!?大丈夫!?」という紗羅の声が聞こえた後、天井の蛍光灯に灯りがともった。
    頭はいいが運動能力は破滅的にない瑠衣斗が床に倒れており、紗羅はその腕を掴んで起こそうとしていた。
    スイッチに触れたのは、声は一切聞こえなかったが起きていたらしい利央だった。

    ようやく全体を確認することができるようになり、季莉は辺りを見回した。
    麗が大声を上げたり紗羅が騒いだりしたこともあり、また周りが明るくなったこともあり、半数以上が目を覚まして身体を起こし、それぞれが不安げな表情で辺りを見回しては近くの席の人と話をしていた。

    「季莉…これ、何、どういうこと…?」

    ようやく目覚めた早稀が、困惑した表情で季莉を見つめた。
    いつも明るい笑顔を浮かべているイメージが強い早稀だが、さすがにこのわけのわからない状況は不安なようだ、当たり前だし季莉も同感だが。
    その早稀の首元に、ふと視線が止まった。
    赤みの強い茶色に染められたショートヘアなのですっきりと見えている早稀の首元に、見慣れない銀色の物体が巻き着いているのに気付いたのだ。

    915 = 879 :

    男子10番須王 拓磨 (すおう たくま)
    支給武器チェーンソー
    被害者奥村秀夫(男子3番)/霧鮫美澪(女子4番)/剛田昭夫(男子8番)/野村信平(男子18番)/坂東小枝(女子17番)/辻本創太(男子12番)/新城忍(女子9番)
    加害者名城雅史(男子16番)
    行動経緯山中を息を切らしながら歩いてきた奥村秀夫(男子3番)を見つけ、すぐに襲撃を開始。チェーンソーで首を切り落とし殺害。
    次に優勝候補の一人でもある、同じく不良の霧鮫美澪(女子4番)と戦闘。勝利はするものの、顔右半分に、希硫酸による火傷を負うこととなる。
    さらに剛田昭夫(男子8番)と野村信平(男子18番)の剣道部コンビを発見。さっそく襲撃を開始する。
    戦闘力に定評のある昭夫となかなかの良い勝負を展開するが、汚い手段で勝利をもぎ取る。
    怯える信平を楽しみながら殺害。
    しばらく後に、坪倉武(男子13番)を追跡している新城忍(女子9番)の姿を発見し、すぐさま追跡する。すると偶然にも忍が武を殺害する現場を目撃。
    体力を使い切った忍を追い詰めるも、まんまと逃げられてしまう。
    山中をさまよっている内に、坂東小枝(女子17番)を捕まえることに成功するが、そこに現れた柊靖治(男子19番)に銃口を向けられ、小枝を離すように命じられる。しかし上手く靖治を騙し、小枝を殺害。銃を持つ靖治からの逃走にも成功。
    かなりの時間が経過した頃、C?5地点のスーパーマーケット内で辻本創太(男子12番)と戦闘。意外にてこずらされ、負傷するものの、なんとか殺害することに成功。
    その直後、怒る新城忍と再会し、前回決着がつかなかった戦いに幕を下ろすべく衝突。あわや敗北かという苦戦を強いられることとなるが、悪運に助けられ、なんとか勝利をもぎ取った。
    さらに山中へと入っていった彼は、剣崎大樹(男子7番)と名城雅史(男子16番)と石川直美(女子1番)を発見。
    奇襲を仕掛けた彼は、先ず直美を崖下へと突き落とし、大樹と激しい格闘を展開するも、一度敗れてしまう。しかし、須王がまだ生きていると知らずに隙を見せた大樹に襲い掛かり、まんまと人質にする事を成功させるが、最後は雅史に大樹ごと撃たれて死亡した。
    その他生まれつき右の目は失明していたらしい。
    素行が悪く、ありとあらゆる悪行に手を染めており、プログラム開始以前にも5人の命を奪っている。
    両親は政府のお偉いさん。
    身体のありとあらゆる臓器の場所が、常人とは左右対称となっている。

    916 = 879 :

    周りのクラスメイトたちが息を呑むのが空気で伝わってくる中、城ヶ崎麗(男子十番)は小さく溜息を吐いた。
    修学旅行に行く途中に睡眠ガスで眠らされ、謎の首輪を付けられて見知らぬ教室に閉じ込められた現状――麗は1つの大きな可能性としてプログラムを予見していた。
    その考えをクラス全員の前で披露するわけにはいかなかったので(プログラムかも、だなんて死刑宣告のようなものだ、言えるはずがないだろう?)、真壁瑠衣斗(男子十六番)や芳野利央(男子十九番)に話したところ2人は大きく動揺していたが(瑠衣斗の驚いた顔や、利央の慌てた声――あまりにレアなものを目にしたので、こんな状況じゃなければ笑っていただろう)、2人共心のどこかに「もしかしたらそうではないか」という考えを持っていたらしかった。

    戦闘実験、通称“プログラム”。
    小学4年生の社会の教科書に登場するし、国語辞典の“プログラム”という項目にも載っているし、ローカルニュースでも年に数回その話題が出るので、大東亜共和国に住む者なら知らない人などいない。
    全国の中学校から任意に選出した3年生の学級内で生徒同士を戦わせ、生き残った1人のみが、家に帰ることができる、わが大東亜共和国専守防衛陸軍が防衛上の必要から行っている戦闘シミュレーション。
    それが、戦闘実験第六十八番プログラムだ。

    しかし、教壇に立つ男は、“戦闘実験第七十二番”と告げた。
    麗が知っているプログラムとは違うものなのだろうか。
    例えば戦闘実験だからさすがに戦闘はするだろうが命懸けではないとか――いや、あの男は『殺し合いをしてもらう』と言っていたのでそれはないか。

    「あ、そういえば自己紹介してなかったっけなぁ。
     俺、今日からみんなの担任の先生になったんよ。
     気軽に、“ライド先生”って呼んでくれてええからな?」

    男はライドと名乗り、妖艶という言葉が似合いそうな笑みを浮かべた。
    中性的でどこか大東亜人離れした目鼻立ちとそれに似合う肩よりも下まで伸ばされた髪は、こんな状況でなければ女子は見惚れてしまうのではないだろうか。
    ややのんびりとした関西弁は、中等部に入るまでは関西の小学校にいたというクラスで唯一関西弁を話す荻野千世(女子三番)にどこか似ていた。

    「それから、右からシンちゃん、エッちゃん、アッキー。
     みんな俺の仲間やねん、まあ立場的には俺の助手みたいな?」

    「ライド、紹介の時はあだ名で呼ばんといて、空気台無しやん。
     俺はエツヤ、あっちがシンでこっちがアキヒロ」

    “エッちゃん”と呼ばれたライドの隣にいたエツヤが改めて紹介した。
    こちらも整った顔立ちをしているが、髪には羽根を模したようなアクセサリーを付けていたり厚底の靴を履いていたり、何より他の3人が黒を基調とした服装だというのに1人だけ赤を基調とした派手な服を着ているので最も目立っている。
    ライドにツッコミを入れたあたり、根は真面目なのかもしれない。

    その隣にいるシンと紹介された男は4人の中では最も背が高い(とは言っても、目算で瑠衣斗と同じくらいなのではないだろうか。身長170cmの瑠衣斗はこのクラス内では平均的な身長なので、シンも周りが低いから高く見えるだけのようだ)。

    917 = 879 :

    薄く髭を生やしているので他の面々と同年代だろうということは見て取れる。
    咥え煙草をしているのだが、今は火を点けていない。

    麗から見て真ん前に立つアキヒロと呼ばれた男はライド程ではないが小柄で線も細く、一見掴み掛かれば勝てるのではないかと思わせる。
    しかし、眉ひとつ動かさずに吊り上がり気味の目で教室を見回すその様子から、他の3人同様に只者ではないというオーラを感じる。

    「すみません、“担任”というのはどういう意味ですか?
     私たちの担任は塚村先生のはずですが」

    麗の2つ右隣の席の如月梨杏(女子四番)が手を挙げつつ質問をした。
    銀縁の眼鏡と赤いカチューシャで飾っただけの漆黒のストレートヘアにきっちりと着こなされた制服からその几帳面さが見て取れる梨杏は、非常に成績優秀であるがそれ故に周りの人間を見下した態度を取っており、梨杏に一歩届かない麗もその対象であるために梨杏のことはあまり好きではない。
    もっとも、このような状況で普段の授業中に教師に質問するのと変わらない様子で発言をする度胸は、感服せざるを得ない。

    「あー、塚村先生?
     先生は話したら快諾してくれて、みんなを見送って家に帰ったと思うけど?
     『生徒たちをよろしくお願いします』ってお願いされたなぁ。
     いやー、生徒思いの良い先生やね」

    塚村景子教諭を思い浮かべ、麗は再び溜息を吐いた。
    生徒同士が殺し合わなければならないというプログラムに自分の担当する生徒が選ばれて、そんな薄情なことが言えるものなのか。
    もちろん、彼女には彼女の家族がいて生活があるのだから国に逆らってでも反対しろとは言えないが(この大東亜共和国という国は、逆らう者は一般市民であろうが射[ピーーー]ることも珍しくないのだ。所詮赤の他人である生徒のために命を落とせ、などとは流石に言えない)、もう少し何か言ってくれてもいいのではないだろうか。

    「あ…あの…っ!!」

    梨杏の隣、今度はクラス内で2番目に小柄な山本真子(女子十九番)が声を上げた。
    左側のサイドポニーが小刻みに揺れているのが麗からも確認できる程に真子はガタガタと身体を震わせており、いつもの明るさは見る影もない。

    「お…お父さん…あたしのお父さんは良いって言ったんですか…?
     お、お父さんは、国会議員で…それで…」

    「それで、何?」

    ライドに切り返され、真子はびくっと一層身体を震わせた。

    「そんなん言うたら、このクラスの親御さんはスター揃いやん。
     でも、プログラムは抽選で選ばれるんやから、親がどうとか関係ないねん。
     身分もなんも関係あらへん。
     …まあ、一応親御さんの話が出たから言っとくと、ちゃんとご家族には連絡して、
     ちゃんと了承得てるから安心してくれてええよ。
     大丈夫、反対して向かってきた人もおったけど、全治一週間くらいの怪我や。
     まあ流石に処刑とかできる身分ちゃう人もおるからなぁ。
     いやー…結構プレッシャーやったよな、シンちゃん」

    「せやな、ドッキドキもんやったわ。
     めっちゃでかい家も多かったもんなぁ…監視カメラとかついてる家もあるし。
     家の門から玄関までの距離が恐ろしく長い家もあったしなぁ。
     俺もあんな家住んでみたいわぁ」

    ライドとシンのやり取りに、真子はもう何も言えず俯いており、その頬を伝った涙がぽとりぽとりと机に水溜りを作っているのが確認できた。

    918 = 879 :

    前にいる朝比奈紗羅(女子一番)は眼前にいるシンを睨み付けており、強気な紗羅らしいと思ったが、その胸の内は不安で一杯なのだろう。
    真子の後ろの席に座る木戸健太(男子六番)も紗羅と同じようにシンを睨み、紗羅以上に怒りの感情を露わにしていた。
    その後ろにいる鳴神もみじ(女子十二番)は幼い頃からの付き合いである紗羅や健太とは違い怯えの表情を浮かべていたが、麗と目が合うと無理矢理作った笑顔を浮かべて「大丈夫だよ」と口パクで伝えてきた。
    視線を左側に移す。
    池ノ坊奨(男子四番)は麗より前にいてその表情が確認できないが、心優しい奨のことだ、胸を痛めているだろう。
    左後方にいる高須撫子(女子十番)の方を見ると、撫子はライドをじっと見ていたので必然的に麗と目が合い、端正な顔を悲しげに歪めた後麗から視線を逸らした。
    そして、左隣の上野原咲良(女子二番)は俯いており、長い髪でその横顔の大半は隠され表情は確認できなかった。
    プログラムということは、いつも一緒にいた仲間たちとも戦わなければならないのだろうか――いや、そんなことが、できるはずがない。
    大体“戦う”とはどのような手段で戦うというのか。
    まさか、殴り合い?――そんな野蛮な。

    「じゃ、ルール説明するからよく聞いてな。
     なんせ七十二番は初の試みやから、俺もごっつ緊張してんねん。
     わからんことは後で質問の時間作るから、そこでまとめて訊いてな?」

    ライドはパンツの後ろポケットから紙を取り出し、それを広げて教卓に置いた。
    恐らくそこにはルールが書かれているのだろう。

    「えー、まず、今回のプログラムはチーム戦。
     4人1組のチームで戦ってもらうことになんねん。
     で、最後の1チームになるまで戦ってもらう…って感じやな。
     みんなの知ってるプログラムは“最後の1人になるまで戦う”ってモンやろうから、
     そこが今回大きく違う点になるな。
     あ、ちなみにそのチームってのはこっちで決めさせてもらってるからな。
     男女比が丁度やから、バランス良く男子2人女子2人のグループになってるから」

    “チーム戦”という言葉に、麗を含めた多くのクラスメイトたちが反応を見せ、教室内の空気がざわついたように感じた。
    学校で習った、もしくは常識として知っているプログラムでは、周りは全て敵になっていただろうが、今回のルールでは仲間がいるという。
    これは大きい。
    仲の良い人とチームになれたら――しかし麗は歯を食いしばった。
    麗はいつも8人で行動を共にしている、それはつまり少なくとも4人は仲間にはなれないということになり、チーム構成によってはやはり全員が敵になってしまうのだ。

    919 = 879 :

    同じことを思ったのか、右に座る財前永佳(女子六番)が舌打ちしたのが聞こえた。

    そして、このチーム戦とやらのルール。
    リーダーは他のメンバーの命も背負っているということになる、これはリーダーの精神的負荷はかなりのものになるだろう。
    逆に、これはあまり考えたくないことなのだが、他のチームを倒さなければならない状況に陥った場合はリーダーを狙うのが最も効率的(酷い言葉だ)ということになる。

    「ただし、リーダーが死んでもメンバーの首輪が爆発しない例外があんねん。
     リーダーが同じチームのメンバーに殺された時は、首輪は爆発しない。
     その場合、リーダーを殺害したメンバーが新しいリーダーになる。
     名付けて、“下剋上ルール”や、かっこいいネーミングやろ?
     これはチームの中で1回限りとちゃうから、何度でも起こるかもしれんからな」

    ぞっとした。
    これでは、チームメイトは必ずしも心強い味方だとは言えない。
    例えばチームメイトからの信頼を勝ち得なかったリーダーは、寝首を掻かれる可能性があるのだ。
    それが何度でも繰り返すことが可能なら、酷いチームであれば、リーダーを殺害して新たなリーダーになった人間が更に別のメンバーに殺害され、次のリーダーもまた、という恐ろしい悪循環になるかもしれない。

    「それを踏まえてもらったら、基本的には何をしてもらっても構わへんよ。
     ここは後で説明するけど都内の離島なんやけど、人の家に勝手に入っても良い、
     物取っても、何か壊してもても、誰も何も文句言わん。
     人を騙しても、罠に掛けても、信じても裏切っても、何でもアリや。
     チーム同士同盟組むのも別に構わへんし、チーム内で別行動するのもアリ。
     あ、ただし、当然やけどこの島から出るのは禁止な。
     さっきちょっと触れたけど、みんなに付けてもらってるその首輪。
     それはかなり高性能で、みんなの位置をこっちに教えてくれる機能もあるんや。
     不穏な動きを見せるようなら、こっちから電波を送って爆破することもできるから」

    成程、こちらの動きは監視されているというわけか――戦闘実験という名前なのだから、当然といえば当然だろうが。
    同盟を組むのがありということは、必ずしも他のチームと敵対する必要はないということになるのか――麗は少しだけほっとした。
    もちろん、最終的には敵に回さなければならないのだけれど、遭遇即戦闘しなければならないというわけではないのはありがたい(まあ、そもそもプログラム事態が全くありがたくない代物なのだけれども)。

    「プログラムの終了条件は、全部で3つ。
     1つは、最後の1チームだけになった場合。
     もう1つは、生き残りがリーダーだけになった場合。
     あ、この“リーダー”は、下剋上でのし上がったリーダーも含めるからな。
     そして最後は、最後の死亡者が出てから24時間誰も死ななかった場合。
     この最後の場合は、残っている全員の首輪に電波を送って爆破するからな。
     つまり、優勝者は無しってことな」

    920 = 879 :

    不成立だ、ということなのだろう。
    クラスメイト同士の殺し合いなんておかしい、と考えるのは麗だけではないだろうが(むしろほぼ全員がきっとそう思っているはずだ)、この制約がある以上全員が集まって話し合う、という考えは通用しないということになる。

    優勝条件は、シンプルなようでいてその実かなり複雑だ。
    チームで協力すればいいというだけではない。
    何らかの形でリーダーたちが結託すれば、メンバーにとっては他のチームだけでなく自分のチームのリーダーすら敵になりえてしまうのだ。
    大きな精神的負荷を負うリーダーに対する配慮としてのルールなのかもしれない。
    しかし、“下剋上ルール”とやらによりリーダーもチームメイトに命を狙われる可能性があるのだから、お互い様だとも言える。
    チーム戦だが、結局は全員が敵になりかねない、ということだ。

    「もちろんみんなにその辺に転がってるモンで戦え、とは言わん。
     みんなには、出発する時に必要な物を入れたデイパックを配る。
     エッちゃん、シンちゃん、持ってきて」

    ライドに指示されたエツヤとシンが廊下に一旦出ると、黒いデイパックが大量に載った大きなカゴ車を2人がかりで教室に入れた。

    「中には、水と食料、地図、コンパス、腕時計、懐中電灯、そして武器が入ってる。
     武器は、同じ物は入ってなくて、ほんま様々や。
     例えば銃とかナイフみたいなモンから、武器とは言えないモンまで…
     これは適当に配るから、何が当たるかは運次第ってことやな。
     あ、あとさっき言ってたルール説明書も入ってるから、各自確認しといてな」

    確かに、積まれたデイパックの中には大きく出っ張った物もいくつかある。
    それにしても、銃やナイフが配られるということは、本当にそれらを使って殺し合いをしなければならないということであり、プログラムに選ばれたことを今までよりも実感せざるを得なかった。

    「お……おかしい…よ……こんなの……ッ」

    不意に声が上がり、麗はカゴ車から声のした方へと視線を移した。
    麗の2つ前に座る田中顕昌(男子十一番)がふらふらと立ち上がっていた。
    地味で大人しく、普段の授業中には積極的に発言をしない顕昌が声を上げるだなんて非常に珍しいことで、それは顕昌の斜め後ろに座る親友の雨宮悠希(男子三番)ですら驚愕の表情で顕昌を見上げていることが物語っていた。

    「えー…田中君?
     質問タイムはまだやねんけど――」

    「し、質問というか…お、おかしいですよ、こんなの…!!」

    顕昌は震える声で叫ぶと、ぐるりと回れ右をし、教室を見渡した。
    その顔は蒼白で、元々垂れ下がった目は一層目尻が下がっているようにも見え、その目からはぼろぼろと涙を流していた。

    「ねえ、みんな、何で…黙って聞いてるの…!?
     この人た、ち、俺たちに、殺し合えって…そんなこと言ってんだよ!?
     へ、変だよ…こんなの!!
     お、俺…俺はやらないよ、絶対にやらない、できるわけない!!
     みんなも、やらない、よね!?」

    ああ、なんて勇気のあるヤツなんだろう。

    麗は今まで田中顕昌という人間を見くびっていたのかもしれない。
    ただの大人しい地味で目立たないヤツだと思っていたのだが、こんな所ではっきりと自分の意見が言える度胸があり、そして心優しいヤツなのだ、顕昌は。
    そうだ、顕昌の言う通りだ。
    何を大人しく聞いていたのだろう。
    そもそも大前提として、殺し合いなんておかしいことなのだ。
    素直に従ってやる義理などない。

    よく言った、田中!

    賛同の意を表しようとした、その時だった。
    顕昌の向こう側、アキヒロが動くのが見えた。

    「ふーん、やらないの、君。
     じゃあ、ここで[ピーーー]ば?」

    淡々とした冷たい声。
    アキヒロの手に握られた黒い何か――それは、今まで映画やテレビといった画面の向こう側でしか目にしたことのなかった、拳銃。

    「田中、危ないッ!!」

    麗は立ち上がり声を荒げた。
    しかし、麗は、重要なことに気付いた。
    麗は顕昌の2つ後方の席――そう、アキヒロの銃口の先に、麗自身もいたのだ。

    921 = 879 :

    咲良の声が聞こえたと同時に、麗は咲良に突き飛ばされて永佳の席に突っ込んでいた(それを永佳は受けきることができず、2人はもんどり打って床に倒れ、まるで麗が永佳を押し倒したようになってしまった。――ああ、確かコイツは望月卓也(男子十七番)と付き合っていたな、悪いことをしてしまった)。
    起き上がる間もなく数度響いた銃声、上がる悲鳴、足音と机や椅子が動く音。

    「アッキー、そんな撃つことないやんかー」

    シンの場違いな程に穏やかでまったりとしたテノールボイスによりアキヒロの攻撃が止んだことにようやく気付き、麗は顔を上げた。
    押し倒した際に頭突きをしてしまっていた永佳に小さく謝罪をしてから振り返り――目を見開いた。
    アキヒロの銃口から麗を逃がした咲良が、左腕を押さえて座り込んでいた。
    白い右手を汚しているのは、真っ赤な液体――血だった。

    「咲良…ッ!!」

    急いで咲良に駆け寄ると、咲良は苦痛に歪めていた顔に無理に笑顔を浮かべ――無理をして浮かべている笑顔なのにそれでも愛らしく見えてしまうのが咲良の凄いところだ――ほっと息を吐いた。

    「麗くん、怪我はない…よね…良かったぁ…」

    「馬鹿、お前が怪我してんだろうが!!」

    「あたしはいい、いいの…麗くんが怪我してないなら、それで、あたしは…」

    いいはずがあるものか。

    確かに、幼い頃に親や祖父母から聞かされていた城ヶ崎家の歴史によれば、城ヶ崎家はかつては大東亜の土地に数多くあったとされる国々のうちの1つの国主の家柄で、その頃から、いやそれ以前から城ヶ崎家に仕えてきた家が2つあったという。
    その2つの家は、現在までずっと城ヶ崎家と共にあり、有事の際には城ヶ崎家を最優先に護ることが現在も家訓であるとされているという。
    その末裔が、池ノ坊家の奨と、上野原家の咲良。
    つまり、奨と咲良は、常に麗と共にあり、万が一の時にはその身を投げ打ってでも麗を護ることを幼い頃から両親祖父母らに口酸っぱく言われてきたのだろう。

    しかし、麗はそんなことを望まない。
    麗にとって、奨と咲良は幼い頃からずっと共にいた親友であり仲間なのだ。
    麗を護るためだと言って奨や咲良が傷付くことを、良しとできるわけがない。

    特に咲良は、俺にとって、ただの親友じゃねえ…
    俺はずっとずっと、ガキの頃から、咲良を――

    いやともかく、あのアキヒロという男は、咲良を傷付けた。
    赦せるはずがない。

    「テメェ、咲良に何しやが――」

    麗はアキヒロを睨みつけるために教室の前方に顔を向け――目を見開いた。
    がたがたに動かされた机や椅子の脚の間から見えているものに目を奪われ、それが何かということを一瞬判断ができず(いや、もしかしたらわかっていたのかもしれないけれど、脳が認めることを拒否したのだと思う)、ようやくその正体を理解した時、咄嗟に咲良の頭を抱えるように手を伸ばし顔を麗の胸に埋めさせた。

    923 = 879 :

    田中顕昌(男子十一番)の突然すぎる死に、教室内にはいくつもの悲鳴が重なり合って響き、黒板の前に並ぶ政府の人間たちから少しでも離れようと自分の席を放棄して教室の後ろ側にクラスメイトの大半は逃げて恐怖に顔を引き攣らせている。
    木戸健太(男子六番)も自分の後ろの席に座る幼馴染の鳴神もみじ(女子十二番)の手を引きながら後方に下がり、同じように朝比奈紗羅(女子一番)を連れてきた真壁瑠衣斗(男子十六番)と共にもみじと紗羅を隠すように立ち、ライド(担当教官)たちを睨みつけた。

    中には、動かないまたは動けない者たちもいた。
    友人が射殺される瞬間を間近で見てしまった平野南海(女子十四番)や雨宮悠希(男子三番)は腰を抜かしてしまい、その場にへたり込んでしまっていた。
    アキヒロ(軍人)が放った銃弾のうちの1つが自らの机に着弾した鷹城雪美(女子九番)は座ったままじっと穴の開いた机を見つめており、隣の席の榊原賢吾(男子七番)の声にも無反応だった。

    そして、健太たちをいつも引っ張っているリーダーの城ヶ崎麗(男子十番)。
    麗の幼馴染であり、健太の彼女である上野原咲良(女子二番)を護るように抱き締めながら、ライドたちの動きをじっと見て警戒心を露わにしている。
    近くの席の池ノ坊奨(男子四番)と高須撫子(女子十番)も2人の傍に寄り添い、やはりライドたちの動きを警戒しているようだった。

    「さ…咲良…怪我してるよね…大丈夫かな…」

    紗羅が後ろで不安げに呟いた。

    そう、咲良は怪我をした。
    アキヒロが銃を構えた瞬間、咲良は躊躇なく麗を護るために動いたのだ。
    一歩間違えれば、今頃顕昌と同じ運命を辿っていたかもしれないというのに。

    『上野原家の代々の家訓でね、“城ヶ崎家を守る”っていうのがあって。
     奨くんの家のも同じような家訓があるの。
     まあ、平和な今の時代に言われても、あまりピンとは来ないんだけど』

    いつだったか、咲良はそう言って笑っていた。
    しかし、咲良は動いた。
    それは家訓が身に染みついていたのか、代々城ヶ崎家に仕えてきた上野原家の血がそうさせたのか――いや、咲良のことだから、そんな建前など関係なく、友人を護るために気が付いたら身体が動いていたのだろう。
    それが、健太が心惹かれる上野原咲良という人間だ。

    そんな咲良を護るのは自分であるべきなのに、今咲良を抱き締めているのは、麗。
    健太よりもずっと長い間咲良を傍に置いていて。
    健太が生まれるずっと昔から血で結ばれた関係があって。
    2人の関係には、健太も立ち入ることはできなくて。
    しかも誰がどう見ても、咲良と麗はお似合いで。
    麗は健太より頭が良くて、運動ができて、テニスも上手くて、容姿も良くて、家柄も良くて――何一つ敵うことがない大きな壁だ。

    925 = 879 :

    1位・不破千尋(FATED CHILDREN ?)
    49票(15×3+4)



    本人コメント
    2年連続首位かぁ、ま、当然だよん♪ でも、とにかく俺を1番好きって言ってくれた人、俺も好きよ…あ、1番じゃなくてもみんな大好きよ☆ 本編は終わっちゃったけど、また会えるといいねぇ♪

    ・メガネですwwどこまでもカッコよかった
    ・89話の勝との掛け合い大好きです。
    ・全てが好きです。あの決め台詞を近くで言ってもらいたいくらい好きです。
    ・めがねマニアですから
    ・あの口調や行動全部好きです!
    ・最期までちーちゃんらしく、自分を貫き通す姿がステキでした

    「うわ、なんだこのコメント」

    喬子「うーん…さすが不破くんって感じだよね、この言い回しが」

    「ちょっと生意気じゃね? ヤキ入れるか?」

    「返り討ちに遭うだろうからやめときなよ」

     

    2位・相模晶(ENDLESS NIGHTMARE ?)
    44票(14×3+2)



    本人コメント
    去年から1位を不破くんに取られたとはいえ…多くの方に票を入れていただいて、恐縮ね。 改稿版ではより一層活躍できるかはわからないけれど頑張りますのでよろしく。 これをお礼の言葉に替えさせて頂くわ。

    ・かっこいい
    ・憧れる
    ・改稿版の方が人間味があって好き

    「せめてこれくらいの謙虚さを、おれは不破に求めたいねっ」

    「み…3日目までは俺は相模に勝ってたんだぞ!!」

    「でも最終的に2位と23位じゃん、足元に及んでないよ?」

    喬子「あ、あぁ…森くん、気を確かに!!」

     

    3位・井上稔(FATED CHILDREN ?)
    44票(13×3+5)



    本人コメント
    うぃー。 ども。 つーかさ、俺が不破みたいにメガネで天才なら1位になれたのか? 別にいいけど。 俺を1番に選んだ13人、サンキューな。 その他でも入れてくれた5人もサンキュー。

    ・プログラムを壊す為に何をすればいいのか試行錯誤する姿や、口が悪く攻撃的な反面友達思いという性格が現実の人間らしく思えたから
    ・かっこいい
    ・友だちに欲しい
    ・不良なのに人を救うギャップがいい

    喬子「…うーん、それは最早井上くんではないと思うんだけど…」

    「そうだよな、馬鹿でガキだからこそ、井上さんは井上さんなんだから」

    「おぉっと麻、それは初恋の君への言葉ですか??」麻「……うるさいっ(///)」嵩「え、お前みたいな男女でも恋なんてするのか――いてぇっ!! 殴るなっ!!」4位・和久瑛介(ENDLESS NIGHTMARE ?)43票(14×3+1)本人コメント……あと少しで礼に負けるところだったのか、おしかったな、礼。 2年連続の4位、どうも。 ちなみにどうでもいいが、顎に手を当てるのは癖なんだ。 そこんとこよろしく。・メガネ男子好きなので・・・
    ・イカス!!!!・クールでかっこよかった凛「へぇ、癖なんだ」喬子「えっと、なんでも、和久くんの元になった人の癖をいただいたらしいよ」嵩「それにしても感謝の言葉が少ないんじゃね?」凛「でも、ベラベラ喋る和久も変だと思うよ」5位・良元礼(ENDLESS NIGHTMARE ?)41票(13×3+2)本人コメント
    うーわ、ここ何年かの傾向だと今年は瑛介に勝てたはずなのに…しかもあと一歩かよ! ま、いっか。 ランクアップには違いないわけだし。 みんな、応援サンキューな!!・生にしがみつく人間性がよかった・最後の一言「俺だって死にたくないだけなのに・・・」に胸を打たれた
    ・死神を受け入れた所も、時折見せる情の厚いところも彼らしくて好き
    ・実は良い人&一番頑張ったから・私の抱く委員長像を見事にぶっ壊してくれたカッコ良い子・ジェノの中で1番好き
    ・死神が当たっても、悪魔になりきれないほど本当は優しくてナイーブだったから喬子「ちなみに、良元くんの左胸元にあるごちゃごちゃってしたのは委員長バッヂだよ!」嵩「“委員長”って字、見事に潰れたな」凛「順位が1番上がったのは良元なんだよね、オメデトさん!」麻「どうでもいいけど、今回の10人の中で管理人が1番気に入ってる絵はコイツだよ」6位・坂出慎(FATED CHILDREN ?)
    33票(10×3+3)本人コメント
    うわ、俺落ちたの? マジかよー。 ま、しゃーないわな、全然出番も何もないわけだし……良元とかもないけどなっ。 俺が好きっつってくれたみんな、サンキュー!! あと稔とセットで好きっつったみんなもあんがと!!・あのラストシーンは感動!!・彼のように生きたい・真っ直ぐで不器用だから・o(`へ`)○☆パンチ!・自分が囮になって稔を逃がす最期のシーンが好き・中野さんが亡くなるところの坂出君がすごい格好よかったから麻「それにしても、自分の出席番号ロゴの入った服って…」喬子「あはは、偶然でしょ、というよりも管理人のイマジネーション不足」嵩「あ、俺と同じでスモーカーかよ!! パクリだ、ヤキ入れに…」凛「だから、返り討ちに遭うからやめなってば」7位・江原清二(FATED CHILDREN ?)31票(9×3+4)本人コメント
    ハッハー!! ランクアップだってよ! みんな、ようやく俺様のかっこよさに気付いたか? 俺の名前を選んでくれたヤツら、ありがとな!! すっげー嬉しいぜ!!・やっぱりあの政府戦はかなりキてましたwwジェノが仲間になったってパターンはすごい好き・やる気じゃなくなってからの格好良さは有無を言わせなかった・最後の死に様がかっこよかった!!さすが最強の男!!麻「“ヤツら”言うな、アンタなんかを選んでくれた人たちだろうが」凛「やったねー、清二!! おめでとう!!」喬子「ここで裏情報…茶髪だったり黒髪だったりの江原くん、設定資料では金髪でした!」嵩「人様に送ってもらったっつーのに、とんだ粗相だな、しかも今気付いたのかよ!」

    926 :

    なんか気持ち悪いのに居着かれちゃって災難だねえ

    927 :

    だから自分のスレでやれよ
    お前のなんかNG行きなんだから

    928 = 879 :

     浜田智史(男子十八番)に引き連れられながら、清太郎は傾斜のある細い山道を歩く。目的地まで距離はもうさほど無いと聞いたせいか、その足取りはとても軽快なものになっていた。
     時折、雨風によって道が崩されている箇所があったりしたが、いずれも大股開きで進めば乗り越えられる程度の難所である。先を進む大柄の智史が軽いジャンプで飛び越えても、山道は崩れたりしなかったので安心できた。
     清太郎も彼に習って、山肌の岩や、柵がわりのロープに手をかけたりしながら、難なく歩を進めていく。
    「なあ浜田」
     清太郎が話しかけると、智史は前を向いたまま「なんだ」と返してきた。
    「さっき言っていた、メールで呼ばれた、って話について詳しく聞きたいんだが」
     すると智史が歩きながら振り返る。
    「そうだった。俺らが集まるってことを、お前は偶然耳にしてやってきたんだったな」
    「ああ。さっきも言ったが、増田と西村の会話を聞いてな」
    「分かった。これが俺に送られてきたメールだ」
     智史がズボンのポケットから取り出した携帯電話を開き、差し出してくる。
     星矢中学校では通常授業の日のみならず、行事の際も携帯電話を持ってくることを禁止とされているが、律儀にそれを守っている者は半数程に過ぎない。今回の林間学校でも智史のように、携帯電話を持参している生徒がかなりいるようだった。
     清太郎は智史の携帯電話を受け取り、明るく光る画面を覗き込む。

     日時:2013年6月--日 13:16
     発信者:吉野梓
     本文:G-5の洞窟?に集まろう(by角下

     短くまとめられた本文を見て、清太郎は首をひねった。
    「これを見て、浜田たちはこのエリアに来る事を決めたってわけか?」
    「そうだ。が、何か納得していない様子だな」
    「色々と考えさせられる所が多いメールだと思ってさ」
    「あー、まあそうだな。俺もこれを見た当初は気になったことが多々あったわ。本文に書かれてる名前と発信者が違うこととかさ」
     末尾に書かれている名前から、このメールの文面を考えたのは角下優也(男子六番)だと推測できる。だが発信者は吉野梓(女子23番)となっている。なぜか別人である。
     清太郎はこの矛盾について、数秒間考えた。
    「携帯電話を持っていなかった角下が、吉野のを借りてメールした、ってところか?」
    「その通りだ。真面目に学級委員をやっている角下は、今回も校則を破ってまで携帯を持ってきたりはしていない」
     智史の話し方から、少なくとも角下優也か吉野梓のどちらかとは既に洞窟で合流していて、当人からこれらの話を聞いたのだろうと察することができる。
     もじゃもじゃ頭を掻きながら、眉を寄せる清太郎。
    「それより気になったのは、このメールが送られてきた時間だ。この13時過ぎってタイミングは、プログラムについて江口やエアートラックスから説明を受けていた頃じゃないか?」
    「そうだな。正確には、説明が大方終わって、プログラムへの意気込みを無理やり発表させられていた頃だ」
    「おかしくないか? 俺らは船に乗り込んで、かなり沖の方にまで出ていたんだぜ。携帯電話の使用圏外だったはずじゃないか」
     すなわち、メールの送信も発信も、当時サンセット号の中では行えなかったはずである。
    「確かに海の上でメールは通じない。だがほんの一瞬、携帯電話の電波が通じる瞬間があったんだ」
    「どういうことだ? もっと詳しく説明してくれ」
    「俺たちを乗せた船が、ある有人島のすぐ傍を偶然通りかかったんだ。その瞬間、島の電波圏内に入って携帯電話が通じるようになった。角下はそのチャンスを見逃さず、クラスメートに一斉送信した」

    929 = 879 :

    「なるほど。もしや電波が通じる瞬間があるかもしれないと賭け、あらかじめ本文を打ち込んでいた。そしてそれが功を奏した、というわけか」
     クラスメートたちを特定のエリアに集めるために取られた手段の全貌が見えてきたところで、次にこのメールの送信先を確認してみた。すると、実に十数名ぶんものクラスメートのアドレスが表示され、それだけの人数に宛てて同じメールが送られていたことが判明した。
    「このメール、携帯電話を持っているクラスメート全員に送った……ってわけではないよな」
    「吉野の携帯にアドレスが登録されている人間の中で、ある程度信用できる人間に絞って送信した、と角下は言っていたな」
    言われてみれば確かに、メールの送信先のほとんどが女子であり、しかも吉野梓に近しい人間が中心のようだった。角下優也もさすがに他の生徒のアドレスまで記憶しているはずがなく、これ以上送信先を広げることができなかったのだろう。
    「つっても集合場所に向かうまでの道中で、メールを受け取らなかった奴も合流したりして、なんだかんだ男子も結構な人数が集まってきてるけどな」
     送信先のリストに智史の名前はあったが、佐久間祐貴の名は見当たらなかった。つまり祐貴は誰かに導かれてやって来た側の人間、というわけだ。
    「ちなみに、集合場所をG-5の洞窟にしたのは、皆がどこからでも向かいやすい会場のほぼ中心で、かつ目印として分かり易いと思われたからだと言っていた」
    「たしかに、船のモニターに映し出されていた地図に、洞窟らしきイラストが描かれていたな」
     モニターに映った地図を見るやいなや、クラスメート達とどこに集まるかすぐに画策し、兵士達の目を盗みつつ急いでメールを打ち込んで送信する。それだけのことを、あの状況下で冷静に、短時間で実行したとなると、角下優也の行動力とはたいしたものである。
    「そんなこんな話しているうちに、見えてきたぞ」
     道を塞ぐかのように脇から伸びてきている太い枝の下をくぐりながら、智文が前方を指差した。
     草葉の隙間の向こうに、岩の山肌にぽっかりと空いた穴が見える。元々人が立ち入らないよう閉鎖されていたのを無理に開放したのか、錆び付いた鉄柵が穴のそばに立て掛けられていた。
     洞窟は奥に長く続いているのか暗く、突き当たりが視認できない。
     薄汚れた岩によって頑丈に形成されている洞窟には、得体の知れない生物でも飛び出してきそうな不気味さがあった。
     清太郎は少し不安な気分に襲われた。集合場所の洞窟は見えたが、その周囲に肝心の人の姿が無いのである。
    「なあ浜田。先に到着してる奴らはどこにいるんだ? 洞窟の中か?」
    「いいや。いずれは中に身を潜めたいんだが、どうやらまだ駄目らしい。今は皆、そこいらの茂みの中か岩陰にでも潜んでいるはずだ」
    「なんで中に入れないんだ」
    「説明が難しいんだが、首輪の電波がな……。いいや、俺よか角下か尾崎に説明してもらったほうがいい」
     ここで初めて智文の口から尾崎良太(男子五番)の名前が出てきた。吉野梓のメールの送信先に良太は含まれていなかったはずなので、ここにいるのならば、彼も誰かに導かれて来たということだ。
    「おーい、角下。俺だ。高槻を連れてきたぞ」
     細い山道を抜けて洞窟前の広場に出たところで、智史が周囲に呼びかけた。すると茂みの一部がガサガサと揺れて、数人のクラスメートがゆっくりと姿を現した。その先頭に、皆が集まるよう画策した張本人である角下優也が立っていた。
    「お疲れ様、浜田。そして高槻、よく来てくれた」
     そう言いながら優也は、膝まで隠れてしまう雑草の海原を歩き、近づいてきた。武器は持っておらず、まっすぐこちらに右手を差し出してきた。
    「よろしく」
     清太郎もならって手を伸ばし、優也とがっちりと握手を交わす。
    「こちらこそ。連絡をとる手段がなくて諦めかかっていたけど、高槻には是非来てもらいたかったんだ。歓迎するよ」
     雄也の中性的な甘いマスクが微笑んだ。

    931 = 879 :

    目が覚める。末広恭子(担当教官)登場。無理なことを言って暴れた桜木絢香(女子9番)が、末広に撃たれて死亡。スマイル0円。
    女子9番 桜木絢香 死亡
    [残り44人]

    2:説明。そして出発。
    5月28日 3:30 試合開始

    3:林(女子15番)、平山円(女子16番)、松尾彩(女子18番)、合流。超人的な動きで、彩が他の2人を殺害。
    女子15番 林真理
    女子16番 平山円 死亡
    [残り42人]

    4:誉田光一(男子20番)、湯浅崇(男子23番)、渡辺麻衣子(女子22番)、合流。

    5:飯山満(男子3番)、出発。と思いきや、突然瀕死の村上優介(男子22番)を発見。旭澪(女子1番)が自らの犯行を告白するが、逃走。満は優介を運ぶが、その途中で息絶えてしまう。
    男子22番 村上優介 死亡
    [残り41人]

    6:泣いていた満のもとに、光一、崇、麻衣子が現れる。麻衣子が、香取晋吾(男子7番)と千葉有二(男子13番)からの伝言を満に伝える。

    7:麻衣子の語り。菅野美香(女子11番)、ハブ決定。

    8:鈴木琢磨(男子11番)が現れた! 光一が左腕を撃たれるが、麻衣子が頑張って返り討ちにする。最後まで3人でいよう、とまとめる。
    男子11番 鈴木琢磨 死亡
    [残り40人]

    9:5月28日 6:00
    第一回放送。飯山満(男子3番)、香取晋吾(男子7番)、千葉有二(男子13番)、合流。メンタル弱い有二が、村上優介(男子22番)の死に男泣き。蚊取り線香と花火ファミリーセットで夏を先取り。

    10:菅谷由子(女子11番)、ご乱心で市川奈美(女子3番)と大久保みのり(女子4番)を殺害。
    女子3番 市川奈美
    女子4番 大久保みのり 死亡
    [残り38人]

    11:旭(女子1番)、村上優介(男子22番)を殺害してしまったことを後悔する。また、小学生の頃いじめられていた原因であった越川修平(男子9番)に対して謝りたいという気持ちが募る。修平とのことは分かりやすく書いていたらダイジェストではなくなってしまうので割愛。ふらりとやってきた矢切奈緒(女子20番)に全身を撃たれて死亡。
    女子1番 旭澪 死亡
    [残り37人]

    12:不良グループメンバー紹介。

    13:成田正則(男子18番)と布佐愛美(女子17番)。正則が愛美を殺し、その後正則自身も自[ピーーー]る、と話がついたところで、影からいきさつを見守っていた秋山要(男子1番)が登場。正則が本性を表し、要と戦闘になるが、ボウガンで首を撃たれて死亡。
    男子18番 成田正則 死亡
    [残り36人]

    14:新木正太郎(男子2番)と小林太一(男子10番)。日頃の恨みを晴らすべく太一が正太郎を殺害するが、いつの間にやら近くにいた岩井誠(男子4番)に太一も殺される。
    男子2番 新木正太郎
    男子10番 小林太一 死亡
    [残り34人]

    15:初石滋(男子19番)がぐだぐだしていた個人病院に、飯山満(男子3番)、香取晋吾(男子7番)、千葉有二(男子13番)が乗り込んでくる。一緒に脱出しないか、と言われるが、滋はそれを拒否。そこを明け渡し、去る。

    16:満、晋吾、有二で脱出大会議。どう考えてもあたまわるい。

    +中盤戦・前半+
    17:5月28日 10:45
    中山佳代(女子13番)、小見川悠(男子6番)と出会う。一緒に中山翔(男子17番)を探すことに。

    932 = 879 :

    第二回放送。越川修平(男子9番)、旭澪(女子1番)の死体を発見。近くにいた松尾彩(女子18番)に脚を撃たれるが、なんとか逃げ出す。

    20:誉田光一(男子20番)、湯浅崇(男子23番)、渡辺麻衣子(女子22番)。ふらふらしてるところに修平がやってくる。怪我して倒れている彼を助けるべく、4人で近くの文房具屋に侵入。

    21:4人で色々話しているところに、ホラーな感じの菅谷由子(女子11番)が登場。

    22:由子が暴れる。麻衣子が殺されそうになるところを修平がかばう。その隙に崇が由子を殺害。
    女子11番 菅谷由子 死亡
    [残り33人]

    23:修平、失血死。由子を殺害してしまった崇は軽く凹む。
    男子9番 越川修平 死亡
    [残り32人]

    24:高柳航(男子12番)と豊四季早苗(女子12番)。うだうだしてるところに中山翔(男子17番)がやってくる。

    25:3人で、小見川悠(男子6番)、中山佳代(女子13番)、矢切奈緒(女子20番)を探すことに決定。

    26:飯山満(男子3番)、香取晋吾(男子7番)、千葉有二(男子13番)。へらへらしてるところに翔がやってくる。

    27:晋吾が頑固なせいで翔がキレて攻撃。晋吾が脚に負傷するも、3人で逃げ出す。

    28:5月28日 14:30
    布佐愛美(女子17番)のラブ☆ダイアリー。一緒にいてくれた秋山要(男子1番)に胸中を伝え、自ら死を選ぶことに。要が去った後、禁止エリア発動。首輪爆発で愛美死亡。
    女子17番 布佐愛美 死亡
    [残り31人]

    29:小見川悠(男子6番)と中山佳代(女子13番)、少し打ち解ける。

    30:そこにやってきた要。一番の仲良しさんである愛美の死を聞いて、佳代は凹む。話すだけ話して要は去る。

    31:初石滋(男子19番)。3年前、プログラムで亡くなった姉に想いを馳せる。矢切奈緒(女子20番)に撃たれるが、気合で逃げ切る。

    32:でも背中撃たれて瀕死。小室華(女子7番)が寄ってくる。しかもこんな場面で告られる。ちょっと幸せになりながら息絶える。
    男子19番 初石滋 死亡
    [残り30人]

    33:奈緒の過去、というか、矢切さん家の家庭の事情。滋と華のところまで追いつき、華のことも射殺。
    女子7番 小室華 死亡
    [残り29人]

    34:飯山満(男子3番)、香取晋吾(男子7番)、千葉有二(男子13番)、色々くっちゃべる。

    35:5月28日 18:00
    第三回放送。中村匠(男子16番)、試合放棄中。やってきた岩井誠(男子4番)に、めんどいから殺しちゃってくれーと言って殺害される。

    934 = 879 :


    [残り19人]

    55:彩、俊のことを殺害。有花に庇われたことで、プログラムが始まってから初めて感情にブレが生じる。生き残って総統になり、国を変えることを改めて決意。
    男子15番 外川俊 死亡
    [残り18人]

    +終盤戦+
    56:5月29日 4:10
    飯山満(男子3番)と香取晋吾(男子7番)。帰りが遅い千葉有二(男子13番)の身を案じる。そこに矢切奈緒(女子20番)が乗り込んできて大変大変。二手に別れて逃げる。

    57:奈緒、筋肉痛。満と晋吾がいなくなったので、ゆっくり休んでいたら花火に襲われる。帰ってきた晋吾に仕業。花火やらトラップやらにやられながらも、翔に関する情報を聞いた上で晋吾を射殺。
    男子7番 香取晋吾 死亡
    [残り17人]

    58:5月29日 5:50
    第五回放送。雨やんだ。佐久間菜々(女子8番)、松尾彩(女子18番)を探すべく動き出す。

    59:千葉有二(男子13番)、飯山満(男子3番)と再会。離れていた間のお互いの経緯を話していたら、石毛真琴(女子2番)に割り込まれてきた。

    60:真琴がいたという家に、満と有二も入っていく。この銃いらない? と言われ、あたふた。

    61:実は余命5年なんです、という告白。なんやかんやありつつ、3人で行動することに。

    62:中山翔(男子17番)の寝起きは悪い。豊四季早苗(女子12番)は冷静。高柳航(男子12番)は相変わらずえげつない。

    63:佐久間菜々(女子8番)、林真理(女子15番)と平山円(女子16番)の死体の側にいた秋山要(男子1番)を見て、要が2人を殺したのだと思い込む。その上切りつける。これは正当防衛だ、と言われた後、要にボウガンで胸をと腹を刺されて死亡。
    女子8番 佐久間菜々 死亡
    [残り16人]

    64:大原有輝(男子5番)。軽く現実逃避しながらもマメに生還確率を計算。中山翔(男子17番)、高柳航(男子12番)、豊四季早苗(女子12番)が近づいてくるのを見て、陰から発砲。航に当たり、翔が反撃してくる。逃げた先にいた岩井誠(男子4番)に即射殺されるという空しさ。
    男子5番 大原有輝 死亡
    [残り15人]

    65:そこに現れた松尾彩(女子18番)。組まない? という誘いに、誠がのる。ちょ…お前ら2人が組んだら最強だろ、という展開。

    66:5月29日 10:15
    小見川悠(男子6番)と中山佳代(女子13番)。睡眠をとるのとらないのと話していたら、探知機に3人組の反応が。佳代が一人でそちらへと向かう。

    67:やっぱり中山翔(男子17番)、高柳航(男子12番)、豊四季早苗(女子12番)でした。翔は佳代に言いたかったこと、感謝の気持ちを全て伝える。なのに佳代のこと射殺しちゃってえええええ! しかもその現場を悠に見られる。
    女子13番 中山佳代 死亡
    [残り14人]

    68:皆あたふた。お前の気持ちも分からんでもないが、やっぱり許せんわー、と悠が翔に銃を向ける。またギャラリーがえええええ!ってなっているところ、矢切奈緒(女子20番)がやってきて航を殺害。
    男子12番 高柳航 死亡
    [残り13人]

    69:奈緒さんテンション上がりすぎ。佳代の体を撃とうとしたところ、その間に悠が割り込んでくる。そして失血死。悠と航に対する奈緒の態度にむかついた翔が奈緒を殺害。
    男子6番 小見川悠
    女子20番 矢切奈緒 死亡
    [残り11人]

    70:5月29日 11:45
    第六回放送。渡辺麻衣子(女子22番)が大人気ない。誉田光一(男子20番)がよく分からない。湯浅崇(男子23番)は特に何もしていない。放送を聞いて残りのメンバーを考えた上で、秋山要(男子1番)に会いたい、ということになり動き出す。

    71:麻衣子、自暴自棄になる。色々話しているのに光一が走って遠くへ。崇もついていくので、麻衣子も仕方なくそちらへ。その先にいたのは岩井誠(男子4番)と松尾彩(女子18番)。菅野美香(女子10番)を殺された恨みがあるので、光一は彩に敵意むき出し。頑張って彩のワルサーを麻衣子にパスはできたけれど、油断している隙に肩を撃たれる。その後も色々あったけれど、崇が無理矢理麻衣子を連れて逃げる。光一は失血死。

    937 = 879 :

    阿久津啓太(男子1番)が柳浩美(女子18番)と行動を共にして、3時間近くが経つ。

    分かっていたことだが、浩美には緊張感が足りない。
    啓太の隣を歩きながらも、鼻歌を歌っていたりする。
    なぜ。なぜこの状況――プログラムで、そんなお気楽に歌っていられるのか、啓太には理解できなかった。
    若干苛つくが、それは彼女を嫌う理由にも、遠ざける理由にもならない。
    柳浩美という人間がそのような人物であることを、啓太は小学生の頃から知っていた。
    それに1年数ヶ月前――彼女が部活内でいじめに遭っていた時はこんな様子は見られなかったし、今こうやっていられるだけでもありがたいことなのだ。
    浩美が本来の自分を取り戻し、普通に生活できている。それは素晴らしいことなのだ。

    ――と、自分に言い聞かす。


    「浩美」
    「なぁーにぃー?」
    ほんの2,3歩前、支給武器であるカッターナイフを右手でカチカチ動かしながらふんふん歌っていた浩美が立ち止まり、振り返る。
    その顔は相変わらず笑みを湛えており、啓太のことを本当に信頼しているのだということが見て取れる。
    額に手をあて、はあー、とあからさまに大きくため息をつくと、啓太は「お前さぁ」と話し始める。
    「もう少し緊張感持とうか。放送の前だけどさ、銃声聞こえただろ? やる気になってる奴はいるんだよ。なのに浩美はカッター振り回してふんふんふんふん! ちょっと落ち着けよ」
    「ええー…」
    少し叱っただけなのに、笑顔は泣きそうな顔に一転する。
    本当に、表情豊かな奴だ。

    「だってさ、ただでさえ辛気臭くなるじゃん、プログラムなんて。だからせめて浩美くらいは、いつも通り明るくいようかと!」
    「いやー…石川とか川添とか、それこそ芝田さんも変わらないんじゃないかぁ?」
    「あっ、そうだ! 川添!」
    カッターを握ったまま、浩美は顔の前でぽん、と両手を合わせる。
    ああもう、刃が出てるだろ危ないな。
    「川添もね、ほら、小学校一緒で、浩美昔から仲良かったでしょ? それを知った美穂ちゃんが川添にも声かけてくれてさ。美穂ちゃんの次に、川添のお陰かなー今の浩美があるのは! あ、あくっちゃんはその次くらいね!」
    またにこっと笑う。ここまで表情がころころと変わる人もなかなかいないだろう。
    「俺は川添より下か」
    「だってあくっちゃん見た目が怖いしー。あと川添のお母さんとうちのお母さんが仲いいから、それもあったって美穂ちゃん言ってた!
    とにかくね!」
    カッターを持った手を下ろし、浩美は啓太を真っ直ぐ見上げる。

    「川添にもお礼言いたいから、付き合って!」

    もちろん、啓太の中で"Yes"の回答の用意はできている。
    頼られていることも嬉しくないわけではない。
    しかしなぜこいつはこうも緊張感がないのか。

    もう一度ため息をつきそうになったところで、思い出した。
    そうだ、我々には許された通信手段があるではないか。

    「電話…」
    「え?」
    呟くような声だったので聞こえなかったのだろう、浩美は大げさに首を傾げる。
    「電話、できるんだよな、1人3回。川添や芝田さんに電話してみろよ」
    啓太の言葉を聞き、浩美はカッターの刃をしまうとそれで何度か頬をつついた。特に意味のない、何かを考えている行動だろう。
    「でもさ、もし今、美穂ちゃんが誰かから逃げてたら? 誰かから隠れてたら? そんな時にケータイ鳴らされたって、困るだけじゃないかなあ。下手したら命に関わるよね。

    938 = 879 :

    つまり浩美は、自分のことよりも、電話を受ける相手――今で言うならば、川添聡(男子4番)や芝田美穂(女子6番)の身の安全を気にしている、ということだ。

    「浩美さあ」
    「なにー?」
    「お前そうやって人のことばっか気にしてっからいじめられたんじゃねぇの?」
    その瞬間、浩美の表情が固まった。
    つい先刻まで様々な彩りを持っていた彼女の顔が、色彩を失う。
    「…ごめっ、ごめんっ……」
    知らなかった。 こっちから過去のことに触れるのは、タブーだったのか。
    浩美が自分から話題に出してくるから気付かなかったが、確かに彼女が出す話題にいじめられた原因などなかった。
    誰の手によって、どのように立ち直ったのかが、殆どだったではないか。

    フリーズした浩美の右目から、涙が一筋こぼれ落ちた。
    「あっ…あれぇー? なんで浩美泣いてんだろー…」
    おい、自覚ないのかよ。
    そう思いつつも、目を擦る浩美の頭を撫でる。
    やはりあの数ヶ月は、彼女の中で大きな傷となっているのだろう。

    今後は、こちらからは触れないようにしよう。


    「うっす! あくっちゃんと浩美?」
    浩美の頭の上に置いた右手の向こう、顔を上げるとこちらへ向かってくる男子生徒が見えた。
    薄暗くなりつつあるがまだ分かる。あれは先程少し話題にも出た、石川佳之(男子2番)だ。
    出発時間があまり離れていなかった故、そんなに行動範囲が離れていなかったのだろうか。
    「石川…」
    「え、あくっちゃん浩美泣かしてんすか。何してんすか。うわーやだわー!」
    いつもと同じ調子で、佳之は啓太をからかう。
    「ちがっ…これはだな、俺が泣かしたんじゃな…いや、俺が泣かしたんだけど……」
    「うあーあくっちゃんいいから! 石川うざい!」
    「えー俺がうざいってー? 傷つくわー」
    浩美は啓太をかばい、そして佳之に向かって刃を出していないカッターを振り回す。

    「はっはっ。まあ浩美が泣きやめばそれでいいさ」
    「え、何そのキャラ。石川ってそんなんだったっけ? きもっ」
    「浩美、お前石川には厳しいな…」
    次から次へと浩美から罵詈雑言を受けるが、佳之はびくともせずににんまりと笑っている。そしてゆっくりと、口を開いた。

    「な、お前らはさ、何色だった? あのくじ引き」
    「ああ、あれか。俺が青で――」
    「浩美は赤だよ!」
    まとめて言おうとしたことを、途中から浩美に引き継がれた。
    「そっ…か」
    すると佳之は、こちらから目元が見えなくなるくらいまで俯く。
    そして数秒後顔を上げると、少しだけ、笑った。

    939 = 879 :

    その表情から、決して純粋に“可愛い”キャラクターではないのだが、箕田保葉(女子16番)にとっては違った。
    とあるショッピングモールの中にあるファンシーショップの店頭で一目見た瞬間に胸を射ぬかれ、その時同行していた母親に買ってもらったのが、今持っているぬいぐるみだ。
    頭の部分にチェーンがついているので、帰って即行通学鞄につけた。
    それからもう1年近くが経つので、大分黒ずんできたのだが――それでも、最初に手に入れたものだからか愛着がわき、そのポジションから外すことはなかった。

    それが保葉にとっての初代シナティちゃんだ。
    しかしこのキャラクターを好きな人間はどうやら少なくないらしく、今この大東亜共和国では色々なグッズが販売されている。
    少ないお小遣いを貯めて、保葉は様々なグッズを手に入れてきた。
    今この場に所持しているだけでも、財布、ペンケース、シャープペンシル、ボールペン、ストラップ、ハンドタオル、そしてぬいぐるみだ。
    家には全長50センチもあるぬいぐるみがあり、それはいつもベッドの片隅に座っている。
    友人たちには、「保葉は本当にシナティちゃん大好きだよね」とよく言われた。家に来たことがある人には、その大きなぬいぐるみに驚かれたりもする(「シナティちゃん大っきい! 可愛い! 持って帰りたい!」と言っていたのは、柳浩美(女子18番)だっただろうか)。

    そんな、“可愛い”シナティちゃんに囲まれて生活するのが幸せだった。
    調理部の活動では、シナティちゃん型のクッキーを作って友人たちに振舞ったこともある(ちなみにそれはとても出来が良かったので、その写真を携帯電話の待ち受け画面に設定してある)。


    今保葉は、A=04、島の端にいる。
    そこは崖になっていて、眼下には真っ黒な海が広がっている。
    時間のせいかすごく静かで、波が打ち寄せる音だけが、何度も何度も、飽きもせず聞こえてくる。
    膝を抱え、シナティちゃんを握り締める。

    怖い。
    怖くてたまらない。
    出発の時は大分混乱していて、どうしたら良いのか分からず、とにかく一人でここまで来てしまった。
    こんな島の端の、ましてや崖になんて誰も来ないだろうと思い、ここに落ち着いて数時間経つ。
    せめて浩美のことくらい待てば良かったかな、と今になって思う。
    でももう、どうしようもない。
    出発してもう何時間も経つ。放送だって2回も流れた。それにもうこんな時間だ。
    同じグループの芝田美穂(女子6番)、中村結有(女子10番)、そして浩美の名前がまだ呼ばれていないだけ、気分が少し楽だ。

    940 = 879 :

    保葉の視線の先、暗くて見えないが、鈴木典子(女子8番)が品の良い微笑みを浮かべた気がした。

    「こんな時間にこんなところで一人? 何をしているの?」
    落ち着いたまま、典子は言葉を続ける。
    「別に、何も…。何をしてるわけでもないんだ。ただ、どうしていいのか分からなくて…」
    ざあん、と波が打ち付ける音。それに自分の声がかき消されそうになる。
    「そうね…。何をしたらいいのか、って…ここではすごく難しい問題よね」
    「典子ちゃんは? 典子ちゃんはどうしてるの?」
    典子のグループを思い浮かべる。南早和子(女子17番)は早々に退場してしまったが、水谷怜子(女子15番)は生きている。
    「そうね…怜子や早和子に会えればよかったんだけど、番号が離れてるせいか無理だったわ。だから私も、保葉ちゃんと同じ。ずっと一人よ。それで、もうこんな時間」

    なんてことないことだが、少しほっとする。
    今まで誰にも会っていなかったからなのだが、他のクラスメイトがどうしているのかはずっと気になっていた。
    典子はウェーブのかかった茶色いロングヘアー(地毛であることを学校に届け出ているらしい)に、他の国の血が混ざっているのではないかと思うような濃い顔立ちをしている。
    さらに、高校生の彼氏がいると噂で聞いたことがある。
    その上この言葉遣いに、それに伴った雰囲気だ。
    そんな、自分とはまるで違う世界に生きているような典子が、『保葉ちゃんと同じ』なんて言ってくれることが、少し嬉しい。
    この状況で自分の行動指針が見えないのは、誰だって同じなのだと――気休めなのだろうが、安心できる。

    「ね、保葉ちゃんは何色だった? あの、最初に引かされたくじ」
    「ああ…あれ?」
    右手をブレザーのポケットに入れ、保葉はくじの一片を差し出した。
    「見える? 青」

    全然、警戒などしていなかったのだ。
    典子も同じ、自分と同じ人間なのだと、安心していたから。

    「あら…そうなの。青なの。大変だわ。
    ――私は、違うのよ。赤なの。だから保葉ちゃんのこと、殺さなきゃいけないわ」

    「……え?」
    目が点になる。
    典子が何を言っているのか、聞こえてはいた。
    でもその内容、それがどういう意味を示しているのか――それを理解するのに多大な時間を要した。
    今、典子ちゃんは何て言った?
    私のことを、『殺さなきゃ』って?
    なんで…なんでそんないきなり……。

    「保葉ちゃんの後ろは、崖よね。そこから海まで、どのくらいの距離があるかしら」
    今度も少し、時間がかかった。
    「や…いやっ……。典子ちゃん、私をっ……」
    声が震える。胸の鼓動が大きくなる。

    典子は少しずつ、こちらに寄ってくる。
    私のことを、ここから突き落とすつもりなんだ…!
    脳内を恐怖が占めていく中、保葉はできるだけ冷静になるように努める。
    でもやはり怖い気持ちはなくならない。まさに今、文字通り“背水の陣”なのだ。
    典子が一歩進むと、保葉は半歩ほど後ずさる。
    それを何度か繰り返すと、二人の距離はほんの数十センチになった。

    「やめて…典子ちゃん、やめて……」
    首を横に振り、懇願する。
    「いやよ。だって私、生きて帰りたいもの」
    典子はあっさりと言い放つ。

    はた、と気付き、保葉はスカートのポケットに手を伸ばす。そこには、支給武器であるスタンガンが入っている。
    典子の発した言葉から推測する通り、保葉のことを『殺さなきゃいけない』のであれば――スタンガンで、少し動きを止めるくらいはできるだろう。
    そして、その隙に逃げられれば――

    スタンガンを握る右手に、ぐっと力を入れる。

    941 = 879 :

    目の前の小久保梨瑛(女子5番)がこの部屋を出て行ってからというもの、滞りなく、2分毎にクラスメイトが減っていった。
    小林(男子6番)、芝田美穂(女子6番)、志摩雄士(男子7番)――
    高橋錬志郎(男子8番)も早い内に出て行ってしまったので、今、名張志保美(女子11番)の前の机は、3つとももう誰もいない。

    末広恭子(担当教官)が生徒の名前を呼ぶ以外はとても静かで、誰かの時計が1秒毎に時を刻む音がいくつかずれて聞こえてくるだけだった。
    前に誰もいないからだろうか。志保美は机に額がついてしまいそうなくらい俯き、膝の上で汗ばむ両手を握っていた。
    耳の後ろでツインテールにした髪の先が机の天板をかすめ、素直に3回書いた、“私たちは、殺し合いをする。殺らなきゃ殺られる。”の文字列をところどころ隠している。

    志保美はもう、自分の行動を決めていた。
    “彼”がどう思うかは分からない。でも、自分自身としては決めた。
    見えたから。“彼”が引いたくじの色が。そしてそれが、自分と同じ色だったから。
    向こうからこちらは見えないので、今“彼”はやきもきしているのだろう。
    でも、大丈夫。大丈夫だよ。

    「女子10番 中村結有さん」
    「…はい」
    後ろから暗い声色の返事が聞こえ、中村結有(女子10番)が鞄を持って前へと出る。
    「はい、では中村さんも、皆の方を見て、あれを言って下さいね」
    恭子に促されると、結有は教室内をざっと見渡し、「私たちは、殺し合いをする。殺らなきゃ殺られる」と、授業中の教科書の朗読のように言った。
    その後、弥富(兵士)からディパックを受け取り、姿を消した。

    播磨。私は播磨と同じ、白だよ。
    顔を上げ、丸い目で左斜め前の恋人――播磨文男(男子13番)の背中を見つめる。
    後ろ姿しか見えないが、彼は机の上で両手を軽く組み、少し俯いた姿勢をとっている。
    自分のことを考えてくれているのだと思う。自分たち二人の色が同じかそうでないかで、多分出発後の行動が大きく変わるだろうから。

    だけど大丈夫だよ、播磨。私たちは同じ白組なんだから。
    この事実を早く伝えたい。それを知っているかいないかで、彼の気分が全然違うであろうので。

    「男子11番 富田政志くん」
    「はーい」
    今度も後ろ。でも結有とは反対の右側から、妙に気の抜ける富田政志(男子11番)の返事。
    志保美の右側の通路を、滑らかに進んでいく。
    男子にしては長い政志の襟足を見ながら、優しいこの子の姿を見るのも、これで最後なのかもな、などと思う。
    政志は茶髪だししかも長いし更に前髪にメッシュを入れているので教師受けは良くなかったが、志保美はよく優しくしてもらった。
    周りに対する気配りや思いやりが絶えない子で、そんな彼の気持ちに何度も助けられたことがある。
    授業中、何かの実験等で出席番号で組む時も率先的に動き、周りの負担を減らしてくれる。そういう子だ。

    富田くんとも同じ色だったらいいな。
    ふと、思う。
    同じ色だったら、一緒に生きて帰れるかもしれないのだから。

    「私たちは、殺し合いをする。殺らなきゃ殺られる。じゃ、行ってきまーす」
    恭子に何を言われずとも、政志は例の“儀式”をやってのけた。
    そして笑顔で――いつもの優しい彼の笑顔で、大きく手を振って、ここから出ていった。
    彼が何を思ってそういった行動に出たのかは分からないが――少なくとも志保美の心は、少し、ほんの少し、和んだ。

    942 = 879 :

    山川陽介(男子17番)が、こちらをちらりと見上げる。
    それに気付かぬふりをして、一歩、また一歩と足を踏み出す。
    古川景子(女子13番)は組んだ腕を机の上に置き、黒板をぼうっと見つめているようだ。

    そして、その前の文男の席。
    机の上に、志保美はぽん、と左手を置いた。
    その瞬間、文男はほんの数ミリ、顔を上げた。
    しかし志保美は立ち止まらず、すぐにその手はどけた。
    だけど、これで良いのだ。これで彼に、自分の意思が伝わっていると信じたい。――否、信じている。

    外で待っている、と。

    「はい、では名張さんも」
    恭子に言われ、志保美は今来た道を振り返る。
    文男と目が合う。彼はしっかりとこっちを見ている。
    きっと伝わった。私の気持ち。

    「私たちは、殺し合いをする。殺らなきゃ…殺られる」
    『殺られる』の前で少し間ができてしまった。殺されるなんて、嫌だ。
    大丈夫、播磨と一緒なら、私。

    「では出発して下さい」
    左を向き、出口へと向かう。寺本(兵士)からディパックを受け取り、それを両手で抱え、廊下へ出た。
    右側は兵士がいて通れなくなっており、左に進むしかない。
    そちら側にも通路の両脇に銃を装備した兵士が数メートルおきにおり、恐怖に思わず足がすくみそうになる。
    しかし負けない。数分待てば――6分待てば、また文男に会えるのだ。

    兵士たちに沿うようにして進むと、恭子が言っていた通り、右側に階段があった。
    駆け下りるようにして、志保美はそこを下っていった。
    2階分の階段を降りると、昇降口までの道筋をまた兵士が両脇に立って作りあげていた。
    バスの中で拉致されたため、既に白いスニーカーをはいている。
    そのまま外に出ると、まっすぐ行くとすぐ門――これは裏門だろう、それがあり、左側は図書館らしき建物と、通路を挟んで手前に武道館がある。

    辺りに人の気配はない。皆、すぐにここを離れたのだろうか。
    恐る恐る、今降りてきた校舎と武道館の間にある狭い通路を覗き込む。誰もいない。その向こうには渡り廊下、そしてその奥はグラウンドが広がっているのだが、そこにも誰かいる様子はない。

    とにかく、どこか目立たないところに早く行かねば。
    こんなところでもたついていたら次の中西翼(男子12番)が出てきてしまう。
    志保美はその通路でグラウンド方面へ行き、武道館を背にし、渡り廊下に座り込んだ。
    ちらりとのぞくと、ちょうど翼が大きな体を現した。彼もどこに行こうか迷ったのだろう、少々まごついた後、裏門方面へと向かっていった。

    時間が経つのが遅い。
    志保美は腕時計をしていないので(ディパックの中には入っているそうだが)、実際の時間がどうも分からない。
    播磨。早く。早く出てきて。
    膝をぎゅっと抱え、志保美は祈った。

    また首だけ少し出してのぞきこむ。
    さっきからほぼ2分後だったようで、服部伊予(女子12番)が翼と同じ方向に走っていくのが見えた。
    それを見て、ほっと息をつく。
    次に出てくるのが文男なのもあるが、伊予はいわゆるギャルで、ちょっと怖いと思っていたので近寄りたくなかったのだ。

    次は文男の番だ。
    志保美は立ち上がると、昇降口へと向かった。


    「播磨」
    兵士が列を成す中、現れた文男に向けて声を発する。
    「名張っ…!」
    文男はその整った顔を、まるで泣きそうに歪める。
    「播磨、こっち。誰もいないから」
    志保美は喋りながら、文男の手を握って今までいた武道館の陰に引っ張っていく。

    「名張、ありがとう。待っててくれて」
    右手には荷物を持っているので、左腕だけで文男は志保美を抱きしめる。
    「何言ってんの。当たり前じゃない」
    志保美は文男の胸に顔を埋め、微笑んだ。

    「ね、播磨さ、あの色、白だよね?」
    さり気なく、志保美は体を離す。
    「…見えてたんだ?」
    「うん、見えた。でね、私も白なの」
    すると志保美は、ブレザーのポケットから白いくじを取り出し、文男に見せた。

    943 = 879 :

    口をすぼめ、石川佳之(男子2番)は頭をくしゃくしゃと乱暴に撫でた。


    みぞおちに拳を入れ、意識を失わせてきた、水谷怜子(女子15番)。
    同じ青の人間なのに、彼女はこちらに銃――シグ・ザウエル P225を向けてきた。
    だから、殴った。
    殺しはしない。[ピーーー]必要などないし、できれば殺したくなどないからだ。

    怜子が言っていた、『生き残らせたい』人。なんとなく、想像はつく。確信は持てていないけれど。
    でも彼女に、賛同はできない。
    やっぱり俺は、俺が生き残って帰りたいから。

    でも怜子にはできれば生きていてほしい。
    なぜなら彼女も佳之と同じ、“やる気”な人間だからだ。
    同じ色に属するもの同士、他の2色の人間を殺していけば――いや、違うのか。彼女は色など関係なしに殺していくのだろう。
    なんにせよ、プログラムの進行を促してくれる存在に変わりはない。
    あの時は自分の身を守るために気を失わせたが、そろそろ目は覚めただろうか。また、クラスメイトを殺しているだろうか。
    あんたが俺の死を望もうが、俺はあんたの生を望むよ。
    だから頑張ってくれよな。


    今のところ、怪我らしい怪我は鳥羽和信(男子10番)に白ワインの割れた瓶で刺された左脚くらいだ。
    足首に近いところを鋭利なもので刺されたので大分痛みはあったが――真弓雪之進(男子16番)を小学校で殺害した直後、すぐ側にあった保健室で治療をした。
    治療と言っても、暗い中懐中電灯で傷口を照らしてガラスの破片を取り除き、消毒をして包帯を巻いたくらいだ。本当に簡単な、素人にしかできないこと。
    念のため、消毒液と包帯はもらってきた。
    今は慣れてきたためか、その傷のことはあまり気にせずに歩くことができる。他人から見たら少し不自然に見える歩き方はしているかもしれないが、とにかく。

    今歩いているのはH=06。北上しているので、右手側に山が見える。
    怜子を気絶させてから山を少しうろついたが、銃声は何度か聞こえはしたものの、その発信源となる人物とは遭遇しなかった。
    どうであれ、プログラムが進行しているというのはいいことだ。もちろん、青の人間が優位であれば、の話だが。
    辺りは特に何もなく、山に沿うようにアスファルトで舗装された道路ができている。
    ずっと土の上を歩いていたせいか、この固い感覚がなんだか懐かしい。

    ふと、緩やかなカーブをえがいている道の先に、人影が見えた。
    ふたつ、ということは分かるのだが、佳之は授業中や勉強中だけ眼鏡をかけているので、今は視力が決して良くはない状態だ(戦闘において眼鏡をかけるほど細かいことを気にしなくてはいけないことがあるとは思えないので、それはディパックの奥底にしまってある)。それ故、誰なのか全く分からない。ズボンをはいているのは分かるので、両方とも男、ということくらいしか。
    誰だ…? まあ誰だろうと、最初は疑うんだけど。
    もう随分手に馴染んできたベレッタM92を、ズボンのポケットから引き抜く。
    そしてそのまま、銃口を下に向けたまま歩き、人影に近付いていく。

    やがてふたつの人影は立ち止まり、片方が「石川くん」と声をあげた。

    944 = 879 :

    だ。
    「あと、一緒にいるのは…ごめん、よく見えなくて。もう結構暗くなってきたし」
    「俺、田丸」
    「田丸か…」
    田丸大輔(男子9番)。
    なぜ、この二人が一緒にいるのか…?
    普段の生活から考えて、マンツーマンでいるところがあまり想像できない組み合わせだ。
    きっと色が同じなのだろう、という仮定を立てた上で、佳之はベレッタを持つ右手に力を入れた。

    「お前らさ、同じ色だよね?」
    佳之がそう言うと、大輔と朋彦の緊張が高まるのが空気を通して伝わってきた。
    「それは…俺たちが一緒にいるからそう思うわけ?」
    「まあそうだよね。だってさ、色が違ったら一緒にいるメリットないでしょ、このルールで。
    だから俺はそう思ったんだけど…どうなの?」
    数メートルの距離の間に漂う緊張感。
    数秒置いて、朋彦が口を開いた。
    「…そうだよ、田丸と俺は、同じ色」
    「やっぱりね。で、何色?」
    佳之自身は青だが、先程長島めぐみ(女子9番)のポケットから白いくじをくすねてきた。
    だから二人の回答により、こっちの出す手を替えることができる。

    「石川くんは、何色なの?」
    まあ、そう返されるよな。
    そこで佳之は、ずっと地面に向けていたベレッタの銃口を朋彦と大輔に向けた。
    「先にきいたのは俺。だから正直に言って」
    やはり暫くは反応がない。
    ひゅう、と風が吹き、ああ、冷えてきたな、なんて思ったその時、朋彦が口を開いた。
    「俺たちは、青だ」
    「証拠見せて」
    そう言うと二人はほぼ同時に、ポケットから青いくじを取り出してこちらに見せてきた。
    赤でも白でもないことは、この明るさの中でも分かった。
    「そっ…か。俺も、青なんだ」
    佳之はベレッタをズボンのポケットにしまい直すと、ブレザーの右ポケットから同じく青いくじを出した(白は左のポケットに入れてある。感触が同じなので、一緒にしておくと厄介なのだ)。
    安心した。
    クラスメイトを[ピーーー]のには肉体的にも精神的にも疲れる。

    俺は、この二人のことは殺さなくていいんだ。

    そう思うと、自然と体中の筋肉が弛緩していった。

    「あっははっ、良かった。じゃあ俺たちは、殺し合わなくていいんだな。仲良くできる」
    「お…おうっ。そうだよ、良かった良かった」
    佳之が笑うと、ずっと黙っていた大輔がそれに応えた。
    自然と足が動き、佳之は二人との間を詰める。


    「ねえ、石川くんはさ、その…やる気なの?」
    一度は佳之につられて笑んだ朋彦が、一転して不安げにたずねる。
    「ん…まー色違う人だけ[ピーーー]つもりでいる。
    だって考えてみろって。普通のプログラムと比べて、敵が3分の2なんだぜこれ? やる気になったっていいじゃんか」

    945 = 879 :

    高橋錬志郎(男子8番)は例外だが、和信や雪之進は他の色だったのだ。感謝されてもいいくらいだ。
    「青の人は[ピーーー]つもり、ないってことだよね?」
    「そう。そこは信じて。田丸にも、王子にも、手は出さない」
    念を押されて、佳之は両手を開いて上げてみせた。
    「そっか…。でも、俺たち、石川くんとは一緒にいられないわ…」
    「なんで」
    別に誰かと共に行動するつもりなど最初からないのだが、そう言われると原因を追求したくなってしまうのが人間というものだ。

    「これ、俺の武器なんだけどさ」
    そう言うと朋彦は、ずっと右手に持っていたゲーム機のような機械の画面を見せた。
    そこの中心には3つ、星印が存在している。
    「探知機なんだ。この首輪が発信する電波を拾って、誰か近くにいれば分かるようになってる。今も、誰かが近付いてくるのが分かって、そっちに向かってみたら石川くんがいたってわけ」
    「へえ…」
    探知機。良い武器ではないか。
    「これを使って俺たちは人を探してる。俺たちが探してるのが違う色かもしれないし…確率からいって、その方がありうるし。その時に石川くんがいるとちょっと心配だなあ、と」
    「うん…そうだよな……」
    彼らが誰を探しているのかは知らないが、確かにその人物たちが青でなければ自分は銃を向けるだろう。

    「じゃ、俺たちはお互い別々に頑張る、っつーことで」
    「うん、そういうことでよろしく頼むよ」
    顔を見合わせてにやっと笑う。佳之と朋彦のやり取りを見守っていた大輔とも。

    「ああ、そうだ。ひとつだけ忠告しとく」
    「…何?」
    「俺、水谷さんに会ったんだ。あの子も青なんだけど、なんだか生き残ってほしい人が赤だからって躍起になってる。だからもし会ったら気をつけて」
    「ああそれ小林くんのことだ…」
    大輔がぼそっと呟く。
    「あ、やっぱりね。そんな気はしてたんだけど」
    想像が確信になった。怜子は見たところ、小林唯磨(男子6番)に相当好意を持っているようだったので。

    946 = 879 :

    水谷(女子15番)は唇を一文字に結び、力強く歩いていた。

    こんなに早く清水緑(女子7番)を見つけられたということは、すぐに殺せということだと思ったのに。


    怜子が緑を嫌っているのには理由がある。
    想いを寄せる小林唯磨(男子6番)と、緑の仲が良いからだ。

    唯磨のことが好きだ。世界中の誰よりも。
    だから、彼と仲が良い女子――このクラスならば、小久保梨瑛(女子5番)や緑が目障りでたまらない。
    プログラムに選ばれたと分かった時、もちろん絶望はあった。自分の命が、ここで恐らく絶たれてしまうのだから。
    でも、考え方を変えてみた。
    “人を[ピーーー]こと”を許されているのだから、梨瑛や緑を殺せばよいではないか、と。
    そうすれば、当座の邪魔者はいなくなる。

    彼の姿が好きだ。性格が好きだ。はにかむような笑顔が好きだ。話す時のちょっとした仕草が好きだ。
    とにかく――小林唯磨という少年の、全てが好きだ。
    このクラスには、播磨文男(男子13番)と名張志保美(女子11番)、それにもういないが、東崇宏(男子14番)と南早和子(女子17番)というカップルがいる。でも彼らが互いに想い合う気持ちよりも、自分が唯磨を想う気持ちの方が大きいであろう自信がある。
    それどころか、この世で唯磨のことを一番想っているのは自分であろうと思っている。
    ――否、“思っている”ではない。事実だ。事実でないはずがない。
    だから彼の隣にいるのがふさわしいのは、梨瑛や緑ではない。
    この、私だ。
    いつもヘラヘラとしている梨瑛や、妙に気取っている緑などではない。
    自分が、唯磨と共にあるべきなのだ。

    彼が自分のことをどう思っているのかは分からない。でも、決して悪くは思っていないはずだ。
    話しかければにこやかに応えてくれるし、会話を楽しく続けてくれる。
    とにかく、梨瑛や緑、さらには唯磨の気持ちになど関係なく、怜子は彼に対して多大なる愛情を抱いているのだ。
    この感情は、きっと今後何があっても変わらないだろう。


    鈍そうな彼のことだから、恐らくこの気持ちには気付いてはいない。
    だから怜子は、まず唯磨のことを探した。探して、見つけて、そしてこの想いを受け入れてもらうために。

    947 :

    荒らしのやる気が凄まじいな

    埋まったら新しいスレ建てて大丈夫ですよね?

    949 :

    待ってるよ
    酉つけたら?

    950 = 947 :

    すみません

    名前欄になんと入れたら酉が出てきますか?


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