元スレ日向「強くてニューゲーム」
SS+覧 / PC版 /みんなの評価 : ★
801 :
やっと復活したー
どこまで書いたか確認してから更新していきますね
802 :
頑張ってくれー
803 :
まさか…最初が田中とは……
804 :
トリップあくしろよ
805 :
おい
806 :
左右田「あー……十神?コイツも悪気があったというより褒め言葉として言ったわけなんだよ、たぶん」
左右田「だからよ、怒らないでやってくれないか?コイツも元気つけようとしただけだと思うからよ」
十神「フンッ……別に怒ってなどいない。ただ……西園寺の言う通りだったからな」
左右田「だから……え?」
十神「日向、田中は自分を犠牲にしてまで俺たちを助けてくれた。俺たちに未来を託したんだ!」
日向「…未来を?」
十神「だったら俺たちが今できることは、田中の分まで未来を生きる、この島を出ることじゃないのか?」
日向「未来を、生きる」
十神「ソニアよ、お前は今なにがしたいんだ?」
ソニア「それは……」
十神「田中を想っているのなら、田中に託された未来を生き抜いてやれ。アイツもそれを望んでいるはずだ」
ソニア「そう、ですね」
ソニア「わたくし、田中さんの分まで生き抜きます!」
十神「…世話をかけたな」
西園寺「べっつにー?わたしは思ったことを言っただけだし」
小泉「…………」ナデナデ
西園寺「あぁもう!撫でないでよ!」
807 :
モノミ「やりまちたよー!」
終里「んぁ?モノミか?」
七海「大丈夫?怪我してるみたいだけど」
モノミ「大丈夫でちゅよ。最後のモノケモノは骨が折れたでちゅが」
十神「ということは最後の島に入れるようになったのか?」
モノミ「はい!」
九頭龍「んじゃあちゃっちゃとその島に行っちまおうぜ」
罪木「あのぅ……」
九頭龍「なんだよ」
罪木「狛枝さんがいませんけど……」
モノミ「狛枝さんならさっき最後の島に行きましたけど…」
左右田「それを早く言えよ!」
十神「クソ!狛枝の後を追うぞ!」ドムドムドムドム
日向「七海……」
七海「どうしたの?日向くん。早く狛枝くんを探さなきゃ」
日向「後で少し話があるんだ」
七海「……うん、わかった。だけど今は…」
日向「わかってる。狛枝を探さなきゃな」
808 = 807 :
〔屋台通り〕
日向「いたか?」
十神「ここにはいないようだ」
罪木「どこに行ったんでしょうか…」
澪田「凪斗ちゃんどこっすかー?」ガサガサ
十神「ゴミ箱にいるわけないだろう!」
〔ジャバウォック軍事施設〕
左右田「いましたか?ソニアさん!」
ソニア「いえ…ここにはいませんでした」
左右田「たく…狛枝のヤローどこ行きやがったんだ?」
西園寺「ねぇねぇ左右田おにぃ、これ見てー」
左右田「なんだ……てうぉあ!戦闘機じゃねーか!」
西園寺「エンジンはないみたいだよ」
左右田「はぁー、こんなもんまであんのか……て、花村どうしたんだ?そんなに震えて」
花村「いやなんだかね…あの戦闘機を見てたら震えが…」
809 :
おお更新されてる!!
810 :
篠宮未琴
最近日にちの経つ間隔が長いのであまり意識してなかったけど、短命トップ?
なんとなく全身絵が描きたくて描いた未琴ちゃんです。
こういう女の子って描くのが楽しいvv
このリュックの中には何が入ってるんだか。。怖い怖い。
811 = 810 :
篠宮未琴
最近日にちの経つ間隔が長いのであまり意識してなかったけど、短命トップ?
なんとなく全身絵が描きたくて描いた未琴ちゃんです。
こういう女の子って描くのが楽しいvv
このリュックの中には何が入ってるんだか。。怖い怖い
812 = 810 :
新宿――大東亜の首都を擁する東京都において、最も栄えている街の1つである。
殊に、ゴールデンウィークと言われる大型連休の最終日ともなれば、家族連れや恋人同士、友だちと買い物など、窒息しそうになるほど人でごった返している。
その、駅から少し離れたところにあるファミリーレストラン、マイゼリアも、昼時とあって、多くの客で賑わっている。
同じテーブルに着いていても、相手の会話が聞き取りづらい程にそれぞれが騒いでいるので、誰も他のテーブルの人たちの話など聞けない状況だ。
その窓際の一角に、3人の男がいた。
歳が離れた最年長の男は穏やかな表情でドリンクバーのコーヒーを啜り、真ん中と思われる男は鋭い目つきで辺りを窺い、最年少と思われる童顔の男はマイゼリアお勧めのハンバーグステーキを頬張っていた。
「…クソッ、マジで来んのかよ?」
目つきの悪い男が、苛立った表情で悪態付いた。
「そう焦らないでいいじゃないか、清原君。
向こうも、丁度の時間に来れるかわからないと言っていただろう?」
コーヒーカップを受け皿にそっと置き、最年長の男は穏やかに言った。
ハンバーグに添えられたポテトを口に放り込んだ若い男が、横にいる清原と呼ばれた男をじろっと睨んだ。
「おっさんの言う通りだ。
つーかテメェ、人が食ってる横でそんな面すんなっつーの。
気分が悪いったらありゃしねぇよ」
「…んだと?
ハッ、馬鹿は気楽で良いな、クソガキ」
813 = 810 :
冷淡な声で芝崎務(担任)に言われ、離席していたクラスメイトたちは反感の思いを視線で芝崎にぶつけ、それぞれの席に戻った。
偉そうに、何様だよ――きっと、多くのクラスメイトがそう感じただろう。
廊下側の最後列にいる寺内紅緒(女子十番)は、少なくとも感じた。
そして、前の席の久瀬ゆかり(女子五番)や隣の宗和歩(女子八番)や歩の机に腰掛けていた堀内尚子(女子十五番)といった、クラス内で仲良くしているメンバーで近くの席に座っている面々との話を切り上げた。
尚子が歩の2つ前の席に座ったのを見てから、前を見た。
芝崎の見慣れた冷淡な面はどうでもよかったが、彼の後ろに控えている4人の男女の正体は気になるところだった。
右の3人の男は見るからに軍人だが、1番左の女はそうは見えない。
シックなスーツを着こなした、優雅な女。
女子にしては大柄な体とショートヘア、ぶっきらぼうな言葉遣い――そんな紅緒には一生出せないような女らしさを持っている人だと思った。
「ねぇ先生、ここどこ…?
あたしたち、なんでこんなわけわかんない場所にいるの…?」
クラス全体の思いを代表して述べたのは、紅緒とは小学生の頃からの付き合いがある辻莉津子(女子九番)だった。
勝気な性格の持ち主で、紅緒にとっては誰よりも気の合う親友だ。
しかし、莉津子の声は、今までに聞いたことがないような弱々しいものだった。
戦闘実験台六十八番プログラム――二階堂哉多(男子十三番)と二階堂悠(女子十三番)はそう述べた。
誰もが不安に包まれ、でも、どこかで信じていた。
それはきっと思い過ごしだと。
自分たちの目の前にいる芝崎が、否定してくれると。
しかし、その思いは、芝崎の冷徹な言葉に崩れ去った。
「お前らには、今から殺し合いをしてもらう」
空気が凍った。
どこからか、「やっぱり…」という声が聞こえた。
僅かな望みは、完全に潰えたのだ。
「どうして、俺なんですか」
机を拳で叩いて立ち上がったのは、我らが2組の代表者、酒井真澄(男子六番)。
最後列にいる紅緒からはその表情ははっきりと見ることはできなかったが、大体想像はつく――いつもの不機嫌そうな表情を崩さずに、だけど明らかな怒りをメガネの奥の両目に湛えて、芝崎を睨んでいることだろう。
815 :
間違って投稿してるって察してあげようよ。
816 :
いや前にもあったろ、もっと凄かったけど
817 :
焼き依頼した方がいいかと
818 :
sage入れない地点でお察し
819 :
春だなぁ
820 :
山崎雛子(女子二十番)は、ウェーブのかかったツインテールを風に靡かせ、倉庫の入り口で後頭部を擦っている酒井真澄(男子六番)を睨みつけた。
「相模さん、木下君、大丈夫!?」
米村直(男子二十番)が隣で大きく手を振った。
相模夕姫(女子七番)が手を挙げているのが確認できた。
雛子と直は、直の友人であり雛子の異母弟である関本春海(男子十一番)を真澄によって殺された後、ずっと真澄を探していた。
真澄が赦せなかったのだ。
雛子と春海とはずっと確執があったのだが、このプログラムの中で改めて向かい合うことができ、和解することができた。
それを、真澄は台無しにした。
半分しか血が繋がっていないとはいえ、雛子は家族を奪われたのだ。
それも、春海が親友だと思っていた相手によって。
赦せるはずなどない。
雛子は自らの手にジャストフィットするリボルバー式拳銃、S&W M49 “ボディガード”のグリップを、その感触を確かめるように強く握り直した。
真澄に撃たれた脇腹の傷がたった1日で癒えるはずはなく、今こうして平然と立っているだけでも辛く、脂汗が額に滲む。
それでも、戦わなければならない。
予感がした。
ここで真澄を逃せば、もう、チャンスは来ない。
「探したよ、酒井くん」
雛子に名前を呼ばれ、真澄が振り返った。
足元のサッカーボール(これは真澄を探して彷徨っている時に、たまたま民家で見つけた拾い物だ)を拾い上げ、相変わらずの冷たい目で雛子を捉えた。
821 :
どうせNGに入れるんだから自分でスレ立てればいいのに
823 :
すみません
PSPが壊れていてダンロン2のストーリーが確認できずに書けませんでした
狛枝が死んだ所のドアは普通に入れたんでしたっけ?
824 :
どの状況下でのことを聞いてるのかわからないけど入れなかった時なんてなかった気がする
狛枝が中にいる時に入るのに手こずったのはモノクマパネルがあったから、鍵が付いてるかは不明
825 :
鍵なんか掛けなくても狛枝なら邪魔入らなそう
826 :
超高校級の運を持つ駒枝さんに不可能はない
827 = 823 :
細かく言うと狛枝が食堂爆発させる前の探索の時です
ですがまぁ狛枝なら大抵のことOKっぽいのでそろそろ書き終わらせます
828 :
〔ワダツミ・インダストリアル〕
弐大「狛枝はおったか?」
七海「いなかったよ」
終里「つうかあのモノケモノってここで作られてたのかよ」
モノミ「またあちしがやっつけてあげるでしゅ!エッヘン」
小泉「…………」カキカキ
小泉『頼りにしてるね』
〔ヌイグルミ工場〕
九頭龍「狛枝のやつ、どこ行きやがった……」
辺古山「いませんね……」モフモフ
九頭龍「なぁペコ……そろそろそれやめねぇか?」
辺古山「嫌です」キリッ
九頭龍「お前がいつも抱きついてるから全員がなんかよそよそしいんだよ!」
辺古山「……ぼっちゃんが嫌だと言うのなら……もう二度と……1ヶ月……いや、3日は抱きつきません!」
九頭龍「意志弱いな!」
辺古山「3日もぼっちゃんに触れ合えないなど……考えただけで恐ろしい」ガタガタ
九頭龍「少しくらい我慢しろよ……」ハァ
829 :
まだかな
830 :
右手に銃を。
左手に剣を。
射抜くように相手を睨み。
突き刺すように相手を詰る。
戦いは、止まらない。
愛しいあなたの手は、決して離さない――
気にすんな…俺の命なんて、クソみたいなモンだから。
けれど、君を護ることができるなら、最高の代物だ。
無理するなよ…早稀、おいで。
この広い世界でお前に見つけてもらえたことが、人生最高の幸せだ。
からかわないで…そんなこと…あるわけないじゃない…!!
この気持ちはわたしだけのものであるべきだ、そうでないと、わたしは生きていけない。
あれ、知らない?好きな人と一緒にいれば、無敵になれるんだよ?
貴方がいれば、怖いものなんて何一つない。
導く貴方の手が失われた時、何かが壊れる音がした――
とっくに知ってたよ…僕は、リーダー失格だ。仲間の命を護ることになるのなら、僕の死なんて安いものだ――そう、思えるようになったんだ。馬鹿だなぁ…みんなを護る方法なんて、最初から一つしかなかったのに…もうみんなを傷付けさせないからね…あたしが、みんな、片付けるから。
庶民との戯れもここまでです…もう、二度と会うこともないでしょう。
831 = 830 :
貴方がその手で護り抜いた誇りは、失われることはない――
大丈夫。何があっても、俺が絶対護ってみせる。
俺の意志も、アイツの遺志も、絶対に貫いてみせる――誰にも邪魔させない。
麗の誇りを傷付けるヤツは、あたしが絶対赦さない。
戦いを望まなかった貴方の遺志に背いてごめんなさい。
これが麗さまの望むこと…そう言ってるよ、もみじの中の麗さまが。
いっぱい頑張ったら、夢の中で麗さまが褒めてくれる…そう思っていないと、立っていられない。
君に手を貸す以外に、生きる道はない――
雪美に、手を出すな。
本当の想いなんて言うことはできない…これが俺への罰だ。
望みを叶えるためには、犠牲はつきものなんだ…!!
死んだら地獄に堕ちるから…だから、今だけは、僕の行いを赦してください。
あっはは、傑作…!!今の顔、とーっても素敵よ?誰も彼も不幸になぁれ。そうじゃないと、不公平じゃない。ねえ…“手駒”って…何のこと?心のどこかで理解はしていた、だけど、見ないふりをした。やっとこの手で、何かを掴んだ気がした――“好敵手とも”の仲間を助けるためには、理由が必要か?ああ、ようやく、間に合うことができた。アンタを殺しに来た…見てわかんないの?馬鹿じゃん!馬鹿はあたしだ、覚悟ができていなかったのもあたしだ。大切な人のために、ちょっと頑張ってみようかなって思って。こんな手段しか取れないことが、とても、残念。大好きな人のためなら、この手を汚すことも厭わない――ごめんね、永佳…今までありがとう。
832 = 830 :
名月を雲が隠してしまうように。
満開の花は風で散りゆくように。
幸せな時間は長くは続かず。
願い通りに物事は進まない。
全てが終わった時、この両手には何を掴んでいるのだろうか。
月に叢雲、花に風
【残り十九人】
終盤戦、開始――
833 = 830 :
『咲良、貴女は何があっても麗坊ちゃんを護るのよ』『咲良の力は、大切な人たちを脅威から護る力なのだからね』上野原家は、昔から常に城ヶ崎家と共にあり、城ヶ崎家を護ってきた家。これまでも、これからも、それは変わらない。小さい頃から、何度も何度も聞かされて育った。戦乱の世ならともかく、半鎖国状態で戦争のない平和な国において、一体何から城ヶ崎家を護れというのか、そう思ったこともあった。けれども、何らかの脅威から護ることはなくても、常に傍にいて時に慰め時に励ますことが自分の役目だと思ってきた――家訓など関係なく、それは麗の人柄に惹かれた故のとても自然な流れだった。
平和な世では、この関係がずっと続くと思っていた。しかし、プログラムという戦闘実験の対象に選ばれてしまった。
平和な日常は終わり、クラスメイトが命を奪い合う戦場へと放り込まれた。今こそ、家訓に従い動く時――のはずだった。同じ班にはなれなかった。出発順は最初と最後、あまりにも離れ過ぎていた。探す当てもなく、途方に暮れた。
これまで当たり前のように隣にいることができたのに、それは叶わなかった。クラスメイトの死を目の当たりにし、同志を喪い、会いたい気持ちばかりが募るのに、探しても探しても会うことはできなかった。
傍にいたいのに、護りたいのに、何もできなかった。そして、ようやく見つけた。あまりにも、遅すぎた。鮮やかな紅色、それとは対照的に透き通るような白皙の肌。朝陽を浴びる貴方は、二度と動くことのない亡骸となっていた。紅い色なんて信じたくない――世界から、色が消えた。貴方より輝くものなんてあるわけがない――世界から、光が消えた。
貴方がいない世界にあたしがいることが赦されるわけがない――世界から、あたしの存在価値が、消えた。上野原咲良(女子二番)は、視線の先に、護るべき存在であるはずの城ヶ崎麗(男子十番)の変わり果てた姿を認めた。咲良は、ゆっくりと麗の下へ向かい、傍に膝を付いた。近くで数人の声がするけれど、ただの雑音にしか聞こえなかった。
咲良の意識は、完全に、麗へと向いていた。麗くんが、動かない。何も考えられなかった。ただ、視界の中に麗の姿を捉えて網膜に映しているだけのような感覚。思考回路を動かせば、麗が目の前で息絶えている現実と向き合わなければならない――頭が、心が、全力でそれを否定し、受け止めきれない現実を前に防衛本能が働き、考えるための全ての機能をシャットダウンしたかのようだった。麗と初めて出会ったのはいつだったのか、憶えていない。城ヶ崎家に待望の第一子が誕生した同じ年、池ノ坊家には半年前に奨が既に生まれており、4ヶ月後には上野原家にも長女が生まれた。城ヶ崎家と、城ヶ崎家に代々仕えてきた池ノ坊家・上野原家に、同じ年度に子どもが誕生したということで、親族を交え大いに盛り上がったらしい。アルバムを開けば、まだ立つこともできない小さな頃から、3人並んだ写真が何枚も収められていたので、本当に生まれて間もない頃からの付き合いなのだということは確かだ(誕生日が最も遅い咲良にとっては、特にそうだ)。
それ程に小さな頃から一緒にいたのだから、物心付いた時には麗は隣にいて、物心付いた時には麗は護るべき人だと認識していたのは、当然のことだった。
そして、麗は自分と同じ所に立つ人ではなく、自分の上に立つ人だという認識もこの頃には既にあった。麗は咲良のことを友人として見てくれ、咲良も友達だと口では言っていたけれど、主君と従者という関係を崩すことはできなかった(麗もきっとそれを理解していた。だからこそ、対等に接することができる友人を求めていたのだろう)。
『麗坊ちゃんのお傍に仕えるに相応しい人間でありなさい』祖母や母からは、特に厳しくそう言われた。身なりも言葉遣いも仕草も、小さい頃から厳しく躾けられた。城ヶ崎家を護るという家訓と、総合武術“葉鳥神道流”師範の孫という立場から、物心ついた頃には武道を嗜んでいたが、同時に麗の傍にいるに相応しい女性になるようにと、華道や茶道、ピアノやヴァイオリン等の習い事も掛け持ちしていた。教養もある程度なければ主君の地位を貶めるだけだと、勉学にも勤しんだ。勉強ができ、運動ができ、上品で礼儀正しく、人当たりが良く、身なりにも気を配り、それでいて決して出しゃばらずどんな時も麗を立てる――それが、家族が咲良に求めた、麗の傍に仕える者の理想像だった。初めの頃は常に心掛けて理想に近付くように意識をしていたけれど、いつしかそれが咲良にとっての自然体となった。
834 :
>>833
死んじまえ
835 = 830 :
元々恵まれていた容姿は努力で更に磨きがかかり、ある程度何でもそつなくこなすことができ、誰が相手でも平等に優しく接して人気もあるが、それを鼻に掛けることのない控えめな性格。学校の同級生も親族も、誰もが、咲良のことを麗の傍にいるのに相応しい、麗の傍にいたいのであればああでなくてはいけない、と称えた。
麗の傍にいることを認められるのは、とても嬉しかった。自分が存在することで麗を貶めないようにする、口にすることはなかったけれど、それが咲良の目標であり、当然でもあった。あたし、本当に馬鹿だ…いざという時に傍にいることも護ることもできなかったなんて…こんなことじゃ、お父さんお母さんお祖父ちゃんにも、城ヶ崎のおじ様やおば様にも、合わせる顔がない…それに…麗くんのいない世界で、あたしは、どうすればいいの…?
麗の亡骸を網膜に焼き付けながら、心の中で自問した。麗の傍で仕え、支え、励まし、護ることが、上野原の血を継ぐ自分の役目だった。道標を亡くした今、咲良は広大な海の上に小舟で放り出されたような、どちらを見てどちらに進めば良いのかわからないような心境だった。「元はといえば…アイツらがこんな馬鹿げたことに乗ったから…!! 次会ったら…ぶっ飛ばしてやる…ッ!!」「…木戸……“アイツら”って……」「奨もやられたんでしょ…賢吾に、賢吾たちに」人間の耳とは、悪い知らせをより聞き取るようにできているのだろうか。
ふと咲良の耳に飛び込んできた木戸健太(男子六番)・真壁瑠衣斗(男子十六番)、朝比奈紗羅(女子一番)の声に、咲良は頭をハンマーで殴られたかのような衝撃を受けた。賢吾――榊原賢吾(男子七番)たち、つまり、あの鷹城雪美(女子九番)のいる班に追い詰められ、結果として麗が命を落とすことになった。池ノ坊奨(男子四番)と同じ。咲良のことを殺したい程嫌う、そして咲良を不幸のどん底に落とすためなら咲良の仲間の命を奪うことも厭わない雪美とその仲間たちによって。ああ、なんだ…どうすればいいのか、だなんて…答えは一つしかないじゃない…咲良は立ち上がっていた。ふらついた足取りで皆から離れ、崖の端に膝をついた。崖下にはごつい岩がいくつか海面から顔を覗かせ、それに白い飛沫を上げて青い波が打ち寄せていた。ここから落ちれば、まず助からないだろう。咲良を嫌う雪美の手によって麗は死に追いやられた。つまり、咲良の存在が、麗の死の原因と言い換えることができる。麗に仕え護ることが自分の存在意義だというのに、逆に死に追いやってしまった。城ヶ崎の家を、麗を護ることができず、上野原の家に泥を塗る結果を招いた自分がすべきことは、たった一つ――命をもって、償うことだけだ。ごめんね、麗くん…護れなくて…それどころかあたしのせいでこんなことになって…ごめんね……
ゆっくりと体重を前に傾けた。あと少し前のめりになれば、体は下へと落下する。怖いだなんて言う資格はない、麗も死へと向かう恐怖を味わったはずなのだから。「咲良ぁッ!!!」重力に従いぐらりと体が前に傾いたと思ったと同時に、叫び声と共に襟の後ろを引っ張られ、咲良は息苦しさと共に地面に放り出された。
何が起こったのかすぐに理解することができず、咲良は体を起こしつつ顔を上げた。「何しようとしてんだ、咲良ッ!!!」「け…健太…くん……?」
そこには、眉間に皺を寄せ眉を吊り上げ、泣いて充血した瞳に怒りの感情を滾らせて咲良を睨む健太の顔があった。
健太は感情をストレートに表現する人なので、このような表情を見たことがないわけではなかった。
しかし、咲良に対してはいつも優しかったので、初めて自分に向けられた怒りの声と表情に、咲良は体を強張らせた。
「あ…あの…だって……あたし…… あたしのせいで…麗くんが……だからもう…死んで償うしか……っ」「何でだよッ!! 麗を護れなかったのは、一緒にいたのにこんなことにしちまった俺らだッ!! チームも分かれてたんだ、お前が責任感じることなんてないだろうがッ!!!」「違う、そうじゃなくて――」「…上野原」咲良は声の降ってきた方向を見上げた。
健の後ろに立っていた瑠衣斗は、肩で息をしながら咲良を見下ろしていた。
眼鏡の奥、いつも冷静で涼やかな瞳からもまた、怒りの感情が読み取れた。
「鷹城に自分が嫌われてるせいで城ヶ崎が死んだ…ってこと? だから、全部自分のせいだから、死にたがってるわけ?」咲良はびくっと体を震わせ、瑠衣斗から視線を逸らした。
瑠衣斗の言葉が全て当たっていたので、咲良の心情を理解している上で向けられている怒りの感情を真正面から受け止めることができなかったのだ。経緯を知らずに眉間に皺を寄せた健太の顔も見ることができず、咲良は視線を彷徨わせ、地面へと落とした。瑠衣斗の口から漏れた盛大な溜息もまた、咲良の頭を押さえつけるかのようだった。「瑠衣斗、お前、何言って…」「聞いての通りだよ、木戸。 …ねえ、上野原、『死にたいとか言わない』って言ったよね? 半日も経ってないのに、もう破るとか、勘弁してほしいよ。 君のせいじゃないって、あと何回言えばわかってくれるわけ? 君の自殺行為、あと何回止めればいいわけ? 高須を何度も泣かせて、僕を何度も困らせて、楽しい?」
836 = 830 :
迷惑ばっかり掛けてごめんなさい――言葉が、声として出ない。
怒りの感情をぶつけられたことに恐怖した、それもある。
それ以上に、更なる罪悪感が咲良の上に圧し掛かり、体も声も思うようにすることができなかった。
「咲良…お前…自殺行為って……何やってんだよッ!!!」
健太の手が、咲良の肩をぐっと掴んだ。
肌を千切ってしまいそうな程に健太の指には力が込められ、痛みに小さく呻いたが、健太の力が緩むことはなかった。
「なんか、事情はよくわかんねぇけど、これだけははっきりしてる!!
鷹城が咲良のこと嫌ってたとしても、それとこれとは別問題だッ!!
鷹城、ダチのはずの室町が目の前で死んでも顔色一つ変えてなかったッ!!
アイツらはやる気で、生き残るためなら誰だって[ピーーー]気なんだよッ!!
好きとか嫌いとか、そんなのアイツらには何の関係もないんだよッ!!!」
麗と同じく今朝の放送で名前を呼ばれた室町古都美(女子十八番)の死にも、親しくしていたはずの雪美が関与していることには驚いたが、それとこれとは別問題だ。
健太の言う通り、プログラムの中で優勝を目指すために好悪など関係なく、出会ったクラスメイトを片っ端から殺害しているのかもしれない。
しかし、そんな証拠はどこにもない。
直接雪美から聞いた、『最初は上野原さんを殺してほしいってお願いしてたのよ』という言葉も、頭にこびり付いて離れない。
だから…やっぱり、あたしは、生きていてはいけない…
「駄目…だって…雪美ちゃんは……奨くんも麗くんも……
あたしがいなければ…これ以上みんなが狙われないかもしれない……
だから…あたしは…――」
「何でそうなるんだよッ!!!
何で鷹城一人の願いを聞いて死のうとするんだよ、おかしいだろッ!!!
俺と瑠衣斗が何でこんなに怒ってるか、わかってんのかッ!!?
咲良に死んでほしくないから、生きててほしいからだろうがッ!!!
俺たちも、紗羅ももみじも撫子も、麗と奨だって、生きててほしいんだよッ!!!
鷹城なんかの願いじゃなくて、俺らの願いを聞けッ!!!」
生きる…?
麗くんがいないのに、あたしだけが、このまま…?
そんなの…
「わからない…
麗くんがいないのに…麗くんのいない世界で…
あたしは…どうすればいいの…あたしは…誰のために…」
「グダグダうるせぇッ!!!」
健太が一層大きな怒号を上げ、咲良の肩を掴む手に更に力を込めた。
「麗、麗、麗って…何なんだよッ!!!
そりゃ、俺みたいな庶民にはわかんねぇことだってあるんだろうよッ!!!
でも、咲良の彼氏は俺だろうがッ!!!
もっと俺を見て、俺のこと考えろよッ!!!
四の五の言わず、俺のために生きろッ!!!」
「…はい……っ」
健太の勢いに気圧され、言葉の内容を理解する前に、反射的に返事が出た。
少し遅れてようやく内容を理解した時、かあっと頬が高潮した。
これではまるで、まるで――。
血の気が戻ったと同時に、咲良の視界が、すうっと広がった気がした。
色褪せていた世界に色が差し、自分を叱咤した健太と瑠衣斗の後ろには、心配そうに様子を見ていた紗羅、紗羅に支えられながら綺麗な顔をくしゃくしゃにして泣く高須撫子(女子十番)、紗羅に縋って涙を溜めた瞳を健太に向けていた鳴神もみじ(女子十二番)がいることをようやく認識した。
837 = 830 :
麗の死を知った瞬間、世界が終わったような気がした。
しかし、そうではなかった。
どうして忘れていたのだろう。
麗がこの世界の全てではなく、心配してくれる友人がいるということを。
そして何より――
「健太くん…ごめんなさい…ありがとう…
健太くんは生きていてくれて…良かった…」
麗とは違う、もう一人の特別な人。
その真っ直ぐさに心を奪われた、とても大好きな人。
ずっと会いたくてたまらなかった健太の存在までも、どうして忘れていたのだろう。
「咲良」
頬に、健太の手が触れた。
クラスの男子の中で最も小柄な身の丈に合った小さい、けれども男らしく骨ばった手が咲良の頬を優しく撫でた。
「俺こそ、怒鳴ってごめんな。
俺の見てない所で、いっぱい辛い目にも怖い目にも遭ったんだよな。
傍にいられなくて、支えてやれなくて、ごめんな。
生きて会えて、本当に良かった…生きててくれてありがと、咲良」
健太は先程までとは違う優しい声色でそう言うと、咲良を抱き締めた。
クラスの男子の中で最も小柄な健太と、女子の中では荻野千世(女子三番)に次いで大柄な咲良では、身体の大きさは咲良の方が上回っているため、残念ながら健太の腕の中にすっぽりと納まることはできなかったが、触れ合い伝わってくる温もりに、自然と涙が込み上げた。
「ちょ、ちょっと、咲良から離れなさい、この庶民…ッ!!」
「まあまあ、そう言わないであげなって、撫子。
あたしらのことお構いなしでプロポーズした勇気に免じてさっ」
「『俺のために生きろ』ね…僕は一生言わないだろうね、特に人前では」
「健ちゃん凄いねー! “ていしゅかんぱく”ってやつだー!」
「うるせぇっ!! 茶化すなっ!!!」
健太の胸に顔を埋めながら聞く、皆の声。
麗が大切にした人たち、麗が大好きだった場所。
そして、もちろん、咲良にとってもそれは同様で。
ああ、あたしは、健太くんやみんなを護りたい。
もうこれ以上、誰もいなくならないように。
麗の命は護ることはできなかったけれど、麗が大切にした人たちのことは…そして、あたしも大好きなみんなのことは、絶対に護らないといけない。
すぐにそのような方向に考えてしまうのは、代々主君を護るために生きてきた上野原の血が、咲良にも受け継がれているからなのかもしれない。
または、武道を嗜む自分こそが、その役目を負わなければならないという責任感なのかもしれない。
或いは、咲良にとって、自分が生きるための最後の理由だからなのかもしれない。
争うことも、傷つけることも大嫌い。
けれども、この状況ではそんな甘いことばかり言っていられない。
奨のことも、麗のことも護ることができなかった。
今度は、今度こそは、護り抜かなければ。
健太に抱き締められながら、今度こそはと決意した。
だから、だろうか。
ようやく僅かだが和やかになった雰囲気を切り裂き突如響いた銃声に対し、咲良は反射的に健太から離れ、皆の前に立ち、支給武器である特殊警防を構えた。
「撫子…みんなを連れて逃げて、お願いね?」
最も付き合いが長く共に祖父の下で武道に励んだ撫子に後を託し、皆の驚きや困惑の声を背中に受けながら、咲良は地を蹴った。
838 = 830 :
千葉県船海市立船海第二中学校の3年生は修学旅行にきていた。
コースは奈良・京都の定番。
それでも生徒たちはそれぞれ楽しんでいた。
しかし、もう修学旅行も今日で終わり。
今は帰り道の高速道路のサービスエリアに生徒たちが溢れていた。
もちろん、3年5組の生徒40人もそれぞれ休憩していた。
加賀光留(千葉県船原市立船海第二中学校3年5組女子3番)はトイレを済ませ、外の空気を満喫していた。
バスの中の臭いはあまり好きではない。
肩に届かない短い髪が、風に靡いていた。
「光留、お待たせ!」
「ねえねえ、ジュース買わない?」
トイレから出てきたのは、幼馴染の幸田真菜(女子5番)と中学生になってから出会った松田由梨(女子18番)だ。
3人はいつも一緒にいる仲良し3人組だ。
自動販売機の所には既に先客がいた。
茶髪に両耳に合計5つのピアス――所属する陸上部では県の記録を持つらしい因幡彰人(男子2番)だ。
光留は彰人のような派手な男子は好きではないので、会話を交わしたことはない。
「ほらほら、由梨、因幡くんだよっ」
真菜が由梨の耳元で囁き、肘で小突いていた。
由梨は顔を真っ赤にしている。
由梨の想い人だそうだ。
「い…因幡くんも…ジュース買うの…?」
由梨が勇気を振り絞って声を掛けていた、ナイスファイト。
彰人はにこっと微笑んだ。
好きではないが、かっこいいとは思う。
「バス酔いがいるからさ、冷たい物でもって思って。
俺も喉渇いたしさ。
…って1人で持てるかよ、手伝え!!」
後半は由梨に向けられた言葉ではない。
自動販売機の前にあるベンチの前にいた久保田篤史(男子5番)が溜息混じりにタラタラと歩いてきた。
「これくらい1人で持てよ、陸上部っ」
「陸上と関係ないだろ、サッカー部」
自販機占領しててごめんな、と彰人は由梨にもう一度笑顔を向け、ベンチの方へ向かった。
由梨がこれでもか、というほどに顔を赤くしていた。
真菜と由梨がジュースを買う間に、光留はベンチに目を向けた。
篤史は同じサッカー部仲間であり幼馴染でもある安藤悌吾(男子1番)にジュースを渡していた。
彰人が心配そうにジュースを渡したのは、まだ幼さを残している大塚豊(男子3番)と、その横に座っていた瀬戸口北斗(男子6番)。
豊はその可愛らしい顔を青ざめさせていたが、北斗は酔ってはいないらしい。
ちなみに光留は北斗もあまり好きではない。
肩まで伸びた茶髪に3つのピアス、トレードマークらしいバンダナを巻いている容姿は、やはり派手だ。
839 = 830 :
北斗は彰人から受け取ったジュースの缶を開け、横でしんどそうに座っていた相模晶(女子6番)にそれを渡した。
茶髪の長い髪を2つに束ねて耳には青いピアス、晶は学年1と謳われるほどの美少女だ。
しかし、ほとんど表情を変えない無口な晶には、光留を含めてクラスメイトたちはあまり近づかない。
近づくのは晶も入る幼馴染グループの北斗・悌吾・彰人・豊・篤史、そして晶の所属するバスケットボール部のメンバーくらいだ。
「ありゃー…晶ってばバス酔い? …あ、もしやゆたちゃんも?」
「……まどか……」
晶がやや青ざめた顔を上げた。
遠くから走ってきたのは、女子バスケットボール部のキャプテンである谷口まどか(女子8番)だ。
恐らく晶が心を許している唯一の女子だろう。
後ろには同じくバスケットボール部でややぽっちゃりした体型の白鳥里子(女子7番)と、ボーイッシュな野島美奈子(女子15番)を引き連れていたが、この2人はそこまで晶とは親しくないらしい。
「おーい、なぎさっ! 酔い止め持ってない?!」
まどかが叫んだ先には、クラスの副委員長である深森なぎさ(女子20番)と、なぎさの親友である津和野早苗(女子9番)がいた。
クラスの女子主流派グループのリーダー格の5人だ。
ちなみに光留たちも主流派グループに属している。
「持ってるけど…バスの中よ? 取って来ようか?」
「あ、あたし今持ってるよ?」
今まで様子を見ていた真菜が、取りに行こうとしたなぎさを引き止めて、自分のポシェットから薬を取り出した。
しっかりしている真菜らしい、光留は感心する。
「おい、どけ、邪魔だ」
光留は突然背後から聞こえたドスのきいた声にビクッと体を震わせた。
恐る恐る振り向くと、自動販売機にジュースを買いに来たらしい森嵩(男子18番)が光留を睨み下ろしていた。
慌ててその場を退く。
「嵩、あまり脅すな」
嵩を諭していたのは滝川渉(男子8番)。
2人は5組が誇る(いや、誇ってない)不良男児2人組だ。
特に渉は近隣の中学校にまで恐れられている、学校1の問題児だ。
関わりさえ持たなければ害はないのが救いだが。
「深森、向こうで大雪が探していた」
「え? あ、そうなの? ありがと、滝川くんっ」
無表情の渉に言われ、なぎさはにこっと笑んで走っていった。
渉に怯えるどころか笑顔を見せるなぎさに敬服。
本人に確認した事がないが、なぎさと嵩は従兄弟らしい。
それが真実なら渉に怯えないのも頷ける、慣れているのだろう。
ちなみに、大雪というのはクラスの担任の苗字だ。まだ若い女の先生で、やや愛国主義のきらいがあり、とっつきにくい人だ。
5組には女子にも問題児がいる。
今はバスの中にいるであろう東ちとせ(女子1番)と上総真央(女子4番)だ。
ちとせは渉と同じく関わらなければ無害だが、真央は機嫌が悪いと周りに当たってくるので恐ろしい。
840 = 830 :
男子トイレから出てきた手塚直樹(男子10番)が駆けてきた。
見た目も中身も15歳とは思えないほど老けているが、本人はさほど気にしていないらしい。
後ろからその親友である浜本謙太(男子14番)が追いかけてくる。
「違うよ、何か集まっちゃっただけ」
「あ、そうなの? …ん、そっちの少年とお嬢さんはバス酔い?」
直樹は光留からベンチに座っている豊と晶に目を向けた。
晶は溜息を吐き、すっと立ち上がった。
「…戻る」
「え、ちょ… 晶、待てって!!」
バスの方へ戻っていく晶を北斗が追った。
相模さんは人に囲まれるのは嫌いなのかな?、ぼんやりと考えた。
「あ、オレらもそろそろ戻ろうぜ、集合時間だ」
直樹の声に、一同はぞろぞろとバスに戻った。
「隣の人はいますかー!?」
委員長の戸坂竜一(男子11番)が声を上げた。
なぎさと一緒に点呼をとっている。
全員揃っていたらしく、バスは出発した。
光留の横では可愛らしいお嬢様、天道千夏(女子10番)が既にうとうとと眠りに落ちようとしていた。
あららら…千夏ってばそんなに眠いのかな?
まだバス出てないのに…
前に座る千夏の親友である戸田彩香(女子11番)と夏生初音(女子13番)のバレー部コンビは、それに気付いて少し声のトーンを落として(それでも大きいが)騒いでいた。
5組に存在するカップルは2組とも隣に座って談話をしている。
1組はバスケットボール部に所属しているとは思えない、クラス1ほのぼのとしている近原公孝(男子9番)と、女子のバスケットボール部キャプテンの谷口まどか。
まどかの元気いっぱいの声が聞こえ、時々公孝が笑っている。
もう1組は互いに陸上部である、二松千彰(男子15番)と淀野亜美加(女子21番)。
こちらは声は聞こえないが、時々笑っているのか頭が揺れている。
「ウノッ!! ウノウノウノウノッ!!」
「ちくしょう、かっちゃん、ドロー4出せ、ドロー4っ!!」
「…じゃあ、はい」
「うおぉ!! ちょっと待て、俺が4枚取らなきゃ…っ」
「隼人、バッカだなぁ!!」
後ろで騒いでいるのは、小柄ながら元気は1番である村尾信友(男子17番)、信友の幼馴染の西岡隼人(男子13番)、そしてそれに付き合っている山峡和哉(男子19番)。
その前で口論をしているのは、ソフトボール部でバッテリーを組んでいるはずの長谷川由子(女子16番)と服部和子(女子17番)で、それを仲裁役である三名川万世(女子19番)が止めようとしているが、のんびりしている万世には止められていない。
普段は亜美加と一緒にいるが今は万世の隣に座っている沼井千尋(女子14番)が、万世と一緒になって2人を宥めていた。
千尋と亜美加、千夏・彩香・初音も女子主流派グループに分けられる。
このクラスの女子はあまり細かいグループに分けられていない。
主流派だけで女子の過半数を超えている。
やや特殊なクラスと言えるだろう。
その横では中田智江子(女子12番)が大好きなゲームの話をしているようだったが、横にいる上田昌美(女子2番)は興味がない上にそれどころではなく、エチケット袋を片手にバス酔いと戦っていた。
前に目を向けると、クラス1大柄な加堂啓(男子4番)と、千夏と同じく裕福な家で育った園田茂樹(男子7番)が何かを話しているようだった。いつも一緒にいる2人だが、あまり仲良しに見えないのはどうしてだろう?クラスメイト全員をグループ分けするのなら、智江子と啓が同じゲーム部の部員なので、4人は一緒にいる事が多いので1つのグループと言えるだろう。その横では中森正樹(男子12番)と松浦亮介(男子16番)が並んで座っている。
841 = 830 :
因幡彰人(男子2番)はゆっくりと目を開いた。
頭が重い――これは寝すぎた時に起きる症状だ。
右手で頭を支えながらゆっくりと上げ、ぐるっと辺りを見回した。
クラスメイトたちも周りで自分と同じように机に突っ伏して眠っていた。
この並び方は、いつもの授業中の並びだ。
彰人の席は教室の真ん中に位置しており、教室全体の様子を把握しやすかった。
古ぼけた教室には見覚えが無い。
いつもの教室とは違う、机も椅子もこんなに古ぼけてはいなかったはずだ。
……って教室?
何で…確か修学旅行の帰りだったはずで…
半分寝ていた頭が完全に覚醒した。
何かがおかしい。
ここはどこだ?
どうしてこんな所で寝ていた?
そして――
息苦しい感じがしたので、彰人は自分の首に手をやった。
金属製らしい何かが巻きついていた。
首輪のようだった。
どうしてこんな物をつけている?
周りで寝ているクラスメイトたちの首にも、銀色のそれが巻きついている。
冗談じゃない、オレたちはペットかっての。
「ん……っ」
前で眠っていた相模晶(女子6番)の頭が上がった。
幼稚園に通っていた頃からの仲だが、あまり喋ってくれなかった。
そのため昔からあまり声を聞いた事はないが、たまに聞く声が可愛らしかった。
可愛い子だな、と思った。
彰人の初恋の人。
それが可愛いからきれいに変わったが、彰人の想いは変わらない。
片想い歴およそ10年、それなのに伝えられていない事が情けない。
「おはよ、晶」
晶は彰人に目を向け、それから辺りをぐるっと見回し、彰人に目を戻した。
「…おはよう、彰人くん……これはどういう事…?」
昔は何を言っても無視されるか、喋っても単語くらいだったのに、今ではちゃんと文章で声が返ってくる。
人見知りが異常に激しいらしいが、少しは心を許してくれたということだろうか?
「さぁ…俺も何が何だか…
でもあんま良い気はしないよな、首輪付けられて…」
晶は初めて気付いたのか、自分の首に手をやり、僅かに眉をひそめた。
あまりに自分に不似合いなそのアクセサリーに、気分を害したようだ。
徐々にクラスメイトたちが目を覚ました。
少しずつ教室が騒がしくなっていく。
「ここ、どこ?」
「バスに乗ってたんじゃなかったっけ?」
「ちょっとやだ、何よこの首輪」
「どうなってんだよ?」
教室内が騒がしくなっていく中、晶がガタンと音を立てて立ち上がった。
クラスメイトたちが不思議そうに晶に目を向ける中、晶はそれを気にしていない様子で前の扉に手を掛けた。
842 = 830 :
晶とは物心付く前からの幼馴染で、晶が最も心を許している瀬戸口北斗(男子6番)が不思議そうに立ち上がり、晶の方へ向かった。
彰人もそれについて行く。
「…開かない…」
晶の言葉に彰人と北斗は顔を見合わせ、扉に手を掛けた。
しかし、扉は全く開かない。
「何でだよっ!! 開けよ!!」
北斗が扉を足で蹴ったが、扉はそう易々とは壊れない。
後ろで同じように扉を開けようとする音が聞こえた。
廊下側(だろうな、ドアがあるんだから)の1番後ろの席に座っていた手塚直樹(男子10番)が、どうにかして扉を開けようとしているようだったが、無駄骨だったようだ。
「後ろも開きゃしねぇ!!」
直樹の言葉に教室がざわめく。
「ひかちゃん、そこ鍵開けろ!!」
「う、うん!!」
窓際の席に座って様子を見ていた久保田篤史(男子5番)が立ち上がり、後ろの席の加賀光留(女子3番)に窓の鍵を開けるよう指示した。
光留が鍵を開けたと同時に篤史が窓を開ける。
「な…何だよこれ!!」
篤史が何かを何度も叩いていた。
どうやら窓の外は鉄板か何かで塞がれているらしい。
密室。
異常事態であることは明らかだ。
教室内が更にざわめく。
「俺たち中3で、変な所に連れて来られた…と」
光留の後ろでクラスで1,2位を争うお調子者の西岡隼人(男子13番)が、いつもと変わらない調子の声を出した。
クラスメイトたちが隼人に目を向けた。
「これってプログラムだったりしてなー!
……なーんて…言って…みたり…して……」
冗談半分だったのだろうが、言葉に出して恐ろしくなったのだろう、隼人の声は徐々に小さくなっていった。
教室が静まり返り、クラスメイトたちは互いに顔を見合わせる。
プログラム――正式名称、『戦闘実験第六十八番プログラム』。
全国の中学校から任意に選出した三年生の学級内で、生徒同士を戦わせ、生き残った一人のみが、家に帰ることができる、わが大東亜共和国専守防衛陸軍が防衛上の必要から行っている戦闘シミュレーション。
大東亜の中学生で知らない者はいない、おぞましい制度。
それに選ばれたかもしれない――笑えない冗談だ。
「いやあああああああぁぁっぁぁああっ!!」
窓際の前から2番目、明るいバレー部員の夏生初音(女子13番)の甲高い悲鳴が教室に響いた。
前に座っていた親友の戸田彩香(女子11番)が必死に落ち着かせようとしている。
しかし、それを皮切りに次々とあちこちから悲鳴が上がった。
「バカか隼人!!
冗談は時と場合を考えて言え!!」
篤史の横で安藤悌吾(男子1番)が怒号を上げる。
隼人の横では幼馴染の村尾信友(男子17番)も隼人を責めていたが、隼人本人の耳には届いていないらしい――自分の言った事の深刻さに気付き、ガタガタと震えているだけだった。
「いやあっ!! 出して、ここから出してぇ!!」
廊下側では上田昌美(女子2番)と松田由梨(女子18番)が泣き叫びながら窓を叩いている。
どうやら廊下側の窓は開かないらしい。
「上田、松田、どいてろ!!」
3年5組の不良男子ペアの片割れ、粗暴な森嵩(男子18番)が自分が座っていた椅子を片手に叫んだ。嵩は椅子を窓に叩きつけた。
昌美と由梨が小さく悲鳴を上げた。しかし、窓は割れない。「何で割れねぇんだよ、ちくしょう!!」嵩が拳で窓を殴る。
当然だ、嵩は機嫌が悪くなるとしょっちゅう学校の備品(特に窓)を椅子で壊していたのだから。「落ち着け、嵩」嵩の相方、学校一の問題児である滝川渉(男子8番)の低い声が1番後ろの席から聞こえた。「落ち着けるかよ、プログラムだぞ!? ざけんな、死にたくなんかねぇし、殺しなんかできるかよ!!」
843 = 830 :
もちろん、女子不良ペアの2人――渉の横で眠そうに欠伸をする東ちとせ(女子1番)と、窓際から2列目の最後尾で無関心そうに頬杖をついている上総真央(女子4番)も十分に怖いが。
「…あ、誰か来るよ?」
由梨の前の席、クラス1ほのぼのしている近原公孝(男子9番)が、珍しく険しい表情を浮かべて言った。
教室内が静まり返った。
足音が聞こえる。
段々と近づいてくる。
そして――
扉が外から開かれ、3人の軍人が入ってきた。
その後から1人の女性がコツコツとハイヒールでわざとらしく音を立てながら入って来て、パンパンと手を叩いた。
「はァい、こんばんはぁv
皆、ちゃ?んと着席してくださいねぇvv」
キンキンする高い声。
赤いスーツに付いている桃印の記章から、政府の役人と見て取れた。
入り口付近にいた彰人は、4人を怪訝そうに見つめる晶と睨みつけている北斗を促し、席に着いた。
何となく、逆らってはいけないような気がした。
「あぁ!? 何だよクソババァ、誰だテメェ!!」
嵩が教室の後ろから叫ぶ。
女性はピクッと眉を動かし、内ポケットに手を突っ込んだ。
中から出してきたのは、拳銃だ。
バァン
銃声が鳴り響いた。
彰人は嵩が撃たれたのかと思い、慌てて後ろを向いた。
しかし、嵩は無事だった。
目を見開き、罵声の1つでも飛ばしてやりたいができなかったのだろう、口をパクパクとさせていた。
どうやら銃弾は天井に当たったらしい、穴が開いていた。
「えぇっとぉ、君は…森嵩君かなぁ?
今ここで死にたくなかったら、良い子にしてましょうねぇ?
あとぉ、アタシはこれでも20代よぉ、失礼ねぇ」
嵩が椅子を戻して座ったのを確認し、その女性は黒板に文字を書いた。
『坂ノ下愛鈴』、雑な字だ。
「今日から皆さんの担任になりましたぁ、『サカノシタ・アイリン』よぉv
いや?んv 我ながら可愛い名前v
844 = 830 :
西岡隼人(男子13番)の頭の中が、真っ白になった。
その手の中にいるのは、息絶えた幼馴染の村尾信友(男子17番)。
頭部に開いた穴から流れ出す紅い血や、灰色のゼリー状のモノが、信友の頭を支えている隼人の左手を汚していった。
何が起こったのか、わからなかった。
信友も、恐らく何もわからなかっただろう。
笑っていた次の瞬間には、撃ち殺されてしまったのだから。
「の、ノブちゃん……そんな……こんなことって……ッ!!」
戸田彩香(女子11番)が、両手で口を押さえた。
その場に力なく座りこみ、嗚咽交じりに呟いた。
「何で…何で……誰が……――」
銃声。
隼人の横にいた、彩香が弾かれたようにその場に倒れた。
隼人は、ゆっくりと彩香の方を見た。
彩香が頭部を押さえて、呻き声をあげている。
押さえる指の間からは、血。
信友から流れるのと、同じ。
「ったぁ……ッ」
彩香は地面をしばらく転がって、痛みを訴えていたが、隼人の視線に気付くと、弱々しく笑みを浮かべた。
押さえていた手を離した。
「頭の上…掠っただけみたい…
なんか……すっごい痛いけど……ッ」
隼人は見た。
彩香が手を離したところからは、真っ赤な血が溢れていた。
その奥に、白い物が見えた。
骨、だろうか。
隼人の思考が、徐々に働き始めた。
信友を失った悲しみよりも、怒りが湧いてきた。
…許さねぇ……
こんな…こんなに戦う気の無い俺らを攻撃するヤツを……
あやに怪我させたヤツを…
ノブを殺したヤツを…
「出て来い…誰だよ…ッ!!」
隼人は声を絞り出した。
それに反応して、茂みががさっと音を立てた。
現れた人物に、隼人は言葉を失った。
「……は…つね……」
彩香が、魂の抜けたような声を出して、その名を呼んだ。
朝日を浴びて黒く光る自動拳銃(トカレフTT33)を携え、小刻みに震えている少女は、夏生初音(女子13番)――隼人の想い人だった。
いつもの明るさの欠片も感じさせず、大きな瞳は怯えて揺れていた。
初音のチャームポイントの1つであるウェーブが掛かった髪は、ぼさぼさになり、ふっくらとしていた頬はこけていた。
845 = 830 :
ほんの数時間前のやりとりが思い浮かんだ。
浜本謙太(男子14番)たちに言った言葉。
信友に励まされた言葉。
そう、俺の好きな人は、はっちゃん。
何でって?
あの明るいところとか、可愛いところとか。
よくわからない、気が付いたら、好きだと思ってた。
好きなのか?
はっちゃんのこと、今も。
好きなのか?
ノブを殺したのに…?
…もう、好きじゃない――
隼人は、プログラムが始まって以来初めて、支給されたアタリ武器であるシグ・ザウエルP230を右手に持った。
それを見た彩香が、隼人の足を掴んだ。
「ちょ…アンタ、何しようとしてんの!?
アンタ、初音のこと、好きなんじゃ――」
「好きじゃない、もう」
自分でも驚くほど、冷たい声が出た。
その声に、彩香も一瞬呆けて手の力を緩めたが、すぐに先程よりも強く隼人の足を掴み、にじり寄った。
「何、それどういうこと!?」
「どういうもこういうもあるかよ!!
幼馴染殺した女を好きでいろって?!
無理に決まってんだろうがっ!!」
隼人はそう怒鳴ると、ずっと抱えていた信友の亡骸を地面に下ろし、彩香の手を振り払って立ち上がった。
初音が一歩後ずさった。
隼人は一歩進み、シグ・ザウエルを構えた。
その表情には、いつものやんちゃさはなかった。
「はっちゃん…好きだったよ、少し前まで」
少し間を置き、初音を睨みつけた。
「今は、憎くてたまらない」
「待ってよっ!!」
彩香の叫びが下から聞こえた。
そんなに叫ぶと、傷に障るだろうに。彩香は立ち上がり、隼人と初音の間に割り込んだ。そして、隼人の方を向き、両手を広げた。「させない…初音を殺させない…っ!! 初音はあたしの幼馴染なんだよっ!! アンタならわかるでしょ!?
今の、あたしの気持ちが…っ!!」
隼人の、シグ・ザウエルを持つ手が、ぴくっと震えた。友達を失う気持ちは、わかる。痛いほどわかる。今、体験させられているのだから。俺が、はっちゃんを撃つと、あやが俺と同じ思いをする…隼人の頬を、一筋の涙が伝った。幼馴染を失った悲しみと、護れなかった悔しさと、初音に対する憎悪と、今の思いを彩香にさせてもいいのかという戸惑いが入り混じった涙だった。「うぁ…ああああぁぁぁっぁぁぁっぁあっ!!」
隼人は絶叫した。
息が続く限り。
叫ばずにはいられなかった。
この渦巻く思いを抑えるためには。しかし、その叫びは、初音を錯乱させた。同調するように、初音が悲鳴を上げた。
そして、弾を撃ち尽くすまで、トカレフの引き金を引き続けた。『まぁ、“なるようになる”っしょ』初音のトカレフが吐き出した弾は、彩香の体を貫通し、その先にいた隼人の体も抉っていった。ある弾は大切な血管を傷つけ、またある弾は大切な器官を傷つけた。隼人と彩香は、その場に倒れた。こんな風にしか、ならないのかよ、ちくしょうめ――
隼人の世界が、暗転した。まだ銃口から硝煙を吐き出しているトカレフを握り締めたまま、初音は激しく肩で息をした。死にたくない死にたくない……目の前には、3つの死体。それが誰なのか、初音にはわからない。初音は、発狂していた。あちこちで聞こえる銃声。放送のたびにされるカウントダウン。命を狙われているという極限状態。それら全てが、初音の精神を破綻させた。これで死なない、まだ死なない、まだ生きていられる……「初音…?」後ろから声を掛けられ、初音はゆっくりと振り返った。そこにいたのは、初音の親友である天道千夏(女子10番)だった。千夏はほっと息を吐き、笑みを浮かべた。「初音…大丈夫だった? 今、こっちの方からピストルの音とか悲鳴とか聞こえたから――」
846 = 830 :
天道千夏(女子10番)は、四つん這いになり、崖下を見下ろした。
崖に激しく波が打ちつけている。
時々姿を見せる岩の上に、夏生初音(女子13番)の姿が確認できたが、次の瞬間には姿は消えていた。
波に飲み込まれてしまったようだ。
「初音…初音ぇ…ッ!!」
「危ないわ」
崖下に手を差し伸べようとした千夏の体を、相模晶(女子6番)が後ろから抱きとめた。
その手を払おうとしたが、叶わなかった。
晶は細身だが、バスケットボール部で鍛えているだけあって、力は強かった。
「いなくなっちゃった…初音…いなくなっちゃった…っ!!
まだ海は冷たいのに…あぁ……っ!!」
いつも元気いっぱいだった初音。
背丈は千夏よりもあるのに、子どものように天真爛漫で、いるだけで周りの人を元気にしてくれる力のある人だった。
それなのに、もう、いない。
崖から落ちてしまった。
その亡骸に縋ることすらできない。
そして、その初音が、千夏に銃を向けた。
それだけでない。
あの状況から察するに、初音は3人も殺害した。
1人は西岡隼人(男子13番)。
初音とよく似た、クラスを盛り上げるタイプの男子。
小学生をそのまま大きくしただけ、とも言われるほどの底抜けの明るさとやんちゃさを持っていた。
野球部に所属していたらしいが、その姿を見たことはあまりない。
隼人の怒鳴り声や咆哮が聞こえた。
その直後に初音の悲鳴が聞こえ、銃声が鳴り響いていた。
隼人が襲いかかろうとしたのかもしれない。
真偽の程は定かではないが、胴体にいくつもの穴を開けて倒れていて、その加害者が初音であることは、疑いようもない事実だ。
1人は村尾信友(男子17番)。
隼人と幼馴染だという、千夏と身長が変わらない程に小さな男の子。
羨ましいほどに人懐っこく、あの不良少年の森嵩(男子18番)を相手にしても、怯んでいない(嵩はそんな信友に苛立っていたようだが)。
隼人と同じく野球部に所属していて、エースらしい。
千夏の知るところではないが、最初に騒ぎに気付くきっかけになった銃声は、信友の命を奪った銃弾の放たれた音だった。
頭部に穴を開け、その下の地面には小さな血の池ができていた。
その死に顔は、笑顔を浮かべているようにも見えた。
そして、1人は戸田彩香(女子11番)。
初音の幼馴染であり、千夏の親友の1人。
どこにいても聞こえそうなほどの大声の持ち主で、いつもその声で笑っては、周りからうるさいと言われ続けていた。
初音に負けず劣らず元気な女の子だ。
しかし、その彩香は頭部に穴を開け、隼人の上に折り重なって倒れていた。
左よりのポニーテールとピンクのボンボンがあるからこそ、それが彩香だということがわかった。
その加害者も、おそらく初音だ。
初音と彩香、2人は千夏にとって1番の親友だった。
それなのに、彩香は初音に殺害され、初音は崖から落ちて命を絶った。
親友が、あっという間に、この世から消えた。
「いなくなっちゃった……いなくなっちゃったよ……
あたしだけ残して……ひどいよ……っ」
人見知りの激しい千夏にとって、数少ない心許せる人たちだった。
それなのに、2人とも、まともな会話も交わすことなく逝ってしまった。
千夏だけを残して。
…ひどいよ……もっと一緒にいたかったのに……
「…あたしも…連れてって……ッ!!」
崖の方へ手を伸ばそうとする千夏を、晶が力一杯引っ張り、反対側へ突き飛ばした。
「駄目よ」
千夏が顔を上げると、傾きかけた陽に照らされた晶の顔が見えた。
静かだが、威圧する何かを感じた。
「駄目よ」
晶はもう一度言った。
潮風が吹き、晶の長く美しい髪が輝き靡いた。
凛とした姿、声。晶とはどこか似ているところがあると思っていたけれど、これだけは全く似ていない。幼馴染を失っても、しゃんと立っているその姿は、真似できない。
848 = 830 :
姉のように思っているだけだ。
そのなぎさが、他の男に惚れている。
妙にむしゃくしゃしていた。
「…焼きもち?」
「な…ちが…ッ!!」
なぎさの言葉に、嵩は叫び、煙にむせて咳き込んだ。
しばらく咳き込んだ後に見上げると、そこにはなぎさの笑顔があった。
「ばっかだなぁ…
嵩はあたしの弟のような従弟、それは絶対に変わらないの。
アンタのことも大好きよ、嵩」
「なぎさ……」
不覚にも、泣き出しそうだった。
きっと、心の中ではなぎさを取られるのが嫌だったのかもしれない。
まさに、姉を取られる弟の心境と同じだ。
うっわ、マジ恥ずい……
「い、行くぞッ!!」
「はいはい」
照れ隠しなど、なぎさにはばれている。
それが更に恥ずかしさを増長させた。
慎重に歩き続けて20分程経っただろうか。
目の前には、予想していたよりも大きい灯台。
「灯台…生で見るとこんなに大きいんだぁ…」
なぎさが感心したように呟いた。
嵩も声には出さなかったが、生まれて初めて見る生の灯台に、小さな感動を憶えていた。
白い塗装があちこち剥げて錆びているが、船たちにとっては大切な道標なのだろう。
「…って見とれてる場合じゃねぇな。
なぎさ、とっとと中入んぞ…
――ッ!!」
嵩は、喧嘩については恐らくクラス1経験豊富だ。
その経験からか、人の気配には敏感だった。
全身でそれを感じ取ることができるのだ。
漫画のような話だが、殺気を放つ者ほど、その存在がわかりやすい者はいない。
身の毛がよだった。
全身が感じ取り、頭が警鐘を鳴らした。
…狙われてるっ!!
「なぎさ、伏せとけッ!!」
嵩は振り返りざまに、銀色に光る自動拳銃(グロック19)をベルトから抜き、構えた。
いつでも撃てるように、人差し指に力を少し込めて。
しかし、それを撃つことはなかった。
指の力が緩まった。
プログラムが始まって何本目かの煙草が、口から落ちた。
…マジで……?
「…嵩と…深森…?」
相手が僅かに驚いた様子で、名を呼んだ。
嵩のことを下の名前で呼ぶのは、家族以外では2人だけだ。
1人はなぎさ、そしてもう1人は――
「渉……ッ」
嵩の憧れの対象であり、なぎさの想い人であるクラスメイト――滝川渉が、そこにはいた。
849 = 830 :
姉のように思っているだけだ。
そのなぎさが、他の男に惚れている。
妙にむしゃくしゃしていた。
「…焼きもち?」
「な…ちが…ッ!!」
なぎさの言葉に、嵩は叫び、煙にむせて咳き込んだ。
しばらく咳き込んだ後に見上げると、そこにはなぎさの笑顔があった。
「ばっかだなぁ…
嵩はあたしの弟のような従弟、それは絶対に変わらないの。
アンタのことも大好きよ、嵩」
「なぎさ……」
不覚にも、泣き出しそうだった。
きっと、心の中ではなぎさを取られるのが嫌だったのかもしれない。
まさに、姉を取られる弟の心境と同じだ。
うっわ、マジ恥ずい……
「い、行くぞッ!!」
「はいはい」
照れ隠しなど、なぎさにはばれている。
それが更に恥ずかしさを増長させた。
慎重に歩き続けて20分程経っただろうか。
目の前には、予想していたよりも大きい灯台。
「灯台…生で見るとこんなに大きいんだぁ…」
なぎさが感心したように呟いた。
嵩も声には出さなかったが、生まれて初めて見る生の灯台に、小さな感動を憶えていた。
白い塗装があちこち剥げて錆びているが、船たちにとっては大切な道標なのだろう。
「…って見とれてる場合じゃねぇな。
なぎさ、とっとと中入んぞ…
――ッ!!」
嵩は、喧嘩については恐らくクラス1経験豊富だ。
その経験からか、人の気配には敏感だった。
全身でそれを感じ取ることができるのだ。
漫画のような話だが、殺気を放つ者ほど、その存在がわかりやすい者はいない。
身の毛がよだった。
全身が感じ取り、頭が警鐘を鳴らした。
…狙われてるっ!!
「なぎさ、伏せとけッ!!」
嵩は振り返りざまに、銀色に光る自動拳銃(グロック19)をベルトから抜き、構えた。
いつでも撃てるように、人差し指に力を少し込めて。
しかし、それを撃つことはなかった。
指の力が緩まった。
プログラムが始まって何本目かの煙草が、口から落ちた。
…マジで……?
「…嵩と…深森…?」
相手が僅かに驚いた様子で、名を呼んだ。
嵩のことを下の名前で呼ぶのは、家族以外では2人だけだ。
1人はなぎさ、そしてもう1人は――
「渉……ッ」嵩の憧れの対象であり、なぎさの想い人であるクラスメイト――滝川渉が、そこにはいた。
850 = 830 :
進藤幹也(担当教官)が大声で叫んだ。
後ろの方ではガタガタと席に着く音が聞こえるが、前の方ではほとんどが立ち尽くしていた。
設楽海斗(男子10番)は曽根崎凪紗(女子10番)を抑えたまま、呆然と栗原佑(男子7番)の死体を見つめていた。
信じられない。
佑が、死んでいる。
目の前で。
海斗は一緒に凪紗を抑えていた不破千尋(男子17番)の方を見た。
千尋は瞬きもせず、佑の方を凝視していた。
涙はないが、ショックを隠せないでいる。
いつも、4人一緒だった。
互いの足りない部分を補い合っているような、そんな関係だった。
そのピースが、1つ欠けた。
「…凪紗、座ろう。 千尋も、大丈夫か…?」
海斗は2人に声を掛けた。
千尋は今までに見せた事のないような呆然とした顔で、海斗を見た。
「…千尋?」
「あぁ…うん、大丈夫…」
千尋はずれかけた眼鏡の位置を直し、自分の席に腰掛けた。
海斗は、もう一度凪紗に声を掛けた。
しかし、凪紗は何も言わない。
聞こえてすらいないようだった。
海斗は凪紗に腰を下ろさせ、自分もその前に座った。
佑の顔が、よく見える。
怒りに満ちたその目は、天井を睨んでいた。
全員が、座った。
机の大部分が佑の血で汚れた池田圭祐(男子3番)の顔は青ざめていた。
進藤は佑の死体には目もくれず、話し始めた。
「わかったかな? 首輪はこうなってしまうんだ!!
えっと…地図の話だったかな?
君たちに配る地図は、100マスに分けられているんだ!!
例えばここ、中学校はD=04エリア、という風になっている!!
そして、6時間ごとに定時放送を行う!!
その時に、禁止エリアというものを言うからな!!
時間になってもそこにいる死んだ者はそのまま…
だが、生きている者は、電波を送って…ボン!!
栗原君のようになってしまうから、注意しような!!
あと、怪しい行動を起こしても、こっちから電波を送る!!
首を飛ばされたくなければ、頑張って殺し合おうな!!」
突然、後ろの方で誰かが呻き声を上げた。
吐瀉物が床にぶちまけられる音がした。
それを聞いて、またどこかで誰かが呻き声を上げた。
それの臭いと佑の血の臭いが、教室を満たしていた。
気分が悪い。
最悪だ、すべて最悪だ。
「さあ、何か質問はあるかな!?」
「…どうしても、しないといけないんですか?」後方から聞こえた声は、稲田藤馬(男子4番)のものだった。何人かが頷いた。しかし、進藤は希望を打ち砕いた。「しないといけないぞ、もう決まった事だ!!」予想通りの返事だ、捻りも何もない。「どうして…何でオレらなんですか…?」いつも穏やかな柚木康介(男子19番)が、泣きそうな声で言った。「これは、厳正な抽選の結果だ、君らの運が良かったんだな!!」悪かった、の間違いだろうが。こんなもの、嬉しがるヤツなんかいるはずがないだろう。「よし、そろそろ出発だ!! あ、私物は自由に持っていっていいぞ!! その前に、皆机の中から紙と鉛筆を出したまえ!!」海斗は机の中を漁った。中からは新品らしい鉛筆と小さな紙が出てきた。「はい、それに次のことを3回ずつ書こう!! 『私たちは殺し合いをする』、はい!! 『殺らなきゃ殺られる』、はい!!」
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