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    元スレ士郎「人の為に頑張ったヤツが絶望しなきゃいけないなんて間違ってる」ほむら「……」

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    タグ : - Fate + - クロスオーバー + - 衛宮士郎 + - 魔法少女まどか☆マギカ + 追加: タグについて ※前スレ・次スレは、スレ番号だけ登録。駄スレにはタグつけず、スレ評価を。荒らしタグにはタグで対抗せず、タグ減点を。
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    701 = 697 :

    柴原の引退セレモニーは、まさに笑いあり涙ありってイベントでしたね
    井口がホークスナインに混じるというサプライズもありましたし
    でもショートに鳥越コーチをするなら、ライトかセンターで秋山監督もやればよかったのに

    >>688
    冬はクリームシチューがいいですよね
    夏はカレーがいいですが

    >>691
    擦り傷切り傷痣包帯っていいですよね
    カレンがその体で教えてくれました

    >>692
    来ればいいですよね、ホント

    >>693
    私もそう思いますよ、まったく

    >>698
    ハイライトまでチョコで描き込むのは無理かなー、という判断で目に死んでもらいましたが、それ以前の所で力尽きただけだったとさ、まる

    >>699
    なんかうまくいかないんですよ
    本でも買って、ちゃんと基礎を勉強すべきなのかなあ?

    それでは投下します
    13日目~絶望(理想)の果て

    702 = 697 :

    ワルプルギスの夜まであと5日


    「ん―――」

    目が覚める。
    辺りを見回すと状況は一昨日の朝と一緒。
    用意された朝ご飯。押し入れの奥から聞こえる寝息。
    そして報告書という名のプリンタ用紙。

    「――――!」

    そこに書かれた言葉に見逃せない物があった。
    さやかの痕跡の発見。

    「やはり、見滝原を出てたのね……」

    面倒は面倒だけど、そう断定されれば見滝原で探す必要がなくなるだけ楽にはなる。

    「いや……そうじゃない」

    現在さやかは、衛宮さんを避けるように行動している筈。
    次に見つかった時、助けが来る保証なんてないのだから。
    故に彼が住居としている私の家がある見滝原を出ていくのは道理と言える。
    でも、衛宮さんが隣街に拠点を作った事を、もしさやかが知っていたら……。
    道理は覆り、話は180度逆転する。
    そうなると彼女にとっての安全圏はこの街だ。

    「……結局、状況は同じなのかしらね」

    ならばあちらは衛宮さんに任せて、私は見滝原に専念しよう。

    「さて、学校の仕度をして、ご飯にしましょう」

    703 = 697 :

    ―――昼休みの屋上。
    まどかに呼び出され、私はそこに居た。
    今のまどかの関心なんてひとつだけしかない。
    美樹さやかの行方。
    その報告の為に呼ばれた訳なのだけど。

    「――――」

    「…………」

    なんというか、まどかの目が怖い。
    空気も重い……。

    「えっと、土曜の晩に美樹さやかと接触は出来たわ。
     でも、あと少しのところで佐倉杏子の妨害に遭って、取り逃がしてしまったの」

    「言い訳はいらないよ、ほむらちゃん。
     それで?」

    「…………」

    前言撤回。
    何から何まで怖い。
    人間、フラストレーションが溜まるとここまで迫力があるものなのかしら。
    それとも、普段おとなしい人ほど怒ると怖いの法則か。

    「日曜日は本人を見つける事は出来なかったけど、夜中に衛宮さんが彼女の痕跡を発見したそうよ。
     場所は隣街のコンサートホール」

    「コンサートホール……あそこだね」

    美樹さやかの影響か、まどかもホールについては見当があるようね。
    尤も、そんなあちこちにあるような物でもないし、
    一度でも行ってるならその存在を忘れたりしないでしょうけど。

    「はい。昨晩の衛宮さんの報告書よ。
     詳しい事はここに書いてあるわ」

    四つ折りにされたプリンタ用紙をまどかに渡す。
    それを受け取るとまどかはじっくりと読み込む。
    何か自分なりに情報を解析しているかのような仕草。
    終わり次第、いつでも飛び出してしまいそうな雰囲気がそこにはあった。

    ……いい加減彼女を連れ戻せないと、ふたつの意味で時間切れになる。
    ひとつはまどかの我慢の限界がくるまでの時間。
    もうひとつは美樹さやかのが限界を迎えるまでの時間。
    そのどちらが切れてもろくな事にならない。
    今日のうちに達成出来るといいのだけど……。

    704 = 697 :

    隣街から更に隣。
    際限なく広がる捜索範囲。
    それらを駆け巡るうちに日は沈み、夜も更けていた。
    一旦拠点として構えたコンサートホールに戻り、時計を確認する。
    短針の現在地は10と11の間。
    だいぶ時間にばらつきのある我が家の晩飯ではあるが、流石に遅すぎである。

    「……まずったな。ほむら、ちゃんとメシ食べたんだろうか?」

    ご飯はセットしておいたし、残り物もある。
    飢える事はないだろうけど、相手がほむらなのだ。
    俺が来るまでの食生活を考えると、なかなか安心出来たものではない。

    「まあ、今の俺が言っていい事じゃない気もするケド」

    そう呟き、バッグからほむらの出鱈目な食生活の象徴を取り出した。
    晩飯は帰ってからちゃんと食べるとして、もうしばらく頑張る為のエネルギー補給だ。

    「食事に時間をかけられない戦場においてはこれ以上の物はないんだろうけど」

    問題は致命的に旨くない。
    マズいとまでは言わないが、決して旨くはない。
    折角そこに豊富な食材があるのだ。
    そんな状況でこんなのばっか食べるのは、絶対に損をしている。

    「さて、と」

    時計は11時を指した。
    腹も少しは膨れた。
    ゆっくりしてる程の余裕はない。

    「行くか」

    再び歩き始める。
    もういい時間になったので、人なんて全くと言っていいくらいに居ない。
    同時に視界に入るのも、多くて2人というとこだ。
    神経を尖らす必要などなく、むしろ人と顔を合わせる為に足を動かす方に専念する。

    705 = 697 :

    「ん―――?」

    目に入る桃色の髪。
    ここに居てはならないヤツが、その公園には居た。

    「―――投影、開始」

    ベンチに座る少女。
    その傍らには白き契約者。
    何やら話をしているようだが、そんなの俺には関係ない……!

    「ハッ―――!」

    黒鍵の投擲。
    鈍く銀色に輝くその刃はまっすぐと闇を切り裂き。

    「きゃっ」

    少女の目の前に突き刺さった。

    「約束が違うんじゃないか、鹿目?」

    ベンチへと歩いていく。
    鹿目とインキュベーターの会話は中断され、互いに向けていた意識は俺に注がれた。

    「……約束が違うのは衛宮さんもです。
     さやかちゃんが居なくなって、もう4日も経ってます」

    「…………」

    返せる言葉がない。
    美樹を連れ戻す約束で鹿目にはおとなしくさせてたのだ。
    現に美樹を連れ戻せてない以上、その約束になんの強制力もない。
    だが。

    「おまえが美樹を心配するように、おまえの家族も今頃おまえを心配してるんじゃないのか?」

    「…………」

    だが、これだけは確かな事の筈だ。
    年頃の娘が夜中に居なくなったのだ。
    これを心配しなかったら親じゃない。

    「それとも、おまえの親はおまえの事なんかこれっぽちも大切に思ってないヤツらだとでも?」

    「……そんな事、ない」

    挑発に対し、弱々しくも反論する鹿目。
    基本的に心優しい子なんだ。
    この方向で攻めるのが最も有効なのだろう。

    「なら、おまえは家族の気持ちも考えない親不幸者なのか」

    「うぅ……」

    そんな事ない、と再び言いたいのだろう。
    でも現実としてそういう事をやってしまってるのだから、鹿目も反論が出来ない。

    706 = 697 :

    「いいか、おまえがこんな事するだけで、ご両親は凄く心配するんだ。
     まして、魔法少女になるなんて論外だ」

    「…………」

    鹿目が俯く。
    とりあえずは説得は出来そうか。

    「それなら誰にも心配されないように契約すればいいじゃないか」

    「あんま巫山戯た事ぬかしてると剥製にするぞ、テメエ!」

    訳が解らないよ、だなんて言って立ち去る悪魔。
    いちいちカンに触るヤロウだ。

    「ったく……。
     なあ、鹿目。俺は美樹にも鹿目にも幸せでいてほしい。
     当然、ほむらにも」

    「うん……」

    「だから、十分に幸せなヤツにわざわざ不幸にならないでほしい。
     ……頼む」

    「はい……」

    渋々といった感じだけど、了承してくれたようだ。
    あとはもう一度、彼女の期待に応えられるように尽くすとしよう。

    「……ありがとう。
     ほら、帰るぞ、かな―――!?」

    突如発生した魔力の奔流。
    魔力の感知が苦手な俺でさえはっきり感じ取れる程の強さ。
    その発生地は見滝原の方。
    そして、発生源は―――。

    「美、樹…………?」

    「! さやかちゃんに何が!?」

    何があったか、だと……?
    そんなの、俺の方が訊きたい。
    美樹が絶対に持ち得ない筈の大きさだが、紛れもなく美樹の魔力だ。
    その矛盾の正体に皆目見当がつかない。
    ただ確かなのは、美樹の身に何かがあったという事。
    ならば、俺のすべき事は―――!

    「行くぞ、鹿目! 美樹の、元へ……!」

    707 = 697 :

    Interlude


    深夜の駅。
    オートメーション化が進んだそこは、売店さえ閉まれば完全な無人の世界だ。

    「―――間もなく、3番ホームに電車が参ります」

    誰に聞かれる事もないアナウンス。
    その数十秒後、本日最後の電車が着いた。
    時間帯のせいもあり、乗客は殆ど居ない。
    故に、下車したのがただ1人の少女だけであっても、何もおかしくはない。
    そこにおかしい事があるとすれば、少女が“少女である事”その事ぐらいだ。

    少女の名は美樹さやか。
    街さえ寝静まった時間に現れた彼女だが、断じて非行少女などではない。

    ただ、彼女は逃げていただけなのだ。
    それは親友から。
    それは憧れる師匠から。
    それは受け入れたくない現実から。

    ただ、彼女は戦っていただけなのだ。
    それは敵と。
    それは醜い感情を持ってしまった自分自身と。
    それは決して逃れる事の出来ぬ現実と。

    その果てにさやかの心は屈し、立ち上がる力さえも失ってホームのベンチに座り込んだ。

    「……やっと見つけた」

    佐倉杏子がそこに現れた。
    いつも何かを口にしている彼女が、珍しく何も食べていない。

    「……今までどこ行ってたのよ」

    少し遅れて現れる巴マミ。
    ほっ、と安堵の溜息をこぼし、さやかの隣に腰掛ける。

    「ごめん、2人とも。手間かけさせちゃって」

    さやかが謝る。
    それは素直すぎるくらいに淡々としていて、彼女の持ち味の快活さはない。

    「どうしちゃったの? 貴女らしくないわよ?」

    「うん、なんかさ、あたしが何なのか分からなくなっちゃって」

    虚ろな目をしたさやか。
    そこにはもはや何も映っておらず、杏子とマミの不安が煽られる。

    「正義の味方になろうとしたけど、何が大切で、何を守りたかったのか……。
     もう何もかも、わけ分かんなくなっちゃった……」

    「おい……!」

    「美樹さん、それ……」

    708 = 697 :

    握りしめていた手を開くさやか。
    その中には微かな輝きさえも失った、真っ黒に染まったソウルジェムがあった。

    「希望と絶望のバランスは差し引きゼロだって……いつだったか、あんたが言ってたよね……。
     今ならそれ、よく解るよ」

    禍々しさを帯びたソウルジェムを見つめながら、さやかは語る。

    「確かにあたしは、何人か救いもしたけどさ。
     だけど、心のどこかで見返りを求めてた自分に嫌気がさしてって、
    1番守りたかった友達さえ傷つけて……」

    「さやか、アンタまさか―――」

    「分不相応の奇蹟を願った分、それだけの絶望を撒き散らす……。
     あたしたち魔法少女って、そういう仕組みだったんだね」

    「ダメ、美樹さん―――!」

    どんなに声を掛けても、誰の声もさやかには届かない。
    ただ、これから自身に起こる事を悟って、静かに涙をこぼした。

    「あたしって、ほんとバカ……」

    ソウルジェムがひび割れ、グリーフシードと化す。
    続けざまに孵化して、強大な魔力の奔流が発生した。

    「ぐぅっ―――」

    「きゃっ―――」

    2人の少女の体が吹き飛ばされる。
    手を伸ばしかろうじてそれを止めた杏子。
    対して、不意の出来事にそのまま吹き飛ばされたマミ
    マミの体は柱に打ちつけられ、更に魔力に流されていく。

    「さやかぁぁッ!!」

    力なく地に転がるさやかの体へ杏子が叫ぶ。
    だが、そこまでだった。
    片手の握力を失っている杏子に、大きすぎる魔力に堪えきれる筈もなく。

    「がああぁぁぁぁ――――――」

    体を支えていた手は離れ、マミと同じ運命を辿っていった。
    そして、後に残ったのはたた一つ。

    「■■■■■■■■■」

    人魚の姿をした、双剣の騎士だけだった。


    Interlude out

    709 = 697 :

    「――――!」

    今のは美樹さやかの魔力……。
    彼女の魔力がこんなに強く放たれるなんてあり得ない。
    でも、それが起こったという事は……!

    「行かなきゃ……!」

    時間を止めながら、出来る限り速く駆ける。
    目指す場所は魔力の発生地である駅。

    「はっ、はっ、は―――はぁ、はっ」

    交互に切り替わる生きた世界と死んだ世界。
    死んだ世界で動けるのは私ひとり。
    故に私の走行速度は体感時間よりずっと速く―――。

    「はぁ、は、はっ、はぁ―――あと、もう、ちょっと」

    駅の前までやってきた。
    このままラストスパート。
    中に入り、改札を飛び越え、階段を駆け登る。
    ホームに入り、そのまま結界に飛び込む。

    「! 佐倉杏子! 巴マミ!」

    敵対勢力である2人が倒れていた。
    大方さっきの魔力で吹き飛ばされた、というところね。
    しかし。

    「やっかいな事になったわね……」

    気を失った人ふたりを庇いながら戦うなんて、私には不可能。
    いえ恐らく、衛宮さんにだって難しいでしょう。
    とりあえず今は撤退ね。

    「これでも食らいなさい!」

    「■■■■■■■■■――――」

    美樹さやかだったモノに爆弾を投げつける。
    怯んでいる隙に2人を回収して―――。

    「重っ……」

    意識のない人を運ぶのは大変だというけど、それが2人。
    1人なら抱きかかえる事が出来ても、2人だと両脇に抱える事しか出来ない。
    しかも、佐倉杏子の方は私より背が高いし髪も長い。

    「ぐっ、ふぅ―――はぁ……」

    止まった時間の中、線路の上を走る。
    その速度は徒歩に毛が生えた程度。
    魔法少女だと言っても、元々体力のない私に、自分の体重の倍の荷物は、きつ、い。
    でも、時間を止めてられるうちに、どうにか、脱出しな、きゃ……。

    「はぁ……くぅ、ふぅ、は―――ひぃ、ふ…………。
     や、やっと、結界を」

    抜けられた……。
    あと少し、安全なとこまで―――。

    710 = 697 :

    「……………………ふぅ」

    ようやく肩の荷が降りた。
    物理的な意味で。

    「おい、ほむら! 何があった!?」

    一難去って、また一難。
    衛宮さんがまどかをおぶって、やってきた。
    まどかはともかく、衛宮さんにはごまかしたい。
    魔法少女が魔女になるなんて知られたら―――。

    「あ、痛ぅ……」

    一難去る前にまた一難。
    佐倉杏子が目を覚ましてしまった。

    「おい、さっきのは!? さやかはどうなった!?」

    そのまま胸倉を掴まれ、問い詰められる。

    「ほむら!」
    「ほむらちゃん!」
    「ほむら!」

    逃げ道はなし。
    もう、隠し通す事は、出来ない―――。

    「……彼女のソウルジェムはグリーフシードに変化した後、魔女を産んで消滅したわ」

    まどかが凍りつく。
    杏子の手から力が失われる。
    衛宮さんが目を剥き、絶句する。

    「……嘘、だよね?」

    「事実よ。それがソウルジェムの最後の秘密」

    疲労でやや濁ったソウルジェムを見せながら、説明を続ける。

    「この宝石が濁りきって黒く染まる時、私たちはグリーフシードになり、魔女として生まれ変わる……。
     それが魔法少女になった者の逃れられない運命」

    「嘘よ……嘘よね? ねぇ?」

    愕然とするまどかと杏子。
    そして、衛宮さんは。

    「ほむらぁ!」

    「がはっ」

    杏子に代わって胸倉を掴んできて、そのまま持ち上げてきた。
    見上げるその瞳には怒りの炎が見えた。
    衛宮さんにとっては裏切られたも同然だから、自業自得ではある。
    ただ。

    「ほむら、おまえっ……どうして、嘘を吐いた?
     どうして、黙っていた……!?」

    「ぐっ、かは―――」

    苛立ちながら問われても、息をするのが精一杯で、声が出せない。

    「ちっ。鹿目、悪いけど今日は1人で帰ってくれ。
     俺はこいつに、訊かなくちゃならない事がある」

    持ち上げられたまま、連れていかれる。
    普段のフェミニストのような衛宮さんとは全く違う。
    目的の為に人を殺せる。
    そんな人の顔をしていた。

    711 = 697 :

    「くっ―――げほっ、けほっ」

    家に帰ってきて、ようやく解放された。
    しかし目の前には未だ、鬼のような形相をした正義の味方(衛宮さん)が居る。

    「さあ、答えてもらおうか」

    「…………貴方に、知られたくなかったから」

    話してしまおう。
    理屈さえ通ってれば、解ってはくれる人の筈……。

    「正義の味方なんてやってる貴方にとって、魔女は倒すべきモノ。
     なら、その卵である魔法少女だって同じ事でしょう?」

    「むぅ……色々言いたいけど、否定はしない」

    眉間にしわを寄せ、難しい顔をする衛宮さん。

    「それが怖かった……。
     貴方に殺されるだけならまだしも、ワルプルギスの夜が来る前に戦えなくなるのが……」

    「…………」

    そうなると、どうやってもまどかが救えなくなるから……。

    「……頭に血が上ってたとはいえ、乱暴して悪かった。
     ほむらなりに考えがあっての判断だったんだな」

    ぺこりと頭を下げた衛宮さん。
    怖かった……この世で2番目くらいに。
    もう、この人を怒らせたくない……。

    「さて、メシ―――の前にいくつか確認させてくれ」

    「え、ええ……どうぞ」

    私に手を差し延べながら尋ねる。
    情報状況の整理をするつもりなのでしょう。

    「魔法少女とは、インキュベーターとの契約で生まれる存在」

    「そうね、全くその通りよ」

    「契約と同時にその魂は物質化され、ソウルジェムとなる」

    確認する内容は至って簡単な事。
    こんな事に、衛宮さんにとって意味はあるのかしら?

    「そして、魔女とはソウルジェムが変質して生まれた存在」

    「ええ、その認識で間違いないわ」

    そう答えると、衛宮さんは黙りこんだ。
    目を閉じ、腕を組み、深く思案するような仕草。
    それがしばらく続いた。

    「……よし、メシにしよう」

    …………。
    いったい、何を考えこんでたのよ……。

    「その事だけど、もう日付けも変わってしまったし、今晩はもういいわ」

    「ふむ、消化の問題もあるしな。
     でも空腹もよくないし、晩飯はバナナというコトで」

    そう言ってバナナを渡してくると、衛宮さんはおにぎりを作り始めた。
    明日の朝ご飯ね、きっと。
    あれを食べた後、衛宮さんはさやかとケリをつけに行くのでしょう……。

    712 = 697 :

    「―――っしょ」

    寝床の押し入れから抜け出した。
    辺りはまっくら。
    ほむらはすうすうと、年相応のかわいらしい寝息をたてている。
    闇に浮き上がる時計の文字板は、2時半を示していた。

    「よし、始めるか」

    手始めに冷蔵庫の食材を引っぱり出す。
    本来ならやりたくない事だが、片っ端から調理していき、作り置きを大量に用意する。
    1人で食べ切るには速くて4日というところか。
    それだけあれば、食の細いほむらならしばらくは飢えはしないだろう。

    「次は準備だな」

    脱衣所に入って部屋着を脱ぎ捨てた。
    代わりに用意した服は戦闘用の正装(ユニフォーム)。
    黒いズボンを履き、ベルトを巻く事で下半身と密着させる。
    上半身には防弾ベスト。
    胴体を守る物理的な防御兵装。
    そして最後に、この衛宮士郎が持つ最高の逸品、赤原礼装を纏う。
    鏡に写る我が姿は、いつか見た赤い弓兵と瓜二つ。
    気に入らないヤツだったが、あいつの真似事だけは本当にうまく出来た。
    癪な話だが、あいつ以上に俺の手本となるヤツは居ないのだろう。

    「バッグの中身は…………メシだけでいいか」

    やる事だけは決まっているのだから、余計な物は必要ない。
    バッグに入っていた物を全部取り出して、軍用糧食を詰め込む。
    長丁場になりそうだし、こういう時ぐらいはこんな物が役に立つってもんだ。

    「じゃあ、いってきます、ほむら」

    いつものスニーカーではなく戦闘用のブーツを履き、別れを告げた。
    次に帰ってくるのはいつになるか。
    いや、そもそも帰ってこれるのか。
    それは判らないが、とにかく行くとしよう。

    「俺の、責務を果たしに……」

    713 = 697 :

    住宅街に存在する日本建築。
    それは一般的な木造住宅でもなければ、衛宮の屋敷のような武家屋敷でもない。
    つまるところ、豪邸、というヤツである。
    周囲には普通の一軒家やマンションしかない事を考えると、近辺では1番のお家柄と言っていいのだろう。
    で、俺がこんな家を訪ねるのも、ひとえに果たせる約束から果たしにきた、というだけの話である。

    「―――同調、開始」

    ただ、時間も時間であるうえに、無関係の人間に知られる訳にもいかないのだ。
    故に、魔術を駆使してでも、コソ泥の真似事をしなければならない。

    「―――解錠、完了」

    侵入開始。
    この家の見取図なんて物は持ってないが、そんな物は必要ない。
    外観から想定した枠の中を、実際に歩く事で埋めていく。

    リビング、ダイニング、キッチン、トイレに風呂場……。

    間取りの把握が完了。
    あとは脳内に描いた見取図の中から、この家の1人息子、上条恭介の部屋を推定し…………特定した。

    「――――」

    そろりと扉を開く。
    机があり、やたら大きなオーディオ機器があり、通学鞄がある。
    シングル……いや、セミダブルってヤツか。
    ベッドには膨らみも見えた。
    間違いない。
    ここが俺の目的地だ。
    そうと決まれば躊躇は要らない。

    「……よし」

    部屋の中へ忍び込み、ベッドの前に立つ。
    布団を捲ると整った顔立ちの少年。

    「おい、起きろっ、おい、おい」

    頬を叩きながら、声をかけるが返事がない。

    「起ーきーろー」

    頬を両手で引っ張る。
    聞こえるのは寝息だけ。

    「―――Anfang(セット)」

    右手を構える。
    狙いは額。
    中指を親指に掛け、弓の弦のように引き絞る。

    「―――Läßt(レスト)!」

    「痛っ!?」

    額を抑えながら飛び起きる上条少年。
    うむ、会心の一撃である。

    「ようやく起きたか、寝ぼすけ」

    「恭介です……って、衛宮さん!?
     なんなんですか、その格好? それにどうやってここに……?」

    私服で会った前回と違い、今は戦闘に備えた服装だ。
    そういうのに縁がなかった上条が不思議に思うのも当然だろう。

    「話は後だ。今から美樹の元へ行く。
     これを逃せば、おまえに彼女と会う機会は永遠に失われる」

    ついて来るか、と問う。
    返答はもとより決まっていた。

    「じゃあ、おまえが着替えたら、すぐに出るぞ」

    714 = 697 :

    「まず始めに上条。君は魔術や魔法という物は知ってるかな?」

    美樹が魔女になった時に放ったという魔力。
    あれだけ強烈な物ならば、得意も苦手も関係なしに解析は出来てしまうものだ。
    その残滓を空気中から識別し、美樹を追いかける。
    しかし、今の俺には一般人の道連れが居る。
    何の知識もなくては連れていく意味がない。
    故に、道中で色々と教える必要があった。

    「? ファンタジーでよくある不思議な能力ですよね?」

    「まあ、その認識でいいな」

    実態は幻想(ファンタジー)というより怪異(オカルト)に近いが、不思議な能力という点に違いはない。

    「これから臨むのはそういう世界だ」

    「…………はい?」

    突然こんなコト言われても、信じられないのは当然……というか、信じられるヤツの方がヤバイか。

    「手始めに自己紹介といこう。俺は魔術師、衛宮士郎。
     おまえの部屋まで侵入してこれたのは、俺の魔術のおかげって訳だ」

    「え……? 魔術師? でもだって、さやかに剣を教えてたって」

    「魔術師が剣を教えちゃ悪いかよ?
     今の時代、プロレスマニアの魔術師だっているぞ?」

    ロンドンでの俺の雇い主とか。
    特例中の特例だろうけど。

    「それで、その魔術師の衛宮さんとさやかに、どういう関係が……?」

    ふむ。
    関係がないといえば関係はないな。
    俺が一方的に首を突っ込んだだけだし。

    「その前におまえにある事実を知ってもらおう。
     この街……いや、この街に来るまで知らなかっただけで、本当は世界中にか。
     魔法少女と呼ばれる者たちが居る」

    「そんな、馬鹿な……」

    確かに俺もそう思ったな。
    魔術師という身分を棚に上げて。

    「彼女たちは魔女と呼ばれる怪物と戦う運命を背負わされる対価に、
    願いをひとつ叶えてもらえるそうだ」

    715 = 697 :

    「まさか……」

    流石に話の流れで判るよな。

    「そのまさかだ。
     美樹さやかは上条恭介の左手の治癒を対価に魔法少女となった。
     俺が彼女に剣を教えるようになったのは、彼女が安全に戦う為、という訳だ」

    「…………」

    言葉を失い、左手を呆然と見つめる上条。
    あり得ないと言いたくとも、あり得ない事が起こってしまったソレがある。

    「だが、魔法少女には知らされざる秘密があった。
     彼女たちは魔女と戦う度、いや、呼吸ひとつする度に魂を汚染されていく」

    「それが、さやかが居なくなった原因……?」

    「90パーセントはそうだろうな」

    落ちついてればなかなか聡明じゃないか。
    興奮する気力もないだけにも見えるが。

    「よし、ここだな」

    結界を発見。
    独特の違和感と美樹の魔力の両方を感じる。
    美樹の結界である事は間違いないようだ。

    「っと、忘れるとこだった。
     君は俺の都合で招かせてもらったゲストだ。故に君の安全の保障は俺の義務となる」

    「はあ」

    「その為に俺の外套を着ていてもらう」

    赤原礼装を脱ぎ、上条に着させる。
    見滝原中学の男子制服の上に着るとややシュールだが、贅沢は言ってられない。
    こうしないと、物理以外の要素から護る事が出来ないのだから。

    「じゃあ行くぞ」

    上条の手をとり、結界の中へ入る。

    716 = 697 :

    ―――そこは薄暗い通路だった。
    両側の壁にはポスターが貼られているが、何と書かれているのかは読めない。

    「い、いったい何が……?」

    「ここは魔女の結界。この中に魔女は潜んでいる」

    信じがたい非日常に踏み入れ、今まで話した事が証明された。
    未だ戸惑う上条の手を引き、奥へ進む。

    「さて、さっきの話の続きをしよう」

    無音の空間に声と通路を隔てる扉を開く音が響く。
    上条は黙ったままだ。

    「魔法少女は常に魂を汚染される。
     だが、魂にも許容の限界がある。
     その限界を超えて魂が汚染されたらどうなるか?」

    さらに扉を開く。
    微かに音が聞こえてきた。

    「酷い話だが、そうなると魔法少女は死に、その魂は魔女となるそうだ」

    「それって……」

    最後の扉を開き、広い空間に出た。
    つい最近見たようなカタチの部屋。
    たくさんの座席に囲まれた中央。
    そこに佇む者を見据えて結論を告げる。

    「あれが……あいつが美樹だ。
     ただひとつの願いの為に戦い、そして力尽きた……美樹さやかの成れの果てだ」

    鎧に身を包んだ人魚の騎士。
    両手には剣。
    役割は厳かなる劇場の主にして指揮者。

    「さや、か……」

    その従者たちは彼女の私設弦楽団。
    かつての幼馴染の呟きは、彼らのヴァイオリンの音色の中にかき消されていった。

    717 = 697 :

    今回はここまでです
    行き詰まってたので次回分と並行して書いてまして、それで遅くなってしまいました
    まあ、その次回分を書いてたらテンションが上がりすぎて、士郎がアンリ化したりしてて書き直す事になったりしましたが

    ところで、前々から変換機能が死んでると思ってた我が家のパソコンなんですが、最近何故か「けん」で「剣」と変換できなくなってしまいました
    他にも「しろう」は確実に「知ろう」と変換したり、どうにかしてほしい有様です

    あと、マミさんアイドルデビューおめでとう
    発売が楽しみでたまりません

    718 :


    いいところで終わるなあ
    あとマミさんがアイドルって何だと思ったらゲームの話か
    そっちも楽しみだ

    719 :


    やっぱりさやか魔女化は避けられなかったか
    士郎もだけど目を覚ましたマミさんが心配だ

    720 :

    乙。
    ゆっくりで構わない。
    >>1の満足のいくようにしてくれ。


    そして完結させてくださいお願いします。

    721 :

    乙カレー空間

    『もう何も届かない。もう何も知ることなどない』状態のオクタヴィアを果たしてどうやって救いだすのか
    はたまた救うことはできないのか……
    続きが気になってしょうがない!

    722 :

    俺も変換機能が死んで「えヴぁんげりおん」が「えヴぁん下痢音」になった事があったよ

    724 :

    最狂のキーロガーだけどな

    725 :

    士郎ってわざわざ一般人を非日常に放り込むほど非常識じゃないと思っていたんだが
    あとでどういうケアをするんだろうか

    726 :

    確かに言われてみればシロウは、どういう目的であれ一般人をこういう物騒な場に引きずり込むのは病的なくらい避けるような気もするな

    とはいえここのシロウは英霊エミヤ(正義のためなら犠牲は厭わない)に片足つっこんでる状態だし
    さやかが叶えた望みが上条のためだということを踏まえて、もはや無関係の一般人とは言えないという判断をしてもおかしくはないんじゃないかな

    727 :

    えらい話になったなあ
    上条くんが安穏とすごせていた理由、裏の世界が暴かれてしまった

    728 :

    魔法少女にルールブレイカーは不明だが
    魔女にルールブレイカーは効くのか
    あれって魔翌力の流れを元に戻すとかなんとか言ってたような

    729 :

    ほむら(その剣でインキュベーターを始末したらどうなるのかしら……)

    730 :

    杉内ェ……

    731 :

    士郎が好きすぎて生きてるのがつらい

    732 :

    >>730
    よく見たら>>1だった・・・オープン戦の事かな?

    733 :

    最近思うんですよ
    川崎の体の中には、前回のWBCでイチローが決勝打を打った時のバットの欠片が埋め込まれていて、イチローが近くにいるとステータスが上昇されるんじゃないかって
    そのくらいあってもおかしくないような活躍をしてますよ

    >>719
    士郎は心配しなくてもぼろ雑巾になるだけなので、マミさんの心配をしてください

    >>722
    後半が酷すぎますね

    >>725>>726
    さやかと恭介の2人を自分と藤ねえに重ねて見ている為、何も知らないうちに離れ離れになるのはつらい事だと考えてます


    >>731
    型月板の士郎スレに行くなり、その愛をSSにしてみるなりしてみてはどうでしょうか?
    後者なら同志として応援させてもらいます

    >>732
    その通りです
    他人を引き合いに出してまで球団批判をしまくった上でのFA移籍をしたのに、古巣での登板に拍手で迎えられた杉内
    しかし去年彼が投げてる時はなかなか点を取ってくれなかった打線が、ホームラン2本を含む7得点の大爆発
    そのあまりの悲惨さに思わず同情したくなってしまいましたとさ

    それでは投下します
    14日目~破戒すべき契約

    734 = 733 :

    ワルプルギスの夜まであと4日

    Interlude

    薄明りの巴マミの部屋。
    ベッドの側には現在居候の佐倉杏子が腰を下ろしている。
    彼女の視線の先には、昨晩から気絶したままのマミが居た。

    「…………」

    押し黙ったまま考えを巡らす杏子。
    内容は魔女になった美樹さやかについて。
    そして、その事実をマミにどう説明するかについてだ。

    「ん、う……」

    「! マミ……」

    目を覚ますマミ。
    上体を起こし、痛みの残る後頭部をさする。

    「大丈夫か?」

    「え、ええ、大丈夫。それより美樹さんは?」

    「っ―――」

    言葉に詰まる杏子。
    当然だ。
    マミをベッドに運んでからずっと頭を抱えてたのに、今とるべき答えが未だに見つからないのだから。

    「さ、さやかは……」

    ぎりぎりまで粘り続ける。
    嘘を吐こうとも考えたが、辻褄の合わない嘘をマミが信じる筈がない。
    結局、杏子に出来るのはただの一つだけだった。

    「さやかは、魔女になった……」

    「な―――」

    目を見開き混乱するマミ。
    じわりと目尻に涙が浮かんでいく。

    「う……嘘、でしょ……?
     ねえ、佐倉さん。嘘って言っ―――」

    「マミ!」

    杏子がマミを押し倒し、そのまま圧しかかった。
    両手両足を抑え込んだ体勢。
    突然の出来事にマミの思考が中断される。

    「なあ、マミ。アタシでさえ、元同類を殺してたってのはショックだったんだ。
     魔法少女であるに誇りを持っていたアンタには受け入れ難いのもわかる」

    組み敷いたマミを見つめながら、杏子がゆっくりと語りかける。
    マミへの同情が許される唯一の存在。
    それが杏子の強み。

    「でもさ、やっちまった事に囚われてちゃ何も出来やしない」

    「佐倉さん……」

    変えられない過去から目を背け、変えられる未来へ逃避する。
    それをするのは心の弱い事かもしれない。
    だがしかし、決して間違いではない。

    「それに……アタシは諦めたくない。
     もしかしたら魔女(さやか)を元に戻せるかもしれないじゃん?」

    前に進む事。
    未来の可能性に賭ける事。

    「まあ見ててよ、マミ。アンタの希望を、必ず連れて帰ってくるからさ」

    ただ一人の憧れる者の為に、杏子はそれを選ぶ。
    マミが“正義の魔法少女”を歩み続ける為に。

    Interlude out

    735 = 733 :

    1時間目の授業中。
    退屈さと心配から、ちらりと後ろを見る。
    ここ最近は美樹さやかが欠席していたけど、現在の空席は3つ。
    いつも通りの美樹さやか。
    そもそも存在してない人間が来る訳がないのだけど。

    そして鹿目まどか。
    昨晩遅くまで出歩いてたのだから寝坊の可能性も考えたけど、
    あそこのお父さんの事を考えるとこの時間まで寝てるなんてあり得ない。

    最後に、何故か上条恭介。
    彼については本当に判らない。

    「――――」

    何にせよ、まどかが居ないのなら学校に居る必要もない。
    それにあの魔女(美樹さやか)の元へ向かってる恐れもある。
    ならば―――。

    「すみません。気分が優れませんので、保健室へ……」

    挙手をして立ち上がり、先生に声をかける。

    「んー、このクラスの保健委員は誰かね?」

    「鹿目さんは今日お休みでーす」

    煩わしいやりとりをしている時間も惜しい。
    さっさとここから抜け出してしまおう。

    「んん、では学級委員が連れ添いに―――」

    先生の指示を聞かずに教室を出る。
    手遅れになる前に、必ずまどかを見つけ出さないと―――!

    736 = 733 :

    ―――ここに来てから、どれほどの時間が経ったのだろう。
    ずっと薄暗いままで体内時計も麻痺してきた。
    暇を持て余し、時間感覚も狂ってきた。
    そんな時に、呆然と演奏を聴き続いてた上条が口を開いた。

    「さやかは、これからどうなっちゃうんだろう……?」

    独り言のような問い。
    答えを求めてるつもりではないのだろうが、それでも応えてないとやってられない。

    「魔女は人に危害を及ぼす存在だ。
     故に狩られる対象となる」

    「どうして……さやかが、こんな目に……」

    そう。
    魔女は俺が正義の味方を志す以上、倒さなければならない相手だ。
    それなのに俺がこうして傍観しているのは、俺のエゴの為。
    俺の罪で魔女となった美樹に、少しでも長く生きていてほしいからだ。
    だが同時に、美樹には誰も殺させたくもない。
    故に俺は、ここに誰かが来る事を待っている。
    誰かが来るのを待ちながらも、誰も来ない事を願っている。

    「さやかは、もう元には戻れないのかな?
     もう……さやかと一緒にCDを聴いたり出来ないのかな……?」

    静かに涙を流す上条。
    思い返す幼なじみとの記憶は、さぞ美しい物なのだろう。

    「元に戻す為の方法に、心当たりは…………ない訳では、ない」

    「――――!」

    魔法少女は契約によって生まれた、第三魔法の体現者。
    しかしそれは完全なものとはとても言えないうえに割と数が多い為、神秘としては弱い部類だろう。

    「でも、確証がない。
     もしかすると元に戻せるかもしれないけど、もしかするとそのまま殺してしまうかもしれない」

    これまでに試す機会がなかったのだ。
    どうにもその事が行動を躊躇させる。

    「頼む。俺の覚悟が出来るまで待ってくれ。
     そして……美樹が死ぬかもしれないという事を……覚悟していてくれ…………」

    「さやか…………う、くっ」

    相変わらず使い魔による演奏がされている。
    音楽に興味のない俺には、それがよく解らない。
    が、上条にとっては美樹との最後の思い出になるのだろうか。

    「……そろそろメシにしよう。腹減っただろ?」

    バッグから軍用糧食をふたつ取り出し、上条にひとつ渡す。

    「悪いな、こんな物しか用意してなくて」

    「いえ、ありがとうございます」

    栄養とカロリーを摂るだけの味気ない食事。
    尤も、今なら何を口にしたって味はよく判るまい。

    「…………」

    「…………」

    もぐもぐ。
    もぐもぐ。
    …………。

    「ごちそうさま」

    口先だけの挨拶。
    それを最後に再び暇になる。

    「――――!」

    と、思っていたかった。

    737 = 733 :

    「とうとう、来ちまった、か……」

    様子の変わる騎士。
    ここに至るまでの扉が開かれる。
    そして数秒後、2人の少女が現れた。
    鹿目と……また佐倉杏子だ。

    「衛宮さん……それに、上条君……!?」

    目を見開く鹿目。
    俺が居た事は予想がついていたのだろうが、上条は完全に予想外だったらしい。

    「さやかをどうするつもりだ!?」

    そして、挨拶代わりに噛みついてくる佐倉杏子。

    「なに、目的はだいたい同じだろう。
     俺はずっと、美樹を想って行動してきたのだから」

    ……そう、それだけは変わらない。
    あいつが俺を“師匠”と初めて呼んでくれた時から。

    「想ってるヤツに武器を向けたのかよ、テメェは?」

    「それが最善だと考えたからな」

    俺と彼女では物の考え方が違う。
    納得してもらおうとしたら、それこそ日が暮れるだろう。

    「さて、美樹もずっと待っていてくれる訳ではあるまい。
     おまえたちが何を考えてここに来たのか。
     そいつを聞かせてくれ」

    少女たちに問う。
    己が作戦に自信が持てない以上、縋れるモノには何だって縋ってやる。

    「さやかちゃんを元に戻したい」

    「その為にまどかを連れてきたんだ。
     親友の声なら、もしかしたらアイツにも届くかもしれない」

    「ふむ…………」

    年相応というか、何というか。
    無謀な気がするが、これが2人の出した答えなのだろう。

    「衛宮さん……これで、さやかが助けられると、思います?」

    「……正直、難しいと思う。
     けど、条件付きなら手伝うのも悪くない」

    呼びかけるだけならば、美樹に危害は与えない。
    俺の手段を用いる前に試すだけならアリだろう。

    「上条はどうだ?」

    「僕は、何がなんだか未だよく判りません……。
     でも、さやかが元に戻るなら……」

    鹿目も上条も意志は固い。
    大切な人を想う、そんな直視しづらい目をされたらとても断れない。

    「…………決まりだ。乗ってやるよ」

    「あ、ありが―――」

    「ただし! 誰も犠牲にならない事が条件だ。
     誰かが危なくなれば、俺の思うままにやらせてもらうぞ」

    それだけが条件。
    汚れなき少女が罪を背負う前に終わらせる。

    「なら、アタシがこの2人に結界を張ってれば文句ないよね?」

    「おまえが無事、ならな」

    言ってろ、と吐き捨て、佐倉杏子が結界を張る。
    鹿目と上条を囲う紅い鎖。
    それが完成すると、鹿目が大きく息を吸った。

    738 = 733 :

    「さやかちゃーーん!!」

    こだまする鹿目の声。
    そのように設計されたこの結界は、大声をあげればよく響く。

    「さやかぁーー!!」

    上条が続く。
    演奏を邪魔された事が頭きたのか、警戒状態だった騎士が攻撃態勢へ移った。

    「来たぞ、構えな」

    「わかってる」

    騎士の剣の一振り。
    それが合図だったのか、幾つもの車輪が出現した。
    迫りくるそれらを見つめながら、専用の呪文を唱える。

    「I am the bone of my sword.(我が骨子は護り屠る)」

    投影するのは守護の剣。
    聖人ゲオルギウスが愛用した、その銘は―――。

    「力屠る祝福の剣(アスカロン)」

    最強の剣は数あれど、こと守りにおいてこの剣に勝る物はなし。

    今の俺の役割に、これほど適合する物もあるまい。

    「でぃやぁ!」

    「たあっ」

    振るわれる剣と槍。
    車輪を弾き、背後に控える者たちを護る。

    「さやかちゃん聞こえる!? わたしだよ、まどかだよ!?」

    そして、その者たちも護られるだけではなく。

    「僕だ、さやか! 恭介だ!」

    その大切な人の為に全身全霊で叫ぶ。

    「聞いてよ、さやかちゃん!」

    増加する車輪。
    だが、アスカロンの前にそんな物は通じはしない。

    「さやか! お願いだ、話を聞いてくれ!」

    まるで意思を持つかのように、最適な動きで剣と車輪がぶつかり合う。

    「元に、元の優しくてかっこいいさやかちゃんに戻ってよ!」

    隣の佐倉杏子も槍を振り回す。

    「僕はまださやかに何も恩を返せてないじゃないか!」

    いつも程の鋭さはないが、確かに騎士の攻撃を捌いていく。

    「またさやかちゃんと一緒に遊びたいよ!
     さやかちゃんといろんな事をしたい!」

    739 = 733 :

    しかし、車輪は尽きない。

    「これからも僕の演奏を聴いてくれるんだろ!?」

    次から次へと、無尽蔵に現れては捌かれる。

    「大人になっても、ずっとわたしの親友でいてくれるんでしょ!?」

    万全ならば大した事のない攻撃。

    「そんなのよりずっといい演奏をするから、帰ってきてくれよ!」

    されど、そこに万全でないヤツが居た。

    「さやかちゃん、ねえ!?」

    目に見えて鈍っていく槍。
    傷口が開いたのか、右腕が鮮血に染まりゆく。

    「さやか!」

    弾いてた筈の車輪を、受け流すので精一杯になっていき。

    「だあぁ!」

    そして―――。

    「ガッ―――」

    「杏子ちゃん!?」

    ついに受け流す事も出来なくなり、槍の方が弾かれた。

    「はっ、まだまだ……!」

    こいつはこの期に及んで痩せ我慢するか。
    片手で槍を扱うなんて、最初から無理に決まってたのに。

    740 = 733 :

    「もう無理よ、佐倉杏子」

    「ほむら!?」

    ほむらが突然現れ、佐倉杏子を止めた。
    驚きは一瞬。
    すぐにほむらの言葉を繋ぐ。

    「ほむらの言う通りだ。これ以上は足手纏いだ」

    「っ、くそっ。誰のせいだと思ってやがる」

    槍を落とし、傷口を抑えながら俺を睨む。

    「ああ、俺のせいだ。
     おまえが万全じゃないのも、美樹がああなっちまったのも」

    鹿目と上条の声が止んだせいか、攻撃を止めて静かに佇む美樹の姿を見つめる。
    冷めたい甲冑の中の素顔は、やはり彼女のままなのだろうか。

    「だから俺が責任をとる。
     美樹には誰も殺させない。
     あいつの理想は、あいつ自身にだろうと踏みにじらせはしない!」

    「…………」

    己が意志を宣言すると、結界内が沈黙に包まれた。
    そして剣を投げる。
    放物線を描き、ほむらの前に突き刺さるアスカロン。

    「ほむら……ここは、頼んだ」

    経験を読み取り、担い手のように使いこなしてこそ投影宝具は真価を発揮する。
    だがこの剣ならば、守るという行為に応えてくれる。
    少なくとも鹿目が居る以上、ほむらにだって使う事は出来る筈だ。

    「貴方は、どうするつもり……?」

    まるで俺を案ずるかのような声。
    巫山戯るな。
    おまえが心配するべきなのは、俺なんかじゃないだろ。

    「美樹とケリをつける。
     その結末は、あいつの死か、俺の敗北か、はたまたハッピーエンドか。
     どれになるかは判らんがな」

    前進して、美樹と向かい合う。

    「ふぅ…………」

    息を吐く。
    それはほんの僅かな刹那。
    それでも、俺にとってはとてつもなく長い時間に感じられた。
    脳裏を駆け巡る美樹の色々な顔。
    これも一種の走馬灯、なのだろう。

    741 = 733 :

    「I am the bone of my sword.(我が骨子は背き破る)」

    詠唱が重く響いた。
    想像するのは歪んだ短剣。
    この悪夢の結末を捻曲げ得る、究極の宝具。

    「―――投影、重層(トレース、フラクタル)」

    その設計図を展開させたまま、いつでも魔術回路に通せるよう待機させる。
    雌雄を決する、その時まで。

    「―――投影、開始!」

    美樹の軍刀を両手に投影。
    切り札以外に使うのはこれだけでいい。
    これ以上にあいつと戦うのに相応しい武器なんて存在しないのだから―――!

    「往くぞ、美樹ィ!」

    疾走する。
    目標は結界の中心、そこに佇む美樹の元。

    「■■■■■■■■■!」

    だが、簡単にそれを許す程、美樹も甘くはない。
    号令と共に放たれるは彼女の副兵装たる車輪。
    迫る一投目を回避し、続く二投目に二刀を叩きつけ―――。

    「くっ」

    車輪を砕くと同時に剣が霧散した。
    質量差の問題か、投影精度の問題か。
    しかしそれは問題にはならない。

    「投影(トレース)―――!」

    ならば、アレを上回る数と速さを……!

    「■■■■■■■■■!」

    美樹がさらなる車輪を放つ。
    一つ一つは遅くとも、列を成し襲い掛かるその様子は、さながら重装歩兵部隊(ファランクス)の如し。

    「一斉掃射!」

    対抗して放つは剣の弾幕。
    その数を以って攻撃を止め、その速さを以って防御を貫く。
    後に残されるのは鉄と粉塵だけで、進行を妨げる物なんて何もない。
    だが、受け手に回っていては、いずれそれも阻止されてしまう。

    742 = 733 :

    「今度は俺の番だ!」

    右手の剣を投擲。
    それに続いて左手の剣を投擲―――すると同時に右手に剣を握る。
    左右交互に連ねる24の剣。
    それを。

    「■■■■■■■■■――――!」

    両手に構えた剣を振り回し、最小限の動作で1本1本と弾き飛ばされた。
    その剣技は断じて理性を失った狂戦士(バーサーカー)のソレではない。
    卓越した技能を持った剣士(セイバー)の物だ。

    「は―――はは、ははははは。
     よくやってくれるじゃないか。いったいどうしたんだ、美樹?
     いつの間にそんな芸当が出来るようになった?」

    笑みがこぼれる。
    感情が昂ぶる。
    だが、それも当然だ。
    あんなに危なっかしかったヤツが、こんなにも素晴らしい双剣使いになっていたのだから。
    これで歓喜に震えないと言ったら嘘だ。

    「もう一度だ。もう一度、ソレを見せてみやがれ―――!」

    先程よりやや少ない18本。
    だがしかし、全く同時かつ上下前後左右ばらばらに放つのだ。
    全ての剣を捌ききるには、先程以上の技を披露しなければならない。

    「■■■■■■■■■」

    咆哮と共に剣を構える美樹。
    6本を右の剣で、7本を左の剣で叩き落とし、4本を車輪で迎撃。
    そして残る1本を―――。

    「ほぅ……」

    首を傾げて回避された。
    その光景に思わず感嘆の声が漏れる。
    評価をするのなら99点の出来だ。

    ―――でも、生憎満点をやる訳にはいかない。
    その1点分の隙で、あいつとの距離を詰めるには十分過ぎだ―――!

    「■■■■■■■■■■■■■■■」

    「うおおおぉぉぉぉ―――!!!」

    剣と剣がぶつかり合う。
    お互い純正な物とは言い難いが、剣士同士の決闘なのだ。
    ならば至近距離での一騎打ちになってこそ、本番と言うべきだろう。

    「■■■■■■■■■――――!」

    「っ――――!」

    振り下ろされる一斬。
    受け止めた二刀は砕かれ、破片が頬を裂く。

    「……まだだ。まだ足りてない」

    投影精度を上げろ。
    武器の本質を理解しろ。
    同じ美樹さやかの武器なのだ。
    本来なら、こちらだけが一方的に砕けるなんて筈はない。

    743 = 733 :

    「投影!
     投影―――!!
     投影――――――!!!」

    複製しろ。
    模倣しろ。
    担い手さえも凌駕し尽くし、その真価を引き出せ―――!

    「■■■■■■■■■■■■■■■」

    「おおおおおぉぉぉぉぉぉ――――!!」

    右の剣を振り抜く美樹。
    2本の刀身が無数に分離し、その剣を絡め取る。
    その様子はまさしく獲物を捕らえた蛇。
    美樹の軍刀に秘められた最高の力。

    「―――同調、開始!」

    肉体を限界まで強化。
    筋が引きちぎれようとも、骨が砕け散ろうとも、何がどうなろうと構わない。

    「こ、んのおおおぉぉ―――!」

    「■■■■■■■■■■■■■■■」

    持てる力の全てを以って剣を引き合う。
    先に果てるのは、俺か美樹か。

    「ヤロォォォォ!!」

    否。
    その支点とされた美樹の剣だった。

    「■■■■■■■■■―――!」

    刃のなくなった右に代わり、左の剣が迫る。

    「効かん!」

    横っ飛びで回避。
    更にそれを右手の剣で絡め取る。

    「■■■■■■■■■」

    「うおっ!?」

    そうはいくかとばかりに、美樹が剣を振り上げた。
    剣を砕くどころか、俺の身体が宙に浮き上げられる。
    だが、それこそが決着への合図だ。

    「――――――是(セット)」

    剣を捨てる。
    支えてくれる物を失った身体が、ふわりと放物線を描く。
    その到達点は鎧の冑。
    そこへ―――。

    「破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)―――!」

    切り札たる短剣を突き立て―――。

    「がっ」

    刃が、通らない―――。
    飾りかと思ったが、なかなかどうして頑丈じゃないかっ……。

    744 = 733 :

    「■■■■■■■■■■■■■■■」
    「がああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

    巨大な手に捕まる。
    このまま握り潰そうって、魂胆か……!

    「あ、ああ―――あああぁぁあぁぁぁ!!」

    骨が軋む。
    肉が潰れる。

    「衛宮さん!」

    強化した身体が、かろうじてそれを押し止める。

    「さやかちゃん、駄目ぇーーー!」

    逃れる手段を模索。
    該当するのは一つ。
    体の限界を迎える前に、無理矢理限界を呼び込む。
    それ以外にはない。
    躊躇する余裕もない。
    イメージしろ。
    ショートした回路に火花が飛び散る光景を。

    「体は、剣で出来て、いる……!」

    「■■■■■■■■■――――!?」

    美樹の手を内側より突き破る剣。
    その数は俺には判らない。
    だが暴走した魔術回路が魔術特性のままに剣を生み出し、体内から貫いたという事だけは確かだ。

    「ごふっ」

    地に落ちる。
    息を吐くと共に血が流れる。
    頭がとてもイタイ。
    背中が火を点けられたようにアツイ。
    無茶をしすぎたのだろう。
    視界がにじみ、世界が歪む。
    それでも、美樹が剣を振り上げた事は見えた。

    「―――同調(トレース)!」

    軍刀に強化を試みる。
    今の魔術回路では細かい事は出来ない。
    それでも、ありったけの魔力を流し込むくらいならば可能だ。
    一瞬の後に剣が霧散しようとも、その一瞬で戦いは終わるのだから。

    「■■■■■■■■■■■■■■■」

    「美ぃぃ樹いいぃぃぃぃ―――!!!」

    衝突する2本の剣。
    勝ったのは俺だ。
    俺の一刀が美樹の一刀を破り、そのまま兜を打ち砕いた。
    中身はどろどろとした、黒い液状の素顔。
    ぐらりと力を失った美樹の身体が倒れ込む。
    その、前に―――。

    「いい加減に、帰ってきやがれええぇぇぇぇぇ!!」

    剥き出しの頭部へと跳び、涙する美樹に短剣を突き刺した。
    その瞬間。
    俺の中に何かが流れ込むと共に、視界は暗転し、意識が遮絶された―――。

    745 = 733 :

    ―――壮絶な戦いが終わった。
    そこに勝者は居ない。
    美樹さやかだった魔女は消滅し、衛宮さんはハリネズミのような姿で倒れ伏せている。

    「結局、ダメだったのね……」

    結界が消える。
    後に残されたのは6人の人間のみ。

    …………6人?

    「さやか!」

    「さやかちゃん!」

    衛宮さんから少し離れた所に美樹さやかの遺体。
    魔女になった時に取り込まれていたのだろう。
    それに向かってまどかと上条恭介が駆け寄る。

    「さやか! さやか!」

    いくら呼びかけようと返事はない。
    当然ね。
    もうとっくに、彼女は死んでるのだか―――。

    「よ、良かった……」

    「い、生きてる……。さやかちゃん、ちゃんと息してる……!」

    「な―――!?」

    2人の表情が喜びに染まる。
    どういう訳か、さやかは蘇生していた。
    信じられないけど、衛宮さんは魔法少女の運命さえも捻曲げたのだ。
    でも、その当人は……。

    「ひっでえな……」

    そう、その一言に尽きる。
    虫の息で留まってるのが不思議な程の酷い傷。
    この傷と引替えに、さやかを救ってくれたのね。

    「……鹿目まどか、上条恭介。その子は任せるわ」

    どういう訳だか解らないけど、ソウルジェムがないのに生きてるのは、つまりそういう事なのだろう。
    後は病院に任せておけばいい。
    だけどもう1人の方は、とても病院になんて連れていけるよえな状態じゃない。

    「……佐倉杏子。嫌でしょうけど、恥を忍んでお願いするわ。
     衛宮さんを、私のうちまで運ぶのを手伝ってくれないかしら……?」

    「……ったく、そんな泣きながら言われたら、断れる訳ないじゃんか」

    「え…………?」

    言われて目元に手をやると、確かに濡れていた。
    外では、みんなの前では、感情を押し殺してきた筈なのに、おかしいわね。
    拭いても拭いても、涙が止まらない……。

    「ほら、アタシは左肩を持つから、アンタは右肩」

    「ええ……」

    杏子に促されるまま、衛宮さんの腕を取る。
    最後にちらりとさやかを見て、杏子と一緒にゆっくりと歩み始めた。

    746 = 733 :

    「何……これ…………」

    杏子が応援に呼んだ巴さんの第一声。
    ビニルシートが敷かれた六畳間。
    そこに倒れてる生きたオブジェ(衛宮さん)を見れば、誰だって同じ反応をするに決まっていた。

    「ほむらの相棒だよ。
     コイツの手当てを手伝ってくれ」

    杏子が説明する。
    しかし、巴さんはまだ納得がいかないらしい。

    「……一体、何が起きたらこんな事が……」

    「さあね。突然こうなったとしかアタシには言えないよ」

    そう言って、肩を竦める杏子。
    だけど、私はその原因が判る。
    多分、衛宮さんが自分でやった事なのでしょう。
    これが投影という魔術なのか、それとも他の物なのかまでは判らないけれど。

    「ともかく、さやかをどうやって人間に戻したのか知ってんのはコイツだけだ。
     気に食わないヤツだけど、ちゃんと目ぇ覚ましてくれないと」

    そう、ね。
    私たちにとってそれ以上に重要な事なんてある筈がない。

    「だからさ、アンタも元気だしてくれよ、ほむら」

    「…………元々、こんなもんよ……」

    とにかく、衛宮さんを治療しましょう。
    息のある今なら、助けられるのだから……。


    ステータス・武器情報が更新されました

    747 = 733 :

    Status

    美樹さやか
    属性:―・―
    スキル
    ――――――

    Weapon

    アスカロン
    キリスト教の守護聖人、ゲオルギウスが愛用した剣。
    あらゆる害意と悪意から持ち主を遠ざける無敵の剣。
    ただし、敵を倒すという意味での無敵ではなく、いかなる敵からも護るという意味での無敵であり、
    ヨーロッパ各地を渡り歩いた守護聖人に相応しい剣と言える。
    また、ゲオルギウスがこの剣を扱う時は、竜殺しの効果を発揮する。
    現在はゲオルギウス所縁の教会に安置されている現存する宝具であり、
    衛宮士郎はその教会に侵入した際に発見し、記憶したようだ。

    軍刀
    魔法少女・美樹さやかが使用する片刃の剣。
    細身だが丈夫で、ナックルガードまで備えている為、扱い易さは非常によい。
    そのナックルガードのせいで投擲にはあまり向かないが、
    一度慣れてしまえば、まっすぐな刀身は標的を貫くのに適している。
    また、刀身を無数に分離させる事が可能で、中距離まで対応する性能が秘められている。

    大剣

    魔女と化した美樹さやかが使用する巨大な片刃の剣。
    外見、大きさ、性能とどれひとつとして元の軍刀との共通点はないが、
    その在り方は完全に一致する“全く異なる同一存在”である。

    ルールブレイカー
    第五次聖杯戦争におけるキャスターが使用した短剣。
    刀身は雷のように折れ曲がっているので切る事は出来ず、
    また刺しても包丁程度の殺傷能力しか持たない為、武器としての実用性は皆無。
    しかし、その本質はあらゆる魔術を初期化する特性を持った裏切りと否定の剣である。
    対象に突き刺せば、完成した魔術を破戒し、交わされた契約を破棄し、
    魔力によって生み出された生命を“作られる前”の状態に戻すという究極の対魔術兵装。
    深い魔術知識と裏切りの逸話が具現化した宝具である事から、
    この宝具の所有者の真名はコルキスの魔女、メディアと推測できる。

    748 = 733 :

    今回はここまでです

    戦闘シーンのBGMはアニメの群雄疾走のイメージで書こうとしましたが、結局エミヤな感じに仕上がりました
    あと、さらさらと適当に>>744での士郎の状態を描いたもみたり
    シャーペンって、スキャナで取り込むとかなり薄くなるんですね……

    ところで、ひとつだけ言っておきます
    このスレでのゲームのネタばれは禁止です

    749 :

    乙。
    久々の更新で嬉しいぜ。
    この先が楽しみだ。

    750 :


    ルルブレ万能だなあ
    ゲームは今日発売だっけ


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