のくす牧場
コンテンツ
牧場内検索
カウンタ
総計:127,062,868人
昨日:no data人
今日:
最近の注目
人気の最安値情報

    元スレ士郎「人の為に頑張ったヤツが絶望しなきゃいけないなんて間違ってる」ほむら「……」

    SS+覧 / PC版 /
    スレッド評価: スレッド評価について
    みんなの評価 :
    タグ : - Fate + - クロスオーバー + - 衛宮士郎 + - 魔法少女まどか☆マギカ + 追加: タグについて ※前スレ・次スレは、スレ番号だけ登録。駄スレにはタグつけず、スレ評価を。荒らしタグにはタグで対抗せず、タグ減点を。
    ←前へ 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 次へ→ / 要望・削除依頼は掲示板へ / 管理情報はtwitter

    651 = 637 :

    振りかざす第一撃。
    鈍く響いた金属音。
    どうあっても通す気はないらしい。

    「折角の機会だ、アンタとは一度白黒つけとこうか!」

    「くっ」

    ビルとビルの間で繰り広げられる剣戟。
    対するは槍の得手。
    ハルペーの間合いは長いといっても、槍には遠く及ばない。

    「そらそらそらァッ!」

    「ふ、がッ、ハァッ!」

    それに加え、鎌のような奇怪な形状。
    俺にはこの剣を使いこなす為の経験が足りない。
    となれば、このままやり合うのは不利だ。

    「投影―――」

    「させっか!」

    武器の持ち替えを許さぬ連撃。
    捌く事で精一杯の圧倒的劣勢。
    俺に出来るのは後退する事のみ。

    「どうした、その逃げ腰は!」

    ―――否、後退を余儀なくされているだけだ。
    このままではやられる―――!

    「それ、もう逃げ場はないよ!」

    「――――!」

    路地裏も同然と言えど、昼間には大勢が用いる遊歩道の筈。
    そこに本来、行き止まりなんて物はない。
    ならば、後ろにあるのは―――。

    「くらえ!」

    全身全霊のスイング。
    予備動作の大きな攻撃は通常は当たる事はない。
    それは実力のある相手ならばなおさらだ。

    「当たら、なっ!?」

    だがしかし、そこに例外がある。
    力まかせの攻撃。
    鎌状の武器。
    そして、あらかじめ設置されていた斧剣。
    これらの要素(ファクター)が絡み合い、放たれるは岩の弾丸。

    「く、くそっ」

    バックステップの途中から、無理矢理それを受け止める佐倉杏子。
    だが、バーサーカー専用の武器の質量は伊達じゃない。
    槍は弾かれ体勢は大きく崩れる。

    「もいっちょくらいやがれ!」

    手首を返し、そのまま逆方向へのスイング。
    放たれる追撃の弾丸。

    「がっ」

    防ぎにいった槍は右腕を巻き込み後方へ跳ねる。
    敵は攻撃も防御も出来ない絶好のチャンス。
    距離は5メートル強。
    それを1歩で詰め寄り、懐へ入る。

    「もらった―――!」

    「があアァァァッッ!!」

    652 = 637 :

    ―――がらん、と重い音が遊歩道に響いた。
    槍をかろうじて握っていた手は力なく開かれ、その動力源となる右腕には魔剣の刃が突き刺さっている。

    決着はついた。
    少女の言った白は俺で、黒は彼女。
    しかし、

    「……ふん、俺の負けか。
     美樹を捕らえる為の虎の子の策だったんだがな……」

    試合に勝って勝負に負けた、という事なんだろう。
    折角追いつめた美樹も、もはやどこにも居ない。
    ほむらもなかなか現れないし、迎えに行くとしよう。

    「―――投影、解除(ブレイド、オフ)」

    全投影品を処分して、この場から立ち去る。
    その途中、地面を叩く音が聞こえてきた
    徒らに傷を悪化されても面倒だし、忠告だけはしておくか。

    「安静にしている事をすすめる。
     魔力を通しても無駄だとはいえ、1週間もすれば動かせるだろうよ」

    「くそっ、くそっ……!」

    653 = 637 :

    「―――まずいわね」

    「ああ、まずいな」

    あの後、容赦のない拷問き耐え切れず、私は意識を放棄した。
    そうして、ぐるぐる巻きの状態で衛宮さんに発見され、うちまで連れて帰ってもらっていた。
    目が覚めると、本当にほっとした顔をした衛宮さんが居て、
    お礼を言った後、報告会となったのだ。

    「まさか、巴マミと佐倉杏子が組んでいたなんて……」

    失敗の原因は至って簡単。
    作戦の前提が崩れていただけ。
    入院していた筈の巴マミがまさか復帰していたなんて……。

    「というか、佐倉杏子はなんなんだ!?
     ちょっと前まで美樹を排除するように動いてたじゃないか!」

    「それを言ったら巴マミもよ!
     いつの間に退院してたのよ!?
     そもそも精神病って、あんなすぐに治るワケ!?」

    わーわーぎゃーぎゃー。
    落胆が怒りに変わって、とにかく怒鳴らないとやってられない。
    それを5分くらい続けた後、

    「はあ…………何やってんだろ、俺たち?」

    「さあ…………?」

    どうしようもない虚しさに包まれた。

    それから更に5分が経過した。

    「嘆いてても仕方なし、今後の事でも考えるか」

    衛宮さんが話を切り出す。

    「……今日ので向こうの2人は私たちを敵と見なしたでしょうね」

    「つまり、これといった策もないのに、敵対者は居る、と」

    「はあ…………」
    「はあ…………」

    恐ろしくどうしようもない状況。
    しかし、考えても妙案が浮かぶ程の複雑な話でないのだから質が悪い。

    「メシに、するか……」

    「そうね、そうしましょう……」

    ―――結局、今日は何もかもがうまく行かなかった。
    真夜中の捜索も実を結ぶ事はなく、薄明の空に別れを告げて、眠りにつく事になった。


    ステータス・武器情報が更新されました

    654 = 637 :

    Status

    美樹さやか
    属性:秩序・中庸
    スキル
    剣術:剣を用いた戦闘技術。二刀でのノーガード戦法により、与ダメージ・被ダメージ共に上昇。
    治癒:高精度・高速度の治癒能力。自他問わず使用が可能。
    足場作成:魔力を用いて空中に足場を作る事が出来る。これにより三次元的な動きが可能。
    勇猛:怖いもの知らず。精神干渉への耐性を持つが、空回りする事も。
    直感:勘によって論理を数段階飛躍させる。思いつき得ない答えを出せるが、早合点となる事も。

    巴マミ
    属性:秩序・善
    スキル
    拘束:リボンを用いた束縛術。刃物があれば脱出は可能。
    銃術:銃を用いた戦闘技術。弾丸を狙い通りに当てる事が出来る。
    トラウマ:事故に遭った経験による自家用車と死に対する恐怖。
         再び死を体験した事により、一時的に恐怖心が増大している。


    Weapon

    ハルペー
    ギリシャ神話に名高い英雄、ペルセウスがメドゥーサ退治の際に使用した鎌のような形状の剣。
    ハルペー自体はそう優れた剣ではないが、最大の特質として“屈折延命”と呼ばれる能力を持つ。
    これは不死系の特殊能力を無効化する神性スキルで、
    ハルペーにより付けられた傷は自然の理にかなう方法以外では決してしないとされる。
    なお、衛宮士郎の知るハルペーは英雄王の宝物庫由来の物である。
    持ち主はいても使い手がいない為、使用者自身の実力を以て扱う事しか出来ない。

    655 = 637 :

    今回はここまでです
    いつも読んでいただき、ありがとうございます

    誰が主役で誰が悪役だか判らないことになってますが、まあいつもの事でしょう
    さり気に主要人物は全員出てたり、容量が過去最大だったりもします

    次回はもうちょっと速く投下できるよう頑張りたいです
    ちょうど嫌な知らせも届いたところで時間が作れそうなので
    まあ、チョコ作って時間を潰す可能性もありますが

    657 :

    いつも楽しく読ませてもらってます。
    本編見た後真っ先に来たくなるSSです。

    660 :


    士郎の発言が過激だと思ったらエミヤになりかけてるんだっけかこの士郎は…

    661 :

    超面白かった 乙

    ところで士郎の岩の弾丸=斧剣って、
    ハルペーで斧剣を引っ掛けてぶん投げたって事だよね?

    ステータスの所の説明を見る限り、ハルペーは士郎自身の技量で振るってるみたいだけど、クソ重い斧剣を弾丸見たいな速度で飛ばせる程の力を発揮出来るのか?
    斧剣そのものを振るうときは、hfルートみたいに使い手=バーサーカーの筋力までコピーしてるから分かるんだけど、あくまで士郎自身の性能で振るうハルペー(強化による補助もあるとはいえ)だけであの斧剣を飛ばせるとは考えにくいんだが…

    662 :

    お、更新きてたな
    さやかちゃんがもうダメぽな匂いがプンプンするぜぇ

    663 :

    魔女化フラグが立っているような気がしてならない

    664 :

    1乙

    >>661 細けぇ事h(ry
    さすがに、この士郎はFate開始時とは違うんだし、
    初等魔法の重力操作くらいは覚えていてもいいんじゃないか。
    もしくは、自身に強化を施して、身体の軸を利用して吹っ飛ばしたとか。
    ナインブレイズみたいに縦横無尽に振り回すわけでもないから
    バサカ並みの筋力を使う必要もなさそうだし。
    後は、ハルパーぶん回して削った斧剣の欠片が弾丸並みに飛んでったとか

    自分の中で、補完してもいいじゃない。

    665 :

    士郎ってさやかに「戦いが向いていない」とか言えた事か?完全に自分の事を棚上げしているだけど…
    士郎はアヴァロンが無かったら何回死んでいるか分かったもんじゃない
    それに選択ミスして死亡してタイガー道場行きもよくある事だし。

    それにしても、まどかにさやかを連れ戻す事を頼まれたのに仲間割れをしているんじゃ本末転倒すぎる。
    力ずくで連れ戻すにしても両足を切り離すじゃなくて、気絶させてから連れ帰ってからまどかに説得させればいいのに…

    667 :

    なんで原作がーとか言っても需要ないのに言うかなぁ?

    こまけぇこたぁ(ry

    668 :

    RPGに対して「勇者が初めの弱いうちにラスボスが直接行って殺せばいいじゃんwwwwwwwwラスボス超バカじゃねwwwwwwww」って言ってるのと同じだな

    669 :

    タイガー道場はまだかね?

    670 :

    こりゃオクタちゃん爆誕決定か?

    671 :

    Fateの原作的に考えると何もかもうまくいくというのも味気ないみたいなENDだろうから
    人魚の魔女爆誕、大いにあると思います!

    672 :

    そうなったらマミさんが発☆狂するな

    673 :

    なんか昨晩は某スレが凄い事になってましたね
    勢い2万オーバーとか、桁も次元も違います

    >>660
    元から死ぬか降伏するかの2択を親友に迫るような人です

    >>661
    弾丸ライナーのように、速くまっすぐ飛んでいく物の比喩です
    ここの士郎はヤング綺礼並みに鍛えていそうですが、流石に生身であれを音速で飛ばすなんて無理でしょう
    まあ、軋間さんなら出来るような気もしますが、筋肉的に

    >>665
    ここまで熱くなってもらえると書き手冥利に尽きると言いますか

    >>666
    記念すべきナンバーネロおめでとうございます

    >>667
    自己満足>需要

    >>668
    その突っ込みはしてはいけないとわかっていますが、それでも中盤の幹部クラスに被害が出てきたら殺っておけよ、と思います
    部下壊滅組織崩壊の状態で何をする気でいるんでしょうかねえ、ラスボスは?

    >>669
    バレンタインデーに予定してましたが、バレンタインごと中止になりましたとさ、まる

    >>671
    全部のエンドで死亡者が出てますもんね、原作
    一般人みたいなものなのに全ルートで死亡する倫理教師とか

    それでは始まりです
    12日目~己が利益の為でなく

    674 = 673 :

    ワルプルギスの夜まであと6日


    何か、匂いがする。
    鼻孔とお腹を刺激するおいしそうな匂い。
    朝の訪れを告げる、我が家の日常だ。

    「ん……おはよ、ございます……」

    「もう昼だけどな」

    「え―――」

    寝ぼけた頭が一瞬で覚醒させられた。
    窓の外は日が高い。
    耳をすませば、何台もの車のエンジン音。
    時計は間もなく正午を示そうとしている。

    「酷いお寝坊ね」

    「まあ仕方ないって。夜明けまで探し回ってたんだから」

    俺もさっき起きたばかりだし、といまいち信用できない補足説明。
    でも睡眠時間だけを見れば、そうおかしくはないのも事実ね。

    「ほら、着替えてメシにしよう」

    促されるまま、脱衣所に入る。
    確かにパジャマのままでは何も出来ない。
    そう思って上を脱いでみると、

    「――――」

    鏡に貧相なカラダが写った。
    いや、それはいつもの事だけど、問題は別の所にある。

    「酷い痣……」

    上半身に縦横無尽に走り回る赤いライン。
    大怪我はしてなかったから治癒をしてなかったけど、とても人には見せられない状態だ。
    ……尤も、見せる気なんてないのだけど。

    「あんなに優しい巴さんが、こんな事してくるなんて……」

    苦痛を与え続けるだけの生温い物であっても、拷問は拷問。
    今まで錯乱して殺されかけたり、威嚇射撃を受けたりする事はあった。
    しかし、明確な敵意を向けられたのは初めて。
    常に優雅にかっこよく振る舞う先輩の本気は、こうも恐ろしいものだったのか。

    「…………っ」

    思い出す前に着替えてしまおう。

    「ご飯だ。ご飯だ。ご飯だ。ご飯だ」

    呟きは四度。
    ええ、私はご飯の為に着替えてるのだ。
    ならば速く着替えないと。

    「よしっ」

    ドアを開け、六畳間へと飛び出る。
    と、そこにはちょうどお皿を運び終わったところの衛宮さん。

    「ぴったりだったな。さ、メシにしよう」

    漂うお味噌の香り。
    時刻はお昼でも、いつも通りの朝ご飯。

    「いただきます」
    「いただきます」

    今日も1日、頑張りましょう。

    675 = 673 :

    ―――食後、二手に別れて捜索に向かう事になった。
    俺の現在地は住宅街。
    無駄だとは解ってるが一応、美樹のマンションへ行っておこう。
    確率で言えば、大昔にやってた強化の成功率と同等か、或いはそれ以下。
    しかし万が一という事もあるかもしれないし、何か手がかりがあるかもしれない。

    「―――ま、無駄っぽいけどな」

    さて、どうやって確認するか。
    教材の押し売りのフリでもしてみるか?

    「ともかく、やるだけやってみるか」

    マンションの前に着く。
    目に入ったのはインターフォンに向かってる少年。
    特徴は松葉杖と容姿の良さ。
    だいたい慎二や一成と同じレベルか。
    学年でも一二を争うクラスだろう。

    「―――よし」

    少年がこちらに歩いてきた。
    覚悟を決めよう。
    玉砕を承知で、インターフォンを鳴らす、

    「さやか……」

    「え―――?」

    ―――筈だった。

    「どうしちゃったんだ…………?」

    すれ違いざまに、探し人の名を聞きさえしなければ―――。

    「ちょ、ちょっとそこの君!」

    「へ―――?」

    少年を呼び止める。
    美樹さやかを名前で呼ぶような異性だ。
    或いは鹿目以上に情報を持ってるヤツかもしれない。

    「なんですか?」

    「君が今呟いたのは、美樹さやかの事で間違いないな?」

    「え、はい……」

    やはり、美樹の事だったか。
    この少年と話をしてみる価値はある。
    だが、人目につくのもあまり良くないか。

    「ちょっとついて来てくれないか? いくつか彼女について聞かせてほしいんだ」

    「もしかして刑事さんですか!?
     さやかは!? さやかはどうしたんですか!?」

    「落ち着け、ばか」

    急に興奮した少年をなだめ、マンションの陰に移動する。
    ……自分が松葉杖をついてる事を忘れてるんじゃないか、こいつ?

    676 = 673 :

    「で、刑事さん!」

    「いや、刑事じゃないから」

    「じゃあ探偵さんですか!?」

    「探偵でもない。いいから落ち着け」

    ……面倒な子だな。
    だが、美樹さやかと親しい事は判った。

    「俺は美樹さやかに剣を教えていた衛宮という者だ」

    「剣? さやかが、剣道を……?」

    「どうかしたか?」

    「あ、いや、基本的に飽きっぽいさやかが習い事してたなんて意外で」

    「ははは。確かにそういうタイプじゃないよな」

    美樹の人となりも知ってるらしい。
    これならかなり期待できるかも。

    「ところで、君の名前は?」

    「あっ、失礼しました。
     僕は上条恭介といいます」

    「上条、ね。美樹との関係は?」

    「幼なじみっていうのかな。小さい頃からの友達なんです」

    「なるほど」

    幼なじみ、ときたか。
    それならだいぶ踏み込んだ事まで聞けそうだ。

    「では、本題だ。
     知ってるとは思うが、ここ数日、美樹の行方がわからない」

    「はい……。何か事件に巻き込まれてるんじゃって心配で……」

    「あー、巻き込まれてるって言えば巻き込まれてんのか。
     ちょっと訳あって逃げ回ってるらしい」

    「っ。さやかは大丈夫なんですか!?」

    「だから落ち着けってんだ」

    そりゃあ、幼なじみが居なくなってんだ。
    心配するのも解る。
    でも、こうも頻繁に興奮されては話が進まない。

    「美樹が大丈夫かどうかはこれから次第だ。
     そして、俺は大丈夫なうちにあいつを保護したい」

    「それでさやかは助かるんですか?」

    「万全、は約束できないが、最悪でも命は救う」

    「…………」

    表情を暗くする上条少年。
    しかし、ここで黙ってもらっては困る。

    「その為に美樹について知りたい。
     小さい頃の隠れ家とか、何か大切な思い出のある場所とか」

    「さやかの、思い出……」

    「頼む、おまえだけが頼りなんだ。美樹を助ける為に、俺に力を貸してくれ!」

    頭を下げる。
    プライドなんて安いモノだ。
    美樹を助けられるのなら、土下座だってしてやるさ。

    677 = 673 :

    「あ、頭を上げてください!
     えっと、さやか、さやかの行きそうな場所…………あ、あそこ!
     隣街のコンサートホールとか」

    「コンサート? また随分と似つかわしくない場所だな」

    「さやか、僕と一緒で音楽が好きで、初めて会ったのがそこだったんです」

    この2人にとっての共通の思い出か。
    これなら何かしら手がかりになりそうだ。

    「他には?」

    「ええと……すみません。他は近所で遊んでたくらいで……」

    「そっか、さんきゅ」

    見滝原の中はもう殆ど回ってるから、探しても無駄だろうな。
    とりあえずは隣街―――地名は覚えてないな。
    そこから調べていくか。

    「ああ、そうだ。もうひとつ聞かせてくれないか?」

    「僕に、答えられる事でしたら……」

    折角だから、あの事を探ってみよう。

    「最近、美樹の周りの人間に、奇蹟のような出来事が起きたりしなかったか?」

    「奇蹟……」

    そう呟くと、上条は左手を差し出してきた。

    「ん? よろしく?」

    「あ、いや、そうじゃなくって。
     この手……僕の左手、少し前まで動かなかったんです。
     先生にも諦めろって言われてたのに」

    「それが突然、動くようになった、と。
     そいつはいつの話だ?」

    「先週の金曜日です」

    ……確かに美樹が魔法少女になった日だ。
    恐ろしい事に、本当にこの左手なんかの為に契約したらしい。
    数多くの代償を払いながら。その事実を知られる事もなく。

    「……時間を取らせて悪かった。
     礼と言ってはなんだけど、送らせてくれ」

    その足では帰るのも時間がかかろう、と言い足して背中を向ける。

    「あ、では、お言葉に甘えさせてもらいます」

    678 = 673 :

    ―――そうして、徒歩十数分間。
    上条邸に着くまでにいろんな話をしてもらった。
    両家が家族ぐるみの付き合いなんだとか、途中の公園を指して、

    “あそこでさやかとよく遊んでたんです”

    とか。
    上条の左手が動かなくなったのは交通事故が原因だそうで、
    美樹はしょっちゅうお見舞に行ってたとも。
    そういうふうに伝え聞く2人の昔話が、切り捨ててしまった大切な人との思い出と重なる。
    もう何年も会ってないんだ。
    彼女がどうしてるか心配だし、彼女もまた失踪した俺の事を心配してるのだろう。
    この2人にこんな悲しい気持ちにさせてはいけない。
    そんな思いをするのは俺と藤ねえだけで十分だ……!

    「それじゃあ、俺はまた美樹を探しに行くとしよう」

    「……さやかが見つかったら―――」

    「解ってるって。必ずおまえに教えてやる」

    上条邸を背にし、歩き始める。
    折角手に入れた情報なのだ。
    日の出てるうちに下調べして、夜に備えるとしよう。

    679 = 673 :

    Interlude


    「いったいどうなってるの……?」

    驚愕の声は巴マミのものだ。
    佐倉杏子の右腕の包帯を取ってみたところ、依然として傷が残っていた。
    傷を負ったのは昨日なのだから当然ではあるのだが、彼女たちはそれを覆す魔法少女である。
    だというのに、杏子の傷はかさぶたが出来つつある程度にしかなっていない。

    「佐倉さん、治癒はしなかったの?」

    「一応やったつもりだよ。でも、この通りさ」

    力の入らない右手を見つめながら語る杏子。
    その表情には苛立ちこそあれど不安はないのは、あらかじめ宣告されていたからか。

    「呪いと言ったところか。
     ったく、ホント何モンだよ、アイツ」

    傷を負わせた張本人はこの場には居ない。
    リターンマッチを挑もうにも、全力が出せなければ勝ち目がないとも判ってる。
    故に杏子には悪態をつくぐらいしかやりようがなかった。

    「……仕方ないわ。佐倉さんはしばらく休んでて」

    普段ならば胸を叩きながら堂々と引き受けそうなものだが、今のマミにはそれだけの覇気がなかった。
    いやそれどころか、マミの身体には小さな震えがある。
    当然、それは武者震いなんかではない。

    「はあ……。今のマミだけになんか任せておけないよ」

    杏子の手がマミの手を包む。
    そこには力が籠もらずとも、絶対に離れないという意志が籠められていた。

    「大丈夫、アタシがついている。
     そう簡単にアンタを死なせないし、アンタが死ぬ時はアタシも一緒だ」

    「貴女には……死んでほしくない……」

    どれだけ自分の死が怖くとも、それ以上に他者の死を恐れる。
    マミがそういう心を持っている事を、杏子は誰よりも確信していた。
    そんな彼女だからこそ、マミを勇気付ける最善の手を使えるのだ。

    「じゃあ、せいぜい頑張ってくれよ?」

    「うん……!」

    弱った心と弱った身体。
    互いの弱点を補い合うマミと杏子。
    2人で1人の魔法少女の進む先は、ただひとつの目的地。
    その手が離れるまで、彼女たちの歩みは止まらない。


    Interlude out

    680 = 673 :

    ―――夜9時過ぎ。
    重い足取りで帰路についていた。

    「はあ…………」

    結局今日も、さやかを見つける事が出来なかった。
    繁華街から街外れまで、広範囲を探して回ったのに……。

    「もしかして見滝原から出ていってしまったのかしら……?」

    見滝原だけでも大変なのに、それでは手がいくらあっても足りない。
    手がかりもゼロなのに、どうしようかしら?

    「ただいま」

    「おかえり」

    玄関に入ると、いつものようにキッチンに居る衛宮さん。
    一段落ついたのか、お鍋に蓋をしてこちらに意識を向けてきた。

    「美樹は……?」

    こう問い掛けてきたという事は、衛宮さんもまた発見に至らなかったようね。
    残念な結果ではあるが、受け入れるしかない。
    衛宮さんに向かって、ゆっくりと首を横に振る。

    「そうか……」

    あからさまにがっかりしている。
    でも、この人は諦めない。
    ご飯を食べたら、また出発するのでしょう。
    その時、衛宮さんは当てもなく駆け回るのだろうか?

    「貴方はこの後どうするつもりかしら?
     正直、美樹さやかはもうこの街に居ないと思うのだけど」

    「そいつは同感。
     昨日の作戦が失敗した時点で、あいつは俺と会おうと思う事はなくなっただろうし」

    それに師弟関係もなくなっちまったしな、だなんて自嘲するように言う。
    あんなに熱心に師匠をやってたのに、それをあっさりと断ち切るなんてね。
    きっと彼女を戦わせない為に、衛宮さんなりの覚悟なのだろう。
    人を守る為に自分との関係を切り捨て続けてきたら、
    独りで正義の味方なんてやってるのも頷ける話だ。

    「とりあえず隣街を探してくる。
     拠点に相応しい施設にも心当たりがあるし」

    「心当たり?」

    「ああ、昼間に美樹の幼なじみってヤツと会ってさ。
     美樹の思い出の場所を中心に張ろうと思うんだ」

    美樹さやかの幼なじみと言ったら1人しかいない。
    ある意味、この騒動の原因でもある彼しか、ね。
    その人物と話をしたならば、きっと美樹さやかの願いにも見当はついてるでしょうね。

    681 = 673 :

    「よし、完成」

    話しながら仕上げをしてしまい、お鍋ごとテーブルに運ぶ衛宮さん。
    それについていき、私もテーブルに着く。

    「ほむら。帰ってきたばかりなんだから、メシの前に手を洗おう。
     逃げる物でもなし、別に焦る必要なんかないぞ?」

    そう注意を受け、キッチンまで1往復。手を洗って戻ってくると、お皿に盛られた白い液体。

    「クリームシチュー……」

    まどかの好物ね。
    1回だけ、まどかの家に招待された時に食べた事があったわね。
    その前は……いつだっただろうか。

    「どうした? もしかして苦手だったか?」

    「い、いえ、そんな事はないわ。
     ……ただ、懐かしくて」

    あんな思い出はもう二度と味わえる事はないのでしょうね。
    なんて、

    「そりゃ、あんなのばっか食べてたら、たいていの料理は懐かしかろうよ」

    思い出に浸ってる時に限って、的確に突っ込んでくる男1名。
    しかし正論は正論なので、黙ってスプーンを執る。

    「――――」

    おいしい―――。
    かすれかかったあの時の感覚が思い起こされる。
    また、みんなで一緒にご飯を食べれる日を想像できる―――。

    「気に入ってくれたみたいだな」

    仏頂面が僅かに綻んだ。
    それじゃあ俺も、と衛宮さんが手を合わせる。

    「いただきます」

    今の私の動力源。
    食生活の彩りが、明日の為の力になる。

    682 = 673 :

    ―――日付けが変わる。
    人々の休暇である日曜日は死に、月曜日へと生まれ変わる。
    当然、仕事や学校に備えて街は静かに沈黙して、そこに活気なんてモノはない。
    ましてこんな時間にコンサートを開こうという物好きも居ない。
    故に今夜の拠点となるコンサートホールに人影はなく、
    潜り込むにもおあつらえ向きの場所となっていた。

    「と言っても、流石に鍵はかかってるか」

    メインゲートはシャッターが降り、裏口は施錠されている。
    どちらも同じような状況だが、
    俺には遠坂みたいなふてぶてしさなんてないので、裏口の方を使わせてもらおう。

    「―――同調、開始」

    衛宮士郎に使える魔術は少ない。
    中でも実践レベルに達しているのは数える程しかない。
    その中のひとつがこれだ。
    構造把握を応用した解錠の術。
    使う機会はさほど多くはないが、割と重宝してはいる。

    「よし、開いた」

    中に潜入。
    眼球を強化し、暗視の効果を付与する。

    「さて」

    ここの構造は把握済み。
    光とカメラを避けながら、建物内をぐるりと見て回る。
    そうして最後に、

    「流石にデカいな……」

    メインホールの扉の中に入った。
    席の数は今まで見てきた小ホールの4倍……いや、5倍と言ったところか。
    それでいて面積を抑え、かつ音の響きのよさそうな設計はなかなかに興味を惹かれる物である。
    ここに足りてないのは、それこそ歴史の積み重ねくらいだろう。

    「まあ、それは置いておこうか」

    席と席の間を確認していく。
    こんな時、策敵の魔術を手軽に使えるヤツがうらやましくなるな。

    「……ここにも、居ないか」

    時間はかかったが収穫はなし。
    だが、ここまでやってきたのだから、楽屋も覗いておこう。

    「―――チッ」

    綺麗に清掃されたそこで、1本だけ青い髪の毛を見つけた。
    魔術的にも科学的にも、この持ち主を特定する手段は俺にはない。
    だが、何故だか断言できる。

    「やはり、ここには来てたのか」

    入れ違いとなったのか。
    ほんの僅かな所で遅れをとってしまった。

    「急ごう―――」

    運が良ければ追いつける筈。
    その思いだけで夜の街に再び飛び出す。
    ただ悔やむのは、

    ―――そこが隠れる場所のない1本道なんかではない事を、どうして失念していたのか。

    683 = 673 :

    今回はここまでです
    昼起き+戦闘なしで地味な回ですね
    上条君の初登場くらいしかイベントがない


    どうでもいいですが、チョコ作りは頓挫しました
    スキルも経験も指導者もなしにチョコマミさんは無茶以外の何物でもありませんでした

    685 :


    このうっかりは士郎も凛の事を馬鹿にできないな

    687 :


    呪いじみたうっかり属性は師匠の薫陶だろ

    688 :

    乙 面白かった


    久々にクリームシチュー作るかな

    689 :

    さやかちゃんの行く末が、良い意味でも悪い意味でも楽しみになってきた!
    どちらかと言うと虚淵スキーの自分としては悪い意味で超期待だけどな!

    690 :

    さやかちゃんは犠牲となったのだ...魔女化の説明のためのなま...

    691 = 688 :

    全身ライン状の赤いアザが走るほむほむとか股熱

    692 :

    乙。恭さや展開クルー?

    693 :

    さやかの救われるSSが少ないだけに救われて欲しいお・・・

    694 :

    五人の内マミさんだけ死ぬssもよく見るな

    695 :

    まだなのか

    696 :

    まだかまどかマギカ

    697 :

    すみません、もうちょっと待ってください
    あと少しで次回分、更にもう少しで次々回分が完成しますので
    チョコ作りの際に描いた絵で、もうちょっとだけ時間稼ぎさせてください
    もうちょいうまく描ければいいのに……
    あと杏子とマミさんの髪型が難しい

    698 :

    待ってる

    ところでほむほむの目が死んでるように見えたのは俺だけか?

    699 :

    顔のパースがおかしい


    ←前へ 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 次へ→ / 要望・削除依頼は掲示板へ / 管理情報はtwitterで / SS+一覧へ
    スレッド評価: スレッド評価について
    みんなの評価 :
    タグ : - Fate + - クロスオーバー + - 衛宮士郎 + - 魔法少女まどか☆マギカ + 追加: タグについて ※前スレ・次スレは、スレ番号だけ登録。駄スレにはタグつけず、スレ評価を。荒らしタグにはタグで対抗せず、タグ減点を。

    類似してるかもしれないスレッド


    トップメニューへ / →のくす牧場書庫について