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    元スレ上条「俺達は!」上条・一方「「負けない!!」」

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    251 = 250 :

    「――が、ふ」

    頭突きを食らい、肩を固定する『右手』が離され、能力が戻る。

    一方通行はよろよろと膝を突く。

    ここで気絶しても、何もおかしくはない。

    なのに、それでも、一方通行は立ち上がろうとしていた。

    必死に、右拳を握り締める。

    「…………」

    上条も、同じように右拳を握る。

    そして――――



    「歯を食いしばれよ、最強(最弱)」



    上条は、堂々と宣言する。

    そうしてから、拳を振り上げた。


    252 = 250 :








    「――俺の最弱(最強)は、ちっとばっか響くぞ」







    253 = 250 :

    二人は、同時に拳を相手に叩き付ける。

    あらゆるベクトルを操る『必殺』の拳が上条に、
    強い意志の篭った一撃が、一方通行の顔面に吸い込まれるように決まった。

    (――――あ)

    ぼんやりと、一方通行は何かを思った。

    今度こそ彼はそのまま吹き飛び、先程破壊したコンテナに衝突する。

    衝突した時の衝撃を『反射』出来ず、一方通行は大ダメージを受けた。

    ズルズルとコンテナに背を預け、彼は目の前を見つめる。

    そこには、一方通行と同様に、コンテナに背を預けて座る『親友』がいた。

    だが一方通行と違い、彼はゆっくりと――静かに体を動かしていた。



    彼は、立ち上がった。



    (……はは…………)

    一方通行は朧げなはずの意識で、明確に思う。

    (……オマエ、スゲェよ)

    やはり、自分の考えに間違いなどなかった。

    彼を、信頼して良かった。

    「――オマエが、『友達』で良かった」

    最後の思考だけ、口から出てしまった。

    これで良い。

    そう思いながら、一方通行は意識を深い闇へと投げ出した。

    何故だか、とても温かいモノを感じながら。


    254 :






    「……ン」

    一方通行は、そっと目を開けた。

    目の前には、真っ白な天井がある。

    (…………ここは……)

    体を起こしてみると、何とも見覚えのある部屋がある。

    そう、ほんの数週間前に、誰かがいたような部屋。

    と、そこへ――



    「……やぁ、お目覚めかい?」



    ガチャリと入口のドアが開き、これまた見覚えのあるカエル顔の人物が現れた。

    「おはよう、一方通行。良く寝ていたね」

    そんな事を言いながら、彼――冥土帰し(ヘヴンキャンセラー)はベッドの近くにある椅子に腰掛けた。

    「……何で俺はオマエの病院に居る?」

    そう聞くと、

    「うん? それは君が一応怪我人だからだね」

    笑顔で答えて、冥土帰しは立ち上がる。

    「まぁ、君のお友達が救急車を呼んだんだけどね?
    どうせだからここに運ぶようにって、
    これまた君のお知り合いが言ったものだからね。あとは、そっちに任せるよ」

    僕は別の患者がいるから、と言って冥土帰しは部屋を出た。


    255 :

    「…………」

    壁に掛けてある時計を見る。

    もう、午前十時を軽く過ぎたところだった。

    とりあえずベッドから出るか、と考えた彼は立ち上がろうとした。

    すると、

    「おはよう、一方通行」

    またドアが開き、見覚えのある顔が出て来た。

    「……芳川、か」

    その人物――芳川桔梗はゆっくりと近付いて来て、先程冥土帰しが座っていた椅子に着いた。

    「目覚めたと聞いたものだから、木原の代わりに色々と報告しようと思ってね」

    「……っ!そうだ、妹達(シスターズ)……アイツらはどうなった!?」

    「まぁ、落ち着きなさいな」

    落ち着いた様子で芳川はなだめると、

    「まず、『実験』だけど……君と君のお友達の行動によって中止になったわ」

    そう言うと芳川は書類を差し出した。

    統括理事会の正式なモノらしいそれに目を通すと、確かにそんな事が書いてある。


    256 = 255 :

    「……で、あくまで『中止』だから妹達の廃棄処分もなし。まぁ、上手くは行ったわよ」

    ただし、と芳川は付け加える。

    「『実験』の研究権は理事会が持っていったわ。
    もしかしたら、別の研究所がまた再開のために無駄なハッスルをするかもしれない」

    ま、万に一つも無いでしょうけど、とさらに加えた。

    「……妹達自体は、どォなる?」

    残り一つの心配事を消化しようと、一方通行は口を開く。

    「……そっちは問題無しよ。主に、冥土帰しのおかげでね」

    芳川は昨日、冥土帰しの元を訪れていた。

    冥土帰しに、学園都市外部の信頼出来る機関を紹介してもらうためだったらしい。

    彼は、学園都市の中でも古参の人間らしく、世界中に個人的なネットワークを形成している、との事だ。

    「とにかくそんな訳で、今は研究所の皆でそれら一つ一つに連絡を取ってるわ。
    じきに、妹達の体を『調整』してくれて、預かってくれる場所も決まるでしょう」

    つまり、それは、

    「……良かった」

    一方通行は、嬉しそうに小さく呟く。

    「……ふふ、それじゃあね一方通行。私も手伝わなくちゃいけないから」

    微笑みながら芳川は立ち上がると、部屋を出ていく。


    257 = 255 :






    「……」

    一方通行は無言でベッドに寝転がった。

    何だか安心した途端に、眠くなってきた。

    そこへ――――

    「―― 一方ちゃん!」

    妙に甘ったるい女の子の声がした。

    見れば、入口のドアが開いていて、誰かがいた。

    その人物は、

    「……ンだよ、チビ教師か」

    一方通行と上条のクラスの担任、月詠小萌先生がいた。

    「ンだよ、ではないのですよー!! まったく、心配したんですよ!?」

    何やらお怒りの様子で、彼女は近付いてきた。





    「……それで? どうしてまた、上条ちゃんと魂のぶつけ合いなんかしたんですか?」

    夏休みなんだから、もっと学生らしい青春の仕方をしろ、だとか説教を食らった一方通行は、解答に困る。

    目を軽く逸らして、じっと見つめる視線を頑張って回避する。


    258 :

    「…………まったく」

    そんな感じにごまかすと、小萌先生はため息を吐く。

    「先生も大人です。話したくないなら、構いません」

    でもですね、と彼女は区切る。

    「先生は……先生は、一方ちゃんの味方なのです。
    ……だから、今度何か困った事があったら、先生に話してください。
    先生には、確かに何も出来ないかもしれません。
    でもでも、話を聞く事も、一緒に考える事だって出来るんですよ?」

    だから、一人で抱えないでくださいね? と言って、小萌先生は出口へ歩き出す。

    「先生は、上条ちゃんの所に行ってきます。
    ……お大事に、一方ちゃん。二学期に、また会いましょう」

    「………………あァ、分かったよ『先生』」

    それを聞いた小萌先生は、慈しむように笑って部屋を出た。

    「……」

    一方通行は、じっと小萌先生が閉めたドアを見つめる。

    「…………敵わねェ、な」

    一人、呟いた。


    259 = 258 :

    やれやれ、と一方通行は今度こそ寝転がろうと――――

    「……。元気?」

    またもドアが開き、見覚えのある巫女服を着た少女が現れた。





    「これ。食べる?」

    ゆったりとした動作で椅子に腰掛けた姫神は、どこからかリンゴを取り出した。

    疲れた時には甘い物、との事だった。

    無言で頷くと、彼女はこれまたどこからか取り出した果物ナイフを使い、器用に剥いた。

    そうして、リンゴの身に刃を入れる。

    あっという間に、白いお皿の上にうさぎさんリンゴ軍団が出て来た。

    「……ありがとよ」

    彼は珍しく素直に礼を言って、リンゴを取ろうと――

    「……何のつもりだ、そりゃ」

    呆然と一方通行は目の前を見る。

    そこには、リンゴを手に取った姫神がいる。

    「あーん」

    「あン?」

    訳が分からない、と言った顔で彼女を見る。

    「だから。あーん。して」

    「……こォ、か?」

    口を開くと、中に白い身が突っ込まれる。

    それをゆっくりと噛むと、シャリッと音がして口一杯に甘い味が広がる。


    260 :

    「美味しい?」

    姫神がいつも通りの、何を考えているか分からない表情で尋ねてくる。

    「……おォ」

    とりあえず答えると、彼女はさらにもう一つうさぎを手に取る。

    「もっと食べる?」

    「……いや、イイ」

    「……。そう」

    姫神は、特に何も言わずにリンゴを皿に戻す。

    「聞かねェのか?」

    「何を?」

    不思議そうな顔で、逆に聞き返された。

    「俺がどォしてケンカしたのか」

    てっきり、このリンゴで聞きやすい雰囲気にするのか
    と思っていたのだが、姫神は一切何も聞いてこない。

    姫神は、あぁ、と合点が行ったような顔をすると、

    「……。君は。聞いて欲しい?」

    「…………」

    一方通行には、答えられなかった。

    「私も。人には言えない秘密がある。君にも。そう」

    一方通行は、目の前の少女を見る。

    『吸血殺し(ディープブラッド)』。

    多くの人を不幸に導く、そんな能力を持ってしまった、不幸な少女。

    その事を知られまいと、彼女も必死だったのだろうか。

    「だから。私は気にしない。君や上条君が。何の意味もなく戦う訳が無いと思うから」

    ただ、真っ直ぐに一方通行を見て、姫神は告げた。

    「…………そォか」

    一方通行も真っ直ぐに姫神を見る。

    「リンゴありがとよ、姫神」

    うん、と姫神は満足したように、微かに笑った。


    261 = 254 :

    今回は以上です。
    次回、次回こそ三巻編終了です。
    それじゃ、またいつか。

    262 :

    乙~
    ゆっくりまってるぜ

    263 :

    乙です!

    人望のある一方さんカッコイイ

    264 :

    乙!のんびり歓迎

    265 :

    >>264
    オマエそれはネタでやってるのか?

    まぁとにかくいちおつ!

    266 :

    ひろし達はどうなったんだ!? 待ってるぞ

    268 :

    よく考えたら姫神って料理できておっぱいでかくて黒髪ロングってかなり上玉だよな

    269 :

    乙!
    御坂は置いてけぼりなんだっけ?

    270 :

    >>266
    一瞬[?]ってなったが中の人つながりか

    271 :

    >>269
    倉庫で体育座り中

    272 :

    吸血通行、、、考えてみるか

    273 :

    吸血通行ってしらない人が聞いたらまじでやべえよw

    吸血しつつ通行してるからなjk しかし上条さん… 姫神とのフラグを忘れていないか?

    274 :

    >>273
    我スルーされる、故に我あり

    275 :

    追いついたとか言ったら「どうでもいいわそんな事」って言われるかもしれんが追いついた。
    いやあ 上条「いくぞ、親友!」一方「おォ!!」 から見て、やっと来たけど面白いね。
    それにしても腹パンワロタwwwwww

    276 :

    どうもお久しぶりです。
    三巻編最終回。早速投下していきます。

    277 = 1 :






    「それじゃあ。またね」

    「あァ、じゃあな」

    しばらくして、姫神は部屋を出て行った。

    今日から、新しい学校を決めるために色々とある、との事だ。

    早く決まるとイイな、と一方通行は姫神を見送った。

    「……甘ェ」

    ベッドに座り、リンゴを一つ手に取ってかじる。

    甘いのは正直苦手だったが、剥いてくれた姫神に悪い。

    それに何と言うか、もう寝る気にもなれなかった。

    (……)

    一方通行は少し何かを考えて、ドアを見る。

    「……で、いつになったらオマエらは入ってくるンだ?」

    すると、待ってました、とばかりにドアが開く。

    「……超疑問ですが、いつから分かってました?」

    「そォだなァ、だいたい数分前か」

    そこから現れた連中を見て、一方通行は眉をひそめる。

    そこに立っていたのは、一人を除いて、包帯などで怪我の痕が見えている『アイテム』の面々だった。


    278 :

    「昨日は助かった。アイツらを守ってくれて」

    昨夜、彼女達は妹達の護衛をしてくれたらしい。

    それこそ、統括理事会の息の根がかかった連中から命懸けで。

    一方通行としては、彼女達には感謝の気持ちで一杯だった。

    「何言ってんだか。私達は統括理事会に従うのが面倒だっただけよ」

    そっけない態度で、麦野は返す。

    「…………そォか、ありがとよ」

    一方通行が笑うと、

    「あ、あの一方通行が超笑顔です……ッ!!」

    「こ、これはなかなかビックリする訳よ」

    「あくせられーた、笑顔似合ってるよ」

    「……っつーか、礼なんて言われる覚えは無いってば」

    四者四様のリアクションに、一方通行はさらに笑った。


    279 :






    「……っとと」

    突如、白い部屋で流行りのポップスが流れた。

    何だ? と思っていると、麦野がケータイを引っ張り出して、液晶画面を見た。

    どうやら、麦野のケータイの着信音らしい。

    (……ケータイって使ってイイのかァ?)

    病院ではペースメーカーなどの機械の故障を防ぐために、
    ケータイのような電子機器の使用は禁止されているはずだ。

    (……いや、そォか)

    そこまで考えて、自分がいる病棟では一応ケータイの使用が認められている事を思い出した。

    「……うっわ」

    とても嫌いな奴に偶然会ってしまったような声を出して、
    スピーカー部分を耳に当てようとせずに、彼女は大儀そうに通話ボタンを押した。

    すると――――



    『こいつと来たらーーーっ!!!!』



    先程流れた歌より、さらに大きな声が部屋中に響いた。

    途端に、滝壺以外の『アイテム』の三人が嫌そうな顔をした。

    麦野は無言で部屋の出口へと歩き出す。

    その間も、何やら電話の声がわめいている。

    ドアの前に立ち、麦野は振り返った。

    バイバイ、と手を振って、彼女は部屋を出た。


    280 = 279 :

    「……ウチの上司です」

    訳が分からない、といった顔をしている一方通行に、絹旗がため息混じりに説明した。

    おそらくは命令違反へのお咎めだろう、との事だった。

    「大丈夫、なのか?」

    命令違反という事はすなわち、統括理事会へと喧嘩を売ったも同然である。

    正直言って、安全だとは言えないだろう。

    ところが、

    「何、私達は超優秀ですから」

    「結局、仕事が増えるだけって訳よ」

    「うん、大丈夫だよ」

    まったく問題なさそうに、彼女達はあっけらかんとした調子で答えた。

    「…………なら、イイがな」

    一応納得したように言うと、彼女達は笑った。

    「――さて。それじゃ、超お大事に、一方通行」

    「またねー」

    「元気でね。あくせられーた」

    三人とも、麦野を追って部屋を出て行った。

    「……ホント、相変わらずだな、アイツら」

    誰もいない部屋で、一方通行は呟いた。

    ほんのちょっぴり、笑みを浮かべながら。


    281 :






    『まったくもう! ホント何やらかしてんのアンタらはーっ!』

    「だーかーらー。悪かったってば」

    非常に面倒そうに、麦野は上司である『電話の声』に応対する。

    さっきからこんな会話がずっとループしている気がする。

    「……で? ペナルティは?」

    いい加減に飽きて来たので、本題に入る事にした。

    『あぁ、あぁ、そうですかそうですか!
    人が頑張って色々と後始末したげたのにそんな態度で来る訳!
    まったくもーっ!! もうちょっと上司に対して敬意は払えないのかしら、こいつと来たらー!!』

    「うるせぇ。ちょっとは真面目な口調で喋れるようになったら、
    敬意でも何でも好きなだけ払ってやるから黙って報告しろよ、馬鹿」


    282 = 279 :

    ぬぐぐ……ッ!! と何やら悔しそうにしている『電話の声』だったが、
    すぐにこうしている時間が惜しい事に気付いたらしく、さっさとペナルティの報告だけして通話を切った。

    「……」

    やれやれ、といった感じにケータイをしまう。

    そこへ、ちょうど絹旗達が一方通行の病室から出て来た。

    「あぁ、麦野。向こうは何て?」

    「んー、仕事増やすんだってさ。早速今日から大忙しよ」

    とりあえず移動開始ー、とやる気のない声で告げて麦野は率先して歩く。





    (……垣根帝督、か)

    病院の玄関口で下部組織からの迎えを待ちながら、ぼんやりとその名を思い出す。

    昨日の夜、自分達をたった一人で圧倒した男。

    己と同じとは思えない、超能力者の第二位。

    麦野はゆったりとした動作で仲間を見る。

    非戦闘員である滝壺を除く皆――麦野も含む三人は、目には見えないが、それなりに怪我を負っていた。

    (……クソッタレが)

    彼女は空を見上げて、昨日の事を考えてみた。


    283 = 1 :






    とある研究所の敷地内に、三人の少女がいた。

    そのうち二人は地面に倒れ伏せて、残り一人は膝を突いている。

    「ハァ、ハァ……ッ!!」

    膝を突く少女――麦野沈利は肩で息をしながら、上空を見上げる。

    そこには、

    「――あー、もう終わりで良いか?」

    圧倒的で絶望的な力を振るう、天使の翼を持つ悪魔がいた。

    悪魔――垣根帝督はにこやかに告げる。

    「いやはや、あんま手間取らすなよな。
    テメェらなんざあくまでオマケなんだから」

    まるで彼女達の事など眼中にないように言った。

    いや、実際眼中になどないのだろう。

    麦野達『アイテム』は、この街では上位に君臨する暗部組織だ。

    だと言うのに、この男の前ではまったく意味を成さない。

    もはや、存在する世界が違うのだ。

    麦野には、目の前の男と自分が同じ超能力者だなんて、全く思えなかった。


    284 = 278 :

    「じゃな、第四位。仲間と一緒に華々しく散らせてやる」

    垣根が六つの羽の内、四つを展開させる。

    そうして、それらを勢いよく振りかぶった。

    麦野はギュッと目を閉じる。

    これから来るであろう痛みを予想して、彼女は『原子崩し』を撃つ準備をする。

    この男に殺されるぐらいなら、自殺を選んだ方がマシだと思ったのだ。

    (……ゴメン、一方通行)

    脳裏に浮かんだ『友達』に謝った。

    それが、麦野沈利の最期の言葉になる。



    ――はずだった。



    「……え……?」

    突如、闇夜に似つかわしくない明るい音が響いた。

    何事か、と麦野はそっと目を開く。

    すると、垣根が面倒そうに何か――おそらくはケータイだ――を取り出しているのが見えた。

    「……何だよ、もうちょいで終わるトコなのに」

    彼はケータイを操作して、誰かととても余裕のある様子で話していた。

    それがまた屈辱的だったが、麦野には何も出来なかった。


    285 = 1 :

    「――はぁ!? んだそりゃ!!」

    少しして、垣根はケータイに向かって怒鳴り付けた。

    何かトラブルでも起きたのだろうか。

    「いやいや待て待て! マジかよ、おい!
    ……あーそうかよ。分かった、分かったよ!」

    チッ、と舌打ちしてから、垣根はケータイを仕舞って麦野達を見下ろす。

    何も出来ずに、麦野はただただ垣根を睨み付ける。

    すると、垣根は疲れたように告げた。



    「……運が良かったな、第四位。今日は見逃してやるよ」



    「………………な」

    思わぬ言葉に呆然としてしまった。

    「…………じゃあな、あばよ」

    麦野が何か言う前に、垣根はさっさと飛び去って行った。

    「な、待ちやがれ、テメェ!!」

    慌てて走りだした麦野だったが、あまりの速さに追いかける事も出来なかった。


    286 :






    (…………)

    思い返すだけで、怒りが沸き上がる。

    あの時、自分のプライドは見事にボロボロにされた気がした。

    (……もっと強くなってやる)

    あの男を、殺してやりたい。

    (『スクール』の垣根帝督……この屈辱は忘れねぇぞ)

    確かな決意を、心に強く刻み付ける。

    とそこへ、クラクションを鳴らしながら青のワゴン車がやって来た。

    おそらくは、下部組織の迎えだろう。

    「……さ、行きましょうか」

    そう言って、絹旗から車に乗り込む。

    麦野はそれをぼんやりと見ていた。

    「……むぎの、来たよ?」

    車に乗らない彼女に、滝壺が後ろから声を掛ける。

    「……へ? あぁ、ゴメンゴメン」

    謝りながら、麦野は車に乗り込んだ。

    「………………むぎの?」

    そんな彼女の背中を、滝壺は不安げに見つめていた。


    287 :






    「……ふわァァあああ」

    一方通行は大きく伸びをした。

    麦野達が出ていって、かれこれ数十分は経った。

    もうそろそろ、昼食を取る平均的な時間――正午だった。

    (……上条ントコ行くか)

    礼を言うついでに昼食にでも誘うか、などと考えながら、一方通行は起き上がる。

    そこへ――――

    「あン?」

    コン、コン、と控え目なノックの音がドアの向こうからした。

    「……はい? 開いてますよォ」

    誰だ? と疑問に思いながらも、ドアの向こうの人物に声を掛ける。

    ガチャリ、とゆっくりとドアが開かれる。

    「……ッ!! オマエは……」

    そこにいた人物に、思わず目を見開く。

    名門常盤台中学の制服に身を包んだ彼女の名は、御坂美琴。

    通称、『超電磁砲(レールガン)』。

    妹達を生み出すのに必要なDNAの提供主である、超能力者の第三位だ。


    288 :

    「…………」

    「…………」

    嫌な沈黙が場を支配している。

    一方通行も御坂も、ただ黙って立っていた。

    突然の訪問者にどう対処すれば良いのか、一方通行には分からない。

    何か言わなくては。しかし何を?

    ――どうしてここに来たのか。

    ――そもそも何故ここに自分が居るのを知っているのか。

    様々な疑問が、浮かび上がっては消えていく。

    そして――――

    「……あ、あの」

    御坂がこちらをじっと見て、小さく口を動かそうとしていた。

    一方通行は、内心身構える。

    自分は彼女にあまり良い感情を持たれていない、と思う。

    普通に考えたら分かる話だ。

    何せ、ほんの二日前に彼女の目の前で、彼女と同じ顔をした人間を――殺してしまったのだ。

    おまけにあの様子から考えるに、彼女は『実験』の全容を知っていたのだろう。

    それであの場にいたという事はつまり、彼女は『実験』を止めるつもりだったのだ。

    そんな彼女からすれば、自分は憎むべき悪魔のような存在に違いない。

    ある程度覚悟を決めて、一方通行は彼女の言葉を待った。

    やがて御坂は、何かを決意したような表情をすると、



    「――――ごめんなさい!!」



    思いきり、頭を下げた。


    289 = 288 :






    「……全部、芳川って人から聞いたわ。
    あなたが騙されてたって事とか……あの子達を守るために戦ってくれたって事も……」

    目の前の少女は、本当に申し訳なさそうに謝ってきた。

    「……なのに、私は勝手に一人で勘違いしちゃって……。私、あなたに酷い事しちゃったわ」

    ポツポツと言葉を紡ぐ彼女に、一方通行は何も言わない。

    黙って、御坂を見た。

    彼女が本気で謝っている事は見ていて分かる。

    一方通行は瞳を閉じた。

    思い浮かんだのは数日前の、ある公園での出来事だった。

    そこにあった確かな『日常』。一方通行も御坂もいた、平凡な日々。

    (…………)

    彼は何かを考え、

    「……頭、上げてくれ」

    ポツリ、と呟くように告げた。

    「…………オマエは何も悪かねェよ。
    オマエがどォしてDNAを提供したかなンて俺は知らねェ。
    ……だけどよ、少なくともオマエが『実験』に協力したくて提供した訳じゃねェ事は分かる」

    だからよ、と一方通行は未だに頭を上げようとしない御坂を見る。

    「……謝らねェでくれよ。俺はオマエにそうして欲しかったからアイツらを守ろォとしたンじゃねェ。
    ……オマエやアイツらに、もっと普通の――ホントに、くだらねェって笑い飛ばせるぐらいの――『日常』を過ごして欲しいンだ」


    290 :

    そう、一方通行の望みはたったそれだけだった。

    こんなくだらない事で、『非日常』に立たされる事になった連中。

    そんな人々を、元の場所に戻したかった。

    かつて自分に、光ある世界に戻るきっかけを作ってくれた温かい人々のように。

    何となく思い出したのは、そんな人々の中心に居た『彼』の姿。

    あァ、そうか、と彼は突然納得した。

    きっと自分は、あの背中をいつの間にか目標にしていたのだ、と。

    「……とにかく、だ」

    一方通行は御坂を見る。

    彼女は、ようやく頭を上げてくれた。

    「……頼むから、そンな顔すンなよ。
    ンなツラされると、俺もダチも何のために頑張ったか分からなくなっちまう」

    「………………」

    御坂は俯くと、

    「……あり、がとう。一方通行」

    ただ、一言だけ告げた。


    291 :

    溜まった監視中のSS見てから寝ようと思ってたらリアルタイム遭遇だなんて

    292 = 287 :






    「…………」

    一方通行は椅子に座り込んでいた。

    御坂は、もうここにはいない。

    (……守った、ねェ)

    ぼんやりと、彼は壁を見つめる。

    どこまでも真っ白な部屋で、少年は思う。

    (…………この大嘘つき)

    確かに自分は、妹達を二万人は守ったかもしれない。

    だが、それは二万一人ではないのだ。

    一人だけ、一方通行が殺してしまったのだから。

    理由はどうあれ、そのたった一人を死なせてしまったのは、心の弱い自分だ。

    そう思うと、胸が締め付けられるような苦しい痛みが走る。

    ……おそらくこの痛みは、自分が一生背負わなくてはならないモノだろう。

    (……今さら何だよ)

    この痛みだって、背負いきってみせると決めたではないか。

    まったく情けねェな、と思っていると。

    「……何をそんなにぼーっとしているのでしょうか、とミサカはボケた老人のような一方通行に声を掛けます」

    突然の声に、一方通行は驚いた。

    誰かが背後に立っていた。

    一方通行は振り向いて、誰なのか確認する。

    「――――」

    その姿に、一方通行は見覚えがあった。

    御坂美琴と同じ背格好と顔立ち。

    唯一違うのは、おでこに引っ掛けた軍用ゴーグルぐらいだ。

    『彼女』の呼び名を、一方通行は知っていた。

    ――妹達。御坂美琴の軍用クローンだ。


    293 = 286 :

    一方通行は、彼女をじっと見つめる。

    対する彼女は、一礼してから一方通行に視線を合わせた。

    「……昨日はどうも一方通行、とミサカは挨拶します。
    ミサカの検体番号(シリアルナンバー)は07777号です、とミサカはあなたが覚えてくれているか確認します」

    「……あァ、ファミレスに居た奴だろ」

    第一位などと呼ばれているだけあって、一方通行は記憶力も良かった。

    「ええ、その通りです、とミサカは簡単に肯定します」

    彼女は相変わらずの無表情で答えて、一方通行をまっすぐに見る。

    「……何しに来た」

    とりあえず尋ねると、彼女はスカートのポケットに手をやる。

    「調整が始まる前にお返ししなければ
    と思いまして、とミサカはなかなか出てこないブツに若干苛立ちます。えいっ、そりゃ」

    そうして御坂妹(面倒だからこの呼びで固定)は何やら取り出すと、手を差し出した。

    そこには、昨日渡したクレジットカードがあった。


    294 = 278 :

    「……ったく、ンなモンあとで良かったっての」

    言いながら一方通行はそれを受け取り、財布にしまっておく。

    よくよく考えてみれば、彼女も『調整』のためにどこか外国に行くのだろうか。

    「……っつーか、オマエってドコの国に行くンだ?」

    聞いてみると、

    「ミサカは学園都市に残って『調整』を受けます、とミサカは報告します」

    何でも、彼女と他数人ほどはこの病院で『調整』を受けるらしい。

    冥土帰しがせっかく乗り掛かった船だからと、引き受けてくれたそうだ。

    「……ところで」

    御坂妹は一方通行を見据える。

    「……何だ?」

    とりあえず無難に聞いてみると、

    「他のミサカ達があなたに聞きたい事があるとの事です、とミサカはメッセンジャーとして仕事します」

    「…………聞きたい事、か?」

    ええ、と彼女は頷くと、こう告げた。

    「――何故ミサカ達を『実験』から開放したのでしょうか? とミサカは他のミサカからの疑問をぶつけます」


    295 = 287 :






    「……疑問、ねェ……」

    一方通行が数秒ほど黙ってようやく口にしたのは、それだけだった。

    「はい、とミサカは肯定しつつ答えを待ちます」

    「…………どォしてそンな事を聞く?」

    答える前に聞いてみると、

    「ミサカ達は『実験』のために生まれましたが、それが中止になってしまい、
    己の存在理由が無くなってしまったと、一部のミサカ達が戸惑っているのです、とミサカは報告します」

    「…………そォかい」

    一方通行は少し口を閉じてから、御坂妹を見返す。

    「……昨日言ったかもしれねェがな、オマエは世界にたった一人しかいねェ。
    分かるか? 替えなンざ利かねェンだよ。だから、存在理由はちゃンとある。
    オマエが死ンで、悲しむ奴がいねェなンて思うな。――少なくともここに一人、居るンだからな」

    そう伝えといてくれ、とだけ言った。

    「……分かりました、とミサカはネットワークで他の個体に送信します」

    妹達は互いの脳波をリンクさせる事で、
    独自の情報ネットワークを形成している、と昨日天井のレポートで見た覚えがある。

    どうやらそれを使って、早速伝えてくれたらしい。


    296 = 286 :

    「――送信完了です……どうやら同じ事を少し前にご友人がおっしゃられたようですが、とミサカは事務的に報告します」

    「あン?」

    友人? と一方通行は考えて――

    「……上条、か?」

    「はい、そうです。何でも10032号が上条当麻に同様の質問をしたところ、
    怒った彼にげんこつを頂きながら言われたそうです、とミサカは補足します」

    アイツらしいな、と内心思う。

    「……それでは、ミサカはそろそろ『調整』がありますので、とミサカは――」

    御坂妹は部屋を出ようとして、ピタリとドアに向かう足取りを止める。

    どうしたのだろうかと思っていると、彼女は振り返った。

    「……一方通行。ミサカの『調整』が一通り済んで、外出許可を冥土帰しから得られたら――」

    「……得られたら?」



    「――――ミサカと一緒に、今度こそ食事していただけませんか? とミサカはお願いします」



    それを聞いて一方通行は、

    「そンなの、いくらでも付き合ってやる。
    ずっと覚えててやるから――どンなに時間が掛かっても、ちゃンと治せよ」

    彼女の目を見て、しっかりと告げた。

    「はい。……『約束』ですよ、とミサカは立ち去ります」

    そう言って、御坂妹は消えた。

    「何だよ、アイツ――――」

    一方通行は、一人笑う。

    「――――あンな顔も出来ンじゃねェかよ」

    最後の最後に、御坂妹はかすかにだが、笑っていた。


    297 :






    「……さて、と」

    一方通行はゆっくりと立ち上がる。

    窓から外を見れば、気持ちの良い青空が広がっている。

    行くか、と一方通行は部屋から出ようとして――――

    「あくせられーた!!」

    勢い良くドアが開き、懐かしの銀髪シスターが現れた。

    驚いているうちに、さらに後から遅れて、ツンツン頭の少年がやってきた。

    「……よっ」

    「……おォ」

    二人は『いつも通り』に言葉を交わす。





    「……まったくもう、二人ともまた勝手に突っ走るんだから。
    ちょっとは心配させられる人の気持ちとかを考えてみて欲しいかも」

    その後、何やらお怒りのインデックスに色々と言われた。

    どうやら、相当心配してくれたらしい。

    「……返す言葉もございません」

    「……悪かった」

    その事を嬉しく思いつつ、上条と一方通行は謝る。

    「……分かってくれたなら良いんだよ。それよりもうお昼だし、ご飯にしよ?」

    特に事情を説明しようとしない二人に、インデックスは笑って告げてくれた。

    「あァ、そォだな。行くか」

    「うんっ!」

    言うや否や、インデックスは駆け出す。

    ……どうやらかなりお腹が空いていたらしい。


    298 :

    「……上条」

    「何だ?」

    インデックスを追って部屋を出ようとした上条は立ち止まり、こっちを見る。

    「……ありがとよ」

    改めて礼を言った。

    短いが、気持ちは充分に伝わる一言だった。

    すると――――

    「だーかーらー、言ったろ? 俺はお前の『友達』なんだから気にすんなよ」

    笑って、彼は返す。

    本当にどうでもよさそうに。

    「……あ、でもさ。出来れば新しいカバン買ってくんねーかな」

    「は? カバン?」

    思わず聞き返した。

    「あぁ、ボロボロになっちまってさ」

    上条が言うには、昨日の喧嘩の時に砂利の散弾の衝撃を少しでも防ぐために、
    カバンの中に鉄板を入れて防弾チョッキのようにしたところ、
    衝撃を緩和したのは良いが、カバンが本来の機能を無くしてしまったとの事だった。


    299 :

    「いやー、もうちょっとで二学期だろ? さすがに困るからさ」

    あ、良かったらでいいけど、と上条は付け加える。

    「……いや、構わねェよ」

    「ホントか? じゃあ頼むよ」

    そう言って、上条は部屋から出ようとして――――

    「あ、あともう一つ」

    またも立ち止まって、一方通行を見る。





    「――今度からは一人で抱えようとすんなよ。
    俺じゃそんなに手助け出来る事なんてないかもしれないけどさ」





    「……あァ」

    一方通行はコクリと頷く。

    それを見た上条は満足そうに笑って、よろしい、と言った。

    「どうしたの二人とも。何かあったの?」

    ひょこっとインデックスがドアから顔を出して、部屋に入ってきた。

    「何でもねェよ、インデックス」

    「もう! だから私にはインデックスって名前が……あ、あくせられーた今何て……?」

    「あン? どォかしたか、クソガキ」

    ニヤニヤと意地悪な笑顔を浮かべて、一方通行は外へ出た。

    「あ、ちょっとー!?」

    慌てて彼を追うインデックスの後ろから、上条が苦笑しながら歩き出した。

    そうして、自分を待っていた『日常(世界)』に、一方通行はまた帰って来た――――


    300 :

    そんな訳で三巻編でした!長かった! そして疲れた!
    シリアスな空気って難しいと思い知らされました。
    正直言ってシリアスなバトルより、もっと青春なバトルが書きたいです。
    ……早く大覇星祭にならねーかな。
    それでは次回は、3.5巻編、久々の日常編です!


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