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    元スレ上条「俺達は!」上条・一方「「負けない!!」」

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    852 :

    つーか>>848>>849もいちいちうるさい
    黙って氏ね

    853 :

    仲悪いなお前らwww。もっとびっくりするほどユートピアしようぜ?

    854 :

    お久しぶりです。
    復活しました。
    少ないけど書いてきます。

    855 :








    同時刻、神奈川県のある住宅街では。

    上条達科学サイドとは違う、魔術サイドの面々が事件解決のために行動していた。

    「警察もこういう時はきっちりしてるぜい」

    三人の魔術師の一人、土御門元春は周りに視線を送りながら誰かの家の庭を駆けていた。

    目的地である上条家の周辺にある全ての道路は、機動隊などがしっかりと封鎖して監視している。

    見つかると少しばかり厄介なので、こうして家と家の垣根、あるいは屋根までもを越えて進んでいるのだ。

    「凶悪殺人犯、ともなると本腰を入れない訳にもいかないのでしょうね」

    土御門の後を追い、屋根から庭に最低限の音を立てて着地した神裂火織が答える。

    ニメートルもの刀身を誇る日本刀を持つというのに、彼女は何の問題も無しに素手の土御門と同じ速度で付いてきていた。

    『聖人』という特殊な体質を抱く彼女にとって、この程度はなんでもないのだ。

    時に止まり、時に素早く動き、彼らは目的地まで最短のルートで向かう。

    「……時にねーちん」

    最後尾にいるミーシャと名乗ったロシアの魔術師をチラリと窺って壁の上を跳び移りながら、土御門は神裂に声を掛けた。

    「? 何でしょう?」

    答えながら、土御門と位置を入れ代わった神裂は跳び移ったと同時に壁の上から中庭に入る。

    そのまま一気に正面を走り、また別の壁で一度止まる。

    監視の目がちょうど外れるタイミングを待つためだ。

    位置を代えたのは、最も五感が優れている彼女に判断を任せるべきだと考えたからである。


    856 :

    そこで、土御門は改めて神裂を見る。

    真剣な面持ちの魔術師もまた、土御門に向き直る。

    彼は青いサングラスを直すと、



    「恩返しの仕方は決まったか?」



    ただ一言、真剣な口調で告げた。

    瞬間、神裂は無表情で土御門を一瞥して、青空へと向き直る。

    無表情ではあるが、彼女の独特な緊張感のある雰囲気は失せて、やれやれとでも言いたげなモノに変化していた。

    「……言っておきますが、メイドはしませんよ」

    呆れたように神裂はため息を吐く。

    土御門の言う恩返し、というのはある少女を救った二人の少年達に対するお礼のことだ。

    色々なごたごたの末、神裂ともう一人(おそらくこちらの方にはそんな考えは無いが)はまだ礼の一つも伝えていなかった。

    その分も含めて、と何故か関係ない土御門が提案したのが『メイドモードでご奉仕作戦だにゃー!』、だった訳である。

    ……もちろん、彼女は全力で拒否したが。

    「えー。一方の反応とかきっと見物だと思うんだがにゃー」

    つまんねーのー、と土御門が先程の真面目な表情はどこへやら、緩みきった顔で呟く。


    857 :

    「彼の性格上、何も言わないで無視する可能性の方が高いでしょう。
    ……というか、貴方やっぱり私で遊ぶつもりだったんですか。とても良い度胸です……」

    ゆっくりと神裂が刀の柄に手を掛けたところで、土御門は慌てた様子で両手を広げて横に振る。

    「お、オーケーオーケー。落ち着くんだぜいねーちん。ここで見つかりゃアウトですたい」

    「……」

    諌めるような正論に納得したのか、ちょっとした冗談(ツッコミ)のつもりだったのか、神裂はあっさり引き下がった。

    変な汗が全身を流れるのを感じながら、土御門はとりあえず曖昧に笑っておく。

    少しやりすぎたか、と反省する。

    からかった相手が相手なので、正直なところ、ツッコミ一つでもそれなりに危険なモノがある。

    今度からはちょっと気をつけておこう。

    ……少なくとも、このネタを使う時は。

    「……問一、そちらは本当に火野を捕まえるつもりがあるのか」

    一人だけ、真面目に仕事をしに来ているロシアの少女が冷ややかな目で土御門達を見る。

    それを合図に、軽いおふざけは終了し、空気が真面目なモノに切り替わる。

    ちょうど監視のタイミングも切り替わり、神裂とミーシャが同時に跳んだ。

    (……謝る、ね)

    ぼんやりと前を行く魔術師二人の背を見ながら、土御門は先程の神裂に対する話題を思った。

    彼にもまた、一つ友人に謝っておきたい事があったのだ。


    858 :











    「――さて、報告は以上だ」

    八月十九日、学園都市第七学区の『窓のないビル』。

    土御門元春はそこに来ていた。

    学園都市での、ちょっとした仕事の報告のためである。

    普段とは違う淡々とした事務的な調子で話す彼の姿は、彼を知る者が見れば違和感を持つことだろう。

    もっとも、土御門にはそんな姿を見せるつもりはそうそうないが。

    『ふむ、ご苦労だったな』

    あまり気の入っていない労いの言葉に、土御門は前を見る。

    そこには、仕事の依頼主――学園都市統括理事長であるアレイスターが居た。

    ただの『人間』は、魔術師の客として来ようと仕事の話をしに来ようと、いつも変わらずビーカーの中だ。

    最初は内心奇しく思っていたが、学園都市に転居して数年で、その奇妙な光景に土御門もだいぶ慣れた。

    土御門は青のサングラスを適当に掛け直すと、背を向けて歩きだす。

    正直な話、この場所には用が無い限りは一マイルだって近寄りたくない。

    仕事が終わった以上、さっさと『案内人』に連れていって欲しいところだ。

    ちなみに『案内人』というのは、このビルに入るための空間移動能力者の事だ。

    『窓のないビル』には入口が無い。

    なので、そういった能力を使う人間が代わりに使われているのだ。

    まぁどうでもいい事だ、と土御門はそれを思考から削除する。


    859 :

    とにかく、帰ってゆっくり義妹の料理に舌鼓でも打つとしよう。

    たまにはあの友人達に少しぐらい分けてやろうか。

    もちろん、拝み倒させてから。

    そんな『日常』に思いを馳せながら、土御門はいつになく現れるのが遅い『案内人』を待つ。

    ――――だが、

    『あぁ、待ちたまえ』

    そういった期待は、一度止められてしまうこととなった。

    心の中で舌打ちしながら、土御門は振り返る。

    「……何だ? 仕事の依頼か?」

    『いや? そういう事ではない』

    何故か笑みを浮かべながら、アレイスターは告げる。

    その笑顔にうすら寒い何かを抱きながら、土御門はアレイスターの言葉を待つ。

    刺すような視線に、アレイスターは表情を崩さずに言葉を紡ぐ。

    まるで十八番の歌をたくさんのファンの前で歌う歌手のように、楽しそうだった。

    何なんだ、と土御門は身構え――

    『今日は泊まっていきたまえ』

    肩の力が、抜けた。

    「……そいつは何かの冗談か? 言っておくが、オレはこれでも大忙しだ。貴様の冗談にまでは付き合わんぞ」

    実のところ、土御門はイギリス清教だけでなく、学園都市やその他多くの組織でスパイ稼業をしている。

    所謂、多角スパイという訳だ。

    この後も、夕食を取ってから別口の仕事がある。

    アレイスターの話し相手をやっている暇など、こちらにはない。


    860 :

    来てる……だと!?>>1お帰りなさい!

    861 = 858 :

    『まぁそう言うな。それに、これも遊びではなく立派な仕事さ』

    言葉と同時、土御門の目の前に文字が浮かぶ。

    ホログラムでも使っているんだろう、と自らを納得させ、彼は目を細めながら文字の列を目で軽く追う。

    「これは?」

    まだ一文も読めていないが、見たところ何かの資料のようだ。

    『「絶対能力者計画(レベル6シフト)」』

    「…………何だと?」

    『君の友人が今夜行う「実験」の資料さ』

    「………………」

    友人、と言われて思い浮かんだ人物に嫌な予感がした。

    素早く、黙々と土御門は文字を追っていく。

    そして、

    「っ!? アレイスター、貴様……ッ!」

    『ふふふ。そう睨むな土御門』

    「ふざけるな! 貴様今すぐここから出せ!! 何ならその機械を破壊しても構わないんだぞ」

    叫びながら、土御門はアレイスターの生命維持装置らしき物体に
    近付き、彼の入っているビーカーに繋がるチューブに手を掛ける。


    862 = 859 :

    『それはそれは。お好きにどうぞ』

    「………………」

    余裕のある調子で返すアレイスターを睨みつつ、土御門はそっと手を離す。

    おそらく、いや、何となく分かってはいたが、このビーカーに繋がっているチューブなどは全てダミーなのだろう。

    自らの弱点を敢えて晒す理由など無いのだ。

    『ま、もう遅いさ。「被験者」はもう「実験場」に到着したようだからね』

    余裕のある声と共に、土御門の目の前のモニターが切り替わる。

    どこかの操車場で、何も知らないであろう友人が、まさに最悪の一日の始まりに足を突っ込もうとしているところに。


    863 = 856 :








    『やぁ、垣根帝督』

    『あん? どちら様だ?』

    『君が今一番話したがっている人間さ』

    『ほー、そりゃまたありがたやありがたや。……で? 何の用だ、統括理事長さんよ』

    『手短に言う。作戦は中止だ、撤退したまえ』

    『――はぁ!? んだそりゃ!!』

    『ふむ。伝わらなかったかね? 撤退したまえ、と言ったんだ』

    『いやいや待て待て! マジかよ、おい!』

    『私はいたって真剣だ。撤退したまえ』

    『……あーそうかよ。分かった、分かったよ!』

    チッ、とあからさまな舌打ちと共に通信が切れた。

    「……これが狙いか?」

    土御門はそう言って、二つのモニターに目をやる。

    一方に映っているのは、今まさに六つの翼をたなびかせて、ある研究所の敷地を飛び去る超能力者の第二位。

    もう一方には、まるでテレビ中継のように土御門の友人二人が映っていた。

    その内の一人である『最強』は気絶しているようだ。

    先程まで、彼らは文字通り『激闘』を繰り広げていた。

    その様を、土御門はさんざん見せられていた。

    それを共に見届けた逆さまの黒幕(アレイスター)は小さな笑みを作る。

    『全てはプラン通りさ』


    864 :

    『プラン』――その言葉に、土御門は眉をひそめる。

    それは、遥か昔――学園都市創設期からアレイスターが進めていたらしい、ある計画を指す。

    土御門もその詳細を知らない。

    ただ分かるのは、それがろくでもないモノだということ。

    そして――それの根幹部分に彼の『表』の友人達が深く関係している、ということだ。

    たったそれだけ。

    土御門には、何も出来ない。

    アレイスターの手の上で踊らされるだけだ。

    それだけの事実に、土御門は。

    「……オレは帰るぞ」

    ここを去ることしか、出来なかった。

    あぁどうぞ、という声をもう一度背にして、土御門は帰路に――――

    「――アレイスター、一つ教えてやる」

    立ち止まり、振り返らずに口を動かす。

    きっと後ろを向けば、アレイスターはあの気に食わない顔で笑っているだろう。

    だから、振り返らない。

    『何かね?』

    どこか小馬鹿にした調子で――まるで、王に抗うことも出来ない愚かな奴隷に語りかけるように――科学の王は応えた。

    奴隷は、強く、王の道具(オモチャ)への期待を込めながら告げた。


    865 :

    「あの二人を、あまり舐めるな」

    敗者――いや、勝負ですらしていないが――の言葉に、王は何も言わない。

    言う必要もないほどに、馬鹿馬鹿しい忠告だと思ったのかもしれない。

    事実、その通りだ。

    くだらない『実験』を止めることは、アレイスターの企みを潰すどころか、成功させてしまったようだ。

    結局、友人達は何一つ勝っていない。

    ただ、利用されただけだ。

    しかし、それでも、と土御門は思う。

    今はまだ、友人達は自分のように駒なのかもしれない。

    だが、いつかきっと、

    「制御を誤れば、アイツらはお前のプランなど握り潰すぞ」

    そう、彼らならば。

    彼らならば、王を刺す奴隷になるかもしれない。

    自分とはまた違う、彼らならば。

    『それはそれは。肝に銘じておこう』

    あくまでも余裕を崩さない王を、奴隷は内心で笑う。

    近いうちに、必ず顔を真っ青にしてやろうと誓いながら。


    866 :











    (……謝る、か)

    自分がもっと情報を手早く拾えば、友人達に手間を掛けさせずに済んだ……かもしれない。

    人を殺し、その事に苦悩を抱かずに済んだ……かもしれない。

    だが、どちらにせよ土御門は動けなかっただろう。

    どこの世界に自らの正体を暴くスパイがいるだろうか。

    軽い調子で明かしたが、今回の事は事態が事態だったからである。

    結局、何よりも彼は自分の大切な物へのリスクを優先した訳だ。

    謝ったところで何の意味もない。

    それで死人が蘇る事がないのは、彼はよく知っている。

    それでも、そんな事を考えたのはきっと、彼が一方通行を――

    「土御門、どうかしましたか?」

    呼びかける声に、土御門は意識を戻す。

    しまったな、と彼は苦笑いを浮かべる。

    (……仕事中に何やってんだオレは)

    他の事に意識を集中させるなど、プロとしてあるまじき事だ。

    こういった世界で生きる以上、覚悟を完全に決めている彼なのだが、やはりまだまだという事なのかもしれない。

    「いんや、何も」

    何でもないように返して、土御門は気を取り直して前を見る。

    全ては、後回しだ。


    867 :








    「……クソッ」

    とある民家のリビングにて、男――火野神作は苛立ちを感じながら、その辺にあった棚を蹴る。

    ゴン、と衝撃音がして、棚の上にあった家族写真らしき物が落ちるが、彼は気にしない。

    昨夜、必死の逃亡の末に見つけた無人の民家に無理矢理忍び込み隠れているのだが、いい加減限界を感じていた。

    謎の少女に負わされた怪我についても、出血などは手当出来たが、骨折については別だ。

    おまけにどこから嗅ぎ付けたのか、機動隊が辺りを包囲しているようだ。

    このままでは、再逮捕は当然だろう。

    「……ぐ、うぅぅう、え、エンジェル様」

    折れた腕が痛むのを無視して、火野は折れてない片腕を凝視する。

    ただし、実際に火野が見ているのは手首の先の指に握られたナイフだ。

    先程から、火野の手中のそれはガリガリと、彼の意思とは無関係に同じ文字を何度も壁紙や床に刻んでいた。

    Give up(諦めろ)、と。

    868 :

    「……う、エンジェル様ぁ、エン、ジェル……」

    祈るように火野は手首を握りしめる。

    まるでそれは、神託を待つ預言者のようであった。

    しかし、祈りは届かない。

    「ふざけるな……エンジェル様だろ、エンジェル様なんだろぉぉぉぉおっ!!」

    狂ったように叫び、火野は近くのサイドテーブルにあったガラスの灰皿を手に取る。

    折れた痛みなど、完全に忘れていた。

    そうして、それを何度も何度も指に向かってたたき付ける。

    ミシリ、ボキリ、ゴキン。

    様々な破壊音が広い部屋に響く。

    何度も何度も、火野は骨が砕けるまで灰皿を振りかざした。

    「ハァー……ハァー……」

    完全に使えなくなった指を尻目に、火野は息を深く吐いた。

    力が抜け、その場に座り込む。

    憑き物でも落ちたかのような表情で、彼は呆然と天井を仰いだ。

    「…………エンジェル様」

    掠れた声で名を呼ぶ。

    しかし、何も起こらない。

    何も――

    「――やぁ、どうも」

    いや、何かが起きた。

    火野は前へと顔を動かす。

    誰かが、そこにいた。

    誰かは分からない。

    逆光で、シルエットしか分からないのだ。

    ただ、警官には見えなかった。

    「エンジェル、様……?」

    呆然と、呟く。

    ひたすら執着していたそれの名を。

    「いいえ」

    影は短く答える。

    「そんなもの、居ませんよ」

    断言するように自らの信じる物を否定する声に、しかし火野は、壊れたようにただ小さな微笑を浮かべた。


    869 :








    神奈川県のとある浜辺――

    「そら、よぉ!」

    「ハッ、そンなアタック決まるかっつーのォ!」

    「ぬおぉぉおお!?」





    ――この瞬間、最も熱い戦いがそこで繰り広げられていた。





    観光客がさっぱりいない浜辺で、少年、上条当麻はうなだれていた。

    空も海も清々しいほどに青く、足の裏の砂浜からはかなりの熱と、柔らかな感触を得ていた。

    周りにいる人が、両親と居候、それに謎の妹キャラ(一応従姉妹)しかいない事を除けば、
    誰でも暗い気分なんて宇宙の彼方にだって吹き飛ばせそうな状況だ。


    870 = 869 :

    しかしながら、上条はそんな気持ちにはなれなかった。

    原因は単純明快だ。

    ゆっくりと、彼はツンツン頭を上げた。

    そこには、ニヤニヤと人の悪い笑顔を浮かべた親友(原因)が立っている。

    両親が持ってきたらしい、ビーチバレーに使うボールを手に持って。

    小一時間ほど前、せっかくだから一対一でビーチバレーのような事をしよう、という話になった。

    結果については、言わずもがなだ。

    いつぞやに不良と楽しく街中を駆け回った時よりも疲れたように、上条は口を開く。

    「……なー、能力使いまくるのって卑怯じゃねぇか?」

    「ほー。『お前貧弱だし能力使うぐらい上条さんは構いませんよ、はっはっはーのはー』……って言ったのはオマエだろ」

    どうしてかは分からないが、神裂のように淡々とした調子で一方通行は返す。

    あー、そんな事言ったけー、と上条は軽い気持ちで口にするんじゃなかったと後悔してみる。

    一応、確認のために聞いておく。

    「………………もしかしなくても『貧弱』って言ったの、結構怒ってる?」

    「さ、俺のサーブからもう一戦やろォぜ」

    「やっぱ怒ってんだろ!?」

    思わず頭を抱える上条だったが、全て遅かった。

    彼に足りないモノ、それは速さだったのかもしれない。


    871 :

    「お兄ちゃーん、がーんばっ、てーっ!!」

    「とうま、根性なんだよ!」

    少し離れた場所から、試合観戦者の声がする。

    もういっそ、彼らに援軍を頼んで五対一にするぐらいしないと勝てない気がした。

    「超能力ってすごいんだなぁ」

    「本当。いい歳して私ったら、ワクワクしちゃったわ」

    「何だ、母さん。まだまだ母さんは若いじゃないか」

    「あらあら。刀夜さんったら、お世辞が上手なんだから」

    「ええいそこ! 少しは年齢を考えろ、年齢を!」

    いい年していちゃついている両親に呆れながら、上条はもう一度戦場へと向かう。


    872 = 865 :








    暑い中での白熱ビーチバレー、その結果はもちろん……。

    「あー、もうダメだ」

    おんぼろな個室シャワーから出てきた上条は、肩を落とした状態で夕暮れの空を仰ぎ見る。

    結局、勝負には負けた。

    一対一どころか、最終的には両親にインデックスや従姉妹を加えた五人がかりで挑んだ。

    それなのに、負けた。

    くっそー、と上条はちょっとした悔しさを胸に秘める。

    「オイオイ、体力だけは一級品だろ?」

    出てきた上条に気付いた親友が、浜辺から来る。

    余程珍しいのか、彼は勝負が終わってからずっと海を眺めていたらしい。

    能力のおかげで、汗一つ流していない。

    「悪かったな体力馬鹿で。もう二度とお前とビーチバレーしねぇ」

    適当に返しながら、上条は海の家へと歩く。


    873 :

    「……褒めてるつもりなンだがな」

    何か呟きを残して、一方通行も後を付いてくる。

    早く夕飯にしたいな、と湧いてきた食欲を感じながら、上条は海の家に入る。

    中に入ってすぐにある食堂には、もう全員が――

    「あれ、親父達は?」

    と思っていたが、父親と母親がいなかったことに上条はすぐに気付く。

    「あー、おじさんは何か電話に出てどっか行っちゃったよ」

    おばさんは夕食作り手伝いに行っちゃった、とそばのテーブルにもたれている御坂もどきがけだるそうに答える。

    彼女はあまり運動の出来るタイプじゃなかったようだ。

    いや、単純に一方通行が強すぎただけかもしれないが。

    同じく、インデックスという名の大男に至っては、疲労のためか別のテーブルに突っ伏して眠っている。

    「えへへ……とーまぁ、あくせられーたー」

    心地良さそうに出てくる寝言に、いつの間にか上条はちょっとだけ背筋を凍らせていた。

    普段通りの少女だったら、まだ嬉しい。

    が、今の彼女はとてつもなく低音な声色だ。

    つまり、まぁ。

    正直、嫌な絵面しか思い浮かばない訳だ。

    例えば、砂浜で追いかけっこしあう野郎共とか。

    ……想像するんじゃなかった、と上条は少女達とは違うテーブルに座った一方通行を見る。


    874 :

    彼は寝言を特に気にしていないらしく、昼寝から目覚めたばかりの三毛猫を眠る主人の代わりに相手していた。

    意外と学園都市最強はこういうペットの世話が得意だったりするのかもしれない。

    楽しそうにしている猫を見ていると、そんな気がしてきた。

    「……何かお前の方が飼い主っぽいな」

    適当に思った事を言いながら、上条は隣に座る。

    「……主人と遊び相手の区別がついてるだけだろ」

    上条の方を見ずに、一方通行が猫を撫でながら答える。

    ……まんざらでもないくせに、と言いかけて止める。

    何となく、面倒そうな予感がした。


    875 :

    ん、と上条は背伸びをする。

    それから、今日の事を思う。

    何だかんだ言って、事件の事を考えなければ、今回は良い外出だった。

    これも、数少ない『思い出』の一つに加えていいぐらいには。

    (……またいつか、今度は三人だけで外に出たいな)

    染みだらけの天井を眺めながら、そんな事を上条は心に浮かべていた。

    何も無い自分には、そうやって新しい『思い出』を作るしかないのだから。

    そう、所詮は借り物の――

    (……ちょっと暗かったな)

    やめやめ、と少年は余計な想いを振り払う。

    純粋に楽しんだ方が、何となく自分らしい。

    それだけは、自信を持って言えた。

    「ん?」

    ふと、親友のケータイの着信音がするのが聞こえた。

    音源を見れば、彼がケータイの画面を見て、無言で首を振っていた。

    外に、という合図だ。

    「出てくる」

    短く言って、一方通行はまた砂浜の方に向かう。

    「あ、俺も忘れ物してきたみたいだから、ちょっと」

    適当な事を言って、はいはーい、という従姉妹の声を背に、上条も後を追う。

    何故か分からないが、僅かに不安を感じながら。


    876 = 874 :








    『……よー』

    「……土御門か」

    海の家からだいぶ離れた波打ち際にて。

    スピーカーフォンに切り替えたケータイからした、何時間ぶりかの友人の声に一方通行が答える。

    土御門の声は、僅かに暗い。

    『悪いニュースだ、火野は犯人じゃなかった』

    単刀直入な報告に、上条が驚きを顔に表す。

    一方通行はただ眉根を寄せた。

    『振り出し、かもにゃー』

    あくまで余裕を崩さない土御門の声に、一方通行も冷静に返す。

    「何でそンな事が分かる?」

    当然の疑問をぶつける。

    火野は刀夜と違い、一番怪しい存在だったはずだ。

    まさか、自分達と同じように『質問』程度で済ませた訳ではないだろう。

    そして、そんな一方通行の疑問に、土御門はシンプルな結論を提示する。

    『――火野が死んだ。なのに術が解除されてない』

    「し、死んだ、って……」

    思わぬ答えに、上条は完全に動揺していた。

    聞いた一方通行も、静かに驚いていた。

    あまりにも意外すぎたのだ。

    土御門達はプロだ。

    みすみす容疑者を死なせるような事はしないだろう――そう思っていたのだ。

    『オレらじゃねーぜい?』

    取り繕うように土御門が言う。

    自分だって予想外だ、とでも言いたげに。


    877 = 868 :

    『ただ、カミやんの家の中に入ってすぐにな、死体があったんだ』

    いわく、土御門達が三方向から上条の家に侵入しようとした時、玄関から入った土御門が見つけたらしい。

    死体は魔術などではなく、刃物で何度も刺されていたらしい。

    土御門は更に告げる。

    『こうなっちまうと、上条刀夜が怪しくなる訳さ』

    それは……そうだろう。

    一方通行はすぐに納得した。

    火野は、上条の家で死体となっていたのだ。

    偶然というよりは誰かが彼を誘導した、と考えた方が理に合っている。

    例えば、主犯が協力者の口封じを狙ったとか。

    (……ッ、アホか俺は)

    自然と浮かんだ仮説を、一方通行は消し去る。

    冗談じゃない。

    あの人は、あの人はそんな人間ではない。

    「でも、父さんは魔術なんて……!」

    ちょうど同じような事を考えていたのか、上条が必死な顔で土御門の言葉を否定をしようとする。


    878 :

    そんな上条に、土御門は淡々と返す。

    『それは分かってる。上条刀夜の経歴を調べられるだけ調べたが、全く怪しい所が無かったからな』

    「ならやっぱり……」

    『ただし』

    勢い込んで言葉を出そうとする上条を土御門は途中で遮る。

    彼なりに上条を落ち着かせようとしているように聞こえた。

    『やはり、可能性は追うべきだ』

    諭すような声に、上条は俯くと、

    「……どうするんだ? もしも拷問なんてするつもりなら」

    『それは大丈夫です』

    言い切る前に、神裂の声がする。

    穏やかな声色だった。

    これまで聞いてきた中では一番自然な調子で、慈愛に満ちていた。

    刀夜を強く心配する上条を、少しでも安心させようとしているのかもしれない。

    そうしてそれに繋げるように、土御門は言った。

    『なーに、本人の記憶を見るだけさ』


    879 :

    以上で打ち止め。
    余裕も出来たので、これからはペースを上げようかと思います。
    来れなかった分、二、三スレ埋まるぐらい書き溜めたかったな……。
    とにかく、また会いましょう。
    PS、最近になって腹パンの意味を知りました。

    880 :


    溜まってるぜェ腹ぱンがよォ

    882 :

    きてたあああああああああああああ!
    リアルタイム乙!

    883 :

    正直、ここまでのあらすじが欲しいぐらいだが、来てくれてありがとう。

    884 :

    うわあぁぁぁ乙!!!
    大分原作と展開が違って先が読めないわー

    885 :

    乙!
    ずっと待ってました!

    886 :

    スレタイがパイレーツーワールドを思い出させておセンチ気分に
    今からよむわ

    887 :

    夢じゃ……ない!!
    乙!!
    おかえり!!

    889 :

    よっしゃああ!

    890 :

    ずっと待ってた乙
    とりあえず腹パンしとくか

    892 :

    お帰りの腹パン!

    893 :

    どうも、また続きを投げていくます。

    894 :








    「「「「「ごちそうさまでした!」」」」」

    民宿『わだつみ』の一階。

    そこの食堂で、一方通行達は夕食を食べ終えていた。

    ちなみに魔術師達はいない。

    彼らとは、『準備が終わるまでは自由にしてろ』と言われ、一度別れた。

    「とうまー、トランプやろ、トランプ」

    食器を下げたインデックスが上条に微笑む。

    「あー、いや、俺先に風呂入ってくるから」

    悪いな、と上条はいつものように笑う。

    いい加減、変化には慣れたらしい。

    「……そう」

    少しだけ残念そうにしていたが、インデックスは引き下がった。

    仕方ない、と一応納得はしたのだろう。

    「おにーちゃんは放っといて、私とやろっか?」

    「うん、リベンジするかも!」

    そうして、代わりに上条の従姉妹と遊ぶことにしたようだ。

    二人はさっさと二階に消えてしまった。


    895 :

    「……ちゃンと埋め合わせしてやれよ」

    「分かってるよ」

    そのまま浴場へと向かう上条に、一応忠告しておく。

    まぁ、彼には余裕がないのだからそう強くは言わないが。

    (……どォするか)

    上条もインデックス達も去り、この場には誰もいない。

    刀夜については、話があると言って詩菜を連れていってしまった。

    もしかしなくても、火野の件が警察から刀夜に知らされたのだろう。

    夕方の電話はおそらくそういう事だ。

    そちらについては、一方通行には関係ない事だが。

    とにかく、どうしようか。

    まだ風呂という気分でもなかった。

    (……ちょっと外に行くか)

    考えた末、自分は自分で持て余した時間を外で潰すことにした。


    896 :








    結局、一方通行はまた砂浜に出た。

    たいした理由はない。

    単に近くにある見応えのあるモノが海ぐらいだったからだ。

    海の家の入口前から見える濃紺の水溜まりは、実に広々として、月光に照らされていた。

    とりあえず、波打ち際まで歩くことにした。

    ザザーン……ザザーン……。

    波が砂浜を滑る音は、心地良い。

    そんな事をぼんやりと思いながら歩みを進める。

    (おじさンが、もしも、犯人だったら)

    どんどん近くなっていく青を眺めながら、一方通行は刀夜の事を考えていた。

    ありえない、と否定していたが、そもそも『ありえない』という事がありえないのだ。

    オカルトな魔術しかり、超能力しかり。

    だから、考える。

    考えたくない未来を。

    (……アイツは、どォすンだろォな)

    刀夜の息子である親友は、そうなったらどうするんだろうか。

    深くそれを思考しようとしたが、すぐさま止めた。

    (いや、決まってるな)

    結論は出すまでもない。

    刀夜を止めようとするに違いない。

    そんな事、分かりきっていた。


    897 :

    (……なら、俺は)

    一方通行は自分の両手を見る。

    人を殺し、後に生かすために使おうとしてきた能力の宿る手を。

    決意と共にそれらを強く握る。

    戦おう。

    上条のためにも、刀夜のためにも。

    そんな事はない、とも思いながら。


    898 = 897 :

    そうしているうちに、目的地まで着いた。

    「……オマエは確か」

    「解一。ミーシャ=クロイツェフ」

    そこには、この穏やかな景色には合わない鮮やかな赤の先客がいた。

    下手すればインデックスくらいに見える少女はそれだけ答えると、視線を前に戻す。

    それはあまりにも機械的な動きだった。

    プロというのは皆こんなものなのだろうか、と一方通行は神裂の事を思い浮かべた。

    「何してンだ?」

    とりあえず気になった事を聞いてみる。

    ちょっとでも話題の種が作れれば良い、という考えの下の行動だ。

    「解二。辺りを警戒している」

    短い答えが返ってくる。

    今度はこちらを見もしなかった。

    警戒しているのだから当然といえば当然だが。

    「……そォか」

    どうにも仕事の邪魔のようだし、これ以上は何も言わないことにした

    ただ並んで、暗い海を眺める。

    昼の時に感じた明るい印象は、今は微塵もない。

    しかし、だからといってその暗さに一方通行は嫌な感情を抱かなかった。

    暗い雰囲気は逆に気持ちを落ち着かせて、彼に安心感を与えてくれた。

    ……『本物』の海というのは、実に素晴らしい。

    そんな当たり前の感動が、一方通行の心を満たす気がした。


    899 :

    そうしているうちに、彼は違和感を抱いた。

    ふと、視線が自分に注がれていることに気付く。

    「……何だ?」

    視線の先にいるのは、赤い魔術師。

    じっと、彼女はただ一方通行を見つめている。

    「問一、貴方は人間か?」

    いきなりの質問に、顔には出さないが内心面食らった。

    それからすぐに納得した。

    自分の見た目は『普通』とは違うという事に。

    しかし彼はそれを一蹴するように不敵な笑みを浮かべた。

    「……見ての通り、ちっとばかし強ェだけの人間だよ」

    その顔には自信が表れていて、学園都市最強の『怪物』には全く見えないほどに『平凡』だった。

    ミーシャは無言でそんな彼を数秒ほど見つめて、

    「解三、なかなかの依代になりそうだ」

    小さく笑みを浮かべた。

    それは、無表情でしかいなかった魔術師の、初めて見た年相応のモノだった。

    「依代?」

    聞き返す一方通行だったが、その前に彼女は歩き始めてしまった。

    「オイ、どこ行く」

    「解四、歩哨」

    僅かな単語で返して、少女はその場から消えた。

    すぐに何事もなかったかのように辺りが静まる。

    「……何なンだよ」

    それだけ呟いて、一方通行は海をもう一度視界に納める。

    まぁいい。

    今はもっと別の事だ。

    改めて決意を胸に、一方通行は海に背を向ける。

    そして、迷いない足取りで戻っていった。


    900 :








    『わだつみ』の二階、上条の部屋。

    一方通行達は集まっていた。

    時間は深夜一時になったところだ。

    明かりを消し、月のみを光源としている部屋は、どこか神秘的な雰囲気だ。

    月明かりの差し込む窓側に、土御門が水の張った桶を、ちょうどその光が当たるように置く。

    桶の裏には、何か書いてある符が張り付いていた。

    「人の意識に干渉する魔術はどこの国にもある」

    説明しながら、土御門は準備を済ませようとしている。

    「そうだな、ステイルの使った『人払い』なんかはまさにその典型だと思うんだが」

    言われて、この場にはいないルーンの魔術師を思い出す。

    確かに彼は大勢の人間を辺りから追い出す魔術を使っていたし、インデックスは魔術で記憶を何度か失っている。

    だが、

    「それがどォした」

    知っている事を説明されても、困るだけだ。

    土御門は何が言いたいのだろうか。

    そんな一方通行の考えが分かってか、土御門は苦笑いをした。



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