元スレ上条「俺達は!」上条・一方「「負けない!!」」
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651 :
もうすぐ?
654 = 653 :
おぉ、怒りのあまり天使化してたわ
655 :
何で来ないの?腹パンされるの嫌になったの?
656 :
もしそうなら撫でるから。なでなでしてあげるから早く来て。
657 :
よぉーっし、お腹ペロペロしちゃうぞー
658 :
油断したところを腹パン
659 :
さらにもう一発、腹パン
660 :
じゃあ、俺はペロペロかな?
661 :
なんだこの飴と鞭
いや鞭と鞭か
662 :
華麗なる腹ペロパンですね
メロンパンみたいでおいしそうですねペロペロ
663 :
どう考えても腹パンは飴ですよ
664 :
何で来ないのよ
665 :
なあに、ゆっくり気長に自分の腹でもパンパンして待てばいい
666 :
ポンポンをパンパンする舞ってる
667 :
生存報告とかに来てくれよ腹パン!
エターなんて御免だぜ
668 :
これはもうあれだな、太ももキックをするしかないな
669 :
あんまり焦らせるのもアレだと思う
ただ、2週間に一回は生存報告くれるとありがたいな
>>668
では自分はその太ももをペロペロしますね
670 :
お久しぶりです。だいぶ遅れました。
これより、投下します。
671 = 1 :
お久しぶりです。だいぶ遅れました。
これより、投下します。
672 :
「オマエが、魔術師……?」
一方通行の口から、間抜けな声が出た。
顔も随分と間抜けな事になってるかもしれない。
それぐらい、今目の前にいる少年の言葉はショックだった。
対してその少年――土御門元春は、イタズラがバレて怒られたイタズラ小僧みたいに頭を掻きながら、
「まぁ、そーいう事ですたい」
それは、あまりにもあっさりとした調子だった。
本当は冗談か何かじゃないか、と思わせるほどに。
一方通行は土御門を真剣な目で見る。
視線を動かす事が出来なかった。
すると、そんな一方通行に呆れたように、土御門は肩を竦ませて軽く笑みを浮かべると、
「おいおい、そんな驚く事じゃないだろ? 考えてもみろよ、一方。
この世界に存在する二つの勢力――科学サイドと魔術サイド、確かに、両者は互いの存在は認め合っているさ」
土御門は気軽な調子で、いつものように口を動かす。
それが土御門に抱いていたイメージを壊していきそうで、一方通行は恐ろしく思えた。
「――ただし、それは表面上の話だ」
土御門はさらに続ける。
「実際のところは、神様の教えを否定するような科学サイドを、魔術サイドは快く思っちゃいない。逆もまただ」
水と油みたいな物なんだよ、と付け加える。
異能を扱うという点や裏で外道な真似をしている事は同じでも、必ず交わらないのだと言った。
673 = 672 :
「裏側じゃ、いつも腹の探り合い。上手く潰して世界の利権を奪い取るのに必死なのさ」
少し間を置き、くだらなそうに土御門は続ける。
「当然、その一環として諜報員なんてモノを紛れ込ませる事だってある」
そうして彼は自分の顔を指差すと、
「……で、その探り合いの道具として土御門さんみたいなのが働いてるって訳」
分かってくれたかにゃー? と土御門は首を傾げて一方通行を見返す。
一方通行は腕を組み、今の話を纏める。
つまり、魔術サイドの道具として、土御門は学園都市に居る。
役は諜報員――ようするにスパイだ。
僅かな間を置き、いや、と彼は首を横に振った。
何ともまた驚かされる話だが、今の話には一つ気になる点があった。
「まさか、舞夏もそォなのか……?」
そう、土御門舞夏である。
今聞いた事が全て事実だとしたら、舞夏は?
彼女も、また魔術師だったというのだろうか。
しかし、質問に対して土御門は首を横に何度も振ると、
「人の妹の事名前で呼ぶの止めろ、って言いたいがまぁ良い。
……舞夏は、違うぜい。アイツは、科学も魔術も関係ない、一般人さ」
674 = 672 :
「……」
何か言おうとして、一方通行は黙って下を向いた。
彼の脳裏を、普段から見てきた土御門の姿が過ぎる。
土御門は義妹にいつもいつもべったりしていて、何かと一方通行や上条に相談してきたり、
痴話喧嘩(というよりも、舞夏による一方的な暴力)の仲裁を求めてきた事もあった。
クラスにいる時は、上条と青髪ピアスと一緒に馬鹿ばかりやっていたおかげで、
クラスの三バカ(デルタフォース)なんて呼ばれて、学校の皆と楽しくやっていた。
………………やはり、信じられない。
義妹好きのメイド好きでどうしようもない土御門が、そんな暗い世界で生きているなんて。
と、そこへ――
「土御門、一方通行。そろそろ本題に入っても?」
すみませんがその事よりも優先せねばなりません、と神裂に話し掛けられ、思考が強制的に中断される。
土御門はへらへらと笑うと、
「おー、構わないぜい」
「……あァ」
一方通行も不本意ながらそう言った。
魔術師の言葉には、確かに一理あった。
土御門の事はいくらでも聞く機会はある。
少なくとも、事件よりは余裕があるだろう。
この件については、後にすべきだ。
675 = 672 :
では、と神裂は軽く前置きすると、
「来なくても良い、と告げたはずですが……何故この場に?」
その一言で、一方通行に全員が注目する。
三つの視線を感じながら、彼はゆっくりと口を開いた。
当然ここに来る以上、聞かれるとは思っていた。
なので、一応の建前ぐらいは考えてある。
「最初は来ないつもりだった。
ただ、近くでこンな危なそォな事件が起きたら、誰だって不安だろォが。
役には立たねェかもしれねェが、だからって足手まといにはならねェようにする」
……と、まぁこれが考えていた建前。
建前と言っても、結構真剣に考えていた。
遠くで事態を理解していない魔術師よりは、近くで事態を理解している超能力者だ。
どうだ……? と一方通行は三人の様子を窺う。
上条は『まー、良いんじゃねぇか?』と言って気軽そうに笑った。
まぁ、彼にはこの理屈が通る事は分かっていたし良い。
さて、残る二人はどうだろうか。
土御門は『しょうがねーにゃー』とでも言いたそうにこっちを見ていた。
どうやら、土御門も問題無しのようだ。
676 = 672 :
残るは神裂。
この中では一番お堅いであろう彼女は、目を細めていた。
……通らないか? と一瞬体を強張らせたが、すぐにそれも解除された。
彼女のその行為は、怒っているというよりは呆れている、といった意味合いが強そうだった。
やがて、彼女は深いため息を吐くと、
「まぁ、来てしまった以上は仕方ありませんね」
「だにゃー。どうせ言っても聞いちゃくれねぇだろうし」
神裂と土御門は目を合わせるて、頷く。
「手伝うのは構いませんが、貴方はあくまでも一般人。常に戦いからは下がっていただきます」
俺より弱いくせに、と口から出そうになったが押し止めた。
魔術に関して、自分に口が出せるような事は無い。
「……ま、それでイイ。で、犯人の手掛かりとかは見つかってンのか?」
昨日の時点ではまだ何も見つかっていないらしいが、捜査に何か進展はあったのだろうか。
677 = 672 :
質問に対して上条が頭を掻くと、
「目星っつーか、ほぼ分かってるっつーか」
チラリと上条は神裂を見る。
視線を受けて、神裂は淡々とした調子で口を動かす。
「火野神作、という人物に覚えはありますか?」
火野……? と一方通行は僅かの間、記憶と言葉を照らし合わせて、
「おォ、昨日ニュースで見た。脱走中の連続殺人鬼だったか」
火野神作。
二十八人もの人を無差別に殺してきた男で、死刑を言い渡されている脱獄犯だ。
……という話を昨日のニュースでやっていた。
それを聞いて、土御門はしきりに頷く。
「そーそー。そんで今回の事件の『容疑者』でもある」
一方通行は土御門の言葉を受けて、
「……その火野っつーのは何か、魔術サイドでも有名人とかなのか?」
容疑者、と呼ばれる所以として考えられる可能性を一つ出してみる。
というか、そうでもないとこんな大事は起こせないだろう。
678 = 672 :
「いや?」
「まったくの無名ですが」
が、プロ二人は簡単に否定した。
あン? と一方通行は思わず面食らう。
違うのならば、何故『容疑者』なのだろうか。
それを聞くと、予想外の返答が来た。
「……昨日の話です。細かい説明は省きますが、その火野神作がこの場所に現れて……」
「下の階に居た俺が襲われたんだ」
「………………訳が分からねェが、とりあえず言おうか。良く生きてたな、オマエ」
脱獄中の男が来た事にも驚きだが、そんなのに襲われた上条にはもっと驚きだ。
確かに、上条には『幻想殺し(イマジンブレイカー)』などという異能専門の強力な武器がある。
しかし、あくまでそれは異能専門。
上条自体に、殺人鬼と戦える力があるとは到底思えない。
……いや、上条なら限界の一つや二つぐらい超えてしまいそうだが。
679 = 672 :
「いんや、カミやんは特に何もしてない」
と、『上条人間卒業説』に土御門が異論を唱えた。
じゃ、オマエらが? と尋ねると、神裂が首を横に振る。
「ロシア成教、という組織からの魔術師が割り込んで助けてくれたのです」
ロシア成教、という言葉には少しだけ聞き覚えがあった。
まだ記憶喪失の原因を知らなかった時のインデックスに、上条と事情を聞いた時に出てきた言葉だったと思う。
魔術サイドの巨大組織の一つだったか。
「そいつが見当たらねェが」
一方通行は部屋のドアを見る。
少なくとも、この部屋に来るまでの道にはいなかったはずだ。
すると、
「今はちょっと出てるんだぜい」
と、土御門に気にするなとでも言うように告げられた。
言われてみると、確かに大事なのは、何故火野が容疑者にされているのか、という点だ。
知りもしない魔術師の事など、今はどうでもいいだろう。
そう結論を出し、一方通行は納得することにした。
680 = 672 :
「ふーン。それで、続きはあるのか?」
あまり気のない返しをして、続きを促す。
もちろん、と神裂が答え、
「実は、偶然一般人が居合わせて火野を見たのですが……」
「そいつから見て、火野神作は入れ替わって見えなかったんだ」
「……なるほどな」
今回の『魔術』は、ある程度効果から逃れた人間から、逃れていない人間を見ると入れ替わって見えてしまう。
逃れていない人間から逃れた人間を見ると、そちらが入れ替わって見える。
なので、火野を火野だと上条達が認識して、なおかつその一般人までもが同じように認識した、
という事はつまり、火野神作は事件の『犯人』の条件を満たしている事になる。
となると、火野神作が容疑者にされるのもおかしくはない。
神裂は一方通行の顔色から、理解したと判断したのか、更に語り出した。
「話によると、火野は撃退した際に『エンゼルさま』と何度も言っていたそうです」
「『エンゼルさま』?」
簡単に言っちゃうと『お告げ』だにゃー、と土御門が教えてくれた。
何でも、超常的な物からの意思を様々な形で受け取る、という伝承に基づくタイプの、立派な『魔術』らしい。
681 = 672 :
「仮に『エンゼルさま』とやらが火野を動かして二十八人の『儀式殺人』をさせたなら、そいつは何の儀式かって話だにゃー」
つまり、火野神作は『エンゼルさま』――天使からの声とやらを聞き、
今回の魔術のための用意として殺人をした、という話になるのだ。
「だがまぁ、火野が『御使堕し』を引き起こしたとしたら目的が掴めないんだぜい」
「? 天使とやらが命令したンだろ?」
「んー、説明が面倒ですたい」
一方通行の質問に対し、土御門はサングラスをくい、と上げると、大儀そうに答えた。
いわく、天使というのは異能の力――魔力よりも上の『天使の力(テレズマ)』というらしい――の塊のようなモノで、
何の心も持たない、ただただ神様に使われるだけの存在なのだ、とのことだった。
天使と言われると、ラッパなんかを吹いて飛んでいるイメージしか
なかった一方通行にとって、土御門の説明はだいぶ違和感があった。
だがまぁ、正直な話、宗教について一方通行はそう詳しくないし、専門家が言うのだからそういうことなのだろう。
「そういった事情は、本人から聞けばよろしいかと」
神裂の一言に、一方通行の意識が戻る。
そうだった、今は火野の話だ。
682 = 672 :
「だな。で、その火野がドコにいるのか分かってンのか?」
思考を入れ替え、一方通行は肝心の事を尋ねる。
「まぁ、まだ不明だぜい。ついでに言えば向こうの戦力もな」
「堕ちた『天使』を火野が手に入れているか、ですね。あと、仲間などの有無も」
土御門の返答に神裂が付け加えて説明してくれた。
これだけの規模の事件を水面下で行ったのだ。
神裂達プロでも見逃すような、とんでもないバックアップがある可能性も考えられる。
しかし、それに対し土御門は難色を示した。
「火野が『エンゼルさま』の指示で襲撃したなら、一人で来るのはおかしい。
たぶん、そっちの線は薄い。……と言っても、何か別行動でもしてる可能性もあるけど。
『天使』の方は……昨日の時点じゃ使ってこなかったが、その辺は一応色んな可能性全部を考えておいた方が良いな」
それだけ言うと、土御門はけだるそうに窓の外を見て、
「ま、何はともあれ、まずは火野を見つけないと話が始まらないぜよ」
「ですね。さて、問題はどのように探すか、ですが」
「こォいう時のための、これだろ」
一方通行はちゃぶ台にあったリモコンを掴み、奥にあった古い型のテレビに向ける。
そうして電源ボタンを押すと、ちょうどニュースがやっていた。
どうやら、火野神作の特集か何からしい。
評論家らしい男が物知り顔で、火野は多重人格で医師から診断書を書かれていた、とかいう話をしている。
683 = 672 :
少しはあてになるかと思い、四人で画面をしばらく見ていたが、肝心の火野の情報はないようだ。
火野の精神の話という、どうでもいい知識が流れていくだけだ。
消すか、と一方通行は三人の了承を取るべく、目で語り掛ける。
これなら、自分達で探しに行った方が良さそうだ。
上条も土御門も神裂も、『そうしよう』と頷いた。
(がむしゃらに探すにしても、骨が折れそォだな)
いや、そちらの方が自分の能力を発揮出来るか。
そんな事を考えながら、一方通行は電源ボタンに指を乗せ――――
『えー、火野神作脱獄事件の続報が入りました!』
ピタリ、と一方通行の指と部屋にいた全員の動きが止まる。
「……ナイスタイミング、ですね」
ほぼ膝立ちの状態に近かった神裂が、言いながら座り直す。
まったくだ、と一方通行も口には出さないが思った。
とんでもなく幸運な人間でもこの場にいたのかもしれない。
……少なくとも、上条以外で。
684 = 672 :
しばらくして、何やら慌ただしかった様子のスタジオの画面が切り替わる。
それは数分程度のニュースでよく見る、
後ろでスタッフが忙しそうに動いている前で、
アナウンサーが原稿を読むタイプのものだった。
アナウンサー役のチビ教師が原稿らしい物を持って座っている。
何とも言えない光景だな、と感想を呟く。
足は地に付いていないし、椅子の高さが足りていないのか、
机から目から上だけがぴょこんと出ていて、あまり緊迫した空気がしなかった。
『現在火野は神奈川県内の民家に立て篭っていて、機動隊が包囲しているとの事です! 現場の釘宮さーん』
テレビから届いた声はちょっとだけ上擦っていたが、やはり全く緊張が伝わってこない。
「ふーむ。困った事になったぜい。火野を警察に引き取られたら、『御使堕し』の解除も何もない。やー、困った困った」
さっぱり困っていなさそうに言って、土御門は顎の辺りをさすった。
確かに、警察に火野が捕まれば、表的に自分達が出ていく訳にはいかないだろう。
それでは事件解決が不可能になってしまう。
685 = 672 :
「人質はいないようですが……現場を探した方が良さそうでしょうか」
「神奈川県内ってだけじゃ、捜索範囲が広すぎンだろ」
映し出されたのは、上空から見た一軒の家だった。
その周りにはこれといって目立つ物は無く、ただ似たような家があるだけだった。
たったこれだけの情報で、特に土地勘もない自分達が正確な場所を見つけられるとは思えない。
「どォすンだ? 見つけるにも、これじゃ……」
「分かっています。何か手段を考えなくてはいけませんね」
「つってもにゃー。探査系の術を使おうにも、火野本人にゆかりのある品がある訳じゃないし」
ならば、こういうのはどうでしょうか。
いやいや、それだと……。
と、魔術師二人は何やら一方通行には理解し得ない言葉で話し合い始めた。
完全に自分と上条は置いていかれている。
686 = 672 :
(……ま、そりゃそォだよな)
もとより、上条と自分は専門が違うのだ。
こうして『魔術』の存在を知るだけでも、充分異例だろう。
と、思っていると。
「うーん……?」
ふと、後ろの布団の方から声がした。
体をそちらに向けて座り直すと、上条が何やら唸ってテレビを睨んでいた。
まるで、何かを思い出そうとしているように見える。
「どォした?」
とりあえず声を掛けたが、あー、とかえーっと、とか気のない返事が返ってくるだけだった。
何だ……? と一方通行は奇妙そうに親友を見る。
後ろでは、魔術師達があーでもないこーでもないと議論を続けている。
どうやら、自分は前にも後ろにも置いていかれているようだ。
そう考えてから、僅か数秒後。
「…………あ!」
突如、上条がポンと手を叩いた。
どこの喜劇役者だオマエは、というツッコミを入れたい気持ちを一方通行は抑える。
上条は振り向くと、一方通行の背後で変わらず議論しているプロ二人に、あのう、と控え目に声を掛けた。
「どーした?」
「いかがしましたか?」
二人は言葉の応酬を止めて、同時に彼を向く。
一方通行も同じようにした。
三つの視線を受けて、ツンツン頭の少年はそっと口を開いた。
「……これって、もしかしなくても俺の家みてーなんだけど」
687 = 672 :
「ほら、これが細かい場所」
そう言って、上条は手に持ったケータイを土御門に渡す。
先程の爆弾発言で火野の居場所が分かり、土御門が細かい位置を教えるように頼んだのだ。
本当は上条も実家の場所は知らないはずなのだが、
手書きでは分かりにくいから、とケータイのGPS機能で上手くごまかしたようだ。
「なるほどなるほど。完璧に理解したぜい」
うんうん、と頷き、土御門はケータイを返した。
そのタイミングで、一方通行はもう一度確認した。
「本当にイイのかよ、手伝わなくて」
そう。プロ二人は火野の居場所が判明した途端、後は自分達だけで良い、と告げたのだ。
だからこうして、わざわざ上条に細かい位置を尋ねた訳である。
688 = 672 :
「そもそも、貴方達は科学サイドの人間です。正反対の『魔術』に関わるのがおかしいんですよ」
と、神裂が淡々と正論を唱える。
そうして、もう話す事はないと言わんばかりに立ち上がった。
事務的なヤツ、と思ったが、言われてしまえばその通りだ。
自分も上条も、あくまでも立ち位置は科学サイドにある。
プロの魔術師二人からすれば、残念だがいい足手まといなのだろう。
なので一方通行も、でも、だとか食い下がるつもりはない。
しかし――――
「なァ、一つ聞きたいンだが」
まだ、解決されていない謎があった。
「……何か?」
呼び止める声に、魔術師は背を向けたまま、応えた。
彼女はもう、部屋の入口のドアノブに手を掛けていた。
上条と土御門は、黙って事の成り行きを見守っている。
一方通行は続ける。
「……『御使堕し』で完全に入れ替わっていないのは上条と犯人だけ、なンだよな?」
「そうですが……何か?」
今更何を、といった調子で神裂は答えた。
もっと言えば、言いたい事があるなら早くしろ、と急かしているようにも聞こえた。
689 = 672 :
分かっている、と一方通行は返す代わりに、躊躇いがちに口を開いた。
「上条刀夜、なンだがな」
「…………父さん?」
突拍子のない単語だと思ったのか、突然身内の人間が出てきて驚いたか、とにかく、上条は呆然と呟いた。
一方通行は、そんな親友を横目で一瞬だけ見て、ゆっくりと続けた。
「入れ替わって、ねェンだよ」
「……………………あ、れ?」
「な……それは本当ですか!?」
言葉に、上条は理解が追い付かないのか、目を見開いている。
神裂は、思わぬ情報に驚いた様子で振り向いた。
どうやら神裂は入れ替わった世界でしか、上条刀夜を見ていなかったらしい。
となると、気付ける訳もない。
一方通行はそんな彼らを見据えて、
「だから聞いてンだよ」
上条刀夜――彼は入れ替わっていない。
間違いないと思う。
二、三回しか会ったことはないが、友達の親の顔を一方通行は忘れていない。
690 = 672 :
だが、そうなると上条刀夜も『容疑者』という事になる。
火野神作と上条刀夜に接点があるとも思えないし、おかしな話になってしまう。
それで、これはどォいう事なンだ? と一方通行は付け加える。
すると、
「……確かに、上条刀夜も上条当麻の近くにいた」
さほど驚いた様子でもなかった土御門が、冷静に答えた。
「考えられなくはない、かもな」
五%ぐらいで、とも彼は言った。
どこまでも、冷めた調子で。
内心、一方通行は戸惑いを感じていた。
ここにいるのは、ただの魔術師だという事に。
と、そこへ――――
「そんな訳……そんな訳ないだろ!」
ようやく思考が戻ったのか、上条が慌てたように土御門に食ってかかる。
その必死さは、何となく一方通行にも理解出来た。
当然だろう。
自分の肉親が、こんな訳の分からない事件の『容疑者』にされてしまったら。
691 = 672 :
土御門はサングラスの奥の瞳をギラリと輝かせ、あくまでも淡々とした口調で返す。
「しかし、現にカミやんからも入れ替わって見えないんだろう。オレ達は生憎と分からないが」
「それは……」
土御門の言葉に、上条は何も言い返さず、ただ俯いた。
「考えられる可能性は全部潰す必要がある」
どんなにありえなさそうなモノでもな、と土御門は立ち上がり、上から言葉を投げ掛けた。
一方通行は情報を整理しながら、ただこの場を静観していた。
そして、
「……だったら」
ゆっくりと、上条が土御門を見上げながら立った。
その目には、確かな光が宿っている。
「だったら、俺に聞かせてくれ。その間に、土御門達が火野の方に行けば良い」
どうせ低い可能性なんだろ? と上条はまっすぐに土御門を睨む。
身内の事は身内で片付ける。
それが、上条当麻という人間だった。
692 = 672 :
「馬鹿か、オマエは」
そんな上条の言葉に、一方通行は呆れたように告げる。
冷たい言葉を。
「オマエ一人で行ったって、誰が信用するンだよ」
そう、何も知らない人間からすれば、上条が父親を庇う可能性を考えるだろう。
例えば、件のロシア成教の魔術師だ。
「そんな、俺はただ……!!」
一方通行の言いたい事が分かったのか、上条はこちらを向く。
すぐにでも異論を唱えようと、彼は口を開き、
「だから」
その前に、一方通行は先手を打つ。
上条が何か言う前に、自分の意思を告げた。
「俺も付き合ってやる」
短い台詞だった。
単純明快な分かりやすい意思を伝えるそれで、長い沈黙が流れる。
「……一方通行、お前」
「どォせする事がねェンだ。だったらまァ、ちょっとは働かせてもらおうじゃねェか」
第三者として、な。
呟き、彼は魔術師二人を見る。
第三者として、一方通行が上条刀夜の尋問に付き合えば、理屈としてはちゃんと通るはずだ。
693 = 672 :
プロ二人の内一人――土御門はそんな彼らを品定めするように眺め、微かに笑った。
「ま、たかだか五%の可能性。全員で行く必要は無いか」
そう呟き、土御門は右手の人差し指を自分の目の前で立てると、
「こうしよう。カミやんと一方で刀夜の尋問、オレとねーちん、それにもう一人が火野の方」
それで良いな、と土御門は全員に確認した。
「……そちらの方が効率的、でしょうか」
構いません、と神裂は短く答える。
彼女としては、火野の方が怪しいと睨んでいるのだ。
上条刀夜の容疑は、ほぼないものと考えているのだろう。
そう思いながら、一方通行は上条に視線を移す。
上条も一方通行を見る。
二人は顔を見合わせ、同時に頷いた。
694 = 672 :
さて、互いに何か分かったら連絡するように約束し、一方通行達は行動開始しようとしていたのだが……。
「じゃ、土御門さんは失礼するぜい」
「……何でそっちからなンだ?」
土御門だけ、何故か窓から外に出ようとしていた。
正面から出れば良いものを、と思う。
質問に、土御門は窓枠から離れてニヤリと笑った。
「いやー、実は今オレ外見『一一一(ひとついはじめ)』なもんだからにゃー? 目立つと困るんですたい」
そう言った土御門の態度は、言葉とは裏腹に楽しんでいるように見えた。
一一一、というのは確か、現在スキャンダル中の人気アイドルだったか。
知り合いがファンだった気がする。
人気アイドル(スキャンダル中)が窓から落ちてくる様は中々笑えそうだな、と感想を抱いた。
695 = 672 :
と、そこへ。
「そういやお前は誰と入れ替わって見えるんだ?」
上条が、実に厄介な事を聞いてきた。
場を少しは和ませようとした発言なのだろうが、大きく逆効果だ。
思わず、一方通行は閉口した。
そのまま、数秒黙り込む。
ついでに、部屋にいた他の三人も。
あ、あれ? 俺地雷踏んだ? と上条が少し慌て始めた頃に、彼はようやく答えた。
「……女だよ」
「へ? おんな? ……って、女の子?」
しつこく確認するな、と言いたいところだが、まぁ仕方ない。
誰だって予想外な事を言われたら、こうなる。
「他の連中とは別のやり方で逃れたせいだと思うがな。……チッ、何が悲しくてンな事にならなきゃならねェンだ」
おかげで大変だ、と一方通行はぼやく。
少年としては、実は私女の子ですの、とか衝撃の告白で通したくはなかったので、色々と頑張ってきたのだ。
例えば、声。
女性になっているので、入れ替わった人間には若干声が高く聞こえるらしい。
だから、そういう人間にはわざわざトーンを低くして話している。
これはだいぶ喉が疲れる。
696 = 672 :
胸については……まぁ、慎ましいモノだったようで、ごまかしは効いているのだが。
よく考えたら、海に来たものの、一方通行は泳げない気がする。
何せ、大勢の人間からすれば自分は女性だ。
水着は男物しかない。
どう考えても、駄目だ。
あれ、じゃあ俺は何のために来たンだ? と一方通行は今更な事を考え始める。
と、そんな少年に陽気な調子の声が一つ。
「まーまー、ねーちんよりはマシだぜい。鈴科百合子ちゃん?」
声の発信源――物凄く意地の悪い笑顔の土御門元春に、一方通行の眉がピクリと反応する。
今、とても忌ま忌ましい名前が聞こえた。
「鈴科百合子……?」
とんと覚えがない名前に、上条が首を傾げた。
実際は彼も聞いた事のある名前だが、色々あってその『記憶』がないのだ。
よって。
「にゃー、カミやん忘れたのか? ほら、青髪ピアスがさー」
「黙れシスコン軍曹」
「な、キサマ、その呼び方はヤメロ!」
思い出話をしようとする土御門を、一方通行は上手に引き止めた。
覚えていないのだから、わざわざ思い出させる必要などないのだ。
ちなみに鈴科百合子というのは、一方通行の本名……とかではなく、青髪ピアスが作り上げた妄想の産物である。
697 = 672 :
数カ月前、とある高校にて。
それは、午前の授業の終了を知らせるチャイムが鳴った直後の出来事。
「おー、描けた」
授業終了の礼が終わって、学級委員の青髪ピアスは、立ったまま大きく伸びをした。
目の前の机には、一冊のノートがある。
何も表に書かれていないそれは、授業用に使われるモノとは別に見えた。
そんな大男に近付く影が一つ。
「何がだ?」
「あー、カミやんそれ聞いてまう? 聞いてまう?」
影――上条当麻の方を向きながら、青髪ピアスはニヤニヤと笑って座る。
いつもより変な友人に、上条は若干引き気味になる。
「な、何だよ」
「ふふふ……」
上条が畏怖の念を抱いているのに気付いていないのか、青髪ピアスは変わらず笑顔でいた。
698 = 672 :
すると、そこへ。
「にゃー、どうしたんだぜい?」
「何やってンだ?」
さらに二つの影――土御門元春と一方通行がやってきた。
青髪ピアスは彼らを視界に捉えると、
「おっと、土御門はんに一方も。ええタイミングやね」
「……?」
何言ってんだ、こいつ? と三人は同時に思い――
「ふっふっふ……。じゃ、じゃーんっ!!」
次の瞬間、驚愕した。
青髪ピアスが、机に置いたノートを思いきり広げたせいで。
「こ、これは……」
「ほう……」
「…………な」
目の前のノートに、三人はそれぞれ全く違うリアクションをした。
ノートに書かれていた――いや、描かれていたのは―― 一つのイラストだった。
どこかのアルビノ少年にそっくりな、美少女と言って問題ない、セーラー服の少女。
そしてその下には、『一方通行=女の子=鈴科百合子?』と訳の分からない式と、いっちょ前にサインが書いてあった。
699 = 672 :
「どー、我ながらこれ傑作や思うねんけど」
いやに厚い胸板を突き出して、青髪ピアスは誇らしげにする。
それから、何か意見ある? と三人にニコニコ笑い掛けた。
「にゃー、これにメイド服着せてやってくれるとさらに良いと思うぜい」
「はー、さすが土御門はん。それ採用」
メイド服っと、と青髪ピアスはノートを机に置き、適当な字でメモ――
「……オイ」
頭上から、低く唸るような声がした。
普通の人間ならそれだけで気絶してしまいそうなほどのそれに、
青髪ピアスは気分が高揚していたのか、変わらず笑顔のまま顔を上げ、
「お、何や一方。あまりの出来の良さに感動「ンな訳あるかァ!! すぐ消せ、削除しろ!」
あっ、と言う間もなく。
机に置かれたノートが一方通行に奪い取られる。
少年は、そのままイラストのあるページだけ破り取って、ノートを机に放る。
そして――――
ビリビリビリビリーッ!! と小気味良い音を出して、イラストが縦に割れた。
と、認識した瞬間には細切れになっていた。
700 = 672 :
「……な、何するんやーっ!? ボクの百合子ちゃんがー!」
見事な細切れになった鈴科百合子を呆然と眺めてから、勢いよく青髪ピアスは立ち上がった。
悲痛な声で叫んだ彼の顔はちょっぴり半泣きで、正直かなり怖い。
とりあえず、一方通行はそう思った。
「そンなヤツはいねェよ! 少なくとも今消した!!」
「おのれ、一方ーっ! 午前の授業の時間全部使った結晶やったのに!!」
「いや、そんな事に授業の時間無駄にすんなよ!?」
と、そこで炸裂する上条のツッコミ。
「小萌先生の授業以外は重要やないわボケェ!」
「な、ボケとは何だこのロリコン野郎!」
「ロリコ……ロリだけちゃうわ!」
売り言葉に買い言葉で、四人(主に土御門を除く三人)は周りの目を一切気にせず、激しい口論を開始した。
――その後、結構な乱闘の末、小萌先生に四人全員さんざん叱られたのはまた別の話。
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