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元スレ勇者「最期だけは綺麗だな」
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僧侶「印象とは異なりますね」
僧侶「文献には傲慢であり己の力に絶対の自信を持っているとありました」
狩人「神、悪魔に負けないとも記されていた。他にも、人間にしか倒すことは出来ないとあった」
僧侶「だからこそ慎重になっているのかもしれない。それが事実なら、ですけれど……」
狩人「いつかも分からない遠い過去だ。我々が見極めるしかないだろう」
僧侶「(お互い、羅刹王の名は知っている。知識だってある。それなのに何も見えてこない)」
僧侶「(もし、文献に記されていたことと違っていたら……っ、弱気になっちゃダメだ)」
僧侶「(存在する以上、必ず倒せる。どんなに強い力を持っていても、死は避けられない)」
ザッザッザッ…
狩人「砦跡が見えてきたな。奴はあの中か」
僧侶「そのようです。凄まじい量の魔力が砦を覆っています」
狩人「まるで濃霧だ。魔力の霧、敵に姿が見えないという伝承の正体はあれか」
僧侶「そうだと思います」
僧侶「本来なら内側で魔力を練って放出しますが、羅刹王は放出した魔力を操作するのでしょう」
狩人「つまり、奴の腹の中というわけだ」
狩人「放出した魔力で場所の特定を困難にしている上に、何処からでも魔術を行使出来る」
僧侶「ええ。相手には一切攻撃させず、一方的に攻撃し続ける。正に理想の形です」
狩人「策はあるのかね? 私が魔術を使用出来ない以上、貴方に頼る他にない」
僧侶「策はあります。ただ、貴方には傷を負って貰わなければなりません」
狩人「……ふむ。話してくれ」
僧侶「まず貴方一人で砦の中に入り、私は範囲外から砦を覆う魔力の霧を消します」
僧侶「そうすれば、短時間ですが魔術を封じられる。隙を作り出すことは出来ます」
狩人「何をするつもりか知らないが、一度で決めなければ終わりだ。次の手はない」
僧侶「でも、他に良い方法がありません」
狩人「それは分かる。二人で砦に入って四苦八苦するよりは良いだろう」
狩人「だが、私ではなく貴方に向かった場合はどうする? そうなっては意味がない」
僧侶「貴方には魔力の感知以外に、魂を感知する力がある。だから、あの人の居場所が分かった」
狩人「(……彼女にも分かるのか。それとも、知っているだけなのか)」
僧侶「中に入ったら、すぐに向かって下さい。そうすれば、敵は動かざるを得ない」
狩人「中に入ったら注意を引き、貴方が霧を晴らすまでは傷を負い続けろと言うのか?」
僧侶「……はい」
僧侶「それは貴方にしか出来ません。魂を感知することが出来る、貴方にしか……」
狩人「傷を負うのは構わないが、あれは貴方の魔力ではない。消すことなど可能なのかね」
僧侶「あの霧の中に私の魔力を混入させることで、一時的に妨害することは出来るはずです」
狩人「理屈は分かるが、それにはどれだけの魔力を必要とするのか理解しているのか?」
僧侶「難しいけど、やってみせます。絶対に……」ギュッ
狩人「(私に言っているのか、勇者に誓っているのか。本気なのは分かるが、どうしたものか)」
僧侶「……信じてはくれませんか?」
狩人「一つだけ確認したいことがある」
僧侶「何です?」
狩人「貴方一人で羅刹王と戦って勝利出来るか否か、それは一先ず置いておこう」
狩人「ただ、この機に乗じて私を亡き者にしようとしている可能性は否定出来ない。そこで」
僧侶「…………」
狩人「貴方が裏切らないという確約が欲しい。この戦いが終わるまで信用出来るという証がね」
僧侶「(っ、やっぱり)」
僧侶「(でも、疑って当然だ。立場が逆なら私だって疑ってる。だけど、証なんてーーー)」
シャラ…サラサラ…
僧侶「…………」ギュッ
勇者『それより見ろ、個人的に凄え気に入った腕輪があるんだ』
僧侶『銀の鎖がさらさらしてて不思議な感じがします。どうやって造ったんだろう?』
僧侶「(嫌だ。だって、これは)」
勇者『気に入ったんだろ?』
僧侶『それはもう! でも、値段が』
勇者『面倒くせえな、欲しいんだろ? 店の奴を呼んで来るから待ってろ』
僧侶「(……これは、あの人が)」
僧侶『この腕輪、ずっとずっと大切にします!』
勇者『そうしてくれ。その腕輪、俺も気に入ってるから。ほら、次は剣だ。行くぞ』
僧侶『はいっ!』
シャラ…サラサラ…
僧侶「(…………っ、これしか、ない)」カチリ
狩人「…………」
僧侶「これを、貴方に預けます」
狩人「その前に教えてくれ。その腕輪を渡すことが、貴方にとってどんな意味を持つ?」
僧侶「この腕輪はあの人からの贈り物です」
僧侶「これを渡して裏切れば、私は私を許せなくなる。この腕輪が証です。受け取って下さい」
狩人「……いいだろう」スッ
僧侶「貴方も約束して下さい。証なんていらない。ただ、何があっても倒して」
僧侶「もし貴方が逃げ出すようなことがあれば、私は貴方を絶対に許さない」
狩人「了解した。全力を尽くすと約束する」
僧侶「………では、行きましょう」ザッ
狩人「………?」クルッ
狩人「(音が変わった。何をしている? 頼むから馬鹿な真似はしてくれるなよ)」ザッ
ーーー
ーー
ー
狩人「ようやく着いたな。奴以外の気配はない。兵はあれで全てだったようだ」
僧侶「気を付けて下さいね。無茶をお願いしておいて変な話ですけど……」
狩人「互いに出来ることが違うのだから仕方がないさ。貴方は霧を晴らすことに集中したまえ」
僧侶「分かりました。出来る限り急ぎます。それまでは何とか耐えて下さい」
狩人「分かっている。機会は一度、互いに全力を尽くそう。では、頼んだよ」ザッ
ザッザッザッ…
僧侶「(狩人さんの言う通り、この方法は何度も通用しない。一度で終わらせる……)」
【#14】拝謁
狩人「(……崩壊している。酷い有り様だ)」
コツ…コツ…
狩人「(確かに魔力の量は多いが、濃度はそれ程高くない。異質ではあるものの音は感知出来る)」
狩人「(後は目標に向かって進むのみ)」
狩人「(狙いに気付かれる前に、奴の意識を私に集中させなければ)」タッ
タッタッタッ…
狩人「(この辺りは得に損壊が酷い。魔物が侵入し……近い。いや、近付いて来ているな)」
ズズン…ズズン…
狩人「…………」ジャキッ
ズズン…ズズン…
羅刹王「…………」
狩人「(……巨躯、灰の肌、銅色の瞳、怪しく輝く歯。正に、文献通りの威容)」
羅刹王「共に生きる。そう誓った」
狩人「何?」
羅刹王「あの時はそうだった。皆、共に生きていた。数え切れない時がそれを薄れさせた」
羅刹王「居た。此処に。俺は此処に居た。時が守護者を遠ざけた。世が忌避した」
狩人「(守護者? 何を言っている?)」
羅刹王「人は進化を止められない。神を崇めながら何者であろうと上に立つことを認めない」
羅刹王「常に他種の台頭に怯え、猜疑心に囚われた支配者。人は勝利者であろうとする」
羅刹王「獣に打ち勝ち、飢えに打ち克ち、病に打ち克ち、人に打ち克つ。生命そのものにさえも」
狩人「(何処を見ている……)」
狩人「(まさか惚けているのか? 知識に魘された譫言のようにも聞こえる)」
羅刹王「何を得ようと止まることはない。人とは淘汰に取り憑かれた進化の獣」
羅刹王「故に牙を剥く。あらゆる生命に戦いを挑む。対等の存在など認めはしない」
狩人「(今仕掛けても攻撃は通るだろうが、行動が予測出来ない。魔術を警戒、彼女を待つ)」
羅刹王「序文。諸君、己が思い描く神を目指せ。探究の果てに到達する日は近い」
羅刹王「その扉をくぐれば満たされるだろう。欲望の生命より解放され、だるまとなる」
狩人「……来た」タンッ
羅刹王「忘れるな。汝もまた、人である。あの偉大なるーーー」
狩人「さらば、羅刹王」ガチッ
羅刹王「………?」
狩人「(惚けていても王位の悪魔。首を刎ねるだけでは心許ない。頭を割り、首を刎ねる)」ググッ
ゴシャッッ! ズパンッッ!
羅刹王「」グラッ
ドサッ…
狩人「……霧は消えた。音もない。あまり実感はないが、本当に倒したようだな」
狩人「しかし何が目的だったのだ。勇者を攻撃した理由はあるはずだ。いや、待て。勇者は彼女をーーー」
タッタッタッ…
僧侶「狩人さん、無事ですか?」
狩人「ああ、傷一つないよ。譫言のように呟くばかりで何も仕掛けては来なかったからね」
僧侶「えっ?」
狩人「どうも惚けているようだった。私を認識していたのかも疑わしい」
僧侶「……惚け。譫言と言いましたけれど、何と言っていたんです?」
狩人「人は淘汰に取り憑かれた進化の獣であり、他種の台頭に怯える支配者なのだそうだ」
僧侶「進化の獣……」
狩人「発した言葉は殆どが意味不明で、理解出来る部分と言えばそれくらーーー」
ゾブッッ!
狩人「っ…ゲホッ!」ビチャビチャ
僧侶「………えっ?」
狩人「(何だ、これは。腹から、腕が)」
羅刹王「はは、は」
僧侶「な、んで………」
狩人「(頭部は割れ、首は落ちたままだ。再生はしていない。何故、動ける)」
羅刹王「う、裏がりのものがあ」ブンッ
ドシャッ…ゴロゴロ…
狩人「…ゲホッ…ゲホッ…」ビチャビチャ
僧侶「狩人さんっ!!」
羅刹王「は、ははは」
ギュルルルッ! ブヂュブヂュ…
僧侶「(っ、再生して……)」
羅刹王「な、な、何故、何故だ。何故、俺に牙を剥く。共に生きよう。あの時のように」
羅刹王「あ、あの時のように、滅ぼしが始まる前に、あの歪みを消し去らなければ」スッ
羅刹王「そう、一刻も早く」
ズォォォォ…
僧侶「(っ、霧が戻ってる。魔術を使う気だ。狩人さんは……)」
狩人「ぐっ…」ムクリ
僧侶「(治癒は始まってるけど間に合わない。それに遠すぎる。ここからじゃ届かない)」ダッ
羅刹王「な、何だ。此処は。此処は何処だ。は、ははは。これではまるで白痴だな」
ゴゴゴゴ…
僧侶「(全方位に矢を……っ、矢の雨が来る。もう少し、もう少しで、届く)」
羅刹王「お、俺を消し去るのか。再び締め出す気だな。蕩けた闇に、いつかのように………」
僧侶「間に、合えっ!!」ジャキッ
羅刹王「そうだろう!? 獣ども!!」スッ
ドドドドッ! パラパラッ…
僧侶「はぁっ、はぁっ。大丈夫ですか?」
狩人「済まない。これで二度目だな……」
ドガンッ! ドガンッ!
僧侶「っ、岩は何層にも重ねてあります。少しの間なら安全です」
狩人「それは助かる」
狩人「現段階では不明な点ばかりだ。文献で得た知識もあまり役には立たないようだ」
僧侶「ええ。でも、どうしたら……」
狩人「お互いに感じたことを話そう。どんな些細なことでもいい。貴方にはどう見えた」
僧侶「意識は混濁していますけど、私達を敵であると認識したようです」
狩人「敵か。奴の眼には、私達がどのように見えているのだろうな……」
ドガンッ! ドガンッ!
狩人「……そう長くは持ちそうにないな」
僧侶「狩人さんはどうです? 何か分かったことはありますか?」
狩人「奴の蘇りは私の治癒とは質が違うようだ。あの時、魔力は完全に消え失せていた」
僧侶「なら、どうやって再生を……」
狩人「蘇りについては分からない。だが、倒せなかった原因は私にあるのかもしれない」
僧侶「どういうことです?」
狩人「人間にしか倒せない。これが事実だという前提で話す。一つ、仮説を立てた」
僧侶「仮説?」
狩人「貴方は気付いていたようだが、私は体内魔力の異常回転によって生きている」
狩人「それによって通常ではあり得ない速度で治癒、再生する。回転を上げれば更に上昇する。魔術は使えないがね」
僧侶「(……それだけじゃない。回転は激しい痛みを伴い、体内の急激な劣化を引き起こす)」
僧侶「(故に、その体質の人間は寿命が短いとされる。おそらく、狩人さんは……)」
狩人「もし仮に、これが原因で人間の定義から外れているとしたら、私に奴は殺せない」
僧侶「では、私なら倒せると?」
狩人「確証はないがね。方法は先程と変わらない。だが、もし私の推測と違っていたら……」
僧侶「分かっています。羅刹王が死ぬまで、何度でも殺し続ける。それしか方法はない」
狩人「(眼が変わった。魔力の高まりを感じる。やはり、彼女の魔力は桁が違う)」
僧侶「(回転速度が上がってる。狩人さんも、傷を負う覚悟は出来てるんだ)」
狩人「……準備は出来ている。私はいつ出ても大丈夫だ。合図は貴方が出してくれ」
僧侶「分かりました」
僧侶「では、岩を弾き飛ばしたと同時に左右に散りましょう。3、2、1……行きます」
【#15】幻視の海
勇者『………?』
コポッ…コポコポッ…
勇者『何だ、此処は……水の中? いや、息は出来る。夢なのか?』
勇者『奇妙な感覚だ。夢にしては意識がはっきりし過ぎてる。上も下もない。痛みも、ない』
コポコポ…
勇者『綺麗だな。光の揺らめきが見える。光ってのは、こんな場所にまで差し込むのか……』
>>やっと
>>ようやく
>>貴方と会えた
勇者『?』
>>貴方が
>>貴方こそが
勇者『声? 何処から……』
>>最後の一滴
>>雨の中のひとしずく
>>貴方が最後のひとしずく
勇者『誰だ』
>>いずれまた
>>命の最期に
>>貴方の最期の時に
勇者『っ、沈ーーー!?』
>>忘れないでくれよ?
>>貴方が、全てが還る場所
勇者『お前等は何だ? 何でこんな場所にいる?』
>>もう繋がっているんだ
>>何処にいても見ているよ
コポッ…
コポコポ…
勇者『っ、プハッ! ケホッ、ケホッ…』ガバッ
僧侶『大丈夫?』
勇者『…………………宿?』
僧侶『どうしたの? 惚けた顔をして』
勇者『いや、何でもねえ……』
僧侶『あらそう。随分と苦しそうだったけれど、本当に大丈夫なの?』
勇者『妙な夢を見ただけだ』
僧侶『また、あの夢を見たの?』
勇者『いや、いつものやつじゃない。よく分からねえ夢だ。俺は水の中にいた。それだけだ』
僧侶『……そう』
勇者『どうした?』
僧侶『私、ずっと考えていたのよ』
勇者『?』
僧侶『龍を倒したら、旅が終わったら、貴方はどうするのだろうって』
勇者『随分と暇な奴だな』
僧侶『うるさいわね。私は真剣なのよ』
勇者『そうかよ。おら、さっさと行くぞ』
僧侶『はぐらかさないで』
勇者『あのな、そんな話をして何になる? お前、どうしちまったんだ』
僧侶『貴方、龍と戦って死ぬつもりなんでしょう?』
勇者『んなわけねえだろうが馬鹿』
僧侶『嘘吐き。私を守るって言ったのに』
勇者『面倒くせえ奴だな。お前は何が言いてえんだ。はっきり言えよ』
僧侶『貴方は私を置いて、一人で龍と戦ったわ』
勇者『はぁ? 何言ってんだ、お前?』
僧侶『まだ思い出せないのね』
勇者『思い出すも何も、まだ戦ってもいねえんだぞ。頭大丈夫か?』
僧侶『私が目を覚ました時には終わっていたわ。息絶えた貴方と、傷だらけの龍がいた』
僧侶『何度も甦らせようとしたけれど、幾ら魂に呼び掛けても戻っては来なかった』
勇者『何を、言ってる……』
僧侶『貴方の魂は繋がり始めた頃だと思うのだけど、どうやらまだみたいね……』ザッ
ガシッ
勇者『待て、何があった』
僧侶『……離して』
勇者『僧侶、答えろ』
僧侶『……その名で私を呼ぶ意味を、貴方は理解しているの?』
勇者『面倒くせえ奴だな』
勇者『意味だの理解だの、お前を呼ぶのにそんなに小難しいもんが必要なのかよ』
僧侶『っ、必要なのよ。今は』
勇者『はぁ、お前ってそんなに面倒くせえ女だっけ? 今日はやけによく喋るしよ』
僧侶『こんな風になったのは貴方の傍にいたからよ。貴方が私を変えたの……』
勇者『そうかよ。つーか、何で泣いてんだ』
僧侶『……うるさいわね。こっちを見ないで』
勇者『ああそうかい、分かったよ。つーか、何かあったら言えって言っただろ』
僧侶『憶えているのね。私に言ったこと……』
勇者『当たり前だろうが、そう簡単に忘れるか』
僧侶『ふふっ。貴方って本当に……」
勇者『おい、大丈夫か?』
僧侶『ええ、私は平気。ねえ』
勇者『どうした?』
僧侶『……………ありがとう』
勇者『何だよ急に、気持ち悪ぃ』
僧侶『だって、生きているうちに伝えないと意味がないって言ってたじゃない』
勇者『ああ、言ったな』
勇者『でも、今のお前が言うと俺が死ぬみたいに聞こえる。さっきも妙なこと言ってたしな』
僧侶『………そうね、そうよね。ごめんなさい』
勇者『だから、何で泣くんだよ。お前、本当にどうしたんだ?』
勇者『龍と戦って死んだとか、お前を置いていったとか、まるで意味が分からねえ』
僧侶『ねえ、私が僧侶だと分かる?』
勇者『当たり前だろうが、お前みたいな女を忘れるわけねえだろ』
僧侶『……きっと、もうすぐ思い出すわ。すべてが重なれば、私が誰なのか分かる』
勇者『話せないことなのか』
僧侶『そうじゃないの。話しても伝わらないのよ。貴方自身が思い出すしかない』
勇者『さっきの話と関係あるのか? 僧侶、お前は見た。何を知ってる?』
僧侶『………私を忘れないで。貴方の魂のその奥に、私はいるわ』
サラサラ…
勇者『っ、体が……おい、しっかりしろ!!』
僧侶『思い出して、私は』
勇者『僧ーーー』
サァァァァァ…
巫女「(矢は消えたけど魂が壊れかけている)」
巫女「(この甲冑は魂と深く繋がっている。魂に直接矢を受けたと言っていい)」
巫女「(龍に受けた傷も癒えていないのに……砕けていないのが不思議でならない)」
巫女「(それに、どうやって甲冑と魂を繋いだの。魔女はこの甲冑に何を……)」
勇者「………ッ!!」ガバッ
巫女「だいじょうぶ!? しっかりして!!」
勇者「はぁっ、はぁっ、はぁっ」ズキンッ
勇者「(今のは何だ。何故あいつを僧侶だと? くそっ、頭が重い。何で矢が消えてる。何があった?)」
ギュッ…
勇者「!!」
巫女「落ち着いて、わたしの声が聞こえる?」
勇者「あ、ああ、大丈夫だ。悪いな……」
巫女「ううん。でも良かった、目を覚ましてくれて。みんなも心配してたんだよ?」
勇者「……そうか。あいつは? 僧侶は何処にいる?」
巫女「お姉ちゃんは矢を消すために砦に行ったの。消すには、術者を倒すしかない」
勇者「矢が消えてるってことは殺したのか。あいつが……」
巫女「ううん。倒せてないの」
勇者「何を言ってる。殺したから消えたんじゃねえのか」
巫女「一度は倒したの。だから矢は消えた。だけど、倒せてない。今も戦ってる」
勇者「そいつが何なのか分かるか?」
巫女「お姉ちゃんが戦っているのは、おそらく逸した存在。世にある生命の枠から外れた者」
勇者「……冗談言ってる顔じゃねえな。どうすりゃ殺せる」
巫女「あなたなら倒せる。あなたには、その力がある」
勇者「……前から妙な力を持ってるとは思ってたが、そんなことまで知ってるとはな」
巫女「今まで黙ってて、ごめんなさい」
勇者「謝る必要はねえよ。俺も聞かなかったしな。で、場所は?」ガチャッ
巫女「場所は北東の砦跡。でも、本当に行くの?」
勇者「そのつもりで話したんだろ?」
巫女「……そうだけど、死んじゃうかもしれないんだよ?」
勇者「そうかもな」
勇者「でも、俺が行かなければ僧侶が死ぬかもしれない。かもしれないなんて考えてたら何も出来ねえぞ?」
巫女「………」
勇者「巫女、頭ん中でごちゃごちゃ考えねえ方が良いぞ」
巫女「なんで分かるの?」
勇者「顔に出てるからな。分かり易くて助かる」
巫女「なら、なんで何も聞かないの? わたしのことを疑ったりしないの?」
勇者「そういう奴には見えねえからな」
勇者「理由は分からねえが息苦しそうな顔をしてる。裏切るつもりなら、そんな顔はしねえだろ?」
巫女「………」
勇者「続きは帰ってからだ。話したいことがあるなら、その時に話せ」
巫女「本当のことを話しても怒らない?」
勇者「内容によっては怒るかもしれねえな」
巫女「……いじわる」
勇者「んなことは言われなくても知ってる」
勇者「そんじゃあ行ってくる。腹減ったら何か食え。疲れたら寝ろ。いいな?」
巫女「う、うんっ!」
勇者「お前等も無理はするなよ」ザッ
>>くれぐれも気を付けるんだよ?
>>さっさと帰って来いよ。殺されたら許さねえからな
>>待ってるからね? 必ず戻って来るんだよ?
勇者「……ああ、必ず戻って来る」
ザッザッザッ…
ーーー
ーー
ー
助手「まただ、また音が消えた」
助手「(三つ目の音。つまり、悪魔の魂が消えた。これで何度目になるだろう)」
助手「(この音が意味することは、悪魔が復活しているということだ)」
助手「(まさか不死? いや、そんなはずはない。生物である以上は必ず殺せる)」
助手「(何らかの仕掛けがあるはすだ。おそらく、二人はそれを見抜けていない。何か手掛かりを……)」スッ
ズズズ…
助手「っ、駄目だ。これじゃあ分からない」
助手「(もっと、はっきり聞こえるように出来ないのか? これが限界なのか)」
狩人『光の粒を全体に行き渡らせるのだ。それは君の意のままに動く』
狩人『熟達すると、遠く離れた場所の出来事さえも手に取るように分かるという』
助手「(いや、この程度が限界ではないはずだ。集中して、意識をもっと遠くに)」
ズ…ズズ…
助手「…………」
ズズズ…バチッ!
助手「(痛っ! 何だ、何かが見える。これは弓? っ、消えた。これ以上は無理か)」ボタボタッ
助手「……鼻血」
助手「肉体に負担が掛かるのか。便利だけど、あまり多用しない方が良いみたいだ」
助手「(でも、一瞬だけ見えた。あの弓には何か意味があるのか? 伝えた方が良いのだろうか)」
助手「(……伝えるべきだ)」
助手「(当てにはならないかもしれないけど、直感がそう言っている)」
助手「(未だに音は止まない。二人は苦戦しているんだ。出来ることはやらないと)」ザッ
ザッザッ…
助手「(もう昼は過ぎたみたいだ。何とか夕方までには辿り着きたいけどーーー)」
カカッ…カカッ…
助手「(馬の足音? 逃げ出した馬でもやって来たのか? これは運が良い)」タッ
ブルルッ
助手「あ、やっと見つけ………ひっ!?」
勇者「あ? 何だ、お前」
【#16】死期の訪れ
勇者「誰だ、お前」
助手「(攻撃して来ない? 会話も出来るようだ。昨日の悪魔とは違……いや待て、この音には聞き覚えが……)」
勇者「さっさと答えろ」
助手「……まさか、貴方が勇者」
勇者「追っ手か。面倒だな」ジャキッ
助手「っ、待って下さい!! 僕には伝えなければならないことがあるんです!!」
勇者「軍の連中にか」
助手「何をーーー」
勇者「所作で分かる。お前、軍人なんだろ?」ザッ
助手「(下手な誤魔化しは通用そうにない。いたずらに刺激するだけた。正直に話すしかない)」
勇者「お前らと戦ってる暇はねえんだ。伝えられると面倒なんだよ」ザッ
助手「確かに僕は軍人でした!! ですが、今は違います!!」
勇者「そうかよ」ジャキッ
助手「僕は狩人さんの助手として貴方を追って来ました!! 貴方を捕らえるのが目的です!! 狩人さんは僧侶さんと共に悪魔と戦っています!! 今も!!」
勇者「………」
助手「……事情は僧侶さんに聞きました。貴方が難民を救い出し、東を目指していることも」
勇者「………」
助手「二人は貴方に刺さった矢を消し去る為に戦っている。何故貴方が此処にいるのかは分かりませんが、二人は今も戦い続けています」
助手「僕も連れて行って下さい。説明なら後で幾らでもします。今此処で問答を繰り返している時間はないはずです」
勇者「………」
助手「(表情からは何も読み取れない。信じてくれたのだろうか?)」
勇者「来い。知ってることは全て話せ。いいな」
助手「分かりました」
ーーー
ーー
ー
ガガッ! ガガッ!
勇者「魂の力」
助手「はい。初めは僕にも信じられませんでしたが、その力は確かに存在します」
勇者「それで弓を見たわけか」
助手「そうです」
勇者「……森にいた理由は何だ」
助手「守りながら戦うことは出来ない。君は此処にいろと、狩人さんに……」
勇者「何だ、置いて行かれたのか」
助手「………」
勇者「納得出来ねえなら無理矢理にでも付いて行ったら良かったじゃねえか」
助手「そんなことをしても迷惑を掛けるだけですから……」
勇者「そんなもん無視しろよ」
助手「え?」
勇者「お前、俺に連れて行けと言った時、そいつの迷惑になるから止めようとか考えたのか?」
助手「いえ……」
勇者「ほらな。相手の迷惑になるだとか、そんなことを考えてたら何も出来ねえまま終わっちまうんだ」
助手「(これが彼の思想なのか?)」
助手「(刹那的と言えるが、彼は難民を救っている。利己から来るものではないはずだ)」
勇者「………」
助手「貴方は何故そんな考え方を? 難民を助けた時は悩まなかったのですか? 何故騎士と戦闘に……」
勇者「それを知ってどうする」
助手「……善悪を、見極めたいんです」
勇者「面倒くせえ奴だな。その話は狩人って奴に聞いたんだろ。俺が何をしたのかは既に知ってるはずだ」
助手「何をしたのかは知っています……」
勇者「なら、答えは出てるはずだ」
助手「それが、まだ分からないんです。どちらも正しく、どちらも間違えてるようで……」
勇者「だったら止めとけ。俺に聞いても余計に迷うだけだ。答えなんて見つからねえ」
助手「……いつかは見つかるでしょうか?」
勇者「知るかよ。それはお前次第だ。さっさと頭を切り替えろ」
助手「は、はい、了解しました」
勇者「………」
助手「(想像していた人物とは違う。というか、僕は勇者と話したのか……じゃない。集中するんだ)」
勇者「………」
助手「(やっぱりそうだ。僅かに異なる二つの音が重なっている。本来、音は一つのはずだ)」
助手「(魂が二つあるなんて有り得ない。だとしたら、この音は一体……)」
ガガッ ガガッ…
助手「ち、ちょっと止まって下さい」
勇者「あ?」
助手「あれを見て下さい。悪魔の遺体に矢が刺さっています。消えていません」
勇者「………」
巫女『おねえちゃんが戦っているのは、おそらく逸した存在。世にある生命の枠から外れた者』
勇者「馬を下りるぞ。矢を調べる」スタッ
助手「了解しました」スタッ
ザッザッ…
助手「ただの矢のように見えますね」ソー
ガシッ!
助手「!?」
勇者「化け物の矢だ。触れるな」
助手「は、はい」
勇者「矢が何で出来てるのか分からねえが、魔力じゃねえのは確かだな。これは文字か」
助手「ええ、何か彫り込まれていますね。意味がありそうですが……」
バシュッ!
助手「今のを見ましたか!?」
勇者「ああ、骸が一つ消えた。何か細工をしてるみてえだな」
助手「……?」ピクッ
勇者「どうした」
助手「丁度馬を下りた時に音が消えたのですが、遺体が消えた直後に音が戻りました……」
勇者「確かか」
助手「はい。音にはずっと注意していました。距離も先程より近いので間違いはありません」
勇者「……分かった。矢を破壊するぞ」
助手「了解しました」
バキンッ…バキンッ…
勇者「(文字の彫り込まれた矢。呪術か? こんな文字は見たことがない)」
バキンッ…バキンッ…
助手「(この矢、ほんの少しだけ文字が違うような気がする。他のと比べてみたいけど時間が)」ボタボタッ
助手「(また鼻血? このやり方だと負担が掛かるのかも知れないな。気を付けよう)」ゴシゴシ
勇者「終わったか?」
助手「はい、終わりました」
勇者「よし。予想が当たっているなら、これで蘇りは出来ねえはずだ。砦に行くぞ」
ーーー
ーー
ー
僧侶「んっ!!」ブンッ
ゴシャッ! ドサッ…
僧侶「はぁっ、はぁっ」
ズルルルッ!
羅刹王「く、来る。滅ぼしが、来てしまう」
僧侶「(やっぱり駄目だ。倒したのが私でも狩人さんでも結果は変わらない)」
狩人「諦めるな。もう一度だ」
僧侶「はいっ」ズシッ
羅刹王「お、おお。霧が、晴れていく」
僧侶「(そうだ。諦めちゃ駄目だ。何度でも倒し続けるしかない)」
羅刹王「……獣かと思えば出来損ないじゃないか。幻を見せたか、狂わされたか」
僧侶「行きます」
狩人「待て、先程までと様子が違う」
羅刹王「お前達の意識は明瞭か? 俺に戦いを挑んで無事に済むと思っているのか」
狩人「今まで惚けていたのは演技かね」
羅刹王「毒は抜けた。どこぞの誰の仕業かは知らないが、やってくれる」
僧侶「……毒?」
羅刹王「歪な娘よ、俺に魔術合戦を挑むとは傲慢だな。傲慢故の歪みか」
狩人「言葉は通じるようだが会話にはならないようだな」ジャキッ
羅刹王「待て。待て待て。お前達では殺せない。この有様を見るに、既に試したのだろう?」
ーー
ー
僧侶「んっ!!」ブンッ
ゴシャッ! ドサッ…
僧侶「はぁっ、はぁっ」
ズルルルッ!
羅刹王「く、来る。滅ぼしが、来てしまう」
僧侶「(やっぱり駄目だ。倒したのが私でも狩人さんでも結果は変わらない)」
狩人「諦めるな。もう一度だ」
僧侶「はいっ」ズシッ
羅刹王「お、おお。霧が、晴れていく」
僧侶「(そうだ。諦めちゃ駄目だ。何度でも倒し続けるしかない)」
羅刹王「……獣かと思えば出来損ないじゃないか。幻を見せたか、狂わされたか」
僧侶「行きます」
狩人「待て、先程までと様子が違う」
羅刹王「お前達の意識は明瞭か? 俺に戦いを挑んで無事に済むと思っているのか」
狩人「今まで惚けていたのは演技かね」
羅刹王「毒は抜けた。どこぞの誰の仕業かは知らないが、やってくれる」
僧侶「……毒?」
羅刹王「歪な娘よ、俺に魔術合戦を挑むとは傲慢だな。傲慢故の歪みか」
狩人「言葉は通じるようだが会話にはならないようだな」ジャキッ
羅刹王「待て。待て待て。お前達では殺せない。この有様を見るに、既に試したのだろう?」
狩人「………」
羅刹王「無駄だ。徒労だ。何度やろうと俺に死は訪れない。だが、お前達には訪れる。蒼白な娘よ、生きたいか」
狩人「何?」
羅刹王「その命、持って二十年。残りは僅か。俺ならば延ばしてやれる。歪みを消し去れば、与えてやる」
狩人「……歪みとは何だ」
羅刹王「その娘。そして、共にいる男。生かしておけば、人すらも滅ぼすだろう」
狩人「………」
僧侶「そんなことは有り得ません」
羅刹王「何を馬鹿な。あの男は既に人を殺したはずだ。己の掲げる正義を信じてな」
僧侶「違う」
羅刹王「何が違う。身勝手な正義で剣を振るう狂える獣、世にも稀な殺人者だ」
僧侶「違う!! あの人は戦うしかなかった!! そうしなければ、私も皆も殺されていた!!」
羅刹王「救うための殺人ならば正しい行いだと言うのか。何とも身勝手な考えだ」
僧侶「そんな人じゃない!!」
狩人「悪魔に耳を貸すな、落ち着ーーー」
羅刹王「実に醜い。己の罪から目を背け、積み上げた屍の上で勇者を騙るとはな」
僧侶「違うっ!!」ダッ
ガシッ!
僧侶「離して下さい!!」
狩人「落ち着くんだ!! 挑発に乗るな!!」
僧侶「あの人は罪から目を背けたりしません。罪を背負って戦い続けているんです。幼い頃から、ずっと……」
狩人「………」
羅刹王「そうか。ならば来い。何を迷う必要がある。思い慕う男の名誉を守ってみせろ」
僧侶「っ!!」バッ
狩人「待つんだ!!」
羅刹王「まるで赤子のようだな」ズォ
狩人「弓? 逃げろ!!」
羅刹王「もう遅い。これで、歪みは一つ消える」
ドッッ!
僧侶「……あ…ぅ?」
ドサッ…
狩人「僧侶!!」ダッ
羅刹王「今更何をしても無駄だ」サァァ
狩人「(姿を消した? 理由は分からないが先程とは違う。音を探さなければ)」
羅刹王「無駄だと言ってる」
ガシッ!
羅刹王「首をへし折ったらどうなる。試したことはあるか?」
ギリギリ…
狩人「ぐっ…っ!!」ガチリ
ザクッ!ザクッ!
羅刹王「何度やろうと同じだ。お前は脅威ではないが、動かれると面倒だ」
ギリギリ…
羅刹王「苦痛に喘ぎ、己の意思で死ぬことは出来ず、限られた時まで生かされ続ける。呪われた命」
狩人「知った風な口を、利くな……」
羅刹王「鎌を使うのは、命を支配したいという願望の表れか?」
狩人「………」
羅刹王「憐れな娘だ。己の命すら自由に出来ないというのに、命を刈り取るべく鎌を振るうのだから」
狩人「下らない妄想だ」
羅刹王「まあいい。所詮はお前も罪人。血に塗れた体、穢れた血。本来の人ではない」
狩人「貴様のような存在に言われたくはないよ。自分の罪は棚に上げて、よくもまあ偉そうに言えたものだ」
羅刹王「お前のような存在と一緒にするな。俺は超越者、神の行いに罪などない」
ゴキャッ…
羅刹王「脆いな。さて、歪な娘よ」
僧侶「……っ、うぅ」
羅刹王「お前は存在してはならない歪みだ。その矢が、お前を殺すだろう」
僧侶「…ゆ…がみ……」
羅刹王「そうだ。故に消し去らなければならない。一度はあの男に防がれたがな」
僧侶「(最初から、私を狙っていたの? でも、何故?)」
羅刹王「一つ聞きたい。お前は何処から来た?」
羅刹王「どうやら我々とは異なる進化を遂げているようだ。我々以前の存在なのか」
僧侶「なにを……」
羅刹王「お前は疑問を抱かなかったのか? 俺の魔術を妨害する程の魔力を扱えることに」
僧侶「………」
羅刹王「あのようなことは嘗ての我々にも不可能だ。お前は如何にして、そこに辿り着いた」
僧侶「(かつて?)」
羅刹王「本当に何も知らないのか。それならば、それでいい。お前が辿る結末は変わらない」
僧侶「(っ、矢が止まらない。でも何で? この矢はあの人に刺さっているはずなのに)」
羅刹王「………来たな。奴の音が聞こえる」
僧侶「(音? 音なんて何処から……まさか、羅刹王にもーーー)」
ジャリッ…
僧侶「そんなっ、何で」
羅刹王「ハハハッ!! そうか、そのような様になっていたか。誰かは知らんが面白いことをする」
羅刹王「だが、それこそが相応しい姿だ。お前は生命の敵。死を振り撒く病に違いない」
羅刹王「………その目、あくまで足掻くつもりか。いいだろう。そのひび割れた魂、今度こそ砕いてやる」
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