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元スレ勇者「最期だけは綺麗だな」
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【#1】
僧侶「スー…スー…」
勇者「(泣き疲れて寝たのか?)」
勇者「(ったく、怒ったり泣いたり浮き沈みの激しい女だな。これだからガキは嫌なんだ)」
魔女『使えない道具なら捨ててしまえば良いのに、バカみたい』
勇者「(……そうだな、その通りだよ)」
勇者「(こんなに手間の掛かる奴は捨てればいい。足枷になるなら、いない方がマシだ)」
勇者「(相容れない考え。育った環境も違う。互いに分かり合うことなんて出来はしないだろう)」
僧侶「…んっ…うぅ…」ビクッ
ぎゅぅぅ
勇者「(……あの人は、俺を見捨てなかった)」
勇者「(どう考えても足手まといでしかない俺を、あの人は傍に置き続けた。最期まで……)」
勇者「(なぜ俺だったのか、その理由は分からない。ただ、決して投げ出すような真似はしなかった)」
僧侶「ん~っ…」
勇者「(なら俺は?俺は何でコイツを背負う?)」
勇者「(自分より弱いものを守りたいと? あの人のようになれるとでも思っているのか?)」
勇者「馬鹿か俺は……」
勇者「(今更になって綺麗に生きようとでも? 馬鹿げてる。甘っちょろい理想なんてものはあの日に捨てたはずだ)」
勇者「(俺はあの人のようにはなれない。守るだとか背負うだとか、そんなこと、俺には……?)」
ガガッ ガガッ
勇者「(あの身なり、何処かの騎士か)」
>>その方は怪我人ですか!?
勇者「いえ、眠っているだけです。貴方は?」
騎士「………」
勇者「どうしました?」
騎士「い、いえっ……申し遅れました。私は騎士。此処より北にある街から参りました」
勇者「そうでしたか、私はーーー」
騎士「貴方は勇者様。そうでしょう?」
勇者「何故それを?」
騎士「国王及び教皇による勇者への協力要請、その中には似顔絵もありましたからね」ニコリ
勇者「(何が似顔絵だ、つまりは人相書きじゃねえか。大方、後で始末する為に顔を広めたんだろう。笑わせやがる)」
騎士「如何しました?」
勇者「いえ、まさかそこまで広まっているとは思ってもいませんでしたから……」
騎士「勇者様の似顔絵が届いたのはつい最近のことです。ご存知ないのも無理はありませんよ」
勇者「ところで貴方は何故こんな所に? 他の騎士の方々の姿が見えませんが?」
騎士「昨夜、山火事が発生したとの情報が入りました」
騎士「それから、龍が飛び去るのを見たという情報も多数寄せられました。北の騎士団は、双方の関連性について調査に来たのです」
勇者「貴方お一人で、ですか?」
騎士「まさか。勿論、他の騎士も来ています」
騎士「ただ、少しばかり騎士団内部で問題がありまして……それに、龍絡みとなると中々……」
勇者「(怖じ気づいたのか、腰抜け共が)仕方ありませんよ。誰にでも怖れはある」
騎士「貴方にも」
勇者「?」
騎士「貴方にも怖れはありますか?」
勇者「(あるわけねえだろ)私にはありません」
騎士「……お強いのですね」
勇者「そんなことはありませんよ。私一人では此処まで来ることは出来ませんでした」
勇者「彼女が……」
僧侶「スー…スー…」
勇者「僧侶さんがいてくれなければ、こうして立っていることも出来なかったでしょう」
騎士「………が」
勇者「何か?」
騎士「いえ、何でもありません。お二人は何処へ?」
勇者「北の街を目指していた所です」
騎士「そうでしたか!」
騎士「ですが、少々困りましたね。すぐにでも送って差し上げたいところですが調査がーーー」
勇者「調査の必要はありません。龍は私の前に現れました」
騎士「………そうでしたか。その右腕の傷、その服装はそういうことだったのですね」
勇者「詳しいことは道々か、街に到着したらお話しします。ご迷惑かとは思いますが、街まで送って頂けませんか」
騎士「迷惑だなんてそんな、私で宜しければ喜んでお送りいたします」
騎士「では、申し訳ありませんが少々お待ち下さい。すぐに迎えに参りますので」
勇者「ありがとうございます」
騎士「っ、頭を上げて下さい!礼を言わなくてはならないのは私の方です!!」
騎士「微力ではありますが、貴方のお役に立てることを心より光栄に思っています。何より、この出逢いを」
勇者「(めんどくせえ、堅っ苦しい、話は長え。だから嫌なんだよ、こういう奴って)」
騎士「では、後ほど」
ガガッ ガガッ
勇者「………行ったか。おい」ユサユサ
僧侶「んっ…」
勇者「もう大丈夫か」
僧侶「えっ? はい、大丈夫です……」
勇者「どうした? 何かあるなら言え」
僧侶「いえっ、本当に何でもありません。何ともないです。大丈夫です」
勇者「あ、そう」
僧侶「(はぁ、また寝ちゃった……金棒と鉄板に加えて私まで……重かっただろうな……)」
勇者「お前が眠ってる間に北の騎士と会ってな、そいつが今から迎えに来る」
僧侶「えっ、騎士が迎えに? というか、何で騎士がこんな所に?」
勇者「説明は後でしてやる。ともかく、北の街まで乗せてってくれる。後、腕痺れたから降りろ」
僧侶「あっ、ごめんなさい。今降ります」ストッ
勇者「いいか、迎えに来るのは騎士だからな。失礼のないようにお行儀良くしてろよ」
僧侶「………」
勇者「何だよ、そのツラは」
僧侶「べ、別に何でもないですよ?」
勇者「そうかよ。つーか遅えな、早く来いよ」
僧侶「(この人、外見と外面はすっごく良いからなぁ。見惚れる程に綺麗な顔してる、顔は)」
僧侶「(それから、細かな動作まで計算したような演技。それが男女問わず惹きつける。一体どこで身に付けたんだろう?)」チラッ
勇者「………」
僧侶「………はぁ。演技じゃなくて、普段もあんな感じなら良いのになぁ」ポツリ
勇者「聞こえてんだよバカが」
ポカッ
僧侶「あたっ」
勇者「余計なこと言ってねえで大人しく待ってろ。しばらく口喧嘩はナシだ、いいな」
僧侶「…………」
勇者「早速無視ですか、良い度胸ですね。僧侶さん」
僧侶「へっ?いや、ちゃんと聞いてます。大丈夫です。ただ、ちょっとぼ~っとしちゃって……」
勇者「気を抜くな。迎えに来るのが人間だからって油断するなよ。何があるか分かんねえぞ」
僧侶「……はい。『分かっています』」
勇者「そうか、ならいい」
僧侶「(やっぱり、ちょっとだけ違う。森で私が泣いた時も、さっき頭を叩いた時も……)」
勇者「………」
僧侶「(何て言うか、優しかった。ような気がする。最初の頃に比べたらだけど……)」
ガラララ
勇者「お、来たな」
僧侶「あ、馬車ですね。久し振りだなぁ……」
勇者「お前と旅に出てから二、三日で化け物にぶっ壊されたからな。お前が馬車に魔除け水使うの忘れた所為で」
僧侶「違います!あれは大型の魔物だったので効力がーーー」
勇者「馬車は壊され馬は喰われて大変だったな。お前は終わった後も吐いてたっけ。懐かしいな」
僧侶「そろそろ口調を変えないとバレますよ」
勇者「うるせえな、分かってるよ」
【#2】殉教者
騎士「お待たせしました」
勇者「いえ。しかし、わざわざ馬車を用意することは……」
僧侶「(また心にもないことを言うんだから。私以外の人にはいつもこれだ)」ムスッ
勇者「僧侶さん、どうしました?」ニコリ
僧侶「(うっ、バレてる……)」
勇者「僧侶さん?」
僧侶「何でもありません。騎士さん、わざわざありがとうございます」
騎士「いえ、礼には及びませんよ。お二人共お疲れでしょう。さあ、乗って下さい」ニコリ
僧侶「(綺麗な人だなぁ。凜々しくて、物腰は柔らくて……格好いい女性って感じだ)」
騎士「あの、私に何か?」
僧侶「えっと、初対面でこんなことを言うのは何ですが、とても綺麗な方だなと思いまして」
勇者「(何言ってんだこのバカ)」
騎士「………」
勇者「申し訳ありません。お気を悪くしたのなら謝罪します」
騎士「っ、ふふっ、あははっ」
勇者「?」
騎士「いえいえ、此方こそ申し訳ありません」
騎士「まさかそんなことを言われるとは思ってもいなかったもので少々驚いてしまっただけです。面白い方ですね」
僧侶「あ、ありがとうございます?」
勇者「(褒めてねえよバカ)」
騎士「ふふっ、お話しは中で聞きます。さあ、どうぞ」
勇者「はい、ありがとうございます」
僧侶「ありがとうございます」ペコッ
トコトコ
騎士「…………」ザッ
コツコツ バタン
騎士「っと、これは……」
勇者「僧侶さん、少し詰めて下さい」
僧侶「あっ、はい。騎士さん、どうぞ」ススッ
騎士「ありがとうございます」トスッ
勇者「これの所為で窮屈になってしまいました。申し訳ありません」
騎士「い、いえ、それ程のものでなければ魔物を相手に出来ないのでしょう?」
騎士「単体ならばともかく、複数を相手取るとなれば通常の刀剣では歯が立たない。大型のものであれば尚更のことでしょう」
勇者「貴方が理解のある方で助かります」
騎士「理解? どういうことですか?」
勇者「大半の方は良い顔をされませんから……」
騎士「何故です?」
勇者「物騒、粗野、野蛮。おおよそ、勇者と呼ばれる者が帯びるには適したものではない、と」
騎士「そうでしたか……」
騎士「魔物の怖ろしさ、貴方が歩む道の過酷さ。それを知らない方にはそう見えるのでしょうね」
勇者「(何だコイツ、知ったような口を利きやがって)」
騎士「では、出発しましょうか」
勇者「はい、宜しくお願いします」
騎士「全員乗った。出してくれ」
>>了解しました。
ガラララ
勇者「早速ですが、私の見聞きしたことをお話しします」
騎士「そう急がずとも街に到着してからで構いませんよ?少しばかり休んでは如何です?」
勇者「それでは貴方に迷惑を掛けてしまう」
騎士「えっ?」
勇者「到着してからでは貴方を拘束してしまうことになる。本来の職務に支障が出る怖れもあります」
勇者「此処で話しておけば、貴方が街に到着したと同時に騎士団に伝達出来るでしょう?」
騎士「な、何を仰います。私に、一介の騎士に、そこまで気を遣わなくともーーー」
勇者「気遣いだけではありませんよ?」
騎士「?」
勇者「私個人として、これ以上に貴方のご好意に甘えるのは気が引けます」ニコリ
騎士「ふふっ、遠慮なさらなくてもいいのに……あっ…し、失礼しました」カァァ
勇者「いえ、お互い力を抜いて話しましょう。その方が休まります」
騎士「そ、そうですか?」
勇者「ええ。僧侶さんもそうでしょう?」
僧侶「えっ!? あ、はい。私もいつも通りに接して頂いた方が……その、楽といいますか」
勇者「だそうですよ?」ニコッ
騎士「お、お気遣い、ありがとうございます」
僧侶「(あ、顔が真っ赤だ。きっと照れてるんだろうな。こんなに綺麗な人を容易く……)」チラッ
勇者「………」ニコニコ
僧侶「(何ですか、その好青年風の爽やかで涼やかな微笑みは……この、猫被りめっ!)」
勇者「どうしました?」
僧侶「何でもないです」
騎士「……取り乱して申し訳ない。では勇者様、お願いします」
勇者「分かりました」
勇者「先程お話しした通り、私の前に龍が現れました。無論、その目的は私を抹殺することです」
僧侶「(えっ?)」
勇者「その際、森は龍の炎で覆われたのです」
勇者「その後は僧侶さんの助けもあり、何とか龍を退けることが出来ました。深手は負いましたが」
騎士「他に何かありましたか?」
勇者「北の山村で待つ。そう言っていました……龍については以上です」
騎士「龍については? まさか他にも?」
勇者「はい。実は今朝、魔女と名乗る者に襲撃を受けました。熟達した術法の使い手です」
勇者「虚を突いて倒したかと思いましたが、僧侶さんによれば実体ではないとのことです」
騎士「身体的特徴や人相は分かりますか?」
騎士「まだこの辺りに潜伏しているかもしれません。我々もお役に立てるかと思います」
勇者「残念ながらこれといった特徴はなく、顔を隠していたので人相は分かりませんでした」
騎士「……そうですか。しかし、龍に加えて魔女ですか。厄介な相手ですね。関連性は?」
勇者「私個人の考えでは無関係だと思われます」
勇者「龍の配下。もしくは龍を崇拝する者であるのなら、私を抹殺しようとするはずです」
騎士「勇者様の抹殺が目的ではなかったと?」
勇者「ええ。挑発行為が主で、それ以外には何もありませんでした。魔女の目的は不明です」
騎士「目的不明の挑発行為、ですか。差し支えなければ内容を教えて頂けませんか?」
勇者「あくまで個人的なことですので、捜査に必要な情報ではないかと思います」
騎士「っ、そうでしたか。思慮が足りず申し訳ありません」
勇者「いえ。大してお役に立てず申し訳ない」
僧侶「(何で隠したんだろう。この人なら力になってくれるかもしれないのに。疑ってるのかな?)」
勇者「私が見聞きしたものは以上です」
騎士「ご協力感謝致します。では街に到着次第、宿に案内します」
勇者「何もそこまで……」
騎士「それくらいはさせて下さい。私もこれ以上、貴方の好意に甘えるのは気が引けますので」ニコリ
勇者「分かりました。では、お願いします」
騎士「はい、お任せ下さい。それから、大変申し上げにくいのですが……」
勇者「何でしょう?」
騎士「少しばかり手を貸して欲しいのです」
勇者「それは、先程言っていた騎士団内の問題に関係することですか?」
騎士「ええ、そうです」
騎士「話だけでも聞いて頂けると助かります。知恵を貸して欲しいのです」
勇者「(チッ、めんどくせえな)構いませんよ?私で良ければ力になります」
騎士「あ、ありがとうございます!」
騎士「それについては街に到着して宿に案内してからと言うことで……宜しいですか?」
勇者「ええ、分かりました。僧侶さんもそれで構いませんか?」
僧侶「はい、私もそれで構いません。お世話になったお礼もまだですから」
騎士「ありがとうございます……」
僧侶「(ん? 何だろう。変な感じがする。どこからか見られているような……あ、消えた)」
騎士「しかし、龍が自ら姿を見せるとは」
勇者「ええ、私も驚きました」
騎士「自らが赴き、決戦場所を指定。それが最北端の山村ですか。何とも厳しい道のりですね」
勇者「承知の上です」
騎士「……そう言えば、あの村は先の勇者様が亡くなった場所でしたね」
僧侶「えっ?」
騎士「ご存知ではなかったのですか?」
僧侶「その、術法の勉強ばかりに明け暮れていて、恥ずかしながら世情に関してはあまり……」
騎士「と言うことは、僧侶様は世とは隔絶された場所に? 修練場や、それに近い場所に?」
僧侶「いえ、王都近辺にある司教区です」
僧侶「隔絶と言いますか、世に飛び交う言葉には耳を傾けぬようにと教えられてきました」
僧侶「噂や憶測など、人心を惑わし混乱させるようなものは信仰を揺らがせる、と」
勇者「(なる程、通りで甘っちょろいわけだ)」
僧侶「あのっ、騎士さん」
騎士「はい?」
僧侶「先の勇者様が北の山村で亡くなったというのは事実なのですか?」
僧侶「その辺りの事情に関しては無知なもので、教えて頂けると助かります」
騎士「は、はい。私が知りうる限りのことで宜しければ……」
僧侶「はい、是非お願いします」
騎士「では……」コホン
騎士「先程は亡くなったと言いましたが、厳密に言うならば消息を絶った場所です」
騎士「最後に目撃されたのが北の山村近辺なので、そこが没した土地だと言うのが通説になっています」
僧侶「なる程……」
騎士「それと、これは未だ不確かな情報ではありますが、龍との戦いに敗れたという説もあります」
騎士「それを裏付けるように、先の勇者様が消息を絶ったと同じく龍が姿を消した。五年もの間」
騎士「これが勇者なき五年、龍なき五年の始まりです。混迷の世の始まりでもあります」
僧侶「正邪なき混沌の世……」
騎士「ええ、それです。そして五年後の今、現在の勇者様が現れた」
騎士「ですが、それと同じく龍の目撃情報も出始めた。勇者様の現れに合わせるようにして……」
僧侶「…………」
騎士「再び現れた龍の片目が潰れていることから、先の勇者様と龍が戦ったという説は有力視されています」
騎士「ですので、最後に立ち寄った北端の山村を聖者の墓所、殉教者の地と呼ぶ者もいます」
僧侶「聖者の墓所……」
勇者「(何が殉教者だボケ)」
勇者「(どいつもこいつも好き勝手言いやがって、あの人は信仰の為に戦ってたわけじゃない。あの人は……)」
騎士「以上です」
僧侶「ありがとうございます。とっても勉強になりました。お詳しいのですね」
騎士「いえ、そんなことは……」チラッ
勇者「…………」
騎士「あの、勇者様」
勇者「?」
騎士「退屈だったでしょうか?」
勇者「いえ、聞き入っていただけです。とても心地良い声色でしたから、つい」ニコッ
僧侶「(また歯が浮くような台詞を言ってる)」
騎士「えっ…そ、そうですか。それは良かったです……」カァァ
僧侶「(騎士さん、騙されちゃダメですよ)」
>>そろそろ到着します。
騎士「了解した」
騎士「そろそろ到着します。何だか私ばかり喋ってしまって申し訳ない……」
僧侶「いえ、そんなことはないです。本当に勉強になりました。ありがとうございます」
勇者「(やっと解放されるな。さっさと宿屋に入って休みてえ。飯食いてえ、水浴びてえ)」
【#3】宣告
勇者「此処ですか、良い宿ですね」ニコッ
騎士「気に入って頂けたようで良かった。お部屋はどうしますか?」
僧侶「(そっか、今日はお布団で眠れるのか。ここ最近は野宿だったから嬉しいなぁ)」
僧侶「(村では雑魚寝だったけど今日は違う。一人でゆっくり眠れるんだ)」
勇者「一部屋で構いません。ね、僧侶さん」
僧侶「はい。って、えっ!?」
騎士「……あの、本当に一部屋で宜しいのですか? 僧侶様は別々の部屋が良さそうですが」
勇者「別々の部屋では行動に差が出ますから」
僧侶「それはそうですけど……街ですよ?」
勇者「私を狙うのは魔物だけじゃない」
勇者「街であれ何処であれ、慣れない場所では行動を共にした方が良いでしょう」
勇者「別々の部屋で眠っている間に何かが起きたら対応に遅れが出てしまう。違いますか?」
僧侶「(ちょっと警戒し過ぎなような気もするけど)そうですね。分かりました」
騎士「では、手続きは私が」
勇者「何から何まで、申し訳ありません」
騎士「いえ、お気になさらないで下さい。では」ニコリ
コツコツ
勇者「……えっ、じゃねえんだよバカが」
僧侶「(絶対言われると思った)」
勇者「ゆっくり眠れるなんて思うなよ。寝る時は時間毎に交代するからな」
僧侶「えっ、そこまでする必要はないと思いますけど……」
勇者「お前はあの村で何を見た。何を学んだ」
勇者「奴等のような化け物がこの街にいないと断言出来んのか。気を抜くなって言っただろうが」
僧侶「っ、ごめんなさい……」
勇者「別に謝らなくていい。それより、今から言うことを良く聞け」
僧侶「は、はい。何ですか?」
勇者「俺の傍にいるってことの危険性をもう少し自覚しろ。敵はどこにでもいる」
勇者「龍をぶっ殺すまで付いてくる気なら、安心して眠れる夜はないと思え。それが嫌なら今すぐ帰れ」
僧侶「っ、帰りません!私は最後まで付いていきます!馬鹿なことを言わないで下さい!!」
勇者「手遅れになる前に聞いておく、お前は何で付いてくる?」
僧侶「それは、神に誓ったからです……」
勇者「神なんぞどうでもいい。お前はどうだって聞いてんだよ。お前の芯のところは?」
僧侶「……私?」
勇者「そうだ。何処の誰に誓おうが構わねえが、お前の意志はどうなんだ。それでいいって言ってんのか?」
僧侶「………」
勇者「……いいか、僧侶」
勇者「俺の傍にいれば、この先も醜いものを見る羽目になる。化け物共による理不尽な死やら人間の獣性やらを嫌って程にな」
僧侶「っ、言われなくても分かってます」
勇者「分かってねえから言ってんだよ。襲ってくるのは化け物だけじゃない」
勇者「悪意や憎悪、憤怒や悲痛、喪失と慟哭。人間魔物関係なく、それは起きる。今この瞬間にも起きてるだろう」
勇者「そういった目に見えないものが次々に絡み付いて離れなくなる。俺といれば、それが続く。お前が歩もうとしてんのは、そういう道なんだ」
僧侶「………」ギュゥ
勇者「今のうちによく考えておけ。神に縋らず、自分がどうありたいかをな」
僧侶「………はい」
コツコツ
騎士「お待たせしまた。さあ、どうぞ」
僧侶「(私がどうありたいのか?)」
僧侶「(どうあるべきかではなく、どうありたいのか? そんなこと、私には……)」
騎士「勇者様、何かあったのですか?」
勇者「いえ、何も。僧侶さん、私は少しばかり話があるので先に入っていて下さい」
僧侶「はい……」
トボトボ
勇者「………」
騎士「勇者様?如何しました?」
勇者「いえ、何でも……お話を伺うのは少しばかり体を休めてからでも宜しいですか?」
騎士「ええ、勿論です。では、そうですね……夕方にでも迎えに上がります」
勇者「迎えだなんてそんな……場所さえ教えて頂ければ私が向かいます」
騎士「助力を願う側としてそれは出来ませんよ」
騎士「それに、以前に比べて街並みも随分と変わりましたので迷ってしまうと思います」
勇者「……そうですか。では、お願いします」
騎士「はいっ。では、後ほど」ニコリ
コツコツ
勇者「街並みが変わった、か……」
ガヤガヤ
勇者「(……入るか。あのまま一人にすると、また余計なことを考えて泣き出しそうだしな)」
【#4】手を握る
僧侶「(お前はどうしたいのか、か)」
僧侶「(これまでは付いて行くのに必死だったから、こんな風に考える時間なんてなかったな)」
シーン
僧侶「(静かなのに、何だか落ち着かないや)」
僧侶「(神に縋るのではなく、信仰も誓いも関係なく、私自身の気持ちか)」
僧侶「(……急に言われても分からないし、これまでの私を振り返ってみよう)」
勇者『ッ、下がってろ!』グイッ
僧侶『きゃっ!』ドタッ
グサッ
勇者『ってえな……死ね、クズ共』
ザンッ ゴロンッ
僧侶『っ!!』ビクッ
勇者『何してる。さっさと立て』
僧侶『あ、あの、血が出てます。治療しないと……』
勇者『そんなもん必要ねえよ。まだ終わってねえんだ。死にたくなかったら離れるな』
僧侶「(うん、あの人の役には立ってないね。自分で言ってて悲しくなるけど、これは事実だ)」
僧侶「(傷を癒やしたのなんて龍が現れた時だけだし、術法援護したのは魔女が現れた時だけだ)」
僧侶「(改めて考えると邪魔でしかない……)」
僧侶「(あの人の性格からして、今まで放り出さなかったのが不思議なくらいだ)」
勇者『俺の傍にいるってことの危険性をもう少し自覚しろ。敵はどこにでもいる』
勇者『龍をぶっ殺すまで付いてくる気なら安心して眠れる夜はないと思え。それが嫌なら今すぐ帰れ』
僧侶「……そっか」
勇者『今のうちによく考えとけ。神に縋らず、自分がどうありたいかをな』
僧侶「……必要ない。ってことだったのかな」ポロポロ
僧侶「(きっとそうだ。直接はそういうことは言わなかったけど、そういうことなんだ)」
僧侶「(それはそうだよね。これから先はもっと厳しくなるだろうし、ましてや龍なんて……)」
ガチャ パタンッ
勇者「………」
僧侶「えっ? あっ…」グシグシ
勇者「何だお前、また泣いてたのか」
僧侶「な、泣いてないです。ただ、ちょっと泣きそうになってただけで……」
勇者「同じようなもんだろうが……で、何で泣いてた。そうなる前に話せって言っただろ」
僧侶「……必要ないのかな、と思って」
勇者「何でそうなるのか分かんねえ。俺はどうしたいのか考えろって言っただけだろうが」
僧侶「……だって」
勇者「あ?」
僧侶「っ、だってどう考えても足手まといだから!だから、必要ないのかなって……」
勇者「その辺の自覚はあったんだな。ないのかと思ってた」
僧侶「私にだってそれくらい分かります!」
僧侶「私が何よりも分からないのは、何で今まで私を放り出さなかったのかです!!」
勇者「何でお前が怒鳴るんだよ。普通逆だろ」
僧侶「だってそうでしょ!?」
勇者「え、意味分かんねえ。何言ってんのお前?」
僧侶「いつもバカバカ言って、邪魔だと役立たずだとか……それなのに自分で考えろとか……」
勇者「大丈夫?医者呼ぼうか?」
僧侶「~~~っ!!」
勇者「冗談だよ、少し落ち着け」
僧侶「……別に?落ち着いてますけど?」ズビッ
勇者「ガキかお前は……」
僧侶「私がガキなら貴方もガキです。年齢なんて二つ三つしか違わないのに大人ぶっちゃって……」
勇者「なにを拗ねてんだ。つーかお前って幾つだっけ」
僧侶「もうすぐ17です」
勇者「じゃあ16じゃねえか。下らねえ見栄張るんじゃねえよ」
僧侶「………」
勇者「……はぁ、隣座るぞ」トスッ
僧侶「もう座ってるじゃないですか」
勇者「僧侶、俺の目を見ろ」
僧侶「は、はいっ!?」
勇者「顔を背けてたら何も伝わらない。きちんと話すから、きちんと聞け」
僧侶「……わ、分かりました」
勇者「さっきああ言ったのは、お前が考えているような理由で言ったんじゃない」
僧侶「……じゃあ、何で?」
勇者「危ういと思ったんだ」
僧侶「危うい?」
勇者「ああ。誓いのため、神のため、信仰のため。そんなんじゃ、いつか必ず押し潰される」
勇者「がんじがらめになって、息詰まって、自問自答を繰り返す。それで最期は、背負ったものに潰されちまうんだ」
僧侶「………」
勇者「いいか、戦いの中に縋るものなんてありはしない。自分で何とかするしかないんだ」
勇者「縋るなって言ったのはそういうことだ。自分を何かに預けるな。それはお前の命だろ?」
僧侶「(私の、命……)」
勇者「話は終わりだ」
僧侶「(自分の、私だけの、戦う理由……)」
勇者「(コイツ、また何か考えてるな)おい、ちょっと付き合え」
僧侶「えっ?どこに行くんですか?」
勇者「買い物だ。おら、さっさと行くぞ。夕方までには帰って来なけりゃならないんだ」
僧侶「でも、ご飯とかお風呂とか……」
勇者「飯は外で食えばいいだろうが、風呂はもう少し我慢しろ」
僧侶「……あのぅ」
勇者「あ?」
僧侶「お留守番してちゃダメですか?人混みとか苦手なので行きたくないです……」
勇者「………」イラッ
僧侶「それに、貴方から言われたこともあります。今度はしっかり落ち着いて考えられると思います」ハイ
勇者「面倒くせえな、いいから来い」グイッ
僧侶「えっ、ちょっ……一人で行けば良いじゃないですか!留守番くらい出来ますよ!?」
勇者「お前を一人にしておくと碌なことが起きないんだよ!目を離すとすぐに泣くだろうが!!」
僧侶「も、もう泣きません!」
勇者「まるで信用出来ねえ。今朝方同じようなこと言ってたろ、お前」
僧侶「うっ…」
勇者「……少しは外を見ろ。そうすりゃあ違ったもんが見えるかもしれねえだろ」
僧侶「(最初からそう言ってくれればいいのに、何で素直に言わないかな……)」
勇者「ほら、行くぞ」ギュッ
僧侶「(……熱い。まだ熱が残ってるんだ。無理しなくてもいいのに)」
勇者「どうした?」
僧侶「へっ? いえ、何でもないです」
勇者「?」
僧侶「(ちょっとだけ治癒しながら歩こう。これくらいならバレないよね……)」ギュッ
勇者「……行くぞ」
僧侶「あ、はい。お願いします」
ガチャ パタンッ
【#5】偽りなく
僧侶「わあ、凄いですね!」
勇者「何が?」
僧侶「人とかお店とか雰囲気とか、色々です!」
勇者「行きたくないとか言ってた割に楽しそうだな。こんな景色、珍しいもんでもないだろ」
僧侶「初めてですから……」
勇者「は?」
僧侶「実は私、ずっと教会の中にいたんです。外に出たことなんて殆どありませんでした」
僧侶「出たとしても限られた区画だけで、これだけ人がいる場所に出たことはありません」
僧侶「私にはそれが当たり前でしたし、不満に思ったことなんてないですけどね」ニコッ
勇者「……何でお前だけ?」
勇者「他の連中は外に出てるだろ。王都や近辺の街じゃあ修道女なんてそこら中で見かけたぜ?」
僧侶「……多分、隠したかったんだと思います」
勇者「隠すって、お前を?」
僧侶「ええ。全属性の術法を使える人間なんていないですし、教会の中でも疎まれていましたから」
僧侶「……疎まれていると言うより、気味悪がられていたと言った方が正しいかもしれませんね」
勇者「………」
僧侶「世が世なら異端の者として裁かれていたと思います。或いは、悪魔や魔女として……」
勇者「術法だとか言葉を濁しても所詮は魔術だからな。よく殺されなかったなお前」
僧侶「司教様が守ってくれたんです」
僧侶「闇に覆われつつある世界、それを案じた神の御意志。この子は御心の現れ、排斥ではなく愛すべき者であると……」
勇者「お前が神の御心? 大それたことを言う奴だな」
僧侶「……後に聞いた話では、その発言の為に司教の座に留まることになったとのことでした」
僧侶「これも後から聞いたことですが、ゆくゆくは教皇になるだろうと言われた方だったようです」
勇者「ふ~ん、あいつがねぇ」
勇者「でもまあ、言われてみれば他の奴等とは毛色が違ったかもな。俺は好きじゃねえけど」
僧侶「相変わらずですね」
勇者「あ?」
僧侶「他人が尊敬している人をそんな風に言うなんて普通の人ならしません。貴方らしいと言えばそれまでですけどね」
勇者「嗚呼、何て優しい方なんだ」
勇者「一人の人間の為にそこまで奉仕するなんて素晴らしい。とでも言えば良かったか?」
僧侶「嘘だと分かる上に気持ち悪いので結構です」
勇者「ほらな?嘘を吐いてまで褒められたくないだろ?心から尊敬してる人なら尚更だ」
僧侶「(好きか嫌いか褒めるか貶すか、極端な人だなぁ……中間、真ん中とかないのかな)」
勇者「なあ、一ついいか?」
僧侶「何ですか?」
勇者「司教の奴は何でお前を旅に出した?」
僧侶「……今がその力を使う時だと、司教様にはそう言われました。もしかしたら、他にも理由があったのかもしれません」
僧侶「私の存在を問題視する声は多かったですし、それに苦心している司教様を見るのは私もつらかったですから」
勇者「……良かったな」
僧侶「え?」
勇者「そういう奴に出逢えて良かったじゃねえか。お前の痛みは分かんねえけど、救われたんだろ?」
僧侶「……はい」
僧侶「一時は自分を呪ったことさえありましたけど、司教様はずっと励ましてくれました」
僧侶「いつか必ず、その力が私を救うだろうと言ってくれた……何より、居場所をくれた人ですから」
勇者「(………居場所か)」
僧侶「あの」
勇者「ん?」
僧侶「貴方にもいたんですよね?その、苦しみや痛みから救ってくれた人が……」
勇者「………ああ、いた」
僧侶「どんな人だったんですか?」
勇者「俺とは真逆だよ。強くて優しくて、人を守れる人だった。それから、大きな夢を持ってた」
僧侶「夢?」
勇者「争いのない、平和な世界」
勇者「みんなが笑っていられるような、そんな世界さ。そんなもん、無理に決まってんのにな……」
僧侶「………」
勇者「………手、もういいぞ」
僧侶「え?」
勇者「痛みなら引いた。もう充分だ」
僧侶「き、気付いてたんですか!?」
勇者「当たり前だバカ。俺はそこまで鈍くねえ。手を離さない時点で妙だったしな」
僧侶「少しでも楽になって欲しいからやったのに……バカって言わなくてもいいじゃないですか……」
勇者「……っ、悪かったな。お陰で随分と楽になったよ。ありがとな」
僧侶「…………」
勇者「何だよ」
僧侶「い、いえ。何でもないですよ? ホントに」
勇者「………」
僧侶「(頭の中を覗かれている気がする……)」
勇者「……まあいいや。あんまり離れるなよ」
僧侶「えっ? はい、分かりました」
勇者「じゃあ、飯でも食うか。確かこの辺りに美味い店があったんだ」
僧侶「……あれ?来たことあるんですか?」
勇者「ああ、随分と前に一度だけな。この辺りはあんまり変わってねえな」
僧侶「(……と言うことは勇者になる前だよね?先の勇者様と一緒に来たのかな?)」
勇者「お、あった。懐かしいな」
僧侶「(あ、笑ってる。勇者になる前のこの人は、一体どんな人だったんだろう……)」
【#6】外食にて
僧侶「………」モグモグ
勇者「美味いか?」
僧侶「は、はいっ!とっても美味しいです!」
勇者「そっか、そりゃ良かった」
僧侶「でも、全体的にちょっと味が濃いですね。体に悪そうな感じがします」ウン
勇者「たまに食うからいいんだろ?」モグモグ
僧侶「なるほど……」
勇者「どうした?冷めちまうぞ?」
僧侶「いえ、外には色んなものがあるんだなぁと思いまして。ちょっと衝撃を受けてます」
勇者「そんなにか?」
僧侶「そんなにです!」ガタッ
僧侶「見たこともない料理、知らない味。空気、雰囲気。この街は沢山の未知で溢れています!」
勇者「そうか、それは良かったな。嬉しいのは分かるけど少し落ち着け。周りが見てる」
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