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元スレ勇者「最期だけは綺麗だな」
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魔女「…………」
勇者「罪からの解放だ? ふざけんな」
勇者「何も知らねえクセに知ったような口を利きやがって、テメエのような化け物があの人の心を語るんじゃねえ!!」ダッ
ゴシャッ!
勇者「……おら、下らねえ人形遊びは終わりだ。さっさと降りてこい、その口を塞いでやる」
魔女「そうね、楽しいお遊戯はこの辺でお終いにして、そろそろ本題に入りましょうか」スッ
ドッッッ!
勇者「(ッ、骨が弾けーーー)」バッ
サァァァァ
勇者「(……何だ、痛みも何もねえ。あの野郎、逃げやがったのか?)」
魔女「さて、どうかしら?」
勇者「あ?」
魔女「あら、一瞬のことで気が付かなかった? 自分の体を見てみたら?」
勇者「(……骨? いや、これは甲冑か? 甲冑にしては妙だ。関節や指先、全身が包まれてる)」
勇者「(重みも息苦しさもない。甲冑越しなのに剣を握る感覚がはっきりし過ぎてる)」
魔女「それが、これからの貴方よ」
勇者「へえ。で、これがどうした」
魔女「それは引き寄せの甲冑」
魔女「いえ、正確には甲冑ではないわね。それは痛みも何も防げない。言わば、新たな皮膚」
魔女「甲冑に見えるだけで血は流れる」
魔女「血を流すのは貴方ではなく甲冑だけれど、痛みは直接感じるわ。肉体にではなく、魂にね」
勇者「……………」
魔女「私が生きている限り、その甲冑を外すことは出来ないわ。私が外そうと思わない限りはね」
勇者「なるほどな」
勇者「要はさっきの骨やら血肉やらを貼り付けて、俺を化け物にしたってわけだ」
魔女「あら、驚かないのね」
勇者「姿形がどうなろうとやることは変わらないからな。殺してやるから降りてこい」
魔女「ふふっ、あはははっ!! 私、貴方のことがますます好きになったわ!!」
勇者「気狂い女が」
魔女「はぁ、貴方って本当に素敵よ? どんな姿になっても輝きは失われないもの……」
勇者「…………」
魔女「貴方は独りでいるべきだわ。勇者ごっこなんかさっさと辞めて、復讐を果たしなさい」
勇者「お前の指図は受けねえよ」
魔女「あらそう。別に強要はしないわ。でも、その姿でどこまでやれるかしらね?」
魔女「その甲冑は貴方を狙う者にとっての導となる。人魔に拘わらず引き寄せられるでしょう」
魔女「そうなれば、貴方が救った人間にも災いが降り掛かる。勿論、あの女にもね」
勇者「…………」
魔女「あの女は化け物となった貴方を、悪魔となった貴方を受け入れてくれるかーーー」
勇者「(目を切った)」ダンッ
ドズッッ
魔女「けほっけほっ…ふふっ、やっぱり貴方は最高だわ」ボタボタッ
勇者「やっと当たりか、初めて会った時からこうしたくて堪らなかったぜ」
魔女「あら、それは嬉しいわね。貴方になら何をされても構わないわよ?」ハラリ
勇者「!?」
魔女「あら、見られちゃった」
勇者「…………」
魔女「ふふっ、私の顔を見ただけで驚くのね。自分の体が変わっても驚かなかったのに……」
勇者「お前はーーー」
魔女「焦らないで? それはまだ秘密。とにかく、貴方の驚いた顔が見られて嬉しかったわ」
ちゅっ
魔女「これで二度目ね」ニコッ
魔女「それじゃあ、また会いましょう? 私の愛する人でなし、亡骸の王………」
サァァァァ…
勇者「…………」
>>勇者君、無事かい!?
>>見てて冷や冷やしたぜ。おい、大丈夫か?
勇者「えっ? あ、ああ、俺なら大丈夫だ。っていうか何でーーー」
>>助けてくれた人を見殺しには出来ないからね
>>あんたに何かあったら大変だろ?
>>あんたが倒れたら、頃合いを見て担いで逃げようと思ってな。庭の茂みに隠れてたんだ
勇者「隠れてたってことは聞いてたんだろ?」
>>あ~、うん。悪いけど、かなり気持ち悪いよ
>>剥き出しの骨は真っ黒だし、血管は浮き出てるし牙あるし、なんか脈打ってるし
>>顔面だって酷いもんだぜ? 夜中に見たら確実に卒倒する自信がある
>>そこら辺の魔物なら近付けないくらい怖いと思うよ? 正直僕だって怖い
勇者「見た目のことを言ってるんじゃない」
勇者「俺といると魔物が寄ってくるんだ。その意味、危険性が分からないのか?」
>>逆に聞くけどよ。あんた以外に誰を頼れって言うんだ?
>>魔物を引き寄せようと、姿形が怪物だろうと、我々を救ってくれたのは君だろう?
>>他の奴がやろうともしなかったことを、あんたはしてみせたんだぜ?
>>あんたは、俺達にとっての勇者なんだよ
勇者「…………」ギュッ
勇者「(勇者ごっこか、確かにそうかもな。ここで投げ出せば、ごっこ遊びで終わる……)」
>>勇者さん、何を考えているんだろう?
>>さあ、表情が分からないから怖いんだよな
>>戻ったら他の奴等に説明しないと
>>どうやって説明するんだ? 魔術はさっぱりだから説明しようがないぞ?
>>……そこら辺は知らん。魔女の呪いに掛かったとかでいいだろう
>>いやいや、おとぎ話じゃないんだから……
>>やかましい!それ以外に説明のしようがないだろうが!!
勇者「(こんな時に呑気な連中だ)」
勇者「(こいつ等が死ぬのは見たくない。やれるとこまで、無茶だろうが何だろうが死ぬ気でやってみるか)」
『無理をしてまで信じる必要はない。ただ、自分を信じてくれる人くらいは守れるようになれ』
勇者「(出来るかどうか分からないけど、やってみるよ。俺を信じてる奴等くらいは守りたいんだ)」
勇者「………行こう。皆が待ってる」ザッ
【#35】馬車の行き先
ガラララ
僧侶「あのぅ」
勇者「あ?」
僧侶「ひぃっ!」ビクッ
勇者「あのなぁ、無理して一緒に乗らなくても良いって言っただろうが」
僧侶「が、外見で判断するのはーーー」
勇者「はいはい、口では何とでも言えるよな。心は貴方だから、どんな姿でも平気だとか何とか」
僧侶「うっ…だって想像以上に怖いんです。こればっかりは仕方がないと思います」
勇者「そいつは悪かったな。で?」
僧侶「えっ?」
勇者「えっ、じゃねえよ。何か話したいことがあったんじゃねえのか?」
僧侶「あっ、そうでした。ちょっと皆さんの反応に驚いてしまって……」
勇者「しこたま石ころ投げられたな。お前は魔術使おうとしてたしな」
僧侶「ご、ごめんなさい……」
勇者「ま、仕方ねえさ」
勇者「こんなのを見たら誰でもそうなる。元は人間ですとか言われても問答無用で殺してる。俺の場合」
僧侶「……まあ、貴方ならそうするんでしょうね。じゃなくて、その後の行動ですよ」
勇者「ああ、聖水の件か」
勇者「実の所、考えてはいたんだ。でも、まさか向こうから提案してくるとは思わなかったな」
僧侶「使う気だったんですか?」
勇者「いや、使う気はなかった」
勇者「真夜中の移動だ。聖水を使うのが一番現実的なんだろうが、中身は奴等の肉親だ」
勇者「だから、馬車に聖水を使うってのを提案したところで拒否されるのは分かり切ってた」
僧侶「それを、貴方に使ったんです」
勇者「…………」
僧侶「その意味は分かるでしょう?」
僧侶「どんなに怖ろしい姿になっても、彼等は貴方を勇者として見ているんです」
勇者「みたいだな。本当に変わった連中だよ」
勇者「気の良い奴等だ。出来ることならこうなる前に出会いたかったよ」
僧侶「……あの、勇者さん」
勇者「お前にそう呼ばれたのは初めてだな。寒気がするからやめろ。気持ち悪ぃ」
僧侶「ふふっ。はい、分かりました」ニコッ
勇者「……にしても、勇者か」
僧侶「?」
勇者「本当の勇者は凄えんだろうな。街の一つや二つ簡単に救っちまうんだろう」
勇者「誰もが納得するような方法で、誰が犠牲になることもなく、誰も傷付かず、綺麗にさ」
僧侶「…………」
勇者「対して、俺はこの様だ」
勇者「大勢殺して、助けた連中なんて一握り。今や国賊兼化け物だぜ? ざまあねえよな?」
僧侶「そんなこと知りません」
勇者「何怒ってんだお前」
僧侶「比較対象がいないので分かりません。私が知っている勇者は貴方しかいませんから」
勇者「…………」
僧侶「………貴方が勇者なんです。他なんていない。だから、そんなことは言わないで下さい」
勇者「………分かったよ」
僧侶「あの」
勇者「ん?」
僧侶「その体は、痛みでなくても感じるんですか?」
勇者「ああ。仕組みは分からねえが、こうなる前と何も変わらない。感触は直に伝わる」
ギュッ
勇者「…………」
僧侶「……あの、分かりますか?」
勇者「分かるって言っただろ。つーか冷えてるな、毛布でも被っとけ」
僧侶「…………」
勇者「…………」
ガラララ
僧侶「東、でしたよね」
勇者「巫女の話が本当ならな。今はそれを信じるしかねえ。他に行き場なんてないからな」
僧侶「……彼等を送り届けたら、龍と戦うんですか?」
勇者「それが元々の目的だからな。奴を殺して、この旅は終わる」
僧侶「貴方は?」
勇者「あ?」
僧侶「貴方は龍を倒したらどうするんですか?」
勇者「さあ、どうだろうな。そんなこと考えたこともねえよ。どうしたんだ急に」
僧侶「い、いえ、ちょっと気になっただけです」
勇者「……終わりの事なんて考えるな。これからは更に厳しくなるんだ。俺もいるしな」
僧侶「私も頑張りますから大丈夫です。何があっても、貴方と一緒にいますから」
勇者「…………」
僧侶「…………」
ガラララ
勇者「なあ、僧侶」
僧侶「はい?」
勇者「これからも頼む」
僧侶「はいっ!」
乙です
いつも楽しみにしてる
ちょっと確認したいんだけど、一旦終了ってのは、今回の投下を終了して一旦中断してから普通に継続予定ってことかな?
それともひと区切りついたから一旦このスレ終了して再開時に別スレ立てるってこと?
いつも楽しみにしてる
ちょっと確認したいんだけど、一旦終了ってのは、今回の投下を終了して一旦中断してから普通に継続予定ってことかな?
それともひと区切りついたから一旦このスレ終了して再開時に別スレ立てるってこと?
続きはこのスレに書きます。
きちんと章立てて書いているわけではないですが、始まりから森を出るまで、騎士との出会いから街脱出までで区切っています。
外見について
サムライミ監督、トビー・マグワイア主演のスパイダーマン3に登場するヴェノムの体表面を骨にしてBIOHAZARD resident evilのモールデッドを足したような感じです。
なるべく会話の中で分かりやすく説明するようにと心掛けてはいるのですが、不明な点や疑問などありましたら質問して下さい。
一話一話書き溜めてからの投稿になるので時間が掛かるとは思いますが、引き続き読んでくれると嬉しいです。
感想、ありがとうございます。
>>519今更だけどIDくらい変えてからレスしろよ
※※※※※※
悪が物質から来るものとすれば、われわれには必要以上の物質がある。
また、もし悪が精神から来るものとすれば、われわれには多過ぎるほどの精神がある。
ヴォルテール
【#1】痕跡
村娘「よいしょ…」
女将「あ~、くたびれた」
村娘「あ、女将さん。お疲れさまです!」
女将「元気だねえ。やっぱり若いっていいわ」
村娘「若くても大変ですよ。若いだけじゃ、お客さんは満足してくれないし……」
女将「ふっ、はははっ! まったく、相変わらず面白い子だね。雇って正解だったよ」
村娘「そうかなぁ。あたしは女将さんみたいに聞き上手じゃないし、話し上手じゃないよ?」
女将「そういうのは後から付いてくるもんだよ。気取ってないからいいのさ」ニコッ
村娘「(こんな風に、綺麗な笑い方が出来る人になりたいな。もっと頑張ろ)」カチャカチャ
女将「仕事には慣れた?」
村娘「後片付けと洗い物は好き、かな」
女将「喋らないから?」
村娘「……うん。相手は酔ってるし、何言ってるのか分からないし」
女将「聞いてあげればいいのよ。下手に口を挟まずに、きちんとね」
村娘「なるほど……」フム
女将「ふふっ。さてと、後は私がやるからあがって良いわよ? 妹が待ってるでしょうから」
村娘「えっ? でも、まだこんなに……」
女将「いいのいいの。ほら、早く行きなさい」
村娘「ありがとうございます。じゃあ、また明日!」
女将「はいはい。明日も頼むよ?」
村娘「はいっ!」
キィィ パタンッ
村娘「(こんなに早い時間にあがれたのは初めてだ。気を遣ってくれたのかな。いつかお礼しないと)」トコトコ
ドンッ
村娘「あ、ごめんなさい」ペコッ
ガヤガヤ…
村娘「はぁ…」
村娘「(街は広い、人も多い、仕事は大変だ。でも、あの村にいた頃よりはずっといい)」
村娘「(きっと、いつかはこの街を好きになる日が来る。皆で、幸せになるんだ)」
ガヤガヤ…
村娘「(……あの子が待ってる。早く帰ろ)」
トコトコ…
村娘「ただいま~!」
少女「おかえりなさいっ!」トテテ
村娘「おっとと。遅くなってごめんね? 大丈夫だった?」
少女「うんっ、今日もなってないよ? お姉ちゃん、毎日おつかれさまです」ニコニコ
村娘「あははっ、ありがと。お腹空いてるでしょう? 今作るから、ちょっと待っててね?」
少女「見ててもいい?」
村娘「勿論。さて、始めようか」
トントントン…
少女「お姉ちゃん」
村娘「ん~?」
少女「みんなはいつ帰ってくるかな?」
村娘「もうちょっと掛かるんじゃない? どこも人手が足りないから大変なんだってさ」
少女「そっか…今日はみんなで食べたいなぁ」パタパタ
村娘「そうだね。この家に二人じゃあ、ちょっと広いから……」
少女「うん……」
村娘「……寂しい?」
少女「朝はへいきだよ? でも、夜はさみしい」
村娘「お友達は出来たんでしょ?」
少女「うん。でもね、そういうのじゃないの」
少女「この街に来てから、空も山も、動物とかも、全部全部遠くに行っちゃったみたいでこわい」
村娘「そうかもしれないね……」
少女「お姉ちゃんはどこにも行かない?」
村娘「何言ってんの、あたしはあんたのお姉ちゃんだよ? どこにも行かないよ」
少女「よかったぁ」ホッ
村娘「(不安にさせちゃったか。ここの所、仕事にばっかり気を取られてた。こんなんじゃダメだね)」
村娘「(新しい土地に来て不安を感じてるのはあたしだけじゃない。この子だって毎日頑張ってるんだ)」チラッ
少女「ふふーん」パタパタ
村娘「(お金はまだあるけど、あのお金には極力頼らないようにしないといけないし。しっかりしないと)」
少女「お兄ちゃんは元気かなあ?」
村娘「きっと元気だよ。ちょっとやそっとで挫けるような男じゃないからね」
少女「いつかまた会いたいね?」
村娘「そうだね。また会えたら、嫁にでもしてもらおうかね?」ニコッ
少女「お婿さんがいいなぁ。そしたらね、みんなで一緒にごはんが食べられるもん」ニコニコ
村娘「あははっ、婿か。そいつはいいね」
ドンドンッ
少女「お客さんだ!」トテテ
村娘「あ、ちょっと……もう」
トコトコ
村娘「(誰だろ。女将さんかな?)」
ドンドンッ
村娘「はいはい、今開けますよ」ガチャ
狩人「今晩は、お嬢さん」
狩人「私は狩人。貴方にお訊ねしたいことがあるのです。少しばかりお時間宜しいですか?」
村娘「(何だか気味が悪いね)ちょっと奥に行ってて、すぐに終わるから」
少女「は~い」
狩人「小さな小さなお嬢さん」
少女「わたし?」クルッ
狩人「君は、この人物を知っているかな?」スッ
村娘「悪いけど、そんな男はーーー」
狩人「貴方には聞いていないのだがね」
村娘「(っ、コイツ……)」
狩人「お嬢さん、彼を知っているかな?」
少女「うん、知ってるよ?」
狩人「ありがとう。助かったよ」ニコリ
村娘「(っ、こうなったら仕方ない)後はあたしが話すよ。ちょっと待っててね」
少女「うん」
村娘「……で、何を聞きたいんだい?」
狩人「中に入っても?」
村娘「妙なことをしたらーーー」
狩人「先程から心外だな。私は、貴方が想像しているような悪しき人間ではない」
狩人「誓って言うが、危害を加えるような真似はしない。私はただ、彼に関わった人間から話を聞きたいだけなのだよ」
村娘「それは悪かったね」
村娘「あんたが普通の人間とは雰囲気が違うから警戒してるんだ。肌も、妙に青白いし……」
狩人「そうか、それは実に分かり易い理由だ。しかし、私には貴方を安心させる術がない」
狩人「私を信用してくれ。と言うほかに方法がないのだが、どうだろうか?」
村娘「……外でも良いなら」
狩人「有難い」
パタンッ
村娘「そんなに時間はないよ。あまり一人にはしておけないんだ」
狩人「分かっているとも。質問の前に、貴方は彼が勇者であると知っていたのかね?」
村娘「この街に来るまでは知らなかったよ。村では旅人だって言ってたから」
狩人「彼が勇者だと知ったのは?」
村娘「少し前に勇者の似顔絵とかが出回っただろ? それで知ったんだ。あたしも、皆もね」
狩人「(嘘ではなさそうだな)」
村娘「あたしも聞きたいね。あんたは何者なんだい? 何の為にあたしのところに?」
狩人「私が何者か? それについては簡単には説明出来ないな。少々複雑な経緯なのでね」
狩人「此処へ来たのは彼を捕らえる為だ」
狩人「居場所は特定出来るが、彼の人物像が見えない。捕らえるに当たって、少しでも多くの情報が欲しいのだよ」
村娘「随分と正直だね」
狩人「得る為だ、正直に話すとも」
村娘「捕らえると言ったけど、捕らえてどうするつもり? あの人が何をしたって言うの?」
狩人「捕らえるのは保護する為だ」
狩人「現在、様々な勢力が彼を狙っている。それより先に、勇者を手に入れなければならない」
村娘「………」
狩人「彼が何をしたかについてだが……此処だけの話、とある街から連絡が途絶えてね」
狩人「どうやら、騎士団が壊滅したらしいのだよ。それが彼の仕業だとされている」
村娘「そんなバカな話がーーー」
狩人「信じようが信じまいが関係ない。私は正直に話したのだ。貴方にもそうして欲しいものだね」
村娘「っ、分かったよ」
村娘「先に言っておくけど、そんなに知らないよ。関わったと言っても、ほんの短い間だからね」
狩人「構わない。貴方がどういう経緯で此処にいるのか、それは既に知っている」
狩人「私が知りたいのは、彼がどういう人間だったのかということだ。そこで、幾つか質問したい」
村娘「あたしの答えでいいんだね?」
狩人「ああ、貴方個人の答えで構わない。まず、彼は何故に貴方達を?」
村娘「自由になりたくはないかと聞かれたよ。力になりたいとも言ってた」
村娘「そう言われた時、あたし達は初めて助けを求めたんだ。何が起きたのか、何をされたのか、すべて話したよ」
狩人「彼を信用した理由は?」
村娘「声を聞いてくれたからだよ。泣いて何言ってるのか分からないのに、それでも傍にいてくれた」
狩人「他には?」
村娘「他には何も。後は俺がやるから、お前達は待っててくれって、それだけさ」
狩人「(ふむ……)」
村娘「ただ、心底憎んでるのは確かだと思う。悪魔だと言ってたから」
狩人「村人を悪魔と?」
村娘「そう。あんな行いは人間には出来ないって言ってたよ。あたしもそう思う。今でもね」
狩人「(やはり、自身の過去と重ね合わせたとして間違いはなさそうだ。衝動的とも言えるが)」
狩人「(強い憎しみと、復讐の念が根底にあるのだ。激情に振り回されているのかもしれない)」
村娘「質問は終わりかい?」
狩人「いや、もう少しだけ。殺人を好む傾向にあると感じたかな?」
村娘「そんな風には思わなかったね。あたし達に笑いかけた顔は、とっても優しかったから」
狩人「優しい? 貴方達を助けるだけならば殺人を犯す必要はなかった。私はそう思うがね」
村娘「あんたには分からないさ」
狩人「何か理由が?」
村娘「話したところで理解出来ないよ。あんたのような、強い人間にはね……」
狩人「彼は理解していたと?」
村娘「多分ね」
狩人「……ふむ。では、もう一つ。彼女、僧侶について何か知っているかね?」
村娘「特に何も、考え込んでるみたいで話すことは殆どなかったよ」
狩人「………」
村娘「そろそろいいかい?」
狩人「ああ、参考になったよ。最後に一つ。此処へは個人的に来た。貴方への調査を命じられたわけではない」
狩人「貴方が勇者と関わったことは口外しない。それについては安心してくれたまえ」
村娘「それはどうも」
狩人「では、私はこれで」
村娘「……ねえ、あたしからもいいかい?」
狩人「何かな?」
村娘「あんた、あの人を殺すつもりなんじゃないのかい?」
狩人「まさか、私の目的は捕らえることだ。戦うのが目的ではないよ」
村娘「その言葉、信じても良いんだね?」
狩人「ああ、勿論だとも」
村娘「………」
狩人「………」
村娘「………正しいやり方では救われない奴もいるんだ。あたし達みたいにね」
狩人「覚えておこう」
村娘「っ、それじゃ」
ガチャ パタンッ
村娘「はぁ……」
少女「お姉ちゃん」
村娘「あっ、待たせたね。さて、料理の続きーーー」
ぎゅっ
村娘「どうしたんだい?」
少女「……ここには、来ないよね?」
村娘「!!(こんなに震えて……ここ最近は大丈夫だったのに……)」
少女「お姉ちゃん、この家には来ないよね? 大丈夫なんだよね?」
村娘「っ、大丈夫。もう大丈夫だよ」
村娘「あの連中はもういない。旅人のお兄ちゃんが、勇者がやっつけてくれたんだ」
少女「ほんとう?」
村娘「本当に本当さ。悪い奴はもういない。だから、怖がることはないんだよ?」
少女「……うん」
村娘「もう少し、こうしてようね」
村娘「もう大丈夫。お姉ちゃんは何処にも行かないから。皆が帰って来たら、ご飯食べようね」
少女「うん……」
村娘「(傷は消えない。終わってなんかいない。私にも、皆にも、ずっと続く)」
少女「お姉ちゃんはこわくないの?」
村娘「お姉ちゃんは大丈夫。あんたが一緒にいれば怖くない。幾らでも強くなれる」
狩人「(…………成る程)」スッ
ザッザッザッ
少女『……ここには、来ないよね?』
少女『お姉ちゃん、この家には来ないよね? 大丈夫なんだよね?』
狩人「(だからか、だから勇者は村人を……ああいう類の正義を貫く輩は実に厄介だ)」
狩人「(性格上、素直に聞き入れはしないだろう。やるべきことに変わりはないが、一人では手こずりそうだな)」
狩人「(……ふむ。向こうに着いたら助手でも捜してみようか。使える者がいればいいが……)」
【#2】真偽
ガヤガヤ
兵士「(街の住人は呑気なものだ)」
兵士「(自分達だけは安全だとでも思っているのだろうか? 知らないというのは幸せだな)」
トントン
兵士「?」
衛兵「よう、お疲れ」
兵士「お疲れ様です。随分と遅かったですね。今から昼食ですか?」
衛兵「ああ、地下の調査に時間が掛かってな。まったく酷い有様だよ。教会はどうだった?」ストッ
兵士「教会も同様です。修道騎士団の従士1名だけが生存していました。気が触れているようでしたが」
衛兵「生き残りは一人か。皆殺しと変わらないな。しかし、一夜にして全滅するとは……」
兵士「あれは、事実なのでしょうか?」
衛兵「勇者の仕業って話か?」
兵士「はい、勇者とは国王陛下と教皇によって正式に認められた人物です。民も我々も、そう認知しています」
兵士「そんな人物があのような凶行に及ぶなんて、俄には信じられませんよ」
衛兵「………」モグモグ
兵士「先輩はどう思いますか?」
衛兵「さあな、俺にも分からないよ。だが、上がそう言ってる。既に部隊は編成されてるって話だ」
衛兵「勇者を捕らえるのか、それとも殺すのか。我々国王軍か教皇庁か、どちらが捕らえるかで話はまた変わる」
衛兵「どちらにせよ、勇者には居場所も逃げ場もない。世界を敵に回したようなものだからな」モグモグ
衛兵「ただ」
兵士「?」
衛兵「ただ、何かあるのは確かだろう」
衛兵「罪人を逃がす為に騎士を皆殺しにするなんて有り得ない。流石に無理がある」
兵士「裏があると?」
衛兵「大体、何故勇者が騎士を殺す? 得るものはなく、全てを失うだけだ。そんな真似をする意味が分からない」
衛兵「正直な話、彼を陥れる為の罠か何かだとしか思えない。あんな取って付けたような説明では納得出来ない」
衛兵「もし本当に彼の仕業だとするなら、そうせざるを得ない何かがあったんだろう。何かがあって、そうしたんだ」
兵士「そうせざるを得ない何か、ですか?」
衛兵「俺はそう願いたいね。勇者が人間を裏切ったなんて考えたくもない」モグモグ
兵士「そうですね……」
衛兵「ふぅ、ごちそうさま」
兵士「………」
衛兵「どうした、急に黙り込んで」
兵士「実は、気になることがありまして」
衛兵「気になること? 何だ、話してみろ。溜め込んでも良いことないぞ」
兵士「教会の地下室で従士を発見したのは自分なんです。何があったのかと問うた時、彼は……」
衛兵「………」
兵士「彼はとても怯えた様子で、騎士達は突如として殺し合ったのだと、そう言いました」
衛兵「殺し合った?」
兵士「はい。他にも、これは全て悪魔の仕業だとか、自分は異端者ではないとか……」
兵士「何を訊ねてもそればかりを呟いて、最後には暴れ出したんです」
衛兵「気が触れていたんだろう? お前が言っていた通りじゃないか」
兵士「気が触れているのは確かだと思います。しかし、階段の遺体はどれも切り口が違っていました」
兵士「おそらく、別々の人間がやったのだと思います。どの遺体も武器を握ったままでした。殺し合ったというのは嘘ではないかもしれません」
衛兵「色々と引っ掛かるのは分かる。あんな話をしたばかりだからな。しかし、それだけでは何ともーーー」
兵士「それだけじゃないんです」
衛兵「何?」
兵士「遺体が足りないんですよ」
兵士「聖堂には四散した肉片や骨がありました。しかし、遺体が何処にも見当たらない」
兵士「勿論、同行者である僧侶が魔術を行使したという可能性もあります。或いは他の者の仕業かも分からない」
兵士「そういった可能性を一切考慮せず、全ては勇者の仕業であるとしている。それが不可解なんです」
衛兵「確かに。となると本当に……」ウーム
兵士「……あの、先輩」
衛兵「ん?」
兵士「調べてみませんか?」
衛兵「本気か?」
兵士「はい」
衛兵「お前の気持ちは分かるよ。俺だって真実を知りたいさ。でもな、その先を考えろ」
兵士「危険だということですか?」
衛兵「それだけじゃない。危険を冒して真実を知ったとして、その先はどうするってことだ」
衛兵「何かを変えたいのか? 上に真実を話せとでも言う気か? 言っとくが、そんなことは不可能だぞ?」
衛兵「言いたかないが、俺達のような者には何も変えられない。勇者のようにはなれないんだ」
兵士「分かっています。自分はただ……」
衛兵「何だ、言ってみろ」
兵士「自分はただ、納得して戦いたいんです」
兵士「もし何かを隠蔽しようとしているのなら、そうした理由が知りたい」
衛兵「それが到底許容出来ない事実だとしてもか? だからこそ隠蔽しているのかもしれないんだぞ?」
兵士「そうだとしても、疑問を抱いたままで戦うよりはマシです」
衛兵「……分かった。仕方ない、付き合うよ。放っておいても一人でやりそうだしな」
兵士「すみません……」
衛兵「いいさ。俺が焚き付けたようなものだしな。但し、今夜だけだ」
兵士「何故です?」
衛兵「何度も忍び込めるとは思えない。今夜中に何も見付けられなければ諦めろ」
衛兵「ヘマをしたら俺達は勿論、隊の仲間にも疑いの目が向くかもしれない」
衛兵「だから、今夜が最初で最後だ。何もなければ、それで納得しろ。俺もそうする。いいな?」
兵士「……はい。分かりました」
衛兵「そんな顔するな。やるからには本気でやる。きちんと協力するよ。俺だって知りたいからな」
兵士「先輩…ありがとうございます……」ペコッ
衛兵「今夜だけだぞ? 忘れるな?」ニコッ
兵士「はいっ!」
衛兵「決まりだな。準備は俺がしておく。細かいことは夜に話そう」ガタッ
兵士「分かりました。では、夜に」
衛兵「そわそわして気取られるなよ? いつも通りにしろよ?」
兵士「はい、了解しました」
衛兵「じゃあ、夜にな」
ザッザッザッ
衛兵「(見張り番でも代わって貰うか。教会か騎士団本部か、どちらかを調べられれば御の字だ)」
衛兵「(出来ない場合は潔く諦めるしかないだろう。こればかりは運次第だな……)」
ここまでとします。
体調が優れず、中々書けませんでした。申し訳ありません。
続きは近い内に投下します。
体調が優れず、中々書けませんでした。申し訳ありません。
続きは近い内に投下します。
【#3】暴きの瞳
兵士「騎士団本部の地下」
衛兵「ああ、お前は教会を見てるからな。調べるなら地下の方がいいだろう」
衛兵「調べられるのは地下だけだ。見張りを代わったのは良いが時間は限られてる。良いな?」
兵士「了解しました」
衛兵「一応、こっちの服に着替えておけ。その方が楽に入れるだろう」
兵士「済みません。何から何まで任せてしまって……」バサッ
衛兵「いいさ、気にするな。さて、まだ時間があるな。何か気になることはあるか?」
兵士「地下には何かありそうでしたか? 何か気になった点は?」
衛兵「いや、俺は何も見付けなかった」
衛兵「と言うか、何かを気にしてる暇はなかった。教会とは違ってそこら中に遺体があってな。俺は搬送が主だったんだ」
兵士「………」
衛兵「安心しろ。そう簡単に痕跡は消せないさ。幾ら有能な連中でも痕跡の抹消は不可能だ」
兵士「そうでしょうか……」
衛兵「ああ、もし本当に隠蔽しようとしているなら何かしらは残っている」
衛兵「どんなに些細なことも見逃さなければ必ず見付けられる。と言うか、それが出来なければ何も掴めないぞ?」
兵士「っ、そうですよね。了解しました」
衛兵「だが、限られた時間でそれを見付けるのは困難だろうな。そればかりは運だ」
兵士「運ですか?」
衛兵「運は大事だぞ? 幸運の後には不運が、不運の後には幸運が来るって言うだろう?」
兵士「少々意外です。先輩はそういったものは信じていないと思ってました」
衛兵「信じてるというか、何だろうな……理屈では説明出来ないこともあるだろ?」
衛兵「運と言うより偶然ってやつだな。そういうものに助けられる時もある。その逆もな」
兵士「なるほど。しかし、深く考えると怖ろしい話ですよね。何か、人智を超えた力が働いているようで……」
衛兵「そんな何かがいるなら、さっさと世の中を良くして欲しいもんだ。さて、そろそろ時間だな」
衛兵「いいか、何か異変があればすぐに中止だ。例え何かを見付けてもだ。いいな?」
兵士「了解しました」
衛兵「改めて聞くが、これは疑いを晴らす為であって何かを証明する為じゃない。そうだな?」
兵士「はい。自分は知りたいだけです。混乱や更なる疑念を招くつもりはありません」
兵士「何もなければ、それで納得します。金輪際このようなことはしません。追求もしません」
衛兵「……それを聞いて安心したよ。さ、行こう」ザッ
兵士「先輩」
衛兵「どうした?」
兵士「協力ありがとうございます。それから、自分の我が儘に付き合わせてしまって申し訳ありません」
衛兵「良いんだよ。昼間に言っただろ? 俺も知りたいってな。ほら、行くぞ」
兵士「はいっ!」
ザッザッザッ…
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