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元スレ勇者「最期だけは綺麗だな」
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>>お、来たか
衛兵「無理を言って済まないな」
>>そっちが例の?
衛兵「ああ、そうだ」
兵士「………」
>>しっかり見張れよ? ヘマしたら懲罰じゃあ済まないからな
兵士「はい(深い意味はなさそうだ。考えすぎか……)」
衛兵「どうした?」
兵士「いえ、少し肌寒いなと思いまして」
衛兵「そう感じるのも無理はない。気分の良い場所じゃないからな……さあ、下りるぞ」
兵士「……はい」
コツコツ…
兵士「(一段毎に不気味さが増していくようだ)」
兵士「(嫌な空気だ。充満した湿気が纏わり付いてくる。こんなのは体感したことがない)」
兵士「(この先で何が起きたのか、見なくとも容易に想像出来る。肌が、粟立つ……)」
キィィィ
兵士「………っ」
衛兵「大丈夫か?」
兵士「は、はい。少しだけあてられたようです。でも、この程度なら影響はありません。始めましょう」
衛兵「ああ、そうだな。別れて探索しよう。何かあれば言ってくれ。俺は入り口近辺を見てみる」
兵士「了解。自分は牢獄付近を見てきます」ザッ
ザッザッザッ
兵士「………」
兵士「(錆び付いてはいるけど強度は問題なさそうだ。この辺りは無理矢理開けられた形跡があるな)」
兵士「(ひしゃげている。素手でやったのか? 血痕と血塗れの足跡。同じ跡が数ヶ所ある)」
兵士「此処に立って、格子を掴んだ……」スッ
兵士「(ひしゃげているのは此処までだ。他は牢は鍵で開けられている)」
兵士「(妙だな。鍵があるなら、何故最初から鍵で開けない? 何か問題でも起きたのか?)」
兵士「(それに、僧侶の足跡がない。共に戦ったのなら彼女の足跡も残るはずだ)」
兵士「……此処にはいなかったのか?」
兵士「(魔術による破壊は見られない。床や壁にあるのはどれも物理的な傷だ)」
兵士「(向こうも見てみよう。地面に何かしらの痕跡があるかもしれない。しかし、やけに広いな……)」ザッ
兵士「………」
ザッ
兵士「(土の盛り上がり、焦げ跡、何でもいい。何かあってくれ)」
ジャリッ
兵士「……?」スッ
兵士「(硝子片? 分厚いな。それらしいものは何もなかったけど、何でこんなところに?)」
兵士「(この辺りだけ何もないな。血の跡も、何も……いや、あったのか? あったから、ないんだ)」
兵士「(此処には何かがあったんだ。だから血の跡も何もなかった。しかし何が?)」
兵士「(広くししてるのは何かを設置していたからだ。そうでなくてはこの区画を設ける意味がない)」
兵士「(ほんの僅かに擦ったような跡がある。大きい、箱のようなものだ。それが幾つもある)」
兵士「(想像すると異様な光景だ。此処は本当に監獄なのか? 何か別の目的があったんじゃないのか?)」
兵士「(大体、こんなものが置いてあったら気付かないはずがない。嫌でも目に入るはず……)」
衛兵『いや、俺は何も見付けなかった』
衛兵『と言うか、何かを気にしてる暇はなかった。教会とは違ってそこら中に遺体があってな。俺は搬送が主だったんだ』
兵士「なら、先輩は……」
衛兵「この場合、運が良かったと言うべきなのかどうか分からないな……」
兵士「!!」バッ
衛兵「お前は凄い奴だよ。目が良い。勘も良い。そんなものを見付けるなんてな」
兵士「どういうことです……」ザッ
衛兵「そう構えるな。俺は何もしない」
コツ…コツ…
兵士「(誰か来る。見たことのない服だ。あれは兵士じゃない。何だ、この悪寒は……)」
衛兵「お前のお陰で助かったよ」
兵士「(先輩は何を言ってるんだ? 理解出来ない。僕は殺されるのか?)」
コツ…コツ…
衛兵「条件は揃ってる。これで良いんだろう?」
狩人「ああ、君に用はない」
兵士「先輩、待って下さい!! これは一体どういうことなんです!?」
狩人「説明は私がしよう。行きたまえ」
兵士「先輩!!」
衛兵「…………悪いな」ザッ
ザッザッザッ…
兵士「そんなっ…」
狩人「そう怯えることはない。私が疑問に答えよう。知れば、怖れは消えるさ」
兵士「あ、貴方は一体……」
狩人「私は狩人。自己紹介は後にして答え合わせをしようじゃないか」
兵士「何をーーー」
狩人「彼も運が悪い。あるはずのないものを見てしまった。偶然とは怖ろしいものだ」
兵士「……僕を、売ったのか」
狩人「察しが良いじゃないか。概ねその通りだ。見て、知って、彼は殺されるはずだった」
狩人「だが、私が条件を出した。真実を見定める瞳を持つ者を差し出せば助けてやるとね」
狩人「結果を見れば彼は運が良い。君を差し出し、見事生き延びることが出来たのだから」
兵士「此処はただの監獄じゃない。先輩は何を見たんですか」
狩人「ははは。君は面白いな。知識欲が恐怖に勝っている。実に素晴らしい逸材だ」
兵士「答えて下さい」
狩人「……ああ、答えるとも。此処は地下錬金施設。人体から魂を抽出、聖水を精製していたのだよ」
兵士「勇者はそれを知って……騎士団との衝突はそれが原因で……」
狩人「彼には許せなかったのだろうね。全ては人間の為だと言うのに、愚かなことだ」
兵士「………」
狩人「このような施設があるのは此処だけではない。人は今、数多の人命の上に立っている」
兵士「上に立つ?」
狩人「ふふっ。良い生徒だな、君は。まあいい、教えようじゃないか……」
狩人「今や世に蔓延る魔物。それが都に侵入出来ない理由は何だと思うね?」
兵士「………」
狩人「外壁の真下。水路に似せて張り巡らせた陣に聖水を流しているのだよ。仕組みは街によって異なるが、都では常に流れている」
狩人「失われた多く命が、今も流れ続けている。民には知らされていない秘密だ」
兵士「何故、それを僕に……」
狩人「君は知りたいのだ。善悪に囚われず、知りたいのだよ。それは生まれ持った性だ」
狩人「私は君のような存在を捜していた。私情に流されず、真実を優先する人間を」
兵士「僕はそんなーーー」
狩人「惚けるのはやめたまえ。私が真実を告げた時、君はどうした? 驚きさえしなかった」
兵士「(そんなことは、ない……)」
狩人「知識、真実を得るためならば死をも怖れない。君は超絶の精神を持っているのだよ。片眼を失った彼のようにね」
兵士「……何と言われようと構いませんよ。僕に何をしろと言うんです?」
狩人「私と共に来い。君は良い助手になる。求めるものは与えよう」
兵士「僕が行かなければ先輩は助からないんでしょう?」
狩人「ああ。君が断れば、彼は死ぬ」
狩人「彼だけではない。知ってしまった以上、君にも消えてもらわなければならないだろう」
狩人「喋られては困るからね。非常に残念だが、そうせざるを得ない。全ては人の為だ」
兵士「ひ、人の為人の為って、何なんですかそれは!!」
狩人「聖水が生命で造られていると知ったらどうなるかね?」
兵士「それは……」
狩人「そう、知らなくて良いのだよ」
狩人「ただ待っていれば良い。新たな時代が訪れるまでは目隠しをしなければならない」
兵士「目隠し?」
狩人「醜さになど気付かなくていい。残酷な現実など見なくともいい」
狩人「いずれ人の醜さを知る者は消えるだろう。そして、穢れを知らない美しい時代がやってくる。私はその為に戦うのだよ」
兵士「(この人は、本気だ……)」
狩人「さあ、どうする?」
兵士「(っ、選択肢なんてない。そんなの断れるはずがないじゃないか)」
狩人「答えたまえ」
兵士「…………きます」
狩人「もう一度」
兵士「行きます」
狩人「結構。君は今この時より私の助手だ」
狩人「さあ、私に付いて来たまえ。旅立ちの前に酒でもご馳走しよう」
兵士「別にそんなことしなくてもーーー」
狩人「私がそうしたいのだ。君は表情が固い。飲めば緊張も解れるだろう」
狩人「今日は実にめでたい日だ。自己紹介も兼ねて、じっくり話そうじゃないか」ニコニコ
兵士「(悪い人ではなさそうだけど気持ちが付いて行かない。でも、こんなに綺麗な人が何でーーー)」
狩人「何かな?」
兵士「いえ、何でもないです。あの、旅の目的は?」
狩人「勇者を捕らえ、勇者を手に入れる。それだけだよ。さあ、早く行こう」
兵士「捕らえるって……」
狩人「彼は要らざることをしたのだ。あろうことか材料を解放して逃亡した」
狩人「分かるかな? 危うく目隠しが外れるところだった。それは好ましくない、非常にね」
兵士「だから彼を?」
狩人「当然の判断だろう。彼の正義は弱者を救うが、同時に多くの悲しみを生む」
狩人「彼からすれば悪魔なのだろうが、此処で散った騎士にも家族がいた。彼は危険なのだよ。良くも悪くも、刺激が強すぎる」
兵士「………」
狩人「私が嫌いか?」
兵士「好きとか嫌いとか、そういう話じゃ……ただ、分からないだけです」
狩人「今はそれでいい。君はただ、私に付いてくる他にないのだから」
兵士「………先輩は、助かるんですよね?」
狩人「勿論だとも。そういう約束だ」
兵士「(良かった……)」ホッ
狩人「フフッ。君は変わっているな」
兵士「そんなことはないと思いますけど……」
狩人「普通なら自分を売った人間を気に掛けはしないよ。怒り、憎むだろう」
狩人「それに加え、他人の生死には敏感なのに自分の生死には鈍感だ。更には知的好奇心と欲求。自覚はないだろうが君は中々に……」
兵士「?」
狩人「いや、何でもない。急ごう」
コツ…コツ…
兵士「………」
狩人「(……中々に、狂っているよ)」
【#4】狩人の夜
狩人「掛けたまえ」
兵士「………」トスッ
狩人「酒を持ってこよう。少し待っていてくれ」
コツ…コツ…
兵士「(言われるままに付いて来たけど大丈夫だろうか。助手と言っていたけど本当なのか?)」
兵士「(あの人が何を考えてるか分からない。いきなり首を斬られたりしても不思議じゃないぞ)」
兵士「(いや、やめよう。此処まで来たんだ。腹を括るしかない。何か別のことを考えよう)」
兵士「………」キョロキョロ
兵士「(この家、貴族でも住んでたのかな)」
兵士「(剥製に毛皮、高価な燭台と食器類。部屋の内装も随分と凝ってる。ん? あれは何だろう?)」
兵士「(何だか変わった形をしてる。分類としては曲刀になるのか? 大きいし、使い手を選びそうだ)」
狩人「あれに興味があるのかね?」
兵士「っ!?」ビクッ
狩人「これは失礼。驚かせてしまったかな?」ニコ
兵士「(絶対わざとだ。はぁ、死ぬかと思った。と言うか、生きた心地がしない……)」
狩人「さてと」トスッ
狩人「待たせて申し訳ない。置いてあるのはどれも良い酒でね。少々迷ってしまったよ」
トクトク…コトッ…
狩人「では、乾杯」スッ
狩人「…コクンッ…うん、これは良い酒だ。あまり詳しくないが、そうに違いない」
兵士「………」
狩人「ははは。そう怖がらなくても大丈夫だ。毒など入っていないよ」
兵士「いや、別に疑っていたわけでは……」
狩人「フフッ、本当かな? まあ、無理して飲む必要はないよ。少しばかり寂しいが我慢しよう」
兵士「いえ、頂きます…コクンッ…」
狩人「美味しいだろう?」ニコリ
兵士「とても飲みやすいです。あまり飲まないので味とかは分からないですけど……」
狩人「気に入ってくれて良かったよ」
兵士「(正直、酔わないと保てそうにない)」
狩人「ああ、そうだった。自己紹介がまだだったね。私は狩人、勇者捕縛の命を受けた者だ」
兵士「えっと…兵士です。軍には志願して入隊しました。他には何もないです」
狩人「年齢は?」
兵士「17です。あの、狩人さんは?」
狩人「ああ、これは済まなかった。私は十九だ」
兵士「えっ!? あっ、失礼しました」
狩人「ははは。別に構わないさ」
兵士「(凄く落ち着いてるから二十代半ばくらいかと思った。大人っぽい人だ)」
狩人「君と出逢えて良かったよ」
兵士「ングッ、ケホッ…ケホッ…」
狩人「大丈夫かい?」
兵士「ケホッ…はい、何ともないです。そ、それより聞きたいことが」
狩人「何だね?」
兵士「地下錬金施設のことです。監獄にいたのは本当に罪人なのですか?」
狩人「あそこにいたのは難民だ」
兵士「……隠さないんですね」
狩人「教えると言ったからね」
兵士「あの話は、やはり偽りだったんですね。勇者は難民を救出する為に戦っていた」
狩人「理由はどうあれ、彼は叛逆者だ」
兵士「しかし、それではあまりにーーー」
狩人「私に言わないでくれ。君と善悪について議論する気はないよ。楽しくないからね」
兵士「………」
狩人「いいかね? これは善悪の問題ではない。聖水の加護がなければ人は生きていけないのだ」
狩人「納得するしないの話でもない。あれがなければ、滅びてしまうのだからね……」
兵士「(……そうか、狩人さんは分かっているんだ。人間が間違いを犯していることを)」
狩人「後悔しているのか?」
兵士「後悔というか複雑な気持ちです。やり方はどうあれ、人々を守る為に行動している」
兵士「難民を救い出した勇者も、人の存続に尽力する国も、どちらも分かります。相容れないのだと言うことも……」
狩人「………」
兵士「知りたかったのは認めます。でも、真実を受け入れられるかどうか分かりません」
狩人「真実とはそういうものだよ」
狩人「輝いて見えたそれが、ひとたび近付けば目を被いたくなるほどに醜く歪む。だから、人はそれを必死に隠す」
兵士「………」
狩人「ん? 私の顔が気になるのか?」
兵士「い、いや、別にそういうわけでは……」
狩人「ふむ。気のせいか」
兵士「(一瞬、存在が薄らいだように見えた。どこか悲しげで、今にも消えてしまいそうな……)」
兵士「(彼女も何かを知ったのだろうか? 一体何を知れば、あんな表情が出来るんだろう)」チラッ
狩人「…コクッ…」
兵士「(病的なまでに白い肌、凍て付いたような瞳、どう見ても戦に不向きな華奢な体)」
兵士「(それなのに、不思議と勝てる気がしない。彼女を女性として見るのが躊躇われるくらいだ)」チラッ
狩人「………」ジー
兵士「!!」
狩人「少し手を伸ばせば簡単に触れられる距離だ。盗み見るような真似をしなくてもいいだろう」
狩人「それに、観察するようにちらちらと見られるのは気分が悪いな」
兵士「申し訳ありませんでした……」
狩人「私に興味があるのか?」
兵士「は? いや、興味と言えばそうですけど、その、狩人さんは女性ですよね?」
狩人「失礼な奴だな」
兵士「違います。決してそういう意味ではーーー」
狩人「違う? なら、どういう意味で言ったのかね?」
兵士「それはその、何故貴方のような女性が危険な旅をするのかと疑問に思ったんです」
狩人「命を受けたと言ったはずだが」
兵士「そうじゃなくて……いや、もういいです。忘れて下さい」
狩人「何だそれは、弁明するならしっかりしたまえ」
兵士「……差別的な意味ではなくて、女性一人では大変ではないかと言いたかったんです」
狩人「最初からそう言えばいいものを、妙なところで気を遣うんだな、君は」
兵士「(そう言うと怒らせてしまいそうだから言えなかったんですよ……)」
狩人「……ふむ」
兵士「?」
狩人「成る程、理解した。先程の熱っぽい視線はそういうことだったのか。君、私に惚れたな?」
兵士「なっ、違いますよ!!」
狩人「何を焦っている。冗談だよ」
兵士「からかうつもりなら真剣な顔で言うのはやめて下さいよ。吃驚しますから……ゴクゴク…」
狩人「それは済まなかったね。む、こんな時間か、私はそろそろ風呂に入ってくるよ」
兵士「ッ…ケホッ…ケホッ…気が利かなくて申し訳ありません!! すぐに帰ります!!」ガタッ
狩人「何を言ってるんだ君は」
兵士「僕は何一つおかしなことは言ってないですよ。帰ります」
狩人「明日から共に旅にするんだ。今日はこの家に泊まると良い」
兵士「(まるで話を聞いていない……)」
狩人「どうしたのかね? 何か不都合が?」
兵士「いや、気持ちは有難いですけど荷物とかあるのでーーー」
狩人「安心したまえ。君の荷物なら既に寝室に運ばせてある」
兵士「……ありがとうございます」
狩人「此処は貴族の屋敷だったようだ。旅に出れば風呂になど滅多に入れない。堪能するといい」
兵士「……そうします」
狩人「風呂は私の後でも構わないかね?」
兵士「お先にどうぞ、僕は暫く後に入りますから……」
狩人「そうか、では先に入るとしよう」コツコツ
ガチャ パタンッ
兵士「(はぁ、振り回されてばかりだ……)」
兵士「(まさか荷物まで運び込まれてるとは思わなかったな。全ては狩人さんの手の内か)」
シーン…
兵士「(………明日から旅に出るのか、まるで現実感が湧かない。勇者を捕らえるだなんて可能なんだろうか)」
狩人「何を言ってるんだ君は……」
兵士「いやいや、僕は何一つおかしなことは言ってないですよ。帰ります」
狩人「明日から共に旅にするんだ。今日はこの家に泊まると良い」
兵士「(まるで話を聞いていない……)」
狩人「どうしたのかね? 何か不都合でも?」
兵士「気持ちは有難いですけど荷物とかあるのでーーー」
狩人「安心したまえ。君の荷物なら既に寝室に運ばせてある」
兵士「……ありがとうございます」
狩人「此処は貴族の屋敷だったようだ。旅に出れば風呂になど滅多に入れない。堪能するといい」
兵士「……そうします」
狩人「風呂は私の後でも構わないかね?」
兵士「お先にどうぞ、僕は暫く後に入りますから……」
狩人「そうか、では先に入るとしよう」コツコツ
ガチャ パタンッ
兵士「(はぁ、振り回されてばかりだ)」
兵士「(全ては狩人さんの思惑通りか。まさか荷物まで運び込まれてるなんて思わなかった……)」
シーン…
兵士「(………旅か。まるで現実感が湧かない。勇者を捕らえるだなんて、そんなことが可能なんだろうか)」
【#5】旧き名を
兵士「はぁ……」
兵士「(失敗した。先に部屋の場所を聞いておけば良かった。勝手に探すわけにもいかない、お風呂から上るまで待っていよう)」
シーン…
兵士「(……結構長いな)」
兵士「(それも当然か。狩人を名乗っていても女性なんだ。きっと、髪の手入れとか大変なんだろう)」
兵士「(しかし不思議だ。彼女ような女性なら戦わなくても生きていける。嫁ぐとか、奉公に出たりとか、方法は幾らでもある)」
兵士「(そういう生き方に抵抗があったのか? だから戦う道を……いや、止めておこう。失礼だ)」
狩人「おや、まだ此処にいたのか」
兵士「ひぃ!!」ビクッ
狩人「ははは。何だ今の情けない声は、君は本当に面白いな」
兵士「……狩人さん、足音を消して近付くのはやめて下さい。お願いします」
狩人「で、どうしたのかね? 私を待っていたのか?」
兵士「(頼むから話を聞いて欲しい)」
狩人「何かな?」
兵士「……いえ、何でも。部屋の場所を聞いていなかったので案内して頂けますか」
狩人「ああ、そう言えばそうだったね。すっかり忘れていたよ」
兵士「(意外と抜けてるのかな……)」
狩人「風呂そっちの扉を出て一番奥にある。君の寝室はこっちだ。来たまえ」
コツ…コツ…
兵士「(こんな屋敷に泊まるのは初めてだ。何だか歩いているだけで緊張するな)」
狩人「此処だ」
兵士「ありがとうございます」
狩人「今日はゆっくり休みたまえ。明日からは忙しくなるからね」
兵士「あの」
狩人「何かな?」
兵士「勇者を捕らえると言いましたが、居場所は分かるのですか? 手掛かりがなければ追うのは困難だと思いますが」
狩人「そう言えば話していなかったな。安心したまえ。手掛かりはある」
兵士「手掛かり。既に捜索を?」
狩人「そうではないよ。存在を感じるのだ」
兵士「あの、意味が」
狩人「説明するのは少々難しい。魂の音色とでも言うべきか、それが非常に強く発せられている」
兵士「魂の音色……」
狩人「ああ、彼のそれはこの世に二つとない稀有なものだ。この街で事件が起きた時と同じくして、それは突然感じられるようになった」
狩人「力の発露、或いは暴走か……」
狩人「理由は解明出来ていないが、彼のものに違いはないだろう」
兵士「あの、そんなものをどうやって? 僕には何も感じませんよ?」
狩人「ははは。いずれ分かるさ」
狩人「その方法は旅の中で授けよう。気になるのは分かるが、今日はもう休みたまえ」
兵士「す、すみません。引き留めてしまって……」
狩人「構わないよ。君はそれでいい」
兵士「………」
狩人「……君は私の助手だ。明日から宜しく頼むよ?」
兵士「は、はい、了解しました」
狩人「では、私はそろそろ休むとしよう。今日は疲れただろう? 風呂に入って、ゆっくり休むといい」
コツ…コツ…
兵士「狩人さん」
狩人「?」
兵士「明日から宜しくお願いします。お休みなさい」
狩人「お休み。良い夢を」
コツ…コツ…
兵士「(何をすれば良いのか分からないけど行くしかない。役に立たないと分かれば消されるかもしれないんだ)」
兵士「(……駄目だ。どうしても悪い想像ばかりしてしまう。お風呂に入って休もう)」
ーーー
ーー
ー
兵士「んっ、眩し…」
狩人「よく眠れたかね?」
兵士「ひぃ!!」ドタッ
狩人「くくっ、ははは」
兵士「は、ハハハじゃないですよ!! 悪戯はやめて下さい!! って言うか何してるんですか!?」
狩人「悪戯ではない。君が中々目を覚まさないものだから起こしに来たのだ。感謝したまえ」ウン
兵士「(ああ言えばこう言う。子供じゃないんだから……)」
狩人「何だ、不満かね?」
兵士「……いえ、有難いです。でも、普通に起こして下さい。お願いします」
狩人「着替えも持ってきた。今日からは制服ではなく、これを着用するように」
兵士「(無視か……)」
狩人「何をしている。早く着替えたまえ」
兵士「分かりました。今すぐ着替えますから出て行って下さい」
狩人「む、何だかキツい物言いだな」
兵士「……今すぐ着替えますので部屋の外で待っていて下さい。お願いします」
狩人「良いだろう」
ガチャ パタンッ
兵士「(人をからかうのが好きなのか? 思っていたより子供っぽいのかもしれないな)」ヌギヌギ
狩人『出来たかね?』
兵士「まだですよ!! 分かってて聞いてるでしょう!?」
狩人『ははは』
兵士「(また笑ってるよ。気に入られたのか馬鹿にされてるのか……早く着替えよう)」
兵士「(何か、外套みたいな感じだな。昨夜、狩人さんが着ていたものと似ている)」バサッ
兵士「(よし。えっと、荷物はこれだけか、大体は支給された物だったからな……行こう)」
ガチャ パタンッ
兵士「お待たせしました」
狩人「うむ。中々に似合っているよ。ところで、昨夜は眠れたかな?」
兵士「お酒を頂いたので、すぐに眠れました」
狩人「そうか、それは良かった。さあ、朝食を食べよう。用意はしてある」
コツ…コツ…
兵士「(あ、いい匂いがする)」
狩人「さ、掛けたまえ」
兵士「あ、はい。あの、これは狩人さんが作ったんですか?」
狩人「ああ、家庭料理を作るのは初めてだが、きっと美味いだろう。私が作ったのだからね」
兵士「(その根拠のない自信はなんなんですか、味見くらいして下さいよ……)」
狩人「では、頂こうか」モグモグ
兵士「………」
狩人「おや、食べないのかね? 中々美味しく出来ているよ?」
兵士「(何か妙なことしてないか不安だけど、食べないのは失礼だ。もし悪戯してたら怒ろう)」モグモグ
兵士「……あ、美味しい」
狩人「フフッ、そうだろう。遠慮せずに食べたまえ」
兵士「は、はい。ありがとうございます」
モグモグ…
兵士「……ごちそうさまです。あの、食器は何処に?」
狩人「いや、片付けはしなくていい。それより、話しておくことがある」
兵士「話しておくこと?」
狩人「君はもう兵士ではない。兵士の君は昨夜に死んだ。近い内にご家族にも連絡が行くだろう」
兵士「(存在の抹消。秘密を知った以上、生かして帰すことは出来ないと言うことか……)」
狩人「冷静だな。それでいい」
兵士「狩人さん」
狩人「何かな?」
兵士「……先輩は本当に無事なんですか? 軍が許すとは思えない」
狩人「私は約束を守った。軍がどうするかなど知ったことではないよ」
兵士「そんなっ……」
狩人「運が良ければ今も生きているだろう」
狩人「しかし、彼の生死を確かめる術はない。君は今日から、彼とは別の道を歩むのだから」
兵士「………」
狩人「何を悲観する。これは君が選んだ道だ」
狩人「私と出会ったのはその結果に過ぎない。秘密を暴き、真実を求めたのは君だ」
兵士「っ、分かっています」
狩人「結構。君は今から助手と名乗りたまえ」
助手「……はい。了解しました」
狩人「新しい人生を歩むのだ。君にはもう、悔いる過去などない。私が何もかもを見せてやろう」
助手「何もかも……」
狩人「そうだ、君は旅を通して様々なことを知るだろう。そして、全知の者となる」
狩人「君はただ付いて来ればいい。それが今の君に出来る唯一なのだからね」
助手「(全知? 何を言ってるんだ。まるで意味が分からない……)」
狩人「疑問は必ず解ける。だが、今ではない。さあ、馬は手配済みだ。そろそろ出発しよう」
コツ…コツ…
助手「………」ザッ
狩人「(そうだ、君は抗えない。私と出会う前から魅入られているのだ。何もかもに)」
キィィィ バタンッ…
狩人「君はそちらに乗りたまえ」
助手「はい…」
狩人「新たな門出だ、そう暗い顔をしないでくれ。君を裏切るような真似はしないよ。約束だ」
助手「(……そんなの、信用出来るはずがない)」
狩人「嫌われたものだな。まあ、それも仕方のないことだ。すぐに信じろとは言わないよ」
狩人「だが、いつまでもそんな顔をしないでくれないか? 私が面白くない」ニコリ
助手「っ、了解しました」
狩人「宜しい。では出発しよう。私から離れるなよ」
【#6】到来
ガガッ…ガガッ…
狩人「勇者は東に向かっている」
狩人「しかし、どうもおかしい。騎士の調査書によると龍は北端の山村にいるとあった」
助手「彼の目的が見えませんね……」
助手「東側は被害が大きいと聞きます。わざわざ向かう理由がない。しかし、此処から直接東側と言うと」
狩人「ああ、山を越えるしか方法はない。通常なら危険を避け、北東から迂回するように進むだろう」
狩人「何を焦っているのか分からないが、一刻も早く東側に行きたいのだろうな」
助手「……どうするんです?」
狩人「迂回して行こうと思う。危険を冒さずとも追い付ける。彼が引き付けてくれているからね」
助手「?」
狩人「彼の存在を感知出来るのは人間だけではないのだよ。魔物、悪魔と呼ばれる者も同様だ」
狩人「今の彼に味方はいない。人間にとっても悪魔にとっても危険な存在となってしまったからね」
助手「……それでも山越えを選んだのは、軍との戦いを避ける為でしょうか?」
狩人「かもしれないな。しかし、魔物との戦闘は避けられない。当然、その歩みは遅くなる」
狩人「麓の森は深い、山へ入るにも一苦労だ。それに加えて魔物の襲撃がある」
狩人「疲弊は相当なものだ。これなら、余裕を持って追い付くことが出来るだろう」
助手「(彼は、一体何のために…)」
狩人「北東に進むと放棄された砦がある。まずはそこを目指す」
助手「はい、了解しました」
ガガッ…ガガッ…
助手「(もうずっと走り通しだ。日も傾き始めた。砦まで保つだろうか)」
狩人「止まれ」
助手「どうしたんです?」
狩人「どうやら、何かが来ようだ」
助手「(何だ? あれは兵士? 何処の隊だろう? 彼等も勇者を捕らえる為に……!?)」
狩人「仕方ないな」スタッ
助手「何をしてるんですか!? 早く逃げましょう!!」
狩人「残念だが既に気付かれている。今更逃げても無駄だよ。馬を下りて私の後ろに来たまえ」
助手「そんな無茶なーーー」
狩人「来いと行っている。何度も言わせるな」
助手「っ、分かりました」スタッ
狩人「………」
助手「(見えてきた。何なんだあれは、あんな魔物は見たことがない)」
助手「(姿は人に近い。馬に乗って、剣を持って、鎧だって装備してる。あれが、悪魔なのか?)」
狩人「……か」
助手「え?」
狩人「伏せたまえ」グイッ
助手「(っ、狙いは僕達なのか? あれは勇者に向かっているんじゃないのか?)」
狩人「………」ジャキッ
助手「曲刀? まさか戦う気ですか!? どれだけいるか分からないんですよ!?」
狩人「戦う以外にないだろう。悪魔と話し合いなど出来るわけがない。さあ、頭を下げるんだ」
ガギャッ
助手「うわっ!?」
狩人「大丈夫だ。君に触れさせはしないよ。そのまま、じっとしていろ。すぐに終わる」
ギャリッ
狩人「………」
助手「(何とか防いでいるけど、こんなの無理ですよ。そもそも数が違うんだ)」
ガキンッ ザンッ ボタボタッ…
助手「……血?」
狩人「っ、何をするんだ。痛いじゃあないか」
助手「狩人さん!!」
狩人「……ハァ…ハァ…」
助手「(今度は数騎で向かって来る。こんなの捌ききれない。何とかして助けないと)」
狩人「動くなと言ったはずだ」
助手「!!」ゾクッ
狩人「(まだ早いな。まだ、まだ、まだだ……さあ、来るがいい。刈り取ってくれる)」
ガガッ…
狩人「…………死ぬがいい」ガチリ
ヒュパッッ…ドサドサッ…
助手「(曲刀が、鎌に……)」
狩人「ははは。馬を止めたか。動揺したね?」トッ
狩人「それでは、殺してくれと、そう言っているようなものだよ。さあ、死にたまえ」
ズパンッ…
狩人「…………」
>>ビクッ!
ガガッ…ガガッ…
狩人「…………退いたか。知恵はあるようだ」
助手「大丈夫ですか!?」タッ
狩人「ああ、これくらいの傷なら何のことはないよ。それより、早く馬をーーー」
助手「腕を見せて下さい!!」グイッ
狩人「………」
助手「……っ、酷い。止血だけでもしておきましょう」スッ
グルグル…ギュッ…
助手「これでよし」
狩人「ありがとう。助かるよ」
助手「いえ、僕にはこれくらいしか……魔術でも使えれば良かったんですが……」
狩人「君は」
助手「?」
狩人「君は、実に忙しい奴だな」
助手「はい?」
狩人「先程までは這い蹲って泣き叫んでいたのに、私の心配をしたり、落ち込んで見せたりする」
助手「泣き叫んではいないですよ……」
狩人「はははっ。それは済まなかったね。取り敢えず、荷物を拾って歩けるだけ歩こう」ザッ
助手「了解しました。何処かに身を隠せるような場所があればいいですけど……」
ザッザッザッ
狩人「(……あのような悪魔が現れるとはな。これ以上の面倒が起きなければいいが、そうもいかないのだろうな)」
【#7】心音
助手「馬は見付からなかったですね……」
狩人「荷物があっただけでも幸いだよ」
狩人「しかし、このまま進むのは危険だな。引き返したところを見ると、何処かに陣取っている可能性がある」
助手「では、引き返しますか?」
狩人「うむ、私の目的は勇者の捕縛であって悪魔討伐ではないからね。それに、馬がなければ先回りするのは困難だろう」
狩人「面倒だが少しばかり引き返して麓の森に入り、そのまま勇者を追う」
助手「了解しました。あの、狩人さん」
狩人「何かな?」
助手「先程の悪魔は新たに現れたのでしょうか?」
狩人「おそらくはそうだろう。この近辺に悪魔が現れたという報告はなかった」
狩人「出現が偶然なのか、それとも勇者を狙って現れたのか、それは分からないがね」
助手「……何だか、嫌な予感がしますね」
狩人「予感で終わるのを願うばかりだよ。さあ、頭を働かせるのは後にして、そろそろ行こうじゃないか」ザッ
助手「そ、そうですね。了解しました」
ザッザッザッ…
ーーー
ーー
ー
ザァァァ…
助手「(暗いな。木々のざわめきが不気味だ)」
狩人「向こうに洞穴があるな。中を見てみよう」
スタスタ
助手「(まるで怖がっていない。きっと魔物なんて敵じゃないんだろう。さっきも全く動揺してなかった)」
狩人「何もいないようだ。今日は此処で休もう」
助手「了解しました」
狩人「では、洞穴の入り口にこれを撒いてきてくれ」
助手「(これは、聖水……)」
狩人「どうしたのかね? 何か問題が?」
助手「っ、いえ。問題はありません」
狩人「そうか。では、頼むよ」
助手「了解しました」
ザッザッ
助手「(何を躊躇っているんだ、僕は。今まで何度も使ったことがあるじゃないか)」
助手「(狩人さんだって言っていた。正しいかどうかじゃない、これは必要なことなんだ)」チャプン
助手「これが、命……」
助手「(こんな小瓶に詰め込んで、生きるために命を撒くのか。これに入っているのは誰なんだろうか。彼、彼女にも人生があって、家族だって)」
助手「……っ!!」
パシャパシャ ポタッ…ポタッ…
助手「(気が狂いそうになる)」
助手「(幾ら否定したって使わざるを得ないのは分かってる。でも、そう簡単には受け入れられない)」
助手「………はぁ。戻ろう」クルッ
ザッザッ
助手「戻りました」
狩人「どうした? 浮かない顔をしているが」
助手「いえ、何でもありません。ただ、悪魔なんて存在を見たのは初めてだったので」
狩人「そうか。では、今日はもう休むといい」
助手「あの、狩人さん」
狩人「何かな?」
助手「さっきはありがとうございました。軍にいたのに守ってもらうなんて情けない話ですけど」
狩人「礼など要らないよ。約束しただろう?」
助手「(何で、そんな涼しげな顔で……僕のことを足手まといだとか迷惑だとか思わないんだろうか)」
狩人「明日からは山に入る。決して私から離れるな。君は先程のようにしていればいい」
助手「えっと、それは這い蹲っていろってことですよね?」
狩人「そうだが、何か問題が? 他に何か出来るというなら話は別だが」
助手「(うっ、はっきり言う人だな。でも、変に気を遣われるよりはずっと良い)」チラッ
狩人「何かな?」
助手「あの、何か役立てることはないですか?」
狩人「今のところは何もないな」
助手「そ、そうですか……」
狩人「ははは。そう落ち込むな」
助手「(普通は落ち込みますよ)」
狩人「出来ないことは出来ないのだと受け入れることだ。無理に背伸びをする必要はないよ」
助手「………」
狩人「あまり考えるな。明日からは戦闘も増えるだろう。今は脳も体も休めることだ」
助手「了解しました。しかし、この調子で追い付けるのでしょうか? 僕はまだ歩けますよ?」
狩人「問題はないよ。あの悪魔が現れた時と同じくして、勇者も歩みを止めている。今もね」
助手「なら、今こそ追うべきでは?」
狩人「それでは君が保たないだろう?」
狩人「先はまだ長い。道々で君が倒れた場合、どの道止まらなければならなくなる」
狩人「君の実力を過小評価しているつもりはないが、過大評価するつもりもない。現段階の能力以上のものは期待しないよ」
助手「(ひ、一言一言がキツい……だけど、狩人さんの言う通りだ。僕は狩人さんのようには戦えない)」
狩人「質問は以上かな?」
助手「あ、はい、以上です」
狩人「そうか。では、今日はもう休むといい」
狩人「それから、食料はそこの鞄に入っているから空腹なら食べるといい」
助手「分かりました。お休みなさい」
狩人「おやすみ」
助手「(狩人さんは横にもならないのか……このまま、お荷物でいるのは嫌だな)」ゴロン
助手「(何かを見込まれたようだけど、僕には何が出来るんだろうか……)」
ーーー
ーー
ー
助手「んっ…?」
助手「(いつの間にか寝ていたのか。あれ、狩人さんがいない。何処に行ったんだろう?)」ザッ
ザッザッ…
狩人「………」
助手「(外を眺めてる。どうしたんだろう?)」
狩人「何だ、もう目が覚めたのか。まだ夜は明けていないよ?」
助手「いや、何だか目が冴えてしまって。狩人さんは眠らないんですか?」
狩人「一度は横になってみたのだが眠れなかった。私も目が冴えてしまってね」
助手「(意外だ。狩人さんも悩んだりするのだろうか)」
狩人「君には」
助手「?」
狩人「君には、私が冷酷に見えるか?」
助手「えっ、どうしたんですか急に……」
狩人「ある女性から、私のような人間には弱者の気持ちなど分からないと言われてね」
狩人「その女性からすると、私は強い人間なのだそうだ。君もそう思うか?」
助手「……そう思いたくなるほどに強い人だとは思います」
狩人「ふむ。成る程」
助手「その女性の言葉を気にしているのですか?」
狩人「気にしていると言うか妙に耳に残っている。何故かは分からないが」
助手「……その女性を理解したいと、そう思ったとか?」
狩人「そうだろうか?」
助手「え、いや、聞き返されても……」
狩人「ははは。そうだな、すまない」
助手「(悩んでいると言うよりは、悩む自分に戸惑っているように見える。気のせいだろうか)」
狩人「しかし、強者が弱者に寄り添うのは、弱者からすると嫌味なだけではないだろうか?」
助手「それはまあ、そういうこともあるかとは思います。人によるでしょうが」
狩人「そうだろう?」
狩人「だから誤解を生まないために、弱者は弱者として接した方が良いと思うのだが」
助手「え、それだと傲慢だとかって余計に誤解されるんじゃ……」
狩人「む、そうか、中々に難しいものだな」
助手「……強くなりたくても強くなれない人もいます。弱者だって、そのままでいいとは思ってないんです」
狩人「そうなのか?」
助手「ええ、まあ……(自分で言ってて悲しくなってくる)」
狩人「強くなれないというのは、それほどに苦痛なのか? 諦められないほどに」
助手「弱い自分が恥ずかしいとか、認めたくないとか、色々ありますよ……」
助手「強い人の傍にいれば尚更にそう思うはずです。自分の弱さが浮き彫りになりますから」
狩人「………」
助手「(この表情は理解してなさそうだ)」
助手「(きっと止まったことがないんだろう。強くなろうとして、強くなれる人なんだろう)」
狩人「………ふむ」
助手「(でも、あまりに鈍い気がする。他人と関わったことがないのかな)」
狩人「君もか?」
助手「え? 何がですか?」
狩人「先程言っていたように自分の弱さに苦しんだり、恥じたりするのか?」
助手「は、はい」
狩人「…………すまない。考えてはみたが何と声を掛けて良いのか分からない」
助手「い、いえ、大丈夫です。変に気を遣わなくてもいいですよ」
狩人「そうは言うが、君が不憫でならない」
助手「(うっ、言い方が……本人が馬鹿にしてるつもりじゃないのが余計につらい)」
狩人「座って目を閉じたまえ」
助手「は?」
狩人「早く」
助手「わ、分かりました」ザッ
狩人「何か見えるかね?」
助手「いえ、何も……」
狩人「それでいい、君は正常だ」
助手「これに何の意味がーーー」
狩人「両手を伸ばせ」
助手「は、はい」スッ
ギュッ…
助手「!?」
狩人「動揺するな、集中しろ。脈は感じるか?」
助手「……感じます」
狩人「流れを想像したまえ。君と私の血の巡りは両腕を通して繋がり、行き来する」
助手「(行き来する)」
狩人「呼吸は深く、血の流れに意識を集中させる。体を手放すように脱力する」
助手「…………」
狩人「感覚は広げず、私にのみ集中しろ。感じるものだけを感じればいい」
助手「……はい」
狩人「………」
助手「………」
狩人「今度はどうだ。何か見えるかね?」
助手「……………薄ぼんやりとですが、光の粒のようなものが見えます」
狩人「私が見えるか?」
助手「えっと、形は見えます。でも、脚が見えません」
狩人「光の粒を全体に行き渡らせるのだ。それは君の意のままに動く」
助手「(粒を、流れを、全体に……)」
狩人「………」
助手「見えました」
狩人「宜しい。一度手を離すが、その状態を維持しろ。手を離したら、自分の手に集中したまえ」
助手「や、やってみます」
狩人「………」スッ
助手「……狩人さんが消えました」
狩人「自分の手は見えるかな?」
助手「手は見えます」
狩人「では、光の粒を操って私を捉えろ。私を描け」
助手「(急に難度が高く……でも、やってみよう。こんなところで失望させたくない)」
狩人「焦るな、徐々にでいい。私を描けるまで続けるのだ」
助手「り、了解しました」
助手「(線でなぞろうとすると途切れてしまうな。粒を貼り付けるような感覚の方が良さそうだ)」
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