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元スレ勇者「最期だけは綺麗だな」
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狩人「真面目に?」
僧侶「っ、それは真面目にもなりますよ。だって……」
狩人「……」
僧侶「……」
狩人「……言わなくてもいい。何となくだが、貴方を表情を見れば察しは付く」
僧侶「そんなんじゃないです。自分の感情がどんなものか、まだ分からないですから」
狩人「大丈夫だ。彼も、男性に気があるわけではないよ。それは私にも分かる。断言出来る」
僧侶「そんな心配はしていません!!」
狩人「貴方に手を出さないのは、己を強く律しているからだろう」
僧侶「あの、からかうのか真面目に話すのかどちらかにしてくれます?」
狩人「貴方に特別な思いを抱いているのは間違いないだろう」
僧侶「無視しないで下さい。と言うか、何故言い切れるのですか?」
狩人「彼は貴方の手を取った。それが証明だ」
僧侶「それだけで特別だなんて、言えないですよ……」
狩人「彼は、私の手を掴まなかった。羅刹王の矢に貫かれていたにも拘わらずだ」
狩人「どうかな、少しは安心したかね」
僧侶「……安心とは、少し違います」
狩人「しかし、単に貴方を性行為の対象として見ていないだけなのかもしれないな」
僧侶「えっ!?」
狩人「彼は私のように細身の女性が好みなのかもしれないよ? 性的、肉体的な嗜好と言うやつだ」
僧侶「……」
狩人「?」
僧侶「(……確かに、細身だけど艶めかしい。病的に白い肌が、妖しさを醸し出してる)」
僧侶「(男性って、こういう雰囲気の女性に弱いのかな。妖艶と言うか、魔性と言うか)」
僧侶「(手首なんて、握ったら簡単に壊れちゃいそうだ。守りたいって、思うのかなぁ)」
狩人「そこまで遠慮なく観察されると注意する気もなくなるよ。存分に見たまえ」
僧侶「あ、いえ、もう結構です。ありがとうございました」
狩人「ふふっ、そうか。それで? 私の身体を見て何か分かったかね?」
僧侶「と、とても、お美しいと思います。白くて、細くて……(そもそも綺麗だし)」
狩人「ははは。ありがとう」
狩人「しかし、まじまじと見ておいて感想はそれだけか。もっと、じっくり見てもいいのだよ?」
僧侶「(お、思わずドキリとしてしまった。こういうことをさらっと言えるのが大人なのかな)」
狩人「ああ、言っておくが先程のも冗談だ。私は、彼にそんな目で見られてはいない。安心したまえ」
僧侶「……」
狩人「悪かったね。つい、からかいたくなってしまった」
僧侶「冗談には聞こえないので今後はやめて下さい」
狩人「はははっ。分かったよ」
ザッ…
僧侶「?」
勇者「僧侶、ちょっと来い」
僧侶「は、はいっ! 今行きます!」
狩人「良かったじゃないか、誘われて」
僧侶「本当に怒りますよ」
狩人「早く行きたまえ。彼が待っているよ?」
僧侶「くっ。では、行ってきます。すぐに戻りますので」
狩人「遠慮は要らないよ。ゆっくりしてくるといい」
僧侶「すぐに、戻りますっ!!」
ザッ
狩人「……ふふっ。同じ年頃の女性とああして話すのも、案外悪くなーーーッ、ゲホッ、ゲホッゲホッ…?」
ボタボタッ…
狩人「(……当然の結果だ。王位と戦って、無事に済まないことは分かっていた)」
狩人「(あれだけ回転を速めたのだ。寿命を縮めるのは承知の上だ。しかしーーー)」
狩人「ッ、ゲホッゲホッ」グラッ
狩人「(しかし、これ程までとはな。少々、無理をしすぎたようだ)」
ザッ…
助手「狩人さん、しっかりして下さい!」
狩人「……大丈夫だ。まだ、大丈夫だよ。少し横になれば、落ち着く」
助手「僧侶さんを呼んできます」
ガシッ!
助手「何を……」
狩人「止せ、呼ばなくて良い。彼女に、知られたくはない」
助手「しかし、そのままでは」
狩人「私に治癒の魔術は通用しない。私の魔力が邪魔をするからね」
助手「そんな……」
狩人「そんな顔をするな。君には教えることがある。まだ、逝くことはしないよ」
助手「本当に、大丈夫なんですね?」
狩人「ああ、この痛みは以前にも経験したことがある。助手、聞いてくれ」
助手「な、何ですか? 何でも言って下さい」
狩人「盗み聞きは、感心しないな」ニコリ
助手「い、いやっ、僕は別に」
狩人「ふふっ、まあいいさ。最初から、君に聞こえるように話していたからね」
助手「(……またやられた。この人には、あらゆる面で勝てる気がしない)」
狩人「研究内容については、いずれ話す。君には、もっと多くのことを知って貰わなければならない」
助手「はい、お願いします」
狩人「たった数日で、顔付きが変わったな。少しだけ頼もしくなったような気がする」
助手「……」
狩人「しかし、その瞳は変わらないな。いいか、助手。その瞳は、決して曇らせてはならないよ?」
助手「……はい」
狩人「分かればいいのだ。私は、少し眠るよ」
助手「此処にいます」
狩人「フッ。まったく、君は心配性だな。まあいいさ、好きにしたまえ……」
助手「(狩人さんには残された時間は少ない。その時間を、無駄にはさせない)」
【#27】受心の兆し
勇者「……」
僧侶「(この人が私を呼ぶなんて珍しい。巫女ちゃんと話したことで何かあったのかな)」
勇者「お前、何か気になることはあるか」
僧侶「気になること、ですか? そうですね……あ、あります」
僧侶「羅刹王は貴方と私を歪みと言っていました。それが気掛かりで、少し不安です……」
勇者「……」ギュッ
僧侶「あのぅ、聞いていますか?」
勇者「ああ、聞いてる。そのことだが、ついさっき巫女から聞いた」
勇者「あの化け物が何を言っていたのか、俺とお前を歪みと称した理由も分かった」
僧侶「分かったって、どういう……」
勇者「自分から言っといて何だが、今は話せない」
僧侶「えっ、何で……」
勇者「少し、聞いてくれ」
僧侶「は、はい。分かりました」
勇者「聖水の件でもそうだが、事実を知って傷を負うこともある。今回もそうだ」
勇者「話したくないわけじゃない。どう伝えるべきか、俺にはまだ分からないんだ」
僧侶「(この人も悩むんだ。でも、そうだよね。何を聞いたかは、分からないけれど……)」
勇者「けどな、必ず話す。あいつ等を預けて落ち着いたら、必ずな」
勇者「だから、何だ……今話さない理由は、お前に対しての疑いや何かが原因じゃない」
僧侶「大丈夫です。それは分かります」ニコッ
勇者「……」
僧侶「?」
勇者「僧侶、俺はお前を裏切らない。何があっても、お前を死なせはしない。いいな」
僧侶「は、はいっ」
勇者「まあ、お前から守られてる俺が言えたことじゃないけどな」
僧侶「(び、びっくりした。この人が、そんなことを言うなんて……)」
勇者「俺からは、それだけだ」
僧侶「それを言う為だけに私を?」
勇者「何、他に用事がなかったら悪いのか」
僧侶「いえ、別にそういうわけでは……」
勇者「そうかよ」
僧侶「(へへっ、嬉しいな。もっと頑張ろ)」
勇者「張り切るのは良いが無理はするなよ。これ以上の負担は掛けたくない」
僧侶「はいっ!」ニコッ
勇者「じゃあ、もう寝ろ」
僧侶「えっ……」
勇者「何だよ、その面は」
僧侶「もうちょっと話したりしたいです」
勇者「何? 何かあんの?」
僧侶「………お、男の人が好きだったりしないですよね?」
勇者「次に言ったら殺すぞ」
僧侶「ひっ、ごめんなさいっ!!」
勇者「……チッ。お前が真剣に聞いてんのは分かる。そんな奴等も確かにいる」
僧侶「え?」
勇者「国の権力者、教会の指導者。どいつもこいつも、似たような奴等ばかりだったよ」
僧侶「何で、そんなことを……」
勇者「見てきたからさ。色々な」
僧侶「……」
勇者「美しさは力になる。力は利用する。使えるものは何を使ってでも生きる。何でもな」
僧侶「……」
勇者「僧侶。お前は、そのまま生きろ」
僧侶「……」ギュッ
勇者「いいな」
僧侶「……」コクン
勇者「ほら、もう戻れ。戻って、狩人と下らねえ話でもしてこい」
僧侶「はい……じゃない!! 聞いてたんですか!?」
勇者「聞こえたからな。悪かったな、いつまでも手を出さなくて」
僧侶「別にそういうのは望んでません!!」
勇者「そういうのって何だよ」
僧侶「そういうのはそういうのです!」
勇者「肉体関係と性行為?」
僧侶「そ、そうです。でも、私には必要ありません」
勇者「こうなる前に抱いてやれば良かったな。女としては不安になって当然だ。傷付けちまってごめんな?」
僧侶「別に気にしてないです。良かったと思ってますから」
勇者「そうなのか?」
僧侶「そ、そうなんです……」
勇者「ふーん」
僧侶「……もしかして、私が神聖娼婦とされていたことを知っていたんですか? 今より、ずっと前に」
勇者「知らねえ。つーか、知ってたら何なんだよ。どうでもいいだろ、そんなもん」
僧侶「どうでも、いい?」
勇者「お前は神聖娼婦じゃねえんだ。だったら、それでいいだろうが」
僧侶「……」ギュッ
勇者「何、他にもあんの?」
僧侶「何で私を? 同行を断ることだって出来たはずなのに」
勇者「置いて行こうとしたけど付いて来た。お前が折れなかっただけの話だ。俺は何もしてない」
僧侶「(きっと、何もかも知っていた。だから、今まで何も言わずにいてくれたの?)」
勇者「……」
僧侶「えっと、もう少し良いですか?」
勇者「あ?」
僧侶「さっきの続きで、気になることがあって……」
勇者「何だよ」
僧侶「貴方って、やっぱり経験豊富なんですか?」
勇者「はぁ? 何だそれ、必要?」
僧侶「い、嫌だったら答えなくても大丈夫です」
勇者「あ、そう。じゃあ、言いたくないから言わない」
僧侶「何歳くらいで経験するものなんですか?」
勇者「知らね」
僧侶「えっと、初めての時は緊張ーーー」
勇者「何なんだよお前、性への興味で脳内満たされたのか? そんなにやりてえの? 性の獣?」
僧侶「せ、性獣じゃないです!」
勇者「うるせえ。卑しい性獣、肉欲の僧侶」
僧侶「変な二つ名を付けないで下さい……」
勇者「月夜に吠える妖しき変態の方がいいか?」
僧侶「何ですかそれ、どっちも嫌ですよ」
勇者「残念だな、とても似合ってるのに」
僧侶「(結構真面目に聞いたのに、すぐにからかう。確かに変な質問だったけど……)」
僧侶「(そう言えば、思い悩んでる理由を聞いてなかった。今なら、聞けるかな)」
勇者「……」
僧侶「あの」
勇者「ん?」
僧侶「最近、貴方が悩んでいるような気がしました。何かあったのですか?」
勇者「何もねえよ」
僧侶「でも、以前の貴方なら、狩人さんと一緒に行動するなんて判断はしなかったはずです」
勇者「殺してたかもな」
僧侶「じゃあ、何で……貴方らしくないというか、何か変わったのですか?」
勇者「どうだろうな」
僧侶「(はぐらかされた。やっぱり、私には話してくれないんだ)」
勇者「変わったと思うなら、それは俺が変わったんじゃない。変えられたんだ。色々あったしな」
僧侶「でも、変えられたって誰に……」
勇者「お前さ、全部言わなきゃ分からねえのか」
僧侶「…………………あっ……」カァァ
勇者「落ち込んだり赤くなったり忙しい奴だな」
僧侶「だ、だって、そんなこと一度も言わなかったじゃないですか」
勇者「君のお陰で、僕は変わったよって? んなこと言うかよ、馬鹿じゃねえのか?」
僧侶「(久々に言われた気がする)」
勇者「でもまあ、確かにらしくねえかもな」
僧侶「いえ、そんなことはありません」
勇者「どっちだよ。そう言ったのはお前だろ?」
僧侶「それはもういいです。それが悪いって言ってるわけじゃないですから」
勇者「気が変わるのが早いんだな」
僧侶「それは、あれです。変化を受け入れただけです。そういうのも大事ですから」ウン
勇者「へ~、そうなんだ」
僧侶「うっ。あの、ここから先は真面目に聞いて下さい。とっても真面目な話です」
勇者「なに?」
僧侶「私が貴方を守ります。絶対に死なせません。何があっても、貴方を守ります」
勇者「それは、お前の意思か?」
僧侶「当たり前です。私以外に誰がいるんですか。全部、私の意思です」
勇者「……そうだな」
僧侶「(暗い声、どうしたんだろう……)」
勇者「なあ、僧侶」
僧侶「何です?」
勇者「お前は、お前のままでいてくれ」
勇者「誰に何を言われても自分の存在を疑うな。俺もお前を信じる。それから……」
僧侶「……それから?」
勇者「俺が、傍にいる。だから、信じろ」
僧侶「……はいっ。私も、傍にいます。これから先も、ずっと」
乙
終盤にかかってシリアスが多いからこういう日常パートは映えるなぁ
終盤にかかってシリアスが多いからこういう日常パートは映えるなぁ
【#28】遠雷
勇者『次から次へと出てきやがって』ダンッ
ゴシャッ!ズドッッ!
勇者『チッ、最近多いな。まあ、龍を殺せばそれも終わるか』
僧侶『……』
勇者『おい、無事か』
僧侶『わたしは平気』
勇者『ならいい。行くぞ』
僧侶『ねえ』
勇者『どうした?』
僧侶『わたしは戦わなくてもいいの?』
勇者『俺一人で戦える。お前が戦わなくても問題ない』
僧侶『わたしが戦った方が早く終わる。あなたの役に立ちたいの』
勇者『……いいか、僧侶。確かに、お前には強い力がある。魔術の才能もあるだろう』
僧侶『……』
勇者『でもな、お前に頼るわけにはいかないんだ』
僧侶『なんで?』
勇者『……』ギュッ
僧侶『?』
勇者『子供は戦わなくていい。子供が武器を手に取るようになったら、この世は終わりだ』
僧侶『わたしが戦ったら、世界が終わるの?』
勇者『そうじゃない。お前に頼るようになったら、俺の終わりってことだ』
僧侶『よく、わからない』
勇者『分からなくていい。さあ、行くぞ』
僧侶『……うん』
勇者『大丈夫だ。今は分からなくても、いつかは分かる。その時が来る。きっとな』
僧侶『ほんとう?』
勇者『ああ、本当だ』
僧侶『わかるまで、傍にいてくれる?』
勇者『………ああ』
ーーー
ーー
ー
勇者『ぐっ…』ガクンッ
ザザザザ…
勇者『……うじゃうじゃいやがる。数だけは多いな、人食いの化け物共が』
僧侶『っ!!』ダッ
勇者『よせっ!! 来るな!!』ダンッ
ズドッッ!ズシャッッ!
勇者『はぁっ、はぁっ、はぁっ……』
僧侶『血がーーー』
勇者『触るな。俺は何ともない。お前は何もするな。これまで通りだ、いいな』
僧侶『っ、何でなの!? 貴方はいつもそう言うばかりで何も話してくれない!!』
勇者『黙ってろ』
僧侶『こんなんじゃ大きくなった意味がない!! 貴方を助けたくて大きくなったのに!!』
勇者『聞こえなかったのか、黙れ』
僧侶『っ、嫌だ。もう言いなりにはならない。私だって戦える。もう大人だもん』
バチンッ…
僧侶『っ、何で……』
勇者『いい加減にしろ。お前はまだガキだ。耐えられるわけがない』
僧侶『私が子供なら貴方だって子供じゃない!!』
勇者『俺とお前じゃ違うんだ。俺はガキの頃から殺してる』
僧侶『だから何だって言うの!?』
勇者『殺したのは化け物だけじゃない。人も殺してる。大勢な』
僧侶『そんなの嘘だ』
勇者『嘘じゃない。お前が気付いてなかっただけだ』
僧侶『何で、人を殺したの……』
勇者『敵が化け物だけとでも思ったのか? 俺を付け狙う奴等は大勢いるんだ』
勇者『見えていないだけだ。この世界は、お前が思っているような美しい世界じゃない』
僧侶『……』
勇者『……化け物だろうが人間だろうが、殺すってことは終わらせるってことだ』
勇者『そいつらが歩むはずだった道も、そいつらが生きるはずだった未来も、何もかもだ』
僧侶『……』
勇者『そいつらの顔も、声も一生消えない。相手がどんなに屑でも、嫁や子供、家族には心底恨まれるし憎まれる』
勇者『罪だと感じる。自分を疑う。それが死ぬまで続く。お前はそれに耐えられるか?』
勇者『ついこの前まで子供だったお前が、殺した奴等の命を背負って生きていけるってのか?』
僧侶『私は、ただ……』
勇者『考えたこともなかったか? それがガキだって言ってんだよ』
僧侶『そんなの関係ない!! 私はただーーー』
勇者『俺の役に立ちたいか? 俺のために戦って、俺のために殺すのか? そんなんじゃ続かねえ』
勇者『すぐに折れる。いつかは耐えられなくなり、いずれは俺を憎む。罪を押し付ける』
僧侶『私はそんなことはしない!!』
勇者『だったら、もう少し考えろ。お前が戦う理由を見付けろ。お前の意思で、決めるんだ』
僧侶『……』ギュッ
勇者『……話は終わりだ。行くぞ』
ーーー
ーー
ー
勇者『退け!!』ダンッ
ゴシャッ!
勇者『僧侶、もういい。お前は上に戻れ』
僧侶『囚われの難民を助けるんでしょう? 一人じゃ無理だよ。私も手伝う』
勇者『……分かった。下に何があるか分からねえ。俺から離れるなよ』
僧侶『うん、分かってる』
ザッ…
勇者『此処は……』
僧侶『あれは、なに?』
勇者『ッ、見るな。お前は此処に隠れてろ』
僧侶『ねえ、あれは何なの? 何で人が溶かされているの? ねえ、何を造っているの!?』
勇者『僧侶、落ち着ーーー!!』
ゾロゾロ…
勇者『そうか、そういうことかよ』ジャキッ
勇者『どんな化け物が出て来るかと思えば騎士に修道士……人を捨てたんだな、お前等』ダンッ
ドギャッッ! ドサドサッ…
勇者『僧侶!! お前は逃げろ!!』
僧侶『何であんなことを、同じ人間なのに何で……だってあれは、私も、何度も使って……』ガクガク
勇者『しっかりしろ!! 此処は俺が抑える。早くーーー』
僧侶『や、やめてっ! 来ないで!!』
勇者『!!』バッ
ザクッ!ザクッ!
勇者『……』ボタボタッ
僧侶『……?』
勇者『……行け』
僧侶『あ、あ、あぁ、そんなっ……』
勇者『いいから、行け。俺が突っ込んだら走れ。いいな』ダンッ
僧侶『嫌、待っーーー』
ゴシャッ!
勇者『はぁっ、はぁっ……』
僧侶『……』フラッ
勇者『何してる!! 早く行け!!』
僧侶『……』ヨロッ
勇者『僧侶!! ッ!!』ダッ
ゴシャッ!
僧侶『(また、いつもと同じ。あの人を置いて、一人安全な場所に逃げるの?)』クル
僧侶『(同じように、背中を見ているだけで……)』
ザクッ!
勇者『ッ、あああっ!!』ググッ
ドギャッッ!ズドンッ!
僧侶『(いつまで、あの人に傷を負わせるの? いつまで、あの人だけに背負わせるの?)』
勇者『はぁっ、はぁっ、ッ!!』ダッ
僧侶『(苦しみだけを与え続けて、何もしないまま終わり? 本当にそれでいいの?)』
僧侶『……』
僧侶『(奴等は人を喰らう怪物と変わらない。戦うべきだ。消し去るべきだ。思い知らせるべきだ)』
僧侶『……私は』
僧侶『(あの所業を、許せるの?)』
僧侶『……許せない』
僧侶『(あの人を傷付ける存在を許せるの?)』
僧侶『許さない』
僧侶『(私には力がある。きっと、あの人の為に授かったんだ。今が、その時なんだ)』ザッ
ザッ…
僧侶『焼けて、爛れろ』
ゴォォォッ!
勇者『この炎は……』
僧侶『……ごめんなさい、あなた』フラッ
勇者『!!』
ガシッ
勇者『しっかりしろ』
僧侶『……私も、一緒に背負う』
勇者『……』
僧侶『もう、貴方だけにはーーー』
ぎゅっ…
僧侶『あっ』
勇者『苦しいだろ。無理すんな』
僧侶『……苦しくない』
勇者『嘘言うな』
僧侶『嘘じゃない。何にも苦しくなんかな
いよ? だって私が殺したのは、人じゃ……ないもん』
勇者『……』
僧侶『人じゃない……グスッ…あれは、怪物だった。そうでしょう?』
勇者『……』ギュッ
僧侶『う、うぅっ……』
勇者『……俺が傍にいる』
僧侶『…うん……うんっ』ギュッ
ーーー
ーー
ー
勇者『何してんだ?』
僧侶『この腕輪が気になるのよ。詳しくはないけど、とても綺麗だわ』
勇者『腕輪? お前が?』
僧侶『悪い?』
勇者『いや? でも、お前が腕輪に興味持つなんてな』
僧侶『いいじゃない別に。もう大人だもの』
勇者『……』
僧侶『何よ、文句でもあるのかしら?』
勇者『どれだよ』
僧侶『え?』
勇者『だから、どれが気に入ったのかって聞いてんだよ』
僧侶『こ、これ。この連環の腕輪。綺麗でしょう?』
勇者『ん、買うか。余裕あるしな』
僧侶『へっ?』
勇者『欲しくねえのかよ』
僧侶『欲しいけど、いいのかしら……』
勇者『誰も文句言わねえだろ。つーか言わせねえ。買ってくるから待ってろ』
僧侶『あっ、もう……ふふっ』
勇者『おい、買って来たぞ』
僧侶『……』
勇者『何だよ』
僧侶『何だか、あまり嬉しくないわ。他に言い方があると思うのだけど』
勇者『だったら他の男にでも頼め。今のお前なら簡単に引っ掛けられるだろ』
僧侶『そんなことしないわよ。貴方でいいわ』
勇者『なら、手ぇ出せ』
僧侶『ねえ、もうちょっと優しく言えないの?』
勇者『今更優しくしてどうなるもんでもねえだろ。ほら』
僧侶『はいはい、分かったわよ』スッ
勇者『細いな。もっと食え、そんで太れ』
僧侶『絶対に嫌よ。私は綺麗でいたいの』
勇者『この前まで子供だった奴がよく言うぜ』
僧侶『うるさいわね……』
カチリ…
勇者『ん、出来た』
僧侶『綺麗……』
勇者『壊すなよ?』
僧侶『ええ、ずっと大切にするわ。こんなにも何かを気に入ったのは、初めてだから……』
勇者『……そうか。そりゃ良かった。さあ、行くぞ』
僧侶『ねえ』
勇者『ん?』
僧侶『私、貴方と出会えて良かったわ』ニコッ
勇者『何だそりゃ、腕輪買ってくれたからか?』
僧侶『茶化さないで。私は真面目に話しているの』
勇者『……』
僧侶『初めて会ったのが貴方で良かった。心から、そう思っているわ』
僧侶『運命なんて信じないけれど、貴方と出会えたのが運命なら、信じてもいい』
勇者『そうかい。いつにも増して偉そうだな』
僧侶『前世では偉人か何かだったに違いないわ。だって、こんなにも優れた魔術を使えるのだもの』
勇者『そうかもな』
僧侶『あら、否定しないのね』
勇者『お前はきっと、何か大きなものになれる。俺なんかより、ずっと大きなものに』
僧侶『これ以上大きくならなくてもいいわ。今のままで、貴方の傍にいたいから』
勇者『……』
僧侶『ちょっと、なにか言ってよ』
勇者『もう、子供に掛ける言葉は言えない』
僧侶『何を言っているの?』
勇者『お前は此処に残れ。別の道を歩くんだ。お前はもう、一人で歩けるはずだ』
僧侶『っ、何を言い出すの!? そんなのーーー』
魔女「……」
魔女「……そんなの嫌よ。いつまでも傍にいるって言ったじゃない。だったかしら」
魔女「……」スッ
シャラ…サラサラ…
魔女「……」ギュッ
魔女「……運命」
魔女「……」ザッ
コツコツ…
魔女「……」バサッ
ギィィ バタンッ…
【#29】朽ちた夢の中で
勇者『今のが、魂の記憶』
僧侶『どうかしら? 主だった記憶の断片は見せたつもりだけれど』
勇者『夢の中で夢を見るってのは妙なもんだな』
勇者『何というか、他人の記憶を垣間見た気分だ。時間の流れが早過ぎて、付いて行けねえ』
僧侶『直に慣れるわ。これでも魂同士が馴染むように見せたのよ?』
勇者『そうかい。で、お前は誰なんだ? 前に夢を見せたのも、お前なのか。姿は魔女に近いようだが』
僧侶『私は三人の元となった存在。その残滓。この夢だけに生きる者』
勇者『色々いて誰が誰だか分からねえな』
僧侶『そう難しく考えることはないわ』
僧侶『どの私も私よ。私達は一つから生まれたわ。皆が貴方を知っている』
僧侶『過ごした時間、場所、体験。違っていても、共に過ごした人間はただ一人。貴方だけ』
勇者『……お前は、どのお前だ』
僧侶『面白いことを言うのね。どういう意味?』
勇者『さっきも言ったが、お前の姿は魔女に近い。だが、感じるものはまるで違う』
僧侶『私は、そうね。現在の巫女に近いと思うわ。現在の僧侶を見て、前を向くことが出来た』
僧侶『その逆、誰よりも過去に囚われているのが魔女。彼女は、過去を取り戻そうとしている』
勇者『囚われていると言ったな』
僧侶『ええ。魔女は、元の存在の気質を最も強く受け継いでいるの。誰よりも強く、それ故に危うい』
勇者『元のお前とは? どんな奴だ』
僧侶『先程、貴方も見たでしょう。貴方に甘え、慕い、傍にいることだけを望んだ存在を』
勇者『……』
僧侶『何を犠牲にしても貴方を選ぶわ。その性質をそのまま受け継いだと言っていい』
勇者『……』
僧侶『大丈夫? どうしたの?』
勇者『本当に、俺が育てていたんだな。あれで育てたと言っていいのかは分からねえが』
僧侶『そうよ。貴方が育て、貴方が守り、貴方が教えたわ。全ての私達に』
勇者『……一つ、聞きたい』
僧侶『なにかしら?』
勇者『何故、俺を恨まない。違う人間と出会っていたら、今とは違った未来を生きていたはずだ』
勇者『お前を決めてしまった俺を、そうしてしまった俺を、何故そうまでして……』
僧侶『貴方は、先の勇者を恨んでいるの?』
勇者『あの人を恨むわけがない』
僧侶『それと同じよ。どんなに過酷な道を歩むことになろうと、恨みなど抱かないわ』
僧侶『貴方が彼を慕うように、私もまた貴方を慕った。貴方が、私を与えてくれたのよ』
僧侶『どの私にも、それは共通している。抱いた想いは違うかも知れないけれど……』
勇者『……』
僧侶『その中で、僧侶だけが違う。人間のあの子だけが、前を見ているわ』
僧侶『先程見た通り、あの子が経験したことは元の私と殆ど同じ。なのに、あの子は違う。何故だと思う?』
勇者『……俺だろ』
僧侶『そう。貴方が違うからよ。貴方は共に歩くことを認めた。あの子もそれを選んだ』
僧侶『元の私のように、貴方の存在に依存し寄り掛かるのではなく、支えようとしているのよ』
勇者『……』
僧侶『元の私を置いて行ったことを後悔しているのね? 貴方は、あれが原因だと思っている』
勇者『どうだろうな。まだ飲み込めてねえ……』
僧侶『貴方が決めるのよ。戦うのか、それとも別の道を見付けるのか。全て、貴方が決めるの』
勇者『……育てたのは俺だ。最期まで面倒は見るさ。どうなるかは分からねえけどな』
僧侶『私からも良いかしら』
勇者『何だ』
僧侶『何故、私を置いて行ったの?』
勇者『やめてくれ。置いて行ったのは俺じゃない』
僧侶『それでもいいわ。答えが欲しいのよ』
勇者『……きっと、言葉通りの意味だ。お前には生きていて欲しかったんだろうよ』
勇者『もしかしたら、自分の最期に付き合わせたくなかっただけかもな……』
僧侶『あの子、僧侶はどうなの?』
勇者『どういう意味だ』
僧侶『何故、あの子と共にいることを選んだの?』
勇者『俺を教えてくれたからだ。お前になら、この言葉の意味は分かるはずだ』
僧侶『……そうね。とても良く分かるわ。ありがとう。答えをくれて』
勇者『……』
僧侶『また、会えるかしら?』
勇者『生きてりゃ会えるさ』
僧侶『……そうね。さあ、そろそろ起きて。巫女と、あの子が待っているわ。おそらく、魔女も』
勇者『待て、魔女は多くを受け継いでいると聞いた。滅びと言ったが、何をするつもりか分かるか』
僧侶『いいえ、私には分からないわ。彼女の存在は異質なのよ。人でもなく、私達でもない』
勇者『何?』
僧侶『彼女もまた、歪んでいると言うことよ』
僧侶『ただ、魔女もまた深い悲しみを背負っているわ。それだけは、分かって欲しいの……』
勇者『……』
僧侶『決断を誤っては駄目よ。躊躇いは己を滅ぼす。己を曲げてはならないわ。最期まで貫いて』
勇者『ああ、分かってる……』
僧侶『では、また会いましょう。今の貴方が、前の貴方の死を乗り越え、その先に進むことを祈っているわ』
サァァァ…
勇者「(……長いこと眠ってた気がする)」
ザッ
勇者「?」
僧侶「おはようございます!」ニコッ
勇者「……お前は元気だな。まだ夜明け前なのに」
僧侶「ご、ごめんなさい。うるさかったですか?」
勇者「そんなことねえよ。さあ、皆を集めて出発しよう」
僧侶「はいっ」ニコッ
勇者「(死を越えた先。こいつとなら、行けるかもしれねえな……)」
乙
魔女のことも考えるとこのまま僧侶と添い遂げるのもなんかもやもやするな・・・
魔女のことも考えるとこのまま僧侶と添い遂げるのもなんかもやもやするな・・・
【#30】移りゆく
ザッザッザッ…
勇者「(死を乗り越えた先……)」
勇者「(前の俺は龍に負けて死んだのだと、巫女はそう言っていた)」
勇者「(龍に負けたってのは分かるが、何故負けたのかが分からねえ)」
勇者「(前の俺はこの姿にはなっていない。今の俺より弱いってことは絶対に有り得ない)」
勇者「(何が足りなかった? 単に、この力を使い熟せていないのか。どうすれば勝てる?)」
勇者「(何より、この体をどうにかしないことには戦いにすらならねえ。魔女が何を考えてるかも読めねえ)」
勇者「(殺せば消えると言ったが、居場所も分からない。何も仕掛けてこないってのも妙だ)」
勇者「(甲冑に魂を宿らせ、繋げたことには意味があるはずだ。同化させた先に何がある?)」
クイッ
勇者「?」
巫女「考え事? 何かあったの?」
勇者「……ああ、また夢を見た」
巫女「記憶を辿ったの?」
勇者「断片的にな。感覚的には、辿ったと言うより見たって方が近い。他人の記憶をな」
巫女「まだ完全には同化していないから、そう感じるだけ。いずれは、違和感も消える」
勇者「だと良いけどな」
巫女「今は、あまり考えない方がいい。貴方には、どうしようもないことだから」
勇者「……そうだな」
巫女「不安?」
勇者「不安ってわけじゃない。ここ数日で考えることが増えた。まだ理解が追い付かないだけだ」
巫女「ごめんなさい……」
勇者「謝るな。抱いていた疑問の答えが出たのは確かなんだ。お前には感謝してる」
巫女「でも、貴方に押し付けた」
勇者「僧侶に伝えてくれって話か?」
巫女「うん」
勇者「お前も協力するって言ったじゃねえか。押し付けたってのは違うだろ」
巫女「そうかな……」
勇者「不安なのか」
巫女「うん」
勇者「何故?」
巫女「だって、もし貴方が前と同じになったら、私にはもう何も出来ない。元の私がしたようには、出来ないから」
勇者「巫女、それが当たり前なんだ。普通はやり直しなんて出来ない。命は一度きりだ」
巫女「それでも……」
勇者「……」
巫女「それでも、あの時の私は、貴方を失いたくなかった」
勇者「……」
巫女「前の私がそうしてしまったことを、命を歪めてしまったことを話すのが怖かった」
巫女「貴方にとって、きっと、あれが終わりだった。だから、貴方は蘇りを拒否したのだと思う」
勇者「……」
巫女「あの時の私は、貴方の決意と覚悟を踏みにじった。もう一度、苦しみを与えてしまった」
巫女「苦しみから遠ざけたくて、他の何かを与えたくて、貴方の傍にいると決めたのに……」
勇者「後悔してるのか」
巫女「私は、後悔してると思う」
勇者「……そうか」
巫女「何故、何も言わないの?」
勇者「巫女」
巫女「なに?」
勇者「俺も、あの人に会いたいと思ったことがある。もう一度会えたらって、何度も願ったよ」
勇者「話したいことや、教えて欲しいことは沢山あったからな。でも、幾ら願っても会えなかった」
巫女「……」
勇者「そう願ってしまうのは、きっと普通のことだ。そう簡単には受け入れられない」
勇者「でも、いつかは受け入れる。納得しようとする。死に意味を持たせる。そうやって、その先を生きていくしかない」
勇者「ただ、前のお前は死を覆す力を持っていた。それはお前にしかない力だ」
勇者「願い叶える力、可能にしてしまう力、神を求めた人間に押し付けられた力だ」
巫女「……」
勇者「お前は願ったに過ぎないんだ」
勇者「本来なら諦められるのに、そんな力を得たために、諦めることすら許されなかったんだ」
勇者「叶ってしまうこと、可能に出来てしまうこと、それが引き起こしたことだ。それに……」
巫女「?」
勇者「……それに、お前を育てたのは俺だ。そうさせた俺にも責任はある。育て方が悪かったのかもな」
巫女「そんなことない」
勇者「だったら、後悔するな。俺の為にしたことなんだろ? なら、それでいいんだ」
巫女「でも……」
勇者「大丈夫だ。ちゃんと貰ってる」
巫女「えっ?」
勇者「お前にも、僧侶にも、苦しみ以外のものを貰ってる。だから、俺は進めるんだ」
巫女「ほんとう?」
勇者「ああ、本当だ。だから、泣くな」
巫女「……うん」ゴシゴシ
勇者「……」
ザッ
勇者「狩人か」
狩人「邪魔してしまったかな」
勇者「いや、大丈夫だ。巫女、お前は僧侶の所にいろ」
巫女「うん、わかった」
トコトコ
狩人「……泣いているようだったが」
勇者「まだ子供なんだ。泣きたくなる時だってある」
狩人「私には、彼女が子供には見えないがね」
勇者「……お前には見えるんだったな」
狩人「ああ、今まで見たこともない形をしている。何者かは分からないが、推し量れない存在であることは確かだ」
勇者「俺やお前と変わらねえよ」
狩人「ほう、それはどういうことかな?」
勇者「泣くし、笑う。感じるものに違いはねえ」
狩人「……ふむ。君がそんな言葉を口にするとは思わなかったよ。まあいい、分かったよ」
勇者「分かった?」
狩人「彼女については詮索しない。今はね」
勇者「ありがとよ。で、何だ。聞きたいことがあったんだろ?」
狩人「ああ、そうだった。私の記憶が確かなら、この先にある街を越えたら何もない」
狩人「その先にあるのは湖だけだ。あの辺りに人里はなかったと記憶している」
狩人「それで、君は何処に向かっているのかと疑問に思ってね」
勇者「この辺りに詳しいのか」
狩人「以前、街に住んでいたのだよ。彼女と共にね」
勇者「ってことは、あの人の……」
狩人「そうなるね。何だ、知らなかったのかね」
勇者「……あまり、過去の話はしなかったからな。話したくないのも、今なら分かる」
狩人「……」
勇者「悪い、目的地についてだったな」
狩人「おや、教えてくれるのか」
勇者「いつまでも隠しておけねえしな。目的地は湖だ。そこに、隠れ里があるらしい」
狩人「……ふむ」
勇者「お前の話では人里はないらしいな」
狩人「ああ。あの近辺には、あまり良い噂がなくてね。昔から人が近付かなかった」
勇者「噂?」
狩人「神隠しさ。魚釣りに行って行方不明になる人が非常に多かったらしい」
狩人「不思議なのは、数日後には必ず戻ってくるという点だ。その上、誰も行方不明中のことを話さない」
勇者「魔物じゃない」
狩人「と言うことだろうね。しかし、他の存在がいるなら知れ渡っているはずだ」
勇者「……」
狩人「彼女は、他に何も言わなかったのか?」
勇者「湖に隠れ住む人間がいると、それだけだ。騙してるってことはない」
狩人「ふむ、そうか。それなら、そこまで警戒することもないかもしれないな」
勇者「聞いてみるか?」
狩人「いや、いいよ。私だって、先程まで泣いていた子供から無理矢理聞き出すような真似はしたくないからね」
勇者「お前がそんな言葉を口にするなんて意外だな」
狩人「ふふっ、それは心外だな。私を何だと思っているのだ」
勇者「もっと、冷たい奴だと思っていたよ」
狩人「君が思っている程じゃないさ」
勇者「みたいだな」
狩人「……話は済んだ。私は助手の所に戻るよ」
勇者「ああ」
狩人「引き続き、警戒はしてーーー」フラッ
勇者「おい、大丈夫か?」
狩人「……ゲホッ。何のことはない。大丈夫だ」
勇者「お前……」
狩人「いつものことだ。私のことは気にしなくていい。それより、彼等のことを気に掛けた方が良い」
勇者「……」
狩人「体力的にも、精神的にも厳しい。急がないと、辿り着く前に倒れてしまうぞ」
勇者「分かってる」
狩人「それならば良い。君は、君がすべきことだけを考えろ。安心したまえ、迷惑は掛けないよ」ザッ
勇者「狩人」
狩人「何かな?」
勇者「お前とは、まだ話したいことがある」
狩人「ふふっ、私もだよ。到着したら、ゆっくり話そうじゃないか」ザッ
勇者「………」
ザッ
僧侶「あの、何か問題が起きたのですか?」
勇者「いや、何も問題はない。お前はこれまで通り、皆の様子を見ていてくれ」
僧侶「はい、分かりました」
勇者「頼む」
僧侶「あのっ」
勇者「ん?」
僧侶「山を越えてから冷えてきたような気がします。冬が近いのかもしれません。体調には気を付けて下さいね?」
勇者「分かった。お前も気を付けろよ? 一番負担が大きいのはお前なんだ。何かあったら言え」
僧侶「はいっ。では、私は向こうに戻ります」
勇者「分かった」
ヒョゥゥ…
勇者「………………冬か」
ザッザッザッ…
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