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元スレ勇者「最期だけは綺麗だな」
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魔女「おかしい?」
僧侶「人であるなら濁りすぎている。魔であるなら清すぎる」
勇者「(なる程な、違和感の正体はそれか)」
魔女「案外鋭いじゃない」
魔女「というか、人を見る目はないクセにそういうことろには気が付くのね」
僧侶「……貴方は、どっちですか?」
魔女「人でなし」
僧侶「え?」
魔女「魔でもなし」
僧侶「ふ、ふざけないで下さーーー」
勇者「もういい、下らねえ問答はうんざりだ。用があるなら降りてこい。ぶん殴ってやるからツラ見せろ」
魔女「ごめんなさい、それは無理」
勇者「下着は見せるのに顔は無理ってか、随分と変わった女だな。変態?痴女?」
魔女「違うわよ。私は貴方を試しに来たの」
勇者「あ?」
魔女「貴方が王に相応しい者なのか、それとも取るに足らない人間なのか。貴方はどっちなのか」
勇者「……奴の手下か」
魔女「さあ、それはどうかしらね。貴方の想像に任せるわ。取り敢えず始めましょう?」スッ
僧侶「(何かをしようとしてる?)」
僧侶「(あの状態から更に術を使う気なの? 空中で姿勢を保つだけでも手一杯なはずなのに)」
ズズズッ
僧侶「(地面から手が、これはまさか蘇生術……でも、そんなこと出来るはずはーーー)」
魔女「出来るわよ? 蘇生術くらい」
僧侶「なっ!?」
勇者「蘇生術、ね」
魔女「蘇生術と言っても悪用したものだけどね。貴方に恨みがあるようだから簡単に応えてくれたわ」
ズル…ズル…
勇者「……昨日のオーク共か」
僧侶「(魔物とは言えあれだけの死者、あれだけの魂を操るなんて……あの者は一体……)」
勇者「凄え術なんだろうが、こいつらが出来上がるまで待ってやる義理はねえな」ダッ
ドチャッッ
僧侶「(凄い、一度であんなに……)」
勇者「やっぱり使い慣れてるやつが一番だ。思いっ切りぶん回せる」
勇者「しかし、朝から化け物殺しか……」
魔女「不満?」
勇者「いや、最高の気分だ」ダンッ
ズシャッッ
魔女「あら凄い。やっぱり、この程度じゃあ満たされないみたいね」
勇者「満たされることなんてねえよ。どれだけ化け物を殺そうが、あの野郎を殺すまではな」
魔女「……そう。貴方に一つ質問があるのだけど」
勇者「あ?」
魔女「化け物を殺すことに躊躇いはないの?罪悪感や後悔は?眠れない夜はある?」
勇者「ない」
魔女「あらそう。それを聞いて安心したわ」スッ
ズズズ
勇者「またかよ。次は何を出すつもりだ?」
魔女「それは見てのお楽しみ」
ボコッ
勇者「あ、そう。だったら出て来る前に打っ叩いーーー」
僧侶「っ、待って下さい!」
勇者「あ?」
僧侶「……あれは、『違います』」
勇者「違う? お前、何言ってーーー」
ズルリ
僧侶「(っ、やっぱり人間だ)」
勇者「人の形をしてるだけじゃねえか。コイツ等とさっきのオーク共と何が違うんだよ」
僧侶「魔の魂を呼び出すのと、人の魂を呼び出すのではやり方が違うんです」
勇者「分かりやすく言え」
僧侶「えっと、蘇生術に応じると言うことは、現世に戻りたいと願う様々な要因があるからです」
僧侶「先程のオークのように、死しても消えぬ憎悪によって応じる場合もあります」
勇者「で、何が言いたい」
僧侶「……見ての通り、彼等の肉体や精神は生前の姿とかけ離れています」
僧侶「蘇生を望んでいるなら、あのような状態で蘇えることはありません」
僧侶「つまり、蘇生を望んでいるわけではない。強制的に呼び起こされたのだと思います……」
勇者「………」
魔女「どうしたの?何か問題でもある?」
勇者「ない。やることは一つだ」ザッ
僧侶「!!」
魔女「ふふっ、そうよね。問題なんてあるわけないわよね。化け物なら殺せるんだもの」
魔女「貴方は確かにそう言った。躊躇いも罪悪感も後悔もなく殺せるって」
勇者「ああ、言ったな」
魔女「土から這い出ようとしている化け物が、故郷の人間だとしても?」
勇者「………」ピタッ
僧侶「(故郷。じゃあ、この人達は……)」
勇者「何をした」
魔女「ちょっと起こしただけよ。それより、再会出来て良かったじゃない」
魔女「何なら謝罪でもしてみたら?」
魔女「僕の愚かな行動が原因で、皆を死なせてしまってごめんなさい。ってね」
勇者「………」
魔女「そんなに睨まないでくれない?私、言ったわよね? 貴方を試しに来たって」
勇者「これが試験ってわけか」
魔女「ええ、その通り。でも、逃げたいのなら逃げても構わないわよ?」
魔女「だけど、貴方が殺さない限り、この者共は生を求めて彷徨い歩くでしょう」
魔女「亡者は生に餓え、渇きに苦しみ喘ぎながら人間を襲い続ける。罪の無い、か弱い人間を」
勇者「何を試すつもりか知らねえが」ジャキッ
魔女「別にいいのよ? 無理をしなくても……」
勇者「ふざけんな。俺が化け物に背を向けて逃げるわけねえだろうが」ダッ
勇者「(そう、化け物だ)」
勇者「(誰がどう見ても化け物だ。元が何であろうが誰だろうが、化け物なら殺す。それだけだ)」ブンッ
ゴシャッッ
勇者「………」
僧侶「(躊躇いなく斬り捨てた。あの人には相手が何であっても関係ないの?)」
僧侶「(故郷の人間、同じ場所で生きた人間なのに、何も感じないのかな……)」
僧侶「(っ、何を考えてるんだ私は! あんなの平気なわけない。無理してるに決まってる)」
僧侶「(取り返しが付かなくなる前に私が何とかしないと。無理矢理呼び起こされたのなら、還す方法はある……)」
勇者「おい」
僧侶「な、何ですか?」ビクッ
僧侶「結界は張ったか?」
僧侶「あ、はい。一応……」
勇者「そうか。なら、そこでじっとしてろ」
勇者「お前は何もしなくていい。何があっても手は出すな。妙な気は起こすんじゃねえぞ」
勇者「分かったな」
僧侶「…………はい」
勇者「それでいい。すぐ戻る。ちょっと待ってろ」フラッ
僧侶「っ!!」ガシッ
勇者「っと、悪りぃな。じゃあ、ちょっと行ってくる」
僧侶「っ、私が止めます」
勇者「あ?」
僧侶「無理矢理呼び起こされたのなら、強制的に還すことも可能なはずです」
勇者「それが出来たとしても時間は掛かるんだろ? その間のお前は無防備になるだろうが」
僧侶「それは、そうですけど……」
勇者「手っ取り早くあの女を殺せりゃいいが飛ぶ手段がねえ。お前、俺を飛ばせるか?」
僧侶「飛ばせるとは思いますけど、落下の際の維持が……」
勇者「……そうか、だったら奴等を斬った方が早いな。さっき言った通り、お前は何もしなくていい」
僧侶「でも、ふらついて……」
勇者「何のことはねえ。一度殺すも二度殺すも同じことだ。こんなのは大したことねえ」
僧侶「そんなーーー」
勇者「敵。化け物。それだけだ。やり方はこれまでと同じだ(そう、同じだ。ほら、やれよ)」ザッ
ゴシャッッ
勇者「…ゲホッ…うおぇっ…」ビチャビチャ
僧侶「(……無理だ。あんなの、耐えられるわけがない。魂に傷を負った状態では尚更……)」
勇者「はぁっ…はぁっ…ッ、ああッ!!」ブンッ
ズシャッッ
勇者「…はぁっ…はぁっ…」
魔女「随分と辛そうじゃない。そんなものに囚われていたら王を……龍を殺せないわよ」
勇者「………」
魔女「これまでをなかったことにするのよ。過去を、罪を、これまでの全てを斬り捨てるの」
魔女「そうすることでしか王は殺せない。そうすることでしか、人間を超越出来ないのだから」
勇者「少しは黙ってろ」ブンッ
ズドンッッ
魔女「彼、頑張るわね。まだ保ってる」
僧侶「………何で、あんなことを」
魔女「彼の過去、彼の罪を洗い流すため」
僧侶「過去、罪……」
勇者『ある日、森で行き倒れてる男をガキが助けた。その男がお尋ね者の野盗の一人だとも知らずにな』
勇者『傷が癒えて村を立ち去ると、そいつは仲間を引き連れて戻って来た。で、村を襲撃して占拠した』
勇者『男は殺され、女は犯され、子供は玩具にされた。野盗を助けたクソガキも一緒に』
僧侶「(そうか、この者の狙いは……)」
魔女「洗い流すと言うより、罪に塗れさせると言った方が正しいかしら」
魔女「あれは彼の故郷の住人。彼の所為で命を奪われ、生を弄ばれた、哀れな者共……」
魔女「……それを罪と感じているから彼は苦しんでいる。なら、身も心も罪に浸してしまえばいい」
僧侶「(やはり間違いない。この者は、あの人を壊すつもりなんだ。魔に、堕とす為に…)」
魔女「罪そのものとなれば苦しむ必要もない」
僧侶「……人として問います。貴方は、何故こんなことが出来るのですか」
魔女「人間だったら何なわけ?」
僧侶「えっ……」
魔女「貴方はバカだから知らないでしょうけど、こんな人間もいるのよ。言ったでしょ、人でなしだって」
僧侶「………」
魔女「私はずっと見ていたわ。貴方達のことを」
魔女「勇者と言われながら、陰では嫌われ疎まれ憎まれ怖れられ、それでも戦う彼を」
魔女「そして、彼の傍らにいながら何もしようとしない貴方を、自分だけが人間であろうとする醜く浅ましい貴方の姿をね」
魔女「今の貴方は穢れていないわ」
魔女「身も心も綺麗なまま。何一つ穢れていない。それなのに、私には誰よりも穢れて見える」
僧侶「っ!!」
魔女「勘違いしないで? 別に責めてるわけじゃないの。貴方は人間だと言ってるだけよ」
魔女「貴方はどうしようもなく人間なのよ。寄り掛かることしかしない、ただの人間にすぎない」
僧侶「………」
魔女「でも、彼は違う」
魔女「ほら、あれを見てみなさいよ。人間にあんなことは出来ない」
勇者「がああッ!!」
ゴシャッッ
僧侶「…………」
魔女「そう、人間にあんなことは出来ない。彼も私と同じ……人であって人でなし」
【#10】人間の証明
勇者「(無理矢理に呼び起こされた?)」
勇者「(違う。コイツ等は望んで蘇ったんだ。そうに決まってる。目を見れば分かるんだ)」
勇者「(真っ暗な瞳、底無しの闇。俺が憎いんだ。そりゃそうだよな、俺が招いた死だ)」
勇者「(憎まれて当然だ。こんな風に思われているだろうと思ってた。想像していた通りだ)」
勇者「(こうして囲まれる夢は何度も見た。数え切れない程に、何度も何度も見た光景だ)」
勇者「(俺が思っていた通り、それが現実になっただけだ。そなのに、何で……)」ブンッ
ズシャッッ
勇者「くそっ、何で……うっ…うおえぇッ」ビチャビチャ
僧侶「っ、あの人は……あの人は、人間ですっ」
魔女「彼が人間? 面白いことを言うわね」
魔女「過去に自らの行いによって死に追いやった者を、今は自らの手で殺めてる。彼自身の意志で」
僧侶「自らの意志!? ふざけないで下さい!!」
僧侶「そうなるように仕向けたのは貴方でしょう!? 死者の御霊を操って亡者としたのも!!」
魔女「うるさい女ね……」
魔女「戦うことを選んだのは彼でしょう? 私、言ったわよね? 逃げてもいいって」
僧侶「あの人が逃げるわけがないと分かっているから、そう言ったのでしょう!?」
魔女「後のことなんて無視すればいいじゃない。誰が死のうが龍さえ殺せればいいんだから」
僧侶「~~っ!!」
魔女「実際、彼も半端なのよ」
魔女「口では人を見下すようなことを言いながら、人間を切り捨てることが出来ていない」
僧侶「口では何と言おうが、あの人は貴方が思うような人ではありません!!」
魔女「へえ、知ったような口を利くじゃない。貴方に彼の何が分かるわけ?」
僧侶「それは……」
魔女「誰よりも近くにいながら理解しようともしなかった貴方に、そんな人間に何が分かるの?」
魔女「それとも何? 少し優しくされたからって彼を優しい人だとでも思ったわけ? 頭の軽い女ね」
僧侶「ち、違っーーー」
グイッ
僧侶「!?」
勇者「あんまり離れるな」
僧侶「あっ…」
勇者「話すだけ無駄だ。そいつの言葉に耳を貸すな。もうすぐ終わるから待ってろ」
僧侶「(目に光が……駄目、このままでは……このままでは壊れてしまう)」
魔女「(そろそろね)」スッ
ズズズ
僧侶「(……若い男女? 先程の村人よりも姿形が生前に近い。何を利用して呼び出したの?)」
勇者「あれで最後か?」
魔女「ええ、それで最後よ」
魔女「貴方を人間に生んだ人間。貴方を人間として育てた人間。少年であった頃の、罪の象徴」
僧侶「っ、それでも血の通った人間ーーー」
勇者「落ち着け」グイッ
僧侶「落ち着いていられるわけがないでしょう!? そんなに傷だらけになって、過去にまで傷を付けられて!!」
勇者「いいから黙ってろ」
僧侶「でも、こんなの……」
勇者「そんなことはいい。それより頼みがある。一度しか言わないから良く聞け」
僧侶「………」コクン
勇者「あの化け物を叩き潰した瞬間、俺をあいつの所に飛ばせ。いいな」
僧侶「ば、化け物って!あの二人は貴方の両親なのですよ!?」
勇者「だからこそ俺がやるんだろうが」
勇者「あれは俺の生んだ化け物だ。村の連中もあの二人も俺がやらなきゃならない。分かるな?」
僧侶「そんなの……」
勇者「お前は何も考えるな。いいから俺の言う通りにやれ」
僧侶「…………っ」ギュッ
僧侶「分かりました。でも、上手く制御出来るかどうか分かりません」
勇者「それで構わねえ。思い切り俺を吹っ飛ばせ、あの女が反応出来ない速度でな」
僧侶「そんなことをしたら貴方が……」
勇者「そのくらいのことをしねえと奴に届かない。あいつはこれまでの化け物とは違う」
勇者「つーか、俺の気が済まねえんだよ。俺が不憫だと思うなら手を貸せ。後、泣くな」
僧侶「…………」グシグシ
勇者「よし、準備はいいな?」
僧侶「……はい、やってみます」
勇者「余計なことは考えるな、お前は思いっ切りやるだけでいい。頼んだぜ」ザッ
僧侶「(私には分からない)」
僧侶「(あの人が何を思っているのか、何故あのような答えに行き着いたのか、何故そうしなければならないと思うのか……)」
僧侶「(私には理解出来ない)」
僧侶「(理解出来ないけど、あの人は本気でそれを望んでいる。それだけははっきりと分かる。だったら、私がやるべきことは……)」
魔女「相談は終わった?」
勇者「ああ、終わった」
魔女「その顔、本当に殺す気なのね」
勇者「元に戻すだけだ」
魔女「面白い言い方をするのね。私が元に戻したのに、それを元に戻す?」
勇者「終わった命は元には戻らない。去った者が帰ってくることもない。お前は歪めただけだ」
魔女「………」
勇者「俺はそれを正すだけだ」
勇者「在るべき場所に帰す。この世を去った者が逝くべき場所に、死者の在るべき場所に」
>>大きくなったな……
>>あの時は、こんなに小さかったのに……
僧侶「(……これは恨みなんかじゃない)」
僧侶「(負の感情だけで、ここまで綺麗な姿で蘇るわけがない。呼び掛けに応じたのは)」
勇者「………」
僧侶「(子に、会いたかったから……)」
魔女「さあ、終わらせなさい」
魔女「貴方の過去を、貴方の罪を、貴方の人間性を、貴方自身の手で終わらせるのよ」
僧侶「(あの者はそれを利用して蘇らせたんだ。邪法によって蘇生術を歪め、生を喰らう亡者として……)」
勇者「………」
>>どうしたんだ?せっかく会えたのに酷く辛そうな顔をして……
>>どうしたの?どこか痛むの? さあ、母さんに見せて?
勇者「………」
ゴシャッッ
魔女「気分はどう?」
勇者「………何してる。さっさとやれ」
魔女「?」
僧侶「(荒ぶる風よ、望みし者を望みし場所へと運びたまえ……)」
魔女「法力の高まりを感じるわね。何をするつもり? 貴方の術法が私に通じるとでも?」
僧侶「私ではありません。貴方を裁くのは……」
勇者「ぐッ!!」グォッ
魔女「(風術法で飛ばした!?)」
勇者「ッ、こいつはいいな。正に、あっという間ってやつだ」
魔女「(目が生きている。これは彼の考えた策ね。まったく、相変わらず無茶ばかり……)」
勇者「よお、やっとお近付きになれたな」
勇者「散々上から好き勝手言ってくれたな。俺は見下ろされるのが大嫌いなんだ」
魔女「(今からでは間に合わないわね)」
勇者「何とか言えよバカ女」
魔女「……そうね。次からは気を付けるわ」
勇者「さっきも言ったろ、お前に次はねえ。くたばれボケ」
ドズンッッ
勇者「(何だ、この感覚……)」
魔女「ふふっ、何の保険もなく貴方に会いに来ると思った? バカね」
勇者「どんな術法を使ったのか知らねえが、次も同じだ。次も殺す」
魔女「あらそう、楽しみにしているわ。またどこかで会いましょう。私の愛する人でなし」
サァァァァ
勇者「言ってろ、人でも魔でもない半端者が」
ヒュゥゥゥ ドンッ
勇者「…ゴフッ…」
僧侶「!!」タッ
勇者「(……流石に高すぎたか。あの人の力がなけりゃあ死んでたな)」
勇者「(しかし、術法ってのはえげつねえ。飛んだ瞬間に血ぃ吐いたし右手はズタズタだ)」
僧侶「大丈夫ですか、しっかりして下さい!」
勇者「……うるせえ。少し休めば動ける」
僧侶「意識があって良かった。今から治療します。じっとしていて下さいね?」
勇者「いい、このままでいい。このままで……」
僧侶「………」
勇者「なあ、あの魔女とかいう化け物は消えたのか?あれも術法か?」
僧侶「はい、あの者の気配は消えました。あれはおそらく、何かを器にして自己を投影したものだと思います」
勇者「投影か、便利なもんだな……」
僧侶「………」
勇者「………」
僧侶「……貴方がやったことは間違っていません」
勇者「はあ?」
僧侶「貴方が幾ら自分を責めようと、人を救おうとしたことは決して間違いではありません」
僧侶「咎を負うべきは貴方ではなく、善意を踏みにじった者、悪意に塗れた者……化け物です」
僧侶「何の慰めにもならないかもしれませんけど、私はそう思います。だから、その…グスッ…」
勇者「言いたいことは分かったから一々泣くな。ほら、お前も少しは休め」
僧侶「……はいっ」グシグシ
勇者「なあ、僧侶」
僧侶「?」
勇者「腹減ったな」
僧侶「ふふっ……はい、兎以外なら何でもいいです」
勇者「そっか。じゃあ兎にする」
僧侶「貴方に任せます」ニコッ
勇者「……はっ、そうかよ」
僧侶「(こんなに弱々しい笑みを見るのは初めてだ。私は、この人を癒せるだろうか?)」
僧侶「(あの時、司教様には傷を癒せと命じられた。それから、時に寄り添うようにとも命じられた)」
僧侶「(けれど、過去の傷を癒すことは出来ない。心に刻まれたものは、如何なる術法でも消せはしないのだから)」
~勇者の故郷、跡地~
「……ったく……知れば知るほどにむなくそわりぃぜ」
「…………」
「俺はな。俺の勝手で、俺の気まぐれであんたらの魂を呼び戻す」
「肉体を与える。忌々しすぎる記憶も消す」
「そしてあんなことが二度とねえように俺が守る」
「あっちゃならねえことだ。この次元じゃ幾らでもあるようだが」
「また見ちまった。また知っちまった。だからここでもやらせてもらうぜ」
~勇者の故郷、跡※~
~勇者の故郷、※※~
「……とりあえず、こんなもんか」
「……ったく……知れば知るほどにむなくそわりぃぜ」
「…………」
「俺はな。俺の勝手で、俺の気まぐれであんたらの魂を呼び戻す」
「肉体を与える。忌々しすぎる記憶も消す」
「そしてあんなことが二度とねえように俺が守る」
「あっちゃならねえことだ。この次元じゃ幾らでもあるようだが」
「また見ちまった。また知っちまった。だからここでもやらせてもらうぜ」
~勇者の故郷、跡※~
~勇者の故郷、※※~
「……とりあえず、こんなもんか」
~勇者の故郷~
村人「おや? あんたは?」
青年「俺かい? ちっと旅をしてるとこだ」
村人「ふうむ。兄さんは旅の人か」
村人「……なあ兄さん。兄さんはいい体をしとるし、立派な剣も持っとるようだが。用心棒とかできるかの?」
青年「依頼かい? 自分で言うのもなんだがそこそこやれる方だぜ」
村人「いきなりで悪いけども、寄り合い所に来てもらっていいかの?」
村人「最近物騒での。一応国の支援は取り付けとるんじゃが。もう一押し欲しいと皆で話しててな」
青年「いいぜ。実は炉銀やら食料やら何やら心もとなくてな。割安でもなんならただでもいいから乗らせてもらいてえ」
長老「受けてくれるか。村のみんなには事後承諾ということになりそうじゃの」
青年「しかしいいのかい? 素性の知れねえ流れ者にそんな話をぽんぽん進めちまって?」
長老「構わんよ。わしの勘は今度は大丈夫だと……はて、今度?」
青年「おいおい。そんなんでいいのかよじい様? 俺は助かるけどよ」
長老「いやいや馬鹿にしたもんじゃないぞ勘は」
青年「(当たりだよ。しかし全部は無理だったか。しゃあねぇ)」
青年「まあよろしくたのまあ。しかし腹がへったな。寄り合い所にメシはあるかい?」
長老「ああ。ここの村は芋のスープが売りでな……」
青年「やべーぞ芋か! ますます腹が減ってきたぜ!」
長老「ふぉっふぉっ。任せておけ」
青年「(……っし。長老のじい様に話をつけた。んじゃここでも始めるとしようか)」
村人「おや? あんたは?」
青年「俺かい? ちっと旅をしてるとこだ」
村人「ふうむ。兄さんは旅の人か」
村人「……なあ兄さん。兄さんはいい体をしとるし、立派な剣も持っとるようだが。用心棒とかできるかの?」
青年「依頼かい? 自分で言うのもなんだがそこそこやれる方だぜ」
村人「いきなりで悪いけども、寄り合い所に来てもらっていいかの?」
村人「最近物騒での。一応国の支援は取り付けとるんじゃが。もう一押し欲しいと皆で話しててな」
青年「いいぜ。実は炉銀やら食料やら何やら心もとなくてな。割安でもなんならただでもいいから乗らせてもらいてえ」
長老「受けてくれるか。村のみんなには事後承諾ということになりそうじゃの」
青年「しかしいいのかい? 素性の知れねえ流れ者にそんな話をぽんぽん進めちまって?」
長老「構わんよ。わしの勘は今度は大丈夫だと……はて、今度?」
青年「おいおい。そんなんでいいのかよじい様? 俺は助かるけどよ」
長老「いやいや馬鹿にしたもんじゃないぞ勘は」
青年「(当たりだよ。しかし全部は無理だったか。しゃあねぇ)」
青年「まあよろしくたのまあ。しかし腹がへったな。寄り合い所にメシはあるかい?」
長老「ああ。ここの村は芋のスープが売りでな……」
青年「やべーぞ芋か! ますます腹が減ってきたぜ!」
長老「ふぉっふぉっ。任せておけ」
青年「(……っし。長老のじい様に話をつけた。んじゃここでも始めるとしようか)」
【#11】 糸
勇者「………」
僧侶「…………」
チクチク
勇者「…………」
僧侶「……ふ~っ。はい、終わりました」
勇者「ん、上手いもんだな」
僧侶「あっ、まだ縫ったばかりです。あまり動かさないで下さい」
僧侶「激しく動けば簡単に切れてしまいますから、そういう行動は極力控えて下さいね」
勇者「何処に行っても化け物だらけの世の中だ。控えようにも向こうから寄ってくる」
勇者「でもまあ、そうなったら左手で振ればいいだけの話しだ。縫ってくれてありがとよ」
僧侶「(何でわざわざ縫わせたりしたんだろう? 治癒術法を使えばすぐに治るのに……)」
勇者「あんまり術法には頼りたくねえんだよ」
僧侶「……何も言ってません」
勇者「言わなくても顔に出てる」
僧侶「うっ……そんなに分かりやすいですか?」
勇者「そうだな」
勇者「分かりやすいって言われる人間の中でも特に分かりやすい部類なんじゃねえか?稀少種ってやつだな」
僧侶「稀少種……」
勇者「嫌そうだな。珍獣の方が良いか?」
僧侶「もっと嫌ですよ」
勇者「ははっ、だろうな」
僧侶「(笑ってる。まだ無理してそうだけど、さっきよりは良くなったのかな?)」
勇者「何だよ。珍獣でも不満なのか?」
僧侶「稀少種も珍獣も嫌です」
僧侶「というか、私のことはもういいです。それより何で拒否したんですか?」
勇者「(コイツ、術法使えるのに知らないのか?)」
僧侶「どうしました?」
勇者「(知らない、わけじゃないな。まさか教えられていないのか? 質の悪い奴等だ……)」
僧侶「?」
勇者「いや、何でもねえ。気分だ、気分」
僧侶「気分って……」
勇者「さっきの奴等は俺が作った化け物だ」
勇者「この傷を綺麗さっぱり消しちまったら全部が無かったことになっちまう気がする。だから、これでいい」
僧侶「………」
勇者「何だよ、言いたいことがあるなら言えよ。隠したって頭透けてんだから意味ねえぞ」
僧侶「……聞かないようにと思っていましたけど、貴方は初めて会った時に穢れた身と言っていました」
勇者「言ったっけ。まあいいや、それで?」
僧侶「その…過去が原因なのかなぁと……」
勇者「お前、俺の体を見たんだろ?」
僧侶「……はい、見ました」
勇者「だったら言わなくても分かるだろ。多分、お前の想像通りだ」
僧侶「そう、ですか……」
勇者「自分で聞いといて落ち込むんじゃねえよ。めんどくせえ女だな」
ポカッ
僧侶「あたっ」
勇者「前にも言ったよな、お前は自分のことだけを考えろ。下らねえことは考えるな」
僧侶「下らないって、そんな……」
勇者「何にせよ昔のことだ。何をどうしようと変えられない。お前が悩む必要もない」
僧侶「………」
勇者「少し休む。お前も休め、さっきのバカ女と話して疲れたろ」ゴロン
僧侶「あ、はい」
勇者「…………」
僧侶「(考えてる通り……)」
僧侶「(背中にあった烙印。あれは多分、咎人の烙印か奴隷の烙印)」
僧侶「(随分と前に図書館で見た覚えがある。あの印はそういう類いのものだったはず)」
僧侶「(村を襲ったのは野盗だと言っていたから、きっとどこからか奪ったものを使って……)」チラッ
勇者「…………」
僧侶「(どんな思いで生きてきたんだろう)」
僧侶「(家族を失い、故郷を失い……考えるなと言われても、そればかりを考えてしまう)」
僧侶「(きっと、元々は違っていた。少なくとも人を信じることが出来る人間だったはずだ)」
勇者「………」
僧侶「(同情していないと言えば嘘になる。でも今は、同情よりも疑問の方が強い)」
僧侶「(善行を働いた人間が、何故それ程までに苦しい思いをしなければならないのだろう?)」
僧侶「(それすらも神の御意志だと言うの?この人がこうなってしまったことも?)」
僧侶「(……こんなこと、今まで考えたことがなかった。教会の中で祈りを捧げていた頃は疑問なんて持ったこともなかった)」
僧侶「(私は何も知らなかった)」
僧侶「(人と人とは慈しみ愛し合うものだと思っていた……でも、そうじゃなかった)」
僧侶「(それを突き付けられたのは、あの村だ)」
僧侶「(村の長老や一部の男性は、自らが助かる為に女性や子供を差し出し、自分達だけは助かろうとしていた)」
勇者「………」
僧侶「(この人が言ったことを否定したのは、認めたくなかったから……)」
僧侶「(本当は薄々気付いてた。異常なまでの怯え、その不自然さ、村人の様子のおかしさに)」
僧侶「(そんなはずはないと思いたかった。そうではないと信じたかった。勘違いだと言い聞かせて目を逸らした)」
僧侶「(だから、この人が剣を抜いた時、私は止められなかった)」
僧侶「(止められなかった? 違う、きっと止めなかったんだ。そう、私は止めなかった)」
僧侶「(この人が村長を斬った時、それは間違っていると思いながら、どこか正しいと思っている自分がいた)」
僧侶「(その瞬間、自分が酷く醜いものになった気がした。私は怖ろしくなって、また逃げた)」
僧侶「(何も知らない振りをして、全てをこの人に覆い被せて……)」
僧侶「(その癖、殺したのは間違っていると責め立てた。自分は正しい、間違っていない、そう思いたかった)」
僧侶「(自分が思い描いていた人間、自分の中に描いていた綺麗な世界。それらが崩れ去ってしまうことが何よりも怖ろしかった)」
僧侶「(もしかしたら、この人を責めることで楽になりたかったのかもしれない……)」
魔女『今の貴方は穢れていないわ』
魔女『身も心も綺麗なままで何一つ穢れていない。それなのに、誰よりも穢れて見える』
僧侶「(……あの魔女の言う通りだ。私は醜い。もう、何を信じればいいのかさえ分からなくなってきてる)」
勇者「………」
僧侶「(自分の足で歩むことが出来ないから、縋らずには生きていけないから、だから、この人が嫌いだったのかもしれない)」
勇者「ん、そろそろ行くか」
僧侶「(私には、もう……)」
勇者「どうした?」
僧侶「あのっ」
勇者「あ?」
僧侶「(打ち明けよう。全てを打ち明け……打ち明けてどうなるの?)」
僧侶「(自分が楽になりたいから?また自分?結局は自分が助かりたいだけ?)」
勇者「おい、本当に大丈夫かお前?顔色が酷いことになってんぞ」
僧侶「ごめんなさい……」
勇者「はぁ?」
僧侶「村でのこと、本当は知ってて……でも言えなくて……狡くて、ごめんなさい……」ポロポロ
勇者「落ち着け。何言ってるか全然分かんねえ」
僧侶「もう私、何を信じたらいいのか……」
勇者「ちょっと待て、何で急にそんなことになるんだよ。何かあったっけ?」
僧侶「……多分、考えないようにしてたんだと思います。それが急に、ぶわって溢れてきて……自分でも分からなくなって……」
勇者「いや、意味が分かんねえ。考えないようにって何を? 溢れてきたって何が?」
僧侶「……自分です」
勇者「はぁ?」
僧侶「……あんなことを言って貴方を責めたりして、本当にごめんなさいっ」
勇者「(村に気付いてた。狡い。俺を責めた………ああ、なるほど、そういうことか)」
僧侶「……私、本当に……」ポロポロ
勇者「おい、聞け」
僧侶「?」
勇者「過ぎたことは気にすんな」
僧侶「そんなの無理ですっ」
勇者「(即答かよ)いいから気にすんな。急に外に出たから面喰らってるだけだ」
僧侶「へ?」
勇者「お前は外の世界に戸惑ってるんだよ。多分、それが今になって一気に吹き出したんだ」
勇者「旅する前はずっと教会の中で生きてきたんだ。そうなっても仕方ねえさ」
僧侶「……そう、なんでしょうか……」
勇者「多分な。それにほら……」
僧侶「?」
勇者「なんつーか、その……」
勇者「俺と一緒にいて色々と汚えもん見せられたから、今までいた場所との違いに付いて行けてねえんだよ」
勇者「だからもう気にすん……気に病むな。この先も付いて来る気なら先のことだけを考えろ。引き摺るな」
僧侶「……グスッ…はぃ…」
勇者「というか、お前は何もしてねえんだから悩む必要も泣く必要もねえだろうがよ」
僧侶「だから、悩んでたんです……」
勇者「……そうか。じゃあ、これからは何かしろ」
勇者「別に特別なことをしろってわけじゃねえ。お前が出来ることをすりゃあいい」
僧侶「……私の、出来ること?」
勇者「裁縫とか出来んだろ。この服だってお前が作ったんだし、役には立ってる」
僧侶「ほんと?」
勇者「……本当だよ」
僧侶「うそなんだ……」
勇者「ぐちぐちうるせえな!本当だって言ってんだろ!火傷は治したし、さっきは俺を飛ばしただろうが!役に立ってるから泣くな鬱陶しい!!」
僧侶「うぅ~…」
勇者「……一応聞いとくけど、それは嬉しくて泣いてんのか、情けなくて泣いてんのか」
僧侶「りょうほうです……」
勇者「……そうか、ならいい。そろそろ行きてえんだけど歩けそうか?」
僧侶「……どうやら無理そうです」
勇者「お前が泣き止むのを待ってたら日が暮れるな。おぶってやるから来い」
僧侶「でも、なみだとか、はなみずとか……」ズビッ
勇者「うっせえな!いいから来いって言ってんだよ!!」
僧侶「は、はいっ」
ギュッ
勇者「よし。んじゃ、行くぞ」ザッ
勇者「………」
僧侶「……あのぅ」
勇者「あ?」
僧侶「……色々とごめんなさい」
勇者「うるせえ」
僧侶「………ほんとにごめんなさい」
勇者「分かった。もういいから休んどけ」
僧侶「……はい」
勇者「………おい」
僧侶「?」
勇者「次からはそうなる前に話せ。ガキの相手してるみたいで面倒臭えから」
僧侶「……ありがとうございます」
勇者「………」
僧侶「………ありがとうございます」
勇者「分かった。もう分かったから黙ってろ」
※※※※※※
ここで私はただ一つの側面から罪が積極性であることを解明できるだけである。
罪を構成しているものは神の概念によって無限にその度が強められた自己であり
したがってまた行為としての罪についての最大限の意識である。
・・・・・・・
罪が神の前に起こるというのが、罪における積極的なものである。
キェルケゴール『死に至る病』
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