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元スレ勇者「最期だけは綺麗だな」
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勇者「あぁ~、今日も殺ったな。おい、ちょっと休むぞ」
僧侶「………」
勇者「ぼけっとしてんな。休める内に休んどけ」
僧侶「……何であんなことをしたんですか?」
勇者「はぁ?あんなことってなに? 言いたいことがあるならはっきり言えよ」
僧侶「っ、何で村人まで殺したんですか」
勇者「はっ。何かと思えば、そんなことか。相変わらずバカだな、お前」
僧侶「馬鹿は貴方です!村人は洞窟の魔物を退治して欲しいとーー」
勇者「そうだな。女子供を攫って喰っちまう化け物を皆殺しにしろって頼まれたな」
僧侶「皆殺しって……」
勇者「だってそうだろ? 懲らしめたり追っ払うわけじゃない、殺してくれと懇願されたんだから」
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僧侶「それは、そうですけど……」
勇者「だからだよ。だから殺した」
僧侶「意味が分かりませんよ!村人を殺したことと何の関係があるんですか!?」
勇者「大ありだバカ。お前もあの村を見ただろう。あの村の奴等を見ただろうが」
勇者「どいつもこいつも腑抜けた面をして、自分達で戦おうともしない腰抜け共だ」
勇者「ふらりと立ち寄った俺達に縋り付いて、女子供の仇を取ってくれ? 笑わせんな」
僧侶「彼らには戦う力がないからです!皆が貴方のような力を持っているわけではありません!」
勇者「そんなもんなくても戦えるだろうがバカが!!」
僧侶「それは力ある者の言葉です!」
勇者「ギャアギャアうるせえんだよ!!」
僧侶「っ!!」ビクッ
勇者「これまで何もしてこなかった奴等が、これまで何も守ろうとしなかった奴等が……」
勇者「大の大人が、男が、雁首揃えて泣き喚きやがって……」
僧侶「………」
勇者「おい」
僧侶「…………何ですか?」
勇者「俺達があの村に行くまで、奴等は化け物に怯えるばかりで女子供を守ろうとすらしなかった」
僧侶「何ですかそれ、何で言い切れるんですか……」
勇者「男や年寄りはいたけど、若い女や子供達は殆ど残っちゃいなかった」
勇者「きっと慣れていたのさ、あの状況に。当たり前になってたんだよ、差し出すことが」
僧侶「そ、そんなこと有り得ませんよっ!我々も戦っているって言っていたじゃないですか!」
勇者「あんなの嘘に決まってんだろうが、それを聞いてた女子供の顔を見たか?」
僧侶「……いえ」
勇者「はっ、そうだと思ったよ。だから教えてやる」
勇者「その言葉を聞いた時、何もかもを諦めた顔をしてたよ。棺桶に入ってる奴より棺桶が似合いそうな、そんな顔をしてた」
僧侶「えっ?」
勇者「きっと村の連中に失望して、自分達の置かれた状況に絶望してたんだ」
勇者「袖や裾で隠してはいたが腕や脚に痣があった。村の連中は、女子供が逃げ出さないように暴力で抑え付けてたのさ」
僧侶「そ、そんなはずはーーー」
勇者「命を張って守ってくれるような奴が傍にいるなら、普通は安心するはずだろ?」
勇者「娘達は終始怯えきってた。守ってくれる奴が傍にいるのに、妙だとは思わないか?」
僧侶「……何度も何度も村が襲撃されていたんです。怯えて当然ですよ」
勇者「にしても怯え過ぎだ。男共に触れられた時なんて飛び跳ねるほど驚いてただろ?」
僧侶「(……言わてみれば、そうかもしれない)」
僧侶「(あの時は魔物の話を聞いていたから気に留めなかったけど、あの反応は確かにおかしい)」
勇者「……あれは化け物に怯えてたわけじゃない。あの娘達は村の連中に怯えてたんだ」
僧侶「でも、それは憶測じゃないですか。貴方は憶測で罪も無い人をーーー」
勇者「奴等を斬った時、ようやく安心しんたんだよ。化け物を皆殺しにしたって言った時はまだ怯えてた」
僧侶「え?」
勇者「俺が村長やら男共を斬り殺した時、あの娘達は安心してた」
勇者「化け物は皆殺しにしたって言った時よりも、ずっとずっと安心していたよ……」
僧侶「………」
勇者「お前さ、さっき力を持たないから戦えないだとか抜かしてたよな?」
勇者「自分達が生き残るために女子供に平気で暴力を振るうクセに、化け物と戦う力はないってわけ?」
僧侶「それは……」
勇者「それは? なに?」
僧侶「わ、私はただ、救いを求める人を殺すのは間違っていると言っているんです」
勇者「ハハハッ! 笑わせんなバカ」
僧侶「……ッ」ギュッ
勇者「何が救いだよ、反吐が出る」
勇者「救えたはずの命を見殺しにして、自分より力の弱い女子供を盾に生き延びてきた奴等に救い?」
勇者「あんな奴等に救いなんてあるわけねえだろうが。もしあれが人間だって言うなら尚更だ」
僧侶「私達が倒すべき敵は魔物です。魔物を倒し、人々を救うのが私達の役目です」
僧侶「守るべき者を、救うべき人々を手に掛けるのは間違っています。やり方も……」
勇者「やり方はどうあれ、お望み通り救ってやったじゃねえか」
勇者「人の姿をした邪悪で醜悪な化け物の群れから、か弱い娘達をな」
僧侶「…………」
勇者「俺が殺すのは化け物だけだ。覚えとけ」
僧侶「それが勇者たる人間の言葉ですか!?」
僧侶「それが人々を救うべく神に選ばれた者の、希望を託された者のすることですか!?」
勇者「知ったことかよ」
勇者「まあ、少なくとも村に繋がれてた娘達にとっての希望にはなれたんじゃねえか?」
勇者「すぐに村から出るように言ったし、どっかの町に向かってるとこだろ。自由を求めてな」
僧侶「……簡単に言いますけど、途中で魔物に襲われたらどうするつもりですか?」
勇者「金はくれてやったし、お前の持ってた魔除けの水……聖水だっけ? あれも全部くれてやったから大丈夫だろ」
僧侶「そうですか、それなら大丈夫ですね……って、全部!?」
勇者「何、文句あるの?」
僧侶「眠る時はどうするんですか!あれがあるから今までは安心して眠れたのに……」
勇者「へ~、救うべき人々よりもご自分の安眠の方が大事なわけですか」
僧侶「うっ…」
勇者「あれだけ御立派なこと言ってた僧侶様がそんなこと言うとは思わなかったよ」
僧侶「べ、別に自分の方が大事だとか言ってないです!全部あげたことに驚いただけで……」
勇者「あ、そう。まあいいさ。そういうことにしといてやるよ」
僧侶「(本当に嫌な人。何でこんな人が勇者なんだろう。神様は何でこんな人を……)」
勇者「大体、お前が魔除けなんてものに頼るから悪いんだよ。なまっちょろい」
僧侶「は?」
勇者「覚悟が足りねえって言ってるんだ。寝る間も惜しんで化け物を殺すのが俺達の役目だ」
勇者「眠らずに斬りまくれば、今までの倍……いや、それ以上の化け物を殺せる」
僧侶「それ、本気で言ってます?」
勇者「当たり前だろうが、バカかお前」
僧侶「(すぐ馬鹿って言うし、口悪いし)」
勇者「そのくらい本気でやらねえと、あの村にいた化け物が増えちまうからな」
僧侶「?」
勇者「化け物は化け物を生むってことだよ。死ぬのを覚悟で戦う奴なんてのは、ほんの一握りだ」
勇者「大半は誰かにやってもらおうとする。一国の王でさえそうなんだ」
勇者「人は人に縋る。勝手に救いを求めてな。それが無理だと分かったら何をするか分からない」
勇者「あの村の連中みたいに、人間でいるための歯止めが利かなくなる。何でもやる」
僧侶「……追い詰められた人間は、人間に害をなす。そう言いたいのですか?」
勇者「そう言ってんだろうが、バカかお前」
僧侶「(いつもこれだ。ことある毎に馬鹿馬鹿って!)」ムカッ
勇者「人間、ああなったらお終いだ。お前の治癒術法でも治せない。心までは癒せないからな」
勇者「覚えとけ。あいつ等みたいに何でもする人間って奴は、人を襲い喰らう化け物と変わりないんだよ」
僧侶「(それは貴方の中の考えです。救われない人なんていない。どんな人にだって、きっと……)」
勇者「それから、もう一つ」
僧侶「は、はい、何ですか?」
勇者「人間がか弱い生物だなんて考えは捨てろ」
勇者「自分が狂ってることに気付いていない人間の方が、化け物なんかより厄介だ」
勇者「後、自分を信じてる奴、真っ当だと思ってる奴を信じるな。そういう輩は総じて質が悪いからな」
僧侶「貴方みたいに?」
勇者「俺、信じろなんて言ったっけ? お前さ、俺をお友達や何かだと思ってたわけ? バカ?」
僧侶「~~~!!」カァァ
勇者「お前はいつまで経っても現れない神様でも信じてりゃあいいんだよ。今まで通りにな」
僧侶「あ、貴方は何で嫌味ばかりを言うんですか!!」
勇者「嫌味じゃなくて真実だろ?」
勇者「化け物も化け物共が崇める竜も、神様が現れてぱぱっと殺してくれれば解決するんだからな」
僧侶「違います」
僧侶「これは神が与えた試練なんです。人間の手で解決しなければ意味がありません」
勇者「へ~、そうなんだ。それが本当だとしたら、神様ってのは随分と嫌な奴なんですね」ニコリ
僧侶「私は貴方のような人の方が嫌いです」
勇者「俺もだよ。よし、これで話はまとまったな。それじゃあ行くか」
僧侶「行くって、何処にですか?」
勇者「いちいち聞くなよ鬱陶しい。お前は付いてくれば良いんだよ」
僧侶「っ、はい。分かりました……」
勇者「お前が下らない質問するから予定が狂った。ほら、急げ。さっさと行くぞ」スタスタ
僧侶「(はぁ、どんどん先に行っちゃうし、気配りとかないし、私のことなんて考えてないんだろうな)」
勇者「………」スタスタ
僧侶「(あんな人とこれからも旅を続けていたら、おかしくなりそうな気がする)」
僧侶「(大丈夫かな、私……)」トボトボ
ガサッ!
僧侶「(っ、魔物!?何で!? そうだ、聖水はもうないんだ。ダメ、間に合わーーー)」
ブシュッ…
僧侶「………?」
僧侶「(止まった? 喉奥から鋭利な舌が伸びて……舌? 違う。これは、剣?)」
ズルリ ドチャッ
勇者「……おい」
僧侶「!?」ビクッ
勇者「さっき言ったことを忘れたの? やっぱりバカだな、お前」ジャキッ
僧侶「(魔物を背後から突き刺した?)」
僧侶「(あんなに離れていたのにどうやって……っていうか、また馬鹿って言った)」
勇者「もう魔除けはないって言っただろ。ここからはこれが当たり前になる。気を抜くな」
僧侶「は、はい」
勇者「次は殺せ」
勇者「お前は治癒以外にも術法使えるんだろ?生きたいなら、いつでも殺せる準備しとけ」
僧侶「………分かり、ました」
勇者「何? まさかお前、まだ躊躇ってんの? 救うとか大層なこと言ってたクセに?」
勇者「聞いてんのか、おい」
僧侶「………」
勇者「チッ」ゲシッ
僧侶「痛っ、何で蹴るんですか!」
勇者「お前、綺麗なままでいようなんて思ってんじゃねえだろうな?」
僧侶「そ、そんなことーーー」
勇者「だったら戦え。誰も助けちゃくれないんだ」
勇者「本気で誰かを救いたいと思うなら、血塗れになってでも救え。その手を汚さなけりゃ、誰も救えねえぞ」
僧侶「………はい」
勇者「あ? 何言ってんのか聞こえねえよバカ」
僧侶「戦います!!」グスッ
勇者「あ、そう。一生懸命頑張ってね」スタスタ
僧侶「……」ムクッ
トコトコ
僧侶「………」グスッ
僧侶「(情けない。蹴られて、馬鹿にされて、見下されて……助けられるなんて……)」グシグシ
僧侶「(悔しい。でも、私には足りない。口先ばかりで戦う覚悟もない)」
僧侶「(あの人はあんなだけど、言うだけのことはやってる。やってるから、言えるんだ)」ズビッ
勇者「うるせえな、いつまでも泣いてんじゃねえよ。ガキかお前は」
僧侶「(……私はーーー)」
勇者「ハハハッ! すぐ顔に出るんだな。分かりやすい女」
僧侶「(私は、この人が大っ嫌いだ)」
【#1】化けの皮
僧侶「はぁっ、はぁっ」ガクンッ
勇者「遅えんだよ。さっさと付いて来い。この森を抜ければ目的地だ」
僧侶「(そんなこと言われたって山歩きなんてしたことない。あの人、何であんなに早く歩けるの?)」
僧侶「(枝に足は取られるし、ぬかるんでるところもあるし、枝葉は邪魔だし、歩きにくいったらない)」
勇者「何だよ、恨みがましい面で見てんじゃねえよ。こうなった原因はお前だろうがバカ」
僧侶「はぁっ、はぁっ」
勇者「はん、救うだの何だの大口叩いてた割に根性ないな。ほら、どうした? 頑張れよ。神様に笑われちまうぜ?」
僧侶「(うるさい)」
勇者「睨む気力があるなら付いて来い。この程度でへばってんじゃねえ」
僧侶「(……言われなくたって付いて行きますよ。もう、馬鹿にされるのは沢山だ)」ガサッ
勇者「それでいい、喋らず歩け」
勇者「僧侶、お前は黙っていれば二割増しくらいで可愛く見えるよ」ニコリ
僧侶「(出会った頃にこんな人間だと知っていたなら、本質を見抜けていたなら……)」
ーーー
ーー
ー
勇者「初めまして」ニコリ
僧侶「え? あ、はい。初めまして……」
司教「驚かせてしまったかな?」
僧侶「あの、司教様。失礼は承知ですが、本当にこの方が勇者様なのですか?」
司教「そう。彼こそが勇者だ」
勇者「僧侶さん」
僧侶「な、何ですか?」
勇者「私は神に仕え、世に蔓延る魔を討ち、人々を混迷の世から助けたいと、そう思っています」
僧侶「(しっかりした人。紳士的だし、優しそうだし……本当に、この人が勇者様なんだ)」
勇者「どうしました?」
僧侶「い、いえ。その志に胸を打たれてしまって……恥ずかしながら、言葉が出てきませんでした」
勇者「志だなんて、そんなものでは……私はただ、自分の成すべきことを成すだけです」
僧侶「……怖ろしくは、ないのですか?」
勇者「僧侶さん、魔を怖れてはなりませんよ」
勇者「神に仕える私達こそが正義なのです。ですから、私達は決して怖れてはならないのです」
僧侶「(す、凄い信仰心。私も見習わないと)」
勇者「?」
僧侶「(私と同い年か、ちょっと上くらいかな。今までに見たことのない、力強い目をしてる)」
僧侶「(何があっても付いて行こう。この人の役に立ちたい。この人なら、きっと……)」
司教「まだお若いというのに素晴らしい信仰心。大司教様より聞き及んでいましたが、感服致しました」
勇者「いえ、そんな。私などまだまだです」
勇者「司教様、私のような未熟者に協力して下さり、ありがとう御座います」
勇者「司教様や大司教様のお力添えがなければ猊下に会うことは出来ませんでした。まして陛下になど……本当に、何と言ったらいいか」
司教「いいのですよ。さあ、頭を上げなさい」
司教「貴方は武勇に優れた人格者であり、敬虔な信者でもある。正に模範と言える人物です」
勇者「………しかし、まだ若すぎると、使命を理解していないと、そう口にする方々もいます」
司教「実に嘆かわしいことです」カツン
司教「人を判断するに年齢は関係ありません。年齢や外見ではなく、その者の本質を見極めなければならない」
司教「貴方の本質を見たからこそ、国王陛下もお認めになられたのです。教皇猊下を始めとした方々も」
勇者「……有難きお言葉」
司教「その旨は世界各地の教会に伝えてあります。国王陛下も各地に支援団体を作るとのこと」
司教「それでも充分とは言えないでしょうが、旅の援助になることを切に願っていますよ」ニコリ
勇者「そ、そんなっ! 何も、そこまでせずとも私はーーー」
司教「貴方は我々の希望。神の子。子のために何かしようとするのは当たり前のことでしょう」
勇者「司教様、私の素性を知っているでしょう? 私は穢れた身。神の子などでは……」
司教「おやめなさい」
ギュッ
勇者「司教様、私は……」
司教「貴方は穢れてなどいませんよ。清らかな心と高潔な精神を兼ね備えている。立派な人間です」
司教「だからこそ、皆が認めたのです。これからは、今の自分を誇りなさい」
勇者「司教様……」ギュッ
司教「………落ち着きましたか?」
勇者「は、はい」
勇者「取り乱してしまって申し訳ありません。僧侶さんにも、お恥ずかしいところを見せてしまいましたね」グシグシ
僧侶「いえっ、そんなことは」オロオロ
僧侶「(あんなに泣いて……穢れた身ってどういうことだろう?)」
勇者「自分が情けない。これから旅に出るというのに、涙を流すなど……」
司教「勇者、よいのですよ。神の前で隠し事をすることはありません」
司教「人とは、常に何かを抱えているものなのですから……さて。では、僧侶」
僧侶「はい」
司教「貴方はこれより、勇者と共に旅に出ることになります」
僧侶「はい、承知しております」
司教「貴方は若くして術法の素養を開花させた。貴方ならば、きっと勇者を支えられることでしょう」
司教「傷を負えば癒し、時に寄り添い、共に魔を討ち、混迷の世に光を」スッ
僧侶「勇者様と共に」スッ
司教「よろしい」
司教「では、勇者、僧侶。神の前で手を取り、互いに誓いなさい」
勇者「分かりました。では、僧侶さん。手を」
僧侶「はい……」スッ
司教「では、勇者。誓いを」
勇者「はい」
ギュッ
勇者「私はこの力を継いだ時より、人に尽くし、人に生きると誓いました」
僧侶「(……綺麗。こんな人、いるんだ)」
勇者「そして新たに、如何なる時でも己を見失わず、如何になる困難にも立ち向かうことを、ここに誓います」
司教「よろしい。では、僧侶」
僧侶「私は如何なることがあろうと神に仕え、貴方と共にあることを誓います」
僧侶「貴方と共に、世に蔓延る魔から人々を救い、彼の者を打ち倒すことを、ここに誓います」
ーーー
ーー
ー
僧侶「(旅をしてすぐに、あの時に語った全てが嘘だと分かった)」
僧侶「(あれは教会から援助を受けるための嘘。あの人は、神を利用していたに過ぎなかった)」
勇者「おい、止まれ」
僧侶「(一緒になんていたくない。でも、私は神の前で誓った。誓ってしまった。誓いは破れない)」
僧侶「(あの人が本当はどんな人間かを告げたところで、誰も信じてはくれないだろう)」
僧侶「(あの人は、演じるのが巧い)」
僧侶「(一度は私も目を奪われた。美しい顔立ち、佇まい、所作。全ては計算された仕草だったんだ)」
勇者「止まれって言ってんだよ。聞いてんのか?」ガシッ
グイッ
僧侶「痛っ…何をするんですか!」
勇者「君のお陰で今日は野宿に決定しました。何か言うことはありますか?」
僧侶「離して下さい」
勇者「ごめんなさいは?」ニコリ
僧侶「……ごめん、なさい……」
勇者「よし。じゃあ、俺は薪を探してくるから。お前は黙って此処にいろ。下手に動くなよ」ザッ
僧侶「(あんな人、勇者だなんて認めない。神の子でもない。人心を惑わす悪魔だ)」
勇者「あ、忘れてた。ここは開けた場所だから化け物と戦いやすい。これ、この辺りに刺しといて?」スルッ
ドサドサッ ガチャンッ
僧侶「こ、これを、全部?」
勇者「お前さ、いちいち言わなくちゃ分かんないわけ? 察しろよバカ」
僧侶「(もう反応しない。ここで言い返したら負けなんだから。我慢しろ、私)」
勇者「出きるだけ広範囲に刺せ」
勇者「間隔は近すぎず遠すぎずだ。生き延びたかったら真面目にやってね?」ニコリ
僧侶「分かりました」
勇者「じゃっ、薪を拾ってくるよ。戻るまでに済ませとけ。というか、少しは役に立って下さい」
僧侶「……っ、はい」
勇者「頼んだよ、僧侶さん」
スタスタ
僧侶「……やっと行った。んっしょ。うわっ!」ガクンッ
ドタッ
僧侶「(何これ、凄く重たい。あの人、こんなものを背負いながら森を歩いてたの?)」
僧侶「(ダメだ。背負いながらだと、とてもじゃないけど動けない。二、三本抜いて、少しずつ刺していこう)」
僧侶「んっ、しょ……」
サクッ サクッ サクッ
僧侶「(あ、そうだった)」
僧侶「(聖水はないし、これからは自分の身は自分で守るんだ。まず、眠る時は結界を張らないと)」
僧侶「(朝までなら保つとは思うけど、強度はどうだろう。後で色々試してみよう)」
サクッ サクッ サクッ
僧侶「(これ、地味に疲れる。あと何本あるんだろう。帰ってくるまでに終わらせなきゃ……)」
勇者『少しは役に立って下さい』
僧侶「(腹立つ。でも、ちゃんとやらないと……近すぎず、遠すぎず、このくらいかな?)」
サクッ サクッ サクッ
僧侶「(前に複数の魔物と戦った時は走ってたし跳んでた……もう少し、遠い方が良いかな)」
【#2】化け物は善悪を語るか
パチパチッ
勇者「何してんだ、食えよ。中々美味いぞ」
僧侶「今は無理です。兎を捌くところを見ていたら食欲が失せました」
勇者「肉を食ったことくらいあるだろ?」モグモグ
僧侶「それは、ありますけど……」
勇者「普段見てないってだけで、こうやって食ってんだよ。腹に入れば同じだろうがバカ」
僧侶「野蛮人め……」ボソッ
勇者「あ?」
僧侶「何でもないです」
勇者「ほら、食え。沢山食って血を作らねえとぶっ倒れちまうぞ」
僧侶「嫌です」プイッ
勇者「あ、そう。なら仕方ないな」
もにゅ
僧侶「なっ、何するんで……ングッ!?」
勇者「食えって言ったら、食え」
僧侶「ング…ぷはっ……はぁっ、はぁっ」
勇者「どうだ、美味いだろ?」ニコ
バチンッ!
勇者「……痛いな、何すんだよ」
僧侶「貴方は最低です。無理矢理あんなことするなんて……」
勇者「急におっぱい触ったことは謝るよ。おっぱい触ってゴメン。意外とおっぱいデカいんだな」
僧侶「そっちじゃない!おっぱいおっぱい言うな!!」
勇者「おっぱいじゃなかったら何だよ」
僧侶「無理矢理に食べさせたでしょう!?」
僧侶「貴方は何であんなことが出来るんですか!私は食べたくないって言ったのに!!」
勇者「優しさだよ」
僧侶「貴方の優しさは歪んでます!」
勇者「食わなきゃ死ぬぞ? 今日はきちんと食って、ゆっくり休め」
僧侶「………は?」
僧侶「(きちんと食って、ゆっくり休め? この人がそんなこと言うわけない。きっと幻聴だ)」
勇者「魔除けの水はない」
勇者「化け物が出る。俺は朝まで戦う。お前は使えないから寝てろ。そう言ってんだよ。お分かりになりました?」
僧侶「ひ、一人でなんて無茶ですよ」
勇者「お前みたいな奴がいると邪魔なんだよね。戦う覚悟もない奴に足を引っ張られるのは御免だ」
勇者「お前となんて一緒に死にたくないし、死ぬなら戦って死ぬ。臆病者は引っ込んでろ」
僧侶「ッ!!」ギリッ
勇者「お前、聖術とかいう便利なもんを使えるんだろ? 司教から優秀だって聞いたぞ」モグモグ
僧侶「……少しは、得意です」
勇者「あ、そう。結界とか張れるのか?」
僧侶「張れますけど、戦闘中は難しいです」
僧侶「今のように止まっているなら簡単ですけど、動き回る人に結界を張るのはーーー」
勇者「なに言ってんだお前、誰が俺に結界を張れって言った」
僧侶「え?」
勇者「お前がお前に結界を張るんだよ。そのまま朝までじっとしてろ。出て来んなよ」
僧侶「でも、怪我をしたりしたらどうするんですか? 貴方は術法を使えないんですよ?」
勇者「そうなったら仕方ねえさ。俺はその程度の男だったってことだ」
僧侶「何で……」ポツリ
勇者「あ?」
僧侶「何でそこまで命を軽んじることが出来るんですか!? 自分の生き死になんですよ!?」
僧侶「村人を殺した時だってそうです!!」
僧侶「はっきり言って貴方は異常です!命の尊さをまるで分かっていません!!」
勇者「ギャアギャアうるせえな!! んなことは分かってーーー」
僧侶「分かってない!! 簡単に戦うだとか死ぬだとか言わないで!!」
僧侶「貴方は、分かってません……」
勇者「………」
僧侶「どんな人にだって家族がいて友人がいて、助け合って愛し合って生きているんです」
僧侶「貴方は、あの村でそれを簡単に断ち切った。迷いなく斬り捨てた」
僧侶「許されない罪を犯した人間にだって、そこから救う道はあるはずです」
勇者「何それ? ただの理想論じゃねえか。何もしなかった奴には言われたくないですねえ」ニコニコ
僧侶「っ、だからといって殺さなくてもいいでしょう!?」
勇者「じゃあ何か? 化け物は問答無用で殺して良くて、化け物みたいな人間は救えってか?」
勇者「化け物にも家族や友達がいるだろうよ。嫁や子供、恋人だっているだろうよ。違うか? なあ?」
僧侶「そんなことーーー」
勇者「分からないか?分からないから理解しないのか?分かりたくもないか? 理解出来ない奴は殺すわけだ」
勇者「人間の命は尊くて、化け物の命はゴミみてえなもんか? この兎の命は? 化け物より上か下か?」
僧侶「っ、貴方は理解しているんですか!?」
勇者「してないし、する気もないね」
勇者「俺は化け物を殺す。人間のような化け物も、化け物のような化け物も同様に殺す」
勇者「人間を殺した人間は救われて、人間を殺した化け物は殺される。これじゃあ道理から外れてるだろうが」
僧侶「………化け物は、貴方です」
勇者「あ? 今、何て言ったお前?」
僧侶「っ、化け物は貴方だと言ったんです!!」
僧侶「自分勝手な正義を振りかざして人を裁く。そんなものは正義ではありません!!」
勇者「口先だけは立派だな」
僧侶「何と言われようと構いません」
僧侶「貴方には、人として備わっているべき道徳や倫理がない。暴れ狂う獣と同じです」
勇者「……分かった分かった。もういいよ。悪かった」
僧侶「え?」
勇者「もう聞きたくもない、理想論でお腹一杯だ」
勇者「もう話すことないだろ? お前の気持ちは痛い程に分かったよ」
勇者「だから、もう寝ろ。眠れるかどうか分かんねえけどさ。ほら、向こうに行ってじっとしてろ」
僧侶「………あの」
勇者「なに?」
僧侶「……さっきは言い過ぎました。化け物だなんて言って、ごめんなさい」
勇者「謝るくらいなら最初から言うなバカ」
勇者「それよりほら、化け物からの有難い贈り物だ。お前が持っとけ」ポイッ
僧侶「……これは聖水? 全部渡したはずではなかったんですか?」
勇者「全部は貰えませんとか言われてな。だから、一個だけ残して渡した」
勇者「魔除けの水なんて俺には必要ない。いざとなったら、お前が使え」
僧侶「………」
勇者「なに?」
僧侶「………ありがとうございます」
勇者「謝ったり礼を言ったり面倒臭い女だな。もういいから、さっさと向こう行けよバカ」
僧侶「……お休みなさい」
勇者「………」
僧侶「………っ」キュッ
トボトボ
勇者「(怒ったり落ち込んだり忙しい女。その点、村の娘達は素直で可愛かったなぁ)」
勇者「(頬を赤らめて抱き着いてきた時はどうしようか迷った。今思うと、素直に抱いとけば良かった)」
勇者「あ~、疲れた……」ゴロン
勇者「……………化け物、暴れ狂う獣。いつかはそうなるんだろうか。殺される側、怖れられる側に」
昨日と展開が同じだしさっさとオチにいった方がいいよ、エタるより低い評価にはならないから
乙
なんで必死に終わらせようとする奴が居るのか不思議
これが終わるまで読む事を強制されてんの?
なんで必死に終わらせようとする奴が居るのか不思議
これが終わるまで読む事を強制されてんの?
>>48みたいなことを言うのが読者様のお仕事
それを無視して黙々と書き続けるのが奴隷たる作者のお仕事なんだよ
それを無視して黙々と書き続けるのが奴隷たる作者のお仕事なんだよ
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- 八幡「死ねばいいのに」 (1001) - [41%] - 2016/10/11 16:00 ★★★×4
- 加蓮「私、たぶん死ぬの」 (185) - [41%] - 2016/1/19 21:45 ☆
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