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    元スレ八幡「徒然なるままに、その日暮らし」

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    タグ : - 俺ガイル + 追加: タグについて ※前スレ・次スレは、スレ番号だけ登録。駄スレにはタグつけず、スレ評価を。荒らしタグにはタグで対抗せず、タグ減点を。
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    351 = 1 :

    「今何か不愉快なことを考えられていた気がするのだけれど」
    「気のせいだろ。というか勘弁してください」
    「なぜ謝るの? やっぱり良からぬことを考えていたんじゃない」
    「違う。いきなり刃物持ってこられたら誰だってびびるだろうが」
    「その結果反射的に謝るのね。その遺伝子に刻み込まれているかのような卑屈さは、とてもあなたらしいと思うわ」
    「容赦なさ過ぎだろ、お前」

     何でそんな満面の笑みよ。俺をおちょくるのってそんなに楽しいの? 生き生きし過ぎでしょ。
    楽しそうな笑顔のまま、俺に向かって歩み寄ってくる雪ノ下。
    無表情のままよりはいいけど、笑顔は笑顔で怖いな、持っているのが刃物なだけに。

    352 = 1 :

    「って、おいちょっと待て、そのハサミで何をするつもりなんだ?」
    「信じられない程の鈍さね、今まで何を聞いていたの? 話の流れから想像できるでしょう」
    「いやできるけど、何もそんなお前がやんなくても」
    「遠慮はいらないわ、さっきも言ったけれど、周囲の人たちの為だもの」
    「じゃなくて、お前素人だろ。ミスられたら堪らんぞ」

     真に遺憾ながら、ここで俺は言葉の選択をミスってしまった。
    突然の事態に混乱していたのは事実だけど、言葉はよく考えてから発するべきだったのだ。
    口にして気付いた時には既に遅い。
    こんな言葉を耳にすれば、雪ノ下雪乃は当然の如く――

    353 = 1 :

    「あら、随分安く見てくれるじゃない。以前にも言わなかったかしら? 私は昔から何でもできたって。本格的な調髪ならともかく、前髪を整える程度のこともできないと思われているだなんて、捨て置く訳にはいかない暴言だわ」

     ――挑発と受け取ってしまうわけで。
    そして、こうなった雪ノ下はそう易々とは止まらない。
    浅からぬ付き合いで、そのことはよーく分かっている。
    分かってはいるが、しかしだ。

    354 = 1 :

    「いやいや、だからちょっと待てって。失敗したらどうすんだよ、前髪やっちまったら洒落にならないぞ」
    「安心しなさい、それ以上悪くなることはないから」
    「既に失敗してるみたいに言うなっての、ただちょっと伸びてるだけだから、これ」
    「それが見苦しいと言っているのよ。それとも――本当に、信用できない?」

     そこで少し声のトーンが落ちる。
    反射的に視線を合わせると、こちらをじっと見据える透明な眼差しにぶつかった。
    それは挑発するような目でも、いつもの冷静な目でもない……どこかこちらの本心を窺うような、探るような、あるいは縋るような、そんな目。
    思わず知らず、言葉に詰まってしまう。

    355 :

     多分、ここで俺が否定の言葉を口にすれば。
    そうすればきっと、雪ノ下は素直に引き下がってくれるだろう。
    だけどそれを――雪ノ下を信用できないという言葉を、俺は口に出来るのか?
    自問自答してみる無理だ。思考どころか句読点を挟む間もない即答だった。ちょっと自分でもびっくりした。

     いや例えばもしこれが陽乃さんだったとしたら、そういう俺の思考を計算してやっていると予想できるから、むしろ否定はし易いんだけど。
    対して雪ノ下はというと、このあたりどうしようもなく真っ直ぐで素直なので、逆に否定し難いのだ。
    あぁ本当に、改めて思い知らされる――俺は、こいつには絶対に勝てないんだな、と。
    そしてまた、それも悪くないと思う自分が心の中に確かにいることも。
    だから、まぁ。

    356 = 1 :

    「んなことねぇよ、お前のことまで信用できなくなったら、いよいよ俺も終わりだわ」

     ここでは嘘や誤魔化しは無しにする。
    ただ何か恥ずかしいので、言うのは視線を逸らしながらで。

    「そう……」

     見えないけど、返ってきた声音は柔らかで穏やかなものだったから。
    きっとそれで良かったんだろうと思う。
    しかしちょっとむず痒い感じだな、この空気。どうも慣れない。

    357 = 1 :

    「それじゃ、いいかしら?」
    「まぁやってくれるんなら、頼むわ」
    「えぇ、任せなさい」

     そっと、雪ノ下の手が俺の髪に触れてくる。
    反射的にぴくっと俺の体が反応してしまう。
    いやこう、他人に髪を触れさせるなんて、それこそ散髪に行く時くらいしかないだけに、どうにも落ち着かないのだ。

     変な反応をしたってことでまた何か言われるかと身構えたものの、雪ノ下からのコメントはなかった。
    ほっとしたような物足りないような。

    358 = 1 :

    「……」

     雪ノ下は、一旦ハサミと櫛を机の上において、無言で俺の髪を指で弄っていた。
    つまんだり、掌の上で転がしたり、指で梳いたり。
    それは遊んでるというよりも、どこか科学者が検分してるみたいな細やかさを感じる。

     実際こいつ白衣とか似合いそうだよな。
    試験管を睨みながら実験とかやってる姿が容易に想像できるし。
    何やっても絵になる奴って凄いね、ホント。
    ふと何か気になったのか、雪ノ下が手を止める。

    359 = 1 :

    「比企谷くん、少し髪が傷んでるわよ、ちゃんと手入れはしているの?」
    「ん? まぁ一応それなりには」
    「つまり碌にしていないのね?」
    「つまるな、やってないわけじゃねぇって」
    「結果として傷んでしまっている以上、やっていないのと同じよ」

     そう言って髪を少し強めに梳いてくる雪ノ下。
    痛っ、ちょっと引っ掛かってるって、痛い痛い。
    俺の頭で遊ばないで。

    360 = 1 :

     しかし改めて思うと、他人に頭を触らせる行為って普通に怖いな。
    何というか、生殺与奪の権利を握られてる感が半端ない。
    ましてやそれを握っているのが雪ノ下とくれば、それは恐怖を感じない方がおかしいとも言える。
    やべぇ、俺早まった?

    「何か不愉快なことを考えているようね」
    「痛い痛い痛い! ちょっ、こめかみぐりぐりするのは反則だろ!」

     指先でやられても痛いんだよ、うめぼしは。
    ホントどうして俺の考えてることが分かるんだよ。
    何? お前超能力者なの? レベル5の女王様でも目指してんの?

    361 = 1 :

    「全く、無駄なことに時間を使ってしまったわ」
    「散々俺を攻撃しといてその言い草かよ」
    「とにかく、頭皮と頭髪の手入れはちゃんとなさい。油断していると失うわよ」
    「怖い言い方すんな、そんな簡単に禿げて堪るか」
    「失ってから気付いても遅いのに……」
    「だから止めろって。分かったよ、ちゃんと注意するようにするよ。万が一にもそんなんなったら小町と一緒に街を歩けなくなるしな」
    「理由が気持ち悪いわ」

     雪ノ下が一歩後ずさった。何もそこまでマジに取らんでも。
    相変わらず端的で容赦のない突っ込みをしてくれるぜ。

    362 = 1 :

    「放っとけ。小町の為と思うのが一番モチベーション上がるんだよ」
    「そう、まぁ好きにしたらいいわ。とりあえず前髪に触れるから目を瞑っていなさい」
    「お、おう、お手柔らかにな」

     言われて素直に目を閉じる。
    コツコツと小さな音がして、雪ノ下が俺の正面に回ってきたのが分かった。
    すっと前髪を手にとって、さっきまでのように弄られる。
    長さとか確認しているんだろうか。
    さすがにちょっと緊張するな。

    363 = 1 :

     視覚が閉ざされている分だけ他の感覚が鋭くなっているらしく、些細なことも過敏に感じられてしまう。
    嗅覚は微かに香る良い匂いを検知して。
    聴覚は雪ノ下の吐息すら捉えてしまい。
    触角は俺の髪に触れる雪ノ下の細い指の感触に集中していた。

     何なの俺、これじゃほとんど変態じゃん。
    いくら何でも動揺し過ぎだ、と思わないでもないけど、同時にある意味では仕方の無いこととも思うのだ。
    だってあの雪ノ下が――高嶺の花どころか彼方の星のような、触れることはおろか近づくことすら叶わないはずの存在が、今こんな至近距離にいるのだから。

     ともすれば触れられる距離にこいつがいるということが、俺の心をざわつかせて止まない。
    果たして俺が今覚えているこの感情は、単なる違和感に過ぎないのか、それとも不安や恐怖なのか、あるいはもっと別の……?
    おかしな方向に行きそうになっていた思考はしかし、雪ノ下の声で現実に引き戻される。

    364 = 1 :


    「癖があるわね、あなたの髪。やはり性格が捻くれていると髪にも出るのかしら」
    「なるほど、オブラートに包む気のない常に直接的で直球勝負の雪ノ下さんは、だからそんなにストレートな髪なんだな」
    「そうね、あなたと違って、ね」

     見えないけど、声の感じからすごい勝ち誇った顔されてるな、多分。
    まぁ確かに言い返したつもりが全然否定できてないし、むしろストレートな髪で羨ましいって風にしか聞こえないし、それも止む無しか。
    だってこと髪の話じゃあ、非の打ち所なんてないんだもんなぁ、こいつ。
    ちょっと腹立たしいけど、さすがに認めざるを得ない。

    365 = 1 :

    「……んなもん仕方ないだろ、そりゃお前の髪と比べられたら誰の髪だって数段落ちるわ、綺麗過ぎるんだよ、お前の髪は」
    「え?」
    「つーかそんだけ長いのに毛先までさらさらとか、全体に艶があってきらきらしてるとか、手入れにどんだけ手間暇かけてんだよ。むしろ周りの子が可哀想になるレベルだわ」
    「そ、そう?」

     癖っ毛の持ち主は、どうしたってさらさらの髪の持ち主に憧れるもんなのだ。
    今までだって、寝癖直すだけのことで朝の貴重な時間をどれだけ奪われてきたか……
    そんなことを考えていると、何やら雪ノ下が俺の頭を指でぐりぐりし始めた。
    ちょっ、何? 俺の頭を擦っても何も出ませんよ?

    366 = 1 :

    「ま、まぁそう思うのも当然と言えば当然のことかしら、あなたもたまにはまともな事を言うのね。えぇそうよ、確かにこの髪は私の数多い美点の中でも特に自分でも気に入っている部分だわ。そのせいで余計な苦労を背負うこともあったくらいだもの。そう、周囲の嫉妬の対象としてね。もちろん学校の他の女子の中にも髪のきれいな子は少なからずいたけれど、当然ながら私と並んでなお誇れる程の美麗さを備えていた人なんていなかったわ。あとはお決まりのパターンね、みんな必死で私を引きずり降ろそうとしていたものよ、もちろん私が負けることなんてなかったけれど。それにしても、誰も彼も私の髪を持って生まれたもののように言ってくるのは腹立たしかったわ。私がどれほどその手入れに心を砕いてきたか、どれほど時間と熱意を注いでいるかをまるで理解しようともしないのだから。あそこまで行くと最早愚かしさを通り越して憐みすら抱いてしまうわね。人を妬む前にどうして自分を高めようという努力ができないのかしら。そもそも――」
    「ちょっと痛いって、待て待て待て、それ以上は止めて、禿げちゃうから、十円禿げとかマジ勘弁だから」

    367 = 1 :

     指の動きが言葉と共に加速してきて、さすがにストップをかけずにはいられなかった。
    いやホント何かちょっと痛いから。摩擦で割と熱くなってるから。
    全くとんだテロ行為である。

     しかしこいつって本当に照れると雄弁になるよな、しかもすげぇ早口で全く噛まずに言い切ってるし。
    いっそ女子アナでも目指したらどうだろうか? 容姿的にも全然行けると思うぞ。
    毒が効き過ぎてるのが玉に瑕だけど。いや喋りの職業にそれは致命的か?

     さておき、普段ならそんな姿も微笑ましく見られたかもしれないけど、頭髪の危機とあってはさすがに安穏とはしていられないわけで。
    そんな俺の制止の声に、はたと雪ノ下の動きが止まった。
    と、わざとらしく咳払いを一つ。

    368 = 1 :

    「――んんっ、な、何かしら?」
    「何かしら、じゃねぇだろ。言っとくけど全然誤魔化せてないからな」
    「誤魔化すだなんて心外ね、全く何を言っているのかしら。ほら、目を閉じていなさいと言ったでしょう、たった数分大人しくしていることもできないの? ぜんまい仕掛けのおもちゃでもあるまいし、じっとしていなさい」
    「あーもう、分かったよ、大人しくしてるって」

     改めて目を閉じて大人しく待つ。
    雪ノ下はゆっくりと櫛で髪を梳きながら、切る長さを思案しているらしい。
    そうして大体の方針が決まったのか、髪受け用のレポート用紙をそっと俺の顔の前まで持ってくる。

    369 = 1 :

    「動かないでね」
    「分かってる」

     しゃきっと音がして、髪が切れる感触がする。
    それから断続的に、少しずつ、しゃきしゃきと髪が切られていく。
    ハサミを手にした他人を前に目を閉じて無防備な頭を晒すという状況に、しかし不安はほとんどなくなっていた。

     結局のところ、何だかんだ言いつつも、俺は雪ノ下が失敗するとは微塵も思ってなかったってことなのだろう。
    もちろんこいつにもできないことは少なからずあるけど、でも本人が言うように色々な事をこなせるというのもまた事実であって。
    しかし何よりもまず、それを人に信じさせることができるというのがこいつの凄いところだと思う。

    370 = 1 :

    「あまり切り過ぎるのも何だし、このくらいかしらね」
    「ん? 終わった?」
    「えぇ、一先ず目立たない程度にだけど。とりあえずこれで目に入ることはないはずよ。あとは全体のバランスもあるし、早めにカットに行ってきなさい。見たら即通報レベルの不審人物になる前にね」
    「最後の一言いらねぇ」

     さらりと暴言を残しつつ、ハサミと紙を脇の机に置いて、雪ノ下が再び俺の背後に回って櫛で髪を梳いてくる。
    腹立たしいけど、心なしか素直に櫛が通るようになった気が……? こいつやりおる。
    しかし意外とこう、人に髪を整えられるのも悪くないかもしれない。できれば暴言は勘弁だけど。
    と、何となくまったりした感想を抱いた時だった。

    「待たせたな! 君たち!」

    371 = 1 :

    すみませんが、今日はここまでということで。
    続きも近いうちに上げてきますのでよろしくです。
    最後に誰が登場したかは謎としておきますw

    しかしやっぱり八雪が一番好きだわー。
    容赦ないやり取りしつつも通じ合ってる感が堪らない。
    ゆきのんの言動がいちいち可愛いし。
    6.25巻の嫉妬のんとか、もうそれだけで円盤代ペイできるレベル。
    7.5巻の発売が楽しみ過ぎる。

    373 :

    乙乙!
    八雪は八幡キモポエムあってこそだなあww 失敗するのかなーと思いつつ失敗していない様子がちょっと気になる。
    6.5も忘れちゃーだめですぜww

    374 :


    やっぱり八雪だなあと思いましたまる

    377 :


    なんだかんだこういうやりとりが一番楽しいんだろうな雪のんも八幡も

    378 :

    うむ

    379 :

    我の出番か

    380 = 1 :

    ご覧頂き感謝です。
    やっぱり八雪いいよね!
    で、できれば早めに続き上げてきたかったんですが、どうにも時間が取れず……週中は難しいかもです。
    お待ち頂いてる方には申し訳ないですが、暫しお時間ください。週末には何とか!

    そういえば6.5巻も8月でしたねーと書き込み見て気付いたww(決して円盤3巻とは言わない)
    今度はどんなゆきのんが見られるのか超楽しみ。
    一ヶ月って長いよなぁ。

    381 :

    まあ無理はしないでいいよ やっぱり雪乃が一番いいってのは同意 2人が仲良くなってく仮定は素晴らしいと思う

    382 = 373 :

    雪乃には幸せになって欲しいね。八幡もだけれど。
    7.5巻より6.5巻の方が嫉妬のん分を補充できそうだからたのしみですわー。

    まったり更新待っていますので、あまり縛りを設けずにのんびりやってください。

    383 :

    ゆきのん可愛すぎて禿げた

    384 :

    雪乃もいいけど、ガハマもね!

    385 :

    >>1が八雪で行くっていっとるやろ

    386 :

    ゆきのんはかわいいよなぁ

    387 :

    やっはろー。
    長いことお待たせしてて申し訳ないです。
    そろそろ上げてきます。
    少し時間かかりそうですので、気長にお付き合いください。

    388 = 1 :

    「待たせたな! 君たち!」

     ガラッと扉を勢いよく開けて部室に乱入してきたのは、魅惑のアラサー・平塚先生だ。
    相も変わらぬ男前な笑顔と訳の分からん台詞で、先程までの静かで穏やかな空気は完膚なきまでに雲散霧消していた。
    材木座も真っ青な空気ブレイカーである。
    更に一段踏み込んでエアブレイカーって言うと、ちょっと中二的に格好良い気がしないでもないな、全く意味は分からんけど。

    389 = 1 :

    「平塚先生、何度も言っていますが、部屋に入る前にはノックをしてください」

     頭痛でもするのか、雪ノ下が櫛を持った手でこめかみを抑えながらぼやく。
    聞き入れてもらえないことを理解しながら、それでも諦めない根性は天晴れだけど、無駄な努力は止めた方が双方の為じゃないか?
    何だか様式美みたいになってるし。
    そんな風習いらんだろ。誰が得するんだよ。

    390 = 1 :

    「まぁ固い事を言うな、そう眉間に皺を寄せていると綺麗な顔も台無しだぞ」
    「誰のせいだと……」
    「んで、何しに来たんですか? 先生は」

     多分澱んでいるだろうジト目で平塚先生を見やる。
    誰も待ってないんだけど、という突っ込みは飲み込んでおいた。何か突っ込み待ちみたいだったし。

     案の定、先生は少し寂しそうな目をしていた。
    何ですか、売られていく子牛でもあるまいに。
    本当にこの人はいつになったら落ち着くんでしょうね?

    391 = 1 :

    「ふむ、まぁ特に用があるわけでもないんだがな、たまには顧問らしく部室に顔を出そうと思っただけだ」
    「いや、何か今日は用事があるって言ってたじゃないですか、だから俺を手伝いに駆り出したんでしょう。それが何でまだ学校に?」

     手伝ってる時に聞いた話である。
    ちょっと浮ついてる感じだったから、婚活パーティーか何かだと睨んでいたのだ。
    これで良い人が見つかってくれたら(俺の心身の平穏の為に)良いんだけどなぁ、とか思いつつ生温かい目で見てたんだが。

     そんな俺の言葉に、しかし平塚先生は一転機嫌が悪くなり、ふいと視線を逸らした。何か舌打ちしてるし。
    ってことは――

    392 = 1 :

    「中止になったんだよ、ドタキャンやらで集まりが悪いらしくてな。全くどいつもこいつも根性が足らん、肉食系の男はおらんのか?」
    「雑食系じゃなくて?」
    「何が言いたい?」
    「い、いえ、何も――」

     ぼそっと呟いた所に強烈な睨みをぶつけられて、問答無用で黙らざるを得なくなる。
    拳が飛んでこなかっただけマシではあるけど。

     しかし、思いついたら喋らずにいられないこの性格は、早めに直さないと駄目だなと思いました。
    と、聞こえよがしに雪ノ下が溜め息を吐く。

    393 = 1 :

    「要するに、先生はここに愚痴をこぼしに来たんですか?」
    「ふむ、雪ノ下よ、概ね間違ってはいないが、もう少しオブラートに包んでくれてもいいんだぞ」
    「回りくどいのは苦手ですので」

     雪ノ下の容赦の無さと冷ややかさは、平塚先生が相手でもあまり変わらないらしい。
    あるいは平塚先生だからこそ、遠慮なく話せるのかもしれないけど。
    まぁ毒を吐かないだけ優しいもんだとは思う。
    何にしても、一言言わずにおれないのは俺も同じだ。

    394 = 1 :

    「それで何で真っ先にここに来るんですか? 他を当たってください、他を」
    「最初は陽乃のヤツに電話したんだがな、暇潰しに忙しいとか言われて切られた」
    「凄いですね」

     陽乃さんにそんな愚痴を聞かせようとした先生も、仮にも恩師にそんな暴言吐ける陽乃さんも。
    というか暇潰しに忙しいって、そこまで言うならもういっその事うざいって言い切っちゃえばいいのに。
    それで配慮のつもりなんだろうか?

    395 = 1 :

    「そもそも、そういう話は同年代の友人相手にすれば良いと思うのですが」

     おっと雪ノ下も負けちゃいなかった。
    暗に自分にそんな話を聞かせるなって言ってやがる。
    姉と同じくばっさりだ。

     ホントこの姉妹何なの? ちょっとは平塚先生に同情してあげてもいいんじゃないの?
    つーか愚痴くらい聞いたげなさいよ。俺は嫌だけど。

    396 = 1 :

    「馬鹿を言うな、そんなことをしたら惨めになるだけだろう」
    「教え子の高校生相手に愚痴を聞かせている時点で――」
    「止めろ雪ノ下、追い打ちをかけんな」

     見かねて止めに入る。
    何かまだ俺の頭から離れてくれないので顔は見えないが、不満げにしていることは空気で分かる。
    まぁ幸い平塚先生は特に気にした様子もないけど。

     いやそれもどうなんだ? 少しは現実に疑問を持ったりしないもんなのか。
    しかし先生は何が引っ掛かったのか、まだ苛立っているご様子。

    397 = 1 :

    「大体、友人連中なんて結婚してるヤツも多いし、子供がいるヤツまで……そんな連中と何を話せと? 他人の惚気話なんぞ聞きたくはない!」
    「んな心の狭いことだから結婚できないんじゃ――」

     ギン! と一際強烈な視線が俺に突き刺さった。
    もう言葉が無くても“それ以上喋ったら殺す”というメッセージがびりびりと伝わってくるレベル。
    だって知覚した瞬間全身に悪寒が走ったくらいだし。
    どうしてこの人はこう大人げないんでしょうね、子供のいうことじゃないですか。

    398 = 1 :

    「じゃあ聞くが比企谷よ、お前だったらどうなんだ? かつてのクラスメイトが自分を差し置いて結婚し、あまつさえ子供まで出来ていて、挙句惚気話なんぞ聞かせてくれた日には」
    「リア充爆発しろとしか思いませんね」
    「そうだろう? 話が分かるじゃないか」
    「教育者として、その発言は如何なものかと思いますが」
    「教育者の前に、私も一人の人間なのだよ、雪ノ下」

     いや、正直この考え方は人間としてもかなりアウトだと思う。自分も悪乗りしといてなんだけど。
    きっと雪ノ下も同じことを考えたのだろう、何か言いたげな気配が背後に滲んでいるが、さすがに自重したらしい。
    何への配慮なのかは分からんが。
    とりあえず一言だけでもフォローしておこう。

    399 = 1 :

    「まぁまぁ先生、婚活パーティーだってこれっきりってわけでもないでしょう? 次の機会に決めてけばいいじゃないですか」
    「もちろんそれはそうなんだがな、一日を無駄にした怒りは何かで晴らさんと。ストレスは美容と健康の大敵だし」
    「先に言っときますが、俺で晴らすのは止めて下さいよ、殴るなら専用のサンドバッグでも買ってください」
    「君は私を何だと思っているんだ? 理由もなく教え子を殴るわけがないだろう」
    「まず理由があれば殴っても良いという解釈を捨ててもらえませんかね?」

     これこそ教育者以前の問題だと思うんだけど。
    殴られるようなことを言う俺にも反省材料があるだろうという至極もっともな意見はこの際置いといて。
    そこで話が一段落したからか、平塚先生がふと真剣な表情に変わる。

    400 = 1 :

    「いやでも実際、私の何が問題なんだろうな。真面目な話、何をどうすれば結婚できるんだろうか」
    「何でそんなマジっぽいんですか。突っ込み辛いんですけど」
    「雪ノ下、女の目から見てどうだ? 私に何が足りないと思う? よければ、ぜひ忌憚の無い意見を聞かせてほしいのだが」
    「そうですね、美点ではなく修正すべき点を挙げろと仰るのでしたら――そういうことを恥ずかしげも無く高校生に聞いてくる慎みの無さがまず一つ」
    「うっ」

     胸を抑える平塚先生。
    つーか雪ノ下の性格くらい知ってるでしょうに、ダメージ受けるの分かってて何で聞くんですかね?


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