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    元スレ八幡「徒然なるままに、その日暮らし」

    SS+覧 / PC版 /
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    601 = 1 :


    「んじゃ、そっちの邪魔するのもなんだし、俺たちはこれで。また学校でな」
    「そうね、じゃあ――」
    「ちょーい待ちっ! はいストップ、二人とも良い子だから待って下さいよー」
    「何だよ?」「何かしら?」
    「あーもう! 何でそういう時だけ綺麗にシンクロできるの!? 首を傾げる角度まで一緒だし! じゃなくて、せっかく会えたのにこれでさよならとか寂し過ぎるでしょ?」
    「いや、んなこと言われても」

     そこで小町が慌てる理由が分からない。俺たちの行動のどこに問題が?
    ちらと雪ノ下の様子を確認してみるが、相も変わらぬ透明な表情で、何を考えているかは容易には窺えない。
    が、微かに視線を小町から逸らしているところから見て、どうも何かを隠そうとしている気がする。
    というか、わざわざ道に迷うことを覚悟でこんな所まで出張ってきているというのだから、何か目的はあるはずだ。

    602 = 1 :


     総合的に判断するに、多分あれだ、期間限定か店舗限定のパンさんグッズあたりが狙いなんだろう。
    確かここにもディスティニーストアがあったはずだし。
    だとしたら、むしろここでさよならしない方が怒りを買いかねない。

     だってこいつ、パンさん好きを隠そうとしてるみたいだし。
    少なくとも、小町に知られることを喜んだりはしないだろう。
    ならば黙って去るのも男の優しさ。ということで。

    603 = 1 :


    「まぁ聞け小町。雪ノ下も自分の買い物で来てるってんだから、邪魔しちゃ悪いだろ。目当てのもんとか色々あるだろうし。な?」
    「ん?」

     俺の説得の言葉に、しかし小町は不思議そうにただ小首を傾げるのみだった。
    何言ってんだこいつ、みたいな顔をしている。
    そんなおかしなこと言ってないだろうに、何で通じないんだろう。

     援護射撃を求めて雪ノ下の方へ目を向けてみるも、こちらの反応も薄い。
    まるで表情を変えず、ただ静かに視線を返されるのみ。
    って、このままだと小町の思う壺だぞ。

    604 = 1 :


     想いよ届け、と改めて目をしっかり合わせてみたものの、それでも援護どころか反応すら返ってこない。
    別に見つめ合いたくてこんなことしてるわけじゃないんだけど。
    おかしいな、ぼっち的に思う所は同じはずと考えてたのに。
    え? 反論とかないの? それともまさか俺だけ空気読めてないとかそういうこと?――と疑問を覚えていた時だった。

    「は! そういうこと!? あぁ小町としたことが!」
    「な、なんだ急に?」

    605 :


     突然、小町が大げさに驚きの声を上げる。
    思わず身体がびくっとなってしまった。
    なんだなんだ?

     振り返ると、小町は微かに頬を紅潮させつつ、食い入るように俺と雪ノ下をガン見してきている。
    どうも何か変なものを受信してしまったらしい。
    正直いい予感はしない。
    と、小町が慌てた仕草でポケットから携帯を取り出す。

    606 = 1 :


    「おぉっと着信だよ! 何かな何かなっと。はいはーい……え? 何? すぐ来てほしいって、しょうがないなー、じゃあちょっと待っててね、今から行くから」

     ぴっと口に出しながら携帯のボタンを押して、俺たちに向かって敬礼してくる小町。
    突然始まった寸劇に、俺も雪ノ下も言葉を挟めないでいた。
    何事よこれ。っていうか着信って――

    「ということで雪乃さん、残念ながら小町はよんどころ無い事情でお呼ばれしちゃったのでここで離脱します。すいませんけどお兄ちゃんの事よろしくお願いしますね! お兄ちゃんも、雪乃さんに迷惑かけちゃだめだよ。それじゃー小町はこの辺で!」
    「いや待て小町、さっきお前の携帯ビタイチ反応無かっただろ! 着信とか絶対してないだろ! その寸劇に何の意味が!?」

    607 = 1 :


     慌てて突っ込みを入れてみたけれど、時既に遅し。
    それこそくるくると回り出しそうな程のご機嫌な勢いで、小町はあっという間に人混みの中へと消えて行った。
    動き速ぇ。雑踏に気配なく溶け込むのがぼっちの特技とはいえ、さすがに次世代ハイブリッドとなると洗練されてるぜ、と変な所で感心してしまう。

     後に残されたのは、茫然と突っ立っている俺と雪ノ下だけ。
    何と言うか、変に気を回されてしまったらしい。
    どうすりゃいいんだよ、この微妙な空気。

    608 = 1 :


    「あーっと、何か悪いな、小町が変なこと言って」
    「……いえ、普段のあなた程でもないし、気にしないで結構よ」

     いや、それ後半だけで良かっただろ。
    どうしてお前は事あるごとに俺をディスらずにいられないんだよ。
    何? お前の頭の中でそういう会話文のテンプレでも出来上がってるの?
    まぁ別にいいけどさ、今更だし。

    609 = 1 :


    「じゃああれだ、邪魔しちゃ悪いし俺もこの辺で」
    「待ちなさい」

     手を上げて立ち去ろうと思ったところを、間髪入れずに呼び止められてしまう。
    見ると、雪ノ下はいつものように腕を組んで、凛とした表情でこちらを見据えている。

    610 = 1 :


    「何だよ」
    「不本意ではあるけれど、小町さんに任されてしまった訳だし、このままあなたを野に解き放つわけにはいかないわ」
    「俺を野生動物扱いするの止めてくれる?」
    「似たようなものでしょう?」
    「どこまで大雑把に括られてるんだよ俺は――ってかお前はいいのかよ、俺なんかと一緒に買い物とかさ。別に小町に気を使わんでもいいんだぞ」

     雪ノ下は変な所で頑固だし、責任感が強過ぎるくらいに強い。
    だが、それも時と場合だ。
    小町に頼まれたからと言って、自分の予定を崩す必要なんてないだろう。

     と、むしろ善意で言ってやったつもりだったんだけど、雪ノ下はというと、ふっと鼻で笑って返してきた。
    さっと髪をかき上げながら、何を言っているのかしらこの愚物、と言わんばかりの挑発的な視線を向けてくる。

    611 = 1 :


    「何を言っているのかしら、この愚物は」
    「当たってたよ……」
    「心配しなくても、嫌ならちゃんと断っているわ。大体買い物なら先週も一緒だったでしょう。気を使うならもっと正しい所で使いなさい」
    「お前は俺の母ちゃんか」

     何でそこでお小言が入るんだよ。
    別にお前に監督責任とかないから。

     というか、こんな厳しい母親だったら大変だろうなぁ。
    相当メンタル強くないと心折れるんじゃないかとすら思う。

    612 = 1 :


    「しかしあれだな、お前親になったら子供にも厳しく接しそうだな。躾ばっちりの超教育ママみたいな」
    「そういうあなたは甘やかし過ぎそうね。躾がきちんとできるとは到底思えないわ。今だって小町さんに甘過ぎるくらいだし」
    「いいんだよ、小町は。実際良い子に育ってるわけだし。まぁ教育とかで厳しくするのは嫁さんに任せるって感じで良いかなーとか」
    「良くないわよ、人に嫌な役を押し付けるのは止めなさい」

     むっとした表情の雪ノ下に睨まれて言葉に詰まる。
    うーん駄目か、良い案だと思ったんだけど。
    って、あれ? 何かおかしくね?

    613 = 1 :


    「いや、何でそこでお前が怒んの? それじゃまるで――」
    「……」

     俺が言いかけたところで、雪ノ下がはっとした表情を見せて固まる。
    かく言う俺も自分の口にした言葉を自覚してしまい、動きを止めてしまう。
    二人揃っての沈黙。

    614 = 1 :


     ……まずい、変なことを想像してしまった。
    俺と雪ノ下が将来――って、そんな未来予想図とかドリ○ムじゃないんだから。
    こんなこと考えてるって知られたら、またどんな罵倒を受けるかわかったもんじゃないぞ。
    大体そんなことあり得るかって、でも可能性だけの話なら、じゃなくて……

     駄目だ、いい感じにパニくった頭では思考の整理も覚束ない。
    顔赤くなってないだろうな、とか下らない心配をしてしまう。
    いや何か言わないと余計まずいよな、これ。
    というか、どんだけ動揺してんだよ、俺。

    615 = 1 :


    「えっと、その……」
    「何を想像しているの? 勝手に妄想して暴走するのは止めてくれるかしら。言っておくけれど、さっきの私の言葉はあくまでも一般論としてあなたの勝手な主張に異を唱えただけの事で、それ以外の意図は一切ありはしないわ。誤解しないように。いい?」

     俺が何か言う前に、瞬間立ち直って早口で捲し立ててくる雪ノ下。
    おまけに、言葉の締めには異論反論を許さないとばかりにぎろりと睨んでくるおまけ付き。

     でも、こいつがこういう風に口数が多くなる時って大抵――いや、これ言ったらまた罵倒の嵐が始まりそうだし、飲み込んどかないと。
    そもそもこれ以上続けたら、俺の方まで変な感じになりそうだ。
    こういう時はさっさと話を戻すに限る。

    616 = 1 :


    「わかったよ。何か、その、悪かった、変なこと口走って」
    「ま、まぁ、わかればいいのよ」
    「それよりほら、お前買い物とか言ってたけど、どこに行くんだ? 何か道に迷ってたみたいだし、言ってくれりゃ俺が調べてやるけど」
    「別に道に迷っていたわけではないわ、少しお店を探すのに手間取っていただけよ」
    「それを一般に迷ってたって言うと思うんだけどな」
    「見解の相違というものね」

     いや、言葉の意味はよく分からんが多分違うだろ、それ。
    というか、何に対して強がっているのかがさっぱりわからない。
    負けず嫌いも行き過ぎると自分を窮地に追い込むんだよなぁ。

    617 = 1 :


    「とりあえず行き先どこなんだ? ディスティニーストアかどっかか?」
    「! どうしてそれを? あなたまさか――」
    「言っとくけどストーカーとかじゃないからな。道に迷うの覚悟でお前がわざわざここまで出張るのなんて、そのくらいしか想像できなかっただけだ。お前パンさん好きだし」
    「そう、そういえばあなたには知られてしまっていたわね」
    「んな不覚みたいに言わんでも」

     そこで微妙に悔しそうな表情をされると、こっちの方が戸惑うだろ。
    別にいいじゃん、パンさん好きだって知られても。
    むしろ普段とのギャップで微笑ましくすらあると思うぞ。
    まぁそういう風に思われるのが気に入らんのかもしれんけど。

    618 = 1 :


    「まぁとにかく、ディスティニーストアが目的地ってことでいいんだよな? なら、そこまで案内してやるよ」
    「道を覚えているの? あなたなんかがディスティニーストアに行く用事があるとは思えないのだけれど、どうして知っているのかしら」
    「なんかとか言うなよな、まぁ言ってることは当たってるけど。ってか俺じゃねぇよ、小町にねだられて何度も行ったことがあるから覚えてるってだけだ」
    「そういうこと。いつも通り情けない理由で安心したわ」

     放っとけ。
    小町の為という理由がなかったら、あんなリア充の巣窟なんぞ俺がそうそう行く訳ないだろうが。

    619 = 1 :


     と、俺の携帯に着信が入る。
    ポケットから取り出して確認すると、当然というか差出人は小町。
    どうにもいい予感はしないな。さて内容は――

    『お兄ちゃんへ。雪乃さんのエスコートしっかりね。ちゃんとデートできるまで我が家の敷居は跨がせないよ! あとちゃんと名前で呼んだげるよーに。お兄ちゃんはできる子だって信じてるから。頑張って! 小町より』

    620 = 1 :


     激しくいらんお世話だった。
    というかこのタイミングでこの文面とか、まさかどっかから監視してんじゃないだろうな?
    慌てて周囲を見回してみるも、人が多過ぎて全然分からない。
    あいつもステルス機能を完備してるわけだし、肉眼での発見は難しいか。

    「何をきょろきょろしているの? 挙動まで不審になってはフォローもできなくなるわよ」
    「それは俺の見た目については元から不審だって言いたいのか?」

    621 = 1 :


     冷ややかな目と冷ややかな声で、まさに文字通り冷や水を浴びせられたので、周囲の探査は諦める。
    というか、これはもう色々と諦めるしかないのだろう。

     何だかなぁ、俺って小町に振り回され過ぎじゃね? あるいは小町が俺をコントロールするのが上手過ぎるのか。
    まぁそんなところも可愛いんだけど。いよいよ末期だと我ながらちょっと思う。
    さておき、改めて気を取り直して。

    「それじゃ、とりあえず行こうぜ――雪乃」
    「……えぇ、では案内して頂戴」

    622 = 1 :

    ということで今日はここまでです。
    あーやっぱ八雪が一番好きだわー。
    魅力的なヒロインが多い作品だけど、それでもこの二人の組み合わせが最強過ぎて。
    もっと八雪のSSが増えればいいのに。
    でもそうしたら書く時間無くなるか……痛し痒しだなぁ。

    さて続きですが、これからガリガリ書いてくつもりです。
    ゆきのんオンステージになってからは筆が速い速い。
    推敲して書き直す回数も多い多い。
    トータルではプラマイゼロ。何それ悲しい。

    まぁ楽しんで書けてるので、近いうちに上げていけると思います。
    暫しお待ちください。

    623 :

    おつ
    ああああああああ早く続き読みたい
    ゆきのんめっちゃかわいい

    624 :

    ゆきのん大正義

    625 :

    原作同様、八幡はモノローグでゆきのんの容姿称賛しすぎ!

    626 :

    乙乙

    627 :

    最高だわ
    ゆきのんのデレかげんとか八幡のモノローグとか絶妙でたまらん
    続き楽しみにしてます

    628 = 627 :

    最高だわ
    ゆきのんのデレかげんとか八幡のモノローグとか絶妙でたまらん
    続き楽しみにしてます

    630 :

    来てたか

    631 :

    超乙

    続きはよ

    632 :

    こんばんはです。
    読んで頂いた方に感謝です。
    ゆきのんは正義、八雪こそ王道、8巻でこのもやもやが吹き飛べばいいけど。

    さておき続きはガリガリ書いてってますが、ここからまだ結構長引きそうなので、もうちょっとお待ち頂ければ。
    また上げていけそうになったら報告にきますので。

    しかし捻デレさんは中々思い通りに動いてくれなくて困るww

    633 :

    更新来てた乙乙です。

    キモポエムはかどりますねwwww小町の動きも脳内再生余裕でした。
    7.5巻はボリューム的にもアレでしたが、まあなんというか静さんに持って行かれたかんじです。
    小町も好きなので悪くは無いと思っていますが。

    雪乃オンステージで筆が捗る事を祈りつつ次回更新楽しみにしています。

    634 :

    お久しぶりです。
    続き書くのとラストまでの詳細なプロットまとめるのにてんやわんやしてます。
    ⑤の続きについては九割方書けてますので、早いこと完成させて、ちゃんと見直しした上で更新していくようにします。

    >>633
    感想頂き感謝です!
    ゆきのんオンステージはいいのですが、中々思い通りに動いてくれません。
    やっぱり八幡しかコントロールできないんでしょうねぇww
    続きはもう少しだけお待ちを……


    ラストまで書くとなると相当長くなると思うので、また対策考えないと……
    無駄にシリアスになりそうだし。
    まぁ状況報告は都度してきますので、よろしくです。

    635 :

    はい

    636 :

    はーい

    637 :

    はぁい

    639 :

    こんばんはです、長らくお待たせして申し訳ない。
    週明けにぎっくり腰をやってしまい、暫く碌に動けなかったので。
    何とか椅子に座って活動できるようになったけど、あれは本気で辛い。トイレすら地獄。何しろ力が入らない。
    いや本当に皆さんも腰は労わるようにして下さいと主張しときます。

    ということで、どうにか少しは動けるようにはなったので更新してきます。
    まだ本調子には程遠いのでゆっくりになると思いますが、よろしければお付き合い下さい。

    640 = 1 :


    「それじゃ、とりあえず行こうぜ――雪乃」
    「……えぇ、では案内して頂戴」

     一瞬の間の後、小さく微笑む雪ノ下。
    いや、その良くできたわねって感じの笑顔は止めてくれると助かるんだけど。
    まだ慣れてないんだよ、意識すると動揺しちゃうんだよ。
    いやいや、ここは無心だ。余計なこと考えなきゃいいだけなんだ。よし。

    641 :

    待ってました!

    642 = 1 :


    「こっちだ、一旦一階まで下りるぞ」
    「そう――それにしても、あなたまだ慣れないのね。本当に処置無しだわ」
    「流してくれよ、わかってるんなら」
    「駄目よ、変に意識されるとこちらも困るもの。いい加減慣れなさい」
    「……努力する」
    「あなたが口にするとここまで信憑性が乏しくなるのね、努力という言葉は。嫌な発見だわ」

     ちくちくと容赦ないなぁ、こいつ。
    いや実際否定できないんだけどさ。
    ここは話題を変えるのが吉か。

    643 = 1 :


    「にしても、わざわざ店まで来るなんて、お前本当にパンさん好きなんだな」
    「もちろんよ、悪い?」
    「なわけあるか。むしろいいことだろ、何であれ好きなものがあるってのは」
    「あなたにもそういうのはあるのかしら?」
    「俺の場合は、まず千葉への愛が大きいからな。ふなっしーさえ愛しいレベル」
    「病的ね」

     端的に抉ってくんなよ、俺の郷土愛を。
    そういえば郷土愛って縮めれば兄妹に通じるよね。いやだからどうだってわけじゃないんだけど。
    でもまぁあれだ。

    644 = 1 :


    「あとは小町がいてくれればそれで十分って感じだな」
    「はぁ――あなたもそろそろ妹離れしてあげたらどうかしら」
    「今は駄目だな。小町を任せられるくらいの男がいれば考える。まぁそんなの地球上にいるかどうか知らんけど」
    「最後の台詞がなければまだ良かったのに」

     横合いから深いため息が聞こえる。
    何で俺が呆れられなければならないのか、甚だ遺憾だ。
    お前言っとくけど小町をモノにできるとか、そんなもんフィクション世界の主人公レベルのいい男じゃないと釣り合わんぞ。
    もちろん汚物を見るような目で睨まれたくないので実際には言わない。

    645 = 1 :


    「ほれ、着いたぞ」

     適当に話している内に、目的地に到着した。
    隣の雪ノ下に目をやると、表面上は普段と変わらないような様子だが、視線はちらちらと店先のPOPに向かっているのが見える。
    そこには様々なパンさん関連グッズの絵が色鮮やかに踊っていた。何と分かり易い。
    しかし見た目は結構怖いのに人気あるんだな、パンさんって。

    646 = 1 :


    「じゃあ――って速っ」

     俺が広告に目をやっている内に、雪ノ下は既に行動を開始していた。
    脇目もふらずにパンさんコーナーへ向かい、俺が声をかける前に品定めを始めてしまっている。
    これ以上ないってくらいに真剣な表情で。
    思わず息を呑んでしまう。
    何この雰囲気、ここ何処なの? 一体何が起きてるんだよ?

    647 = 1 :


     しかし何かもう緊迫感とか緊張感とか、そういう気配しか感じられない。たくさんのディスティニーグッズを前にしている状況なのに、ちっとも微笑ましい光景に見えない。一言で言うなら、鬼気迫る、みたいな。
    雪ノ下の様子だけ見れば、自分が今ディスティニーストアにいるということすら疑わしくなってくる。
    間違っても口には出せんけど、正直なところ危険物質を扱っている最中の化学者だと言われた方が納得できるレベルだ。目が超マジだし。
    キャラクターグッズ見てるだけのはずなのに、どうしてここまで張り詰めた空気を作り出せるんだよ、こいつは。

     まぁ邪魔しちゃ悪いし関わって怒られるのも嫌だし、こいつは暫く放っておくとして、さて俺はどうするかな。
    案内したからってこれで帰ったりしたら小町に何言われるかわからんし、そもそも雪ノ下を放っておくわけにもいかんし。
    仕方ないので、適当に店内を見て回って待つことにする。

    648 = 1 :


     とは言え、然程に広くはないので、一巡りするのに何分もかかるものではなく、とりあえず人の少なめな箇所に止まって商品を眺めてみる。
    うん、何が良いのかさっぱりわからん。
    それを言ったらふなっしーだって何が可愛いのか答えろと言われたら困るんだけど。
    世の中何が人気になるかわかったもんじゃないよなぁ。

     世の不条理を嘆きつつ、大して時間潰しもできないまますごすごと雪ノ下のところまで戻ると、まだ悩んでいるらしく、商品の前から動く気配は微塵もなかった。
    俺の接近にも気付かないのか、えらく難しい顔をして睨むようにして眼前の張り紙を見つめ続けている。
    どうも様子がおかしい。

    649 = 1 :


    「どうしたんだ? 何か難しい顔してるけど」
    「これよ……」

     俺の声に気付いた雪ノ下は、ちらと俺を見て、すいっと張り紙の方を指差す。
    その指に沿って視線をそちらへと向ける。
    指し示された箇所には、二重線により強調された文字が並んでいた。
    なになに?

    650 = 1 :


    「ん? お一人様一つ限りのサービス?」

     じっくり読んでみると、どうやらセール中でパンさんグッズを一定額買うとオマケとして非売品のパンさんシリーズ登場キャラの人形がもらえるらしい。
    ただし人形の種類はキャラやポーズの違いなんかで幾つかあるのに、もらえるのはお一人様一点限りで、無くなり次第終了とのこと。
    まぁこういうお店ではよく実施されるサービスと言える。
    しかしなるほど、パンさんフリークをもって任じている雪ノ下としては、これは容易には納得できない事態だろう。


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