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元スレ姫「疲れた、おんぶして」勇者「はいはい」
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―――――― 【スラリンのココロを手に入れた】 ――――――
勇者(……今、スラリンが笑った気がした)
メイド「勇者さん、この手紙もこのスライムと一緒にありました……」ガサッ
勇者「……ありがとう、後は任せてくれ」ガサッ
メイド「あの、スライムはどうしますか・・・」
勇者「…頼む、少ししたら埋葬してやってくれ」
メイド「……はい!」
―――――― ザァァ・・・ッ!!
雨は数時間前に比べその勢いは増していた。
叩きつけるような雫の塊、そんな中を突風が切り裂き進む。
雨粒が触れるより速く、勇者の体はその雨粒をむしろ弾くように突き進んでいた。
その手には、雨と僅かな血が滲んでしまった手紙。
勇者「……!!」
走る、駆ける、雨を切り裂く。
急がなければならなかった。
もはや一刻の猶予は存在しない、スラリンが自身を犠牲にしてでも手紙を届けるのを優先したには意味がある。
――― 勇者へ ―――
勇者、無事ですか?
って、元気よね そうに決まってる。
遅いわよ、今私はマイラって村から南……かな? そこの洞窟にいるの。
最悪よ ご飯も美味しくないし寒いし。
はやく きなさいよ ばか
からだが、へんで あたまがいたいの
むかえにきてよ おそいよ
ゆうしゃ
勇者(この手紙は書きかけだったが、字がおかしい……それに姫が初めて『頭が痛い』と言った)
勇者(間違いない、このままじゃ また 姫が死んでしまう!!)
踏み込み、そして濡れた大地を蹴る。
一歩で数十mもの距離を縮め、更に大地を蹴る。
恐ろしいまでの速度で勇者はアレフガルドを走り抜けて行く。
雨の勢いは既に最高潮に達したのと同時、勇者の纏う風圧は更に増す。
否、他者から見ればそれは風ではなく、『覇気』そのものに見えただろう。
それ程に勇者は凄まじい気迫で雨粒を切り裂いていた。
死神の騎士「……シー」
竜王直属の配下、四天王の1人『死神の騎士』は何かを感じて立ち上がった。
ダースドラゴン「グルル……」
キースドラゴン「…グルル」
そして同じく四天王の『ダース』『キース』のドラゴン達も、喉を鳴らし、辺りに殺気を散らした。
……竜王の右腕、『大魔導』もまた、彼等よりも正確にそれを把握する。
そうしながら、幕を上げようと言わんばかりに彼は言う。
大魔導「……来たか」
―――――― ゴバァァンッッ!!
轟音と共に鋼鉄の巨大な扉が弾け飛んだ。
『魔法の鍵』が無ければ開かない筈の、大魔導が張った結界をただの力技で破ったのだ。
轟ンッ!! と凄まじい勢いで飛んで来る扉。
その威力は如何に魔物といえども直撃すれば致命傷になる。
しかし、彼等はただの魔物ではない。
死神の騎士「シャァァアアアアアアアアアッッ!!!!」
踊り舞う巨大扉の前に飛ぶ死神の騎士。
キンッと、死神の騎士が持つ黒い刃が軌跡を空中に残す。
そして次の瞬間。
―――――― ギィンッッッ
鋭い火花、金属が両断される断末魔。
それらが起こった時には巨大扉は既に左右へ、死神の騎士達四天王を避けるように後方へ吹き飛んでいった。
洞窟内を揺るがす衝撃。
同時に、扉が無くなった入り口からは嵐のような雨が入り込み始める。
だけでなく、1人の影もそこにはあった。
大魔導率いる竜王軍最強の四天王と、その男は対峙する。
勇者「……姫を、迎えに来た」
息を切らし、右手に血の滲んだ手紙を握り締めたまま彼はそう宣言した。
彼は命を賭け、必ず大切な者の命を救うと約束した後だった。
>>260
ドラクエ1は1人旅だからねぇ。
ドラクエ1は1人旅だからねぇ。
・・・洞窟の中は意外にも広かった。
元々が岩山を削って作られたのか、頭上の暗闇を様々な鳥達が飛び交う音が鳴り響いている。
何より、勇者が吹き飛ばした巨大扉の残骸はかなりの距離を飛んだのにも関わらず姫のいる牢まで届いていない。
そして……三体のドラゴンが待ち構えてられる時点で、ただの洞窟でない事がわかる。
勇者(……俺を罠にかけて、充分に向こうが戦えるスペースを作ったのか)
その読みは的中。
大魔導のローブが不気味に揺らいだ。
大魔導「ここが貴様の墓場だ、勇者……!!」
莫大な閃光が決戦の火蓋を斬った。
洞窟全体を瞬間的に照らす程の『閃光』は凄まじい熱波となり、勇者が立つ入り口を簡単に粉砕する。
辺りに散る鬼火がその凄まじい威力を物語っていた。
大魔導はローブに包まれたまま笑った。
大魔導(この洞窟は特殊な作りで、一時的に魔力の集まりやすい場所になっている)
大魔導(その神聖なる魔力の泉で私は奴が来るまで集中していたのだ、単純な破壊力は竜王様の『ギラ』を越える)
―――――― ジュゥゥ・・・
熱波の余波で発生した蒸気が視界を濁す。
しかし見るまでも無いと大魔導は感じていた、呆気ないとすら感じていた。
―――――― だが
死神の騎士「シィッ!! (上だ、上を狙え大魔導!!)」
突如襲う、死神の騎士の怒号。
ハッと我に帰った大魔導は呪文の詠唱と同時に頭上を仰いだ。
大魔導(この男・・・いつの間に!?)
―――――― カッッ!!
『ベギラマ』の閃光が上空の勇者を迎撃する、しかしその狙いは大魔導の油断が大幅に外れてしまう。
そしてその刹那に、勇者の左手が閃光を放った!
大魔導「……!!」
即座に大魔導はローブで少しでも自身を覆って防ごうとする。
そのタイミングは遅く感じられたが、まだ彼は肉体に熱は感じない。
大魔導「…………!!」
……熱はまだ来ない。
大魔導(なに!?)
―――――― シュタンッ
勇者「破ぁッ!!」
瞬時に大魔導の懐へ飛び込んだ勇者の拳が握り締められる。
―――――― ガァァンッッッ!!
勇者「……!」
死神の騎士「シィィィ………」
轟音、そして縫い止められる勇者の拳。
死神の騎士が持つ盾によって必殺の一撃は防がれていた。
直後、
バォォッ!! と唸る竜の息吹き、三体のドラゴン達が一斉に火炎を撒き散らしたのだ。
勇者「―――ッ―――」
飛び、火炎の渦の隙間を懐潜る。
その動きは既に人間の速さでは無かった。
―――――― シュインッッ
その着地した瞬間には死神の騎士が追撃の刃を振るう。
黒い軌跡は勇者の頬を掠め、そして乱舞の如く斬りかかる!
勇者「……ッ」
―――――― シュインッッ
―――― シャキィッ
―――――― ズドォッッ
ジャリィッッ
凄まじい連撃を勇者はいなしてかわし、そして刃の側面を弾き避ける。
勇者「……………」
トン。
そんな風に軽く勇者は地面を爪先で鳴らし、後ろへ下がった。
同時に、左手から閃光が死神の騎士を襲う。
死神の騎士「シャァアアアアアアアアアッッ!!!」
逃がさない、そう言うかのように黒い軌跡が勇者の胸元を浅く切り裂いた。
死神の騎士は勇者の放った『レミーラ』の閃光に怖じず、踏み込んで行く!
ダースドラゴン「―――――― ヒュゥ」
大魔導「―――――― !!」フォォォッ
挟み込むように、ダースドラゴンと大魔導が閃熱火炎の追撃を放つ。
ダースドラゴンの爆炎が広範囲に炸裂し、その上から大魔導の『ベギラマ』が叩き伏せる!!
勇者「ッ……」
勇者(1つ1つを丁寧に避ける余裕は無い……!)
額から汗の雫が一粒飛ぶのと同時、勇者の両腕に莫大な閃光が収縮される。
―――――― ゴォッッ!!
空気が悲鳴を上げ、勇者の両腕が放った『ベギラマ』が大魔導達の追撃を更にねじ伏せた。
そして瞬時に、勇者の足元に転がっていた巨大扉の残骸を軽々と蹴り上げ―――
―――― ギロチンの如く、踏み降ろす!!
死神の騎士「…ッ!!?」
ゴガァァアッ!! と強大な一撃が死神の騎士の片腕を盾ごと砕き折る!
死神の騎士の動きが一時的に止まったのを確認した勇者の姿は即座に闇に消え去る。
キースドラゴン「ゴガァ・・・カッ!?」
その勇者が消えたタイミングに合わせ、キースドラゴンの顎が打ち上げられた。
―――――― ズドォッッ!! ガガガガガッッ!!!
裏拳で勇者は高速で連打する。
息をさせる僅かな隙すら与えずにドラゴンを仕留める!!
「…………ゆう……しゃ………?」
勇者「……ひ、め…………」
視界の中心。
視線の先に、『彼女』は地面にぺたりと座り込んだままこちらを見ていた。
それも儚く散ってしまいそうに、勇者が声を出すのに躊躇してしまう程に。
大魔導(……王女? なぜ牢から出て…………)
大魔導(……………)
ふと、大魔導は洞窟内の広さに気づいた。
勇者がこれだけ四天王と戦えるのですら驚愕すべき事かもしれない。
しかし、幾度と包囲を抜けるのは大魔導の計算に余りにも合わないのだ。
そう、例えば『味方の数が少ない』とかである。
大魔導(!!)
勇者の視線の先に座り込んでいる、王女の方へ大魔導もそちらを凝視する。
そして・・・彼は最悪のモンスターを見た気がした。
―――――― 姫の背後に、一頭の『ドラゴン』が君臨していた。
ドラゴン「 ・・・ガパァ・・・ 」
恐ろしい程に牙を闇に光らせ、開かれた口からは多量の唾液がザブッと流れ落ちる。
おぞましいまでにその一頭のドラゴンは、ただただ『悪意』に満ちていた。
初めて勇者が叫ぶ。
勇者「逃げろ姫ぇぇえええええ!!」
勇者の絶叫に含まれた『何か』を感じた大魔導が、全身に震えが走った。
それは『ドラゴン』以外のそこにいた『四天王』全員が感じ取った。
彼らはその感覚の正体を知らない。
数百年前、彼らの先祖は今の『ドラゴン』と同じく初代ロトの前である事をした。
その結果、何が起きたのか?
それこそが答えであり、これから始まる事なのだ。
全てのモンスターが自身の遺伝子に刻み込む程の、『過ち』が起きる。
―――――― フワッ
華奢な姫の体が、ドラゴンの牙先に引っ掛かるように浮き上がった。
洞窟の闇の中で、姫の体が上空へ飛ばされる。
余りにも軽く、人形のように、糸が切れたマリオネットのように。
勇者「 ―――――― 」
勇者の漆黒の瞳に彼女がゆっくりと落下していく姿が映る。
勇者の体は、固まったように動かない。
ガパァッ!! と、ドラゴンが姫を飲み込もうと口を開く。
―――――― バクンッッ
異様な 音が 鳴った 。
それは 人が 飲み込まれた 音 だ 。
勇者「 ・・・ 」
だ れ が の ま れ た ? だ れ が こ ろ さ れ た ?
―――――― 『 勇者 』
―――――― 『疲れた、おんぶして』
ズバァアアアンッ!!!!
ドラゴン「 カッ? 」
―――――― ゴドンッッ!!
ドラゴンの首が根元から滑り落ちる。
巨大な頭蓋が地面に落下し、岩のように鈍い重低音が鳴り響く。
辺りには 金色の軌跡 がゆらりと漂っている。
姫「……ゆぅしゃ……」
「……迎えに来たよ、疲れたろ? 寝てくれ…姫」
『勇者』と呼ばれた青年は、静かに姫の瞼にゆっくりと指を乗せる。
そして「『ラリホー』」とだけ唱えると、王女は静かに眠った。
『勇者』と呼ばれた青年は、姫の体をしばらく抱き締めていた。
その姿には微塵の油断も感じられなかった。
大魔導達『四天王』は動けずにいた。
その彼らの姿は、一週間前に竜王と出会った時の勇者に酷似している。
然り、全く同じなのだ。
しかしそこには竜王以上の畏怖が存在していた。
―――――― 果たして、『勇者』とは髪が金色だったろうか?
―――――― 果たして『勇者』とは、視覚化出来る程の魔力を周囲に撒き散らせるだろうか?
―――――― 今まであの『勇者』が、凄まじい殺気を圧して来た事があっただろうか?
大魔導(………これが、先代魔王『ゾーマ』を倒した 【史上最強の化け物】 )
覚醒させたのは怒りか、悲しみか。
いずれにせよ、大魔導が竜王から勇者の話を聞いてから恐れていた事が現実となったのだ。
大魔導(竜王様を越える『ゾーマ』様を倒したロトの勇者………)
大魔導(……その力に覚醒した奴に、竜王様にすら及ばない我々が勝てると?)
大魔導は隣にいる『死神の騎士』を見た。
カタカタッ・・・
鎧の中で、何かが震えている。
死神の騎士が、怯えているのだ。
ダースドラゴン「ガァアアアアアッッ!! (我に続けぇぇ!!)」
ダースドラゴンが吠え叫んだ。
それは彼が誇り高い竜族である事の最後の証明でもあった。
―――――― ギュゥン!!
深紅の火炎弾がダースドラゴンの喉から撃ち出され、空気の壁を飲み込み貫く。
圧縮された爆炎は凄まじい破壊力を生み出した。
「…………」
ただ勇者は片腕を向け、その場から動こうともしない。
しかしその片腕には金色の魔力が集中されている。
―――――― ゴバァッッ!!
直撃。
その余波は周囲の地面に僅かに残っていた枯れ草が、全て燃え散った程である。
だが、唯一勇者の背後で横たわる姫は余波の風すら当たっていない。
「……」
チラリと、背後で横たわる姫を『勇者』は見る。
「………直ぐ戻るから、安心してくれな」
蒼くなった瞳で、『勇者』は大魔導達へ目を向ける。
それから静かに彼は呟いた。
「殺す」、と。
キースドラゴン「ギャオォォォッ!!」
ダースドラゴン「ガァァアアアッ!!」
豪ッ!! と二頭のドラゴンが瞬時に火炎弾を放つ。
渦を巻く業火灰迅は凄まじい物だった。
しかし――――――
―――――― バシュゥッッ!!
刹那に火炎弾が虚空へ消し去られ、洞窟に闇が突如戻った。
黄金の軌跡が走り抜ける。
死神の騎士「シィィィッ!!」
迫り来る黄金の軌跡を迎撃すべく、神速の斬撃を放つ!!
―――――― ガシィ!
死神の騎士「……!?」
勇 者 「…」
バリィンッ!!
掴み取った漆黒の『アックス』を刃ごと粉砕した。
―――――― カッッ!!
大魔導「おおおおおおお!!!!」
全身の魔力をフル活動させ、全力の『ベギラマ』を三連続で撃ち出す!
莫大な閃光の群が洞窟全体を震撼させ、『勇者』に最強の熱波を与える!!
勇 者 「 『デイン』 」
―――――― ゴォオオオオオオオオオオッッ!!!
剛雷が唸り、凄まじい雷撃が三連の『ベギラマ』を消失させる。
その黄金の輝きは巨大な重圧を大魔導に与えて来る。
今の呪文は、何なのか? と。
大魔導「………な……」
圧倒的。
まさに【史上最強】。
大魔導の眼前に、更に強大な青白い光が轟いていた。
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