私的良スレ書庫
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元スレ姫「疲れた、おんぶして」勇者「はいはい」
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―――――― さいしょから
姫(?)
―――――― さいしょから はじめますか ?
姫「『始める』って……なにを?」
―――――― ゴゥンッ!! ゴゥンッ!!
姫「な、なに!? 『鐘』?!」
カッッ!!
姫(本が光っ……)
―――――― ゴゥンッ!! ゴゥンッ!!
―――――― ・・・
あの日……僕にたった1人の家族が出来た。
昔、初代ロトの勇者は自身の宿命を知った時から『冒険の書』という日記をつけたらしい。
その日記は元はただの日記帳だったが、ロトの勇者が書き続けその人生を物語として描いた事で、魔法の力を持っていた。
僕はそれと同じように、この日記帳に魔法の力が宿る位にこれからの『冒険』をここに書き記したい。
僕は彼女だけの勇者だと、ここにその証を残す。
―――――― ・・・
姫(……今の、勇者様の声?)
姫(何が起きてるの? 何も見えない、真っ暗……)
―――――― 初めて『姫』と会ったのは、彼女が生まれた時からだった。
姫(………視界が明るくなってく)
―――――― まだ3歳である僕は『見習い教育係』として、僕の父親に姫と一緒に教育された。
幼勇者『おとうさん、ひめちゃんがかみのけひっぱるよー!』
幼姫『ー♪』ぐいぐい
父勇者『男は女の子の為に痛い思いするもんさ、我慢だ我慢!』
僕が五歳にもなると、二歳になり遊びたい盛りの姫と遊ばされた。
お父さんには、よく『女の子には優しく、痛いのは我慢しろ』と言われていた。
姫(……………)
勇者母『勇者? 姫ちゃんに薬飲ませてあげて』
幼勇者『なんでー?』
勇者母『姫ちゃん具合悪いのに、どうしてもお薬飲まないのよぅ』
幼姫『だってにがいんだもん……やだぁ』
幼勇者『でも姫ちゃん飲まないとつらくなるよ』
幼姫『うぅー』
幼勇者『僕が背中さすってあげるから、飲もう?』
幼姫『………うん』
父勇者『勇者、今日はキアリーの呪文をお前に教えるからな』
幼勇者『姫ちゃんは?』
幼姫『わたしもやるー!』
父勇者『こ、こらこら……姫様は魔力がまだ未熟なんだよ』
幼姫『やーだー!! ゆーしゃといっしょじゃなきゃやだー!!』
父勇者『……やれやれ、モテる男はつらいな? 勇者』ニヤニヤ
今思えば、僕が8歳の時のお父さんはニヤニヤする事が多くなっていた気がする。
姫(……これ、ひょっとして私と勇者様の幼い時?)
姫(でもこんなの全く記憶にないけど……)
僕が九歳になった時、つまり去年の夏だ。
同じ年の使用人の男の子達が、小さな猫を城の庭でいじめているのを見つけた。
姫はとても怒ったが、男の子達は猫を人質にして逆に僕達に条件を出した。
あの時、僕が彼等を蹴散らしていたら『スラリン』と会えなかった気がする。
スラリンとは、僕達が男の子達に条件として『森に肝試しに行ってくる』のを出された時に森で会ったスライムだ。
スラリン『ぴきーっ!』
姫(……!)
姫「……このスライム、前にどこかで…………」
スラリン『ぴきーっ♪ ぴっ?』ぴょこ
姫「……」すっ
スカッ
幼姫『スラリン! おいでー、ゆーしゃと遊ぼう♪』
スラリン『ぴー♪』
姫(……さわれない)
姫(なんでかな、悲しい気持ちになった)
幼姫『さあアンタ達! その子猫を大人しく渡しなさい!』
幼使用人『えー? 本当に森に行ったかも怪しいよな~』
幼使用人2『なー?』
幼勇者『姫ちゃんが頼んでるんだ、渡せよ』
幼使用人2『なんだよ勇者! 俺達は年上だぞ?』
幼使用人『年下のくせに生意気だ!』
スラリン『ぴきー!』ドゴォッ
幼使用人『ぐぼぁ!?』
幼使用人『な、なんだこいつ!』
幼使用人2『うわぁ! モンスターだ、逃げろー!』
スラリン『ぴっ!(とんでもない奴らだね!)』
幼勇者『えへへ、ありがとうスラリン』
幼姫『子猫ちゃん、大丈夫かな?』
『みぃ…』
姫(わー、優秀なスライムだなぁ)
―――――― スラリンが姫と友達になってからはほとんど毎日が楽しかった。
今度はスラリンも一緒に森を探検したし、姫の六歳の誕生日もスラリンと一緒にプレゼントを渡した。
去年の日々は、とても楽しかった。
―――――― ・・・
姫(……あれ)
姫(…………)
姫(何も聞こえなくなっちゃった、何も見えないし)
姫(それにしても)
姫(やっぱりこれは、私と勇者様よね?)
姫(仮にそうだとしてなんで覚えてないの……?)
姫(……)
―――――― 半年して、僕が10歳になって少し後の時だ。
姫(!)
―――――― ザァァ・・・
姫(……雨)
この日の朝、外ではお父さんとお母さんが何故か慌てていた。
外は物凄い雨の勢いなのに、2人とも傘すら差していなかった。
お父さんはお母さんの手を握ったまま、僕に言った。
父勇者『勇者、俺は母さんと一緒にちょっと海を見てくる』
父勇者『心配はしなくて良いからな、よくある事だと思って諦めてくれな?』
父勇者『……ああ、それから王様に話は通しておいた……姫様の部屋に泊まってろ』
僕はやはり心配で、呼び止めた。
何度も呼び止めた。
父勇者『……ははっ、心配し過ぎだ! 勇者は男だろ、今夜は小さな妹みたいな姫様を守ってやれ!』
勇者母『勇者、ちゃんと姫様の面倒は見てね? 勉強も教えてあげなさいね?』
・・・これで、最後の会話は終わった。
僕の両親は戻らなかった。
姫(…………っ)ズキ
姫(? こめかみがちょっと痛かった)なでなで
戻らないだけなら良かった。
もしも帰って来ないだけならば、良かった。
幼姫『ゆーしゃ……』
幼勇者『…………』
両親がいなくなってから、何故か雨は半月近く降り続けた。
あの嫌な感覚が、ずっと続いた。
しかし、雨は晴れていよいよ王様が僕の両親を捜索しようとした所で……。
王様『何という事だ・・・』
幼姫『…!!』
幼勇者『………おと…さん……』
―――――― ・・・
(……え?)
幼勇者「お父さん……お母さん、お父さん!」バッ
< 「リムルダールの海岸に倒れていたそうです……」
< 「一体何が……?」
< 「よせ、勇者や姫様がいる」
王様「……姫よ、ここは勇者を両親としばらく共に居させてやろう」
「……ううん、ゆーしゃと一緒にいる」
(……これって、もしかして……)
王様「………良かろう、そなたに様々な事を教えた2人に別れを告げると良い」
王様「私は……玉座の間にいる」
「うん」
「………」すっ
幼勇者「……うぁぁぁ…!! お父さん! お母さん!!」
幼勇者「うわぁあああん……わぁぁ……!」ポロポロ
「………」ポロポロ
(……私、が………幼い姫になってる?)
(それとも……これが…………)
幼勇者「うわぁあああ……!! ひっ、ぅぐ……ぁあ」ポロポロ
「…………」ぎゅっ
「……勇者お兄ちゃん、一緒にお別れしよう?」
幼勇者「やだっ!! 起きてお父さん! お母さぁん!!」
「おじさんが可哀相だよ、勇者」
幼勇者「うるさい!! うるさいうるさいうるさいうるさいうるさぁい!!!」
ガッ
「ひゃ……っ」ドシャ
幼勇者「あ………」
「……っ、大丈夫だよ…私つよいもん」グスッ
幼勇者「ごめん姫ちゃん……」
「……一緒に、お別れしようよ」
幼勇者「………」チラッ
幼勇者「…おとうさん……おかぁ………さ……グスッ 」ポロポロ
「勇者、泣くのはお別れしてからにしよう?」
「……じゃないとおじさん達安心できないよ」
(勇者……)
(っ!)ズキ ズキ ッ
幼勇者「……うん」
幼勇者「でも、どうやってお別れすればいいの…?」
「ばいばい、今まで沢山大切な事教えてくれてありがとう……って」
「……私は今そうお別れしたよ」
幼勇者「…………………」
―――――― ・・・
姫「……!」
姫「…戻っ……た?」
姫は……ずっと僕のそばにいてくれた。
僕より小さくて、年下で、妹みたいにすら思ってしまうのに。
なのに・・・
< 「……彼女はずっと、俺なんかより大人だったんだ」
姫「!!」
勇者?「……」
姫「ゅ、勇者……? なんでここにっ」
勇者?「……あの夜、俺はどうしても両親の悲しみが拭えずに泣いてたんだ」
姫「……」
勇者?「当たり前なのにな……10歳なんてまだまだ子供なのに、直ぐ前を向ける訳がない」
勇者?「でも、姫は心配してくれたんだな……一度も俺は姫に泣いてたりする部分は見せなかったから」
勇者?「…………」スッ
姫「えっ?」
勇者?「………君はあの夜………」
幼勇者「……っ、…っ」グスッ グスッ
ガバッ!
幼勇者「!?」
幼姫「……泣いてるの?」
勇者?「……ほんの一瞬、心配してくれている姫を思わず冷たく追い出そうとした」
勇者?「せめてベッドの中で、1人で泣きたかったからだ」
姫「……」
―――――― 『泣いてるの?』
幼勇者『……出ていけよ』
幼姫『ゆーしゃ、一緒に寝よう?』
もぞっ
幼勇者『………』
幼姫『泣いていいよ』
幼勇者『……』
幼勇者『…っ……ひっく』ポロポロ
幼姫『…どうして泣いてるの』
幼勇者『ぅぁ…っ、ひっく……っ』ポロポロ
幼勇者『ぼくは……1人ぼっちになったから……っ』グスッ
幼勇者『っ……もう、お父さんやお母さんに会えないから……っ』ポロポロ
幼勇者『いやだ……ぁ、いやだよぉ……!』ポロポロ
幼姫『ぎゅー』ぎゅっ
幼勇者『!』
姫「ッ……!!」ズキ ッ
姫(…………………………)バッ
勇者?「……」
―――――― 『姫ちゃん、遊ぼう?』
―――――― 『姫ちゃん、僕の手を握ってれば転ばないよ』
姫「……ゆーしゃ……」
幼勇者『……姫ちゃん?』
幼姫『寂しくないよ』ぎゅぅっ
幼姫『私がずっと一緒にいるから、寂しくないよ……勇者』
幼勇者『……』
幼姫『好き』
幼勇者『!!』びくっ
姫「ぅ……ッ」ズキ ッ ズキ ッ !
姫「………!」
―――――― 『まだホイミできなくてごめんね……薬草、塗ってあげるからおいで』
―――――― 『姫ちゃんはよく具合悪くなるから、お粥の作り方お母さんに教えて貰ったんだ!』
―――――― 『美味しい? 良かった!』
―――― 『 姫、これ食べてみてくれ……作ったんだ 』
―――― 『 美味しい? そっか、今度もっと姫が美味しいって言ってくれる物を作ってみるよ 』
幼勇者『…………』
幼姫『私は勇者が好きだよ、大好きだよ』
幼姫『……だから泣かないで、1人じゃないよ……私もいるよ』
ぎゅっ
幼姫『ね、こうやってずっとぎゅーすれば寂しくないよ勇者』
幼勇者『……!!』ポロ…ポロ…
幼勇者『…………うん』
ぎゅっ
姫ちゃん、おはよう そりゃ心配だよ
姫ちゃんは弱いもんね
姫は欲張りじゃないよ
かき氷を作ってみた
姫は怖がりだから
悪かったよ、無理に踊らせようとして
あ、こっちのシロップかけると良いと思う 姫ちゃん、大丈夫?
姫ちゃん、大丈夫だよ……すぐに良くなるからね
ルビスさん、僕にその呪文の詠唱を教えて下さい
姫のためなら、僕は何度死んでも蘇ってみせるし、命だって幾らでも……!!
勇者?「……」
勇者?「あの夜から、俺は歴代のロトの子孫が夢見ていた『勇者』になったんだ」
姫「勇者……ゎ、私………」
勇者?「初代ロトがそうであったように、『勇者の血』は世界を守りたいという真の覚悟に呼応して覚醒する」
勇者?「……でも俺が守りたいのは世界なんかじゃないんだ」
勇者?「俺にとって、姫は『友達』であり、『恋人』であり『家族』なんだ」
勇者?「だから、姫が死んでも僕は生き返らせる……姫に危険が迫っているならば何度でも蘇る」
勇者?「姫を守るためならどんな敵もこの力でねじ伏せてみせる」
勇者?「……これで、終わりだ姫」
姫「勇者! 私……思い出せたよっ、全部覚えてるよ!」
勇者?「…………『書』が見せるべき物は見せた……お別れだ、ラダトームの王女」
勇者?「 また、どこかで会おう 」
姫「ゆう…」
―――――― ゴゥンッ!! ゴゥンッ!!
―――――― ゴゥンッ!! ゴゥンッ!!
姫(ま、また『鐘』!? もしかして元に戻るの!?)
姫「勇者! 元に戻ったら、どうしたら勇者の記憶は戻るの!!」
勇者?「……俺が『勇者』だと分かっているなら、普通は聞かない質問じゃないか?」
姫(! 会話が通じた?)
姫「『今の』私なら、あなたが本当の勇者じゃないのは分かるよ! お願い……何か知ってるんでしょ!!」
―――――― ゴゥンッ!! ゴゥンッ!!
―――――― ・・・「君が本当に『勇者』を想っているならば……君の『愛』が奇跡を起こすさ」
―――――― ゴゥンッ・・・ゴゥンッ・・・
姫「………」
姫(……大丈夫、ちゃんと覚えてる)ぎゅっ
姫「…………」スッ
勇者「姫様、手頃なクッキー焼いてみたんだが……」
がばっ!
姫「勇者……っ!」ぎゅーっ
勇者「うわっ!?」
勇者「ひ、姫様……??」
姫「私は思い出したよ! 勇者が最初に私を助けてくれた時も、全部思い出したよ!」
勇者「なんのことか……分からないんだけど」
姫「勇者、思い出して!」ぎゅっ
・・・シャランッ
姫「?」
姫「……何、この首飾り……?」ジャラッ
勇者「綺麗な細工だな、まるで俺の……」
キィンッ!!
勇者「……『ロトの印』が、姫様の首飾りに……!?」
姫「きゃっ……!?」
姫(な、なにこれ? 凄くあったかくて……体が浮く感じ……)
キィンッ!! キィンッ!!
勇者「なんで『紋章』が姫の首飾りと共鳴してるんだ!?」
―――――― ゴゥンッ!! ゴゥンッ!!
勇者「『鐘』……? っ、体の力が抜ける……!」
―――――― ゴゥンッ!! ゴゥンッ!!
勇者「…………なんでもっと早く思い出せないんだ」ガクッ
姫「勇者!?」
勇者「……はは、記憶消されてまだ半日なのに……もう思い出したな俺達」
姫「………」ぎゅっ
勇者「お疲れ様、姫」なでなで
勇者(…それにしてもなんて思い出し方だ……)
姫「……ごちそうさまっ」
勇者「クッキーの仕上がりどうだった?」
姫「今まで食べた中で一番美味しかったよ」
勇者「……そうか」
勇者「………とりあえず、『ぼうけんのしょ』が役に立ったみたいだな」
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