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    元スレ朋也「軽音部? うんたん?」2

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    301 = 162 :

    5/1 土

    「ふでぺーんふっふー♪ ぐふふ」

    「お姉ちゃん、きのうとは別人のようにハイテンションだよね」

    「まぁね~。明日からは黄金週間だしね~おもいっきりだらだらするんだぁ」

    「でも、お父さんとお母さんが帰ってくるから、家族で出かけるんだよ?」

    「話、聞いてたでしょ?」

    「え? うん、まぁ…」

    「忘れちゃってた?」

    「いや、えっと…覚えてたよ…うん…」

    声のトーンが落ち、濁したように答えていた。

    「………」

    俺の顔色を窺うように、ちらりと見上げてくる。
    目が合っても、逸らそうとはしない。
    その瞳には、なにか複雑な色をたたえていた。
    …ああ、そうか。今、わかった。
    平沢は、俺を気遣ってくれているのだ。
    こいつには、うちの家庭環境を話していたから、それで。

    朋也(そういうことには敏感なんだよな、こいつは…)

    302 = 161 :

    俺は平沢の頭に手を乗せ、ぽむぽむと軽く触れた。

    「…ん、なに? どうしたの?」

    朋也「いや、なんでも」

    「?」

    ―――――――――――――――――――――

    ………。

    ―――――――――――――――――――――

    昼。

    「ったく、なんでネタ被らせてくんだよ、ばか」

    春原「僕の方が先に食券買ってただろうがっ! おまえが加害者で、僕が被害者だっ」

    「ごちゃごちゃうっせぇやい、りっちゃんちゃぶ台返し食らわすぞっ!」

    今回のいざこざは、ふたりが同じメニューを購入してきたことに端を発していた。
    部長は普段、弁当食なのだが、気分を変えたかったらしく、今日は学食を利用していたのだ。

    春原「んな言いにくい技、僕には通用しねぇってのっ」

    「なんだとぉ! じゃあ、食らわせてやるよっ」

    腕まくりする部長。

    303 = 161 :

    「死んでからあの世で後悔するんだなっ」

    「まぁまぁ、落ち着きなよ」

    平沢が肩にぽん、と手を乗せる。

    「おんなじもの選ぶってことは、それだけ気が合うってことだよ。だから、仲良くしなきゃだめだよ?」

    「気も合わないし、仲良くもしねぇってのっ。あんまりおぞましいこと言うなよなぁ」

    「こんなヘタレなんかと一緒にされた日にゃ、くそ夢見悪ぃよ」

    春原「あんだとっ! てめぇ、あとで便所裏こいやぁっ!」

    朋也「それが男子便のことを指すなら、裏は女子便ってことになるな」

    春原「えぇ? それ、マジ?」

    そのつもりで言っていたようだ。

    「なんてとこ呼び出そうとしてんだ、この変態っ!」

    春原「ち、ちが…そ、そうだ…体育館裏こいやぁっ!」

    朋也「告白でもするのか? あそこ、告りスポットで有名だぞ」

    春原「マジかよっ!?」

    「うわ…勘弁してよ…」

    304 = 162 :

    春原「くそ、勘違いするなよ…えっと…えっと…」

    朋也「校庭に生えてるでかい樹の下でいいんじゃないか。なんか伝説あるみたいだし」

    春原「そ、そうか…じゃあ…」

    春原「校庭にある伝説の樹の下までこいやぁっ!」

    朋也「敬語のほうが丁寧で印象もよくなるし、来てくれる確率もあがるんじゃないか」

    春原「そ、そっか、じゃあ…」

    春原「校庭にある伝説の樹の下まで来てくださいっ!」

    春原「って、こっちの方が告ろうとしてるようにみえるだろっ!」

    朋也「成功したら、次は実家に呼び出せよっ」

    ぐっと親指を立ててみせる。

    春原「なんだよそのさわやかさはっ! つーか、展開早ぇよっ!」

    「最低…そんな目であたしをみてたんだ…キショ…」

    春原「あ、てめぇ、勘違いすんなよ、こらっ!」

    「春原くん、大胆だねっ」

    春原「ああ? だから、違うって言ってん…」

    305 = 162 :

    「頑張って、春原くんっ」

    春原「って、え゛ぇえっ!? ムギちゃんまで…」

    朋也「よかったじゃん、追い風吹いてるぞ。本人には拒否されてるけど」

    春原「岡崎、頼むからもうおまえは喋らないでくれ…」

    ―――――――――――――――――――――

    ………。

    ―――――――――――――――――――――

    放課後。

    「あの…ちょっとみんなに見てもらいたいものがあるんだけど…」

    いつものように茶をすすっていると、琴吹がおもむろに口を開いた。

    春原「うん? なにかな? もしかして、おっぱ…」

    「黙れ、変態っ」

    ぽかっ

    春原「ってぇな…」

    「それで、ムギ、なに? みせたいものってさ」

    306 = 161 :

    「うん…マンボウ改、なんだけど…」

    「マ、マンボウ改…?」

    「ムギちゃん、なに、それ?」

    「ほら、一年生の時に、クリスマスパーティーやったじゃない?」

    「あの時、一発芸で私が披露した、あれの改良版なの」

    「あ、ああ、なるほどねぇ~…」

    「あ、あれか…」

    とすると、二年前のことなんだろう。
    俺と春原にはさっぱりわからない話だった。

    「なんなんです? マンボウって」

    …ああ、こいつもか。

    「いや、口じゃちょっと説明しづらいっていうかだな…」

    「そうなんですか?」

    「ああ…」

    「しっかし、なんでまたそんなものを…」

    「鏡みてたら、急に思い出しちゃって…」

    307 = 162 :

    「それで、ひとりで思い出し笑いしてたら、新しい案が閃いちゃったの」

    「で、完成型を今日みんなにみせるために、98429回は素振りしてきたのよ」

    「す、素振りって、マンボウをか…?」

    「しかも、その回数かよ…」

    「すごいポテンシャルを持ってるね…さすがムギちゃんだよ…」

    「あ、ごめんなさい。そのくだりは嘘なの」

    ずるぅっ!

    天使のような笑顔で言われ、みな転けていた。

    「あ、そですか…」

    「でも、マンボウ改が生まれたのは本当よ。みてくれるかな…?」

    春原「僕は喜んで見るよっ」

    「ほんとに?」

    春原「うん。めちゃみたいよっ」

    「私も興味あります」

    「わ、私もあるかなぁ~…あはは~…」

    308 = 161 :

    「そ、そうだな、ある意味見てみたいかも…」

    「ほどほどにな、ムギ…」

    「それじゃあ…」

    ステージに登るようにして、俺たちの前に立つ。
    目を閉じて、一度深呼吸…
    腹を決めたのか、かっと見開いた。

    「マンボウのマネっ」

    口の中いっぱいに空気を含み、頬を膨らませ、手でヒレの部分を再現していた。
    シュールだ…

    朋也(つーか…)

    …顔がおもしろい。

    「え…」

    春原「はは…」

    初見のこのふたりも、ある種ぶっ飛んだこのネタについていけていないようだった。

    「…改っ!」

    叫び、手で虎爪を作って腕をひねらせながら前に突き出した。
    そこで動きを止め、微動だにしなくなった。
    どうやら、ここで終わりのようだ。

    309 = 162 :

    ………。
    皆、唖然とした表情で、口をあけてぽかんとしていた。

    「ムギ、今のは…?」

    「威嚇よ」

    体勢を元に戻し、一仕事やりとげたいい顔でそう答えた。

    「い、威嚇…」

    「マンボウって威嚇するのか…?」

    「っていうか、攻撃してたよね?」

    「ああ、こう、腕が敵にめり込んでたっていうかさ…」

    「マンボウの面影がまったく残ってない攻撃方法だったよな」

    「絶対あのマンボウは生態系の頂点にいると思います」

    次々にダメ出しされていく。

    「…ダメ、だったかな…」

    顔を伏せ、しょぼくれる琴吹。

    春原「さ、最高だったよ、ムギちゃんっ!」

    春原の苦し紛れの賛辞が飛ぶ。

    310 = 161 :

    「あ、ああ、言うほど悪くなかったぞ、ムギっ」

    「う、うん、再現度高かったぞっ」

    「だよね、一瞬マンボウが陸で二足歩行してるのかと思っちゃったよっ」

    「す、すごくハイレベルな芸でしたよ。二発目以降も十分ウケると思いますですっ」

    それに続き、部員たちのフォローが入る。

    「…よかったぁ♪」

    その甲斐あってか、もとの明るい表情を取り戻していた。

    「じゃあ、アンコールにこたえて、もう一回…」

    「い、いや、もういいよっ」

    「…っていうか、アンコールしてないし…」

    小声で言う。

    「そんなに連続してやったら、ムギの体がもたないだろ?」

    「休憩したほうがいいぞ、うん」

    「そう…?」

    「アンコールには、りっちゃんが代わりにこたえてくれるんだって」

    311 = 162 :

    「私かいっ」

    「がんばって、りっちゃん」

    「がんばれ、おまえの腕の見せ所だぞ」

    「あたしゃ芸人かい…」

    「でも、急に言われてもなぁ…ネタが…」

    「ムギ先輩に倣って、マネシリーズでいいんじゃないですか」

    「マネか…う~ん、それもそうだな。じゃあ、なにがいいかな…」

    312 = 161 :

    「ウケるには、滑稽な生き物がいいだろうから…」

    「む…そこから導き出される答えはただ一つ…春原、ってことになるな」

    春原「あんだと、てめぇっ」

    朋也「それはやめといた方がいい。難易度が高すぎる」

    春原「そうだよ、こいつに僕のマネなんかできるわけないからね」

    春原「滑る前に、無難なのにしといたほうがいいぜ、ベイベ?」

    朋也「春原を再現しようと思ったら、白目向いて、痙攣しながら泡吹かなきゃいけないからな」

    春原「って、なんでだれかにヤられた後なんだよっ!」

    「わははは!」

    ―――――――――――――――――――――

    313 = 162 :

    5/2 日

    ゴールンウィーク。その初日。
    いや…世間ではもう、昨日から入っているところの方が多いのか…。
    なら、正確には二日目なのかもしれない。
    なんにせよ、その連休効果で町の中は人で溢れかえり、異様な活気に包まれていた。
    まだ朝食を食べていてもおかしくはない時間だというのにだ。

    朋也(交通量も多いな…)

    やっぱり、この連休に遠出する世帯が多いんだろう。
    道路がかなり混みあっていた。
    そして、どの車の窓からも、楽しそうに会話する家族の姿が垣間見ることができた。
    ………。

    朋也(なんか食うか…)

    俺はとりあえずのところ、駅前に出ることにした。

    ―――――――――――――――――――――

    朋也(今日は琴吹の奴、いなかったな…)

    俺は琴吹のバイト先であるファストフード店で、少し遅めの朝飯を済ませていた。
    毎週日曜にシフトが入っていると聞いていたのだが…店内にその姿は見えなかった。

    朋也(旅行にでも行ってんのかな…あいつなら、海外とか…)

    朋也(まぁ、なんでもいいけど…)

    314 = 162 :

    寮の方に足を向ける。
    これからまた春原の部屋で無意味に時間を浪費することになるのだ。
    いつものことだったが、今だけは余計にむなしく思えた。
    空は一点の曇りも無い快晴。そして、余裕たっぷりの連休初日。
    なのに、俺のやることといえば、むさ苦しい男とふたりで悶々と駄弁るぐらいのものなのだから。

    朋也(はぁ…)

    予定のある奴らが恨めしい。
    周りの道行く人たちも、これからの時間を満喫すべく動いているんだろう。
    俺とは大違いだ。

    朋也(いくか…)

    考えていても仕方ない。そう思い、一歩踏み出すと…

    「なんで勝手にそんなことするのっ!?」

    女の怒声。その声には、聞き覚えがあった。
    目を向ける。

    朋也(琴吹…)

    見れば、なにやら誰かと揉めているようだった。
    相手は、紳士風な、身なりのきちんとした、老いのある男性だ。
    俺は正直、驚いていた。偶然、今ここで琴吹を見かけたこともそうだが…
    まず、なにより、あの温厚な琴吹が、怒りをあらわにして声を荒げていることにだ。
    あの男性となにがあったんだろうか…

    「あ、ちょっと、離してっ!」

    315 = 161 :

    肩を掴まれ、必死に抵抗していた。

    朋也(あ…あの野郎…)

    俺は駆け足で近づいていった。

    朋也「おい、あんた、なにやってんだ」

    「あ…岡崎くん…」

    「ん…?」

    男性の動きが止まる。
    その隙を突いて、琴吹が俺の後ろに隠れた。
    ぎゅっと服の裾を握ってくる。

    朋也「こんな公衆の面前で、拉致でもしようとしてたのかよ、あんたは」

    朋也「場合によっちゃ、警察につき出すけど」

    「いえ、待ってください、私は琴吹家の執事をやらせていただいている者で、斉藤と申します」

    朋也「執事…?」

    斉藤「はい」

    そんな人までいるのか、琴吹の家は…。
    改めて生きる世界が違うことを実感させられる。

    斉藤「失礼ですが、あなたは、どちら様で…?」

    316 = 162 :

    朋也「あ、ああ…俺は、琴吹さんのクラスメイトで…」

    「私の片想いだった人よ」

    朋也「…は?」

    「でも、今両思いになったわ。そうでしょ?」

    俺の腕に強く絡み、さらに力をこめてくる。
    そこからは、やわらかい感触が伝わってきた。
    胸が当たっているのだ。
    …でかい。それが体感できる…。

    朋也「あ、ああ…」

    俺はなにがなんだかわからず、情けない声で肯定してしまっていた。

    「ほらね。両思いの恋人同士なんだから、あなたは早く帰ってもらえる?」

    「いつまでも一緒にいるなんて、野暮なことしないわよね?」

    斉藤「………」

    しばし、沈黙する。

    斉藤「…はぁ。わかりました」

    ひとつため息をついて、そう答えた。

    斉藤「…お嬢様をよろしくお願いします」

    317 :

    これ、もしかして卒業までやるの?
    かなりの量ありそうだし休憩するならしてくれよ。

    今の質なら期待して待ってるから。

    318 = 161 :

    振り向きざま、俺にそう告げると、路肩に駐車していた黒塗りのベンツに乗り込んで、車道に出て行った。

    「………」

    朋也「琴吹…そろそろ…」

    「あ、ごめんなさい」

    慌てて俺から離れる。

    朋也「…で、なんだったんだ、今のは」

    「うん…ちょっと、色々あって…」

    「あ、そうだ、ごめんなさい、勝手に恋人なんかにしちゃって…」

    朋也「いや、いいよ、別に。おまえとだし…嫌でもないからさ」

    「そう? それは、ありがとう」

    眩しい笑顔。
    もういつもの琴吹に戻っていた。

    朋也「よかったら、事情を聞かせてくれないか」

    琴吹があそこまで取り乱していたのだから、どうしても気になってしまう。

    「…うん」

    少しの間があって、小さく返事が返ってきた。

    319 = 162 :

    その表情には、少しだけ陰りが見えた。
    なにがあったんだろうか…。

    ―――――――――――――――――――――

    朋也「ふぅん…そうだったのか」

    俺たちは、噴水のある広場に移動してきていた。
    ベンチに腰掛け、琴吹から話を聞いていたのだが…
    なんでも、勝手にバイトを辞めさせられていたらしい。
    これ以上続けるのは、勉学に差し支えあると判断されたからだそうだ。
    だが、そんなこと、本人の与り知らないところで決められるのだろうか。
    そう疑問に思ったが…琴吹家の人間が動いているのだ。
    大抵のことはまかり通ってしまいそうなので、すぐにその懐疑は消えていった。

    朋也「それで、今日はバイト先に挨拶しにきてたのか」

    「うん、そうなの。私からなにも音沙汰がないのは失礼だと思って」

    朋也「そっか。やっぱ、しっかりしてるよ、琴吹はさ」

    「ありがとう、岡崎くん」

    朋也「でも、なんであの斉藤さんに止められてたんだ?」

    止められるようなこともでもないと思うのだが…。

    「あれは、止めてたっていうより、連れ戻そうとしてたのよ」

    「今日は、家族でイタリアに発つ予定だったから」

    320 :

    あー
    そろそろ寝るか
    いつまでやるか知らないけど頑張って!

    321 = 161 :

    「その便に間に合うように、私を迎えにきてたの」

    「もう、時間がぎりぎりだったから」

    朋也「ん? ってことは、今はもう…」

    「うん、手遅れかな」

    朋也「それは…いいのか?」

    「いいのよ。勝手にバイトのこと決められちゃってたし…」

    「私もね、言ってくれれば、考えたの」

    「もう3年生だし、いつかは辞めないといけないのはわかってたから」

    「でも、それをいきなり、私になんの断りも無くなんて、ひどいもの」

    「だから、旅行なんていかないの」

    むくれた顔で言う。
    つまり、これはささやかな反抗というわけだ。
    あの時咄嗟に出てきた片想い宣言にも、ようやく納得がいった。

    朋也「じゃあ、今日はこれからどうするんだ」

    朋也「旅行行くはずだったんなら、暇になったんじゃないのか」

    「うん、そうね…残りの休日をどうやって過ごそうか、それを考える一日になりそう」

    322 = 162 :

    朋也「ならさ、今日は俺と一緒に遊んでみないか」

    せっかくだから、こういうのもいいかもしれない。
    少なくとも、春原の部屋で退廃的にぐだついているよりはずっといい。

    「え? いいの?」

    朋也「もちろん。だって、俺たち、恋人同士なんだろ」

    言葉遊びのつもりで、そう言った。

    「あ…そうねっ。じゃあ、よろしく、朋也くんっ」

    向こうも乗ってきてくれたようだ。
    こんなところ、絶対に春原の奴には見せられない。
    きっと、嫉妬に狂って暴れだすに違いない。

    朋也「こっちこそ。紬」

    「ふふ」

    朋也「まずはバイト先に挨拶しにいかなきゃな」

    「うんっ」

    ―――――――――――――――――――――

    また駅前まで出てきて、ファストフード店まで足を運んでくる。
    俺は店の外で琴吹をただじっと待っていた。

    323 = 161 :

    朋也(しかし、どういう反応をされるんだろうな…)

    もしかして、自分の口で伝えなかったことを非難されたりするんだろうか…。
    他の従業員からも、蔑みの眼差しで見られたり…。
    ………。

    朋也(お…)

    考えていると、自動ドアをくぐって琴吹が出てきた。
    それも、晴れやかな顔を伴って。

    朋也「どうだった」

    その顔を見れば、訊くまでもないかもしれないが。

    「うん…店長も、みんなも、今までご苦労様って、そう言ってくれたの」

    朋也「よかったじゃん」

    「うん。みんなすごくいい人たちで…私、ここで働けて本当によかった」

    朋也「向こうも、琴吹と一緒に働けてよかったって思ってるよ」

    だからこそ、そんな言葉をかけてもらえたんだろう。

    朋也「なんたって、こんな可愛くて、その上しっかり者なんだからな」

    「ふふ、ありがとう。すごく持ち上げてくれるのね」

    朋也「そりゃ、今は俺、琴吹の彼氏だからな。自分の彼女は、褒めたいもんだよ」

    324 = 161 :

    「ふふ、私、岡崎くんの彼女になれてよかったな」

    「こんなに優しくて、その上かっこいいんだもの」

    朋也「そりゃ、どうも」

    まるで頭の軽いカップルのような褒め合いだった。

    朋也「じゃ、いこうか」

    「うんっ」

    同時、俺に手を重ねてくる琴吹。

    朋也「あ…」

    「いいでしょ?」

    朋也「ん、ああ」

    多少動揺が声に出てしまう。

    「ふふ」

    そんな俺をみて、余裕のある笑みを見せる琴吹。

    朋也(なんなんだ、この差は…)

    朋也(…まぁ、いいか)

    325 = 162 :

    その手に温かさと柔らかさを感じながら、俺たちは歩き出した。

    朋也「ああ、そうだ、どこか行きたいところあるか」

    「う~ん、そうねぇ…岡崎くんに任せるわ」

    朋也「俺か? いいのかよ。俺、女の子が好きそうな場所とかわかんないぞ」

    「いいの。普段岡崎くんがいくところに連れてってほしいな」

    朋也「まぁ、それでいいなら、俺も楽だけど…」

    朋也「あんまり期待するなよ?」

    「大丈夫。岡崎くんと一緒だもの。きっと、どこにいっても楽しいと思うの」

    朋也「そっかよ…でも、余計にプレッシャーだな…」

    「あはは、ごめんなさい。そんなつもりじゃなかったんだけど」

    「気楽にいきましょうね、岡崎くん」

    朋也「ああ、だな」

    朋也(しかし…)

    琴吹にリードしてもらっているような、この現状…。
    男として情けない…。

    ―――――――――――――――――――――

    326 = 161 :

    「ここが噂の…」

    朋也「なんか、大げさだな」

    「私、一度も来た事がなかったから…」

    俺たちがやってきたのは、古本、新刊、中古CD、ゲームなどを総合的に扱っている中古ショップだ。
    全国にチェーン展開し、その名を知らない者はいないのではないかというくらいに有名な店だった。

    朋也「琴吹は、やっぱ新品で買うんだな」

    「うん、そうなんだけど…立ち読みって、ずっとやってみたかったのっ」

    朋也「そっか…」

    やはり一般人とは少し違った感覚をしているようだ。

    「はやくいきましょっ」

    朋也「ああ」

    こんなところ、ふたりして遊びに来るような場所でもないかと思ったのだが…
    喜んでくれているようで、なによりだった。

    ―――――――――――――――――――――

    「わぁ…ほんとにみんな立ち読みしてるぅ」

    子供のように目を輝かせながら言う。

    327 = 162 :

    「いくら読んでても、店員さんに注意されないのよね?」

    朋也「ああ、そうだよ。だから、実質ここに住みついてるような奴もいるんだ」

    「えぇ? ほ、ほんとに?」

    朋也「ああ。ほら、あそこに座り込んでる奴がいるだろ?」

    朋也「あいつは、ここら一帯を仕切ってる、いわば主みたいな存在だな」

    朋也「だから、通り過ぎる時は挨拶しなきゃならないんだ」

    「そ、そんなしきたりが…」

    朋也「行ってみるか」

    「う、うん」

    座り込んでいる男のもとに歩み寄っていく。

    「あ、あのっ…」

    「……?」

    「わ、私、琴吹紬といいます。新参者ですが、どうぞよろしくお願いしますっ」

    「おぅ…あ…うぶぅ…」

    朋也「琴吹、もういいぞ。認められた」

    328 = 161 :

    「よ、よかったぁ…」

    朋也「じゃ、もう行こう。あんまり居すぎて怒りを買うとまずい」

    「う、うん、わかった…」

    完全に信じ込んでいるようだ。
    ちょっと悪い気はしたが…正直、面白かった。

    ―――――――――――――――――――――

    「あれ、このコーナー、ピンク色になってる…なんでかしら」

    迷い込むようにして、入っていこうとする。

    朋也「琴吹、そこは…」

    寸でのところで止める。

    「? どうしたの、岡崎くん」

    朋也「入ったらダメだ。そこは18歳未満はお断りゾーンだ」

    「え…そうだったの?」

    朋也「ああ。俺の後ろ、右上に監視カメラがあるだろ?」

    朋也「あれで捕らえられてたら、警報が鳴ってたんだぞ」

    「そ、そんな…」

    329 = 162 :

    朋也「いいか? 今からカメラの死角に入る」

    朋也「そしたら、何食わぬ顔で健全なコーナーから出て行くんだ」

    朋也「いくぞっ」

    「は、はいっ」

    したたたーっ!

    俺たちは素早く動き出した。
    本の整理をしていた店員からは、奇異な視線を向けられ続けていた。

    ―――――――――――――――――――――

    一通り見回り、もとの位置に戻ってくる。

    「なんか、わくわくしたねっ」

    朋也「なにが」

    「通路も狭くて、人を避けながら進む感じが、こう、なんていうんだろ…」

    「そう、未開の地に踏み入っていくパイオニアみたいで」

    朋也「じゃあ、客は全員、なんかよく得体の知れない部族ってことか」

    「あはは、それはなんだか失礼な感じ」

    朋也「まぁ、それはそうと、一周してきたわけだけど、なんか気に入ったのあったか」

    330 :

    >>1頑張れ
    でも無理らするなよ

    331 = 161 :

    「うん、少女マンガの区画で、『今日からあたしゃ!!』っていうのが、気になったかな」

    朋也「そ、そうか…」

    少年漫画にもよく似たタイトルで面白い漫画があるのだが…
    なにか関係あるんだろうか。謎だ…。

    朋也(それはいいとして…)

    朋也「じゃあ、俺は青年誌のとこいるからさ。気が済んだら、声かけに来てくれ」

    「うん、そうするね。岡崎くんも、飽きちゃったら、私の方に来てね」

    朋也「わかった。んじゃ、また後でな」

    「うん」

    ―――――――――――――――――――――

    琴吹と別れてから漫画を読み始めて、すでに5冊は読破していた。
    巻数も抜けることなく連番でそろっていたので、快適に読むことができていた。

    朋也(ん…)

    6冊目を読み始め、中盤に差し掛かったとき、濡れ場が訪れた。

    朋也(ふむ…)

    いつになく集中する俺。
    ページを繰る手が止まる。

    332 = 162 :

    「岡崎くん」

    朋也(うおっ)

    咄嗟に持っていた漫画を背に隠して振り返る。

    「なに読んでるの?」

    朋也「い、いや、別に…あ、そ、そうだ、琴吹はもういいのか? 漫画は…」

    「うん、先の巻が途切れちゃってたから、もう終わりにしようかなって」

    朋也「そ、そっか…」

    「それで…岡崎くんは、なにを読んでたの?」

    朋也「ん? いや、たいしたもんじゃねぇよ」

    「気になるなぁ…見せて?」

    朋也「い、いや、もう出よう」

    さっと漫画を棚に戻し、琴吹の手を引いて出口に向かった。

    ―――――――――――――――――――――

    「どうしたの? 急に…」

    朋也「いや…もう昼だし、腹減ったからさ、どっかで食いたいなってな…」

    333 :

    CLANNADの何とも言えない無情感的な雰囲気が大好きだ

    334 :

    だめだ寝る
    続きはのくす牧場で見るかな…

    335 = 161 :

    ごまかしのつもりで言ったが、実際、俺は小腹が減っていた。
    タイミングとしては丁度よかったのかもしれない。

    朋也「琴吹は、どうだ? 腹、減ってないか?」

    「う~ん、そうね…減っちゃってるかも…」

    朋也「じゃあ、なんか食いに行こうか」

    「そうね、いきましょう」

    ―――――――――――――――――――――

    俺がわりとよく利用するラーメン屋。
    ニンニク入りで、コクのある濃い味がウリの店だ。
    食べた後は、しばらく息にニンニク臭が混じってしまうほどの強烈さがある。
    それに、脂分も多いので、どんぶりもべたついている。
    琴吹にどこで食べたいか訊かれ、ここのことを話すと興味を示したので、一応連れて来たのだが…

    朋也「本当にここでよかったのか」

    そういう食器事情も含めて、女の子が好むような店ではないように思う。
    だが、それらを説明しても、琴吹はここに来たがっていた。

    「もちろん。私、こういうストイックなラーメン屋さんで食べてみたかったのっ」

    「ヤサイマシマシニンニクカラメアブラ! だったかしら?」

    朋也「いや、ここはそんな二郎チックなところじゃないからな…普通のラーメン屋だよ」

    336 = 162 :

    「あら、そうなの?」

    朋也「ああ。やめとくか?」

    「ううん。ここまで来たんだから、食べていきましょ?」

    言って、先陣を切って中に入っていった。
    俺も後に続く。

    ―――――――――――――――――――――

    カウンター席に隣り合って座る。
    俺は醤油ラーメンで、琴吹はみそラーメンを注文した。
    しばらくして、俺たちの前にラーメンが差し出された。

    「あ、おいしそうな匂い…」

    言って、箸に麺をからめる。

    「ふー…ふー…」

    息を吹きかけ、よく冷ます。
    そして、髪を横にかき上げてから口にした。

    「けほっ、けほっ」

    どんぶりから立ち込める湯気も一緒に吸ってしまったのか、むせてしまっていた。

    朋也「ほら、水」

    337 = 161 :

    俺のそばにあったお冷サーバーから琴吹のコップに水を満たして、それを渡す。

    「んん…ありがとう」

    受け取り、喉を潤した。

    朋也「食べられそうか?」

    「うん、大丈夫。今ちょっと食べたけど、麺にも味が染みててすごくおいしいから」

    朋也「そっか。でも、無理はするなよ? 最初は結構キツイかもだからさ」

    朋也「食べられないと思ったら、残りを俺にくれ。完食するから」

    「ふふ、それ、間接キス…じゃなくて、間接口移しのお誘いかしら?」

    朋也「ばっ…んな下心ねぇっての」

    「あはは、ごめんなさい、冗談で言ったの」

    あどけなく笑う。
    こうなると、もうなにも言えなかった。

    朋也(ったく…)

    結局、琴吹は自力で食べ切っていた。
    しかも、スープまでだ。
    お嬢様なんて温室育ちなはずなのに…見上げた胆力だった。

    ―――――――――――――――――――――

    338 :

    文庫だろうと同人誌だろうと迷わず買うレベル。これは神作品


    しかし>>1は休憩しろwwwww

    339 = 162 :

    「はぁ~っ…すごい、ほんとにニンニクの匂いがする…」

    口に手を当て、口臭を確認していた。

    朋也「じゃ、クレープでも食って中和するか。俺、おごるよ」

    序盤にリードされた分を盛り返すべく、そう申し出た。

    「ほんとに?」

    朋也「ああ。まぁ、琴吹には必要ないかもしれないけどさ…」

    「そんな…うれしいよ、その気持ちも…」

    「私、おごってもらうなんて、初めてだし…それも、男の子になんて…」

    「だから、特別に思っちゃうな」

    朋也「そっか。じゃあ、彼氏の役割も果たせてるのかな」

    「うん、すごくね。ありがとう、朋也くんっ」

    抱きつくように腕を組んでくる。
    琴吹のいい匂いが、ふわりと香る。
    思わずどきっとしてしまう俺がいた。

    「いきましょ?」

    立ち止まっていると、そう声をかけてきた。

    340 = 161 :

    朋也「あ、ああ…」

    腕を絡ませたまま歩き出す。
    本当に恋人同士になったようだった。

    ―――――――――――――――――――――

    クレープも食べ終わり、ひと息入れる。
    クレープ自体はうまかったのだが、腹の中でラーメンと混じり合って少し気持ち悪かった。

    「おいしかったぁ。えっと、これで息は直ったかしら…」

    また口に手を当て、口臭を確認する。

    「う~ん…」

    難しそうな顔。
    納得がいかないといった感じだ。

    朋也「俺も確認しようか? 息はぁ~ってやってくれ」

    冗談だった。
    そんなエチケットに関することなんて、自分以外に知られたくはないだろう。

    「じゃあ、お願いね」

    …普通に受け入れていた!
    琴吹の顔が迫ってくる。
    俺のすぐ鼻先で止まった。
    そして、口を開けて…

    341 = 162 :

    「はぁ~」

    温かい吐息がかかる。
    甘い香りがした。
    ニンニク臭さなんて微塵もない。

    「…どう?」

    朋也「…ちょっとよくわかんなかったな…もう一回いいか?」

    「ん、それじゃあ…」

    再び甘い香りを堪能する。

    朋也(ああ、琴吹って、歯並びいいよな…)

    そんなことを考えながら、俺はこのシチュエーションに興奮を覚え始めていた。

    「…岡崎くん?」

    朋也「ん、ああ…」

    軽くトリップしてしまっていたようだ。
    琴吹の声で現世に戻ってこれた。

    「どうだった?」

    朋也「う~ん…もう一回やれば、わかるかも…」

    「岡崎くん…楽しみ始めてない?」

    342 = 161 :

    朋也「あ、バレた」

    「くすくす…もう、子供みたい」

    屈託なく表情を和ませて微笑む琴吹。
    陽だまりの中で見るその笑顔は、とても魅力的に見えた。
    春原が入れ込むのも無理はない。そう思えるくらいに。
    こいつの彼氏になる奴は、幸せ者だ。
    その分、男の方にも釣り合いが取れていないといけないんだろう。
    残念ながら、俺や春原では役者が足りなかった。

    朋也(ま、でも、今は俺が仮の彼氏だしな…)

    朋也(う~ん…)

    俺は急に自分の身だしなみが気になった。
    琴吹の隣に立つという、その敷居の高さを意識してしまったからだ。
    とりあえず、俺も自分の口臭を確認してみる。
    やはり、ニンニクの匂いが強く香った。
    口というか、胃から直接匂いが昇ってきている感じだ。
    それくらい強烈なはずなのに、琴吹からはバニラのような甘い香りしかしなかった。
    実に神秘的だ、琴吹は…。

    ―――――――――――――――――――――

    腹ごなしに、町の中を練り歩く。

    「あ、岡崎くん、見て、あれ」

    足を止め、ショーウインドウを指さす。

    343 = 162 :

    その中には、げっ歯類のような、謎の生き物のぬいぐるみがあった。

    「可愛いわぁ…」

    近づいていき、すぐそばで眺める。

    朋也「そうか? つぶらな瞳してるけど、なんか、口開けてよだれたらしてるし…」

    朋也「ヤバイ薬キメた直後みたいになってるぞ」

    「むしろそこがいいのよぉ~」

    朋也「あ、そ」

    そんなとりとめもない会話を交わしながら、次はどこに行こうか…などと考えていた。
    すると…

    がらり

    装飾品のベルが鳴らされると共に、その店のドアが開いた。
    店員らしき人がこちらに寄ってくる。

    「あの、琴吹紬様…でよろしかったでしょうか」

    「はい、そうですけど…」

    「ああ、やっぱり。いつもお父様には大変お世話になっております」

    「は、はぁ…」

    344 = 161 :

    「今日は、うちでなにかお求めで?」

    「いえ、ただ見てただけなので…」

    「ああ、そうでしたか。気に入ったものがあれば、お持ち帰り頂こうと思ったのですが…」

    「い、いえ、そんな、悪いですから…」

    「でしたら、せめて、お茶をお出しするので、中でくつろいでいかれてください」

    「い、いえ…えっと…い、いきましょっ、岡崎くんっ」

    朋也「あ、ああ…」

    俺の手を引いて、急ぎ足で立ち去る。
    後ろからは、店の人の呼び止める声が聞え続けていたが、立ち止まることはなかった。

    ―――――――――――――――――――――

    「ごめんなさい」

    あの場から離れて一旦落ち着いた頃、琴吹が開口一番そう口にした。

    朋也「なにが」

    「私のせいで、こんな逃げるようなことになっちゃって…」

    朋也「いや、俺は別になんとも思ってないよ」

    朋也「けど、お茶くらい、もらってもよかったんじゃないか?」

    345 = 162 :

    「うん…それだけなら、いいんだけど…」

    「こういう時って、必ず最後に、お父さんによろしく言っておいて欲しいって、そう言われるの」

    「私、そういうことって、上手く言えないから、苦手で…」

    「それに、今は喧嘩中だから、なおさら伝えにくいし…」

    「もてなしてもらったのに、そんなことじゃ、お店の人に悪いから…」

    朋也「そっか…なんか、大変なんだな、琴吹も」

    「ううん、そんな大変ってほどじゃ、ないんだけどね…」

    朋也「まぁ、事情はわかったよ。これからはそういうことにも気をつけながらいこう」

    「ごめんね…」

    朋也「謝るなよ、そのくらいのことで」

    「うん…」

    朋也「ほら、いこう」

    今度は俺の方から手を取って歩き出した。

    ―――――――――――――――――――――

    その後も似たようなことが立て続けに起きた。
    電器店の近くを通りかかれば、呼び込みが騒ぎ出し、店長を呼びつけられたし…

    346 = 161 :

    ショッピングモールに入れば、各コンテナのオーナーが直々に挨拶しにくる始末だ。
    おまけに、道ですれ違った、いかにもその筋な方にも会釈されていた。
    その度にそそくさと逃げ出していたのだが…
    繰り返すうち、気づけば俺たちは町外れまできてしまっていた。

    朋也「手広くやってるんだな、琴吹んとこの事業はさ」

    「お恥ずかしいかぎりです…」

    朋也「いや、誇れることだよ」

    「うぅ…そうかな…」

    朋也「ああ」

    朋也(でも、これからどうするかな…)

    カラオケ…なんて、俺のガラじゃないし…
    バッティングセンター…は、さすがにだめだな…
    そもそも、俺はまともにバットを振れない。
    琴吹は…どうだろう…
    野球に興味がなくても、打つだけならそれなりに楽しめるかもしれない。

    朋也(つーか、バッティングセンターなんて、この町にあったかな…)

    それすらも知らなかった。
    穴だらけの発想だ…

    朋也(う~ん…)

    347 = 162 :

    「岡崎くん、あそこ、入ってみない?」

    朋也「ん?」

    考えを巡らせていると、琴吹が俺の袖を引いてきた。
    指さす先、寂れたおもちゃ屋があった。

    「なんだか、おもしろそうじゃない?」

    朋也「ん、そうだな…」

    それほどでもなかったが、琴吹にとっては新鮮だったのかもしれない。

    朋也(さすがにこんなとこまでは、琴吹家の手は伸びてないよな…)

    ともあれ、まずは入ってみることにした。

    ―――――――――――――――――――――

    店内には、時代に逆行するようなおもちゃが数多く並んでいた。
    まるで、ここだけ時の流れが止まってしまっているようだった。

    朋也(おお…懐かしい…キャップ弾だ…)

    キャップ弾とは、プラスチック製ロケットの先端に火薬を詰めて、空に放って遊ぶおもちゃだ。
    落ちてきて地面に当たると火薬が炸裂し、乾いた音が響くのだ。
    それだけの単純な仕組みだったが、やけにおもしろかったことを覚えている。
    ガキの時分、年上の遊び仲間に混じって、ずいぶんこれで遊ばせてもらったものだ。

    朋也(あの時は自分で買えなかったんだよな…)

    348 = 161 :

    それを思うと、なぜか大人買いしたくなる衝動に駆られた。

    朋也(って、今さらだよな…)

    この年でそんな遊びをするわけにもいかない。
    俺にだって、一応、周囲の目を気にするだけの恥じらいはある。
    まぁ、散々琴吹といちゃついてきておいて、なんだが…

    「岡崎くん、みてみて、水鉄砲よっ」

    カチカチと空砲を撃っている。

    「かっこいいと思わない?」

    そして、まじまじとその構造を眺めていた。

    朋也「いや、別に…つーか、なんだ、珍しいのか?」

    「うんっ、私、水鉄砲なんて触ったの初めてだから」

    朋也「そっか」

    男からしてみれば、水鉄砲を避けて通る人生なんて、ほぼ考えられないのだが。

    朋也「じゃあ、それ買って、実際に撃ってみろよ。近くに公園あったし、そこでさ」

    「あ、いいねっ、それっ。おもしろそうっ。早速買ってくるねっ」

    きらきらと目を輝かせながら、カウンターに駆けていった。

    349 :

    完結までついていけなくて申し訳ない
    ギブアップ><

    350 :

    俺は最後までついてくぜ!
    でも無理はしないでほしい


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